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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y37
管理番号 1218204 
審判番号 無効2009-890113 
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-10-21 
確定日 2010-05-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第4811341号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4811341号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4811341号商標(以下「本件商標」という。)は、「カギの救急隊」の文字を横書してなり、平成16年2月6日に登録出願、第37類「錠前取り付け又は修理」を指定役務として、同年8月23日に登録査定、同年10月22日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録商標は、以下のとおりである。
なお、本件商標の登録出願時及び登録査定時における各引用商標の商標権者は株式会社カギの救急車である。
(1)登録第3213835号商標(以下「引用商標1」という。)は、「カギの救急車」の文字を横書してなり、使用に基づく特例の適用を主張して平成4年9月29日に登録出願、第37類「錠前類の取付け・開錠又は修理,その他の扉廻り・窓廻り金具の取付け・修理又は保守,金庫・ロッカ?の修理又は保守」を指定役務として、特例商標として同8年10月31日に設定登録され、その後、同22年2月2日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
(2)登録第4122331号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲1に示すとおりの構成からなり、平成8年4月5日に登録出願、第37類「錠前類の取付け・開錠又は修理,その他の扉廻り・窓廻り金具の取付け・修理又は保守,金庫・ロッカーの修理又は保守」を指定役務として、同10年3月6日に設定登録され、その後、同22年2月2日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
(3)登録第4681398号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲2に示すとおりの構成からなり、平成13年7月24日に登録出願、第37類「錠前類の取付け又は修理」の指定役務のほか、第6類、第7類、第9類、第17類、第19類、第20類、第35類、第37類、第40類及び第42類に属する商標登録原簿記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同15年6月13日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
(4)登録第4706802号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲3に示すとおりの構成からなり、平成14年4月11日に登録出願、第45類「錠前開け」の指定役務のほか、第4類、第17類、第19類、第20類、第35類及び第45類に属する商標登録原簿記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同15年9月5日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証(枝番号を含む。なお、すべてを引用するときは、枝番号を省略する。)を提出している。
1 請求の理由の要旨
(1)引用商標について
ア 引用商標の使用状況について
引用商標1ないし4は、株式会社九州フキ(後の株式会社カギの救急車)の直営店及びフランチャイズ店によって、平成5年10月から、「錠前類の取付け・開錠又は修理」について使用された。平成17年1月に株式会社カギの救急車が破産するまでは、株式会社カギの救急車の直営店及びフランチャイズ店の事業として使用された。また、株式会社カギの救急車の破産後は、フランチャイズ店が個別の事業として、平成17年6月9日に請求人が設立された後は、請求人の社員が経営する店舗の事業として使用され、今日に至るまで継続して使用されているものである。
イ 引用商標の著名性について
(ア)営業の開始と拡大
株式会社九州フキは、昭和51年(1976年)3月に設立された株式会社であり(甲第13号証の1及び2、甲第16号証の1など)、平成13年(2001年)6月に株式会社カギの救急車に商号変更を行った(甲第13号証の1及び2、甲第16号証の1など)。なお、請求人は、平成17年(2005年)6月に設立された一般法人であり、株式会社カギの救急車の旧フランチャイズ店が集まり、設立された法人である。
株式会社九州フキは、昭和51年(1976年)3月の設立と同時に、「カギの110番」の「錠前類の取付け・開錠又は修理」についてのフランチャイズ店の展開を開始した(甲第13号証の1及び2、甲第8号証の1及び2など)。平成5年(1993年)10月に「カギの救急車」のフランチャイズ店を福岡県久留米市に開店し、フランチャイズ店により「カギの救急車」の「錠前類の取付け・開錠又は修理」についての使用を開始した(甲第13号証の1及び2、甲第8号証の3など)。その後、平成7年(1995年)2月に東京都千代田区九段にて「カギの救急車」の「錠前類の取付け・開錠又は修理」についての使用を開始した(甲第13号証の1及び2、甲第8号証の6ないし9など)。
その後、千葉県松戸市、東京都中央区日本橋、東京都新宿区、愛媛県松山市、東京都渋谷区、東京都上野、東京都町田市、神奈川県横浜市、東京都三鷹市、東京都新橋、大阪府摂津市、東京都池袋、などに「カギの救急車」のフランチャイズ店や直営店が開店した(甲第13号証の1及び2など)。
平成10年(1998年)9月20日時点には「カギの救急車」のフランチャイズ店及び直営店が福岡県3店舗、佐賀県1店舗、熊本県1店舗、東京都11店舗、千葉県5店舗、長野県1店舗、埼玉県2店舗、神奈川県5店舗、大阪府2店舗、京都府1店舗、愛媛県1店舗、高知県1店舗、兵庫県1店舗の合計35店舗存在した(甲第5号証の2)。また、平成11年8月15日時点には、「カギの救急車」のフランチャイズ店及び直営店が福岡県3店舗、佐賀県1店舗、熊本県1店舗、東京都16店舗、千葉県5店舗、埼玉県2店舗、神奈川県5店舗、愛知県1店舗、大阪府10店舗、京都府1店舗、兵庫県2店舗、愛媛県1店舗、高知県1店舗、徳島県1店舗、広島県1店舗の合計51店舗存在した(甲第5号証の1)。
その後も積極的にフランチャイズ店及び直営店の出店を行っていた(甲第15号証の1及び2)。
2003年8月7日時点には、「カギの救急車」のフランチャイズ店が関東・東北・北海道地方(東京管轄)に62店舗、近畿・東海・中国・四国地方(大阪管轄)に43店舗、九州地方(福岡管轄)に15店舗存在し、直営店が九州地方に2店舗存在し、「カギの救急車」のフランチャイズ店及び直営店が合計122店舗存在した(甲第16号証の3)。
また、2004年9月30日調査時点では、直営店6店舗とFC店舗137店舗を有し、フランチャイズ店が「北は北海道から南は沖縄まで広範囲」に広がると記載されている(甲第16号証の1)。
(イ)宣伝広告活動
出店当時より、本件商標の出願時及び登録時に至るまで、株式会社カギの救急車または各フランチャイズ店が主体となって、「カギの救急車」について、新聞広告(甲第5号証の1ないし5)、雑誌記事や雑誌広告(甲第6号証の1ないし20、甲第7号証の1ないし8)、タウンページなどでの広告(甲第8号証の3ないし345、甲第9号証の1ないし35、甲第10号証)、チラシやステッカー、切手・はがき保存袋、バス車内放送、看板及び営業車への表示などによる販売促進活動(甲第11号証の1ないし17、甲第12号証の1ないし21、甲第14号証の1ないし9)、自社のパンフレットなどへの使用(甲第13号証の1ないし8)などにより、積極的な宣伝広告活動を行っていた。
その結果、新聞記事(甲第4号証の1ないし7)や雑誌記事(甲第6号証の1ないし10、12ないし14、16ないし20)に取り上げられるなど、錠前業の営業者として認知されていた。特に2001年ごろに、ピッキングによる空き巣被害が広く問題になった際には、新聞記事(甲第4号証の3ないし7)、雑誌記事(甲第6号証の16ないし20)で取材を受け、紹介されるほど、錠前業の営業者として広く認知されていた。
例えば、平成9年、10年のカギの救急車渋谷店がタウンページヘの広告費用として支払った額は約600万円であり(甲第9号証の1及び2)、平成9年、10年のカギの救急車渋谷店の売り上げがそれぞれ約3400万円、約4500万円である(甲第16号証の4第3頁)。これらのことと、タウンページ以外にも他の広告宣伝媒体も使用していたことを考慮すると、カギの救急車渋谷店は、毎年、売上の少なくとも15%程度を宣伝広告活動に使用していたと推定される。
なお、引用商標1及び3は、主にタウンページ広告やチラシなどの紙媒体に使用され(甲第8号証の1ないし345、甲第12号証の4ないし10、12ないし17)、引用商標2及び4は、主にステッカーや営業車などに使用されていた(甲第12号証の6及び11、甲第13号証の1、甲第14号証の5及び8)。
(ウ)売上
1992年1月ないし12月の株式会社九州フキのグループの売上は約12億円であり(甲第13号証の6)、1997年1月ないし12月の株式会社九州フキの年商は約12億円であり、1996年と1997年の株式会社九州フキのグループの売上はそれぞれ約18億円と約29億円である(甲第6号証の6)。
また、1998年1月ないし12月の株式会社九州フキの売上高は約15億円であり、1999年1月ないし12月の株式会社九州フキの売上高は約17億円であり、2000年1月ないし12月の株式会社九州フキの売上高は約21億円であり、2000年1月ないし12月の株式会社九州フキと全加盟店の合計売上高は約29億円である(甲第6号証の8)。
また、2001年1月ないし12月の株式会社カギの救急車の売上高は約30億円であり、2002年1月ないし12月の株式会社カギの救急車の売上高は約24億円であり、2003年1月ないし12月の株式会社カギの救急車の売上高は約22億円である(甲第16号証の1)。
また、平成15年(2003年)1月ないし9月のフランチャイズ店の売上高の合計は、約28億円であり、年間売上高に換算すると、約37億円となる(甲第16号証の2)。また、「カギの救急車」のフランチャイズ店の合計の売上高は、約1.4億円(1996年)、約3.4億円(1997年)、約6.4億円(1998年)、約12億円(1999年)、約21億円(2000年)である(甲第16号証の4、甲第17号証の2)。
なお、上記のとおり、本件商標の出願時の前年である2003年度のフランチャイズ店の合計の売り上げが37億円であると推定されるため、各フランチャイズ店がカギの救急車渋谷店と同等の割合(約15%)で宣伝広告費に投資をしていると仮定すると、2003年度のカギの救急車のフランチャイズ店による宣伝広告費は、合計で約6億円近くに達することが推測される。
(エ)小括
これらの一連の諸活動を通じて、引用商標1ないし4は、株式会社カギの救急車とそのフランチャイズ店の出所を示すものとして、本件商標の出願時及び設定登録時においてはもとより、現時点においても、需要者の間に強固に根付くにいたっているものである。
(2)商標法第4条第1項第11号の該当性について
ア 称呼の類似について
本件商標は、「カギの救急隊」と横書きしてなり、「カギノキュウキュウタイ」の称呼を生じる。
一方、引用商標1ないし4は、文字部分より「カギノキュウキュウシャ」の称呼を生じる。
両商標の称呼は、9音中及び8音中の7音を共通とし、共通部分は、両商標において語頭部分であり、かつ、アクセントの存する部分であって、差異部分は、「タイ」と「シャ」程度の小さなもので、その印象は薄く、商標全体に与える影響は小さいところから、本件商標の称呼は、全体として引用商標1ないし4の称呼と紛らわしく、互いに聞き誤るおそれがあり、両商標は称呼において類似することは明らかである。
イ 外観の類似について
本件商標と引用商標1の外観は、6文字中、「カギの救急」の5文字が共通し、語尾の「隊」と「車」が異なるのみに過ぎず、時と所を異にして離隔的に観察するときには、取引者、需要者に役務の提供者について誤認、混同を生ぜしめるおそれがあるものと見るのが相当であり、両商標は外観において類似することは明らかである。
ウ 観念の類似について
救急隊について、「救急隊とは、救急業務を行うために必要な救急自動車ならびに器具を装備した消防吏員の一隊をいう。」(甲第3号証の3)や、「救急隊は、救急自動車1台及び救急隊員3人以上をもって編成する。」(甲第3号証)2という記載がある。
一方、救急車とは、「応急の医療器具・薬品などを備え、急病人や事故によるけが人などを早急に医療機関に運ぶ自動車。消防署に配置されている。」(甲第3号証の1(大辞林第二版))との記載がある。
一般的な生活においても、「救急車を呼ぶ」ことは、自動車そのものを必要とすることを意味せず、実際には「救急隊」を呼ぶことに他ならない。
よって、本件商標からは、「不具合を起こしたカギの現場に駆けつけ、不具合を起こしたカギに対して適切な処置を行う者」との観念を生じ、引用商標1ないし4からも同様の観念を生じることから、両商標は観念において類似することは明らかである。
エ 役務の同一について
本件商標の指定役務は、「錠前取り付け又は修理」であり、各引用商標の指定役務の一部である「錠前類の取付け・開錠又は修理」(引用商標1、2)、「錠前類の取付け又は修理」(引用商標3)、「錠前開け」(引用商標4)と同一または類似の役務である。
オ 出所の混同について
本件商標及び引用商標1ないし4が使用される対象役務は、「錠前類の取付け・開錠又は修理」であり、鍵を有するあらゆる需要者層の人を提供対象者とするものであって、十分な商品知識を有する者が需要者となるものではなく、商標に対して払われる注意力も決して高いものではない。また、対象役務は、一人の需要者が頻繁に繰り返して利用する役務ではないため、前回利用した役務の提供者が不明りょうになった後に、次回の役務の提供を受けることとなる。
したがって、商標類否の判断においても、称呼、外観、観念のうち、いずれか一つが類似していれば、基本的に商標は類似していると判断されるべき役務であるといえる。
そして、引用商標1ないし4が、「錠前類の取付け・開錠又は修理」に使用する商標として圧倒的な知名度を有することを勘案した場合には、需要者は、その役務の提供者の選択に当たって、「カギの救急」の部分に着目し、「カギの救急車」と「カギの救急隊」の語尾の「車」と「隊」を明確に区別することはないことが容易に予測される。
カ 小括
以上のとおり、本件商標は、称呼、外観、観念のいずれの点においても引用商標と類似しており、これに加えて、取引の実情に基づいて総合的に考察した場合においても、引用商標1ないし4と出所の誤認混同を生ずることが明らかであり、本件商標と引用商標1ないし4は類似の商標であることは明らかである。
また、本件商標と引用商標1ないし4の役務は同一または類似である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しており、その登録は無効とされるべきである。
(3)第4条第1項第10号について
前述したとおり、株式会社カギの救急車が使用していた引用商標1ないし4は、本件商標の出願時(平成16年2月6日)及び設定登録時(平成16年10月22日)において、株式会社カギの救急車及びそのフランチャイズ店の役務「錠前類の取付け・関錠又は修理」を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標となっていた(甲第4号証の1ないし甲第17号証の2)。
本件商標は、株式会社カギの救急車の業務に係る役務を表示するものとして受領者の間に広く認識されている引用商標1ないし4に類似する商標であって、その役務について使用するものである(甲第1号証)。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しており、その登録は無効とされるべきである。
(4)第4条第1項第15号について
前述したとおり、引用商標1ないし4は、いずれも、株式会社カギの救急車及びそのフランチャイズ店の出所を示すものとして、本件商標の出願時及び設定登録時において、著名商標となっていたものである(甲第4号証の1ないし甲第17号証の2)。
また、本件商標と引用商標1ないし4は、相互に類似しているものであって、これらの商標は、「錠前取り付け又は修理」又は「錠前類の取付け・開錠又は修理」に使用されるものであるから、実質的に見て同一の役務に使用されるものである(甲第1号証及び甲第2号証の1ないし甲第2号証の4)。
そして、本件商標は、株式会社カギの救急車(当時の株式会社九州フキ)が考案した引用商標1ないし4を模倣したものに過ぎず、両商標がここまで一致しているということは、被請求人において、株式会社カギの救急車が使用している商標の模倣の意図、換言すれば、株式会社カギの救急車の信用にただ乗りせんとする明確な意図を示すものに他ならないものである。
また、現在、インターネットや電話帳に「カギの救急隊」が記載されているが、「カギの救急車」を検索した際に「カギの救急隊」がヒットすることも、番号案内において「カギの救急車」と間違えて「カギの救急隊」が案内されることもあり、現実に「カギの救急車」と「カギの救急隊」は混同を生じている。
したがって、本件商標は、引用商標1ないし4との間で出所の混同を生じる商標であることが明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しており、その登録は無効とされるべきである。
(5)第4条第1項第19号について
上記のとおり、引用商標1ないし4は、いずれも、株式会社カギの救急車及びそのフランチャイズ店の出所を示すものとして、本件商標の出願時及び設定登録時において、著名商標となっていたものである(甲第4号証の1ないし甲第17号証の2)。
また、「カギの救急車」は、錠前業界において一般的に使用される言葉ではなく、株式会社九州フキが始めて使用を開始した言葉である。「カギの救急車」は、株式会社九州フキの造語よりなるものである。
よって、著名であって造語よりなる引用商標1ないし4と極めて類似する本件商標を出願する被請求人の行為には、不正の目的が推認される。
したがって、本件商標は、本件商標の出願時及び設定登録時において、株式会社カギの救急車の業務に係る役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されていた引用商標1ないし4と類似する商標であって、かつ不正の目的を持って使用をするものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しており、その登録は無効とされるべきである。
2 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第11号若しくは同第15号又は同第19号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により、無効とすべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、前記第3の請求人の主張に対し何ら答弁するところがない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)引用使用標章の著名性について
甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
ア 株式会社カギの救急車の事業規模の拡大等について
株式会社九州フキは、昭和51(1976)年3月に合鍵材料メーカー(株)フキ(江戸川区)の代理店として福岡市に設立され、鍵と錠、その関連商品の卸し販売を開始するとともに、鍵と錠を中心としたセキュリティ専門店のフランャイズ(以下、「FC」という。)展開を九州地区において「カギの110番」の名称で業務を開始した。
そして、平成5(1993)年10月には、前記店舗名称に加え「カギの救急車」の名称でもFC展開を行うようになった。
平成7(1995)年1月に、首都圏進出のため、千代田区九段に東京営業所を開設するとともに、「カギの救急車」FC東京本部を設置した。同年2月同所で「カギの救急車」直営店の営業を開始した。同年3月「カギの救急車」の名称を使用した業務委託による錠前の取り付け、開錠などの営業を開始した。同年4月、松戸市に首都圏地区「カギの救急車」FC1号店が営業を開始し、その後首都圏地区をはじめ次々にFC店を展開させた。
関西においては、平成9(1997)年3月、摂津市に関西地区「カギの救急車」FC1号店が営業を開始した。平成11(1999)年1月、大阪市中央区に「カギの救急車」FC大阪本部を設置した。(甲第6号証、甲第13号証及び甲第17号証)
平成13(2001)年6月1日に、株式会社九州フキは、株式会社カギの救急車に商号を変更した(以下、株式会社九州フキの名称を使用していた時代を含め「株式会社カギの救急車」という場合がある。)。同年12月期の同社の売上は、過去最高額の約30億円であった(甲第16号証の1)。
平成15(2003)年8月7日現在、「カギの救急車」FC加盟店は、北海道地方8店、東北地方5店、関東地方57店、中部地方6店、近畿地方35店、中国地方5店、四国地方3店、九州地方11店の130店舗が存在し、さらに「カギの救急車」直営店が九州地方に2店存在し、「カギの救急車」FC加盟店及び直営店は、北は北海道から南は沖縄まで日本全国にわたっており、その合計数は132店舗となっている(甲第16号証の3)。
その後、株式会社カギの救急車は、「カギの救急車」FC加盟店数を増加させているが、平成14(2002)年12月期以降の収益がFC出店数の落ち込みや既存店の売上減などにより減益傾向となり、平成17(2005)年1月7日に自己破産を申請をするにいたった。
また、請求人である「一般社団法人カギの110番・カギの救急車」は、平成17年6月9日に設立され、その後は、請求人の社員が経営する店舗の事業において引用商標1ないし4は使用され、今日に至るまで継続して使用されていると述べている。
なお、株式会社九州フキの主な事業内容は、(a)「カギの救急車」及び「カギの110番」のFC本部としてFC店の募集及びFC店の指導、管理 (b)カギと錠を中心としたセキュリティ専門店づくりのためのノウハウ提供から技術指導及び店舗づくり、営業の指導 (c)業務委託者によるカギと錠を中心としたセキュリティ全般の工事、メンテナンス (d)カギと錠を中心としたセキュリティ専門店(直営)の展開 (e)合カギ複製機、キーブランク(合カギ用元カギ)、アァッションキー、キーホルダー、各種錠前等カギと錠関連商品の卸し (f)販売ドアクローザー、丁番等ドア、窓まわりの金具関連商品の卸し販売などである(甲第13号証の1)。
FC店の主な事業内容は、カギと錠を中心としたセキュリティ事業であり、(a)カギと錠の製作、取付、取替え、修理メンテナンス及びこれに関連する業務 (b)車、金庫、ロッカー、ドア、カバン等の開錠及びカギなし製作業務 (c)セキュリティシステム(防犯システム、監視カメラシステムなどを含む。)、の設計、設置、修理、メンテナンス及びこれに関する業務 (d)ビル、マンション、一般住宅のドア、窓廻り金具を中心とした営繕工事、メンテナンス及びこれに関する業務 (e)パーキングメーター(パークロック)、パーキングゲートの設置、点検、修理、メンテナンス及びこれに関する業務 (f)万引防止器の設置及びこれに関する業務 (g)その他上記に関連する業務及び事業主が指示する業務である(甲第13号証の6)。
イ 引用使用標章の使用状況について
(ア)新聞記事について
株式会社カギの救急車は、平成5(1993)年10月に「カギの救急車」の名称でFC展開を開始した。これ以降、株式会社カギの救急車の主催する直営店はもとより、FC店全体の名称、又は各FC店の名称などとして「カギの救急車」の標章が使用され、また直営店、FC店又は業務受託者の提供する錠前の取り付け、開錠などの役務の提供について「カギの救急車」の標章を使用している(以下、これらの使用及び株式会社カギの救急車の略称を「引用使用標章」という場合がある。)。
そして、マスコミが取り上げる場合にも「カギの救急車」の標章を使用して報道している。
1994(平成6)年9月17日付け「日刊工業新聞」には、「東京で価格破壊」の見出しのもと「九州フキ 来年3月に営業所開設 /【福岡】九州・山口地区を拠点にチェーン展開している“カギ屋さん”が、東京23区で価格破壊に挑む。 /・・・都内23区では今後3年間で50人(店)を目標に下請け業者を養成、『カギの救急車』の統一名称で事業を進める。」と事業開始前にその紹介記事が掲載され、同年10月13日付け「日本流通産業新聞」にも「『カギの110番』『カギの救急車』の九州フキ /『未来“扉”開くかカギビジネス』」の見出しのもと同様の記事が掲載されている(甲第4号証の1及び2)。
2001(平成13)年1月12日付け「西日本新聞」には、「かぎ販売・修理の九州フキは、耳かき状の金属棒でカギを開ける『ピッキング』を防止する新製品『カギの救急車アトライズ』の販売を始めた。・・・全国の『カギの110番』『カギの救急車』チェーンで販売。」との記事が掲載され、同年同月13日付け「スポーツ報知」には、「カギの救急車『アトライズ』ピッキング被害をシャットアウト!」の見出しのもと同様の記事が掲載されている(甲第4号証の3及び4)。
2001(平成13)年2月18日付け「ガラス・建装時報」には、「カギ販売チェーン店 防犯ガラス販売」の見出しのもと、「『カギの救急車』『カギの110番』を全国展開する九州フキ(省略)は、米ソルーシア社の防犯ガラス(省略)を扱い品目に加え、2月中旬から全国127拠点で販売を開始する。 /・・・身近な店頭で購入できる、全国展開する『カギの救急車』『カギの110番』の店頭で簡単に見積もりを取ることができ、短期間で施工まで行える。」との記事が掲載されている(甲第4号証の5)。
2001(平成13)年3月4日付け「日本経済新聞」には、「エコの探偵団 ピッキング被害なぜ急拡大?」の見出しのもと、「“カギの救急車”などのチェーン店を持つ九州フキ(福岡市)東京本部技術担当部長」が取材協力した旨の記事が掲載され、2002(平成14)年9月4日付け「読売新聞」には、「ピッキング盗急増」の見出しのもと、和歌山市の鍵修理販売店「カギの救急車」が取材協力した旨の記事が掲載されている(甲第4号証の6及び7)。
(イ)雑誌掲載について
「日経ビジネス」日経BP社発行(2002年9月9日)、「日経YOU TURN」日経事業出版社発行(1999年春号・同夏号及び2000年春号)、「ふくおか経済」株式会社地域情報センター発行(1998年11月号・1999年2月号・1999年11月号及び2001年7月号)、「財界」財界研究所発行(平成10年10月13日)、「独立倶楽部2」晋遊舎発行(1998年9月)、「月刊ビジネスチャンス」ビジネスチャンス社発行(1999年3月号)、「FORNET」フォーネット社発行(平成13年1月1日)、「月刊フランチャイズ」アサヒ出版社発行(平成11年7月11日)、「フランジャ 1月号別冊」トーチ出版発行(2002年1月15日)、「ベーネベーネ 創刊号」オレンジページ社発行(2001年7月7日)、「ダイヤモンドZAi」ダイヤモンド社発行(平成13年9月1日)、「GoodsPress」徳間書店発行(平成13年7月10日)、「ベストギア」徳間書店発行(平成13年11月20日)及び「自分を守る110番 防犯グッズ&マニュアル」ワールドフォトプレス発行(平成9年8月20日)の各雑誌のいずれにも「カギの救急車」に関する記事が掲載されている(甲第6号証の1ないし19)。
(ウ)宣伝広告活動
(a)新聞広告
株式会社カギの救急車が1998(平成10)年9月20日付け及び1999(平成11)年8月15日付け朝日新聞に「カギの救急車」の標章とともに事業広告及びFC加盟店募集の広告を掲載し、FC名古屋今池店が2000(平成12)年3月8日付け「中日新聞」(夕刊)、同年3月17日付け「名古屋タイムズ」及び同年4月3日付け「中日スポーツ」の各紙に「カギの救急車」の標章に「今池」の文字を加えて広告を掲載していることが認められる(甲第5号証)。
(b)情報誌広告
2000年から2003年ころにかけて、情報誌「ぱど」にFC名古屋今池店及びFC横須賀中央駅前店が「カギの救急車」の標章に「今池」又は「横須賀中央駅前」の文字を加えて広告を掲載している(甲第7号証)。
(c)電話帳広告
1993(平成5)年6月から2005(平成17)年11月まで、NTT電話帳の職業別タウンページに、「カギの救急車」の標章が単独又はFCの店名を加えて、地域別に、広告を掲載している(甲第8号証ないし甲第10号証)。
(d)パンフレット
株式会社カギの救急車は、「カギの救急車」のチェーン店を募集し、カギと錠を中心としたセキュリティ事業を展開するため、「カギの救急車」の標章を掲載した「CORPORATE PROFILE」、「『カギの救急車』『カギの110番』チェーン店募集」、「PROFILE 会社案内」、「安心・安全おとどけします。/カギの救急車 カギの110番/セキュリティガイド」、「セルフディフェンスガイド」など各種パンフレットを作成、配布してきた(甲第13号証)。
(e)テレビコマーシャル
1997(平成9)年9月から2年間、関東地方を対象に「カギの救急車」の標章を使用したテレビコマーシャルをTBS、テレビ朝日で毎日放映した(甲第13号証の3、甲第17号証の1)。
(f)チラシ・ステッカー
「カギの救急車」の標章を掲載したチラシ、ステッカーの作成、配布もしている(甲第12号証、甲第14号証の8)。
(g)その他車両、道路脇の立看板、店舗入り口の看板、切手・はがき保存袋などへの広告
各店舗では、出張サービス用の車両を配備しているが、その車両正面上部、各側面には「カギの救急車」の標章が目立つように表示されている。各店舗正面入り口上部には「カギの救急車」の標章にFCの地域店名を加えた看板を掲げているほか、各店舗入り口付近には「カギの救急車」の標章を表したスタンド型看板を置いている(甲第13号証、甲第14号証の7)。
川口市役所前通店では、「カギの救急車」の標章にFCの店名を加えた文字を、店補近くの交差点手前の道路脇に立看板に表して設置したり、郵便はがき・切手保存袋に印刷して広告を行っていることが認められる。また、横須賀中央駅前店も郵便はがき・切手保存袋を利用した広告を行っている(甲第11号証)。
ウ 小活
以上のとおり、株式会社カギの救急車が使用する「カギの救急車」の標章は、平成5(1993)年10月から本件商標の登録査定時に至るまで、同社の直営店及び各FC店により「錠前類の取付け・開錠又は修理,その他の扉廻り・窓廻り金具の取付け・修理又は保守,金庫・ロッカ?の修理又は保守」の役務に使用(甲第13号証の6)されると同時に、同社の略称として、さらには自ら主催するフランチャイズチェーンのグループ名称として、事業の拡大とともに新聞、情報誌、電話帳、パンフレット、チラシ、テレビ、車両及び看板などの媒体を通じて、長期間かつ多量の宣伝広告がなされてきており、また、その事業に関して度々マスコミにも取り上げられ、「カギの救急車」の標章をもって報道されていることが認められるから、カギ及び錠に関する業務を取り扱う業界において、遅くとも本件商標の登録出願前には全国的に広く知られていたと認められるものであって、その著名性は登録査定がなされた当時まで継続していたといって差し支えないものである。
(2)本件商標と引用使用標章との出所の混同のおそれについて
ア 標章の類似性について
本件商標は、「カギの救急隊」の文字を横書した構成からなり、その構成文字に相応して「カギノキュウキュウタイ」の称呼を生じるものである。
そして、その構成中後半の「救急隊」の文字は、インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」によれば、「救急隊とは、消防吏員の中で救急現場に駆けつけ傷病者に対して適切な処置を行い速やかに救急車で病院へ搬送する部隊のこと。」と記載されているものであるが、本件商標にあっては、前半の「カギの」の文字との関係で、全体として、「応急処置を必要とするカギの事故に対応できるカギの専門家などの人的要素及び同事故に対応できる資材や機器などを装備して出動できる自動車などの物的な要素からなる組織」という程の意味合いを想起、連想させるものというのが相当であるから、本件商標より「カギの事故の応急処置ができる人的及び物的な組織」ほどの観念を生じるものである。
他方、引用使用標章は、「カギの救急車」の文字を横書した構成からなり、その構成文字に相応じて「カギノキュウキュウシャ」の称呼を生じるものである。
そして、その構成中後半の「救急車」の文字は、インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」によれば、「救急車は、傷病者を医療機関等へ搬送するための車両である。」と記載されているものであるが、引用使用標章にあっては、前半の「カギの」の文字との関係で、全体として、「カギの事故の応急処置ができる資材や機器などを装備している自動車」という程の意味合いを想起、連想させるものというのが相当であるから、引用使用標章より「カギの事故の応急処置ができる資材や機器などを装備している自動車」ほどの観念を生じるものである。
そこで、本件商標と引用使用標章の外観を比較すると、いずれも6文字よりなり、そのうち識別上重要な位置を占める冒頭より5文字目までの「カギの救急」を共通にしており、その差はわずかに語尾における漢字1文字「隊」と「車」との差異にすぎないものであるから、両者は、外観に上において、互いに相紛らわしいものである。
次に、本件商標より生ずる称呼「カギノキュウキュウタイ」と引用使用標章より生ずる称呼「カギノキュウキュウシャ」とを比較すると、識別上重要な位置を占める冒頭より7音までの「カギノキュウキュウ」の構成音を共通にしており、その差は比較的弱く称呼され聴取しにくい語尾において「タイ」と「シャ」の音の差異にすぎないものであるから、これらの音を一連に称呼するときは、両者は、称呼上において、互いに相紛らわしいものである。
さらに、本件商標より生ずる観念「カギの事故の応急処置ができる人的及び物的な組織」と引用使用標章より生ずる観念「カギの事故の応急処置ができる資材や機器を装備した自動車」とを比較すると、引用使用標章より生ずる観念は本件商標より生ずる観念のうちの「物的な組織」に包含されるものであるから、両者は、観念上において、近似した印象を想起、連想させるものであり、互いに相紛らわしいものである。
そうすると、本件商標と引用使用標章とは、外観、称呼、観念のいずれの点からしても互いに相紛らわしい標章というべきものである。
イ 使用役務の類似性について
本件商標は、「錠前取り付け又は修理」の役務に使用するものであるのに対し、引用使用標章は、上記(1)ウのとおり、「錠前類の取付け・開錠又は修理,その他の扉廻り・窓廻り金具の取付け・修理又は保守,金庫・ロッカ?の修理又は保守」などの役務に使用されるものである。
したがって、本件商標と引用使用標章との使用に係る役務は、「錠前取り付け又は修理」において同一又は類似するものである。
ウ 出所の混同のおそれについて
本件商標は、上記(1)ウのとおり、その登録出願及び登録査定当時、引用使用標章が株式会社カギの救急車及びそのFC店を表す著名な標章であるとともに、同社らが「錠前類の取付け・開錠又は修理」などについて使用する著名な標章であったこと、上記ア及びイのとおり、引用使用標章とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からしても互いに相紛らわしい類似の標章であり、本件商標の使用に係る役務が引用使用標章の使用に係る役務と同一又は類似するものであること、そして、これら役務の需要者は通常の注意力をもって取引に当たる一般の人々であることなどを併せ考慮すると、商標権者が本件商標をその指定役務に使用するときは、取引者、需要者において、その役務が引用使用標章の使用者又はこれと経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるというのが相当である。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものである。
2 結論
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その余の請求人の主張について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(引用商標2)

(色彩については原本参照)

別掲2(引用商標3)


別掲3(引用商標4)

(色彩については原本参照)


審理終結日 2010-03-12 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 商願2004-14997(T2004-14997) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Y37)
最終処分 成立  
前審関与審査官 阿曾 裕樹高橋 厚子 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 井出 英一郎
鈴木 修
登録日 2004-10-22 
登録番号 商標登録第4811341号(T4811341) 
商標の称呼 カギノキューキュータイ、キューキュータイ 
代理人 井上 誠一 

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