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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 034
管理番号 1225062 
審判番号 取消2007-301534 
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2007-11-28 
確定日 2010-10-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第4383223号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4383223号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4383223号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)の構成からなり、平成8年12月17日に登録出願、第34類「たばこ,喫煙用具(貴金属製のものを除く。),マッチ」を指定商品として同12年5月19日に設定登録されたものである。
そして、本商標権については、専用使用権者を「ジャス・インターナショナル株式会社」として、地域を「日本国内全域」、期間を「平成22年5月19日まで」、内容を「全指定商品」とする専用使用権が、平成13年2月8日付で設定登録され、その後、同19年5月9日付で、該専用使用権の設定登録の抹消の登録がなされている。
また、本件審判の請求の登録日は、平成19年12月18日である。

第2 請求人の主張(要旨)
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第63号証を提出した。
1 請求の理由
請求人が調査した結果、本件商標は、商標権者により、少なくとも過去3年以内に日本国内でその指定商品には使用されていないことが判明した。
したがって、本件商標の登録は、取り消されるべきものである。

2 答弁に対する弁駁
(1) 本件商標の使用の事実について
ア 請求人は米国、ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の日本国内の「商標権」、「著作権」の管理を行う日本法人である。
ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団は、日本国内での「スマイル商品」の商品化事業について、「ジャス・インターナショナル株式会社」(以下「ジャス」という。)を代理人としている。

イ ジャスは、平成16年10月30日以降、株式会社廣田(現在、株式会社ライテック)に、本件商標の使用許諾をしていない。
したがって、本件商標が過去3年間に使用されていると仮定しても、それは、株式会社ライテック(以下、「ライテック」という。)が勝手に使用したものであり、請求人やジャスとは無関係である。

ウ ジャスは、被請求人とのライセンス契約が終了した、平成16年10月30日以降は、本件商標の使用を禁じている。
その為、ジャスは、ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の日本国内の商品化事業の代理人の立場として、ライテックとのライセンス契約を行っている。
毎年更新しているその「契約書」の見本を提出する(甲第60号証)。
それを見ると、前文にライセンス元としてハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団が書かれており、使用商標は「SMILEY FACE」とあり、図形商標はその都度提案することになっている。

エ その過程で、ジャスは、ライテックに、新しい「スマイル商標、図形」の使用を指示しており、ライテックはそれに同意している(甲第61号証)。

オ 被請求人の乙第12号証について
(ア)同号証は、「ホーム・ページ」の画面をコピーしたものにすぎない。
最近の優れたパソコンであれば、このような証拠は誰でも容易に作成出来る。
したがって、同号証は、証拠能力に欠ける。

(イ)本件商標に係る商品が実際に販売されたとしたら、販売先名、販売数量、ライテックの出荷伝票、納入業者の仕入伝票等があるはずであるが、その様な具体的資料の提出がない。

(ウ)同号証から、厳密に使用商標を探すとなれば、「目と口」の商標が目立つところ、それは、請求人の登録第4523722号である(甲第62号証)。

(エ)現在、同号証の「ホーム・ページ」は存在しない。
したがって、同号証について、証拠の確認ができない。

(オ)同号証の所有者であるライテックの証言も資料提供もない。
したがって、同号証は、真実性がない。

(カ)同号証について、ジャスがライテックに問い合わせたところ、「企画担当の社員が宣伝用として被請求人とジャズとの契約期間中に作成してインターネットに掲載していた画面を消し忘れただけであり、実際の商品販売はしていない」と証言している。
実際に、このようにインターネットで商品販売が出来る筈がない。

(2)不使用についての正当理由の主張について
本件商標は、被請求人により過去3年間使用されていないのは事実であり、被請求人とジャスとの間の契約(乙第1号証)及びそれに基づく専用使用権の設定等は、個人的な事情に属することであるから、本件商標が不使用であったことの正当理由に該当するものではない。

(3)本件審判請求が信義則違反・権利濫用にあたる旨の主張について
請求人とジャスとは全くの別法人であり、請求人がジャスから代理人としての各種手続きに協力を得たとしても法律的に関係のないことである。請求人がジャスのダミーである旨の被請求人の主張は推測に過ぎない。
被請求人の主張は、全て、個人的・私企業的な自己の利益に基づいたものであり、世界的商標ブローカーとして、自己の金銭的要求を満たし、本件商標による自己の利益の保持を要求しているに過ぎない。
被請求人関連の登録商標は、元々、ハーベイ・ボールの著作権の権利範囲にあり、それを剽窃して世界各国で商標登録したものであって、「スマイリー・フェイス」を特定の商標権者が独占することは、このマークの有名なエピソード、固有の人気や著名性に便乗する意図等があり、公平な競争秩序ないし公平の観念に反するので、本来、取消又は無効とされるべき商標である(甲各号証参照)。
そして、被請求人のビジネスは、東京高裁平成11年(ネ)第5027号損害賠償等請求控訴事件の判決(甲第19号証)において判示されたように、詐欺的ビジネスであり、該判決の内容は朝日新聞、読売新聞、産経新聞等においても報道されている(甲第18号証)。この報道の影響は大きく、その当時、メーカー、小売、問屋からこのような詐欺師のマークを使用することは非常識だとの非難を受け続けた。以上の状況で、ジャスは、被請求人の本件商標を強調して事業を行うことは無理であり、従来から主張していたハーベイ・ボールの著作、創作、ストーリー、実績を強調し、著作権によって価値観を出す以外に無いと判断するに至ったものである。

第3 被請求人の主張(要旨)
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第14号証を提出した。
1 本件商標の使用の事実について
本件商標は、被請求人のサブライセンシーであったライテックにより、平成20年1月31日まで使用されていたものである(乙第12号証ないし乙第14号証)。
なお、この点については、後述するとおり、被請求人とジャスとの専用使用権設定契約は、平成16年10月31日で終了しているから、その意味では、平成16年10月31日以降は、ライテックによる本件商標の使用は、無権限であるジャスからの許諾に基づくものにすぎない。
しかしながら、仮に、専用使用権の抹消が行われていたのであれば、被請求人としては、新たに、ライテックに対し本件商標の使用を許諾する意向であったし、現に、平成20年1月15日付で、被請求人はライテックとの契約締結に関する提案を行っている。しかも、ライテック自身は、被請求人とジャスとの本件商標に関する専用使用権設定契約が終了していることを知らずに、ジャスとの契約関係を続けていたのである。なお、被請求人との専用使用権設定契約終了後、ジャスがライテックより受領したロイヤルティについては、現在、東京地方裁判所で返還請求を行っている。
したがって、平成16年11月以降のライテックによる本件商標の使用行為も、実質的に見れば、被請求人の意思に基づくものであるし、そのように解釈することが当事者の意思に合致するものである。

2 不使用についての正当理由について
仮に、ライテックによる本件商標の使用が被請求人の意思に基づかない使用であったとしても、以下の理由により、本件商標の不使用には正当理由がある。
本件商標は、イギリス在住のフランス人である被請求人が日本において正当に所有している登録商標である。
被請求人は、被請求人の商標を管理するスマイリー・ライセンシング・コーポレーション(現在、スマイリーワールド・リミテッド)を代理人として、平成12年10月30日に、ジャスとの間で、専用使用権設定契約(以下「本件契約」という。)を締結した(乙第1号証)。
この契約書においては、ジャスは、専用使用権の設定後は自らの費用負担及び責任において許諾商標の保守に尽力する一方、被請求人は、本件契約書締結の時点から、日本国内における直接の営業活動を行ってはならないとされ、契約の有効期限は平成16年10月31日までとされた。そして、この契約に基づき専用使用権の設定登録がなされた。
しかるに、ジャスは、専用使用権を平成22年5月19日までとして、特許庁においてその登録を行った。その後、本件契約終了後に、被請求人は再三にわたりジャスに対し、専用使用権の抹消を求めたが、ジャスはこれに応じなかった。ジャスが専用使用権の抹消にようやく応じ、抹消の申請登録がなされたのは、平成19年5月9日のことである。したがって、この専用使用権抹消の時点まで、被請求人は、自ら本件商標を使用することができなかった。
さらに、ジャスは、被請求人の日本における代理店であったばかりではなく、被請求人の所有する商標に類似する商標を有する請求人の代理店でもあった。ジャスは、被請求人と専用使用権設定契約を締結しているが、その理由につき、平成18年10月31日付の書面において、「JASSはルフラーニ氏と、2000年10月30日付けで『商標使用契約』を締結しましたが、実際は彼の商標を使用することが目的ではなく、ルフラーニ氏からの苦情を防ぐために契約したに過ぎません。」等と述べ、被請求人の商標権の行使を妨害する意図であることを自認しているのである(乙第3号証)。
また、ジャスは、被請求人の本件商標を含む商標の登録に対し異議を申し立て、更に、被請求人の商標と類似した商標を登録しようとすらしていたものであり、被請求人の権利と両立しない活動すら行っていたのである。
したがって、ジャスとの専用使用権設定契約中はともかくとしても、ジャスの専用使用権設定契約の締結のそもそもの目的が被請求人の日本での商標の使用を妨げることにあったことから、専用使用権設定契約後も、被請求人が自ら自由に商標を使用することができる状況が回復されることは期待できない状況にあったのであり、本件商標の不使用にはやむを得ない事情があったものである。

3 本件審判請求が信義則違反・権利濫用であることについて
上述のとおり、本件商標は、仮に、過去3年間、被請求人の意思に基づく使用が認められないとしても、ジャスの背信的行為により被請求人の正当な使用が妨げられていたものである。そして、ジャスの代表取締役は、請求人の取締役であり、ジャスの取締役2名は、請求人の取締役の両親である(乙第4号証ないし乙第6号証)。かかる役員構成からみても、ジャスと請求人の意思決定の過程は実質的に同一であり、ジャスと請求人は一体のもの、あるいは、請求人はジャスの道具として使われている法人と捉えられるべきものである。
したがって、本件商標の不使用の状態を意図的に作り出した者と実質的に同一である請求人による本件審判の請求行為は、実質的には、ジャスが請求人を使って被請求人たる商標権者を害することを目的としているといわざるを得ず、被請求人との関係において、信義則に反し、権利の濫用であることは明らかであるから、かかる観点からも、本件請求は不成立を免れない。


第4 当審の判断
1 本件商標の使用の事実の有無について
被請求人は、本件商標をその指定商品について使用しているとして乙各号証を提出している。
そこで、本件商標の使用との関係において、乙各号証をみれば、以下の事実を認めることができる。
(1)乙第1号証について
乙第1号証は、スマイリー・ライセンシング・コーポレーション[現スマイリーワールド・リミテッド](SLC)とジャス・インターナショナル株式会社(JII)との間で締結された2000年10月30日付の契約書であり、「1.許諾される権利」の項には「本契約の条件に従い、SLCとJIIは、添付の一覧に示すスマイリー・フェイス商標に関する独占的権利(再許諾権を含む)についての契約を締結する。」とあり、その一覧には、本商標権も掲げられている。そして、「3.期間」の項には「本契約の有効期間は、契約執行の日付から4年間とする。」とあり、「4.許諾地域」の項には「許諾地域は日本とする。」と記載されている。

(2)乙第2号証について
乙第2号証は、本商標権の商標登録原簿の写しであり、本商標権については、前述のとおり、専用使用権者を「ジャス・インターナショナル株式会社」として、地域を「日本国内全域」、期間を「平成22年5月19日まで」、内容を「全指定商品」とする専用使用権が平成13年2月8日付で設定登録され、その後、平成19年5月9日付で、該専用使用権の設定登録の抹消の登録がなされている。

(3)乙第12号証について
乙第12号証は、株式会社ライテックのホームページ上の商品カタログをプリントアウトしたと認められるものであり、その打出日として「07/11/2007」の日付が表示されている。そして、その1葉目には、別掲(2)のとおり、「SMILEY[スマイリー]」の表示のもとに、いくつかのライターの写真が表示されている。ライターの側面には図形が表示されており、その他に、商品の品番、希望小売価格、仕様等が掲載されている。

(4)乙第13号証について
乙第13号証は、ジャスが被請求人の商標を管理するスマイリーワールド・リミテッドに提出した2003年7月3日付の「2003年第二期のロイヤルティ報告書」であり、その報告書中には、「Hirota」に係るロイヤルティについても記載されている。

(5)乙第14号証について
乙第14号証は、株式会社ライテックの代理人が被請求人の代理人に宛てた平成20年2月14日付の回答書であり、「・・・弊社は、ジャス・インターナショナル株式会社との使用許諾契約に基づき、SMILY関連の商標を使用した喫煙具(ライター、携帯灰皿)を製造販売してきましたが、貴殿の商標権についてのジャス社の専用使用権がすでに抹消登録されたこと、弊社とジャス社の使用許諾契約も平成20年1月31日に終了したことから、弊社の今後の商品展開につき、あらゆる状況を見極めまして鋭意検討致しました。その結果、弊社は、今後、SMILY関連の商品は一切取り扱わないという結論になりましたので、すでに商品の生産は中止し、ジャス社に対しては契約の継続は行わない旨の通知を行ないました。従いまして、通知人殿のSMILY関連の商標権につきましても、弊社は通知人殿からの使用許諾は希望致しませんので、その旨ここにご連絡致します。なお、弊社では商品の生産は中止しましたが、平成20年1月31日までのジャス社との契約に基づいて製造した商品がまだ市場にでておりますので、その点はなにとぞご了承下さいますようお願い致します。」旨記載されている。

(6)上記(1)ないし(5)において認定した事実を総合してみれば、乙第1号証の契約により、被請求人の商標を管理するスマイリー・ライセンシング・コーポレーション(現在、スマイリーワールド・リミテッド)とジャスとの間においては、本商標権についての我が国における独占的権利(再許諾権を含む)についての契約が締結されていたものと認められ、その期間の定めとして「本契約の有効期間は、契約執行の日付から4年間とする。」とあるが、本商標権の商標登録原簿の写し(乙第2号証)によれば、本商標権については、専用使用権の設定登録がなされた平成13年2月8日から、その抹消の登録がなされた平成19年5月9日までは、ジャスを専用使用権者として、内容を「全指定商品」とする専用使用権が有効に存続していたものと認められる。
なお、請求人は、弁駁書(5)において、甲第53号証(乙第3号証の一葉目の文書と同一もの)を提出しているところ、これには甲第8号証なる号証番号が付された「和解契約書(両当事者のサインとJanuary 9th,2007の記載がある)」なる文書が添付されており、該和解契約書によれば、フランクリン・ルフラーニとジャスとの間において、本商標権を含む21件の商標権についての専用使用権の抹消手続き等についての合意が成立していたことが認められる。
そして、乙第14号証の記載からみれば、ライテックは、少なくとも、本商標権についての専用使用権の登録の抹消の登録がなされた平成19年5月9日までは、本商標権についての専用使用権者であったジャスとの間の使用許諾契約に基づき、SMILY関連の商標を使用して喫煙具(ライター、携帯灰皿)の製造・販売をしていたものと推認されるところであり、また、乙第13号証によれば、本件審判の請求の登録(平成19年12月18日)前3年以内の事実ではないが、2003年(平成15年)当時において、ライテックの前身である株式会社廣田は、商標の使用についてのロイヤルティをジャスに支払っており、ジャスは、その旨を被請求人の商標を管理するスマイリーワールド・リミテッドに対して報告していた事実が認められる。
そうとすれば、ライテック(前身である株式会社廣田を含めて)は、少なくとも、2003年(平成15年)当時から、本商標権についての専用使用権の抹消の登録がなされた平成19年5月当時まで引き続いて、本商標権についての専用使用権者であったジャスとの間の使用許諾契約に基づいて、SMILY関連の商標を使用して喫煙具(ライター、携帯灰皿)の製造・販売をしていたものとみるのが自然であり、また、その販売のために、乙第12号証の商品カタログを電磁的方法により提供していたものと認められる。
以上の事実を認定した上で、ライラックによって本件商標と社会通念上同一の商標が使用されたいえるかどうか検討するに、乙第12号証のライターの写真の側面に表示されている図形部分は、やや不鮮明であるため、どのような態様であるのか明確には把握することができない。
そこで、当審において、被請求人に対し、当該図形部分が鮮明に表示されている証拠を提出するよう審尋したが、被請求人からは何の応答もない。
してみれば、当該図形部分は、どのような態様であるのか明確は把握することができないものであるから、本件商標と社会通念上同一の商標であるということはできないというべきである。
その他、乙各号証中に、本件商標と社会通念上同一であると認められる商標を見いだすことができない。
また、同号証に表示されている「07/11/2007」の番号は、同号証の打出日を表示するものと認められるが、当該打出日は、その変更が容易であることから、必ずしも客観性のあるものであるとはいえない。
また、同号証にあっては、打出日が本件審判の請求日(平成19年11月28日)の3週間前となっていることから、被請求人は、本件審判の請求前に、本件商標の使用の事実を証する書面を準備していたこととなる。
しかしながら、不使用による商標登録の取消しの審判があった場合、被請求人は、審判請求後に証拠を収集するのが一般的であるという実情があることよりすれば、本件審判請求前、事前に、同号証を打ち出していたことは不自然であるといわざるを得ない。
そこで、当審において、同号証に表示されているライターが、実際に販売されたのであれば、それを証する取引書類(発注書、受領書等)を提出するよう審尋したが、被請求人からは何の応答もない。
してみれば、同号証に表示されている「07/11/2007」打出日のみでは、本件商標が使用された日付を証明したものとはいえないというべきである。
その他、乙各号証中に、本件商標が使用された日付を証明する記載を見いだすことができない。

(7)むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る指定商品について、本件商標の使用をしていたことを証明したということはできない。

2 不使用についての正当理由の有無について
被請求人は、本件商標を使用していないことについて正当な理由がある旨主張して、乙第1号証ないし同第3号証を提出している。
ア 被請求人が不使用についての正当理由として挙げているのは、被請求人は、ジャスとの間で、専用使用権設定契約(乙第1号証)を締結していたため、この専用使用権抹消の時点まで、日本国内において、自ら本件商標を使用することができなかったこと、また、専用使用権者(ジャス)の背信的意思ないし悪意により、専用使用権者を通じての日本での商標の使用も全くなされなかったこと、更に、本件契約(乙第1号証)終了後に、再三にわたりジャスに対し、専用使用権の抹消を求めたが、ジャスはなかなか専用使用権の抹消に応ずることなく、結局、抹消の申請登録がなされたのは平成19年5月9日のことであり、専用使用権設定登録抹消後、本件各審判請求がされた同年11月までのわずかな時間で、外国在住の被請求人が、新たにサブライセンス契約の締結までこぎつけるのは現実には不可能であったことを挙げている。

イ しかしながら、商標法第50条第2項所定の正当な理由があることとは、地震、水害等の不可抗力によって生じた事由、放火、破壊等の第三者の故意又は過失によって生じた事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等、商標権者等の責めに帰すことができない真にやむを得ないと認められる特別の事情が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいうものと解されている。
そうとすれば、被請求人が不使用についての正当理由として挙げている前記理由は、被請求人が自らの自由な意思に基づく選択によって、ジャスとの間において締結した契約に起因していることであるから、このような当事者間における契約を原因とする事情は、そもそも、上記した商標権者等の責めに帰すことができない真にやむを得ない特別の事情と認めることはできない。
なお、付言すれば、被請求人が主張している専用使用権者であるジャスとの関係にしても、乙第1号証の契約書によれば、その第5条(対価)には「JII(株式会社ジャス・インターナショナル)は、各ライセンシーから受領した売上報告書をSLC(スマイリー・ライセンシング・コーポレーション)に提出する。売上報告書の提出期限は、未収ロイヤルティの有無にかかわらず、各サブライセンス契約年度の末日より30日以内とする。」とあり、第7条(義務不履行)には「いずれかの当事者が本契約または本契約上の義務に違反した場合、もう一方の当事者は、違反当事者への書面による通知をもって本契約を解除することができる。」とあり、更に、第10条C(その他)には「SLCは、自らの著作権、商標、営業上の信用および評判を守るため、JIIの事業活動を監督する権利・権限を保留する。」と規定されている。
これらの規定からみれば、被請求人が外国に在住していたとしても、また、被請求人の商標を管理するSLCが外国企業であったとしても、専用使用権者であるジャスの動向を売上報告書の提出等を通して充分に把握し得たはずであり、その事業活動を監督し得たはずである。しかるに、被請求人がその主張を裏付ける証拠として提出しているのは、ジャスがローラン・デュポワ弁護士に宛てた平成18年10月31日付の書面(乙第3号証)のみである。このことからみれば、被請求人(SLC)は、専用使用権者の事業活動を充分に監督し、所要の措置を講じていたものとはいい難いから、これらの点についての被請求人の主張も採用できない。
してみれば、被請求人が主張している種々の事情は、被請求人の内部事情に属するものというべきであるから、これをもって前記した不使用についての特別の事情と認めることはできない。

ウ したがって、商標権者である被請求人が本件商標の指定商品あるいは指定役務について本件商標を使用することができなかったことにつき、正当な理由があったものと認めることはできない。そして、他に、前記特別の事情が存したことを認めるに足る証拠もない。

3 本件審判請求が信義則違反・権利濫用に当たるか否かについて
この点について、被請求人は、請求人とジャスとは、その役員構成(乙第4号証ないし乙第6号証)からみても、両者の意思決定の過程は実質的に同一であり、請求人とジャスとは一体のもの、あるいは、請求人は、ジャスのダミー会社に過ぎないものであるから、本件各商標の不使用の状態を意図的に作り出したジャスと実質的に同一である請求人による本件各審判の請求行為は、実質的には、ジャスが請求人を使って、被請求人たる商標権者を害することを目的としているといわざるを得ず、信義則に反し、権利の濫用である旨主張している。

ア ところで、登録商標の不使用による取消審判について、商標法第50条第1項には、「・・・何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定されていることからみれば、請求人による本件審判の請求が専ら被請求人を害することを目的としていると認められる特段の事情がない限り、当該請求が違法なものとなることはないものと解される。
そこで、本件審判請求が専ら被請求人を害することを目的としてなされたものであるか否かについて検討する。

イ 被請求人の提出に係る乙各号証によれば、請求人の商号や会社の目的は、平成15年7月15日に変更の登記がなされており、商号は「有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド」となり、会社の目的は「スマイル・マークを利用した衣料品、アクセサリー並びに帽子等の制作及び販売、スマイル・マークの登録商標の所有と保護」等となっており、平成15年8月7日には、請求人会社の取締役としてチャールズ・ボールの就任の登記がなされている(乙第4号証)。そのチャールズ・ボールは、「スマイル・マーク」の創作者を自称するアメリカ人のハーベイ・ボールの息子であり、ハーベイ・ボールの死後、アメリカにおいて「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」を設立しており、請求人は、その日本支部となっていることが認められる(乙第7号証)。
そして、そのハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団については、乙第7号証によれば、「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団は公的団体です」の見出しのもとに、「『黄色い顔に小さい目』の『スマイリー・フェイス』は別名『モナリザ以来の笑顔』といわれ、1963年末に米国人『ハーベイ・ボール』氏によって、創作・著造されました。彼の故郷マサチューセッツ州やウスター市では彼の創作・著作が公認され、地元には博物館が建てられています。1999年にはアメリカの70年代を代表するイメージとしてアメリカの郵政公社の記念切手となり、公式ビデオでは70年代を代表する風俗として収録されています。残念なことに『ハーベイ・ボール』氏は2001年4月12日に死去され現在は長男の『チャールズ・ボール』氏を中心として『ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団』が設立され、彼の偉業を後世に残す『ワールド・スマイリ一』の活動を行っている。日本でのスマイリー・フェイス商品化の事業の収益の一部はこの『ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団』の活動資金となっている。」と記載されている。また、乙第8号証には、「スマイル商品事業展開」の見出しのもとに、「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の『ワールド・スマイル・デイ』活動を支える大きな基金は『スマイル商品化事業』である。現在は主に日本で行っており、スマイル・フェイス商品を多くの日本人の方々に提供し多くの支持を受けている。この事業は一般の商品販売とは異なり、アメリカのハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の『ワールド・スマイル・デイ』の活動を支えるものであり、間接的に世界中に大きく貢献している。」と記載されており、その下に「スマイリー・フェイス商品化代理人は『JASS INTERNATIONAL INC.』です。商品化は当社の許可を得てください。」と記載されている。

ウ これらの記載からみれば、「スマイル・マーク」がハーベイ・ボールの著作に係るものであるか否かはさて措くとしても、請求人は、アメリカで発足したハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の日本支部として、「スマイル・マークを利用した衣料品、アクセサリー並びに帽子等の制作及び販売、スマイル・マークの登録商標の所有と保護」等の事業を行っていたものと認められる(実際の活動は、代理人であるジャスが行っていたとしても)。
そうとすれば、請求人による本件審判請求は、請求人による「スマイル・マーク」に係る事業の障害となる本件商標を排除するために行われたものと推認されるところであり、このような請求理由は、不使用取消審判の請求理由として想定される主要な請求理由の一つといえるから、この観点からみた場合、本件審判の請求自体が専ら、被請求人を害することを目的としてなされた違法なものとは認められない。

エ また、確かに、ジャスは、請求人の代理人として活動をしていたものと認められ(乙第8号証)、それ以前からも、故ハーベイ・ボールの代理人として活動をしていたことが認められる。
このことは、例えば、乙第2号証(商標登録原簿の写し)には、本件商標について、異議申立に係る予告登録及び確定登録の記載があり、特許電子図書館により、そのうちの例えば、登録第4105304号商標に係る平成10年異議第90982号の商標登録異議決定をみれば、商標権者は「フランクリン ルフラーニ」であり、登録異議申立人は「ハーベイ・ボール」、その代理人は「ジャス・インターナショナル株式会社」であり、登録異議の申立ての理由には、「本件商標は、申立人本人が1963年12月にアメリカで作った『SMILEY FACE(スマイリー・フェイス)』を勝手に剽窃し、申立人の『著作権』を侵害する為、登録を取り消すことを要求する。」旨記載されている。
そうとすれば、被請求人は、遅くとも、該異議申立の副本が被請求人に送付された平成10年10月頃までには、ジャスがハーベイ・ボールの代理人として被請求人の有する商標登録に対して異議申立てを行っていたことを知り得たはずであり、ジャスがハーベイ・ボールの代理人として活動していた事実を認識していたものということができる。
そして、被請求人は、ジャスとの間で、平成12年10月30日に乙第1号証の契約を締結したのであるから、被請求人は、上記の事実関係を承知の上で、ジャスとの間で乙第1号証の契約を締結したものといわなければならない。
加えて、被請求人及び被請求人と独占的総合代理店契約を締結していた株式会社イングラムの「SMILEY FACE(スマイリー・フェイス)」に係る事業は、東京高裁平成11年(ネ)第5027号損害賠償等請求控訴事件(平成12年1月19日判決)において、「本件放送(FM東京のラジオ番組)の核心的部分である『被控訴人(株式会社イングラム)のビジネスが国際的詐欺ビジネスの様相を見せ始めた』との摘示事実は、被控訴人のビジネスを批判する文言としてはやや穏当を欠く表現ではあるものの、その主要部分が真実であるから、本件放送は、被控訴人の名誉を毀損するものであるが、違法性を阻却されるというべきである。」と判示されており、このことが朝日新聞、読売新聞、産経新聞等においても報道されていた事実が認められる(甲第18号証、甲第19号証 参照)。
このような状況のもとに、SLC(スマイリー・ライセンシング・コーポレーション)とジャスとの間で乙第1号証の契約が締結されたことからみれば、ジャスは、乙第1号証の契約の対象となった本件商標を前面に打ち出して事業を行うことには困難が伴ったものと推測されるところであり、ジャスが乙第3号証の書簡において、「JASSは、ルフラーニ氏と2000年10月30日付けで『商標使用契約』を締結しましたが、実際は彼の商標を使用することが目的ではなく、ルフラーニ氏からの苦情を防ぐ為に契約したに過ぎません。」と述べていることにもやむを得ない側面があったものということができる。
そうとすれば、ジャスが被請求人との間で乙第1号証の契約を締結したこと及びその契約に基づき専用使用権の設定をしたことが被請求人の日本での商標の使用を妨げることを目的としてなされたものとはいい難く、また、ジャスが該契約の対象となっている本件商標を積極的に使用しなかったとしても、そのことが被請求人を害するためであったものともいい難い。そして、ジャスにおいて該契約に違反する行為があったというのであれば、先にも述べたとおり、被請求人(SLC)は、より早い段階において所要の措置を講ずることも可能であった筈である。
してみれば、ジャスは、本件商標の不使用の状態を被請求人を害する目的をもって意図的に作り出したものとはいえないから、被請求人が主張しているように、請求人とジャスとが実質的に同一といえる立場にあったとしても、請求人による本件審判の請求が、専ら、被請求人を害することを目的としてなされたものとは認められず、他に、被請求人の主張を認めるに足る証拠も見当たらない。
したがって、請求人による本件審判請求を信義則違反・権利濫用に当たるものということはできない。

4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、その指定商品について、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、被請求人によって使用されていたとの事実を認めることはできず、また、被請求人が本件商標をその指定商品について日本国内において使用していないことについて正当な理由があったものということもできない。そして、請求人による本件審判の請求が、信義則違反・権利濫用に当たるものということもできない。
したがって、商標法第50条の規定により、本件商標の登録を取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲


(1)本件商標





(2)乙第12号証1葉目



(色彩は、原本参照)



審理終結日 2009-06-09 
結審通知日 2009-01-09 
審決日 2009-06-25 
出願番号 商願平8-142171 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (034)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 敏小川 きみえ 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 佐藤 達夫
小川 きみえ
登録日 2000-05-19 
登録番号 商標登録第4383223号(T4383223) 
商標の称呼 スマイリー 
代理人 金塚 彩乃 
代理人 唐牛 歩 

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