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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 117
管理番号 1209987 
審判番号 無効2008-890040 
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-05-21 
確定日 2010-01-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第1953147号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1953147号商標(以下「本件商標」という。)は、「テディベアー」及び「TEDDYBEAR」の文字を上下2段に横書きしてなり、昭和60年2月7日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として昭和62年5月29日に設定登録され、その後、平成9年5月27日及び平成18年12月26日の2回に亘り商標権の存続期間の更新登録がされているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証を提出している。
1 請求の理由
(1)「テディベア」及び「TEDDYBEAR」の名称については、証拠により次の事実が認められる。
(ア)米国第26代大統領であったセオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt 1858?1919)に関して、1902年、狩猟に出かけた際、一匹の小熊を追いつめたが、その熊を撃たず、命を助けたという逸話が残されている。
この名称は、1902年11月の「ワシントン・イブニング」(The Washington Evening)紙の漫画に載ったことから生まれたとされている(研究社2001年発行「英米児童文学辞典」340頁:甲第2号証)。
その後、その漫画を見た者が、ぬいぐるみの熊を作って販売することを思いつき、自己の店で販売するぬいぐるみの熊に、「Teddy’s Bear」(「Teddy」(テディ)は、セオドア・ルーズベルトの名である「Theodore」の愛称である。)という名を使うことについて、セオドア・ルーズベルトの許可を求めたといわれている。
また、「Teddy Bear」(又は「teddy bear」)という語は、米国において、独特の形をしたぬいぐるみの熊を意味する語として広く用いられるようになった。
(イ)大修館書店1999年発行「ジーニアス英和辞典」(改訂版6版1837頁)には、「Teddybear」という語について、「[しばしばt?](ぬいぐるみの)クマの人形《◆米国の第26代大統領Theodore Roosevelt(《愛称》Teddy)が猟で子グマを助けた漫画から;英米の子供はたいていこの種のものを1つは持っている》」と記載されている(甲第3号証)。
(ウ)小学館1998年発行「ランダムハウス英和大辞典」(第2版第6刷2782頁)には、「teddy bear」という語について、「1.ぬいぐるみのクマ」、「1907.米;Theodore Rooseveltの別称Teddyにちなむ;狩猟中、彼は子グマの命を助けてやったといわれることから」と記載されている(甲第4号証)。
(2)「Teddy bear」又は「teddy bear」(以下、これらをまとめて「teddy bear」という。)の語は、米国において、一般的に独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味し、我が国においても、独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられ、また、カタカナ表記の「テディベアー」又は「テディベア」(以下、これらをまとめて「テディベアー」という。)の語も、我が国において、独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられており、その名称は、誰もが自己の商品に自由に使用できるという共通の認識を有する状態になっていたといえる。
(3)したがって、「teddy bear」及び「テディベアー」の語の由来を考慮すると、ぬいぐるみと同一又は類似の商品のみならず、ぬいぐるみと強い関連性のある商品についてであっても、「teddy bear」又は「テディベアー」という語を商標として登録し、それを特定の商標権者が独占することは、セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード又はテディベアの愛称をもつ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図、又は誰もが自己の商品にその「テディベアー」等の名称を自由に使用できるという共通の認識を覆す意図があり、公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものとして、商標法第4条第1項第7号(以下、単に「7号」ということがある。)の規定に該当する登録無効事由が有するものといえるのである。
(4)本件商標に対しては、請求人が被請求人に対して請求した取消2007-300236号事件の審決取消請求訴訟において、知財高裁が平成20(行ケ)10014号平成20年5月15日判決によって、本件商標は7号に背反して登録されたものであるから、無効事由があることを示唆した説示をしているのである(甲第1号証)。
この判決の説示は、敗訴原告(本件審判請求人)をして本件審判を請求するに当たり、極めて有力な見解となったのである。
(5)7号に規定する「公序良俗」とは、一国におけるその時代の社会通念に従って、商標を指定商品又は指定役務に独占的に使用することが社会公共の利益に反するかどうかによって、取引の実情を通じて判断されるべき相対的な概念であり、また特定の国又は国民を侮辱するような商標や国際信義に反するような商標も、この規定に該当するものと解されている(有斐閣発行、網野誠著「商標」第6版327頁)。
ただ一口に国際信義といっても、その意味内容は様々な場合があり得るから、ケース・バイ・ケースで適用の可否は考えられて然るべきであろう。
(6)以上の理由により、本件商標をその指定商品について商標として被請求人に独占させることは、米国第26代大統領のセオドア・ルーズベルトの有名なエピソードに由来する「テディベアー」、「teddy bear」の名称を、何人も自由に使用できるという国民の共通認識を覆す意図が出願時にあったから、公正な競争秩序ないし公平の観念に反することになる。
したがって、本件商標は、7号に規定する我が国の公序良俗を害するおそれのある商標というべきである。
よって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号の規定に基づき、その登録は無効とされるべきである。
2 弁駁の理由
(1)請求人適格について
被請求人は、請求人は本件審判を請求するにつき、何ら利害関係を明らかにしていないと主張する。しかし、請求人は、被請求人との間で争った取消2007-300236号事件及び知財高裁平20(行ケ)10014号審決取消請求事件の当事者であった事実、そして前記知財高裁判決において裁判長から本件商標登録には無効事由の存在の余地があることが付言説示されている事実は、正に本件商標に対し登録無効審判を請求する利害関係を有するものというべきである。
したがって、被請求人の主張は失当である。
(2)本件商標の7号該当性について
(ア)7号の適用基準について
被請求人は、7号に該当する商標とは出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠き、商標法の予定する秩序に反する容認し得ないような場合に限られるとして平成15年5月8日判決、東京高裁平成14年(行ケ)第616号を引用するが、この事案は本件商標の「テディベアー/TEDDYBEAR」と同レベルの背景や観念を有する語に関するものではないから、比較にならない。
また、平成20年6月26日判決、知財高裁平成19年(行ケ)第10391号も本件商標と同レベルの背景や観念を有する語に関する事案ではないから、比較に値しない。
(イ)普通名詞としての「テディベアー」について
被請求人は、本件商標の7号適用は査定時と出願時の社会認識を勘案すべきとして、乙第1号証ないし乙第8号証の辞書を引用するが、一般辞書への言葉の掲載というものは、長期間経過後にはじめて実現するものであることを考えれば、本件商標の出願日(昭和60年2月7日)を基準とするような見解は失当である。
本件商標の語の由来は、すでに主張立証したとおり、100年以上過去の歴史的事件に基くものであり、その「ぬいぐるみ」なるものはその事件と同時発生的に誕生したものではないから、これを混同してはならない。被請求人はこれを、「自己の商標として自由に『選択』できる状態であった」と主張するが、「TEDDYBEAR」とは、正に米国大統領の愛称に由来する歴史上の人物に準ずる名称であるから、何人も自由に選択して登録できる状態にあるような語ではないのである。被請求人の見解は、動物の「BEAR」に対して通用するにすぎない。
被請求人の主張は、正に我が国商標法における先願主義の原則を悪用した利権屋擁護の主張である。
(ウ)エピソード又は小熊のぬいぐるみ固有の人気・著名性について
被請求人は、「テディベアー」、「teddy bear」の語の著名性を本件商標の出願時を基準に認定しようとするが、7号が規定する公序良俗とは日本国内ひとりの問題ではなく国際信義上の問題でもあることを忘却してはならないから、「ましてやセオドア・ルーズベルトのエピソードに由来することなど知られていようはずがない。」と反論すること自体おかしい。もしそのような主張が妥当であるとするならば、最初出願人において本件商標を採択した理由は何かと問いたいから、陳述書の提出を求める。
ところで、被請求人は「忠犬ハチ公」の商標登録例を引用しているが、これと本件商標とを対等と考えることはまず誤りである。「忠犬ハチ公」なる語や名称は伝説上の犬の名前であり、需要者がイメージ(観念)するのもその限りであり、犬という動物に対する愛称にすぎない。
これに対し、「テディベアー/TEDDYBEAR」といえば、正に実在した米国大統領の愛称と彼が出会った小熊との関係を需要者がイメージ(観念)する語であり、名称である。したがって、単なる熊の愛称ではない。
そこで、問題は、何人も当該名称を自由に使用できるかどうかを考える前に、この名称ないし語を一私企業に独占排他させる商標権というものを付与してよい合理的理由があるかどうかを考えることである。したがって、この点について、的確に答えていない被請求人の反論は理由になっていない。
また、本件において問題となるのは、本件商標が表示する片仮名と英語とからなる語であって、ぬいぐるみ自体でないから、両者を混同してはならない。
(エ)本件商標の使用について
被請求人は、本件商標は長年に亘り平穏に安定して使用されているから、何ら競業秩序を乱すものではないと主張し、その理由を「セオドア・ルーズベルトのエピソード」など、法的保護の対象となっていないあいまいな概念をもって商標登録を排除し、既存の法律に影響を及ぼすことは、法的安定性を著しく損ない、ひいては商標制度への信頼を失わせることになることを挙げているが、誤りである。
まず、被請求人が主張の前提として挙げている審決事件は商標法第50条の登録取消審判事件であって、登録無効審判事件ではない。そして、この審決理由の中から、被請求人の主張の根拠となる広く公序良俗を害するおそれがあることにはならないという内容を汲み取ることはできない。
したがって、本件商標を7号を理由として登録無効とすることは法的安定性を損ない、商標制度への信頼を失わせることになるというような主張は、商標法第47条第1項に規定する除斥期間該当の登録商標に対する無効審判請求の不可に対する見解であって、7号適用の本件商標に対して主張されるべき見解ではない。
(オ)平20(行ケ)10014号判決の既判力について
被請求人は、請求人が引用した知財高裁判決に対し既判力を云々しているが、お門違いの主張である。
請求人は、その判決で裁判長が最後に付言として示唆している説示を引用しているのであり、特許庁にその説示の妥当性の判断を求めているのである。
(カ)国際信義について
被請求人は、本件商標を長年使用してきたから、米英の国民感情を害したり、両国関係が悪化した事実はないと主張するが、7号の規定において広く国際信義に反する商標の登録を不可とする証拠は、「テディベアー/TEDDYBEAR」なる名称の語源はすでに主張しているように、米国大統領と小熊との出会いにあり、これから可愛い小熊のぬいぐるみに発展した歴史的背景を考えると、この名称は米国の誇る一つの文化的遺産ともいえるものであり、これは我が国においても親しまれている名称であるから、本件商標の登録を一私企業に依然として認めたままでいることは、我が国と米国との国際信義に反する行為となり、両国の国民的公益を損うおそれがあり、また「テディベアー/TEDDYBEAR」のもつ顧客吸引力の大きさを考えるとき、本件商標の一私企業による独占的使用を認めることは、極めて不当であるというべきである。
したがって、このような要素からなる本件商標は、7号に該当する商標として無効とされるべきである。
(3)我が国における「テディベア美術館」について
伊豆急行線伊豆高原駅から約9分のところに「伊豆テディベア・ミュージアム」がある。このミュージアムは1995年4月に開館され今日に至っているが、関口芳弘同館長は次のようなメッセージを発表している(甲第5号証)。「テディベアがこの世に生まれて、100年以上の時が流れました。その間、多くの人々がテディベアを愛し、そのぬくもりを大切にしてきました。テディベアは、その存在を大切にする人にとって、悲しい時にはなぐさめの言葉を、うれしい時には微笑みを投げかけてくれる大切な友人です。私たちは、こうしたテディベアが届けてくれる暖かい心をより多くの方々に知っていただきたいという願いから、このミュージアムを開設しました。個性豊かなテディベアたちが、あなたの心の中に優しく語りかけ、幸せを運んでくれることを願っております。」
これを読んでもなお、被請求人は本件商標に係る「テディベアー」と「TEDDYBEAR」の名称の使用を、当該指定商品について独占することは問題はないと反論するのだろうか。このミュージアムには、1000体のテディベアのコレクションが展示されているというから、世界中からの作品がここに集められていることになる。
テディベアに関する美術館は各地に存在し、飛騨高山テディベアエコビレッジ(岐阜県高山市西之一色町)や蓼科テディベア美術館(長野県北佐久郡立科町白樺湖)は、いずれも多くの観光客を集めて有名である。
これらの美術館に陳列展示されているものは、すべて「テディベア」の名称がついているものであるところ、その名称が先にあってのぬいぐるみであって、ぬいぐるみが先にあっての「テディベア」の名称ではないことを承知していただきたい。
(4)セオドア・ルーズベルト大統領の知的財産権について
「TEDDY BEAR」は、米国のセオドア・ルーズベルト大統領のニックネームであり、「TEDDY BEAR」は「ルーズベルトの小熊」として知られている。そもそも「TEDDY BEAR」がルーズベルト大統領のエピソードによって1902年に誕生していることは、多くの人が知るところであり、現在は、米国もとより全世界で「TEDDY BEAR」は米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトの知的財産権として認められている。
「Teddy」は「セオドア・ルーズベルト大統領」のニックネーであり、現在でも、第二次大戦当時の有名な「フランクリン・ルーズベルト大統領」と区別するため、アメリカ人が「セオドア・ルーズベルト」を「Teddy」の愛称で呼ぶのが一般的な習慣となっている。「テディベア」のエピソードを伝える当時の新聞記事を提出する(甲第7号証)。
(5)正規の使用権者について
1907年、セオドア・ルーズベルト大統領の偉業を称えるために公益法人「セオドア・ルーズベルト協会」が設立された。請求人は、平成17年4月15日、同協会と契約して同協会の知的財産である「テディベア」商標の日本での使用権を得ている立場である(甲第8号証)。協会が請求人に与えた「委任状」(甲第9号証)及び請求人が協会から日本国内での「商標出願」を行うことを認められた書類(甲第10号証)を提出する。「セオドア・ルーズベルト協会」は米国国民の尊敬を集めた公的機関である(甲第11号証)。
セオドア・ルーズベルト大統領は日露戦争を仲裁した日本の大恩人であり、上記ルーズベルト協会では、日米の政財界からの強い要請もあって、2005年9月に「日露戦争終結100周年記念行事」を行った。米国では、2005年、ニューハンプシャー州のダートマス大学において日露講和条約調印100周年を記念する国際会議が開催された(甲第12号証)。
日本では、日本海海戦に関係した「東郷神社」で、5月28日に「100周年記念式典」が行われ、日本を代表する政財界の人々が参列した(甲第13号証)。
それらの行事の一環として、セオドア・ルーズベルト協会が2005年9月に行った「日露戦争終結100周年」を記念するための商品化をし、その収入を日米同事業の活動資金にしたいとの要請に従い、請求人がその事業を行ったところ、被請求人による商標権侵害の抗議等の妨害を受けその事業を中止せざるを得なくなっている。
また、同協会からの依頼により請求人が「ROOSEVELT TEDDY BEAR」の商標登録出願を行ったところ、本件商標等により類似商標として登録を拒まれている。
そのために、上記協会より「他人の著名名称を日本の会社が無断で商標登録し、かつ同事業の妨害を行った」と大変な非難を浴びた。
以上の事情があり、被請求人の不正な商標登録、その維持、そして事業の継続には反対している。
(6)被請求人の商標登録行為について
最近も「イナバウアー商標事件」の新聞報道がされたが、近年の「知財高等裁判所」設立以来、日本でも商標の「先願主義」の行き過ぎが否定されている。その商標が外国で如何に著名であるかが尊重されている。その点従来の日本にあった「先願主義」(早い者勝ち)の考えは時代に即さず、多くが否定されている。それらの類似事件として、a)イナバウアー、b)キューピー運送会社、c)くまのプーさん、d)赤毛のアン、e)ELLE、f)CHANEL、g)阪神優勝、h)キューピー食品会社が挙げられる(甲第14号証ないし甲第16号証)。
本件商標は、その最たるもので、被請求人は米国のセオドア・ルーズベルト大統領の著名性と信用性を悪用して金儲けを行う行為であり、アメリカ国内でも大変な非難を受けている。
請求人が本件商標を出願した当時「昭和60年」は今から22年前であり、その当時との商標権を含めた「各知的所有権」の認識は大きく進化しており、そのような傾向を踏まえての判断を期待したい。
(7)被請求人の不正使用について
被請求人等は「株式会社ドウシシャ」(以下「ドウシシャ」という。)に本件商標を使用させ、多額の使用料を受け取っている。それらは過去の審決取消審判(平成20年行(ケ)第10014号)の証拠として、被請求人が提出したものに裏付けられている(甲第17号証)。
被請求人は、ドウシシャが洋服・テキスタイル商品等の主力商品についての商標使用許諾を受けている「株式会社友企画」(以下「友企画」という。)に、本件商標についての専用使用権の設定をさせていることを見てもそれが分かる。
ドウシシャは、本件商標をあたかも前述の「セオドア・ルーズベルト協会」の「テディベアー」に関連があるように商品を販売している。それに対して何の支払いも行わず、いわゆる只乗りの状況である。
特に、それらの商品には、上記エピソードの「1902年」の年号が強調して表示されていることを見れば、その便乗ぶりが窺える。
日本の消費者は、決して「テディベアー」の商標に魅力があるのではなく、「セオドア・ルーズベルト協会」に関連する有名な「小熊」を評価して本件商標の関連商品を購入しているのである。
そうであれば、消費者を欺くものであり、また不正な取引を行っているといわざるを得ない(甲第18号証)。
(8)友企画は、米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトを記念して誕生し、世界的に有名な「TEDDY BEAR」を不正に使用させ多額な収益を上げている会社である。そもそも、同社は、元代表小川友久氏(現代表はその配偶者である)が勤務していた帝人株式会社を退職する時に本件商標をタダ同然で譲渡を受け、それを盾にドウシシャと組み「TEDDY BEAR」と関係があるように日本の消費者へ信じ込ませ、大金を得ている不正な会社である。
帝人は本件商標を自ら使用することは反社会的と判断し、被請求人に譲渡したと噂されている。
友企画の本社は、吉祥寺の住宅街にあり全く実態がなく単に本件商標をドウシシャに不正使用させ利益を上げているにすぎない。その実情を説明する為興信所の調査資料を提出する(甲第19号証)。
ドウシシャは、上記「TEDDY BEAR」を販売するにあたり、友企画と契約して本件商標の使用を独占的に得ている会社であり、両社は共同で「TEDDY BEAR商品」を販売し利益を上げている。
「株式会社雄鶏社」は、女性用手芸商品販売で日本を代表する会社であるが不正に「TEDDY BEAR」商標を登録し所有し、やはりドウシシャにそれを使用させ多額な収益を得ている会社である。その登録商標について、友企画に専用使用権を設定させ共同でドウシシャに協力している。
これら3社企業の商標活動は、不正なもので公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものである。
(9)むすび
本件商標が7号に該当するとして登録無効となった場合、何人も「テディベアー/TEDDYBEAR」の名称を商標として自由に使用できるから混乱が起こることを危倶することと、一私企業が独占排他の使用権を有していてよいこととは別の問題であり、商標法の精神と保護要件を考えれば、広く公序良俗の思想を解し、需要者の利益を保護することに意を尽すべきである。
そして、何人でも当該名称を自由に使用することによって市場の混乱が起るのであれば、その時は不正競争防止法などの他法による取締りを考えればよいのである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出している。
1 請求人適格の欠如
請求人は、本件審判を請求することにつき、何ら利害関係を明らかにしていない。したがって、本件審判の請求は、不適法であって、その補正をすることができないから、審決をもって却下すべきものである。
2 本件商標の7号該当性について
(1)7号の適用基準
商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第616号参照)。
また、出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨に照らすならば、それから離れて、7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである(東京高裁平成19年(行ケ)第10391号参照)。
そこで、上記の観点から検討すると、以下のとおり、本件商標の出願の経緯が著しく社会的な相当性を欠くといえるような事実ないし商標登録出願を排除する特段の事情を構成するとは考えられないので、公序良俗違反はない。
(2)普通名詞としての「テディベアー」
請求人は、「teddy bear」の語は、米国において、独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味し、我が国においても、独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられ、またカタカナ表記の「テディベアー」の語も、我が国において、独特の形をした小熊のぬいぐるみを意味する普通名詞として用いられており、その名称は、誰もが自己の商品に自由に使用できるという共通の認識を有する状態になっていたといえる、と主張する。
しかしながら、出願された商標が7号に該当するかどうかについては、査定時に判断し、また、出願の経緯については、出願時の社会認識を勘案すべきところ、本件商標の出願日である昭和60年2月7日の前後に発行された各種の国語辞典及びカタカナ語辞典のいずれにも、「テディベアー」及びこれと実質的に同一の語は収録されていない(乙第1号証ないし乙第6号証)。収録語数の多さと詳しい解説によって、我が国で代表的な辞書となっている広辞苑をみると、平成20年に入って初めて「テディベアー」の語が収録されている(乙第7号証及び乙第8号証)。したがって、昭和60年当時、「テディベアー」の名称が、「熊のぬいぐるみ」を意味する普通名詞として意識されていたとは考えられない。
仮に、「teddy bear」及び「テディベアー」の語が「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」を意味する普通名詞として意識されていたとしても、取引者・需要者がその名称を商標として自由に使用できるという共通の認識を有するのは、せいぜい「ぬいぐるみ」についてのみである。これ以外の商品については、自己の商標として自由に「選択」できる状態であったというべきである。このような商標選択の自由を前提として、複数の商標が競合した場合の権利関係を明確にするために、我が国商標法は、最先の出願人に登録を認める先願主義の原則を採用しており、その趣旨に沿って、本件商標の出願人は、自己の使用を確保するために、本件商標を出願したものである。
したがって、「テディベアー」の名称は、誰もが自己の商品に自由に使用できるという共通の認識を有する状態になっていたといえる、という請求人の主張は、誤りである。
(3)エピソード又は小熊のぬいぐるみ固有の人気・著名性
請求人は、「テディベアー」の語の由来を考慮すると、ぬいぐるみと同一又は類似の商品のみならず、ぬいぐるみと強い関連性のある商品についてであっても「テディベアー」という語を商標として登録し、それを特定の商標権者が独占することは、セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード、又はテディベアの愛称をもつ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図がある、と主張する。
しかしながら、前記のとおり、昭和60年当時、「テディベアー」の名称が「熊のぬいぐるみ」を意味する普通名詞として意識されていたとは考えられないので、便乗すべき人気や著名性はないし、ましてや、セオドア・ルーズベルトのエピソードに由来することなど知られていようはずがない。
また、請求人は、「セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード」に「便乗する意図がある」と主張するが、請求人が本件商標の登録の取消審判である取消2007-300236事件において提出した甲第1号証(本件審判事件の乙第9号証)には、「現在この熊のぬいぐるみは『テディベア』として知られていますが、これがルーズベルト大統領の愛称、『テディ・ルーズベルト』にちなんで付けられた名前であることはあまり知られていません。」と記載されている。米国においてさえ、あまり知られていないエピソードに、ましてや、我が国で、しかも23年前に、便乗するメリットがあろうはずがない。
そして、特定の事物でも著作物でもないエピソード自体は、商標法はもちろん、他の法律によっても保護されるものではないし、これに基づく商標が、公正な競業秩序ないし公平の観念に反するものであるということもできない。例えば、「忠大ハチ公」の有名なエピソードを想起させる「ハチ公」の語よりなる商標及びこれを構成中に含む商標は、多数登録されている(乙第10号証)が、商標権者と、エピソードの舞台である渋谷区及び渋谷駅周辺の商店街、ハチ公の飼い主の遺族を含め、第三者との間で紛争が生じた事実はない。
以上のとおり、セオドア・ルーズベルトのエピソードや小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性が、国家・社会の利益として保護されるべき特段の事情はない。したがって、「テディベアー」という語を商標として登録し、それを特定の商標権者が独占することは、セオドア・ルーズベルトの有名なエピソード、又はテディベアの愛称をもつ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図が出願時にあったとして、公正な競争秩序ないし公平の観念に反するものであるという、請求人の主張は誤りである。
また、商標法が商品同士の関連性について規定するのは、類似概念のみであるところ、本件商標の指定商品は、いずれも、「ぬいぐるみ」とは非類似であるし、商品及び役務の区分も異なるから、「ぬいぐるみと強い関連性のある商品」ではない。請求人は、ぬいぐるみと同一又は類似の商品及びぬいぐるみと強い関連性のある商品について公序良俗の問題が生じると主張しているので、ぬいぐるみと強い関連性のない商品については公序良俗の問題はないことになる。ここで、「ぬいぐるみと強い関連性のある商品」とは何か、なぜ本件商標の指定商品がこれに該当するのか、なぜ「ぬいぐるみと強い関連性のある商品」とそれ以外の商品を区別するのかについて、何ら主張立証されていない。
(4)本件商標の使用
被請求人は、昭和63年から株式会社エトワール海渡、ドウシシャ等と使用許諾契約を締結し、現在に至るまで本件商標を使用してきた。株式会社エトワール海渡が、平成2年4月の時点で、ジャケット、ズボン、スカート、パーカー、トレーナーに「TeddyBear」の欧文字からなる商標を使用していることは、本件商標の登録の取消審判である平成2年審判第15077号の審決によって明らかである(乙第11号証)。また、ドウシシャがタオルについて前記商標を使用していることも、取消2007-300236の審決によって明らかである。
このように、本件商標は、長年に亘り平穏に安定して使用されており、何ら競業秩序を乱すものではない。
そして、前記のとおり、本件商標は、商標権が存在することを前提として、使用許諾契約が締結され、これに基づいて使用されてきたのであるから、「セオドア・ルーズベルトのエピソード」や「小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性」等、法的保護の対象にもなっていない、あいまいな概念をもって、商標登録を排除し、既存の法律関係に影響を及ぼすことは、法的安定性を著しく損ない、ひいては、商標制度への信頼を失わせることになる。
(5)平成20年(行ケ)第10014号判決の既判力
請求人は、取消2007-300236事件の審決取消訴訟において、知財高裁が平成20年(行ケ)第10014号判決によって、本件商標は7号に背反して登録されたものであるから、無効事由があることを示唆した説示をしている、と主張する。
しかしながら、確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有するのが原則である(民事訴訟法第114条第1項)。上記説示は、判決理由中にあるので、本件審判において、何ら拘束力はない。
また、上記判決は、本件商標について、「商標登録の無効事由を構成する余地がある」と述べるにとどまり、無効事由の有無について、詳細な検討がされているものではない。
(6)国際信義
請求人は、「ただ一口に国際信義といっても、その意味内容は様々な場合があり得るから、ケース・バイ・ケースで適用の可否は考えられて然るべきであろう。」と主張するが、本件商標に適用されるか否かについて、何ら主張立証されていない。
しかしながら、あえて反論すると、甲第2号証に「テディ・ベアが英米でいかに愛されているかが理解できる物語になっている。」との記述があるが、本件商標が登録されてから21年経過し、長年使用されてきたにもかかわらず、英米の国民感情を害したとか、我が国と英米との関係が悪化したという事実はない。
したがって、本件商標は、国際信義に反する商標ではない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、その出願の経緯が著しく社会的な相当性を欠くといえるような事実ないし商標登録出願を排除する特段の事情を構成するとは考えられないので、7号に規定する公序良俗を害するおそれのある商標でないことは明らかである。
したがって、本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 請求人適格について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有するか否かについて、当事者間に争いがあるので、まず、この点について検討する。
請求人は、被請求人に対し、本件商標について商標法第50条第1項の規定に基づく商標登録の取消審判を請求し、さらに当該審判の審決の取消訴訟を提起したところ、当該訴訟の判決において本件商標の登録に無効事由を構成する余地がある旨示唆されたことが明らかである(甲第1号証)。
したがって、請求人は、本件商標についてその登録の無効を求めることには理由があり、本件審判の請求をする利害関係を有するものというべきである。
そこで、以下、本案に入って審理する。
2 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件審判は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとして同法第46条第1項第1号の規定に基づき本件商標の登録の無効を求めるものであるところ、7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するような場合、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるものというべきである。そして、当該商標登録が特定の国との国際信義に反するかどうかは、当該商標の文字・図形等の構成、指定商品又は指定役務の内容、当該商標の対象とされたものがその国において有する意義や重要性、我が国とその国の関係、当該商標の登録を認めた場合にその国に及ぶ影響、当該商標登録を認めることについての我が国の公益、国際的に認められた一般原則や商慣習等を考慮して判断すべきである(知的財産高裁、平成17年(行ケ)第10349号、平成18年9月20日判決参照)。
また、上記判断は、行政処分(商標登録の許否が一の行政処分であることはいうまでもない。)の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合におけると同じく、特別の規定の存しない限り、行政処分時、すなわち査定時又は審決時(査定不服の審判)を基準とすべきものと解される(東京高裁、昭和45年(行ケ)第5号、昭和46年9月9日判決参照)。このことは、商標法第4条第3項において同条第1項第8、第10、第15、第17及び第19号については出願時をも基準とすべき例外規定をおいていることからも首肯し得るものである。
なお、同法第46条第1項第5号において、商標登録後に当該商標登録が同法第4条第1項第1ないし第3、第5、第7又は第16号に該当するものとなっている場合には商標登録の無効の審判を請求することができる旨規定しているが、本件は、上記のとおり、同法第46条第1項第1号の規定に基づく審判の請求である。
以上を前提として、以下、本件商標が7号に該当するものであるか否かについて検討する。
(2)「テディベアー」及び「teddy bear」の語について
(ア)請求人及び被請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。
(a)研究社(2001年4月)発行「英米児童文学辞典」の「teddy bear」の項には、「テディ・ベア(クマのぬぐるみ).この名はアメリカ大統領シオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt,1858-1919)が狩猟中にクマの子を見つけ、これを見逃してやったエピソードが1902年11月の『ワシントン・イヴニング』(The Washington Evening)紙の漫画に載ったことから生まれた.子ども向けの本で最も有名なテディ・ベアは『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh)で、この場合はエドワード・ベアの愛称.・・・」と記載されている(甲第2号証)。
(b)大修館書店(1999年4月1日改訂版6版)発行「ジーニアス英和辞典《改訂版》2色刷」の「Teddy」の項には、「《愛称》テディー(→Theodore).?bear[しばしばt?](縫いぐるみの)クマの人形《◆米国の第26代大統領Theodre Roosevelt(《愛称》Tdeddy)が猟で子グマを助けた漫画から;英米の子供はたいていこの種のものを1つは持っている》.」と記載されている(甲第3号証)。
(c)小学館(1998年1月10日第2版第6刷)発行「小学館ランダムハウス英和大辞典」の「teddy bear」の項には、「1縫いぐるみのクマ.・・・⇒BEAR^(2)10.[1907.米;Theodre Rooseveltの別称Teddyにちなむ;狩猟中、彼は子グマの命を助けてやったといわれることから]」と記載されている(甲第4号証)。
(d)岩波書店(1986年10月8日第4版第1刷)発行「岩波国語辞典第4版」、新潮社(昭和60年11月10日第1版第1刷)発行「新潮現代国語辞典」、旺文社(1986年10月20日)発行「旺文社国語辞典」、学習研究社(1987年7月20日)発行「マスコミに強くなるカタカナ新語辞典」、有紀書房(1989年5月2日)発行「国際社会に役立つ最新カタカナ語辞典」、教育図書(昭和63年2月10日4版)発行「ど忘れカタカナ語辞典」、岩波書店(1998年11月11日第5版第1刷)発行「広辞苑第5版」のいずれにも「テディベアー」又は「テディベア」の項目はない(乙第1号証ないし乙第7号証)。
(e)岩波書店(2008年1月11日第6版第1刷)発行「広辞苑第6版」の「テディー・ベア[teddy bear]」の項には、「熊のぬいぐるみの一種。テディーは、狩猟好きのアメリカ大統領Tルーズヴェルト(愛称テディー)が木につながれた小熊の命を助けたという[ワシントンポスト]紙の漫画に因む名。」と記載されている。
(f)「1902年11月にニューヨーク・タイムズ紙で紹介それが『TEDDY BEAR』のはじまりです」との表題が付された書面(請求人の説明によれば新聞記事)には、「テディベアの歴史」(翻訳文)として、「1902年11月、セオドア・ルーズベルト元大統領は友人達とミシシッピーに狩猟に出かけました。数時間も歩き回りましたが、野生動物にはなかなか遭遇しません。ついに、一行は一匹の子熊を追い詰め、取り囲みました。ガイドの一人が、ルーズベルト大統領にその熊を撃つように促しましたが、彼はそれを拒否しました。このエピソードがルーズベルト元大統領の優しい行為として国中に広まりました。それからまもなくして、有名な風刺漫画家であるクリフォード・K・ベリーマンが、ルーズベルト大統領の熊を救ったエピソードを元に漫画にし、それを見たある店の主人が自分の店で熊のぬいぐるみを作って販売する事を思いつきました。彼は自分の店で販売するぬいぐるみに『テディベア』という名前を使わせてくれるようルーズベルト大統領に許可を求めました。現在この熊のぬいぐるみは『テディベア』として知られていますが、これがルーズベルト大統領の愛称、『テディ・ルーズベルト』にちなんで付けられた名前であることはあまり知られていません。」と記載されている(甲第7号証及び乙第9号証)。
(イ)以上の認定事実によれば、「teddy bear」の語は、米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトが1902年に狩猟中に一匹の子熊を追い詰めたが撃たずに助けたというエピソードに由来する語であり、英米では「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」を意味する語として知られているものといえる。そして、「teddy bear」のカタカナ表記である「テディベアー」の語は、現在においては、我が国においても「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」を意味する語として知られているといえるものの、上記ルーズベルト元大統領のエピソードについてはそれ程知られていないというべきである。
しかも、本件商標の登録出願時及び登録査定時の前後に我が国において出版された国語辞典等には「テディベアー」についての項目がなく、2008年(平成20年)に発行された辞典において初めて「テディー・ベア」の項目が搭載されたことからすると、本件商標の査定時においては「テディベアー」の語自体についてさえ我が国ではそれ程知られていなかったものと推認される。まして、上記ルーズベルト元大統領のエピソードが一般に広く知られていたものとはいい難い。
仮に、「テディベアー」の語が「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」を意味する語として認識されていたとしても、これを自己の商品について自由に使用できるのはせいぜい商品としての「ぬいぐるみ」についてであって、それ以外の商品については自他商品を識別する商標として誰でも選択・使用することができる状態にあったというべきである。
(ウ)また、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、上記ルーズベルト元大統領のエピソードに由来する「独特の形をした小熊のぬいぐるみ」が「teddy bear」として、例えば、米国を象徴する存在となっているとか、米国民の重要な文化的資産として認識されているとか、米国民共通の財産として公的機関によって指定ないしは保護されているとか、特定の個人がその名称を使用することが米国政府によって制限されているとか、その名称使用に対し米国政府から抗議を受けたり、米国の国民感情を害したとか、我が国と米英との関係が悪化したというような事実を示す証左はない。
(エ)請求人は、平成20年11月18日提出の弁駁書において、「テディベアー」は米国第26代大統領セオドア・ルーズベルトの知的財産権であり、公益法人「セオドア・ルーズベルト協会」から「テディベア」商標の日本での使用権を得ている旨主張し、証拠を提出しているが、上記ルーズベルト元大統領の知的財産権であるとの主張は、当初請求人が主張していた「テディベアーの名称は誰でもが自己の商品に自由に使用できるという共通の認識を有する状態になっていた」ことと矛盾するものであり、直ちにその主張を採用することはできない。
しかも、提出された証拠(甲第8号証ないし甲第13号証)は、本件商標の登録出願後20年以上も経過した時点でのものであり、本件商標の登録出願時及び登録査定時における事情を立証するものとはいえない。
なお、上記セオドア・ルーズベルト協会から我が国が非難、抗議を受けたような事実を示す証左はない。
(オ)請求人は、ぬいぐるみと同一又は類似の商品のみならず、ぬいぐるみと強い関連性のある商品についても「teddy bear」、「テディベアー」の語を商標として登録することは、上記ルーズベルト元大統領のエピソード又はテディベアーの愛称をもつ小熊のぬいぐるみ固有の人気や著名性に便乗する意図、又は誰でもが自己の商品に「テデイベアー」の名称を自由に使用できるという共通の認識を覆す意図がある旨主張するが、前示のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、上記エピソードは知られていたとは認められないし、「テディベアー」の語自体それ程知られていたとはいえない以上、その人気や著名性に便乗する意図等があったものとはいえない。
(3)請求人は、平成20年11月18日及び同月19日提出の弁駁書において、被請求人は本件商標を使用許諾し使用権者に不正使用させている旨主張し、証拠(甲第17号証ないし甲第19号証)を提出しているが、提出に係る証拠を精査しても、使用権者による本件商標の使用が直ちに不正なものと認めることはできないし、もともと、これらの証拠は本件商標の登録出願及び登録査定当時の事情を立証するものではない。
また、請求人は、近年は日本における商標の先願主義の行き過ぎが否定されており、従来の早い者勝ちの考え方は時代に即さず否定されている旨主張し、証拠(甲第14号証ないし甲第16号証)を提出しているが、該証拠において示された事件は、本件とは商標が異なるばかりでなく、商標の周知著名性、商標の採択・使用の事情等が本件とは異なるものであり、同列に論ずることはできないものである。
(4)他方、本件商標は、上記第1のとおり、「テディベアー」及び「TEDDYBEAR」の文字からなるところ、「テディベアー」及び「TEDDYBEAR」の文字自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないことは明らかであるし、他の法律等によってその使用が禁止されているものでもない。
そして、上記(2)の事情からすれば、本件商標が米国若しくは米国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものとは認められないばかりでなく、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないということもできない。
したがって、本件商標は、公正な競争秩序又は公平の観念に反するものではなく、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とは認められない。
(5)なお、請求人は、知的財産高裁平成20年(行ケ)第10014号判決を根拠にして本件商標が7号違背で登録されたものであるが如き主張を行っているが、同判決は、その理由中において本件商標には商標登録の無効事由を構成する余地があると指摘するにとどまるものであるし、もとより、同判決は、商標登録の無効審判である本件とは異なり、商標法第50条第1項の規定に基づく商標登録の取消審判の審決取消訴訟に係るものであって、商標登録の無効事由について詳細に検討したものではなく、その既判力ないしは拘束力が本件に及ぶものではない。すなわち、審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから、再度の審理又は審決には、同法第33条第1項の規定により、同取消判決の拘束力が及び、この拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものである(東京高裁、平成12年(行ケ)第413号、平14.6.19判決参照)。しかるに、本件審判は、無効審判の審決取消訴訟に係る取消判決の再度の審判でもなく、上記商標登録の取消審判とは別個のものであり、上記平成20年(行ケ)第10014号判決が本件の審理判断に影響を及ぼすものではない。
(6)また、請求人は、平成21年1月15日付け差出しの上申書において、甲第20号証を提出し、中国での日本の地名の商標登録問題を取り上げ、「テディベア」がアメリカ第25代大統領「セオドア・ルーズベルト」を記念した名称として著名であることを理由に本件商標を登録することは、中国の特許庁の判断と同様であり好ましくない旨述べているが、中国での当該商標登録問題と本件とは何ら関係を有するものでないこと明らかであるから、本件の審理判断に影響を及ぼすものでものではない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号の規定によりその登録を無効にすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2009-01-28 
結審通知日 2009-02-02 
審決日 2009-02-16 
出願番号 商願昭60-9965 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (117)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 林 二郎
特許庁審判官 杉山 和江
小畑 恵一
登録日 1987-05-29 
登録番号 商標登録第1953147号(T1953147) 
商標の称呼 テディベアー、テッディーベアー 
代理人 岡田 稔 
代理人 坂上 正明 
代理人 曾我 道治 

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