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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない 125
管理番号 1224911 
審判番号 取消2009-300617 
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2009-05-25 
確定日 2010-09-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第2353908号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2353908号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成1年1月24日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、同3年11月29日に設定登録され、その後、同16年1月21日に指定商品を第25類「被服」ほか、第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類、第21類、第22類及び第24類に属する商標登録原簿に記載の商品とする書換登録がなされているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の指定商品中、第25類「洋服」「ワイシャツ類」の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁並びに口頭審理における陳述において要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証(枝番を含む。但し、枝番の全てを引用する場合は、その枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標権者により、少なくとも過去3年以内に日本国内でその指定商品には使用されていないから、本件商標は取り消されるべきものである。
2 第1弁駁の理由
(1)被請求人は他社との「“ラブアース”ブランドライセンス契約書」を提出するがその契約先名、契約条件が隠されており証拠能力が乏しい。
唯一、これの添付書類に本件商標を含んだ商標登録番号が並んでいるがそれが実際に使用されたという証拠とはいえない。
また、被請求人は「被服類」について実際に使用している証拠として、「製品指示書」と称するものを提出しているが、それらは簡単に誰でも制作が出来るもので、被請求人が独自に作成したに過ぎない。
さらに、使われている「スマイルの図形」も本件商標と異なり「輪」が描かれていない。そうであれば請求人の「目と口」の登録商標である登録第4888313号の類似の範囲である(甲第1号証)。
ア 被請求人の証拠を検討する。
(ア)乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番1(製品指示書のコピー)
a 被請求人自身で作成した可能性がある。
b このような書類はパソコンで簡単に制作できる。よって日本津々浦々で「本件商標」商品が販売されたとはいえない。
c メーカー名、工場名が隠されており信憑性がない。
(イ)乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番2(商品別売上明細表)
商品名称、担当者名、原価金額、粗利益、利益%等が隠されており、証拠能力がない。
この書類は被請求人の社内の伝票を使って数字を並べたものに過ぎなく「出荷日」「出荷先」「出荷先の受領書」等を全く証明するものがなく証拠にならない。
イ デザインを検討する。
(ア)厳密に検討しても「本件商標」を使用しているようには見えない。
(イ)故意に小さくデザインを描き、使用商標が判明出来ないようにしている。
(ウ)また、実際の商品写真でもないし、販売されている小売店も特定出来ず、納品伝票、仕入伝票等がないので、証拠能力が乏しい。
ウ その他の主張
そもそも、本件商標は、1963年末米国人故ハーベイ・ボールにより、創作・著作されたものであり、本来登録されるべきでなかった(甲第2号証)。
被請求人が、これを元に他社に「本件商標」を貸与し、それこそ商標ブローカー事業を常習的に行っている事は受け入れられない。
また、被請求人は過去に「POLO」関連商標を登録した会社と共同会社を作り、ラルフ・ローレンと誤解するような商品販売を行っている(甲第3号証、甲第4号証)。
被請求人がもし「本件商標」を使用したことを確認した場合、請求人は被請求人(企業代表者個人)に対し著作権侵害で法的責任を追及することを検討する。請求人は別紙の著作権登録を所有している(甲第5号証)。
3 第2弁駁の理由
(1)ハーベイ・ボールの「SMILEY FACE(スマイリー・フェイス)」は、黄色い顔に小さい目で知られ、モナリザ以来の笑顔として全世界で親しまれている。そのスマイリー・フェイスは、1963年末、故ハーベイ・ボールによって創作・著作され(甲第6号証)、最初はバッジが保険会社顧客に配布されていたが、最終的には米国民1億人の胸にスマイル・バッジが着けられたといわれている(甲第7号証)。
(2)米国マサチューセッツ州のウスター市では1996年7月10日、当時の市長によりウスター市がスマイル・タウン宣言を行いスマイリー・フェイスをハーベイが創作・著作したことを宣言しており、その証書をハーベイ・ボールに発行している。また、マサチューセッツ州の上・下院両議員総会や、ウスター市政150周年記念式典ほか、米国の各種メディアで紹介されている(甲第8号証)。
(3)1994年7月公開のトム・ハンクス主演の映画「フォレスト・ガンプ」において、スマイリー・フェイスが紹介されている。また、米国郵政公社は1970年代のアメリカを代表するものとして「スマイリー・フェイス」と「ハーベイ・ボール」を選び記念切手を発行し、その記念切手新発行式典がウスター市で行われた(甲第9号証)。
(4)2001年4月12日ハーベイ・ボールが死去したとき、全世界の新聞で「スマイルの生みの親」として紹介されている(甲第10号証)。
(5)日本へのスマイリー・フェイスの登場は、1970年(昭和45年)に突然起こった「ニコニコ・マーク」、「ラブ・ピース」の大流行であり、それをリードしたのは「サンスター文具」や「リリック」等の文具メーカーで、その当時の国民はスマイル・マークに大熱狂を示し、その結果日本では、その当時から小学生からお年寄りまで知らない人はいない程有名になった(甲第11号証)。
(6)アメリカの「スマイリー・フェイス」と「ハーベイ・ボール」の存在と活動は全世界の人に知られており、特に著名人達の圧倒的支持を得ている。そのため、それらの人達がスマイル運動を行いたいとの要請から「名誉スマイル大使」制度が設けられ、全世界で約500名が名誉スマイル大使としてそれぞれの国で活動している(甲第12号証)。
(7)我が国でも原宿竹下通りでの「スマイル・キャンペーン」や、地方の「スマイル運動」の推進の為に2009年5月4日に「南知多サンドアート」を実施したり、「スマイル」普及の為に定期的に雑誌等でのプレゼントを行った。
また、ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団は、日本ユニセフ協会より2003年3月27日に感謝状を授与されている。
さらに、「スマイリー・フェイス」については、カナダ、メキシコ及びインドで著作権登録が行われている(甲第13号証)。
(8)ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団は米国で登録商標17件、査定商標42件、公告商標88件を所有している。
また、同財団は日本において「スマイリー・フェイス」等の商標登録を現在771件所有している。
さらにハーベイ・ボールは、著作権と商標権の管理を行うために設立した「有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド」の名前で「文化庁」に合計123件の著作権登録を行っている。
そして、「フランス・ソワール紙」のデザインは「ルフラーニ氏」に盗用されたが、元々は「ハーベイ・ボール」により創作・著作されたものである(甲第14号証)。
(9)日本で最近も「スマイル」の流行があった。平成20年度には「渋谷109」等の売場では「スマイルTシャツ」等が氾濫していたが、それらの商品は殆ど「ニコちゃん」の愛称で若い女性に呼ばれていたが、その愛称は昭和45年当時の「ニコニコ・マーク」の呼び方の略称であり、最近の若者雑誌で「スマイル」を「ニコちゃん」と愛称されている(甲第15号証)。
(10)日本の特許庁でも「スマイリー・フェイス」を「ハーベイ・ボール」のものである事を「拒絶理由通知書」を通じて述べている。また、ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団は「繊研新聞」や「日本繊維新聞」等の業界紙で、2年前より「スマイリー・フェイス」の正当性を宣伝している(甲第16号証)。
4 口頭審理(口頭審理陳述要領書)における陳述
請求人が提出した平成13年10月25日の「大阪地裁」判決を検討する(甲第17号証)。
(1)この「判決」自体が平成13年であり今より9年前のもので、その後「知的財産高等裁判所」の充実や、社会的にも「知的財産権」を尊重する機運が高まっている。
その上「スマイリー・フェイス」を1963年末に米国人、故「ハーベイ・ボール」が創作・著作したことは新しい証拠や証言で明らかになっている。そのため、現在では上記「判決」の主旨はより明確になったものと思われる。
上記訴訟は請求人が登録第2154392号商標を所有していたが、相手がそれと類似した「スマイル商標」を使用したので請求人が「販売中止」を求めたところ、相手(原告)がその行為が不正であると請求人(被告)「損害賠償請求」等を求めた内容である。結果、請求人の敗訴となっている。その当時の新聞報道を提出する(甲第18号証)。
(2)本件商標は元々「商標登録」されるべきではなかった
この判決(5頁)に記載されてる内容によれば、以下のことがいえる。
ア 本件商標は一般に言われる「スマイルマーク」(スマイリー・フェイス)商標の範ちゅうであって、被請求人が独自に考案したり、デザインを考えたものではない。
イ 「スマイリー・フェイス」は、1963年に「ハーベイ・ボール」により創作・著作されたものである。
その後の各種の主張や、本件事件での請求人の主張と証拠提出により、「ハーベイ・ボール」が創作・著作したことは確定的である。
ウ 「スマイリー・フェイス」は、昭和45年(1970年)アメリカの「文房具ショー」での流行を日本のメーカーがまねて日本で始めたものである(甲第11号証)。それは争う余地がない。
当時、日本のメーカーは「考案者が不明」と判断したが、それは現在では「ハーベイ・ボール」であることは明らかである。
エ 日本での「スマイリー・フェイス」の流行は、メーカーを中心とした「ラブ・ピース・アソシエーション」の活動によって知られたものである。
当時「ニコニコ・マーク」、「ラブ・ピース」としてそれが定着していたことは誰も否定出来ない。
被請求人が本件商標を出願したのは平成1年1月24日であり、被請求人は上記の他人の努力の結果をひょう窃したり、それにより不当な利益を得る目的であったことは明らかである。
オ 以上を考えると、本件商標は本来「商標登録」されるべきものではなかったと考えられる。
(3)スマイリー・フェイスの権利が及ぶ範囲が限定されていた
この判決(7頁)に記載されてる判断によると、本件商標の権利は商標の形態を固定させたもので、類似範囲の権利主張が出来ないものと解釈出来る。
このことは、各種裁判で請求人が「大阪地裁判決」を引用した時「それは禁止権の及ぶ範囲である」とされてきたが、よく考えると「禁止権」は同時に「権利範囲」を限定するものである。
(4)被請求人の使用証拠は証拠として認められない
この判決(7頁)に、「スマイルマークは、本件商標登録出願(審決注:判決に係る商標権についての出願)がされた昭和46年10月8日時点では、需用者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標として、商標登録を受けることができないものであった可能性が高かったものであり、そのため、スマイルマークの範ちゅうに属する本件商標権については、禁止権の範囲が限定されると解するのが相当である。」と記載されてる。
(5)以上を考えると、被請求人の本件商標の使用証拠として適切であるのは、本件商標そのものの使用例に限定されるはずである。
他の一般的登録商標では使用例として「社会通念上同一」と認められても、「本件商標」についてはその図形に限定したものでしか採用すべきでない。
したがって、請求人の本件事件での提出証拠は「使用証明」としては認められない。
4 口頭審理(口頭審理陳述要領書・補充)における陳述
被請求人の「使用証拠」は不適切である。
「スマイル商標」については「大阪地裁」が平成13年10月25日の判決で示したように、「一般的記号」であり、それこそ人類の歴史が始まって以来、あらゆる民族、あらゆる歴史の過程で使われたものである。
そのため、単純な「目と口」と「輪」の組み合わせであり、特徴がなく、一般的記号として「そのものズバリ」の使用のみが権利主張出来るものと考えられる。
現実に請求人が調査したところ、日本の特許庁の商標登録においても、1位 犬 登録数 4,536件、2位 スマイル 登録数 3,049件、3位 ライオン 登録数 2,253件、4位 クマ 登録数 1,880件、5位 ワシ 登録数 1,802件と(甲第19号証)、スマイルは上位2位に位置し、それぞれが互いに類似関係となっている。
その特定範囲は他の1位「犬」、3位「ライオン」、4位「クマ」、5位「ワシ」の例に見られるように断定出来ない。
よって被請求人が現在、提出した使用商標は、「本件商標」の「使用証拠」となり得ないものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁及び口頭審理における陳述において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第10号証(枝番を含む。但し、枝番の全てを引用する場合は、その枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は、被請求人から使用許諾を受けた通常使用権者がこれと社会通念上同一の商標をプリントした洋服等について、本件審判の請求日である平成21年5月25日よりも過去3年以内に日本国内で使用していた。
よって、本件商標は取り消されるべきでない。
(1)被請求人は、第三者(以下「ライセンシー」という。)に対して、外衣及び帽子の製造及び販売について、本件商標の通常使用権を許諾している。
これは被請求人とライセンシーの間で締結された「“ラブアース”ブランドライセンス契約書」(乙第1号証)の第1条第3条及び第4条等から明らかである。
(2)ライセンシーは、遅くとも平成20年7月以降、本件商標を用いた商品を小売商等に販売してきた。
各商品に本件商標が使用されていることは「『ラブアース』承認書」(乙第2号証、以下「承認書」という。)等に加えて、同承認書に添付されている「製品指示書」(乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番1)に記載された各商品の図面を見れば明らかである。この承認書及び指示書は、乙第1号証のライセンス契約書第7条1項に基づいて、各商品に関する承認を得るためにライセンシーから被請求人に提出されたものである。
ア 各製品指示書の上部かつ中央よりやや左に「品番」欄が記載されており、当該「品番」欄は、承認書中央の「品番」欄記載の品番に対応する製品のものであることがわかる。例を挙げると、承認書(乙第2号証)の品番「PKB-081-34」は、製品指示書(乙第3号証の1)の品番「PKB-081-34」と対応する。
イ また、ライセンシーが各商品を小売商等に販売した事実は、ライセンシーが作成した「商品別売上明細表」(乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番2)によって明らかである。すなわち、これはライセンシーから小売商等に販売された製品について、その品番、販売相手方、販売年月日、数量、単価、売上金額を一覧表にまとめたものである。品番は、表の左上部、「名称」という記載の下に書かれており、これによってこの書面に記載されている販売行為が行なわれた商品を特定することが可能である。
(3)そして、ライセンシーは本件商標がプリントされた下記アないしオの商品をそれぞれ下記のとおり販売した。
ア 製品に縫い付けられたネームに本件商標がプリントされ、製品全体に本件商標が柄としてプリントされたパーカー(商品番号:PKB-081)(乙第3号証の1)を、A社に対して、2008年7月31日に合計509枚(乙第3号証の2)。
イ 製品に縫い付けられたネームに本件商標がプリントされ、製品全体に本件商標が柄としてプリントされたズボン(商品番号:PKB-082)(乙第4号証の1)を、A社に対して、2008年7月31日に合計455枚(乙第4号証の2)。
ウ 製品に縫い付けられたネームに本件商標がプリントされ、製品全体に本件商標が柄としてプリントされた幼児用カバーオール(商品番号:PKB-083)(乙第5号証の1)を、A社に対して、2008年7月31日に合計204枚(乙第5号証の2)。
エ 製品に縫い付けられたネームに本件商標がプリントされ、製品背中部分に本件商標が大きくプリントされたパーカー(商品番号:PKB-084)(乙第6号証の1)を、A社に対して、2008年7月31日に合計805枚(乙第6号証の2)。
オ 製品に縫い付けられたネームに本件商標がプリントされ、製品背中部分に本件商標が大きくプリントされた長袖Tシャツ(商品番号:PKB-085)(乙第7号証の1)を、A社に対して、2008年7月31日に合計924枚(乙第7号証の2)。
(4)本件商標と上記アないしオの商品に用いられている標章は、必ずしも完全に同一とはいえない。しかし、本件商標の特徴を見るに、その図形部分は、円が顔の輪郭を、その円内上部にある一対の黒色楕円が目を、円内下部の浅い円弧状の曲線が口を表わしている。また、口を表わす曲線は、端部で短い直線と交わっており、これが人が笑ったときに唇の端部に生じるくぼみを表現していて、これらは全体として人の笑顔を表わしており、左右対称である。
そして、こうした特徴をもつ本件商標とライセンシーによって販売された上記アないしオの各商品に印刷された各標章を比較すると、それら各標章は、いずれも本件商標と同様の特徴を有する図形からなっている。
このことは各製品の「製品指示書」(乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番1)に記載された図形を見れば明らかである。
よって、上記各商品に用いられている標章は、本件商標と社会通念上同一と認められる。
2 口頭審理(口頭審理陳述要領書)における陳述
(1)答弁の理由の補足
被請求人は、答弁書にて使用証拠を提出し、本件商標は本件審判の請求に係る第25類に属する類似商品について取り消されるべきでない旨主張した。
しかしながら、使用した通常使用権者や販売先等については契約上等により秘匿する必要があったため、マスキングして写しを提出した。
このことにより、以下の項目について不明確であるため、本件審判の理由の補足とする。
(2)乙第1号証、乙第2号証、及び乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番2のライセンシーの記載
乙第1号証、乙第2号証、及び乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番2について、ライセンシーの記載部分はマスキングを行なっているため、共通の企業名が記載されているか否かの確認ができない。
そのため、答弁の理由の補足として、マスキングを行なっている部分にはライセンシーとして具体的な企業名が記載されていることを証明するため、事実実験公正証書を提出する(乙第8号証)。
(3)事実実験公正証書について
本件審判の答弁書で提出した乙第1号証ないし乙第7号証における書面が、ライセンシーを秘匿するためマスキングをしていることから、審判長に提出した書類の基となっている書類にはすべてライセンシーを明らかにしていることを証明したい。
よって、公証人に対し、審判長に提出したマスキングのある書類と、その基となったマスキングのない書類とを対比して、もとの書類にはライセンシーが記載されていることを確認して、その旨の事実実験公正証書を作成した。
(4)「製品指示書」に記載されたネームの取り付け位置
本件審判の答弁書における「製品指示書」(乙第3号証ないし乙第7号証の各枝番1)に記載された本件商標を使用している「ネーム」について、「製品指示書」の左中央に記載された製品にどのように縫い付けられているかの記載を行っていない。
よって、実際に「ネーム」が縫い付けられた製品の写しを提出し、縫い付け位置を証明する。
ただし、答弁書で提出した「製品指示書」は2008年製造の製品で、現物がなく、現在販売中の製品で代用し、記録物として「製品指示書」を添える。
(5)国内での使用について
答弁書で提出した乙第1号証ないし乙第7号証における書面が、ライセンシーを秘匿するためマスキングをしていることから、日本国内での取引の中で本件商標が使用されているということが明確となっていない。
よって、乙第1号証のマスキングを行なっているライセンシーの住所の一部と乙第3号証枝番2に掲載している販売先企業名および担当者名の一部のマスキングを解除した書類を提出し、日本国内での取引の中で本件商標が使用されているということを証明する。
(6)以上のとおり、本件商標には使用の事実が存在する。よって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 被請求人が証拠として提出した乙第1号証ないし乙第10号証から、次の事実が認められる。
(1)乙第1号証は、2008年1月1日付けの「“ラブアース”ブランドライセンス契約書」(以下「本件契約書」という。)の写しである。
ア この前文には「グンゼ株式会社」の記載があり、最終頁には「甲」として、「大阪市北区梅田1丁目8-17」、「グンゼ株式会社」及び「代表取締役社長 平田 弘」の記載と押印があるが、一方の契約当事者である「乙」については、前文ではマスキングされ、最終頁も「代表取締役社長」の肩書き表示以外はマスキングされている。
イ そして、本件契約書「第1条(定義)」には、「1.本商標とは、甲の所有する別紙『商標目録』記載の商標を意味する。」の記載があり、この商標目録の冒頭には、商標の欄に本件商標、出願・登録番号の欄に「第2353908号」、分類の欄に「K-25」及び指定商品の欄に「被服」と記載されている。
ウ また、「第1条(定義)」には、「2.本商品とは、乙により製造され本商標を付して販売される外衣・帽子を意味する。」「5.契約年度は、下記に定める期間をいう。」として、「第1契約年度 2008年1月1日から2008年12月31日まで」「第2契約年度 2009年1月1日から2009年12月31日まで」「第3契約年度 2010年1月1日から2010年12月31日まで 」と記載され、「第2条(地域)」には、「本商標の使用ならびに本商品の製造、販売地域は日本国内に限定する。」、「第3条(通常使用権の許諾)」には、「甲は本商標の通常使用権を乙に許諾し、乙は甲によって許諾された本商標通常使用権に基づいて本商品を製造、販売する。」、「第7条(商標表示および表示物の事前承認)」には、「1.乙は、本商標を表示する商品及び下げ札・シール類、パッケージ、包装材料、カタログ、広告宣伝等の諸物品(以下、商標表示物という。)の作成に当たっては、事前にその案を甲に提示し、承認を得るものとする。」、「2.乙は、本商標の使用に当たり、乙の社名または社名の略称等の表示を併用するものとする。」及び「4.乙が使用する本商標の下げ札・シール類については、甲が承認したものもしくは甲または甲の指定する業者から購入するものを使用する。」との記載や、「第9条(本商標使用報告)」には、「乙は、各四半期終了(3月末、6月末、9月末、12月末)後の15日以内に、その期間(3月ヶ月間)における本商品の品番、希望小売価格、販売数量、本商標使用料額を記載した『商標使用報告書』を甲に送付するものとする。…」などの記載がある。
(2)乙第2号証は、「『ラブアース』承認書」の写しであり、1枚目の左上がマスキングされ、右上には「2008年6月3日」、冒頭に「●下記品番につき、『ラブアース』の商標の使用を承認します。」、その右下に「グンゼ(株)マーケッティング部」の記載がある。
また、中央には「NO」「年」「シーズン」「品番」「柄など」の各欄からなる表があり、「NO」欄の「1」には、「年」欄に「08」、「シーズン」欄に「秋」、「品番」欄に「PKB-081-34(パーカー)」、「柄など」欄に「2色,総計:500p(ベビー・キッズ)80-130」の記載がある。また、右下に「承認」、「2008年6月13日」、「グンゼ株式会社 ---(マスキング)」と表示された押印(一部不鮮明であるが、他の同様の押印から推認できる。また、数字部分は手書きされている。)がある。
2枚目には、左上に「●LOVE EARTH <(株)---(マスキング)> 年 月 日 記入者名」の記載と1枚目と照応する「NO」「年」「シーズン」「品番」「品名」等の欄と各記載がある。
(3)乙第3号証の1は、「製品指示書」の写しであり、左上に「発注日08年5月30日」「別注先 ---(マスキング)」、その下に「メーカー名 ---(マスキング)」、「工場名 ---(マスキング)」、「年号」欄に「08」、「季別」欄に「秋」、「ブランド名」欄に「LoveEarth」、「品番」欄に「PKB-081-34」、「品名」欄に「スマイル総柄 パーカー」の記載がある。
そして、この製品指示書には、左中央の「(スタイル)」欄の右上には、「↑ネーム」の表示の上に別掲(2)のとおりの図形商標(以下「使用商標」という。)の記載がある。また、「(スタイル)」の欄には、パーカー(以下「使用商品」という。)が図示され、その上には、「承認」、「2008年6月3日」、「グンゼ株式会社 ---(マスキング) A」と表示された押印(数字部分は手書きされている。)がある。
(4)乙第3号証の2は、「商品別売上明細表」の写しであり、「商品コード/名称」欄に「PKB-081」、「得意先コード/名称」欄に「000520」と末尾行に「000932」、「年月日」欄に「2008/07/31」と末尾行に「2009/02/17」の記載がある。
そして、表題の下や「得意先名称」及び「担当者名称」はマスキングされている。
(5)乙第8号証は、平成22年5月12日に作成された公正証書の謄本の写しである。
これには、事実実験の結果として、次の記載がある。
「1 乙第1号証“ラブアース”ブランドライセンス契約書には、グンゼ株式会社の契約相手方乙の名称が塗りつぶされている。もとの書類の該当部分には、その名称が明記されている。嘱託の趣旨から、本証書にその会社名を明示できないので、以下株式会社Aと言う。乙第1号証末尾の契約当事者署名欄には、株式会社Aと記載されている。
2 乙第2号証の「ラブアース」承認書の左上には、承諾の相手方が塗りつぶされている。もとの書類の該当部分には、株式会社Aと記載されている。
3 乙第3号証の2の商品別売上明細表の下に塗りつぶされている部分があるが、もとの書類の該当部分には、Aと記載されている。
(中略)
以上のとおり、乙号証には、株式会社A又はAと同一の会社名が記載されていることを認めた。
検分した乙第1号証,乙第2号証,乙第3号証の1,乙第3号証の2,乙第4号証の1,乙第4号証の2,乙第5号証の1,乙第5号証の2,乙第6号証の1,乙第6号証の2,乙第7号証の1,乙第7号証の2の写しを本証書末尾に添付する。」
そして、公正証書の最終頁に公証人の署名押印がある。
また、公正証書に添付された乙各号証は、被請求人が答弁書で提出した乙各号証と一致するものと認められる。
(6)乙第9号証の1は、製品(Tシャツ。以下「参考商品」という。)の写真であり、参考商品の襟タグ部分に図形商標(以下「参考商標1」という。)が付されている。また、参考商品の胸には、いわゆる「スマイルマーク」が大きく描かれ、その下に「HEARTYLAUGH」の文字が表示されている。
(7)乙第9号証の2は、「製品指示書」の写しであり、乙第3号証の1とほぼ同様の「年号」「季別」「ブランド、アイテム名」「品番」「品名」の欄があり、それぞれの欄に「'10」「春」「LoveEarth」「PKB163-51T-39」「スマイルTee」の記載、ネーム欄に図形商標(以下「参考商標2」という。)の記載があり、「(スタイル)」の欄には、胸の部分にいわゆる「スマイルマーク」が大きく描かれ、その下に「HEARTYLAUGH」と記載された長袖Tシャツが図示されている。
(8)乙第10号証の1は、前記乙第1号証と同じ本件契約書の写しである。
そして、この最終頁の乙は、「代表取締役社長」の記載のほか乙第1号証ではマスキングされていた一部の「東京都墨田区」「株式会社」の記載が確認できる。
(9)乙第10号証の2は、前記乙第3号証の2と同じ「商品別売上明細表」の写しである。
そして、この「得意先名称」欄及び「担当者名称」欄は、乙第3号証の2ではマスキングされていた一部の「商事(株)」及び「高野」の記載が確認できる。
2 上記1で認定した事実によれば、以下のとおりである。
(1)通常使用権者について
2008年1月1日に、商標権者である被請求人と乙(以下、「株式会社A」という。)との間で、「外衣・帽子」について本件商標の使用を許諾する旨の通常使用権の許諾契約が締結され、当該契約期限が、2008年(平成20年)1月1日から2010年(平成22年)12月31日までの3年間であることから、本件審判の請求の登録(登録日は、平成21年6月10日)前3年以内である平成20年1月1日ないし同21年6月9日の間、株式会社Aは、本件商標についての通常使用権者であったと認められる。
(2)使用商品について
本件契約書の「第1条(定義)」中の「外衣」とは、「上衣(うわぎ)」を意味し、「上衣」とは「重ねた衣服の最も上のものの称」を意味するものである(広辞苑第六版 株式会社岩波書店発行)。
一方、使用商品「パーカー」は、英語「parka」の表音であり「パーカ」とも称され、「頭巾(ずきん)のついた丈の長い上着」(コンサイスカタカナ語辞典第3版 株式会社三省堂発行)、「フードつきのゆったりしたジャケット。」(大辞林第三版 株式会社三省堂発行)であるから、「パーカー」は、「重ねた衣服の最も上のもの」といえ「外衣」に含まれるものとみるのが相当である。
また、商標法施行規則別表中には、「パーカ(ー)」の例示はないが、同別表第25類の「洋服」の範ちゅうに含まれる商品として、「子供服、作業服、ジャケット」等が例示されていることからすれば、使用商品「パーカー」は、「洋服」の範ちゅうに含まれる商品とみるのが相当である。
(3)使用商標の使用について
ア 株式会社Aは、本件契約書第7条に基づいて乙第3号証の1の製品指示書の品番「PKB-081-34」、品名「スマイル総柄 パーカー」(使用商品)について、2008年6月3日に被請求人の承認を得たものと認められる(上記1(1)、(3)及び(5))。
イ 乙第9号証の2の製品指示書は、乙第3号証の1の製品指示書とほぼ同様のものであり、そのスタイル欄には、Tシャツが図示され、ネーム欄には参考商標2が表示されている。
また、乙第9号証の1には、Tシャツ(参考商品)が写されており、そのTシャツの、いわゆるスマイルマークの図柄と「HEARTYLAUGH」の文字が、その位置や態様を含め乙第9号証の2に図示されたものと一致していることから、参考商品は、乙第9号証の2の製品指示書により作成されたものと認められる。
そして、そのTシャツの襟タグ部分に表示されている商標(参考商標1)は、上述の参考商標2と外観上ほぼ同一の態様で表示されている(上記1(6)及び(7))。
そうとすると、乙第3号証の1の製品指示書の使用商品についても、参考商品と同様に、使用商品の襟タグ部分に使用商標を付して製造されたものと推認できる。
ウ 乙第3号証の1の商品コードと乙第3号証の2の商品コードは「PKB-081」の部分で一致するから、株式会社Aは、商品コード「PKB-081-34」の使用商品を「---(マスキング)商事株式会社」(以下「B商事」という。)へ、2008年(平成20年)7月31日に販売したと認められる(上記1(3)ないし(6))。
エ また、B商事は、本件契約書第2条に「本商標の使用ならびに本商品の製造、販売地域は日本国内に限定する。」との記載があること、B商事の名称に「商事株式会社」が含まれること及び担当者名が「高野」であることから、我が国の株式会社であって、国内に所在していると推認できる。
オ 以上によれば、株式会社A(通常使用権者)は、本件契約書に基づき、使用商標を付した、使用商品(パーカ-)を製造し、B商事へ、2008年7月31日に販売したというべきである。
(4)本件商標と使用商標の同一性について
使用商標は、別掲(2)のとおりの構成からなるものであるが、その構成中のいわゆるスマイルマークの図形は、広く一般に親しまれた図形であることから、看者をして当該図形部分に着目し記憶することが少なくなく、当該部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものと判断するのが相当である。そして、本件商標と使用商標の当該図形部分とは、外観において同視される図形といえる。
してみれば、本件商標と使用商標とは、社会通念上同一のものというべきである。
(5)以上を総合すると、本件商標の通常使用権者である株式会社Aは、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、請求に係る指定商品中第25類「洋服」に含まれる「パーカー」について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用したといわなければならない。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、本件契約書の契約先名、契約条件が隠されており証拠能力が乏しい。唯一、その添付書類に本件商標を含んだ商標登録番号が並んでいるがそれが実際に使用されたという証拠とはいえない。また、「被服類」を実際に使用している証拠として、「製品指示書」と称するものを提出しているが、それらは簡単に誰でも制作が出来るもので、元々、被請求人が独自に作成したに過ぎない旨主張している。
しかしながら、被請求人は、乙第8号証ないし乙第10号証を提出し、公正証書等で本件商標が実際に使用されていたことを明らかにしている。そして、被請求人が本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたことは前記認定のとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(2)また、請求人は、使われている「スマイルの図形」も本件商標と異なり「輪」が描かれていない旨主張している。
しかしながら、使用商標は、「輪」が描かれており、前記認定のとおり本件商標と社会通念上同一のものと認められるものであるから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(3)さらに、請求人は、本件商標は1963年に故ハーベー・ボールにより創作・著作されたものであるなどの理由により、本来登録されるべきでなく、本件商標については、使用と認め得る商標は本件商標そのものに限定されるべきであるから、被請求人が提出した証拠は使用証明として認められない旨主張している。
しかしながら、本件商標が登録されるべきでないかどうかは商標法第50条における商標登録の取消し審判とは関係のないことであり、本件商標についてその使用が本件商標そのものに限定されるべきとする理由がないから、この点に関する請求人の主張も採用することはできない。
4 むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、通常使用権者が本件商標と社会通念上同一と認められる商標を請求に係る指定商品中、第25類「洋服」に含まれる「パーカー」について使用していたことを証明したというべきである。
したがって、本件商標の請求に係る指定商品についての登録は、商標法第50条の規定により取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標


(2)使用商標




審理終結日 2010-07-20 
結審通知日 2010-07-22 
審決日 2010-08-03 
出願番号 商願平1-6979 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (125)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 森吉 正美
特許庁審判官 小畑 恵一
瀧本 佐代子
登録日 1991-11-29 
登録番号 商標登録第2353908号(T2353908) 

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