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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z30
管理番号 1171132 
審判番号 取消2006-31156 
総通号数 98 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-02-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2006-09-15 
確定日 2008-01-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第4378613号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4378613号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4378613号商標(以下「本件商標」という。)は、「ながーいうな」の文字を標準文字により表してなり、平成11年5月17日に登録出願され、第30類「菓子及びパン」を指定商品として平成12年4月21日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第156号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 取消理由の要点
本件商標は、商標権者たる被請求人が、故意に指定商品についての登録商標に類似する商標を使用した結果、審判請求人の業務に係る商品と混同を生ずるに到らしめているものであるから、商標法第51条第1項の規定に該当し、その登録は取り消されるべきである。
2 本件商標が取り消されるべき理由
(1)被請求人が使用中の商標
(ア)被請求人は、商品パイ菓子(洋菓子)について、文字部分が「なが?いうなパイ」である商標を使用しており(甲第2号証の1ないし5)、同商品表示欄には、被請求人の名称が販売者として記載されている(甲第2号証の6)。ちなみに、同商品の賞味期限は、「06.5.20」であって、平成18年(2006年)5月現在、当該商標は現に使用されていたものである。
(イ)上記甲第2号証の3に示す商標(以下「使用商標1(A)」という。)は、別掲(1)のとおり、商品の包装紙(甲第2号証の5)上に表記されたものであり、横長な長円形で地色をオレンジ色とした中に「なが?いうなパイ」の文字を表記し、長円形の上方に半円形で地色をピンク色とした中に「しびれるおいしさ」の文字を表記し、長円形の直上に「UNA Pie」の文字を表記すると共に、上記半円形で囲まれた中の上部から長円形の下方にかけて「鰻」の図形及び長円形の右下方に「男二人が、一人は釣竿を持ち、もう一人は鰻を籠に入れている図」を表示したものである。
(ウ)また、上記甲第2号証の4に示す商標(以下、「使用商標1(B)」といい、単に「使用商標1」というときは、「使用商標1(A)」と「使用商標1(B)」を併せたものを指す。)は、別掲(2)のとおり、パイ菓子を1本ずつ包装する子袋上に表記されたものであり、横長な長円形で地色がピンク色とした中に、使用商標1(A)と同じ態様で「なが?いうなパイ」を表記し、長円形の上方に「しびれるおいしさ」の文字を表記し、長円形の直下右寄りに「UNAPie」の文字を表記すると共に、長円形の左方に「鰻」の図形と長円形の右方に「男二人が、一人は釣竿を持ち、もう一人は鰻を籠に入れようとしている図」の図形を、いずれも使用商標1(A)と同じ態様で表示したものである。
(2)被請求人が請求人から警告を受けた後に使用開始した商標
(ア)請求人は、平成18年6月に、被請求人商品の小売先に対して、使用商標1について使用中止を求める警告を送付した(甲第149号証)。被請求人は、これに対して、警告を受けた被請求人商品の製造元であるとして、同商品上に商標「なが?いうなパイ」を使用することは、本件商標の使用にほかならないから違法ではないと強弁し(甲第151号証)、その一方で、そのように強弁するにしては、同年同月中に、使用商標1を一部修正した商標2の使用を開始した(甲第3号証の1ないし6)。
(イ)一部修正後の甲第3号証の3に示す商標(以下「使用商標2(A)」という。)は、別掲(3)のとおり、包装紙上に表記されている商標が、使用商標1(A)における、長円形中の文字表記を「なが?いうなパイ」から「なが?いうな」に修正し、これと共に「UNAPie」の表記を「パイ菓子」に修正し、長円形の左下に小さな文字で「NagaiUNA」を表記したものであり、その余は使用商標1(A)と同一である。
(ウ)また、変更後の甲3号証の4に示す商標(以下「使用商標2(B)」といい、単に「使用商標2」というときは、「使用商標2(A)」と「使用商標2(B)」を併せたものを指す。)は、別掲(4)のとおり、パイ菓子を1本ずつ包装する子袋上に表記されたものであり、使用商標1(B)における、長円形中の文字表記を「なが?いうなパイ」から「なが?いうな」に修正し、長円形の直上に「しびれるおいしさ」に追加して「パイ菓子」の文字を表記し、さらに「UNAPie」の表記を「NagaiUNA」に修正したものであり、その余は使用商標1(B)と同一である。
(エ)使用商標2は、長円形中の文字表記部において、本件商標「ながーいうな」が標準文字で表記されているのに対して、「なが?いうな」と特に長音部分が標準文字以外の文字で表記されており、このことから明らかなとおり、両者は相互に同一ではなく、類似の関係にある。また、商標全体においても、「なが?いうな」表示の直上部分には「パイ菓子」の文字が表記されており、ことさら「なが?いうな」が「パイ菓子」であることを強調した表示態様が採用されている。この点に鑑みれば、使用商標2からも、使用商標1と同様に、「ナガーイウナパイ」の称呼、観念が生ずるといえるものである。
したがって、使用商標2は、いずれの点からしても本件商標と類似する商標であることが明らかである。
(3)そうであれば、被請求人が使用する使用商標1及び2は、いずれも本件商標と類似する商標であり、商標法第51条第1項の適用対象となるものである。
なお、付言すれば、被請求人は、もともと上記のとおり「なが?いうなパイ」(使用商標1)の使用が違法ではないと強弁しているから、このことからすると、いつ何時、使用商標2を元の使用商標1に戻すとも知れない。
(4)請求人の商標
(ア)請求人商標
請求人は、登録第2719548号商標(以下「請求人商標」という。)の商標権者である。
請求人商標は、別掲(5)のとおり、左端が下隅部をやや鋭角とした斜線に、右端が半円形となる横長な長円図形中に「うなぎパイ」の文字を書したものであって、指定商品は第30類「うなぎの粉末を加味してなるパイ菓子」であり、商標法第3条第2項の適用を受けて登録されたものである。
請求人商標には色彩が施されており、長円図形は、地色が赤色、輪郭が黄色で縁取りされており、また、「うなぎパイ」の文字のうち、「うなぎ」の部分が黒色であり、「パイ」の部分が長円図形の輪郭と同じ黄色であり(甲第4号証の1及び2)、後述するように、商品パイ菓子を1本ずつ包装する子袋上に表記されている。
なお、後述するとおり、請求人商標の要部は文字部分にある。
(イ)請求人商標の使用状況
請求人の「うなぎパイ」は、パイ菓子を1本ずつ子袋(甲第5号証の1)に包装したものを、箱詰めしたうえで販売されている(甲第5号証の2)。甲第5号証の商品が、「うなぎパイ」のスタンダード版とも言うべきものであって、最も多く販売されている。
また、上記以外にも、「うなぎパイ(ナッツ入り)」(子袋が甲第6号証の1、箱詰めされたものが甲第6号証の2)、「うなぎパイ(VSOP)」(子袋が甲第7号証の1、箱詰めされたものが甲第7号証の2)、「うなぎパイミニ」(子袋が甲第8号証の1、袋詰めされたものが甲第8号証の2)が販売されている。
これらの商品は、いずれも包装紙(甲第9号証)によって包装されて販売されており、また、商品を持ち帰るための手提げ袋(甲第10号証)が使用されている。この他、商品を配送する時に専用のダンボールケース(甲第11号証)が使用されている。
(ウ)請求人商標の著名性
請求人商標は、以下に述べるとおり、我が国を代表する菓子の一つである「うなぎパイ」として著名な商標となるに到っている。
(i)「うなぎパイ」の販売開始
請求人は、昭和24年(1949年)12月に設立された有限会社であり、「菓子製造並びに販売」を業とするものである(甲第12号証)。請求人は、「鰻を用いたパイ菓子」を開発し、これを「うなぎパイ」と名づけて昭和36年(1961年)から販売を開始し、その後、今日に至るまで継続して製造販売をしてきている。
「うなぎパイ」は、発売当初から人気商品になったこともあって、製造と販売を分離するため、昭和41年に製造部門として、浜松市神田町552番地に株式会社うなぎパイ本舗(以下「うなぎパイ本舗」という。)を設立し、以後は、製造をうなぎパイ本舗が行い、販売を請求人が行っている。
(ii)「うなぎパイ」の販売状況
「うなぎパイ」の売上高は、年度別うなぎパイ売上高(小売価格ベース)報告書によれば、直近の10年間において、平成7年度では43億円であったものが、平成16年度には60億円を超える額に達している(甲第13号証)。
なお、平成16年度の売上高が前年に比べて大きく伸びたのは、平成16年4月から同年10月まで静岡県において「しずおか国際園芸博覧会(別名・浜名湖花博)」が開催されたことに起因しており、このため、次年度の売上が若干下がっているが、これを除けば、「うなぎパイ」は、発売以来、売上高が前年を下回ったことがない商品である。
上記のとおり、請求人の「うなぎパイ」は、年度別売上高から鑑みても、我国を代表する著名な菓子であり、その商標は著名商標となっている。
上記のとおりであるが、「うなぎパイ」は、合計286社の取引業者によって扱われ、合計3066の小売店で販売されている(甲第14号証)。
小売店の主なものとしては、JR東海道線「浜松駅」を始めとする鉄道の主要駅構内、東名高速道路を始めとする高速道路の主要なサービスエリア及びパーキングエリア、東京及び大阪を含む全国の主要デパート、スーパーマーケット並びに菓子店等である。
「うなぎパイ」の小売販売の状況については、店舗が設置されている場所により様々な形態がみられる。一例を挙げれば、JR東海道線「浜松駅」構内に設置された小売店(甲第15号証)及び東名高速道路「浜名湖サービスエリア」内に設置された小売店(甲第16号証)においては、遠く離れた場所からでも「うなぎパイ」を販売していることが容易に確認できる表示がなされている。
また、「うなぎパイ」は、請求人の直営店においても販売されている。すなわち、浜松市大久保町所在のうなぎパイ本舗大久保工場の売店(甲第17号証)、浜松市神田町所在の請求人本社工場の売店(甲第18号証)、浜松市鍛冶町所在の請求人本店の売店(甲第19号証)、浜松市鍛冶町所在の請求人浜松駅前ビルの売店(甲第20号証)、浜松市富塚町所在の佐鳴湖パークタウン店(甲第21号証)の各売店において販売されている。
(iii)請求人商標の使用実績
(a)書籍・雑誌・新聞に取上げられた「うなぎパイ」
請求人が、「うなぎパイ」の販売に努力をしてきていることはいうまでもないが、「うなぎパイ」は、以下に記載するとおり、書籍、雑誌、新聞等のマスメディアにおいても、広く取上げられて紹介・報道されてきており、その一部を示せば以下のとおりである。
<書籍>
・「ふるさとの味 特選257」昭和53年11月10日発行(甲第22号証)。
・「全国うまいもの探訪 銘品250選」昭和56年12月15日発行(甲第23号証)。
<雑誌>
・「別冊山と渓谷・日本列島おみやげ各駅停車」昭和61年9月1日発行(甲第24号証)
・「Seda セダ(1992.9月号)」平成4年9月7日発行(甲第25号証)
・「旅1994.6月号」平成6年6月1日発行(甲第26号証)
・「’95るるぶ静岡」平成7年1月1日発行(甲第27号証)
・「月刊ハラペーニョ 1996.5月号」平成8年5月1日発行(甲第28号証)
・「週刊ダイヤモンド」2004年8月24日号(甲第31号証)
<新聞>
・静岡新聞(朝刊)平成14年4月13日号(甲第29号証)
・中部経済新聞(朝刊)平成14年4月16日号(甲第30号証)
・日本経済新聞(朝刊)平成17年4月7日号静岡版(甲第32号証)
・静岡新聞(朝刊)平成17年4月7日号(甲第33号証)
・毎日新聞(朝刊)平成17年4月7日号(甲第34号証)
・中日新聞(朝刊)平成17年4月7日号(甲第35号証)
・日本経済新聞(朝刊)平成17年4月28日号静岡版(甲第36号証)
・中日新聞(朝刊)平成17年5月11日号(甲第37号証)
・中日新聞(朝刊)平成17年8月13日号(甲第38号証)
・中部経済新聞(朝刊)平成17年8月15日号(甲第39号証)
・中日新聞(朝刊)平成18年3月18日号(甲第40号証)
・日本経済新聞(朝刊)平成18年8月12日号全国版(甲第41号証)
(b)請求人の「うなぎパイ」は、テレビ番組においても積極的に取り上げられており、その一部を示せば、以下のとおりである(甲第42号証)。
・テレビ朝日系列(全国放送)、番組名「ツゥナイト2〈夜のお菓子うなぎパイだよ全員集合〉」 平成10年7月28日放送
・テレビ朝日系列(全国放送)、番組名「ココリコ黄金伝説〈一週間うなぎパイを食べ続ける男〉」平成10年10月28日放送
・読売テレビ系列(全国放送)、番組名「ダウンタウンDX《もらって嬉しいお土産ランキング》」平成11年6月10日放送
・フジテレビ系列(全国放送)、番組名「あるある大辞典」平成11年6月27日放送
・テレビ愛知、番組名「素敵スパイス」平成11年12月27日放送
・静岡朝日テレビ、番組名「だん吉のぐるっと浜名湖グルメ旅」平成12年3月8日放送
・フジテレビ系列(全国放送)、番組名「うちくる」平成12年4月16日放送
・静岡SBSテレビ、番組名「そこ知り2000」平成12年8月31日放送
・フジテレビ系列(全国放送)、番組名「とんねるずのみなさんのおかげでした〈食わず嫌い王決定戦〉」平成12年10月12日放送
・日本テレビ系列(全国放送)、番組名「ニュース+1」平成13年4月2日放送
・SBSテレビ、番組名「これいいね《おやつ食べ隊》」平成13年6月6日放送
・SBSテレビ、番組名「それいいね《いい店おしえて カレーの店編》」平成13年12月10日放送
・長野朝日テレビ、番組名「おひさまテレビ」平成14年3月22日放送
・TBS系列(全国放送)、番組名「おはようグッディ《○○のできるまで》」平成14年5月1日放送
・名古屋テレビ、番組名「Bella2(「2」はギリシャ文字で表されている。)」平成14年5月19日放送
・毎日放送、番組名「水野真紀の魔法のレストラン」平成14年7月18日放送
・静岡第一テレビ、番組名「とびっきり静岡」平成15年2月6日放送
・BS日テレ、番組名「頭脳バトル ブレインマックス」平成15年3月8日放送
・東海テレビ、番組名「ピーカンテレビ 元気がいいね《名古屋お土産ランキング》」平成15年3月31日放送
・SBSテレビ、番組名「すごいぞ静岡24連発」平成15年7月5日放送
・静岡第一テレビ、番組名「静岡ミニ情報」平成15年7月12日放送
・関西テレビ、番組名「痛快エブリオ」平成16年8月11日放送
・SBSテレビ、番組名「SBSテレビ夕刊」平成17年4月6日放送
・静岡朝日テレビ、番組名「とびっきり しずおか」平成17年4月6日放送
・SBSテレビ、番組名「とく報 4時ら」平成17年4月8日放送
・静岡第一テレビ、番組名「とびっきり しずおか」平成17年5月3日放送
・静岡第一テレビ、番組名「しずおかミニ情報」平成17年5月24日放送
・テレビ東京系列(全国放送)、番組名「元祖でぶや《3年目のうなぎくらい多めに食えよ》」平成17年6月3日放送
・岡山放送 番組名「Sulebi」平成17年6月9日放送
・日本テレビ系列(全国放送)、番組名「ニュースプラス1」平成17年7月29日放送
・静岡第一テレビ、番組名「第一ニュース」平成17年8月12日放送
・TBS系列(全国放送)、番組名「はなまるマーケット」 平成17年8月15日放送
・静岡第一テレビ、番組名「しずおか○ごとワイド」平成17年9月7日放送
・静岡テレビ、番組名「ちょっといいタイムスペシャル」平成17年9月17日放送
・テレビ愛知、番組名「遊びに行こっ」平成17年10月29日放送
・テレビ東京系列(全国放送)、番組名「モーニングサテライト」平成17年11月29日放送
・関西テレビ、番組名「ナニワ西遊記ごくう」平成18年2月11日放送
・テレビ東京系列(全国放送)、番組名「三宅式こくごドリル」平成18年2月21日放送
(c)「うなぎパイ」の宣伝・広告
請求人は、「うなぎパイ」の宣伝・広告を頻繁に行なうことにより、販路の拡大に努めてきた。以下は、宣伝・広告活動の一部である。
・パンフレット(甲第43ないし第46号証)
・テレビコマーシャル(甲第47ないし第50号証)
・新聞広告(甲第51ないし第105号証)
・雑誌、情報誌、パンフレット上での広告(甲第106ないし第128号証)
・営業車上での広告表示及び野立て看板による広告(甲第129ないし第134号証)
・インターネットホームページ(甲第135号証)
(iv)まとめ
以上述べてきたとおりであるが、請求人商標は、もともと商標法第3条第2項の適用を受けたうえで、平成9年1月31日に登録されたものであるから、登録時において既に周知著名な商標であった。
これに加えて、請求人商標は、商標登録時の前後を問わず、新聞、雑誌、テレビ番組等で積極的に取り上げられてきており、これに加えて請求人自らも、これまで新聞、雑誌、新聞等を通じて積極的に広告宣伝活動を行なってきているものであり、これに伴い請求人の「うなぎパイ」の売上は年々増加の一途を辿ってきている。
すなわち、これらの一連の諸活動を通じて、請求人商標は、請求人の出所を示すものとして、需要者の間に強固に根付くに到っているものである。
よって、上記のとおりであるから、請求人の「うなぎパイ」は、我が国を代表する菓子の1つとして、我が国における著名な商標となるに到っているものである。
(5)被請求人の使用商標は商標法第51条の規定要件を全て充足している
本項においては、被請求人が使用している使用商標が、商標法第51条の適用要件を充足していることを明らかにしていくこととするが、まず、その前提として、請求人商標に類似する商標の、被請求人を含む第三者による違法使用の実情、及び請求人によるこれら違法使用の排除に関する一連の経緯を明らかにし、これと共に、被請求人による使用商標1及び2の使用の実情を明らかにしていく。
そのうえで、その後に、被請求人商標が商標法第51条の規定要件を全て充足していることを明らかにしていく。
(ア)はじめに
請求人商標に類似する商標の、被請求人を含む第三者による違法使用の実情、及びこれに対する請求人による、これら違法使用の排除に関する一連の経緯
請求人の「うなぎパイ」は、上述したとおり商業的に大成功を収めてきたために、請求人の「うなぎパイ」の著名性ないしは信用に只乗りしようとする商品が、再三にわたって市場に参入せんとしてきた。
請求人は、これまで、裁判所での仮処分申立や特許庁での無効審判等を通じて、これらの只乗り商品の排除に努めてきた。
その経緯の概略は、以下のとおりである。
(i)無効審判
特許庁は、嘗て請求人が「うなぎパイ」の只乗り商品を製造、販売している第三者が保有している登録商標につき提起した無効2000-35719号(商標「フレッシュうなパイ」)、無効2000-35720号(商標「ハニーうなパイ」)、無効2000-35721号(商標「ハニーうなパイ」)の無効審判事件において、いずれの商標も、請求人商標「うなぎパイ」と類似すると判断して、その登録を無効にしてきた(甲第136ないし第141号証)。
無効2000-35720号審決(甲第138号証、以下「無効審決」という。)は、請求人商標の要部は「うなぎパイ」の文字部分にあり、「フレッシュうなパイ」商標の要部も「うなパイ」の文字部分にあると認定したうえで、当該商標と請求人商標とが類似するとした。
類似するとした理由については、「うなぎ(鰻)」は一般に「うな(ウナ)」と略称されることから、「うなパイ」 より「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念並びに「ウナパイ」の称呼を生ずる。そうすると両商標は、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念を同じくする点においてすでに紛らわしく、また、引用商標の称呼「ウナギパイ」と本件商標の称呼「ウナパイ」は、相互に近似した印象を与えるものであり、かつ、外観においても、両者は、共に前半の「うなぎ」または「うな」の文字を平仮名とし、後半の「パイ」の文字を片仮名とする点において着想を同じくするものであるから、両商標のそれぞれに、時と処を異にして離隔的に接した場合、需要者は全体の記憶・印象において彼此紛れるおそれが少なからずあるといわなければならない、との判断を示した。
これと共に、同審決は、一般に菓子類の需要者は、専門業者のみでなく、老若男女を問わず極めて広範な消費者を対象に流通するものであり、単価もさほど高価なものでなく一般に親しまれ易いこと、また、そうとすれば、需要者一般の当該使用に係る商標に対して払われる注意力の度合いは決して高くないという取引状況、並びに引用商標及び請求人商標の著名事情の大小の点を併せ考慮すれば、両商標間の誤認混同の可能性はより大きいとみるのが取引の経験則に照らし相当である、との判断を示した。
要するに、同審決においては、「○○うなパイ」のタイプの商標において、「○○」部分が、商品の品質等を表していて識別機能を有しない場合には、「うなパイ」が商標の要部となるものであり、これと共に「うなパイ」と「うなぎパイ」とは、前2音と後2音が共通しており、3音目に「ギ」の有無があるにすぎないから、両者を一連に称呼した時に彼此紛らわしいことは明らかであり、両商標を時と処を異にして離隔的に接した場合、需要者が商品の出所について混同を生ずるおそれがあることが明らかであることが確認されたものである。
このことは、その余の2件の無効審決においても全く同じである。
(ii)訴訟(仮処分申立)
請求人の「うなぎパイ」が著名になるにつれて、市場に類似商標を付した商品が出現してきたため、請求人は、平成11年3月、件外「うなぎてり焼きパイ(甲第142号証)」「プチうなパイ(甲第143号証)」「うなぎかばやきパイ(甲第144号証)」「浜名湖マイルドうなパイ(甲第145号証)」「浜名湖ピュアうなパイ(甲第146号証)」「ロングうなパイ(甲第147号証)」をパイ菓子に使用している事業者(商標使用者)に対して、静岡地方裁判所浜松支部に商標使用差止めの仮処分の申し立てを行った。
これに対して、同裁判所は、平成11年9月13日付けで、上記のうちの「浜名湖マイルドうなパイ」「浜名湖ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」を製造、販売している事業者に対し、請求人商標の商標権を侵害しているとして、当該商標の使用を差止める旨の仮処分決定を下した(甲第148号証)。
なお、これと共に、仮処分差止申立対象のその他の「うなぎてり焼きパイ」「プチうなパイ」「うなぎかばやきパイ」の商標については、これらの商品を製造、販売している事業者が、当該商標の使用中止を自発的に申し出てきたために、同使用中止を内容とする裁判上の和解が、同裁判所で成立した。
また、これとは別に、平成11年当時、請求人は商標「うなリッチパイ」「フレッシュうなパイ」「ハニーうなパイ」「浜名湖うなパイ」をパイ菓子に使用する事業者(商標使用者)に対しても、裁判外で使用中止を申入れた結果、いずれの使用者も使用を中止することを約した経緯がある。
上記のとおり、上記裁判所の仮処分決定は、請求人商標の要部が「うなぎパイ」の文字部分にあると判示したうえで、他方で「浜名湖マイルドうなパイ」「浜名湖ピュアうなパイ」については、「浜名湖」の文字部分が単に地名を表示するものにすぎず、「浜名湖マイルドうなパイ」は「マイルドうなパイ」が要部であり、「浜名湖ピュアうなパイ」は「ピュアうなパイ」が要部であると認定した。
同仮処分決定は、上記のように認定したうえで、「うなぎパイ」からは、「うなぎが原材料として使用されたパイ菓子」の観念が生じ、「マイルドうなパイ」からは、「うなぎが原材料として使用されたまろやかなパイ菓子」の観念が生じ、「ピュアうなパイ」からは、「うなぎが原材料として使用された純粋なパイ菓子」の観念が生じ、「ロングうなパイ」からは、「うなぎが原材料として使用された長いパイ菓子」の観念が生ずると認定した。
そのうえで、「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」は、いずれも「うなぎパイ」と観念において類似しているから、結論として、「浜名湖マイルドうなパイ」「浜名湖ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」の各商標は、「うなぎパイ」と類似商標であると判示した。
上記のとおり、仮処分決定における上記裁判所の判断は、「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」が、「うなぎパイ」と類似するとしたものであるが、裁判所は「マイルドうなパイ」「ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」の各商標において、「マイルド」「ピュア」「ロング」を除いた「うなパイ」の部分が、「うなぎパイ」と類似していることを認定したものといえる。
何故なら、これらの各商標中、「マイルド」は「まろやかな」の意味合いを有し、「ピュア」は「純粋な」の意味合いを有し、「ロング」は「長い」の意味合いを有していることは、仮処分決定において判示されているとおりである。ここで、「マイルド」「ピュア」「ロング」の各文字は、「うなパイ」に対して形容詞的意味合いで付加されているにすぎないから、これらの形容詞部分を除いた残りの部分である「うなパイ」が、「うなぎパイ」と類似していることは、当然の帰結といえるからである。
なお、被請求人は、上記仮処分事件において、仮処分申立を受けた債務者のうちの株式会社第一物産(以下「第一物産」という。)を補助するために、補助参加人として同仮処分申立事件に加わっていた(甲第152号証)。
すなわち、被請求人は、請求人から使用差止の申立を受けた「プチうなパイ」について、実際には被請求人がこれを製造したうえで、債務者第一物産に供給しているとして、同債務者に補助参加をしていたものである。この「プチうなパイ」については、債務者第一物産が自発的に販売を中止することを申し出てきたために、仮処分決定に到る前に、裁判上の和解により解決している(甲第153号証)。
いずれにしても、被請求人は、このような形で同仮処分事件に関与していたものであり、このため、裁判所が行った仮処分決定の内容についても当然に承知していたものである。
(イ)被請求人による使用商標1及び2の使用状況
被請求人は、請求人が「うなぎパイ」の類似商標の使用差止め仮処分を申立てた際には、前述の補助参加の申立をしていたことから明らかなとおり、「プチうなパイ」商標を使用したパイ菓子を製造していたものであるが、裁判所の上記仮処分決定後も、密かに同商標の使用を継続していたようである。「プチうなパイ」については、被請求人が補助参加をした債務者第一物産において、「プチうなパイ」を以後使用しない旨の裁判上の和解が成立していたのにもかかわらず(甲第153号証)、被請求人は、以後も同和解の内容を無視して使用していたものであり、極めて悪質という他はない。請求人は、この事実を突き止め、「プチうなパイ」の使用中止を申入れた結果、被請求人は、平成16年4月に「プチうなパイ」商標の使用を中止する旨を約した経緯がある。
しかし、被請求人は、「プチうなパイ」商標とは別に、使用商標1「なが?いうなパイ」をも使用していた模様である。被請求人は、補助参加人として仮処分事件に加わっており、「ロングうなパイ」が仮処分決定で差止められたことを知っていたのであるから、「なが?いうなパイ」が、「うなぎパイ」と類似していることは知り得た筈である。それにも拘わらず、被請求人は、「なが?いうなパイ」の使用を継続していたものであり、上記同様に極めて悪質であるという他はない。
これに加えて、被請求人は、「なが?いうなパイ」が「うなぎパイ」と類似することを認識しており、いずれ使用できない日が来るのを未然に防ぐために、上記仮処分事件に補助参加の申立を行なった以後である平成11年5月17日に、本件商標の商標登録出願を行い、登録を受けている。
しかし、被請求人は、本件商標の出願ないし登録の前後において「なが?いうなパイ」を本件商標「ながーいうな」に変更することもなく、「なが?いうなパイ」のままの使用を継続していた。
このことからすれば、本件商標「ながーいうな」の出願は、本件商標を登録しておく一方で、実際には「なが?いうなパイ」の使用を継続することを目的とした、不正な脱法目的によるものに他ならないことが明らかである。
要するに、被請求人による「なが?いうなパイ」の使用は、請求人の著名商標「うなぎパイ」の名声に只乗りするための商法そのものであったに他ならないものである。
上記のとおり、被請求人は、請求人から警告を受けた後の本年6月になって、使用商標1を一部修正した使用商標2の使用を開始した。
しかし、使用商標2を使用したからといって、使用商標1を使用してきた事実が消滅するわけではないし、使用商標2それ自体も、本件商標に類似している商標であるから、これらの使用商標は、いずれも請求人商標「うなぎパイ」の信用に只乗りするための商標であるに他ならないことを付言しておく。
(ウ)被請求人が使用している使用商標1及び2は、商標法第51条の規定要件を全て充足している
(i)使用商標1及び2は、いずれも本件商標「ながーいうな」と類似している
使用商標1は、「なが?いうなパイ」の文字部分を含む商標であって、本件商標「ながーいうな」と類似している。
すなわち、使用商標1中の文字部分「なが?いうなパイ」は、「パイ菓子」を表す「パイ」を含んでいるところ、使用商標1は、本件商標「ながーいうな」に「パイ」を付加したに過ぎないものであるから、使用商標1が本件商標と類似していることは明らかである。
これに加えて、使用商標1中の文字部分「なが?いうなパイ」は、「なが?い」のうちの長音の部分が、本件商標が「ながーい」の標準文字からなるものであるのに対して、標準文字以外の「?」で表示されている。
したがって、使用商標1は、文字表示の態様においても、本件商標と同一ではなく、類似の関係にある。
また、これと共に、使用商標1は、文字部分以外に図形部分をも含む商標であるから、この点においても、使用商標1は本件商標と同一ではなく、類似の関係にある。
次に、使用商標2は、使用商標1における長円形内の文字表記を「なが?いうなパイ」から「なが?いうな」に修正すると共に、長円形の直上部分の「UNApie」の表記を「パイ菓子」へと修正し、新たに「NagaiUNA」を表記したものであり、これ以外の部分は、使用商標1と全く同一である。
使用商標2は、使用商標1の文字部分「なが?いうなパイ」を「なが?いうな」に修正しているが、使用商標1の場合と同様に、本件商標が標準文字「ながーいうな」であるのに対して、使用商標2は「なが?いうな」であり、長音部分が標準文字を使用していないから、両者は同一ではなく、類似の関係にある。
これに加えて、使用商標2は、文字及び図形からなる商標であるから、この点においても、本件商標とは同一ではなく、類似の関係にある。
なお、前記したとおり、使用商標2においても、使用商標1と同様に、「ウナギパイ」の称呼、観念が生じるものである。
よって、使用商標2は本件商標と類似している。
(ii)被請求人による使用商標1及び2の使用は、請求人の業務に係る商品「うなぎパイ」と混同を生ぜしめている
被請求人が使用商標1をパイ菓子に使用した場合には、以下に述べるとおり、請求人の業務に係る商品「うなぎパイ」との間で混同が生ずることが明らかである。
すなわち、まず、請求人商標と使用商標1及び2とは明らかに類似している。
この点につき具体的に述べれば、請求人商標「うなぎパイ」においては、同商標が商標法第3条第2項によって登録されていることから、請求人商標からは「ウナギパイ」の称呼が生じることになる。
また、これと共に、請求人商標は、文字部分と図柄部分とから構成されているところ、図柄部分のうちの外輪郭図形部分はありふれた形状のものであり、背景の色彩部分も具体的な観念を示すものではないことから、自他識別力を有する商標の要部は「うなぎパイ」の文字部分にあることが明らかである(前述した審決、裁判所の仮処分決定においても、同様に判示されている。)。
これに対して、使用商標1は、「なが?いうなパイ」の文字部分を含む商標であるが、同文字部分の文字の大きさが、「なが?い」と「うなパイ」とで異なっているため、使用商標1は、「なが?いうなパイ」の全体であると認識されるだけでなく、単に「うなパイ」であるとも認識される。また、「なが?いうなパイ」における「なが?い」の部分は、商品の形状が長いことを表す文字であるから、自他商品の識別機能がなく、商標の類否判断から除かれるものであり、このため使用商標1の要部は「うなパイ」の部分であるといえる。
なお、この点については、特許庁の審決(甲第137、第139及び第141号証)においても、「フレッシュうなパイ」及び「ハニーうなパイ」商標の要部が「うなパイ」であることを前提として判断されていることからも明らかである。
上記のとおりであるから、商標「○○うなパイ」において、「○○」部分が識別機能を有していない場合に、「○○」部分を除いた「うなパイ」部分が要部となることは自明である。
なお、この場合に、被請求人は、今後特許庁に提出するであろう答弁書中において、甲第150号証の回答書の内容と同様に、本件商標は「ながーいうな」であるから、「なが?いうなパイ」のうち、「パイ」部分を除いた「なが?いうな」の部分と「うなぎパイ」とを、相互に対比すべきであると主張するのかも知れない。
しかし、「なが?いうなパイ」は、全体として一体表記されているから、当該表記全体が一体の商品名であることは明らかである。
したがって、使用商標1中の「なが?いうなパイ」と請求人商標「うなぎパイ」とは、当該文字部分の全体で対比されるべきことが明らかである。
上記のとおりであるところ、請求人商標「うなぎパイ」と被請求人の使用商標1「なが?いうなパイ」とを対比した場合には、請求人商標においては「うなぎパイ」の文字部分が要部であり、他方で使用商標1においては「うなパイ」の部分が要部であるところ、両者は「うなぎパイ」と「うなパイ」であり、3音目に「ギ」の有無があるにすぎないから、称呼、概念のいずれにおいても類似している。
これと共に、両者は、うなぎが原材料として使用されているパイという点で同一の観念を有している。
したがって、両者は明らかに類似しており、このことは審決例及び裁判例からも優に裏付けられる。
よって、被請求人が使用している使用商標1の「なが?いうなパイ」は、請求人商標に類似している。
次に、使用商標2においても、前述したとおり「ナガーイウナパイ」の称呼、観念が生じており、使用商標1において検討した上記の内容がそのまま当てはまるものである。
したがって、請求人商標と使用商標2とを対比した場合にも、上記と同じ理由により、使用商標2は請求人商標に類似している。
上記のとおりであるところ、請求人商標は、上述したとおり請求人の出所を示す著名商標であるから、被請求人がパイ菓子に使用商標1及び2を使用した場合には、請求人の業務にかかる著名商品である「うなぎパイ」との間で、出所につき混同が生ずることは自明である。
よって、被請求人が使用商標1をパイ菓子に使用した場合には、請求人の業務に係る商品「うなぎパイ」との間で混同が生ずることが明らかである。
(iii)被請求人は、故意により使用商標1及び2を使用している
請求人は、パイ菓子「なが?いうなパイ」を販売している件外株式会社銀波荘(以下「銀波荘」という。)を始め10社に対して、本年6月7日付けで、「なが?いうなパイ」商標(使用商標1)の使用を中止するよう警告をした(甲第149号証)。
これに対し、警告を受けた各社から同一内容の回答があり、このうち、上記銀波荘からの同年6月15日付け回答は、「『なが?いうなパイ』の商品名は、当該商品のメーカーである有限会社泰伸(本件被請求人)が、商標登録第4378613号として正規に登録したものであり、適正かつ正当に使用できると考えている。」というものであった(甲第150号証)。
その後、被請求人自身も、請求人に対し、パイ菓子「なが?いうなパイ」のメーカー及び本件商標の商標権者の立場での見解を述べるとする書簡を、同年6月19日付けで送付してきており、この中で「なが?いうなパイ」商標の使用は正当であるとする甲第150号証の回答書と同趣旨の内容の回答を行っている(甲第151号証。なお、付言すれば銀波荘及び被請求人の代理人は同一人であり、これに加えて、本件商標の出願代理人も同一人である)。
しかし、被請求人による上記回答は、明らかに理由を欠いており、以下に述べるとおり全て失当である。
すなわち、被請求人は、前述したとおり、もともと仮処分申立事件において、同事件における債務者の一名である第一物産の補助参加人として事件に関与していたものであるから(甲第152号証)、裁判所が「浜名湖マイルドうなパイ」「浜名湖ピュアうなパイ」「ロングうなパイ」について使用禁止の仮処分決定を行ったことを承知していた。
したがって、被請求人は、「ロングうなパイ」が駄目で、「ながーいうなパイ」が良いという結論にならないことは、十分理解できていた筈である。
そうであるのにもかかわらず、被請求人は、「なが?いうなパイ」の販売を継続していた模様である。
また、このこととは別に、被請求人は、平成11年4月23日付で同仮処分申立事件に補助参加の申立をしておきながら(甲第152号証)、その翌月の平成11年5月17日には本件商標の出願を行なっていた。
被請求人は、上記仮処分申立事件に補助参加の申立をした4月23日のわずか3週間後に、本件商標出願に及んでいるものである。
すなわち、被請求人は、一方で仮処分事件に補助参加の申立をなし、他方でこれに時期を接して、本件商標「ながーいうな」の出願を行なっていたものである。
被請求人は、上記仮処分申立において「ロングうなパイ」が使用差止対象になっていることを知りながら、「ながーいうな」の商標出願を行なっている。しかも、ここで指摘すべきことは、被請求人は、「ながーいうなパイ」の商標出願を回避して、「ながーいうな」の商標出願を迂回的に行なっていることである。それにもかかわらず、被請求人は、商標「ながーいうな」ではなく、商標「なが?いうなパイ」を商品上に使用してきたものである。
上記一連の経緯から明らかなとおり、被請求人による本件商標「ながーいうな」の出願の目的は、もともと商品上において「パイ」を付加して「なが?いうなパイ」として不正に使用するためのものであることが明らかであり、極めて悪質であるといわざるを得ない。
被請求人は、このようにして本件商標「ながーいうな」の商標登録を得る一方で、実際の商品上ではこれに類似する商標「なが?いうなパイ」を不正に使用し、これにより請求人の著名商品「うなぎパイ」との間で混同を生ぜしめるに至っていたものである。
よって、上記のとおりであるから、被請求人による使用商標の使用は、使用商標1及び2が本件商標に類似しており、使用商標1及び2の使用により請求人の著名商品である「うなぎパイ」との間で混同を生じることを認識したうえでのものであり、故意によるもの以外の何ものでもないことが明らかである。
(エ)使用商標を使用商標1から使用商標2に変更したところで、本件商標の不正使用による取消を免れない
被請求人は、本年6月の請求人からの使用中止の申入れに対し、使用商標1の使用は、本件商標の使用であって、違法性はないと回答している(甲第151号証)。
それにもかかわらず、被請求人は、上記回答後に、突然、使用商標1を使用商標2へと修正変更した。
被請求人による使用商標の変更は、「なが?いうなパイ」の使用が本件商標の取消事由に該当すること、また、「なが?いうなパイ」が請求人商標の商標権侵害になることを危倶したことによるものであり、被請求人自身が「なが?いうなパイ」の使用が、本件商標の不正使用による取消事由になることを自認していたことを示すものに他ならない。
もっとも、使用商標1を使用商標2に変更したところで、前述したとおり、使用商標2も本件商標に類似していることから、何ら結論が変わることはない。
いずれにしても、被請求人による使用商標の変更は、商標法第51条の取消審判による登録取消を回避するためのものであって、請求人の警告に対する一時的な避難として「なが?いうなパイ」の文字部分を、「なが?いうな」に変更したというにすぎず、緊張状態が解ければ、元の「なが?いうなパイ」に戻してしまうことが十分に予想されるものである。
なお、被請求人は、甲第151号証の回答内容からすると、答弁書において、使用商標2は本件商標と同一の商標の使用であるから、商標法第51条の要件を具備しているものでないと主張をするかもしれない。
しかし、前述したとおり、使用商標2は文字部分が「なが?いうな」であって、標準文字からなる本件商標「ながーいうな」と比べると、同一であるとはいえず、類似の関係にある。これに加えて、使用商標2は、文字及び図形からなる商標であり、全体として本件商標と同一ではなく、類似の関係にあるから、被請求人の主張は理由を欠いている。
なお、仮に、被請求人が行うかもしれない上記主張、すなわち使用商標2は本件商標の使用そのものであるとの主張を前提にして検討した場合にも、本件商標は商標法第51条による取消を免れない。
すなわち、被請求人が、商品「パイ菓子」について使用していた使用商標1中の文字部分「なが?いうなパイ」を、使用商標2の「なが?いうな」へと修正変更したのは平成18年6月であるが、被請求人がそれ以前の時期に使用商標1を使用していたことに相違はない(被請求人も争っていない)。
他方で、商標法第52条により取消審判請求の除斥期間は、使用の事実がなくなった日から5年と規定されているから、例え被請求人が使用する商標が、使用商標1から使用商標2に変更になり、使用商標2が本件商標と同一であるとの仮定に立ったとしても(実際にはそうではないが)、現時点において、使用商標1を不正使用したことに基づく取消審判請求権が何ら消滅しているものではないことを、ここでは指摘しておく。
(オ)まとめ
被請求人が使用している使用商標1及び2は、自己が所有する登録商標「ながーいうな」ではないが、両者は互いに本件商標との関係で類似の関係の商標である。これと共に、被請求人が使用する使用商標1及び2は、著名な請求人商標「うなぎパイ」と類似しており、請求人の業務に係る商品「うなぎパイ」との間で混同を生ぜしめていることが明らかである。
そうすると、被請求人による使用商標1及び2の使用は、商標権者が故意に指定商品について登録商標に類似する商標を使用しているに他ならず、他人の業務に係る商品と混同を生じさせるものであり、商標法第51条第1項の規定に該当することが明らかである。
3 結論
以上述べてきたとおり、被請求人は、商品「パイ菓子」について、故意に、本件商標と類似する商標を使用して請求人の業務に係る商品と混同を生ぜしめているものであって、被請求人の使用は商標法第51条所定の不正な使用であることが明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第51条第1項の規定に該当するものであって、その登録は取り消しを免れないものである。
4 弁駁の理由
(1)不適法な審判請求の主張に対する弁駁
(ア)本件において、被請求人による対象商標の不正使用の事実は全て特定され、かつ立証されている。被請求人は、対象商標の不正使用事実の特定を欠く本件審判の請求は不適法なものとして却下を免れないと主張しているので、この点について弁駁する。
被請求人は、本件事件においては、使用商標1及び2が、いつ、どこで、どのようにして不正使用されたのかについて特定し立証されていないと主張しているが、失当である。
すなわち、請求人は、上記2(1)「被請求人が使用中の商標」の項において、使用商標1及び2の不正な使用事実につき、その時期、使用態様等に到るまで、これを具体的に特定したうえで主張している。
これと共に、被請求人による使用商標1の使用に関しては、被請求人の製造、販売にかかる商品上に使用商標1が表示されており(甲第2号証の1ないし5)、かつ同商品の商品表示欄には、被請求人の名称が販売者として記載されており(甲第2号証の6)、また、同様に被請求人による使用商標2の使用に関しても、被請求人の製造、販売にかかる商品上に使用商標2が表示されており(甲第3号証の1ないし5)、かつ同商品の商品表示欄には、被請求人の名称が販売者として記載されており(甲第3号証の6)、これらにより、いずれも明確に裏付けられている。
したがって、被請求人により、使用商標1及び2が、いつ、どこで、どのようにして使用されたのかについては、これらの主張及び証拠によって十分に特定され、かつ立証されていることが明らかである。
そもそも、本件審判が請求されるに到った経緯は、請求人において件外銀波荘を始めとする合計10社に対して、平成18年6月7日付けで使用商標1を使用している商品の販売を中止するよう警告を行ったところ(甲第149号証)、銀波荘から同年6月15日付けで回答がなされたことに端を発している(甲第150号証)。
すなわち、銀波荘からの回答は、被請求人が製造し、被請求人が銀波荘に卸し、銀波荘が販売している商品上には、事実として「なが?いうなパイ」と表示されているのにもかかわらず(甲第2号証の1ないし6)、商品名を「○○○うなパイ」とするパイ菓子は販売しておらず、販売しているのは商品名「なが?いうな」のパイ菓子であり、この商品名は、当該商品のメーカーである有限会社泰伸(被請求人)が商標登録第4378613号として登録したものであるから、適法かつ正当に使用できると考えている、という奇妙な内容のものであった。また、被請求人自身も同趣旨の回答を行っている。
上記のとおりであるから、被請求人は、平成18年6月当時において、被請求人が製造し、銀波荘が販売している、使用商標1を商品名として表示している商品につき、上記製造、販売の事実及び同商品上に使用商標1が表示されている事実を否定することなく、このことを前提としたうえで、上記の奇妙な内容の見解を回答していたものである。
もっとも、被請求人は、本事件の答弁書中では、上記とは裏腹に、使用商標1を、平成18年5月現在使用していないなどと主張している。
しかし、使用商標1を使用した商品の商品表示欄(甲第2号証の6)には、被請求人の名称の他に、賞味期限が「06.5.20」であるとの表記がなされている。したがって、被請求人が製造、販売したパイ菓子が、賞味期限が切れる本年5月20日まで販売されていたことは明らかであり、これは、正に被請求人による使用商標1の使用であるに他ならないものである。
これと共に、被請求人は、賞味期限が「06.5.20」である商品を当該期限月(平成18年5月)内に販売することはあり得ないとも主張しているが、商品が賞味期限迄の期間内において販売されることは通常のことであるから、同主張も理由がない。
次に、被請求人による使用商標2の使用についても、使用商標2が使用されている商品の商品表示欄には、賞味期限として「06.12.10」が表示されているから(甲第3号証の6)、使用商標2が表示された商品が、上記賞味期限が終了するまで販売されることは当然のことである。
上記のとおりであるから、使用商標1及び2が、いつ、どこで、どのようにして使用されたかについては、全て特定し立証されていることが明らかである。
(イ)被請求人による「複数の不正使用の対象商標に基づく本審判請求は不適法なものとして却下を免れない」との主張は全て失当である。
被請求人は、使用商標1及び2という「複数の不正使用の対象商標に基づく本審判の請求は不適法なものとして却下を免れない」と主張しているので、この点について弁駁する。
すなわち、被請求人は、「使用商標1と使用商標2とは全く異なった別個の商標であり、…1件の審判請求で複数の不正使用の対象商標を理由として商標登録の取消を求めることは、審判制度の趣旨に反する」と主張している。
しかし、以下に述べるとおり、被請求人の主張は失当である。
すなわち、請求人が、使用商標1及び2について本件審判請求を行った経緯は、上述のとおりであり、銀波荘からの回答(甲第150号証)は、商品名を「○○○うなパイ」とするパイ菓子は販売しておらず、販売しているのは商品名「なが?いうな」のパイ菓子であり、この商品名は、当該商品のメーカーである有限会社泰伸(被請求人)が商標登録第4378613号として登録したものであり、適法かつ正当に使用できると考えている、というものであった。また、被請求人からも、同趣旨の回答がなされた(甲第151号証)。
もっとも、被請求人は、使用商標1の使用は本件商標の使用に他ならないと回答してきてはいたものの、それにしては、上記警告を受けた後に、使用商標1の使用を中止し、使用商標1を一部修正した使用商標2の使用を開始したものである。
したがって、被請求人による上記一連の経過からすれば、使用商標1及び2は、上記経過中において連続して使用されてきているものであり、本件審判請求において、これらを不正使用の対象商標として特定することは当然ともいうべきことであり、何ら不当な点は存在していない。
被請求人は、この点につき、使用商標1と使用商標2とを対象にすることは、被請求人に著しい負担を強いるとも主張しているが、本件において、そのような事実が存在していないことも、極めて明らかである。
(ウ)小括
被請求人は、前記のとおり主張することにより、本件審判の請求は却下されるべきであるとしているが、本件審判請求が適法なものであることは、極めて明らかであり、被請求人の主張は全て失当である。
(2)予備的答弁に対する弁駁
(ア)被請求人は、使用商標1及び2の具体的な不正使用事実、すなわち、これらの商標が、いつ、どこで、どのようにして不正使用がなされていたかの立証がないと主張している。
しかし、被請求人による上記主張が失当であることについては、前項で具体的に指摘したとおりである。
(イ)被請求人は、使用商標1の文字部分においては、「なが?い」の文字が小さく、「うなパイ」の文字が大きく表記されていることから、使用商標1は、「なが?い」の部分と「うなパイ」の部分とに分けて認識され、「うなパイ」の部分を要部とするものであるとして、「なが?い/うなパイ」と本件商標「ながーいうな」とは非類似の関係にあると主張している。
しかし、被請求人の主張は失当である。すなわち、使用商標1においては、横長な長円形中に「なが?いうなパイ」の文字が、まとまりよく表記されている。したがって、当該商標に接した需要者は、文字の大きさが前段と後段とで多少異なっていたとしても、「なが?いうなパイ」が一体に表示されていると認識するものである。しかも、「なが?いうなパイ」の文字が、横長な長円形中に一体に表記されていることは客観的な事実であるから、被請求人においても、「なが?いうなパイ」が一連一体に表示されていることを認識していたことは明らかというべきである。
したがって、使用商標1からは、「ナガーイウナパイ」の称呼が当然に発生し、当該商品は、「ナガーイウナパイ」の称呼において取引されるものである。
被請求人は、この点につき、上記のとおり「なが?いうなパイ」の要部は「うなパイ」の部分であると主張しているが、これは被請求人の従来からの主張とも矛盾している。
すなわち、被請求人の代理人が銀波荘を代理して請求人に送付をした回答書(甲第150号証)中では、答弁書での主張とは裏腹に、被請求人が製造し、銀波荘が販売している商品(甲第2号証の1ないし6)上では、被請求人の本件商標が使用されていると主張していた。
換言すれば、上記回答書では、使用商標1において、「なが?い」の部分と「うなパイ」の部分の文字の大きさが全く同一ではないことを前提としたうえで、使用商標1においては、本件商標「ながーいうな」が使用されていると主張していたものである。
そして、被請求人自身も、同一の代理人を介して、同様な前提のもとで、請求人に通知を行なっていた(甲第151号証)。
よって、このことを前提とする限り、被請求人は、答弁書を提出する以前は、使用商標1が表示されている商品上においては、本件商標「なが一いうな」が使用されていると主張していたものであり、使用商標1において、「ながーい」の部分と「うなパイ」の部分とを分けて考えるべきであるとは何ら主張していなかったものである。
ところが、被請求人は、本件審判請求が申し立てられた途端に、従来の主張を維持していたのでは、自己に不利になると考えたことからか、突然前記のとおり主張し始めたものである。
しかし、このような一貫性を欠いた主張が、失当なものであることは、あえて指摘するまでもないところである。
上記のとおりであるところ、本件商標「ながーいうな」と使用商標1「なが?いうなパイ」とでは、本件商標「ながーいうな」中の長音を示す標準文字「ー」を、標準文字以外の特殊文字「?」に変更し、これにパイ菓子を示す「パイ」を語尾に加えただけであるから、両者が類似していることは明らかである。
なお、仮に被請求人が主張するように、使用商標1が「うなパイ」の部分を要部とすることを前提とした場合にも、被請求人の主張は理由がない。
すなわち、請求人が、「○○うなパイ」のタイプの商標について、平成11年に静岡地方裁判所浜松支部に使用差止の仮処分申立(甲第148号証)を行った当時、市場には「プチうなパイ」、「浜名湖マイルドうなパイ」、「ロングうなパイ」など数多くの類似品が出回っていた。もっとも、これらの商品が、「プチうな」、「浜名湖マイルドうな」、「ロングうな」と称されていたかといえば、そのような事実はなく、また、上記名称で取引されていたこともなかった。
被請求人は、このような状況下で、使用商標1を使用してきたというのであるから、被請求人自身の認識からしても、使用商標1が一連一体の「なが?いうなパイ」であることは明らかである。
よって、このことからしても、使用商標1が本件商標と類似していることは明らかというべきである。
(ウ)被請求人は、「商標法第51条に規定する『登録商標に類似する商標』の『類似』の意味は、2つの商標を対比した場合に社会通念上の同一性の範囲を超えていることをいうのであって、社会通念上同一性の範囲内のものまで本条によるペナルティ(取消)の対象とすることは、法の趣旨ではない」としたうえで、「ながーいうな」の「ー」から「なが?いうなパイ」の「?」への変更は同一性の範囲内にあると主張している。
しかし、被請求人の主張は失当である。すなわち、本件商標「ながーいうな」のうちの「ー」の部分は、長音としての表記であるところ、これに対し、使用商標2「なが?いうな」の「?」は、長音としての表記ではない。
一般に、「?」は、「10から20」を「10?20」と表記する記号として使用されていることからも明らかなとおり、「?」が長音として使用されることは皆無であるか、少なくとも稀である。
したがって、使用商標2の「なが?いうな」における「?」は、特殊な記号であるものであって、長音を表す「ー」と同一であるとはいえない。
よって、このことからすれば、使用商標2の「なが?いうな」と本件商標の「ながーいうな」とは、社会通念上から判断しても、相互に同一ではなく、両者は類似商標の関係にあることが明らかである。
なお、付言すれば、使用商標2は文字と図形からなる商標であるから、この点からしても、使用商標2が本件商標と同一でないことは明らかである。
(エ)被請求人は、使用商標1の「なが?いうなパイ」と請求人商標の「うなぎパイ」との間では混同が生じないと主張すると共に、「浜名湖うなパイ」が、請求人の「うなぎパイ」とは類似しないとする審決(乙第1号証)が存在することを指摘している。
しかし、被請求人の上記主張は失当である。また、上記審決は不当なものであり、請求人としては、上記「浜名湖うなパイ」商標の登録に対して、近日中に無効審判請求を行うことを予定している。
上記のとおりであるところ、「○○うなパイ」のタイプの商標において、「○○」の部分が識別機能を有していない場合に、「○○」部分を除いた「うなパイ」部分が要部となることは、特許庁及び裁判所において明確に認められているところである(甲第136ないし第141及び第148号証)。
「うなパイ」と「うなぎパイ」とが相互に類似商標であるとする理由は、「うなぎ(鰻)」は、一般に「うな(ウナ)」と略称されることから、「うなパイ」から「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念並びに「ウナパイ」の称呼が生ずる。一方、「うなぎパイ」からは、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念並びに「ウナギパイ」の称呼が生ずるのであるから、両商標は、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念を同じくする点において相互に紛らわしく、また、「ウナパイ」と「ウナギパイ」は、称呼においても前2音と後2音が共通しており、3音目に「ギ」の有無があるにすぎないものであるから、両者を一連に称呼した場合には、彼此紛らわしいことが明らかである。
したがって、請求人商標と使用商標1が、相互に類似していることは明らかと言うべきである。
これに対して、被請求人が指摘した商標「浜名湖うなパイ」を登録した審決(乙第1号証)は、称呼類似の判断において、「それぞれの構成文字に相応して生ずる『ウナパイ』及び『ウナギパイ』の称呼は、3音目において『ギ』の有無という差異を有し、他の音を同じくするものであるが、4音と5音という比較的短い音構成においては、該差異が両称呼に与える影響は小さいものとはいえず、両者をそれぞれ称呼したときは、十分に聴別し得るものである。」と認定して、上記のとおり審決している。
しかし、同審決は、請求人商標が著名商標である事実を看過しており、これに加えて、従来の審決及び裁判所の判断を無視しており、不当というほかはない。
すなわち、請求人は、請求人商標が著名商標であることにつき、審判請求書において明らかにしたとおりであるが、同審決は、この明らかな事実を看過している。
これと共に、前述したとおり、特許庁が「フレッシュうなパイ」、「ハニーうなパイ」の各商標につき、いずれも「うなぎパイ」と類似するとして無効にしたのは平成13年7月13日であり、また、「浜名湖マイルドうなパイ」、「浜名湖ピュアうなパイ」、「ロングうなパイ」が、いずれも請求人の「うなぎパイ」の商標権を侵害しているとする仮処分決定は、平成11年9月13日付にてなされている。
これに対して、「浜名湖うなパイ」商標の上記登録審決は、平成17年7月29日付にてなされており、仮処分がなされてからは6年弱、無効審決がなされてからも4年しか経過していない。同様な内容の事案について、僅かな期間の間に異なる結論の判断を下すのであれば、それなりの理由を示す必要があると考えられるところ、同審決は何らの理由をも示しておらず、以下に述べるとおり明らかに誤った判断を行なっている。
すなわち、上記商標が使用される対象商品は、土産品としての「パイ菓子」であって、主として鉄道の駅、高速道路のサービスエリア、その他小売店等において販売されるものであり、その需要者は専門業者ではなく、老若男女を問わず極めて広範な一般消費者を対象としている。また、商品の単価もさほど高価な商品ではないことから、商標に対して払われる注意力も、決して高いものではないといえる。
かつて、最高裁判所において、「ショウザン」の称呼が生ずる本願商標と「ヒョウザン」の称呼が生ずる引用商標とは、両商標の称呼が比較的近似するものであるとしても、その外観及び観念が著しく相違するとして、両者は類似でないとする判断が示されたことがあった(最高裁昭和43年2月27日判決)。
しかし、上記判決は、指定商品が硝子繊維糸であること、需要者が専門業者であって十分な商品知識を有していること、取引の実際においても、商品の称呼のみによって商標を識別して、商品の出所を知るようなことはほとんど行なわれていないこと等の取引における特殊な実情を考慮したうえでなされたものである。
これに対して、商品が菓子、衣料品などの消費者向けの商品である場合には、消費者が需要者であることから、類否判断は自ずと異なってくるものである。これらの消費者向けの商品においては、外観、称呼、観念のいずれかが類似していれば、商標は類似していると判断することが相当である。
すなわち、土産物としての「パイ菓子」は、あらゆる階層の人を購買対象者とするものであり、十分な商品知識を有する者が需要者となるものではなく、商品名により商品選択がなされる商品である。
したがって、商標類否の判断においても、外観、称呼、観念のうち、いずれか一つが類似していれば、基本的に商標は類似していると判断されるべき商品である。
この点において、「浜名湖うなパイ」商標を登録した審決は、商品の特性を十分に考慮しておらず、需要者の判断に誤りがあり、また、請求人商標『うなぎパイ』の著名性を看過している点でも誤りがあり、不当なものであるといわざるを得ない。
上記のとおりであるところ、使用商標1は、請求人商標と明らかに類似しており、これに加えて、請求人商標は請求人の業務に係る著名商標である。
したがって、被請求人が使用商標1をパイ菓子に使用した場合には、請求人の商品「うなぎパイ」との間で混同が生ずることが極めて明らかというべきである。
(オ)被請求人は、使用商標2においても、請求人商標との間で混同が生じていないと主張しているが、前同様に失当である。
すなわち、使用商標2は、請求人から使用商標1の使用を中止するよう警告を受けた後に、被請求人において使用を開始したものである。
両者の違いは、使用商標2が使用商標1の「なが?いうなパイ」から「パイ」の文字部分を除き、これと共に「UNAPie」の表記を「パイ菓子」に修正し、長円形の左下に小さな文字で「NagaiUNA」と表記したもので、他の構成部分は基本的に同一である。
要するに、被請求人は、使用商標1の使用が“不正使用である”との認識で長年使用してきたからこそ、請求人からの使用中止の警告を受けるのと同時に、急遽使用商標2の使用を開始したものである(もっとも、使用商標2の使用へと変更したところで、不正使用であることに変わりはなく、また、使用商標1を不正に使用してきた事実が消失するわけでもない)。
これと共に、被請求人は、使用商標1の使用が不正使用であるとの認識の下で、本件商標の登録を受け、請求人から使用中止の請求があった時点で、「なが?いうなパイ」の「パイ」部分を削ればよいとの安易な考えのもとで、使用商標1及び2を使用してきたものである。
しかし、使用商標1及び2の使用は、いずれも請求人商標との間で混同を来すことが明らかであり、被請求人の主張は理由がない。
結局のところ、被請求人による使用商標1及び2の使用は、著名な請求人商標の業務上の信用にただ乗りするためのもの以外の何物でもなく、両者間の混同を招来する点において、悪質極まりないものである。
(カ)被請求人は、使用商標1を昭和63年頃から使用している等として、被請求人には、商標法第51条が規定している故意は存在していないと主張している。
しかし、被請求人の主張は失当である。すなわち、被請求人は、請求人が平成11年3月に静岡地方裁判所浜松支部に申立てた「○○うなパイ」のタイプの商標の使用差止仮処分事件の存在を、その当時知り、当該仮処分事件において、仮処分申立を受けた債務者のうちの1名である第一物産を補助するために、補助参加人として同事件に加わっていた(甲第152号証)。
したがって、被請求人は、上記補助参加の関係からも、裁判所が、「浜名湖マイルドうなパイ」、「浜名湖ピュアうなパイ」、「ロングうなパイ」は、請求人商標の商標権を侵害しているとの仮処分決定を下したことを十分に承知していた。
しかも、被請求人は、補助参加をした第一物産が被請求人から購入のうえ販売していたパイ菓子「プチうなパイ」(仮処分申立の対象になっていた商標)について、当該商標を使用しないことを内容とする裁判上の和解がなされたこと(甲第153号証)を知っていたのであるから、「○○うなパイ」のタイプの商標が請求人商標と類似していることにつき、十分に熟知できる立場にあった。
これに加えて、本件商標の登録を受けた後も、被請求人において使用商標1の使用を継続していた理由は、「ながーいうな」よりも「なが?いうなパイ」の方が、請求人商標により近く感じ、その方が商品として売れると判断していたからであって、「なが?いうなパイ」の使用は、請求人商標の名声にただ乗りするためだけの商法によるものに他ならない。
よって、上記のとおりであるから、被請求人による使用商標1の使用は、使用商標1が請求人商標に類似しており、使用商標1の使用により、請求人の著名商品である「うなぎパイ」との間で混同を生じることを認識したうえでのものであり、故意によるもの以外の何ものでもないことが明らかである。
(キ)被請求人は、使用商標2の使用についても、商標法第51条が規定している故意は存在していないと主張している。
しかし、被請求人の主張は失当である。すなわち、被請求人が本件商標の登録を受けるに到った経緯及び被請求人が使用商標1から使用商標2に変更した経緯は、上記したとおりである。
これらの経緯から判断する限り、被請求人による使用商標2の使用は、不正使用されていた使用商標1を一部修正した上で、引き続き使用しているというものにすぎず、使用商標1の使用の場合と同様に、故意によることが明らかというべきである。
5 上申書
請求人は、被請求人が提出した乙第1号証(審決註:口頭審理において、「甲第1号証」を「乙第1号証」に訂正。)たる登録第4898886号商標に対し、平成19年6月28日付けで無効審判請求を行った。
6 弁駁書(第2)
(1)使用商標1及び使用商標2の不正使用に対する弁駁
被請求人は、使用商標1については、使用事実を否認し、また、使用商標2については、使用商標1を一部修正したものであることを否認したうえで、その使用事実を認めている。
しかし、使用商標1及び使用商標2の使用が不正使用であることは、前記第2 2「(1)被請求人が使用中の商標」の項ならびに弁駁書第1項において、その使用時期、使用態様等に到るまで、これを具体的に特定したうえで主張したとおりである。
よって、被請求人のこの点に関する主張は全て失当である。
(2)「うなパイ」商標の現況に対する釈明
請求人は、請求人が出願した「うなパイ」商標(商願平11-90658)が、出願から7年以上経過した現在も登録されていないとの被請求人の指摘に対して、以下のとおり釈明する。
「うなパイ」商標は、平成11年10月6日に出願されたが、平成12年8月4日(発送日)に拒絶理由通知がなされ、その際の引用商標が商願平11-53421「浜名湖うなパイ」であった。
すなわち、拒絶理由通知の内容は、「うなパイ」商標が、先願商標たる「浜名湖うなパイ」が登録になった時は、商標法4条1項11号に該当するというものであった。
そして、この先願商標「浜名湖うなパイ」は、請求人所有の登録第2719548号「うなぎパイ」に類似するとして拒絶査定されたが、審判請求を経て、平成17年10月7日に登録第4898886号として登録された。
上記のとおりであり、「うなパイ」商標は、拒絶理由通知がなされたまま、いわゆる先願待ちの常態になっていたが、引用商標が登録されたので、平成17年10月21日(発送日)付けで拒絶査定になり、現在は、不服2005-21891により審判として継続している。
請求人の「うなパイ」商標の出願は、出願から7年を経過した現在も出願中の状態にあるが、これは上記のとおりの事情によるものにすぎないものである。
なお、請求人は、引用商標「浜名湖うなパイ」の登録を認めた審決が不当な内容のものであることが明らかであることから、「浜名湖うなパイ」商標に対し、平成19年6月8日付けで無効審判請求(無効2007-890103)を行ったことを申し添える。
7 弁駁書(第3)
答弁書(第3)に対し、請求人は下記のとおり弁駁する。
(1)使用商標1「なが?いうなパイ」の使用時期についての答弁に対する弁駁
(ア)被請求人による使用商標1の使用時期に関する答弁は、何らの根拠も伴っておらず、全て失当である
被請求人は、使用商標1の使用を平成18年1月に停止したと、ただ主張しているだけであり、何らの裏付けも伴っていない点において失当であるが、これに加えて、被請求人の同主張を前提にした場合にも、使用商標1を使用した商品が平成18年7月まで販売されていたことが合理的に推測されるものであるから、被請求人の主張はおよそ失当という他はない。
(イ)仮に議論のために、被請求人が主張するとおり、使用商標1の使用が平成18年1月に中止されていたことを前提としたとしても、被請求人による平成18年1月までの使用商標1の使用が、商標法第51条第1項に該当するとの結論は、何ら変わるところがない
(2)被請求人によるその余の主張も失当である
(ア)使用商標1、同2が本件商標と類似しないとする被請求人の主張は全て失当である
被請求人は、答弁書(第3)において、被請求人による使用商標1及び使用商標2の不正使用の事実はなく、これは請求人の事実誤認によるものであると主張している。
しかし、被請求人は、審判請求人の主張をただ羅列しているだけであり、被請求人による使用商標1、同2の使用が、商標法第51条第1項に該当しない理由を明らかにしていない。
なお、被請求人は、この点に関し答弁書(第3)で使用商標1「なが?いうなパイ」は「うなパイ」を要部とする商標であるから、本件商標の「ながーいうな」との関係では、商標法第51条第1項に規定する「登録商標に類似する商標」にはあたらないと主張している。
しかし、使用商標1「なが?いうなパイ」における「パイ」の部分は、パイ菓子のことであるから、使用商標1から「ナガーイウナパイ」、「ナガーイウナ」の称呼が生ずることが明らかである。他方で、本件商標「なが一いうな」からは、「ナガーイウナ」の称呼が生ずるものであるから、使用商標1と本件商標が相互に類似していることは明らかである。
また、被請求人は、答弁書(第3)において、使用商標2と本件商標とは同?商標であると主張しているが、請求人において主張したとおり、両商標が同一ではなく、類似するものであることは明らかである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求を却下する、審判費用は請求人の負担とする、又は、
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証(枝番号を含む。)を提出している。
1 不適法な審判請求
(1)商標の不正使用事実の特定のない審判請求
(ア)請求人は、使用商標1及び2を不正使用の対象商標として本件審判を請求しているが、当該対象商標の不正使用事実の特定(いつ、どこで、どのようにして不正使用がなされたか)がなされていない。商標法第51条第1項の審判は、対象商標についての使用が他人の業務に係る商品と出所混同を生じたこと(不正使用事実)を理由に、ペナルティとして、商標登録の取消がなされるものであるから、そのペナルティの対象となる商標の不正使用事実、すなわち、いつ、どこで、どのようにして使われたかを、請求人は特定し立証しなければならない。
とりわけ、不正使用であると請求人が主張する時期と場所の特定は、商標の類否判断、出所混同の有無の判断に重要な影響を与える。時と場所によってこれらの判断が異なる可能性があるからである。ちなみに、「うなパイ」を要部とする商標(以下、「うなパイ商標」ということがある。)と「うなぎパイ」商標とは、平成13年の特許庁審決(甲第137号証ほか)では「類似」と判断されたが、最近の平成17年の特許庁審決(乙第1号証)では「非類似」と判断されている。また、「うなパイ商標」と「うなぎパイ」商標との出所混同の判断は、例えば静岡県浜松市(甲第148号証)と北海道・沖縄県とでは異なるかもしれない。
したがって、対象商標の不正使用事実の特定は、商標法第51条第1項の審判において、審判請求そのものの要旨となる本質要件である。
(イ)また、商標法第51条第1項の審判において、対象となる商標の不正使用時期の特定は、商標法第52条除斥期間の基準時となるものであるから、当該審判請求が適法に成立するか否かの成立要件である。
(ウ)このように、本件審判において、対象商標の不正使用事実の特定は、本件審判請求の本質要件であり成立要件であり、これを欠くものは、不適法な審判請求である。
一方、このような本質要件、成立要件の欠訣を、審判請求の後において請求人が補正することは許されない。けだし、そのような補正は審判請求そのものの要旨を変更し、審判請求の対象の同一性を阻害し、審判請求の対象を恣意的に変更することを認めるに等しく(例えばAの不正使用事実が認められない場合に、これと別個のBの不正使用事実へ変更することを認めることに等しい)、被請求人に著しい負担を強いるばかりか、審判の迅速かつ公平な審理に悖り、審判制度の趣旨に反するからである。
結局、対象商標の不正使用事実の特定を欠く本審判の請求は不適法なものとして、却下を免れない。
(2)複数の対象商標に基づく審判請求
請求人は、本件審判の請求を、複数の不正使用の対象商標、つまり、使用商標1及び2に基づいて請求しているが、使用商標1と使用商標2とは全く異なった別個の商標(社会通念上同一又は類似の商標ということができない)であり、別個の社会的事実である。本件審判は、特定の(社会通念上単一の)商標の不正使用事実を対象として商標登録の取消の可否を審理するものであって、1件の審判請求で複数の不正使用の対象商標を理由として商標登録の取消を求めることは、審判制度の趣旨に反するばかりか、審判請求の対象を選択的に認めることと等しく(例えばAの不正使用事実が認められない場合に、これと別個のBの不正使用事実へ変更することを認めることに等しい)、被請求人に著しい負担を強い、審判の迅速かつ公平な審理に悖る。
したがって、複数の不正使用の対象商標に基づく本審判の請求は不適法なものとして、却下を免れない。
(3)不適法な審判請求の審決による却下
よって、本件審判の請求は却下されるべきである。
2 予備的答弁
被請求人は、予備的に、以下のとおり、答弁する。
請求人の主張は、ことごとく理由がなく、本件審判の請求は、成り立たない。
(1)不正使用事実の特定及び立証がない
(ア)請求人は、使用商標1及び2の具体的な不正使用事実、つまり、いつ、どこで、どのようにして不正使用がなされたかを特定しなければならない。そして、この特定された事実について、請求人は、商標法第51条第1項の要件を満たすかどうか、立証しなければならない。この特定、立証ができなければ、この審判請求が成り立たないことはいうまでもない。
(イ)ちなみに、使用商標1について、被請求人は、請求人が使用していると主張するところの平成18年5月現在は使用していない。参考までに申せば、被請求人にあっては、賞味期限が「06.5.20」の商品を当該期限月(平成18年5月)に販売することはあり得ない。
(2)使用商標1と本件商標とは互いに非類似の商標である
(ア)使用商標1「なが?い/うなパイ」と本件商標「ながーいうな」とは、互いに非類似の商標である。
請求人は、使用商標1は本件商標「ながーいうな」に「パイ」を付加したに過ぎないものであるから、本件商標と類似することは明らかであるとしている。
(イ)請求人は使用商標1(A)及び(B)の構成態様のうち「なが?いうなパイ」の構成の説明を意識的に避けているが、使用商標1(A)では「なが?い」が黒の小さい文字、「うなパイ」が黒の大きい文字で表記されており、使用商標1(B)では「なが?い」が小さい白抜き文字、「うなパイ」が黒の大きい文字で表記されていることより、使用商標1は「なが?い」の部分と「うなパイ」の部分とに分けて認識され、いわゆる「うなパイ」 の部分を要部とする「うなパイ商標」の一であることは明らかである。
請求人自身も審判請求書の別の部分では、使用商標1の要部は「うなパイ」の部分であると力説している。
(ウ)そうすると、「うなパイ」を要部とする使用商標1と本件商標「ながーいうな」とが互いに非類似の商標であることは、火を見るより明らかなことである。
請求人の主張は矛盾に満ちた誤った主張である。
(3)使用商標2と本件商標とは社会通念上の同一商標である
(ア)本件商標は、標準文字によって登録されたものである。使用商標2は、本件商標の長音記号「ー」 を同種記号の「?」に変更したものであるが、「ー」と「?」との変更は、本件の場合、社会通念上同一であるか、又は少なくとも同一性の範囲内である。
(イ)商標法第51条に規定する「登録商標に類似する商標」の「類似」の意味は、2つの商標を対比した場合に社会通念上の同一性の範囲を超えていることをいうのであって、社会通念上同一性の範囲内のものまで本条によるペナルティ(取消)の対象とすることは、法の趣旨ではない。社会通念上登録商標と同一性の範囲内であれば、社会通念上「不正使用」とは認められない。社会通念上登録商標と同一性の範囲内での商標の使用が、他人の業務に係る商品と出所混同を生ずる場合は、本条によるのではなく、むしろ登録無効審判の問題である。
(ウ)したがって、使用商標2は、商標法第51条に規定する「登録商標に類似する商標」ではない。
(4)使用商標1の使用に故意性はない
(ア)使用商標1「なが?い/うなパイ」は、本件商標より以前の昭和63年頃に使用が開始されたものであるから、この経緯から使用商標1をして本件商標に類似させて使用したということはできない。なお、前記したように、被請求人にはそもそも使用商標1と本件商標とが類似商標であるとの認識がない。
(イ)また、被請求人は、後述するように、使用商標1と請求人商標「うなぎパイ」とは、互いに非類似の商標と認識しているものであるから、混同を生じさせることについての認識も全くない。
(ウ)よって、故意性は存在しない。
(5)使用商標2の使用に故意性はない
(ア)被請求人には、使用商標2「なが?いうな」が本件商標の類似商標であるという認識は到底ない。前記のように、被請求人は使用商標2と本件商標とは同一商標であるとの認識である。
(イ)また、被請求人は、後述するように、使用商標2と請求人商標「うなぎパイ」とは、互いに非類似の商標と認識しているものであるから、混同を生じさせることについての認識も全くない。
(ウ)よって、故意性は存在しない。
(6)使用商標1と請求人商標とは混同を生じない
(ア)使用商標1の要部が「うなパイ」の部分にあり、「ウナパイ」の称呼を生じ、また「うなぎのパイ」の観念を生ずることについては、争わない。一方、請求人商標からは「ウナギパイ」の称呼と「うなぎのパイ」の観念を生ずる。
(イ)そこで、両商標を比較すると、両商標は、外観上十分に区別できるものである。また、それぞれの構成文字に相応して生ずる「ウナパイ」及び「ウナギパイ」の称呼は、3音目において「ギ」の有無という差異を有し、他の音を同じくするものであるが、4音と5音という比較的短い音構成においては、該差異が両商標に与える影響は小さいものとはいえず、両者をそれぞれ称呼したときには、十分に聴き分けることができるものである。
そうすると、両商標は、共に「うなぎのパイ」という観念において共通するところがあるとしても、称呼において区別し得るものであって、かつ外観において明らかに別異の商標と認め得るものであるから、使用商標1は、請求人商標との間で、商品の出所について混同を生じさせるおそれはない。なお、「浜名湖うなパイ」の商標と請求人の「うなぎパイ」の商標とが互いに非類似の商標であるとする最近の審決がある(乙第1号証)。
(ウ)よって、混同性がない。
(7)使用商標2と請求人商標とは混同を生じない
(ア)請求人は、使用商標2「なが?いうな」と請求人商標「うなぎパイ」との類似性につき、使用商標2から「ナガーイウナパイ」の称呼、観念を生ずることを前提とし、使用商標1と同じ理由から、商品の出所について混同を生ずることが自明であると主張している。
(イ)しかしながら、前記したように、使用商標2から「ナガーイウナパイ」の称呼、観念を生ずるという請求人の前提自体が矛盾に満ちた誤ったものである以上、その主張は全く理由がない。使用商標2と請求人商標とが互いに非類似の商標であることは明らかである。多言を要しない。
(ウ)よって、混同性がない。
(8)請求人による本件審判請求は不当請求である
以上述べたように、請求人による本件審判請求は、事実に基づかない、悉く明らかに理由がない、また請求人の主張自体が矛盾する、全くのいいがかりに等しい、不当な請求である。
3 答弁書(第2)
被請求人は、請求人が平成18年12月19日付けで提出した弁駁書に対して以下の通り申し述べる。
(1)使用商標1「なが?い/うなパイ」の使用について
審判請求書ならびに各甲号証及び上記日付の弁駁書によると、請求人が主張する使用商標1「なが?い/うなパイ」の使用事実とは次のことである。
日 時:平成18年6月7日
場 所:旅館銀波荘(蒲郡市)
関連書証:甲第149号証(請求人から株式会社銀波荘への平成18年6月7日付け内容照明郵便)
これに対して、被請求人は、上記事実を否認する。すなわち、平成18年6月7日現在において、旅館銀波荘(蒲郡市)で、使用商標1「なが?い/うなパイ」が使用されていた事実はない。このことについては、請求人自身が提出している甲第150号証の平成18年6月15日付け内容証明郵便において、「1.通知人(筆者注・株式会社銀波荘)は、商品名を『○○○うなパイ』とするパイ菓子を販売しておりません。」と記載されている通りである。
(2)使用商標2「なが?いうな」の使用について
使用商標2「なが?いうな」については、審判請求書6ページ8行目によると、請求人は「同年同月中(筆者注・平成18年6月中)に、使用商標1を一部修正した使用商標2の使用を開始した」と主張する。この点について、被請求人は、(ア)使用商標2の使用開始時期が平成18年6月であること、及び(イ)使用商標2が使用商標1の一部修正したものであるとの請求人の主張はいずれも否認するが、平成18年6月に使用商標2を使用していた事実は認める。
すなわち、前記甲第150号証の平成18年6月15日付け内容証明郵便の「2」項、及び同じく請求人の提出に係る甲第151号証の平成18年6月19日付け内容証明郵便の「イ」項に記載されている通り、平成18年6月現在において、使用商標2「なが?いうな」が旅館銀波荘(蒲郡市)ほかの店舗で使用されていた。
(3)「うなパイ」商標の現在の状況
(ア)請求人はパイ菓子を指定商品として商標「うなパイ」(標準文字)を平成11年10月6日付けで商標登録出願(商標平11‐90658)しており、審査では拒絶査定がなされ、平成17年11月14日審判を請求し、出願から7年以上を経過した現在に至っても、該商標が商標登録されている事実はない。
(イ)一方において、乙第1号証として提出したように、「浜名湖/うなパイ」(図形付き)なる商標が、請求人商標『うなぎパイ」とは類似しないとして、請求人以外の者によって商標登録されている事実がある(登録番号第4898886号、登録日:平成17年10月7日)。
(ウ)しかるに、請求人は、使用商標1「なが?い/うなパイ」が請求人商標「うなぎパイ」と類似すると主張する。
(エ)使用商標1の要部が「うなパイ」であることは明らかであるところ、上のように、請求人自ら商標登録出願した「うなパイ」商標が、いかなる事情があるかは知らないが、その出願から7年以上経過した現在においても登録が拒否されており、また、「うなパイ」部分を有する他人の商標が登録を受けているという現在の状況に鑑みるとき、請求人の主張はかなり強引といわざるを得ない。被請求人としては、「うなぎパイ」と「うなパイ」が類似するとの請求人の主張をそのまま「ハイ、そうですか」と容認するわけにはいかない状況である。
(オ)パイ菓子業界において、請求人有限会社春華堂は有名ブランド「うなぎパイ」を擁し、当地において圧倒的な販売力を有する強大なメーカーである,このような強大メーカーが、十分な事実調査(使用商標1の使用事実)や状況判断(近時の特許庁における「うなパイ」商標の類否判断)をなすことなく、豊富な資金力を背景に、自己の利益追求だけを目的として、同種商品を製造販売する極小メーカーを市場から排斥する手段として、安直に本件審判制度を利用することは、有名ブランドを有するメーカーとしての社会的責任・道義に反するばかりか、被請求人のような極小メーカーの業務を不当に圧迫し、まさしく権利の濫用であって、そのような権利行使は許されないといわねばならない。
4 答弁書(第3)
(1)「なが?い/うなパイ」の使用停止時期は平成18年1月である。
被請求人は従前の主張を改め、被請求人が、パイ菓子について使用商標1「なが?い/うなパイ」(甲2の1?6に表示された文字標章で、「なが?い」は小さい文字、「うなパイ」は大きい文宇であるから、便宜上「/」で区別する。以下この答弁書において同じ。)の使用を停止した時期は、「平成18年1月」であって、それ以後使用商標1「なが?い/うなパイ」を使用していないことを主張する。
被請求人有限会社秦伸は、パイ菓子について、3つの「うな」関係商標、すなわち、(ア)「プチうなパイ」(甲153の和解調書の標章日録二に表示された標章をいう。以下同じ。)(イ)使用商標1「なが?い/うなパイ」、及び(ウ)使用商標2「なが?いうな」(甲3の1?6に表示された文宇標章。以下同じ)を使用していた(いる)。その使用時期は次の通りである。
(ア)「プチうなパイ」 昭和59年頃から平成16年4月26日まで
(イ)使用商標1「なが?い/うなパイ」、 昭和58年頃から平成18年1月まで
(ウ)使用商標2「なが?いうな」 平成12年6月1日から現在(平成19年8月)使用中
なお、便用商標1に関して、被請求人は、平成18年11月8日付けの審判事件答弁書で、「昭和63年頃使用開始」と述べたが、昭和63年は関連商標である「ナガーイウナパイ」及び「プチウナパイ」の商標出順をした時期であって(乙2の1?4)、実際の使用開始(商品製造開始)はそれより以前の「昭和58年頃」であるので、訂正する。
(2)被請求人による商標の不正使用の事実はない。
請求人春華堂が主張する使用商標1及び2の不正使用の事実は、すべて請求人の事実誤認によるものである。つまり平成18年6月の時点で被請求人が使用商標1を実際に使用していないにもかかわらず、使用商標1を使用していると請求人が思い込み違いをして、この事実に反する被請求人の不正使用を縷々主張するものであって、被請求人による商標の不正使用の事実は存在しない。

第4 当審の判断
1 被請求人が使用する商標について
(1)当事者の主張及び証拠によれば、被請求人は、別掲(1)及び(2)のとおりの構成からなる使用商標1を、少なくとも請求人からその使用中止の警告(甲第149号証)を受けるまでは商品「パイ菓子」について使用していたものと認められる。
(2)被請求人は、平成18年5月現在は使用商標1を使用していない旨主張している。しかしながら、使用商標1に係る商品「パイ菓子」の包装紙には、使用商標1(A)が明示されており(甲第2号証の1、3及び5)、これに貼付された「商品表示」には販売者として被請求人の名称が記載され、賞味期限として「06.5.20」の数字が明記されていることが認められる(甲第2号証の5及び6)。また、この包装紙に包まれた内容物は、小袋に小分けされたパイ菓子であり、その各小袋には使用商標1(B)が表示されていることが認められる(甲第2号証の2及び4)。
被請求人は、使用商標1は平成18年1月まで使用し、平成18年6月には使用していない旨主張しているが、使用商標を付した商品「パイ菓子」は、口頭審理における答弁によれば、その賞味期限は製造日より6ケ月であることが認められる。
そして、この種商品が賞味期限近くまで流通することは、食品衛生法及びJAS法で定められている賞味期限化の背景及び製造・販売業者により賞味期限の個々の配慮はあるとしても、この種業界において一般的といえるものである。
そうすると、使用商標1は平成18年5月ないし7月においても使用されていたものといわざるを得ない。
また、被請求人は、請求人からの使用商標1について使用中止の警告を受けた際に、被請求人の取引先が使用している商標は本件商標の正当な使用である旨回答しており(甲第151号証)、暗に使用していることを認めている。
(3)被請求人は、請求人からの使用商標1について使用中止の警告を受けた後は、使用商標1を修正し、別掲(3)及び(4)のとおりの構成からなる使用商標2を商品「パイ菓子」について使用しているものと認められる。 すなわち、使用商標2に係るパイ菓子の包装紙には、使用商標2(A)が明示されており(甲第3号証の1、3及び5)、これに貼付された「商品表示」には販売者として被請求人の名称が記載され、賞味期限として「06.12.10」の数字が明記されていることが認められる(甲第3号証の5及び6)。また、この包装紙に包まれた内容物は、小袋に小分けされたパイ菓子であり、その各小袋には使用商標2(B)が表示されていることが認められる(甲第3号証の2及び4)。
してみれば、使用商標2は平成18年12月に使用されていたものといえる。
なお、使用商標2は口頭審理における答弁によれば、現在も使用していることが認められる。
2 使用商標1及び2と本件商標との類否について
(1)被請求人が商品「パイ菓子」について使用する使用商標1(A)は、別掲(1)のとおり、文字と図形を組み合わせた構成からなるところ、「うなぎの図形」及び「二人の人物を描いた図形」は背景図形として、また、「しびれるおいしさ」の文字は、商品の販売促進のための一種のキャッチフレーズとして、それぞれ認識し把握されるものであり、自他商品の識別標識としての機能を果たす要部は、中央の横長の長円形中に書された「なが?いうなパイ」の文字及びその上段に小さく書された「UNA Pie」の文字の部分とみるのが自然である。
他方、本件商標は、前記第1に記載したとおり、「ながーいうな」の標準文字からなるものである。
しかして、上記「なが?いうなパイ」及び「UNA Pie」の文字部分と本件商標とを対比すると、「なが?いうなパイ」の文字部分は、「なが?い」の文字が「うなパイ」の文字に比してやや小さく書されているばかりでなく、本件商標にはない「パイ」の文字を含み、さらに「なが?い」の部分については本件商標が長音符号「ー」であるのに対し「?」の符号を用いており、本件商標とは同一とはいい難く、類似の範疇に入るものである。「なが?いうなパイ」の文字部分において、「パイ」の文字は商品の品質等を表示するものであり、自他識別標識としての要部が「なが?いうな」の文字部分であるとした場合においても、上記差異により、本件商標とは類似する商標とはいえても同一の商標とはいえない。そして、「UNA Pie」の文字部分については、本件商標とは明らかに相違するものである。
そうすると、使用商標1(A)は、少なくとも「なが?いうなパイ」の文字部分において本件商標と類似する商標といわなければならない。
(2)被請求人が商品「パイ菓子」について使用する使用商標1(B)は、別掲(2)のとおり、使用商標1(A)と同様の文字と図形を組み合わせた構成からなるところ、使用商標1(A)と同様、中央に顕著に表された「なが?いうなパイ」の文字及びその下段に小さく書された「UNA-Pie」の文字の部分が自他商品識別標識としての要部と認識し把握されるものとみるのが自然である。
そこで、上記「なが?いうなパイ」及び「UNA-Pie」の文字部分と本件商標とを対比すると、その相違点は上記使用商標1(A)と同様であるが、「なが?いうなパイ」の文字部分は、「なが?い」の文字が白色で小さく書されているのに対し「うなパイ」の文字は黒色で大きく顕著に書されており、本件商標との差異は、使用商標1(A)よりも一層大きく、両者は同一とはいえないものである。また、「UNA-Pie」の文字部分が本件商標と相違することも明らかである。
そうすると、使用商標1(B)は、使用商標1(A)と同様、少なくとも「なが?うなパイ」の文字部分において本件商標と類似する商標といわなければならない。
(3)被請求人が使用商標1(A)を修正し使用している使用商標2(A)は、別掲(3)のとおり、使用商標1(A)とほぼ同じ構成態様からなるものであるが、中央の文字部分を「なが?いうな」とし、その上段に「パイ菓子」の文字、下段に「Nagai UNA」の文字を配した点において使用商標1(A)と相違する。
そして、使用商標2(A)における「なが?いうな」の文字部分は、同書同大の文字で一連に書されてはいるが、「ー」と「?」の差異により、本件商標とは類似とはいえても同一とはいい難いものである。さらに、「Nagai UNA」の文字部分は、「ナガイウナ」と称呼されるものであり、本件商標とは称呼上類似するものと認められる。
そうすると、使用商標2(A)は、「なが?いうな」及び「Nagai UNA」の文字部分において本件商標と類似する商標といわなければならない。
(4)被請求人が使用商標1(B)を修正し使用している使用商標2(B)は、別掲(4)のとおり、使用商標1(B)とほぼ同じ構成態様からなるものであるが、中央の文字部分を「なが?いうな」とし、その上段に「パイ菓子」の文字、下段に「Nagai UNA」の文字を配した点において使用商標1(B)と相違する。
そして、上記使用商標2(A)と同様、使用商標2(B)における「なが?いうな」の文字部分は、同書同大の文字で一連に書されてはいるが、「ー」と「?」の差異により、本件商標とは類似とはいえても同一とはいい難いものである。さらに、「Nagai UNA」の文字部分は、「ナガイウナ」と称呼されるものであり、本件商標とは称呼上類似するものと認められる。
そうすると、使用商標2(B)は、「なが?いうな」及び「Nagai UNA」の文字部分において本件商標と類似する商標といわなければならない。
(5)なお、使用商標1及び2は、別掲(1)ないし(4)のとおり、いずれも文字と図形の組合せからなるものであるから、全体として本件商標と類似するものであることはいうまでもない。
3 使用商標1及び2の使用が請求人の業務に係る商品と混同を生ずるか否かについて
(1)請求人商標について
請求人の提出に係る証拠によれば、請求人が商品「うなぎの粉末を加味してなるパイ菓子」について使用する請求人商標は、別掲(5)のとおりの構成からなり、商標法第3条第2項の適用を受けて登録されたものであって、昭和36年以来現在に至るまで請求人によって使用されているものである。そして、請求人商標を使用した商品「うなぎパイ」は、需要者の人気を博し、286社の取引業者によって取り扱われ、JR東海道線浜松駅等の駅構内、東名高速道路のサービスエリア・パーキングエリア、全国の主要デパート、スーパーマーケット等3066の店舗において販売されるに至っていることが認められる(甲第14ないし第21号証)。
また、請求人商標を使用した商品「うなぎパイ」は、平成7年度に約43億3000万円、平成8年度に約44億400万円、平成16年度に約60億400万円、平成17年度に約59億1000万円とこの10年間において、約40億?60億の売上高が認められ、請求人の全売上高の約90%を占めており、主力商品といえるものである(甲第12号証、同第13号証)。
加えて、請求人商標を使用した商品「うなぎパイ」については、書籍、雑誌、新聞において紹介、報道された(甲第22ないし第41号証)ほか、テレビ番組においても取り上げられ(甲第42号証)、さらには請求人によって盛大な宣伝広告活動が行われた(甲第43ないし第134号証)。
その結果、請求人商標は、本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係る商品を表示する商標として取引者、需要者間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時はもとより、使用商標1及び2が使用された時点においても継続していたものと認められる。
(2)請求人商標と使用商標1及び2との類否について
(ア)請求人商標は、別掲(5)のとおり、「うなぎパイ」の文字を要部とするものであって、これからは「ウナギパイ」の称呼を生じ、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念を生ずるものといえる。
(イ)他方、使用商標1は、自他商品識別標識としての要部たる「なが?いうなパイ」及び「UNA Pei」の文字部分において、「なが?い」の文字は商品の形状が長いことを示す記述的部分として認識し理解されること、「なが?い」の文字と「うなパイ」の文字の大きさが異なること、「UNA Pei」の文字が「ウナパイ」と称呼されることなどから、全体として「ナガーイウナパイ」の称呼のほかに単に「ウナパイ」の称呼をも生ずるものである。また、一般に、「うなぎ(鰻)」が「うな」と略称されること(岩波書店発行「広辞苑第5版」参照)、引用商標1にはうなぎの図形が描かれていること、などからすると、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念を生ずるものといえる。
(ウ)また、使用商標2は、自他商品識別標識としての要部たる「なが?いうな」及び「NagaiUNA」の文字部分において、「なが?い」及び「Nagai」の文字は商品の形状が長いことを示す記述的部分として認識し理解されること、使用商標1と同様、「うなぎ(鰻)」が「うな」と略称されること、構成中に「パイ菓子」の文字及びうなぎの図形が描かれていること、などからすると、やはり「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念を生ずるものである。
(エ)そうすると、請求人商標と引用商標1及び2とは、「鰻を用いたパイ(菓子)」の観念を共通にするばかりでなく、請求人商標から生ずる「ウナギパイ」の称呼と引用商標1から生ずる「ウナパイ」の称呼にしても、中間における「ギ」の音の有無の差異しかなく、上記のとおり「うな」が「うなぎ」の略称であることとも相俟って、互いに近似した相紛らわしい聴感を与えるものである。また、使用商標1における「うなパイ」の文字部分は、平仮名と片仮名により顕著に表されており、同じく平仮名と片仮名で表された請求人商標とは着想を同じくするものであって、外観上も近似した印象を与えるものである。
結局、請求人商標と使用商標1及び2とは、観念を共通にする類似の商標であり、使用商標1に至っては称呼及び外観においても相紛らわしい類似の商標といわなければならない。
(3)商品の誤認混同について
請求人商標の使用に係る商品と使用商標1及び2の使用に係る商品は、いずれも「パイ菓子」であって、特殊なものではなく、その需要者は老若男女を問わず、極めて広範な消費者を対象とするものであり、単価もそれ程高価なものでなく一般に親しまれ易いことなどから、当該商品に使用する商標に対して払われる注意力の度合は決して高くはない。
加えて、上記のとおり、請求人商標は取引者、需要者間に広く認識されている商標であり、かつ、請求人商標と使用商標1及び2とは、彼此相紛らわしい類似の商標である。
そうすると、使用商標1及び2が商品「パイ菓子」に使用されると、これに接する取引者、需要者は請求人商標ないしは請求人を連想、想起し、該商品が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤認混同を生ずるものというべきである。
4 被請求人の故意について
(1)商標法第51条は商標権者が、商標を不当に使用することによって一般公衆が商品の品質を誤認したり、他人の業務に係る商品との間に混同を生じたりすることがないように登録商標の不当使用者に対し、その登録商標の登録を取り消し、一般公衆利益を保護することが目的であって、商標権者の故意については、「商標法51条1項の規定に基づき商標登録を取り消すには、商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用するにあたり、使用の結果商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足り、必ずしも他人の登録商標又は周知商標に近似させたいとの意図をもってこれを使用していたことまでを必要としない(最高裁昭和56年2月24日判決 昭和55年(行ツ)第139号)」と解するのが相当である。
(2)請求人の提出に係る証拠によれば、平成11年頃、パイ菓子を取り扱う業者間において「うなぎてり焼きパイ」、「プチうなパイ」、「うなぎかばやきパイ」、「浜名湖マイルドうなパイ」、「浜名湖ピュアうなパイ」、「ロングうなパイ」等の商標が使用されており、これら商標について使用差止を求める仮処分申請が請求人によって提起され、これら商標が請求人商標と類似するものであるとして使用差止の決定がされていたこと(甲第142ないし第148号証)、上記仮処分申請事件において被請求人は債務者の1人である第一物産の補助参加人として該事件に関与していたこと(甲第152号証。この点は口頭審理において、被請求人も認めている事実である。)、被請求人は該補助参加の申立てのわずか3週間後に本件商標の登録出願を行っていること、使用商標1を使用したパイ菓子を販売していた銀波荘等10社に対し請求人が使用商標1の使用を中止するよう警告した際に、銀波荘及び被請求人は、使用商標1は使用していない旨及び使用商標2の使用は本件商標の正当使用である旨回答していたこと(甲第151号証)、上記回答後に使用商標1を使用商標2へと修正変更したこと、が認められる。
以上を総合すると、被請求人は、請求人商標の存在とその周知著名性を知りながら、かつ、本件商標中の「ながーい」の文字部分が「ロング」と同様に商品の品質表示となり得ることを認識した上で本件商標を登録出願し、さらに、これに「パイ」の文字を付加して使用商標1を使用したものというべきであり、使用商標1が請求人商標と類似し、その使用が請求人の業務に係る商品と混同を生ずるであろうことを認識していたものといわざるを得ない。そして、請求人から使用商標1の使用中止の警告を受けると使用商標2に修正変更したものであり、修正変更後の使用商標2は、上記のとおり、依然として請求人商標とは紛らわしいものである。
したがって、かかる被請求人の行為は、故意をもって不正に行われたものというのが相当である。
5 被請求人の主張について
(1)不適法な審判請求
(ア)被請求人は、商標法第51条にいう使用の対象となる商標について、その不正使用事実の特定(いつ、どこで、どのように不正使用がなされたか)がなされていない旨主張するが、前示のとおり、被請求人は、国内において、商品「パイ菓子」について平成18年5月頃に使用商標1を、また、同年12月頃には使用商標2をそれぞれ使用していたことが明らかであり、この使用時期が同法第52条除斥期間内であることも明らかであるし、その使用が請求人の業務に係る商品と誤認混同を生ずるものであるから、本件審判請求において不正使用事実の特定がされていないとはいえず、被請求人の主張は採用することができない。
(イ)被請求人は、使用商標1と使用商標2とは全く異なった別個の商標であり、本件審判の請求は複数の商標を対象とするものであって、審判制度の趣旨に反する旨主張するが、もともと本件審判請求において取消対象となっているのは本件商標であって、その理由として、使用商標1及び2の使用が挙げられているのであって、複数の商標を取消対象とするものではない。しかも、前示のとおり、使用商標1及び2の使用は、いずれも請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものである。よって、被請求人の主張は採用することができない。
(ウ)その他、本件審判の請求自体が不適法なものである理由は見出し難い。
したがって、本件審判の請求を不適法なものとして却下すべきではない。
(2)使用商標1及び2と本件商標との類否
(ア)被請求人は、使用商標1は本件商標と非類似の商標である旨主張するが、前示のとおり、使用商標1と本件商標とは類似するものであるから、請求人の主張は採用することができない。
(イ)被請求人は、使用商標2と本件商標とは社会通念上同一であり、商標法第51条に規定する「類似」の意味は社会通念上同一の範囲を超えていることをいい、社会通念上同一性の範囲内のものまで同条によるペナルティ(取消)の対象とすべきでない旨主張するが、前示のとおり、使用商標2と本件商標とは同一とはいい難いものであり、その使用が請求人の業務に係る商品と誤認混同を生ずるものである以上、同条による取消の対象となるものである。仮に、使用商標2中の「なが?いうな」の文字部分が本件商標と社会通念上同一であるといえるとしても、使用商標2の構成中には「NagaiUNA」の文字も使用されているのであり、これが本件商標と類似するものであることは明らかである。よって、被請求人の主張は採用することができない。
(3)使用商標1及び2の使用についての故意性
被請求人は、使用商標1を昭和63年頃に使用開始した経緯から、使用商標1を本件商標に類似させて使用するものでないし、使用商標1及び2が本件商標と類似するものとの認識がなく、その使用には故意性がない旨主張する。
しかしながら、上記使用開始の事実を示す証拠はないし、前示のとおり、被請求人は、平成11年当時の「浜名湖マイルドうなパイ」、「浜名湖ピュアうなパイ」、「ロングうなパイ」等の商標の使用差止仮処分事件を知り得る立場にあり、これらの商標と請求人商標とが類似するものであること、さらには引用商標1及び2が請求人商標と混同を生ずることも承知していたものというべきであるから、被請求人の行為に故意性がないとはいえない。
よって、被請求人の主張は採用することができない。
(4)使用商標1及び2と請求人商標との混同
被請求人は、使用商標1及び2と請求人商標とは互いに非類似であって、使用商標1及び2を使用しても商品の出所の混同を生じない旨主張するが、前示のとおり、使用商標1及び2と請求人商標とは、彼此相紛らわしい類似の商標であることや、請求人商標の著名性、商品の取引実情等を総合すると、使用商標1及び2がパイ菓子に使用された場合には、請求人の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるというべきであるから、被請求人の主張は採用することができない。
6 まとめ
以上のとおり、本件商標の商標権者たる被請求人は、故意に本件商標の指定商品中の「パイ菓子」について本件商標に類似する使用商標1及び2を使用することによって、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたというべきであるから、商標法第51条第1項の規定に基づき、本件商標の登録は取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(使用商標1、同2及び請求人商標の色彩については、それぞれ原本を参照されたい。)
(1)使用商標1(A)



(2)使用商標1(B)


(3)使用商標2(A)


(4)使用商標2(B)


(5)請求人商標


審理終結日 2007-11-09 
結審通知日 2007-11-13 
審決日 2007-11-27 
出願番号 商願平11-43200 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (Z30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀧本 佐代子 
特許庁審判長 中村 謙三
特許庁審判官 小林 和男
石田 清
登録日 2000-04-21 
登録番号 商標登録第4378613号(T4378613) 
商標の称呼 ナガーイウナ、ウナ 
代理人 後藤 憲秋 
代理人 中山 清 
代理人 武石 裕美子 
代理人 水谷 直樹 

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