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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X28
審判 全部無効 外観類似 無効としない X28
審判 全部無効 観念類似 無効としない X28
管理番号 1224912 
審判番号 無効2009-890128 
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-11-26 
確定日 2010-09-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第5153337号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5153337号商標(以下「本件商標」という。)は、「NTパワースイベル」の文字を横書きしてなり、平成20年1月10日に登録出願、第28類「釣り具」を指定商品として、同年7月25日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
(1)登録第3199225号商標(以下「引用商標1」という。)は、「パワー」の片仮名文字を横書きしてなり、平成5年6月8日に登録出願、第31類「加工釣り餌・活き餌・その他の釣り用餌」を指定商品として、同8年9月30日に設定登録され、その後、同18年6月6日に商標権の存続期間の更新登録がなされたものである。
(2)登録第3245832号商標(以下「引用商標2」という。)は、「パワー」の片仮名文字を横書きしてなり、平成6年1月31日に登録出願、第28類「ルアー釣り用擬餌に付着させるための釣り用油,ぎじ針・ぎじ餌・その他の釣り具」を指定商品として、同9年1月31日に設定登録され、その後、同19年1月23日に商標権の存続期間の更新登録がなされたものである。
(3)登録第4950707号商標(以下「引用商標3」という。)は、「POWER」の欧文字を横書きしてなり、平成17年7月5日に登録出願、第28類「擬餌,その他の釣り具」及び第31類「加工釣り餌,生き餌,その他の釣り用餌」を指定商品として、同18年5月12日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第25号証を提出した。
2 請求の理由及び答弁に対する弁駁
(1)本件商標について
ア 本件商標の外観、称呼及び観念について
(ア)本件商標構成中の「NT」及び「スイベル」の文字部分が、本件指定商品「釣り具」との関係において自他商品識別力を有しないものであるのに対し、「パワー」の文字部分は、本件指定商品「釣り具」との関係において自他商品識別力を十分に発揮し得るものである。したがって、本件商標の構成中、自他商品の識別標識としての機能を果たす部分は「パワー」の文字部分である。
また、本件商標の構成中、欧文字で表示された「NT」の文字部分と、日本文字で表示された「パワー」の文字部分は、外観上、観念上の分離性が極めて高いものである。
したがって、本件商標に接する取引者・需要者は、「パワー」の文字部分をもって取引に当たることも決して少なくないから、本件商標は、その構成中の「パワー」の文字部分に相応して「パワー」の称呼及び観念を生ずるものである。
(イ)被請求人は、本件商標は外観上まとまりよく表記されたものであり、「エヌティーパワースイベル」と、よどみなく称呼できるものであると主張するが、当該主張は当を得ないものである。
本件商標について、これを一連によどみなく称呼し、外観上もまとまりよく表記することを目的とするなら、その外観上の表記を「エヌティーパワースイベル」又は「えぬてぃーぱわーすいべる」とすべきである。また、このように「エヌティーパワースイベル」、「えぬてぃーぱわーすいべる」と表記することによって初めて一連に称呼し得るものとなる。
(ウ)被請求人は本件商標について「NTブランドのパワースイベル」との観念を生じると主張するが、この主張は、本件商標が「NTパワースイベル」ブランドという構成全体の観念ではなく、「NT」ブランドと「パワースイベル」ブランドとの2つに分離した観念が生じることを前提としたものである。したがって、本件商標が「NTブランドのパワースイベル」との観念を生じることを理由に、全体として一体となった造語と評価できるものであるとする被請求人の主張は矛盾したものであって、理由がない。
イ 「NT」の識別力について
(ア)「NT」のようなローマ字の2字は、その付されている部分が商標の語頭であるか末尾であるかに関わらず、一般に自己の業務に係る商品の品番、型式、規格等を表示する記号又は符号として、取引上類型的に使用されており、これは「釣り具」を取り扱う業界においてもみられるところである(甲6、甲7)。したがって、本件商標の構成中「NT」の文字部分は、それがたとえ語頭に付されていようとも、本件商標の指定商品「釣り具」との関係において、自他商品の識別力を有しないものである。
甲第6号証(2007年2月1日ダイワ精工株式会社発行「2007ダイワ釣用品総合カタログ」)(計68件)と甲第7号証(2006年2月3日株式会社シマノ発行「2006シマノフィッシングタックルカタログ」)(計17件)には、合わせて85件の商標が記載されているが、上記85件の商標のうち、商標の語頭にローマ字2字を付したものは54件、末尾にローマ字2字を付したものは22件、語頭、末尾の両方にローマ字2字を付したものは9件であるから、ローマ字2字は「商標の末尾部分に付されるのが一般的である」との事実は全く存在せず、商標の語頭部分に付されるのもまた一般的なものである。上記の使用例から見る範囲では、語頭にローマ字2字を付した例が末尾にローマ字2字を付した例の約2倍となり、むしろ、語頭にローマ字2字を付するのが一般的ということができる。このように、ローマ字2字は、本件商標の指定商品「釣り具」を取り扱う業界において、語頭に付されている場合であっても、一般に自己の業務に係る商品の品番、型式、規格等を表示する記号又は符号として、取引上類型的に使用されている。したがって、ローマ字2字は、たとえ商標の語頭に付されているとしても、自他商品の識別力を発揮し得ないものであるし、上記甲第6号証、甲第7号証に示す事実からは、むしろ、商標の語頭に付されている方が自他商品の識別力を発揮し得ないものであるということができる。
また、「NT」のようなローマ字2字が、商標の語頭部分においても類型的に使用され、自他商品の識別力を有しないことは、審決例からも明白である(甲8ないし甲11)。
(イ)被請求人は、欧文字2文字が別の単語と一体となって一つの造語となっているような場合には、欧文字2文字自体の識別力を検討することなく、商標登録は認められるべきであると主張するが、本件商標は欧文字「NT」、片仮名文字「パワー」、及び「スイベル」を単に並べたものであって、全体として一体となった造語とはなり得ないものであり、本件商標と引用商標1ないし3との類否判断を行うに当たっては、本件商標における「NT」、「パワー」、「スイベル」のそれぞれについて個別具体的に識別力の有無を検討すべきである。
(ウ)被請求人は、「請求人は、欧文字2文字を含む製品名を多くあげているものの、これらの製品名中の欧文字にしても、請求人の主張するような単なる品番に過ぎないかどうかは、はなはだ疑問である。」として甲第6号証を引用している。
しかしながら、請求人が甲第6号証において示した商標は、複数の商品を取り扱う事業者が自己の取扱商品の範囲で一の商品と他の商品とを区別するために付したものであって、一の事業者が取り扱う商品と他の事業者が取り扱う商品とを区別するために付したものではない。したがって、甲第6号証は、複数の商品を取り扱う事業者が、自己の取扱商品の範囲で一の商品と他の商品とを区別するために、取扱商品に品番・規格・形式などを表示する記号又は符号で区別するのが一般的であることを立証するものに他ならない。
(エ)被請求人は、本件指定商品との関係において、「NT」は、単なる品番を示すものではなく十分な識別力を有していると主張する。
「NT」なる語が被請求人のブランドとして釣り業界において周知又は著名であるという事実は全くない。インターネットの検索により検索結果として表示される語は、単にインターネットの検索網にヒットしたという事実のみであって、そのヒットした語が自他商品識別力を有するか否かとは何ら関係がなく、全く別個のことである。「NT」の語が、被請求人の製品であるとの識別力を十分有していると言うことはできないものである。
また、被請求人は、釣り業界においては「NTパワースイベル」「パワースイベル」の名は浸透していると主張するが、その根拠として被請求人が提出した乙第40号証ないし乙第46号証は、たった7冊の雑誌に過ぎず、その記事もほんの一部分に記載されたものであって、これらごく少数の証拠のみをもって「NTパワースイベル」、「パワースイベル」の名が釣り業界において浸透しているとは到底言えないものである。
ウ 「パワー」の識別力について
(ア)言語学的意味において「パワー」が「力、勢力、仕事率」等の意味合いを備えているとしても、商標の識別力の存否は指定商品との関係で判断されなければならず、「我が国において日常的に使用されている平易な語」であるか否かでない事は当然である。つまり、商品「釣り具」において「パワー」の商標を用いた場合、「パワー」に言語学的には「力、勢力、仕事率」等の意味合いがあったとしても、商品「釣り具」との関係においては、「力、勢力、仕事率」等がどのようなものであるのか、例えば、高いのか、低いのか、長持ちするものであるのかが、理解されて初めて品質を表示する機能も発生するものである。「パワー」の表示のみでは商品「釣り具」との関係において、何等の品質を表示する機能も発生しないものであり、「パワー」は十分に識別力を備えたものであることは明白である。
また、「パワー」の語が、本件指定商品「釣り具」との関係において十分に自他商品の識別力を備えていることは、請求人が商標権者である引用商標1ないし3が適法に商標登録されていることからも明らかである。
(イ)被請求人は、請求人の主張は「NT」「スイベル」の識別力が低く、かつ「パワー」の識別力が高いことを前提としていると主張しているが、請求人は、「NT」、「スイベル」については識別力がなく、「パワー」については自他商品識別力を有することについて主張したのであって、「NT」「スイベル」の識別力が低く、かつ「パワー」の識別力が高いと主張した事実はない。
(ウ)被請求人は、「パワー」の語自体、我が国においては、「力、能力、勢力、権力」等の意味を持つ馴染みのある英語であって、現在において、それほど高い識別力を有する語ではない。特に本件指定商品である「釣り具」との関係においては、「強度の高いこと、ひいては大きな獲物のために使うことができる」といった品質を表示する語として使われている例が多く、その識別力は低いと主張する。
「パワー」の語が本件指定商品「釣り具」との間で自他商品識別力を有するか否かは、「パワー」の語自体が我が国においてなじみのある英語であるか否かとは全く関係がない。被請求人が主張する乙各号証には、商標構成中の「パワー」の文字部分と、商品が「強度・耐久性に優れている」こととの関係を示す直接的かつ具体的な表示は見あたらず、単に商品の宣伝文句として「強度・耐久性に優れている」と記載しているに過ぎないものである。このように、商品の宣伝文句として当該商品が「強度・耐久性に優れている」ことを強調するのは常套手段であり、付した商標との関係で「強度・耐久性に優れている」ことを認識させているものではない。本件指定商品「釣り具」との関係において「パワー」の語は、単に商品の品質を表示するものではなく、十分に自他商品識別力を備えたものであるから、本件商標における「パワー」の語について、「識別力は低い」とする被請求人の主張には理由がない。
エ 「スイベル」の識別力について
(ア)「スイベル」が、「釣り具」の仕掛けに使用する部品の普通名称である(甲12)。
したがって、本件商標の構成中「スイベル」の文字部分は、本件商標の指定商品「釣り具」との関係において、単に商品の普通名称を表したものと理解されるから、自他商品の識別力を有しないものである。
(イ)被請求人は、「スイベル」の語について、この語は、単なる普通名称とはいえないと主張する。
しかしながら、「スイベル」が「釣り具」の一つを示すものとして釣り業界において広く知られ、一般的に使用されているものである(甲15ないし甲17)。また、「スイベル」が本件指定商品における普通名称であることは、審査例からも明らかである(甲18ないし甲23)。
オ 「NT」の語と「パワー」の語の分離性にいて
(ア)「NT」は欧文字であるのに対して、「パワー」は仮名文字、すなわち、日本文字である。欧文字は異文化の文字であって、日本文字は中国渡来の漢字を用いた5世紀頃から万葉集(8世紀)の万葉仮名含め、少なくとも千年以上の歴史を有している。また、日本文字の内の片仮名については9世紀初め頃から使用され、これも日本人にとって千年以上の歴史を有し、日本人の間に極めて密接に浸透したものである。これに対し、欧文字は明治以降日本に入り、一般社会の平均的な需要者間には戦後、昭和20年以降に取り入れられたものに過ぎない。このように欧文字は日本文字に比較して日本人に歴史的、文化的に馴染みの薄い文字である。日本人にとって異文化の欧文字「NT」と日本文字の片仮名「パワー」とを並記した場合、これの表示を一行で同じ大きさの文字で表示されているからと言って、本件商標を付した商品に接する需要者が、異文化の欧文字「NT」と日本文字の片仮名「パワー」とを、一体不可分のものとして認識することはあり得ないものである。
また、本件商標の指定商品である「釣り具」の需要者は、言語に精通した者でもなく、特別に識別能力が高い者でもなく、極めて一般的な知的水準を備えた日本人である。さらに、「NTパワー」の語が特定の観念を有する熟語等として一般に親しまれているという事実は全くない。
これらの事情を考慮すれば、異文化の欧文字「NT」は日本文字の片仮名「パワー」とは感覚的に分離して観念するのが自然であり、日本文字の片仮名「パワー」を独立して認識することは当然である。
さらに、本件商標の構成中「NT」の語と「パワー」の語が分離して観察されることは、審査例からも明らかである(甲13及び甲14)。
(イ)被請求人は、本件商標を使用する需要者が、請求人のいう「極めて一般的な知的水準を備えた日本人」であるとしても、「極めて一般的な知的水準を備えた日本人」は、「NT」の欧文字について、特別視するとは思えないと主張するが、請求人は、このような主張をした事実はない。請求人は、欧文字「NT」は日本文字の片仮名「パワー」とは感覚的に分離して観念することが自然であることを主張したまでである。欧文字「NT」と片仮名「パワー」とを並記した場合には、極めて一般的な知的水準を備えた日本人である本件指定商品の需要者が、異文化の欧文字「NT」と日本文字の片仮名「パワー」とを一体不可分のものとして認識することはあり得ないものである。
(ウ)被請求人は、「パワー」の語は元来、造語の一部となりやすい語であるといえることを理由として「NT」「スイベル」の識別力がそれほど高くないという判断があるとしても、「パワー」自体の識別力の低さに加えて、一体となった場合に、その商標から「パワー」の語のみを取出して類似性を判断することは適切でないと主張しているが、そもそも造語とは「新たにことばを造ること」(広辞苑)であって、「パワー」が造語の一部となり易いなどということ自身、根拠のない主張であって、上記主張には理由がない。本件商標は、本件指定商品との関係において自他商品識別力を十分に備えた「パワー」と、本件指定商品との関係において自他商品識別力を全く備えていない「NT」及び「スイベル」とを組み合わせた商標であるに過ぎず、「パワー」の語が自他商品識別力を発揮し得るものである。したがって、本件商標から「パワー」の語のみを取り出して引用各商標との類否を判断することは妥当である。
(2)引用商標について
引用商標1及び引用商標2は、「パワー」の片仮名文字を横書きしてなるものであり、その構成から「パワー」の称呼、観念を生じる。
引用商標3は、「POWER」の欧文字を横書きしてなるものであり、その構成から「パワー」の称呼、観念を生じる。
(3)本件商標と引用各商標の類否について
本件商標は、上述したとおり、「パワー」の称呼、観念を生じるものである。
これに対して、引用商標1ないし3は、上述したとおり、「パワー」の称呼、観念を生じるものである。
してみれば、本件商標と引用商標1ないし3とは称呼、観念において同一又は類似する商標である。
また、本件商標と引用商標1ないし3の指定商品は、商品区分第28類の「釣り具」及び第31類の「釣り用餌」において、同一又は類似するものである。
(4)まとめ
以上のように、本件商標は、その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標(引用商標1ないし3)に類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品又はこれらに類似する商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、その登録は無効とされるべきである。

第4 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第51号証を提出した。
2 答弁の理由
本件商標は、引用各商標とはその外観、称呼、観念において異なるものであるから、請求人が主張する商標法第4条第1項第11号違反に該当せず、有効なものである。
(1)本件商標の外観、称呼及び観念について
本件商標は、外観上まとまりよく表記されたものであり、「エヌティーパワースイベル」と、よどみなく称呼できるものであり、「NTブランドのパワースイベル」との観念を生じ、全体として一体となった造語と評価できるものである。
したがって、請求人が主張するように、本件商標を「NT」「パワー」「スイベル」の3つに分け、その中からことさら「パワー」のみを取り出して評価すべきものではない(乙1ないし乙3)。
本件商標「NTパワースイベル」は、仮に「NT」「スイベル」のそれぞれの部分に強い識別力がないと考える余地があるとしても、構成全体をもって特定の観念を生じない一種の造語と判断できるのであって、この構成全体の語が、単なる品質表示語として、取引上一般に使用されているような事情もないのであるから、識別力に問題は生じない。
また、取引者や需要者において本件商標からもっぱら「パワー」の部分のみを取り出して取引にあたることも考えられない。
ゆえに、本件商標から、単に「パワー」の観念などを生じず、本件商標と引用各商標が類似するとはいえない。
(2)「NT」の識別力について
ア 請求人は、欧文字2文字が品番等に使われることを指摘するが、欧文字2文字が品番等に使われることがありうるとしても、欧文字2文字が別の単語と一体となって一つの造語となっているような場合には、欧文字2文字自体の識別力を検討することなく、商標登録は認められるべきである。実際に欧文字2文字を含む商標が登録されている事実もある(乙4ないし乙10)。
請求人は、欧文字2文字が、語頭にあるか語尾にあるかの点について論じるが、被請求人としては、欧文字2文字が、語頭にあるか、語尾にあるかの違いが、商標の全体としての一体性の判断には影響があるものとは主張していない。
また、請求人は、欧文字2文字を含む製品名を多くあげている(甲6)ものの、これらの製品名中の欧文字にしても、請求人の主張するような単なる品番に過ぎないかどうかは、はなはだ疑問である。
イ 請求人は、「NT」という欧文字が、日本文字である「パワー」の語を、一般的な知的水準の我が国の国民では、一体としてとらえることができないと主張する。
欧文字(アルファベット)は、英語であるが、英語は我が国においては、義務教育にも採用されており、周知のとおり、我が国で通常の生活をしていれば、欧文字を見る機会など、枚挙にいとまがない。本件商標を使用する需要者が、請求人のいう「極めて一般的な知的水準を備えた日本人」であるとしても、「極めて一般的な知的水準を備えた日本人」は、「NT」の欧文字について、特別視するとは思えない。現在の我が国の社会において欧文字を古来の日本文字とことさら区別することに理由はないといえる。
ウ 請求人は、「NT」部分について、単なる品番を示すものと主張しているが、本件指定商品との関係において、「NT」は、単なる品番を示すものではなく十分な識別力を有している。
被請求人は、エヌ・ティ・スイベル(N.T.SWIVEL)ブランドとして、サルカン、ヨリモドシ製品を数多く扱っている。「NTパワースイベル」という本件商標を見たときに観念されるのは、NTブランドの強度の高いサルカン製品という認識といえる。実際に、インターネットの検索結果においても、「NT」の語が、被請求人の製品であるとの識別力を十分有していることがわかる(乙36ないし乙39)。
被請求人は、雑誌に「パワースイベル」の広告を掲載するなどして「パワースイベルブランドの普及につとめていた(乙40)。広告としては、サルカンは一袋100円から300円程度の安価な品物であり、大々的に、広告費をかけることができない事情があったが、釣り関連の書籍や、釣り雑誌等で「NTパワースイベル」あるいはNTの「パワースイベル」として紹介され、釣り業界においては「NTパワースイベル」「パワースイベル」の名は浸透している(乙40ないし乙46)。
(3)「パワー」の識別力について
ア 請求人の主張は、「NT」「スイベル」の識別力が低く、かつ「パワー」の識別力が高いことを前提としている。しかし、「パワー」の語自体、我が国においては、「力、能力、勢力、権力」等の意味を持つ馴染みのある英語であって、現在において、それほど高い識別力を有する語ではない。「パワー」の語は、本件指定商品である「釣り具」に使用される場合は、強度、耐久性に優れるものであることを示す性能品質を表すものに過ぎず、それ自体で識別力を有するものではない(乙11ないし乙19)。
イ 「パワー」の語は、造語の一部となりやすい語である。「パワー」の語を含む商標を使用している例は多く、特許電子図書館の商標の初心者向け検索においても、4058件に及ぶ登録又は出願がなされていて(乙20)、この中には単に「パワー」のみの商標に比べ、「パワー」と他の単語を組み合わせた商標が圧倒的に多い。つまり、「パワー」の語は元来、造語の一部となりやすい語であるといえる。
この4058件の中には、「スーツ」「キャスター」「スピード」「ホリデー」のように、それ自体識別力が特に強いとはいえない言葉が、「パワー」と一体となって造語となり、別の商標となっている(乙21ないし乙31)。
仮に、「NT」「スイベル」の識別力がそれほど高くないという判断があるとしても、「パワー」自体の識別力の低さに加えて、一体となった場合に、その商標から「パワー」の語のみを取出して類似性を判断することは適切でない。
(4)「スイベル」の識別力について
「スイベル」の語について、この語は、単なる普通名称とはいえない。
被請求人が本件商標を実際に使用している製品の普通名称は、サルカン(猿環)、ヨリモドシ(縒り戻し)と呼ばれるものであり、「スイベル」は、これらの商品の英語名のSWIVELを、カタカナ表記したもので、普通名称とは異なる(乙32ないし乙35)。
「スイベル」は、サルカン、ヨリモドシとの関係において、一定程度の識別力を有するといえ、少なくとも本件指定商品との関係においては「パワー」の語の識別力とそれほど違いがあるわけではない。
(5)まとめ
本件商標は、「NTパワースイベル」という一つの造語であり、単なる「パワー」「POWER」とは、異なる外観、称呼、観念を生じるものであるから、請求人の主張するように、本件商標からもっぱら「パワー」の部分を取出して類似商標との主張は無理がある。
以上のように、本件商標につき「パワー」「POWER」と類似するとして無効と主張する請求人の主張には、理由がない。

第5 当審の判断
1 商標の類否の判断について
商標法第4条第1項第11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号 同43年2月27日第三小法廷判決)、複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである(最高裁平成19年(行ヒ)第223号 同20年9月8日第二小法廷判決、最高裁昭和37年(オ)第953号 同38年12月5日第一小法廷判決、最高裁平成3年(行ツ)第103号 同5年9月10日第二小法廷判決)。
以下、上記に基づき、本件について検討する。
2 本件商標と引用商標について
(1)本件商標について
本件商標は、「NTパワースイベル」の文字よりなるところ、その構成は「NT」の欧文字と「パワースイベル」の片仮名文字を一連に横書きしたものであって、各文字は、同じ書体、同じ大きさ及び等間隔で、まとまりよく一体的に表記されているものである。そして、その構成に照らせば、「NT」の欧文字は、語頭に位置することから、品番、型式等を表示するものとして直ちに理解されるものではないものである。また、これに続く中間の「パワー」の文字は、「力」を意味する親しまれた語であって、指定商品「釣り具」の取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとはいえないものである。さらに、「スイベル」の文字は、「釣り具」の一種「サルカン、ヨリモドシ」を表す普通名称である。
そうすると、本件商標は、構成文字全体をもって一連の商標と理解されるほかに、商品の普通名称である「スイベル」の文字を除く「NTパワー」の文字部分が商品の出所識別標識として理解され、その要部となり得るものというべきである。
してみれば、本件商標は、「NT」「パワー」「スイベル」に分離され、「パワー」の文字部分のみを抽出し、その要部として認識されるものではないというのが相当である。
そうとすれば、本件商標は、構成全体から「エヌティーパワースイベル」の称呼を生じるほか、上述したとおり、「スイベル」の文字部分が指定商品のうちの一商品の普通名称を表すものであるから、自他商品の識別力を有せず、その構成中において自他商品の識別力を有する部分は「NTパワー」の文字部分にあり、これより「エヌティーパワー」の称呼を生ずるものである。
また、本件商標は、語頭の「NT」の文字部分は特定の意味を有するものではなく、「パワー」の文字部分は「力」を意味し、語尾の「スイベル」の文字部分は「釣り具」の一種「サルカン、ヨリモドシ」を表す普通名称であることから、その全体からは、「NTの力を有するスイベル」ほどの意味合いとしての観念を生じ得るか、又は、「NT」の意味を特定することができないことからすると、全体として造語であり、特定の意味合いの観念を有しない、のいずれかであり、また末尾の「スイベル」の部分が普通名称であって、自他商品の識別力を有しないことからすると、「NTパワー」の文字部分からは、「NTが有する力」ほどの意味合いとしての観念を生じ得るか、又は、「NT」の意味を特定することができないことからすると、該文字部分は造語であり、特定の意味合いの観念を有しない、のいずれかである。
(2)引用商標について
引用商標1及び引用商標2は、「パワー」の片仮名文字からなり、引用商標3は、「POWER」の欧文字からなるものであるところ、引用各商標からは、その構成文字に相応していずれも「パワー」の称呼及び「力」の観念を生じるものである。
3 本件商標と引用商標の類否について
(1)本件商標と引用商標1及び引用商標2の類否について
本件商標と引用商標1及び引用商標2とを比較すると、両商標は、語頭における「NT」の文字及び末尾における「スイベル」の文字の有無という相違があり、外観において区別し得る。
また、本件商標より生ずる称呼「エヌティーパワースイベル」と引用商標1及び引用商標2の称呼より生ずる称呼「パワー」とを比較すると、両商標は、語頭における「エヌティー」の音及び末尾における「スイベル」の音の有無という相違があり、また本件商標より生ずる称呼「エヌティーパワー」と引用商標1及び引用商標2より生ずる称呼「パワー」とを比較すると、両商標は、語頭における「エヌティー」の音の有無という相違があり、いずれも明確な差異音を有し、称呼において相紛れるおそれはない。
さらに、本件商標は、造語であって、特定の意味合いを有しないか、または、「NTの力を有するスイベル」「NTの力」というほどの観念を生じ得るのに対し、引用商標1及び引用商標2は、「力」の観念を生じるものであって、観念において区別し得る。
なお、取引上、両商標が類似するとすべき格別の実情は存在しないものである。
(2)本件商標と引用商標3の類否について
本件商標と引用商標3とを比較すると、両商標は、「NTパワースイベル」の文字と「POWER」の文字よりなるものであるから、外観において明らかに区別し得る。
また、本件商標より生ずる称呼「エヌティーパワースイベル」と引用商標3の称呼より生ずる称呼「パワー」とを比較すると、両商標は、語頭における「エヌティー」の音及び末尾における「スイベル」の音の有無という相違があり、また本件商標より生ずる称呼「エヌティーパワー」と引用商標3より生ずる称呼「パワー」とを比較すると、両商標は、語頭における「エヌティ」の音の有無という相違があり、いずれも明確な差異音を有し、称呼において相紛れるおそれはない。
さらに、本件商標は、造語であって、特定の意味合いを有しないか、または、「NTの力を有するスイベル」「NTの力」というほどの観念を生じ得るのに対し、引用商標3は、「力」の観念を生じるものであって、観念において区別し得る。
なお、取引上、両商標が類似するとすべき格別の実情は存在しないものである。
(3)以上のとおり、本件商標と引用各商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
4 請求人の主張について
(1)請求人は、「欧文字2字は、その付されている部分が商標の語頭であるか末尾であるかにかかわらず、一般に自己の業務に係る商品の品番、型式、規格等を表示する記号又は符号として、取引上類型的に使用されており、これは「釣り具」を取り扱う業界においてもみられるところである(甲6、甲7)から、本件商標の構成中『NT』の文字部分は、自他商品の識別力を有しない。」旨を主張する。
しかしながら、欧文字2字が商品の品番、型式、規格、符号等に使用されることがあり得るとしても、それは、商品の品番等として理解されるための表示方法によって使用されるのが一般的であって、本件商標においては、「NT」の文字は、語頭部に付され、それに続く「パワースイベル」の文字とを一連に横書きしたものであって、かつ各文字は、同じ書体、同じ大きさ及び等間隔で、まとまりよく一体的に表記されているものであるから、その構成に照らせば、「NT」の欧文字は、品番、型式等を表示するものとして直ちに理解されると断言できるものではない。
そして、「NT」の欧文字が、社会通念上あるいは取引通念上、常に品番等の記号又は符号としての固有の意味を有するとはいえないことからすれば、本件商標中の「NT」の文字部分のみを取り上げて商品の品番等の記号又は符号であると理解、認識され、そのために自他商品の識別力を有しないとすることはできない。
(2)請求人は、「異文化の欧文字『NT』と日本文字の片仮名『パワー』とを、一体不可分のものとして認識することはあり得ないものである。また、本件商標の指定商品である『釣り具』の需要者は、言語に精通した者でもなく、特別に識別能力が高い者でもなく、極めて一般的な知的水準を備えた日本人である。さらに、『NTパワー』の語が特定の観念を有する熟語等として一般に親しまれているという事実は全くない。これらの事情を考慮すれば、異文化の欧文字『NT』は日本文字の片仮名『パワー』とは感覚的に分離して観念するのが自然であり、日本文字の片仮名『パワー』を独立して認識することは当然である。」旨を主張する。
しかしながら、「NT」の語は、日常生活上ありふれた欧文字2文字からなる平易なものであり、他方の「パワー」「スイベル」も欧文字で表記される「POWER」「SWIVEL」を片仮名文字で表記したものと解されるから、各文字を同じ書体、同じ大きさ及び等間隔でまとまりよく一体的に表記されている外観上の特徴に照らすならば、欧文字「NT」と片仮名文字「パワースイベル」又は「パワー」とが、一連一体のものとして看取され、認識されることに困難といえるようなことはなく、請求人の主張は採用できない(参考:知財高裁平成21年(行ケ)第10225号 同22年3月30日判決)。
5 結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2010-07-15 
結審通知日 2010-07-20 
審決日 2010-08-02 
出願番号 商願2008-5015(T2008-5015) 
審決分類 T 1 11・ 261- Y (X28)
T 1 11・ 263- Y (X28)
T 1 11・ 262- Y (X28)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 晃弘 
特許庁審判長 鈴木 修
特許庁審判官 内山 進
井出 英一郎
登録日 2008-07-25 
登録番号 商標登録第5153337号(T5153337) 
商標の称呼 エヌテイパワースイベル、パワースイベル 
代理人 村上 博一 
代理人 特許業務法人 銀座総合特許事務所 

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