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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200335303 審決 商標
取消200530508 審決 商標
無効200335302 審決 商標
無効200335094 審決 商標
取消200530509 審決 商標

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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) Z1528
管理番号 1187733 
異議申立番号 異議2003-90168 
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2008-12-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-28 
確定日 2008-10-07 
異議申立件数
事件の表示 登録第4632895号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第4632895号商標の商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第4632895号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成12年6月20日に登録出願され、第15類「楽器,演奏補助品,音さ」及び第28類「おもちゃ、人形、遊技用器具、ビリヤード用具、囲碁用具、将棋用具、さいころ、すごろく、ダイスカップ、ダイヤモンドゲーム、チェス用具、チェッカー用具、手品用具、ドミノ用具、マージャン用具、運動用具、釣り具」を指定商品として、同14年12月27日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由(要旨)
本件登録異議申立人である「力ナダ国 プリンス エドワード アイランド州(以下「申立人」という。)」は、結論同旨の決定を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第72号証を提出した。
1 本件商標は、商標法第3条第1項柱書、同第4条第1項第5号、同第7号、同第8号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものであるから、同法第43条の2第1号に基づき、その登録は取り消されるべきものである。

2 商標法第3条第1項柱書について
商標権者は同一態様の商標を旧区分の指定商品につき、平成2年4月23日から商標登録第2224831号及び同第2315838号(以下、「旧商標」という)として所有していたところ、平成11年12月28日に、「アン オブ グリーン ゲイブルス ライセンシング オーソリティ インク」(以下「AGGLA」という。)に不使用取消審判を申し立てられた。
商標権者は、「旧商標」を全く使用していなかったので弁駁する由もなかった。
そこで商標権者は、不使用取消審判を申立てられた日から、175日後である平成12年6月20日に至って弁駁することを放棄して、本件商標を出願した。
当然「AGGLA」が公的性格を有する団体であり、不使用取消審判につき決着がつかない限り、同一態様の商標を同一指定商品につき出願してこないことを見越してのことであった。
「旧商標」は弁駁されないためそれぞれ平成13年4月26日及び同13年4月3日に取り消された(甲第41号証及び同第42号証)が、本件登録出願は新規に登録されるに至った。
当該事実に照らせば、商標権者は、商標法3条1項本文記載の「自己の業務に係わる商品について使用する」から導き出される要件である指定商品を取扱っておらず、徒に請求人を主な構成員とする「AGGLA」をわが国の市場から排除する目的を成就させる意思で登録を取得したものといわざるを得ない。
同一態様の商標につき、平成2年4月23日及び同3年6月28日に登録を得たにも拘らず、8年半ないし9年半も経過した同11年12月28日に不使用取消審判を申し立てられ使用を立証できなかった事実に基づけば、本件商標も使用していないとの事実上の推定がなされるのではないかと思料される。
してみれば、商標権者が使用している旨の反証がない限り、使用する意思はないと判断せざるを得ない。
よって、本件商標は、商標法3条1項柱書の要件を充足していないので、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきである。

3 商標法第4条第1項第5号について
カナダ国造幣局(ロイヤル カナディアン ミント)はカナダのイメージを描いた5枚組のコインの一つにキャラクターである赤毛のアンの肖像を配し、且つ「Anne of Green Gables」なる文字を刻印して、カナダ国内で流通せしめている。他方、カナダ郵政省はキャラクターである赤毛のアンの肖像を配し、且つ「Anne of Green Gables」の文字と同英文字のフランス語態様である「Anne de Green Gables」(アン ドゥ グリーン ゲーブルと発音する)を登載して切手の図柄として採用して流通せしめている。
この2事をもって、既に「Anne of Green Gables」がカナダ国の象徴ともいうべき標章と見なされるに至っていることは明白である(甲第17号証11、同第25号証、同第26号証および同第39号証)。
さらに、本件商標は、1992年に、カナダ国商標法に基づきプリンス エドワード アイランド州の公的標章と確認されている(現在は、第三セクターである「AGGLA」に譲渡されている)(甲第17号証4.5.6.)。
このような公的標章は、カナダ政府からWIP0に対して然るべく公式通知をすれば商標法4条1項5号の記号として通産省の指定を受ける資格のある商標である。
このようなカナダ文化資産を形成し、且つ公的性格の付与された標章をいたずらに何ら関係を有しない一私企業に独占させることを是認することは国際信義の上で断じて許されるべきではない。(甲第17号証2.3.4.5.6及び13)。
特許庁も1986年1月の時点において弁理士会に対し、「外国商標を客体とする商標登録出願の受任に際しては、出願の妥当性を判断し、指導されるようお願いしたい。」(甲第34号証)と要請していることも十全に斟酌されるべきである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第5号に該当する、ないしはこれに準ずるべきものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきである。

4 商標法第4条第1項第8号について
本件商標は、他人の名称もしくは著名な略称を含むものであるから登録されるべきではない。
本件商標は、カナダ国の史跡であり、カナダ国政府当局の管理下にある「Anne of Green Gables Museum」(グリーン・ゲイブルス博物館)(甲第14号証及び甲第16号証)ないしは第三セクターである「AGGLA」の著名な略称から構成されている(甲第36号証で、「今や当社は『Anne of Green Gables』と認識されるに至っている」との陳述がある)。
商標権者はこの間の事情を熟知した上、申立人ないし「AGGLA」等の許諾を得ないで商標登録を得たものである。
同博物館(本件商標出願前である1980年11月30日から存在する)(甲第66号証)は年間約数十万人の観覧者があり、日本人観光客も多数訪れている(甲第14号証p191及び甲第17号証10.)。
なお、商標権者は「AGGLA」をその設立時点でその存在を知るべき状況にあった。
商標権者が、本件商標を使用した場合、カナダ政府又は請求人管理下の「」Anne of Green Gables Museum」ないしは申立人より使用許諾を得ていると一般消費者に認識され商品の出所の混同を生じさせる可能性は極めて大である。
商標権者は、赤毛のアン関連のライセンシーとして、過去いわば申立人の構成員であるモンゴメリの権利継承者を大家とし、自らを店子とするライセンス契約を締結した経緯があるだけに、許諾を得るべき先は、「AGGLA」ないし請求人であるべきことは十分に了解していた筈である。
また、プリンス エドワード アイランド州経済発展大臣ミカエル キュリー発、特許庁長官宛の平成13年10月18日付書簡にも「州政府はAnne of Green Gablesに関連した一切の商品につき高品質性を確保すべく重大な関心を払っています。」と述べると共に「当該キャラクターの名称とその有する特徴は、長年に亘リプリンス エドワード アイランドグ州の手工芸品及び産品に用いられ、且つ、プリンス エドワード アイランド州の観光事業の目玉とされてきました」と述べて、「Anne of Green Gables」が品質保証機能の一翼を担っていることを明確に示している(甲第26号証)。
よって、これらの事実によれば本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきである。

5 商標法第4条第1項第15号について
書籍でシリーズ本の場合、タイトルないし登場人物名が商標的役割をはたしているところ、商標権者が本件商標を使用した場合、商品の出所について混同を生じる虞がある。
まして、上述の如く世界での「Anne of Green Gables」の販売部数は、5000万部にのぼるので尚更である(甲第45号証)。
また、「AGGLA」のトロントオフィスが1994年1月1日より2002年6月15日迄に受領したライセンス使用料は約14億3820万円のところ(甲第35号証)、そのロイヤリティーが例えば7.5%と仮定すれば「Anne of Green Gables」グッズの売上げは8年半弱で約192億円にのぼることになる。
プリンス エドワード アイランド州政府は、州内の中小企業を振興する趣旨で高品質な産品が販売されるよう、信用しうる企業を選んで、別途80社近くの会社に対して商標のライセンスを供与している(この場合プリンス エドワード アイランド州政府は原則としてライセンス使用料を徴収していない)(甲第36号証)。
このような状況下において、本件商標を付した指定商品が日本国内で出回った場合、消費者は、請求人及び「AGGLA」又は同人と経済的もしくは組織的に何らかの関係ある者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について広義の混同を生ずるおそれが極めて高い。
昨今、日本において漫画等人気登場人物名が商品の販売促進に用いられる傾向がみられ、かような観点から、本件商標が付された指定商品が提供された場合、これらの商品が権利継承者ないし「AGGLA」とライセンス契約を締結した者がその商品化事業の一環として本件指定商品を提供するに至ったものと誤解を生ずる虞があり、その意味で、出所について混同を生ずる虞のある商標といえるものである。
なお、「AGGLA」は、同一態様の商標を社団法人日本輸入団体連合会発行の2000年度、2001年度及び2002年度外国ブランド権利者名簿に本件商標と同一態様のブランド所有者として掲載されている。(甲第50号証ないし甲第52号証)
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものであるから、同法第第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきである。

6 商標法第4条第1項第7号及び同第19号について
前記した本件商標の特徴を考慮に入れ、且つ、申立人と小説「赤毛のアン」ないし著作者モンゴメリとの関係、商標権者の悪意に照らせば、本件商標が本登録出願前に既にカナダないし請求人の文化資産を構成していることは明白である。
このことは特許庁のA判断(甲第40号証)、B判断(甲第9号証)において「カナダの文化資産的性格」であると端的に認められており、C判断(甲第27号証)において、「赤毛のアン」の主人公がカナダ女性の誇る敬慕すべき女性像として、Anne of Green Gables及びその登場人物がカナダの文化そのものであることが認められている。
よって、本件商標の登録はわが国の国際信義に反し、公序良俗違反として無効とされるべきである。
因みに、公序良俗に関する認識は変化し「外国の有名商標、著名な外国人の名称を冒認出願登録する等のわが国民による国際信義に反する行為は、取りも直さず、わが国の公序良俗を害する行為となり、本号の規定に該当する」とする考え方が通常である(甲第38号証)。
本件の場合、「Anne of Green Gables」は、1943年にカナダ国政府によって歴史的に重要な人物に指定されたモンゴメリの自画像であるから、かかる名称を商標として登録することは正に国際信義に反する。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきである。
最後に商標権者が「不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他の不正の目的」を有しているか否かについては、商標審査基準十七、4条1項19号5.によれば(甲第37号証)、「本号の適用に当たっては、イ及びロの要件を満たすような商標登録出願に係る商標については、他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱うものとするとし、「(イ)一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するものであること。(ロ)その周知な商標が造語よりなるものであるか、若しくは、構成上顕著な特徴を有するものであること。」と定めている。
本件商標は、カナダ国において登録標章として登録されているので「一以上の外国において周知」である。
また、「AGGLA」は、プリンス エドワード アイランド州シャーロットタウンのP.E.I.プリザーブ社に生活用品につきライセンスを与え、同州シャーロットタウンのカナディアン ピュア ウオーター カンパニーにミネラル ウオーターにつきライセンスを与え、生活関連事業に関与している(甲第17号証5.)。
「AGGLA」のトロントオフィスだけで、1994年1月1日より2002年6月15日までの間に、「赤毛のアン」キャラクターにつき少なくとも17,714,119カナダドル(約14億3820万円)のライセンス使用料としての売上があった(甲第35号証)。
このことは、その口イヤリティーが例えば7.5%と仮定すればAnne of Green Gablesグッズの売上げは8年半弱で約192億円にのぼることになる。
他方、プリンス エドワード アイランド州政府は、州内の中小企業を振興する趣旨で高品質な産品が販売されるよう、信用しう得る企業を選んで、別途80社近くの会社に対して商標のライセンスを供与している。
なお、これらのライセンスを得たカナダの事業会社はカナダでの日本の旅行客への販売に止まらず、日本国内において「アン物語」のイメージを用いたアングッズの販売、即ちおもちゃ、人形、衣服用バッジ・衣服用バックル・衣服用ブローチ・装飾品等の販売を大々的に行おうとしている。
「AGGLA」はこれに対応すべく、日本における未曾有な不況にも拘わらず、日本国内において大規模なライセンス事業の展開を着々と準備をしている。その一例として、「AGGLA」の「Anne of Green Gables」のライセンシーであるカナダ国の建築業者「アトランティックカナダホーム」は、赤毛のアンの家のレプリカとも言えるもので約一億円の売上げをあげ、好評を博している(甲第23号証及び甲第24号証)。
カナダ国の代表的企業も、本件商標が「カナダ文化資産の象徴なので、製造業者と卸業者がプリンス エドワード アイランド州政府及びルーシイ モウド モンゴメリの権利継承者による公的機関である『AGGLA』の特別な同意なしに何人も商標『Anne of Green Gables』を使用出来ないことは知らない筈はありません」と陳述している(甲第43、甲第44号証及び甲第24号証)。
また、「Anne of Green Gables」という商標が使用主義を採用しているアメリカ合衆国、カナダ国、ドイツ共和国他主要国において、1909年頃から赤毛のアンの著作権者ないしはそのライセンシーにより物品又は役務の商標として広く使用され、既にこれらの国々で著名になっている(甲第28号ないし甲第30号証)。
これらの事情を総合すれば「一以上の外国において周知」であることは明らかである。
次に、本件商標は構成上顕著な特徴を有するか否かの点については、架空人名辞典によれば「アン」を引くだけで「カナダ東部のプリンス・エドワード島、アボンリーの村のグリーン・ゲイブルズに住むクスバート兄弟のもとへ引き取られてきた孤児」と出る程であり(甲第6号証)、1999年7月の時点で「Anne of Green Gables」は世界中で5000万部売れたのであるから、そのずば抜けた顧客吸収力は全く例をみない。 すなわち、他と混同を生じる余地のない程構成上顕著な特徴を有するものである。
いずれにしても又商標審査基準十七、4条1項19号5.によれば、「一以上の外国において周知な商標又は日本国内で全国的に知られている商標と同一又は極めて類似するもの」に該当するので他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認されることは疑いの余地がない。
したがって、上記の審査基準を充足し、不正の目的があると推認される。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきである。

第3 本件商標の登録の取消理由
当審は、商標権者に対し、平成15年12月3日付けで、商標登録の取消しの理由を通知したところ、その要旨は、次のとおりである。

本件商標を構成する「Anne of Green Gables」の文字は、カナダの小説家、ルーシイ・モウド・モンゴメリイの著作で、世界中の読者に親しまれている小説「赤毛のアン」の原題を書してなると認められるものであって、申立人より提出された証拠によれば、同小説は、1908年に刊行され、主人公の孤児アンが、カナダ東部のプリンス・エドワード島で成長する過程を描いたもので、カナダ発祥の地といわれるプリンス・エドワード島とは切り離せない関係にあることが認められる。
そして、ルーシイ・モウド・モンゴメリイが著わした「Anne of Green Gables」(アン オブ グリーン ゲイブルス)と題する著作物及びこれに関連したその他の著作物に係わる世界中における著作権・商標権その他の法律上の権利を統括し保護している者は、1942年に死亡した作者ルーシイ・モウド・モンゴメリイの法定相続人たるデイビット マクドナルドとルース マクドナルド並びにカナダ国 プリンス エドワード アイランド州政府との合弁会社である[AGGLA」であることが認められる。
しかして、本件商標は、デザイン化した文字ではあるが「Anne of Green Gables」の欧文字よりなることは明らかであり、かつ、本件商標権者(出願人)は、上記の法定相続人、プリンス エドワード アイランド州政府及び「AGGLA」とは関係のない一企業にすぎず、また、該「AGGLA」の承諾を得ているとは認められないものであるから、本件商標権者がカナダ国ないし申立人等の文化資産ともいえる本件商標を商標として採択し独占的に使用することは、公序良俗の見地から、穏当を欠くものといわなければならない。
また、本件商標権者は、申立人と同じカナダ国に居所を有する者であり、カナダ国における上記の実情又は「AGGLA」が「Anne of Green Gables」に係わる商標及び各種の商品について商品化事業を行っていることを知悉していながら、需要者の間に広く認識されている本件商標を登録出願したことは偶然の一致とは認められないものであり、本件商標を出願し、権利を取得しようとする行為は、申立人等の所有に係る標章の出所表示機能を希釈化させたり、その名声を毀損させる行為というべきであり、かつ、その行為には不正の利益を得る目的があるものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第19号に違反して登録されたものとすべきものである。

第4 商標権者の意見
商標権者は、上記第3の取消理由に対して、意見書において要旨次のとおり述べるとともに、甲第1号証ないし甲第13号証(枝番号を含む。)を提出した(商標権者の提出に係る甲号証と申立人の提出に係る甲号証とを区別するため、以下、商標権者の提出に係る甲号証を乙号証と読み替える。)。

1 商標権者の代表者(ケビン・サリバン)と「デイビット マクドナルド」及び「ルース マクドナルド」との関係
取消理由には、「『Anne of Green Gables』(アン オブ グリーン ゲイブルス)と題する著作物及びこれに関連したその他の著作物に係わる世界中における著作権・商標権その他の法律上の権利を統括し保護している者は、1942年に死亡した作者ルーシイ・モウド・モンゴメリイの法定相続人たるデイビット マクドナルドとルース マクドナルド並びにカナダ国 プリンス エドワード アイランド州政府との合弁会社である『AGGLA』である。」とある。
しかしながら、商標権者の代表者(ケビン・サリバン)と「デイビット マクドナルド」及び「ルース マクドナルド」との間で、1984年(昭和59年)2月17日に、映画化、テレビ化、ビデオ化等に関する契約が締結されている(乙第1号証の1及び2)。
また、商標権者の代表者(ケビン・サリバン)と「デイビット マクドナルド」及び「ルース マクドナルド」との間で、1986年(昭和61年)7月31日に、映画化、テレビ化、ビデオ化等に関する契約が締結されている(乙第2号証の1及び2)。
すなわち、商標権者は、1984年(昭和59年)2月17日及び1986年(昭和61年)7月31日に、原作者の遺産相続人に対し正当な対価を支払って、著作権の一部を買い取ったものである。
してみれば、上記契約の10年後に締結された、「AGGLA」と「デイビット マクドナルド」及び「ルース マクドナルド」との間の契約に基づいて、商標法第4条第1項第7号及び同19号に該当するというのは、明らかに不当である。

2 第三者による「赤毛のアン」等の先登録の存在
商標「赤毛のアン」が、1981年(昭和56年)代より、多くの第三者によって自由に登録を受けて現在に至っているという現実がある。
これらの事実よりすれば、1994年(平成6年)5月26日の「AGGLA」の設立によって、突然、第三者、あるいは、本件商標の登録が、商標法第4条第1項第7号の「公序良俗違反」になったり、同19号の「不正の目的をもって使用するもの」になったりするという、申立人の主張は、あまりにも、一方的である。

3 商標権者による本件商標の周知・有名化への貢献
本件商標「Anne of Green Gable」は、現在、日本では「赤毛のアン」の原題を意味する商標として親しまれている。
これは、商標権者が、小説「赤毛のアン」の日本語のみならず、本件商標を用いた映画、パンフレット、その宣伝広告、文部省等の賞の受賞などによる多くのメディアによって、日本人に甚大な良き影響を与えたからこそである。
商標権者からいわせれば、申立人の主張は、正に日本において、商標権者が製作し、宣伝し、放映した世界的に秀でた映画「赤毛のアン」(Anne of Green Gables)として爆発的人気をもたらした実績、実効に「ただ乗り」せんとする行為であり、公平かつ客観的に見れば、正に請求人のこのような意図こそ、商標法第4条第1項第7号又は同第19号に該当するものとさえ考えられる。

4 まとめ
以上のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同第19号に該当するとの申立人の主張は誤っている。

第4 当審の判断
1 「Anne of Green Gables」の文字について
申立人から提出された甲各号証を総合すれば、本件商標を構成する「Anne of Green Gables」の文字は、カナダの小説家、ルーシイ・モウド・モンゴメリイが著した著作物の題号であり、該著作物は、1908年に出版され、主人公の孤児アンが、カナダ東部のプリンス・エドワード島で成長する過程を描いた小説(和名「赤毛のアン」)であり、この小説は、その題号とともに世界中の人々に親しまれているものと認められるところである。
そして、本件著作物及びこれに関連したその他の著作物に係わる世界中における著作権・商標権その他の法律上の権利を管理し保護している者は、1942年に死亡した作者ルーシイ・モウド・モンゴメリイの遺産相続人たるデイビット マクドナルドとルース マクドナルド並びにカナダ国政府ないし申立人らが構成員となっている第三セクターとして、1994年5月26日にカナダ国 プリンス エドワード アイランド州法に基づき設立された「アン オブ グリーン ゲーブルス ライセンシング オーソリティ インク(AGGLA)」であることが認められる(甲第36号証)。
しかして、本件商標は、別掲に示すとおりデザイン化された文字ではあるが「Anne of Green Gables」の欧文字よりなるところ、この語は、上記したように、ルーシイ・モウド・モンゴメリイが著わした世界的に著名な著作物の題号であり、また、カナダ造幣局が発行した1オンス金貨に刻印として使用されたり(甲第25号証)、さらに、カナダ郵政省より発行された切手等にも使用され(甲39号証)、「AGGLA」がその保護の一環として商品化事業を行うなど、上記申立人らを含めたカナダ国の文化資産的性格を有するものというべきである。

2 商標法第4条第1項第7号について
上記1で認定した事実を踏まえた上で、商標権者が我が国で商標登録出願して商標権を取得した行為に基づく本件商標が、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標であるか否かについて、以下検討する。
(1)商標法4条1項7号に該当する商標とは、商標の表示自体が公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがあるものや、商標を使用することが社会公共の利益に反する場合に限定されるものではなく、それを採択し権利化する行為が穏当でなく、国際信義に反すると認められる場合においても、当該行為に係る商標は公正な取引秩序を乱し公の秩序を害するものに該当すると解しても差し支えないというべきである(平成11年12月22日 平成10年(行ケ)185号 東京高等裁判所判決)。

(2)商標権者は、商標権者(商標権者の前身の会社)とルーシイ・モウド・モンゴメリイの遺産相続人との間で締結された1984年2月17日付の乙第1号証の1及び同号証の2に示される契約、並びに1986年7月31日付の乙第2号証の1及び同号証の2に示される契約をもって、本件商標についての登録出願ないし商標権を取得した行為について、正当性を有する旨主張している。
しかしながら、乙第1号証の1に係る契約は、主として「赤毛のアン」の「映画制作及びテレビシリーズ化」に関する契約であり、乙第2号証の2はその続編に関する契約と認められるところ、この各号証には、本件著作物の題号であり、かつ本件商標を構成する文字でもある「Anne of Green Gables」を商標権者が商標権化する旨の許諾を得たと認め得る記載は認められない。
そして、これらの契約が商標権者主張の、著作物「Anne of Green Gables」に関するある種の著作権契約であるとしても、一般に、著作物の題号は著作物から独立した著作物性を持ちえないと解するのが相当であって(昭和60年9月26日 昭和59年(ネ)第1803号 大阪高等裁判所判決)、本件の場合、「Anne of Green Gables」の文字(語・題号)についてわが国及びカナダ国において著作権が発生しているとすべき特別の事情は認められないから、上記乙第1号証の1及び同第2号証の1の契約をもって、商標権者が本件商標の、著作権契約に基づくわが国における登録出願の正当な権利者であった又は正当な権利者であるとすることはできない。

(3)商標権者は、同人が本件商標をわが国で登録出願し、これを権利化したことについて、「本件商標『Anne of Green Gable』は、現在、日本では『赤毛のアン』の原題を意味する商標として親しまれている。これは、商標権者が、小説『赤毛のアン』の日本語のみならず、本件商標を用いた映画、パンフレット、その宣伝広告、文部省等の賞の受賞などによる多くのメディアによって、日本人に甚大な良き影響を与えたからこそである。」と述べ、この行為に不正の目的はない旨主張している。
しかしながら、商標権者のこの旨の主張は、本件商標の採択の経緯が国際信義に反するものか否かとは関わりのない主張であり、また、上記(2)で認定・判断したように、商標権者は、本件商標の取得に関する正当な権利主体あるいは許諾を受けた者であるといえないところである。
また、商標権者は、本件著作物「Anne of Green Gables」の原作者の遺産相続人、プリンス エドワード アイランド州政府及び「AGGLA」等から承諾を得ることなく、我が国において本件商標を出願し、登録を受けたこと明らかである。
しかして、本件商標を構成する「Anne of Green Gables」の文字(題号)は、上記1で認定・判断したように、請求人らを含めたカナダ国の文化資産的性格を有するものというべきである。
そうであれば、商標権者が「Anne of Green Gables」の文字よりなる本件商標をわが国で独占排他的に使用する意思を持って、上記の関係者等の承諾(許諾)を得ず、無断で登録出願し登録を得た行為は、仮に商標権者に不正の目的がなかったとしても、これを客観的にみれば、上記関係者等との信義誠実の原則に反し、穏当を欠くものであって、かつ、本件商標を日本国の商標として登録することは、わが国と請求人を含むカナダ国政府との間の国際信義に反するものといわなければならない。

(4)商標権者は、第三者による「赤毛のアン」等の先登録の存在を挙げ、本件商標を取り消すべきではない旨主張する。
しかしながら、従前、他国の著名な著作物の題号について商標登録がされているといっても、交通通信手段が飛躍的な発展を遂げ、国際化、ボーダーレス化が急速に進歩している今日、国民の意識、取引の実情等も大きく変化を続けているのであるから、そうした急激な事情の変化は商標登録の許容性の判断にも当然に少なからず影響を及ぼすものであって、過去に商標登録された例が相当数あるからといって、必ずしも決定的な参考例になるものということはできない。

(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、他の取消理由に言及するまでもなく、商標法4条1項7号に違反して登録されたというべきであるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
なお、申立人は、口頭審理の申立て、また、証人尋問を申し出ているが、本件は書面により審理することは可能と判断され、また、本件の結論に照らせば、証人尋問を行う必要はないものと判断されるから、証人尋問の申し出は採用しない。
別掲 本件商標





異議決定日 2008-05-21 
出願番号 商願2000-68589(T2000-68589) 
審決分類 T 1 651・ 22- Z (Z1528)
最終処分 取消  
前審関与審査官 池田 光治澤里 和孝 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 小川 きみえ
佐藤 達夫
登録日 2002-12-27 
登録番号 商標登録第4632895号(T4632895) 
権利者 サリヴアン・エンターテイメント・インターナショナル・インコーポレーテツド
商標の称呼 アンオブグリーンゲイブルズ、アン、グリーンゲイブルズ、ゲイブルズ 
代理人 森下 夏樹 
代理人 安村 高明 
代理人 山本 秀策 
代理人 角田 昌彦 

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