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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y12 |
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管理番号 | 1203745 |
審判番号 | 無効2008-890102 |
総通号数 | 118 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2009-10-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-10-17 |
確定日 | 2009-08-10 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4819143号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第4819143号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4819143号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成16年4月22日に登録出願、第12類「自動車並びにその部品及び附属品,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),陸上の乗物用の機械要素,乗物用盗難警報器,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。),二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」を指定商品として、同年11月1日に登録査定、同月19日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第30号証(枝番含む。)を提出した。 1 本件商標は、商標法第4条第1項第19号、同第10号、同第15号及び同第7号に該当するから、その登録は同法第46条第1項第1号により無効にされるべきである。 2 引用商標 甲第2号証1ないし8をもって引用する商標(以下「引用商標」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成からなり、平成7(1995)年から使用され、その使用に係る商品及び役務は「自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車及び自動車の改造」である。 3 商標法第4条第1項第19号該当性について (1)引用商標の周知性 ア 請求人は、ポルシェ、アウディ、ベンツ等のドイツ製自動車のエンジン、外装及びブレーキ等の部品の改造部品(いわゆる「チューンアップパーツ」)の製造販売並びにこれら部品を装着した自動車(完成車)の販売及びこれら部品を用いた自動車の改造を業とするスイス法人であり、平成7年に設立された。設立以来、請求人はその商品及び役務について引用商標を使用しており(甲第2号証の1ないし8)、エンジン、外装及びブレーキ等の部品の改造部品並びにこれら部品を装着した自動車(以下、これらをまとめて「請求人商品」という。)の性能と信頼性の高さと相まって、自動車並びにその部品及び附属品、自動車の改造の商品及び役務の分野において、引用商標は、請求人が製造販売する商品及び請求人が提供する役務の出所を表示する商標として、スイス本国はもちろんのこと、ドイツ、スペイン等の欧州各国、米国、中華人民共和国及び我が国において、自動車とりわけ欧州高性能車の需要者・取引者の間において、周知著名になっている。 イ 請求人商品の販売金額 甲第3号証は、平成9年から同18年までの10年間にわたる請求人商品の売上高の推移である。スイス国内の売上高と輸出による売上高を合算した合計売上高は、平成9年に100万スイスフラン(約1億円)であったが、請求人商品がその性能と信頼性の高さによって市場における認知度を高めるにしたがって、同13年には6倍以上の650万スイスフラン(約6億5千万円)に達し、その後も600万スイスフラン(約6億円)前後で推移している。 以下に詳述するとおり、我が国においても、平成12年ごろから被請求人が代表取締役を勤めていた株式会社スポーテックジャパン(以下「スポーテックジャパン」という。)を通じて請求人の商品が輸入され、雑誌において「話題のスポーテックチューン上陸間近」などと紹介され、「東京オートサロン」などの自動車ショーに出展するなどした結果、同13年には725,750スイスフラン、同14年には686,650スイスフラン、同15年には750,599スイスフランの売上を実現したが、被請求人が不当に本件商標並びに登録第4768661号商標及び登録第4808365号商標を登録したことによって、同17年以降は、請求人商品の日本国内における輸入・販売ができないない状況になっている。 ウ 外国雑誌における広告 本件商標の登録出願時点において、引用商標が請求人の取扱いに係る商品及び役務について使用されて、スイスをはじめとする欧州各国で周知となっていたことは、以下の雑誌における受賞歴や、報道記事に照らし明らかである。 すなわち、平成14年にはドイツ連邦において権威の高い車専門誌である「オートビルド」誌において、請求人の商品を装着した改造車が同年の「チューニングカー・オブ・ザ・イヤー」(読者が選ぶチューニングカー(ミドルクラス))に選ばれている(甲第4号証の1)。また同様にドイツ連邦において最も権威のある車専門誌「スポーツオート」誌においても、請求人の商品を装着した改造車が読者が選ぶチューニングカー(スポーツカー部門)の第1位に選ばれている(甲第4号証の2)。 甲第2号証の8に示す請求人カタログは、請求人商品を装着した改造車が受賞・達成した賞や記録を列記したものである。平成12年には、請求人の自動車用ホイールがスイスの「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ「年間最優秀ホイール賞」第1位を獲得している。平成13年にはドイツ連邦の雑誌「VMAXX」誌で請求人の取扱いに係る改造車が「読者が選ぶスポーツカー」第1位を獲得し、請求人の自動車用ホイールが前掲「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ「年間最優秀ホイール賞」第1位を獲得している。平成15年には、請求人の取扱いに係る改造車が前掲「Auto Illustrierte」誌において「読者が選ぶスポーツカー及びクーペ」第1位及び「読者が選ぶセダン及びステーンョンワゴン」第2位を獲得し、アメリカ合衆国でも「European Cars」誌において、「編集者が選ぶ1.8Tチャレンジ」第1位を獲得している。また、請求人の製造販売に係る自動車用ホイールが前掲「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ自動車用ホイール第3位を獲得している。 また、請求人が平成15年に頒布したプレスリリースにおいても、多数の自動車専門誌に請求人及び請求人商品が紹介されたことが報道されている(甲第5号証の1ないし7)。 この他、請求人及び請求人商品は、スイス及びドイツ連邦のみならず、日本、中華人民共和国、ロシア等、多数の国の自動車専門誌でも報道されている(甲第6号証)。 エ 国際自動車ショーへの出展 請求人は、平成13年にはスイスのチューリッヒ市で行われた自動車ショー「Auto Zurich 2001」及び日本で行われた「東京オートサロン」、同14年には千葉県幕張メッセで開催された「東京オートサロン」、同15年には11月4日ないし7日にかけて米国ラス・ベガス市で開催された自動車ショー「Sema Las Vegas 2003」及びドイツ連邦エッセン市で開催された「MotorShow Essen 2003」、同16年及び同18年にはスイスのジュネーブ市で開催された「Auto Salon Genf 2004」等、世界各国の自動車ショーに自社ブースを設営して出展しており、当該ブースでは請求人の改造部品を装着した自動車が展示されるとともに、引用商標が大々的に表示された(甲第7号証)。 オ 諸外国における商標登録状況 請求人は、引用商標、商標「SPORTEC」及び引用商標を構成する右に約20度傾斜させた欧文字の「S」をモチーフとした図形(以下「S状図形」という。)を世界各国で出願・登録している(甲第8号証)。我が国においても請求人は、本件商標の出願日より3年遡る平成12年12月27日には引用商標を出願しており(商願2000-142622)、同14年6月7日に第37類「自動車の修理・整備及び改造」を指定役務として商標登録を受けている(甲第9号証の1の1及び2)。また、アメリカ合衆国においても、平成13年9月6日に引用商標を出願し、同18年11月14日に国際分類第7類、第12類及び第37類の商品及び役務を指定商品及び役務として登録を受けている(甲第9号証の2)。 カ 我が国における広告・報道記事 我が国においても、請求人の取扱いに係る商品及び役務が引用商標とともに、本件商標の登録出願日前に、多数の自動車専門誌において大々的に報道されていた。よって、本件商標の登録出願時において既に引用商標の周知著名性が我が国にも及んでいたことは明らかである。 まず、請求人は、平成13年1月に開催された「東京オートサロン」に自社ブースを出展し(甲第12号証の10ほか)、請求人商品や請求人商品を装着した改造車両を展示した。さらに、平成13年10月3日及び4日の両日において、神奈川県足柄郡の「箱根プリンスホテル レイクサイドアネックス」において、報道関係者を招き「プレス試乗会」を実施した(甲第10号証)。 平成14年1月には、当時日本における請求人商品の輸入販売代理店であったスポーテックジャパン社を通じて、日本市場向けの請求人商品のカタログを作成・頒布しており、当該カタログにおいては引用商標が大々的に使用されている(甲第11号証)。 これらの営業活動をうけて、我が国における自動車の需要者・取引者を購読者とする多数の自動車専門誌において、請求人と請求人が製造、販売ないし提供する商品や役務が大々的に報道されるようになった(甲第12号証の1ないし55)。 すなわち、自動車専門誌「ウィズマン」平成13年2月号(甲第12号証の1)において「10年以上のキャリアと高い実力ながら知る人ぞ知る存在のスポーテック!」との見出しにおいて請求人のスイス本社の取材内容が報道されている。 東海版輸入車情報誌「月刊LEFT」平成13年2月号(甲第12号証の2)では「話題のスポーテックチューン上陸間近」と報道されている。 さらに、請求人の商品が初めて日本国内の自動車ショー「東京オートサロン」に出展された事実を受け、「特選会社情報FROAD」平成13年3月号では「気鋭のチューナー・スポーテックが日本に初上陸」(甲第12号証の3)、「ROSSO」平成13年3月号では「このオートサロンでは・・・スイスの新鋭ターボチューナー、スポーテックがコンプリートカーの販売を発表」(甲第12号証の5)、「GENROQ」平成13年3月号では「このところヨーロッパの専門誌で、にわかに注目を集めているのがスイスチューナーの『スポーテック』だ。そのスポーテックが日本上陸を果たし、東京オートサロンに出展」(甲第12号証の6)のように大々的に報道された。 これらの報道記事では、引用商標も紹介されている。 すなわち、「Tipo」平成13年3月号(甲第12号証の7)では、「スイスからやってきたスーパーチューナー スポーテックがチューニングをIT革命する」の見出しとともに引用商標が表示されている。 「オートファッション・インプ」平成13年3月号46頁(甲第12号証の8)では、「スイスからターボカー・チューニングの新星スポーテックがオートサロンでデビュー!」の見出しとともに、胸に引用商標を付したバッジを着用した請求人の役員らの写真が掲載され、また、請求人商品が展示されているブースの写真中にも、引用商標が大々的に掲示されている。 「モーターマガジン」平成13年3月号204頁(甲第12号証の9)でも、「日本初上陸。スイスから現れた新進気鋭の存在、スポーテックとは!?」の見出しとともに、請求人商品が展示されているブースで引用商標が大々的に掲示されている写真が多数掲示されている。 「ROSSO」平成13年4月号(甲第12号証の10)126頁からの特集記事においても、「スイスの新鋭、スポーテックという提案。」の見出しとともに、請求人商品が展示されているブースで引用商標が大々的に掲示されている写真が同証127頁の全面に掲示されているほか、引用商標とともに請求人商品を装着した改造車両を撮影した写真が多数掲載されている。 「GENROQ」平成13年10月号(甲第12号証の12)において、スポーテックジャパン社が広告を掲載しており、当該広告において引用商標が使用されている。 「CAR GRAPHIC」平成14年3月号(甲第12号証の26)には、請求人商品が展示されているブースで引用商標が大々的に掲示されている様子を撮影した写真が掲載されている。 「CARTOP MOOK Volkswargen STYLING BOOK」(甲第12号証の32)において、スポーテックジャパン社が広告を掲載しており、当該広告において引用商標が使用されている。 「CHARGE」平成15年7月号(甲第12号証の46)では、請求人商品を装着した改造車を紹介する記事とともに、引用商標が付された当該改造車のエンジンを撮影した写真が掲載され、「誇らしげに刻まれたスポーテックエンブレムがチューニングレベルの証」と説明されている。 「オンリーメルセデス」平成15年7月号(甲第12号証の47)でも同様に、請求人商品を装着した改造車を紹介する記事とともに、引用商標が付された当該改造車のエンジンを撮影した写真が掲載され、「スポーテックチューンが行われたコンピュータユニットには、オリジナルステッカーがさり気なく貼られる」と説明されている。 「GENROQ」平成15年7月号(甲第12号証の48)において、スポーテックジャパン社が広告を掲載しており、当該広告において引用商標が使用されている。また、請求人商品を装着した改造車を紹介する記事とともに、引用商標が付された当該改造車を撮影した写真が多数掲載されているなかで、ステアリングの裏のシフトパドルに請求人S状図形が付されていることが窺える。そして、記事中の「ただ、ひとつだけはっきりと存在を主張しているのがステアリングについているカーボン製のシフトパドルだ。」との記載から、当該部品は小さいものではあるが、実際には自動車及びその改造部品の需要者・取引者に対しては、運転席に着席した際に眼につきやすい場所に位置することや、走行中変速のために常に操作する部品であることから、強く注意を惹く部分であることがわかる。 キ 小括 以上の事実に照らせば、遅くとも本件商標の登録出願時点において、引用商標が、平成7年より請求人によって自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車の商品及び自動車の改造の役務に使用された結果、スイスをはじめとするヨーロッパ各国及び米国・中国において周知著名な商標となっていたこと、日本においても、平成13年に請求人が東京オートサロンに出展したことをはじめ、引用商標を用いてその商品及び役務の広告宣伝に努め、多数の自動車専門誌において請求人及び請求人商品が引用商標とともに継続的かつ大々的に取り上げられ報道された結果、引用商標が自動車及びその改造に興味を有する我が国の需要者・取引者の間で広く認識されるに至っていたこと、そして、その周知著名性が本件商標の登録査定時においても継続していたことは明白である。 よって、引用商標は、商標法第4条第1項第19号に規定する「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標」にあたる。 (2)本件商標と引用商標との類否 ア 本件商標について 本件商標は、右に約20度傾斜させた欧文字の「S」をモチーフとした図形を、黒色の正方形の中に大きく表示してなるものである。本件商標は、上部右端部分が、矩形の二角を斜めに面取りした6角形であらわされ、当該六角形の頂点のうち、左側の4つの頂点から下部左端部分まで「S」の字形に沿った曲線が描かれ、その内部が灰色の濃淡で塗り分けられていることから、自動車の車体に付される金属製のエンブレム様の立体感を看取させる構成となっている。 イ 引用商標について 引用商標は、甲第2号証の1ないし8に示す請求人商品のカタログに使用され、甲第9号証の1に示す請求人が有する商標登録第4575214号として登録されているとおりであって、黒色の背景の上に、右に約20度傾斜させた欧文字の「S」をモチーフとした図形であるS状図形を大きく表示し、その下に引いた横棒を介して、S状図形と同様に右に傾斜したイタリック態様で、左から右へ「S」、「P」(ただし縦棒の上半分が省略されたデザイン書体となっている。)、「O」、「R」(ただし、文字左端の縦棒が省略されたデザイン書体となっている。)、「T」を記載し、三本の横棒を並行に配置した記号を介して「C」を小さく横書きしてなるものであり、S状図形は、上部右端部分が、矩形の二角を斜めに面取りした6角形であらわされ、当該六角形の頂点のうち、左側の4つの頂点から下部左端部分まで「S」の字形に沿った曲線が描かれ、その内部が灰色の濃淡で塗り分けられていることから、自動車の車体に付される金属製のエンブレム様の立体感を看取させる構成となっている。 ウ 本件商標と引用商標との対比 そこで、本件商標を引用商標と対比するに、引用商標の構成中、S状図形は下段に小さく表示された「SPORTEC」の文字の約5倍の大きさ(高さ)で表示されており、一目して需要者・取引者の注意を強く惹く要部を構成するものであるところ、このように引用商標の要部というべきS状図形と本件商標とはほぼ完全に同一の図形であって、本件商標は、引用商標の要部たるS状図形を単に切り取って登録出願されたものに他ならない。 してみれば、本件商標は引用商標に外観上類似する商標であることは明らかである上、その外観が引用商標の要部たるS状図形と同一であるから、引用商標と同一の称呼及び観念が生じるものである。よって、本件商標は引用商標に類似する。 (3)不正の目的をもっての使用について ア 請求人と被請求人及びスポーテックジャパン社の関係 請求人は、平成12年3月ころより、当時請求人のマーケッティング担当ディレクターであったイエンツ・ハウナーが個人的に知人関係にあったドイツ在住の岡本寿一(以下「岡本」という。)を通じ、従前より請求人のチーフ・エンジニアであるウルリッヒ・ホーデルと個人的に知人関係にあった被請求人との間で、我が国における請求人商品の輸入販売事業を開始するための交渉を開始した(甲第13号証の1ないし5)。 被請求人は、平成12年11月15日に株式会社ディギットパワージャパンを株式会社スポーテックジャパンに変更するとともに、同社の代表取締役に就任した。請求人との交渉・連絡において被請求人の代理人としての役割を担っていた岡本は同社の取締役に就任した(甲第14号証)。 スポーテックジャパン社は、平成12年以降同15年ころまで、請求人商品の日本における輸入販売代理店として、継続的に請求人商品を日本に輸入し、日本国内において販売するとともに、日本国内におけるプレス発表会の開催(甲第10号証)、日本語ホームページの開設、自動車ショーへの参加(甲第7号証、甲第12号証の3、同5、同6及び同8ないし10)、日本人ジャーナリストによるスイスの請求人本社見学旅行の開催、雑誌等への広告掲出(甲第12号証の12、同20、同28ないし30、同32、同33、同37及び48)などを行った。 スポーテックジャパン社は、請求人との取引の開始当初より、請求人商品の日本における輸入販売代理店として、請求人の許諾の下で、本件商標及び「SPORTEC」(スポーテック)を、その商号、ホームページのドメインネーム、広告等に使用していた。被請求人による本件商標及び「SPORTEC」(スポーテック)の使用が請求人の許諾のもとでのみ許されていたものであり、被請求人が請求人から独立して本件商標及び「SPORTEC」(スポーテック)を使用していたものではないことは、雑誌上で、スポーテックジャパン社が「日本でのスポーテックの総代理店であるスポーテックジャパン」(甲第12号証の8)、「ハウナー氏はスポーテックジャパンの設立を足がかりにして、スポーテックを知名度という点からも既存の大手チューナーと比肩するものに導こうとしているのだ。」(甲第12号証の9)などと報道されている事実、スポーテックジャパン社の取締役であった岡本が「スポーテックの日本進出にあわせて、設立されたスポーテックジャパンの代表取締役。」と紹介されている事実(甲第12号証の10)、平成13年9月1日付けで被請求人が「代理店各位殿」として取引先に送付した「スポーテックジャパン代理店加入のご案内」とする書面(甲第10号証)において「本国(チューリッヒ スポーテックAG)・スポーテックジャパンより新進した製品をお届けできるよう社員一丸となってがんばって参ります。」などと記載している事実、雑誌における被請求人個人の紹介記事において「スイスに本拠を置くチューナー、スポーテックの日本代理店ともいえるTSMの綱島氏」と記載されている事実(甲第16号証)から明らかである。また、請求人は、被請求人及びスポーテックジャパン社に対して「スポーテック」、「SPORTEC」及び引用商標が請求人が有する商標であって、請求人の許諾によってのみ使用可能であることを明確に通知していた(甲第17号証の31)。 商品の発注及び代金の支払いに関する請求人とスポーテックジャパン社との間の連絡は、ドイツ語が堪能な岡本を通じて行われた(甲第17号証の1ないし39)。請求人商品の発注はスポーテックジャパン社から請求人に対して行われ、商品はスイスの請求人本社からスポーテックジャパン社の所在地に納入された。納入された商品に対する請求書は請求人によって発行され、スポーテックジャパン社がこれを支払った(甲第18号証)。 イ 被請求人による日本市場向け「SPORTEC」ブランド開発の提案並びに請求人と被請求人及びスポーテックジャパン社の関係の解消 平成15年8月8日、スイスのチューリッヒ近郊シュリーレンにおいて請求人代表者、被請求人及び岡本の間で行われた会議において、被請求人は請求人に対し、請求人が提供していた既存の商品ではスポーテックジャパン社の売上高と利益を確保することができないと主張し、請求人のブランド「SPORTEC」の日本市場向けセカンド・ブランドとして「SPORTEC DESIGN」を立ち上げ、同ブランド名で日本車用の部品(ホイール・リムなど)を販売することを提案した。一方、同会議の席上、請求人は被請求人に対し、請求人の文書による許可なしに、Sportecブランド或いはこれらの使用に関連していかなる画像、図面、車両、車両パーツ及びテスト報告も作製、公表、出版或いは使用してはならないことを明確に通知した(甲第19号証の1ないし3)。 平成15年8月8日の会議の内容を受けて、請求人は自動車用ホイールを設計し、同年9月11日シュリーレンにおいて再度被請求人及び岡本と会議を行った(甲第20号証の1)。会議の席上、請求人は新たに日本車向けに設計した自動車用ホイールを提示し(甲第20号証の2)、請求人と被請求人はホイール・リムの技術的なスペック(仕様)と販売契約の内容について協議し、同年9月30日までに最終的な販売契約を締結することを目標とすることについて合意した。また、請求人は、被請求人に対し、販売契約書のドラフトを提示した(甲第20号証の3)。当該販売契約書ドラフトにおいて「SPORTEC及びSPORTEC JPラインの商標は、契約期間中もその後も、販売者(引用注:請求人)が占有する」ことが明確に記載されていた。 スポーテックジャパン社は、日本における金融機関や取引先との交渉のためにレター・オブ・インテントが必要であると主張したので、請求人はスポーテックジャパン社のかかる要請に応じ、平成15年9月12日、日本市場向けに日本車用の特別仕様のホイール・リムを製造することを決定したこと、ホイール・リムは「SPORTEC S-LINE」のブランドで販売すること、デザインは請求人が製造して世界的に人気商品となっていた「MONO/10」ホイール・リムをベースとしたものにすること、日本市場へのホイール・リムの独占的輸入権をスポーテックジャパン社に与えること、同月30日までに日本市場向けホイール・リムの製造販売に関する契約条件の詳細を確定し、最終的な契約が請求人とスポーテックジャパン社の間で締結されることを条件として、同16年初めまでにホイール・リムの供給を開始する計画であること等を記載したレター・オブ・インテントを発行した(甲第21号証)。 平成15年9月18日、請求人は、スポーテックジャパン社にホイール・リムの最終デザインと「SPORTEC DESIGN」と本件商標の商標使用に関する最終的なプロポーザルをスポーテックジャパン社に提供した。 平成15年9月22日、請求人は、7500セットのホイール・リムの販売に関するドイツ語の詳細な商品販売契約書の草案をスポーテックジャパン社に送付した。しかし、技術上及び商取引上明らかにしなければならない事項があり、そのための情報提供をスポーテックジャパンに求めたが、同社はこれらの情報を請求人に対して提供しなかった。 ところが、平成15年10月、スポーテックジャパン社は、日本市場向けホイール・リムの製造販売に関する契約を締結しないまま、請求人に何ら告げることなく、また請求人の許諾を得ることもなく、東京モーターショーに出展し、インターネット上でその商品を宣伝した。東京モーターショーにおいて、スポーテックジャパンは、「SPORTEC DESIGN」ブランドの部品を装着した二台の日本車(完成車)を展示し、ホイール・リムのみならず、様々な日本車用の改造部品が「SPORTEC DESIGN」ブランドで販売されるかのような印象を与えた。しかし、請求人は、その時点ではそのような広範な種類の部品を日本車向けに製造・供給する意図は全くなく、ホイール・リムの製造についてのみスポーテックジャパン社に対して同意を示していたにすぎないのであって、しかも、これに対してスポーテックジャパン社は、請求人が提示した販売契約書の草案に対する回答すらしていなかったのである。スポーテックジャパン社によるかかる行動から、同社が、請求人とは関係なく独自に日本市場及び極東市場を対象として「SPORTEC DESIGN」ブランドの自動車部品の販売活動を展開することを企図しているのではないかとの重大な懸念を抱いた請求人は、平成15年11月6日、岡本に宛てて警告書を送付し、(a)請求人の許諾なしに東京モーターショーに出展したことに対する苦情を述べ、(b)スポーテックジャパン社の事業活動を日本市場以外に拡大しないよう要求し、(c)請求人による明示された同意がない限り請求人の商標である「SPORTEC」及び「SPORTEC DESIGN」を使用しないように要求した(甲第22号証)。 これに対してスポーテックジャパン社は、平成15年11月14日付けで請求人に対して回答書を送付した。回答書において、スポーテックジャパン社は「両社にとって有益なパートナーシップ」を継続したいとの希望を述べ、東京モーターショーへの出品は、計画されていたホイール・リムの潜在的顧客を惹きつけるために取り得る唯一の手段であったと弁解し、スポーテックジャパン社は中国市場に事業を拡大する意思は有していないとも述べた(甲第23号証)。 その後、ドイツ連邦のエッセンで開催されたモーターショーの場で、請求人代表者と被請求人及びスポーテックジャパン社の間で会議が行われた。請求人と被請求人及びスポーテックジャパン社は、書面による販売代理店契約とライセンス契約の締結の可能性について協議したが、請求人がスポーテックジャパン社に対して商標「SPORTEC DESIGN」を付した自動車部品の製造は請求人の承認を得ない限り行ってはならず、これらの部品の製造については請求人が主導権をとるべきことを明言したところ、被請求人は立腹してそのまま会議の場を立ち去った。 その後、平成15年12月2日付けの書面により、請求人が被請求人及びスポーテックジャパン社に対し、同16年度について従前どおり請求人商品の日本における輸入販売代理店としての関係を継続する意向であれば、書面による販売代理店契約を締結することが前提条件であることを通知した(甲第24号証)。これに対して、スポーテックジャパン社は平成15年12月9日付けの電子メイルにおいて、請求人との「協力関係」を解消すると述べて、同16年以降の販売契約を請求人との間で締結しないとの意思表示をした(甲第25号証)。 ウ 不正の目的をもっての本件商標の登録出願 上記イに詳述した経過を辿って、平成12年に始まった請求人と被請求人及びスポーテックジャパン社の商取引関係は解消された。ところが、被請求人及びスポーテックジャパン社は、請求人から受領した平成15年10月の東京モーターショーへの無断出品に関する同年11月6日付けの警告書に対し、岡本を通じて友好関係を継続したいなどと表明して交渉を行う一方で、同年11月13日、請求人に何ら告げることなく本件商標を登録出願した。 かかる事実関係に照らすならば、被請求人は、引用商標が請求人の取扱いに係る商品の出所を表示する商標として日本国内外において広く認識されたものであることを十分に知悉し、請求人商品のブランドイメージと顧客吸引力を利用した日本向けブランド「SPORTEC DESIGN」を展開することを請求人に打診しながら、その交渉を自己の有利に導き、交渉決裂時には請求人の日本市場への参入を阻止し或いは自己の有利な条件において国内代理店契約を締結することを強制することを目的として、請求人S状図形が本件指定商品については我が国において商標登録されていないことを奇貨として、引用商標に類似する本件商標を先取り的に登録出願したものであることは明白である。また、請求人及びスポーテックジャパン社が平成12年以降同15年まで3年以上にわたって、請求人商品の我が国における輸入販売代理店としての継続的な取引関係を有していたことに照らすならば、引用商標が取引相手方の使用する商標であることを知悉しながら、当該相手方に無断で行われた本件商標の登録出願の経緯には、著しく信義則に反するものがある。 (4)まとめ 以上のとおり、本件商標は、(a)本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車及び自動車の改造の商品・役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている引用商標と、(b)同一又は類似の商標であって、(c)不正の目的をもって使用をするものであることが明らかであるから、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当する。 4 商標法第4条第1項第10号該当性について (1)引用商標の周知性 前記3(1)(キ)のとおり、遅くとも本件商標の登録出願時点において、引用商標が、欧州製高級自動車及びその改造に興味を有する我が国の需要者・取引者の間で広く認識されるに至っていたこと、そしてその周知著名性が本件商標の登録査定時においても継続していたことは明らかである。 (2)本件商標と引用商標との類否 前記3(2)のとおり、本件商標は引用商標に類似するものである。 (3)本件商標の指定商品と引用商標の商品及び役務 本件商標は、引用商標の商品及び役務に類似する商品について使用をするものである。 本件商標は、前記第1に記載のとおり、第12類に属する商品をその指定商品とするものである。他方、引用商標は、商品「自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車」及び役務「自動車の改造」を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているものである。本件指定商品が「自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車」と同一又は類似の商品であることは明らかであるし、役務「自動車の改造」についてみても、まさに請求人及び被請求人において、改造用パーツの販売と同時にその装着を請け負っていることに示されているとおり、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われるのが一般的であって商品の販売場所と役務の提供場所が一致し、商品と役務の用途は自動車の改造という用途においても一致し、需要者の範囲も、本件にあっては自動車を保有する需要者又はかかる商品に興味を有する需要者という点において一致するものである。 したがって、本件商標は、引用商標の商品及び役務に類似する商品について使用をするものである。 (4)まとめ 以上のとおり、本件商標は、(a)本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車」及び役務「自動車の改造」を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている引用商標と、(b)同一又は類似の商標であって、(c)請求人の商品及び役務と同一又は類似する商品について使用をするものであることが明らかであるから、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当する。 5 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)本件商標は、請求人が商品「自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車」及び役務「自動車の改造」について平成7年より使用し、同13年以降我が国においても積極的に広告・販売に努めた結果、日本国内の自動車、高性能車に興味を有する需要者・取引者の間で周知著名となった引用商標との関係において、請求人の業務に係る商品及び役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (2)商標法4条第1項第15項に規定する「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無の判断基準について、最高裁判所は判示している(最高裁第3小法廷平成12年7月11日判決・民集54巻6号1848頁)(甲第26号証)。そこで、上記最高裁判所判決が判示する判断基準に沿って、本願商標が引用商標との間で出所の混同を生じさせるおそれについて検討すると、以下のとおりである。 ア 引用商標の周知著名性及び独創性の程度 (ア)引用商標の周知著名性 前記3(1)(キ)のとおり、遅くとも本件商標の登録出願時点において、引用商標が、自動車及びその改造に興味を有する我が国の需要者・取引者の間で広く認識されるに至っていたことは明らかである。そしてその周知著名性は本件商標の登録査定時においても継続していた。 (イ)引用商標の独創性の程度 引用商標の構成中、S状図形は、欧文字の「S」一文字をモチーフとしたものであるが、やや傾斜させた字体や、金属質の輝きを看取させる灰色のグラデーンョンの使用、自動車のエンブレムを想起させる立体感などから、これに接する需要者・取引者に、高級感、美感、スピード感といった観念を連想させる、極めて高いデザイン性を有するものである。したがって、引用商標には高度の独創性が認められる。 イ 本件商標と引用商標の類似性の程度 前記3(2)のとおり、本件商標は引用商標からその要部たるS状図形部分を単に切り取ったものに他ならず、該要部たるS状図形と外観上ほぼ完全に同一であり、称呼及び観念も共通にするものである。したがって、本件商標と引用商標は極めて高い類似性を有する。 ウ 商品間の関連性、取引者、需要者の共通性 本件商標は、前記第1のとおり、第12類に属する商品をその指定商品とするものであり、他方、引用商標は、商品「自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車」及び役務「自動車の改造」を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているものである。そして、本件指定商品が、「自動車用部品並びにこれら部品を装着した改造自動車」と同一又は類似の商品であることは明らかであり、「自動車の改造」の役務との関係についてみても、正に請求人及び被請求人において、改造用パーツの販売と同時にその装着を請け負っていることに端的に示されているとおり、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われるのが一般的であってかつ商品の販売場所と役務の提供場所が一致し、自家用車の改造という用途においても一致し、需要者の範囲も、本件にあっては自動車を保有し、その改造に興味を有する需要者という点において一致するものである。 してみれば、本件指定商品と引用商標が使用されて周知著名となった商品役務の間の関連性は極めて高く、取引者、需要者も完全に共通するものである。 エ 本件商標の現実の使用態様 前述したとおり、本件商標が引用商標に極めて類似するものであること、引用商標が、請求人の取扱いに係る自動車用改造部品及びこれを装着した改造車の商標として周知著名なものであることを考慮すると、本件商標に接した需要者・取引者は、本件商標が「あの有名なスポーテックのデザインに係る商品ではないか」と出所の混同を生じる可能性が極めて高いものである。これに加えて、請求人が平成18年11月ころに調査したところによれば、以下の事実が認められた。 被請求人が代表取締役を務める株式会社ティーエスエムが東京都大田区南雪谷2-1-9に有するショールームにおいては、請求人の商標である「SPORTEC」の看板が掲げられ(甲第27号証の1)、スポーテックジャパン社が請求人の輸入販売代理店であった当時の日本語商品カタログ(甲第27号証の2;以下「スポーテック製品カタログ」という。)とともに、本件商標を付した商品カタログ(甲第27号証の3;以下「被請求人製品カタログ1」という。)及び本件商標に「TECHNIC」の文字を結合した商標を付した商品カタログ(甲第27号証の4;以下「被請求人製品カタログ2」という。)が頒布されている。被請求人製品カタログ1及び同2はスポーテック製品カタログと同じ黒色を基調としたデザインで構成され、スポーテック製品カタログにおいて引用商標が付されている表紙右上端の同じ位置に本件商標に「DESIGN」あるいは「TECHNIC」の文字を結合した商標を付し、引用商標の構成と、本件商標と「DESIGN」や「TECHNIC」の文字の結合の構成と同様にするなど、スポーテック製品カタログと装丁・デザイン上酷似した構成となっていることから、需要者・取引者において、被請求人製品カタログ1及び同2に掲載された商品も請求人の取扱いに係る別ブランドに属する商品ではないかと、誤認混同を生じるおそれの高い使用態様となっている。 オ 結論 以上のとおり、引用商標が自動車やその改造に興味を有する需要者・取引者の間では極めて周知著名な商標であること、引用商標の構成中のうち看者の注意を強く惹くS状図形と本件商標が、外観の上でデッドコピーといえるものであること、本件指定商品と請求人の業務に係る商品と役務が同一又は類似のものであって、高い関連性を有し、需要者・取引者も共通すること、被請求人が請求人の許諾なくショールームで請求人商標である「SPORTEC」の看板を掲示した上、請求人のカタログに酷似する装丁・デザインのカタログを作成し、これに本件商標を付したものを頒布するなど、引用商標と本件商標を混在させて使用していることを総合勘案すれば、被請求人が本件商標をその指定商品について使用した場合、その需要者・取引者において、本件商標が引用商標のシリーズ商標であるもの若しくは本件商標を付した被請求人の商品が、請求人の製造・販売に係るものと誤認し、又は請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者(例えば請求人商品の輸入販売代理店)の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所につき混同を生じるおそれが極めて高い。 6 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)「公序良俗を害するおそれがある商標」の解釈 商標法第4条第1項第7号にいう「公序良俗を害するおそれがある商標」が、単に商標の構成が矯激・卑わいであることによって公序良俗に反するもののみをいうものではなく、その出願行為自体が社会的妥当性を欠く場合や、国際信義に反する場合、出願人の主観的側面において不正の目的をもって出願されたものである場合も含むと解されることは、裁判例によって確立されている(甲第28号証、甲第29号証)。 さらに、知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10349号平成18年9月20日判決(甲第30号証)は、上記裁判例を含む過去の裁判例を総括して、本号該当性の一般的判断基準について判示した。 以上のとおり、商標の登録出願行為が商道徳上の妥当性を欠く場合、出願人の主観的意図が公正な競業秩序に反するものである場合、不正の目的をもって出願されたものであることが明らかである場合、国際信義に反する場合、出願経過に社会的相当性を欠くものがある場合には、かかる事情が存在するにもかかわらず結果として得られた商標登録を容認することは、商品流通社会の秩序良俗・競業秩序を包含する「公序良俗」を害するおそれがあると判断され、商標法第4条第1項第7号によって排除されているのである。 (2)本件商標の出願の経緯と本号該当性 本件商標の出願の経緯についてみるに、以下のとおりである。 ア 平成12年、請求人が被請求人と接触し、被請求人は、請求人商品の日本での輸入販売に関する業務を開始した。 イ 平成12年から同15年ころまで、請求人は自己の商品を被請求人が代表取締役を勤めるスポーテックジャパン社に継続的に販売し、同社はこれを日本国内で販売した。 ウ 平成15年、被請求人は、日本市場向けの新たな商品企画案を請求人に提示し、そのブランドとして「SPORTEC DESIGN」の使用を請求人に打診した。これに対して、請求人は、販売契約書の草案や新商品(自動車用ホイール)のデザインを作成して被請求人に提示するなど協力的に対応した。一方、請求人は被請求人に対して、「請求人の文書による許可なしに、Sportecブランド或いはこれらの使用に関連していかなる画像、図面、車両、車両パーツ及びテスト報告を作製、公表、出版或いは使用してはならない」旨明確に通知した。 エ 被請求人は、請求人の承諾を得ることなく「SPORTEC DESIGN」ブランドを使用した商品を平成15年10月の東京モーターショーに出展した。これに関して請求人が被請求人に警告書を送達したことに対して、被請求人は、「両社にとって有益なパートナーシップ」を継続したいとの意思表示をする一方で、請求人に無断で、引用商標に類似する本件商標の登録出願に及んだ。 オ その後、請求人が被請求人及びスポーテックジャパン社に対して商標「SPORTEC DESIGN」を付した自動車部品の製造は請求人の承認を得ない限り行ってはならず、これらの部品の製造については請求人が主導権をとるべきことを明言したところ、被請求人は一方的に交渉を打ち切り、最終的に「協力関係を解消する」との意思表示をして、取引関係を打ち切った。 以上の事実関係に照らせば、事実上輸入販売代理店として3年余にわたる取引関係を通じて、引用商標が請求人の商標であること及び引用商標が自動車及びその改造に興味を有する需要者・取引者の間で高い顧客吸引力を有することを熟知していた被請求人が、請求人との関係が悪化し、自己の望む条件での商標使用許諾が認められない可能性が高いと察知して、請求人との交渉を自己の有利に導き、交渉決裂時には請求人の日本市場への参入を阻止し或いは自己の有利な条件において国内代理店契約を締結することを強制することを目的として、引用商標が本件指定商品については我が国において商標登録されていないことを奇貨として、引用商標に類似する本件商標の登録出願に及んだものであることは明白である。 そうすると、被請求人が本件商標を登録出願し、登録した行為は、不正の目的をもってなされたものであることが明らかであり、その出願経過には社会的相当性を欠くものがあるといわざるを得ないから、このような被請求人の行為に基づいて登録された本件商標が国際商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し、公の秩序に反するものであることは明らかである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証(枝番を含む。)を提出した。 1 商標法第4条第1項第19号該当性について (1)本件商標は、デザインされた立体的な欧文字の大文字で「S」と書し、本件商標からは「エス」の称呼が生じるものである。 (2)引用商標は、右に20度傾斜させた欧文字の大文字「S」、当該Sの下に、横棒を引き、さらにその下に、傾斜したイタリック体のデザインされた欧文字で「SPORTEC」と書している。この「SPORTEC」は、請求人も認めているように造語である。そして、引用商標から、「エス スポーテック」の称呼を生じるが、特別な意味は持たないものである。この商標は、日本では、第12類には商標登録されていない。 (3)本件商標は、「S」であり、引用商標は、「S/SPORTEC」であるので、商標の全体を比較すると、外観は全く非類似である。 また、たとえ、引用商標から上段の「S」の文字部分を切り出したとしても、本件商標の指定商品においては、多くのデザインされた「S」の文字のみの商標登録が存在する。そうすると、単に「エス」の称呼のみでは、商標を識別できないので、そのデザインされた「S」の文字部分の構成に着目されることになる。 ここで、本件商標と引用商標の「S」の文字部分を比較すると、本件商標の方が、より立体的なデザインになっていることが分かる。そうすると、本件商標の「S」と、引用商標の「S」とは、外観が異なり非類似である。 (4)本件商標からは、「エス」の称呼が生じ、引用商標からは、「エススポーテック」の称呼が生じる。たとえ、引用商標の上段の「S」から「エス」の称呼が生じても、本件商標の指定商品である第12類では、商標「S」の登録が多く、「エス」との称呼だけでは、識別できない。そうすると、称呼においても、本件商標と引用商標は、非類似である。 (5)また、引用商標は、特定の観念を持たないものであるので、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相違し、全く非類似の商標である。 (6)本件商標の登録出願の経緯 ア はじめに 請求人は、本件商標が不正の目的を持って使用するものである旨主張するが、本件商標は、本件の権利者が自己の事業を保護するために、登録出願したものであり、不正の目的を持って登録出願したものではない。 もともと、請求人と被請求人との間で、ビジネスを開始するときに、日本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に商標の取得ができない旨を協議した。しかし、請求人からは「商標取得はできる。申請してある。」との話をされ、乙第1号証の1ないし3を提示され、ビジネス並びに被請求人の投資がスタートした。しかし、後述のように、請求人は、日本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に対して、「SPORTEC」や「S/SPORTEC」の商標の取得は結局できなかった。つまり、被請求人は、請求人から虚偽の申告をされたことになる。既に、被請求人は、ビジネスをスタートし、投資も開始していた。当然の権利として被請求人のビジネスを保全するため商標登録したというのが、本件商標取得の経緯である。 また、平成12年当時は、請求人は、もともとスイス国内でしか商品の展開をしていない会社であった。したがって、請求人のお膝元であるヨーロッパすら商標登録をしていない状況であった。そこで、被請求人は、ドイツ及びヨーロッパでも商標権を保全するために「S/DESIGN」の商標登録をした(乙第2号証、乙第3号証の1ないし3)。さらに、請求人を有名にしたのは被請求人及びスポーテックジャパン社によるものである。 イ 以下に事実関係について詳細に説明する。 1)平成12年3月 被請求人は、スイスジュネーブショーにて請求人と協議し、日本におけるSPORTECビジネスをスタートすることに合意してスポーテックジャパン社の事業の準備を開始した。この時に、商標関係の確認作業を行う。 (a)商標「SPORTEC」について、スイス国内においては、請求人が商標登録済みであるが、日本やその他の外国における登録された権利はなかった。 (b)日本国内において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」について、「SPORTEC」商標について商標調査をしたところ、商標登録第4418363号「スポルティック/SPORTIC」を発見した。この商標に、「SPORTEC」は、類似するものと考えられ、また、商標権者は、本田技研工業株式会社(以下「本田技研」という。)であり、使用されているため、商標「SPORTEC」は日本国内おいて登録不可能であることが判明した。 2)平成12年12月 「SPORTEC」のビジネスをスタートするに当たり、日本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に対して「SPORTECの商標取得ができないのではないか。」との被請求人からの指摘に対し、請求人から「商標を取得できる。」、また、登録申請したとの報告があった。 また、被請求人から請求人に対して、独占輸入契約書の締結を依頼したが、契約書は提示されず。結局そのまま契約書の提示が最後までなかった。 3)平成13年1月 この時点で、日本で販売できる商品が完成しておらず、また、日本国において自動車部品等に対しての「SPORTEC」商標の登録が出来ていないことなどの問題点があったが、請求人の「SPORTEC商標が取得できる」との話を信じて、被請求人は、ビジネスを始動させた。 これを受けて東京オートサロンに被請求人とスポーテックジャパン社負担にてSPORTEC JAPANとして出展(約800万円の出費)。広告展開開始(平成13年だけで1200万円出費)。各雑誌社にパブリシティー記事掲載開始した(同年だけで3000万円出費)。 4)平成13年2月 請求人より日本において、商標の申請をした旨の書類が被請求人に提示される(乙第1号証の1ないし3)。 5)平成13年12月ころまで 請求人の製品の本格的輸入、販売に向けて、契約交渉、宣伝活動を一年間に渡り行う。 6)平成14年1月 被請求人の販売パーツの準備ができたため被請求人はやっと輸入をスタートさせる。 7)同時期に、被請求人は請求人に対して、日本国内で商標登録できる独自のブランドの商標登録を行うように再三の要請を行ったが、請求人は一切動かなかった。 8)平成14年12月 請求人の会社からイエンツハウナー(取締役)離脱。またイエンツハウナーは商品開発の責任者のため今後の商品開発の展開ができないことへの問題を被請求人より請求人に問題提起したが、全く問題ないとの回答にて、とりあえず様子見とする。 9)平成15年6月 請求人の会社で、6ヶ月間で2度の担当者並びに代表者変更(ロイタート、ミュラー)があり、担当者の変更のたびに方向性が違い、決定事項などを振り出しに戻すような対応をされた。また2名の担当者はいずれも業界経験者ではなく数多くの問題が発生した。被請求人は真っ当なビジネスができなかったため、被請求人は請求人に対して日本向け製品のライセンス製造の提案をした。 10)平成15年8月10日 被請求人と請求人は、スイス、チューリッヒにおいて、日本向け製品のライセンス製造に関する最終の話し合いを行った。 請求人は、被請求人に対して、日本車向けに請求人のオリジナルブランドとして「SPORTEC DESIGN MONO10」ホイールを製造すること、及び、日本国内においてこれを独占的に販売することを承諾。 11)平成15年9月 被請求人と請求人は、ドイツフランクフルトにおいて、今後の製造・販売戦略、商標、ライセンス、翌月の東京モーターショーにおける活動などについて話し合い、合意した。 12)平成15年10月 東京モーターショー開催、被請求人自己負担にて専用ブースを設け、取扱商品の告知のため出展した。しかし、請求人は、展示内容などに関し、様々な因縁をつけてきた。 13)平成15年11月13日 被請求人は、国産車用商品発売にあたり、本田技研所有の「SPORTIC」商標との抵触を避ける意味で、商標「S/DESIGN」を第12類に登録出願した。 14)平成15年12月 請求人会社の代表者交代に伴う内紛、度重なる担当者変更、業界未経験スタッフによるノウハウの欠如など、ライセンス製造の問題について請求人の態度が一貫せず、被請求人は請求人の内部トラブルに巻き込まれた。 ドイツのエッセンにて請求人と被請求人は会議をするが、請求人のあまりの横暴ぶりに合意にいたらず。被請求人は請求人に対し、このまま状況が収束しない場合には、提携関係を打ち切る旨を通告した。 15)平成16年3月12日 請求人より被請求人に対し再度会議をしたい旨申し出があり、被請求人は請求人と、スイス、ジュネーブにおいて、ライセンス問題について話し合い、和解に向け話し合いを再開した。 16)平成16年3月18日 請求人は被請求人に対して、今までの無礼の数々に対して謝罪・感謝の念を記載した文書を送付した(乙第4号証の1及び2)。請求人は、謝罪・感謝の念を表すために、日本語で記載した書面を送付した(乙第4号証の1及び2)。 しかし、具体的な進展はなく再度決裂した。 17)平成16年4月22日 被請求人は、平成15年12月並びに同16年3月の二度にわたる請求人との協議にも何の進展も見られないため、商標「SPORT TECHNIC」を第12類に登録出願した。また、商標「S」を第12類に登録出願した。 18)平成16年4月30日 被請求人は、本件商標を第12類に登録した。 19)平成16年6月18日 請求人は、被請求人が商標「S/DESIGN」の商標登録をしたことを知り、請求人から、被請求人のオフィスのあるデュッセルドルフにて会議をしたい旨の申し出があった。デュッセルドルフにて協議をしたが、商標登録第4768661号「S/DESIGN」を無償にて共同使用したいとの高圧的な申し出により、被請求人は、共同使用も議渡も、無償では応じられない旨を回答した。 20)平成16年9月22日 請求人は、被請求人の販売するライセンスホイルの生産会社である株式会社レイズに、虚偽内容を記載した通知をした(乙第5号証の1ないし3)。 21)平成16年10月22日 請求人は、被請求人の販売するライセンスホイルの取引先である株式会社オートバックスセブン等数十社に対して虚偽内容を記載した通知をした(乙第6号証の1及び2)。 22)平成16年10月8日 被請求人は、商標「SPORT TECHNIC」を第12類に登録した(登録第4808365号)。 23)平成16年11月19日 被請求人は、商標「S」を第12類に登録した(登録第4819143号)。 24)平成16年11月 被請求人は、ライセンス商品である「SPORTEC DESIGN」の製品をすべて破棄し販売を中止した。以後は、商標「SPORT TECHNIC」の製品を販売している。 25)日本国内において、平成12年から同16年にかけて、引用商標を積極的に広告活動したのは、請求人でなく被請求人である。 26)以上説明したように、被請求人は、何ら不正の目的なく、自己の事業を保護するために本件商標を商標登録したものであり、また、不正の目的を持って使用しているものではない。 (7)また、被請求人は請求人の商標「SPORTEC」が第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に商標登録されていないことにつけ込んで、本件商標を登録したのではなく、商標「SPORTEC」は、本田技研の登録商標が存在するために、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に登録できないことから、自己の事業を保護するために商標権を取得したものである。 上述のように、請求人は、日本国において、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に対して、「SPORTEC」や「S/SPORTEC」の商標の取得は結局できなかった。被請求人は、請求人から虚偽の申告をされた。また、被請求人は、莫大な広告宣伝費も投資した。したがって、当然の権利として被請求人のビジネスを保全するため商標登録したというのが、本件商標取得の真相である。 また、平成12年当時は、請求人は、もともとスイス国内でしか商品の展開をしていない会社であったが、請求人を有名にしたのは被請求人及びスポーテックジャパンであると自負している。 (8)以上のように、本件商標と引用商標とは、全く非類似であり、かつ、被請求人は、何ら不正の目的を持って本件商標を使用しているものではない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 2 商標法第4条第1項第10号該当性について (1)本件商標及び引用商標については、前記1(1)及び(2)で述べたとおりであり、また、本件商標と引用商標とが外観、称呼及び観念のいずれにおいても相違し、全く非類似の商標であることは、前記1(3)ないし(5)で述べたとおりである。 (2)日本国内において、平成12年から同15年にかけて、引用商標を積極的に広告活動したのは、請求人でなく、被請求人である。 (3)本件商標の指定商品や、第37類「自動車の改造」の分野において、請求人又は被請求人の商品若しくは役務の購入者は、高級外車や高級国産車の所有者である所謂「カーマニア」の人たちであり、この分野の商品又は役務のブランド若しくは製造元を自動車雑誌等で熟知している。 したがって、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」において、本件商標を使用しても、需要者は、請求人の取扱いに係る商品及び役務とその出所を混同することはない。 (4)以上説明したように、本件商標と引用商標とは、全く非類似であり、かつ、本件商標と引用商標とは、所謂狭義の混同も広義の混同も生じないものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第15号該当性について 前記2(1)ないし(3)で説明したように、本件商標と引用商標とは、全く非類似であり、かつ、本件商標と引用商標とは、所謂狭義の混同も広義の混同も生じないものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第7号該当性について 被請求人が本件商標を取得したのには、何ら不正の意図はないものである。また、被請求人は請求人の商標「SPORTEC」が第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に商標登録されていないことにつけ込んで、本件商標を登録したのではなく、商標「SPORTEC」は、本田技研の登録商標が存在するために、第12類「自動車並びにその部品及び附属品」に登録できないことから、自己の事業を保護するために商標権を取得したものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。 第4 当審の判断 1 本件商標及び引用商標について (1)本件商標 本件商標は、別掲(1)に示すとおり、黒地を背景として、やや右に傾斜したS状図形を表してなるものであるところ、当該S状図形は、上右端部分が横長矩形の2隅を斜めに切り欠いた6角形状の断面とし、その切り欠いた2つの面とこれらの間の面とを「S」の字形にそって表し、かつ、右側の湾曲部分と下左端部分の近傍において、切り欠いた面の外側にさらに立体的な面を表し、これら全体が立体的な様相を呈するものとなるように複数の灰色によってグラデーションが施されてものである。そして、かかる構成からは、特定の称呼及び観念は生じないというのが相当である。 (2)引用商標及びその周知性 ア 引用商標 引用商標は、別掲(2)に示すとおり、黒地を背景として、やや右に傾斜したS状図形を構成全体からみて略4分の3を占める程度に大きく表し、その下に配した横線の下に、やや右に傾斜したデザイン化された「SPORTEC」の文字をS状図形に比して縦横幅それぞれ略10分の1程度の小さい文字で表した構成からなるものである。そして、該S状図形は、上右端部分が横長矩形の2隅を斜めに切り欠いた6角形状の断面とし、その切り欠いた2つの面とこれらの間の面とを「S」の字形にそって表し、下左端部分も上右端部分と同様の6角形状の断面とし、全体が立体的な様相を呈するものとなるように複数の灰色によってグラデーションが施されており、さらに、デザイン化された「SPORTEC」の文字部分にも灰色によるグラデーションが施されているものである。 しかして、引用商標は、その構成中の顕著な構成比率を占めるS状図形がその余の構成部分と常に不可分一体のものとして看取されるとみるべき格別の事情は見いだし難く、これに接する需要者をして、該S状図形に強く印象を留め、記憶して取引にあたる場合も決して少なくないとみるのが相当であるから、該S状図形は、独立して自他商品や自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。 そして、引用商標は、「SPORTEC」の文字から「スポーテック」の称呼を生ずるものであるが、構成全体からは、特定の称呼及び観念は生じないとするのが相当である。 イ 周知性 請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。 (ア)請求人は、ドイツ製自動車のエンジン、外装及びブレーキ等の部品の改造部品の製造販売並びにこれら部品を装着した自動車(完成車)の販売及びこれら部品を用いた自動車の改造を業とするスイス法人であり、平成7(1995)年の設立以来、その商品及び役務について引用商標を使用している(甲第2号証)。 (イ)平成12(2000)年には、請求人の自動車用ホイールがスイスの「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ「年間最優秀ホイール賞」第1位を獲得し、平成13(2003)年には、ドイツ連邦の雑誌「VMAXX」で請求人の取扱いに係る改造車が「読者が選ぶスポーツカー」第1位を獲得し、請求人の自動車用ホイールが前記「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ「年間最優秀ホイール賞」第1位を獲得した。 平成14(2004)年には、ドイツ連邦の車専門誌「オートビルド」において、請求人の商品を装着した改造車が「チューニングカー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ(甲第4号証の1)、また、ドイツ連邦の車専門誌「スポーツオート」においても、請求人の商品を装着した改造車が読者が選ぶチューニングカー(スポーツカー部門)の第1位に選ばれた(甲第4号証の2)。 平成15(2003)年には、請求人の取扱いに係る改造車が前掲「Auto Illustrierte」誌において「読者が選ぶスポーツカー及びクーペ」第1位及び「読者が選ぶセダン及びステーンョンワゴン」第2位を獲得し、アメリカ合衆国でも「European Cars」誌において、「編集者が選ぶ1.8Tチャレンジ」第1位を獲得し、また、請求人の製造販売に係る自動車用ホイールが前記「Auto Illustrierte」誌において読者が選ぶ自動車用ホイール第3位を獲得した(甲第2号証の8)。 また、平成15(2003)年1月25日ないし同年6月4日の平成15年のプレスリリースにおいても、多数の自動車専門誌に請求人及び請求人商品が紹介されたことが報道された(甲第5号証の1ないし7)。その他、請求人及び請求人商品は、日本、中華人民共和国、ロシア等の自動車専門誌でも掲載され、引用商標も表示されている(甲第6号証)。 (ウ)請求人は、平成13(2001)年にスイスのチューリッヒ市で行われた自動車ショー、同14(2002)年に千葉県幕張メッセで開催された「東京オートサロン」、同15(2003)年に米国ラス・ベガス市で開催された自動車ショー及びドイツ連邦エッセン市で開催された「Motor Show Essen 2003」、同16(2004)年及び同18(2006)年にスイスのジュネーブ市で開催された「Auto Salon Genf 2004」等、世界各国の自動車ショーに出展し、当該ブースでは、請求人の改造部品を装着した自動車が展示され、引用商標が表示された(甲第7号証)。 (エ)我が国においても、請求人は、平成13(2001)年1月に開催された「東京オートサロン」に自社ブースを出展し(甲第12号証の6、同10ほか)、請求人商品やこれを装着した改造車両を展示し、引用商標を表示した。さらに、同年10月3日及び4日の両日に、神奈川県足柄郡の「箱根プリンスホテル レイクサイドアネックス」において実施された、報道関係者を招いた「プレス試乗会」に請求人に係るイエンツ・ハウナーほかが媒体対応として関与し、その実施概要に引用商標を表示した(甲第10号証)。 平成14(2002)年1月には、請求人商品の輸入販売代理店であったスポーテックジャパン社を通じて、日本市場向けの請求人商品のカタログを作成・頒布し、当該カタログにおいて引用商標が使用されている(甲第11号証)。 本件商標の登録出願日前発行の自動車専門誌「ROSSO」、同「GENROQ」、同「Tipo」、同「モーターマガジン」、同「CAR GRAPHIC」等の多数の自動車専門誌に、請求人の取扱いに係る商品及び役務が引用商標とともに、その紹介記事が掲載された(甲第12号証の5ないし10、同26の1)。 (オ)請求人の売上高は、平成9年に約1億円であったが、平成13(2001)年には、約6億5千万円となり、その後も6億円前後で推移している(甲第3号証)。 ウ 小括 以上によれば、引用商標は、請求人に係る自動車用改造部品やこれらを用いてする自動車の改造等の役務について使用され、本件商標の登録査定時はもとより登録出願時において既に、スイスをはじめヨーロッパを主とした外国の需要者の間に広く認識されている商標となっていたと認められ、また、我が国においても自動車やその部品の需要者、殊に外国車や高級国産車の需要者の間において、相当程度認識されている商標となっていたと認められる。 (3)本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標において顕著に表されたS状図形は、いずれも看者の注意を強く惹くものであるところ、該両S状図形は、下左端部分の形状、側面の形状に相違はあるものの、いずれもやや右に傾斜しており、上右端部分を6角形状の断面としていること、切り欠いた2つの面とこれらの間の面とを「S」の字形にそって表していること、さらに、グラデーションが施されていることにおいて共通するものであり、構成全体の形状はもとより、グラデーションが施されていることも相まって構成全体が立体的な様相を呈することから、上記差異がこれらの共通点と比べてそれほど看者の印象に残るとはいい難いものであり、むしろ、看者に与える印象の骨格を決定づける図形としての基本的構成において、両者は、構成の軌を一にするものである。 そうすると、本件商標と引用商標に接する需要者は、両商標から共通する印象を強く受けるものとみるのが相当であるから、両商標は、これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合、需要者が両者を区別することは極めて困難であるほどに、外観において類似するものというべきである。 してみると、本件商標と引用商標は、称呼及び観念の差異によって明確に区別し得るものではなく、顕著に表されたS状図形において、極めて近似した印象を与えるものである。 したがって、本件商標は、引用商標に類似する商標というべきである。 2 不正の目的の有無について (1)経緯等 請求人及び被請求人の主張及び提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 請求人と被請求人及びスポーテックジャパン社の関係 (ア)請求人は、平成12(2000)年3月ころより、被請求人との間で、我が国における請求人商品の輸入販売事業を開始するための交渉を開始した(甲第13号証の1ないし5)。被請求人は、平成12年11月15日に株式会社ディギットパワージャパンを株式会社スポーテックジャパンに変更するとともに、同社の代表取締役に就任した。また、請求人との交渉・連絡において被請求人の代理人としての役割を担っていた岡本は、同社の取締役に就任した(甲第14号証)。 (イ)スポーテックジャパン社は、平成12(2000)年以降同15(2003)年ころまで、請求人商品の日本における輸入販売代理店として、継続的に請求人商品を日本に輸入し、日本国内において販売した。そして、日本国内におけるプレス発表会の開催、日本語ホームページの開設、自動車ショーへの参加、雑誌等への広告などを行った(甲第7号証、甲第10号証、甲第12号証の32、同37、同48ほか)。 (ウ)スポーテックジャパン社は、請求人との取引の開始当初より、請求人商品の日本における輸入販売代理店として、請求人の許諾の下で、S状図形及び「SPORTEC」(スポーテック)の文字を、その商号、ホームページのドメインネーム、広告等に使用していた(甲第10号証、甲第12号証の8ないし10、甲第16号証)。また、請求人は、岡本に対して、「SPORTEC」の文字が請求人の許諾によってのみ使用可能であることを通知した(甲第17号証の31)。 (エ)商品の発注及び代金の支払いに関する請求人とスポーテックジャパン社との間の連絡は、岡本を通じて行われた(甲第17号証の1ないし39)。請求人商品の発注は、スポーテックジャパン社から請求人に対して行われ、商品はスイスの請求人本社からスポーテックジャパン社の所在地に納入された。納入された商品に対する請求書は請求人によって発行され、スポーテックジャパン社がこれを支払った(甲第18号証)。 イ 提携関係の解消等 (ア)平成15年8月8日、スイスのチューリッヒ近郊シュリーレンにおいて請求人代表者と被請求人及び岡本との間で行われた会議において、被請求人は請求人に対し、既存の請求人商品ではスポーテックジャパン社の売上高と利益を確保することができないと主張し、請求人のブランド「SPORTEC」の日本市場向けセカンド・ブランドとして「SPORTEC DESIGN」を立ち上げ、同ブランド名で日本車用の部品(ホイール・リムなど)を販売することを提案した。一方、請求人は被請求人に対し、文書による許可なしに、Sportecブランド或いはこれらの使用に関連していかなる画像、図面、車両、車両パーツ及びテスト報告も作製、公表、出版或いは使用してはならないことを通知した(甲第19号証の2ないし3)。 前記の会議の内容を受けて、請求人は、平成15年9月11日シュリーレンにおいて再度被請求人及び岡本と会議を行った。会議の席上、請求人は新たに日本車向けに設計した自動車用ホイールを提示し、請求人と被請求人はホイール・リムの技術的なスペック(仕様)と販売契約の内容について協議し、同年9月30日までに最終的な販売契約を締結することを目標とすることについて合意した。また、請求人は、被請求人に対し、販売契約書のドラフトを提示した(甲第20号証の1ないし3)。当該ドラフトにおいて「SPORTEC及びSPORTEC JPラインの商標は、契約期間中もその後も、請求人が占有する」ことが記載された。 日本における金融機関や取引先との交渉のためにレター・オブ・インテントが必要であるとのスポーテックジャパン社の要請に応じ、請求人は、平成15年9月12日、日本市場向けにホイール・リムを製造することを決定したこと、ホイール・リムは「SPORTEC S-LINE」のブランドで販売すること、デザインは「MONO/10」ホイール・リムをベースとしたものにすること、日本市場へのホイール・リムの独占的輸入権をスポーテックジャパン社に与えること、同年9月30日までに日本市場向けホイール・リムの製造販売に関する最終的な契約が締結されることを条件として、同16年初めまでにホイール・リムの供給を開始する計画であること等を記載したレター・オブ・インテントを発行した(甲第21号証)。 平成16年9月18日、請求人は、ホイール・リムの最終デザインと「SPORTEC DESIGN」とS状図形の商標使用に関する最終的なプロポーザルをスポーテックジャパン社に提供した。平成16年9月22日、請求人は、7500セットのホイール・リムの販売に関するドイツ語の詳細な商品販売契約書の草案を送付し、技術上及び商取引上明らかにしなければならない事項の情報提供をスポーテックジャパン社に求めたが、同社はこれらの情報を提供しなかった。 (イ)平成15(2003)年10月、スポーテックジャパン社は、日本市場向けホイール・リムの製造販売に関する契約を締結しないまま、東京モーターショーに出展し、インターネット上でその商品を宣伝した。また、当該東京モーターショーにおいて、スポーテックジャパン社は、ホイール・リム以外の「SPORTEC DESIGN」ブランドの部品を装着した二台の日本車(完成車)を展示した。 これに対して請求人は、平成15(2003)年11月6日、スポーテックジャパン社の岡本宛てに警告書を送付し、(a)東京モーターショーの参加に同意しなかったこと、(b)スポーテックジャパン社の事業活動を日本市場以外に拡大しないこと、(c)請求人の書面による同意がない限り請求人の商標である「SPORTEC」及び「SPORTEC DESIGN」を使用しないこと、を要求した(甲第22号証)。 一方、被請求人は、平成15(2003)年9月、「ドイツ・フランクフルトにおいて、今後の製造/販売戦略、商標、ライセンス、翌月の東京モーターションにおける活動などについて話し合い、合意した。」と主張している。 しかし、請求人の警告書に対して、スポーテックジャパン社は、平成15(2003)年11月14日付けの書面において、「双方にとって成功をもたらす提携関係を続けたい」旨の回答(甲第23号証)をしたが、ほかに「商標、ライセンス等についての合意」を裏付ける証左はない。 (ウ)その後、ドイツ連邦で開催されたモーターショーにおいて、請求人代表者と被請求人及びスポーテックジャパン社の間で、書面による販売代理店契約とライセンス契約の締結の可能性について協議したが合意に至らなかったため、請求人は、スポーテックジャパン社の岡本に対し、平成15(2003)年12月2日付けの書面により、平成16(2004)年度について日本における輸入販売代理店としての関係を継続する意向であれば、書面による契約を締結することが前提条件であることを通知した(甲第24号証)。これに対して、スポーテックジャパン社は、平成15(2003)年12月9日付けで、請求人との協力関係を解消すると通知した(甲第25号証)。 (エ)なお、請求人は、被請求人に宛てた平成16(2004)年3月18日付け書面で、請求人商品の販売に関する被請求人らの日本における従来の努力に対する謝辞と、交渉時における請求人側の態度について詫びるとともに、両者間の提携継続を申し出た(乙第4号証の1及び2)。 しかし、その後、請求人と被請求人の間で、両者の提携に関する進展、合意を示す証左は見いだせない。 ウ 本件商標の出願 被請求人及びスポーテックジャパン社は、東京モーターショーへの出品に関する平成15年11月6日付けの請求人からの警告書に対し、同社取締役岡本を通じて友好関係を継続したいと表明する一方、被請求人は、平成15年11月13日に本件商標を登録出願した。 (2)不正の目的 ア 上記(1)の経緯等を総合してみれば、被請求人は、スポーテックジャパン社の代表者であり、同社は、本件商標の登録出願前の平成12(2000)年ころから請求人商品の日本における輸入販売代理店であったと認められ、引用商標の動向等について知悉していたということができるものである。そして、請求人との間で販売代理店契約等の業務提携に係る交渉が継続している時期に、引用商標が本件商標の指定商品について登録されていないことを奇貨とし、引用商標の要部であるS状図形に酷似した図形を顕著に表した本件商標を、出願し登録を得たものと推認される。 しかして、前記経緯等に照らせば、被請求人は、請求人との契約交渉等を有利に進めるため、あるいは、日本における請求人の参入を阻止する等の不正の目的をもって、本件商標を登録出願したといわざるを得ないものである。 イ この点に関して、被請求人は、我が国において引用商標を周知にしたのは被請求人及びスポーテックジャパン社である旨主張し、また、請求人商標が我が国で登録できないため、自己の事業を保護する理由で本件商標を登録出願した旨主張している。 しかし、引用商標は、本件商標の登録出願時前には既に我が国ほかで需要者の間において広く認識されるに至っていたものと認められる上、我が国において被請求人及びスポーテックジャパン社が請求人商品の宣伝広告に努めたのは、請求人商品の販売を促進して日本における輸入販売代理店として業績向上を図る立場から、被請求人らが当然に行う販売代理店としての業務行為とみるのが相当であり、被請求人らが自ら採択した商標を周知にしたのとは、異なるというべきである。また、たとい自己の事業を保護するとの意図の下に行われた登録出願であるとしても、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標について知悉しつつ、その商標使用者の許可なくこれと紛らわしい商標の登録出願をしたことが、正当化され得ないというほかない。 したがって、被請求人の上記主張は、採用することができない。 3 商標法第4条第1項第19号該当性について 以上の1及び2を総合すれば、本件商標は、その登録出願時及び登録査定時において、外国及び我が国における需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であり、かつ、不正の目的をもって使用をするものに当ると認められるから、商標法第4条第1項第19号に該当するといわざるを得ないものである。 4 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであるから、他の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 (1)本件商標 (色彩については、原本参照) (2)引用商標 (色彩については、原本参照) |
審理終結日 | 2009-06-09 |
結審通知日 | 2009-06-12 |
審決日 | 2009-06-30 |
出願番号 | 商願2004-38540(T2004-38540) |
審決分類 |
T
1
11・
222-
Z
(Y12)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 金子 尚人 |
特許庁審判長 |
井岡 賢一 |
特許庁審判官 |
田村 正明 末武 久佳 |
登録日 | 2004-11-19 |
登録番号 | 商標登録第4819143号(T4819143) |
商標の称呼 | エス |
復代理人 | 石田 昌彦 |
復代理人 | 廣中 健 |
復代理人 | 五十嵐 敦 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 山本 尚 |