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審判番号(事件番号) データベース 権利
取消2007300061 審決 商標
取消200631602 審決 商標
無効200689124 審決 商標
取消200631043 審決 商標
取消200630931 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y30
管理番号 1162485 
審判番号 無効2006-89125 
総通号数 93 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-09-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-31 
確定日 2007-08-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第4942325号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4942325号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4942325号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成17年2月18日に登録出願、第30類「すし,茶巾ずし,ちまきずし,そばめん」を指定商品として、同18年4月7日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第30号証を提出した。
(1)請求の理由
ア 請求の理由の要約
本件商標は、添付各証拠からも明らかなとおり、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第8号及び同法第3条第1項柱書の規定に該当するものである。したがって、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とされるべきものと思料する。
イ 本件商標登録が無効とされる法上の根拠
(ア)本件商標の特定
本件商標は、「赤坂/有職」の漢字を横書きした構成であり、標準文字によるやや小さな「赤坂」の文字と普通の大きさの「有職」の文字を二段に横書きにした商標であり、第30類「すし,茶巾ずし,ちまきずし,そばめん」を指定商品として、平成17年2月18日に商願2005-13334をもって出願されたものである。
(イ)出願の経緯
本件商標の商標権者は、先登録である登録商標「有職」(登録1206047号)(甲第1号証)の所有者と同一人物であり、登録商標「有職」の態様を変えて小さく地名の「赤坂」を付加して変更した上で再出願したものである。再出願に至るまでの過程は、請求人が平成11年末に前記登録商標「有職」の権利者に商標権の使用について明示の許諾を求めるとともに商標権の譲り受けを前提に交渉を開始していた。本件は、先登録の譲渡交渉の間に、交渉相手でありかつ不使用取消審判請求人である請求人に何の連絡も無く赤津容子氏によって突然に出願されたというのが実情である。
(ウ)根拠法条
本件登録は、不使用商標の商標権を単に延命する為にした出願を登録したものであり、法制度の趣旨に反する公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)に該当するものを看過して登録されたものであり、また、既に不使用であることが明確になっている登録商標の再出願に対する登録にすぎないので、商標権者によっては使用意思が推察できない商標法第3条第1項柱書の要件を具備しない商標に対する登録と考えられる。
さらに、本件商標は、請求人の業務に係る商品「すし」等を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標「有職」と、地名である赤坂を付加しただけの実質同一の商標であって、同一又は類似する商品「すし、茶巾ずし、ちまきずし、そばめん」について使用するものであることから、商品の出所について請求人の商品と混同を生ずるおそれがあるもので、商標法第4条第1項第10号又は同第8号の規定にも該当する商標と考えられる。また、請求人は、第43類:飲食物の提供等を指定役務とした登録商標「有職」(甲第20号証)を有しており、該役務商標を使用しているので、その取扱い商品である茶巾寿司、粽(ちまき)寿司についても、役務との間で混同を生じるおそれがある。
ウ 商標法第4条第1項第7号
(ア)いわゆる「悪意の出願」
商標法においては、商標を選択した者に対する保護は出願して初めて発生すると考えられており、商標が剽窃的に出願された場合でも他人の使用する著名商標を保護する以外、その登録を拒絶する私的な面での明確な規定は置かれていない。
しかし、日本又は外国で使用されているものの未だ周知となっていない商標を他人が抜け駆け的に出願したような場合には、出願人の悪意や出願の動機等の主観的要素を参酌して、出願を拒絶、登録を無効とすべきと考えられている。
他人が選択した又は選択しようとしている商標を剽窃的に出願することは公正な取引秩序を乱すものであり、公序良俗を害するおそれがあるので、商標法の目的に沿った実質的な運用判断がなされるべきである。最近の審判決例にはその趣旨に沿った結論が散見される。
既に他人により使用され一定の評価を得ている商標と同一性を有する商標を図利加害等の目的をもって抜け駆け的にした出願(いわゆる「悪意の出願」)について、商標登録を積極的に無効とした審判決として「母衣旗」事件、「DUCERAM」事件、「昭和大仏」事件等が挙げられる。これらの事件では、出願人が本来の権利者と接点を持ち、本来の権利者が商標の使用を望んでいることを知りながら出願を行ったことから、公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)が認定されている(山田威一郎『商標法における公序良俗概念の拡大』、知財管理 Vol.51 No.12 2001)。
本件商標の商標権者である赤津容子氏は、本来権利者となるべき者ではなく、むしろ請求人に使用権を許諾するための交渉だけをしているのであって、請求人が商標「有職」の使用を強く望んでいることを充分に知りながら不使用の商標について、取り消されることを前提に再度の出願を行ったものである。これは前述の判例の趣旨に照らして公序良俗違反に該当するものと考えられる。
(イ)請求人:株式会社福槌について
請求人である「株式会社福槌」は、平成8年まで東京都港区赤坂に存した「株式会社有職」を実質的に承継している会社である。
株式会社有職は、昭和8年赤坂に開業した茶巾寿司及び粽(ちまき)寿司等の上方寿司の販売を業とする会社である。特に、同社の取り扱う茶巾寿司は大正12年、当時の伏見宮家に奉職していた「有職」初代店主故小原義太郎が考案し、後にその名称を「有職」として登録した細工寿司に関する登録商標である。故小原義太郎は、昭和天皇の料理番としても有名な故秋山泰造氏とも親しく、宮内庁における各種行事においても「有職」の茶巾寿司や粽寿司は皇室行事には欠かせない物として永年利用されていたものである。しかし、同社の事業を引き継いだ小原義治氏(二代目社長)が、平成8年12月初めに突然失踪したことから、同社は関係取引者及び社員にも詳細な事情説明のないまま倒産を余儀なくされた(甲第2号証ないし甲第4号証)。
しかし、「有職」が倒産した後にあっても、翌年の平成9年4月、東宮御所において開催された園遊会に際し、長年定番品として供され、非常に人気のある商品であった粽寿司「有職」を欠くことは出来ないとして、宮内庁は「有職」の職人であった佐々木広巳氏(現株式会社福槌総料理長)に茶巾寿司の製造及び納入を依頼している。当時、佐々木氏は、江戸前寿司の提供を業とする株式会社寿司岩に再就職していたものの、園遊会に向け、元の「有職」の主要な職人を集め、注文どおり粽寿司を納品した。すなわち、実質的に伝統ある「有職」の茶巾寿司の継続が望まれ、現実に復活実現されていたことになる。このことを契機として、伝統ある「有職」の技術を保持しようとの思いから、平成9年6月株式会社福槌が設立されるに至ったものである。株式会社福槌は、出資者である株式会社寿司岩のオーナー他数名以外の構成員は全て株式会社有職の元社員で設立され構成されている。
株式会社福槌は、商標「有職」の使用を切望していたが、登録されていた原商標権(商標登録第1206047号)が第三者の所有に移っていたことのみならず、「有職」の倒産に際して債権者が存在していたことから、商標権の買取取得については、多大な債権の保証リスクがあると判断して、株式会社有職とは一切の関係を否定する形で営業していた。
株式会社福槌は、開業以来「有職」の茶巾寿司などの伝統と技術を継承する店として知られ、茶巾寿司、粽寿司、押し寿司等の上方寿司の製造及び販売を業としている。諸般の事情から「有職」の名称はテイクアウト商品には用いてはいないものの、宮内庁を始めとした「有職」以来の主要顧客の多くが会社設立後まもなくの時期から現在に至るまで、「有職」の茶巾寿司の復刻版の顧客となっている。例えば、宮内庁主催の園遊会においても昨年度は3000本余りの粽寿司を納品するなどの営業を行っている(甲第5号証、甲第6号証)。東京都港区六本木の本店のほか、九段店(東京都千代田区)等の数店の支店、高島屋、大丸等都内デパート内販売所において、開業以来次第に事業規模を広げながら営業を行ってきている。また、会社設立から7年が経過した平成16年1月より、株式会社有職に関する債権が時効となった関係で、大きなリスクは無くなったと判断したことに基づき、「有職」の業務を引き継いでいる旨を消費者向けにも告知を開始した。それを受け、雑誌・グルメに関する書籍等でも「有職」の味を引き継ぐ店として紹介されるに至っていた。
一般需要者の間でも茶巾寿司、粽寿司等を扱う店として広く認知されてきており、また「有職」の味を引き継ぐ店と知る顧客も少なくないものである(甲第7号証ないし甲第11号証、甲第22号証ないし甲第26号証)。
(ウ)商標「有職」使用の希望
茶巾寿司は、大正12年「有職」初代店主小原義太郎によって考案されて以来、80年以上の歴史を持つ伝統食品の一つであり、「有職」閉店後その伝承の技術を正当に継承している店として、「株式会社福槌」は認知されてきている。昨年12月で株式会社有職の閉店から10年となり、「有職」ブランドを知る多くの顧客も高齢化が進んでいることから、「有職」が使用されないまま忘れ去られてしまう事態を憂慮し、商標を取得し使用を継続することを切望する要請が高まっていた。
また、主要顧客には、「有職」=「福槌」と認知されているものの、流動顧客にとっては茶巾寿司・粽寿司=「有職」であって、真に伝統を継承し後世へと伝えるためには、商標「有職」の取得は、絶対に必要と考えたものである。
(エ)本件商標権者と請求人の接点
商標「有職」はもともと、株式会社有職によって指定商品「第32類(旧分類)食肉、卵、食用水産物、その他」に昭和51年6月21日に登録されていた(商標登録第1206047号)。その後、本商標権は、債権者の手を逃れて、平成8年の株式会社有職の倒産直前に元「有職」社長小原治義氏により、小原氏の知人である第三者の赤津氏の娘である赤津容子氏に譲渡されている。この譲渡の事実を突き止めるべく(平成16年3月頃から11月頃までの間)、商標「有職」の使用権の許諾又は権利取得のため、所在の定かでない前所有者である小原氏に対し、関係者や小原氏の元妻を通じて様々なアプローチを試みていた。
商標権者が赤津容子氏であることが判明した後、請求人は、代理人弁理士を通じ直接赤津氏と平成16年11月に交渉を開始した。12月初旬に知人である赤津氏(権利者赤津容子氏の父)に、商標「有職」の譲渡又は使用許諾について電話にて正式に申し入れている。その間の事情は、株式会社福槌に対する代理人の書簡からも明らかである(甲第14号証)。
その後、2005年(平成17年)1月18日には、権利者の父である友人の赤津氏から株式会社有職元社長小原治義氏へ返還譲渡する可能性も否定出来ないとの判断の元に請求人には商標権の譲渡はできないが、「有職」の使用については使用料支払を条件に使用を認めるとの連絡を受けている(甲第15号証)。
そこで、友人の赤津氏に提示された使用許諾の受諾可能性を検討後、「有職」の伝統を守るためにも使用権に留まらず円満な商標移転を願って、株式会社福槌佐々木広巳総料理長(有職元従業員)から小原元社長へ譲渡を希望する旨の書簡(1月30日付)をしたため、小原元社長の元妻に手紙を託したものである(甲第17号証)。
(オ)不使用取消審判の請求
権利者である赤津氏及び元所有者である小原元社長からは、2月21日までに回答を欲しいと要請していたにもかかわらず、何ら具体的な返答が無かったため、最初の交渉を開始した日から3ヶ月を経過する事を考慮して、2005年2月21日に、やむを得ず商標「有職」に対し不使用を理由として不使用取消審判を請求した(審判2005-30190)(甲第12号証)。
(なお、この不使用取消審判は、2005年8月10日付けの審決により商標権が取り消されている。甲第13号証)
(カ)無償使用権の許諾
交渉を開始してから暫くして、権利者赤津容子氏の父から、無償で使用を許可する意向を示されたが、現商標権者である全くの他人である赤津容子氏から使用の許諾を受けるという形は事業の真の承継者としては納得できないとの判断から、2005年3月8日付けで小原元社長に直接書簡をしたため、小原元社長の真意を直接知りたい旨を連絡したところ、小原元社長から2005年4月5日付で使用を許可する旨の回答の書簡が届いている。書簡では、赤津氏への商標権の移転の経緯、元有職従業員への謝罪、残された職人が「有職」の伝統を守るためにこれまで努力してきた営業に対する感謝と、商標「有職」を自由に使用してよい旨が記されている(甲第19号証)。
(キ)不使用による取消審決
請求人の提出した不使用取消審判は、審理の結果、取消審決が出されたため、商標「有職」に係る登録は現在では取消となっている(甲第13号証)。また、請求人は、一方で、小原氏の意向を受け、指定商品を第30類「すし、その他」として本年4月20日付で商標「有職」を出願した(商願2005-35449)(甲第21号証)。その後の審査の結果、赤津氏の妨害出願のために拒絶査定となり、現在拒絶査定不服審判に係属中である(不服2006-13508)。
上記したとおり、本件商標権者は約半年に渡って請求人と譲渡・使用交渉を行っており、請求人が商標「有職」の使用を切望していたことを充分知っていたのは明らかである。
(ク)本件商標の出願日
本件商標は、指定商品を第30類「すし,茶巾ずし,ちまきずし,そばめん」として2005年2月18日に出願されたものである。2月18日は商標権譲受についての交渉の最中であり、3ヶ月の交渉期間が経過して赤津氏からの連絡が無いため、請求人がやむを得ず不使用取消審判を請求する直前の出願である。この時期は、請求人側から回答を迫っていた時期でもある。
(ケ)「悪意の出願」
本件商標は、旧の商標権者と本来権利者となるべき者(請求人)とが交渉している最中に、赤津容子氏によって、請求人が商標「有職」の取得及び使用を切望していることを知りながら出願されたものである。
本件商標は、請求人による商標「有職」の使用及び登録を阻止するためにのみ抜け駆け的に行われた「悪意の出願」と考えられ、公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害するおそれのある商標と考えられる。したがって、請求人は、本件商標の登録は公序良俗に反するものであり登録されるべきではなかったと思料する。
ウ 商標法第3条第1項柱書
本件商標は、上述のとおりいわゆる「悪意の出願」に基づく登録と考えられるが、これが公序良俗違反に該当するか否かについては明確な基準がなく、請求人としては商標法第4条第1項第7号の適用を願うばかりであるが、一方、不使用商標の商標権の整理が緊急の課題である商標行政にとっては、単に不使用商標の延命の為に3年間のモラトリアム期間があるのではない事を明確にする必要がある事件と考えられる。3年後に不使用取消審判を請求しても、同じように3年毎に新出願がされてしまえば、事件の解決は永久に実現しないことになる。3年毎の出願に対する対策としては、中間に新たな出願をすればよいことになるが、本質的な解決とは考えられない。これを要するに、3年のモラトリアム期間の濫用とも考えられる。
本件商標は、旧登録商標に不使用取消審判が提起されることを知りながら出願されたもので、審判請求の提起される3日前にそれと同一の商標に「赤坂」の地名を小さく付加した変更態様による商標出願である。したがって、単なる延命工作のための出願であって法制度の趣旨に反する登録と言わざるを得ず、特に商標法第3条第1項柱書きにより無効にすべき商標登録と考えられる。自己の業務に係る商品について使用をする商標に該当しない使用意思のない商標といわざるを得ず、単なる名義だけを貸しているような旧商標権者が再出願した商標に、登録は与えられるべきではなかったものと思料する。
必要とあれば、赤津容子氏の事業の現状又は食品事業に対する今までの活動実績及び今後の予測を詳細に周辺調査して報告することも充分に可能である。我が国商標法は、他人に使用させることを前提とした商標出願を容認していない。自己の業務に使用しているか使用する意思のあることが出願の前提となっている。不使用商標の効果的整理は日本の商標制度にとって一番重要なことである。
本件のように、自分の所有する商標権が不使用取消審判で取り消される事を一方で黙認しながら、他方で商標を使用する明確な意思もなく容易に社会的同一と考えられる商標を再出願するような商標権者の態度は商標制度の制度趣旨を潜脱するものと考えられる。ここにも明白に悪意を読み取ることができる。このような商標登録に対しては、商標法第3条第1項柱書きにより実質同一の先登録の使用に関する使用状況の説明と、出願された地名「赤坂」の付された商標についての明確な使用の意思が公衆の納得する程度に明確な審判の審理手続き内で立証される必要がある。
エ 商標法第4条第1項第10号
本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして周知な商標に地名を付加しただけの類似商標であって、同一商品について使用をするものなので、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(ア)本件商標の称呼
本件商標は、やや小さな「赤坂」の文字と「有職」の文字を二段に横書きにした商標であり、第30類「すし,茶巾ずし,ちまきずし,そばめん」を指定商品として出願されており、その構成から「アカサカユウショク」のほか「ユウショク」「ユウソク」の称呼を自然に生ずる。
(イ)引用商標の称呼
引用商標「有職」(甲第1号証)は、株式会社有職が長年にわたって使用してきた商標であって、株式会社福槌がその意向を継承して製造販売している茶巾寿司・粽寿司の商標であり、「有職」の文字を特徴のある書体で横書きにした構成の商標から、「ユウショク」「ユウソク」の称呼を自然に生ずる。
ちなみに、後述するように本件商標の商標権者である赤津容子氏と甲第1号証の商標「有職」の事業主体とは全くの他人である。赤津容子氏は、たまたま、甲第1号証の逃避先に過ぎず、取消された権利との関係はあったとしても、業務上は無関係であって、まして現権利者と株式会社有職又は株式会社福槌の業務とは無関係である。
引用商標「有職」は、株式会社有職により昭和8年から平成8年までの、60年以上の長きにわたって「茶巾ずし、ちまきずし、利休ずし」等の上方寿司について使用されてきたものであり、株式会社有職の業務に係る上記商品を表示するものとして需要者に広く認識されていたものであり、現在もその名声が残っている商標である。
また、株式会社有職により、指定商品を旧第32類「食肉、卵、食用水産物、その他」として昭和48年2月6日に出願され、同51年6月21日に登録されていたものである(商標登録第1206047号、取消審判2005-30190の結果、平成17年8月10日に登録取消)。
一方、上記の商品に関する「有職」商標の付された商品を提供する役務である飲食物の提供業務については、役務商標が株式会社福槌によって既に登録されている。前述のとおり、株式会社有職は事業を行っていないが、その業務を実質上継承している株式会社福槌は、指定役務を第43類「飲食物の提供,その他」に平成16年11月24日に出願して、同17年6月24日に登録を受けている(商標登録第4874657号)(甲第20号証)。また、指定商品第30類「すし,その他」についても元社長の意向に沿って本件商標の後願となったが同17年4月20日に出願している(商願2005-35449)。
(ウ)商標・商品の類似性
本件商標からは「ユウショク」又は「ユウソク」の称呼が生ずると考えられ、引用商標から自然に生ずる称呼は「ユウショク」又は「ユウソク」であり、両商標は同一の称呼を生ずる類似の商標である。
引用商標「有職」は、商品「茶巾ずし」等の寿司に使用されており周知なのに対し、本件商標の指定商品は第30類「すし,茶巾ずし,ちまきずし,その他」であり、商品も同一又は類似と考えられる。
(エ)引用商標の周知性
商標「有職」は、昭和8年より長年にわたって株式会社有職によって「茶巾寿司、粽寿司」等の上方寿司に使用されていた。特に茶巾ずしは、大正時代、伏見宮家御膳所に奉職中であった創業者小原義太郎氏が、特に整った様式の献立でなく、茶味のあるものをと工夫、調理したところ好評で、宮殿下より「茶巾」の名称を賜ったとの逸話が残るほどの名品であり、商標「有職」は、株式会社有職の製造する商品の評価の高さと相俟ってその周知性を高めてきた商標である。
「有職」は、東京都港区赤坂の赤坂本店等で販売される茶巾寿司や粽寿司等に使用され、また、春季と秋季に開催される園遊会にも納品される「皇室御用達」の商品の商標として周知となっていたと考えられる。小津安二郎「東京グルメ手帳」にも「有職ずしと船佐の佃煮もらふ」等の記述があり(貴田庄『小津安二郎東京グルメ案内』)、また、最近の様々な雑誌や書籍においても「有職」が「茶巾ずし、粽(ちまき)ずし」等の名品であった等の記載が見受けられる。したがって、現在においても、商標「有職」は、「茶巾ずし、粽ずし」等について、需要者の間で周知な商標であると考えられる(甲第22号証ないし甲第25号証)。
上記に詳述したとおり、株式会社福槌は「有職」の寿司の製造技術を継承する職人達の手により設立され、平成9年の開業以来今日に至るまで、「茶巾ずし、粽ずし、押し寿司」等の寿司の製造販売を業としてきた者である。雑誌や書籍等において、株式会社福槌が「有職」の「茶巾ずし、粽ずし、押しずし」の味を引き継いだ店として度々紹介されている。また、インターネット等で調査したところ、「福槌」と「有職」とを同一視している需要者がいる事実が窺える。
(オ)引用商標との混同の蓋然性
引用商標「有職」は、「茶巾ずし、粽ずし」等の商品について周知性を有しており、株式会社福槌が「茶巾ずし、粽ずし」等の名店として知られた株式会社有職の事業を実質上承継する会社であり、また、その旨需要者に広く知られているものと考えられる。
したがって、本件商標をその指定商品「すし、茶巾ずし、ちまきずし、その他」に使用するときは、本件商標に接する需要者・取引者は、株式会社福槌を想起し、あたかも当該商品が請求人の業務と何らかの関連がある商品であるかのごとく認識し、その商品について出所の混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号若しくは同第15号にも該当する。
オ 商標法第4条第1項第8号
本願商標は、他人の名称若しくは著名な略称(「有職」)を含む商標に該当すると考えられる。「有職」は、茶巾寿司、粽寿司の名店「有職」の名称及び「株式会社有職」の略称として長年周知著名性を保ってきたものである。請求人は、「株式会社有職」の業務を実質的に承継した者であり、株式会社有職元社長小原氏からも商標「有職」の使用を許された者であって、需要者の間でも「有職」を引き継ぐ店(あるいは、名称変更した店)として広く知られるに至っている。したがって、本件商標は、「株式会社有職」の略称若しくは請求人が継承した名称又はその略称と認識できるものと考えられるので、業務とは全く関連のない他人である赤津容子氏が登録するには適当ではない商標法第4条第1項第8号に該当する商標である。
カ 赤津容子氏の他人性
赤津容子氏は、株式会社有職の元社長小原氏の友人である赤津氏の娘であり、基本的に本件商標の業務とは全く無関係の者である。移転時の状況から判断すると商標権(商標登録第1206047号)を一時的に元社長小原氏から預かったような形とも考えられる。すなわち、取消された商標登録第1206047号とは多少の関連があったと推察されるが、平成17年2月の本願商標の出願については、業務の承継もなく、また、権利の一時的に避難場所として指定されたというような特殊な事情も、今回の権利については全く存在しないと考えられるので、全く関係のない第三者に過ぎない。
客観的な事実は、商標「有職」を一時的に預かっていた者が、業務の承継もない状態で、かつ、預かっていた商標の不使用取消審判にも何等の回答も提出しない状態で、実質的承継者である株式会社福槌の営業を妨害する為に本件商標を出願した形になっている。商標権者は、請求人が再度の譲り渡し交渉を開始して、コンタクトをとっているにも関わらず、現在までのところ(本件審判請求時点で)、譲渡する意思を明らかにしていない。
商標法は、商標を使用する意思のある者に独占権を付与するものである。本件のような単なる不使用商標の権利の延命のために出願されたことが明白な出願に対しては厳格に対処すべきであり、商標法第3条第1項柱書き違背で拒絶すべきであり、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第8号により、株式会社福槌が承継した旧株式会社有職の著名商標「有職」は保護されるべきである。
本件のような所謂「悪意の先願」については、上記の各無効理由条項にたとえ該当しなかったとしても、商標法の精神又は法目的や法制定の趣旨に照らして、保護を積極的に抹消すべきであり、この点では伝家の宝刀といわれる商標法第4条第1項第7号の適用も積極的に考えるべきである。
キ 結語
上記詳述したとおり、本件商標は、自己の業務に係る商品について使用する商標ではなく、公正な取引秩序を乱すものであり、公序良俗を害するおそれがある商標である。また、本件商標をその指定商品・役務に使用した場合には、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるので、商標法第4条第1項第10号又は同第15号に該当する。さらに、第4条第1項第8号にも該当する。
(2)弁駁
ア 商標法第4条第1項第7号について
(ア)請求人は、平成16年11月項から、本件商標権者と旧商標権(登録第1206047号)の譲渡の交渉を行っていた。請求人は、商標「有職」に込められた茶巾寿司という食文化・伝統・技術に対する信用を失わせることなく、さらにその信用を培ってきたものである。本来の商標権者ではなく単なる一時管理者に過ぎない赤津氏からの使用許諾では、今後の事業展開を行っていく上で障害が出ると予測されていた。株式会社有職の創業者である小原氏の考えを損なわないように使用を継続していきたいという配慮の下で、商標権の禅譲を望んでいたものである。
かかる事情を被請求人には書面で連絡しており(甲第17号証)、譲渡の可否についての回答を待っている最中に、本件商標の登録出願が行われた。
請求人は、その3日後に、旧商標登録に対して不使用取消審判を請求し、その後、当該商標登録は取り消されている。
これらの事情を総合考慮すれば、被請求人の本件商標の登録出願は、譲渡の対価又は使用許諾料を高額に請求する等の不正の目的、すなわち悪意で出願されたものと考えられる。被請求人は、請求人が商標「有織」の使用を切望している意図を知っていながら、譲渡交渉を成立させる意思がなく交渉に臨み、いざ不使用取消審判が請求されそうな状況であることを察知するや否や、不使用の商標である旧商標権の維持を断念して新出願に乗り換えただけの事情である。
特に、被請求人は、答弁書の中で「(不使用取消審判の)請求時には当該登録商標の使用を開始していなかったため登録が取り消された場合に、当該商標権者が同一商標について再出願して登録を取得することを禁止する規定はなく、そのような行為が法の趣旨に反すると判断したような事例はない」と主張している。確かに、法的にはこのような行為を禁止する規定はないが、かかる出願は、空権化した商標権を整理して第三者の商標選択の余地を広げるという、不使用取消審判の趣旨を潜脱する行為である。
被請求人は、道義的にも全く問題はないと主張しているが、請求人が譲渡交渉の回答を求めているにも関わらずこれに応答せず、請求人がやむなく不使用取消審判を請求することを示唆したために、何の前触れもなく新出願を行ったことは、真に「悪意の出願」というべきであり、道義的ではなく悪意の出願そのものと考えられる。
また、被請求人は、「不使用取消審判の請求をするのであれば同時に新規出願すべきであるにもかかわらず、直ちに新規出願をしなかったために、被請求人の本件商標に係る出願が請求人の新規出願より先願となった」と主張している。被請求人との交渉に誠実に臨んでいる最中に出願することが正義かどうかを考えれば答えは明らかである。すなわち、交渉がまとまれば直ちに不使用取消審判の請求を取り下げる予定であった。
それにも関わらず当該審判の請求前に、本件商標の登録出願が請求人に何の連絡もなく突然行われたものである。かかる出願は請求人の譲渡交渉をないがしろにし、不当に高額な使用料を請求する目的でなされた悪意の出願と考えられる。
さらに、被請求人は、請求人が「商標制度の理解及び手続の進め方を誤ったことにより当然に生じた結論であることを認識し」、公序良俗違反を苦し紛れに無効理由としていると主張している。しかし、不使用の商標を継続させるための再出願は法の不備を突いた違法にも似た手続であり、3年毎に出願を繰り返せば、法を潜脱した不使用商標の独占を意図した手続である。どの無効理由が本件に該当するかについて疑問はあっても、被請求人が悪意で出願を行ったことは明らかであり、少なくとも公序良俗違反であると考えられる。被請求人は、暗に、安直な無効理由を選択したと主張しているが、商標法上の理論に基づいた無効理由である。商標は選択であるため、登録要件を満たす限りは、既存の語又は他人の商標でも、自由に採択して登録を受けることができる。しかし、他人が使用したことによって業務上の信用が化体した商標を選択することは、他人の業務上の信用を瓢窃する行為である。商標法第4条第1項第7号は、このような場合も含めて公序良俗違反と判断できる規定であると考えられる。すなわち、「他人の標章が未登録であることを奇貨として、不正の利益を得る意図で出願する行為は、公正な取引秩序を乱すおそれがあり、その独占使用を認めることは、取引秩序の維持という商標法の目的に反する」(甲第27号証)ため、登録は剽窃的であるとして、7号が適用されることがあると考えられる。
(イ)被請求人は、答弁書の中で、「本件の場合、請求人が商標『有職』の使用を希望するのであれば、本件商標の権利者である請求人からの使用許諾又は本件商標を譲り受けるなどしない限り、使用はできないのが当然である」と主張している。登録主義の下、権原がなければ正当な使用とならないことは充分に承知しており、そのために請求人は商標「有織」の一時管理者であったに過ぎない旧商標権者に譲渡の交渉を行い、また悪意の出願である本件商標の商標権についても譲渡交渉を行ってきた。しかし、そのたびに被請求人からは明確な回答が得られず、請求人としては法律上、正当な商標の使用を希求しているにも関わらず、実質的には行動が制限されていた。被請求人は「単にその構成員に株式会社有職の元社員が多いことや、『有職』の茶巾寿司などの伝統と技術を継承しているからといって、請求人が『有職』ブランドに化体した信用を独占できるという法的根拠はない」と主張しているが、むしろ何を主張しているか不明であると評価せざるを得ない。使用許諾・譲渡の交渉で決着を見ることが、相手方の悪意から達成できないと判明したため、法的根拠を得るべく、旧商標登録に不使用取消審判を請求し、本件商標登録に対して無効審判を請求した。なお、請求人は商標「有織」を第30類の商品「すし」等を指定商品として商標登録出願を行っており、現在、拒絶査定不服審判に係属中である。ちなみに、請求人は商標「有織」を第43類に登録している。
また、被請求人は、「伝統、技術、味などの継承と商標に化体した経済的価値の帰属とは切り離されて考えられなければならない」と主張しているが、商標の本質を見誤った身勝手な主張であると言わざるを得ない。業界での伝統及びその伝統を裏打ちする技術・味によって商標に信用が化体したのであり、そこから経済的価値・ブランド価値が発生するのであって、商標登録がなされたことにより経済的価値が発生するものではない。
本件では、伝統・技術・味を作り出したのは株式会社有職の元社員であり、請求人はその元社員で多数が構成されている。すなわち、商標「有織」に経済的価値を生ぜしめたのは請求人である以上、これを切り離して考えることはできない。この点被請求人は、「『有職』の技術、伝統、味などを継承して商売をしたいのであれば、別な商標を採択して使用し自身の努力によってその商標の経済的価値を高めればよいのであるが、請求人は、そのような努力はせず、『有職』ブランドに化体した経済的価値を独占的に利用したいと考えている訳である」と主張しているが、上記のように請求人は「有織」に経済的価値を生ぜしめた本人である。むしろ、請求人が化体させた商標「有織」の信用及びそこから発生する経済的価値を、譲渡交渉を反故にした被請求人こそ、請求人を出しぬいた出願を行い、何ら努力をしないで「有織」に化体した信用を剽窃するフリーライダーであると考えられる。
商標に化体した業務上の信用を保護することによって、出所の混同を防止して需要者の利益の保護を図るのが法の趣旨である。この趣旨からすれば、商標「有織」に化体した業務上の信用を保護してきた、あるいは、これからも継続して保護していくことができるのは請求人だけであり、そのために実体と形式を一致させるべく、請求人は被請求人と譲渡交渉を行ってきたものである。被請求人は、「本件の場合、請求人が商標『有職』の使用を希望するのであれば、本件商標の権利者である被請求人からの使用許諾又は本件商標を譲り受けるなどしない限り、使用はできないのが当然である」と主張している。このことは当然のことであって、請求人はそれを充分に承知しているからこそ、譲渡交渉が暗礁に乗り上げてしまった時点で本件無効審判を請求したものである。被請求人は、本来の商標権者から一時的に商標権を預かったに過ぎないものであり、登録主義の下で実体のない権利を一時管理していたに過ぎない。旧商標権が消滅させられる可能性のあることが判明した時点で本件出願を行い、登録を得られさえすれば商標「有織」に化体した経済的価値を剽窃できるとの意図をもってなされた本件出願は、形式だけを取得すればその経済的価値まで得られるとの大きな誤解に基づくものであり、登録主義を悪用しようとする意図でなされたものと考えることができる。請求人が「有織」の商標登録を得ていないことを奇貨として高額で買い取らせる等の意図がある場合は、商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」に該当するが、被請求人の意図はこの類のものと考えられ、真に悪意の出願であると考えられる。
さらに、被請求人は、「『有職』ブランドに化体した経済的価値からすれば、被請求人が提示した金額が法外に高いとは思われないところ、請求人は『有職』ブランドに化体した経済的価値を認める一方で、使用料については不使用登録商標の対価と同程度しか支払うつもりはないということであり」と主張している。被請求人も自認しているとおり、「有職」には多大な経済的価値が化体しているところ、かかる価値を化体させたのは上記のように請求人である。請求人自身が化体させた経済的価値を有する商標であれば、一時管理者に過ぎない被請求人が請求人に譲渡する際は、本来は無償であってもよいはずで、この点は甲第19号証からも窺えるものである。請求人は、被請求人の意思や立場を尊重したうえで、不使用商標の対価として相場の額である50万円?100万円が妥当と判断し、有償の譲渡交渉を行っていた。この交渉過程からも察知できるように、被請求人は旧商標権の一時管理者に過ぎないにも関わらず、株式会社有職の実質的な承継人である請求人から不当に高額な金銭を引き出すべく、本件商標を出願したものと考えられる。
イ 商標法第3条第1項柱書きについて
被請求人は、旧商標権が不使用取消審判で取り消されることを一方で黙認しながら、他方で商標を使用する明確な意思もなく容易に社会通念上同一と考えられる商標を再出願している。このような商標権者の態度は商標制度の制度趣旨を潜脱するものと考えられる。ここにも明白に悪意を読み取ることができる。
なお、被請求人は、その経営する弁当屋において本件商標を使用した弁当を販売する用意があるため、使用意思があると主張している。確かに、商標法第3条第1項柱書きは査定時において自己の業務に係る商品に商標を使用していなくとも、将来における使用意思があれば、同規定に反しないと定めている。ただし、本件商標に類似する商標を街の弁当屋で販売される弁当に使用した場合、商標権者である被請求人の故意は上記の経緯から容易に推認できるため、商標「有織」が茶巾寿司について周知であることに鑑みれば、他人の業務に係る商品と誤認又は混同を生じるおそれがあり、不正使用取消審判(商標法第51条)による取消の対象となる可能性もある。
ウ 商標法第4条第1項第10号について
被請求人は、「引用商標『有職』がたとえ周知であるとしても、その商標に化体した信用が経済的及び組織的に株式会社有職とは何らの関係も有しない株式会社福槌に帰属するはずがなく」と主張している。
しかし、かかる主張は、商標法第4条第1項第10号の適用について何ら影響を及ぼすものではない。同号の「他人」とは、出願人以外の者のことをいうので、被請求人以外の者のものとして周知になっていればそれで充分であり、「他人」が株式会社有職であっても、株式会社福槌であってもよいと考えられている。商標の帰属の問題と商標法第4条第1項第10号の適用とは全く別の問題であり、被請求人も「引用商標『有職』がたとえ周知であるとしても」と自認するように、「有織」が被請求人以外の一定の何人かの商品の識別標識として周知である以上、本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号に客観的に該当すると考えるべきである。
また、上記のように、請求人の構成員は株式会社有職の元構成員で多数が占められており、元社長の意向もあり「有織」の使用を許可されている。また、客観的にも、伝統ある「有織」を引き継ぐ店として需要者の間で広く知られている。この点を考慮すると、本件商標を指定商品に使用した場合は、引用商標「有織」の商品と出所の混同を生じるおそれがあるものと考えられるべきである。なお商標法第4条第1項第10号は、商標及び商品の類似範囲は画一的に出所混同が生じる範囲であると擬制されて出願が拒絶、登録が無効とされる内容の規定であるが、具体的な出所の混同が生じることまでは要求していない。したがって、仮に本件商標と引用商標の業務に係る商品が現実の出所混同を生じていなくとも、本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
エ 商標法第4条第1項第8号について
本件商標は、株式会社有職の著名な略称を含むものであるが、平成8年に倒産しているため、「現存する者」に限定される商標法第4条第1項第8号の「他人」には該当しないものと考えられる。
この点被請求人は、「株式会社福槌は経済的及び組織的に株式会社有職とは何らの関係も有しないものである」と主張しているが、上記のように、請求人の構成員は株式会社有職の元構成員で多数が占められており、経済的な関連性はなくとも、組織的には株式会社有職の業務を実質的に承継したものと考えられる。また、株式会社有職の元社長からも、「有織」の使用を許可されている(甲第19号証)。
また、被請求人は、「株式会社福槌がその周知性を継承しているとも考えられない」と主張しているが、この点についても甲第22号証ないし甲第25号証によれば、請求人が株式会社有職から商標「有織」の周知性を客観的に継承していることが窺えるものである。例えば、甲第22号証(雑誌「東京味さんぽ‘05」)では、「平成8年に閉店した上方寿司の名店『有職』の職人達が、その翌年に開いた寿司店。・・・味を引き継いだ『福槌』の寿司は、皇室主催の園遊会のほか、茶会などの弁当として今も親しまれている」とあり、甲第23号証(貴田庄著「小津安二郎東京グルメ案内」80?83頁)では、「寿司の老舗有職が、10年ほど前に赤坂三丁目から姿を消した・・・有職の名物は、茶巾寿司やちまき寿司で、小津のカラー映画のように美しい。これらの寿司が姿を消したことはまったくもって惜しいと思っていたら、偶然、溜池のアークヒルズの向かいにあるビルの地下で、『福槌』という名となって新規開店していることを知った」とある。また、茶巾寿司と請求人の歴史を紹介したインターネットホームページ(甲第28号証)では、「茶巾寿司の歴史をひもとけば、行きつく先は『福槌』。さらに詳しく辿れば、福槌の前身『有職』の創業者、小原義太郎の名前が浮かび上がる」とあり、一般の需要者がいわゆるブログと呼ばれるインターネットホームページ上で、株式会社有職と請求人の関係を記載している(甲第29号証及び甲第30号証)。
以上の点を総合考慮すると、請求人は株式会社有職の実質的な承継人であり、当時の味や技術と同程度の商品を提供することによって、その周知性も引き継いでいると考えられる。そして商標「有織」は、株式会社有職から請求人が継承した著名な略称であると考えられるので、本件商標の登録は商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものと考えられる。
オ 請求人の名称変更
請求人である株式会社福槌は、平成18年10月1日付けで社名を「株式会社有職」へと変更した。屋号は「赤坂福槌」を継続して使用しているが、株式会社福槌は株式会社有職を実質的に承継した者としての立場を明確にした。これにより株式会社有職は、以前の周知性を保持しつつ復活したということができる。
なお、株式会社有職の創業者一族である小原氏の元妻が、今回の社名変更を大変喜んでおり、今回の社名変更に対する感謝の気持を表意すべく、日本画家の「片山南風」の絵画を請求人に贈呈したことを付言する。

3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
(1)請求人は、商標法第4条第1項第7号、同法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第10号及び第8号を根拠として、本件商標が無効である旨を主張しているので、以下、根拠条文毎に反論する。
ア 商標法第4条第1項第7号について
請求人の説明するように、被請求人は登録商標「有職」(第1206047号)の権利者であり、同登録商標は株式会社有職の社長であった小原義治氏が有していたものを同氏の友人の娘である被請求人が適法に譲り受けたものである。同登録商標は請求人からの不使用取消審判請求により取り消され、現在は消滅している。
被請求人は、上記不使用取消審判請求がなされた時点では登録商標「有職」の使用をしていなかったので、同審判においては答弁書を提出しなかった。しかし、被請求人は現在でも「有職」に関する商標を使用する意思があり、本件商標についての請求人との譲渡交渉が不調に終わった場合には使用を開始するつもりである。被請求人は、その義妹「赤津みづき」が代表者となっている有限会社ナスビーが東京都中野区本町四丁目38番18号ウイング新中野1階において営業する弁当屋「まごころ弁当」において弁当の販売を行っており、直ぐにでもこの店舗において本件商標を使用する弁当を販売する用意がある。参考のために、有限会社ナスビーの履歴事項全部証明書(乙第1号証)、まごころ弁当の営業許可書写し(乙第2号証)及びまごころ弁当の店舗を写した資料(乙第3号証)を提出する。
我が国の商標法の下では、登録商標について不使用取消審判が請求され、その請求時には当該登録商標の使用を開始していなかったため登録が取り消された場合に、当該商標権者が同一商標について再出願して登録を取得することを禁止する規定はなく、そのような行為が法の趣旨に反すると判断したような事例はない。
したがって、被請求人が本件商標について出願し登録を取得した行為は適法であり、法的にも道義的にも全く問題はない。
この点、請求人は、自己を「本来権利者となるべき者」と称し、一方、被請求人は「本件無効審判請求人に使用権を許諾するための交渉だけをしている」と決めつけ、この誤った認識に基づき、本件商標は「請求人による商標『有職』の使用および登録を阻止するためにのみ抜け駆け的に行われた『悪意の出願』と考えられ、公正な取引秩序を乱し、公序良俗を害する虞のある商標」であると主張している。
甲第15号証にある請求人代理人から請求人への手紙によれば、「回答及び対策としては、決裂してしまうことを考えて現在は使用している形跡はありませんので不使用取消審判(20万円程度)を第三者名義で提出する事と、新第30類(旧第32類)『すし等』を指定商品として新規出願(8万円)することをお勧めします。」とアドバイスしている。そして、このアドバイスに従って不使用取消審判を請求したようであるが、直ぐに新規出願はしていない。上述のようなアドバイスをする代理人がついているのであるから、不使用取消審判の請求が認められ登録商標「有職」が取り消されたとしても、請求人自身で出願しなければ「有職」に関する商標権を取得することが出来ないこと位は当然に理解しているはずであるから、不使用取消審判の請求をするのであれば同時に新規出願すべきであるにもかかわらず、直ちに新規出願をしなかったために、被請求人の本件商標に係る出願が請求人の新規出願より先願となった訳である。
請求人が説明するように、上記不使用取消審判請求、被請求人の本件商標に係る出願及び請求人の新規出願のなされた前後に請求人と被請求人は登録商標「有職」の使用許諾又は譲渡などについて交渉をしていたが、請求人自身もその交渉の継続中に上記不使用取消審判を請求し、新規出願をしていながら、被請求人が適法に本件商標に係る出願をなし本件商標権を取得することについては公序良俗に違反するとの主張は甚だ身勝手で法的に全く根拠のない主張と言わざるを得ない。
請求人は、交渉、取消審判請求、新規出願などの商標法及び商標制度の下で認められている手段を使って何とか「有職」商標の使用及び権利取得を試みたが、その進め方を間違えた結果、請求人の新規出願が被請求人の本件商標に係る出願の後願となったに過ぎない。そして、請求人は、このような事態は自身が商標法、商標制度の理解及び手続の進め方を誤ったことにより当然に生じた結論であることを認識し、本件商標について絶対的無効理由(商標法第3条第1項各号)及び相対的無効理由(商標法第4条第1項第11号など)がないとの主張が困難であると認識しているからこそ、審判請求理由の第一の根拠として公序良俗違反という主張をしているのである。
また、請求人は、「伝統ある『有職』の技術を保持しようとの思いから平成9年6月」に設立され、「出資者である株式会社寿司岩のオーナー他数名以外の構成員は全て株式会社有職の元社員で設立され構成されており」、「開業以来『有職』の茶巾寿司などの伝統と技術を継承する店として知られ」ており、したがって、自己を「本来権利者となるべき者」と称しているが、全くの詭弁といわざるを得ない。
請求人自身が「有職ブランド」と説明しているように、商標「有職」には高いブランド価値がある。しかし、単にその構成員に株式会社有職の元社員が多いことや、「有職」の茶巾寿司などの伝統と技術を継承しているからといって、請求人が「有職」ブランドに化体した信用を独占できるという法的な根拠はない。伝統、技術、味などの継承と商標に化体した経済的価値の帰属とは切り離されて考えられなければならない。この点、請求人の主張は、「有職」ブランドに化体した経済的価値と技術、伝統、味などの継承とを混同し、技術、伝統、味などを継承していれば自由に「有職」ブランドに化体した経済的価値を独占的に使用できるように主張している。このような主張が認められると、有名料理店で修行した人が独立して料理店を開業した場合、その有名店の味や伝統を継承していれば、暖簾分けや使用許諾などがされなくても、もとの有名料理店の名称を使ってよいことになってしまい、法的に全く根拠がなく、現実の取引社会の実情にも即していないことが分かる。
「有職」の技術、伝統、味などを継承して商売をしたいのであれば、別な商標を採択して使用し自身の努力によってその商標の経済的価値を高めればよいのであるが、請求人は、そのような努力はせず、「有職」ブランドに化体した経済的価値を独占的に利用したいと考えている訳である。しかし、自分が使用したいと考えた商標又はこれと類似する商標について第三者が既に商標権を取得している場合、いくらその商標の使用を切望しても、同商標権者からの使用許諾、同商標権の譲り受けなどがなければ、その商標の使用は許されないことは当然である。つまり、本件の場合、請求人が商標「有職」の使用を希望するのであれば、本件商標の権利者である被請求人からの使用許諾又は本件商標権を譲り受けるなどしない限り、使用はできないのが当然である。
甲第15号証にあるように、被請求人が登録商標「有職」の使用許諾について使用料月5万円、使用権契約設定料及び更新費用の負担という条件を提示したところ、請求人は総額が高く将来の支払も問題となるためこの交渉には応じず、不使用取消審判請求をしている。そして、請求人代理人は、一時金で50-100万円程度が適当とコメントしている。上述のように、「有職」ブランドに化体した経済的価値からすれば、被請求人が提示した金額が法外に高いとは思われないところ、請求人は「有職」ブランドに化体した経済的価値を認める一方で、使用料については不使用登録商標の対価と同程度しか支払うつもりはないということであり、これでは交渉が調うとは考えられない。
結局、請求人は、経済的価値の高い「有職」ブランドの使用を希望しているが、商標出願などの進め方を誤ったために権利取得できず、また、被請求人との交渉においてはそのブランド価値に見合った対価を支払うことを惜しんでいるに過ぎない。一方、被請求人は株式会社有職の社長であつた小原義治氏から適法に登録商標「有職」を譲り受け、この登録が不使用取消審判請求により取り消された後、本件商標にかかる商標出願を適法になしたものである。したがって、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当しないことは明らかである。
イ 商標法第3条第1項柱書について
上述のように、被請求人は、有限会社ナスビーが営業する弁当屋「まごころ弁当」において弁当の販売を行っており、直ぐにでもこの店舗において本件商標を使用する弁当を販売する用意があるのだから、本件商標について使用意思がないとする請求人の主張には理由がない。
ウ 商標法第4条第1項第10号について
請求人は、「引用商標『有職』は、株式会社有職が長年に亘って使用してきた商標であって、株式会社福槌がその意向を継承して製造販売している茶巾寿司・粽寿司の商標であり」、「前述のとおり株式会社有職は事業を行っておりませんがその業務を実質上継承している株式会社福槌は」と、恰も自分が株式会社有職の継承者であるように説明しているが、そもそもこの認識が全くの誤りである。
請求人も認めるように、株式会社有職は倒産しその事業を継承するものはいない。一方、株式会社福槌は寿司岩のオーナーが出資して設立された会社であって、株式会社有職の元社員により構成されているが、経済的及び組織的には株式会社有職とは何らの関係も有しないものである。
したがって、引用商標「有職」がたとえ周知であるとしても、その商標に化体した信用が経済的及び組織的に株式会社有職とは何らの関係も有しない株式会社福槌に帰属するはずがなく、本件商標を使用すると需要者及び取引者が請求人の業務と何らかの関連がある商品であると認識し出所を混同するおそれがあるとの主張は失当であり、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない。
なお、株式会社福槌が、株式会社有職の倒産後の商標「有職」の使用により、同商標を自己の商標として周知にしたというのであれば、それは、被請求人の有していた登録商標「有職」に基づく商標権の侵害行為を行っていたことを意味することを付言する。
エ 商標法第4条第1項第8号について
上述のように、株式会社有職は10年程前に倒産している。過去に「有職」が同社の経営する店名又は同社の略称として周知となっていたとしても、競争が激しくブームの変化も早い食品業界において、その周知性が現在まで続いているとは考えられない。
また、株式会社福槌は経済的及び組織的に株式会社有職とは何らの関係も有しないから、株式会社福槌がその周知性を継承しているとも考えられない。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(2)以上より、本件商標が商標法第4条第1項第7号、同法第3条第1項柱書、同法第4条第1項第10号及び同第8号のいずれにも該当しなこと明らかである。

4 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第7号について
商標の構成(文字や図形等)それ自体において公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標はもとより商標法第4条第1項第7号に該当するが、その構成自体においてはそうでなくても、当該商標の出願がその経緯において適正な商道徳に反し、社会通念に照らしてみれば、社会的妥当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、商標法第4条第1項第7号に該当することがあると解される(東京高裁 平成14年(行ケ)第616号・平成15年5月8日判決参照)。
(2)商標「有職」について
ア 請求人提出の甲各号証及び主張を総合すれば、以下の事実が認められる。
(ア)有識は、本店を東京都港区赤坂3丁目9番9号におき、商品「茶巾寿し、粽寿し、利久寿し」の製造、販売を業務内容とする昭和8年4月21日創業の会社であった。昭和49年当時で年間取扱高も2億円に達し、天皇御一家をはじめ、政財界、茶道、芸能界の人々が取引先であった。そして、別掲(2)に示す商標(以下「商標『有職』」という。)を、「ユウショク」の称呼とともに、暖簾やカタログ等に使用していた(甲第3号証及び甲第4号証)。
(イ)「貴田庄著 小津安二郎 東京グルメ案内(朝日文庫)」(甲第23号証)の80頁以下には、「有職」との表題の下、「1954年12月18日の日記には、この店がつぎのように書かれている。 二時すぎ田中絹代くる 月についていろいろ話す 有職ずしと鮒佐の佃煮もらふ」、同じく83頁に、「有職の名物は、茶巾寿司やちまき寿司で、小津のカラー映画のように美しい。これらの寿司が姿を消したことはまったくもって惜しいと思っていたら、偶然、溜池のアークヒルズの向かいにあるビルの地下で、『福槌』という名になって新規開店していることを知った。後日そこに、茶巾寿司やちまき寿司を求めて足を向けたことはいうまでもない。」との記述がある。
(ウ)「東京味さんぽ ’05」(甲第22号証)には、「赤坂3丁目にあった『有職』」として株式会社有職の店舗の写真を掲げるとともに、福槌を紹介する記事が掲載され、「平成8年に閉店した上方寿司の名店『有職』の職人達が、その翌年に開いた寿司店。・・・」との記述がある。
(エ)平成17年4月21日付け読売新聞(甲第24号証)の「彩事記」欄には、「『有職』ブランドを受け継ぐすし店、福槌(東京)は、エビやタイなどが載ったにぎりずしをササの葉でくるんだ『ちまき寿司』を作る。」との記述がある。
(オ)株式会社有識は平成8年に倒産したが、商標「有職」に係る商標権(登録第1206047号)は、株式会社有職から被請求人に移転し、その登録が平成12年2月15日になされた。
(カ)株式会社有職の倒産後である平成16年10月22日において、宮内庁から、秋季園遊会料理として、納期を同28日として株式会社福槌が粽寿司の受注をした。その請書添付の「仕様書」には、当該粽寿司の品質及び形状は宮内庁の指定する規格のものとする旨の記載がある(甲第5号証)。
イ 以上からすれば、商標「有職」は、平成8年の株式会社有識の倒産時はもとより倒産以降の本件商標の出願時においても、商品粽寿司、茶巾寿司について周知な商標として需要者間で広く認識されていたものであり、愛好家をはじめ需要者の間においては、その周知性は継続していたということができる。
なお、株式会社有職によって確立された商標「有職」の周知性については、当事者間に争いがないものである。
ウ 請求人は、株式会社有職の元職人が主な従業員となり、株式会社有職の伝統的技法等を継承せんとして平成9年に設立されたものと認められ、株式会社有職の伝統的技法を継承すると自ら称し(甲第9号証、甲第11号証、甲第26号証)、他者からも株式会社有職の伝統的技法を継承する店として紹介されている(甲第22号証、甲第24号証、甲第25号証)ことが認められる。
そして、本件商標の出願前の時点から、株式会社有職の伝統的技法等による商品茶巾寿司、粽寿司に永年使用され信用を化体する商標「有職」の使用を確保するために、後記(3)イのとおり、請求人は、被請求人との間で商標権譲渡の交渉を進めるとともに、株式会社有職の二代目前社長に対して商標「有職」の使用の確保に向けた働きかけをも行っていた(甲第16号証)。
(3)本件商標及びその出願の経緯等について
ア 本件商標は、上記1のとおり、「有職」の文字を書してなり、その左上段に「有職」に比して小さく「赤坂」の文字を配した構成からなるものである。
しかして、本件商標は、「有職」の文字部分から、「ユウシキ」又は「ユウショク」の称呼を生ずるものであり、「ユウショク」の称呼をもって使用されて当該称呼が定着したと認められる商標「有職」とは、その称呼を共通にするものである。
また、本件商標の「有職」の文字は、商標「有職」と書体においては相違するけれども、ともに同じ構成文字「有」及び「職」からなるものとして看取されるというのが相当である。
加えて、本件商標は、その構成中に東京都港区赤坂を容易に認識させる「赤坂」の文字を有するものであるから、「有職」の文字と併せみれば、需要者をして、前記赤坂を拠点として永年使用をされてきた商標「有職」を優に想起させるといわざるを得ないものである。
イ 商標登録原簿に徴すれば、被請求人は、前商標権者株式会社有職からの商標権移転により、平成12年2月15日以降、当該商標登録の取消まで、商標「有職」に係る商標権(登録第1206047号)を有していた者である。なお、被請求人が有識と業務上何らかの関係があったと認めるべき証拠はない。
そして、本件商標の登録出願前である平成16年末から翌年にかけて、前記商標権について請求人と被請求人との間で譲渡交渉等が行われていた(甲第14号証ないし同第18号証)。これら証拠によれば、両者の交渉は、その条件面において乖離し難航しており、合意には至らなかったものとみられる。
その過程で、被請求人は、平成17年2月18日に「茶巾ずし,ちまきずし」ほかを指定商品として本件商標を出願した。
一方、平成17年2月21日に請求人によって、前記商標登録の取消審判が請求された(甲第12号証)。本件商標の出願は、前記商標登録が取り消された後ではなく、前記取消審判の請求日の3日前になされたものである。
そして、権利取得から取消審判請求に至る間、被請求人がその指定商品について商標「有職」の使用をしたとの事実を確認し得る証拠はなく、また、被請求人の「取消審判請求がなされた時点では登録商標『有職』の使用をしていなかったので、同審判においては答弁書を提出しなかった。」(答弁書1頁13行ないし15行)との主張からみれば、被請求人は、商標「有職」に係る商標権に関して、不使用による取消審判が成立することを予見し得たと推認される。
(4)小括
以上によれば、取消審判を請求されれば、その不使用により商標「有職」の商標登録が取り消されることを予見し得る立場にあった被請求人が、商品茶巾すし及び粽すしに係る株式会社有職の技法等を継承し商標「有職」の使用を切望する者(請求人)が存在することを知悉しつつ、商標「有職」に係る商標登録の消失後においても、その者との使用許諾や譲渡の交渉において優位を保つことを専ら目的として、本件商標の登録出願をしたと推認せざるを得ないものである。
そうとすれば、本件商標は、その出願の経緯(目的)において、著しく社会的妥当性を欠くものがあったと判断せざるを得ないから、商標法の予定する秩序を害するおそれがあるものというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
(5)被請求人の主張等
ア 被請求人は、現在でも「有職」に関する商標を使用する意思があり、本件商標についての請求人との交渉が不調に終わった場合は使用を開始するつもりであって、本件商標を使用する弁当を販売する用意がある旨主張し、乙第1号証ないし乙第3号証を示している。
確かに、前記証拠により、弁当屋「まごころ弁当」が東京都中野区本町に存在し、当該店の開業が「1992年4月1日」であることを窺い知ることができる(乙第3号証)。
しかしながら、あくまでも交渉不調後の予定の話であること、被請求人が過去において商標「有職」及び本件商標の使用をした事実を示す証拠はないこと、また、仮に出願時から本件商標の使用を予定していたとして、被請求人が使用を予定する店舗は、東京都中野区本町の店舗であって、これと本件商標中の「赤坂」の文字との整合性を見いだす的確な証左もないこと等を勘案すると、当該主張をもって、本件商標の出願時にその使用に関する事項を明らかにしたとは得心し難く、これをもっては上記(4)の推認を覆し得ないというほかはない。
イ また、不使用取消審判により取消された商標に関連して、再出願をすることを禁止する商標法上の直接的な規定がないことは、被請求人主張のとおりであるが、本件においては、出願をしたことそれ自体ではなく、上記のとおり、その出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあると認められる点が、本条項に該当するとすべき所以である。
(6)結語
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから、その余の請求理由について論及することなく、同法第46条第1項に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標


(2)商標「有職」



審理終結日 2007-05-31 
結審通知日 2007-06-06 
審決日 2007-06-20 
出願番号 商願2005-13334(T2005-13334) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (Y30)
最終処分 成立 
前審関与審査官 稲村 秀子 
特許庁審判長 田代 茂夫
特許庁審判官 岩崎 良子
伊藤 三男
登録日 2006-04-07 
登録番号 商標登録第4942325号(T4942325) 
商標の称呼 アカサカユーソク、アカサカユーシキ、アカサカユーショク、ユーソク、ユーシキ、ユーショク 
代理人 中村 幹男 
代理人 広瀬 文彦 
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