• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 商8条先願 無効としない X44
審判 一部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない X44
審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X44
管理番号 1214683 
審判番号 無効2009-890091 
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-31 
確定日 2010-03-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第5186322号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5186322号商標(以下「本件商標」という。)は、「しぶやこまちクリニック」の文字を標準文字で表してなり、平成20年9月4日に登録出願、第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,栄養の指導,介護,美容」を指定役務として、同年10月31日に登録査定、同年12月5日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続している。

第2 引用商標
請求人が、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同法第8条第1項及び同法第4条第1項第15号に該当するとして引用する商標及び標章は、次のとおりである。
1 商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する登録第5158789号商標(以下「引用商標1」という。)は、「こまちクリニック」の文字を標準文字で表してなり、平成20年2月4日に登録出願、第44類「医業,医療情報の提供,美容」を指定役務として、同年8月15日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続している。
2 商標法第8条第1項に該当するとして引用する登録第5193723号商標(以下「引用商標2」という。)は、「こまちくりにっく」の文字を標準文字で表してなり、平成20年2月4日に登録出願、第44類「医業,医療情報の提供,美容」を指定役務として、同21年1月9日に設定登録されたものであり、その商標権は現に有効に存続している。
3 商標法第4条第1項第15号に該当するとして引用する標章は、別掲の「請求人標章目録」に表示の請求人標章1ないし請求人標章3とおりである。
以下、引用商標1及び引用商標2を一括して「引用各商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品中「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,美容」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第84号証を提出した。
1 無効理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同法第8条第1項及び同法第4条第1項第15号に該当するから、商標法第46条第1項第1号により、その指定役務中「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,美容」についての登録を無効とされるべきである。
(1)商標法第4条第1項第11号及び同法第8条第1項違反について
ア 同法第4条第1項第11号及び同法第8条第1項の該当性判断に際しては、最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決(甲第8号証)及び商標審査基準(甲第9号証及び甲第10号証)に基づいて、昭和57年審判第18132号外7件(甲第11号証ないし甲第18号証)が、それぞれ類似と判断されているほか、同様の審決が多数なされている。
イ 本件商標について
本件商標は、標準文字にて「しぶやこまちクリニック」と表されてなるところ、その構成中「しぶや」の文字は「渋谷」の音を仮名表記したものと容易に看取・理解される。ここに「渋谷」は、地名として理解される場合もあるが、「姓氏の一」(甲第19号証)として理解される場合も少なくない。
一方、本件商標の構成中「こまち」の文字は、「小野小町」を意味する「小町」(甲第20号証)の仮名表記であるか又は「(小野小町が美人だったということから)評判の美しい娘」を表す「小町娘」の略を意味する「小町」(甲第21号証)の仮名表記であると理解され、「クリニック」の文字が、「診療所」を表す(甲第22号証)と理解されるのが一般的であることからすると、本件商標に係る指定役務が「医業」を含むことに鑑みれば、本件商標の構成中「こまち」の文字と、これに続く「クリニック」の文字からなる「こまちクリニック」の文字は、「(美しい)女性のための診療所」(例えば、美容外科、産科、婦人科などを主たる診療科目とする診療所)ないしは「(美しい)女性による診療所」(例えば、主たる医師が女性である診療所)を連想させ女性的で優しい印象を需要者に与える一種の造語として一体的に把握される。
そうすると、本件商標は、「しぶや」なる構成部分と「こまちクリニック」なる構成部分とが結合してなる結合商標と認識されるから、「しぶや」が姓氏の一として理解される場合、本件商標「しぶやこまちクリニック」は、「渋谷」なる者の運営に係る「こまちクリニック」との意味合いを有するものとして認識されるとの理解が自然である。
ここに、「渋谷」がありふれた氏であることは、広辞苑第五版(甲第19号証)に記載されている事実、及び、本件商標の登録出願前の2007年11月21日現在の情報を示すNTT東日本50音順個人名ハローページに掲載されている「渋谷」姓が、東京都足立区版に掲載されている70余件(甲第23号証)をはじめ、東京23区全体で700件以上ある事実から明らかであるから、「しぶや」の部分は識別力が全くないか、あったとしても極めて弱い部分である。一方、「こまちクリニック」の部分は、上述のように、「(美しい)女性のための診療所」ないしは「(美しい)女性による診療所」との意味合いを連想させ女性的で優しい印象を与える一種の造語であって、指定役務との関連で見る者の注意をひく部分であるから、その識別力は「しぶや」に比し極めて強く、本件商標の要部といえる。
しかも、本件商標は、一連のものとして特定の観念を生ずるものでなく、さらに、11音と冗長であることを考慮すれば、「しぶや」と「こまちクリニック」とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから、本件商標は、その全体構成に相応して「シブヤコマチクリニック」と一連に称呼される場合があるとしても、簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念されるものであるから、その構成中、識別力を有しないか極めて低い部分である「しぶや」を省略し、識別力の高い要部である「こまちクリニック」に相応して「コマチクリニック」と称呼される場合も少なくない。
ウ 引用各商標について
引用商標1は、標準文字にて「こまちクリニック」と表されてなるところ、その全体構成に相応して「コマチクリニック」と称呼される。
引用商標2は、標準文字にて「こまちくりにっく」と表されてなるところ、その全体構成に相応して「コマチクリニック」と称呼される。
エ 類否
(ア)本件商標と引用商標1との類否
以上のように、本件商標は、その要部「こまちクリニック」において引用商標1「こまちクリニック」と同一の構成であり、その称呼も共通する。また、当該部分について、外観において共通する。さらに、当該部分からいかなる観念が生ずるにせよ、観念が生ずる限度で共通する。
よって、本件商標と引用商標1とは類似する。
(イ)本件商標と引用商標2との類否
本件商標の要部「こまちクリニック」は、引用商標2「こまちくりにっく」の「くりにっく」の部分を「クリニック」と片仮名表記に置き換えたものであるから、その称呼は共に「コマチクリニック」であり、両者の称呼は共通する。また、当該部分について、外観において同一ではないものの「こまち」の部分が同一であることから相互に相紛らわしく、外観上類似又は近似しているといえる。また、当該部分からいかなる観念が生ずるにせよ、観念が生ずる限度で共通する。
よって、本件商標と引用商標2とは類似する。
オ 指定役務
本件商標の本件審判請求に係る指定役務は、第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,美容」であり、引用各商標の指定役務である第44類「医業,医療情報の提供,美容」と同一ないし類似のものである。
カ 以上によれば、本件商標は、引用商標1との関係では商標法第4条第1項第11号に違反して、また、引用商標2との関係では同法第8条第1項に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号違反について
ア 同法第4条第1項第15号の該当性判断に際しては、最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決(甲第24号証)及び商標審査基準(甲第25号証)を考慮すべきである。
イ 請求人の標章の周知度
(ア)請求人の業務
請求人は、平成14年6月5日付けで大阪市都島区東野田町2-9-7にて形成外科、皮膚科を診療科目とする「こまちクリニック」を開設し(甲第26号証)、同年7月1日に開業した。その後、平成15年5月14日付けで診療科目に美容外科を加え(甲第27号証)、同18年1月1日付けで法人化して形成外科、皮膚科を診療科目とする「医療法人杏皇会こまちクリニック」とし(甲第28号証)、その後、同年1月19日付けで診療科目に美容外科を加え(甲第29号証)、現在に至っている。以下、上記「こまちクリニック」又は「医療法人杏皇会こまちクリニック」を「請求人クリニック」という。なお、請求人クリニックには、開業当初の平成14年7月から、エステティック美容部門が併設されており、エステティック美容の一種であるケミカルピーリング、サルチル酸マクロゴールピーリング等を実施している(甲第80号証、甲第82号証ないし甲第84号証)。
請求人クリニックの利用者は年々増え続け、本件商標の登録出願前の平成20年6月30日までの利用者は5,400人を超えている。そして、これらの患者等の居住地域は、近畿地区5,165人、関東・甲信越地区85人、北陸・東海地区73人、中四国地区67人、九州・沖縄地区20人、北海道・東北地区5人となっており、近畿地区を中心に日本全国に及んでいる。なお、必要であれば、これらの数値を立証する用意がある。
(イ)請求人の標章
請求人は、請求人クリニック開業当初の平成14年7月から、その標章として、「こまちクリニック」なる活字体文字からなる標章(別掲「請求人標章1」)、「こまちくりにっく」なる活字体文字からなる標章(別掲「請求人標章2」)及び「こまちくりにっく」なる毛筆体文字からなる標章(別掲「請求人標章3」)を採択し、これらをビル外壁看板(甲第30号証)、ビル内ガラス壁看板(甲第31号証)、ドア看板(甲第32号証)、立て看板A(甲第33号証)、立て看板B(甲第34号証)、診察券(甲第35号証)、広告・宣伝等(後述)に使用している。なお、上記各看板は、いずれも開業当初から使用しているものである(いずれも、平成21年4月28日撮影)。
(ウ)広告・宣伝
a 新聞・雑誌による広告
請求人クリニックの新聞・雑誌による広告の実施状況は、甲第36号証ないし甲第51号証に示す。
b 新聞・雑誌記事、書籍
請求人及び請求人クリニックに関する新聞・雑誌記事及び書籍は、甲第52号証ないし甲第57号証に示す。
c ウェブページ
請求人は、開業当初より、請求人クリニックのウェブページを開設し、当該ウェブページを用いて請求人クリニックの広告・宣伝を行っている(甲第58号証及び甲第59号証)。平成15年11月27日更新の請求人クリニックのウェブページ(トップページのみ)を甲第60号証に示す。
d 電話帳広告
請求人クリニックのNTT職業別電話帳への電話帳広告の実施状況は、甲第61号証ないし甲第69号証に示す。
e 電車・バス広告
請求人クリニックの電車・バス広告の実施状況は、甲第59号証及び甲第70号証ないし甲第74号証に示す。
f 駅構内のテレビ映像広告
請求人クリニックの駅構内テレビ(モールボード)映像広告の実施状況は、甲第73号証ないし甲第75号証に示す。
g 駅構内の案内表示板広告
請求人クリニックの駅構内案内表示板広告の実施状況は、甲第76号証に示す。
h ポケット時刻表広告
請求人クリニックのポケット式時刻表広告の実施伏況は、甲第77号証ないし甲第79号証に示す。
i フリーペーパーによる広告は、甲第80号証ないし甲第84号証に示す。
j 広告・宣伝費用
請求人クリニックの広告・宣伝費用は以下のとおりである。なお、必要であればこれらの数値を立証する用意がある。
・平成14年 2,708万円
・平成15年 1,038万円
・平成16年 385万円
・平成17年 1,047万円
・平成18年 876万円
・平成19年 804万円
(エ)小括
以上のように、平成14年7月の開業以来、請求人クリニックが、全国的に著名な女性週刊誌等に継続的に広告・宣伝を行う一方、美容整形関連あるいは乳幼児の子育て関連の解説記事・紹介記事等でも取り上げられ、さらにウェブページによる広告・宣伝を継続したことで、本件商標の登録出願日である同20年9月4日はもとより、被請求人の開業時である同年4月1日には既に、請求人標章1ないし請求人標章3は、請求人クリニックを表す標章として、医療関係者等取引関係者ないし需要者である美容整形や子育てに関心のある比較的若い女性層に広く知られるようになっていた。とりわけ近畿地区においては、上記女性週刊誌等における広告・宣伝、解説記事・紹介記事、ウェブページによる広告・宣伝に加え、広範囲にわたる電話帳広告、電車・バス広告、駅構内のテレビ映像広告、駅構内の案内表示板広告、ポケット時刻表広告などを継続的に行うことによって、同地区に居住する請求人クリニックの利用者が5,000人を越えるなど、請求人標章1ないし請求人標章3は、取引関係者ないし需要者の間で、当該請求人クリニックを表す標章として相当程度周知になっていた。
ウ 創造標章
請求人標章1ないし請求人標章3は、請求人の創作に係る標章である。
エ ハウスマーク
請求人標章1ないし請求人標章3は、請求人クリニックである「こまちクリニック」又は「医療法人杏皇会 こまちクリニック」の名称、略称又は愛称を表す標章であって、請求人クリニックそのものを表すハウスマークである。
オ 事業拡張の可能性
請求人は、現在、主として近畿地区を中心とした医業及びエステティック美容を営んでいるが、将来これらの事業を全国規模に拡張するつもりである。
カ 本件商標と請求人の標章との類似性の程度
本件商標と引用商標1及び引用商標2とは、前記(1)で論じたように、類似している。そして、引用商標1と請求人標章1、並びに、引用商標2と請求人標章2及び請求人標章3は、それぞれ同一か又は社会通念上同一である。したがって、本件商標と請求人標章1ないし請求人標章3との類似性の程度は極めて高い。
キ 本件商標の指定役務と請求人の業務との関連性
本件商標の本件審判請求に係る指定役務は、第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,美容」であり、請求人の業務である「医業、エステティック美容」とは同一又は類似の関係である。
ク 役務の需要者の共通性
本件商標の本件審判請求に係る指定役務の需要者は、患者、健康に関心のある者、美容に関心のある者等であり、請求人の業務の需要者である、患者、健康に関心のある者、美容に関心のある者と共通性を有する。
ケ 前記イのとおり、遅くとも本件商標の登録出願日である平成20年9月4日には、請求人標章1ないし請求人標章3は、請求人クリニックを表す標章として相当程度周知になっていたこと、及び前記ウないしクの事実を総合的に考慮すれば、本件商標は、請求人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
2 むすび
以上のとおり、本件商標は、その指定商品中「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,美容」について商標法第4条第1項第11号、同法第8条第1項及び同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 経緯について
(1)しぶやこまちクリニックの使用経緯
被請求人は、最終勤務地である由利本荘市に開業する際、被請求人である本件商標権者の氏である「しぶや」と、隣地である湯沢が生誕地と言われている小野小町は、秋田県では女性の代名詞として使われているため、当クリニックが婦人科であることから「こまち」とを結合し、「しぶやこまち」というクリニック名にした。保健所からも名称について指導がなかったので、開業地から遠方(大阪)にある、こまちクリニックの存在自体全く不知であった。
引用各商標の登録出願日前である平成19年10月31日にしぶやこまちクリニック新築工事見積書(乙第1号証)を受け、同じく、地盤改良工事の御見積書(乙第2号証)を同年11月7日に受けた。平成20年2月22日には由利本荘保健所に、名称「しぶやこまちクリニック」として「診療所の開設について(届出)」(乙第3号証)を提出した。
ゆえに、引用各商標をフリーライドする意図など毛頭ない(引用各商標の著名性は否定する)。
(2)商標登録の経緯
NTT東北から、本件請求人から商標権侵害の連絡があった旨の問い合わせがあり、平成20年9月11日に由利本荘医師会に警告文(乙第4号証)がメールにて送られた。同年5月7日にメールにて商標使用許諾許可申出書(乙第5号証)が送られて、続いて、同年8月4日に郵送にて再び商標使用許諾許可申出書が送られてきたため(乙第6号証)、本件商標権者(被請求人)は、本件商標「しぶやこまちクリニック」を登録出願し、早期審査に関する事情説明書を提出し(乙第7号証)、商標登録を受けた(甲第3号証)。
2 商標法第4条第1項第11号及び同法第8条第1項違反について
請求人は、本件商標と引用各商標との類似について述べているが、判断要素である外観、称呼又は観念のいずれが類似しているか明確ではないが、以下、各判断要素について類否判断を行う。
本件商標及び引用各商標は、いわゆる商号商標なので、「クリニック」あるいは「くりにっく」を除いて、要部観察を行う。また、要部を、原則である(大判明41.9.22、大判昭3.5.19)全体観察にて行う。
(1)外観について
引用各商標の構成中の「こまち」と、本件商標の構成中の「しぶやこまち」とは、「こまち」で一致するが、文字数で本件商標の「しぶやこまち」が引用各商標の「こまち」の倍であり、差が大きい。また、「しぶや」と「こまち」とでは外観は全く異なる。よって、本件商標は、引用各商標とは外観非類似である。
(2)称呼について
引用各商標の構成中の「こまち」は3音であるのに対して、本件商標の構成中の「しぶやこまち」は6音である。引用各商標の語頭は「ko」であり、これに対して本件商標の語頭の発音が「si」であり、母音及び子音とも異なる。子音は、引用各商標が無声軟口蓋破裂音であるのに対し、本件商標が無声歯茎摩擦音であり、大きく隔たる。よって、称呼非類似である。
(3)観念について
本件商標は、本件商標権者(被請求人)の氏と、ゆかりのある小野小町の小町(こまち)とを結合した造語であり、観念自体が存在しない。ゆえにそれらを分離する合理的理由は存在しない。
請求人は、請求書において、「簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念される」と主張する。
しかしながら、医療役務に係る需要者は、自分の身体、生命に係わる医師・医院をクリニック名から選ぶのであるから、一般流通商品に比し極めて高い注意力を払って、商標を判断するのが通常である。
よって、一般流通商品には首肯できる上記主張は、本件役務には不適当であって失当である。
なお、「しぶや」と「こまち」とを分離したとする。「こまち」についてYahoo!で検索すると5,900,000件(乙第8号証)、Googleで検索すると1,180,000件(乙第9号証)、Bingで検索すると239,000件(乙第10号証)検索される。つまり、「こまち」自体が既にありふれた名称となっており、要部として自他商品識別力が無い若しくは薄弱である。本来であるなら、引用各商標とも商標法第3条第1項第4号により無効となるべき商標である。ゆえに「しぶや」と「こまち」とを相対的に判断すれば同等若しくは前者の方が強いと考えられる。また、本件商標は商号商標であることを鑑みれば商標の本質的機能である出所表示機能を重視すべきあり、とすれば、「しぶや」の方が出所表示機能は強いと考えるのが自然である。そうとすれば、需要者(利用者)をして、渋谷医師による美容クリニックであると観念するのが通常である。
これに対し、引用各商標は、単に美容クリニックとだけ判断されるのである。
しかして、原則である全体観察はもとより、分離観察しても、観念非類似である。
以上のように、本件商標と引用各商標とは、外観、称呼及び観念のいずれについても非類似であり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同法第8条第1項に違反するものではない。
3 商標法第4条第1項第15号違反について
請求人は、請求書において、利用者について「5400人を超えている。」と主張するが、1億3千万人の日本国民に対して遙かに少ない。なお、当該主張について「立証する用意がある。」旨述べているので、立証して頂きたい。
また、甲第36号証ないし甲第47号証、甲第51号証及び甲第55号証をみるに、多数の中の1つであり探すのが難しいほどである。このような広告形態では多数のクリニックに埋没されて認知される可能性は低い。念のため原本確認を行いたい。
また、甲第48号証ないし甲第50号証、甲第67号証ないし甲第69号証及び甲第72号証については、切り貼りであり証拠力はない。
また、甲第73号証ないし甲第75号証については、民放放送局ではなく、駅内の街頭モニターにビデオを流しているだけのものである。wmvなどに落として見せて頂きたい。
また、甲第77号証及び甲第78号証については切れているように見えるので原本確認を行いたい。
また、請求書に記載のある広告宣伝費用の立証を希望する。
商号商標については上場企業程度の著名性が必要であるところ、提出された証拠をみても、当該著名性と引用各商標は認知度との間にけいていが存在するのは明白である。本号の制度趣旨はフリーライド及びダイリューションの防止をするのが目的であるが、請求人が主張する程度の広告・宣伝では、引用各商標には当該目的に相当する信用が化体しているとはいえない。
なお、IPDLで周知著名商標の検索をしたが、引用各商標は検索されなかった(乙第8号証)。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号には違反しない。
4 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同法第8条第1項及び同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号及び同法第8条第1項該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「しぶやこまちクリニック」の文字を標準文字で一連に表してなるところ、前半の「しぶやこまち」の部分が平仮名文字で表されているのに対し、後半の「クリニック」の部分は片仮名文字で表されていることから、これらは文字の種類の相違により視覚上分離して認識し得るものである。
そこで、まず、本件商標を構成する後半の「クリニック」の文字部分についてみてみると、これは、「臨床講義」や「診療所」等(広辞苑第6版)の意味を有する外来語として一般に知られているものであって、医院や診療所などの名称の一部にも「○○クリニック」などとして使用されることが多いことからすれば、本件商標の指定役務である「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,栄養の指導,介護,美容」との関係においては、当該文字部分自体は役務の質又は提供の場所を表すものとして理解されるというべきであるから、それ自体は、自他役務の識別力がないか、その識別力が極めて弱い部分であるというのが相当である。
次に、本件商標を構成する前半の「しぶやこまち」の文字部分についてみてみると、これは平仮名文字で一連に表されているものの、本件商標の指定役務における取引者・需要者の通常有する観察力をもってすれば、「しぶやこまち」を前半の「しぶや」の部分と後半の「こまち」の部分とに分け、「しぶや」の部分からは、東京23区の一である「渋谷」又は姓氏の一である「渋谷」を想起し、また、「こまち」の部分からは、「小野小町」又は「小町娘の略。地名に付けても言う。『秋田?』」(なお、「小町娘」は、「(小野小町が美人だったということから)評判の美しい娘」の意。)の「小町」を想起するものとみて差し支えなく(広辞苑第6版参照)、そうすると、両語のつながりから「しぶやこまち」は、地名の「渋谷」と、そのような地名を冠して使用される「小町」(小町娘の略)とを結合した「渋谷小町」を平仮名で表記したものであると理解、認識するのが自然であるから、観念上「渋谷で評判の美しい娘」ほどの意味合いが自然に生じて一体不可分の語句として認識されるものというのが相当である。そして、「しぶやこまち」から生じる「シブヤコマチ」の称呼も、よどみなく一連に称呼し得るものである。
したがって、本件商標からは、全体の構成文字に相応して「シブヤコマチクリニック」の称呼を生じるほか、その指定役務との関係では、自他役務の識別力がないか、その識別力が極めて弱い部分である「クリニック」の部分を省略した「しぶやこまち」の部分から、「シブヤコマチ」の称呼のみを生じるものとみるのが相当であり、「渋谷で評判の美しい娘」ほどの観念を生じ得るものというべきである。
(2)引用各商標について
ア 引用商標1は、前記第2のとおり、「こまちクリニック」の文字を標準文字で一連に表してなるところ、これも本件商標の場合と同様に、視覚上、「こまち」の部分と「クリニック」の部分とに分離して認識し得るものであって、「こまち」の部分からは、「小野小町」又は「小町娘の略。」の「小町」を想起するものとみて差し支えないこと、その指定役務も「医業,医療情報の提供,美容」であるから、「クリニック」の部分は、役務の質又は提供の場所を表すものであって、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないものというのが相当である。
そうすると、引用商標1からは、全体としての「コマチクリニック」又は「こまち」に相応した「コマチ」の称呼のみを生じるものとみるのが相当であり、「小野小町」又は「小町娘(評判の美しい娘)」ほどの観念を生じ得るものというべきである。
イ 引用商標2は、前記第2のとおり、「こまちくりにっく」の文字を標準文字で一連に表してなるところ、引用商標2の指定役務「医業,医療情報の提供,美容」における取引者・需要者の通常有する観察力をもってすれば、後半の「くりにっく」の部分は、「臨床講義」や「診療所」等の意味を有する外来語である「クリニック」を平仮名で表記したものであると容易に理解し、それとともに、前半の「こまち」の部分からは、「小野小町」又は「小町娘(評判の美しい娘)」の「小町」を想起するものとみて差し支えないから、引用商標1と同様に、引用商標2からも、全体としての「コマチクリニック」又は「こまち」に相応した「コマチ」の称呼のみを生じるものとみるのが相当であり、「小野小町」又は「小町娘(評判の美しい娘)」ほどの観念を生じ得るものというべきである。
(3)本件商標と引用各商標との類否について
本件商標と引用各商標とを対比すると、前記(1)及び(2)のとおり、称呼については、「シブヤ」の音の有無により構成音数が明らか異なるものといえるから、それぞれを一連に称呼しても相紛れるおそれはない。また、観念についても、本件商標から生ずる「渋谷で評判の美しい娘」と引用各商標から生ずる「小野小町」又は「小町娘(評判の美しい娘)」とでは、相違するものである。さらに、外観についても、本件商標と引用各商標との違いは明らかといえる。
したがって、本件商標と引用各商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同法第8条第1項に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と請求人標章1ないし請求人標章3との類似性の程度について
本件商標と引用各商標とが、その外観、称呼及び観念のいずれからみても十分に区別し得る商標として別異のものであることは、前記1のとおりである。
そこで、本件商標と請求人標章1ないし請求人標章3との類似性の程度についてみるに、請求人標章1は引用商標1と、また、請求人標章2及び請求人標章3は引用商標2と、それぞれ、実質的に同一視し得るものとみて差し支えないものといえる。
そうすると、本件商標と請求人標章1ないし請求人標章3とは、本件商標と引用商標1及び引用商標2との場合と同様に、その外観、称呼及び観念のいずれからみても十分に区別し得る商標として別異のものというべきである。
(2)請求人標章1ないし請求人標章3の周知著名性と役務の混同について
ア 請求人の提出に係る甲第26号証ないし甲第47号証、甲第51号証ないし甲第55号証、甲第58号証ないし甲第77号証及び甲第80号証ないし甲第84号証並びに請求人主張の全趣旨によれば、以下のことを認めることができる。
(ア)請求人は、平成14年6月5日に大阪市都島区東野田町2-9-7に診療科目を形成外科及び皮膚科とする診療所「こまちクリニック」を開設し(甲第26号証)、同年7月1日に開業後(甲第80号証)、同15年5月14日に美容外科を診療科目に加え(甲第27号証)、その後、同18年1月1日、再び診療科目を形成外科及び皮膚科とした上で、前記診療所を法人化した「医療法人杏皇会こまちクリニック」を開設し、自らはその理事長となるとともに(甲第28号証)、その直後といえる同月19日に美容外科を診療科目に加え(甲第29号証)、現在に至っている。
(イ)請求人は、平成14年7月1日の開業以来、「こまちクリニック」又は「医療法人杏皇会こまちクリニック」(以下、これらを「請求人クリニック」という。)のビル外壁看板、ビル内ガラス壁看板、ドア看板、立て看板及び診察券に請求人標章3を付して使用している(甲第30号証ないし甲第35号証)。
なお、請求人は、請求人クリニックの利用者は、平成14年7月1日の開業以来、本件商標の登録出願前の平成20年6月30日までの6年間で5,400人を超えており、これらの利用者の居住地域は、近畿地区5,165人、関東・甲信越地区85人、北陸・東海地区73人、中四国地区67人、九州・沖縄地区20人、北海道・東北地区5人であると主張していることから、その利用者の大部分は近畿地区在住者であるといえる。
(ウ)広告・宣伝状況
a 雑誌による広告(甲第36号証ないし甲第47号証、甲第51号証、甲第52号証)
女性週刊誌「女性セブン」(株式会社小学館発行)における平成17年(6回)、同19年(4回)及び同20年(2回)に発行分の広告には、いずれも社団法人日本美容医療協会の正会員(所属医療機関)として、同一ページ内に日本全国の他の医療機関とともに、その名称(請求人標章2又はその他の書体からなる「こまちくりにっく」)及び院長名等が紹介された。また、週間女性臨時増刊2007年(平成19年)1月10日号(株式会社主婦と生活社発行)には、ページ下段の広告枠欄に、他の医療機関とともに請求人標章3による広告が掲載された。「マナティー・ライフ プレ創刊 8月号」(2002年(平成14年)8月1日、株式会社マナティー・ジャパン発行)には、美容整形の記事に「長年にわたり美容整形と形成外科に携わってこられた『こまちクリニック』の院長」と請求人が紹介されたほか、請求人標章3による1ページ全面広告が掲載された。
b 書籍への掲載記事(甲第53号証ないし甲第55号証)
2002年(平成14年)9月22日、2003年(平成15年)4月16日、平成16年3月10日に各発行の書籍には、日本全国の医療機関(医者)とともに請求人クリニック(請求人標章1)が紹介された。
c ウェブページ(甲第58号証ないし甲第60号証)
平成14年7月1日の開業以来、請求人ウェブページにおいて請求人標章3等を使用している。
d 電話帳広告(甲第61号証ないし甲第69号証)
平成15年ないし平成20年発行のNTT関西電話帳には、請求人標章1又は請求人標章3による請求人クリニックの広告が掲載された。
e 電車・バス広告、駅構内のテレビ映像及び案内表示板広告、ポケット時刻表広告(甲第59号証、甲第70号証ないし甲第77号証)
平成16年5月1日以降、本件商標の登録出願前までの間において、大阪市営地下鉄・京阪バスでの車内広告、大阪市営地下鉄の梅田駅(2基)、なかもず駅(1基)・南森町駅(1基)・谷町九丁目駅(1基)・天王寺駅(2基)・日本橋駅(1基)・心斎橋駅(1基)・長堀橋駅(1基)の各駅構内でのテレビ(モールボード)放映広告、JR環状線の京橋駅・京阪電車の枚方市駅及び京橋駅・大阪市営地下鉄の京橋駅での各駅構内案内表示板広告及び京阪電車の淀屋橋駅・京橋駅・枚方市駅用のポケット式時刻表広告において、それぞれ、請求人標章3による請求人クリニックの広告がなされた。
f フリーペーパーによる広告(甲第80号証ないし甲第83号証)
平成14年6月27日、同年7月18日、同月26日、同19年7月26日に関西地域限定のフリーペーパー「ウーマンライフ」に、請求人標章3による請求人クリニックに関する広告がなされた。
g 「BM Beauty & Medical report」(VOL.1 平成14年7月号)と題する印刷物(甲第84号証:上部タイトル部には「(特別号)大阪府下40万部配布」との記載がある。)には、請求人が取材協力した記事とともに、請求人標章3による請求人クリニックの広告が掲載された。
h 広告・宣伝費用
請求人の主張によれば、請求人クリニックの平成14年ないし同19年の広告・宣伝費用は、年ごとの順に、2,708万円、1,038万円、385万円、1,047万円、876万円及び804万円とのことである。
イ 前記アによれば、請求人は、平成14年7月1日に請求人クリニックを開業以来、請求人標章1ないし請求人標章3を使用して、雑誌広告、電話帳広告、電車・バス広告、駅構内のテレビ映像及び案内表示板広告、ポケット時刻表広告等により請求人クリニックの広告・宣伝を行ってきたことは認めることができるものの、その広告・宣伝活動は、主に関西における特定地域に限定されたものであることが認められる。このことは、請求人が主張する前記ア(イ)記載の請求人クリニック利用者状況からもうかがい知ることができる。
したがって、請求人クリニックについて使用する請求人標章1ないし請求人標章3は、その全国的な需要者層を考慮すると、いまだ周知著名なものとは認めることができないばかりでなく、本件商標と請求人標章1ないし請求人標章3とは、前記(1)のとおり、その外観、称呼及び観念のいずれからみても十分に区別し得る別異の商標であるから、本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が請求人標章1ないし請求人標章3を連想、想起して、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であると誤認するとは認め難く、役務の出所について混同を生じさせるおそれがあるということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同法第8条第1項及び同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲




審理終結日 2009-12-09 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-02-15 
出願番号 商願2008-72744(T2008-72744) 
審決分類 T 1 12・ 271- Y (X44)
T 1 12・ 4- Y (X44)
T 1 12・ 26- Y (X44)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 田中 幸一 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 田村 正明
末武 久佳
登録日 2008-12-05 
登録番号 商標登録第5186322号(T5186322) 
商標の称呼 シブヤコマチクリニック、シブヤコマチ 
復代理人 前島 幸彦 
代理人 堀 城之 
代理人 田川 幸一 
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ