• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008890041 審決 商標
無効2007890021 審決 商標
無効2007890022 審決 商標
無効2007890020 審決 商標
無効2008890042 審決 商標

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z05
管理番号 1181267 
審判番号 無効2007-890024 
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-28 
確定日 2008-07-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第4547582号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4547582号の指定商品中「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4547582号商標(以下「本件商標」という。)は、「イブウイズ」及び「IBWITH」の文字を上下2段に横書きしてなり、平成13年3月7日に登録出願され、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,失禁用おしめ」を指定商品として、平成14年3月1日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第42号証(枝番を含む。)及び資料1を提出している。
1 請求の理由
(1)本件商標について
(ア)本件商標は、請求人が昭和60年(1985年)以来「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について長年使用し著名となっている商標「イブ」と要部を共通にし、請求人の著名商標及び著名商品との関連性ないしは共通のイメージを需要者にアピールするものであって、少なくとも、その指定商品中の「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」については、商標法第4条第1項第15号に規定する著名商標と出所の混同を生じるおそれのある商標(狭義及び広義の混同)に該当するものである。
(イ)本件商標は、その構成どおりに発音するときは「イブウイズ」の称呼が生じる。しかしながら、「イブ」と「ウイズ」の結合については何ら必然的関連性を有するものではなく、むしろ請求人の商標「イブ」が市場で著名商標として広く認識されている事実との関係でみるならば、本件商標の要部は「イブ」の部分にあるというべきである。
「ウイズ」の語は、一般に「(何か)と一緒に、(何か)と共に」といった意味で用いられる用語であり、これを本件商標について見てみるならば、「『イブ』と一緒に、『イブ』と共に」といったような意味合いが生じる。また、発音上においても「イブ」の発音の後に、一呼吸おいて「ウイズ」を発音する形となる。
したがって、本件商標は、その構成全体が不可分一体の必然性を有するものではなく、市場で「イブ」の著名性が確立している事実に照らして考えるときは「イブ」の部分が強い識別力を発揮する商標といわねばならない。
(ウ)本件商標の如く、「イブ」を主要部とし、これに「イブ」を修飾ないしは強調するような「ウイズ」の語を付加してなる商標は、需要者に対し請求人の著名登録商標との関連性、共通性をアピールするものであり、ましてやかかる商標が請求人の著名商標が使用されている商品と同一の商品について使用される場合には、需要者に対し請求人の著名商標、著名商品との関連性を強く印象付けるものであって、本件商標の実質的要部は「イブ」にあるものといわねばならない。
したがって、かかる構成よりなる本件商標が著名商標「イブ」の使用に係る商品と同一又は類似の商品に使用されるときは、需要者に対し、請求人の著名商標、著名商品との関連性ないしは共通のイメージをアピールするものであり、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当する。
(エ)特許庁が定める「商標審査基準」においても、他人(請求人)の著名商標に他の語を結合させてなる商標については、原則として他人の著名商標に「類似」(第4条第1項第11号)し、これと「混同」(第4条第1項第15号)を生じるおそれのある商標として扱われるものとされている(甲第18号証の1ないし3)。
(オ)事実、本件商標は、被請求人が使用許諾を与えたと思われる沢井製薬(株)によって(ただし、商標登録原簿上においての使用権は登録されていない)、請求人の著名商標「イブ」が用いられているのと同じ「解熱鎮痛剤」に使用されるていることが判明した。
甲第19号証の1ないし3は、「薬務公報」(業務公報社発行)の写しであるが、甲第19号証の1から明らかなように、沢井製薬(株)は平成15年2月14日に本件商標を「解熱鎮痛剤」について用いて販売すべく販売承認を得ている。
さらに、被請求人は、これ以外にも請求人の著名商標「イブ」を含んでなる4件の登録商標(「イブフィット/IBFIT」、「イブレスト/IBREST」、「イブフィックス/IBFIX」、「イブアップ/IBUP」)を有しているが、「イブフィット/IBFIT」を除く残りの3件についても沢井製薬(株)が「解熱鎮痛剤」についての販売名として承認を受けており(甲第19号証の1及び2)、「イブレスト/IBREST」についてはすでに沢井製薬(株)により「解熱鎮痛剤」について使用開始がなされている。
加えて、問題なのは、被請求人は、本件商標を含む上記4件の商標について、東亜薬品(株)に使用許諾を与えたとみえ、東亜薬品(株)が本件商標及び上記4件の商標につき「総合感冒薬」の販売名称として承認を得ている(甲第19号証の3)。
(カ)しかしながら、かかる行為は、請求人が長年の営業努力で築き上げた著名商標「イブ」の信用に乗じ、これと類似の商標を用いることによって著名商品との共通のイメージにて需要者にアピールすることを狙ったものであって、著名商標の信用を保護する商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(2)請求人が引用する著名登録商標及びその使用実績と宣伝広告について
(ア)請求人が引用する著名登録商標は、次のとおりであり、以下、これらを総称して単に「引用商標」ということがある。
・登録第1598640号:「イブ/EVE」、旧第1類(甲第2号証)
・登録第3065022号:「イブ」、第5類(甲第3号証)
・登録第3065023号:「EVE」、第5類(甲第4号証)
また、請求人は、引用商標以外にも次の登録商標を所有している。
・登録第3065024号:「イブ/IB」、第5類(甲第5号証)
・登録第2468015号:「イブエース」、旧第1類(甲第6号証)
・登録第2468016号:「EVE ACE」、旧第1類(甲第7号証)
・登録第1598641号:「エスタックイブ/S.TAC EVE」、旧第1類(甲第8号証)
(イ)引用商標を使用した商品は、「鎮痛・解熱剤」について昭和60年(1985年)12月に販売開始(甲第9号証の1及び2)されて以来、今日まで継続して販売され、需要者より好評を得た人気商品となっている。その商品形態は請求人製品目録抜粋(甲第11号証の1及び2)に示すとおりであり、今日においては多数販売されている同業他社の「鎮痛・解熱剤」の中でも日本のトップ4に入る商品となっており、2003年現在におけるシェアは11.9%で、かかる商品の年商は2003年度で約59億円(小売価格ベース)に上っている(甲第10号証)。
なお、2005年度のシェアは第3位(甲第20号証)で、市場で500種を超える「鎮痛・解熱剤」の中にあってトップ3にランクされる商品となっている。請求人の「イブ」が如何に著名であるかを客観的に裏付けるものである(市場に存在する500種を超える鎮痛・解熱剤については甲第21号証参照)。
(ウ)請求人の登録商標「イブ」に対する宣伝広告状況は次のとおりである。
請求人が登録商標「イブ」を用いて「鎮痛・解熱剤」の販売を開始したのは、昭和60年(1985)12月であるが(甲第9号証の1及び2)、その販売開始直後の昭和61年1月より、週刊誌、テレビ、新聞等で大々的宣伝広告を行った(その一例は、甲第22号証ないし甲第25号証)。以後、様々な形態による宣伝広告が今日まで継続して行われてきているのである。
請求人が販売開始以来、「鎮痛・解熱剤」の宣伝広告に費やしてきた費用については次に示すとおりである。すなわち、昭和61年(1986年)は「鎮痛・解熱剤」「イブ」の販売開始の事実上の初年度であるが、この年に費やした宣伝広告費だけで6億7900万円に上っている。そして、平成7年(1995年)までの10年間に費やした費用は、実に30億5200万円に上り(甲第26号証)、平成10年から平成15年の6年間では5億円超の宣伝広告費を費やし(甲第12号証)、販売開始以来の宣伝広告費は数十億円に上り、今日に至るまで「イブ」の著名性を維持してきたのである。
(エ)さらに、請求人は、「総合感冒薬」に関して登録商標「エスタックイブ/S.TAC EVE」(甲第8号証)を使用し、平成4年より販売している。請求人の当該「総合感冒薬」の商品形態は、請求人製品目録抜粋の甲第13号証の1及び2に示されるとおりであるが、特に、「イブ」の部分を強調した使用態様を行っている。
当該総合感冒薬も、同業他社より数多く販売されている総合感冒薬の中にあっても、需要者に対し最も人気ある商品の一つとして知られていることは上記「鎮痛・解熱剤」の場合と同様である。
したがって、「総合感冒薬」について単に「イブ」といえば、請求人の上記総合感冒薬を指すものとして認識されており、現実に薬局等で「『イブ』を下さい」といえば、何らの説明も要せず、直ちに請求人の「鎮痛・解熱剤」としての「イブ」、「EVE」、あるいは「総合感冒薬」の「エスタックイブ/S.TAC EVE」を示すものとして理解される状況となっているのである。
(3)特許庁における「イブ」の著名性の認定
請求人の使用する登録商標「イブ」が「薬剤」について著名となっていることから、「薬剤」に関して、「イブ」の発音を含む商標が数多く出願される状況にある。これは「イブ」が2文字かつ2音という短い構成よりなるため、他の語と組み合わせることにより、一見「イブ」と非類似の商標のように見えるからである(本件商標もその例である)。しかしながら、一旦登録され、実際の使用の段になると、本件がそうであるように、そのほとんどが「鎮痛・解熱剤」か「総合感冒薬」について使用されるのが実情である。
以下は、登録後、請求人からの異議申立てあるいは無効審判により、特許庁において請求人の著名商標と混同のおそれがあるとして登録が取り消され、あるいは無効とされた事案である。
(ア)「イブ」の語を含み「薬剤」を指定商品として登録された「恵快イブ」に対し請求人が異議申立てをしたところ、特許庁は、請求人の商標「イブ」は「鎮痛・解熱剤」に関し著名であることを認定し、登録を取り消している(甲第14号証)。
(イ)「イブ」、「IBU」の語を含み「ホワイトイブ/WHITEIBU」として構成された商標が「薬剤」を指定商品として登録されたが、かかる登録商標に対する無効審判において、特許庁は、請求人の登録商標「イブ」についての著名性を認め、かかる商標登録を無効としている(甲第15号証)。
(ウ)さらに、「オムニンイブ」、「オール・イブ」、「ツーシンイブ」の各登録商標についても、特許庁は請求人の登録商標「イブ」についての著名性を認め、これらと混同のおそれがあると認定し登録を無効としている(甲第16号証及び甲第17号証)。
(エ)また、「イブペイン」としてカタカナで登録を受けながら、使用の実際においては需要者に対し、請求人の著名商標「EVE」との関連性ないしは共通のイメージをアピールするために、パッケージに「EVEPAIN」を大きく表示して「解熱鎮痛剤」を販売した業者に対しては登録商標の不正使用として不正使用取消審判を請求し、この審決に対する審決取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起したところ(平成18年(行ケ)第10375号)、平成19年2月28日に判決が下された(甲第27号証)。
知財高裁における上記判決は、請求人の登録商標「イブ」、「EVE」についての著名性を明確に認定し、さらにかかる著名性を考慮し、著名商標をそっくり含んでなる商標「EVEPAIN」については、著名商標の商標権と何らかの関係がある者による商品であるかの如く想起せしめ、著名商標権者の商品との間で出所の混同を生じるおそれがあるといわねばならないとし、これと異なる認定の特許庁審決を違法として取り消している。
(4)最高裁判決、高裁判決にみる「混同のおそれ」の認定
(ア)最高裁は、平成10年(行ヒ)第85号に関する判決(平成12年7月11日言渡)にて、商標法第4条第1項第15号(著名商標の保護)にいう「混同のおそれ」の解釈について判示している。
この判決の趣旨は、他人の著名な商標と同一、類似の商標を、その著名な商標が使用されている商品、役務等(以下「商品等」という。)に使用した場合に、その著名な商標権者の商品等との間で現実に混同が生じるおそれがある場合(狭義の混同)のみならず、著名商標の商標権者との間に何らかの営業上の関係(親子関係であるとか関連企業であるとか)があるかのように誤信されるおそれがある場合(広義の混同)も含むというものである。
要するに、商標法第4条第1項第15号(著名商標の保護)は上記の「狭義の混同」及び「広義の混同」の両方について規定しているとみなければならないという趣旨である。
(イ)これを本件についていうならば、請求人の登録商標「イブ」は「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」についてすでに著名商標となっていることは客観的事実であるから、これと類似する商標を上記「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」について使用する場合(狭義の混同)のみならず、他の関連商品(すなわち、上記以外の「薬剤」)についても使用するとき、請求人の業務との関係で関連を想起せしめるおそれ(広義の混同)があるという趣旨に解釈できるものである。
よって、少なくとも、本件商標はその指定商品中「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」については、商標法第4条第1項第15号に基づき無効とされなければならない。
(5)引用商標の著名性を認め、自発的に使用を中止した例
引用商標が請求人の「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」において著名であるため、これに不正に乗ずべく、「イブ」に他の語を結合させた商標を出願する者が後を絶たず、一旦登録を受けるや、実際の使用の段になると「イブ」の部分を殊更強調し、しかも引用商標が用いられているのと同種の「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」に使用される例が後を絶たないのが実情である。
これらに対しては、請求人は内容証明の送付、訴訟の提起、その他の文書により使用中止、名称変更等を申し入れた結果、これまでに数社は引用商標の著名性を理解し、名称変更及びパッケージ変更等を約束し、あるいは請求人との間において「鎮痛・解熱剤」、「総合感冒薬」についてはそれら商標を使用しない旨の「覚書」の締結を行っている。これは、「薬剤」等についてはその開発から市場で需要者に信頼され、定着するまでには並々ならぬ営業努力が必要であることは同業者であれば十分理解できることを示した事例である。
しかしながら、被請求人は本件商標を含め「イブ」を含む4件の商標について、沢井製薬(株)には「鎮痛解熱剤」について使用許諾を与え、東亜薬品(株)に対しては上記5件の商標全てについて「総合感冒薬」に使用すべく、使用許諾を与えている(ただし、商標登録原簿上においては使用権は登録されていない)。しかし、かかる行為は形式的には登録商標の使用であるとはいえ、その実質においては他人の著名商標、著名商品の信用にあやかる行為と非難されてもいたしかたない。
実際問題として、例えば被請求人が所有する登録商標で「男性用ヘアクリーム」について使用されている「ウーノ/Uno」があるが、これに対して、もし、被請求人と無関係の第三者が同じ「男性用ヘアクリーム」について「ウーノアップ/UNOUP」、「ウーノレスト/UNOREST」 、「ウーノフィックス/UNOFIX」、「ウーノウイズ/UNOWITH」といったような商標を使用して販売した場合を考えてみれば、請求人の主張が理解し得るものと考える。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標は、請求人の著名商標「イブ」に類似し、これと混同を生ずるおそれがある商標であって、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものといわなければならないから、少なくともその指定商品中の「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」については、その登録を無効とされるべきものである。
2 第1弁駁
(1)被請求人の主張は主観的なものである。
(ア)被請求人は、答弁書において、引用商標は著名でない、引用商標と本件商標とは非類似であり、混同のおそれがないなどと主張するが、これらは何れも引用商標の著名性を正しく考慮したものではなく、独自の見解を前提として商標の類否、混同のおそれの有無等を主張するものであって客観性を欠くものといわねばならない。
例えば、「イブ」は「Ibuprofen」の「Ib」を示すものなどはその典型であり、もし、その必要があるならば、商品の成分を記述すべき箇所に「イブプロフェン配合」とすればよいことであって、商標として用いる以上、商標の使用としての評価、制約を受けるのは当然である。
(イ)また、引用商標は「イブ」と「EVE」とが一体として使用されることによって始めて特定されるものなどと、独自の主観に基づく主張をしているが、商標が認識されるのは「外観、称呼、観念」等の要素によってであり、視覚のみよるものでもなく、綴り方(スペル)だけによるものでもない。むしろ、最も簡易迅速な取引の場では称呼(発音)によって取引されているのであり、本件のような著名商標にあっては、薬局等で「イブ」と称呼すれば、請求人の「イブ/EVE」を認識する状況となっていることは客観的事実であり、称呼と綴りによって認識度が異なるものでもない。被請求人のかかる主張は、商品取引の場で商標がどのように機能しているかを無視した極めて主観的なものである。
(ウ)同様に、「イブ」と「ウイズ」は一体であるなどと主張するのも、すでに「イブ」が著名商標として存在している状況にあっては無理である。
何故ならば、本件商標は著名商標「イブ」と同じ商品分野で使用されるものであるが、その商品分野では「イブ」の2文字は著名商標として強い識別力を発揮しているものであって、一見「イブウイズ」と一連に構成されているようであっても「イブ」と「ウイズ」とが不可分一体とされるべき合理的理由もなく、「イブ」と「ウイズ」とが同価値ではないからである。
(エ)請求人は、審判請求書にて被請求人が「男性用ヘアクリーム」について使用している「ウーノ/Uno」という登録商標について、被請求人と無関係の第三者が被請求人と全く同じ「男性用ヘアクリーム」について「ウーノアップ/UNOUP」、「ウーノレスト/UNOREST」、「ウーノフィックス/UNOFIX」、「ウーノウイズ/UNOWITH」といったような商標を使用しても非類似と考えられるかどうかを述べた。
被請求人の主張によれば、これを「良し」とする考えととれるが、もし、実際にかような場面に遭遇したときにこれと異なる主張をするときは「禁反言」として法律上の主張が制限されるおそれがあることを自認すべきであろう。
(オ)さらに、第三者の登録商標ではあるが、本件商標と同じく「総合感冒薬」について非常によく知られている商標に「ルル」というのがある。この「ルル」が審・判決にて著名商標と認定されたかどうかは不明であるが、もし、第三者が同じ「総合感冒薬」に「ルルフィット」、「ルルアップ」、「ルルレスト」、「ルルフィックス」、「ルルウイズ」といったような商標を使用することが許されるかどうかを考えてみれば、明らかに不合理であることがわかる筈である。
(2)著名商標の持つ著名度等の具体的状況が加味されていない。
引用商標がすでに薬剤関係で著名商標として存在している以上、これを一部に含んでなるような商標が同じく薬剤関係に使用されるときは、いくつかの審・判決例で示されているように、著名商標の持つ著名度、著名商標が使用される商品との同一、類似性、その商品についての取引者、需要者層の同一性等の具体的状況を考慮して判断しなければならないのであって、それら具体的状況を抜きにした定型的な「外観、称呼、観念」といった要素からだけの類否判断では抽象的にすぎ、著名商標との関係で必要とされる具体的判断要素が加味されたことにはならない。
したがって、定型的な判断で登録されたからといって具体的な混同のおそれがないということにはならないのである。商標法における第4条第1項第11号と同項第15号との違いもここにある。
(3)被請求人の掲げる既登録例は本件での根拠とはならない。
以上のことから、被請求人が非類似主張の根拠として上げている登録例(乙第1号証ないし乙第29号証)をもって非類似の根拠や混同のおそれがないことの根拠とはなり得ないのである。
商標法において商標の類似、混同に関する規定としては、商標法第4条第1項第11号と同項第15号がある。前者における商標の類似、非類似、混同のおそれの判断では、対比される商標の周知・著名性、使用商品の同一、類似性、需要者層の同一、類似性等の個別事情は加味しておらず、一般的かつ定型的な類似、混同を想定した判断であるのに対し、後者における判断では、比較されるべき商標の持つ著名度、使用される商品の同一、類似性、需要者層の同一、類似性等の具体的事情を加味し、さらに著名商標の権利者と何らかの関係がある者による商品であるかの如く関連性を想起せしめるような事情を総合的に判断して行うものである(資料1の最高裁判決、甲第18号証の1及び2の特許庁審査基準参照)。
(4)本件商標は引用商標が著名となって8年も後に出願されたもの。
さらに、被請求人が非類似の根拠として上げる登録例は、被請求人が述べるように、29件の商標のうち乙第1号証ないし乙第5号証までの5件の商標は、請求人の引用商標が使用開始(昭和60年12月)される前に出願されているが、それ以外の24件の商標は請求人が大々的に「鎮痛・解熱剤」について使用を開始した後に出願されたものである。
したがって、請求人の引用商標との関係での具体的状況を加味し、類否判断されたものでもなく、混同のおそれの有無を判断されたものでもない。
よって、著名商標との関係で求められる具体的状況を前提とし、上記知財高裁判決及び特許庁審決の趣旨に沿って判断されるときは、引用商標が著名性を確立してから8年以上も後に出願され、しかも、著名商標が用いられている商品と同一、類似の商品に使用されるような本件商標は、請求人の著名登録商標と類似し、これと混同のおそれがある商標といわねばならない。
被請求人の主張は、単に「イブ」を含む他の登録例が存在するといった点に依拠しているが、そのこととそれら商標が請求人の著名商標が用いられている商品と同一、類似の商品に用いられるときに、混同のおそれがないかどうかとは全く異なることであり、この点における被請求人の主張は本件においての合理的根拠とはならない。
(5)著名商標との類似、混同に関する審判決例
(ア)甲第29号証ないし甲第35号証として上げるのは、薬剤分野で著名な登録商標「メバロチン」、「MEVALOTIN」との関係で、一旦登録はされたものの、著名商標の持つ具体的事情を加味して判断するときは、これと類似し、あるいはこれと混同のおそれがあるものとして登録後において無効とされた審判決例であり、本件審判における請求人の主張と軌を一にするものである。
(イ)上記の審・判決例から明らかなように、審査の段階では、形式的かつ定型的判断である「外観、観念、称呼」といった要素から判断され(主として第4条第1項第11号の観点)登録されることがあっても、登録後にある商標がある商品について大々的に使用され、その結果高い著名性を獲得したときは、その著名商標の持つ類似の幅、混同のおそれの範囲はその著名度に比例して拡大するものであり、これが第4条第1項第15号の存在意義であり、具体的状況に沿って類似、混同の判断をし、形式的判断による欠陥を個別的に補充・修正しているのである。
(ウ)引用商標は複数の審判決で認められた著名商標であり、これをその主要部として含む本件商標が同一、類似の商品に使用されるときは、明らかに引用商標と類似し(第4条第1項第11号)、これとの関連性を想起せしめ、出所について混同を生じるおそれ(第4条第1項第15号)があるものといわねばならない。
3 第2弁駁
(1)本件商標の使用について
(ア)被請求人は、「イブウイズ/IBWITH」は、非ステロイド系消炎鎮痛剤であるイブプロフェン(ibuprofen)に由来して命名したものであると述べている。
しかし、被請求人の本件商標採択の主観的意図が何であれ、被請求人が「イブウイズ/IBWITH」を商標として採択し、商標として使用する以上、その使用の適否は商標法上の評価を受けるのは当然である。
したがって、ここで本件商標採択に当たっての主観的意図を述べたとしても商標としての使用の適否を論じる上では意味をなさない。
次に、被請求人は、「イブ」を含んでなるa.b.c.d.e.f.の6件の商標を有しているとし、これらは被請求人の「イブプロフェン製剤名称」であると述べ、あたかも「イブ」が「イブプロフェン」の正式略称か、「イブプロフェン」を指す用語として一般に認識されている語であるかの如く述べている。
しかし、「イブ」が「イブプロフェン」の正式略称でもなければ、そのようなものとして一般人に認識され使用されている事実はない(もし、そうでないとするならば、その客観的事実を提出されたい)。
「鎮痛・解熱剤」の分野において、「イブ」と言えば、一般需要者は市場で著名商品となっている請求人の「イブ/EVE」の名称で販売される「鎮痛・解熱剤」を認識するのであって、化学物質の「イブプロフェン」、「IBUPROFEN」を想起するものではない。
したがって、一般需要者に対し著名となっている商標が存在する場合において、それをそっくり含んでなる商標をその著名となった商品に用いることが、商標法が保護対象とする商標権者の業務上の信用の保護と需要者の保護とに繋がるものかどうかの観点から論ずべきである。
よって、この点での被請求人の主張は単に自己に都合の良い便宜的主張であって、客観的事実に基づいていないばかりか、商標としての適否を論じる主張としては不適当である。
(イ)被請求人は、「イブ」を含む6件の商標中「イブウェル/IBWELL」に対しては請求人によって無効審判が提起されていないとし、これをもって請求人がこれに対しては有効なものと認めているものと推測されると主張している。請求人が当該商標に対し無効審判を請求しなかったのは、残念ながら、無効審判請求に関する除斥期間としての5年間が経過したためである。
しかしながら、その後の被請求人の動向を監視していると、被請求人は、他の「イブ」を含む上述の商標につき、次々と他社に使用許諾をし、それら使用許諾を受けた者が、請求人の著名商標が用いられている商品と同一の「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」に使用しようとの挙に出ており、もはや容認し得ないから、上記商標を除く他の5件について指定商品中の「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」についてのみ無効審判を提起したものである。
請求人にとっては「イブウェル/IBWELL」についても全く同様であり、被請求人が将来的には「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」についは他の同業者の多くがしたように、その使用を自粛されることを期待している。
(ウ)被請求人が使用開始した4件の商標、すなわち、「イブレスト/IBREST」、「イブウェル/IBWELL」等を「解熱鎮痛錠」に使用したが、混同を生じたことはないと述べている。
被請求人は、「混同」の意味を、購入者から苦情、返品等が寄せられたことがない、といった狭い意味での「現実の混同」を主張しているものと思われる。しかし、商標法上における「混同」、それも他人の著名商標との関係での「混同」の意味については最高裁判決(資料1)及び異議決定及び審決(甲第14号証ないし甲第17号証、甲第28号証)、請求人の引用商標に関する知財高裁判決(甲第27号証)、及び特許庁「商標審査基準」(甲第18号証の1ないし3)等で明らかにされているように、現実の混同がなければ混同がないというものではない。
他人の周知、著名となった商標と類似商標を用いて、需要者に対し、その著名商標との間での何らかの関連性や共通のイメージをもってただ乗りすることも含まれるのであり、それ故に特許庁「商標審査基準」においても他人の著名商標をその構成に含んでなる商標については、原則として著名商標と類似し、混同のおそれがあるものと推測するとされているのである。
請求人が本件審判で主張する「混同」のおそれもかかる意味を踏まえ、少なくとも著名商標が使用されている「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」についての無効を主張しているのであって、「現実の混同」が被請求人に寄せられたか否かといったような狭い意味での「混同」を主張しているものではない。
(2)「EVEPAIN」商標に関する知財高裁判決について
(ア)被請求人は、請求人の「イブ/EVE」を著名商標と認定した知財高裁判決に対し、これは英文字の「EVE」を著名と認めたものであって、カタカナの「イブ」の著名性を認めたものではない、などといった奇妙な主張をしている。当該知財高裁判決は、請求人が永年「鎮痛・解熱剤」について商標として用いてきた商標「イブ/EVE」につき、証拠上、平成5年頃には著名性を取得したとものと認定されると判示したものであって、何ら英文字「EVE」とカタカナ「イブ」とを分けて別々に認定したものではない。被請求人の主張は誠に奇妙というほかない。
(イ)被請求人は、請求人が商標として使用してきたのは英文字の「EVE」であって、カタカナの「イブ」は英文字の「EVE」の「発音表記」として使用されてきたものであるなどと述べている。既に述べたように、需要者が商標を認識するのは、文字からのみではなく、その商標の「外観、称呼、観念」等の手段を通じてであり、これは商標実務界で確立されている商標の観察方法である。むしろ実際の取引においては、需要者は単に「イブ」と称呼することにより請求人の「鎮痛・解熱剤」を購入するのであって、英文字かカタカナかにより認識度が異なるものでもなく、ましてや異なる商品を認識するものでもない。
何れにせよ、ここでの被請求人の主張も奇妙というほかない。しかし、被請求人においても多数の「英文字」と「カタカナ文字」の併記からなる登録商標を使用していると思われるが、被請求人の主張に従うときは、カタカナ部分は単なる「発音表記」であるから、他人がこれを使用しても商標としての問題が生じないかの如くにもとれる。かかる主張を法律上の主張として主張する以上、将来自らの商標権を行使する上においてもかかる主張が「禁反言」として及ぼされる可能性があることを自認すべきである(例えば、本件審判で引用した被請求人の登録商標「UNO/ウーノ」なども、商標は「UNO」であり、「ウーノ」は「発音表記」であって、商標ではないとの主張を認容し得るかどうか考慮すべきである)。
(ウ)被請求人は、知財高裁判決は、カタカナの「イブ」のみを取り上げて著名性を認定したものではないなどと述べている。被請求人のかかる主張についても既に述べたとおりである。
要するに、商標は需要者に対して提供する商品の名称であり、需要者はその商標を「外観、称呼、観念」といった手段を通じて認識するものであり、そのうちの何れかに限られるものではない。すでに述べたように、実際の取引においては、需要者は単に「イブ」と発音することに請求人の「鎮痛・解熱剤」を購入しているものであり、英文字「EVE」を示さない限り請求人の「鎮痛・解熱剤」を認識できないというようなものではない。
したがって、ここでの被請求人の主張は商標が如何にして需要者に認識されるかの現実を考慮していない議論であって、著名商標に対する需要者の認識を無視した議論である。
(エ)被請求人は、本件商標「イブウイズ/IBWITH」は「ibuprofen」の「IB」から創作されたもので「EVE」とは関係ないなどと述べている。しかし、この主張も上述したとおり、商標採択に当たっての自己の主観的意図を述べるだけであって、商標が商標として使用される以上、商標法上の観点から評価を受けるものであり、その採択に当たっての主観的意図はその商標の使用の適否に影響を及ぼすものではない。
(オ)被請求人は、本件商標は「イブウイズ/IBWITH」と一体としてのみ認識され、分断されることはないと主張している。
もし、本件商標が請求人の著名商標が用いられるのと異なる商品に使用されるのであれば、請求人としてもかかる主張を全く無視するものではない。しかし、本件において問題なのは「鎮痛・解熱剤」について「イブ」と言えば、すでに請求人の「鎮痛・解熱剤」を指すものとして著名となっている「イブ/EVE」が存在するにも拘らず、この「イブ」を主要部として、これに「レスト」、「アップ」、「フィックス」、「フィット」、「ウイズ」等の語を結合させた商標を採択し、しかもこれを請求人の著名商標が使用されているのと同一(類似)の商品に使用を開始し、さらに、他社にも使用許諾をするなどして商品販売の拡大を意図している点にあるのである。
したがって、かかる状況は放任し得ないものであり、少なくとも本件商標は請求人の著名商標が用いられる「鎮痛・解熱剤」と「総合感冒薬」については無効とされるべきであり、本件無効審判を請求したものである。
なお、同業者であって、「イブ」、「EVE」、「EV」等の語を含む商標を「鎮痛・解熱剤」及び「総合感冒薬」に使用した者のうち、これまでに10社程度はその使用を中止し、あるいは他の名称への変更等を行うなどして請求人の著名商標についての理解を示している。
さらに、後述するように、「イブ」、「EVE」等を含む商標について最近、商標権が放棄された例や、それらに関する出願が拒絶された例もある。以下に述べるのがその例である。この中には、被請求人がほかにも「イブ」を含む登録例が存在するとして主張する、乙第16号証、乙第24号証、乙第25号証、乙第28号証等も含まれている。
ア 商標権の放棄により抹消の例
登録第3260010号「イブオーレ」第5類
登録第3260011号「イブペイン」第5類
登録第4865812号「イブカット」第5類
登録第4865813号「イブスキット」第5類
イ 商標出願拒絶査定の例(全て第5類)
商標登録願2006-77626号「EVEAURE/イブオーレ」
商標登録願2006-77627号「EVESKIT/イブスキット」
ウ 近日中に商標権の放棄による抹消がなされるもの
登録第5008994号「イブパワー」第5類

4 第3弁駁
(1)被請求人の主張の誤り
被請求人のこれまでの主張の誤りは、「イブ」は、あたかも「イブプロフェン/Ibuprofen」の正式略称であるかの如き主張をし、これを基に、「イブ」を取り入れた構成からなる商標は「鎮痛解熱剤」や「総合感冒薬」について、何人も使用できるかの如く主張している点である。
「イブ」が「イブプロフェン/Ibuprofen」を指し、あるいはその正式略称であるかのような事実はどこにも存在しない。もしも「イブ」が「イブプロフェン/Ibuprofen」と同義であり、あるいは「イブブロフェン/Ibuprofen」の正式略称として使用されるものであるならば、先ず、その事実を客観的に示した上で上記主張を展開すべきであって、そうでない主張は単なる便宜的主張を超え、虚偽主張に近い。
(2)実際に市販されている主な「総合感冒薬」や「鎮痛解熱剤」において、「イブプロフェ/Ibuprofen」が配合されていることを示すために用いられている表示は下記の甲第36号証ないし第42号証(実際の製品パッケージの写真)に示すとおりである。
<イブプロフェン配合を表すための表示例>
(商標名) (商品) (製造・販売者)
ベンザブロックIP 総合感冒薬 武田薬品工業(株)
武田ヘルスケア(株)
(甲第36号証)
ルルアタツクIB 総合感冒薬 大洋薬品工業(株)
第一三共ヘルスケア(株)
(甲第37号証)
フオルチュアIB 総合感冒薬 東和製薬(株) (甲第38号証)
新ユアIB 総合感冒薬 ロート製薬(株) (甲第39号証)
コルゲンコーワIB 総合感冒薬 興和(株) (甲第40号証)
エクドランIB 鎮痛解熱剤 東和製薬(株) (甲第41号証)
ジキニンIP 総合感冒薬 全薬工業(株) (甲第42号証)
(3)上記に示されるように「総合感冒薬」や「鎮痛解熱剤」において、「イブプロフェン/Ibuprofen」が配合されていることを示す表示としては、パッケージ上に「商標名」とともに「イブプロフェン配合」と正確な表示をし、さらに「イブプロフェン」を強調するための表示として「IB」又は「IP」等の文字が使用されているのが実情である。
被請求人が主張するような、医薬品において「イブ」は 「イブプロフェン/Ibuprofen」を指すものであるとか、その略称を指すものとして用いられている事実はどこにも存在しない。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第30号証を提出している。
1 本件商標について
(1)本件商標は、片仮名文字の「イブウイズ」と英文字の「IBWITH」とを上下2段に表記した態様からなるものである。「IBWITH」、「イブウイズ」は、同じ書体、同じ大きさで横一連に表記された態様からなるものであり、「イブウイズ」、「IBWITH」と一連にのみ認識される商標であり、「IB」、「イブ」と「WITH」、「ウイズ」とに分断されるべきものではない。また、本件商標は、「イブウイズ」と何らの澱みもなく、円滑に一連に称呼することができるものであり、請求人が主張するような「イブ」と「ウイズ」とが、一呼吸おいて発音されるようなものではない。本件商標は、全体を一連に理解すべきものであって、「イブ」に要部があるとはいい得ないものである。
(2)請求人は、「IBWITH」及び「イブウイズ」からなる本件商標について、「イブ」と「ウイズ」に分断して認識されると主張し、「『イブ』と一緒に、『イブ』と共に」との意味合いを感得させると主張する。しかしながら、本件商標は、非ステロイド系消炎鎮痛剤として広く知られているイブプロフェン(ibuprofen)の「ib」と「with」とを結合してなる造語であり、特定の意味観念を生じないものであって、請求人の主張するような意味合いを理解させるものではない。請求人は、殊更に「イブ」の部分を括弧で括って強調し、「イブ」と関連した意味合いがあるかの如くに主張するにすぎない。
(3)請求人は、「イブ」は著名商標であり、本件商標は著名商標「イブ」を含むものであるから、引用商標と類似し、或いは出所の混同を生ずると主張する。しかしながら、後述するように、請求人が使用している商標は、英文字の「EVE」とその発音表記としての「イブ」であり、英文字と関連しない「イブ」のみが独立して使用され、著名になっているとは到底いい得ないものである。
したがって、「EVE」を含んでいない本件商標には、請求人の主張のような無効理由は存在しないものである。
2 引用商標の著名性について
(1)請求人は、片仮名の「イブ」が著名である旨主張するが、誤りである。請求人が「鎮痛・解熱剤、総合感冒薬」について使用している商標は、片仮名のみの商標ではなく、英文字の「EVE」とその表音文字としての「イブ」であり、「EVE」と「イブ」 は、表裏一体の関係において使用され、需要者、消費者に知られているものである。
このことは、請求人が提出した当該商標の使用態様を示す甲第9号証、甲第11号証及び甲第22号証ないし甲第25号証からも明らかである。これら証拠に示されている使用の態様は、英文字の「EVE」を極めて大きく目立つように表し、片仮名の「イブ」は英文字の発音を示すものであるかのように、「EVE」の横或いは下に非常に小さな文字で表してなるものである。また、甲第11号証に示されている「イブA錠」においても、「EVE」が大きく表記されているのであり、「イブ」は「EVE」の表音表示として表示されていると理解される態様であるにすぎない。さらに、「工スタックイブ」は、「イブ」の部分が「工スタック」の部分より若干大きく表示されてはいるが、依然として一連の表示と理解される態様である。しかも、この「工スタックイブ」は、前記「EVE/イブ」商標が使用されている解熱鎮痛剤ではなく、風邪薬であり、商品が異なるものである。したがって、取引において商品の混同を回避する観点からしても、「工スタックイブ」 が単に「イブ」と把握されて取引されることはないというべきである。
以上のとおり、請求人の提出した証拠によっては、「イブ」は「EVE」との関連において一体的に理解される態様で使用されているものであり、片仮名の「イブ」のみが独立して使用された事実は認められず、ましてや片仮名の「イブ」のみが、消費者、需要者に広く知られていたことを示す証拠はない。
(2)請求人が使用してきた商標「EVE」は、「イブ」の発音の他、「エベ」「エバ」等の発音も生ずるが、請求人は「EVE」の発音を「イブ」に特定するために、表音として片仮名の「イブ」を「EVE」とともに用いてきたものであり、「イブ」と「EVE」とは、一体の関係において請求人により使用され、同時に消費者、需要者に理解されていたものである。また、「イブ」と発音する標章としては、「EVE」の他、「IB」、「IBU」等も存在し、請求人は同じ「イブ」の片仮名文字で特定される商標「イブ/EVE」と「イブ/IB」の登録商標を有しいるが、実際に使用しているのは「イブ/EVE」商標のみであり、「イブ/IB」商標ではない。片仮名の「イブ」だけでは、登録商標のいずれを使用しているかを特定することはできないものであり、英文字の「EVE」と共に使用することにより、いずれの登録商標を使用しているかを特定でき、他人からの不使用取消しも免れ得るものである。
(3)なお、付言すれば、請求人は、審判請求書において「請求人が引用する著名登録商標「イブ」は請求人により昭和60年(1985年)に使用を開始した」と述べているが、この当時の登録商標は「イブ」と「EVE」 を2段書きした商標であり、「イブ」単独ではないし、使用開始時の商標も前述したように「イブ」単独ではない。請求人の主張は、誤認に基づくものである。
請求人は、英文字の「EVE」 を前述したような態様で顕著に表記して使用してきたものであり、また、「イブ」を「EVE」と一体として使用することによって、単に「イブ」のみを使用したのでは「IB」、「IBU」若しくは「EVE」商標のいずれを使用しているのか、消費者、需要者に明らかにすることができないため、「EVE」と一体に使用することによって、商標を特定し商標としての出所識別性を発揮させているのである。そして、取引者・需要者においても「イブ」は英文字の「EVE」を表すものとして、一体に理解され、認識されているというべきであり、「イブ」は「EVE」を念頭におきつつ理解し、把握されるものである。
したがって、仮に請求人が主張するように「イブ」が著名になっているとしても、それは「EVE」と一体の関連において理解されるべきものであるから、「EVE」を含まない本件商標「IBWITH」、「イブウイズ」は、他人の著名商標を含むものでないことは明らかであり、請求人の主張する無効理由は成立しないものと思料する。
(4)請求人は、知財高裁の平成19年2月28日の「EVEPAIN」商標に関する判決を引用しているが、この判決は、片仮名文字のみからなる商標「イブペイン」を有している商標権者が、英文字の「EVEPAIN」商標を使用したことに対して、当該「EVEPAIN」商標は、「EVE/イブ」商標を含む商標であるから不正使用に該当するとしたものである。
本判決は、請求人の商標「EVE」が著名であることを認めて、「EVEPAIN」商標は「EVE」を含んでいると認定したものであり、片仮名文字のみからなる商標「イブペイン」を英文字の「EVEPAIN」に変更使用した点において、不正使用が認定されたものであって、「EVE」を含んではいない商標を対象とする判断でないことは明らかである。
請求人が使用してきた商標は、英文字の「EVE」及びその称呼としての「イブ」であり、「イブ」は英文字の「EVE」の発音表記として使用され、需要者、消費者に知られているものであって、このことは、知財高裁判決が「EVE」の欧文字と「イブ」の片仮名文字からなる引用商標を、「EVE」と「イブ」とをまとめて一体の関係でその著名性を認定していることからも明らかであり、片仮名文字の「イブ」のみを特に取り上げて周知性を認定しているものではない。
これに対し、本件商標は「ibuprofen」の「IB」から創作された言葉であり、「EVE」とは全く関連のないものである。したがって、本件商標は、「EVEPAIN」のように「EVE」と「PAIN」とに分断されるような必然性はなく、全体が一連に「イブウイズ/IBWITH」とのみ認識される商標であるので、「EVEPAIN」とは事案を異にするものである。
3 「イブ」を含む商標について
(1)「イブ」の部分を含む本件商標「IBWITH」、「イブウイズ」 は、非ステロイド系消炎鎮痛剤として広く知られているイブプロフェン(ibuprofen)の「ib」と「with」とを結合してなる造語であり、特定の意味観念を生じない一連不可分の商標であって、「イブ」若しくは「EVE」とは、外観、称呼、観念を異にする非類似の商標である。
本件商標の「IB」は、イブプロフェン(ibuprofen)の頭文字の(IB)に由来するものであるが、このようにibuprofenに由来する「IB」若しくは「IBU」或いはその表音表示である「イブ」、「イヴ」を語頭部に有した商標は、下記に示すように多数の商標が登録されている(乙第1号証ないし乙第29号証)。これらの商標は、「薬剤」を指定商品とし、「イブ」の部分を共通にするが、「EVE」を含まない商標であるため、「イブ」、「EVE」とは類似しない商標であるとして取り扱われているものである。

・「イブプロシン」(登録第1315334号:乙第1号証)
・「イブフラメン」(登録第1379776号:乙第2号証)
・「イブタント」(登録第1385520号:乙第3号証)
・「IBUPROCIN」(登録第1387657号:乙第4号証)
・「イブハーツ/IBUHEARTS」(登録第1593940号:乙第5号証)
・「IBUSTRIN」(登録第2220928号:乙第6号証)
・「イブプラミン/IBUPRAMIN」(登録第2226889号:乙第7号証)
・「イブプロール/IBUPROAL」(登録第2226892号:乙第8号証)
・「イブサンフェニル/IBSANPHENYL」(登録第2306656号:乙第9号証)
・「イブウェル/IBWELL」(登録第2538742号:乙第10号証)
・「イブレディ」(登録第2559055号:乙第11号証)
・「イブバランス」(登録第2559056号:乙第12号証)
・「イブステン」(登録第2598769号:乙第13号証)
・「イブフェン/IBFEN」(登録第3200390号:乙第14号証)
・「イブタッチ/IBTOUCH」(登録第3200391号:乙第15号証)
・「イブオーレ」(登録第3260010号:乙第16号証)
・「IBREX」(登録第4061042号:乙第17号証)
・「IBRAXION」(登録第4326842号:乙第18号証)
・「イブマイン/IVEMIN」(登録第4369490号:乙第19号証)
・「イブプロパワー」(登録第4683807号:乙第20号証)
・「イブウェル/IBWELL」(登録第4744950号:乙第21号証)
・「イブリサール」(登録第4827325号:乙第22号証)
・「イブプロアクト」(登録第4833409号:乙第23号証)
・「イブカット」(登録第48658l2号:乙第24号証)
・「イブスキット」(登録第4865813号:乙第25号証)
・「イブフレックス/IBUFLEX」(登録第4922761号:乙第26号証)
・「IBNIC/イブニック」(登録第4952835号:乙第27号証)
・「イブパワー」(登録第5008994号:乙第28号証)
・「イヴマリア」(登録第5001036号:乙第29号証)
(2)以上の登録商標のうち、乙第1号証ないし乙第5号証の商標は、請求人が使用を開始する前に登録されたものであり、請求人が有している登録商標「イブ/EVE」(甲第2号証)は、これらとは類似しない商標として登録されたものである。また、引用商標が、何時の時点において著名になったか、請求人の主張からは必ずしも明確ではないが、請求人が提出した甲第14号証からすると、遅くとも平成13年には著名になっていたと主張しているように推測されるが、かかる時点の後においても乙第20号証ないし乙第29号証の商標は、引用商標とは類似しない商標として登録されている。
このことは、「イブ」「IB」「IBU」を含む商標は、引用商標とは類似しないものであることが、甲第14号証ないし甲第16号証の異議決定若しくは無効審決の判断がされた後においても、変わりなく取り扱われていることを示すものに他ならない。
しかも、甲第14号証ないし甲第16号証において判断の根拠とした、「イブA錠」は上記甲第9号証、甲第11号証及び甲第22号証ないし甲第25号証の「EVE」商標の一変更態様にすぎず、「EVE」と同様に、「EVE」の部分を大きく目立つように表し、「イブ」を小さく表してなるものであってみれば、「イブ」単独が独立して使用されたとはいい得ないことは明らかであり、「イブ」は「EVE」と関連して使用され、関連して認識されているというべきものである。
4 その他の主張について
(1)請求人は、総合感冒薬について、単に「イブ」といえば請求人の商品を指すものとして認識されていると主張するが、薬局等において「イブを下さい」といったときには、「EVE」を念頭に置いて「イブ」と理解し、請求人の商品が特定されるにすぎないものであり、「イブ」、「IB」或いは「IBU」を含む他社の商品と混同されて、他社の商品が誤って渡されることはない。
そもそも、薬剤はそれが誤って取り扱われた場合、重大な事故を発生しうるものであってみれば、商品を特定する商標は需要者、消費者、取扱者のいずれにおいても極めて慎重に判断しているのであり、商標の一部の一致のみをもって商品を取り扱うことは通常ないものと思料する。しかも、薬剤の商標は、商品を特定する標識であるが故に、厚生労働省の医薬承認を得て使用するものであり、他社の商品との混同は慎重に防止されているのである。
(2)また、請求人は、本件商標は商標「イブ」をアピールするような商標であると主張するが、「イブ」はibuprofenの「IB」に由来するものであり、「EVE」に由来するものではなく、「ibuprofen」をアピールするために「IB」を用いているのであるから、請求人の非難は当たらない。本件商標「イブウイズ/IBWITH」は、単に「イブ」、「EVE」のみを認識させることはなく、請求人の商標「イブ」、「EVE」との関連性を想起させるものではない。
(3)被請求人は、本件商標と同様の「イブプロフェン(ibuprofen)」製剤のための商標として複数の下記登録商標を有しており、これら登録商標は、乙第30号証として提出する「イブプロフェン製剤名称」と題したリストに示すような状況において使用されている。

a)「イブウェル/IBWELL」 登録第2538742号(乙第10号証)
b)「イブフィット/IBFIT」 登録第4547578号(無効2007-890020)
c)「イブレスト/IBREST」 登録第4547579号(無効2007-890021)
d)「イブフィックス/IBFIX」 登録第4547580号(無効2007-890022)
e)「イブアップ/IBUP」 登録第4547581号(無効2007-890023)
f)「イブウイズ/IBWITH」 登録第4547582号(無効2007-890024)
これらの登録商標のうち、今般請求人は上記b)?f)の5件の登録商標に対して無効審判を請求してきたものであり、上記a)の商標「イブウェル/IBWELL」については、従来何らの異議も無効も主張していない。しかも、上記a)の商標「イブウェル/IBWELL」は、平成14年3月から既に5年以上に亘って、平穏無事に使用されてきている。これらのことからすると、請求人は、「イブウェル/IBWELL」の登録が有効なものと認めていると推測される。
また、上記a)の商標の他に、c)の商標「イブレスト/IBREST」は平成15年8月から、e)の商標「イブアップ/IBUP」は平成17年8月から、本件商標であるf)の商標「イブウイズ/IBWITH」は平成16年5月から、それぞれ使用されている。これら4件の商標は、いずれも「解熱鎮痛錠」について使用されてきているものであるが、請求人の商品との間において出所の混同を招来した事実は全く存在していない。
これらの事実からしても、本件商標が引用商標と出所の混同を生ずるおそれはなく、本件審判の請求の理由はいずれも成り立たないものであることは明らかである。
5 第2答弁
(1)「イブ」「EVE」の著名性と審・判決例について
請求人が引用した平成19年2月28日知財高裁判決(平成18年(行ケ)第10375号、甲第27号証)は、片仮名のみからなる登録商標「イブペイン」を有している商標権者が、英文字の商標「EVEPAIN」に変更使用したことに対して、「EVE」の文字を含むとして不正使用が認定されたものであり、「イブウイズ/IBWITH」からなり、「EVE」の文字を含んでいない本件商標とは全く事案を異にするものである。
請求人は、「EVE」「イブ」は著名商標であるから、本件商標はこれと出所の混同を生ずると主張されているが、本件商標は「EVE」の文字を含むものではないので、請求人の主張は失当である。これに関連して、請求人は、被請求人が有している登録商標「ウーノ/Uno」について、他人が「UNOUP/ウーノアップ」「UNOREST/ウーノレスト」「UNOFIX/ウーノフィックス」「UNOWITH/ウーノウイズ」商標を使用した場合、非類似と考えられるかと主張されているが、これらの商標はいずれも登録商標と全く同一の「UNO/ウーノ」を含むものである点で、「EVE」を含まない本件商標「イブウイズ/IBWITH」とは、全く異なった事案であるから、請求人の主張を理解することはできないものである。
また、請求人は、「イブ」が著名商標と主張されているが、請求人が使用している商標は、英文字の「EVE」とその表音表記としての「イブ」であり、片仮名の商標「イブ」のみが単独で独立して周知、著名になっているとはいい得ないと思料する。薬局等で消費者が「イブ」と称呼して商品を注文すれば、請求人の商品、鎮痛・解熱剤である「EVE/イブ」と理解されて販売されるものであり、「EVE」を含まない「イブウイズ/IBWITH」が付された商品、鎮痛・解熱剤が誤って提供されるおそれはなく、また消費者が誤ってそれを購入するおそれもない。
なお、上掲判決においては、「…『EVE』の欧文字を大きく太字で横書きし、その右横上段に「イブ」と小さな片仮名文字で配した引用商標…」(23頁の第5、3(2)項、2行から3行)、「…引用商標は…周知著名な商標になり、その後も、周知著名性を維持しているものと認められる。」(24頁の同項33行から37行)とされているとおり、片仮名文字の商標「イブ」が単独で独立して周知著名であるとは認められていない。
(2)「IB」について
請求人は、「イブ」が「ibuprofen」の「IB」を示すものならば、商品の成分を記述すべき箇所に「イブプロフェン配合」とすればよいことであると非難しているが、被請求人が主張しているのは、本件商標「IBWITH」の「IB」は、「ibprofen」の頭文字「IB」に由来するものであり、「EVE」とは何らの関連性もないと述べているのである。本件商標は、非ステロイド系消炎鎮痛剤であるイブプロフェン(ibuprofen)に由来する「IB」と「WITH」を一体に結合することにより、非ステロイド系消炎鎮痛剤が配合された商品であることを示唆させるべく、被請求人により創作された造語であり、請求人の商標「EVE/イブ」と何らかの関連性を意図したものでないことは明らかである。
(3)「メバロチン/MEVAL○TIN」について
著名登録商標「メバロチン/MEVAL○TIN」にかかる審・判決においては、「メバロ」を接頭語とする医薬品が「メバロチン」以外にはなく(甲第29号証)、また「メバ」を語頭部とする医薬品が「メバロチン」以外にはごく僅かしか存在しない(甲第30号証及び甲第31号証)ことを根拠に商標「メバロチン」の独創性が認められ、判断されたものであるので、引用商標のありふれた語である「EVE」とは事案を異にするものであることは明らかである。しかも本件商標「IBWITH」は「EVE」を含まない商標であるので、「メバロチン」の審・判決が適用される余地はない。

6 第3答弁
(1)「イブウイズ/IBWITH」と「EVE/イブ」について
本件商標は、「イブウイズ」と「IBWITH」からなるものであるのに対し、請求人が引用する商標は、「EVE」と「イブ」である。両商標を対比すると、「IBWITH」と「EVE」とは、外観、称呼及び観念を全く別異にする非類似の商標である。両商標は、僅かに片仮名の態様において「イブ」の部分が一致しているにすぎないが、本件商標の「イブ」は、非ステロイド系消炎鎮痛剤である「イブプロフェン(ibuprofen)」の「IB」に由来するのに対し、引用商標の「イブ」は、共に使用している「EVE」の発音を表記したものであり、「イブ」の因ってくるところが異なっている。「IB」若しくは「IBU」を語頭に結合した商標は、消炎鎮痛剤「イブプロフェン(ibuprofen)」を原料とする薬剤を推認させ、多くの商標が登録されている(乙第4号証ないし乙第10号証,乙第14号証,乙第15号証,乙第17号証,乙第18号証,乙第21号証,乙第26号証,乙第27号証)。
そして、片仮名の「イブ」若しくは称呼「イブ」が一致することをもって両商標を互いに類似する商標とすることが出来ないものであることは、「イブ」「IB」「IBU」を語頭部に有する多数の商標(乙第1号証ないし乙第29号証)が「EVE/イブ」とは類似しないとして登録されていることからも明らかである。
請求人は、「EVE/イブ」は、周知著名な商標であり、本件商標はこの周知著名な商標を含んでいるから出所の混同を生ずると主張する。
しかしながら、本件商標は「イブウイズ/IBWITH」であり、「EVE」を含むものではないから、請求人の主張は成り立たない。
また、請求人が主張する周知著名な商標は、極めて大きく表して特徴付けることにより周知性を得たと認められる「EVE」の部分とその呼び名としての「イブ」であるから、「EVE」を含んでいない本件商標「イブウイズ/IBWITH」が「EVE/イブ」と出所について混同を生じさせるおそれはなく、請求人の主張は失当である。
(2)第2弁駁に対する反論
(ア)イブプロフェンについて
請求人は、「イブ」は「イブプロフェン」の正式略称でもなければ一般に認識されてもいないものであり、「イブ」といえば請求人の「EVE/イブ」を認識すると主張するが、被請求人が主張するところは、本件商標の「IBWITH」の「IB」はイブブロフェン(ibuprofen)に由来するものであり、「EVE」とは何ら関連がなく、しかも「EVE」は含んではおらず、「イブウイズ/IBWITH」と一連に表記された商標であるから、「EVE/イブ」とは類似しておらず、また、出所の混同を生ずるおそれもないと主張しているものである。
(イ)出所の混同について
被請求人は、「IBWELL」「IBUP」「IBWITH」「IBREST」を使用した商品を現実に販売しているが、引用商標「EVE」との間で出所の混同を生じたことがない旨主張したのに対し、請求人は、現実の混同と広義の混同は異なり、現実の混同がなくとも広義の混同はあると主張する。
しかしながら、被請求人が販売する上記4件の商標を付した商品はいずれも「解熱鎮痛剤」であり、請求人の販売する商品と一致し、同じ売り場で販売されているものであり、消費者が「イブウイズを下さい」と言ったときに、薬局の店員が誤って請求人の商品「EVE」を渡すことはなく、又、消費者も誤って受け取ることもないことを考慮すると、現実に混同が生じていないのであれば、最早広義の意味においても販売者、消費者において混同を生ずることはないというべきである。
なお、請求人は、被請求人が次々に他社に使用を許諾し、許諾を受けたものが商品を販売しようとしていると言うが、平成19年6月27日付上申書で述べたように、被請求人は製品の製造を他社に委託しているにすぎず、使用許諾をした事実はなく、委託製造された製品は、被請求人のグループ会社である資生堂薬品(株)から販売されている(乙第30号証)。
(3)「イブ/EVE」の著名性について
請求人が引用した平成19年2月28日知財高裁判決(平成18年(行ケ)第10375号、甲第27号証)は、平成19年6月27日付上申書で主張したように、片仮名のみからなる登録商標「イブペイン」を有している商標権者が、英文字の商標「EVEPAIN」に変更使用したことに対して、「EVE」の文字を含むとして不正使用が認定されたものであり、「イブウイズ/IBWITH」からなり、「EVE」の文字を含んでいない本件商標とは全く事案を異にするものである。上掲判決においては、「…『EVE』の欧文字を大きく太字で横書きし、その右横上段に「イブ」との小さな片仮名文字を配した引用商標…」(第5,3,(2)項、2から3行)、「…引用商標は…周知著名な商標になり、その後も、周知著名性を維持しているものと認められる。」(同項33行ないし37行)とされているように、引用商標は「EVE」と「イブ」が表裏一体の関係において周知性が認定されているのであり、片仮名文字の商標「イブ」が単独で独立して周知著名であると認められているものではない。
請求人は、「EVE」「イブ」は著名商標であるから、本件商標はこれと出所の混同を生ずると主張するが、本件商標は「EVE」の文字を含むものではないので、請求人の主張は失当である。請求人が使用している商標は、英文字の「EVE」とその表音表記としての「イブ」であり、片仮名の商標「イブ」のみが単独で独立して周知、著名になっているとはいい得ないものである。薬局等で消費者が「イブ」と称呼して商品を注文すれば、請求人の商品、鎮痛・解熱剤である「EVE/イブ」と理解されて販売されるものであり、「EVE」を含まない「イブウイズ/IBWITH」が付された商品、鎮痛・解熱剤が誤って提供されるおそれはなく、また消費者が誤ってそれを購入するおそれもない。
(4)まとめ
本件商標「イブウイズ/IBWITH」は、「ibuprofen」に由来する「IB」に「WITH」を一連に結合した造語であり、「EVE」を全く含まない商標であり、請求人の商標「EVE/イブ」が周知著名であるとしても、本件商標「イブウイズ/IBWITH」と引用商標「EVE/イブ」とが、医薬品の取引市場において混同を生ずるおそれは全くないというべきものであり、実際にもそのような混同が生じた事実は認められないのであるから、請求人の主張は、成り立たない。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知著名性について
(1)請求人の提出に係る証拠及びその主張の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、引用商標を使用した鎮痛・解熱剤(以下「請求人商品」という。)を昭和60年12月に販売開始して以来、今日まで継続して販売しており、請求人商品は、2003年度においては、同業者の鎮痛・解熱剤の中で第4位にランクされ、その販売金額は約59億円になり、シェアは11.9%を占めている(甲第9号証の1及び2並びに甲第10号証)。請求人商品は、2005年度においては、シェアが13.4%となり、医薬品市場で500種を超える鎮痛・解熱剤の中にあって第3位にランクされている(甲第20号証及び甲第21号証)。
(イ)請求人商品の発売については、昭和60年12月に新聞報道された(甲第9号証の1)。そして、請求人商品は、その販売開始直後の昭和61年1月から週刊誌、テレビ、新聞等で大々的に宣伝広告され(一例として甲第22ないし第25号証)、その宣伝広告費は、販売開始の事実上の初年度である昭和61年度だけで6億7900万円に達し、平成7年度までの10年間で30億5200万円、平成8年度及び平成9年度の2年間で4億円となっている(甲第26号証)。
また、請求人は、請求人商品と同系列の商品として「イブA錠」の商標を使用した鎮痛・解熱剤を販売しており、その広告宣伝費は平成10年度から平成15年度までに5億円を超えている(甲第12号証)。
(ウ)上記新聞広告においては、請求人商品のパッケージ写真が掲載され、そのパッケージには「EVE」の文字を大きく書した右側に「イブ」の文字が小さく表示されている。上記写真の上部には「今日からの鎮痛薬・・・イブ 新発売」と大きく表示され、同写真の右側には「<イブ>はイブプロフェン製剤。痛みのもと・・・鎮痛薬です。」等の説明文が記載され、さらに最下段に「EVE」の文字を大きく書しその下に小さな「イブ」の文字を併記した態様の標章が掲載されている(甲第22号証ないし甲第25号証)。同様の広告は、請求人商品発売の新聞報道時においても掲載されており、さらにその上部には「副作用の少ない鎮痛薬イブ」との見出しの記事が掲載されている(甲第9号証の2)。
また、請求人商品は、前記(イ)の新聞報道の記事においては、「解熱鎮痛剤”イブ”」との見出しのもとに紹介されており(甲第9号証の1)、さらに、2003年度・2005年度「SDIアニュアルレポート」における薬効別上位銘柄の販売状況の解熱鎮痛剤の項、及び2006年版の「医療用医薬品集」における薬効分類:解熱鎮痛薬の項には、「イブ」として掲載されている(甲第10号証、甲第20号証及び甲第21号証)。
(エ)さらに、請求人は、登録商標「エスタックイブ/S.TAC EVE」に係る2種類の総合感冒薬を販売しており、その商品パッケージには「エスタックイブ」又は「エスタックイブエース」(いずれも「イブ」の文字を「エスタック」の文字より大きく表示)の標章が顕著に表示されている(甲第13号証の1及び2)。
(2)以上の認定事実によれば、引用商標は、いずれも申立人が鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬について使用する商標として、本件商標の登録出願時には既に取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものというのが相当である。
2 本件商標について
本件商標は、上記第1のとおりの構成からなるところ、その構成中の「WITH」及び「ウイズ」の文字は「とともに、と一緒に」等の意味を有する英語及びその表音として容易に認識し理解されるものであること、また、その構成文字全体として特定の観念を生じる一連一体の語とはいえないこと、等からすると、本件商標に接する取引者、需要者は本件商標を「IB」及び「イブ」の文字部分と「WITH」及び「ウイズ」の文字部分とからなるものとして認識し把握する場合も決して少なくないものといわざるを得ない。
3 商品の出所の混同のおそれについて
以上の事情の下において、本件商標をその指定商品中の「薬剤」に属する商品「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その構成中の「イブ」の文字部分に注目して、周知著名となっている引用商標を連想・想起し、該商品が申立人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
4 被請求人の主張について
(1)被請求人は、請求人が「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について使用している商標は片仮名の「イブ」商標ではなく、英文字の「EVE」とその表音としての「イブ」であり、「イブ」商標が単独で需要者に広く認識されているものでない旨主張している。
しかしながら、上記1(ウ)のとおり、請求人商品の発売当初より新聞等の宣伝広告には、「EVE」及び「イブ」の文字を2段に書した商標が付された商品パッケージの写真が使用されると共に、その写真とは別に片仮名のみの「イブ」商標も掲載されていたこと、新聞報道記事や書籍での紹介においても請求人商品を「イブ」として特定されていたこと、引用商標から「イブ」の称呼が生ずることは明らかであり、簡易迅速を尊ぶ商取引の場においては、商標の外観(綴り)を確認することなく、称呼によって取引されることも少なくないこと、等からすれば、英文字の「EVE」商標のみならず、片仮名のみの「イブ」商標自体も使用されていたものというべきであり、引用商標は、片仮名のみの「イブ」商標を含め、いずれも取引者、需要者の間に広く認識されていたものというのが相当であるから、被請求人の主張は採用することができない。
(2)被請求人は、本件商標は、「ibuprofen」に由来する「IB」に「WITH」を一連に結合した造語であり、「EVE」を全く含まない商標であり、請求人の商標「EVE/イブ」が周知著名であるとしても、本件商標と「EVE/イブ」とが、医薬品の取引市場において混同を生ずるおそれはない旨主張している。
しかしながら、「IB」が上記イブプロフェンに由来するものであるとしても、本件商標は、その構成中に「イブ」の文字が含まれていることは明らかであり、その構成文字全体として特定の観念を生じる一連一体の語とは認められず、むしろ、前示のように、本件商標がその指定商品中「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について使用された場合には、周知著名となっている引用商標の「イブ」が連想・想起されるというべきであるから、被請求人の主張は採用することができない。
(3)被請求人は、「イブ」、「イヴ」を語頭部に有する商標が引用商標とは類似しないものとして多数登録されているとして証拠を提出している。
しかしながら、被請求人の掲げる登録例は、本件とは商標の構成態様等が相違し事案を異にするものであるほか、商標の類否は、対比する商標について個別具体的に判断されるべきであるし、また、商品の出所の混同を生ずるおそれがあるか否かについては、商標の周知著名性の程度、商標・商品の類似性、使用状況、需要者層等の具体的な事情を総合的に考察して判断されるべきであるから、上記登録例をもって本件の判断が左右されるものでもない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標をその指定商品中の「鎮痛・解熱剤及び総合感冒薬」について使用するときは、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきであり、本件商標は、その指定商品中上記商品については、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-05-08 
結審通知日 2008-05-13 
審決日 2008-05-29 
出願番号 商願2001-20282(T2001-20282) 
審決分類 T 1 12・ 271- Z (Z05)
最終処分 成立  
特許庁審判長 林 二郎
特許庁審判官 杉山 和江
鈴木 修
登録日 2002-03-01 
登録番号 商標登録第4547582号(T4547582) 
商標の称呼 イブウイズ、アイビイウイズ 
代理人 小出 俊實 
代理人 石川 義雄 
代理人 鈴江 武彦 
代理人 竹内 裕 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ