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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200689125 審決 商標
無効200335094 審決 商標
無効2007890065 審決 商標

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審決分類 審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y35
審判 一部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない Y35
管理番号 1190811 
審判番号 無効2008-890013 
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-02-07 
確定日 2008-12-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5043834号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5043834号商標(以下「本件商標」という。)は、「カインズ」の文字を標準文字で表してなり、平成18年1月24日に登録出願された商願2006-4672に係る商標法第10条第1項の規定による商標登録出願として、平成18年8月8日に登録出願、第35類「コンピュータデータベースへの情報構築,インターネットウェブサイトにおけるショッピングモールを介した商品の広告,インターネットウェブサイトにおけるショッピングモールを介した商品の売買契約の媒介,通信ネットワークシステムを利用して行う商品の販売に関する情報の提供,雑誌・新聞に掲載された広告に関する情報の提供,その他の広告に関する情報の提供,インターネットウェブサイトにおける広告用スペースの貸与,広告,クーポン・ポイントカード及びその他のトレーディングスタンプの発行・清算及び管理,トレーディングスタンプ・ポイントカード・クーポン券の発行に関する情報の提供,トレーディングスタンプ又はポイント蓄積式カードの発行に関する調査・指導・助言及びそれらに関する情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,新聞の予約購読の取次ぎ,速記,筆耕,書類の複製,文書又は磁気テープのファイリング,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与,求人情報の提供,自動販売機の貸与」を指定役務として、平成19年4月27日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、「本件商標の指定役務中『職業のあっせん,求人情報の提供』についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第24号証を提出した。
1 請求の理由
(1)本件審判の請求の経緯
ア 本件商標の商標権者(被請求人)は、本件商標のほかに、「カインズ」の文字を横書きしてなる登録第4129948号商標(以下「被請求人商標1」という。甲第2号証)及び登録第4104209号商標(以下「被請求人商標2」という。甲第3号証)を有している。本件商標は、被請求人商標1及び2と同一の「カインズ」の文字を標準文字とした上で、第1類から第45類の商品及び役務を指定した原出願(商願2006-4672)の拒絶理由を解消するために分割出願を行ったものである(甲第4、5号証)。
請求人は、平成元年(1989年)の創業以来、関東圏において、自ら創案した「カインズ」の文字及び「カインズ」の文字を含む標章(以下「請求人標章」という。)を「職業のあっせん」及び「求人情報の提供」の業務について善意に継続使用していたところ、被請求人は、請求人に対し、平成18年2月2日付けで、被請求人商標1及び2に係る商標権に基づく警告書を送付した(甲第6号証)。
そこで、請求人は、被請求人商標1及び2について、商標法第50条による審判を請求したところ、前者は、指定役務中の「職業のあっせん」の登録を取り消す旨の審決がされ、これが確定した。また、後者は、指定役務中の「求人情報の提供」の登録を取り消す旨の請求について審判係属中である(甲第7、8、12号証)。
ところが、被請求人が請求人に警告書を送付する直前に、本件商標の出願をしたことが判明したため、請求人は、上記のように、被請求人商標1及び2について、不使用取消審判を請求したにもかかわらず、長年にわたり善意に使用してきた請求人標章の使用ができない事態に陥っている。なお、請求人は、第35類「職業のあっせん」を指定役務とする請求人標章の商標登録出願をしたところ、本件商標が引用された拒絶理由により拒絶されたが、現在審判に係属している(甲第9?11号証)。
イ 請求人標章は、関東圏のリクルート業界においては、請求人の業務を表示する商標として周知になっており、請求人の業務上の信用も確立していると考えられる。したがって、請求人が本件審判を請求した目的は、これまで築き上げてきた業務上の信用を保護する目的であり、被請求人が行っている業務(ホームセンターチェーンの経営)における商標「カインズ」の使用を阻害する目的は毛頭ない。これは、本件審判において、請求に係る指定役務を「職業のあっせん,求人情報の提供」に限定していることからも明らかである。
(2)商標法第4条第1項第7号について
ア 商標法第4条第1項第7号は、商標の構成それ自体において公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標のみならず、その構成自体においてはそうでなくても、当該商標の出願がその経緯において適正な商道徳に反し、社会通念に照らしてみれば、社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合にも適用される(東京高等裁判所平成14年(行ケ)第616号判決、無効2006-89125(甲第14、15号証))。
イ 本件商標は、商標の構成それ自体において公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとは考えられない。しかし、以下に述べるとおり、本件商標の出願は、その経緯において、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、商標法の予定する秩序を害するおそれがあると考えられる。
すなわち、我が国の商標法は登録主義を採用していることから、現実の使用は登録要件にはなっていないが、不使用商標は、商標法が保護の目的とする業務上の信用が発生せず、かえって取引の安全を不当に害し、他人の商標選択の余地を狭めることになるため、このような登録主義の弊害を是正するために、商標法第50条第1項の審判制度が設けられている。本件商標の出願は、前記のとおり、被請求人商標1及び2が取り消されることを予見した上で、被請求人商標1及び2と同一の商標について、その出願態様を変形して出願していることから、被請求人商標1及び2に係る商標権の延命を目的とする出願であることが明らかである。
このような出願が、3年毎に繰り返されれば、商標法が保護すべき取引の安全は永久に害され続け、善意の第三者の商標選択の余地は一向に狭められたままになり、商標法の目的に反することとなる。
また、被請求人は、請求人に対し警告を行っていることからも、請求人が「カインズ」商標の使用を切望していることを知悉しているにも関わらず、被請求人商標1及び2の消滅後においても、請求人に対し優位な立場を保つことを目的として、被請求人商標1及び2と同一の本件商標の出願を行った。
このような出願経過を鑑みると、本件商標の出願は、適正な商道徳に反し、社会通念に照らしてみても、社会的妥当性を欠如していることが明らかである。
ウ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(3)商標法第3条第1項柱書について
ア 商標法第3条第1項柱書には、現実に使用している商標あるいは将来使用する意思がある商標でなければ、登録を受けることができない旨が規定されている。
しかし、審査段階において、審査官が願書の記載を通じて使用意思の有無を判断することは困難であるため、「商標の使用又は商標の使用の意思があることに合理的な疑義がある場合」に、商標法第3条第1項柱書の拒絶理由を通知し(甲第16号証)、該拒絶理由通知を受けた出願人は、商標の使用証明や事業計画書等を提出することにより、現にその商標を使用している事実や商標の使用を開始する意思があることを証明する必要がある。
イ 本件商標は、前記(2)イで述べたとおり、被請求人商標1及び2が取り消されることを予見した上で出願された、被請求人商標1及び2に係る商標権の延命を目的とする出願である。また、本件商標の原出願は、第1類から第45類の商品及び役務を指定する出願である。被請求人の業務内容は、「ホームセンターチェーンの経営」であり(甲第17号証)、取扱い商品が多区分にわたるから商品区分第1類から第34類の使用の可能性は否定できないが、役務区分第35類から第45類に関しては、常識的に考えて全ての業務を行っているとは考えられない。
上記事情を考慮すると、本件商標の原出願は、「商標の使用又は商標の使用の意思があることに合理的な疑義がある場合」に該当すると判断することが妥当である。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人について
被請求人が北関東圏を中心に「CAINZ HOME/カインズホーム」なるホームセンターを展開していることは認める。被請求人は、無効2005-89158の審決(乙第7号証)において、「職業のあっせん,求人情報の提供」の役務に関しての本件商標の著名性が認定されていると主張するが、該審決には、「ホームセンターの名称」として著名であることは記載されているが、「職業のあっせん,求人情報の提供」の役務に関する本件商標の著名性の記載は見つからない。また、上記無効審判は、被請求人が何ら答弁せずに審理されたものであり、職権探知主義にも限界があると考えられることから、この審決のみを理由に、本件商標が著名であると認定するのは妥当ではない。
(2)誤認混同のおそれ
乙第8号証によれば、検索によりヒットする被請求人に関するサイトは、被請求人又は被請求人が経営する各店舗における労働者を確保するための求人情報が掲載されており、被請求人とは特別な関係を有さない他企業への「職業のあっせん」や「求人情報の提供」を行うサイトではない。これに対し、請求人に関するサイトは、全て請求人とは人材派遣や職業紹介を行うこと以外には特別な関係を有さない他企業へ人材派遣や職業紹介を行うための求人情報が掲載されたサイトであり、人材派遣や職業紹介を行うためのサイトであることが明確である。
したがって、被請求人に関するサイトが「職業のあっせん,求人情報の提供」を行うサイトでない以上、被請求人と請求人とに誤認混同が生じる可能性はなく、請求人の行為は、不正競争防止法第2条第1項第1号には該当しない。
(3)本件商標の出願について
被請求人は、本件商標を出願したのは、標準文字で「カインズ」を商標登録し直すことにより、構成態様に関する無用な争いを今後避けるためであり、「被請求人商標1及び2に係る商標権の延命目的や登録商標の消失後についても請求人に対し優位な立場を保つこと」を専らの目的としたものではない旨主張する。
しかし、被請求人からの警告の原因となっている被請求人商標1及び2は、デザイン性の全く感じられない商標であるから、「構成態様に関する無用な争いを今後避けるために」本件商標を出願し直したという被請求人の主張及びその他の主張は信憑性に欠ける。また、商標法では、設定登録前であっても、警告を行った後には、金銭的請求権が発生することを規定しているにも関わらず(商標法第13条の2)、意図的に本件商標に基づく警告を行わず、被請求人商標1及び2に基づいてのみ警告を行ってきた事実を鑑みると、警告を行えば、請求人が不使用取消審判の請求や登録を阻止する手段に出ることを予見していたと言わざるを得ない。
(4)求人情報の提供及び職業のあっせんについての本件商標の使用について
ア 被請求人は、本件商標を「求人情報の提供」の業務に使用している旨主張する。
しかしながら、商標法にいう役務とは、他人のためにする労務又は便益であって、付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得るものであり(甲第18、19号証)、また、商標法における役務「求人情報の提供」とは、求人者と情報提供者という関係以外に、特別な関係を有しない不特定多数の企業等の求人情報を、雑誌やインターネットを通じて、提供する業務をいうと考えられるところ、乙第11、12号証(求人広告)の各求人者は、カインズホーム前橋吉岡店(情報提供者)と別個独立的に存在する店舗ではなく、カインズホーム前橋吉岡店(情報提供者)内に入居するテナントである。そして、通常、多くのテナントが入居するホームセンター、スーパーマーケット等では、顧客が利用する通路、エレベーターホール、駐車場等に設置された掲示板や広告チラシなどに、各テナントに関する様々な情報(例えば、「3階○○店セール中」、「1階××店パートさん募集中」など)を掲載することが一般的に行われている実情に鑑みると、乙第11、12号証は、各求人者が被請求人のホームセンターに入居するテナントであるからこそ行われる求人広告であり、被請求人がホームセンター経営業務と別個独立して行っているサービスであるとは到底考えられず、被請求人の行為は、ホームセンター経営業務に付随的に行われているサービスであって、市場において独立した取引の対象となり得るものではない。また、ホームセンター経営者とそこに入居するテナントとは、求人者と情報提供者という関係以外に、特別に密接な関係を有していると考えられ、したがって、被請求人と各求人者であるテナントとは、商標法における「役務」を定義する上での「他人」ではないと考えるのが妥当である。
イ 被請求人は、本件商標を「職業のあっせん」の業務と同一視し得る「家事の代行」に使用している旨主張するが、被請求人の行為は、「職業のあっせん」と同一視し得る役務を行っているものではない。
すなわち、「商品及び役務の区分解説(国際分類第9版対応)」(甲第22号証)の第35類「職業のあっせん」によれば、「この概念には、主として労働者への職業紹介の役務が含まれる。職業紹介とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう。」と記載されている。
一方、職業安定法第4条第1項には、「職業紹介とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいう。」と定義され、同法第30条及び第33条には、有償無償を問わず、「職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。」と規定され、これに違反すれば、同法第64条により罰則が科される(甲第23号証)。
したがって、商標法における役務「職業のあっせん」を行うためには、厚生労働大臣の許可が必要であると考えられるところ、被請求人は、当該許可を受けていることについては何ら証明していない。
そして、被請求人が取引を行っている受託企業は、自らが行う業務「家事の代行」を提供するための提供先を求めているのであって、雇用先を求めているのではない。また、顧客が「家事の代行」を被請求人に依頼するのは、「家事の代行」業務を提供してもらうためであり、顧客が「雇い主」となって、家事の代行業者を雇い入れるために被請求人に依頼しているのではないことが明らかである。
(5)過去の審判決例について
被請求人は、請求人の挙げた判決(甲第14号証)を引用し、本件商標には守られるべき業務上の信用が化体している以上、私益が関係しており、公的な秩序を維持する商標法第4条第1項第7号で処理される問題ではない旨主張する。
ア しかし、前記(4)で述べたとおり、被請求人は、本件商標を請求に係る指定役務について使用していないから、該役務に業務上の信用は化体していない。
また、上記判例では、原告と申立人の関係は、エコノミーホテルの企画運営を委託するための種々の契約を交わしている関係であったり、申立人は、当該商標に関する商標権取得に向けての何ら方策を講じたことを窺わせる事実がないなど、様々な実情が考慮された上で、原告と申立人の争いを「私的な利害の調整に関わる事柄」と判断されたものである。
一方、本件における請求人と被請求人は、何ら契約等を交わした事実もなく、請求人は、「カインズ」商標の取得に向けて、商標登録出願を行い、また、拒絶査定不服審判等の措置も講じている(甲第11号証)。
イ 被請求人は、「乙第1号証の回答書を送付してくるだけで、侵害行為を停止するどころか、商標の譲渡交渉、使用許諾も求めてこなかった。」と主張するが、請求人は、回答書(乙第1号証)において、先使用権(商標法第32条)を主張すると共に、被請求人の商標権が消滅するまでの間は、形式的にも被請求人の商標権の侵害行為とならないよう、商標権の効力が及ばない範囲(商標法第26条第1項第1号)での使用に留めている。そして、被請求人からの警告書に記載された商標権について、不使用取消審判を請求した。
しかし、被請求人は、不使用商標については商標法第4条第1項第13号の適用がないこと、及び、不使用取消審判を請求するには商標登録から3年間という期間が定められていること、という商標法の盲点をついて、警告書を送付する直前に、警告書に記載した商標権が取り消されるのを予見して、実質的に同一の本件商標についての出願を行ったのである。このような、いわば、脱法的な出願に対しては、当事者間で解決するのはもはや不可能であり、請求人としては、公的な秩序を維持するための商標法第4条第1項第7号に頼らざるを得ないのである。
(6)商標法第3条第1項柱書
前記(4)で述べたとおり、被請求人は、本件商標を請求に係る指定役務「職業のあっせん,求人情報の提供」に使用していないことは明らかである。
3 むすび
以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同法第3条第1項柱書に該当し、商標登録を受けることができないものであるから、その登録は、商標法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第14号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)被請求人について
被請求人は、「CAINZ HOME/カインズホーム」なるホームセンターを首都圏・東海・近畿地方を中心とした21都県に156店舗出店しており(乙第3号証)、その資本金32億6000万円、2007年(平成19年)2月期時点における売上高は5,000億円に上り、8500名もの従業員を抱える企業であって(乙第4号証)、ホームセンターの中では1、2位を争う大手企業である。そして、被請求人は、小売業のみならず、例えば、ハウスクリーニング、家事代行などの役務(乙第5号証)を行っていると共に、「ベイシアグループ」を構成する多角経営企業体でもある(乙第6号証)。
被請求人の名称及び店舗名は「カインズ」と略称され、需要者に広く認識されている。このことは、無効2005-89158(乙第7号証)における審決で、「職業のあっせん,求人情報の提供」の役務に関しての本件商標の著名性が認定された。
(2)誤認混同のおそれ
被請求人の業務と請求人の業務との間には抵触する部分があると共に、請求人標章の使用により、需要者の間に被請求人と誤認混同が生じるおそれがある。例えば、検索エンジンで「カインズ 求人」と入力すると、被請求人の求人情報が表示されるほか、請求人の求人情報も表示される(乙第8号証)。会社の規模や営業範囲等からして、被請求人は、請求人よりも知名度を獲得している以上、被請求人への就職を希望する者が誤って請求人へ問い合わせてしまう蓋然性が高い。これは商標権侵害のみならず不正競争防止法第2条第1項第1号に該当するおそれのある行為である。
このような誤認混同が生じる事態を避けるために、被請求人は、請求人に対し、本件商標と同一類似範囲内の商標の使用の停止を求めてきた(甲第6号証、乙第2号証)。しかしながら、請求人は、その警告を受けてからも、「カインズ・グループ」「カインズサービス」等、本件商標の類似範囲内の商標の使用を続けている。
請求人は、本件商標の出願行為を公序良俗違反と主張するが、本件商標の存在を知りながら、上記のような侵害行為を続けている請求人の行為自体、商道徳ないし公序良俗に反している。そして、請求人は、被請求人による警告以降、被請求人に対し、本件商標に関する譲渡交渉や使用許諾交渉を申し入れることもなければ謝罪もなく、本件商標の類似範囲に該当する商標の使用を続けている。そして、2件の不使用取消審判の請求に加えて本件審判を請求してきたのである。これは誠実な対応とは到底言い難い行為であり、被請求人としては容認することができない。
(3)本件商標の出願について
請求人は、本件商標の出願は、前記のとおり、被請求人商標1及び2が取り消されることを予見した上で、被請求人商標1及び2と同一の商標について、その出願態様を変形して出願していることから、被請求人商標1及び2に係る商標権の延命を目的とする出願であって、出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠き、秩序を害するおそれがある旨主張する。
しかしながら、本件商標を出願したのは、標準文字で「カインズ」を商標登録し直すことにより、構成態様に関する無用な争いを今後避けるためであり、「被請求人商標1及び2に係る商標権の延命目的や登録商標の消失後についても請求人に対し優位な立場を保つこと」を専らの目的としたものではない。
また、被請求人商標1の「職業のあっせん」についての登録は取り消されたものの、現在では被請求人は「職業のあっせん」と同一視し得る役務に本件商標を使用している。さらに、被請求人商標1及び2の「求人情報の提供」について本件商標を過去より現在でも継続して使用をしている。
したがって、本件商標は、自らが使用する商標を保護するために出願したのである。むしろ、商標法第4条第1項第7号に該当して無効にされるべきは、その商標に守られるべき商標権者の業務上の信用が化体しない場合などに限られるというべきである。本件商標のように会社の著名な略称として認知され、業務上の信用が化体している商標であり、現実に使用している場合は含まないと考えるべきである。
(4)求人情報の提供及び職業のあっせんについての本件商標の使用
ア 被請求人の店舗内には多数のテナントが入居しているところ、そこで働く人材も流動的であり、常に求人が存在し、被請求人は掲示板にテナントの求人情報を掲載したり(乙第10号証の1及び2、乙第11号証)、広告チラシにおいて、他社の求人情報の欄を設けており(乙第12号証)、本件商標は「求人情報の提供」の業務に関し、過去より現在においても継続して使用されている。
イ 前述のように、被請求人は、「家事の代行」等の役務を提供している(乙第5号証)が、現在ではこれらを他企業に業務をアウトソーシングする形で上記役務を提供している。つまり、受託企業は、被請求人に対して「求職」している状態であり、被請求人に対して顧客が依頼をするのは「求人」に該当するため、受託企業が顧客の下に派遣されることにより、被請求人はいわば「職業のあっせん」と同様の業務を行っていると言える。
したがって、被請求人は「職業のあっせん」の業務と同一視し得る役務を業務について、本件商標の使用を行っている(乙第13、14号証)。
ウ 以上のように、本件商標は、「出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠き、秩序を害するおそれがある」場合には該当しない。
(5)過去の審判決例について
請求人は、過去の判例として平成14年(行ケ)第616号判決(甲第14号証)を挙げているところ、この判決には「使用関係を原告と申立人との間でいかに律するかは当事者間における利害の調整に関わる事柄であって、そのような私的な利害の調整は原則として公的な秩序の維持に関わる商標法4条1項7号の問題ではない」旨指摘されている。本件商標には守られるべき業務上の信用が化体している以上、私益が関係しており、公的な秩序を維持する商標法第4条第1項第7号で処理される問題ではない。
また、請求人は、無効2006-89125の審決(甲第15号証)を挙げているが、この事案は、本件の場合とは事情が異なる。まず、本件審判の請求人は被請求人の商標権の侵害行為をしていた。請求人は「善意に使用していた」と主張するが、善意であるか悪意であるかを問わず、商標権の侵害行為であることに疑いはない。当該侵害行為に対し被請求人は警告を行ったのであり、被請求人と請求人の誤認混同を避けるための利益保全行為である。ところが、請求人はその警告に対し回答書(乙第1号証)を送付してくるだけで、侵害行為を停止するどころか、商標の譲渡交渉、使用許諾も求めてこなかった。もはや本件の問題は被請求人及び請求人の私益に関わることであって、本件商標に関して商標法第4条第1号第7号の適用を争う範疇であるとは言えない。
したがって、本件商標の出願行為は、公序良俗に該当するような社会的妥当性を欠くような理由は見いだせず、本件商標の登録が無効にされるべきとは言い難い。
さらに、本件商標の出願は、警告書を送付する9日も前にされているのである。警告書を出す場合、1週間もあれば準備ができるものであり、そのこと自体が出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠く行為であるとは言い難い。
2 商標法第3条第1項柱書
上述した理由から、本件商標は現在使用しているものであり、商標出願に際して「使用に関する合理的疑義」はなかったと言えるため、商標法第3条第1項柱書に違反してされた商標登録出願とはいえない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)ア 商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について商標登録を受けることができないと規定しているところ、商標の構成自体から公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがない場合であっても、「商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法4条1項7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法4条1項7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。」(東京高裁平成14年(行ケ)第616号、平成15年5月8日判決言渡、甲第14号証)。
イ これを本件についてみるに、請求人の主張は要するに、請求人は、平成元年からその業務に係る「職業のあっせん」及び「求人情報の提供」について、「カインズ」及び「カインズ」の文字を含む標章(請求人標章)を善意に継続的に使用していたところ、被請求人は、請求人に対し、平成18年2月2日付けで被請求人商標1及び2に係る商標権等に基づく警告書を送付したので、請求人は、被請求人商標1及び2について、商標法第50条に基づく審判を請求し、前者については、指定役務中の「職業のあっせん」の登録を取り消す旨の審決がされた。また、後者は、指定役務中の「求人情報の提供」の登録を取り消す旨の請求について審判係属中である。しかるに、被請求人は、請求人に警告書を送付する直前に、本件商標の出願をしたため、請求人が被請求人商標1及び2について、不使用取消審判を請求したにもかかわらず、請求人標章の使用ができない事態に陥っている。本件商標の出願は、被請求人商標1及び2が取り消されることを予見した上で、被請求人商標1及び2と同一の商標について、その出願態様を変形して出願していることから、被請求人商標1及び2に係る商標権の延命を目的とするものであり、かつ、被請求人商標1及び2の消滅後においても請求人に対し、優位な立場を保つことを目的としている。したがって、このような出願が、3年毎に繰り返されれば、商標法が保護すべき取引の安全は永久に害され続け、善意の第三者の商標選択の余地は狭められたままになり、商標法の目的に反することとなるから、本件商標の出願の経緯は、適正な商道徳に反し、社会通念に照らし社会的妥当性を欠如しており、商標法第4条第1項第7号に該当する、というものである。
そこで、本件商標の出願の経緯について、著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当するか否かについて検討する。
(2)前提となる事実
ア 本件商標及び被請求人商標1及び2等について
(ア)本件商標は、前記第1のとおり、「カインズ」の文字を標準文字で表してなり、平成18年1月24日に登録出願された商願2006-4672に係る商標法第10条第1項の規定による商標登録出願として、平成18年8月8日に登録出願され、第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として、平成19年4月27日に設定登録(査定日:平成19年4月9日)された。
なお、上記の原出願である商願2006-4672は、出願当初、第1類から第45類の商品及び役務を指定商品及び指定役務とする出願であったが、拒絶理由を解消するため、本件商標に係る指定役務を削除したものであり、その後、登録第5021130号商標として、平成19年1月26日に設定登録された。
(イ)被請求人商標1及び2は、いずれも、活字体で横書きされた「カインズ」の文字よりなるものであり、平成8年4月15日に登録出願された。前者は、第35類「広告,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,書類の複製,速記,筆耕,文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与,タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与,販売促進のためのトレーディングスタンプの発行及び清算,新聞の予約購読の取次,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作」を指定役務として、平成10年3月27日に設定登録され、後者は、第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセット印刷,気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,一般廃棄物の収集及び処分,産業廃棄物の収集及び処分,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),建築物の設計,測量,地質の調査,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査,あん摩・マッサージ及び指圧,調剤,栄養の指導,家畜の診断,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,ミシンの貸与,衣服の貸与,植木の貸与,計測器の貸与,コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,消火器の貸与,超音波診断装置の貸与,展示施設の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与,布団の貸与,ルームクーラーの貸与,ファッション情報の提供,機械・装置若しくは器具又はこれらの機械(装置)等により構成される設備の設計(建築・土木に係る設計を除く。),電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするための高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,身の上相談,家事の代行,理化学機械器具の貸与,光学機械器具の貸与,カメラの貸与,鉱山機械器具の貸与,漁業用機械器具の貸与,印刷用機械器具の貸与,動力機械器具の貸与,風水力機械器具の貸与,冷凍機械器具の貸与,冷暖房装置(業務用)の貸与,美容院用・理髪店用機械器具の貸与,業務用調理機械器具の貸与,ガソリンステーション用装置の貸与(自動車の修理又は整備業のものを除く。),芝刈機の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,家具の貸与,敷物の貸与,カーテンの貸与,壁掛けの貸与,おしぼりの貸与,タオルの貸与,装身具の貸与,製図用具の貸与」を指定役務として、平成10年1月16日に設定登録された。
請求人の関連会社と認められる株式会社カインズサービス(以下「カインズサービス社」という。)は、被請求人商標1の指定役務中の「職業のあっせん」についての登録について、商標法第50条の規定に基づく審判を平成18年4月6日に請求したところ、被請求人による使用の事実を立証する証拠は、請求に係る役務「職業のあっせん」についての使用とは認められず、その登録は、平成18年12月12日付けの審決により取り消された(甲第7、12号証。確定の登録は平成19年2月16日である。)。
さらに、請求人は、被請求人商標2の指定役務中の「求人情報の提供」についての登録について、商標法第50条の規定に基づく審判を平成19年12月12日に請求し、現在審判に係属中である(甲第8号証)。
(ウ)カインズサービス社は、「カインズ」の文字よりなる商標を第35類「職業のあっせん」を指定役務として、平成18年4月6日に商標登録出願をした。なお、該商標登録出願は、本件商標を引用した拒絶理由により拒絶され、現在審判に係属中である(甲第9?11号証)。
イ 警告書及びその回答書等について
(ア)被請求人は、請求人に対し、平成18年2月2日付け前橋郵便局の差し出し証明付きの警告書をもって、請求人及びその関連会社(以下「請求人ら」という。)がその業務に係る「職業のあっせん、求人情報の提供、知識の教授」等について使用する、「カインズ」、「KIND’S」、「株式会社カインズ」、「カインズグループ」、「KIND’S GROUP」、「カインズサービス」、「KIND’S SERVICE」、「株式会社カインズサービス」、「カインズスタッフ」、「KIND’S STAFF」、「株式会社カインズスタッフ」の文字よりなる標章(請求人標章)は、被請求人商標1及び2並びに登録第4132517号商標に係る商標権を侵害しているとして、その使用の中止等を求めた(甲第6号証)。
(イ)請求人は、被請求人に対し、平成18年3月7日付け芝郵便局の差し出し証明付きの、上記(ア)に対する回答書(2)をもって、請求人標章の使用は、請求人の商号の使用であり、商標法第26条第1項第1号に規定の「自己の名称を普通に用いられる方法で表示する商標」であるから、商標権の効力は及ばず、商標権の侵害には当たらない、請求人標章は、被請求人商標1及び2等に類似しない、請求人の商号は、被請求人商標1及び2等の出願時には周知性を獲得していたものであるから、請求人は、商標法第32条第1項に規定する先使用権を有している、請求人の業務と被請求人の業務は非類似であるから、出所の混同を生ずるおそれはない、などとの回答をした(乙第1号証)。
(ウ)被請求人は、請求人に対し、平成18年4月14日付け東京高等裁判所内郵便局の差し出し証明付きの回答書をもって、上記(イ)の回答書(2)に対して、請求人標章の使用は商標法第26条第1項第1号に該当しない、請求人標章と被請求人商標1及び2等は類似の商標である、などと反論した上で、再度、請求人に対し、請求人標章の使用の中止を求めた(乙第2号証)。
ウ 被請求人の業務等について
被請求人は、事業内容を「ホームセンターチェーンの経営」として、平成元年に設立された、資本金32億6000万円の企業である。被請求人の営業に係るホームセンター「カインズホーム」は、平成19年2月の時点において、群馬、栃木、埼玉、茨城等の首都圏や東海、近畿地方を中心にとした20都県に、150店舗を出店し、総従業員数約8,500名、売上高約3,100億円(平成19年2月期)を有する。また、被請求人は、ベイシア、セーブオン、ワークマン等17社と企業グループを構成し、かつ、被請求人の関連会社に、カインズポップデポ、カインズビジネスサービス、カインズベストケア、カインズフードサービスなど6社が存在する。さらに、被請求人の営業するホームセンターは、一般家庭用や業務用など広範にわたる商品の販売のほか、蛇口の水漏れなど水回りの修理、鍵の作製等鍵に関するサービス、ガラス破損の修理、ハウスクリーニング、家電の設置、家具の修理、庭の手入れなど、主として一般家庭を対象とした役務の提供も行っている(甲第17号証、乙第4?6、14号証)。
また、被請求人は、ホームページ、会社案内、チラシ等において、「カインズの経営指標」、「カインズ沿革」、「カインズ大創業祭」、「カインズオリジナルペットフーヅ」、「カインズで自転車をお買上げのお客様」、「カインズブランド」、「カインズ文化」等と、「カインズ」の文字部分が独立して印象づけられる態様の使用をすることが少なくない(甲第17号証、乙第4、6、13、14号証)。
エ 請求人及び請求人標章について
請求人は、平成元年からその業務に係る「職業のあっせん」及び「求人情報の提供」について請求人標章を使用した結果、請求人標章は、関東圏のリクルート業界においては、請求人らの業務を表示するためのものとして周知性を獲得していた旨主張するが、請求人標章の態様については、甲第6号証(請求人に対する警告書)から窺い知ることができるのみで、請求人は、請求人標章の使用態様を示す書面の提出をしていないのみならず、請求人標章を継続して使用した結果、請求人標章が関東圏のリクルート業界において周知性を獲得していたという事実を明らかにする証拠を一切提出していない。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
前記(2)で認定した事実を前提に、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について考察する。
ア 被請求人は、本件商標並びに被請求人商標1及び2の商標権を有しているところ、本件商標と被請求人商標1及び2とは、構成する文字の態様において若干相違するものの、外観、称呼、観念においてきわめて類似する商標といえるが、その指定役務についてみれば、全て同一のものではなく、特に、本件商標と被請求人商標1とを対比すると、本件商標の指定役務は、被請求人商標1の指定役務をより具体的に表示しているばかりでなく、新たに付加された役務も存在する。
そして、被請求人の営業するホームセンターは、広範な商品の販売を取り扱うと共に、各種役務の提供も行っている大型ホームセンターであること、被請求人は、17社と企業グループを構成し、かつ、被請求人の関連会社が6社存在することは、前記認定のとおりであり、このことから、被請求人が本件商標の登録を受けたことにより、近い将来、事業の拡大等により被請求人本人が本件商標を使用し、あるいは、関連企業等に本件商標の使用の許諾をすることなども全く考えられないことではない。
さらに、被請求人の名称である「株式会社カインズ」及びその営業に係るホームセンターの名称である「カインズホーム」並びにこれらの名称の略称として使用されている「カインズ」の表示からみれば、本件商標は、被請求人商標1及び2と共に、被請求人の自由な意思に基づいて採択され、商標登録出願されたものと優に推認できるものであり、商標法第3条第1項に規定する登録要件を具備し、かつ、同法第4条第1項に規定する不登録事由に該当しない商標として登録されたものである。
また、請求人は、被請求人商標1及び2ないし本件商標の出願時に請求人標章が周知性を獲得していたという事実を明らかにする証拠を一切提出していないのであるから、本件商標の出願が不正の目的をもってされたということもできない。
イ 商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有し(商標法第25条)、他人が当該登録商標に類似する商標の使用をした場合は、当該登録商標の商標権を侵害したものとみなされる(同法第37条)ところであるから、被請求人が請求人に対し、被請求人商標1及び2の指定役務中に含まれる役務について、被請求人商標1及び2に類似する請求人標章の使用の中止を求めることは、商標法が規定するところであり、被請求人の上記行為は何ら非難されるべきものではない。
この点に関し、請求人は、設定登録前でも、警告を行った後には、金銭的請求権が発生するにも関わらず(商標法第13条の2)、意図的に本件商標に基づく警告を行わず、被請求人商標1及び2に基づいてのみ警告を行ってきた事実を鑑みると、警告を行えば、請求人が不使用取消審判の請求や登録を阻止する手段に出ることを予見していた旨主張するが、後記ウ認定のとおり、被請求人は、被請求人商標1及び2に対する不使用取消審判の請求を予見していたとみることはできないのみならず、被請求人は、商標権の効力が既に発生している被請求人商標1及び2を有しているにもかかわらず、将来的に拒絶されるか登録されるか必ずしも定かではない本件商標に基づいて警告をする必要性がなかったとみるべきである。したがって、請求人の上記主張は理由がない。
ウ カインズサービス社は、請求人が被請求人からの警告書を受け取った後、「カインズ」の文字よりなる商標登録出願をすると同時に、商標法第50条の規定に基づいて被請求人商標1の指定役務中の「職業のあっせん」についての登録を取り消すとの審判請求をし、該登録を取り消したこと、また、請求人は、商標法第50条の規定に基づいて被請求人商標2の指定役務中の「求人情報の提供」についての登録を取り消すとの審判請求をしたことが認められるところ、被請求人商標1に対する取消審判事件において、上記のとおり、結果的には、被請求人商標1の指定役務中の「職業のあっせん」についての登録が取り消されたとしても、被請求人は、何ら答弁をしなかったわけではなく、請求に係る指定役務(職業のあっせん)の使用の事実についての証明を試みたことが認められ、このことからすれば、被請求人が、殊更に、金銭的及び時間的にみて不経済な被請求人商標1及び2に対する取消審判請求を予見して、請求人に対し、当該審判において取り消されるであろう「職業のあっせん」等について、請求人標章の使用中止を求める警告書を送付し、被請求人商標1及び2に係る商標権の延命等の目的のために、被請求人商標1及び2に類似する本件商標の登録出願をしたとみることはきわめて合理性に欠けるものといわなければならない。
エ 加えて、請求人は、請求人標章の使用について、的確な証拠を提出することにより先使用権の主張をし、法律により解決する道を選択することも可能であるし、また、本件商標の商標権について、被請求人に使用許諾や譲渡を申し入れるなどの手だてを講じることも残されているのであるから、請求人が主張するように、被請求人が本件商標の出願をしたため、請求人が被請求人商標1及び2について、不使用取消審判を請求したにもかかわらず、請求人標章の使用ができない事態に陥っているとすることはできない。
オ 以上ア?エを総合すれば、本件商標の出願は、被請求人が「カインズ」なる商標の権利の安定性や将来の使用に備えた権利の確保という要素を持つものであって、これが商標法において建前とする先願主義の例外とすべきまでの社会的妥当性を著しく欠くものとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものということはできない。
したがって、請求人の前記(1)イの主張は、理由がないというべきである。
2 商標法第3条第1項柱書について
請求人は、本件商標の原出願は、第1類から第45類の商品及び役務を指定する出願であるところ、被請求人の業務内容は、「ホームセンターチェーンの経営」であるから、商品区分第1類から第34類の使用の可能性は否定できないが、役務区分第35類から第45類に関しては、常識的に考えて全ての業務を行っているとは考えられない。したがって、本件商標の原出願は、「商標の使用又は商標の使用の意思があることに合理的な疑義がある場合」に該当する旨主張する。
しかしながら、本件審判において、商標法第3条第1項柱書に該当するという無効事由が存在するか否かの対象となるのは、本件商標の原出願(商願2006-4672)ではなく、本件商標であって、その登録査定時に、商標法第3条第1項柱書に該当するものであったか否かを判断すべきであることは明らかである。したがって、本件商標の原出願についての商標法第3条第1項柱書違反をいう請求人の主張は、前提において誤りがあり失当である。
付言すれば、商標法第3条柱書にいう「自己の業務に係る商品又は役務について使用する」とは、現に行っている業務に係る商品又は役務について、現に使用している場合に限らず、将来行う意思がある業務に係る商品又は役務について将来使用する意思を有する場合も含むと解されるところ、本件商標の登録査定時に、被請求人が本件請求に係る指定役務「求人情報の提供,職業のあっせん」について、現に行っているか又は行う予定があるかについて、格別に合理的疑義があったものと認めることはできず、これに反する証拠はない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、その指定役務中「求人情報の提供,職業のあっせん」について、商標法第4条第1項第7号及び同法第3条第1項柱書に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-10-09 
結審通知日 2008-10-14 
審決日 2008-11-12 
出願番号 商願2006-73845(T2006-73845) 
審決分類 T 1 12・ 22- Y (Y35)
T 1 12・ 18- Y (Y35)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 田中 亨子小林 裕子 
特許庁審判長 石田 清
特許庁審判官 小林 由美子
久我 敬史
登録日 2007-04-27 
登録番号 商標登録第5043834号(T5043834) 
商標の称呼 カインズ 
代理人 中村 希望 
代理人 渡邊 薫 
代理人 羽鳥 亘 
代理人 梅田 慎介 
代理人 井上 美和子 
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