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審決分類 審判 一部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない Z25
審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Z25
管理番号 1205309 
審判番号 無効2006-89164 
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-16 
確定日 2009-10-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第4558874号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4558874号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成13年6月28日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」を指定商品として、同14年3月5日に登録査定、同14年4月12日に設定登録されたものであるが、その後、商標登録の無効審判により、指定商品中「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品」についての登録を無効とすべき審決がされ、同17年1月21日にその審判の確定登録がされたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の指定商品中「洋服,コート,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第136号証(枝番を含む。)を提出した。
なお、請求人は、当初、本件審判請求書の「請求の趣旨」において、本件商標の指定商品中「洋服,コート,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)及びこれらの類似商品」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めていたが、その登録を無効とすべき指定商品中「これらの類似商品」の部分を客観的で明確な表示等にするよう平成21年7月16日付け手続補正指令書を発したところ、同年7月22日付け手続補正書により、「請求の趣旨」に記載した登録を無効とすべき指定商品中から「及びこれらの類似商品」の部分を削除する補正をした。
1 請求の理由
本件商標は、請求人の業務にかかる商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって、その商品である「洋服,コート,靴下,手袋,マフラー,帽子,ベルト,履物その他これに類似する商品」について使用するものであり、商標法第4条第1項第10号及び同法第4条第1項第11号に該当するにも拘わらず登録されたものであるから、同法第46条第1項に基づき一部無効とされるべきものである。
(1)請求人の引用する商標
ア 商標法第4条第1項第10号に対して
請求人が第25類「洋服,コート,靴下,手袋,マフラー,帽子,ベルト,履物その他これに類似する商品」に使用する「CHOOP」の欧文字からなる商標(以下「引用商標1」という。)は、本件商標の出願時点である2001年頃には既に「シュープ」の称呼によって需要者や取引者の間で周知となっていた商標である。
イ 商標法第4条第1項第11号に対して
(ア)登録第4006582号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(2)のとおりの構成よりなり、平成6年1月27日に登録出願、第25類「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、同9年6月6日に設定登録され、その後、同19年6月12日に商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。
(イ)登録第4545251号商標(以下「引用商標3」という。)は、別掲(3)のとおりの構成よりなり、平成13年4月16日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,帽子,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、同14年2月22日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
(ウ)登録第4545253号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲(4)のとおりの構成よりなり、平成13年4月16日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,帽子,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、同14年2月22日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
(2)引用商標1の周知性について
引用商標1は、本件商標出願時には「シュープ」の称呼として既に需要者の間に周知となっていることは以下に例示する種々の証拠によって明らかである。
(A)引用商標1の周知性獲得の推移
ア 引用商標1の使用開始
引用商標1は、1994年頃から使用を開始しており、これはボイス情報株式会社発行の「ライセンスビジネス名鑑2003〔ブランド編〕」の19頁に掲載されているブランド開始年表の1994年の欄、及び194頁の「CHOOP(シュープ)」の「開始年」の項の記載により明らかである(甲第3号証)。
イ 雑誌による引用商標1の周知化.
(ア)1994年?1995年
引用商標1を使用し始めた頃は、「CHOOP」は「シュープ」と称呼するものであることを特に需要者に印象付けるためにそのための説明を加えるなどの特別の努力を払っていた。
例えば、1994年12月及び1995年1月発行の少女向け雑誌である「Zipper」(甲第4号証及び甲第5号証)には、「CHOOP」の文字の下に、「シュープから始めよっ」「カジュアルのニューエントリィ〈シュープ〉」と「シュープ」の称呼を印象付けるべく特別大きな片仮名文字で表した記載がある。これは「CHOOP」の記載が「シュープ」と称呼することを需要者に認知させることを図ったもので、同時期の他の雑誌にも一斉に同様に掲載された。例えば、1994年11月発行の「CHECK MATE」(甲第6号証)や1994年12月発行の「mcSister」(甲第7号証)、1995年1月発行の「SEDA」(甲第8号証)などである。
また、1995年5月発行の雑誌「Lemon」には(甲第9号証)、「CHOOP」の文字と「シュープ」が併記され、かつ、囲み枠で「シュープってなーんだ!?」のタイトルの下に当該ブランドについて紹介されている。このような「CHOOP」ブランドの紹介記事は、1994年11月及び1995年4月発行の「Zipper」(甲第10号証及び甲第11号証)など数多く掲載されている。
さらに、1995年11月発行の「POMME」(甲第12号証)や1995年11月発行の「Lemon」(甲第13号証)でも、「CHOOP」のブランド説明や「CHOOP」を「【シュープ】と読みます!とーぜん知ってた!?」などと「シュープ」の称呼の周知化を図ることを目的とした宣伝広告が行われている。
(イ)1996年?1998年頃
1996年10月に雑誌「Olive」(甲第14号証)が発行される頃には、「CHOOP」すなわち「シュープ」であるとの認識が定着し、「シュープ」としての称呼のみならず「シュープ」の表記が商標的機能を発揮して一人歩きしている。
すなわち、甲第14号証には、欧文字「CHOOP」を除いた片仮名文字の「シュープ」のみの記載が多く表されている。例えば、「『シュープ』の秋の人気者たち、勢ぞろいだよ!」とか、「アメリカ西海岸で生まれた『シュープ』は、元気いっぱいのカジュアルブランド。」、「秋の『シュープ』の注目はプリントシャツにふわふわニット」等である。
そして、初期の頃のような懇切丁寧な「シュープ」のブランド説明などはする必要も無くなり、1997年頃の雑誌広告には省略されるようになった(甲第15号証)。
また、片仮名文字「シュープ」単独でも商標「CHOOP」としての機能を発揮するようになり、例えば、1998年4月発行の「Olive」(甲第16号証)には、「アクティブに着こなせ!『CHOOP/シュープ』のカラフル旋風。」の表題の下「シュープ」単独の表記が商品の出所を示す機能を果たしており、その証拠として「スニーカー¥3,900(シュープ/丸五工業)」、「ベルト各¥1,900(シュープ/エタニティー)」等の記載が頻出している。
このように、すでにこの頃には片仮名文字「シュープ」という表記をすれば当然商標「CHOOP」のことを指し示しているものと一般的に理解されており、片仮名文字「シュープ」単独で使用されても商標的機能を発揮し、その信用が商標「CHOOP」に蓄積されていったのである。
なお、前述の丸五工業及びエタニティー等は、請求人から引用商標1の使用の許諾を受けた法人である。
(ウ)1999年?2001年頃
その後も、引用商標1は片仮名表記「シュープ」を併記したり、単に片仮名表記「シュープ」のみでも使用され、例えば、1999年4月号の少女向け雑誌の学研「ピチレモン」(甲第17号証)には、「春のオシャレはCHOOP/シュープにそろってるよ!」の表題の下で、「リスのマークがトレードマークで、みんなに大人気のシュープ。」「オシャレするならシュープにおまかせ!!」の記載が、1999年5月号の同雑誌(甲第18号証)にも、「CHOOP/シュープのシャツが元気だよ!!」の表題や、「シュープの定番チェックのワンピースは…」、「シュープには、そんな女の子っぽくてかわいいシャツがいっぱいそろってるよ。」等の記載があり、また、2000年4月号の同様の雑誌「nicola」(甲第19号証)にも、「毎日のおしゃれに大活躍してくれるカジュアルアイテムがいっぱいのシュープ。」、「シュープのロゴが目立つスウェットなら、おしゃれライバルに差をつけられるよ。」の記載がある。さらに、2000年6月号の同様の雑誌「Happie/ハピー」(甲第20号証)にも、「CHOOP/シュープで作るガーリーギャルスタイル」の表題の記載が、また、2001年4月号の雑誌「ピチレモン」(甲第21号証)にも、「CHOOP/シュープのカラフル小物で春を呼ぼう」の表題及び「シュープのロゴマークと英字マーク入りだよ。」等の記載がある。
(エ)上述したような変遷を経て、引用商標1は「シュープ」の称呼で周知になっており、その周知性は、引用商標1の使用する商品である洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物その他これに類似する商品にまで幅広く及んでいる(甲第22号証ないし甲第82号証)。
ウ テレビコマーシャルによる引用商標1の周知化
(ア)テレビコマーシャルとしては、「リスを置く」編、「待ち合わせ」編、「リスとおおかみ」編、「愛すべきリスたち」編、「99年 シュープ春」編のスポット広告が作成され、1995年4月ないし1999年3月にかけて各放送局より放映された(甲第85号証ないし甲第101号証)。これらは、いずれもリスの図形と「CHOOP」の欧文字の画面が出て「ストリートカジュアル・シュープ」の音声が流される内容の広告であり(甲第83号証及び甲第84号証)、この音声の表現内容は、「カジュアルなストリートファッションブランドのシュープ」というメッセージを需要者に送るものであり、商標「CHOOP」を付した商品「洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物等」をコーディネートすることによって提案するファッションスタイルを広告宣伝しているのである。
その結果、需要者は、引用商標1を付した商品である「洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物等」について、商標「CHOOP」の称呼は「シュープ」であると認識するのである。
(イ)さらに、上述したテレビコマーシャルの提供とは別に、「シュープ/CHOOP」の文字をそのタイトルの最初に付した特別なテレビ番組が放映された。
これは、主な需要者である小・中学生・高校生が休みとなる春休みや夏休みをねらって制作されたもので、例えば、1998年8月には、日本テレビ系列全国28局ネットで「シュープ/CHOOP 夏休みスペシャル『入道雲は白、夏の空は青』」(甲第102号証の1ないし4及び甲第103号証)として放映されている。甲第103号証のビデオテープから判るように、まず、この番組の宣伝において、出演者の野村佑香や本上まなみが「シュープ夏休みスペシャル」と称呼しており、番組の始めには、「ストリート・カジュアル・シュープが提供します」と音声が入っている。
さらに、番組中においても3回コマーシャルタイムがあり、1回につき「リスとおおかみ」編、「愛されるリスたち」編が合わせて6回放映され、ドラマ中で合計18回も放映された。番組の最後にも「この番組はストリート・カジュアル・シュープが提供いたしました。」のナレーションが入って「シュープ」の称呼を印象付けている。
このような特別番組は、1999年3月に「シュープ/CHOOP春休みドラマスペシャル『卒業旅行』」(甲第104号証の1ないし3)が、2000年4月には「CHOOP春休みドラマスペシャル『空のかけら?MESSAGE from the sky』」(甲第105号証の1及び2並びに甲第106号証)が、それぞれ、日本テレビ系列全国28局ネットで放映されている。
エ 新聞広告による引用商標1の周知化
1998年8月15日付読売新聞のテレビ番組欄のページや1998年8月14付読売新聞に掲載されている前記提供番組「入道雲は白、夏の空は青」の広告(甲第102号証の2及び4)中や、1999年3月22日付読売新聞のテレビ・ラジオ番組欄のページに掲載されている前記提供番組「卒業旅行」の広告(甲第104号証の3)中、2000年3月30日付の日経流通新聞の全面広告(甲第105号証の2)中、及び2000年6月21日付の繊研新聞の全面広告(甲第107号証)で、「シュープ」の称呼を片仮名で併記することによって引用商標1が「シュープ」と称呼することを周知化している。
オ 新聞記事による引用商標1の周知化
業界新聞として周知の繊研新聞において、1996年1月31日付の「一挙7新ブランド導入」の記事(甲第108号証)、1997年9月29日付の「岐路に立つライセンス事業既存ブランドのてこ入れ本格化」の記事(甲第109号証)、1998年6月17日付の「2000年に1000億円の構想 クラウンファンシーグッヅのライセンス事業2市場に参入」の記事(甲第110号証)、1998年8月15日付の「『シュープ』(ファッションブランド)がつくり出したテレビドラマ」の記事(甲第111号証)、1998年12月18日付の「ズバリ聞く」の記事(甲第112号証)、1999年4月1日付の「販促活動を強めるクラウンファンシーグッヅメディア複合で」の記事(甲第113号証)、1999年12月22日付の「『シュープ』を拡大 クラウンファンシーグッヅ多ブランド化進める」の記事(甲第114号証)、2000年7月29日付の「70年代感覚を表現」の記事(甲第115号証)、2000年8月23日付の「クラウンFG 海外でライセンス事業」の記事(甲第116号証)、2000年12月9日付の「クラウンファンシーグッヅ 世界でライセンス事業 キャラクター『シュープ』拡大」の記事(甲第117号証)及び2001年3月9日付の「総合カジュアル強化」の記事(甲第118号証)のそれぞれにおいて、引用商標1の拡大展開の内容が書かれているが、引用商標1については、その称呼の片仮名表記「シュープ」で全て記載されており、衣料関係の人々に対して「シュープ」の周知化が確実に図られた。
(B)引用商標1の周知性の獲得の客観的事実
ア ブランド年鑑等による引用商標1の周知性の明示
(ア)1997年12月発行の「別冊チャネラー/ファッション・ブランド年鑑」(甲第119号証)を見ると、目次の中に「シュープ」と片仮名文字のみで掲載されており、該当頁を見ると「シュープ(CHOOP)」として掲載されている。本件商標出願時に近い2001年1月発行の「別冊チャネラー ファション・ブランド年鑑2001」(甲第120号証)においても、同様である。
(イ)また、2000年12月発行の繊研新聞社「ファッションブランドガイド SENKEN FB2001」(甲第121号証)の目次のブランドインデックスにおいても、そのサ行に「シュープ」として掲載され、その該当頁には「シュープ」(CHOOP)として載っている。さらに、2001年12月発行の繊研新聞社「ファッションブランドガイド SENKEN FB2002」(甲第122号証)においても同様である。
(ウ)上記の他にも、ボイス情報株式会社の「‘99ライセンスブランド&キャラクター名鑑」(甲第123号証)、「ライセンスブランド&キャラクター名鑑2000」(甲第124号証)、「ライセンスビジネス名鑑2003〔ブランド編〕」(甲第3号証)のインデックスの「し」の行にも「シュープ」として掲載され、その該当頁に「CHOOP(シュープ)」として詳細が掲載されている。
(エ)上記事実は、第一に、引用商標1及びその称呼「シュープ」は本件商標出願時以前から本件商標登録時以後に至るまで、継続して数々のブランド年鑑に掲載されるほど周知であるということを示しており、次に、目次において「シュープ」とのみ記載され「チョープ」などの記載では掲載されていないという事実によって引用商標1は「シュープ」とのみ称呼されていた事実が判明する。さらに、単に「シュープ」とだけ記載されていても、それが引用商標1を特定するほどに周知であるという事実を示している。
イ 広告宣伝費用及び売上実績
これまで述べてきたような広告宣伝に費やした費用は、市場価格ベースで、1994年において715万円、1995年において1億円、1996年において8800万円、1997年において1億4300万円、1998年において4300万円、1999年において1億1400万円、2000年において1億1000万円、2001年において5600万円であり、合計約6億6000万円であった。
また、引用商標1を使用した衣料の売上実績は、市場価格ベースで1994年において4900万円、1995年において6億3200万円、1996年において15億9200万円、1997年において11億7500万円、1998年において3億1900万円、1999年において6300万円、2000年において2億6700万円、2001年において14億7000万円であり、合計約55億6700万円の売上実績があった。
(3)前述のように、引用商標1は「シュープ」の称呼として、雑誌、テレビコマーシャル、新聞の広告や記事等によって本件商標出願時には周知になっており、この周知であることはブランド年鑑等によって裏付けられる。
(4)商標法第4条第1項第10号について
本件商標は、その指定商品が引用商標1の使用商品に類似し、その構成文字「Shoop」から明らかに「シュープ」の称呼を生ずるので、前述の経過を経て需要者の間で既に周知になっている引用商標1の称呼「シュープ」と類似する。したがって、本件商標は、請求人の引用商標1と類似するので商標法第4条第1項第10号に該当し登録すべきではない。また、このように同じ称呼を有する商標が登録されるならば、請求人のみならず、需要者にとっても出所の混同や品質の誤認を生じて不測の不利益をこうむることにもなり、需要者の保護を図ると共に取引秩序の維持を図ろうとする商標法の法目的にも反するものである。
(5)商標法第4条第1項第11号について
引用商標2ないし4は、いずれも請求人の登録商標であり、「CHOOP」(choop)の文字と図形から構成されている。
引用商標2ないし4の文字部分である「CHOOP」(choop)は、前述した周知となっている引用商標1と同一の称呼「シュープ」を生ずるものと一般の需要者に広く認識されていることから、本件商標と称呼上類似するものである。
さらに、本件商標の指定商品は、引用商標2ないし4の指定商品と共通するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項11号に該当し登録を受けるべきではない。
(6)以上述べているように、本件商標は、請求人の周知商標である引用商標1に類似するので商標法第4条第1項第10号に該当し、また、請求人の引用商標2ないし4に対し同法第4条第1項第11号にも該当するため登録を受けることのできない商標であって、同法第46条第1項により無効とされるべきものである。
なお、本件に関する証拠中で「クラウンファンシーグッヅ株式会社」とあるのは、請求人である「株式会社クラウン・クリエイティブ」の旧名称である(甲第129号証)。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第10号について
商標法第4条第1項第10号の規定は、周知商標と同一又はこれに類似する商標で、他人の商品又はその類似商品に使用する商標は登録しない旨の規定である。
本件商標は、周知である請求人の引用商標1と称呼「シュープ」において類似するものであって、引用商標1に係る商品又はその類似商品に使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
以下、詳説する。
ア 引用商標の周知性について
被請求人は、「需要者が、請求人の業務に係る商品であると認識しうるものは『リス図形』と一体化した『CHOOP』であり、すなわち、『リスのシュープ』として、親しまれていることが明らかである。」と述べた上で、「欧文字『CHOOP』のみで直ちに『シュープ』との称呼を生じ得るとは考え難い。むしろ、『リス図形が付加された態様』、若しくは『リスのマークのCHOOP』等の表示、若しくは『カジュアルファッション』の表示と共に使用された際に、主たる需要者は、請求人の業務に係る商品であると認識すると判断するのが相当である。」と主張しているが全く失当である。
すなわち、引用商標1は、「CHOOP」単独で使用されている例や、「花」の図形と一緒に使用されている場合など、リスの図形と共に使用されない例は数限りなくあり、既に提出した証拠においても明らかである(甲第29号証、甲第33号証、甲第35号証、甲第45号証、甲第68号証、甲第70号証、甲第72号証、甲第77号証、甲第78号証、甲第80号証及び甲第81号証の添付参考資料)。
そして、本件商標の出願時には、引用商標の周知度も高まり、引用商標1が単独で使用され、「シュープ」との称呼で周知になっていることは、甲第130号証ないし甲第135号証の雑誌、新聞、テレビコマーシャル等によっても明らかである。
また、本件商標出願時である2001年時点において、同じ衣類である「セーター、ワイシャツ、下着、寝巻き、水泳着類」関係の商品については、引用商標1と同一の標章「CHOOP」が「シュープ」の称呼で周知であると特許庁で認められていることは、無効2004-35142審決(甲第125号証)によっても明らかである。
イ 本件商標について
(ア)本件商標の非周知性について
被請求人は、「本件商標は、出願時・査定時において、『被服、履物』について、『B系ファッションのShoop』として周知性を獲得しているものであり、極めて多大な信用が化体しているものである。」と主張する
しかし、上記主張は、その前提とするところが誤りであり、裏付けとする証拠を全く有しないものである。
すなわち、そもそも商標法第4条第1項第10号の時期的な判断基準は本件商標の出願時であり、2001年6月28日をもって判断されるべきものである。
ここで、被請求人が本件商標の周知の事実を示すために提出された証拠のほとんどは2001年6月28日以降のものである(乙第6号証の104ないし乙第10号証の9、乙第66号証の2ないし乙第101号証の2、乙第105号証ないし乙第107号証、乙第119号証ないし乙第143号証、乙第145号証及び乙第146号証)ので証明力はないものである。
また、乙第6号証の1ないし158も、「Shoop」の商標に係る商品であることを示す記載は見当たらず証拠となり得ないものである。
さらに、乙第7号証の1ないし58、乙第9号証の1ないし24は発効日あるいは作成日も不明であり全く証拠になり得ない。
その上、乙第11号証の1ないし乙第103号証の10は全て、被請求人側の一人の取引業者による後日の証明であり(平成19年1月5日あるいは6日)、客観性に乏しく信憑性に欠けるものである。
一方で、時期的基準を満たすわずかな証拠(乙第108号証ないし乙第118号証)である雑誌の広告掲載の事実をもってしては、本件商標が周知であることを証明するには程遠いものである。
ウ 衣類等の取引の実情及び類否判断について
被請求人は、被服、履物の取引の実情について、「趣向性(好み)が影響することから、需要者は『外観』に強い注意力を発揮する。」ため「『被服、履物』に関するブランドについては、各ブランドに『独自の趣向性』があり、需要者をして明確に区別されうる。」と主張する。
しかし、電話や口頭による取引が頻繁に行われ、テレビ・ラジオなどによる広告や宣伝が一般化している現状の下では、商標は外観よりも称呼によって使用されているのが実情であるから、商標の類否判断の要素の中でも称呼の占める割合は非常に大きいものといえる。
しかも、本件商標の指定商品である衣類等は、日常的に消費される性質の商品であり、ことにその需要者は特別な専門知識経験を有しない一般大衆であって、これを購入するに際して払われる注意力はさほど緻密なものではないと考えられる。
したがって、簡易迅速性を重んじる取引の実際において、単に商品に付される商標の称呼である「シュープ」だけを頼りに商品を流通させるようなことも十分起こりうるのである。
エ 出所の混同について
(ア)被請求人は、本件商標が「シュープ」と称呼するのに対し、引用商標1は「リスのシュープ」と称呼するので出所の混同は生じないと主張する。
しかし、引用商標1が「シュープ」の称呼で周知であることは、前述の(1)アで既に立証したとおりである。
(イ)主たる需要者層、商品の分類特性、趣向性
主たる需要者層において、本件商標は「20代?30代」であるのに対し引用商標は「ティーン層」であり、商品の分類特性において、本件商標が「B系ファッション」であるのに対し、引用商標1は「ストリートカジュアル」である上に、趣向性の点では、本件商標が「セクシー」であるのに対し、引用商標1は「キュート/可愛い」であるから、出所混同のおそれがないと述べている。
しかし、同じ衣類等という商品の取引分野において、上記に示された境界などは曖昧なものであり、需要者が明確に区別しているとは考えられない。
例えば、上記商品の分類特性においても、「B系ファッション」であろうと「ストリートカジュアル」であろうと、共にカジュアル系ファッションである点においては共通であり、現に、「B系ファッション」であると主張する被請求人の商品である衣類(乙第108号証、乙第109号証及び乙第115号証)と「ストリートカジュアル」である請求人の商品である衣類(甲第29号証、甲第72号証、甲第73号証、甲第77号証、甲第78号証及び甲第80号証)の証拠を比較してみれば両者の間に大差が無いことなど一目瞭然である。
また、趣向性における「セクシー」と「可愛い」という差異も明確に区分される類のものではなく、「セクシーで可愛い」ものを好む需要者も存在するであろうことは容易に推測できる。
さらに、主たる需要者層の相違に関しても、被請求人が主張する上記「20代?30代」と「ティーン層」との間にある区別などは流動的であり容易に変遷しうるものである。
最近の流行を考えれば、大人の女性がティーンの服を着るなどの傾向もあれば、ブランド展開によっては需要者層が変化することなど容易に想定できることだからである。例えば、今日のファッション関連企業のブランド展開においては、メインブランドに加えて複数のサブブランドを展開している場合が少なくなく、一般需要者もそのことを認識していることは周知の事実である。現に、被請求人は「CHOOP」のサブブランドとして、乳児や幼児層を主な需要者層にとした登録商標「CHOOPLAND」や、成人層をターゲットとする登録商標「CHOOP SPORTIVE」や登録商標「CHOOP CLASSIC」を有してブランド展開を行っている(甲第136号証)。すなわち、上記商標「CHOOP SPORTIVE」及び商標「CHOOP CLASSIC」については、20代から30代の女性をターゲットにしており、本件商標の主な需要者層である20代から30代の女性である点において、本件商標と需要者層が共通している。
かかる取引実情を鑑みれば、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接した需要者が引用商標1の主な需要者層を変更したブランド展開であるかのように、その出所につき誤認を生じさせるおそれが充分ある。
(ウ)商標の類否判断において考慮される取引の実情においては、現時点における商標の具体的使用態様等の将来変動する可能性もある個別事情を過大に考慮すべきではない。
すなわち、被請求人が主張する、「主な需要者層が20代?30代である」とか、「商品特性がB系ファッションである」とか「趣向性がセクシー」であるなどという要素についても、たまたま現時点における商標の具体的な使用態様にすぎず将来的に変動しうる不確定な要素であるので過大に評価すべきものではない。
さらに、本件商標の指定商品である衣類等についての需要者が、子どもから大人までも含む一般大衆であることなどの取引の実情を考慮すると、その需要者がこれらの衣類等を購入する際に払う注意力はさほど高くないので、上記の要素を明確に区別するとは考えられない。
したがって、上述したように、本件商標は、引用商標1に対し、重要な類否判断要素である「称呼」が類似するので需要者等に対し出所混同を生じさせる。
そして、引用商標1に類似する本件商標が並存する結果、引用商標1の信用の希釈化、あるいは、需要者の引用商標1に対する期待を裏切るような商品と誤認することによる信用の汚染化、ひいては被請求人の業務上の信用の低下という結果を招来しかねないのである。
以上のように、本件商標と引用商標1は、称呼、主たる需要者層、商品の分類特性、趣向性の点において、その境界が暖昧であって明確に区別されておらず出所の混同を生じ得るので、被請求人の「本件商標と引用商標1とは、彼此、相紛れるおそれはなく、需要者等に出所の混同を招来させるおそれはない」との主張は全く根拠を欠いたものである。
(2)商標法第4条第1項第11号について
ア 一般に、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際においては、商標は、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほどまでに不可分的に結合していない限り、常に必ずその構成部分全体によって称呼、観念されるというわけではなく、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、その結果、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(最高裁判所第一小法廷昭和38年12月5日判決・民集17巻12号1621頁参照)。
したがって、常に「リス図形」と一体的な態様の「CHOOP」として観察すべき必要はなく、文字商標「CHOOP」の部分からも称呼が生じており、既に立証したようにかかる引用商標1が本件商標出願時点において「シュープ」の称呼で周知であることが明白である。
また、引用商標2ないし4は、その要部として上記「シュープ」の称呼で周知な引用商標1を含んでおり、「リス図形」等とは関係なく「シュープ」の称呼が生じることが明白である。
被請求人は、答弁書において、引用商標2の称呼を「不明」であるとしているが、前述してきたように引用商標1が「シュープ」と称呼することが周知である以上、当該引用商標1を要部として含む引用商標2も「シュープ」と称呼することは明白である。
イ 引用商標3及び4の審査時(査定起案日:平成14年1月15日)並びに登録商標「CHOOP/classic」(登録第4672594号)の査定時(平成15年4月7日)及び登録商標「CHOOP」(登録第4707747号)の査定時(平成15年8月1日)のいずれもが無効審判2004-35142号の審決(甲第125号証)の審決時(平成16年11月10日)より前であり、当時における審査及び審理判断においては、引用商標1が「シュープ」として周知であるなどの取引実情は考慮されておらず、単に欧文字「CHOOP」の外観態様から自然に発生する称呼である「チョープ」をもって形式的に判断されたにすぎない。
したがって、商標法第4条第1項第11号類否判断においてもかかる取引実情を考慮し、実際に需要者の間で周知である「シュープ」の称呼をもって引用商標3及び4の「CHOOP」の称呼を判断すべきである。
ウ 上述したように、欧文字「CHOOP」は、引用商標2ないし4の要部であって「シュープ」と称呼し、本件商標も、被請求人が答弁書において認めているように「シュープ」と称呼するので、称呼上同一であり、同一又は類似する商品について使用するので、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)以上述べてきたように、本件商標は、「シュープ」の称呼で周知な引用商標1に類似するにもかかわらず登録されたものであって、取引者及び需要者に対し出所の混同を生ぜしめるものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当し、また、引用商標2ないし4に類似するものであるから、同法第4条第1項第11号に該当するのでその登録を無効にすべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第152号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号について
(1)周知性が獲得されている商標の特定について
請求人は、文字商標「CHOOP」(引用商標1)について、「洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物その他これに類似する商品」において、「シュープ」の称呼によって需要者や取引者の間で周知となっていたと認定しているが、かかる認定は妥当ではない。
ア 引用商標1と「リス」との関係
請求人の証拠を検討するに、「CHOOP」に対して、「シュープ」とのルビを配して、宣伝活動をしていることが見受けられるものの、同時に、そのほとんどが、引用商標1について、「リス図形」と一体的、又は同一枠内、同一頁内に配置された態様での使用や、「リスのマーク」を想起させる態様での使用である。
したがって、需要者が、請求人の業務に係る商品であると認識し得るものは、「リス図形」と一体化した「CHOOP」であり、すなわち、「リスのシュープ」として、親しまれていることが明らかである。
イ 商品の特定
引用商標1が新聞記事等にて記載される際には、「ストリートカジュアル」との商品の特性と共に記載されている。
例えば、「カジュアルブランドを中心に成長してきたライセンスブランド」(甲第62号証)、「カジュアルブランドを着こなしてシーンを彩り」(甲第64号証)、「アメリカンカジュアルブランド」(甲第65号証)、「レディスカジュアルの『シュープ』」(甲第66号証)、「リスをキャラクターモチーフとしたストリートカジュアルブランド『シュープ』」(甲第67号証)、「レディスカジュアルウェア」(甲第68号証)、「リスをキャラクターにしたカジュアルブランド『シュープ』」(甲第70号証)、「カジュアルのトータルブランド・・・・『シュープ』」(甲第71号証)のように、「カジュアルブランドのシュープ」として、親しまれている実情が認められる。
ウ 商標の特定
「洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物その他これに類似する商品」における需要者が、引用商標1のみ、すなわち欧文字「CHOOP」のみで、直ちに「シュープ」との称呼を生じ得るとは考え難い。
むしろ、「リス図形が付加された態様」、若しくは「リスのマークのCHOOP」等の表示、若しくは「カジュアルファッション」の表示と共に使用された際に、主たる需要者は、請求人の業務に係る商品であると認識すると判断するのが相当である。
以上のように、請求人は、周知性の獲得されている対象の認定を誤っており、「洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物その他これに類似する商品」について、文字商標「CHOOP」(引用商標1)から、「シュープ」との称呼が生じる程に周知性が獲得しているとの認定に基づいた、本件商標に対する商標法第4条第1項第10号に該当する、との請求人の主張は、失当である。
エ ブランド年鑑における掲載の意義
請求人は、「数々のブランド年鑑に掲載されるほど周知である」と主張しているが、これらのブランド年鑑は、アンケートに回答して提出することで、一律に無料で掲載されるものであり、修正や訂正等がなければ、継続して毎年、同じ内容が掲載される点を確認している(乙第2号証の1及び2、乙第3号証の1及び2)。すなわち、回答したアンケートの内容がそのまま掲載されることから、請求人の「CHOOP」について、「シュープ」との表記は、請求人やライセンシーが積極的に行ったものにすぎない。
これらのブランド年鑑に掲載された事実は、広告としての意味合いを有することは認め得るものであるが、掲載された事実をもって、いわゆる「周知ブランドである」と直ちに認められる性質のものではない。
なお、被請求人の「Shoop」ブランドは、企画・デザインを自ら展開するオリジナルブランドであって、「直営店のみで販売」するとのブランド戦略であることから、ライセンス各誌やブランド年鑑等に、敢えて掲載していないものである。
(2)本件商標について
ア 商標について
本件商標は、外観は、横向きの女性図形と欧文字「Shoop」からなり、「Shoop」とは、「R&B(リズム・アンド・ブルース)」、「ソウルミュージック」、「ヒップホップ」に代表されるブラックミュージック(以下「ブラックミュージック」という。)愛好者の間では「タメ息の音」を意味するものとして親しまれ、「セクシーさ」を想起させることから、本件商標の全体として「セクシーな黒人女性」との観念を生じさせるものである。
そして、外観構成から自然に生じる「シュープ」との称呼が生じるものである。
イ 本件商標の周知性の獲得
(ア)主たる需要者層
1996年以降、ダンス・ブーム、クラブ・ブームと共にブラックミュージック・ファッションブームが到来し、現在においては、「Bガール」若しくは「B-GIRL」、「B系」と称されて、一つのカテゴリーとして取り扱われる程度にブラックミュージック系のファッション(以下「B系ファッション」という。)は、特別な市場として確立している(乙第4号証)。
本件商標に係る商品(B系ファッション)は、セクシーさを趣向とする特徴を有することから、成熟した女性層をターゲットとしており、DJがヒップホップやR&Bの音楽を流すいわゆる「クラブ」は、夜10時以降から営業を始めることが多いことから、本件商標における主たる需要者として、「20代から30代」の「ブラックミュージックやクラブ文化を愛好する女性」又は「B系ファッションを愛好する層」を対象としている。
(イ)販売実績
本件商標は、その出願日(平成13年6月28日)より前から、「ジャケット、コート、スカート、ズボン、タンクトップ、Tシャツ、シャツ、ブラウス、カーディガン、ブラジャー、ショーツ、帽子、ベルト、サンダル、ストール、スカーフ、水着」等について使用をしている。そして、平成12年1月から本件商標の出願時のまでの1年半の期間のみに着目するに、「被服、履物」について約450アイテムの商品展開がなされ、少なくとも約20万点が納品、販売されている。さらに、査定時(平成14年4月12日)までには、合計で約44万点もの商品が販売されている(乙第5号証ないし乙第103号証の10)。また、これらの商品には、いずれにも本件商標の付された吊り下げ札や、文字商標「Shoop」のタグ、ベルト通し、刺繍等が施されている。
このように、被服、履物に関する「Shoop」ブランドは、本件商標の出願時・査定時において、B系ファッションを愛好する層において、広く親しまれていることが確認される。そして、被服、履物をはじめとしたファッション関連アイテム全体の「Shoop」ブランドにおける商品売上高は、平成12年度は約8億円、平成13年度は約11億円、平成14年度は約15億円、平成15年度は約19億円にも上るものである(乙第104号証)。
これらは、全て被請求人の直営店における売上げであり、かかる売上高を鑑みれば、本件商標「Shoop」ブランドの商品が、絶大な人気を博していることが容易に推測し得るものである。
そして、人気を博するに従って「Shoop」ブランドの模倣品が流出し始めたことから、広告において、「直営店のみでの販売」との注意を、需要者に対して喚起するまでに至っている(乙第105号証)。
現在においても、模倣品が横行しているものの、模倣品が発生した際には、既に周知性を獲得しているが故に「警察側から」取締対象として真正品確認の照会を受けるまでに至っている(乙第106号証及び乙第107号証)。このように、「Shoop」に係る商標権の存在により、「Shoop」ブランドの模倣品が刑事罰の対象となった実績も看過し得ないところである。
このように、「Shoop」ブランドは、本件出願前から現在に至るまで、人気を博しており、そして、本件商標の出願時・査定時には、B系ファッションの愛好者の間において、「被服、履物」について周知性を獲得していることが認められるものである。
(ウ)宣伝広告実績
本件商標の「ブラックミュージック系のファッション」とのブランドイメージを強調すべく、B系ファッションを取り扱う複数の雑誌にて、出願時・査定時前より継続的に、商品紹介及び宣伝広告を展開している(乙第108号証ないし乙第126号証)。
また、ブラックミュージックを愛好する層から支持される有名アーティスト(例えば、安室奈美恵、MIS-TEEQ、倖田來未等)の特集記事等において、「Shoop」ブランドの服を、取材用衣装として継続的に提供している(乙第127号証の1及び2、乙第128号証ないし乙第130号証)。一般的に、アーティストが雑誌等で身につける衣装は、雑誌そのものや、そのアーティストのイメージに大きく影響するところ、雑誌社やプロダクションから指名を受ける程に、「Shoop」ブランドは、「Bファッション」のリーダー的存在として認知されていることが認められる。
ここにおいて、「Shoop」ブランドの「被服、履物」等のファッション全般に関するもの広告宣伝費用について述べるに、平成13年には約1千万円、査定時の平成14年は約5千万円、平成15年は約8千万円、平成16年には約7千万円もの金額を宣伝広告費として支出している。そして、本件商標のブランド戦略から、「B系ファッション」を愛好する層が好む地域や媒体に対して、集中的に宣伝・広告やイベントを展開しており、例えば、全国主要地域でのクラブイベントの主催、音楽専門チャンネルでのテレビコマーシャル、渋谷、新宿エリアでの宣伝広告等が挙げられる(乙第131号証ないし乙第143号証)。
したがって、本件商標は、「B系ファッション」愛好者の間において、「B系ファッションのShoop」として、出願時・査定時、及び現在に至ってもなお、広く親しまれているものである。
(エ)本件商標の周知性の客観的見地
上述のとおり、本件商標に係る被服、履物や、ファッション全般がオリジナル商品であることから、商品の趣向が需要者の趣向と一致した場合には、絶大に支持されるところであり、さらに、掲載雑誌の選択、イベント、宣伝活動等の「B系」との一貫したブランド戦略展開によって、「B系ファッション」愛好者の間によって、広く親しまれていることが理解し得るところである。
このことを示すに、本件出願前から「SHOOPがお気に入り」、「お気に入りのショップはSHOOP」、「好きなショップはSHOOP」、「よくSHOOPで買いモノしている」(乙第111号証)、「お気に入りブランドはSHOOP」(乙第127号証の5)、と言わしめる程に人気を博し、また、クラブにおいて、「Shoop」ブランドの被服類を着用している愛好者が、多数、認められている(乙第111号証ないし乙第113号証)。そして、出願前において、B系ファッション雑誌の読者アンケートにて「好きなブランド」及び「特集を組んでもらいたいブランド」のいずれについても、既に上位に掲げられている(乙第144号)。
このように、流行の趨勢が激しいファッション界において、現在においても、「セクシー系のシュープ」、「B系ブランドのシュープ」として、ファッション分野において、人気を博しているところである(乙第145号証及び乙第146号証)。
上述のとおり、本件商標は、出願時・査定時において、「被服、履物」について、「B系ファッションのShoop」として周知性を獲得しているものであり、極めて多大な信用が化体しているものである。
したがって、本件商標に接した需要者は、「セクシーなB系ファッションのShoop」と直ちに理解し得るものであり、請求人の引用商標1(カジュアルファッションのリスのCHOOP)とは、容易に区別し得るものである。
(3)被服、履物の取引の実情について
一般的に、ファッションの分野においては、趣向性(好み)が極めて大きく左右するところであり、他の商品分野と比べて、需要者は、外観に対して強く注意力を発揮するものである。また、「被服、履物」に関するブランドについては、各ブランドに「独自の趣向性」があり、需要者をして明確に区別され得るものである。とりわけ、「女性向け被服、履物」については、自らの趣向に沿うファッションブランドの商品を反復継続して購入する、との特殊性を有する。
このことは、例えば、デパートでは販売フロアが異なる例からも明らかなように、性別のみならず、需要者の年代が異なれば、販売場所(地域、店舗)、掲載雑誌が異なるという特殊性を有する分野である。
以下、請求人の使用に係る商標と、本件商標の取引の実情を検討する。
ア 請求人の使用に係る商標について
請求人の使用に係る商標は、「リス図形が付加された態様」、若しくは「リスのマークのCHOOP」、「リスのシュープ」等の表示にて親しまれており、これらは、「キュート」、「可愛い」と形容される「ストリートカジュアル」ファッションを示す表示として広く親しまれていることが認められる。そして、主たる需要者層は、「ティーン世代」である。
イ 本件商標について
これに対して、本件商標に係る商品は、「セクシー」を趣向とする「B系ファッション」に属するものである。そして、主たる需要者として、「20代から30代」の「ブラックミュージックやクラブ文化を愛好する女性」又は「B系ファッションを愛好する層」を対象としており、流行性が激しいファッション分野において、「Shoop」は、「セクシー」な「B系ファッション」ブランドを示すものとして出願時・査定時において主たる需要者層において周知性を獲得しており、現在も、継続して地位を確立している(乙第146号証)。
とりわけ、本件商標に係る商品は、被請求人がオリジナルで商品企画・デザインを行っているものであり、ライセンスを一切行わずに、全国の主要都市に点在する直営店のみにおいて販売するものである。したがって、極めて絶大に愛好する需要者層が反復継続して購入する、との特徴を有するものである。
(4)出所の混同について
上述とおり、本件商標と引用商標1は、その趣向性は「セクシー」と「キュートでカジュアル」、需要者層については、「ティーン世代」と「20代から30代のブラックミュージックやクラブを愛好する女性」とのように全く相違するものである。
してみれば、その市場・販売経路及び主たる需要者層は全く異なるものであり、主たる需要者が外観に強い注意力を発揮することとあいまって、需要者・取引者をして明確に区別せしめるものであるから、出所の混同のおそれはない。
(5)無効審判2004-35142号について
請求人は、「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品」に関する無効審判2004-35142号の審決(甲第125号証)を掲げて、「この事実から、かかる衣類と同時に使用されるファッション関連商品であるバッグ等に関しても『CHOOP』が『シュープ』として周知であると類推することができる」と主張している。
しかしながら、無効審判2004-35142号は、「雑貨小物,キッズウェア,パジャマ,レディスカジュアルウェア」について判断されているにすぎない。
商標法第4条第1項第10号を適用せしめる周知性の獲得については、個別具体的に判断すべきであり、当該審判における判断を、直ちに、「洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物その他これに類似する商品」に類推し得るとの請求人の主張は、失当である。
(6)まとめ
上述のとおり、本件商標は、請求人の業務に係る商品について使用する引用商標1に類似するものではなく、出所の混同を招来させるおそれもないことから、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
2 商標法第4条第1項第11号について
(1)引用商標2ないし4との関係について
請求人は、引用商標2ないし4を掲げ、「これらの登録商標の文字部分『CHOOP』は、称呼『シュープ』が生じると一般の需要者に広く認識されていることから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する」と主張しているが、かかる主張は妥当ではない。
(2)周知性を獲得した商標の特定の誤り
上述のとおり、広く親しまれているものは「(リス図形)CHOOP」、「リスのCHOOP」であり、引用商標1すなわち文字商標「CHOOP」ではない。
してみれば、「洋服、コート、靴下、手袋、マフラー、帽子、ベルト、履物その他これに類似する商品」に関して、文字商標「CHOOP」のみから生じる称呼が不明であり、文字商標「CHOOP」に接した需要者層に、直ちに「シュープ」と称呼せしめるとは言い難いものである。
仮に、引用商標2ないし4から「シュープ」との称呼が生じることがあるとしても、請求人の「CHOOP」は、「リス」、「リスのマーク」を伴って親しまれている実情をかんがみると、単に「シュープ」との称呼が生じるというよりも、むしろ、「リスのCHOOP」(リスのシュープ)との称呼が生じるものである。
そして、「シュープ」と称呼する際には、「リス」、「リスのCHOOP」と強く認識しつつ「リスのシュープ」と称呼せしめるものである。
一方、本件商標は「セクシーな黒人女性的なB系ファッションブランド」として広く親しまれていることから、本件商標に接した需要者は、「セクシーな黒人女性」、「B系ファッション」とのイメージを強く認識しつつ「シュープ」と称呼するものである(乙第152号証)。
このように、請求人の商標「CHOOP」は、「リス図形」や「リス」と一体的なものとして広く親しまれており、すなわち、「リス」との「観念」と強固に結びついており、たとえ、「シュープ」との称呼が共通するとしても、請求人の引用商標に接した需要者は「リス」を強く想起しつつ称呼するのに対して、本件商標については、「セクシーな黒人女性」を想起しつつ称呼することから、請求人の引用商標と本件商標に接した需要者は、「リスのCHOOP」と「セクシーな黒人女性的なファッションのSHOOP」として、明確に区別し得るものである。
そして、かかる「観念」の相違が強く発揮され、称呼の共通性を凌駕するものである。
(3)まとめ
したがって、本件商標は、引用商標2ないし4との関係において、称呼、外観、観念のいずれにおいても明確に区別し得る非類似の商標と判断するのが相当であり、商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。

第4 当審の判断
本件商標は、引用商標1との関係で商標法第4条第1項第10号に該当し、また、引用商標2ないし4との関係で同法第4条第1項第11号に該当する、と請求人は主張し、甲各号証を提出しているので、以下、本件の事案の性質にかんがみて、引用商標1の周知性から検討する。
1 引用商標1の周知性について
(1)事実認定
ア 2002年10月31日ボイス情報株式会社発行に係る「ライセンスビジネス名鑑2003【ブランド編】」(甲第3号証)によれば、ブランド名「CHOOP(シュープ)」の頁には、「ライセンス窓口」の欄に「クラウンファンシーグッヅ(株)」、当該ブランドの「開始年」の欄に「1994年」、「ライセンス状況」の欄に「キッズウェア、パジャマ、レディスカジュアルウェア、ソックス、靴、帽子、手袋」等がそれぞれ記載されている。
イ 1994年から2001年にかけて発行された「Zipper」、「mcSister」、「Lemon」、「POMME」、「Olive」、「ピチレモン」、「nicola」等のティーン層の少女をターゲットとする雑誌に、「CHOOP」の文字及び「シュープ」の文字を併用した広告がされている(甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証ないし甲第10号証、甲第12号証ないし甲第14号証、甲第16号証ないし甲第23号証、甲第26号証、甲第28号証ないし甲第30号証、甲第37号証、甲第45号証、甲第52号証、甲第55号証、甲第56号証、甲第58号証、甲第60号証、甲第67号証ないし甲第69号証、甲第74号証及び甲第79号証ないし甲第82号証)。
ウ 請求人が広告主として放映したと認め得る「テレビCM放送証明書、テレビタイム放送確認書」(甲第85号証ないし甲第101号証)によれば、1995年から1999年にかけて、「CHOOP」のテレビコマーシャルが「CHOOP」の文字の映像と共に、「リスがめじるし ストリートカジュアル シュープ」、「ストリートカジュアル シュープ」など「シュープ」の音声を用いたテレビコマーシャル(甲第83号証及び甲第84号証)が各地で放映されている。
エ 請求人の提供に係るティーン層の少女を主人公とするテレビドラマ(放映日:1998年8月15日、1999年3月22日及び2000年4月1日)が新聞に取り上げられ、これらに「CHOOP」の文字及び「シュープ」の文字が併記され、又は「シュープ」の文字が記載されている(甲第102号証、甲第104号証及び甲第105号証)。
オ 前記テレビドラマにおいて、「CHOOP」の文字の映像と共に、「リスがすき ストリートカジュアル シュープ」など「シュープ」の音声が用いられている(甲第103号証及び甲第106号証)。
カ 請求人が広告主である2000年3月30日付けの日経流通新聞の全面広告(1頁分)には、「なんて読むのコレ?」、「CHOOP」及び「シュープ」等の文字が、それぞれ吹き出し付きで記載されている(甲第105号証の2)。また、同年6月21日付けの繊研新聞の全面広告(1頁分)には、リスの図形と「CHOOP」の文字からなる標章の右隣に「シュープ」の文字が大書きされ、それに続いて「“リス”をキャラクターモチーフにしたティーンズカジュアルのブランド。10歳から14歳のティーンズをコアターゲットにフレンチ、アメリカン、ポップの中間領域をねらった新しいストリートカジュアルを訴求する。これとは別に今春から『シュープ』のサブブランド展開をスタートさせている。基幹ブランド『シュープ』では取り込めない客層をサブブランド化で対応していくやり方だ。具体的にはスポーツラインの『シュープ・スポーティブ』とベビー・キッズ向けの『シュープランド』がそれ。『シュープ・スポーティブ』はヤングを中心顧客対象とした既存のシュープでは取りこめない主婦層の獲得が主なねらい。」と記載されている(甲第107号証)。
キ 1996年から2001年にかけて発行された繊研新聞にファションブランドとしての「シュープ」が取り上げられている(甲第108号証ないし甲第118号証)。
ク 「別冊チャネラー ’97-12 ファッション・ブランド年鑑’98年版」(甲第119号証)、「別冊チャネラー 2001-1 ファッション・ブランド年鑑2001年版」(甲第120号証)、「ファッションブランドガイド SENKEN FB2001」(甲第121号証)、「ファッションブランドガイド SENKEN FB2002」(甲第122号証)、「’99ライセンスブランド&キャラクター名鑑」(甲第123号証)、「ライセンスブランド&キャラクター名鑑2000」(甲第124号証)に「CHOOP」の文字及び「シュープ」の文字が併記されている。
ケ 引用商標1を使用した請求人又はそのライセンシーの商品は、バッグ、傘、雑貨小物、キッズウェア、パジャマ、レディスカジュアルウェア、靴、帽子などであることが認められる。
(2)判断
前記(1)の各事実を総合すれば、請求人又はそのライセンシーの使用に係る引用商標1は、本件商標の出願前から、主として「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層をターゲットに、雑誌、テレビ、業界誌等において広告宣伝されるとともに、バッグ、傘、雑貨小物、キッズウェア、パジャマ、レディスカジュアルウェア、靴、帽子などの商品に幅広く使用されてきたということができるから、引用商標1は、遅くとも本件商標の出願時には、既に請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めるのが相当である。 しかし、後記2(2)のとおり、引用商標1において「シュープ」の称呼が生じ得ることは認められるが、同称呼が、あらゆる需要者層において、広く認識されていたとまで認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第10号について
(1)商標法第4条第1項第10号は、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については、商標登録を受けることができない旨規定している。
商標法第4条第1項第10号における商標の類否は、同法第4条第1項第11号の場合と同様に、対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に、商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり、誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは、そのような商品・役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を考察するとともに、その商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に照らし、その商品・役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきものと解される(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2)上記の観点から、本件商標と引用商標1の類否について検討する。
ア 外観について
本件商標は、別掲(1)に示すとおり、耳の一部と大型のイヤリング及び鼻の横の一部を白抜きにしてシルエット状に大きく描いた女性の横顔と思しき図形と、デザイン化された「Shoop」の文字との結合からなるものであるのに対し、引用商標1は、「CHOOP」の文字からなるものであるから、両者は、図形の有無に加え、本件商標を構成する「Shoop」の文字がデザイン化されていること、同文字と引用商標1を構成する「CHOOP」の文字とは、先頭文字が「S」と「C」との点で異なり、前者は後続する「hoop」が小文字で表記されているのに対して、後者は後続する「HOOP」が大文字で表記されている点において異なる点で、本件商標と引用商標1はその外観において相違する。
イ 観念について
本件商標を構成する図形部分からは、「女性の横顔のシルエット」程の観念を生じるものということができるものの、本件商標を構成する「Shoop」の文字部分は、少なくとも、いわゆるブラックミュージックの愛好者の間では、「タメ息の音」を意味する俗語として認識されているが、必ずしも一般的な観念が生じるとまでは認定できず、他方、引用商標1を構成する「CHOOP」の文字も、一般的な観念は生じないので、観念における対比をすることができない。
ウ 称呼について
本件商標を構成する図形部分と文字部分とは、その外観上、両部分が分離されないような態様で構成されているものではなく、また、両部分が不可分のものとして一つの観念を形成しているものともいえないから、両部分は、これを分離して観察することが取引上不自然と考えられるほど不可分一体に結合しているということはできない。そうすると、本件商標は、その文字部分である「Shoop」も独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというべきであり、当該文字部分に相応して、最も自然な「シュープ」の称呼を生ずるものと認められる。
他方、引用商標1は、前記1のとおり、「シュープ」の文字を併記し、また「シュープ」の音声を用いた広告宣伝活動の結果、引用商標1から「シュープ」の称呼が生じ得ることが認定できる。しかし、引用商標1は、「CHOOP」の文字からなるものであり、自然な称呼は、「チュープ」あるいは「チョープ」であることに照らすならば、確かに、請求人が広告宣伝を行ってきた「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層に対しては、「シュープ」の称呼を想起させるものといえるが、それ以外の一般消費者に対して、「シュープ」の称呼を想起させるものとはいえないというべきである。したがって、引用商標1において、「シュープ」の称呼が、あらゆる需要者層において、広く認識されていたとまで認めることはできない。
エ 取引の実情等
(ア)引用商標1は、前記1(1)の各事実及び前述の雑誌、新聞等に掲載された広告宣伝、記事等の内容に照らせば、アメリカ生まれの元気なブランド、あるいはおしゃれでキュートなブランドというコンセプトの下、ティーン世代の少女層をターゲットとして、請求人による引用商標1の使用(請求人のライセンシーによる使用を含む。)及び広告宣伝活動が継続された結果、本件商標の出願時及び査定時には、「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッションブランド」を想起させるものとして、需要者層を開拓していたものと認められる。
(イ)他方、被請求人の提出に係る証拠及び答弁の全趣旨によれば、a)本件商標は、その構成中の「Shoop」の文字から、「シュープ」との称呼を生じるものであること、b)「Shoop」は、少なくとも、いわゆるブラックミュージックの愛好者の間では、「タメ息の音」を意味する俗語として認識されていること、c)本件商標は、被請求人により、B系ファッションをコンセプトとして、広告宣伝が行われ、平成13年5月に発行された雑誌には、「完全クラブ仕様のデザインは絶大な人気、全身コーディネート可能なのも魅力」、「クラブ・クルーズする夜は、昼間よりゴージャスにして目立ちたい! そんな女の子の心理をわかってらっしゃるショップ、SHOOP。」及び「セクシー&ワイルドなテイストを求めるなら絶対外せないショップだ。」などとして紹介され(乙第116号証)、平成11年から平成14年にかけて発行された雑誌に本件商標又は「Shoop」ないし「SHOOP」を用いたB系ファッションを趣向とする女性向け被服及びその直営店の広告が掲載され(乙第108号証ないし乙第110号証、乙第113号証ないし乙第126号証)、平成13年3月28日発売のブラック・テイストから生まれたニュー・タイプ・ファッション誌「LUIRE」(ルイール)にて読者アンケートを実施した結果、「今、好きなブランドは?」及び「今後、特集を組んでもらいたいブランド」について、「Shoop」は、それぞれ、第3位及び第5位であったことが調査会社より報告されたこと(乙第108号証、乙第144号証)d)被請求人は、遅くとも本件商標の出願時までに、渋谷、新宿、池袋、横浜などのB系ファッションを愛好する需要者が集まる地域に直営店を7店舗展開し(乙第115号証)、その後、これを査定時までに11店舗に拡大したこと(乙第105号証)、e)被服、履物を含む「Shoop」ブランドの商品販売高は、平成12年度は約8億円、平成13年度は約11億円、平成14年度は約15億円であったこと(乙第104号証)、f)本件商標の査定後のものではあるものの、その後間もない平成14年7月には、東京都内(渋谷?新宿)にラッピングバスを走らせ(乙第139号証)、平成14年9月には、「Shoop」がタイアップした音楽CD「R&B/HIPHOPPARTY2002」を販売するなど(乙第132号証)、B系ファッションを愛好する層が集まる地域やメディアをターゲットとして、積極的な広告宣伝を展開したこと、等の事実が認められる。
前記各事実及び前述の雑誌等に掲載された本件商標に関する広告、記事等の内容に照らせば、B系ファッションを対象とするブランドというコンセプトの下、セクシーさを趣向するものとして、20代から30代の成熟した女性層やいわゆるクラブにおけるダンス愛好者をターゲットとして、被請求人による本件商標の使用及び広告宣伝活動が継続された結果、本件商標の出願時及び査定時には、「Shoop」の欧文字をその構成中に有してなる本件商標は、「セクシーなB系ファッションブランド」を想起させるものとして、需要者層を開拓していたものと認められる。
(ウ)また、引用商標1の使用された商品に関心を示す、「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」を好む需要者層と、本件商標の使用された商品に関心を示す、いわゆる「セクシーなB系ファッション」を好む需要者層とは、被服等の趣向(好み、テイスト)や動機(着用目的、着用場所等)において相違することが認められる。
オ 商品の出所についての誤認混同のおそれ
以上によれば、引用商標1から、「シュープ」の称呼が生じる旨認識している需要者は、請求人が広告宣伝を行ってきた「ティーン世代の少女層向けの可愛いカジュアルファッション」に関心を抱く需要者層であって、本件商標が使用された商品に関心を抱く「セクシーなB系ファッション」の需要者層やそれ以外の一般消費者ではないといえる。結局、請求人が広告宣伝を行ってきた需要者層以外の消費者については、引用商標1から「シュープ」の称呼が生じると認識することはなく、前記認定した取引の実情等を総合すれば、称呼を共通にすることによる混同は生じないということができる。
その他、本件商標と引用商標1とは、観念においては対比できないものの、外観においては相違する。
そうすると、本件商標は、その指定商品中「洋服,コート,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」に使用された場合、引用商標1とは異なる印象、記憶、連想等を需要者に与えるものと認められ、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれはないというべきであるから、互いに非類似の商標といわなければならない。
カ 請求人の主張について
(ア)請求人は、引用商標1のサブブランドである「CHOOP SPORTIVE」及び「CHOOP CLASSIC」の各商標の主な需要者層が本件商標を付した商品の需要者層と共通する旨主張する。
しかし、前記オのとおり、本件商標は、その指定商品中「洋服,コート,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」に使用された場合、引用商標1とは異なる印象、記憶、連想等を取引者、需要者に与えるものと認められ、その結果、出所に混同を来すことはないというべきであって、特定の商品の需要者層が共通する場合があることによって、かかる認定判断が左右されるものではない。したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(イ)請求人は、商標の類否判断において考慮される取引の実情においては、現時点における商標の具体的使用態様等の将来変動する可能性もある個別事情を過大に考慮すべきではない旨主張する。
しかし、本件商標から生じる称呼と引用商標1から生じる自然な称呼とは異なるものであって、引用商標1は、継続的使用及び広告宣伝の結果、特定の需要者に対して、「シュープ」との称呼を生ずるものとして認識されるに至ったのであるから、両商標の類否に当たり取引の実情を考慮することは当然に許されるというべきである。したがって、請求人の上記主張も採用することができない。
キ 小括
以上によれば、本件商標の登録出願時において、引用商標1が、請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されているものであるとしても、本件商標と引用商標1とは、互いに非類似の商標というべきであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものとはいえない。
3 商標法第4条第1項第11号について
引用商標2ないし4は、別掲(2)ないし(4)のとおり、いずれもその構成中に「CHOOP」又は「choop」の文字を有してなるところ、これら各文字が引用商標1と同一又は類似であることから「シュープ」の称呼が生じ得るとしても、上記のとおり、本件商標とは、外観、観念、称呼及び取引の実情を総合して勘案すると、「シュープ」の称呼を共通にすることによる混同は生じないというべきであるし、また、引用商標2ないし4における図形部分は、本件商標とは類似しないものであること明らかであるから、結局、本件商標は、引用商標2ないし4とも互いに非類似の商標といわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
4 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべき限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲

(1)本件商標


(2)引用商標2


(3)引用商標3


(4)引用商標4




審理終結日 2009-08-10 
結審通知日 2009-02-05 
審決日 2009-08-28 
出願番号 商願2001-59064(T2001-59064) 
審決分類 T 1 12・ 26- Y (Z25)
T 1 12・ 25- Y (Z25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井岡 賢一 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 田村 正明
榎本 政実
登録日 2002-04-12 
登録番号 商標登録第4558874号(T4558874) 
商標の称呼 シュープ 
代理人 小山 輝晃 
代理人 吉田 芳春 

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