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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y091142
管理番号 1195379 
審判番号 無効2007-890189 
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-12-28 
確定日 2009-03-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4766893号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4766893号の指定商品及び指定役務中、第9類「配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具」、第11類「電球類及び照明用器具」、第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4766893号商標(以下、「本件商標」という。)は、「日本ダイヤライト」の文字を標準文字で表示してなり、平成15年10月17日に登録出願、第9類「理化学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具」、第11類「電球類及び照明用器具」及び第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,電気に関する試験又は研究,機械器具に関する試験又は研究」を指定商品及び指定役務として、平成16年4月23日に設定登録されたものである。その後、3度に亘る商標権の一部取消審判において、指定商品及び指定役務中、第9類「配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具」、第11類「電球類及び照明用器具」及び第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」について商標登録を取り消すとの審決が確定し、それぞれの登録が平成20年10月23日、同月30日及び11月18日になされた。

第2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求めると申立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第45号証(枝番を含む。)を提出した。
1 本件商標の登録を無効とすべき理由
(1)商標法第4条第1項第10号該当について
ア 請求人の沿革と海外における商標「DIALIGHT」の使用
請求人は、昭和13年(1938年)に作動表示灯(インジケーターライト)を主な製品とする電気機器部品の製造業者として創業し(甲第3号証)、当初はLEDを用いない電球式の作動表示ランプやプッシュボタンスイッチを製造・販売し、商標「DIALIGHT」を使用してきた電気機器部品の製造業者である(甲第4号証)。
そして、LEDが開発された昭和45年(1970年)代以降は、プリント基板(サーキットボード)や制御盤に組み付けて使用するLED本体の研究開発及び設計、並びにその製造・販売を積極的に推進し、また、LED並びにその技術を利用した、道路・鉄道・航空・飛行場等において使用する各種信号機・警告灯などのアプリケーション製品を開発し、その製造及び販売などを現在も継続している、LED並びにそのアプリケーション製品の先駆的な企業である(甲第3号証)。
すなわち、請求人は、LED及びLEDを用いない電球式(ネオン式)の作動表示ランプ及びプッシュボタンスイッチの研究開発及び設計、並びにその製造・販売を行う事業(以下、これらの事業を総括的に「LED事業」という。)、並びに、LED並びにその技術を利用した各種信号機・警告灯などの研究開発及び設計、及び、その製造・販売を行う事業」(以下、これらの事業を総括的に「アプリケーション事業」という。)を事業の二大柱とし、それらの両事業を本国のアメリカ合衆国を始め、世界各地で展開し、各産業分野よりその技術及び品質について絶大な信頼を得てこれまでに成長した、LED並びにLEDを利用した信号機等そのアプリケーション製品の世界的な技術志向型企業である(甲第3号証)。
請求人は、軍事用電子機器類の部品として商品を製造・販売し(甲第3号証)、その結果、請求人のランプホルダー、表示器の照明装置のハウジング(ケース)、表示機の照明レンズは米軍の規格に対応するものとして米国軍の認証を受けている(甲第5号証、甲第21号証)。
また、信号機などの「アプリケーション事業」の商品は、アメリカ連邦航空局(FAA)、カナダ規格協会(CSA)、米国連邦ハイウェイ管理局などの規格に適合するとして、これらの団体から認証を受けている(甲第21号証)。
上記二大事業の展開に際し、請求人は商号の一部であるDIALIGHTを二大事業に関するすべての商品並びに業務(役務)について統一的に使用する所謂「ハウスマーク」として採択し、その使用を継続しており、商品取引における露出頻度は極めて多く、取引者間において広く認識される機会は相当程度高いものである。
つぎに、昭和49年(1974年)以降のアメリカ合衆国において、請求人は、以下の(ア)ないし(エ)の商品(以下、一括して「請求人の業務にかかる商品群」という。)に関し、商標「DIALIGHT」を使用している。
(ア)LEDを用いない電球式(ネオン式)の作動表示ランプ及びプッシュボタンスイッチ(甲第4号証)。これらの商品はLED事業に属する。
(イ)プリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED(本文中若しくは添付証拠において、このようなLEDを「サーキットボードインジケーター」「サーキットボード表示機」「パネルマウントインジケーター」若しくは「CBI」と呼称することがある。)(甲第5号証)。これらの商品もLED事業に属する。
(ウ)LEDを用いた交通用の信号灯(甲第6号証)。これらの商品はアプリケーション事業に属する。
(エ)LEDを用いた障害物表示灯並びに危険地帯表示灯(甲第7号証)。これらの商品もアプリケーション事業に属する。
一方、請求人は、商標「DIALIGHT」をアメリカ特許商標庁に商標出願し、1986年12月30日並びに2005年11月15日に、登録第1422681号及び第3015206号の商標登録を受けている(甲第8号証)。アメリカ特許商標庁は、請求人が上記のアメリカ登録商標を1974年から実際に使用している実績に基づき登録を認めており(甲第8号証)、商標「DIALIGHT」を本件商標の出願日以前から、アメリカにおいて使用していた事実は明らかである。
また、前記登録第1422681号商標は、現在においても有効に存在する(甲第8号証)。この事実は、アメリカ特許商標庁が、請求人の商標について、登録から5年目、及び10年目、並びに20年目における商標の使用実績に基づく宣誓と更新登録を認めているためであり、請求人商標は、現在もアメリカで継続使用されていることを示すものである。
さらに、請求人は、商標「DIALIGHT」を使用する請求人の業務にかかる商品群について、アメリカ合衆国以外の国・地域においても1988年ごろから商標出願を開始し、メキシコ、オーストラリア、シンガポール、韓国、台湾、カナダ、イギリス、欧州共同体(OHIM)、WIPO及びタイ(第11類)においては、商標登録を既に取得した(甲第9号証)。一方、中国、欧州共同体(国際登録出願)、ロシア、インドネシア、マレーシア、タイ(第9類及び第42類)及びインドにおいては、商標「DIALIGHT」の出願を完了し、商標登録に向けて各国特許庁の審査を受けている状況にある(甲第10号証)。
請求人は、アメリカ以外の主要な市場においては現地法人を設立し、現地法人を通じた事業活動を展開している(甲第11号証ないし同第14号証)。また、請求人は、上記の営業・生産拠点を介し、世界的に生産・販売活動を展開しているが、各地域の市場ニーズを吸い上げ地域に根ざした営業販売活動を円滑に推進するために、主要な国・地域においては、現地の企業と総販売代理店若しくは特約店契約を正式に締結し、それらの総販売代理店等を通じ、請求人の商品の販売を実施している(甲第15号証ないし同第18号証)。
そして、請求人は、先進国をほぼ網羅する前記の販売代理店若しくは特約店を通じ、請求人商標を使用する請求人の業務にかかる商品群を、世界的に流通させている。
さらに、請求人は、商標「DIALIGHT」を付した請求人の業務にかかる商品群を世界規模で流通し販売することにより、1990年から2006年にかけて、甲第19号証に示すような売上高を全世界で記録した。
また、アメリカをはじめ、ドイツ、オランダ、タイ及びメキシコにて開催された国際的な展示会や見本市に請求人の業務にかかる商品群を出品し、商品の販売促進と請求人商標の周知化を図っている(甲第20号証)。
イ 請求人の業務にかかる商品群に使用する商標
請求人は創業以来、商標「DIALIGHT」を別掲に示す「別紙目録2」に記載する態様により、請求人の業務にかかる商品群について使用してきた(以下、商標「DIALIGHT」及び別紙目録2に記載する態様の商標を、一括して「請求人商標」という。)。また、別紙目録2のとおり、商標「DIALIGHT」の書体(文字のデザイン)は、創業当初の書体(文字のデザイン)である商標1からはじまり、時代の変遷とともに現代化され、請求人は商標10の書体を公式な書体として採択し、請求人及び販売代理店等は、かかる書体を現在使用している。なお、この書体は、請求人がドイツの法人ダイアライト・ガルホを傘下にしたことに伴い、21世紀に向けて躍進する願いを込め、2003年7月に採択を決定し使用を開始したものである(甲第22号証)。
請求人の業務にかかる商品群に使用する商標「DIALIGHT」の書体は時代とともに変遷しているが、別紙目録2に示す商標1から商標10の商標は、商標の自他商品の識別性を損なうことのない実質的に同一の商標である。そして、請求人の業務にかかる商品群について、別紙目録2のいずれかの商標を、本件商標の出願日の時点、及び査定の時点において使用していたことは明らかである(甲第3号証ないし同第7号証)。
請求人が海外に5箇所の現地法人を設け、海外主要国において182社の販売代理店若しくは特約店を通じて請求人商標を使用した請求人の業務にかかる商品群を販売し、1990年から本件商標が出願された2003年末までに、938.9億円に及ぶ売り上げを達成したことに鑑みれば、請求人商標が、海外において、請求人の業務にかかる商品であることを示す商標として、需要者・取引者に広く認識されていたことは明らかである。
特に、アプリケーション事業におけるLEDを用いた交通用の信号灯などLEDの表示器が、以下の(ア)ないし(ケ)の評価及び認定を受けている事実は、請求人商標が請求人の業務にかかる商品であることを示す商標として、需要者・取引者間において広く認識されていることの証左である(甲第6号証)。
(ア)LEDを用いた交通用信号灯のうち、請求人及びエコラックス/ディオラックス/ゲルコアの製造した製品が、全米のLEDを用いた交通用の信号灯のうち、約91パーセント程度のシェアを占めている(イリノイ大学による2001年全米調査)。
(イ)請求人の製造にかかるLEDを用いた交通用信号灯は、満足度においては、4.0満点中、3.923点という完壁に近い格付けを得ている(同前調査)。
(ウ)イリノイ州運輸局地区のレベルでは、もっとも使用されているLEDを用いた交通用信号灯は請求人の製品であり、そのシェアは約95%に及び、満足度格付けの得点は、4.0満点中、3.833点を獲得している(同前調査)。
(エ)アメリカにおけるLEDを用いた交通用信号灯の性能規格を定める組織体であるアメリカ交通工学会の協議会にメンバーを送っている企業は、請求人とゲルコア社の二社である。
(オ)請求人の製品は、アメリカ環境保護局が一定の省電力効果を有する電子機器を認定する国際的な認定制度である「エネルギースター」の認定を28種類の製品に受けており、かつ、アメリカ環境保護局が6種類以上の商品に承認を受けている企業を格付けする「エネルギースターパートナー」4社のうちの1社である。
(カ)請求人は、世界でも最大の電子関連商社のサプライヤーであるアロー電子に、LEDとランプを供給している12社のうちの一社である。なお、請求人以外の11社は、アジレント・テクノロジーズ、シカゴミニチュアランプ、クリー、フェアチャイルド半導体、ライトオン電子、マイクロバック・インダストリー、OSRAM光半導体、オプテック・テクノロジー(TT電子)、シャープ電子、スタンレー電気、東芝、ヴィシェー半導体である。
(キ)請求人の業務にかかる商品群は、アメリカにおける主要販売代理店であるニューアーク・イン・ワン、フューチャー及びデジキーが販売しており、LEDを用いた表示機のサプライヤー(供給企業)として、上位5位にランクされている。
(ク)ハースト出版社が2003年に行ったLEDを用いた表示機のブランド認知度調査の結果によれば、請求人商標の認知度は21%を記録し、ヒューレットパッカード社の22%に急迫し、また、キングブライト社の16%、並びにライトオン社の15%を超えている。
(ケ)請求人の製品は、必要なエネルギーを90%削減した、従来の光源に比べて10倍以上の寿命がある最新技術を応用したLEDであり、交通信号、交通車両、鉄道、空港及び空中障害物表示灯などの市場において、LEDを利用したソリューションを提供することができる企業である。
すなわち、請求人は、請求人商標を、請求人が展開するLED事業、及び、LEDを用いた信号灯などが属するアプリケーション事業のいずれの事業においても商品について使用しており、かかる使用の結果、アメリカを始めとする需要者・取引者の間において、広く認識されている商標であることは明らかである。
ウ 日本における商標「DIALIGHT」の使用
請求人は、日本国において、昭和50年4月に電子部品の総合商社である株式会社ジェピコ(以下「ジェピコ」という。)との間に総販売代理店契約を締結し(甲第23号証の1)、その後、昭和55年8月には、独占的な販売契約を書面にて合意した(甲第23号証の2)。
そして、請求人は、請求人の業務にかかる商品群のうち、請求人商標を使用した以下の(ア)ないし(オ)の商品(日本において販売をしているこれらの商品を一括して「請求人販売商品」という。)について日本への本格的な参入を図り、日本における請求人販売商品の販売を、ジェピコを通じ開始した。
(ア)プリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED(甲第24号証、甲第26号証)
(イ)LEDを用いた数字・英文字表示器(甲第25号証)
(ウ)LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ(甲第24号証、甲第25号証、甲第26号証)
(エ)LED、白熱灯などを用いた表示灯(甲第25号証)
(オ)トグル(押しボタン)スイッチ(甲第24号証)
さらに、請求人は、請求人商標を使用した商品の販売を継続し、本件商標の出願日においては別紙目録2に記載する請求人商標のうち商標10を使用し、同商標は、本件商標の査定の時点においても、また、審判請求時においても、使用を継続している商標である(甲第43号証及び甲第44号証)。
また、請求人とジェピコとの総販売代理店契約に基づき、ジェピコは、日本全国において請求人販売商品を独占的に販売する地位を得(甲第23号証の2)、かかる地位に基づき、総販売代理店契約の時点(昭和50年4月)より現在に至るまで、別紙目録2記載の商標を使用した商品の販売を継続している(甲第34号証)。そして、請求人及びジェピコは、2004年8月1日付で当該総販売代理店契約の契約書を更新している(甲第23号証の3)。
よって、ジェピコは、請求人から正当な承認を受けた日本における別紙目録2記載の商標の使用権者であって、かかる地位に基づき当該商標を使用した請求人販売商品の販売を継続しているものである。
また、請求人は、日本市場の重要性に鑑み、LEDに関する2件の日本特許出願を平成2年5月15日に出願した。その2件のうち、特願平02-125253については特許1981134号として成立し、現在も有効に存在する特許である(甲第35号証の1)。一方、請求人は、平成8年に国際特許出願を本国のアメリカ特許商標庁に行い、平成9年1月7日に日本国を指定し地域拡張を行った(甲第35号証の2)。かかる事実は、請求人が請求人販売商品に関する研究開発及び事業活動を、本件商標の出願日において、既に実施していたことの証左である。
エ 請求人商標が需要者の間に広く認識されていること
(ア)請求人は、請求人の業務にかかる商品のうち、
(a)プリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED(甲第24号証、甲第26号証)、及び(b)LEDを用いた数字・英文字表示器(甲第25号証)、並びに、(c)LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ(甲第24号証、甲第25号証、甲第26号証)について、遅くとも昭和51年12月末日から、本件の審判請求に至るまでの30年間に渡り、請求人商標を使用した商品を、日本において継続して販売している(甲第25号証)。
(イ)特に、ジェピコは、別紙目録2に記載する商標1、商標2、商標3及び商標4を商品カタログに使用するに際しては、「ダイアライト社の」(甲第24号証)、「ダイアライトの」(甲第24号証)、「ダイアライト社」(甲第24号証)、「DIALIGHT社の」(甲第26号証)等請求人を指し示す若しくは示唆する表示を商標に併記し、若しくは、商標に近接する位置に表示することにより、需要者・取引者が別紙目録2に記載する商標は、請求人の業務にかかる商品であることを容易に認識できるように配慮した商標の使用態様を、励行している。
(ウ)そして、ジェピコは、昭和51年12月末日から本件の審判請求に至るまで、別紙目録2に記載する商標を使用した請求人販売商品を日本国内における約210社に対し販売を継続し、1997年から本件商標の出願があった2003年までの期間に限定しても、その出荷件数は116,433件に至り、商品単位の出荷個数は34,767,249個にも及んでいる(甲第27号証)。
(エ)また、請求人販売商品の販売先顧客は、ジェピコの日本における主要な取引先である10のグループ企業(NECやソニー等)の他約210社に及び、1997年から2001年3月までの出荷数量を見ても、少なくとも大手電子機械器具の製造会社に属するグループ会社10社に対しては、請求人販売商品の出荷数量が12,818,042個に及び、出荷件数においても33,000件に達している。よって、請求人商標は、請求人の業務に係る商品として、前記のグループ会社内において広く認識されていたことを認定するには十分な理由がある。
また、請求人商標を使用した請求人販売商品は、ジェピコが直接前述の日本の取引先に販売する流通経路の他、日本各地の電子部品商社が、ジェピコより請求人販売商品を購入し、これらの電子部品商社が個々の取引先に販売することもある。例えば、電子部品商社である株式会社エムネットは、平成2年9月にジェピコと代理店契約を締結し、請求人販売商品の販売を独自の商流を通じ開始した(甲第28号証)。
同じく、電子部品商社である森松産業株式会社は、昭和63年4月にジェピコの取次店となり、請求人販売商品の販売を独自の商流を通じ開始した(甲第29号証)。
そして、ジェピコの特約店の一つである丸進商事株式会社は、雑誌「トランジスタ技術」1992年7月号に請求人の商品であるLED(サーキットボード・インジケーター)の広告を掲載するなどし、積極的な販売促進活動を行っていた(甲第29号証の3)。
ジェピコにおいても、自ら請求人の総代理店として、請求人商標を使用する請求人販売商品の広告宣伝活動を積極的に行い、その結果、LED(サーキットボード・インジケーター)等の広告が好評であったため、1992年及び1993年において、権威ある「コスモ広告大賞対象」を二年連続して受賞したこともある(甲第29号証の4)。
一方、請求人販売商品であるパラマウントタイプのLEDは、その高度な技術並びに品質からLED事業の業界においても注目を集め、日工フォーラム社の発行する雑誌「NIKKO Forum/日工フォーラム」1993年10月号の表紙の題材に採用され、表紙を飾るまでに話題を呼んだ(甲第29号証の5)。
なお、ジェピコの取引先である森松産業株式会社他の電子部品商社は、請求人商標を使用した請求人販売商品を取り扱うところ、請求人商標が請求人販売商品を表示する商標として広く認識されていることを証明した(甲第29号証の2)。
かかる事実から、本件商標の出願当時においては、請求人販売商品はジェピコ若しくはその他の電子部品商社が取り扱う商品であるところとなり、請求人商標は、需要者・取引者が、請求人の業務に係る商品の商標であると認識できる程度にまで認知されていたことは明らかである。
さらに、日本においては、株式会社エムネット並びに森松産業株式会社のように請求人販売商品を総販売代理店であるジェピコから仕入れ注文主に販売するのではなく、請求人販売商品を並行輸入など独自のルートで購入し、インターネット上に開設した各社のホームページを通じ請求人販売商品の取り扱いを告知し、ホームページ上で注文を受け付けて販売する電子部品商社も多く存在する(甲第30号証)。
請求人販売商品は、販売総代理店であるジェピコ、並びに、その取引先である株式会社エムネットや森松産業株式会社を通じ我が国において販売されているととともに、ジェピコや正規取引先以外の第三者も、請求人販売商品を取り扱っている。
少なくとも、請求人販売商品の取引者である株式会社エムネット、森松産業株式会社をはじめとする上記の電子部品販売商社や、インターネット上の電子部品販売サイトを運用する取引者においては、請求人商標は請求人の業務にかかる商品の商標として、広く認識されていることは明らかである。
そして、日本における総販売代理店であるジェピコ及び日本における電子部品商社も、請求人販売商品の需要者・取引者であることに変わりはなく、ジェピコ及び日本における電子部品商社は、請求人商標を使用した商品は請求人の業務にかかる商品であることを認識しており、かつ、請求人商標以外の商標を使用した商品とは識別し、取引に当たっていることは明らかである。
少なくとも、ジェピコが昭和51年12月末日以降、現在に至るまで、請求人商標を使用している商品をアメリカ等海外から輸入している事実から、ジェピコが請求人商標を請求人販売商品の商標として広く認識していることは明らかである。
上記の事実は、商標審査基準に当てはめても、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当すると認定することができる。
すなわち、別紙目録2に記載する請求人商標は、請求人販売商品について、日本全域において使用されている商標であることは明らかであり、請求人の業務にかかる商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標である。
オ 本件商標と別紙目録2に記載する請求人商標との同一もしくは類似
本件商標は標準文字をもって「日本ダイヤライト」と表示した態様からなる商標である。一方、請求人商標は別紙目録2に記載する商標のとおりである。
そこで、本件商標と別紙目録2に記載する商標とを検討すると、本件商標はその構成態様から「ニホンダイヤライト」及び「ニッポンダイヤライト」の称呼が発生する。
また、本件商標「日本ダイヤライト」を構成する表示「日本」は、指定商品の産地・販売地もしくは指定役務の提供の場所を表示する部分であるから、本件商標の自他商品・役務の識別機能を発揮しない部分であり需要者・取引者は「日本」の部分を省略して商品若しくは役務の取引に当たることがあるところ、「ニホンダイヤライト」及び「ニッポンダイヤライト」の称呼の他に、「ダイヤライト」の称呼も発生する。
ここで、本件商標の自然称呼「ニホンダイヤライト」、「ニッポンダイヤライト」、並びに「ダイヤライト」と、別紙目録2に記載する商標の称呼「ダイアライト」について検討する。
まず、本件商標の称呼「ニホンダイヤライト」、「ニッポンダイヤライト」の「ニホン」若しくは「ニッポン」の部分は自他商品・役務の識別機能を発揮しない部分であり、需要者・取引者はかかる部分を省略して取引に当たるから、本件商標の自他商品・役務の識別機能を発揮する部分の称呼は「ダイヤライト」である。
そして、「ダイヤライト」と「ダイアライト」は中間音において「ヤ」と「ア」の音の差異はあるが、かかる差異は称呼全体としては明瞭に聴別できる差異ではなく、両称呼は称呼全体としては類似する商標である。
よって、本件商標と請求人商標とは、称呼について同一若しくは類似する標章であるから、本件商標は別紙目録2に記載する商標と同一若しくは類似する商標である。
カ 指定商品及び指定役務が請求人販売商品と同一又は類似であること
(ア)本件商標の指定商品及び指定役務
本件商標の指定商品中、本件無効審判請求により無効を求める指定商品及び指定役務は、第9類「配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具、電子応用機械器具」、第11類「電球類及び照明用器具」及び第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」である。
(イ)請求人販売商品
請求人販売商品は、(a)プリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED(甲第24号証、甲第26号証)、(b)LEDを用いた数字・英文字表示器(甲第25号証)、(c)LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ(甲第24号証、甲第25号証、甲第26号証)、(d)LED、白熱灯などを用いた表示灯(甲第25号証)、(e)トグル(押しボタン)スイッチ(甲第24号証)である。
そこで、請求人販売商品ごとに検討すると、(a)プリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、及び、(b)LEDを用いた数字・英文字表示器は、LEDという半導体素子及び半導体素子を用いた商品であるから、第9類:電子応用機械器具に属する商品である(甲第31号証)。
また、(c)LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチは、その用途・機能から第9類に属する配電用又は制御用の機械器具である(甲第32号証)。
そして、(d)LED、白熱灯などを用いた表示灯はその用途・機能から、「電球類及び照明用器具」に属する商品である(甲第33号証)。なお、(e)トグル(押しボタン)スイッチは、その用途・機能から「配電用又は制御用の機械器具に属する商品」である(甲第32号証)。
したがって、本件商標が指定する「電子応用機械器具」、「配電用又は制御用の機械器具」、及び「電球類及び照明用器具」は、請求人販売商品と同一若しくは類似する商品である。
(ウ)次に、請求人販売商品が、「電線及びケーブル」、「電気通信機械器具」、及び、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」と同一若しくは類似する商品若しくは役務であることを述べる。
(a)特許庁審査基準及び取引の実情に基づく検討
特許庁類似商品・役務審査基準は、審査における画一的判断及び迅速審査の観点から、ニース協定国際分類に準拠して商品及び役務の類否の基準を定めたものであり、個々の商品及び役務の同一又は類似の範囲を推定したものである。
一方、具体的な商品・役務の同一又は類似の判断に際しては、特許庁が定める基準を考慮して類否の判断を行うことが妥当である。
また、実際の商取引における商品及び役務の類否については、対比する商品に同一又は類似の商標が使用された場合に出所の混同を生じるおそれがあるか否かの観点から、取引の実情を勘案して判断することが妥当である(最高裁 昭33(オ)1104「橘正宗事件」判決ほか)。
(b)「電線及びケーブル」との関係
a 商品の生産部門並びに販売部門が一致するかどうか
本件商標の指定商品のうち「電線及びケーブル」は、請求人販売商品の製造部門と販売部門が一致する。
すなわち、いわゆる電子部品商社及び電子部品販売会社が、「電線及びケーブル」とともに、請求人販売商品であるプリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、LEDを用いた数字・英文字表示器、LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ、LED・白熱灯などを用いた表示灯、トグル(押しボタン)スイッチを取り扱い商品として併せて販売することは、秋葉原等の電気街における電子部品小売商等が、同一店舗内に「電線及びケーブル」とともに、請求人販売商品などの半導体をはじめとする電子部品を同時に陳列し販売している事実が枚挙に暇がないことを鑑みれば明らかである(甲第36号証)。
また、多くの電子部品商社は「電線及びケーブル」とともに、請求人販売商品を販売商品として同時に取り扱うことは周知の事実である(甲第37号証)。
また、「電線及びケーブル」と請求人販売商品は、それぞれ電気通信関連並びに電子機械器具関連等の同一の分野において使用されるものであり、対比する両商品ともに、電気機器製造者、発電用・送電用・配電用・産業用機械製造者、並びに電球・電気照明器具製造者等、同一の事業者により製造されている(甲第38号証)。
また、「電線及びケーブル」は、請求人販売商品に組み込んで、若しくは組み付けて使用する商品若しくは部品である。
したがって、対比する上記商品は、同一の事業主体により製造・販売され、また、使用されるものであり類似する商品の関係にある。
b 需要者の範囲が一致するかどうか
「電線及びケーブル」と請求人販売商品の需要者は、電子機器製造者、電気通信機器製造者、並びに電子部品商社などであり一致する。
c 完成品と部品との関係にあるかどうか
「電線及びケーブル」は、請求人販売商品に組み込んで、若しくは組み合わせて使用される商品若しくは部品である。よって、対比する商品は、完成品と部品との関係にある。
d 用途が一致するかどうか
本件商標の指定商品「電線及びケーブル」と請求人販売商品とは完成品と部品の関係にあり、結局は、電子応用機械器具、並びに、電気通信機械器具の製作に使用するものであるから用途は一致する。
以上より、「電線及びケーブル」は請求人販売商品に類似する商品である。
(c)「電気通信機械器具」との関係
a 商品の生産部門並びに販売部門が一致するかどうか
本件商標の指定商品のうち、第9類「電気通信機械器具」は、請求人販売商品のうち、特にプリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、LEDを用いた数字・英文字表示器、LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ並びにトグル(押しボタン)スイッチの製造者と同一の事業主体により製造・販売され使用されるものである。
例えば、シャープ株式会社の例を挙げれば、同社は、テレヴィジョンセット、オーディオ機器セットなどの電気通信機械器具の製造及び販売を実施するとともに、電子応用機械器具・電気通信機械器具などに組みつけて使用するLEDの製造及び販売を行っている事実がある(甲第40号証)。
よって、「電気通信機械器具」は、請求人販売商品のうち、特にプリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLEDの製造者と同一の事業主体により製造・販売され使用されるものである。
b 需要者の範囲が一致するかどうか
「電気通信機械器具」と、請求人販売商品であるプリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、LEDを用いた数字・英文字表示器、LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ、トグル(押しボタン)スイッチの需要者は、電子部品商社、並びに、電子機器製造者であるから一致する。
c 完成品と部品との関係にあるかどうか
請求人販売商品であるプリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、LEDを用いた数字・英文字表示器、LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ、トグル(押しボタン)スイッチは、テレヴィジョンセット、オーディオ機器、携帯電話機などの「電気通信機械器具」の完成に組み込んで、若しくは、組み合わせて使用される部品である。よって、対比する商品は、完成品と部品の関係にある。
むしろ、テレヴィジョンセット、オーディオ機器、携帯電話機などの「電気通信機械器具」においては、作動状況を示す表示としてLEDを用いることは製品の完成にとって不可欠な部品であることは、昨今のテレヴィジョンセット、オーディオ機器、携帯電話機などの軽量化、省力化、多機能化の要請を鑑みれば不可欠なものであるとことは明らかである。
d 用途が一致するかどうか
本件商標の指定商品「電気通信機械器具」と請求人販売商品とは完成品と部品の関係にあり、結局は、電気通信機械器具の製作に使用するものであるから用途は一致する。
以上より、「電気通信機械器具」は、請求人販売商品であるプリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、LEDを用いた数字・英文字表示器、LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ及びトグル(押しボタン)スイッチに類似する商品である。
(d)「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」との関係
a 役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか
請求人販売商品が分類される「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」の製造と販売は、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務の提供と、同一の事業者によって行われている。
そこで、株式会社日立製作所の事業内容を参考に、同一の事業主体が「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」の製造と販売とともに、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務の事業を提供していることを検証する。
日立製作所においては、独自の事業ドメインとして「設計・サービス」分野を設定し、サーバー・ネットワーク装置の開発・製造で蓄積した高度な設計・製造技術力と豊富な設計上の経験を活かした開発・設計のサービスを、「第三者の利益のために「有償」にて、電子応用機械器具、若しくは、配電用又は制御用の機械器具の製造販売業務に対し付随的ではない「独立した」業務として提供し、高度なエレクトロニクス製品の短期開発、生産立ち上げのための役務を提供している事実がある(甲第39号証)。
また、同社が提供する開発・設計サービスにおいて、設備を構成する電子デバイス、半導体など電子応用機械器具の開発・製造をも自らが行なっていることは周知の事実である。すなわち、同一事業体内において、「電子応用機械器具及び配電用又は制御用の機械器具」など多数の商品の開発・製造業務に加え、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」業務を提供している。
また、電子部品商社においても、電子部品の調達及び販売業務とともに、プリント基板の設計や電子機器の開発を受託し、または、かかる設計及び受託開発などを独立して請負い、業として提供することがある。例えば、電子部品商社である信和産業株式会社は部品の販売・調達業務の他に、プリント基板の設計や電子応用機械器具を利用したシステム設計やハードウェア設計を独立した事業として提供している(甲第39号証の2)。
このように、同一主体が「電子応用機械器具・配電用又は制御用の機械器具」など多数の商品の開発・製造業務に加え、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」業務を独立して提供している事実は、上記日立製作所のような総合メーカーのみならず、電子応用機械器具や電気通信機械器具の分野における事業体において顕著であり、このような顕著な事実から、需要者・取引者は当然に、電子応用機械器具や配電用又は制御用の機械器具など請求人販売商品の提供者と、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」役務の提供者とを同一の事業体若しくは同一の経営グループ内に属する関連会社として認識すると判断することには、十分な理由がある。
b 商品と役務の用途が一致するかどうか
「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」は、当該役務の提供を受けた者が、設計された設備を利用することを目的として提供される役務である。したがって、当該設備の利用にあたっては、必然的に設備を構成する機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)を使用することとなる。
一方、請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」は、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」という役務の提供に当たり、その提供を受ける者の利用に供するものである。すなわち、請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」は、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務を提供した成果物として完成するものであるから、かかる役務を「手段」とすれば、請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」は当該役務の「成果物」の関係にあり、実質上は同一の用途を有するものである。
c 商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか
請求人販売商品の製造・販売と第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務は、同一事業者若しくは親会社から委託を受けた関連会社・下請会社によって行われていることが一般的であり、第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務は、請求人販売商品の設計から販売にいたる一連の過程において、必然的に介在する役務である。
また、請求人販売商品の販売代理店などは、請求人販売商品を販売する際に請求人販売商品の購入者が望む請求人販売商品の用途や目的等に応じ、他の部品と組み合わせた電子部品の基盤などを設計し、請求人販売商品の購入者に提供することがある。すなわち、請求人販売商品の販売と請求人販売商品を利用した「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務は、同一人及び同一場所において提供されることが一般的である。
上述のとおり、請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」と「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」とは、同一の事業体により製造・販売並びに提供されるものと考えられ、これらの販売場所及び提供場所についても一致すると考えることが妥当である。
d 需要者の範囲が一致するかどうか
「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の提供を受ける需要者は、請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」により構成された設備を利用する者であることから、かかる設備の利用は「電子応用機械器具、配電用又は制御用の機械器具、照明用機械器具及びその部品」を利用することに相当するため商品及び役務の需要者は共通する。よって、需要者の範囲は一致する。
また、請求人販売商品の購入者は、請求人販売商品を使用した「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務を請求人販売商品の購入と同時に期待するのであるから、請求人販売商品の需要者と販売商品を使用した「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務の需要者は一致する。
以上より、本件商標における第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務は、請求人販売商品に類似する関係にある。
キ 結論
以上のとおり、本件審判請求に係る商品及び役務と請求人の販売に係る商品とは、類似する関係にある。よって、本件商標は、本件商標の出願日の時点及び査定の時点において、周知な請求人商標に同一又は類似する商標であって、その商品又はこれらに類似する商品について使用する商標であるから、商標法第4条第1項第10号に該当し、第9類「配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具、電子応用機械器具」、第11類「電球類及び照明用器具」、並びに、第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」については、商標登録を無効とされるべきである。

(2)商標法第4条第1項第15号該当について
ア 請求人販売商品であるプリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、LEDを用いた数字・英文字表示器、LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ及びトグル(押しボタン)スイッチと、本件商標の指定商品「電気通信機械器具」との混同について
(ア)「狭義の混同」について
本件商標の指定商品「電気通信機械器具」は、請求人販売商品に類似する商品であるが、仮に、「電気通信機械器具」が請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具」に類似しないとしても、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する商標である。
請求人商標は、請求人の業務に係る商品の商標として、本件商標の出願日の時点及び査定の時点において、需要者に広く認識されている商標である。
そして、本件商標の指定商品である電気通信機械器具の生産部門と販売部門は、請求人販売商品に相当する電子応用機械器具の生産部門並びに販売部門に一致する。
そもそも、昨今の電気通信技術及び電子応用技術の進歩をみれば、かかる技術を利用する商品は電気通信技術並びに電子応用技術を融合したいわゆる「ハイブリッド」商品が主流であることは疑いのない事実であり、むしろ、電気通信機械器具と電子応用機械器具の峻別のために境界線を引くことが、極めて困難な状況にある。
そして、我が国の電気通信機械器具若しくは電子応用機器の製造者は、かかる融合技術による商品を製造販売するとともに、他方では、電気通信機械器具として明確な位置づけが可能な商品を製造販売するとしても、同一の事業体の中で電子応用機械器具を製造販売することは、例えば、株式会社東芝をみれば、同社がテレヴィジョンセットや携帯電話機端末が属する電気通信機械器具と、パーソナルコンピューターが含まれる電子応用機械器具の製造販売を、同一事業主体のもと展開している事実に鑑みれば明らかである(甲第41号証)。
さらに、需要者も共通する。例えば、パーソナルコンピューターと、無線LANトランシーバーの需要者・取引者が共通することは明らかである。
また、電気通信機械器具と電子応用機械器具が完成品と部品の関係にあるかどうかについても、前述の例を敷衍すれば、無線LANトランシーバーを内蔵したパーソナルコンピューターは、無線LANトランシーバーに対し、完成品と部品の関係にある。
また、請求人商標は英文字「DIALIGHT」からなるところ、特定の観念を待たない、若しくは需要者・取引者に対し特定の技術用語等を想起させることのない、請求人が創造した造語商標である。そして、請求人商標は、請求人の商号であるダイアライトコーポレーションの一部から採択した請求人のハウスマークであることが明らかである。
よって、請求人が自己の業務に係る商品に請求人商標を使用し、これが全国的に周知になっているのであるから、本件商標の所有者が自己の業務に係る商品である電気通信機械器具に本件商標を使用したときには、その商品に接する需要者がその商品が請求人の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずる場合がある。
したがって、「電気通信機械器具」について本件商標が使用された場合、本件商標は請求人商標に同一若しくは類似する標章であるから、需要者は請求人の業務にかかる商品であるとして商品の出所を「直接的に」混同するおそれがある。
(イ)「広義の混同」について
仮に、需要者・取引者が、「直接的に」混同するおそれはないとしても、本件商標の「電気通信機械器具」についての使用は、請求人の子会社若しくは関連会社の提供に係る商品であるとの緊密な営業上の関係、又は、同一の表示による展開事業を営むグループに属する関係にあると誤信されるおそれ、すなわち、「広義の混同」を生じるおそれのある商標である(最高裁平成12年7月11日第三小法廷・平成10(行ヒ)85号判決)。
特に、請求人販売商品の需要者・取引者は、電子機械器具の製造者であるから、かかる製造業者は請求人販売商品などの電子部品を用いた「電気通信機械器具」の研究・開発・設計・製造及び販売等に通常業務として従事していることは、明らかである。よって、かかる従事者により普通に払われる注意力を基準とすれば、請求人販売商品の需要者である電子機械器具の製造者が、本件商標を使用した電気通信機械器具に接すれば、かかる商品は請求人の子会社・関連会社・グループ会社等の関係にある事業者の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同するおそれがある。
イ 請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具」及び「配電用又は制御用の機械器具」と、本件商標の指定商品である第9類「電線及びケーブル」との混同について
(ア)「狭義の混同」について
本件商標の指定商品である「電線及びケーブル」は、請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具」及び「配電用又は制御用の機械器具」に類似する商品であるが、仮に、類似しないとしても、次に述べる理由により、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する商標である。
請求人商標は、請求人の業務に係る商品の商標として、本件商標の出願日の時点及び査定の時点において、需要者に広く認識されている商標であることは明らかである。
そして、本件商標の指定商品である電線及びケーブルは、電子応用機械器具並びに配電用又は制御用の機械器具の製造において不可欠の商品であり、電線及びケーブルは、電子応用機械器具及び配電用又は制御用の機械器具との関係において、部品と完成品の関係にある。例えば、電子計算機(コンピューター)を例にとれば、その基本的な内部構造は、それぞれの機能若しくは役割を持つプリント基板等のユニットが多数存在し、これらの各ユニット間の配線に電線もしくはケーブルが使用されている(甲第45号証)。また、配電用又は制御用の機械器具については、例えば、スイッチの組み付け等には電線もしくはケーブルが使用されることがある(甲第45号証)。
また、電線及びケーブルの生産部門と販売部門は、請求人販売商品に相当する電子応用機械器具並びに配電用又は制御用の機械器具の生産部門並びに販売部門に一致する。我が国の電気機器・電子機器製造者は、電子応用機械器具や配電用又は制御用の機械器具を製造販売するとともに、同時に電線及びケーブルをも販売することがある。
例えば、日立電線株式会社などの実態を見れば、同社は電線やケーブル自体の製造販売の事業を行うとともに、電子応用機械器具に属する光トランシーバーや各速度・角度を検出するセンサー、また、無線式小型温度センサーなどの製造販売を行っている。そして、昨今では、高輝度の赤色LEDの開発に成功し、事業化の検討を始めたばかりである。また、配電用又は制御用の機械器具に属するイーサネット用のスイッチングハブなどを同一の事業体の中で製造販売も展開している(甲第42号証)。
よって、請求人が自己の業務に係る商品に請求人商標を使用し、これが全国的に周知になっているから、本件商標の所有者が自己の業務に係る電気通信機械器具に本件商標を使用したときには、その商品に接する需要者がその商品が請求人の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずる場合がある。
したがって、「電線及びケーブル」について本件商標が使用された場合、本件商標は別紙目録2に記載する請求人商標に同一若しくは類似する標章であるから、需要者は請求人の業務にかかる商品であるとして商品の出所を「直接的に」混同するおそれ、すなわち、「狭義の混同」を生じせしめるおそれがある。
よって、本件商標は本件商標の出願日の時点及び査定の時点において商標法第4条第1項第15号に該当し、その指定商品中「電線及びケーブル」については商標登録を無効とされるべき理由がある。
(イ)「広義の混同」について
仮に、需要者・取引者が、「電線及びケーブル」について請求人の業務であるとして「直接的に」混同するおそれはないとしても、「電線及びケーブル」についての使用は、請求人の子会社・関連会社の提供に係る商品であるとの緊密な営業上の関係、又は同一の表示による展開事業を営むグループに属する関係にあると誤信され、「広義の混同」を生じるおそれのある商標である。
よって、かかる従事者により普通に払われる注意力を基準とすれば、請求人販売商品の需要者である電子機械器具若しくは配電用又は制御用の機械器具の製造者が、本件商標を使用した電線及びケーブルに接すれば、本件商標は別紙目録2に記載する請求人商標に同一若しくは類似する標章であるから、かかる商品は請求人の子会社・関連会社・グループ会社等の関係にある事業者の業務に係る商品であると誤認し商品の出所について混同するおそれがある。
ウ 請求人販売商品に相当する「電子応用機械器具,照明用機械器具及びその部品」と、指定役務「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」との混同について
(ア)「狭義の混同」について
本件商標の指定役務「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」は、前述のとおり、請求人販売商品とは類似の関係にあるが、仮に、類似しないとしても、次に述べる理由により、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する商標である。
請求人商標は、請求人の業務に係る商品の商標として、本件商標の出願日の時点、並びに、登録査定の時点において、需要者に広く認識されている商標であることは明らかである。
さらに、請求人販売商品と本件商標の役務「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」は、請求人販売商品の販売に関連して需要者に提供される役務である。
よって、請求人が自己の業務に係る商品に請求人商標を使用し、これが全国的に周知になっているのであるから、本件商標の所有者が自己の業務に係る役務「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に本件商標を使用したときには、その役務に接する需要者が請求人の業務に係る役務であると誤認し、役務の出所について混同を生ずる場合がある。
また、先に述べた日立製作所の事例が示すように、同一の事業主体が請求人販売商品を製造・販売し、かつ、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の役務を提供することは、通常行われていることである。
したがって、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」について本件商標が使用された場合、本件商標は別紙目録2に記載する請求人商標に同一若しくは類似する標章であるから、需要者は請求人の業務にかかる役務であるとして役務の出所を「直接的に」混同するおそれ、すなわち、「狭義の混同」を生じせしめるおそれがある。
(イ)「広義の混同」について
仮に、需要者・取引者が、本件商標のもと需要者に提供される役務について請求人の業務であるとして「直接的に」混同するおそれはないとしても、本件商標の「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」についての使用は、請求人の子会社・関連会社の提供に係る役務であるとの緊密な営業上の関係、又は同一の表示による展開事業を営むグループに属する関係にあると誤信され、「広義の混同」を生じるおそれのある。
特に、請求人販売商品の需要者は、電子機械器具の製造者であるから、同業者は請求人販売商品などの電子部品を用いた「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に通常業務として従事していることは明らかである。
よって、かかる製造業者により普通に払われる注意力を基準とすれば、請求人販売商品の需要者である同製造者が、「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に従事する一方、本件商標のもと提供される「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」に接すれば、本件商標は別紙目録2に記載する請求人商標に同一若しくは類似する標章であるから、かかる役務は請求人の子会社・関連会社・グループ会社等の関係にある事業者の業務に係る役務であると誤認し役務の出所について混同するおそれがある。
特に、電子機械器具の製造会社が子会社・関連会社若しくはグループ会社を設立し、電子機械器具に関する「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」の事業を行う多角化の実態を鑑みれば(甲第39号証)、請求人の子会社・関連会社・グループ会社等の関係にある事業者の業務に係る役務であると誤認し役務の出所について混同するおそれは十分に想定できる。
したがって、本件商標は、「電気通信機械器具」、「電線及びケーブル」、並びに、第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」については、商標登録を無効とされるべきである。

(3)商標法第4条第1項第19号該当について
本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内及び外国において需要者の間に広く認識されている請求人商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものである。
よって、本件商標は、本件商標の出願日の時点及び査定の時点において商標法第4条第1項第19号に該当し、商標登録を無効にされるべきである。
ア 日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標
請求人商標を使用する商品の品質・用途から、需要者は日本国における最終消費者(一般大衆)ではなく、むしろ、日本国内に存在する電子部品商社、並びに、電子機械器具の製造会社である。そして、かかる電子部品商社、並びに、電子機械器具の製造会社において、請求人商標は広く認識されている商標である。また、請求人商標は、請求人販売商品について、30年以上に渡り継続して我が国において使用されている商標である。かかる継続的な商標の使用及び販売実績を鑑みれば、請求人商標は「著名な商標」として評価することができる商標である。
また、請求人商標は、アメリカはもとより、合計世界22の国若しくは地域において、それらの国における需要者の間に広く認識されている商標である。特に、海外においては、LED事業はもとより請求人商標は、アプリケーション事業に関する商品、すなわち、道路等における信号機等についても、需要者の間に広く認識されている商標である。
不正の目的
(ア)本件商標の出願人は、平成17年1月24日に、本件商標を現在の本件商標の所有者であるダイヤライトジャパン株式会社に移転している(甲第1号証)。
一方、本件商標の出願日の時点において、出願人は、半導体工学を専攻する研究者であると推測される。そして、半導体工学の研究対象はLEDに関する研究が含まれ、LEDの研究は、昨今の青色発光ダイオードの一連の紛争事例に鑑みれば、半導体工学の分野において最も注目を集めている分野である。
よって、出願人は、本件商標の出願時において、請求人商標の存在を知りえる立場にあったと推測される。かかる事実に鑑みても、本件商標は不正の目的をもって出願したものと推測される。
(イ)請求人商標は、特定の観念を持たない造語である。また、本件商標の指定商品及び役務について、特定の品質や用途を表示する商標として使用されている事実はない。よって、請求人商標と同一若しくは類似する称呼を有する本件商標を採択し出願に及んだことは、偶然の一致であると推測することは困難であり、出願人がことさら請求人商標と同一若しくは類似する商標を採択する特段の理由は見出せない。
よって、本件商標は、請求人商標を知りつつ、不正の目的をもって出願したものと推察される。
特に、請求人商標の使用地域及び規模は、本件商標が使用の権限を有する日本と比較しその地理的範囲が広く、また請求人の事業規模が大きいことは請求人の業界における地位に鑑みれば明らかであり、本件商標の出願人が請求人商標を知らないことは考えにくい。
これらの事実から、本件商標の出願人は、日本及び海外を問わず、LEDの研究が含まれる半導体工学の分野における情報を容易に得ることができ、請求人商標を知り得る状況にあったと推測される。請求人商標は、アメリカはもとより、合計世界22の国若しくは地域において、それらの国における需要者の間に広く認識されている商標であることに鑑みれば、本件商標の出願人が請求人商標を知らないことはないと思われ、請求人商標の存在を知りうる状況下にあったもの推測される。
換言すれば、本件商標の出願人が、日本国又は外国において周知著名な請求人商標と同一若しくは類似する商標を採択する行為は、請求人商標に化体する業務上の信用にただ乗りし、請求人商標の稀釈化(ダイリューション)や汚染(ポリューション)を招き、不正に利益を得る目的若しくは他人に損害を加えるなどの不正の目的を推認することができる。
また、特許庁審査基準に準じても、本件商標は不正な目的をもって使用するものと推認できる。

(4)商標法第4条第1項第7号該当について
本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標である。よって、商標法第4条第1項第7号に該当し、商標登録を無効にされるべき理由がある。
本件商標の出願時及び登録前には、請求人商標は既に請求人販売商品の取引者、需要者間において相当程度広く認識されていたというべきであり、かつ、本件商標の出願人は、請求人商標を付した請求人販売商品が広く認識されていたことを熟知していたというべきである。
また、本件商標は請求人商標と同一若しくは類似であるとともに、特定の観念を持たない造語である。よって、本件商標が請求人商標と偶然に一致したものとは認めがたく、本件商標の出願人は、日本及び外国において広く認識されている請求人商標の存在を知って本件商標を出願したものと優に推認でき、同人が自ら創造したものとは考え難い。
本件商標の出願人は、海外の研究者及び関連団体との繋がりを密に持ち、世界中から半導体工学・物性物理学及び電気物性工学に関する情報を知り得る立場にあることは明らかであるから、海外において広く認識されている請求人商標を知り、当該商標が我が国において登録出願されていないことを奇貨として、同商標と同一又は類似の商標、若しくは社会通念上同一の本件商標を請求人に無断で先取り的に出願し登録を受けたと考えるのが自然である。
ところで、商標法による商標の保護が、産業の健全な発達及び需要者の利益を損なうようなものであってはならず、本号にいう「公の秩序又は善良の風俗」も、このような観点から解すべきであって、商標の使用が、社会の一般的倫理的観念に反するような場合や、それが、直接に、又は商取引の秩序を乱すことにより、社会公共の利益を害する場合においても、当該商標は本号に該当するとして、登録を受けられないものと解することが妥当である。
また、海外において使用されている商標について、日本では商標登録されていないことを奇貨として、その商標の使用者に告げることなく、当該商標を出願し登録を得ることは、国際商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際信義に反し公の秩序を害するものであり、本号に該当するとして、登録を受けられないものと解するのことが妥当である。
これを本件についてみるに、本件商標の出願人の上記行為に基づく本件商標の登録を認めることは、著しく社会的妥当性を欠き、商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないものであり、公正な競業秩序を乱し、ひいては国際信義に反するものであって、公の秩序を害するおそれがある。

(5)商標法第4条第1項第8号該当について
本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当し、商標登録を無効とされるべきである。
本件商標は、標準文字の書体をもって、「日本ダイヤライト」と表示する標章からなる商標である。一方、請求人の商号は、Dialight Corporation(ダイアライトコーポレーション)であり、その著名な略称はDialightであり、その称呼は「ダイアライト」若しくは「ダイヤライト」である。
本号の趣旨は、人の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにある。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのであって、略称についても、一般に本人を指し示すものとして受け入れられている場合には、本人の氏名、名称等と同様に保護に値するものである。よって、本号にいう「著名」な略称に該当するか否かを判断するについても、その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断することが妥当である(最高裁判所・ 平成17年7月22日判決)。
かかる考え方を本件に敷衍すれば、請求人の属するLED事業、並びに、アプリケーション事業において、これらの事業に従事する者は、Dialight(称呼は「ダイアライト」若しくは「ダイヤライト」)が請求人販売商品の商標として広く知られているところ、表示「DIALIGHT」、「Dialight」、「ダイアライト」若しくは「ダイアライト」は、ダイアライトコーポレーションを指し示すものとして、請求人の属する業界において受け入れられているものである。よって、請求人の略称である「DIALIGHT」、「Dialight」、「ダイアライト」若しくは「ダイアライト」は、本号が規定する「著名性」を満足していることは明らかである。
したがって、本件商標は、他人である請求人の著名な略称「ダイアライト」を含むものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当する。また、請求人は、本件商標を登録することに関し、何ら許諾を与えていない。

2 結語
以上、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第8号並びに同第10号若しくは同第15号、又は同第19号に該当することは明らかであるから、本件商標の登録は無効とされるべきである。
なお、請求人は、請求人商標を、請求人販売商品に関し、日本を始め世界約45の国若しくは地域において使用している。かかる事実は、請求人商標が工業所有権の保護に関するパリ条約第6条の2の適用を受け、同盟国において保護されるべき周知な商標であることの顕著に示すものである。畢竟、請求人商標はパリ条約第6条の2の適用を受けるべき商標であるところ、第三者商標との関係において、出所の混同のおそれが周知著名ではない商標と比較して格段に高く、請求人商標との商品の出所の混同を招くことが懸念される。ましてや、本件商標の要部「ダイヤライト」は、請求人商標と混同を生じる程に実質上同一の商標であるから、出所の混同のおそれは十分に懸念されるところである。かかる周知著名商標の保護に関する国家間の協約並びに条約上の要請に鑑みても、本件商標の登録は無効とされるべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、何ら答弁をしていない。

第4 当審の判断
1 請求人商標の周知性について
(1)請求人提出の甲各号証及び請求人の主張の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 請求人は、昭和13年に作動表示灯を主な製品とする電気機器部品の製造業者として創業したアメリカの法人であり、当初はLEDを用いない電球式の作動表示ランプやプッシュボタンスイッチを製造・販売し、商標「DIALIGHT」を使用してきた。そして、LEDが開発された昭和45年代以降は、プリント基板や制御盤に組み付けて使用するLED本体の研究開発及び設計、その製造・販売をし、また、LED並びにその技術を利用した、道路・鉄道・航空・飛行場等において使用する各種信号機・警告灯などの製品を開発し、その製造及び販売を現在も継続している(甲第3号証及び同第4号証)。
請求人のランプホルダー、表示器の照明装置のハウジング(ケース)、表示機の照明レンズは米軍の規格に対応するものとして米国軍の認証を受け(甲第5号証、甲第21号証)、また、信号機などの商品は、アメリカ連邦航空局(FAA)、カナダ規格協会(CSA)、米国連邦ハイウェイ管理局などの規格に適合するとして、その認証を受けている(甲第21号証)。特に、LEDを用いた交通用の信号灯などLEDの表示器が、高い評価及び認定を受けている(甲第6号証)。
請求人は、商標「DIALIGHT」について、アメリカをはじめとして、商標登録を受け、あるいは商標出願を完了している。そして、アメリカ特許商標庁は、請求人が上記のアメリカ登録商標を実際に使用している実績に基づき登録を認めている(甲第8号証ないし同第10号)。
請求人は、アメリカ以外の主要な市場においては現地法人を設立し、現地法人を通じた事業活動を展開している(甲第11号証ないし同第14号証)。また、主要な国・地域においては、現地の企業と総販売代理店若しくは特約店契約を締結し、それらを通じ、請求人の商品の販売を実施している(甲第15号証ないし同第19号証)。
また、アメリカをはじめ、ドイツ、オランダ、タイ及びメキシコにて開催された国際的な展示会や見本市に請求人の業務にかかる商品群を出品した(甲第20号証)。
イ ジュピコは、昭和50年4月より、請求人の日本における総販売代理店であり(甲第23号証)、請求人は、ジュピコを通じて、別紙目録2記載の商標を使用した商品の販売を継続している(甲第34号証)。そして、(a)プリント基板用若しくは電子機器、あるいは、電気通信機械器具などに組みつけて、機器の作動表示灯として使用するLED、(b)LEDを用いた数字・英文字表示器、(c)LED又は白熱ランプを用いた照光式押しボタンスイッチ(甲第24号証ないし同第26号証)について、遅くとも昭和51年12月末日から、約30年間に亘り、請求人商標を使用した商品を、日本において継続して販売している。
請求人販売商品の販売先顧客は、ジェピコの日本における主要な取引先である10のグループ企業(NEC、ソニー、横河、沖電気、三菱電機、松下、池上通信機、東芝、日立、富士通)の他約210社に及び、ジェピコは、昭和51年12月末日から、別紙目録2の商標を使用した請求人販売商品を日本国内における約210社に対し販売を継続し、平成9年から本件商標の出願があった平成15年までの期間に限定しても、その出荷件数は116,433件、商品単位の出荷個数は34,767,249個に及んでいる(甲第27号証)。
ウ また、請求人販売商品は、ジェピコが直接取引先に販売する流通経路の他、日本各地の電子部品商社が、ジェピコより請求人販売商品を購入し、これらの商社が個々の取引先に販売している(甲第28号証及び同第29号証)。
さらに、請求人販売商品を並行輸入などのルートで購入し、インターネット上に開設したホームページを通じ、注文を受けて販売する電子部品商社も多く存在している(甲第30号証)。
エ ジェピコは、商品カタログに「DIALIGHT」の表示がある商品現物の写真を掲載するとともに、同カタログに表示した商標「DIALIGHT」に「ダイアライト」のルビを表記するほか、「ダイアライト社の・・」、「ダイアライトの・・」、「ダイアライト社」、「DIALIGHT社の」等のように、請求人を指し示し、示唆する表示を併記している(甲第24号証ないし同第26号証)。
オ ジェピコの特約店の丸進商事株式会社は、雑誌「トランジスタ技術」1992年7月号に請求人の商品であるLED(サーキットボード・インジケーター)の広告を掲載した(甲第29号証の3)。ジェピコも、総代理店として、請求人商標を使用する請求人販売商品の広告宣伝活動を行い、その結果、LED(サーキットボード・インジケーター)等の広告が好評であったため、1992年及び1993年において、権威ある「コスモ広告大賞対象」を二年連続して受賞した(甲第29号証の4)。
また、請求人販売商品であるパラマウントタイプのLEDは、その高度な技術並びに品質からLED事業の業界においても注目を集め、雑誌「NIKKO Forum/日工フォーラム」1993年10月号の表紙の題材に採用された(甲第29号証の5)。
(2)以上を総合すれば、請求人商標は、我が国において請求人販売商品に継続して使用をされ、本件商標の登録時はもとよりその出願時において、LEDやこれを利用した各種信号機・警告灯・スイッチなどの需要者(取引者を含む。)の間において広く認識されるに至っていたと認められる。

2 本件商標と請求人商標の類似性の程度
本件商標は、「日本ダイヤライト」の文字からなるものであるところ、その構成中「日本」は、我が国を指称する文字として極めて親しまれたものであるから、商品の産地・販売地や役務の提供地を認識させ、自他商品・役務の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、また、識別性を有する文字等に「日本」を冠して日本の会社の名称等として使用されることがあるのは顕著な事実といえるものである。
してみると、本件商標は、自他商品・役務の識別標識としての機能を果たすと認められる「ダイヤライト」に相応して「ダイヤライト」の称呼をも生ずるものというべきである。
一方、請求人商標は、「DIALIGHT」又は「Dialight」の文字からなり、これより「ダイアライト」の称呼を生ずるものである。また、我が国においては、前記1(1)エのとおり、「ダイアライト社」「ダイアライトの・・」というように「ダイアライト」の表記をもっても表されることがあるものといえる。
しかして、本件商標の称呼「ダイヤライト」と請求人商標の称呼「ダイアライト」とは、「ダ」「イ」及び「ラ」「イ」「ト」の各音を共通にし、「ヤ」と「ア」で差異を有するものの、その差異音とても、「ヤ」の母音が「ア」であり、互いに近似した音であるから、両者は称呼全体としての音感において酷似するものであり、彼此聞き違えるおそれが充分にあるものである。
そして、「ダイヤ」と「ダイア」にしても、ともに「ダイヤモンド(diamond)」を表す外来語として、互いに置換される(広辞苑、国語大辞典参照)程に混淆して用いられ易い語であることとも相俟って、本件商標をして、請求人商標の片仮名表記に「日本」を冠して表したものと取り違えて、誤認されることも決して少なくないとみるのが相当である。
してみれば、両商標の類似性の程度は相当に高いというべきである。

3 本件商標の指定商品・役務と請求人商標の使用に係る商品間の関連性及び需要者等
本件商標の指定商品中「配電用又は制御用の機械器具」、「電線及びケーブル」、「電気通信機械器具」、「電子応用機械器具」及び「電球類及び照明用器具」と請求人商標の使用に係る商品とをみると、後者には「電子応用機械器具」、「配電用又は制御用の機械器具」あるいは「電球類及び照明用器具」に属すべき商品(LED、それを利用した表示灯・同スイッチなど)を含むものであり、その点で両者には、極めて密接に関連する商品があり、また、「電気通信機械器具」や「電線及びケーブル」をみても、請求人商標の使用に係る商品がこれらの部品・附属品として使用されることがあることや同じ販売店で取り扱われるなど、用途や取引系統を共通にすることのある関連性の高い商品というべきである。
さらに、役務「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」との関係においてみても、機械器具の製造業者が併せて当該機器や装置の設計を業として提供することは往々にして行われるところであり、請求人商標の使用に係る商品についても、それら設計について製造業者が併せて行うことがあるとみるのが相当である。
また、同商品は各種機械・装置や器具等の構成物となるものであって、これらは設備の設計等に際して、省力化等の観点も含めて、その使用を当然に検討・考慮されるべきものといえるから、両者は決して関連性の程度が低いものということはできない。
そして、上記商品や役務の需要者(取引者を含む。)には、いずれも通信機器や電子機器等の製造業者や専問商社等が主として含まれており、請求人商標の使用に係る商品の需要者と共通性が認められるものである。

4 出所の誤認混同のおそれ
しかして、通信機器や電子機器等を取り扱う事業者である需要者(取引者を含む。)の注意力を基準として、請求人商標の周知性の程度、本件商標の指定商品・役務と請求人商標の使用に係る商品間の関連性及び需要者の共通性等を総合してみれば、本件商標をその出願時において、上記3の指定商品・役務に使用するときには、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係のある者(例えば、請求人の日本における関連子会社)の業務に係る商品あるいは役務と誤認し、取引者・需要者がそれらの出所について混同するおそれがあったと判断され、そのことは本件商標の登録時にも引き続き同様に認められるものというべきである。

5 小括
したがって、本件商標は、指定商品及び指定役務中「配電用又は制御用の機械器具」、「電線及びケーブル」、「電気通信機械器具」、「電子応用機械器具」、「電球類及び照明用器具」及び「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」について、商標法第4条第1項第15号に該当するものと認められる。

6 結語
以上のとおり、本件商標は、上記5の指定商品及び指定役務について、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、その登録は無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲 (別紙目録2)


(色彩については原本参照。)

審理終結日 2008-12-10 
結審通知日 2008-12-16 
審決日 2009-01-26 
出願番号 商願2003-91406(T2003-91406) 
審決分類 T 1 12・ 271- Z (Y091142)
最終処分 成立  
前審関与審査官 箕輪 秀人 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 佐藤 達夫
小川 きみえ
登録日 2004-04-23 
登録番号 商標登録第4766893号(T4766893) 
商標の称呼 ニッポンダイヤライト、ダイヤライト、ニッポンダイヤ、ダイヤ 
代理人 岡田 和秀 
代理人 伊藤 孝太郎 
代理人 前田 大輔 
代理人 中村 知公 

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