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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y09 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Y09 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Y09 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Y09 |
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管理番号 | 1219832 |
審判番号 | 無効2009-890024 |
総通号数 | 128 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2010-08-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-03-13 |
確定日 | 2010-06-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5019499号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第5019499号商標(以下「本件商標」という。)は、「BORRI」の文字を標準文字により表してなり、平成18年5月17日に登録出願され、第9類「理化学機械器具,航海用計器・計測装置,測定機械器具,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,救命用具,学習指導用装置,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気通信機械器具,磁心,抵抗線,電極,電子応用機械器具及びその部品,レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,自動販売機,金銭登録機,計算器,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置」を指定商品として、同18年12月15日に登録査定、同19年1月19日に設定登録されたものである。 2 請求人の主張の要点 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を、請求書及び弁駁書において要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第45号証を提出している。 (1)引用商標 別掲(1)の構成からなる商標(以下「引用商標1」という。)、別掲(2)の構成からなる商標(以下「引用商標2」という。)及び別掲(3)の構成からなる商標(以下「引用商標3」という。)は、請求人のハウスマークであり、自己の業務に係る商品「UPS及びその関連商品」(「USP」とは、Uninterruptible Power supply(無停電電源装置)の略)について使用するものである(甲第3号証ないし甲第5号証)。 以下、引用商標1ないし引用商標3を総称するときは、単に「引用商標」という。 (2)請求人適格 請求人は「BORRI」の欧文字からなる商標(国際登録第916014号)の国際登録出願人である(甲第6号証)ところ、特許庁は、当該出願について、本件商標を引用して暫定拒絶通報を発した(甲第7号証)。 本件商標が無効により消滅すれば、請求人は日本において当該商標を登録することが可能となる。 したがって、請求人が、本件審判において利害関係を有することは明らかである。 (3)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する理由 本件商標の商標権者は、引用商標に化体した信用及び顧客吸引力を利用する目的、又は、稀釈化させる目的等を有している。 かかる目的に基づいて登録された本件商標は、公正な取引秩序を乱すおそれがあり、かつ国際信義に反するものである。 よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。 以下、詳細に理由を述べる。 ア 請求人と被請求人の代表者、社員との関係 請求人と被請求人との関係を示す資料として、被請求人の会社登記簿の写し(甲第8号証)及び翻訳を提出する。 同号証4頁の下線部(C)は、Brocchi Luciano(以下「Brocchi」という。)が被請求人の代表者であることを、また、下線部(D)は、Mori Luca(以下「Mori」という。)が被請求人の社員であることを示している。 しかしながら、Brocchiは、請求人の製造部門で働いていた請求人の元社員であり、また、Moriも請求人の外国市場の営業マネージャーとして働いていた請求人の元社員である。 そして、Brocchi及びMoriは、請求人から解雇されている。両者が請求人から解雇されている事実を示す資料として、請求人から両者に発せられた解雇通告書の写し(甲第9号証及び甲第10号証)及びその翻訳並びに請求人の最高経営責任者の宣誓書(甲第45号証)を提出する。 甲第9号証及び甲第10号証の下線部及び甲第45号証の6頁の下線部は、両者が、人員削減を理由に、2005年10月25日付けで、請求人会社から解雇されたことを示している。 イ 本件商標の採択に係る被請求人の意図 請求人の社名「BORRI」は、創設者の名字に由来していること(甲第12号証)及び被請求人の代表者、社員が請求人の元社員であることを考慮すると、被請求人が、本件商標を偶然に採用したことは決してあり得ない。 被請求人は、請求人と同じ社名を商標として選択したことは歴然としている。 ウ 請求人の所在地と被請求人の所在地の関係 甲第11号証の1頁の下線部から、請求人の本社所在地は「BIBBIENA(AR)VIA VIII MARZO 2 CAP 52011 frazione」であることが分かる。一方、甲第8号証の下線部(A)から、被請求人の本社所在地は「VIA LA PIRA GIORGIO,19 CAP 52011 BIBBIENA」であることが分かる。 請求人の本社と被請求人の本社とは、同じ共同体「BIBBIENA(ビッビエーナ)」内に設けられおり、両者の位置は近接したものであることが分かる。 エ 解雇の日と本件商標の出願日との関係 甲第8号証の下線部(B)からは、被請求人が、2005年11月17日に設立されたことが分かる。本件商標の登録出願日は、2006年5月17日である。 これにより、被請求人は、Brocchi及びMoriが請求人から解雇されてから半年という短い期間を経て、本件商標に係る登録出願をしたことが分かる。 オ 本件商標と引用商標との同一及び類似性 本件商標と引用商標1との違いは、構成文字の字体のみであり、商標の構成文字は同一である。 したがって、本件商標と引用商標1とが、同一又は類似する商標であることは明らかである。 また、引用商標2及び引用商標3は、欧文字「BORRI」を図案化した商標であることは明らかであるから、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは、類似する商標であるといえる。 さらに、本件商標の指定商品と請求人の製造に係るUPS及びその関連商品が類似商品であることは、明らかである。 カ 本件商標が公序良俗を害する理由 請求人は、2007年に、複数の国際的規模の展示会に自己の商品を出品している(甲第41号証、甲第42号証及び甲第44号証)ところ、国際規模の展示会への出展準備や、商品製造は、その数年前から計画されることが一般的である。 そうとすれば、請求人の外国市場の営業マネージャーとして外国のクライアントとコンタクトをとる立場にあったMori及び請求人の製造部門に所属していたBrocchiは、請求人に雇用されていた2005年10月頃には、請求人が展示会に向けて準備を始めていること及び請求人が広く外国で営業を行い請求人の名前をより広く広めようとしていることを、解雇前に当然知っていたものといえる。 また、Brocchi及びMoriは、請求人の商品が、日本を含めた世界中で販売されていることを当然知っていたと考えられる。 さらに、被請求人が、Brocchi及びMoriが有する情報を利用して請求人の顧客に宣伝活動を行った事実(甲第45号証7頁)もある。 そうとすれば、被請求人は、請求人が引用商標を日本において出願していなかったことを利用し、かつ、引用商標が日本で著名性を獲得していることを知ったうえで、引用商標に長年にわたって化体した信用及び顧客吸引力を利用又は稀釈化させる目的に基づいて本件を出願及び登録したというべきである。 この様な目的の下に登録された本件商標は、公正な取引秩序を乱し国際信義に反するものである。 したがって、本件商標は、公序良俗に違反して登録されたものである。 キ 結論 上記アないしカより、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することは明白である。 (4)本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する理由 請求人は、「Borri Elettronica Industriale S.p.A.」の名称で、1932年に設立されてから現在に至るまで、UPS及びその関連商品の製造メーカーとして日本国内及び外国において広く知られる(甲第12号証)。 また、引用商標も、日本国内及び外国において広く認識されている。 さらに、本件商標は、引用商標と同一又は類似の商標であるとともに、不正の目的をもって使用されている。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。 以下、詳細に理由を述べる。 ア 引用商標の外国での周知性 引用商標の外国での周知性を示す資料として甲第13号証ないし甲第33号証及び甲第41号証ないし甲第44号証を提出する。 以下、各号証について説明する。 (ア)甲第13号証は、請求人のウェブサイト写しである。 同号証の1頁には、引用商標2のUPSへの使用が掲載されている。同じく2頁の下線部には「BORRI B9000 UPSは新しい入力IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を使用する」ことが明示されている。 また、3頁の頭部分には「BORRI B9000」の記載がある。 (イ)甲第14号証及び甲第15号証は、請求人の商品カタログ写しである。 甲第15号証の表紙には、引用商標3が掲載されている。 (ウ)甲第16号証は、請求人のイタリア国内のクライアントを示す一覧表である。 (エ)甲第17号証は、請求人のイタリアを除く各国におけるクライアントを示す一覧表である。 (オ)甲第18号証ないし甲第27号証は、請求人とクライアントとの代理店契約書の写しである。 甲第18号証及び甲第19号証には、引用商標1が記載されており、甲第20号証ないし甲第24号証には、引用商標1及び引用商標2が記載されており、甲第25号証ないし甲第27号証には、引用商標3が記載されている。 (カ)甲第28号証は、請求人とクライアントとのコンサルタント契約書の写しである。 同号証には、引用商標1及び引用商標2が記載されている。 (キ)甲第29号証は、1997年から2007年の間に、請求人からクライアントに対して発行された請求書の写しである。 同号証には、引用商標1、引用商標1及び引用商標2又は引用商標1及び引用商標3が記載されている。 (ク)甲第30号証は、上海電気自動車株式会社が中国において請求人を紹介した事実を示す資料である。 同号証2頁の下線部には、「イタリアの会社BORRIが製造したUPSに係る中国での代理店になるために、我々は多くの特定かつ経験豊富な技術者を有している」と記載され、また、引用商標2が記載されている。 (ケ)甲第31号証は、請求人の売上げを示す資料である。当該資料によると、1993年には1550万7651.31ユーロであった売上げは、2001年には、3325万8366ユーロに達し、2008年の売上げ見通しは2070万ユーロとなっている。 (コ)甲第32号証は、1997年及び1998年のイタリアにおける請求人の市場占有率を示す資料である。 (サ)甲第33号証は、請求人の広告宣伝に係る費用を示す資料である。 (シ)甲第41号証は、ミラノで開催された展示会「ENERMOTIVE」で、2007年2月6日に、請求人が自社の製品を出展した事実を示す資料である。 同号証には、同展示会の写真が掲載されているところ、ディスプレイには、引用商標2が大きく使用されている。 (ス)甲第42号証は、2007年11月11日から15日までローマで開催された、第20回世界エネルギー会議で、請求人が自己の商品を展示した事実を示す資料である。日本動力協会のウエブサイト(甲第43号証)には、世界エネルギー会議はエネルギーを扱う民間組織であり、約100ケ国・地域が参加しており、3年ごとに開催される世界大会には5000人規模の参加者が出席する旨が記載されている。 (セ)甲第44号証は、2007年10月2日から5日までカザフスタンで開催された世界石油・ガス見本市(KIOGE)に、請求人が自己の商品を出展した事実を示す資料である。 上記のとおり、請求人は、1990年代から今日に至るまで、UPS及びその関連商品に引用商標を使用し、世界中で商品を販売している。請求人の商品は、UPS市場で高い占有率を誇っており、また、請求人は、多額の宣伝費用を費やして請求人の商品を宣伝している。 さらに、請求人は、国際規模の見本市に商品を出品している。 これらの事実から、引用商標が外国において周知性を獲得していることは明らかである。 イ 引用商標の日本国内での周知性 引用商標の日本国内での周知性を示す資料として甲第34号証ないし甲第40号証を提出する。 以下、各号証について説明する。 (ア)甲第34号証は、請求人と株式会社Bestソリューションズ(以下「Bestソリューションズ」という。)との間で締結された売買契約書の写しである。 (イ)甲第35号証は、請求人とBestソリューションズとの間で締結された販売店契約書の写しである。 (ウ)甲第36号証は、請求人とジョーマックグループエンタープライズとの間で締結された独占販売代理店契約書の写しである。 (エ)甲第37号証ないし甲第40号証は、請求人から日本国内の顧客に対して発行された請求書の写しである。 同号証に記載された請求先及び請求の日付から、請求人が千代田化工建設株式会社、ジョーマックグループエンタープライズ、三菱重工業株式会社及びBestソリューションズに対して、1996年代から商品の販売を行っていたことが明らかとなっている。 同号証には、引用商標1及び引用商標3が記載されている。 上記の事実から、請求人は、1996年頃から長期間にわたって、日本において商品の販売を行っており、引用商標1及び引用商標3が日本国内において周知性を獲得していることは明らかである。 ウ 本件商標と引用商標との同一及び類似性 上記(3)オで述べたとおり、本件商標と引用商標は、同一又は類似する商標である。 エ 不正の目的について 引用商標は、上記ア及びイで述べたとおり、日本国内及び外国において周知性及び著名性を獲得している。 請求人の元社員である被請求人の代表者Brocchiと、被請求人の社員であるMoriとは、引用商標の周知性を当然知っている立場であるにもかかわらず、引用商標と同一又は類似する本件商標を被請求人の名義で日本において出願及び登録している。 これらの行為が、引用商標が日本において出願されていないことを利用して、引用商標に長年に亘って化体された信用及び顧客吸引力をフリーライドしようとする被請求人の図利加害目的に基づいていることは明白である。 したがって、被請求人の行為には明らかに不正の目的が備わっているといえる。 オ 結論 本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 (5)本件商標が商標法第4条第1項第8号に該当する理由 引用商標1は、請求人の名称「Borri S.p.A.」の著名な略称である。 引用商標1は、上記(4)ア及びイで述べたとおり、日本国内及び外国において周知性を有している。 また、請求人が被請求人に対して、請求人の略称の使用を許諾したという事実は存在しない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。 (6)本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当する理由 ア 引用商標の周知性 引用商標は、上記(4)ア及び同イで述べたとおり、日本国内及び外国において周知性及び著名性を獲得している。 イ 本件商標と引用商標との同一及び類似性 本件商標と引用商標は、上記(3)オで述べたとおり、同一又は類似する商標であり、かつ、その商品は類似する。 ウ 結論 本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。 (7)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する理由 引用商標は、上記(4)ア及びイで述べたとおり、外国及び日本国内において周知性、著名性を獲得しており、引用商標に対して信用や顧客吸引力が形成されている。 本件商標と引用商標は、上記(3)オで述べたとおり、同一又は類似する商標である。 よって、本件商標の指定商品への使用が引用商標との関係で、商品の出所の混同を生じさせる。 したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。 (8)むすび 以上の理由により、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号に該当し、その登録を無効とされるべきものである。 3 被請求人の答弁の要点 被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を、意見書において要旨以下のように述べている。 (1)引用商標の周知、著名性について 請求人は、引用商標が世界中で使用されて周知、著名性を獲得していることを前提に、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号に該当する旨主張している。 請求人は、周知、著名性獲得の根拠として甲第12号証ないし甲第40号証を提出しているので、当該甲各号証から、引用商標が周知、著名性獲得していることを窺うことができるか否か考察する。 ア 請求人は、甲第12号証を根拠に「請求人会社は、1932年に設立されてから現在に至るまで、UPS及びその関連商品の製造メーカーとして海外及び日本において広く知られる存在となっている。」と主張しているが、何ら具体的な説明はなく、また同号証の出典も不明である。 したがって、同号証のみからは、請求人が外国及び日本において広く知られる存在になっていることを認めることはできない。 イ 甲第14号証及び甲第15号証は「商品力タログ」であるが、同号証の発行年月日、配布地域及び配布数量が不明である。 ウ 甲第16号証及び甲第17号証は、「イタリア国内のクライアントの一覧表」及び「イタリア以外の各国におけるクライアントの一覧表」であるが、当該クライアントと、請求人が周知、著名性を獲得していると主張する引用商標及びUPS及びその関連商品との関係は不明である。 また、当該クライアントについては、最初のinvoiceが送付された日、すなわち、当該クライアントと最初の取引が行なわれた日付けには、本件商標の出願日以降のものが多数含まれており、同号証をもっては、引用商標の本件商標の出願日前からの周知、著名性を認めることはできない。 エ 甲第18号証ないし甲第28号証は、「請求人とクライアントとの代理店契約書の写し」あるいは「請求人とクライアントとのコンサルタント契約書の写し」であるが、当該契約書には何ら商標に関する定めがなく、クライアントがどのような商標を使用しているのか、また、どのような宣伝広告活動を行なっているのかは不明である。 さらに、同号証には、契約の実行日が本件商標の出願日以降のものも含まれている。 したがって、同号証によっては、引用商標が使用されていること及び引用商標が本件商標の登録出願日前からの周知、著名性であったことを認めることはできない。 オ 甲第29号証は、「1997年から2007年の間に、請求人からクライアントに対して発行された請求書の写し」であるが、当該請求書に係る商品が何であるのかは何ら説明がされておらず、請求人が引用商標が周知、著名性を獲得していると主張するUPS及びその関連商品に係るものであるか否か不明である。 また、同号証中には、請求人とは異なる「ETRONICA INDUSTRIALE S.r.l.」の発行に係るものと思われるものも多数存在する。 したがって、同号証によっては、引用商標の周知、著名性を認めることはできない。 カ 甲第30号証は、「上海電気自動車株式会社が中国において請求人を紹介した事実を示す資料」である。 同号証は、本件商標の登録出願日以降である2006年8月に発行されたものである。 したがって、同号証から、本件商標の出願日前の中国における使用を認めることはできず、また、引用商標の周知、著名性を認めることもできない。 キ 甲第31号証は、「請求人の売上げを示す資料」であるが、仮にこれが正しいものであるとしても、2008年の売上げ予想は、円換算しても約27億円程度である。 これは、全世界の売上げを合計したものであるが、この程度の売上額から引用商標の周知、著名性を認めることはできない。 また、請求人が、引用商標が周知、著名性を獲得していると主張するUPS及びその関連商品に係る売上げがどの程度反映されているのかも不明である。 ク 甲第32号証は、「1997年及び1998年のイタリアにおける請求人の市場占有率」であるが、仮にこれが正しいものであるとしても、何の商品に関する市場占有率なのかについては何ら説明がなく、また、請求人が引用商標が周知、著名性を獲得していると主張するUPS及びその関連商品との関係も不明である。 さらに、同号証は、本件商標の出願日から8年も前の時点に関する資料であって、本件商標の出願日当時及びそれ以降においての引用商標の周知、著名性を証する証拠とはならない。 ケ 甲第33号証は、「請求人の広告宣伝に係る費用を示す資料」であるが、費用の額を示す通貨単位は不明であって、どの程度の宣伝広告費用なのかは不明である。 したがって、同号証は、請求人が多額の宣伝費用を費やしていることの証拠にはならない。 コ 甲第34号証ないし甲第36号証は、「請求人と日本のクライアントとの売買契約書、販売店契約書、独占販売代理店契約書の写し」であるが、クライアントが使用する商標については具体的な定めはなく、クライアントが日本においてどのような商標を使用しているのか不明であり、また、クライアントがどのような宣伝広告活動を行なっているのかについても不明である。 したがって、同号証によっては、引用商標の日本における周知、著名性を認めることはできない。 サ 甲第37号証ないし甲第40号証は、「請求人から日本国内の顧客に対して発行された請求書の写し」であるが、これらの請求書は、1996年から2002年の間に発行されたもののみである。 同号証によっては、本件商標の出願日である2006年5月17日以降において、日本において取引かあったのかは不明であるから、本件商標の出願日当時及びそれ以降において引用商標が日本で使用されていたことを認めることはできない。 また、同号証は、どのような商品に係る請求書であるのか不明である。 したがって、同号証によっては、請求人が引用商標が周知、著名性を獲得していると主張するUPS及びその関連商品との関係は不明である。 しかも、同号証は全て、請求人とは異なる「ETRONICA INDUSTRIALE S.r.l.」の発行に係るものと思われる。 したがって、同号証によっては、引用商標の日本における周知、著名性を認めることはできない。 シ 上記のように、請求人の提出する証拠からは、引用商標が、本件商標の出願日前から、外国及び日本において周知、著名であったと認めることはできない。 (2)本件商標が商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号に該当するとの請求人の主張は、全て、引用商標の周知、著名性を前提としている。 しかしながら、上記(1)で述べたように、引用商標には、請求人が主張するような周知、著名性を認めることができない。 したがって、請求人の主張は前提を欠くものである。 (3)まとめ 以上詳述したように、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号の規定に該当するものではないこと明白である。 よって、請求人の主張は理由のないものであるから、本件審判の請求は成り立たない。 4 当審の判断 (1)請求人適格について 請求人が本件審判請求に係る請求人適格を有するか否かについては当事者間に争いがなく、当審も、請求人は本件審判請求について利害関係を有するものと判断するので、以下、本案に入って審理する。 (2)引用商標の周知、著名性について 請求人は、引用商標が外国及び日本国内において広く認識されている旨主張し、その立証証拠として、甲第13号証ないし甲第45号証を提出しているので以下検討する。 ア 甲第13号証は、請求人の説明によれば、請求人のウェブサイトの写しとのことであり、UPSと思しき商品に引用商標2が付されている。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでない。 また、同号証にはドメイン名の表示がないため、請求人のウェブサイトであるか否か確認することができない。 さらに、同号証4頁の「Printed in Italy 03-2008」の表示は、「2008年3月に印刷された」の意味であると解されるところ、2008年3月は、本件商標に係る商標登録出願日以降である。 イ 甲第14号証は、請求人の説明によれば、請求人の商品カタログの写しとのことであり、引用商標1及び2並びに「UPS」の文字が表示されている。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでない。 また、同号証の発行年月日、発行部数、具体的な頒布事実(時期、場所、数量、頒布者等)が一切不明である。 ウ 甲第15号証は、請求人の説明によれば、請求人の商品カタログの写しとのことであり、引用商標1及び3並びに「UPS」の文字が表示されている。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでない。 また、同号証の発行年月日、発行部数、具体的な頒布事実(時期、場所、数量、頒布者等)が一切不明である。 エ 甲第16号証及び甲第17号証は、請求人の説明によれば、イタリア国内又はイタリア以外の各国における請求人のクライアントを示す一覧表の写しとのことであり、これらには、イタリア語、英語等による会社名、住所、国名等が表示されている。 しかしながら、同号証の作成者、作成日が明らかでないばかりでなく、引用商標を使用した商品の具体的な取引数量、取引期間、宣伝広告の事実、引用商標の使用の事実等を示すものは一切ない。 したがって、同号証は、引用商標の周知性に直接関係するものとはいい難い。 オ 甲第18号証ないし甲第28号証は、請求人の説明によれば、請求人とクライアントとの代理店契約書又はコンサルタント契約書の写しとのことであり、頭書部分等に引用商標が散見される。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでない。 仮に、同号証が請求人とクライアントとの正規な契約書であると認められるとしても、引用商標を使用した商品の具体的な取引数量、取引期間、宣伝広告の事実、引用商標の使用の事実等を示すものは一切ない。 したがって、同号証は、引用商標の周知性に直接関係するものとはいい難い。 カ 甲第29号証は、請求人の説明によれば、1997年から2007年の間に請求人からクライアントに対し発行された請求書の写しとのことである。 同号証のうち、請求人が発行したと思われる書面の頭書部分には、引用商標2又は引用商標3が表示されている。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでなく、また、商品等についての個別具体的な説明も一切ない。 その他、同号証には、請求人以外の者が発行したものや、イタリア語による書簡等が多数含まれているが、これらについて具体的な説明は一切なく、請求人との関係を初め、引用商標及び商品との関係が全く不明である。 したがって、同号証は、引用商標の周知、著名性に直接関係するものとはいい難い。 キ 甲第30号証は、請求人の説明によれば、上海電気自動車株式会社が中国において請求人を紹介した事実を示す資料とのことである。 同号証は、中国で発行された中国語による雑誌の抜粋写しであり、引用商標1及び引用商標2並びに「UPS」の文字が表示されている また、下線部には、中国語で、「イタリアの会社BORRIが製造したUPSに係る中国での代理店になるために、我々は多くの特定かつ経験豊富な技術者を有している。」との記載がされている。 しかしながら、引用商標を使用した商品の具体的な取引数量、取引期間、宣伝広告の事実、引用商標の使用の事実等を示すものは一切ない。 したがって、同号証は、引用商標の周知性に直接関係するものとはいい難い。 また、1頁下部欄外に「2006年8月」の表示があることから、同号証の発行日は、2006年8月の意味であると推認されるところ、2006年8月は、本件商標の登録出願日後である。 ク 請求人の説明によれば、甲第31号証は請求人の売上高を示すものであるとのことである。 しかしながら、同号証は、作成者、作成日等が一切明らかでないし、第三者による証明等もなく、客観性に乏しいものである。 また、同号証が当該売上高が、UPS及びその関連商品のみに係るものであるかは明らかでない。 さらに、引用商標の具体的な使用方法、使用態様についても何ら記載がないため、同号証と引用商標との関係が不明である。 ケ 甲第32号証は、請求人の説明によれば、1997年及び1998年のイタリアにおける請求人の市場占有率を示す資料とのことである。 しかしながら、同号証は、作成者、作成日等が一切明らかでないし、第三者による証明等もなく、客観性に乏しいものである。 また、その内容にしても、どの商品に係る市場占有率か何ら説明がない。 さらに、引用商標についての言及は一切なく、同号証と引用商標との関係は不明である。 加えて、1頁及び4頁は、1997年の統計、2頁は、1998年の統計、3頁は、1996年と1997年の統計と認められるところ、1998年の統計でも、本件商標の登録出願日の8年以上前である。 そして、本件商標の登録出願時における市場占有率についての主張及び証拠の提出は、されていない。 コ 甲第34号証ないし甲第36号証は、請求人の説明によれば、請求人と日本のクライアントとの売買契約書、販売店契約書又は独占販売代理店契約書の写しとのことでであり、同号証の頭書部分には、引用商標が散見される。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでなく、また、商品等についての個別具体的な説明も一切ない。 仮に、同号証が請求人とクライアントとの正規な契約書であるとしても、引用商標を使用した商品の具体的な取引数量、取引期間、宣伝広告の事実、引用商標の使用の事実等を示すものは一切ない。 したがって、同号証は、引用商標の周知性に直接関係するものとはいい難い。 サ 甲第37号証ないし甲第40号証は、請求人の説明によれば、請求人から日本国内の顧客に対して発行された請求書の写しとのことであり、同号証の頭書部分には、引用商標3が表示されていることが認められるものの、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでなく、また、商品等についての個別具体的な説明も一切ない。 しかも、これらの書面はいずれも、頭書部分の表示からすると、請求人とは異なる第三者である「ETTRONICA INDUSTRIALE S.r.l.」の発行に係るものと認められ、請求人と上記「ETTRONICA INDUSTRIALE S.r.l.」との関係については、何らの説明もなく、不明である。 シ 甲第41号証は、請求人の主張によれば、ミラノで開催された展示会「ENERMOTIVE」で、2007年2月6日に、請求人が自社の製品を出展した事実を示す資料である。 同号証には、同展示会の写真が掲載されているところ、ディスプレイには、引用商標2が表示されている。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでなく、商品等についての個別具体的な説明も一切ない。 また、2007年2月6日は、本件商標の登録出願日後である。 ス 甲第42号証は、請求人の主張によれば、2007年11月11日から15日までローマで開催された、第20回世界エネルギー会議で、請求人が自己の商品を展示した事実を示す資料である。日本動力協会のウエブサイト(甲第43号証)には、世界エネルギー会議はエネルギーを扱う民間組織であり、約100ケ国・地域が参加しており、3年ごとに開催される世界大会には5000人規模の参加者が出席する旨が記載されている。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでなく、商品等についての個別具体的な説明も一切ない。 また、2007年11月11日は、本件商標の登録出願日後である。 セ 甲第44号証は、請求人の主張によれば、2007年10月2日から5日までカザフスタンで開催された世界石油・ガス見本市(KIOGE)に、請求人が自己の商品を出展した事実示す資料である。 しかしながら、同号証は、全文が英語であることもあって、その内容が必ずしも明らかでなく、商品等についての個別具体的な説明も一切ない。 また、2007年10月2日は、本件商標の登録出願日後である。 ソ 以上からすると、引用商標を使用した商品の売上高、市場占有率、宣伝広告の事実が不明であるばかりでなく、引用商標の使用の期間、地域、規模、宣伝広告等の具体的事実が一切不明であるから、上記証拠によっては、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に外国及び日本国内において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されているものとは認めることができない。 その他、引用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時に外国及び日本国内において取引者・需要者の間に広く認識されているものと認めるに足る証拠はない。 (3)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について ア 商標法は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができず、また、無効理由に該当する旨定めている(同法4条第1項第7号、同法第46条第1項第1号)。 商標法第4条第1項第7号は、本来、商標を構成する「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(標章)それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反する」ような場合に、そのような商標について、登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である(商標の構成に着目した公序良俗違反。)。 ところで、商標法第4条第1項第7号は、上記のような場合ばかりではなく、商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても、商標保護を目的とする商標法の精神にもとり、商品流通社会の秩序を害し、公の秩序又は善良な風俗に反することになるからそのような者から出願された商標について登録による権利を付与しないことを目的として適用される例がなくはない(主体に着目した公序良俗違反。)。 確かに、例えば、外国等で周知著名となった商標等について、その商標の付された商品の主体とはおよそ関係のない第三者が、日本において、無断で商標登録をしたような場合、又は、誰でも自由に使用できる公有ともいうべき状態になっており、特定の者に独占させることが好ましくない商標等について、特定の者が商標登録したような場合に、その出願経緯等の事情いかんによっては、社会通念に照らして著しく妥当性を欠き、国家・社会の利益、すなわち公益を害すると評価し得る場合が全く存在しないとはいえない。 しかし、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、法4条各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。 すなわち、商標法は、商標登録を受けることができない商標について、同第8号で「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定し、同第10号で「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標・・・」と規定し、同第15号で「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標・・・」と規定し、同第19号で「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・」と規定している。商標法のこのような構造を前提とするならば、少なくとも、これらの条項(上記の同法第4条第1項第8号、同第10号、同第15号、同第19号)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については、専ら、当該条項の該当性の有無によって判断すべきであるといえる。 また、当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、同法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。 そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば、出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合(例えば、外国法人が、あらかじめ日本のライセンシーとの契約において、ライセンシーが自ら商標登録出願をしないことや、ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず、そのような措置を怠っていたような場合)は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁平成19年(行ケ)第10392号判決参照)。 以下、上記の観点から、本件を検討する。 イ 請求人は、「被請求人の代表者Brocchi及びその社員のMoriは、請求人の元社員であって引用商標が日本を含めた世界中で知られていることを熟知しており、請求人と被請求人の代表者及び社員との関係からすれば、本件商標と引用商標とが偶然に一致とはいえず、被請求人は引用商標が日本で出願されていないことを利用し、引用商標に化体した信用及び顧客吸引力を利用又は希釈化させる目的(以下「引用商標に化体した信用及び顧客吸引力を利用又は希釈化させる目的」を不正目的という。)で本件商標を出願し登録したものであるから、本件商標は公正な取引秩序を乱し国際信義に反するものである。」旨主張している。 たしかに、被請求人の代表者Brocchi及びその社員のMoriが請求人の元社員であることは、甲第8号証ないし甲第10号証及び甲第45号証によって推認することができる。 したがって、Brocchi及びMoriが、引用商標を知っていたことも推認することができる。 しかしながら、引用商標は秘密にされていたわけではなく、一般需要者であれば誰もが知り得る立場にいたのであるから、被請求人の社員が引用商標を知っていたという事実だけで、本件商標が、不正目的で出願され登録されたということはできない。 しかも、被請求人と被請求人の社員とは別の人格であるから、仮に、被請求人の社員に不正の目的があったとしても、当然に本件商標が、被請求人によって、不正目的で出願され登録されとする根拠とはならない。 さらに、請求人の主張、甲第12号証、甲第31号証及び甲第33号証によれば、請求人は、1932年に設立されたことが認められ、また、請求人は、遅くとも、1993年には、引用商標を使用していたものと推認することができる。 一方、本件商標の登録出願日は、2006年5月17日である。 そうとすれば、請求人は、本件商標が商標登録出願がされる前に、自らすみやかに、引用商標について商標登録出願することが十分可能であったにもかかわらず、我が国への商標登録出願を怠っていたというべきである。 加えて、上記(2)で認定したとおり、引用商標は、登録査定時に引用商標は外国及び日本において周知、著名になっているものとは認められないのであるから、請求人の主張は、前提を欠くというべきである。 以上を総合勘案すれば、この点についての請求人の主張を認めることはできないというべきである。 その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく、特定の国若しくはその国民を侮辱するものともいえない。また、本件商標は、法律によってその使用が禁止されているものではないし、これを使用することが社会公共の利益に反し又は社会の一般的道徳観念に反するものともいえない。 ウ 小括 本件商標は、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれのある商標とはいえないから、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。 (4)本件商標の商標法第4条第1項第8号該当性について ア 請求人は、引用商標1は請求人の名称「Borri S.p.A.」の著名な略称であって周知性を獲得しているものである旨及び被請求人に請求人の略称の使用を許諾していない旨主張している。 しかしながら、上記(2)で認定したとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時に請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されているものとは認められないし、また、請求人の提出に係る証拠を精査してみても、引用商標1が請求人の名称の略称として著名になっている事実を見いだすこともできない。 したがって、この点についての請求人の主張は、認めることはできない。 イ 小括 本件商標は、本件商標は、請求人の名称の一部と一致するものであるとしても、商標法第4条第1項第8号に該当するものではない。 (5)本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について ア 請求人は、「本件商標は日本国内及び外国において周知性を獲得している引用商標と同一又は類似であり、かつ、両商標に係る商品も類似するものである。」旨主張している。 しかしながら、上記(2)で認定したとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時に請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されているものとは認められない。 したがって、この点についての請求人の主張は、認めることはできない。 イ 小括 本件商標は、本件商標は、その指定商品と引用商標に係る商品との類否について検討するまでもなく、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。 (6)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について ア 請求人は、「引用商標が周知性を獲得しており、引用商標には信用や顧客吸引力が形成されているから、引用商標と類似する本件商標をその指定商品に使用すると商品の出所の混同を生じさせることは明らかである。」旨主張している。 しかしながら、上記(2)で認定したとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時に請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されているものとは認められない。 また、請求人は、引用商標が使用されているUPS及びその関連商品と本件商標の指定商品とが類似することは明らかである旨主張するに止まり、当該UPS及びその関連商品と本件商標の指定商品との関係について個別具体的に主張・立証するところがなく、両商品の関連性は必ずしも明らかでない。 そうすると、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者が引用商標を連想、想起するようなことはなく、該商品が請求人又は請求人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 したがって、この点についての請求人の主張は、認めることはできない。 イ 小括 本件商標は、他人の業務と混同を生ずるおそれのある商標ではないから、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。 (7)本件商標の商標法第4条第1項第19号該当性について ア 請求人は、「引用商標が日本国内及び外国において周知、著名性を獲得していること、被請求人はその代表者及び社員の一人が請求人の元社員であり引用商標の周知性を知っていること、本件商標の出願は引用商標が日本で出願されていないことを利用し、引用商標に化体した信用・顧客吸引力にフリーライドしようとする被請求人の図利加害目的に基づくものであること、などから被請求人の行為には不正目的が備わっている。」旨主張している。 しかしながら、上記(2)で認定したとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時に、請求人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における取引者、需要者の間に広く認識されているものとは認められない。 したがって、この点についての請求人の主張は、認めることはできない。 イ 小活 本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標である商標と同一又は類似の商標ではないから、法第4条第1項第19号に該当するものではない。 (8)むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号、同第10号、同第15号及び同第19号のいずれの規定にも違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効にすべき限りでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 (1)引用商標1 (2)引用商標2 (3)引用商標3 |
審理終結日 | 2010-01-22 |
結審通知日 | 2010-01-26 |
審決日 | 2010-02-08 |
出願番号 | 商願2006-44958(T2006-44958) |
審決分類 |
T
1
11・
23-
Y
(Y09)
T 1 11・ 25- Y (Y09) T 1 11・ 271- Y (Y09) T 1 11・ 22- Y (Y09) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 安達 輝幸 |
特許庁審判長 |
井岡 賢一 |
特許庁審判官 |
酒井 福造 榎本 政実 |
登録日 | 2007-01-19 |
登録番号 | 商標登録第5019499号(T5019499) |
商標の称呼 | ボリ、ボッリ |
代理人 | 吉田 親司 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 幡 茂良 |
代理人 | 石川 義雄 |
代理人 | 小出 俊實 |
代理人 | 野田 久登 |
代理人 | 鈴江 武彦 |
代理人 | 橋本 良樹 |
代理人 | 深見 久郎 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 潮崎 宗 |
代理人 | 竹内 耕三 |
代理人 | 森田 俊雄 |