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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y32
管理番号 1203906 
審判番号 無効2009-890002 
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-05 
確定日 2009-09-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第4752450号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4752450号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4752450号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲に示すとおりの構成からなり、平成15年6月20日に登録出願、第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」を指定商品として、平成16年3月5日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号ないし第23号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求人について
請求人「ダンジャック リミテッド ライアビリティ カンパニー」(以下「ダンジャック」という。)は、イアン・フレミングの007(ゼロゼロセブン)シリーズの映画化権を保有していたハリー・サルツマンとともに007シリーズの映画を制作するためのプロダクション「イオン・プロダクション」を設立し、第1作「007ドクター・ノオ」から「007消されたライセンス」まで共同制作者であった、アルバート・R・ブロッコリによって設立された会社であり、007シリーズの著作権を保有するとともに、製作会社「イオン・プロダクション」を傘下としている(甲第2号証の1及び2)。
したがって、引用名称に関して、出所の混同が生じるおそれのある他人の使用、及びその高い識別力の毀損、希釈化汚染を及ぼすおそれのある他人の使用等を排除することにつき利害関係を有する者である。
(2)本件商標登録を無効とすべき理由
ア 引用名称の周知著名性について
「007」は、スパイ小説家のイアン・フレミングによる長編小説「カジノ-ロワイヤル」のなかで生み出された主人公であるイギリス秘密情報部員「James Bond(ジェームズ・ボンド)」のコード名であり、我が国においても「ゼロゼロセブン」又は「ダブルオーセブン」と称呼され親しまれている(甲第3号証)。当該小説は、1962年に「ドクター・ノオ(007は殺しの番号)」という題名で映画化されて以来、最新作「慰めの報酬」まで、実に50年間近く、22作品が世界中で公開されており、それらすべての作品が極めて高い興行成績を残している。当該映画作品は、「007(ゼロゼロセブン)シリーズ」として我が国の国民の間でも広く知られているものであり、このことは甲第4号証として提出した拒絶理由通知書の写しからも明らかなとおり、特許庁においても周知の事実である。
したがって、「ゼロゼロセブン」は、これに接した国民の多くが前記映画作品等を想起する程に我が国において周知著名なものである。
イ 引用名称と本件商標に係る指定商品との関連性について
本件商標に係る異議決定(甲第5号証)において、「本件商標が使用される商品と引用標章が使用される映画作品及びその原作である小説とは、商品の品質、流通系統等において著しく異なるものであることも併せ考慮すれば、本件商標に接する需要者が、その構成中の「ゼロゼロセブン」の文字より申立人らの取扱いに係る映画作品等を想起、連想することはないというのが相当である」との判断が示されている。(決定中に示される「引用標章」は「引用名称」であり、「申立人」は「請求人」である。)
当該決定においては、引用名称が、第32類「ビール、清涼飲料,果実飲料,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料,飲料用野菜ジュース」と何ら関係性がないということが示唆されているが、本件商標の指定商品でもある飲料類と映画作品がタイアップすることにより、当該映画作品のタイトルや登場人物などが当該飲料類の商標や宣伝用のイメージキャラクターとして使われることは決して珍しいことではない。
上記異議申立事件の時点で「007シリーズ」の最新作であった「ダイ・アナザー・デイ」についても、フィンランドのウオッカである「フィンランディア(FINLANDIA)」と協賛し、宣伝用ポスター(甲第6号証)などが制作されていた。
また、まもなく公開予定の最新作「慰めの報酬」についても、「ザ コカ・コーラ カンパニー」と協賛し、「ゼロ・ゼロ7」という特別パッケージで同社の主力商品「コカ・コーラ・ゼロ」が世界20カ国で発売されたことは、我が国でも広く報道されているほか(甲第7号ないし第10号証)、ハイネケン社といったビールメーカーと協賛したことも報道されている。
なお、ハイネケン社との協賛は5作連続となる(甲第11号ないし第13号証)。
他にも酒・飲料関係での主要なタイアップキャンペーンとしては、以下の事例が挙げられる。
a.「スミルノフ(SMIRNOFF)」:(商品:ウオッカ)1962年「ドクター・ノオ」より2006年「カジノ・ロワイヤル」まで(甲第14号証)
b.「ボーリンガー(BOLLINGER)」:(商品:スパークリングワイン)1979年「ムーンレイカー」より2006年「カジノ・ロワイヤル」まで(甲第15号証)
c.「マティーニ(MARTINI)」:(商品:ベルモット)1989年「消されたライセンス」(甲第16号証)
前記アで述べたとおり、引用名称に係る映画「007」シリーズは、実に50年近くにわたり約22作品が公開されているが、これはほぼ2?3年に一度は何らかの作品が継続的に公開されていることを意味する。すなわち、単なる単発の映画作品に関する協賛キャンペーンではなく、断続的ではあるが、新作が公開されるたびにキャンペーンが連綿と長期間にわたり実施されてきたことにより、引用名称には、本件商標の指定商品である飲料類との関係でも、強い顧客誘引力を獲得しているものといえる。
ウ 本件商標の構成について
本件商標は、商標権者の商標として周知著名な「Asahi」を図案化した文字と「ゼロゼロセブン」の片仮名文字及び「0.07」の数字を上下三段に併記して組み合わせた構成より成る。
この中で「0.07」の数字は、指定商品との関係からして、飲料中の特定成分(アルコール等)の含有量(%)を表したものとも考えられる。事実、商標権者はアルコール度数0.1%未満のビールテイスト清涼飲料に「Asahi/0.1/Point One」なる商標を付して販売していた(甲第17号証)。いずれにしても、「0.07」の数字部分自体は、自他商品識別力の極めて弱い部分であると言える。
一方、「ゼロゼロセブン」の文字は、一見すると単に当該数字の読み方を特定する意図で付されたものとも見えるが、一般に「0.07」は「レイテンレイナナ」(又は「レイテンゼロナナ」)と読むのが自然であり、小数点を無視して「ゼロゼロセブン」と称呼される可能性は皆無と言っても過言ではない。したがって、「0.07」の数字部分が、単なる品質等を表示したものであって自他商品の識別力を有しないとしても、「ゼロゼロセブン」の文字部分についてまで、同様に解することはできない。
そうすると、「ゼロゼロセブン」の文字部分は、「0.07」の数字部分を捩ったものであるとしても、それ自体は自他商品識別標識としての機能を発揮し得るものであり、かつ、「Asahi」の図案化文字部分とは観念的一体性も認められないことから、独立して認識され得るものである。
エ 外国語数字の片仮名表記について
数字による表記は、通常、単に数量表示・品質表示として記号的に使用されることが多いため、原則としてありふれたものとして特別顕著性がないものとされることが多いものの、外国語の数字で三桁以上のものを片仮名で表したものは、原則としてありふれたものでも簡単なものでもないとされ、商標法第3条第1項第3号の適用はないものとされている(甲第18号証)。
実際に、本件商標と同一の商品区分を指定し、商標「ゼロゼロエイト」(甲第19号証)といった商標登録もなされている。外国語数字一桁を片仮名表記したものでは、商標「ゼロ/ZERO」(甲第20号証)、あるいは外国語表記のものであれば、商標「ZERO」(甲第21号証)なども自他商品識別力を有するものとして登録されている。
さらに、商標「ゼロゼロ/0%&0%」(甲第22号証)といった、より成分表示を直接的に示していると思われる登録事例もある。
これらの先例に照らしても、「ゼロゼロセブン」部分に自他識別能力がないとは断定され得ないものと思料する。
オ 「0.07」と「ゼロゼロセブン」との一体性について
異議決定においては、本件商標中の「0.07」部分は、商品の成分の含有率等を表したと理解されるものであり、その上に書された「ゼロゼロセブン」の文字部分は、該「0.07」の片仮名表記と理解されるものであるため、「ゼロゼロセブン」及び「0.07」の文字部分全体として、商品の品質を示したものとして認定されている。
しかしながら、一般に「0.07」は「レイテンレイナナ」(又は「レイテンゼロナナ」)と読むのが自然であり、小数点を無視して「ゼロゼロセブン」と称呼されるのは不自然な読み方である。例えば、リーバイ ストラウス社のブランドである「503」は「ゴーマルサン」と、プジョー社のブランド「407」は「ヨンマルナナ」と呼ばれるし、国道246号線の通称は「ニーヨンロク」であるが、このように数字三桁を一般的な読み方とは異なる不自然な読み方をすることにより、それぞれ特殊性が強調されている。即ち、「0.07」を「レイテンレイナナ」又は「レイテンゼロナナ」と読むのであればともかく、「ゼロゼロセブン」という片仮名表記は、決して一般的な読み方ではなく、「0.07」と「ゼロゼロセブン」が、文字部分全体として一体に認識されるものではない。
それにもかかわらず、本件商標構成中、「0.07」の部分が「ゼロゼロセブン」と一体として発音されることが、あたかも不自然でないように思えるのは、それだけ引用名称が請求人の長年の映画作品等における使用により日本国内において著名となっているためであるともいえる。
カ 「ゼロゼロセブン」部分の与える顕著な印象について
本件商標中、最も自他商品識別力が高い部分は上段の「Asahi」の部分であるが、当該部分は商標権者の社名の一部であり、いわゆるハウスマーク部分である。本件商標が本件指定商品に実際に付された場合、通常の需要者であれば、ハウスマーク以外の部分を商品名として識別するのが一般的である。例えば、同社の著名商品である「スーパードライ」と同様に、本件商標を付した商品は「ゼロゼロセブン」として識別するものと考えられる。つまり、需要者は本件商標を付した商品を第三者に説明する場合は、「アサヒ」の「スーパードライ」というのと同様に、「アサヒ」の「ゼロゼロセブン」としてハウスマーク部分と商品名とを分離して説明すると考えるのが相当である。
前記エで述べたとおり、「ゼロゼロセブン」部分そのものには自他商品識別能力が存在するのであるから、「0.07」の側に配置されているために、品質表示の可能性が示唆されたとしても、やはり需要者には「ゼロゼロセブン」という請求人の著名な引用名称と同一の称呼が顕著に印象に残り、当該部分から生じる称呼を商品名として認識し、記憶するものということができる。このことは、昭和38年12月5日の最高裁判決(甲第23号証)からも是認できるところである。
キ 商標法第4条第1項第7号について
前述のごとく、引用名称が我が国の国民の間で周知著名であることから、本件商標が他の構成要素を含むとしても、その構成中の「ゼロゼロセブン」の文字部分から、前記スパイ小説又は映画作品を容易に認識させるものである。このような商標を当該作品の著作権者等の了解を得ることなく、商標権者が商標として登録することは、商取引の信義則及び国際信義上、穏当ではない。また、前述のごとく「0.07」の数字部分を「レイテンレイナナ」ではなく、あえて「ゼロゼロセブン」と表記していることからすれば、引用名称が持つ顧客吸引力等にただ乗りしようとする意図が推認できる。このような行為は、公正な取引秩序を阻害し、ひいては公の秩序を乱すおそれがあるものである。
ク 商標法第4条第1項第15号について
前述のごとく、本件商標は、その構成中の「ゼロゼロセブン」の文字部分により、前記スパイ小説又は映画作品を容易に認識させるものである。したがって、これに接した需要者等は、本件商標が付された商品が、当該作品と何らかの関係がある商品であるかの如く誤認する可能性が高いものである。
また、本件商標の指定商品でもある飲料類と映画作品がタイアップすることにより、当該映画作品のタイトルや登場人物などが当該飲料類の商標や宣伝用のイメージキャラクターとして使われることは決して珍しいことではない。前記アで述べたとおり、実際に、最新作においては、大手飲料製造業者であるザ コカ・コーラ カンパニーともタイアップしている。
本件商標の商標権者は、日本を代表する著名なビール・飲料製造業者である。このように大手製造業者とタイアップすることが一般的な状況の元で、著名なビール・飲料製造業者である商標権者により、本件商標が使用された場合、あたかも、映画作品と商標権者が何らかの関係を有しているかの誤解を与え、本件商標が請求人等の業務に係る商品等との間で広義の混同を生じるおそれがあるものといえる。
(3)むすび
ア 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、請求人等の提供に係る人気映画作品シリーズ及びその原作であるスパイ小説の総称として周知著名な引用名称を、その構成中に独立して認識され得る状態で含むものであるから、当該作品に関する何らの権利も有さない商標権者が自己の商標として登録することは、商取引の信義則及び国際信義に照らし穏当ではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
イ 商標法第4条第1項第15号について
本件商標がその指定商品に使用された場合、あたかも請求人の提供に係る人気映画作品等と何らかの関係がある商品であるかのごとく誤認され、その結果、請求人の業務に係る商品との間で広義の混同を生じるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

3 被請求人の主張
被請求人は、答弁をしていない。

4 当審の判断
(1)本件商標は、別掲のとおり、その構成中上段に表されたやや図案化された「Asahi」の文字部分が、被請求人に係る商品の出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものである。
また、同下段の「0.07」の数字部分は、指定商品との関係からみて、例えば、アルコールの成分表示等、商品の品質を表示するものとして理解、認識されるものというべきである。
他方、同中段の「ゼロゼロセブン」の文字部分は、前記「0.07」の表音表記としては「レイテンレイナナ」あるいは「ゼロポイントゼロセブン」と、小数点の表音(テン又はポイント)をも明示するのが自然であることからすれば、必ずしも、同下段の表音表記として認識されるというよりは、むしろ、独立して自他商品の識別機能を果たし得る標章として認識されるものというのが相当である。
(2)請求人提出の証拠によれば、「007(ゼロゼロセブン)」は、スパイ小説家の「イアン・フレミング」の一連のスパイ小説で生み出された主人公「James Bond(ジェームズボンド)」のコード名であることが認められる。
当該小説は、22作品のシリーズとして継続的に映画化されており、請求人は、その著作権を保有し、当該映画の制作会社を傘下においているものである。
そして、それら22作品が我が国を含めて世界中で公開されており、これらの映画は、1962年の第1作「007 ドクター・ノオ」以来、「007 ロシアより愛をこめて」「007 ゴールドフィンガー」というように、邦題を全て「007 〇〇〇○」(一作のみ「○〇〇〇 007」としている。)として継続的に公開されており、邦題に冠された前半の「007」の文字が「ゼロゼロセブン」と呼称されていることが認められる。
しかして、前記22の映画作品は、「007(「ゼロゼロセブン」あるいは「ダブルオーセブン」)シリーズ」として我が国において広く一般に愛好され、人気を博している映画であることは顕著な事実といえるから、当該「ゼロゼロセブン」の文字や呼称に接するときは、直ちに、主人公ジェームズボンド及び当該シリーズ映画と結びつけて受けとめているものといわざるを得ないものである。
してみると、「ゼロゼロセブン」の文字は、遅くとも本件商標の登録時において、当該文字に接する者が、前記シリーズ化された映画を直ちに想起する程に、周知著名な標章となっていたものと認められる。
(3)前記(1)及び(2)よりすれば、本件商標は、その構成中に、請求人に係る事業(映画)を表す標章として周知著名な「ゼロゼロセブン」の文字を表してなるものであり、当該文字は、他の部分から独立して認識され得るものであるから、当該文字部分によって看者をして直ちに前記映画やその原題小説を想起させるものというのが相当である。
してみれば、前記周知著名な標章と何らの関係を有しない被請求人が、これを自己の商標の一部に採択使用することは、その周知著名な標章に化体した名声や信用に故なく便乗するものといわざるを得ないものであって、かかる商標を登録することは、指定商品について被請求人にその独占的使用を認めることとなり、公正な取引秩序を乱し、ひいては国際信義にも反するものといわざるを得ないから、公序良俗を害するおそれがある商標に該当すると判断すべきものである。
(4)まとめ
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、その余の理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項第1号の規定に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲 (本件商標)


審理終結日 2009-07-14 
結審通知日 2009-07-17 
審決日 2009-07-28 
出願番号 商願2003-51426(T2003-51426) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (Y32)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小畑 恵一 
特許庁審判長 佐藤 達夫
特許庁審判官 野口 美代子
小川 きみえ
登録日 2004-03-05 
登録番号 商標登録第4752450号(T4752450) 
商標の称呼 アサヒゼロゼロセブン、ゼロゼロセブン、ゼロゼロシチ、レーテンレーシチ、アサヒ 
代理人 山崎 行造 
代理人 杉山 直人 

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