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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 117
管理番号 1179238 
審判番号 取消2007-301028 
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2007-08-09 
確定日 2008-05-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第2253354号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第2253354号商標の第17類「被服、布製身回品」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2253354号商標(以下「本件商標」という。)は、「ポール」の文字と「PAUL」の文字を上下二段に横書きしてなり、昭和53年5月16日に登録出願、第17類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、平成2年7月30日に設定登録され、その後、同12年5月16日に商標権の存続期間の更新登録がされ、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証及び参考1を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品のいずれについても使用された事実はないから、商標法第50条第1項の規定により、その登録を取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁(なお、被請求人が提出した証拠方法について、被請求人は、「資料」と表示しているが、以下「乙号証」と置き換えた。)
(1)乙第1号証(会社案内)について
被請求人は、乙第1号証を提出し、「ポールロイヤル」ほか、多くのブランドを使用している旨を主張する。
しかし、乙第1号証には本件商標の表示は見当たらないし、また、乙第1号証は、その発行年月日が表示されていないから、これによって、本件商標が審判請求前3年以内に使用されたことを立証することは不可能である。
なお、被請求人は、乙第1号証に掲載されているブランド名「Paul Royal/ポールロイヤル」の表示のうち、「ロイヤル/Royal」の語は、品位・等級表示である旨の主張をしてるが、「ロイヤル」、「Royal」は、それ自体で、本件商標の指定商品の分野を含む各種の商品分野において商標登録されている(甲第1号証及び甲第2号証)。したがって、「ロイヤル」、「Royal」の語は、充分に自他商品識別力を発揮するものである。
(2)乙第2号証及び乙第3号証(ボトムス見本加工委託元帳)について
乙第2号証及び乙第3号証は、その記載内容及び答弁書の内容から、被請求人が加工先である「伊藤忠(株)」及び「アトリエ前田」にスカートの見本の加工を委託したことを示すものと推測する。
しかし、乙第2号証及び乙第3号証でいう商品見本とは、その採用すら決定されていないものである。未だその採用の決定にすら至っていない商品に使用する商標には、商標法の保護対象である業務上の信用が化体しているはずはないのであり、商標権をもって保護するに値しないものである。
また、被請求人は、「乙第2号証及び乙第3号証に示す商品は、大量製造販売には至っていないが、これら製造委託先から被請求人を経て流通している。」旨主張する。
しかしながら、乙第2号証及び乙第3号証は、商品見本の製造を委託したことを表すものであって、当該商品の採用は未決定であるため、大量製造販売どころか、当該商品が少量でも販売されたことは、これら証拠によっては証明されない。
当該流通が事実であれば、そのような証拠を提出すべきであるが、上記被請求人の主張を裏付ける証拠は提出されていない。
(3)使用に係る商標「ポール」及び類似商標の使用について
乙第2号証及び乙第3号証の左上部には、「ブランド コード&名」として手書きで「ポール」の片仮名文字が記されている。これについて、被請求人は、「ボトムス見本加工委託元帳に示す『ポール』には、それら『ポール/PAUL』又は『PALL/ポール』を特定する記載はない。」と認めながらも、「しかし、いずれも被請求人の商標権であり、類似商標の範囲の問題であるから、『ポール/PAUL』又は『PALL/ポール』のいずれかが使用されていることは明らかである。」旨主張する。
しかしながら、商標法第50条第2項は、「登録商標の類似範囲にある商標の使用」の立証ではなく、「登録商標の使用」の立証をすべきことを規定しているであるから、類似商標の使用を立証しても本件商標の登録の取消しは免れない。法第50条第2項の「登録商標」には、同第1項に規定するいわゆる社会通念上同一と認められる商標も含まれると解されるところ、片仮名「ポール」からは、「ポール(男子名;Paul)、棺・幕(PALL)、棒・さお・極地(Pole)」等の様々な観念が生じるが、本件商標からは「ポール(男子名;Paul)」の観念のみが生じるとするのが自然である。したがって、乙第2号証及び乙第3号証中の片仮名「ポール」は、本件商標との関係において、「平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生じる商標」とはいえないため、社会通念上同一の商標とはいえないものである。
したがって、商標の同一性の観点からも、乙第2号証及び乙第3号証によっては、本件商標の使用の事実は立証されないものである。
なお、乙第4号証及び乙第5号証は、いずれも「ブランド コード&名」の欄に「ポールロイヤル」と記載されたものであり、これらの証拠中には本件商標の表示が見当たらない。したがって、乙第4号証及び乙第5号証によって、本件商標の使用の事実が立証されないことは明白である。
また、被請求人は、商標「ポールロイヤル」を使用している証拠として、答弁の理由中に写真1ないし3を掲載し、かつ、乙第6号証及び乙第7号証を提出し、「ポールロイヤル」は「ポール」の類似商標としての使用である旨主張するが、商標法第50条第2項が要求しているのは登録商標の使用の立証であり、登録商標に類似する商標の使用の立証ではないことは、上記のとおりである。
(4)商標法第50条第2項の但し書について
被請求人は、「大量生産する被請求人の企業において、商標見本の採用が決定すれば、その商標の使用が余儀なくされるから、次の企画提案を行うまでは、他の商品に使用することができないものである。」旨主張し、本件商標の不使用について正当な理由があることを主張する。
上記の事情については何ら証拠が提出されていないため、その真偽は不明である。しかし、仮に上記事情が事実であったとしても、その事情は、単に被請求人とその製造委託先企業の間の営業的・私的事情にすぎない。そのような事情を法第50条第2項但し書の正当理由に該当するとすれば、不使用取消審判を請求された商標権者は、取引先企業の意向により当該商標の使用は未だ開始できないと主張すれば登録商標の取消を免れることになり、不使用取消審判の制度を形骸化することになる。
むしろ、業務上の信用が化体していない商標の登録を取消し、不使用商標の増大による弊害を排除するという不使用取消審判の趣旨を考慮すれば、法第50条第2項但し書の理由は厳格に解釈されるべきである。
また、上記(3)で述べたとおり、乙第2号証及び乙第3号証に手書きで記載されている片仮名「ポール」は、本件商標とは、社会通念上同一の商標とはいえないものである。よって、百歩譲って被請求人の商品見本が採用されたとしても、本件商標が使用されることにはならない。
よって、上記の事情により本件商標の不使用について、正当理由があるとする被請求人の主張は認められない。
(5)請求人と被請求人との間の交渉について
被請求人は、請求人と被請求人の間で、本件商標の使用許諾についての交渉が行われた旨を言及し、請求人の主張が違法であると主張する。
そもそも、本件審判において判断されるべきは、本件商標の使用という事実行為の有無であり、当事者間の交渉内容等によって使用事実の有無の判断・認定は左右されるべきではない。しかしながら、交渉に関する被請求人の記述は正しくなく、その主張も不当であるため、以下に当該交渉の経過について説明する。
請求人は、平成19年6月ころ(又はそれ以前)に、「Paul」の文字を含む商標を使用することを希望し、商標調査を行ったところ、本件商標及び登録第685743号商標(PALL/ポール)の存在を発見した。そこで、請求人は、上記2件の商標の使用に関して調査したところ、その使用の事実は発見されなかった。
一方、請求人は、「Paul」の文字を含む商標を付した商品の販売を平成19年12月ころから開始することを予定していたが、被請求人の前記2件の商標に対して不使用取消審判を請求するのは時間を要すると判断して、被請求人との交渉によって本件を解決する方法とり、被請求人の代理人宛に書簡を送付し(甲第3号証)、その後、請求人と被請求人の間で数回にわたって交渉が行われたが、上記商標の使用に関し、被請求人の提案してきた金額は高額のものであった。そこで、請求人は、交渉による本件の解決が困難になる可能性もあると判断し、本件不使用取消審判を請求した。そして、その予告登録後に、書簡で被請求人代理人に審判請求の旨を連絡した(甲第4号証)。
したがって、被請求人の「その指定商品のいずれにも使用されていないことが判明した。」とするのは違法であるとの主張は、請求人が本件商標が使用されていない事実を交渉開始の前から把握していたものであるから、根拠がないものである。
(6)以上のとおり、被請求人の主張は、到底認められないものである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を平成19年11月5日付け答弁書(以下「第1答弁書」という。)及び同20年3月6日付け答弁書(以下「第2答弁書」という。)で要旨次のように述べ、証拠方法として、それぞれ乙第1号証ないし乙第7号証及び乙第8号証ないし乙第10号証(枝番を含む。)を提出した。
1 第1答弁書
(1)請求人は、平成19年5月から7月にかけて、商標権者(被請求人)に対し、電話又は電子メールで、「ポール」ブランドの商品の存在を尋ねた後、被請求人代理人に対し、請求人代理人を介して本件商標の譲渡等を申し入れた。しかし、使用中の商標に対する実施料が折り合わなかったことから、平成19年9月5日に被請求人の東京店で、直接当事者間の話し合いを持ったが、実施料に折り合いが着かなかった。
したがって、請求人の「本件商標は、その指定商品のいずれについても使用された事実はない」旨の主張は、全く根拠がないものであり、違法である。
(2)被請求人は、本件商標を本件請求に係る指定商品中の「被服、布製身回品」の範疇に属する商品に使用しており、商品見本の販売が使用に該当しないとしても、商標見本の販売は、その決定によってその商標の使用が余儀なくされるものであるから、少なくとも商標法第50条第2項の但し書の「正当な理由」に該当する。また、類似商標の実施でもあるので、以下それらを立証する。
(3)本件商標の使用について
(ア)被請求人は、「シンガポール株式会社」、「PORE LION/ポールライオン」、「マリンポール/MARINPOLE」、「POLESPOINT/ポールズポイント」、「ポールロイヤル」、「ポール/PALL」、「ポール/PAUL」等の権利を取得しており、使用してきた。特に、「ポール」は、社名の一部を使用するものであるから、ロングラン商品に使用することを前提として企画してきた。
例えば、「ポールロイヤル(Paul Royal」(乙第1号証)は、「ロイヤル(Royal)」という品位の等級の高さから、それを商標及び商品に表現し、後述するように、現在、量産販売している。
(イ)「ボトムス見本加工委託元帳(No.152560)」(乙第2号証)について
乙第2号証は、「ポール」の商標で、加工先名「伊藤忠(株)」、委託日「’05年12月5日、納期「’05年12月14日必着」で、伊藤忠商事株式会社に製造委託した記録である。
(ウ)「ボトムス見本加工委託元帳(No.157060)」(乙第3号証)について
乙第3号証は、「ポール」の商標で、加工先名「アトリエ前田」、委託日「’06年9月9日」、納期「’06年9月20日」で、アトリエ前田に製造委託した記録である。
(エ)乙第2号証及び乙第3号証に示す商品見本は、大量製造販売には至っていないが、これら製造委託先から被請求人を経て流通している。なお、乙第2号証及び乙第3号証の商品見本は、顧客先に手渡しており、被請求人の手元に残っていない。
なお、参考までに、「ポールロイヤル」の商標で商品を製造委託した記録として、「ボトムス見本加工委託元帳(No.156674)」(乙第4号証)及び「ボトムス見本加工委託元帳(No.161267)」(乙第5号証)を提出する。
(オ)このように、「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」の商標名の商品見本は、被請求人の顧客先によって、その採否が決定されるものである。
一方、本件商標は、「PALL/ポール」(登録第685743号)の連合商標として登録されたものであり、「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」には、「ポール/PAUL」又は「PALL/ポール」を特定する記載はない。しかし、いずれも被請求人の商標権であり、類似商標の範囲内の問題であるから、「ポール/PAUL」又は「PALL/ポール」のいずれかが使用されていることは明らかである。
(カ)したがって、乙第2号証及び乙第3号証に示された「ポール」の商標を付した商品見本は、本件審判の請求日(平成19年8月9日)前3年以内の顧客先への商品見本の製造委託であるから、その使用が明らかであり、商標法第50条第1項の規定によって、本件商標が取消しを受けるものではない。
(4)商標法第50条第2項の但し書について
仮に、本件請求に係る指定商品中「被服、布製身回品」の商品見本の製造委託が使用に該当しないとしても、大量生産する被請求人の企業において、商品見本の採用が決定すれば、その商標の使用が余儀なくされるから、次の企画提案を行うまでは、他の商品に使用することができないものである。
また、前記のとおり、本件商標は、「PALL/ポール」の連合商標として登録されたものであるから、「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」は、いずれかを特定する記載はないが、いずれも被請求人の商標権であり、類似商標の範囲内の問題であるから、「ポール/PAUL」又は「PALL/ポール」のいずれかが使用されていることは明らかである。
したがって、少なくとも商標法第50条第2項の但し書の「正当な理由」に該当するものである。
(5)類似商標の使用について
「ポールロイヤル」は、本件審判の請求の日前から、大量製造販売している商品に使用している(答弁書中に示した写真1ないし写真3)。
被請求人に限らず、アパレル分野では、「ロイヤル」として普通に品位の等級表現していることからも「ポールロイヤル」は「ポール」の類似商標としての使用である。
ちなみに、乙第6号証及び乙第7号証は、「生産指図書/日付07年06月13日」、「生産指図書/日付07年06月14日」で、ユニー株式会社からの受注によって生産を指示したものである。
また、本件商標は、「PALL/ポール」の連合商標として登録されたものであり、類似商標の範囲内の問題であるから、「ポール/PAUL」又は「PALL/ポール」のいずれかが使用されていることは明らかである。
いずれにせよ、登録商標「ポールロイヤル」の使用は明らかであり、「PALL/ポール」又は「ポール/PAUL」は、類似の範疇であり、本件審判の請求日前3年以内に日本国内において商標権者が「被服、布製身回品」に属する商品に使用していたことは明らかである。
(6)むすび
以上のように、本件商標は、商標法第50条第1項の規定によって取消されるべきものではない。
2 第2答弁書
(1)請求人は、「当該会社案内の第10頁の『展開ブランド』中はもとより、乙第1号証の中の何処にも本件商標の表示は見当たらない。また、そもそも、乙第1号証は、その発行年月日が一切表示されていないため、これによって本件商標が審判請求前3年以内に使用されたことを立証することは不可能である。」と主張する。
被請求人の提出した乙第1号証は「会社案内に掲載しているように、…」と、当該会社案内に記載の事項は請求人が商標の使用の調査を行った時点の商標権者であるシンガポール株式会社のホームページの掲載であり、審判請求時点以前を示すことは明らかである。
また、乙第1号証で証するのは、「ポールロイヤル」の使用であるが、請求人も「ポールロイヤル」の使用を甲第3号証で認めている。また、乙第1号証の会社案内第10頁の*印に記載しているように、「その他にも多数のブランドを展開しております」という記載が存在しているという事実である。
更に、被請求人は、会社案内に掲載しているように、その「ポールロイヤル」のBrand Conceptを「おしゃれなミセスのLサイズ。エレガントな感性をベースにしたちょっとした外出着。」とし、そのテーマを「『インペリアル・トラッド』シーズントレンドである『ロイヤル』や『インペリアル』風のヒストリカルなスタイルグループ。紋章モチーフや豪華な金糸使い、手の込んだ附属使いがポイント。」と記載しているように、『ロイヤル(Royal)』という品位の等級の高さ(王室の、高貴な、素晴らしい)から、それを商標及び商品に表現していることを主張するものである。
念のため、「ポールロイヤル」の使用については、甲第3号証で請求人自ら認めていることであるが、乙第1号証の会社案内の印刷配布について、証明書を提出する。
当該証明書として提出する乙第8号証-1は、会社案内のパンフレットの製作及び印刷を請け負った会社の2005(平成17)年7月6日付の見積書であり、乙第8号証-2はその社内決済であり、乙第8号証-3は会社案内の製作及び印刷を請け負った会社の2005(平成17)年11月21日付の納品書及び2005(平成17)年12月20日付の請求書の控えである。乙第8号証-4の上段は社内指示のための2005(平成17)年12月20日付の支払い依頼書である。
これによって、審判請求前、継続して3年内に日本国内において商標権者が、「ポールロイヤル」の商標及び他の商標を使用していたことは明らかである。
更に、乙第9号証-1は、会社案内と同様の内容のインターネットホームページの制作を請け負った会社の2006(平成18)年6月6日付の見積書であり、乙第9号証-2はその社内決済であり、乙第9号証-3はインターネットホームページの制作を請け負った会社の2006(平成18)年9月20日付の納品書及び請求書の控えである。乙第8号証-4の下段は社内指示のための支払い依頼書である。商標権者のインターネットホームページからも、審判請求前、継続して3年内に日本国内において商標権者が、「ポールロイヤル」の商標及び他の商標を使用していたことは明らかである。
(2)弁駁書で「『PaulRoyal 』『ポールロイヤル』の表示のうち「ロイヤル(Royal)」の語は品位・等級の表示であるかのような主張を行っているが、「ロイヤル」 「Royal」は、それ自体で本件商標の指定商品の分野を含む各種の商品分野において商標登録されているものである(甲第1号証ないし甲第2号証)。したがって、「ロイヤル」「Royal」の語は充分に自他商品識別力を発揮するものであり、単なる品位・等級表示とは認められない…」と、請求人が主張する。
しかし、商標はその類によって商品の性質を理解する必要があり、単純に商品または役務に「ロイヤル」、「Royal」の語が登録されているか否かは、商品の性質と直接関係のないことである。
因みに、繊維の分野(旧17類)では、審判平3-10613号の審決に「『 ROYALGERURAN』の文字を一連に書してなるところ、その構成文字に相応して『ローヤルゲルラン』または『ロイヤルゲルラン』の称呼を生ずるほか、その構成中の『ROYAL』の文字が「王の、高貴な、りっぱな」等の意味を有する英語であって、商品の品位、品質等を表すものとして認識され、自他商品の識別力がないか又は弱いことから、「GERURAN」の文字部分が自他商品の識別標識としての機能を果たすものというべく、これにより単に『ゲルラン』の呼称をも生ずるものというのが相当である。」と特許庁判断が示されている。
なお、請求人の挙げている甲第1号証ないし甲第2号証の事例は、古い事例、ロゴに特徴を有するものまたは文字と図形の組み合わせで表現されたものが殆どであり、商品の品位、品質等を表すことを否定する証拠としては価値がない。
(3)請求人は、「乙第2号証及び乙第3号証は『ボトムス見本加工委託元帳』とのことである。…、被請求人が加工先である『伊藤忠(株)』及び『アトリエ前田』にスカートの見本の加工を委託したことを示すものと推測する。ここで、答弁書において『被請求人の企業において、商品見本はその採用が決定すれば、その商標の使用が余儀なくされるものであるから…』と被請求人が自ら認めているように、乙第2号証及び乙第3号証3でいう商品見本とは、その採用すら決定されていないものである。未だその採用の決定にすら至っていない商品に使用する商標には、商標法の保護対象である業務上の信用が化体しているはずはないのであり、商標権をもって保護するに値しないものである。」と主張する。
請求人のこの主張は、被請求人の主張を歪曲するものであり、採用されるべきでないものである。
即ち、被請求人は、「被請求人は、本件審判の取消しにかかる『第17類(昭和35年法)』の指定商品中『被服、布製身回品』の商品見本の製造委託が、仮に、使用に該当しないとしても、大量生産する被請求人の企業において、商品見本はその採用が決定すれば、その商標の使用が余儀なくされるものであるから、次の企画提案を行うまでは、他の商品に使用することができないものである。」と主張している。
即ち、商品見本の製造委託及びその頒布により展示が行われているからこそ、商品見本の製造委託及びその頒布による展示が「商標の使用」に該当するという主張と、商品見本の製造委託及びその頒布による展示が行われているからこそ、商品見本の製造委託及びその頒布が「商標の使用」に該当しないと仮定しても、商品見本の製造委託及びその頒布が「商標の使用」に該当するという商標法第50条第1項の主張と、加えて、仮に、それらも「商標の使用」に該当しないとされたとしても、商品見本の頒布及び展示はその商品見本の購入(商品)を客先が決定すれば、その商標の使用が余儀なくされ、次の企画変更を行うまでは、他の商品にその商標を使用することができないものであるから、商標法第50条第2項のただし書きに該当すると、計3通りの主張をするものである。
勿論、何れも商品見本の展示により、同一の商品の製造販売を約束するものであるから、商標法の保護対象である業務上の信用が化体していることは明らかである。
したがって、『ボトムス見本加工委託元帳』に記載された商品見本の製造委託は、商品見本の譲渡若しくは引渡しのために展示を行ったものであるから、請求人の主張のように「未だその採用の決定にすら至っていない商品に使用する商標」ではあり得ない。
(4)請求人は、「被請求人は、『これら乙第2号証及び乙第3号証の『ボトムス見本加工委託元帳』に示す商品は、大量製造販売には至っていない。しかし、当該ブランド名(ポール)を付した商品見本がこれら製造委託先から被請求人を経て流通している。』と主張する。しかしながら、乙第2号証及び乙第3号証は商品見本の製造を委託したことを表すものであって、当該商品の採用は未決定であるため、大量製造販売どころか、当該商品が少量でも販売されたことはこれらのによっては証明されない。…」と主張する。
乙第2号証及び乙第3号証の「ボトムス見本加工委託元帳」に示す商品は、大量製造販売には至っていないが、乙第2号証の商標見本の納入場所は乙第1号証の会社案内第10頁右欄に記載のように、シンガポール株式会社の商品の販売を行うショールーム及び商談ルームを有する「ギフ(岐阜店)5F」と記載されている。また、乙第3号証の「SPCギフ(岐阜店)5F」もシンガポール株式会社の「岐阜店5F」を意味するものである。
この見本加工委託からシンガポール株式会社の「岐阜店5F」に納品される一連の流れは、甲第3号証で請求人が認めている乙第4号証ないし乙第7号証に示す「ポールロイヤル」の商標を付した商品の動きと同一である。
したがって、他の証拠を提示するまでもなく、乙第2号証及び乙第3号証の「ボトムス見本加工委託元帳」に示す商品は、商標権者の店舗に納品され、店頭で販売目的のために展示されていたことは明らかである。
(5)請求人は、乙第2号証及び乙第3号証の左上部には、「ブランドコード&名」として手書きで片仮名「ポール」の文字が記されているが、「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」には、「ポール/PAUL」または「PALL/ポール」を特定する記載はない。商標法第50条第2項が求めているのは『登録商標の類似範囲にある商標の使用』の立証ではなく、本件商標と同一の商標が使用されている事実を立証することが要求されているのであり、類似商標の使用を立証しても本件商標登録の取消しは免れない旨主張する。
まず、請求人の主張は、商標法第50条第1項及び第2項を区別しているか否かが判然としないが、念のため、被請求人の主張をとりまとめる。特に、被請求人は、「ボトムス見本加工委託元帳」に示す片仮名「ポール」は、「ポール/PAUL」または「PALL/ポール」を特定する記載はない旨主張しているが、乙第2号証及び乙第3号証に「ポール/PAUL」または「PALL/ポール」を特定する記載のないことは事実である。しかし、「ポール/PAUL」、「ポール/PALL」は何れもその商標の称呼は同一の「ポール」であるから、商標法第50条第1項の「登録商標」の括弧書に該当するものである。
また、「Pau1 Royal」の「ロイヤル」、「Royal」が品位・等級表示の違いのみであり、商標法第50条第1項の「登録商標」の括弧書に該当すると主張できる理由は、称呼が「ポール」で「ポール/PALL」と同一の称呼であり、同一の称呼の商標の使用であるから、その主張が成り立つのである。
したがって、請求人の「本件商標との関係において、商標法第50条第1項に規定されている社会通念上同一の商標とはいえない」との主張は根拠がない。
更に、商標法第50条第1項と商標法第50条第2項の「登録商標」が、商標法第50条第1項の括弧書きの要件を具備するものであるか否かの議論はさておき、少なくとも商標法第50条第2項の「ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて…」の、使用をしていない「登録商標」は権利化された商標を意味することは明らかであり、被請求人はそこに類似を含むという主張はしていない。
「ボトムス見本加工委託元帳」に示す片仮名「ポール」は、「ポールノPAUL」、「ポール/PALL」と称呼は同一の「ポール」であるから、商標法第50条第1項の「登録商標」の括弧書に該当するものである。
また、「Pau1 Royal」の「ロイヤル」、「Roya1」が品位・等級表示の違いであり、商標法第50条第1項の「登録商標」の括弧書に該当するものである。
(6)請求人は、「乙第4号証及び乙第5号証は、いずれも「ブランドコード&名」の欄に「ポールロイヤル」と記載されたものであり、これらの書類中にはどこにも本件商標の表示が見当たらない。したがって、乙第4号証及び乙第5号証によって、本件商標の使用の事実が立証されないことは明白である。」と主張する。
被請求人の提出した乙第4号証及び乙第5号証は、「ポール/PALL」の登録意匠(「商標」の誤記と認められる。)に、「ロイヤル」、「Royal」と品位・等級表示を付したものとして提示しているもので、当該登録商標と社会通念上同一と認められることを主張するものである。
また、乙第4号証及び乙第5号証は、乙第2号証には納入場所が「ギフ(岐阜店)5F」と記載され、また、乙第3号証の「SPCギフ(岐阜店)5F」もシンガポール株式会社の「岐阜店5F」を意味するものであり、見本加工委託からシンガポール株式会社の「岐阜店5F」に納品される一連の流れは、乙第1号証の会社案内にも記載されている乙第4号証ないし乙第7号証に示す「ポールロイヤル」の商標を付した商品の動きと同一であることを説明するものである。
(7)請求人は、被請求人の商標法第50条第2項のただし書きの適用の主張は、単に被請求人企業とその製造委託先企業の間の営業的・私的事情にすぎないから到底首肯できない。上記の事情は、不使用取消審判を請求された商標権者が、取引先企業の意向により当該商標の使用は未だ開始できないと主張すれば登録商標の取消を免れることになり、不使用取消審判の制度を形骸化することになる。むしろ、業務上の信用が化体していない商標の登録を取消し、不使用商標の増大による弊害を排除するという不使用取消審判の趣旨を考慮すれば、商標法第50条第2項ただし書きの理由は厳格に解釈されるべきである旨主張している。
しかし、被請求人は、商標法第50条第2項のただし書きの適用を拡大解釈しているものでないし、それを形骸化しようとするものでもない。被請求人の主張は、(ア)写真1ないし写真3で「ポールロイヤル」は、「ポール/PAUL」との間に「ロイヤル」の文字が「王の、高貴な、りっぱな」等の意味を有する英語であって、商品の品位、品質等を表すものとして認識され、自他商品の識別力がないか又は弱いことから、「ポール」の文字部分が自他商品の識別標識としての機能を果たすものであるから、このように品位・等級表示を付したものは、当該登録商標と社会通念上、商標法第50条第1項の同一と認められるものである。(イ)乙第2号証及び乙第3号証の「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」は、製造されたものをシンガポール株式会社の「岐阜店」の5Fで販売のために展示し、しかも、それらの見本商品は「ポール/PAUL」と「ポール」の称呼が登録商標と同一であり、当該登録商標「ポール/PAUL」と社会通念上、商標法第50条第1項の同一と認められるものである。(ウ)仮に(ア)及び(イ)が否定されたとしても、乙第2号証及び乙第3号証の「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」は、製造されたものをシンガポール株式会社の「岐阜店」の5Fで販売のために展示し、少なくとも販売のために展示したり、当該見本を貸し出している期間が登録商標の使用に該当されなかったとしても、殊に、当該商品見本の提供は、それが商標の使用に該当すると解釈されるが、仮に否定されたとしても、その採用が決定すれば、その商標の使用が余儀なくされるものであるから、次の企画提案を行うまでは、他の商品に使用することができないものであり、商標法第50条第2項ただし書きに該当すると主張するものである。
(8)請求人は、「請求人は、商標『ポールロイヤル』と商標『ポール』が類似するとは認められないが、いずれにしても、商標法第50条第2項が要求しているのは登録商標の使用の立証であり、登録商標に類似する商標の使用の立証ではないことは(2)において述べた通りである。」と主張する。
しかし、繊維の分野(旧17類)において、「Pau1 Royal」、「ポールロイヤル」の表示のうち「ロイヤル(Royal)」は、品位・等級の表示である。このことは、審判平3-10613号の審決に「『ROYALGERURAN』の文字を一連に書してなるところ、その構成文字に相応して『ローヤルゲルラン』または『ロイヤルゲルラン』の称呼を生ずるほか、その構成中の『ROYAL』の文字が「王の、高貴な、りっぱな」等の意味を有する英語であって、商品の品位、品質等を表すものとして認識され、自他商品の識別力がないかまたは弱いことから「GERURAN」の文字部分が自他商品の識別標識としての機能を果たすものというべく、これにより単に『ゲルラン』の呼称をも生ずるものというのが相当である。」と特許庁判断が示されている。これは、商標法第50条第1項の『ポール』の社会通念上同一と認められる「王の、高貴な、りっぱな」等の品位・等級の違いの意味を有する商標『ポールロイヤル』を挙げているのである。
したがって、商標法第50条第1項で表現すれば、登録商標と社会通念上同一と認められる商標として『ポールロイヤル』と『ポール』との関係を挙げたものである。
(9)請求人は、交渉の経緯について主張している。殊に、「請求人は、交渉による本件の解決が困難になる可能性もあると判断し、平成19年8月9日付けで本件審判を請求した。そして、その予告登録がなされるのを待って、甲第4号証として提出する2007年8月31日付けの書簡を被請求人代理人に送付し、審判請求の旨を連絡したものである。」と主張する。
更に、請求人は、「その予告登録がなされるのを待って、甲第4号証として提出する2007年8月31日付けの書簡を被請求人代理人に送付し、審判請求の旨を連絡したものである。」と、本件審判を請求した事実が明らかになったから、それまでの交渉を打ち切らざるを得なくなった旨露骨に説明している。被請求人は、それが信義則に反する行為であると主張するものである。
被請求人から具体的値段を提示したときには、「使用している商標であるから、その商標を譲渡するには…」と説明している。また、具体的には、「請求人は、本件商標及び登録第2253354号商標の使用に関して可能な限り調べたところ、商標「Pau1 Royal」は被請求人によって使用されている事実は発見されたが、本件商標及び登録第2253354号商標の使用の事実は一切発見されなかった。」と主張し、「使用に関して可能な限り調べた」と強調している。しかし、現実には、請求人は、商標権者(被請求人)であるシンガポール株式会社の総務課の女性に電話で、またメールによって、「ポール」ブランドの現在商品の存在を訊ねたものであって、過去の商品として訊ねたものではない。また、シンガポール株式会社の「岐卓店」の5Fを訪問した事実もない。
(10)請求人は、被請求人の「本件商標は、本件審判請求前3年以内に日本国内において、商標権者が『被服、布製身回品』に属する商品に使用されているものであり、また、商標見本の製造委託が、仮に、使用に該当しないとしても、『少なくとも商標法第50条第2項ただし書きに該当する。』とする被請求人の答弁書における主張は、到底認められないものである。」と主張する。
再度、被請求人の主張をまとめると、次のようになる。
(ア)写真1ないし写真3で使用を説明する「ポールロイヤル」は、「ポール/PAUL」との間に「ロイヤル」の文字が「王の、高貴な、りっぱな」等の意味を有する英語であって、商品の品位、品質等を表すものとして認識され、自他商品の識別力がないか又は弱いことから、「ポール」の文字部分のみが自他商品の識別標識としての機能を果たすものであり、このように品位・等級表示を付したものは、当該登録商標と社会通念上、商標法第50条第1項の同一と認められるものである。
(イ)乙第2号証及び乙第3号証の「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」は、製造されたものをシンガポール株式会社の,「岐阜店」の5Fで販売のために展示し、しかも、それらの見本商品は「ポール/PAUL」と「ポール」の称呼が登録商標と同一であり、当該登録商標「ポール/PAUL」と社会通念上、商標法第50条第1項の同一と認められるものである。
(ウ)仮に上記(ア)及び(イ)が否定されたとしても、乙第2号証及び乙第3号証の「ボトムス見本加工委託元帳」に示す「ポール」は、製造されたものをシンガポール株式会社の「岐阜店」の5Fで販売のために展示する行為は、商標の使用に該当すると解釈されるが、仮にそれが否定されたとしても、その採用が決定すれば、その商標の使用が余儀なくされるものであるから、次の企画提案を行うまでは、他の商品に使用することができないものであり、商標法第50条第2項ただし書きに該当するものである。

第4 当審の判断
1 被請求人は、次のように主張する。
本件商標は、本件審判請求日前3年以内に日本国内において、商標権者により請求に係る指定商品中の「被服,布製身の回り品」に属する商品について「ポール」の商標を使用されていたものであり、その使用、すなわち、商品見本の製造委託が、仮に使用に該当しないとしても、大量生産する被請求人において、商品見本の採用が決定すれば、本件商標の使用が余儀なくされ、次の企画提案を行うまでは、他の商品に使用することができないものであるから、少なくとも商標法第50条第2項の但し書にいう「正当な理由」に該当するものである。仮に、それらのいずれをも否定したとしても、製造販売している商品に使用されている「ポールロイヤル」の商標は、「ポール」の標章に対して品位の等級表現から「ロイヤル(王室の、高貴な、素晴らしい)」を付したに過ぎないから、「ポールロイヤル」と「ポール」は互いに類似する商標であるから、類似する商標が使用されていることは明らかである。
そこで、上記被請求人の主張について、以下検討する。
2 本件商標の使用について
(1)乙第2号証及び乙第3号証は、いずれも下部に「シンガポール株式会社ATOMS」の文字が表示された「ボトムス見本加工委託元帳」であるところ、前者は、「委託日」を「’05年12月5日」とし、「ブランド コード&名」を「ポール」、「見本製品名」を「プリーツSK.」、「加工先名」を「伊ト忠(株)」、「委託数」を「1」、「納期」を「’05年12月14日必着」等とするものであり、後者は、「委託日」を「’06年9月9日」とし、「ブランド コード&名」を「ポール」、「見本製品名」を「タイトSK」、「加工先名」を「アトリエ前田」、「委託数」を「1」、「納期」を「’06年9月20日」等とするものである。
上記によれば、被請求人は、本件審判の請求の登録(平成19年8月28日)前3年以内である2005年(平成17年)12月5日及び2006年(平成18年)9月9日に、見本商品の製造元に対し、「ポール」とのブランドを使用した「プリーツスカート」、「タイトスカート」の見本商品をそれぞれ1着ずつ製造委託をしたことが推認される。
(2)ところで、我が国の被服等の需要者の間において、「ポール」の片仮名より直ちに想起される語は、「棒、柱、極」等を意味する外来語(英語の「pole」)のほか、男性の名前(英語の「Paul」)とみるのが相当である。
そうすると、使用に係る商標である「ポール」(以下「使用商標」という。)からは、「棒、柱、極」等の観念、若しくは男性の名前の観念を直ちに想起させるものであって、使用商標は、男性の名前の観念を直ちに想起させる「ポール」及び「PAUL」の各文字を二段に横書きしてなる本件商標とは、観念において同一のものということはできず、また、外観上も異なるものというべきである。
したがって、使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標とは認めることができない。
なお、被請求人は、使用商標に関し、本件商標は、「PALL/ポール」の文字よりなる登録第685743号商標の連合商標として登録されたものであり、両商標は類似する商標であるから、連合商標又は本件商標のいずれかが使用されていることは明らかである旨主張するが、使用商標が本件商標と社会通念上同一の商標と認められないことは上記認定のとおりである。また、平成8年の商標法改正により連合商標制度が廃止されたことに伴う連合商標の使用に関する経過措置については、平成8年6月12日法律第68号による改正商標法附則第10条第2項において、「平成12年3月31日までに請求された新商標法第50条第1項の審判(不使用取消審判)については、・・この法律(改正法)の施行後も、なお効力を有する。」と規定し、連合商標制度廃止に伴う経過措置として、連合商標の使用について、改正法施行(平成9年4月1日)後3年を限度として経過措置期間を定めたものである。そして、本件審判は、その請求日を平成19年8月9日とするものであるから、上記経過措置期間を経過した請求であることは明らかであり、上記被請求人の主張は前提において誤りがあり失当である。
さらに、被請求人は、乙第2号証及び乙第3号証に示す「プリーツスカート」、「タイトスカート」の見本商品は、大量製造販売には至っていないが、被請求人を経て流通している旨主張するが、その事実を認めるに足る証拠の提出はない。
(3)以上によれば、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが請求に係る指定商品にいずれかについて本件商標を使用している事実を証明したものと認めることはできない。
3 正当な理由について
商標法第50条第2項但し書にいう「正当な理由」とは、請求に係る指定商品についてその登録商標の使用を妨げる事情で、その不使用をもって当該商標権者の責めに帰することが社会通念上酷であるような場合をいうものと解すべきであるところ、被請求人が主張する前記1の事情は、企業たる被請求人の内部事情にすぎないものであり、乙第1号証(被請求人の会社案内)にも、本件商標の掲載が皆無であることを併せ考慮すれば、被請求人の主張は、商標権者の責めに帰することのできない特別の事情があったと認めることはできず、また、他に本件商標の使用を妨げる特別の事情があったことを認めるに足りる証拠も見出せない。
したがって、本件商標を請求に係る指定商品に使用していないことについて、商標法第50条第2項但し書にいう「正当な理由」があると認めることはできない。
4 類似商標の使用について
被請求人は、「ポールロイヤル」の商標と本件商標とが類似する商標であることを前提に、「ポールロイヤル」の商標の使用をもって、本件商標が使用されている旨主張する。
商標法第50条に規定する「登録商標の使用」とは、商標権者が指定商品について登録商標の使用をする権利を専有する(同法第25条参照)範囲、すなわち、いわゆる専用権を有する範囲内における登録商標の使用をいうものであって、その範囲を超え、商標権者が禁止権を有するに止まる範囲、すなわち、指定商品又は指定商品に類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用(同法第37条第1号参照)を含まないものと解すべきである(昭和55年(行ケ)第337号)。
してみれば、本件商標に類似する商標の使用をもって、本件商標の使用であるとする被請求人の主張は前提において誤りがあり失当である。
5 被請求人は、請求人は、被請求人と請求人との間で本件商標についての譲渡交渉中に本件審判を請求したものであり、請求人の「本件商標は、その指定商品のいずれについても使用された事実はない」旨の主張は、根拠がなく違法である旨主張するが、前記認定のとおり、被請求人は、本件商標をその指定商品のいずれについても使用していた事実は認められないのであるから、請求人の上記主張が違法であるとすることはできないし、また、登録商標の譲渡交渉の過程において、商標法第50条に基づく取消審判を請求すること自体も何ら違法性は見出せないから、上記被請求人の主張は理由がないというべきである。
6 むすび
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件請求に係る指定商品のいずれかについて、本件商標を使用したことを証明したものと認めることはできない。また、本件商標を使用していないことについて正当な理由があるものとも認めることができない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品中の「被服、布製身回品」について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-03-24 
結審通知日 2008-03-27 
審決日 2008-04-08 
出願番号 商願昭53-36642 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (117)
最終処分 成立  
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 小畑 恵一
津金 純子
登録日 1990-07-30 
登録番号 商標登録第2253354号(T2253354) 
商標の称呼 ポール 
代理人 宮城 和浩 
代理人 宮嶋 学 
代理人 塩谷 信 
代理人 黒瀬 雅志 
代理人 特許業務法人Vesta国際特許事務所 
代理人 宇梶 暁貴 
代理人 吉武 賢次 

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