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審判番号(事件番号) データベース 権利
取消2008300167 審決 商標
審判199831328 審決 商標
審判199830905 審決 商標
審判199830904 審決 商標
取消200530788 審決 商標

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審決分類 審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y03
管理番号 1200471 
審判番号 取消2007-300819 
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2007-06-27 
確定日 2009-06-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第4771656号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4771656号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4771656号商標(以下「本件商標」という。)は、「Tuff Plus」の欧文字と「タフプラス」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、平成15年8月5日に登録出願、第3類「つや出し剤用剥離剤,床用つや出し剤,床用せっけん類」を指定商品として、同16年5月21日に設定登録がなされたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1ないし第10号証を提出した。
1 請求の理由
(1)「パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者」であること
本件審判請求人であるヒルド ケミカル インコーポレイテッド(Hild Chemical,Inc.)は、パリ条約同盟国であるアメリカ合衆国に所在するカリフォルニア州法人である。
請求人は、アメリカ合衆国において、1991年12月1日から標章「TUFF PLUS」の使用を開始し、2006年6月13日には、米国商標登録第3138230号(甲第3号証)を取得している。
アメリカ合衆国は、商標の保護について使用主義を採用しており、使用の事実によって商標権が認められるところ、請求人が事実関係をまとめた宣誓書のEXHIBIT A(甲第4号証、請求人から被請求人宛てに発行された請求書写し)によれば、2002年3月14日から、本件商標の登録出願日2003年8月5日を挟んで、同月19日まで、請求人は、被請求人に標章「TUFF PLUS」を付した商品を輸出販売している事実が認められる。
アメリカ合衆国においては、「輸出」は、商標の使用の範囲に入ると解されているから、少なくとも上述の期間、請求人には「TUFF PLUS」についての商標権が認められていたといえる。
したがって、請求人は、商標法第53条の2に規定する「パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者」に該当する。
(2)前記商標に関する権利との商標及び商品の同ー又は類似
本件商標は、欧文字「Tuff Plus」と片仮名「タフプラス」を二段に書してなり、一方、請求人が本件商標出願時にアメリカ合衆国において使用していた商標は、「Tuff-Plus」(甲第4号証、EXHIBIT A)であって、両商標は、称呼を同じくし、出所の混同を生ずる互いに同一又は類似の商標であることは、明白である。
なお、現在、請求人が実際に使用する商標の態様は、甲第5号証に示すとおりである。
また、本件商標の指定商品は、「つや出し剤用剥離剤,床用つや出し剤,床用せっけん類」であるところ(甲第1号証)、請求人が本件商標出願時に「Tuff-Plus」の商標を付していた商品は、甲第5号証に示す商品と基本的には同じであって、床の剥離洗浄、つや出し仕上げの作業に使用される化学品であり、両商品が同一又は類似であることも明白である。
(3)代理人若しくは代表者
被請求人グローバルリンク株式会社は、2002年3月から請求人と取引を開始し、1年半足らずでその取引額は37万米ドルを超えるまでになった(甲第4号証、EXHIBIT A及びG)。日本で唯一の代理店として2003年11月には、被請求人が主体となって、請求人の商品の日本における販促イベントを開くなど、2003年には、請求人、被請求人ともに、被請求人は請求人の事実上の日本総代理店であると認識するに至っていた。
その証左として、本件商標の出願日2003年8月5日と相前後して、被請求人は、請求人にEXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENTを交わすことを提案したが、請求人は「EXCLUSIVE」契約であるにもかかわらず、即合意している(甲第4号証、EXHIBIT B)。それは、単にこれまでの取引関係を契約として明確化する作業にすぎなかったからである。
したがって、被請求人は、商標法第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者」に該当する者である。
なお、請求人が被請求人の提案を請けて草案として示したのが、甲第4号証「EXHIBIT C」中に見られるEXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENTであるところ、被請求人は、その内容が複雑にすぎるという理由で署名を引き伸ばし、結局、署名をすることなく2003年8月19日の注文を最後に取引を一方的に打ち切ってしまった。
(4)承諾及び正当な理由の欠如
請求人は、「TUFF PLUS」の欧文字よりなる商標に係る商標登録出願(商願2005-85164)の出願人でもある(甲第6号証、以下「本願商標」という。)。
本件商標が引用され、平成19年2月2日に拒絶査定(甲第7号証)が発送されたが、現在、審判係属中であり(甲第8号証)、本件商標が引例として維持されることにより、請求人の本願商標は、期せずして商標登録されないこととなる。
また、請求人が準備したEXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT(甲第4号証、EXHIBIT C)の第13条には、請求人がその商標を独占的に使用する権利を留保する旨、及び被請求人は、請求人の方針に従って商標を使用することができるにすぎない旨が明示されており、さらに、第17条には、契約の終了後には、被請求人は、一切、請求人の商標を使用しない旨が明示されている。
請求人がこのAGREEMENTを被請求人に送付したときには、既に、被請求人は、本件商標を出願していたが、その出願が請求人の意に反することは明らかであり、また、登録出願の事実が請求人に一切伝えられなかったことからすれば、事務管理の目的で登録出願されたともいいがたい。
したがって、本件商標は、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ることなく、商標登録出願がされ、登録されたものである。
(5)結論
以上のとおり、本件商標は、請求人がパリ条約の同盟国であるアメリカ合衆国において使用し、獲得した商標権に係る商標と類似の商標であって、当該権利に係る商品と同ー又は類似の商品を指定するものであり、かつ、その出願が正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで、請求人の事実上の日本総代理店であった被請求人によってされたものである。
したがって、本件商標は、商標法第53条の2に基づき、その登録は取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)答弁書に対する認否
被請求人は、遅くとも2002年には請求人の総代理店の地位にあり(甲第9号証、EXHIBIT A-2)、2003年8月6日及び7日付の小島氏からKim Roti氏宛に送付された電子メールには、1週間前に小島氏から契約書を交わす提案があったこと及びその回答の催促を内容とするものであり、これに応じて、2003年8月12日にKim Roti氏から独占的代理店契約書案が送付されている。
以上の経緯からすれば、むしろ被請求人が独占契約を希望したと考えるのが自然であって、「独占契約について打診されたことはない」との主張は、不合理である。
Daniel Harrigan氏が、請求人と商標に関して話したことがないことから、「請求人が本件商標の登録を受けることについて検討していたことはない」とはいえない。前者と後者は、前提と結論の関係になく、論理的な証明となっていない。同氏が宣誓書で述べる事実は、いずれも同氏の主観ないし勝手な思いこみを述べるにすぎず、客観的に「正当な理由」にはあたらない。
(2)被請求人の主張に対する反論
ア 被請求人の主張は、要するに、独占的な契約の締結を打診されたことはなく、また、契約を締結していない。
非独占的な取引関係があるから、被請求人は、請求人の得意先又は顧客の関係にすぎず「代理人若しくは代表者」に該当しないというものであり、非独占的な取引関係であったことを証明するため、Daniel Harrigan氏及びPeter Fox氏の宣誓書及び証言を提出し、るる述べている。
イ しかし、取引関係が独占的か非独占的かは、「代理人若しくは代表者」に該当するか否かとは関係がなく、仮に取引関係が非独占的なものであるとしても、そのことは他人の所有にかかる商標を無断で出願登録することを何ら正当化するものではない。
「代理人若しくは代表者」に該当するか否かは、当該規定の趣旨及び取引関係の実体・内容、さらに、出願人の主観的行為態様等を総合的に考慮して判断されるべきものである。
ウ 商標法第53条の2は、パリ条約6条の7の規定を受けて規定されたものであり、外国商標権者と一定の密接な関係にある者による背信的な登録を排除し、商標の国際的保護を図ることを趣旨とする。
かかる趣旨からすれば、本条の「代理人若しくは代表者」とは、契約上ないし法律上の代理人若しくは代表者といった狭い範囲の者に限られず、当該外国商標権者との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者を含むと解すべきであり、これらの者は、かかる特別の関係にかんがみて、信義則上、相手方の財産(商標権を含む。)等を尊重し、これについて、かかる取引関係、信頼関係に付随して安全配慮義務を負うからである。
エ これを本件についてみると、被請求人は、本件商標の出願日である2003年(平成15年)8月5日の前1年以内である2002年3月?2003年8月頃にかけて、相当の期間にわたって相当量の請求人製品を購入(輸入)しており、また、被請求人は、請求に対して、契約の締結を希望し、これに対して請求人は、独占的販売代理権の契約書案を送付している。また、被請求人が提出するPeter Fox氏の宣誓書(乙第2号証)の第3段落の中程には、Kim Roti氏とGlobal Link社(被請求人)が、商品供給に関しポートランドのZorro Technologies, Inc.(以下、「Zorro社」という。)を訪問し、工場を見学したことが記載されている。
これらの事実からすれば、請求人と被請求人は、継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っており、一定の密接な関係にあったといえる。
オ しかも、被請求人が、2003年8月?10月頃、請求人の取引先であるZorro社から請求人製品を購入し始めたことからすれば(甲第9号証パラグラフ13)、本願を出願するに至った動機、目的は、本件商標がいまだ日本で未登録であることを奇貨として、正規ルートによらないで請求人製品を輸入し、その日本における販売を独占しようという不正な意図から剽窃的に出願されたものであることは、明らかである(なお、Zorro社は、Hild製品を請求人にのみ供給し、他に販売しない義務があった。したがって、Zorro社の販売は、この義務に違反するものであり、被請求人の行為は、その教唆ないし幇助にあたる。)。これは、まさに前記安全配慮義務に違反する背信的行為であり、商標法53条の2が規制しようとするものである。
力 以上の事実からは、被請求人と請求人の取引関係は、本規定の趣旨が妥当とする継続的かつ信頼的な関係に至っていたといえ、さらに、請求人の行為態様は、請求人取引先から請求人製品を購入し始めたのと時期を同じくして本件出願を行っているという背信的なものである。
よって、被請求人は、商標法第53条の2の規定する「代理人若しくは代表者、又は、出願前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当する。
(3)Daniel Harrigan氏の宣誓書に対する反論
請求人は、Daniel Harrigan氏の宣誓書に対して、Kim Roti氏の第2宣誓書及びJames Roti氏の宣誓書を提出し、以下のとおり反論する。
ア Daniel Harrigan氏は、請求人と被請求人の間の一部取引の通訳及び世話役にすぎず、請求人と被請求人のビジネスに日常的に関与していない。
同氏の供述は、請求人と被請求人の取引の限られた部分的ないし断片的な知識・見聞に基づく独自の見解にすぎない(甲第9号証パラグラフ2)。
イ Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ1?3について
これらの事実は、本件とは無関係であり、代理店に与えられる「販売権」は、それが「独占的」か否かにかかわらず、その者に商標の所有及び登録をする権利を与えるものではなく(甲第9号証パラグラフ3)、「販売」することを許諾するにすぎない。
ウ Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ4は、事実に反する。
被請求人は、請求人の「Master distributor(総代理店)」であって、請求人は、被請求人との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っており、信義則上、相手方の財産(商標権を含む。)等を尊重すべき義務を負う者であった。
甲第9号証中の4及びこれに添付するEXHIBIT A-2は、当時の請求人代表者であるJoe Roti氏が、日本でのHild製品の転売について問い合わせてきた日本商社Brown Co.,Ltd.のT.モチヅキ氏に宛てた電子メールの真正な写しであり、Global Link,Inc.のKojima氏がccに入っている。
この電子メールでは 、「Global Link,Inc.は日本国におけるHild Chemical,Inc.の主販売者であり」と明確に書かれており、問い合わせ対応は、Global Link,Inc.に任されていることが記されている。
エ Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ5について
Joe Roti氏は、請求人が製品を社内で製造していない事実を隠したことはない。
そもそも、商標とは、原生産者表示ではなく、実際の生産者が誰であるかにかかわらず、その製品の品質をコントロールし、品質について保証する者は、誰であるかを表示するという意味において、出所を表示するものである。
製品を全て自社製造しているのか、原料メーカーから半製品等を購入しているのかは、本件と無関係である(甲第9号証パラグラフ5)。
オ Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ6は、単に氏の独自の見解ないし勝手な思い込みにすぎない。
請求人は、商標権による保護に常に注意を払っていた。仮に、Joe Roti氏とHarrigan氏が、偶々商標権について話をしたことがなかったからといって、出願人が商標に関心がなかっとはいえないし、まして、被請求人が本件商標権を所有し登録することを正当化するものではない。
米国においては、コモンロー上の商標権に拠って立つのは、普通のことであり、商標の連邦登録は、有効かつ権利行使可能なコモンロー上の商標権が存在するために必須ではない(甲第9号証パラグラフ6)。連邦登録がされていないことは、商標についての関心の有無とは、無関係である。
力 Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ7は、事実に反する。
「機械」に関するHild商標の使用権は、サンディエゴのMyteeProductsに移転されたが、フロアケア用の化学品に関するHild商標権は、請求人に移転された(甲第9号証パラグラフ7)。このことは、甲第9号証に添付するJames Roti氏の宣誓とその添付書類である「化学品」に関するHild商標を1万米ドルでJoseph E.Rotiに譲り渡す旨を述べた1999年8月21日付けの契約書で証明される。これら書面は、EXHIBIT B-2として添付する。
キ Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ8は、事実に反する。
Joe Roti氏は、亡くなる前、Kim Roti氏にHild Chemical,Inc.の取引について詳しく知らせており、同氏は、彼の死後すぐ社長として自ら会社を切り盛りしている(甲第9号証パラグラフ8)。
ケ Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ9は、事実に反する。
Hild Chemical,Inc.からZorro社への支払いに滞りはなかった。
この証拠として、添付のEXHIBIT C-2は、2003年1月1日から2004年4月30日までのZorro社との取引記録の真正な写しであり、ここには、Zorro社からの注文とそれに対応する支払い状況が記録されており、合計190,666.35米ドルが2003年6月1日から2003年8月31までの間にHild Chemical,Inc.からZorro社へ支払われたことが示されている(甲第9号証に添付するEXHIBIT C-2)。
コ Harrigan氏の宣誓書のパラグラフ10は、事実に反する。
甲第9号証に示すように、Hild Chemical,Inc.及びKim Roti氏は、ビジネスを継続しており、請求人と被請求人との間でも2003年8月以降、同年10月まで取引が続いていた。これは、Global Link,Inc.からHild Chemical,Inc.への複数の電子メールによって証明される(甲第4号証に添付するEXHIBIT AないしG)。
(5)Peter Fox氏の宣誓書に対する反論
ア Peter Fox氏の宣誓書のパラグラフ2は、事実に反する。
本件商標を創案し、製品用のラベルをデザインしたのは、Joseph Roti氏である(甲第9号証パラグラフ11)。Zorro社は、半製品ないし原材料を製造して、最終メーカーに供給している原料メーカーにすぎず、かかる者が最終製品の販売者の商標を創案することは、常識的に考えてもあり得ないことであるが、いずれにしても商標とは、創作物を保護するものではなく、識別標識として使用されることにより、当該標識に化体する信用を保護するものである。
そして、本件商標を商業上最初に使用した者は、請求人であるから、請求人が本件商標のコモンロー上の商標権者であることに変わりはない。
イ Peter Fox氏の宣誓書のパラグラフ3は、事実に反する。
確かに、請求人が顧客に対し、Zorro社と直接連絡を取らないように求めたが、これは、請求人とZorro社は、最終メーカーとその原材料ないし半製品を製造して供給する原料メーカーの関係にあり、Zorro社は、Hildにかかる製品を請求人にのみ提供する義務があり、請求人の顧客はいうに及ばず、請求人以外のいかなる者に対しても、これを直接販売する権限はなかったからである(甲第9号証パラグラフ12)。
ウ Peter Fox氏の宣誓書のパラグラフ4は、事実に反する。
Hild製品が意図的に利益を増やすため過度に薄められたという事例は、一つもない。もっとも、商標Neutral Cleanerを付して販売されている製品の濃度に関して苦情を受けたことがあるが、これは、Zorro社が、請求人に事前連絡をすることなく製品の組成配合を変更したことにより、製品の粘性が低下したためであった(甲第9号証パラグラフ13)。いずれにしても、この件は、本件商標とは、関係がなく、そもそも製品の品質に関する苦情等の事情は、本件とは、無関係であり、このような事実が被請求人に本件商標の所有及び登録をする権利を与えるものではない。
エ Peter Fox氏の宣誓書のパラグラフ5に関して
Zorro社が 、「formulary right」(配合ないし処方権)を有するとしても、これは、本審判とは、無関係であり、仮に、Zorro社が、Hildにかかる製品の成分の配合ないし処方を考案し、「formulary right」を有するとしても(なお、請求人は、Zorro社がかかる権利を有することを否認する。)、そのことは、被請求人はいうに及ばず、Zorro社に対してもHild商標を所有し使用する権利を付与するものではない。
仮に、Zorro社が、Hildにかかる製品の「formulary right」を有するとしても、そのことは、請求人又はその余の第三者が、かかる配合ないし処方を実施又はその実施品である化学品等を製造した場合に問題となり得るとしても、その製品に付された商標の問題とは、無関係である。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を以下のように述べ、証拠方法として、乙第1及び第2号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)請求人は、「被請求人は、請求人にEXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENTを交わすことを提案した」旨主張している。
しかしながら、被請求人は、請求人に対して「将来の円滑な取引のために契約を締結したい」と提案したにすぎず(甲第4号証、EXHIBIT B 2003年(平成15年)8月6日付けメール)、契約内容について、何ら具体的に提案していない。また、請求人は、「請求人は、『EXCLUSIVE』契約であるにもかかわらず、即合意している」旨主張しているが、事実と相違している。
請求人が「No problem.」(甲第4号証、EXHIBIT B 2003年(平成15年)8月7日付けメール)と回答したのは、被請求人が上記「将来の円滑な取引のための契約」について回答するように再三要求(甲第4号証、EXHIBIT B 2003年(平成15年)8月6日付けメール)した後で、請求人は、即合意したものではない。
すなわち、被請求人の契約に対する請求人の回答は、「No problem.」の一語にすぎない。そして、被請求人は、請求人に対して「EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT」を交わすことを提案してはいないのであって、請求人の「No problem.」の回答をもって、請求人が「EXCLUSIVE」契約、すなわち独占的な契約に合意したとしているが、独占的な契約に合意していない。
(2)被請求人が、請求人と2001年に商品の取引を開始してから、2003年8月に取引を中止するまでの間に、被請求人は、請求人の当時の代表者Joseph Roti氏及び請求人の現在の代表者Kim Roti氏から独占契約について打診されたことはなく、また、契約を交わしていない。
このことから、被請求人は、請求人と非独占的な取引関係にあったことは、事実であるとしても、被請求人は、請求人の代理人又は代表者ではない。
(3)請求人は、被請求人とは別のTriple E.Internationalの代表者Daniel Harrigan氏を岐阜の新規取引先への営業に行かせたことからも、請求人は、被請求人を日本総代理店にする意思がなかったことは、明らかである。
(4)請求人は、被請求人に宛てた2003年(平成15年)8月12日付けのメール(甲第4号証 EXHIBIT C)で、英文7ページに及ぶ 「EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT」の表題の契約書(案)を提案しているが、この契約書(案)には同意できなかったので、被請求人は、契約をしていない。
なお、被請求人が請求人と契約を締結しなかった理由は、2003年3月26日に請求人の当時の代表者Joseph Roti氏が死亡した後、請求人から供給される商品「つや出し剤用剥離剤,床用つや出し剤,床用せっけん類」(以下「フロアケア用化学品」ということがある。)は、従来の商品と品質が異なるように思われ、また、商品の供給も順調ではなくなり、これ以上取引関係を維持することは、問題があると判断したからである。
また、被請求人は、品質が異なる商品の取引を継続し、これら商品を販売することは、被請求人が蓄積した被請求人自身の信用と被請求人が本件商標に蓄積した業務上の信用とを損なうおそれがあると危惧していた。
そこで、被請求人は、本件商標の商標登録出願の時期と相前後して、請求人に対して上述のとおり「将来の円滑な取引のための契約」について提案(甲第4号証 EXHIBIT B 2003年〔平成15年〕8月6日付けメール)をしたにすぎず、請求人が主張する 「EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT」を締結することはもちろん、そのような提案をする意思すら有していない。
(5)上述のとおり、2003年3月に請求人の当時の代表者Joseph Roti氏が死亡した後、被請求人は、請求人から供給される商品の品質が異なるように思い、フロアケア用化学品の製造元であるZorro社のPeter Fox氏に連絡を取った。
すなわち、この頃、被請求人は、フロアケア用化学品を製造しているのは、請求人ではなく、Zorro社であることを知った。
一方、請求人は、被請求人とZorro社を訪れた際に、被請求人が同社に直接連絡を取らないよう被請求人に要求し、さらに、後日改めて念を押している(甲第4号証 EXHIBIT D 2003年(平成15年)8月18日付けメール)。
この請求人の要求に対して、被請求人は、商品の品質が異なるように思っていたことから、当事者間の信頼を基礎とする商取引において請求人に対する信頼関係の維持に問題があると判断したので、被請求人は、請求人の申出を拒否した。
このことから、被請求人は、請求人の代理人又は代表者ではないことは、明らかである。
(6)以上のことから、被請求人は、請求人の日本国内における代理人若しくは代表者であったとの請求人の主張は、理由がないことが明らかである。
なお、仮に請求人が被請求人との間に、独占的な契約を締結する意思を有していたとしても、その意思は、被請求人に対して明示又は黙示に一切伝えられていないので、被請求人が請求人の代理人若しくは代表者ではない。
(7)よって、請求の理由(4)の被請求人は、請求人の代理人若しくは代表者であったことについては、否認する。
(8)被請求人は、次のア及びイの事実を主張し、証人Daniel Harrigan氏の宣誓書及び証言により立証する。
ア 被請求人は、請求人の当時の代表者Joseph Roti氏から、請求人の商品に関する独占契約について一度も打診されていない。両者は、契約も交わしていない。また、被請求人は、請求人の当時の代表者Joseph Roti氏から、取引の当初には、請求人が商品の製造元でないことを伝えられず、被請求人は、請求人と取引を行っていたものである。
イ 請求人は、被請求人と直接取引を開始した後、以前の取引相手であった件外玉田商会と取引を再開するつもりであった。
しかしながら、請求人は、件外玉田商会とコンタクトを取ったが、商品の製造元であるZorro社から玉田商会への商品の販売を拒まれたので、取引を再開することはできなかった。
(9)被請求人は、次のアないしウの事実を主張し、証人Peter Fox氏の宣誓及び証言により立証する。
ア 2000年に、Zorro社は、請求人の当時の代表者Joseph Roti氏から、請求人のために商品「フロアフィニッシュ」(「フロアケア用化学品」)とその関連製品を製造するように依頼された。
すなわち、請求人が自らフロアケア用化学品を製造していないことは、明らかであり、請求人は、被請求人に事実を伝えずに取引を継続していた。
イ 2003年3月26日にJoseph Roti氏が死亡した後、請求人の現在の代表者Kim Roti氏と被請求人とがZorro社を訪れ、今後の商品の製造及び新商品の開発について確認した。
そして会議の際、請求人の現在の代表者Kim Roti氏は、被請求人に対し、どんな状況であれ、Peter氏に直接連絡しないよう念を押した。
このことから、請求人は、被請求人がZorro社に商品に関する一切の問合せしないことを要求しているので、被請求人は、請求人を信頼できなくなった。
ウ Zorro社は、2003年7月下旬に請求人の代表者Kim Roti氏との関係に問題が生じていることを被請求人に伝えた。
そして、被請求人と直接取引をすることになり、2003年10月に被請求人に商品の初回発送をした。
すなわち、請求人とZorro社との関係から、被請求人に対する商品の供給が順調でなくなった。
(10)上記各理由から、被請求人は請求人と取引関係があったことは、事実であるが、被請求人は、請求人の得意先又は顧客の関係にすぎないものであって、被請求人が請求人の代理人若しくは代表者に該当するとの請求人の主張は、理由がない。
よって、上記のことからも、被請求人は、請求人の代理人若しくは代表者であったことについては、否認する。
(11)請求人は「請求人がこのAGREEMENTを被請求人に送付したときには、既に、被請求人は、本件商標を出願していたが、その出願が請求人の意に反することは、明らかである」旨主張している。
しかしながら、請求人の当時の代表者Joseph Roti氏は、日本国内において本件商標の登録を受けることについて検討していたことはない。
このことは、請求人が商標の権利を取得する関心がないことを信じさせた場合に該当するものであり、商標法第53条の2に規定する「正当な理由」に該当し、請求人の「したがって、本件商標は、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ることなく、商標登録出願され、登録されたものである。」との主張は、理由がない。
よって、請求の理由(5)の、正当な理由については、否認する。

第4 当審の判断
1 商標法第53条の2について
本条は、パリ条約第6条の7の規定を実施するための規定であり、他の同盟国で商標に関する権利を有する者の保護を強化し、公正な国際的取引を確保することを目的とするものであって、その者の承諾を得ないで、その代理人若しくは代表者(商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であったものを含む。)が我が国に当該商標と同一・類似範囲にある商標を登録した場合に、商標に関する権利を有する者がその商標登録を取り消すことについて審判を請求できる旨を定めたものである。
2 両当事者間に争いのない事実
(1)請求人「ヒルド ケミカル インコーポレイテッド(Hild Chemical,Inc.)」は、パリ条約同盟国であるアメリカ合衆国に所在するカリフォルニア州法人であって、アメリカ合衆国において、1991年12月1日から「床の剥離洗浄、つや出し仕上げの作業に使用される化学品」について、請求外「Zorro社」に製造を依頼し、これに標章「Tuff Plus」(甲第5号証)の使用を開始した。
(2)請求人は、2002年3月14日から2003年8月19日まで、被請求人に対し(又は通じて)、標章「Tuff Plus」を付した上記商品(取引総額約4500万円)を輸出販売していた(甲第4号証)。
(3)被請求人(商標権者)は、前記第1のとおり、「Tuff Plus」の欧文字と「タフプラス」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、第3類「つや出し剤用剥離剤,床用つや出し剤,床用せっけん類」を指定商品とする本件商標を請求人の承諾なしに我が国で平成15(2003)年8月5日に登録出願して、同16年5月21日に設定登録を受けた。
請求人が「床の剥離洗浄、つや出し仕上げの作業に使用される化学品」について使用に係る商標「Tuff Plus」は、本件商標と類似し、また、使用に係る商品と同一又は類似する商品を指定商品とするものである。
(4)請求人は、パリ条約の同盟国であるアメリカ合衆国において、「TUFF PLUS」の文字よりなり、「Chemicals for sealing and coating of floors」を商品とする商標を2005年3月10日に出願した(請求人米国出願)こと、請求人米国出願に係る商標の最初の商業的使用は、1991年(平成3年)12月1日であること、請求人米国出願は、2006年6月13日に米国商標登録第3138230号として登録されている(甲第3号証)こと、等が認められる。
ところで、アメリカ合衆国の商標法は、商標の使用が商標保護の基礎となる使用主義を採用しているところから、登録主義を採用している我が国の商標法と異なり、登録されていなくても、取引上使用されている限り、一定の地域内において権利として保護されるから、その使用に係る商標について排他的な権利が認められている者は、「商標に関する権利を有する者」に含まれるとみるのが相当である。
そして、請求人は、1991年12月1日から請求人商標の使用を開始したものと推認することができるから、商標法第53条の2でいう「パリ条約の同盟国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者」に該当するとみて差し支えがなく、この点について、被請求人は争うことを明らかにしていない。
3 「代理人若しくは代表者」について
被請求人は、請求人との関係が「独占的な契約に合意していない。」から、日本における「代理店」の地位になかった旨述べているが、前記2(2)の立場に立てば、少なくとも2002年3月14日から2003年8月19日にかけて、請求人と被請求人の間には、請求人商品についての取引が継続して行われていたところであり、また、その取引高も決して少量であったとはいえず、むしろ単なる得意先又は顧客の範囲を超えた取引高であるといえる。
そうすると、請求人と被請求人との間には、継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成され、被請求人は、請求人の請求人商品の販売体系に組み込まれるような立場にあった者とみることができる。
そして、商標法第53条の2が、他の同盟国等で商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は代理人若しくは代表者であった者がその権利者との間に存する信頼関係に違背して正当な理由がないのに同一又は類似の商標登録をした場合にその取消について審判を請求できる旨の規定であることにかんがみれば、同条項に規定する「代理人若しくは代表者」は、必ずしも他の同盟国等の商標権者と代理店契約を締結した者など契約上特別な関係、あるいは、法的関係にある者に限定されることなく、広く商標権者の商品を継続的に輸入し販売する又は販売していた者など、継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されていた関係にあった者をも指すと解すべきである。
したがって、被請求人は、請求人と非独占的な取引関係にあったとしても、ここでいう「代理人」であるというべきものである。
4 「正当な理由」について
被請求人は、本件商標の登録出願について「正当な理由」があると述べ、乙第1号証(Harrigan氏の宣誓書)を提出しているが、乙第1号証によれば、Harrigan氏は、Joseph氏が死亡した2003年3月25日まで、請求人のエージェントとして日本とのビジネスに加わっていた旨の記載があり、また、宣誓書の項目6には、「私の記憶によれば、Mr.Roti氏は、商標については、興味もなかった。この件については、私はMr.Roti氏と話したことが一度もない。」との記載があることのみをもって、請求人が被請求人に対し、日本において請求人商標の権利を取得することを放棄した、又は取得する関心がないことを信じさせた場合に該当するものとは直ちには認め難いところであり、被請求人の本件商標の登録出願をする行為は、正当な理由があったものと認めることはできない。
そして、被請求人は、前記3認定のとおり、商標法第53条の2にいう「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するというべきであり、請求人との取引において、請求人商標が請求人商品を表示するためのものとして使用されていることを知り得る立場にあった者である(このことは、甲第10号証の2に添付のインボイスに請求人商標が表示されていた事実からも明らかである。)。
一方、被請求人の主張及び乙第2号証(Foxの宣誓書)によれば、2003年3月にJoseph氏が死亡した後は、請求人から供給される請求人商品の品質が落ち、供給も順調ではなかったことや請求人が請求人商品の製造者を知らせなかったことなど、被請求人の請求人に対する取引上の不信感が深まり、被請求人は、請求人との間の取引が継続している期間内に、Zorro社との間で、Zorro社が製造する請求人商品の取引の準備をしつつ、平成15年(2003年)8月5日に本件商標の登録出願を行ったものと認められる。
そうすると、請求人商標が請求人商品を表示するものとして、請求人により使用されていた事実を知っていた被請求人が、請求人との間の取引を終止させ、Zorro社との間の新しい取引のために請求人商標と実質的に同一の本件商標を日本国において登録出願し、登録を得たものと推測せざるを得ず、本件商標の登録出願には、請求人の承諾がなかったものと判断せざるを得ない。
したがって、本件商標の登録出願は、請求人に無断でなされたことが明らかであり、その他、「正当な理由」があると解すべき事情は、見当たらない。
5 結び
以上の認定事実を総合すれば、本件商標の登録出願は、その代理人によって正当な理由がないのにパリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者(請求人)の承諾を得ないで当該権利に係る商標に類似する商標をその使用に係る商品と類似する指定商品になされたものと認められ、その登録は、商標法第53条の2の規定により、取り消すべきものである。
なお、被請求人は、証人尋問を申し出ているが、尋問事項によれば、乙第1号証(Harrigan氏の宣誓書)と符合するものが多くあり、また、請求人は、被請求人との間に独占契約を締結した事実はないと認めているところであるから、これらを総合すれば、改めてHarrigan氏に対する証人尋問を行う必要はないものと認められ、したがって、証人尋問の申出では採用しない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2009-04-24 
結審通知日 2009-04-30 
審決日 2009-05-18 
出願番号 商願2003-66124(T2003-66124) 
審決分類 T 1 31・ 6- Z (Y03)
最終処分 成立  
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 久我 敬史
小林 由美子
登録日 2004-05-21 
登録番号 商標登録第4771656号(T4771656) 
商標の称呼 タフプラス 
代理人 樺澤 襄 
代理人 恩田 博宣 
代理人 樺澤 聡 
代理人 恩田 誠 
代理人 山田 哲也 

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