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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X41 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X41 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X41 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X41 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X41 |
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管理番号 | 1223093 |
審判番号 | 無効2009-890137 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-12-18 |
確定日 | 2010-08-30 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5128384号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第5128384号商標(以下「本件商標」という。)は、「玉岡尭舜幼稚園」の文字を書してなり、平成20年1月9日に登録出願、第41類「幼稚園における教育,幼稚園教育に関する情報の提供」を指定役務として、同年3月5に登録査定、同年4月11日に設定登録されたものである。 2 引用商標 請求人が引用する登録商標は、下記の4件である。 ア 登録第4995613号商標(以下「引用商標1」という。)は、「堯舜」の文字を標準文字で表してなり、同じく登録第4995614号商標(以下「引用商標2」という。)は、「ぎょうしゅん」の文字を標準文字で表してなり、いずれも、平成18年3月24日に登録出願、同年10月13日に設定登録されたものである。 イ 登録第5031807号商標(以下「引用商標3」という。)は、「堯舜会」の文字を標準文字で表してなり、同じく登録第5031808号商標(以下「引用商標4」という。)は、「ぎょうしゅんかい」の文字を標準文字で表してなり、いずれも、平成18年7月21日に登録出願、平成19年3月9日に設定登録されたものである。 ウ 引用商標1ないし4は、いずれも、第41類「学習塾における教授,その他の技芸・スポーツ又は知識の教授,当せん金付証票の発売,献体に関する情報の提供,献体の手配,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与」を指定役務として設定登録されたものである。 3 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第341号証を提出した。 (1)請求の理由の根拠 本件商標は、証拠から明らかなように、商標法第4条第1項第11号、同第10号、同第15号、同第19号、同第7号に反するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。 (2)具体的理由 ア 商標法第4条第1項第11号について (ア)本件商標と引用商標1ないし4とは、外観、称呼、観念の点で、極めて近似するものあり、あるいは、その要部が共通の性質を有するものであることから、類似商標である。下記にその理由を詳述する。 (イ)本件商標と引用商標1ないし4の対比 a 外観上及び観念上の対比 (a)本件商標は、漢字及び平仮名からなる「玉岡尭舜幼稚園」を、ゴシック調の横書きに書してなる。本件商標の構成の一部である「玉岡」は地域名称であるから、その語句からは「玉岡」地域を観念させる。また、その構成の一部である「幼稚園」からは「就学前の教育機関」である「幼稚園」を想起させる。さらに、「尭舜」の語句については、甲第267号証には、「i)古代伝説上の聖天使、尭と舜、ii)転じて、徳のある天子。名君」と説明されている。また、甲第332号証(広辞苑)には、「尭と舜。徳をもって天下を治めた、中国古代の理想的帝王として並称される」と説明されている。これらの証拠からも、「尭舜」の語句の意義は、少なくとも古代伝説上の聖天使、或いは、「徳」を備えた人物を想起させることが理解でき、何ら意義を抱かせない語句でないことは明らかである。以上のことから、本件商標は、「玉岡にある尭舜という名前の幼稚園」という観念が生じている、あるいは、「玉岡にある尭舜といった理念を育む幼稚園」という観念が生じている。 (b)他方、引用商標1ないし4は、第41類「学習塾における教授,その他の知識の教授・・(省略)」を指定役務として登録されており、その指定役務には「幼稚園における教育,幼稚園教育に関する情報の提供」も含まれている。したがって、本件商標と引用各商標は同一役務である。 (c-1)「玉岡」は地域名称である。 本件商標の構成の一部であり、漢字「玉岡」からなる文字は、結城市の旧地名に由来するものであって、現在においても一般に広く使用されている地域名称である(甲第6号証ないし甲第35号証)。 (c-2)これらの甲第6号証ないし甲第35号証に見られるように、「玉岡」の語は、歴史的文化的意義を有しており、加えて、歴史的な偉人や事件等に関連付けで、古来より地域の名称として広く通有しているものである。さらに、現在においても行政区域を表す地域名称として「玉岡」の名称は用いられているのみならず、地域を示す名称として商号や名称の一部に使用されている。しかして、本件商標のように、「玉岡」の文字を商標の構成の一部に採用しても、その「玉岡」の語は地域名称に由来する独創性に乏しい語として認識されるに留まるものである。すなわち、自他識別力の発揮しない語であることは明らかであろう。したがって、本件商標の要部とはなりえない。 (c-3)加えて、「玉岡」の名称が地域名称であることを裏づけるものとして、本件商標と同時期に出願され、審査を経て拒絶査定が確定した、商標出願がある(甲第333号証)。この「玉岡の里尭舜幼稚園」に係る商標は、被請求人によって、平成20年1月9日に出願され、引用商標1及び2が引用され(甲第334号証)、類似商標であると認定判断されている。 (c-4)前述の拒絶査定に鑑みれば、「玉岡の里尭舜幼稚園」に係る商標は、「構成中『幼稚園』の文字が、我が国において、満3歳から小学校就学までの幼児を対象とする教育機関を示す語として一般に親しまれたものであり、指定役務との関係においてみれば、役務の提供場所や提供主体を表す語として普通に使用されるものである」と判断され、「玉岡の里」は、地域の名称を示す語句、すなわち地域名称であると判断されたものと理解できる。さらに、前述のように、一連一体性としてのまとまりある造語として解されることが難しく、加えて、前述の語句に識別力がないからこそ、換言すれば、分離解釈が成り立つと判断されたからこそ、「玉岡の里尭舜幼稚園」は、引用商標1及び2と類似する商標と判断されたのである。そして、このような判断に対して、出願人でもある被請求人は、その判断内容が正しいと認めたからこそ、拒絶理由に何ら反論することもなく、結局の所、拒絶査定が確定したのである。 (c-5)さらに、被請求人は、そのホームページ(甲第335号証)において、「マークの由来」と題して、「昔の玉岡幼稚園の所在地は蛍の里として市民に慕われ、園のマークとして使われていました。玉岡幼稚園と結城市民とは長い間とても大切な関係を結んでいたことを知り、玉岡の名と蛍のマークは引き継ぐことにいたしました。」と説明している。このことからも、本件商標権者は、「玉岡の名」が地域に縁のある地域名称であることを積極的に認めていることを確認できる。 (c-6)以上のことから、自他共に「玉岡」の語句が地域名称であることは明らかである。まして、被請求人が、前述のように、自ら選択した商標の構成に地域名称が入っていることを、積極的に自認しているといった事実からも明らかである。したがって、被請求人が、自ら選択した商標の、自ら確定させた意義を超えて、商標権者が意図しない射程外の意義を、登録商標の意義としてあえて付与することは、もはや選択した商標の構成を破壊するものと言わざるを得ず、到底商標(の構成)を正しく解するものとはいえない。むしろ、本件商標の構成の一部である「玉岡」は、地域名称であると解することが、本件商標を素直に解するものと言え、また、本件商標権者の意図に沿うものと言える。 (d-1)「幼稚園」の語には、自他識別力がない。 本件商標の構成の一部である「幼稚園」の語も、本件商標の要部とはなりえない。広辞苑によれば、「幼稚園」とは「就学前の教育機関」と説明されている(甲第36号証)。このような語を商標の構成の一部に採用して、第41類「幼稚園における教育、幼稚園教育に関する情報の提供」に使用しても、指定役務の内容を普通に示すものであるから、前述と同様に自他識別力を発揮しないといわざるを得ない。 (d-2)また、引用商標1及び2は、役務「学習塾における教授,知識の教授」を指定して登録され、幼稚園の名称として使用している。このような役務を指定すれば、「幼稚園」や「幼稚舎」等の語に附して、その名称として(商号的に)使用することも予想できるため、本件商標のように「幼稚園」の語を構成の一部に採用しても、商標全体に自他識別力が生じると解されることはできない。仮に、商標全体に自他識別力が生じるとしても、引用商標1及び2は、「幼稚園」の意義を有する「幼稚舎」に使用されているため、当然のことながら、本件商標の構成の一部である「幼稚園」と、その「幼稚舎」の語とは観念上の差異はない。 (e)以上のように、本件商標は、地域の名称を示す地域名称「玉岡」と、記述的語「幼稚園」と、「尭舜」との、3つの語句からなる結合商標であり、地域名称「玉岡」及び記述的語である「幼稚園」は自他識別力のない語というべきであるから、不可分一体の造語でないことは明らかである。したがって、本件商標の要部は「尭舜」にある。 (f-1)さらに、本件商標の要部「尭舜」と、引用各商標とを対比して更に検討する。本件商標は「尭舜」と記されることから、先登録商標「堯舜」、あるいは引用商標2「ぎょうしゅん」と外観上同一の書体ではない。しかし、このような差異は、本件商標と、引用商標1ないし4とを区別できる程には明瞭な差異が生じていない。すなわち、引用商標1及び3に示される「堯舜」は、旧書体にて記されるものであり、他方、本件商標は、簡略文字から記されるものである。しかして、需要者が、「尭舜」と「堯舜」とを見ても、一見した場合には極めて識別困難な程にその書体が近似しており、本件商標と、引用商標1ないし4との間に違いを見出すことができない。仮に、需要者が注意深く本件商標を見てその相違に気づいても、日常生活では、簡略化した略字等からなる語と簡略しない旧書体等からなる語とでは、有する意義が同じであることが多々見られ、日常生活では、旧字体と簡略字からなる文字を、ケースバイケースで使い分ける場合も珍しいことではない。請求人も、以前には、旧字体と簡略字からなる文字を同時期に使用していたこともある。以上のような状況を鑑みるに、「尭舜」と「堯舜」との間に存する微々たる差異のみでは、両者は同じ意義を有する語として認識されやすく、その結果、出所混同しやすい。まして、甲第267号証に示されるように、現実に本件商標の「尭舜」と、先登録商標の「堯舜」とでは、有する意義が同じであるから尚更である。 (f-2)加えて、被請求人は、自らのホームページにおいて、「尭舜」の語について下記のように説明している(甲第335号証)。すなわち、「『尭舜【ぎょうしゅん】と名付けた訳は?』と題して、「尭舜は中国の神話に出てくる名君主の名前です。この二君の治世は利益や争いはなく、皇帝も一般人も皆質素に幸せに暮らせたとの言い伝えがあります。この神話にあやかり、当幼稚園も、保護者、園児、教職員、地域の方が一体となり、素晴らしい教育の場にしていきたいとの思いから名づけました。」と説明している。このことからも、被請求人は、「尭舜」の語から意義が生じていることを自ら認めており、また、その語句の意義は、「尭舜は中国の神話に出てくる名君主の名前」に由来するものであることを認めている。したがって、「尭舜」の意義と、「堯舜」の意義は同じであることは明らかである。 (f-3)とりわけ、先登録商標の「堯舜」(「ぎょうしゅん」)の語は、幼稚園等の教育業界では、一般的な語句ではなく独創的な語句であるといえる。しかして、その簡略字である「尭舜」と、識別性のない語とを結合させた本件商標を見ても、需要者は「尭舜」の語に着目することになり、先登録商標の「堯舜」(「ぎょうしゅん」)と、本件商標の要部「尭舜」には実質的な差異はないから出所を混同する蓋然性が極めて高いといえる。 (f-4)さらに、本件商標の需要者と引用商標1ないし4の需要者は同一であるが、これらの需要者には、幼稚園といった高等教育を十分に受けていない者までも含まれているといった事情がある。たとえば、幼稚園に通う子供は、自分がどのような幼稚園に通っているのか幼稚園の名称を知りたがるのは勿論、「?幼稚園」と幼稚園の名称を記憶しようとする。幼稚園の児童を持つ保護者であれば、当然ながら、子どもに自分の通っている幼稚園の名称を覚えさせようとする。しかし、日本語教育のたどたどしい幼児には、記憶することもままならないため、幼稚園に通う子供は識別性のある要部のみを記憶する傾向が強い。また、そのような子供を持つ保護者であれば、識別性のある要部のみを記憶させようとして、その語以外を省略する傾向がある。しかして、識別性のない語は省略されるため、本件商標と、先登録商標とに差異はない。 (g)以上のように、本件商標と引用各商標とは、外観上及び観念上一致するか又は共通の性質を有しているといえる。 b 称呼上の対比 (a)本件商標からは、称呼上「タマオカギョウシュンヨウチエン」と15音が生じており、極めて冗長的であるために一気に淀みなく発音することができない。通常、このような冗長的な構成からなる商標は、迅速かつ簡易さが尊ばれる取引社会では、省略して用いられることが通例である。 (b-1)また、本件商標の役務分野においては、需要者が、幼稚園に通う前後の子供、また幼稚園に通う子供の親、すなわち保護者等といった特定の者が中心となるから、冗長的な構成を備える幼稚園の名称は省略して用いられる傾向が極めて高い。たとえば、幼稚園に通う子どもは、自分がどのような幼稚園に通っているのか、幼稚園の名称に関心を持つことが通常であり、加えて、「?幼稚園」と幼稚園の名称を記憶しようとすることは前述したとおりである。さらに、このような幼稚園の児童を持つ保護者であれば、当然の事ながら、子どもに自分の通っている幼稚園の名称を覚えさせようとすることも前述したとおりである。しかし、本件商標のような極めて冗長的な音から構成される商標では、日本語教育のたどたどしい幼児には、記憶することもままならない。まして、発音する際に、このような冗長的な音を全て正確に発音せずに、省略して使用することも考えられる。また、保護者も子どもに覚えさせるのに、冗長的な音を完全に記憶させるよりは、省略して覚えさせることが普通であろう。このような場合には、本件商標のような要部とならない音は省略される傾向が極めて高い。加えて、前述の需要者には、商標的機能を発揮させる者には、前述のように、幼稚園に通う前後の子供、更には、その保護者である大人も含まれていることから、冗長的か否かは、その者らを基準に判断されるべきである。たとえば、幼稚園に通う前後の子供で、15音も生じる音を淀みなくなく一気に発音できる子供が、日本国内において一体どれだけいるかを考えてみれば、本件商標の構成が如何に冗長的であって、一連一体と言えないことは容易に理解できるのである。 (b-2)また、本件商標の指定役務は、「幼稚園における教育,幼稚園教育に関する情報の提供」であることから、本件商標の「ヨウチエン」の音は、指定役務を普通に記述する語から生じる音であり、当該音からは自他識別機能が発揮せず、まして出所表示機能も発揮しないことは明らかである。 (c)また、「タマオカ」の音からは、前述のとおり、周知の地域名称を示す音が生じており、需要者が「タマオカ」の音を聞けば、地域の名称である「玉岡」の地域名称を認識することは明らかである。すなわち、「タマオカ」も商標の要部足りえない。 (d-1)仮に、「ヨウチエン」の音を分離した「タマオカギョウシュン」の音を検討してみても、その構成から10音が生じており、未だに冗長的であって、とりわけ幼稚園児のような幼児には、一気に淀みなく発音することができない。 (d-2) また、「タマオカギョウシュン」からなる音のみならず、本件商標全体から生じる「タマオカギョウシュンヨウチエン」の音でも、清音から濁音に移ることで、第一アクセントの位置が「ギョウシュン」の「ギ」の音にあり、需要者は「尭舜」から生じる音「ギョウシュン」に着目しやすい傾向が極めて強いといえる。 (d-3)また、一般的には、「幼稚園」の語の直前には、他の幼稚園と自他を識別するような語が付される傾向が極めて強く、そのため、その直前の音に需要者が注目する傾向も強い。さらに、それが幼稚園の業務分野で使用されていない程の独創的な語からなれば、その傾向は益々強くなる。しかして、請求人が経営している「堯舜幼稚舎」についても、「幼稚舎」の前にある「堯舜」の音「ギョウシュン」に需要者が注目する。他方、本件商標は、いわゆる商号として、すなわち、幼稚園の名称として使用されるものであり、「幼稚園」の語の直前の語は、「尭舜」から生じる「ぎょうしゅん」の音であるから、引用商標1及び2と一致することになり、引用商標1及び2と区別することができない (e)以上のように、称呼上本件商標の要部は、「ギョウシュン」の音にあるため、引用商標と、称呼上一致する。 (f)なお、本件商標が省略されて「ギョウシュンヨウチエン」からなる音として用いられる場合に鑑みても、引用商標からは、「ギョウシュン」の音が生じていること、また、「幼稚園」業務に関連する第41類を指定していること等から、本件商標と称呼上一致することに変わりない。 c その他 ところで、本件商標につき、商標登録異議申立を行ったが、商標法第4条第1項第11号に該当するか否かについて、決定が出されている。しかし、その認定判断は誤りであり、看過できるものではないため、以下にその理由を説明する。 (a)本件商標の外観、称呼、観念を誤って認定するものであり、さらに、当該役務の性質を看過するものである。 上記異議決定でなされた認定判断のように、「玉岡尭舜」部分が不可分一体のものであることと、甲第330号証に示されるように、本件商標を有する商標権者が、早期審査の手続資料にて、自ら不可分一体性を否定していることとは一致しない。すなわち、前述の証拠からも明らかなように、現実に本件商標からは、「タマオカ」と分離された、「『ギョウシュン』の称呼」が生じるのであり、この称呼は、商標権者が意図する称呼である。このように商標権者が自らの手で提出した証拠以上の客観的事実を加味する認定は、本件商標が本来備える射程範囲を超えた、射程範囲を第三者が後日意図的に与えるものと言え、その商標が備える構成を破壊するものであるから、もはや登録商標を客観的に判断したものとはいえない。 (b)さらに言えば、前述の異議決定における認定判断では、「『玉岡』と称される地域(字)が仮に実在したとしても」として、「玉岡」の名称があってもなくても同列に判断されているが、大きな誤りと言える。 甲第336号証に示されるように、「いばらき統計情報ネットワーク」には、「玉岡町」の記載が明確に示されている。また、甲第21号証、甲第337号証にも、「町名(行政区)」と記され、「玉岡町」が明確に記載されている。このことから、「仮」を前提事実とするは大きな誤りといえる。この「玉岡」と称される地域(字)があることは明白であり、その前提条件を無視して、本件商標が備える構成を認定されていることは、正しく本件商標の構成を認定しているとは言えない。 (c)また、前述の異議決定によれば、「これより『尭舜』の部分に限定して取引上の称呼・観念が生ずるとすべき理由はみいだせない」と判断されるが、前述のような確固たる地域名称として、現地域に通有しているからこそ、更には、前記地域名称があるからこそ、前述のような証拠資料が存在しているのである。また、前述の地域名称がその地域を含めた周辺地域において通有しているからこそ、「玉岡」の名称をつけた商号等が多数存するのである。したがって、異議決定は、前提事実を看過するものである。むしろ、このような前提事実に鑑みるに、「玉岡」の文字は地域を想起させるに十分な語句であることは、疑いのない事実といえる。加えて、異議決定に見られるように、「『仮に』」、「玉岡」の文字が全国に通有していないとする前提が「仮に」あるとしても、「玉岡」の文字の識別力はほとんどないに等しく、明らかに「尭舜」の語句が、本件商標が備える識別力という点で、「玉岡」の語句を含め他の構成語句を凌駕するものであるから、あえて本件商標を一連一体とする必然性は存しない。 (d)また、本件商標と同時期に出願され、審査を経て拒絶査定が確定している商標出願の帰趨からも、前述の前提事実の存在を裏づけるものであり、さらには、そのような前提事実から、本件商標を一連一体とする必然性は存しないことをも裏づけるものである。そして、この「玉岡の里尭舜幼稚園」に係る商標と、本件商標とは、その違いが「玉岡の里」と、「玉岡」の相違に過ぎない。換言すれば、当然のことながら、本件商標にも、「玉岡の里尭舜幼稚園」に係る商標と同様に、登録できないとする判断が、適用されてしかるべきである。つまり、本件商標が一連一体の造語であるとする根拠は何らなく、このような根拠がない商標の登録を維持することは、「玉岡」について、一方では、地域名称的な性質を備えていることを否定しておきながら、他方では、地域名称的な性質を備えていることを肯定するものといえ、二重の基準を用いていると言える。まして、「玉岡の里」よりも、確実に現有している地域名称である「玉岡」が、地域名称として認定されないことは不可解といわざるをえない。 (e)さらに、前述の一連一体性を否定する事実として、甲第338号証に示されるように、被請求人が「幼稚園」事業を始める前に、公立である「玉岡幼稚園」が存していたという事実がある。この事実からも明らかなように、幼稚園の名称には、地域の名称等が包含された語句が使用されることが一般的であり、前述の「玉岡幼稚園」も同様といえる。そして、従前に、被請求人とは別の者が、地域名称を全面に掲げた「玉岡幼稚園」の語句からなる名称を、幼稚園の名称として使用していたという事実が存し、その後、第三者である被請求人が「玉岡『尭舜』幼稚園」の商標を使用すれば、地域名称「玉岡」の語、及び役務の提供場所「幼稚園」の語が分離された、余りの「尭舜」の語句に、当然のことながら需要者が注目することは一目瞭然である。この点からも本件商標の一連一体性はないか、その結合度が極めて脆弱であると言え、一連一体的に解される必然性は存しないことが明らかである。 (f)また、被請求人が、ホームページに、「尭舜」及び「玉岡」についての説明からも、「尭舜【ぎょうしゅん】」の意義が、自ら生じていることを自認し、しかもその意義が前述の甲第267号証、甲第332号証と同じ観念であることも自認している。加えて、「玉岡」と「尭舜」との語句が、「仮」ではなく「現実」の需要者に、一連一体とは認識されないからこそ、換言すれば、「尭舜」の語句に需要者が着目するといった事実(現実)があり、分離して解釈する前提が本件商標の構成上に顕在しているからこそ、本件商標が使用される状況に沿うように、「尭舜【ぎょうしゅん】と名付けた訳は?」と題して、或いは、「マークの由来」と題して、「尭舜」の意義或いは「玉岡」の意義を、あえて説明をしているのである。 d 小括 (a)以上のように、本件商標と引用商標1ないし4は、外観、称呼、観念上、一致あるいは近似するものであるから、本件商標は引用商標1ないし4に類似する類似商標である。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に反するものである。 (b)なお、先登録商標のような独創的な語に、本件商標に見られるような地域名称を付して、商標の識別性が変わるのであれば、請求人のような教育業を営む者は、日本中に存在する全ての地域名称を付して商標登録をしなければならず、このような負担を強いることは、商標法の意図に反するものである。すなわち、前述の証拠資料にも見られるように、教育業を営む者は、その拠点を複数持つことが通常である。例えば、そのような場合には、「宇都宮校」、「小山校」等のように、地域の名称をつけることがよく見られるが、このような全ての地域を結合させて商標出願することは現実に不可能である。しからば、本件商標のように、先登録商標に後から、単に「地域名称」、「記述語句」を付けただけの商標が看過して登録されることによって、請求人が、多大な費用、時間をかけて得た信用及び、その信用が化体した商標を破壊することにもなりかねず、そのような破壊を見過ごすことは、商標法の精神にもとるものであって到底許されるべきことではない。 イ 商標法第4条第1項第10号について (ア)本件商標は、下記周知商標「堯舜幼稚舎」と類似するため、その登録は取り消されるべきである。なお、前述の登録商標「堯舜」、「ぎょうしゅん」、「堯舜会」、「ぎょうしゅんかい」の、同一又は類似の範囲には、「堯舜幼稚舎」が含まれるが、「堯舜幼稚舎」も周知商標となっているため、下記に、本号適用の理由を説明する。 (イ)周知商標の基本構成 周知商標「堯舜幼稚舎」は、請求人が、登録商標「堯舜」あるいは「ぎょうしゅん」と、漢字「幼稚舎」又は平仮名「ようちしゃ」とを結合させて構成されるものである。すなわち、前述の商標法第4条第1項第11号で、引用商標1ないし4と対比して説明した理由と同様に、本件商標と、周知商標は、外観上、観念上及び称呼上において共通の性質を有するか、又は近似するものである。 (ウ)また、請求人は、登録商標「堯舜」あるいは、「ぎょうしゅん」、さらには、「堯舜会」、「ぎょうしゅんかい」を、「幼稚園における教育,幼稚園教育に関する情報の提供」等の「幼稚園」業務に、永年に亘り使用するとともに、それらの商標を使用して広告宣伝活動を繰り返し行っている。そのため、現在では、請求人の信用が化体し先登録商標は周知となっており、また、「堯舜幼稚舎」が周知商標となっている(甲第37号証ないし甲第266号証)。 (エ)請求人は、1976年(昭和51年)に、「杉の子学習塾」を創業し、1980年(昭和55年)に「株式会社杉の子学習塾」として法人設立をした。その後、1981年には、「株式会社総合教育スギノコ・アカデミー」に社名変更し、1985年には幼児の知能開発教育機関として「堯舜幼稚舎」を開園、1996年には、創立20周年を機に、社名を「株式会社アカデミー」に変更し、2003年には、「智慧の翼進学塾QUALIER」を開校する等して、栃木県最大規模の教育機関となっている。 (オ)さらに、請求人は、事務局等を含めて地域に拠点を構えて、営業を行っている。営業箇所としては、主に、「栃木県中央地区」、「栃木県北地区」、「栃木県西地区」、「栃木県南地区・茨城県」等が挙げられる。 (カ)このように、「堯舜幼稚舎」は、請求人が、1976年から現在までの31年間に亘って、積極的に広告宣伝活動を繰り返し行った結果、現在では、請求人の信用が化体し周知状態となっている。とりわけ、請求人は、総合教育機関として、積極的に宣伝広告活動を繰り返し行っており(甲第268号証ないし同第328号証)、これらに見られる宣伝広告活動と相俟って、前述の「堯舜幼稚舎」は相乗効果的に周知となっているのである。すなわち、従来の「株式会社総合教育スギノコ・アカデミー」の名称、及び現在の名称である「株式会社アカデミー」の名称、さらには、ラジオのDJや新聞の特集コーナーに掲載される程の著名な代表者の名前(たとえば、甲第173号証)と相俟って相乗効果的に広く知れ渡っているのである。 (キ)なお、ここに挙げた宣伝広告は、請求人が行った過去の宣伝広告活動のごく一部である。 (ク)また、前述のような宣伝広告活動から容易に想像できるように、請求人が、これまで宣伝広告活動に費やしてきた費用は、膨大な額にのぼっている。例えば、昨年度の広告宣伝活動は、広告費130,942,114円であり、チラシ及びDM等の配布枚数14,245,642枚にもなる。この内訳としては、春季、夏季、冬季に分けて示すと以下のようになる。 春季配布枚数:4,800,814枚 春季広告費用:55,282,040円 夏季配布枚数:5,094,570枚 夏季広告費用:41,686,289円 冬季配布枚数:4,350,258枚 冬季配布費用:33,973,785円 (ケ)さらに、請求人の代表者は、執筆活動等を積極的に行っている。たとえば、「『天才力』を育てるクオリィア学習法」(甲第329号証)は、2千部以上発行されている。当該本には、「堯舜幼稚舎」の記載が繰り返しされている。これまで、この本は、生徒の保護者、教育関係者(たとえば、同業者など)にも配布されており、現在でもネット等で購入可能となっている。 (コ)このように、請求人は、積極的に宣伝広告活動を継続的に行っているところ、本件商標権者である「学校法人 清芳学園」は、甲第1号証に示されるように、「栃木県小山市大字中久喜1221番地1」を「住所又は居所」にするものであり、その営業を主に小山市で行っているものである。他方、請求人は、「栃木県宇都宮市中戸祭一丁目6番14号」を「住所又は居所」にし、その営業を、栃木県のみならず、福島県、茨城県、さらには東京都などの隣接県においても広く行っている。そのような隣接県では、たとえば、生徒やその保護者のみならず、教育機関等の需要者にも広く、請求人の名称や、商標等も知れ渡っている。このような状況からすれば、本件商標権者が、先登録商標や、請求人の存在を知らずに、幼稚園業界のみならず教育業界では極めて独創的な語である「堯舜」の語を、偶然に採用したとするのはあり得ないことであろう。また、本件商標権者にも知られるほどに、先登録商標が教育に関する業務を行っている者の商標として広く知られているが故に、そのような独創的な語からなる商標にフリーライドして、あわよくば利益を得んとしているものであり、そのように考える方が素直というものであろう。 (サ)換言すれば、請求人は栃木県を含め全国に40か所に、教育事業を展開する。とりわけ栃木県では、トップクラスの教育事業を営む者である。また、関東地方において、広く広告宣伝活動を繰り返し行っており、その活動は顕著なものとなっている。すなわち、請求人は、商標を付したチラシや広告等を、栃木県はもとより、茨城県、福島県、東京都などの隣接県等に広く配布している。このような広告を見た需要者は、栃木県内だけでなく、隣接する茨城県などで、外観、称呼、観念のいずれもが一致あるいは共通の性質を有するだけでなく、極めて近似するような、本件商標を見た場合には、同じ出所から生じているものと混同することは容易に想像できる。つまり、本件商標を見たり聞いたりすれば、同じ教育事業を営んでいる者が行っている者と出所混同することは容易に想像がつく。 したがって、このような商標が使用される場合には、出所混同の蓋然性が極めて高いといえる。 (シ) a さらに本件商標は、2008年に早期審査制度を経て登録されたものであるが、その際に提出された早期審査に関する事情説明書及び商標の使用の事実を示す書類として、甲第330号証がある。この甲第330号証によれば、「本年4月により、上記の場所にて幼児教育を行う予定です。そのため、昨年より、生徒募集を始め、開園の準備をしています。具体的な書類として、本件商標が掲載された役務に関するパンフレットを提出します。なお、ホームページにおいても、広告宣伝活動をおこなっている。」と記載され、本件商標の使用の事実を示す書類が添付されている。 b この本件商標の使用の事実を示す書類には、漢字「玉岡尭舜幼稚園」とゴシック調の白抜き文字及び、その構成の一部である「尭舜」の上段に「ぎょうしゅん」と書してなる文字からなり、本件商標の公開公報及び登録公報に表される、ゴッシク調文字からなる商標と物理的社会的に異なる文字が表示されている。次に、その背景には、幼稚園をイメージ化したデザイン画が描かれており、その中に「玉岡尭舜幼稚園」なる文字が描かれているが、その上段には、「TAMAOKA GYOUSHUN KINDER GARTEN」と2段書き構成からなる文字が示されているが、本件商標とは異なるように表示されている。また、前述のゴシック調文字からなる「玉岡尭舜幼稚園」の紙面左側には、擬人化された蛍の絵が描かれており、その絵の下には「Gyoshun」との欧米文字が表わされている。さらに、次ページには、「ごあいさつ」として、文章が記載され下から2行目には「わたしども玉岡幼稚園は・・・」と記載されている。さらに、次のページには、2段構成の下段には、漢字「玉岡尭舜幼稚園」と書し、その下段「尭舜」の語の上段に仮名文字「ぎょうしゅん」と書してなる、文字が表わされている。さらに、漢字「玉岡尭舜幼稚園」の紙面左側には、前述の擬人化された蛍の絵が描かれており、その絵の下には「Gyoshun」との欧米文字が表わされている。 c このように、「商標の使用の事実を示す書類」に表示されているとする商標と、本件商標とは異なるものであることが明らかであるが、さらに問題であるのは、本件商標に係る商標出願人が、漢字「玉岡尭舜幼稚園」をゴシック調文字にして出願する一方で、使用事実を証明する資料で、(i)漢字「玉岡尭舜幼稚園」の「尭舜」の上段にのみ「ぎょうしゅん」と振り仮名をふって使用している事、さらに、(ii)擬人化された蛍の絵の下に、欧米文字にて「Gyoshun」と使用していること、加えて、(iii)検索エンジンにより当該ホームページにジャンプするためのバーには、「玉岡幼稚園」と記され、「尭舜」の文字とは分離して使用していることである。 (a)まず、(i)漢字「玉岡尭舜幼稚園」の「尭舜」の上段にのみ「ぎょうしゅん」と振り仮名をふって使用している事については、通常、送り仮名(ふり仮名)を付けるのであれば、「玉岡尭舜幼稚園」の上段に「たまおかぎょうしゅんようちえん」と付される構成をとることが一般的である。それにも拘らず、このような構成を採用するのは、「ぎょうしゅん」の文字に注目させんとする意図があるからである。また、(ii)擬人化された蛍の絵の下に、欧米文字にて「Gyoshun」と表わされた使用と併せれば、その注目させんとする意図は明白であろう。仮にそのような意図がないとしても、「故意」を否定することはできない。請求人は、前述のように「堯舜」のみならず、「ぎょうしゅん」等の商標を有しており、どちらの商標からも「Gyoshun」と同じ音「ぎょうしゅん」が生じている事は明らかであるから、侵害の事実は明白である。すなわち、本件商標に係る商標出願人は、本件商標を使用するにあたって、請求人の商標にフリーライドせんとする程に、登録商標の周知性は高いのである。そうでなければ、早期審査における使用事実を証明するにあたって、侵害事実を露呈させるような証拠資料を提出することはありえないのである。 (b)また、前述の事実に加え、(iii)検索エンジンにより当該ホームページにジャンプするためのバーには、「玉岡幼稚園」と記され、「尭舜」の文字とは分離して使用していることからも、本件商標は、「尭舜」を分離解釈されやすいことを自ら認めるものである。 (ス)以上のように、本件商標は、前述の周知商標と外観上、観念上、及び称呼上共通の性質を有しており、類似する商標である。したがって、商標法第4条第1項第10号に反するものである。 (セ)ところで、本件商標につき、前述のように、商標登録異議申立を行ったものの、商標法第4条第1項第10号該当について決定が出されている。しかし、この決定には明らかに誤りがあるため、その点について付言する。 当該異議決定の認定判断は、役務区分第41類の「学習塾における教授、その他の技芸等(以下「学習塾における教授等」という)」について、役務の性質を十分に理解されたものではなく、また、取引実情に即するものではないことに起因するものである。 a まず、同異議決定によれば、「使用地域が限定的であるうえ、その使用の程度(頻度)等を勘案しても、当該「堯舜幼稚舎」が需要者に広く認識されるに至っていた商標であるとまでは認めることができない」とする。このような説示に関連して、「商標〔第6版〕(網野誠著)(甲第339号証)」には、「(ハ)周知の程度」として、以下の記載がある。すなわち、「周知商標として他人の商標の登録を排除するためには、それが取引者・需要者間において広く認識されていなければならない。 ただし、その地域的範囲は必ずしも全国的に知られていることを必要とせず、北海道一円、九州一円等相当広範囲の需要者・取引者間に知られていれば足りる。 しかし、これは一般的な原則であって、地域的範囲については指定商品や指定役務との関係を十分考慮して決定されなければならない。鉄鋼・金属、紡績、産業機械、通信・運輸等、需要者・取引者が全国的にわたっているのが通例であるような産業部門については、その地域的範囲も全国的にわたっていなければ周知商標とは言い得ないかもしれないが、菓子や雑貨類等の地方産業に属する商品の商標については、一府県内でも地方の名産としてその地方の者が広く認識している商標は、周知商標として取り扱われることが多いであろう。特に理容、美容、飲食店等地方的なサービス業についてはそれが通例であろう。」と記載されている。 b 同文献の記載によれば、役務「幼稚園における教育」、或いは「学習塾における教授等」は、「鉄鋼・金属、紡績、産業機械、通信・運輸等、需要者・取引者が全国的にわたっているのが通例であるような産業部門」ではなく、その地域的範囲も全国的にわたる必要性がない「役務」であることは明らかである。 c また、同文献によれば、前述のように「菓子や雑貨類等の地方産業に属する商品の商標については、一府県内でも地方の名産としてその地方の者が広く認識している商標は、周知商標として取り扱われることが多いであろう。特に理容、美容、飲食店等地方的なサービス業についてはそれが通例であろう。」と記載されている。ここで、役務「幼稚園における教育等」、或いは「学習塾における教授等」は、たとえば、その役務の広告宣伝活動を行う場合には、通園、通学可能であるいわば通園圏内、通学圏内の一地域に知れる程度にのみ行われるものが通例であるといえる。 なぜなら、通園圏内、通学圏内の一地域外に在中する児童等は、通園あるいは通学できない場所(地域)には、当然の事ながら通園あるいは通学しないから、広告宣伝活動に伴う費用と効果を勘案するコストパフォーマンスに見合わず、広告宣伝活動を行わなくなる。しかして、このような役務においては、広告宣伝活動に起因して生じえる商標の周知状態は、本来であればごく狭い場所(地域)に知れることで足りるのである。しかし、同異議決定によれば、「少なくとも一つの県内」には知れ渡っていることが認められている。したがって、「少なくとも一つの県内」に知れ渡っていることを前提としても、その「少なくとも一つの県内」に在中する者が広く認識していると言えるのであり、周知商標であることは明らかである。換言すれば、日本国内で当該役務を提供する者が多数存する中で、請求人ほどの広告宣伝活動を行い、商標を周知させている者がどれだけいるかを考えてみれば、仮に一府県内であったとしても十分であるといえ、当該役務の性質上、前述の商標が周知であることが明らかであろう。 d 前述の証拠に示されるように、請求人は、「株式会社アカデミー」等の標章をハウスマークとして使用しており、そのハウスマークと独立して使用するだけでなく関連付けても使用してしていることは明白である。この点、需要者の立場に立てば、教育といった役務を提供する者は誰かという事は、その役務の提供を受ける者の一番の関心事である。しかして、「株式会社アカデミー」等の標章と関連付けて、前述の商標が使用されていること等から、需要者のニーズに応え得るものとなっている。このことからも、「株式会社アカデミー」等の標章と前述の標章とが、相俟って使用されることにより、周知状態となっていることは明らかである。 e また、宇都宮市の「堯舜幼稚舎」のみであっても、少なくとも、通常の幼稚園等の幼児教育事業等を対象とする通園圏、通学圏を超えた、栃木県全域で広範に広告宣伝活動を行っていることは明らかであり、周知性を否定する根拠とはなりえない。したがって、同異議決定では、役務の性質を看過し、或いは現実の取引事情を全く無視するものであり、大きな誤りがある。なお、付言すれば、堯舜幼稚舎では、入園地域を限定していないことから、県外在住者でも通学可能であれば入園可能である。さらに付言すれば、堯舜幼稚舎には、たとえば、黒磯市、小山市等宇都宮市を超えた地域に在住の児童もいるため、一つの市内に限定されるものではない。 ウ 商標法第4条第1項第15号、同第19号、同第7号について (ア)本件商標は、引用商標1ないし4及び、周知商標「堯舜幼稚舎」と出所混同を生じるため、商標法第4条第1項第15号、同第19号、同第7号に反するものである。 (イ)まず、本件商標が引用商標1ないし4と類似する商標であるため、商標法第4条第1項第11号に反すること、及び、本件商標が周知商標「堯舜幼稚舎」と類似する商標であるため、同法第4条第1項第10号に反することは前述したとおりであるが、本件商標は、引用商標1ないし4及び周知商標「堯舜幼稚舎」との出所混同を生じさせる蓋然性が極めて高く、また、不正の目的が推認でき、さらには、公序良俗違反となるものである。 (ウ)すなわち、早期審査に関する事情説明書及び商標の使用の事実を示す書類である甲第330号証には、本件商標の現実の使用を主張しているが、当該参考資料には、本件商標と物理的同一の商標は表示されていない。また、漢字「玉岡尭舜幼稚園」とゴシック調の白抜き文字及び、その構成の一部である「尭舜」の上段にのみ「ぎょうしゅん」と書してなる文字を記載し、通常の表示方法、たとえば振り仮名等を全表示する方法とは異なる使用方法を用いている。さらに、背景の幼稚園をイメージ化したデザイン画に記された「玉岡尭舜幼稚園」なる文字の上段には、「TAMAOKA GYOUSHUN KINDER GARTEN」の欧米文字が記されているが、「TAMAOKA」、「GYOUSHUN」、及び「GARTEN」の間には、スペースを配置して、「GYOUSHUN」の音を際立たせるような表示方法を用いている。また、被請求人が実際に展示している看板にも、同様の表示方法が見られる(甲331号証)。さらに、前述の甲第330号証に見られるように、ゴシック調文字からなる「玉岡尭舜幼稚園」の紙面左側には、擬人化された蛍の絵が描かれており、その絵の下には「Gyoshun」との欧米文字が表わされている。このような本件商標と異なる複数の商標等を、先登録された商標等と、相紛れるように使用している事実に鑑みれば、本件商標は、引用商標1ないし4及び、周知商標「堯舜幼稚舎」と出所混同が生じるのはいうまでもない。 (エ)さらに、請求人は関東地方において、広く広告宣伝活動を繰り返し行っており、とりわけ、栃木県においては、その活動は顕著なものとなっている。このような状況の中で、本件商標に係る商標出願人が、先登録商標を全く認識することなく、本件商標の選択に際し独自に採択するに至ったとすることは、現実的に困難であろう。したがって、被請求人が、先登録商標の周知性や、請求人の知名度にフリーライドせんとして、あえて先登録商標「堯舜」等と紛れさせ、需要者の注目を惹きつけんとする意図があるものを察するに十分である。また、「Gyoshun」等の語を合わせて表示する使用態様からすれば、先登録商標の存在を無にし、先登録商標を希釈化させるか或いは我が物にせんとする意図も明白である。このように、本件商標の登録を維持させるものであれば、請求人の、これまでの宣伝広告活動に費やした時間、労力、費用等は全て無に帰することにもなりかねず、永年の努力により得た信用、及びその信用が化体した登録商標を棄損させることにもなりかねない。 (オ)まして、被請求人は、請求人と本拠地を同じ栃木県に設け、幼児教育を数か所で行っている。本件商標に係る商標出願人のように教育業界にいる者であれば、同じ県に同様の事業展開を行う請求人の広告宣伝活動は、当然認識しているものであろう。このような事に鑑みれば、尚更、出所混同を生じさせるような独創性のある語を、自らの幼稚園の名称に何ら意図もなく使用したとは想像し難い。 (カ) a 前述したように役務の性質によっては、周知商標の周知状態は、必ずしも全国に広く知れ渡っている必要がなく、むしろ役務の性質上、限定的な地域で十分なことは明らかであり、役務「幼稚園における教育等」、あるいは「学習塾における教授等」は、限定的な地域で十分な役務に該当するものである。まして、「堯舜幼稚舎」や「堯舜」等は、役務の性質上、限定的な地域を超えた地域において広く知れ渡っていることから、需要者間に広く認識されるに至った商標である。さらに、本件商標権者自らが、外観や観念等において、甲第335号証等で提出する登録商標と同様の、外観及び観念を説明している事実からみても、出所混同が生じることは明らかである。 b 前述の説明からも、本件商標権者が不正の目的をもっていることは明らかである。加えて、出願時に既に見られる本件商標と物理的同一の商標が表示されていない標章を提示している点、更には、出願時にフリーライドせんとする商標の存在を知っていながら、その商標と出所混同を生じさせんとする意図が明白である点等、このような事実からみてもその出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠くものであったことは明白である。 c-1 また、請求人は、このような出所混同を未然に防止するべく、本件商標出願人が本件商標を出願する以前に、平成19年12月28日付けで、甲第340号証に示されるように、前述の商標を有することを通知していた。それにも拘らず、本件商標権者があえて当該商標を出願したことからも、意図的に請求人の商標にフリーライドせんとしたことは明らかである。 c-2 なお、前述の通知に対して、請求人は、被請求人から、平成20年1月10月付けで「『学校法人清芳学園玉岡尭舜幼稚園』として平成19年8月31日付け認可申請を行い、茨城県より認可いただいておりますので、この名称を使用致したいと考えております。御社登録商標名『堯舜』『ぎょうしゅん』を侵害する意図は全くないことを申し添えます。」と回答を受理している。また、被請求人のホームページ(甲第341号証)では、「『玉岡尭舜幼稚園』が茨城県より認可されました。」と題して、「茨城県に認可を申請しておりました玉岡尭舜幼稚園が、2008年4月1日、正式に認可されました。」と記されている。上記のように、被請求人が、「平成20年1月10月付」で、既に「認可」されていると回答しながら、一方でそのホームページで、「2008年4月1日付」で「正式に認可」されているとしていること自体、請求人の商標にフリーライドせんがための「意図」があると推認できる。 (キ)このように、本件商標に係る出願人は、本件商標を使用するにあたって、請求人の商標にフリーライドせんとする意図が明白であり、また、仮にそのような意図がなくても、被請求人自らが現実に出所混同が生じる使用を、前述の参考資料に見られるように具体的に認めている。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第19号、同第7号に反するものである。 3 被請求人の主張 被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第29号証を提出した。 (1)商標法第4条第1項第11号との関係について ア 本件商標と引用商標1との対比 請求人は、本件商標を、その要部は「尭舜」として引用商標1との類似関係の成立を主張する。 しかし、本件商標から、その構成文字である「玉岡」及び「幼稚園」の語を除外して本件商標の類否を判断しなければならない必然性、合理性はない。以下、その理由を述べる。 (ア)本件商標は、同じ大きさの文字で大小軽重の差なく、かつ同じ間隔をあけ、横一連に「玉岡尭舜幼稚園」と綴られているため、これに接する需要者等は、自然にかつ第1には「タマオカギョウシュンヨウチエン」という称呼を生じ、一つの言葉、一つの熟語として把握しやすいからである。 これに対し、引用商標1の「堯舜」からは、「ギョウシュン」、「ギョーシュン」という称呼を生じるのに過ぎない。したがって、本件商標と引用商標1とは、称呼上、明確に区別が付くものであり、また、外観、観念も全く異なるものである。 (イ)本件商標のように商標中に「幼稚園」等の学校を表す文字を含む場合は、指定役務との関係を踏まえて全体観察し、総合的に考察、判断しなければならない。 本件商標の「幼稚園」という言葉は、「小学校」、「中学校」、「高等学校」、「大学」等と同様、学校教育法に定める学校の一つを表す言葉である(学校教育法第1条、乙第1号証)。この場合、学校教育法は、例えば私立の「幼稚園」の設置は、都道府県知事の認可を必要とし、「公立又は私立の大学」の設置は、文部科学大臣の認可を必要としている(学校教育法第4条、乙第1号証)。 そして、学校教育法第135条は、「幼稚園」や「小学校」と名乗ることができる学校は、認可を受けた学校だけであり、それ以外の教育施設が、勝手に「幼稚園」や「小学校」という名称を用いてはならないと規定している(乙第1号証)。 しかして、学校は、地域と密接に関係する存在である。そのため学校名は、通常、地域名を冠することが多い。この場合、例えば地域名である「○○」を「幼稚園」の言葉に冠して「○○幼稚園」として都道府県知事の認可を受けると、当該都道府県では認可を受けた者(通常、学校法人)しか「○○幼稚園」という名称を使用できない。そして、同じ都道府県内では、商号登記と同様、同一、類似の名称の認可は下りない(乙第2号証)。 したがって、地域名である「○○」を冠した「○○幼稚園」、「○○大学」等の名称は、当該地域では、一つの固有名称、固有名詞として機能し、これに接する者は他の同種の学校とあれこれ混同することなく、区別をつけることができる。その意味で、「○○」の部分に続く「幼稚園」、「大学」等の文字は付記的部分ではない。 このことは、補正で商標中の「幼稚園」、「大学」等の文字を削除すれば、要旨の変更になることからも明らかである。 したがって、学校教育に関係する本件商標の指定役務の分野では、地域名に、例えば「幼稚園」等の学校を表す言葉が結合すると、全体で自他識別力を生じ、商標として機能するものである。換言すると、地域名「○○」を冠してあるからといって、「○○幼稚園」や「○○小学校」等の名称の識別機能が否定される合理的な理由はない。 (ウ)このことは、地名と学校の一つを表す言葉との結合商標の登録例からも明らかである。 a 幼稚園の登録事例 登録商標「渋谷幼稚園」(乙第3号証)、同「松濤幼稚園」(乙第4号証)、同「帝塚山幼稚園」(乙第5号証、乙第6号証) b 小学校の登録事例 登録商標「帝塚山小学校」(乙第7号証) c 中学校の登録事例 登録商標「麻布中学校」(乙第8号証、乙第10号証)、同「中京中学校」(乙第9号証、乙第11号証) d 高等学校の登録事例 登録商標「麻布高等学校」(乙第12号証)、同「柳川高等学校」(乙第13号証、乙第15号証)、同「鶴川高等学校」(乙第14号証、乙第16号証) e 大学の登録事例 登録商標「神奈川大学」(乙第17号証)、同「青森大学」(乙第18号証)、登録商標「高知大学」(乙第19号証)、同「鹿児島大学」(乙第20号証) したがって、このような登録事例に鑑みても、「本件商標は、その要部を『尭舜』として類否を判断すべき」とする請求人の主張に根拠はない。 (エ)「尭舜」の語は、甲第267号証、甲第332号証に示されているように、辞書に記載されている言葉である。請求人が創った言葉ではない。造語や、その分野では当初珍しい言葉であっても、その後、ありふれた言葉になり、普通名称化することもなくはない。商標は、そもそも言葉選び、言葉の選択にほかならない。 したがって、「幼稚園等の教育業界では、一般的な語句ではなく独創的な語句である」との請求人の主張に根拠はない。 しかして、本件商標は、引用商標1の「堯舜」と同じ称呼を生じる「尭舜」なる語を含むが、本件商標は「玉岡」で始まり、語頭の「玉岡」に「尭舜」が結合され、更にこれらの言葉に「幼稚園」なる語が結合され、それらが一体一連不可分の状態で結合されている。 しかも、本件商標を構成する「玉岡」や「幼稚園」の文字は、上記のとおり、本件商標の指定役務の分野ではこれらが結合すると固有名詞化し、商標として機能する。 したがって、本件商標中の「尭舜」の語を独創的な語句であるとし、そのことを根拠にして、本件商標は引用商標1に類似すると結論付けている請求人の主張は根拠がなく、商標の本質を理解していない、当を得ない理由である。 (オ)(エ)で述べたとおり、登録商標が識別力のある語を含み、他の語が地域名称や役務の内容を示す語であるとしても、その事でそく、当該商標が識別力のある語に類似するとは断定できない。以下、登録事例がある。 a 「武蔵」(乙第21号証)に対する「作州武蔵」(乙第22号証) 登録商標「作州武蔵」は、旧国名「作州」(乙第23号証)と「武蔵」という識別力のある語との結合商標である。旧国名としての「作州」の知名度、認知度は、「作州」なる語が辞書にも載っている言葉であることからして、本件商標中の「玉岡」より、はるかに高いものである。したがって、旧地名、旧国名と、識別力のある語との結合商標は、当然に、識別力のある語に類似するわけではない。 なお、本件商標中の「玉岡」の言葉に関し、請求人は結城市内に現存する地名であることを主張している。しかし、現在、結城市内にその住所地はない(乙第24号証)。この点に関し、被請求人は、結城市役所市民課に電話で確認したところ、「玉岡」という住所地は結城市内にない旨の言質も得ている。 b 「和光」(乙第25号証)に対する「和光学園」(乙第26号証) この後願の登録商標を構成する「学園」の文字は、学校の異称である(乙第28号証)。したがって、「学園」の文字は、「幼稚園」等の学校を示す言葉と共通である。 したがって、役務の内容を示す語である「幼稚園」の語を除外して、本件商標の要部は「尭舜」にあるとする請求人の主張に根拠はない。 (カ)請求人は、次のような主張をしている。 「先登録商標(引用商標1の『堯舜』)のような独創的な語に、本件商標に見られるような地域名称を付して、商標の識別性が変わるのであれば、請求人のような教育業を営む者は、日本中に存在する全ての地域名称を付して商標登録しなければならず、このような負担を強いることは、法の意図に反するものであると言わざるをえない。すなわち・・・、教育業を営む者は、その拠点を複数持つことが通常である。中略、『宇都宮校』、『小山校』等のように、・・・、このような全ての地域を結合させて商標出願することは現実に不可能である。」 しかし、この主張は当を得ない。なぜなら、請求人のような営利を目的として教育業を営む、予備校や塾等の業者の立場からの理由づけにほかならないからである。 予備校等は、学校教育法上の学校ではないため、その名称は、「○○予備校」、「○○アカデミー」、「○○塾」等、自由に選定できる。事業展開も、県境を超え、全国的な規模で活動できる。そして、拠点を複数持ち、大規模になればなるほど、その知名度は高くなり、名称が著名になることもある。 そして、そうなれば、その名称に、「地名」や「大学」等の学校を表す言葉を結合した商標を第三者が商標登録出願しても、商標法第4条第1項第10号(業者がその名称を商標登録していれば、同法第4条第1項第11号)に該当し、登録が拒絶される。 すなわち、請求人の主張は、大規模教育業を営む者を前提としているが、そのような前提となる業者の名称は、「宇都宮校」、「小山校」等のように、全ての地域名を結合させて商標登録出願を行うまでもなく、商標法で保護されるのである。 また、大規模業者の名称は、通常、周知、著名であると思われるから、学校法人が学校教育法上の学校名として、都道府県知事に認可申請しても、相紛らわし名称として認可が下りない筈である。また、名称が著名であれば、不正競争防止法による保護も図られる。 (キ)請求人は、被請求人の出願に係る「玉岡の里尭舜幼稚園」の登録が拒絶されたことを根拠に、自己の論理の正当性を主張している。 しかし、被請求人は、本件商標名で茨城県知事から認可を受け、認可を受けた名称を使用することにしたため、「玉岡の里尭舜幼稚園」の事案に対しては意見書の提出を控えたにすぎず、審査結果の正当性を認めたものではない。 イ 本件商標と引用商標2との対比 引用商標2は、平仮名で「ぎょうしゅん」と綴られている。したがって、この商標からは、「ギョウシュン」という称呼を生じ、観念は特別生じない。 これに対し、本件商標は、上記のとおり、漢字7文字で「玉岡尭舜幼稚園」と一体一連不可分の状態で綴られている。したがって、これに接する需要者等は、自然にかつ第1には「タマオカギョウシュンヨウチェン」という称呼を生じ、また上記の理由から「尭舜」を要部とするものでもない。そして本件商標は、「幼稚園」の語を含むことから、「タマオカギョウシュン」という名称の幼稚園を観念する。 それ故、本件商標と引用商標2とは、称呼上、観念上、外観上とも、全く異なるものである。 ウ 本件商標と引用商標3との対比 引用商標3は、同じ大きさの漢字で「堯舜会」と綴られている。したがってこれからは、「ギョウシュンカイ」、「ギョーシュンカイ」、「ギョウシュンエ」等の称呼を生じ、「会」という語からすると、集まりを意味する言葉である。 これに対し、本件商標は、上記イのとおりである。 それ故、本件商標と引用商標3とは、称呼上、観念上、外観上とも、全く異なるものである。 エ 本件商標と引用商標4との対比 引用商標4は、平仮名で「ぎょうしゅんかい」と綴られている。したがってこの商標から生じる称呼は、「ギョウシュンカイ」であり、特定の観念はない。 これに対し、本件商標は、上記イのとおりである。 したがって、本件商標と引用商標4とは、称呼上、観念上、外観上とも、全く異なるものである。 オ 本件商標と引用商標1ないし4との対比の結論 上記の理由から、本件商標の要部を「尭舜」として類否を判断しなければならない合理的な理由はない。 したがって、被請求人は、本件商標と引用商標1ないし4とは、称呼上、観念上、外観上とも別異のものと考える。 (2)商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第19号、同第7号との関係について ア 商標法第4条第1項第10号との関係について 商標法第4条第1項第10号は、周知商標と同一又は類似の商標で、同一又は類似の役務について使用をする商標の登録を拒絶する規定である。請求人は、「堯舜幼稚舎」の語は周知商標であり、役務が共通することを根拠に、本件商標は当該規定により登録を拒絶すべきであると主張している。 しかし、この主張は、次の理由から、全く根拠がない。 (ア)周知性の点について 請求人が根拠とする「堯舜幼稚舎」の語は、周知性が低く、周知商標の使用者の保護等を目的とする同規定の趣旨に反するからである。 周知性を証明するために提出された甲号証(甲第37号証ないし甲第329号証)を見ると、その内、甲第267号証ないし甲第328号証は、中、高、大学受験等の塾を営む請求人の生徒募集等に関するものであり、「堯舜幼稚舎」の周知性を証明している資料ではない。 よって、残りの資料を考察する。残りの資料は、大別すると、新聞広告関係のものと、チラシやダイレクトメール等の類になる。 (イ)新聞広告について 新聞への広告掲載回数は、次のとおりである。 2008年広告掲載回数 4回(広告時期は同年3月のみ) 2007年広告掲載回数 4回(広告時期は同年2月と3月のみ) 2006年広告掲載回数 3回(広告時期は同年2月のみ) 2004年広告掲載回数 1回(広告時期は同年3月のみ) 1998年広告掲載回数 11回(広告時期は1月を除いて毎月1回) 1997年広告掲載回数 13回(広告時期は毎月1回、9月のみ2回) 1996年広告掲載回数 13回(広告時期は毎月1回、3月のみ2回) 1995年広告掲載回数 7回(広告時期は3、9月が2回、4、8、 11月が1回) 1994年広告掲載回数 10回(広告時期は2月4回、3、6、7月1 回、8月3回) 1993年広告掲載回数 10回(広告時期は2月3回、3月2回、4、 6?8、11月1回) 新聞広告を見ると、請求人の営む受験塾の生徒募集等の記事がメインであり、「堯舜幼稚舎」の言葉が片隅に表示されてはいるものの、その表示は極めて小さい文字による。広告の掲載回数も、上記のとおり、2008年?2004年(2005年は無し。)は、年1?4回に過ぎない。また、2004年以前は、1998年に遡るが、この間に5年間の空白がある。 また「堯舜幼稚舎」の施設は、審判請求書によれば、宇都宮市下戸祭2-6-6に住所があり、「堯舜幼稚舎エンゼル館」なる施設が、宇都宮市下戸祭2-13-16にある。これを見ると、「堯舜幼稚舎」なる施設は、「堯舜幼稚舎エンゼル館」を含めても、宇都宮市の、しかもその住所から察するに、極めて近接した位置に、2か所あるだけである。 (ウ)チラシ類について 新聞広告以外の証拠資料として、請求人は、チラシやDM等に「堯舜幼稚舎」なる語を使用していることを主張している。しかし、このチラシ類は、新聞広告と同様、請求人のメイン業務である受験塾の生徒募集に関するものである。 (エ)総括 広告内容から、新聞広告及びチラシ類の読者は、受験生を抱える親などに限られ、これに関心を寄せ、熱心に目を通す読者の数は、限定される。しかも、新聞広告、チラシ類とも、「堯舜幼稚舎」の表示は、極めて小さい字であり、一見しただけでは見つけることができないものが多い。また、請求人は、この種の資料が、「栃木県内の広い地域に配布された」と述べているが、それを裏付ける証拠は何もない。したがって、「堯舜幼稚舎」なる語は、周知と言えるものではない。 (オ)「堯舜幼稚舎」と本件商標との類否について 本件商標は、「堯舜幼稚舎」とは別異のものである。請求人が周知商標であるとする「堯舜幼稚舎」は、引用商標1の「堯舜」と、「幼稚舎」なる語を結合させたものである。そして、請求人は、「幼稚舎」なる語を「幼稚園」と観念上の差異はないと述べている。 しかし、「幼稚舎」なる語は、乙第29号証に示されるとおり、本件商標の指定役務の分野において識別力のある言葉である。しかも、当該登録商標の権利者(慶応義塾)は、当該登録商標「幼稚舎」を、指定役務に示されるように、「小学校」の名称として使用している。 これに対し、本件商標中の「幼稚園」なる語は、辞書にも載っている言葉であり、上記のとおり、満3歳から小学校就学までの幼児を対象とする学校教育法上の学校の一つである。そして、「幼稚園」という言葉は、「幼稚舎」とは異なり、都道府県知事から認可を受けた者しか称することができない。 このように、「幼稚舎」と「幼稚園」とは性格が異なり、別意の言葉である。したがって、両者に「観念上の差異がない」とする主張は、正当でない。 しかして、請求人が使用している「堯舜幼稚舎」なる語は、同じ大きさの文字で大小軽重の差なく、かつ同じ間隔をあけて横一連に綴られている。したがって、この語は、「堯舜」と「幼稚舎」とを結合した一つの言葉として把握すべきものである。 これに対し、本件商標は、上記のとおり、「タマオカギョウシュンヨウチエン」という称呼を生じる一つの言葉である。 したがって、本件商標と「堯舜幼稚舎」とは非類似の商標であり、同一又は類似の商標を前提とする商標法第4条第1項第10号の要件を満たさない。 (カ)「堯舜」と「堯舜幼稚舎」の関係について 請求人は、「堯舜幼稚舎」なる語の使用事実を、多数の証拠資料により証明している。しかし、請求人の登録商標は、引用商標1の「堯舜」である。そして、この漢字2文字からなる登録商標「堯舜」と、「堯舜幼稚舎」なる語は、上記のとおり、「幼稚舎」なる語を「幼稚園」と同義として後者から除外すべきものではないから、非類似の商標である。 したがって、今般の甲号証は、請求人が自ら引用商標1の「堯舜」を使用していないことを認めていることにほかならないものと言える。 イ 商標法第4条第1項第15号、同第19号、同第7号との関係について 上記第15号の規定は、著名商標を保護する趣旨の規定である。本件商標と第10号との関係を説明した箇所で総括したとおり、「堯舜幼稚舎」の語は、周知ではない。周知でないものが、著名であるはずもない。 したがって「堯舜幼稚舎」と本件商標とが出所混同を生じるとする請求人の主張は根拠がない。 また、本件商標は、「玉岡尭舜幼稚園」と綴られている言葉である。第15号の規定に該当するか否かを判断するにあたっては、本件商標を基準に、「堯舜幼稚舎」との出所混同の有無を考察すべきものである。しかるに、請求人は、早期審査の提出資料を根拠に本件商標が出所の混同を来たす旨を主張している。したがって、早期審査の提出資料を基にしている請求人の主張は根拠がない。 また、請求人の、「不正の目的をもって使用するもの」、「公序良俗に反するもの」との主張は、明確な理由、具体的な証拠に基づくものではない。 したがって、請求人の主張は全く根拠がないものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第19号、同第7号に該当するものではない。 4 当審の判断 (1)商標法第4条第1項第11号該当性について ア 本件商標について (ア)本件商標は、「玉岡尭舜幼稚園」の文字からなるものであるところ、その構成各文字は同じ書体、同じ大きさ、等間隔でまとまりよく表されており、構成中「尭舜」の文字部分だけが独立して見る者の注意を惹くように構成されているということはできない。また、「幼稚園」の文字は、我が国において、満3歳から小学校就学までの幼児を対象とする教育機関を指す語として一般に親しまれたものであるから、その「幼稚園」を含む本件商標は、幼稚園の名称を表したものとして容易に理解されるというのが相当である。 しかして、かかる構成態様の本件商標にあっては、これより「尭舜」の部分に限定して取引上の称呼・観念が生ずるとすべき理由はみいだせない。 したがって、本件商標は、この構成文字に相応して「タマオカギョウシュンヨウチエン」の称呼を生ずるものであり、単に「ギョウシュン」の称呼は生じないというべきである。 (イ)請求人は、構成中の「玉岡」が結城市の旧地名に由来するものであって、現在においても一般に広く使用されている地域名称であること、「幼稚園」が「就学前の教育機関」を表す語であることから、「尭舜」が本件商標の要部である旨主張している。 確かに、請求人提出の証拠(甲第6号証ないし同第35号証)によれば、校歌や歴史の記述等で、結城市の旧地名として「玉岡の里」「玉岡の地」や「玉岡通り」の表示が認められ、それに由来して、「玉岡」が結城市内の地域(字)を称する文字として用いられることがあるものといえる。 しかし、幼稚園等学校名の採択にあっては、地域名を冠して名称を表すことが一般に行われている実情をも勘案してみると、本件商標は、前記の各文字が視覚的にも観念的にも主従や軽重の差なく一体となって、幼稚園の名称として一の標章を形成しているというべきものである。したがって、「尭舜」の文字部分が本件商標の要部であるとの主張は採用し得ない。 イ 引用商標1ないし4について 引用商標1は、「堯舜」の文字からなるものであり、これに相応して「ギョウシュン」の称呼を生じ、「堯と舜(中国伝説で、徳をもって天下を治めた理想的帝王)」の観念を生じるものである。 引用商標2は、「ぎょうしゅん」の文字からなるものであり、これに相応して「ギョウシュン」の称呼を生じるものであり、「堯と舜(中国伝説で、徳をもって天下を治めた理想的帝王)」の観念をもって看取され、あるいは、特定の観念を生じさせない造語として把握されるものというのが相当である。 引用商標3は、「堯舜会」の文字からなるものであり、引用商標4は、「ぎょうしゅんかい」の文字からなるものであるから、いずれも、構成文字に相応して「ギョウシュンカイ」の称呼を生じ、特定の観念を生じさせない造語として把握されるものというのが相当である。 ウ 商標の類否について 本件商標と引用商標1ないし4の外観構成は明らかに相違するものであるから、本件商標と引用各商標とは、外観上相紛れるおそれはない。 本件商標の称呼「タマオカギョウシュンヨウチエン」と引用各商標の称呼「ギョウシュン」及び「ギョウシュンカイ」とを対比すると、両者の構成音数が相違し、語頭音からの音の構成配列が著しく異なるものであって、これらを一連に称呼しても、相紛れるおそれがないことは明らかである。 また、観念について比較すると、本件商標は、「玉岡尭舜幼稚園」(幼稚園の名称)の観念を生ずるものであるのに対し、引用商標1及び2は、「堯と舜(中国伝説で、徳をもって天下を治めた理想的帝王)」の観念が生ずるものであるから、両者の観念上の相違は明らかである。また、本件商標と引用商標3及び4とは、観念について比較できないものであるから、観念上相紛れるおそれはない。 してみると、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれからみても、引用商標1ないし4に類似する商標と判断することができないものである。 エ 小括 以上によれば、本件商標は、引用商標1ないし4をもって、商標法第4条第1項第11号に該当するものと認めることはできない。 (2)商標法第4条第1項第10号該当性について ア 「堯舜幼稚舎」の周知性について (ア)請求人提出の証拠(甲第37号証ないし同第329号証)によれば、請求人に関連する教育施設の一として「堯舜幼稚舎」があること、当該施設が1985年に設立され、前記名称のもと現在に至るまで事業が継続されていること、「堯舜幼稚舎」の文字を冠したパンフレット等が平成15年7月をはじめとして数次作られたこと、「堯舜幼稚舎会報」が2007年9月1日に発行されたこと、「堯舜幼稚舎」の文字を表示した新聞広告が、本件商標の出願前から継続的に掲載されたこと、この広告の掲載紙は、栃木県在住の購読者が主な対象である下野新聞を主としたものであること、読売新聞及び朝日新聞にも、その栃木版や栃木特集の同紙面に掲載されたことがあること、証拠の大半を占める生徒募集のためのチラシの類の中で、請求人グループの広告として、他の進学塾の名称(分校名等)とともに「堯舜幼稚舎」が掲載されたこと、等が認められる。 なお、「堯舜幼稚舎」の文字を冠したパンフレット等の配布数や配布地域の実情は定かでないこと、「堯舜幼稚舎」の文字を表示した新聞広告については、多い年で年10?13回、少ない年で年3?4回ほどであること、また、請求人の生徒募集広告における「堯舜幼稚舎」は、請求人に係る進学塾等の多くの表示中の一として小さく表示され、当該表示がとりたてて目立つものではないこと、が認められる。 そして、請求人の行う進学塾等の事業は、その塾等の所在地からみて栃木県のほぼ全域に及ぶものであるが、「堯舜幼稚舎」を除き、これら進学塾等の事業に関連して、「堯舜」の標章、あるいは「堯舜」を一部に有する名称等の標章が使用されている事実は見当たらないこと、また、請求人の行う幼児教育事業は宇都宮市の「堯舜幼稚舎」のみであること、等が認められる。 (イ)前記(ア)によれば、標章「堯舜幼稚舎」が請求人によって幼児教育事業について継続して使用されていることを認め得るけれども、その使用地域については、栃木県内の宇都宮を主とした限定的な使用といわざるを得ないものであり、新聞広告等によるその浸透(の程度)を勘案しても、本件商標の出願時において、標章「堯舜幼稚舎」が、請求人に係る幼児教育事業を表すものとして、需要者の間に広く認識されるに至った商標であるとまで認めることはできないものである。 (ウ)なお、請求人は、登録商標「堯舜」あるいは、「ぎょうしゅん」、さらには、「堯舜会」、「ぎょうしゅんかい」を、「幼稚園における教育、幼稚園教育に関する情報の提供」等の「幼稚園」業務に、永年に亘り使用している旨主張している。 しかし、証拠に徴するも、「堯舜」が「堯舜幼稚舎」に関係するチラシ内でその略称的に表示されている事実が認められるほかは、「堯舜」あるいは、「ぎょうしゅん」、さらには、「堯舜会」、「ぎょうしゅんかい」が、請求人に係る「幼稚園」業務に関して使用された事実を示す証左を見いだすことはできず、請求人の主張にも拘わらず、その使用の態様や程度を窺い知ることはできない。 したがって、請求人の主張は採用し得ず、「堯舜」の文字が、本件商標の出願時に、請求人の教育事業を表示するものとして需要者の間で広く認識されるに至っていたと認めることはできない。 イ 本件商標と「堯舜幼稚舎」との類否について (ア)本件商標は、前記(1)アにおいて認定したとおりのものである。 これに対して、請求人の使用に係る「堯舜幼稚舎」は、全証拠に照らしてみても、その構成各文字が同じ書体、同じ大きさ、等間隔で一連に表されたものと言うべきものであり、かかる構成態様の標章のうち、「堯舜」のみを限定し抽出すべき特段の理由はみいだせないから、これよりは構成文字全体に相応して「ギョウシュンヨウチシャ」の称呼を生じるものであり、特定の観念を生じさせない一連の造語として看取されるものというのが相当である。 しかして、本件商標の称呼と前記称呼「ギョウシュンヨウチシャ」とを対比しても、構成音数を明らかに異にするうえ、語頭音からの相違する各音の音質の差異によって、これらをそれぞれ一連に称呼するも、相紛れるおそれはないものである。 また、両商標は、外観構成において明らかに相違するものであるから、外観上相紛れるおそれはなく、さらに、観念については比較することができず、観念上相紛れるおそれはない。 してみると、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれからみても、商標「堯舜幼稚舎」に類似する商標と判断することができない。 (イ)請求人は、「堯舜幼稚舎」に関して、登録商標「堯舜」と漢字「幼稚舎」とを結合させて構成されるものであり、「幼稚舎」が「幼稚園」と同義の文字である旨主張している。 しかし、「幼稚舎」の文字は、特定の意味合いを表す既成の語とは認められないうえ、幼稚園等の教育関連の業界において、「幼稚舎」が「幼稚園」と同義の文字として認識され、または、普通に使用されているとすべき的確な証拠はみいだせない。 してみれば、請求人における採択の意図はさておき、「幼稚舎」が「幼稚園」と同義のものであるとする前記の主張を採用することはできない。 ウ 本号該当について 以上のとおり、「堯舜幼稚舎」が周知な商標とは認め難いこと、本件商標が「堯舜幼稚舎」に類似する商標であるとは認められないことから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しないというべきである。 (3)商標法第4条第1項第15号該当性について ア 前記(1)のとおり、本件商標と引用商標1ないし4は類似の商標ということができないうえ、前記(2)のとおり、本件商標と「堯舜幼稚舎」との関係にあっても、類似する商標であるとは認められず、出所の混同のおそれがあるとはいえないものである。そして、標章「堯舜」については、「堯舜幼稚舎」に関わるチラシの一部において「堯舜」との略称が用いられている事実があるけれども、全証拠に徴しても、当該「堯舜」自体が請求人の業務に係る周知な商標であるとは認められないから、本件商標の構成中に「尭舜」の文字が含まれており、「尭舜」の文字が「堯舜」と旧字・新字との関係にあり同義の語であるとしても、本件商標が請求人に係る商標と関連あるものとして理解され認識されるとは言い難く、結局、別異の出所を表す商標として看取されるものといわざるを得ないものである。 してみると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標をその指定役務に使用しても、需要者が請求人に係る商標を想起し連想して、当該役務を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務と誤信するとは認め難く、役務の出所について混同するおそれはなかったと判断されるものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 イ なお、被請求人は、本件商標の出願審査時に提出された早期審査に係る資料に示された標章を引いて、本件商標の出所混同のおそれについて言及しているが、出所混同のおそれの有無については、本件商標の構成態様に即して判断されるべきことは論を待たないというべきである。そして、さらに敷衍すれば、当該資料で「玉岡尭舜幼稚園」の「尭舜」の上に「ぎょうしゅん」の仮名文字がある点は、当該文字部分を殊更に強調したというより、平易でない漢字についての読みを示したものとみて自然なものというのが相当であり、また、一方、「Gyoshun」等欧文字の標章については、本件商標とは全く別異のものといわざるを得ない。 したがって、前記の早期審査に係る資料をもってする請求人の主張は、採用できない。 (4)商標法第4条第1項第19号及び同第7号該当性について ア 本件商標は、前述のとおり、請求人が需要者に広く認識されたと主張する商標(「堯舜」「堯舜幼稚舎」)と類似するものとは認められない。また、「尭舜」や「堯舜」が、唯一請求人に由来する造語ではなく一般的な既成の語であることに併せ、全証拠によっても、本件商標が請求人の商標にフリーライドせんとする意図等の不正の目的をもって使用をするものであると断ずべき明確な理由及び的確な証拠もない。 してみると、本件商標は、商標法第4条第1項第19号の要件を充足しているとはいい難く、同第19号に違反して登録されたものとは認められない。 イ 本件商標は、その構成自体において公序良俗を害するおそれがないものであることは明らかである。そして、当事者の主張及び証拠によってみても、その出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあった等の事情を窺わせる具体的で的確な理由及び証拠はみいだせず、他に、本件商標を指定役務に使用することが公の秩序を乱すこととなる等の事情も認められないものである。 したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標には該当せず、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえない。 (5)まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号及び同第19号のいずれのにも違反して登録されたものとは認められない。 したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号に基づいて、その登録を無効とすることはできないものである。 なお、請求人は、平成22年7月7日付けで審理再開の申立てをしているが、その内容を検討するも、前記判断に影響を与えるものとみることはできないから、審理再開の必要は認めないものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-06-17 |
結審通知日 | 2010-06-21 |
審決日 | 2010-07-21 |
出願番号 | 商願2008-752(T2008-752) |
審決分類 |
T
1
11・
262-
Y
(X41)
T 1 11・ 22- Y (X41) T 1 11・ 252- Y (X41) T 1 11・ 222- Y (X41) T 1 11・ 271- Y (X41) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 亨子 |
特許庁審判長 |
鈴木 修 |
特許庁審判官 |
内山 進 井出 英一郎 |
登録日 | 2008-04-11 |
登録番号 | 商標登録第5128384号(T5128384) |
商標の称呼 | タマオカギョーシュンヨーチエン、タマオカギョーシュン、タマオカ、ギョーシュンヨーチエン、ギョーシュン |
代理人 | 永岡 儀雄 |
代理人 | 平野 玄陽 |
代理人 | 渡邉 一平 |