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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y31
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y31
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y31
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y31
管理番号 1182758 
審判番号 無効2006-89150 
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-17 
確定日 2008-06-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第4847162号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4847162号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4847162号商標(以下「本件商標」という。)は、「岩手春みどり」の文字を標準文字で表してなり、平成16年6月8日に登録出願、第31類「岩手県産キャベツ」を指定商品として、同17年2月14日に登録査定がなされ、同年3月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用している商標は、甲第3号証他に表示されているとおり、請求人ら(以下、請求人の地方組織及びその前身を含めて指称するときは「請求人ら」という。)が「岩手県産キャベツ」について使用している「いわて春みどり」の文字を要部とする商標(以下「引用商標」という。)であって、その構成は別掲のとおりの構成からなるものである。

第3 請求人の主張の要点
1 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第187号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標登録は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第19号及び同第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 本件商標と引用商標との類否について
請求人は、平成4年に岩手県産キャベツのブランドとして引用商標「いわて春みどり」を採択し、これをキャベツの出荷専用ダンボール箱に表示するなどして大々的かつ継続的に使用してきた結果、遅くとも平成9年頃には、引用商標は、「岩手県産キャベツ」の商標として、少なくとも農産物の取引業者間において周知著名になっていたものである。
そして、本件商標と引用商標とは、前記のとおりの構成よりなるものであるから、外観上、「いわて」と「岩手」の文字部分のみに差異があるにすぎず、観念については、共に「緑豊かな岩手の春」といった共通の観念を想起し、称呼についてみても、「イワテハルノミドリ」の同一称呼を生ずるものであることは明白であるから、互いに類似の商標と認められるものであり、かつ、その指定商品も、同一のものである。
してみれば、本件商標は、同号に定める他人の未登録周知商標と類似関係にある商標に該当することは明らかである。
イ 引用商標の周知性について
(ア)引用商標の所有者である請求人について
請求人(全国農業協同組合連合会)は、農業協同組合法によって設立された団体(農業協同組合法第1条)であって、全国の農業協同組合等を会員とするものであり、その組合員は全国865組合、岩手県17組合(平成17年3月31日現在)となっている。
請求人は、昭和47年3月に全国販売農業協同組合連合会と全国購買農業協同組合連合会が合併して設立した。その後、全国の農業協同組合が直接加入することになり、さらに平成14年4月に岩手県経済農業協同組合連合会(略称経済連)と合併し、全国農業協同組合連合会岩手県本部(略称全農いわて)が誕生した。請求人の地方組織である全農いわては、経済連のそれ迄の業務を承継している。
請求人の事業目的は、組合員(連合会を直接又は間接に構成する者)のためにする農業の経営及び技術の向上に関する指導などであり、組合員の生産する物資の販売もこれに含まれる(農業協同組合法第10条)。
(イ)引用商標の使用対象商品である岩手県産キャベツについて
岩手県北部の寒冷な気候は、キャベツの生産に適しており、戦前から南部甘藍(南部は旧藩名、甘藍はキャベツ)として、中央市場にその名を知られていた。戦後、長距離輸送の関係上、長野県産に市場を侵蝕されたことがあったが、最近は高速道による高速輸送が可能になったことと岩手県の推進政策とが相俟って平成に入ってからはキャベツの生産及び販売量が増加している。最近のピークである平成13年度には、岩手県出荷量21300トン、全農いわて取扱販売数量17694トン、全農いわて取扱販売金額約12億3千万円、岩手県出荷量全体に占める割合83%となっている。
(ウ)引用商標の使用実績について
昭和59年頃に、伝統的なキャベツの生産地である岩手町において、高橋農場(経営者高橋義夫)が、その生産キャベツについて「春みどり」の商標を付して出荷を始めた。
昭和62年に、岩手町農業協同組合(現在は新岩手農業協同組合に合併済)において、春系キャベツの生産販売の促進を目的として「春みどり協議会」を設置し、生産者及び販売業者との協議を行っている。
平成4年頃、全農いわての前身である経済連は、それ迄の関係者である高橋農場、岩手町農業協同組合の了承のもとに、農協から委託を受けて販売する岩手県産春キャベツについて、「いわて春みどり」の商標のもとに販売を行うこととした。
全農いわては、その年の作付面積から予想される生産量に応じ、東北紙器株式会社等にキャベツ包装用の10kgダンボールを発注し、そのダンボールの側面には「いわて春みどり」「JA全農いわて」と印刷している。生産者は、このダンボールを買受けて、商品である生キャベツを詰めて包装して農協に販売を委託し、農協は全農いわてに販売を委託している。全農いわては、卸売業者にこれを販売し、費用、手数料等を代金から控除して清算している。
地域的には、岩手県北部全域、花巻市、北上市の生産農家が農協に委託する際、出荷の時点においてこの商標を表示したダンボールを使用している。量的には、平成15年度において、キャベツの岩手県出荷量20000トン、全農いわて取扱販売数量16403トン、全農いわて取扱販売金額約11億4千万円、全体に占める割合82%。このうち、全農いわての取扱いに係る「いわて春みどり」の数量は16074トン、岩手県出荷量に占める「いわて春みどり」の割合は80%となっている。
全農いわてが「いわて春みどり」として岩手県産のキャベツを販売している相手方はいずれも卸売会社であり、その範囲は盛岡市、秋田市、仙台市、東京都、神奈川県、埼玉県、栃木県及び千葉県にわたり、33社と取引を行っている。この岩手県産の「いわて春みどり」キャベツは、食味、品質がよく、また比較的長期にわたり継続出荷できるので、中央市場において高く評価されている。消費地は、卸売会社を通して更に広く分布している。
岩手県の農業政策においても、農業再編の戦略部門として園芸部門を位置付け、その中核野菜として「いわて春みどり」に注目しており、市場価格が低落した場合に生産農家に給付する「先導産地育成基金」制度を設け、平成9年から12年迄の4年間にわたり実施したこと等により、全農いわてが販売する「いわて春みどり」の生産農家、生産量がかなりの増加を見るに至った。さらに、岩手県知事増田寛也は、「いわて春みどり」の定植式及び収穫式を地元町長と共に、平成10年には一戸町奥中山において、平成11年には岩手町において、平成12年には西根町(現八幡平市)において行っており、こうした状況はテレビ、新聞等で広く報道されているところである。
請求人は、以上の事実を証明するために、甲第3号証ないし甲第134号証を提出する。これらの書証から、引用商標が請求人の所有に係る岩手県産キャベツの商標として、本件商標の出願前から取引者間で周知性を獲得していることは明らかである。また、岩手県内においては、上記出荷式の新聞報道等により、最終消費者も本件商標の出願前から引用商標を相当程度認知しているものと推認されるから、少なくとも一定の何人かの周知商標であると認識・理解されているものといえる。
なお、キャベツ等の野菜の商標は、主に野菜の出荷の際に使用する包装箱に表示されて使用されるものであり、典型的な流通経路は、各地の農業協同組合が組合員の生産農家から当該包装箱に収納された野菜を卸売業者に受託販売し、仲卸業者や小売業者を経て、最終消費者の手に渡るものである。そして、小売業者は、当該包装箱から野菜を取り出し店舗の商品陳列台にこれを並べて販売するのが通常であり、最終消費者が店舗で購入する際に野菜の商標が表示されていることは稀である。こうした取引の実情を勘案すれば、野菜の商標について周知性の有無を判断する場合の需要者は、最終消費者ではなく取引業者を主たる対象とすべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
上述のとおり、引用商標は、本件商標の出願前から、少なくとも東北・関東地区の取引業者間において、請求人が岩手県産キャベツに使用する商標として周知著名であるから、被請求人が本件商標をその指定商品について使用すれば、取引業者間において狭義又は広義の商品出所の混同が生ずることは明らかである。
してみれば、本件商標は、同号に定める「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」にその出願前から該当するものである。
(3)商標法第4条第1項第19号について
本件商標の商標権者である被請求人は、引用商標が大々的かつ継続的に岩手県産キャベツの商標として使用されているにも拘わらず商標登録されていないことを奇貨として、本件商標を使用していないか、仮に使用していたとしても名目的な僅かな使用に過ぎないのに、これに酷似する本件商標について商標権の設定登録を受け、引用商標の所有者である請求人に対し、引用商標の使用料の支払いを求めた。そして、請求人が本件商標の商標権者の要求を拒否したところ、被請求人は、請求人と「いわて春みどり」ブランドのキャベツの主たる生産農家を組合員とする新岩手農業協同組合に対して、平成18年8月17日付で引用商標の使用中止を求める仮処分申請を行い、当該侵害訴訟事件は、現在盛岡地方裁判所に係属中である。(事件番号 平成18年(ヨ)第52号)
してみれば、本件商標は、同号に定める「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、商標を不正の目的で使用しようとするもの」に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号について
本件商標の商標権者である被請求人は、キャベツの漬物の製造販売業を長く営んでいた者であり、上記仮処分申請書にも記載されているように、岩手県産キャベツの生産事情を古くから熟知しているのであるから、本件商標は、請求人等による「いわて春みどり」ブランドキャベツの生産振興に便乗し、「いわて春みどり」名称による利益の独占を図るために出願された剽窃的なものであることは疑う余地がなく、これが社会の一般道徳観念や公正な取引秩序を害し、公序良俗に反する商標に該当するものであることは明らかである。
2 平成19年9月25日口頭審理陳述要領書における被請求人の第1答弁書ないし第4答弁書対する弁駁
(1)第1答弁書は、答弁書提出期限の延長を求めるもので、答弁書としての実質的内容を欠くものであるから、以下、第2答弁書ないし第4答弁書に対して弁駁する。
(2) 第2答弁書に対する弁駁
ア 答弁書の「第1 商標法第4条第1項第10号に該当するとの主張について」に対する弁駁
(ア) 被請求人は、請求人のみが使用してきたものではないと反論するが、請求人は、甲第16号証ないし甲第18号証に明らかなように、平成4年頃、全農いわての前身である経済連において、それ迄の関係者である高橋農場、岩手町農業協同組合の了承のもとに、経済連が農協から委託を受けて販売する岩手県産春キャベツについて、「いわて春みどり」の商標のもとに販売を行うこととしたのであり、平成4年以降、引用商標の使用者は請求人のみである。
(イ)引用商標の使用開始時期については、本件商標の出願時において本件商標と類似関係にある引用商標が周知性を獲得していた事実が認められれば商標法第4条第1項第10号は適用されるのであり、仮に、被請求人が請求人より先にキャベツについて本件商標を使用したことがあったとしても、当該事実を立証することで本号の無効理由を解消することはできない。
(ウ)引用商標は取引業者のみならず、最終消費者である一般人や飲食店関係者間においても、テレビ・新聞等のマスメディアを通じて広く知られているものである。
(エ)被請求人は、生野菜である「キャベツ」と加工食料品である「キャベツの漬物」を何ら区別することなく、本件商標の使用実績であると主張しているが、両商品は全く別異の非類似商品である。
イ 答弁書の「第2 商標法第4条第1項第15号に該当するとの主張について」に対する弁駁
流通段階において、岩手県産キャベツの包装箱に「いわて春みどり」と「岩手春みどり」の両商標が混在すれば、必然的に商品出所の混同が生ずることは経験則上明らかである。
ウ 答弁書の「第3 商標法第4条第1項第19号に該当するとの主張について」に対する弁駁
本号適用の要件のひとつは、引用商標が国内の生鮮野菜の卸売業者の間で広く知られていれば足りる。
被請求人は、請求人に対して、引用商標の使用中止を求める仮処分命令申立を準備中と脅しながら引用商標の使用料を請求し、当該要求が受け入れられないとみるや、当該仮処分命令申立に及んだものである。
キャベツの生産者でも販売業者でもない被請求人が、キャベツについて請求人の使用に係る周知商標である引用商標に酷似する本件商標を出願・登録することに正当理由はなく、請求人に引用商標の使用料を請求したり、引用商標の使用中止を求めたりしたことは、被請求人が不正の目的をもってしたことの何よりの証左である。
エ 答弁書の「第4 商標法第4条第1項第7号該当するとの主張について」に対する弁駁
被請求人は、岩手県産キャベツの生産事情を古くから熟知していたのだから、キャベツの品種にこだわるのみであれば、既存の「いわて春みどり」とは別異の商標を採択して差別化を図るべきであるところ、敢えて引用商標と紛らわしい「岩手春みどり」を出願・登録したものである。
請求人との間の交渉・訴訟の経緯からみても本件商標が剽窃的出願による登録であることは疑う余地がなく、これが公序良俗に反する商標に該当するものであることは明らかである。
オ 答弁書の「第5 被請求人の本件商標の使用の実績」に対する弁駁
被請求人は、当該生キャベツについて、本件商標が使用されていることの立証をしていない。
そればかりか、全乙号証をみても「キャベツの漬物」についてすら、本件商標「岩手春みどり」を商標として実際に製品に付した使用例は見当たらない。即ち、被請求人は全く本件商標を使用したことがないのである。
(3)第3答弁書に対する弁駁
第3答弁書は、証拠方法として乙第1号証ないし乙第50号証を提出するのみで、答弁の理由を欠くものである。しかしながら、被請求人は、乙第1号証として提出した陳述書において乙号証の説明の体裁を採りながら本件商標の使用実績を主張しているようなので、これについて弁駁する。
ア 答弁書の「第1 私の経歴」に対する弁駁
乙第4号証によれば、被請求人が代表取締役を務めていた有限会社岡食は、「つけものの製造」を目的とする法人であったことが明らかである。
イ 答弁書の「第2 商標名『岩手春みどり』に至る迄」に対する弁駁
被請求人は、有限会社岡食が昭和56年頃より作付け契約農家に、すべてYR種を栽培させ、買取りをしていた旨主張しているが、当該事実を証する証拠方法の提出はなく、本件商標の「キャベツ」についての使用実績とならないことは明白である。
ウ 答弁書の「第3 商標岩手春みどりの歩み」に対する弁駁
(ア)乙第9号証の会社登記簿謄本の写によれば、請求人が代表取締役を務めていた株式会社オカショクは、「加工食料品の卸販売」を目的とする法人であったことは明らかである。
(イ)乙第10号証ないし乙第12号証は、漬物らしきものが写っているのみであり、本件商標を指定商品に使用した事実を証するものではない。したがって、乙第13号証及び乙第14号証も、本件商標を使用した指定商品の売り上げを証明するものとは認められない。
(ウ)乙第15号証は、株式会社マイカルが有限会社岡食や株式会社オカショクから仕入れた商品が全て漬物であった事実を明白に示している。
(エ)乙第16号証ないし乙第21号証も全て漬物についての取引書類である。
(オ)キャベツの品種として「YR青春」が開発・発表されたのは昭和58年(甲第17号証)であるから、昭和56年の取引書類である乙第16号証に「YR青春」が品種名として記載されるはずはなく、乙第16号証の信憑性は甚だ疑わしい。
(カ)「YR青春2号」が発表・発売されたのは平成5年であるから、乙第22号証もその信憑性が疑わしく証拠力に欠けるものである。
(キ)乙第23号証は、単にキャベツについて細菌検査を行った事実を示すのみで、株式会社マイカルへ納品した商品は全て漬物であったことは乙第15号証から明らかである。
(ク)乙第24号証が仮に生野菜のキャベツを「岩手春みどり」の商標で販売した事実を証するものとしても、第2答弁書の「第5 被請求人の商標使用の実績」の項の主張によれば株式会社味楽が生キャベツの販売を開始したのは平成16年7月頃であるから、本件商標の登録出願日である平成16年6月8日以前における本件商標の使用実績を証するものではない。
(ケ)乙第25号証からは、本件商標が使用された事実を確認することができないし、誰の取り扱いにかかるキャベツなのかも特定できないから、本件商標の使用実績を証するものではない。
(コ)乙第26号証によれば、有限会社まるしんの代表取締役である斎藤新平氏は、株式会社マルシンが昭和53年頃より株式会社オカショクから生野菜並びに漬物等を仕入れていたというが、株式会社オカショクが設立されたのは昭和59年頃である(乙第9号証)から、事実に反する。また、「昭和59年から昭和60年頃キャベツ新種で、サラダ風・生で糖度が多く・柔らかいキャベツを「岩手春みどり」として、1ケ140円ぐらいと思いましたが販売し、1日置きに100ケから120ケの納入でもすぐに品切れになった記憶があります。ただ、7月から12月で入荷が止まるため、どうにかして1年中売れる状態にと盛岡工場まで行った記憶があります。」との記載があるが、春キャベツの出荷は6月から10月頃までで1年中販売できるはずもないから、ここにいう「岩手春みどり」は生キャベツのサラダ風浅漬けである可能性が高い。
エ 答弁書の「第4 商標を活用確立するまでの経緯」に対する弁駁
ここでも被請求人は、キャベツの漬物に関する取引書類等を本件商標の使用実績を示す証拠方法であると主張している。
(ア)乙第27号証ないし乙第43号証は、明らかにキャベツの漬物に関する取引書類等である。
(イ)乙第44号証は、乙第42号証、乙第43号証の半割キャベツの浅漬け(商品名は、表面が「春みどり」、裏面が「いわて 春みどり」)の商品包装袋の印刷を平成16年6月から7月にかけて行ったことを主張したいものと推測されるが、本件商標の出願日は平成16年6月8日であるから、本件商標の出願前の使用実績を証するものとは認められない。
(ウ)乙第45号証は、漬物包装袋の印刷に関する取引書類と認められるが、本件商標の表示もない。
(エ)乙第46号証、乙第47号証、乙第49号証及び乙第50号証に写っている商品も漬物であり、商標も「春みどり」或いは「八幡平春みどり」であるから、本件商標の出願前の使用実績を示すものでもない。
(オ)乙第48号証は、写っている商品が生野菜としてのキャベツである可能性があるが、本件商標が使用された事実を示すものではない。
(カ)乙第49号証は、値札に「coop」の文字が写っているから、京王百貨店での販売事実を示すものとは認められない。
以上のとおり、第3答弁書には、「キャベツ」はもとより「キャベツの漬物」についてすら、本件商標「岩手春みどり」が商標として実際に使用された事実を客観的に証する証拠方法は添付されていない。また、仮に本件商標が指定商品について使用されたことがあるとしても、その使用は、本件商標出願後の平成16年7月以降のことである。
同様に、被請求人の提出する乙号証は、商標法第4条第1項第15号、同第19号、同第7号の適用を何ら阻害するものではない。
(4)第4答弁書に対する弁駁
第4答弁書は、第3答弁書同様、証拠方法として乙第51号証ないし乙第61号証を提出するのみで、答弁の理由を欠くものである。
しかも、被請求人が乙第51号証として提出した陳述書は、本件無効審判事件の審理対象とは関係のない事柄についての請求人に対する非難の繰り返しである。
当該陳述書を読めば、被請求人が今も本件商標に基づいて請求人等に引用商標の使用中止を求めていることは明らかである。
本件商標の出願・登録が被請求人の不正の目的によりなされたもので、公序良俗に反することは、明らかである。
3 平成19年9月25日口頭審理における審尋及び被請求人の答弁に対する上申
(1)引用商標の周知性を証する書証の追加等
ア 引用商標の使用開始時期
現存する資料からは、商標の表示確定時についての正確な日時の特定はできなかった。甲第4号証として提出したダンボール箱の版下(平成2年6月20日に東北紙器株式会社の子会社である有限会社東北へ納品されたもの)が、現時点において、当該「春みどり生産協議会」が引用商標「いわて春みどり」を「岩手県産キャベツ」の商標として使用していたことを明確に示す最先の資料である。請求人は、甲第141号証として、段ボール箱における商標の表示を正確なものに改めた「いわて春みどり段ボールケースの納入実績」証明書を提出する。これは、甲第14号証に添付の同書面に代わるものである。
イ 各陳述書に添付された取引実績の根拠と甲第57号証の東京多摩青果株式会社の陳述書に添付の取引実績の説明
甲第22号証ないし甲第96号証の取引業者による陳述書中、取引実績表を添付したものについては、次のとおり取引数量と取引金額の数字を決定した。
まず、卸売業者からこれら取引実績について回答があったものについては、当該回答内容と請求人側の実績データ(ホストコンピュータに記憶されている取引データ)とをつき合わせて、確認・修正を行った。甲第142号証の1ないし9として、甲第27号証、甲第35号証、甲第52号証、甲第53号証、甲第57号証、甲第64号証、甲第72号証、甲第76号証及び甲第88号証について提供を受けた取引実績を示す書類を提出する。これら以外の卸売業者については、請求人のホストコンピュータに記憶されている取引データのみを使用した。
また、東京多摩青果株式会社との取引実績が実際のものではないとの被請求人の主張については、その論拠が明らかでないため具体的な反論はできないが、甲第142号証の5記載の数字は、甲第57号証記載の数字とほぼ一致しているから、被請求人の主張は誤りである。被請求人は、東京都中央卸売市場の中の「多摩ニュータウン青果市場」のことと勘違いしているのではないかと推量される。
ウ 引用商標の周知性を証する証拠方法の追加
(ア)市場におけるシェアの推移を示す書面の提出
請求人は、岩手県産キャベツの消費地にあり主要な取引市場である東京都中央卸売市場における岩手県産キャベツの販売シェアの推移を示すために、甲第143号証ないし甲第155号証として、東京青果物情報センター発行の「東京都中央卸売市場 青果物流通年報」のキャベツに関する産地(都道府県)別の取扱数量・シェアを掲載した頁の写しを提出する。
これにより、平成3年から平成16年までの岩手県産キャベツのシェアの推移を証する。これらに現れる数字は、引用商標の使用対象キャベツのみを対象とするものではないが、岩手県出荷量に占める「いわて春みどり」ブランドキャベツの各年毎の割合は甲第97号証に示したとおりであるし、この割合が東京都中央卸売市場と他の市場とで大きく異なるべき理由もない。
(イ)「いわて春みどり」ブランドの確立を理由とする高橋義夫氏の受賞暦〔第28回 日本農業賞 大賞 受賞 (平成11年3月2日)(甲第159号証及び甲第160号証)及び第90回 大日本農会農事功績表彰(緑白綬有功章)(平成18年)(甲第161号証)〕
受賞理由は、前者は、「標高差を生かした『いわて春みどり』の長期安定出荷と南部キャベツの名声の確立」であり、後者は、「『いわて春みどり』ブランドの確立に貢献したこと等」である。
(ウ)東部地域いわて春みどり10億円販売達成記念祝賀会他
平成18年12月12日に、新岩手農業協同組合、東部地域野菜生産部会、東部地域春みどり専門部会(前身は春みどり生産協議会)の主催、岩手町の後援により開かれた。甲第163号証として提出する式次第並びに関係者の挨拶文を収録した小冊子には、岩手県知事、岩手町町長等の他、甲第57号証の陳述書の東京多摩青果株式会社の常務取締役である近江紀久夫氏も「いわて春みどり」ブランドのキャベツが消費地で高い評価を得ている旨の祝辞を寄せている。
(エ)高橋農場の青果物出荷元帳等
引用商標の使用対象商品である岩手県春系キャベツは生産農家から出荷される際に、取引内容が甲第166号証の青果物出荷元帳或いは野菜出荷伝票の類に記録される。
今回は、高橋農場の平成15年7月17日及び18日の二日分の取引書類のみを提出する。
(オ)卸売業者・小売業者の陳述書
引用商標使用対象キャベツの大手販売先であるスーパーマーケットのサミット株式会社他から新たに引用商標の周知性を証明する陳述書を入手したので、甲第167号証ないし甲第172号証として提出する。
(カ)雑誌による広報例
甲第173号証ないし甲第175号証として、定期刊行物による広報例を示す。
(キ)出発式の様子を示す写真
平成18年の「いわて春みどり」の出発式の様子を示す写真を甲第176号証として、平成19年の同出発式の写真を甲第177号証として提出する。
(2)被請求人の主張に対する反論
被請求人が提出した第1答弁書ないし第4答弁書については、平成19年9月11日付請求人の口頭審理陳述要領書にて弁駁済みなので、ここでは被請求人の口頭審理陳述要領書及び口頭審理当日の陳述内容に関して反論する。
ア 被請求人の口頭審理陳述要領書の「第1 商標法第4条第1項第10号について」に対する反論
被請求人は、口頭審理陳述要領書の「第3 商標法第4条第1項第19号について」において、「全農の商標『いわて春みどり』は、日本全国で広く周知されていない。関東一円である。」と述べて、関東地方に於いて引用商標が周知性を獲得している事実を明確に認めている。
被請求人は本件商標に係る商標権に基づいて引用商標の使用を中止させようとしたのであるから、本件商標と引用商標が類似するものであることを自認しているのである。
したがって、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するものでないとする被請求人の反論は、請求人の主張・立証を覆すものではない。
イ 被請求人の口頭審理陳述要領書の「第2 商標法第4条第1項第15号について」に対する反論
被請求人は、本件商標を付した商品は流通に任せていないから、卸売業者又は小売業者が本件商標を認識する機会すらなく、一般消費者の段階で引用商標と本件商標とを混同するおそれは全くない旨主張するが、引用商標は取引者間はもとより最終消費者間においても新聞報道等を通じて岩手県産キャベツのブランドとして広く知られた商標であるから、流通段階でも一般消費者間でも両商標が混同するおそれは高い。
被請求人は、乙第62号証の2及び乙第63号証の5に「※類似名称のキャベツがありますのでご注意ください。」と表記しているから、被請求人も本件商標と引用商標との間で商品出所の混同が生ずるおそれがあることを自認しているものと認められる。
判例上も、例えば、甲第178号証として提出する平成9年(行ケ)第323号判決公報によれば「商標法第4条第1項第15号の規定は、他人の業務に係る商品又は役務を表示する標章が、全国的に周知、あるいは著名なものでなければ上記条項に該当しないとする理由はない」と判示する。
引用商標と本件商標とが酷似し、指定商品・使用商品が同一であること等に鑑みれば、両商標間で出所の混同が生じるおそれの極めて高いことは明らかである。
ウ 被請求人の口頭審理陳述要領書の「第3 商標法第4条第1項第19号について」に対する反論
(ア)引用商標の周知・著名性について
引用商標が本件商標の出願前から周知性を有することは、甲号証として提出した各種周知証明資料から明らかである。
(イ)不正の目的について
甲第138号証ないし甲第140号証他の甲号証並びに被請求人の答弁及び全乙号証の内容から、次のことが明らかである。
(a)被請求人は、本件商標の出願前に本件商標を使用していない。
今回新たに提出する甲第179号証によれば、YR青春2号が品種名として使用されたのは平成5年以降であり、平成3年当時は試行品種として「TC208」の仮名称でよばれていたものであるから、乙第22号証の写真の説明文は平成5年以降に加えられたものであり、信憑性に欠けるものである。他に、被請求人が本件商標の出願前に本件商標を「キャベツ」について使用した事実を示す証拠方法の提出はない。
(b)被請求人は、本件商標の出願前から引用商標を知っていた。
被請求人は岩手県内の漬物業者として岩手県産キャベツの生産事情に詳しく、口頭審理期日にて発言していたように、渡辺採種場から「YR青春2号」等の試験種苗の提供を受けるなどしていたものであるから、本件商標を出願する遙か以前から引用商標を知っていたことは疑う余地がない。
(c)被請求人は請求人に対し引用商標の使用料を請求した。
被請求人は、口頭審理期日において平成18年8月10日に被請求人の希望により両者間で面談交渉が行われたことを認めているし、被請求人が引用商標の使用料や損害賠償、株式会社味楽に対する支援を要求したことを否定していない。
(d)被請求人は請求人等に対し引用商標の使用中止を求めた。
被請求人は、甲第139号証に明らかなように、請求人等を債務者として引用商標を岩手県産キャベツに付する行為や引用商標を付した岩手県産キャベツを販売等する行為の中止を求める仮処分命令申立を行った。
(e)被請求人は請求人に対し引用商標を付するキャベツの品種限定を求めた。
甲第182号証として提出する特許長編「工業所有権逐条解説 第16版」によれば、19号は「日本国内又は外国で広く知られている商標と同一又は類似の商標を信義則に反する不正の目的で出願した」商標等の登録を排除することを具体的な目的とする規定である。
引用商標は、高橋義夫氏がその使用を開始した当初より「YR青春」「YR青春2号」といった春系キャベツの特定品種に関する品種・等級を保証するための証明商標として使用しているわけではなく、岩手県産の春系キャベツについての生産者商標又は販売者商標として商品出所・取扱者を指標するものとして使用されてきたのである。
したがって、剽窃商標の所有者に過ぎず、岩手県の農業政策や請求人等の農家支援活動に介入する権限のない被請求人が、本件商標の商標権に基づいて、長年継続的大々的に使用してきた引用商標の出所表示機能を奪ったり、引用商標を「YR青春2号」品種についてのみ使用するように強制したりする行為は、信義則に反する不正な権利行使であることは疑いない。
以上のとおり、本件商標は、信義則に反する不正の目的で出願されたものである。
エ 被請求人の本件商標は公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)でないとする主張に対する反論
上記ウのとおり、本件商標の登録が剽窃的出願又は信義則違反の不正の目的による登録であることは疑う余地がなく、これが公序良俗に反する商標に該当するものであることは明らかである。
引用商標と紛らわしい本件商標の登録を排除することこそが、長年の継続的使用により引用商標に化体した業務上の信用と、岩手県産キャベツの取引の安全を維持することとなり、ひいては取引者・需要者の利益も保護することになるのである。

第4 被請求人の答弁の要点
1 被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第102号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 本件商標と引用商標との関係について
本件商標は「岩手春みどり」の文字を標準文字で記載するが、引用商標は「いわて春みどり」の文字を特有の書体で表記するものであり、使用する文字が「岩手」と「いわて」の文字において異なるから、類似するものとはいえない。
イ 引用商標の周知性について
請求人の使用開始は、平成4年であって、それ以前は使用していなかった。また、平成4年以前は、高橋義夫と岩手町農協つまり合併後の新岩手農協がともに商標を使用していたと認められる。引用商標は、請求人を除いても少なくとも3つの主体が使用してきたものであり、請求人ひとりのみが使用していたということは全くあり得ない。
被請求人の商標使用は、昭和60年頃からであり、請求人の使用開始に先んずること8年である。請求人に対し、被請求人は商標の先使用をしていた関係にある。
ところで、商標法第4条第1項第10号が定める「需要者の間に広く認識されている商標」にいう「需要者」とは、単に、卸売会社、市場関係者のみならず一般の消費者全体をも含み、それらの者の間に広く認識されていたことを要するものである。また、この「認識」とは、当該商標がこれを生産し、または販売し、提供する特定の事業者と不可分に結びつき、商標の認識が当該事業者を当然に識別させる程度にまで高められた認識であることを法は求めている。
請求人は、生産農家から託されたダンボール容器に包装された生キャベツをその販売ルート先である卸売会社に対し売買(もしくはその委託)するだけの、いわば流通業者にすぎない。このことから、請求人の接点は、卸売会社のみであり、卸売会社から一般消費者への販売に関与することは、一時的な宣伝を偶然的に行う以外には殆どなかったといっても過言ではない。
請求人が関与したと推察される催し事においても、「いわて春みどり」を特に強調した宣伝はされていない。キャベツを載せる入れ物、台として「いわて春みどり」と印刷されたダンボールが使用されてはいるが、「いわて春みどり」のイメージを広め浸透させるものは何ら見当たらない。
また、生産の本場である岩手県内においてすら、スーパーに出される県内産キャベツに「いわて春みどり」が表示されることはない。大手スーパーのジャスコやいわて生協ですら引用商標を付していないのであって、小売関係業者はもとより一般消費者も引用商標を広く知るには到底至っていない。
以上述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものでないことは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
同号にいう混同を生ずるおそれのある商標の該当性の有無の判断基準は、-般需要者からみて混同を生ずるおそれがあるか否かによるべきものであって、単に卸会社や流通業者のような取引業者を基準とすべきではない。
前述したとおり、引用商標を付した商品は、複数の事業者によって使用されていたのであるから、該商品を見た需要者がそこに付された商標から特定の事業者の事業に係る商品であることを識別することは不可能もしくは著しく困難であり、しかも、引用商標は、卸会社及びそこから仕入れをする小売業者までの段階でしか使用されていないのであって、一般消費者としての需要者は、引用商標をそもそも知らないのであるから、本件商標が付された商品を請求人の商品と誤解することは全くあり得ないのであり、請求人の主張は全て失当である。
(3)商標法第4条第1項第19号について
請求人の扱う岩手県産キャベツの販売先が全国に跨っているといえるようなものでないことは、請求人自身の主張から一目瞭然であり、同号の「日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」との要件を欠くことは明らかである。
被請求人は、本件商標を長年の間、自己又は自己の関係する食品製造販売業の扱う商品に付して使用していたのであり、その使用開始の時期は、請求人が引用商標を使用し始めたという平成4年より8年も前のことであるから、その使用の実情からして、被請求人が不正の利益を得る目的や請求人らに対して損害を加える目的など毛頭有していなかったことは多言を要せずして明らかである。
(4)商標法第4条第1項第7号について
請求人が引用する無効審決(無効2004-35062)や判例(母衣旗事件 東京高裁平10行ケ18号)等は、いずれも何ら指定商品又は役務等を行っていない者が他人が使用している周知性の高度に認められる商標と同一の商標を出願登録した場合のものであり、本件商標はこれに類似する商標を取扱商品に付して長期間使用してきた本件事例には全く当てはまらないものである。
(5)被請求人の商標使用の実績について
被請求人は、昭和60年6月、被請求人が代表取締役をしていた有限会社岡食において、YR青春による西根町内で栽培されたキャベツを素材とした新商品である浅漬を開発、平成12年頃から「いわて春みどり(みょうが入り)」を、平成15年7月頃から「春みどり1/2カット(生姜入り)」を新商品として販売を開始し、生協へ納入した。以降、岡食及びオカショクの商品を承継した株式会社味楽は、被請求人の技術指導を得て、浅漬の他、平成16年7月頃から西根町産の生キャベツの販売を行っており、現在に至っている。
被請求人は、YR青春2号によるキャベツの商品価値を高めようとして、本件商標の出願を行ったのであり、請求人が品質の相違を全く考慮に入れず、県産キャベツを一括りにして、本件商標に類似した商標を付することは、被請求人のこれまでの商標使用に大きな打撃を与えるものであり到底許されるものではない。
2 平成19年9月25日口頭審理陳述要領書における請求人に対する反論
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 答弁書第1に又乙第54号証P12の4項広く周知されていないに記述のとおり請求人の商標は周知性がない、被請求人の商標は周知性がある。
イ 請求人は平成4年からと述べているが、被請求人は乙第26号証の陳述書のとおり、昭和59年頃より「春みどり」として販売している。
ウ 決して他人の業務に係わる商品、役務の類似を目的として取得したものではないことは明確である。
(ア)原材料及び品質が一致するかどうか、被請求人の「岩手春みどり」は「YR青春2号」の春系やわらかキャベツであるのに対し、請求人の「いわて春みどり」は「夏さやか」暑さに強い楽園の兄弟品種でかたさがあり糖度が少なく、量産ができ、他品種含めすべてのキャベツを「いわて春みどり」と指しており、原材料及び品質が相違する。
(イ)請求人の販売先は主として、市場のセリ委託であるのに対し、被請求人の需要者層は広く、高級料理店、レストラン、他贈り物の依頼(お中元・お歳暮)こだわりの家庭等、居酒屋チェーン30社、九州から秋田まで個人の消費者へ、佐川急便並びに自車便にて直送と需要者が異なる。
(ウ)被請求人は「岩手春みどり」、請求人は「いわて春みどり」で、字体の違いは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 請求人の商標を表示して売るのは、生産→卸売→小売店まで、その後の店頭では、その商標は使用していない(乙第66号証ないし乙第76号証)のに対し、被請求人の商標商品は流通に任せていないから、卸売り又は小売業者が認識する機会すらないから、一般消費者の段階では、混同するおそれがない。
イ あとから、使用し始めた請求人が昭和59年より使用した被請求人の商標に対して、類似しているから無効と言う事自体が許されない。
(3)商標法第4条第1項第19号について
ア 引用商標の周知性について
請求人の商標「いわて春みどり」は、日本全国で広く周知されていない。関東一円である。
イ 引用商標の使用料の要求が目的ではない。
3 平成19年9月25日口頭審理における審尋及び請求人の弁駁に対する上申
(1)平成19年2月23日付け答弁書の訂正
答弁書2頁の乙第55号証の記載「平成11年1月1日」とあるのは誤りであり、「西暦2004年7月頃から」と訂正する。
(2)被請求人の主張
ア 「昭和62年、当時の岩手町農業協同組合に『春みどり協議会』が設立され、高橋農場が使用していた『いわて春みどり』を岩手町農業協同組合のみが使用することになった」旨述べているが、「第2 甲第16号証高橋義夫の陳述書については、疑問がある。
請求人は「春系キャベツの出荷に際して岩手県で定めた『岩手県青果物等出荷企画』に基づく検品を請求人自ら又は職員OBによって実施して、その品質の維持に努めている」とあるが、生産者名も無く、品質も無く、主張と現実がまったく揃っていない。
「春みどり協議会」を設立し、生産者と販売業者と協議を行ったとあるが、販売業者とは、その誰人を指しているのか明らかになっていないし、生産者誰一人も知っていない。あくまで請求人は斡旋業者で販売業者ではない。
イ 甲第20号証ないし甲第96号証の「陳述書」中には、「取引実績」が添付されているものがあり、そこに「※上記実績はバックデータ確認可能な分のみ記載」と記載があるが、乙第90号証ないし乙第100号証のとおり、このバックデータについては、信憑性がないから、請求人が主張する商標法第4条第1項第19号の「需要者の間に広く認識されている商標」といえるか疑問である。
ウ 被請求人は、昭和60年から本件商標を付して「岩手県産キャベツ」を販売してきている事実を証する書面を提出することはできるかについては、「昭和56年頃より岩手県西根産『朝もぎキャベツ』『春みどり』で売り出していた。昭和56年7月コープメイト仙北市場が開設と同時にテナントとして入り、数量は一日置き位との記憶ですが、朝もぎキャベツ『春みどり』として、閉鎖になるまで、毎年6月?10月頃まで生キャベツを販売してきたことが判明致した。いわて生協の総務部に行き、テナント出店、朝もぎ野菜他浅漬等を売っていた証明を頂いてきた。(乙第82号証)又、毎年2月から6月までは、千葉県産キャベツ『千葉春みどり』として、ダンボールに印刷してあるのを記憶している。」こと、及び「コープメイト仙北店の岡食テナントにて、昭和56年頃より『春みどり』を売っていたことと『春みどり』の命名についての岡田了子の陳述書」(乙第83号証)、「昭和56年頃より契約栽培農家より、生『キャベツ』を引取り配送し、宮古丸新スーパーで生キャベツ『春みどり』を売っていた内容の古川静男の陳述書」(乙第84号証)、及び「平成元年より、コープメイト仙北店・中三デパート『あじさいや』、又土日ジャンボで、生キャベツ『春みどり』を販売していたこと」(乙第85号証)がある。

第5 当審の判断
1 請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第10号にも該当する旨主張しているので、この点について判断する。
(1)請求人の提出に係る証拠に請求人の主張を併せみれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人(全国農業協同組合連合会)は、農業協同組合法によって設立された団体(農業協同組合法第1条)であって、全国の農業協同組合等を会員とするものであり、平成14年4月には、岩手県経済農業協同組合連合会(略称「経済連」)と合併し、全国農業協同組合連合会岩手県本部(略称「全農いわて」)が誕生、全農いわては、経済連のそれ迄の業務を承継している。請求人の事業目的は、組合員のためにする農業の経営及び技術の向上に関する指導等であり、組合員の生産する物資の販売もこれに含まれるものである(農業協同組合法第10条)。
(イ)甲第17号証(株式会社渡辺採種場取締役常務銀山良司の陳述書)によれば、株式会社渡辺採種場は、宮城県に本社をおいて、長年にわたりキャベツ等の野菜品種の育種、開発並びにその種子の販売を行っている企業であり、昭和58年に、キャベツの品種「YR青春」を育種開発・発表し、それを改良した「YR青春2号」の開発・改良にあたっては、平成2年頃より、県行政・経済連・旧岩手町農協他農協・岩手県内キャベツ生産農家の協力を得て、栽培技術の普及・地域適応性の調査研究等のための試験栽培等を実施してきた。
(ウ)甲第16号証(岩手町在の高橋農場経営者高橋義夫の陳述書)によれば、高橋農場は、昭和58年頃より、「YR青春」品種のキャベツの本格的な導入を行い、他産地との差別化を行うために、当時の岩手町農協と協議して「春みどり」のブランドで仙台市場を中心に出荷を行っていた。平成9年以降、行政の支援を受けて、県内各所に産地が広がり6月?10月までの長期販売が可能となり、「いわて春みどり」としてのロットも拡大され、販売先の青果市場のほか主力の量販店からも品質的な評価を得る事が出来た。
(エ)平成4年頃、全農いわての前身である経済連は、それ迄の関係者である高橋農場、岩手町農業協同組合の了承を得て、農協から委託を受けて販売する岩手県産春キャベツについて「いわて春みどり」の商標のもとに販売を行うこととした(甲第17号証及び甲第18号証岩手町長の証明書等)。
(オ)岩手県知事名の平成18年9月4日付「いわて春みどり」に関する証明書(甲第19号証)には、「岩手県経済農業協同組合連合会(現在の全国農業協同組合連合会岩手県本部)、県内各JA及び県内生産者は、少なくとも平成10年から、県産の春系キャベツを『いわて春みどり』の商標で出荷・販売し、これまで県は、『いわて純情野菜日本一産地育成対策事業(平成9?12年度)』の実施や『いわて純情園芸産地づくり推進協議会』の設立(平成9年)によって、『いわて春みどり』の日本一の産地化を目指し、県下のJAグループなど関係団体と一体となって生産振興に取り組んできた。県産春系キャベツ『いわて春みどり』は、県北部地帯の主要な品目として栽培され、首都圏市場においても重要な地位を占める本県の代表的な野菜ブランドである。」と記載されている。
(カ)甲第3号証ないし甲第15号証は、請求人らの業務に係る段ボール箱の写真及び同段ボール箱の発注に係る版下と認められるものであるところ、その最も早い納品日は平成2年6月20日とするものであって(甲第4号証)、その版下には、岩手県経済連等の表示とともに「いわて春みどり」の商標が大きく表示されている。また、甲第5号証ないし甲第13号証は、納品日を平成14年4月9日ないし平成16年5月12日とするものであって、JA全農いわて等の表示とともに「いわて春みどり」の商標が大きく表されている。
(キ)請求人の主張によれば、全農いわては、東北紙器株式会社等にキャベツ包装用の10kgダンボールを発注し、生産者は、このダンボールを買受けて、商品である生キャベツを詰めて包装して農協に販売を委託し、農協は全農いわてに販売を委託しており、地域的には、岩手県北部全域、花巻市、北上市の生産農家が該ダンボールを使用しているとのことである。そして、甲第14号証(東北紙器株式会社提出の「いわて春みどり段ボールケースの納入実績」)によれば、東北紙器株式会社は、平成2年には約30万枚、平成4年には約81万枚、平成8年には約111万枚、平成10年には約133万枚、平成13年には約165万枚、平成15年には約131万枚、平成17年には約143万枚のダンボールを納品している。
(ク)甲第97号証(全農岩手県本部作成の「いわて春みどり生産販売経過について」)によれば、平成4年における岩手県全体の出荷量は13000トン、そのうち、「いわて春みどり」の数量は8704トンであり、岩手県全体におけるシェアは67%となっており、平成7年には岩手県出荷量15100トン、そのうち、「いわて春みどり」は10390トン、シェアは69%、平成10年には岩手県出荷量17200トン、そのうち、「いわて春みどり」は16007トン、シェアは93%、、平成13年には岩手県出荷量21300トン、そのうち、「いわて春みどり」は17348トン、シェアは81%、平成16年には岩手県出荷量19700トン、そのうち、「いわて春みどり」は14968トン、シェアは76%となっている。
(ケ)甲第20号証ないし甲第96号証は、東北地方から関東地方にかけて「いわて春みどり」を取り扱っている事業者からの陳述書である。陳述書は、「『いわて春みどり』は、平成4年から、岩手県産キャベツの統一ブランドとして使用され、その後生産が拡大された結果、平成9年頃には春キャベツの主要ブランドのひとつとして全国的に広く認知されるようになり、今日に至っている」旨の定型文に署名、捺印する形式のものであるが、過去何年かに亘る取引実績表が添付されているものも数多くある。取引実績表が添付されている主なものを挙げれば、例えば、甲第22号証は、盛岡市の丸モ盛岡中央青果株式会社のものであり、本件商標が出願された平成16年における取引数量は約1786トンとなっている(以下、括弧内は各事業者の平成16年における取引数量である)。甲第23号証は宇都宮青果(約282トン)、甲第25号証は浦和中央青果市場株式会社(約62トン)、甲第26号証は東京都荏原青果世田谷支社(約40トン)、甲第27号証は横浜丸中青果株式会社(約526トン)、甲第33号証は仙台市の株式会社宮果(約648トン)、甲第35号証は埼玉県中央青果株式会社(約355トン)、甲第40号証は東京新宿ベジフル株式会社(約89トン)、甲第42号証は仙台中央青果卸売株式会社(約590トン)、甲第52号証は東京千住青果株式会社(約765トン)、甲第53号証は神奈川県のJA全農青果センター株式会社(約192トン)、甲第57号証は東京多摩青果株式会社(約880トン)、甲第63号証は株式会社大宮中央青果市場(約44トン)、甲第64号証は東京青果株式会社(約2825トン)、甲第72号証は埼玉県のJA全農青果センター株式会社(約1419トン)、甲第76号証は東京荏原青果株式会社(約1896トン)等々のようになっている。
(コ)甲第98号証ないし甲第114号証は、岩手県知事による「いわて春みどり」の収穫式・定植式の写真や資料、スーパーでの販売状況を示す写真、販売促進用のポスターや幟の写真等の資料である。県知事による収穫式の写真(甲第98号証)にあっては、赤色で「いわて春みどり」と大きく表されているダンボール箱を知事が抱え、あるいは「いわて春みどり」と大きく表されているダンボール箱がキャベツ畑に置かれている。千葉県松戸市、東京都府中市のスーパーでの販売状況を示す写真(甲第99号証及び甲第100号証)にあっては、店内において、「いわて春みどり」と大きく表されているダンボール箱が積まれ、その上にキャベツが山積みにして販売されている状況が示されている。
(サ)甲第115号証ないし甲第126号証は、平成10年5月24日から平成12年7月12日にかけての河北新報、岩手日報、日本農業新聞、毎日新聞であり、岩手県知事による「いわて春みどり」の定植式・収穫式の様子が「いわて春みどり」に関する記事とともに報道されている。
(シ)甲第128号証ないし甲第132号証はインターネットのウェブサイトであり、「いわて春みどり」に関する各種情報が提供されている。
(ス)甲第134号証は、岩手県農政部農政企画課作成の予算復活要求書(知事復活)であり、「いわて春みどり」のキャベツがいわて純情野菜日本一産地育成対策事業の牽引役になるとして、平成9年から12年までの事業費予算の復活要求が行われている。
(2)引用商標の周知性について
以上各号証及び上記において認定した事実によれば、宮城県に本社を置く株式会社渡辺採種場は、昭和58年に、キャベツの品種として「YR青春」を開発し、それをさらに改良した「YR青春2号」の開発・改良にあたっては、平成2年頃より、県行政、経済連(現全農岩手県本部)、旧岩手町農協、岩手県内キャベツ生産農家等も協力をしていたことが認められる。
「いわて春みどり」の商標については、甲第97号証(全農岩手県本部作成の「いわて春みどり生産販売経過について」)に「昭和59年に岩手町高橋農場『いわて春みどり』の名称にて販売開始」との記載があることから、昭和59年以降には使用され始めたものと推認される。
そして、全農いわての前身である経済連が「いわて春みどり」の商標を使用し始めた時期については、平成2年6月に納品された甲第4号証のダンボール箱に「岩手県経済連」及び「いわて春みどり」の商標が表示されていることからみて、この頃から既に使用していたものとみられるが、上記関係者の陳述内容を総合してみれば、経済連は、平成4年に、それ迄の関係者である高橋農場、岩手町農業協同組合の了承を得て、岩手県産キャベツの統一ブランドとして「いわて春みどり」の商標を採用し、岩手県全域で使用を開始したものと認められる。
また、岩手県知事の証明書(甲第19号証)によれば、岩手県経済農業協同組合連合会(現在の全国農業協同組合連合会岩手県本部)、県内各JA及び県内生産者は、「いわて春みどり」による日本一の産地化を目指し、「いわて春みどり」キャベツは、県北部地帯の主要な品目となっているものと認めることができる。
このことは、「いわて春みどり」の出荷量及び岩手県全体におけるキャベツの出荷量に占めるシェアにおいて端的に表れており、年による変動はあるものの、本件商標が出願された平成16年においても出荷量14968トン、シェア76%、本件商標の査定時である平成17年においても出荷量15203トン、シェア72%を維持していたことが認められる(甲第97号証)。なお、被請求人の提出に係る乙第58号証の新聞記事によれば、岩手県のキャベツ生産量は、全国12位の産地であるが、7?9月が出荷ピークの夏秋キャベツに限れば、長野県に次ぐ4番目の生産量を誇る旨記載されている。
そして、その「いわて春みどり」の出荷先は、東北各県ばかりでなく、東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県をはじめとする関東各県の卸売業者にも及んでおり、甲第20号証ないし甲第96号証の陳述書のうち、取引実績表が添付されている関東地方の卸売業者が平成16年において取引した数量の合計は、およそ11000トンとなっている。そして、これら甲各号証によれば、各卸売業者は、それぞれ「いわて春みどり」を多くの仲卸やダイエー、イオン、マルエツ、いなげや等々のスーパー、各小売業者へ販売していたことが認められる。
さらに、「3 平成19年9月25日口頭審理における審尋及び被請求人の答弁に対する上申」において請求人が提出した引用商標の周知性を証する書証の追加中、甲第158号証は、平成11年3月2日付けの「第28回日本農業賞大賞 高橋義夫殿」と記載された賞状の写し、及び甲第159号証は、「日本農業のトップランナーたち/第28回日本農業賞に輝いた人々」2枚目には高橋義夫氏の大賞の紹介記事中に「いわて春みどり」の記載があり、さらに5枚目には「次世代へつなぐキャベツ産地」の見出しのもと「岩手県では平成9年度から行政とJA組織が一体となり、平成12年度を目標に、キャベツ栽培面積1千ヘクタールを目指して、『いわて春みどり』を最重要推進品目として栽培に取り組んでおり、大消費地の青果市場関係者の皆さんから熱い期待をよせられています。」の記載があり、また、甲第163号証として提出する平成18年12月12日に、新岩手農業協同組合、東部地域野菜生産部会、東部地域春みどり専門部会(前身は春みどり生産協議会)の主催、岩手町の後援により開かれた東部地域いわて春みどり10億円販売達成祝賀会の式並びに関係者の挨拶文を収録した小冊子には、岩手県知事、岩手町町長等の他、甲第57号証の陳述書の東京多摩青果株式会社の常務取締役である近江紀久夫氏も「いわて春みどり」ブランドのキャベツが消費地で高い評価を得ている旨の祝辞を寄せている。
以上を総合してみれば、請求人らは、平成4年頃に岩手県産キャベツの商標として「いわて春みどり」を採択し、これをキャベツの出荷専用ダンボール箱に表示するなどして大々的かつ継続的に使用してきた結果、引用商標は、請求人らの業務に係る「岩手県産キャベツ」を表す商標として、本件商標の出願時(平成16年6月8日)においては既に、岩手県内におけるキャベツの生産農家や取引業者ばかりでなく、少なくとも東北地方から関東地方にかけてのこの種農産物の取引業者の間においても広く知られていたものということができる。そして、その周知性は、その後、本件商標の登録査定時(平成17年2月14日)においても継続していたものと認められる。
(3)商標及び商品の類否について
前記したとおり、本件商標は「岩手春みどり」の文字を標準文字で表してなるのに対し、引用商標は「いわて春みどり」の文字を要部とするものであるから、両商標は、「イワテハルミドリ」の称呼を同じくするものである。また、「いわて(岩手)春みどり」の語は、全体として特定の親しまれた意味合いを生じない造語と認められるものであるが、各語の語義から「岩手の春の緑」の如き意味合いを看取し得るものであるから、両商標は、観念においても共通にするものということができる。そして、外観の点については、両商標は、語頭部分において「岩手」と「いわて」の文字において差異を有するが、これとても、広く知られ親しまれている地名を漢字表記としたか、平仮名表記としたかの差異にすぎないものであり、その余の「春みどり」の文字部分を共通にするものであることから、外観から受ける印象においても然程大きな差異はないものということができる。
してみれば、本件商標と引用商標とは、称呼及び観念を共通にする類似の商標といわなければならない。
そして、本件商標の指定商品「岩手県産キャベツ」は、引用商標が使用されている「岩手県産キャベツ」と同一の商品である。
(4)被請求人の主な主張について
(ア)被請求人は、請求人の「いわて春みどり」商標の使用開始は平成4年であって、それ以前は、高橋義夫と岩手町農協(合併後の新岩手農協)がともに「春みどり」商標等を使用していたと認められ、被請求人も昭和60年頃から使用していたのであって、引用商標は、請求人を除いても少なくとも3つの主体が使用してきたものであるから、請求人ひとりのみが「いわて春みどり」商標を使用していたということはあり得ない旨主張している。
確かに、「いわて春みどり」商標の使用の経緯をみれば、請求人のみがひとり「いわて春みどり」商標を使用していたものでないことは、被請求人の主張のとおりである。
しかしながら、先に認定したとおり、請求人は、農業協同組合法によって設立された団体であって、全国の農業協同組合等を会員とするものであり、平成14年4月には、岩手県経済農業協同組合連合会(略称「経済連」)と合併し、全国農業協同組合連合会岩手県本部(略称「全農いわて」)が誕生したものである。
そして、経済連は、それ迄の関係者である高橋農場や岩手町農業協同組合の了承を得て、「いわて春みどり」の商標のもとに岩手県産春キャベツの販売を行ってきたものであり、その経済連の業務は全農いわてが承継しているのであって、請求人の事業目的の中には、組合員の生産する物資の販売も含まれているものである。
加えて、渡辺採種場がキャベツの品種である「YR青春」の改良版である「YR青春2号」を開発するにあたっては、経済連や旧岩手町農協他農協が協力をしていた経緯も認められるところであって、請求人らとこれら関係者とは、極めて緊密な協力関係にあったものとみることができる。
そうとすれば、岩手県産キャベツに「いわて春みどり」の商標が採択された当初において、複数の者がこれに関わっていたからといって、本件商標の出願当時において、引用商標が請求人らの業務に係る岩手県産キャベツの商標として取引者間に広く知られていたとの先の認定に影響を及ぼすものとはいえない。
なお、被請求人も昭和60年頃から「いわて春みどり」の商標を使用していた旨の主張に対しては後述する。
(イ)被請求人は、商標法第4条第1項第10号が定める「需要者の間に広く認識されている商標」にいう「需要者」とは、単に、卸売会社、市場関係者のみならず一般の消費者全体をも含み、それらの者の間に広く認識されていたことを要するものであり、また、この「認識」とは、当該商標が特定の事業者と不可分に結びつき、商標の認識が当該事業者を当然に識別させる程度にまで高められた認識である旨主張している。
前段部分の主張については、例えば、東京高裁平成3年(行ケ)第29号判決において、商標法第4条第1項第10号所定の「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者間に広く認識されている商標とは、わが国で全国民的に認識されていることを必要とするものではなく、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合にはその需要者間に広く認識されていれば足りるものである」旨判示されている。
しかして、キャベツの需要者に一般の消費者が含まれてはいることはもとよりではあるが、請求人の主張によれば、キャベツの商標は、主にキャベツの出荷の際に使用される包装箱に表示されて使用されており、その典型的な流通経路は、各地の農業協同組合が組合員の生産農家から当該包装箱に収納されたキャベツを卸売業者に受託販売し、卸売業者から仲卸業者や小売業者を経て、最終消費者の手に渡るものである。そして、小売業者は、当該包装箱からキャベツを取り出し、店舗の商品陳列台にこれを並べて販売するのが通常であり、最終消費者が店舗で購入する際にキャベツの商標が表示されていることは稀であるものと認められる。
こうした取引の実情を勘案すれば、キャベツの受託販売業者にとって、商品の販売訴求対象は卸売業者をはじめとする取引業者であり、商標の諸機能が発揮されるのも主に小売以前の流通段階であるものと認められるから、キャベツの商標について、周知性の有無を判断する場合には、むしろ取引業者を主たる対象とすべきである。
加えて、先にも認定したとおり、引用商標は、岩手県知事による「いわて春みどり」の収穫式・定植式においても大きく表示されており、このことが岩手日報、日本農業新聞、毎日新聞等において、「いわて春みどり」に関する記事とともに報道されている。また、首都圏のスーパーの中には、店内において「いわて春みどり」と大きく表されているダンボール箱が積まれ、その上にキャベツを山積みにして販売しているスーパーもあり、販売促進用のポスターや幟にも「いわて春みどり」の文字が大書して表されており、更には、インターネットのウェブサイトにおいても「いわて春みどり」に関する各種情報が提供されている。これらの状況を踏まえてみれば、引用商標は、一般の需要者の間においても一定程度は知られていたものということができる。
また、後段部分の主張については、例えば、東京高裁平成13年(ネ)第5748号判決において、「商標法第4条第1項第10号にいう周知商標というためには、一定の何人かの商品の識別標識であるという点において周知でなければならないものの、現実にそれが何人であるかまで明確にされることは必ずしも必要ではない」と判示されている。
確かに、甲各号証をみれば、請求人(全国農業協同組合連合会)の名においてキャベツの取引がされてきた訳ではないが、平成2年頃から引き続き使用されている段ボール箱(甲第5号証ないし甲第13号証)には、引用商標とともに「岩手県経済連」あるいは「JA全農いわて」の表示がなされており、この「岩手県経済連」あるいは「JA全農いわて」の表示は、請求人の地方組織(その前身を含む)を表すものであるから、結局、引用商標は、キャベツの流通段階において、請求人らの業務に係る商品を表す商標として使用され、取引業者の間においても請求人らの業務に係る商品を表すものとして認識されてきたものというべきである。
(ウ)被請求人は、岡食、オカショク及び味楽の従事者として、YR青春及びその後継品種であるYR青春2号の種苗をもとに西根町内で生産されたキャベツの特色に早くから目をつけ、昭和60年頃以降、該キャベツを素材とする浅漬等の商品を次々と開発し、「春みどり」「YR青春」「YR青春2号」「いわて(岩手)春みどり」といった本件商標又はそれに類似する商標を付して生協等を通じて22年間の長きにわたって販売してきた実績を有す旨主張している。
しかしながら、被請求人も主張しているように、被請求人は、キャベツを素材とする加工食品の製造・販売を業としてきたのであって、キャベツの生産農家でもなければ、キャベツ等の野菜の専業取引業者とも認められない。しかも、被請求人は、キャベツの浅漬等の商品に「春みどり」「YR青春」「YR青春2号」「いわて(岩手)春みどり」等の名称を付して販売しているが、それらの名称が採択された経緯は明らかではないが、前述した請求人の主張及び証拠からみれば、むしろ、被請求人は、請求人らが栽培し販売している「YR青春」あるいは「YR青春2号」によるキャベツ(商標としては「春みどり」あるいは「いわて春みどり」)を浅漬の原材料として使用するとともに、当該キャベツについて使用されている名称あるいは商標をキャベツの浅漬等の商品の名称(商標)としてそのまま採択したものと推認されるところである。
そうとすれば、被請求人がキャベツの浅漬等の商品に「春みどり」「YR青春」「YR青春2号」「岩手(いわて)春みどり」等の商標を永年にわたって使用してきたとしても、また、被請求人において、YR青春2号によるキャベツの商品価値を高めようとして本件商標の出願を行ったものであるとしても、そのことの故に、被請求人が「岩手県産キャベツ」を指定商品として「岩手春みどり」の商標を出願し、登録を受けるべき正当な立場にあったものということはできない。
(エ)被請求人は、「3 平成19年9月25日口頭審理における審尋及び請求人の弁駁に対する上申」において、「請求人が提出した甲第20号証ないし甲第96号証のバックデータのうち、甲第57号証及び甲第94号証と甲第95号証とについては、乙第90号証のデータと比較すると、岩手県よりの入荷量より超過になるため、データに信憑性がない」旨主張している。 しかしながら、甲第57号証は東京多摩青果株式会社のデータであって、多摩NT市場のものではなく、また、甲第95号証は、甲第94号証の会社の支社と認められるから、甲第95号証のデータに甲第94号証のデータが含まれるものとなり、結局豊島市場のデータは甲第95号証のみといえるものであるから、そもそも「請求人が主張する岩手県よりの入荷量より超過する」ことにはならず、この理由をもって、請求人の前記証拠に信憑性がないとはいえない。
また、被請求人は、乙第90号証において「東京市場全市場に対しても甲号証を信用しても全国よりの入荷に対して、2.1%に過ぎない。又入荷時期は1年のうち3ケ月から4ケ月です。」旨主張している。
しかしながら、ここで比較の対象としている請求人が提出した甲第26号証、甲第40号証、甲第57号証、甲第52号証、甲第64号証、甲第76号証及び甲第94号証は、請求人がバックデータを提出できるもののみのデータに止まるものであるから、これらのみと比較して、取引量が少ないことを理由に請求人の引用商標の周知性がないと判断することはできないものである。同様に、乙第99号証及び乙第100号証の内容についてみるに、乙第99号証は、横浜中央卸売市場のデータであるのに対し、ここで比較の対象としている甲第27号証は横浜丸中青果株式会社のデータのみ、乙第100号証は、宇都宮中央卸売市場のデータであるのに対し、ここで比較の対象としている甲第23号証は宇印宇都宮青果株式会社のデータ及び甲第68号証及び甲第69号証は東一栃木青果株式会社のデータのみであって、前記のとおり、請求人がバックデータを提出できるものデータのみをあげ、この数値と比較して、取引量が少ないことを理由に、請求人の引用商標の周知性がないと判断することはできない。
(オ)被請求人は、「3 平成19年9月25日口頭審理における審尋及び請求人の弁駁に対する上申」において、被請求人は、昭和60年から本件商標を付して「岩手県産キャベツ」を販売してきている事実を証する書面を提出することはできるかについては、「昭和56年頃より岩手県西根産『朝もぎキャベツ』『春みどり』で売り出していた。昭和56年7月コープメイト仙北市場が開設と同時にテナントとして入り、数量は一日置き位との記憶ですが、朝もぎキャベツ『春みどり』として、閉鎖になるまで、毎年6月から10月頃まで生キャベツを販売してきたことが判明致した。いわて生協の総務部に行き、テナント出店、朝もぎ野菜他浅漬等を売っていた証明を頂いてきた。(乙第82号証)又、毎年2月から6月までは、千葉県産キャベツ『千葉春みどり』として、ダンボールに印刷してあるのを記憶している。」こと、及び「コープメイト仙北店の岡食テナントにて、昭和56年頃より『春みどり』を売っていたことと『春みどり』の命名についての岡田了子の陳述書」(乙第83号証)、「昭和56年頃より契約栽培農家より、生『キャベツ』を引取り配送し、宮古丸新スーパーで生キャベツ『春みどり』を売っていた内容の古川静男の陳述書」(乙第84号証)、及び「平成元年より、コープメイト仙北店・中三デパート『あじさいや』、又土日ジャンボで、生キャベツ『春みどり』を販売していたこと(乙第85号証)」がある旨述べているが、本件商標は「岩手春みどり」あって、「春みどり」ではない。
(カ)以上の被請求人の主張は、いずれも採用できない。
(5)むすび
以上のとおり、本件商標は、本件商標の登録査定時において、既に請求人らの業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた「いわて春みどり」の商標と類似する商標であって、引用商標の使用対象商品である「岩手県産キャベツ」と同一の商品について使用をするものといわなければならない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲 引用商標(色彩については参照のこと。)


審理終結日 2007-12-11 
結審通知日 2007-12-17 
審決日 2007-12-28 
出願番号 商願2004-57758(T2004-57758) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (Y31)
T 1 11・ 271- Z (Y31)
T 1 11・ 222- Z (Y31)
T 1 11・ 25- Z (Y31)
最終処分 成立  
前審関与審査官 林 栄二 
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 津金 純子
小畑 恵一
登録日 2005-03-18 
登録番号 商標登録第4847162号(T4847162) 
商標の称呼 イワテハルミドリ、ハルミドリ、シュンミドリ 
代理人 原山 剛三 
代理人 丸岡 裕作 
代理人 岡村 信一 

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