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審決分類 審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Y14
管理番号 1216390 
審判番号 無効2007-890062 
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-05-16 
確定日 2010-04-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4962301号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1.本件商標
本件登録第4962301号商標(以下「本件商標」という。)は、「GABOR」の文字を標準文字で表示してなり、平成16年8月4日に登録出願され、第14類「貴金属,キーホルダー,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振り出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製針箱,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製宝石箱,貴金属製の花瓶及び水盤,記念カップ,記念たて,身飾品,宝玉及びその原石ならびに宝玉の模造品,貴金属製コンパクト,時計,貴金属製喫煙用具」、第18類「かばん金具,がま口口金,愛玩動物用被服類,携帯用化粧道具入れ」及び第25類「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,仮装用衣服」を指定商品として、同18年6月16日に設定登録されたものである。

第2.請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中、第14類『身飾品』についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第16号証(枝番を含む)を提出している〔なお、第2弁駁書に添付された甲第12号証の死亡証明書写し及び甲第12号証の1の死亡証明書訳文は、重複しており、また、甲第第13号証ないし甲第16号証(枝番を含む)は、弁駁書(第1)に添付したものと異なる証拠が提出されている。〕。
1.請求の理由
(1)請求の利益について
請求人は、商品「シルバーアクセサリー」に商標「GABOR」を使用していたところ、被請求人から本件商標(甲第1号証)に基づき、商標権侵害の警告書を受けたので、本件審判請求をするについて利害関係を有する。
(2)無効理由について、
本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その指定商品又はこれに類似する商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであり同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
(3)審判請求人の商標
審判請求人は、アメリカ合衆国ネバダ州89703カーソンシティスイート3、ジーンネル デイー アール.,251所在、ガボラトリー インターナショナル インク所有であった、
(ア)商標「GABOR」
2001年6月13日出願、2003年3月11日登録、アメリカ合衆国商標登録第2,695,716号、指定商品 第14類(U.S.国内分類2,27,28及び50)銀、ゴシックスタイルの宝飾類、即ちブレスレット、チェーン、チョーカース及びリング(甲第2号証及び第2号証の1)
(イ)「GABORATORY」
2001年5月29日出願、2006年1月10日登録、アメリカ合衆国商標登録第3,039,819号、指定商品第14類(U.S.国内分類2,27,28及び50)銀、ゴシックスタイルの宝飾類、即ちブレスレット、チェーン、チョーカース及びリング(甲第3号証及び第3号証の1)
(ウ)「GABORATORY INTERNATIONAL」
2001年7月30日出願、2006年1月10日登録、アメリカ合衆国商標登録第3,039,823号、指定商品 第14類(U.S.国内分類2,27,28及び50)銀、ゴシックスタイルの宝飾類、即ちブレスレット、チェーン、チョーカース及びリング(甲第4号証及び第4号証の1)
の3件の商標権(以下「請求人商標」という。)を、ガボラトリー インターナショナル インクから審判請求人である、シーディーエム エクスチェンジ カンパニーが譲渡を受けた(2006年1月10日アメリカ合衆国特許庁登録済甲第2号証ないし4号証)ので、アメリカ合衆国では商標権者となった。
請求人は、かねてよりアメリカの商標権者ガボラトリー インターナショナル インクより3件の請求人商標の日本における商標使用権及び販売権を獲得し、(甲第5号証及び第5号証の1)積極的に上記商標を周知させ、商品を販売した。
(4)日本における商標権者マリア・ナギーについて
雑誌「ASAYAN」増刊 2002VOL.1 最新ワイルドシルバー読本(甲第6号証)の26頁の上段の記事(甲第6号証の1)の「ガボラトリー・インターナショナルの真実」の記事から判るように、ガボールナギーの妻であった日本の商標権者マリアナギーに関する記述がある、即ち、「ガボールが死んで、そのブランドについての権利みたいなものの所有者が明白なかたちで存在しなくなってしまったのは事実だ、そして、マリアがたしかにガボールの奥さんだということも真実だけど、「ガボール」という「ブランドについてのビジネス」には、マリアは全くの素人なんだよ、そして今、このブランドに関して最も近い存在にいるのはスティーブのほかにはいないんだ」と、ガボールの妻マリアナギーはビジネスには直接関与していなかった事実を示唆し、さらにこう付け加えた。
「その昔、スティーブはバイクに乗ってて大事故を起こしたんだ。そんな瀕死の状態だった彼の命を救ったのがガボールだったんだよ、その恩に感謝して、ステイーブはガボールの仕事を手伝うようになったんだよ。そして、職人として腕を磨いてきた、その努力に、ガボールも彼のことをパートナーとして、いや、それ以上の存在として認めたよ」との記載の通り、審判請求人は本件商標の出願前に「GABOR」は、アメリカの「GABOR」の商標権者「ガボラトリー・インターナショナル」が、「故・ガボールの遺志を受け継ぐ正真正銘の職人衆は彼らしかいない」の記述の通り、日本においても「ガボラトリー・インターナショナル」が、商標「GABOR」を広く知らせたものである。
更に、情報誌、雑誌「ASAYAN」増刊 2002VOL.1 最新ワイルドシルバー読本において「ガボラトリー・インターナショナル」の案内広告が甲第6号証ないし甲第10号証(枝番を含む)に掲載されてる。
(5)本件商標の取得の経緯
本件商標は、ガボール事業の継承者であるGABOR INTERNATIONALにより出願前に日本において広く知らしめた商標を、故ガボールの妻であったというだけの理由で出願人が相続人と認定され、商標権を取得したものである。
ガボール・ナギーと筆頭株主パスカル・ザザが設立したアメリカ合衆国法人ガボラトリー インクは、ガボール・ナギーの死後、妻のマリア・ナギーが役員として会社の運営に参加致しました。
マリア・ナギーは販売利益を会社を通さずに私し、また販売担当重役ピーター・ストハノフも商品を横流しして私服を肥やし、両者は会社の経理内容を筆頭株主たるパスカル・ザザに知らせず会社に損害を与えた。
パスカル・ザザは、マリア・ナギーとピーター・ストハノフを背任横領と詐欺の容疑で告発した(甲第11号証及び11号証の1)。
ガボラトリー インターナショナル インクの創立者、スティーブガーラックは、ガボラトリー インクでガボール・ナギーのパートナーとして働いていた人物で、ガボール・ナギーから3件の請求人商標を受け継いだ。アメリカ合衆国特許庁に商標登録出願し、3件の請求人商標の商標権を取得した。マリア・ナギーの異議申立は却下され商標権者として確定された。
ガボール インク ユー・エス・エーの筆頭株主である、シーディーエム エクスチェンジはガボラトリー インターナショナル インクから、日本及びアジア全域に亘る3件の請求人商標の使用、商品の製造・販売の独占権を取得した。(甲第5号及び5号証の1)
その後、ガボラトリー インクとガボラトリー インターナショナルインクは商標権の帰属について争い、ガボラトリー インターナショナル インクの一部役員・株主との訴訟上の和解が成立し、和解契約書には空白の商標権の譲渡証が添付されてエスクローに預託された。
和解契約書には、ガボラトリー インターナショナル インクのアメリカの3件の請求人商標は、前記パスカル・ザザが告発したマリア・ナギーとピーター・ストハノフの背任横領と詐欺の容疑の判決の結果によって、空白の商標権の譲渡証の譲受人名義欄をパスカル・ザザにするかマリア・ナギーにするか他の会社名にするとの条項があった。
従って、アメリカにおいては、マリア・ナギーは単に亡夫ガボール・ナギーの妻としての相続人であり、3件の請求人商標の事業の相続人ではない。
日本及びアジア全域に亘る商標の使用、製造販売の独占権を取得したシーディーエム エクスチェンジは、積極的に日本国内に「GABOR」「GABORATORY」「GABORATORY NIERNATIONAL」の請求人商標を付したガボール インク ユーエスエー社製造の商品を展開して広く周知させた。
(6)商標法第4条1項10号について
所謂商標の周知させた者とは「継続的使用により獲得出来るものであるが、その間の使用者は必ずしも同一のものでなくとも、当該商品又は役務に係る業務の承継があった場合には承継した者が本号の他人に該当し、周知の獲得は当業者の承継者にも認められている」と解されている。
シーディーエム エクスチェンジは、日本において3件の請求人商標を周知せしめたもので、これら3件の商標のアメリカにおける商標権者でもあるので名実共に「GABOR」商標関連事業の真の承継人である。
従って、シーディーエム エクスチェンジは、商標の不登録事由を定める商標法第4条1項10号違反であるとして、マリア・ナギーの本件商標に対し登録無効審判を請求するものである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当し、同法第46条1項1号により無効にすべきものである。
2.弁駁の理由
被請求人の答弁書について以下のように弁駁する。
(1)本件商標は、死亡証明書(甲第12号証及び12号証の1)に示すように、慢性アルコール中毒による肝硬変が急速に悪化していたガボール・ナギーは長くないことを悟り、1998年スティーブ・ガーラックに「GABOR」の名前、マスターピース(原型)、鋳型、職人達等全てを引き継ぐよう遺言(甲第13号証及び13号証の1,2)を残した。
翌1999年1月16日心不全でガボール・ナギーが死亡した後、ガボラトリー・インクは閉鎖された。
「GABOR」の名前、マスターピース(原型)、鋳型、職人達(職人達の詳細に関しては甲第14号証及び14号証の1を参照)を引き継いだステイーブ・ガーラックが、ガボラトリー・インターナショナル・インク(甲第10号証及び10号証の1)を2001年5月29日に設立し、米国特許庁に3件の商標を出願(甲第2号証?4号証)した。
実行日2003年8月24日付けで上記3件の商標(甲第2号証?4号証、その翻訳甲第2号証の1、3号証の1、4号証の1)は、審判請求人に譲渡され米国特許庁に登録された。また、マスターピース(原型)、鋳型についても、ガボラトリー・インターナショナル・インクから審判請求人が譲り受けた(甲第15号証)。
本件商標権者であるマリア・ナギーは1999年ガボール・ナギーの死後4年経った2003年に閉鎖していた工房(甲第16号証Free&Easy雑誌表紙コピー、16号証の1奥付コピー、16号証の2記事コピー)を再開した。
商標権は、2003年8月24日に審判請求人に譲渡済ではあるが、その後2004年8月に、ガボラトリー・インクを当事者の一方とし、ガボラトリー・インターナショナル・インクとアドバンスト・コンストラクション・マネージメント・インクを他方の当事者として、既に審判請求人に譲渡済である3件の商標について極秘和解契約書(乙第12号及び12号証の訳文)が契約された。
契約書の添付に商標譲渡証書があるが、その譲受人については、マリア・ナギーとパスカル・ザザの間で譲渡を受ける権利を有する個人または企業体について争いが生じた。
商標権の譲受人は、両者の合意によって、または管轄権のある裁判所の命令、あるいは仲裁人の裁定によって解決されるまで、譲受人は白紙のまま(乙第12号及び12号証の訳文の極秘和解契約書に添付された譲渡書参照)第三者預託代理人が保管することに合意したが、和解契約書は未だ実行されていない。
マスターピース(原型)、鋳型についても、既にガボラトリー・インターナショナル・インクから審判請求人が譲り受け済(甲第15号証)であり、和解契約書中「9.(プレス加工用の)金型、宝飾品、およびアクセサリーの引渡し。」も未だ実行されていない現状で、ガボラトリー・インク及びマリア・ナギーは現在までどの様にして製品を生産し、販売して来たのであろうか。
(2)上記のように、ガボラトリー・インターナショナル・インクはガボール・ナギーよりシルバー・アクセサリー事業を引継ぎ、それまで使用していた3件の商標を米国特許庁に初めて出願し、ガボラトリー・インクの異議申し立てを排除しながら商標権を取得し、この3件の商標を「極秘和解契約書締結以前」に、審判請求人がガボラトリー・インターナショナル・インクから譲渡を受け商標権を取得した事実は、(甲第2号証?4号証、その翻訳甲第2号証の1、3号証の1、4号証の1)の米国特許庁の譲渡記録により明白である。
したがって、譲渡後に締結された極秘和解契約書の有効性については上記に述べたように米国裁判所において解決されるべき問題である。
(3)請求人は、米国において2003年8月24日3件の商標権取得及びガボールの事業を受け継ぎ、米国は勿論、日本国内にも輸出し販売して周知せしめたので、甲第各号証に示すように、商標登録第4962301号の商標は、商標法第4条1項10号に該当し、同法第46条1項1号により無効にすべきものであります。
3.弁駁(第二)の理由
(1)ガボラトリー・インクのガボール・ナギーから一切の事業に関する権利の譲渡を受けたガボラトリー・インターナショナル・インクは、更にシーディーエム・エクスチェンジ・カンパニーの代表者である福永洋幸にガボール・ブランドのシルバー・アクセサリーの商標権を含む一切の事業を譲渡した。
請求人は、ガボラトリー・インターナショナル・インクと当初商品の販売契約を締結し、後に一切のガボール事業の譲渡を受けたものである。
ガボラトリー・インクのガボール・ナギーは日頃、多量のアルコール摂取によりその死亡証明書(甲第12号証、12号証の1)記載のとおり、慢性の肝臓病を患い、病気により死期が追っていることを知り、永年シルバー・ジュエリー製作の片腕であったステイーブ・ガーラックに後継者になることを望んだ。
ステイーブ・ガーラックはシルバー・アクセサリーの職人であり、事業を経営する経験も無く、事業を始める資金も無かったので、ガボール・ナギーとステイーブ・ガーラックの永年の友人であったマリオン・イエハンスが相談を受け、マリオン・イエハンスが新しい事業の財政と経営を引き受け、ガボラトリー.インターナショナル・インクをネバダ法人として設立し、ステイーブ・ガーラックはシルバー・アクセサリーの職人としてデザイン及び製作を担当して、ガボール・ナギーとガボラトリー・インターナショナル・インク間に1998年12月10日付けで事業の譲渡契約が締結された(甲第13号証、13号証の1)。
平成11年(1999年)ガボール・ナギーの死後、ガボラトリー・インクのガボール・ナギーから一切の事業に関する権利の譲渡を受けたガボラトリー・インターナショナル・インクは、契約に従い、残されたマスター・ピース(原型)とその鋳型と職人達を引継ぎ、ガボール・ナギーの死亡により妻マリア・ナギーはボラトリー・インクを閉鎖した。ガボラトリー・インターナショナル・インクは、アメリカ合衆国特許商標庁に「GABOR」「王冠とGの図形とGABORATORY」「王冠とGの図形とGABORATORYとINTERTNATIONAL」の3件の商標を出願し、それぞれ登録第2,695,716号、登録第3,039,819号、登録第3,039,823号として登録された。
3件の請求人商標は、審判請求書に記載したとおりである。
福永洋幸のシーディーエム・エクスチェンジ・カンパニーはアメリカ合衆国及び日本における輸出・販売業者として、ステイーブ・ガーラックとマリオン・イエハンスのガボラトリー・インターナショナル・インクと商品の販売に関し、2003年7月31日(甲第14号証、14号証の1)、2003年8月24日(甲第5号証、5号証の1)契約書を締結した。更に2003年9月3日(甲第15号証、15号証の1)の商標権譲渡契約に基き、2003年9月5日(甲第16号証、16号証の1)ガボラトリー・インターナショナル・インクの全ての商標権,著作権、製造権、販売権、顧客、事業の暖簾の譲渡を受けた。
シーディーエム・エクスチェンジ・カンパニーは、ガボラトリー・インターナショナル.インクよりガボール・ブランドのシルバー・アクセサリー商品の提供を受け、日本各地の販売業者にガボール・ブランドの商品の供給を継続したところ、ガボール・ナギーの妻が突然閉鎖していたガボラトリー・インクを再開し、ガボール・ナギーとの結婚証明書及び死亡証明書を日本特許庁に提出して法律上の相続人であると主張して、平成19年(2007年)に「GABOR」商標を日本に登録する事を得た。
日本及びアジア全域に亘る商標の使用、製造販売の独占権を取得したシーディーエム・エクスチェンジ・カンパニーは、積極的に日本国内に「GABOR」、「王冠とGの図形とGABORATORY」「王冠とGの図形とGABORATORYとINTERTNATIONAL」の商標を付したガボール・インク・ユーエスエー社製造のシルバー・アクセサリーの商品を積極的に展開して広く周知させた。
シーディーエム・エクスチェンジ・カンパニーの代表者福永洋幸は、ガボラトリー・インターナショナル・インク所有であった、これら3件の商標、登録第2,695,716号、登録第3,039,819号、登録第3,039,823号の商標権の譲渡を受け(甲第2号証ないし3号証)アメリカ合衆国では名実共に商標権者となった。
そして2003年9月5日付けの契約書(甲第16号証、16号証の1)に示すように、シーブィーエム・エクスチェンジ・カンパニーは、名実共にガボール・ナギーのシルバー・アクセサリー・ビジネスの商標権、著作権、製造権、販売権、顧客、事業の暖簾の承継人となった。
故に、再開したガボラトリー・インクのマリア・ナギーは、単にガボール・ナギーの妻としての相続人であり、アメリカにおいても日本においても、「GABOR」関連商標のシルバー・アクセサリー事業の承継人ではない。
シーディーエム・エクスチェンジ・カンパニーは、日本において商標「GABOR」関連商標を周知せしめたもので、アメリカにおける商標「GABOR」関連の商標権者であり、商標「GABOR」関連事業の真の承継人である。
(2)以上のように、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その指定商品又はこれに類似する商品について使用するものと同一又はそれに類似しているものであるから、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。

第3.被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ証拠方法として乙第1号証ないし乙第13号証(枝番を含む。)を提出している。
〔答弁の理由〕
(1)本件商標について
本件商標に請求人記載の商標があること、その出願日、登録日の記載はいずれも認める。
(2)請求の利益について
被請求人が本件商標に基づき、請求人子会社の日本におけるディストリビューターに対して商標権侵害に基づく警告書を送付した事実は認める。
(3)無効理由について
「本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その指定商品又はこれに類似する商品について使用するものと同一又はそれに類似しているものである」との本件審判請求人の主張につき争う。
(4)審判請求人の商標
(ア)米国特許商標庁の登録上、審判請求人が商標「GABOR」、「GABORATORY」、「GABORATORY INTERNATIONAL」の登録名義人となっていることは認める。
(イ)ガボラトリー・インターナショナル・インクが米国商標「GABOR」、「GABORATORY」、「GABORATORY INTERNATIONAL」の所有者であったこと、審判請求人が上記米国商標を譲り受け権利者となったことはいずれも否認する。
(ウ)本件審判請求人が商標「GABOR」、「GABORATORY」、「GABORATORY INTERNATIONAL」を付した商品を日本で販売し、上記商標を周知させたという主張は否認する。
(5)被請求人(マリア・ナギー)についての記述についてはこれを争う。
(6)雑誌「ASAYAN」増刊2002 VOL1に関する記述については後記において詳述する。
(7)本件審判請求人の主張について
GABOR(GABORATORY)INTERNATIONALが、「GABOR」事業の継承者であること、上記3件の商標をガボール・ナギーから受け継いだ(譲渡を受けた)ことは否認する。
従って、ガボラトリー・インターナショナルには上記商標を登録する権利も、使用許諾を受けていない以上、上記商標を使用する権利も有していないことは明らかである。
請求人(シーディーエム・エクスチェンジ)がガボラトリー・インターナショナルから上記商標の独占的使用権を取得したという主張は争う。そもそも上記商標につき、無権利者であるガボラトリー・インターナショナルから権利の許諾を受けたとしても、当該許諾が有効になることはあり得ない。
パスカル・ザザとマリア・ナギーとの記述についてはこれを争う。
ガボラトリー.インクとガボラトリー・インターナショナル・インクとの商標権の帰属についての訴訟及び和解の内容についてはこれを争う。
「GABOR」関連事業及び本件商標「GABOR」とマリア・ナギーとの係わりあいについての記述は全て争う。
請求人は、“シーディーエム エクスチェンジは、日本において商標「GABOR」、「GABORATORY」、「GABORATORY INTERNATIONAL」を周知せしめた”と主張するが、強く否認する。
(8)本件審判被請求人の主張
(8-1)本件商標「GABOR」の由来及び周知性
そもそも、本件商標「GABOR」とは、被請求人マリア・ナギーの亡き夫である著名なシルバーアクセサリーデザイナーであった故ガボール・ナギー(GABOR NAGY)のファーストネームを取ったものである。
故ガボール・ナギーは、昭和63年(1989年)から、米国の彼の工房でシルバーアクセサリーを製造し、販売してきた。平成6年(1994年)からは、彼の会社であるガボラトリー・インクを設立し、同会社名でシルバーアクセサリーを製造・販売している(乙第1号証)。その独創性に魅せられたハリウッド男性スター達に支持されたこともあって、米国のみならず、日本においても、その存在が知られるようになり、平成8年(1996年)からは、ガボール製品が輸入販売されるようになった。既に平成9年(1997年)には、男性ファッション誌に男性用ジュエリーデザイナーの「カリスマ」として紹介されるなど(乙2号証)、同氏は平成11年(1999年)1月に急死したが、男性用ジュエリーデザイナーとしての同氏の名称(ガボール)は、生前既に日本国内でも著名性を獲得していた(乙3号証)。
このように、「GABOR」という名称には経済的価値が認められ、いわゆるパブリシティ権として相続財産の対象に含まれる。従って、「GABOR」が著名な男性用ジュエリーデザイナーの氏名を表示するものであり、著名なデザイナーの名声(氏名)を、「GABOR NAGY」と何ら関係のない第三者が、遺族の承諾もなく商標として使用あるいは商標登録する行為は、故人の名声、名誉を傷つけ、また当該氏名の使用により不当な利益を得ることになり、商取引秩序を乱すものであって、国際信義に反するものとして、公序良俗を害する行為と言わざるを得ず、このようなものを第三者が自己の商標として採択、使用することは商標法第4条第1項7号の趣旨に照らして許されないと言わざるを得ない(東京高裁平成14年7月30日判決、東京高裁平成13年(行ケ)第443号)。
従って、本件商標は、GABOR NAGYの相続人である被請求人か、同人の承諾を得た第三者によらない限り商標登録が認められるべきものでなく、この点から、特許庁による被請求人に対する本件商標権の付与は妥当なものと考える。
(8-2)本件商標の出願経緯
本件商標は、このようなシルバーアクセサリーの著名なデザイナーであった故ガボール・ナギー氏のファーストネームを、平成11年(1999年)1月の同氏の死後、その相続人である被請求人マリア・ナギーが、故人の著名なデザインにまつわる権利(氏名についてのパブリシティ権を含む)の正当な承継者として、特許庁にシルバーアクセサリーを始めとする指定商品「身飾品」につき、出願したものである。尚、本件商標の出願手続中に、請求人を含む多数の無権限者による本件商標「GABOR」の先願登録出願があり、2回の拒絶理由通知/これに対する意見書の提出をもって、漸く、特許庁により事実関係及び権利関係につき理解を頂き登録に至ったものである。
(8-3)本件商標は、被請求人が代表者を務めるガボール・インクの業務に係る商品を表示するものとして周知性を獲得していること。
(ア)上記被請求人の主張(8-1)で述べたように、故ガボール・ナギーは、平成6年(1994年)からはガボラトリー・インクを通じて「GABOR」ブランドのシルバーアクセサリーを製造・販売し、日本では平成8年(1996年)から輸入販売が行われ、かつ、米国での故ガボール・ナギーの名声ゆえに輸入が始まって間もない時期から、ファッション雑誌などで取り上げられ、我が国における男性向けシルバーアクセサリーがブームになるとともに、その中核をなすブランドネームとして知名度が高まっていった。
すなわち、平成9年(1997年)、男性向けファッション雑誌としてはメジャー誌である「POPEYE」において(乙第2号証44頁)、既に生前のガボール・ナギー本人を「カリスマ」と呼び、そのコメントとともに主要なアイテムの紹介記事がある。また、シルバーアクセサリーのブームが到来した頃に編集、発刊された雑誌「GETON!特別編集シルバーアクセサリーバイブル」平成11年(1999年)1月1日号(乙第4号証)においては、有名百貨店のファッション売り場で扱われるクロムハーツと並ぶ扱いを受けているのである。
このように、平成11年(1999年)頃には、本件商標「GABOR」は、ガボール.ナギー氏のデザインに係るシルバーアクセサリーを製造、販売するガボラトリー・インクの業務に係る商品を表示するものとして周知性を獲得していた。
(イ)ガボラトリー・インターナショナル・インクによる商標「GABOR」の日本における使用は、平成14年(2002年)以降であり、本件商標が、ガボール・ナギーのデザインに係るシルバーアクセサリーを表示するものとして周知性を獲得した後に、その名声にただ乗りしたものにすぎない。
請求人が、商標「GABOR」に係る権利をガボール・ナギーから譲り受けたと主張する、ステイーブ・ガーラックの設立したガボラトリー・インターナショナル・インクの会社設立は、ガボール・ナギーの死後2年以上経った平成13年(2001年)5月29日であり、日本で本件商標を付したガボラトリー・インターナショナル・インクのコピー商品が宣伝、販売されたのは早くとも平成14年(2002年)である。従って、請求人は、日本国内で既に著名であった「GABOR」ブランドの名声に便乗したものに過ぎず、請求人が「GABOR」ブランドを積極的に周知させたなどという請求人の主張は、事実から乖離した荒唐無稽な主張といわざるを得ない。
請求人は、雑誌「ASAYAN」増刊2002VOL.1に掲載された案内広告1?10を以って、商標「GABOR」を知らしめたと主張している。しかし、上述したように、故ガボール・ナギーは、生前既に米国で著名となっていたのであり、それが日本国内にも及んでいた。
請求人の挙げるものは平成14年(2002年)の雑誌であり(2003年廃刊乙6号証)、しかもその発行部数は、POPEYE誌(マガジンハウス社刊行 乙2号証)やGETON!誌(学習研究社刊 乙4号証)などに比べると極めて少ない(乙5号証、同6号証)。
既にガボールの著名性が確立した後の記事であることも併せ考慮すると、請求人の主張を根拠付けるものでは到底なりえない。
又、「GABOR」商標関連の法的な継承については、故ガボール・ナギーが所有していたものについては当然に相続人である本件審判被請求人マリア・ナギーが包括承継人として承継するのであるし、ガボラトリー・インクが所有していたものについては、個別の譲渡等による特定承継がなければ、故ガボール・ナギーの死去にも拘らず、依然としてガボラトリー・インクの所有のままであることは自明である。
ところが、請求人は、何らこれらの法的な根拠を示すことなく、専ら「師匠の遺志を継承する」というに過ぎない。これは全く法的な意味をなさない情緒的な言い分である。法的な権利の承継原因事実を具体的に主張されれば、被請求人として何らかの認否などをなし得ようが、このような情緒的な言い分に対しては、認否の対象とすらなりようがない。
このようにして、請求人が示す案内広告1?10(甲第6号証ないし甲第10号証)は、いずれも、請求人が、「GABOR」商標を周知せしめたという主張を根拠付けるものでは到底なり得ないばかりか、そもそも故ガボール・ナギーの既に確立した名声に乗じる意図を露呈するものである。
(ウ)ガボラトリー・インターナショナル・インクは、本件商標「GABOR」を含む「GABOR」に係る事業を故ガボール・ナギー、被請求人あるいはガボラトリー・インクから譲り受けておらず、ガボラトリー・インターナショナル・インクによる本件商標「GABOR」の使用は無権限使用であり、本件商標「GABOR」はガボラトリー・インターナショナル・インクの業務に係る商品(商標法第4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品」)を表示するものではない。
この点につき、請求人は、「ガボラトリー・インターナショナル・インクの創立者、スティーブ・ガラックは・・・ガボール・ナギーから「GABOR」、「GABORATORY」、「GABORATORY INTERNATIONAL」の商標を受け継いだ」と主張するが、その根拠が全く不明であって、到底受け入れることは出来ない。
請求人は、本件商標「GABOR」を含む上記商標をガボール・ナギーから譲り受けたことを証する証拠(例えば商標権譲渡証書)を示すことなく、ただ「受け継いだ」とのみ述べるに止まっているからである。
以上より、本件商標「GABOR」は他人の業務に係る商品、即ち、ガボラトリー・インターナショナル・インクあるいは請求人の業務に係る商品を表示する商標とはいえないので、本件審判請求は成り立たないことは明らかである。
(9)請求人の主張(商標権者マリア・ナギーについて)に対する反論
(9-1)「本件商標は、ガボール事業の継承者であるGABOR INTERNATIONALにより出願前に日本において広く知らしめた商標」との主張は、これを強く否認する。
ガボール事業は、故ガボール・ナギー及び彼が生前設立したカリフォルニア州法人ガボラトリー・インクによって始められた。この点について、請求人も認めており、「ガボール・ナギーと筆頭株主パスカル・ザザが設立したアメリカ合衆国法人ガボラトリー・インク」(請求書7頁)と述べている。
従って、ネバダ州法人GABOR INTERNATIONAL INCが、故ガボール・ナギーないしガボラトリー・インクの事業承継者であると主張するのならば、法的には、包括承継か、特定承継か、そのいずれかの法律要件事実が主張立証されなければならない。
ところが、請求人は、その最も基本的な主張立証を全く行っていない。このような大前提を欠く請求人の主張は、到底受け容れられないものである。
又、請求人は、商標「GABOR」を日本において広く知らしめたと主張するが、これについても上述してきたとおりであって、強く否認する。
請求人が援用する書証(案内広告1?10)の認否において既に検討してきたとおり、請求人が「GABOR」商標を周知せしめたなどということは全く認められない。
むしろ、シルバーアクセサリーの世界で極めて著名であったGABOR NAGYの名に乗じ、彼の急死による混乱に乗じて、故ガボール・ナギーが自ら立ち上げたカリフォルニア州法人ガボラトリー・インクが存在するにも拘らず、この名称と酷似した、ガボール事業の譲渡の事実など一切存在しないガボラトリー・インターナショナル・インクなるネバダ州法人を用いてガボール事業を展開しようとする企みであることが露呈されている。
(9-2)「故ガボールの妻であったというだけの理由で出願人が相続人と認定され、商標権を取得したものである。」との請求人の主張については、理解困難な主張といわざるを得ない。
被相続人の配偶者が財産権を包括承継するという相続法の基本的構造は、わが国相続法と米国相続法とで何ら変わるところがない。「妻であったというだけの理由で相続人と認定される」のが不当という主張をなすのであれば、他の相続人の存在を主張立証するのでなければ法的な議論に全くならない。また、請求人は、被請求人マリア・ナギーが、「ガボール」のビジネスに直接関与しなかったと主張するが、何ら根拠がない主張であり、否認する。
日本におけるシルバーアクセサリーのブームが盛隆を極めた時期に、ファッション雑誌媒体において頻繁に特集記事が組まれた。
そのうちの平成13年(2001年)2月10日発行の「STREETJACK特別編集シルバーアクセ完全FILE5」(乙9号証)35頁において、被請求人マリア・ナギー自身が「ガボール」ビジネスについて語っている特集記事がある。
すなわち、「昔から彼(ガボール・ナギー)がデザインして私がマスターピースを作っていたの。今は私を含めて4人で作業しているけど、本当にガボールを一生懸命やっている」「ガボール亡きあと、マリアを筆頭に計4人で作業をする現在のガボールファミリー」。さらに、ガボールの急死の直後に組まれた特集記事「SMART特別編集 シルバーアクセ最強読本2」(平成11年(1999年)4月25日宝島社刊)(乙3号証)において、本来は通常のインタビュー記事となるはずが、図らずもガボール・ナギーの追悼記事となったその特集記事の中で、「彼女(マリア・ナギー)は、日本のガボールファンのために悲しみをぐっとこらえ、ガボール本人とガボールの今後の展開について本誌を通して語ってくれた。」「彼(ガボール・ナギー)のひらめきから生まれたデザインの数は膨大で、マリアが一生かかっても作りきれない数だと言う。ガボールがいなくなったこれから、彼のアイディアはガボールスピリットを受け継いだ精鋭のスタッフたちと、仕事の面でも一番のパートナーだったマリアを中心に、チームワークで実現されていく。今までも、ガボールのデザインを実際に商品化していたメインは彼らなので、これからのガボールには、正直いって何ら不安もないのが実情だ。」等々、ガボール・ナギー急死直後のインタビューにおいて、このような記事が掲載されたところからもわかるように、故ガボール・ナギー及び被請求人マリア・ナギーの夫婦を中心とした「ガボールファミリー」によって、ガボールのシルバーアクセサリーが製造販売されてきたことは明らかである。
これに対し、請求人は、被請求人マリア・ナギーが、「ガボール」ビジネスに関与しなかったとの主張するが、かかる主張は事実に反するのみならず、悪意に基づいたもので到底受け容れることはできない。
すなわち、請求人がその主張の根拠として挙げる甲6号証及び6号証の1は、「ASAYAN」という若者向けファッション雑誌のうちのシルバーブランドの特集号の記事であるが、同誌の続き頁である甲6号証の3及び同6号証の4において図らずも明らかになっているように、これらの雑誌記事は、ガボラトリー・インターナショナル・ジャパンの店舗のオープニングに合わせた広告記事としての性格を持っている。
すなわち、発行部数が少ないファッション関係の専門誌は、広告主とタイアップして、実質的には広告そものものであるが、広告の形を避けてあたかも独自取材をしたかの如き記事を載せることが多い。まさにこの「ASAYAN」の記事は、そのような文脈で掲載されたものであって、甲6号証の4のガボラトリー・インターナショナルのショップのオープニング広告であることからも、広告主たるガボラトリー・インターナショナル・ジャパンの意向に沿った記事になっていると強く推認されるのである。尚、ASAYANが、このような雑誌であることの裏づけとして、雑誌協会の出版部数に関するデータ及びインターネット書籍販売「AMAZON」の書評がある(乙5号証、同10号証)。
さらに、請求人が援用する同誌の記事は、米国のスティーブ・ガーラックとその周辺の人物の発言であるが、そもそも彼らは、請求人ガボラトリー・インターナショナル・ジャパンの米国における関連会社であるネバダ州法人ガボラトリー・インターナショナルのメンバーであることは、甲6号証の1の24頁の記事からも明らかである。かかる発言が、請求人の側に偏った立場からなされたことは疑う余地がない。
それゆえ、ガボラトリー・インターナショナル・ジャパンの意向から中立的な立場に立った記事であることを期待できないのは自明である。かかる雑誌記事を根拠にして、被請求人がガボールのビジネスに係わっていなかったということは到底できない。
請求人は、甲11号証及び11号証の1(訴状)を以って、被請求人が、ガボラトリー・インクに対して損害を与えたかの如き主張をなすが、これも強く否認する。
パスカル・ザザが被請求人マリア・ナギーを提訴した旨言及して、その証拠として甲11号証および11号証の1として訴状の写しを添付しているが、同訴訟は平成16年(2004年)7月に提訴されたが、被告であるマリア・ナギーに通知(訴状が送達)されること無く、同年11月には取り下げられているのである(乙11号証の1,2)。
請求人は何の目的で同訴状の写しを本件審判請求書に添付したのか不明である。また、請求人は、パスカル・ザザがガボラトリー・インクの筆頭株主と述べているが、故ガボール・ナギー(死亡後はその権利を相続したマリア・ナギー)が、同社の株式の51%、残りの49%をパスカル・ザザが所有しており、同社の筆頭株主はマリア・ナギーである(甲第11号証の1の2頁目)。ここでも、請求人は、相続法の基本的理解を誤り、荒唐無稽な論旨を立てているが、問題外と言う外ない。
(9-3)「ガボラトリー・インターナショナル・インクの創立者、スティーブ・ガーラックは、・・・ガボール・ナギーから「GABOR」「GABORATORY」「GABORATORY INTERNATIONAL」の商標を受け継いだ」との主張は、その根拠が全く不明であって、到底受け容れることはできない。
請求人の主張のように、「GABOR」「GABORATORY」「GABORATORY INTERNATIONAL」の商標を受け継ぐためには、故ガボール・ナギーが生前、スティーブ・ガーラックに対し、これらの商標の譲渡を法的にしていなければならない。故ガボール・ナギーの相続人である被請求人マリア・ナギーも、ガボラトリー・インクも、スティーブ・ガーラックに対してかかる権利譲渡をしたことはないからである。
しかし、請求人は、かかる事実を主張立証することなく、ただ「受け継いだ」とのみ述べるに止まる。
(9-4)「ガボール インク ユー・エス・エーの筆頭株主である、シーディーエム エクスチェンジはガボラトリーインターナショナルインクから、日本及びアジア全域に亘る「GABOR」「GABORAT○RY」「GABORATORY INTERNATIONAL」商標の使用、商品の製造・販売の独占権を取得した。(甲第5号証及び5号証の1)」と主張するが、否認する。
請求人の主張する権利の根拠は、ガボラトリー・インターナショナル・インクが、故ガボール・ナギーまたはガボラトリー・インクから、上記3件の米国登録商標権等を含むシルバーアクセサリー事業を承継し(事業譲渡を受け)たことにより、これらの米国登録商標を使用し、登録する権利を取得した点にあると思われる。
しかし、請求人は、上記権利の譲渡があったことを示す如何なる証拠も提出しておらず、ただ、単に権利の継承があったと主張するのみである。
このような全く根拠の明らかでない「権利の承継」の意味するところは、ガボラトリー・インターナショナル・インクが、「GABOR」、「GABORATORY」、「GABORATORY INTERNATIONAL」の3つの商標を、勝手に米国商標局に商標登録出願したということに他ならないのである。ガボラトリー・インターナショナル・インクによるこの無権限商標登録及び出願行為については、2003年7月29日、ガボラトリー・インクが、ガボラトリーインターナショナル・インクをカリフオルニア地方裁判所に提訴し、同地方裁判所を通じて2004年8月ガボラトリー・インターナショナル・インク及びガボラトリー・インク両者間で和解契約が締結され、ガボラトリー・インターナショナル・インクは、当時既に登録済みの「GABOR」商標についてはガボラトリー・インク側に譲渡すること、他の2出願については出願取下すること、今後、ガボールのコピー製品を一切製造・販売しないこと、ガボラトリー・インクが「GABOR」もしくは「GABORATORY」の語句を含む標章を登録出願することについて異議申立をしないこと、ガボール・ナギーのデザインに係る宝飾品及びアクセサリーの製造に使用される金型をガボラトリー・インク代理人に引渡すこと、その他が約定された(乙第12号証)。
請求人がその審判請求書で述べているように、「GABOR」商標の譲受人をパスカル・ザザにするかマリア・ナギーにするか会社名にするかが決まらず、登録商標「GABOR」の譲渡先はエスクロー(弁護士預かり)となった。ところが、上記3件の商標が本年4月に請求人の名義に変更されたこと(甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証)で、ガボラトリー・インターナショナル・インクは、ガボラトリーインクとの和解契約締結時点で、上記和解契約に違反し、既に請求人と上記商標3件の条件付譲渡契約(甲第5号証)を秘密裡に締結し、当該商標を二重に譲渡あるいは出願取下げをせずに登録を行っていたことになる。米国の商標登録に関しての不正行為についてはいずれ、公正な審判が下されるものと考える。
現在の米国での商標登録状況がどうであるかに拘わらず、一連の「GABOR」関連商標の正当な権利者は、故ガボール・ナギーの唯一の相続人である本件審判被請求人マリア・ナギーであることに変わりはない。要は、上記和解契約により、ガボラトリー・インターナショナル・インクが、上記三つの登録商標等ガボール・ナギー関連商標の権利承継者ではないということが明確になり、したがって、かかる商標権無権利者から商標登録の移転や、登録商標に基づく使用許諾を受けても、真の権利者となることはありえないのであるから、請求人の主張は成り立たないこと明らかである。
請求人は、「和解契約書には、ガボラトリー インターナショナル インクのアメリカの商標権「GABOR」「GABORATORY」「GABORATORY INTERNATIONAL」は、・・・ 判決の結果によって、空白の商標権の譲渡証の譲受人名義欄をパスカル・ザザにするかマリア・ナギーにするか他の会社名にするとの条項があった。」と主張するが、強く否認する。
請求人の援用する「極秘和解契約書及び免責証」(乙12号証)のどこにもそのような条項は見当たらない。余りに根拠が薄弱な主張と言う外ない。
上記検討のとおり、請求人の主張は、法的根拠がない主張という外ない。契約法や相続法の基本的原則を著しく逸脱し、何ら客観的証拠の根拠を持たない主張を展開されるのには、驚き呆れるばかりである。
被請求人マリア・ナギーは、故ガボール・ナギーの唯一の相続人として、ガボール・ナギーが有していた一切の財産権を包括承継する立場にあり、相続財産には「GABOR」という氏名を独占的に利用する権利(パブリシティ権)、「GABOR」を商標として独占的に利用する権利をはじめとする知的財産権、株式など会社に対する権利も当然に含まれる。
(9-5)商標権侵害訴訟の提起
請求人の意図は、シルバーアクセサリーの世界で極めて著名であった故ガボール・ナギーの名声にフリーライドし、故ガボール・ナギーが創作した彼独自のデザインを、何ら法的な根拠もないままに恣に事業化し、展開しようとする企みであることは明白である。請求人らによる、かかる違法な行為をこれ以上放置することはできないので、法秩序を維持するため、被請求人らは、請求人の米国子会社の製造する「GABOR」商標の付されたコピー商品の日本総販売代理店に対し、本件商標権に基づく商標権侵害差止及び損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提訴中である(乙第13号証)。
(10)結び
上記のとおり、請求人は、ガボール事業に関し、何ら正当な権限を有してはおらず、請求人のなしている主張はいずれも、知的財産権法秩序に真っ向から反するので、断じて認めることはできない。
したがって、本件商標は、何ら無効原因を包含せず、商標法第4条1項10号、同法第46条1項1号に基づく請求人の請求は、成り立たない。

第4.当審の判断
本件商標は、「GABOR」の欧文字よりなるところ、甲各号証及び乙各号証によれば、これは米国の男性用ジュエリーデザイナーとして、この種需要者の間では知られた故ガボール・ナギー(GABOR NAGY)のファーストネームに由来するものであり、本件商標の商標権者は故ガボール・ナギーの妻「マリア・ナギー」であることが認められる。
これに対し、本件商標登録無効審判事件は、本件審判請求人「シーディーエム エクスチェンジ カンパニー」(以下、「請求人CDM社」という。)より、「本件商標は、その指定商品中『身飾品』については、他人である請求人CDM社に『GABOR』を含む3件の米国登録商標及び日本における商標使用権、販売権を譲渡した『ガボラトリー インターナショナル インク』(以下、『GII社』という。)の業務に係る商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その指定商品又はこれに類似する商品について使用するものと同一又はそれに類似しているものであるから、商標法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とされるべきである」旨を無効理由として請求されたものである。
ところで、本件審判請求に係る商標法第4条第1項第10号の規定を適用するために引用される商標は、商標登録出願の時(商標法第4条第3項参照)に、我が国内の需要者の間に広く認識されていなければならないと解されるから、以下、この点について検討する。
請求人が引用商標の周知性を立証するためのものとして提出した甲第6号証ないし甲第10号証(枝番を含む)によれば、以下のことが認められる。
甲第6号証は、「最新 ワイルドシルバー読本 2002」と表題された、平成14年6月1日発行の「ASAYAN6月1日増刊号」(発行所 ぶんか社)の表紙(写し)である。同じく甲第6号証の1は、同上増刊号の中頁26に「ガボールが死んで、そのブランドについての権利みたいなものの所有者が明白なカタチで存在しなくなってしまったのは事実だ、………」で始まる記事が掲載されている。
また、甲第6号証の1は、同上増刊号の中頁26ないし29の写しには「最新コレクション/Gaboratory International/ガボラトリー・インターナショナル」の見出しの下に、ガボラトリー・インターナショナルの新作として、シルバーアクセサリーがカラーで掲載されている。
同じく甲第6号証の2は、同上増刊号の中頁12,22ないし25の写しと認められ、「ガボールの激レア アイテムが商品化」と題して、シルバーアクセサリーがカラーで掲載されている。そして、その中頁24の写しには、「故・ガボールの遺志を受け継ぐ正真正銘の職人衆は彼らしかいない」として「Gaboratory International」の記事が掲載されている。同じく甲第6号証の3は、中頁30の写しに「世界初のオンリー・ショップが4月20日、日本で誕生!」として、ガボラトリー・インターナショナル・ジャパンの旗艦店が上野にオープンする旨のことが掲載されており、同じく甲第6号証の4、中頁31の写しは、その広告頁となっている。
甲第7号証は、「ASAYANシルバーマスター」と表題された、2003年8月号の表紙写しであり、甲第7号証の1に、4頁に亘りシルバーアクセサリー等が掲載されている。その中に「Gaboratory International」と印刷されたTシャツらしき写真が掲載されている。また、頁毎に、左上に「GABOR/ガボール」の文字が表記されている。
甲第8号証は、平成14年8月10日発行の「SILVER ACCESSORIES聖銀辞典」(株式会社 笠倉出版社)と題する印刷物で、シルバーアクセサリーの対談記事が掲載されており、甲第8号証の1は、「Gaboratory International Japan」より正規販売代理店募集の公告が掲載されている。
甲第9号証は、平成15年1月2日発行の「ワイルドシルバー読本VOL.2 2003」(発行所 ぶんか社)と表題された、「ASAYAN1月2日増刊号」の表紙写しであり、同じく甲第9号証の1?3は、「故ガボール後のガボラトリーに関する記事」及びシルバーアクセサリーが掲載されている頁となっている。
甲第10号証は、平成15年5月20日発行の「聖銀辞典SILVER ACCESSORIES」(株式会社 笠倉出版社)と題する印刷物の表紙写しであり、甲第10号証の1には、「偉大なるシルバースミス、ガボール・ナギーの遺志を継承する職人達」と題する記事及びシルバーアクセサリーが掲載されている。
上記の事実からすると、「GABOR」に関する記事及びその製品紹介は、平成11年1月16日に死亡した、故ガボールに関する記事と認められるものであり、かつ、これらの記事はシルバーアクセサリーの製作におけるカリスマ的な存在であった「ガボール・ナギー」をたたえる域を脱しないものばかりである。
また、これらが掲載された印刷物にしても、僅か2誌のみであって、その発行所も「ぶんか社」及び「株式会社 笠倉出版社」とあまり知られていない上、その発行部数も不明であり、しかも、インターネットホームページ上の記事として、「2003年(平成15年)媒体別広告費」の表題の〈雑誌広告費〉の項に「asayan(ぶんか社)」は休刊されている旨(乙第5号証、乙第6号証)掲載されている。
加えて、上記、掲載されている記事及び宣伝広告は、請求人CDM社に「GABOR」を含む3件の米国登録商標及び日本における商標使用権、販売権を譲渡した「GII社」のものばかりで、請求人CDM社の記事及び広告宣伝したものは見当たらない。
たとえ、請求人が主張するように、身飾品等の商品に係るGII社の業務の承継が請求人であるCDM社にあった場合には、CDM社が商標法第4条1項10号でいうところの「他人」に該当し、周知の獲得が当業者の承継者にも認められると解されるとしても、これらの印刷物は、平成14年6月から平成15年5月までの約一年間の合計5回(冊)のみによるものである。他に、請求人CDM社が商標「GABOR」及びその商品を我が国の需要者間に広く認識させたことを立証する証拠(例えば、広告宣伝の回数、その媒体、商品の販売数量等を証明する取引書類)の提出のないものである。
そうすると、請求人の主張する引用商標が本件商標の登録出願時(平成16年8月4日)に、請求人CDM社の業務に係る商品「身飾品」の商標として、取引者・需要者の間に広く認識されていたとは認められない。
他に、上記認定に影響を及ぼす証拠は見当たらない。
したがって、その他の請求人の主張について論ずるまでもなく、本件商標の登録は、その指定商品中「身飾品」について、商標法第4条1項10号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-03-18 
結審通知日 2008-03-21 
審決日 2008-04-02 
出願番号 商願2004-71863(T2004-71863) 
審決分類 T 1 12・ 25- Y (Y14)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 八木橋 正雄 
特許庁審判長 小林 和男
特許庁審判官 小川 きみえ
石田 清
登録日 2006-06-16 
登録番号 商標登録第4962301号(T4962301) 
商標の称呼 ガボール、ガボア、ギャボール、ギャボア 
代理人 若林 拡 
代理人 中川 康生 
代理人 入野田 泰彦 

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