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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Z05
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない Z05
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z05
管理番号 1159039 
審判番号 無効2005-89068 
総通号数 91 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-05-18 
確定日 2007-06-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第4587409号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4587409号商標(以下「本件商標」という。)は、「カロナール」の片仮名文字を標準文字で書してなり、平成13年8月29日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同14年7月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第93号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に基づき、無効とされるべきである。その理由は、以下に詳細に述べる。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア.引用商標
請求人が引用する登録第1882060号商標(以下「引用A商標」という。)は、「カコナール」の片仮名文字を横書きしてなり、昭和59年5月21日に登録出願、第1類「化学品、その他本類に属する商品」を指定商品として、同61年8月28日に設定登録され、、その後、平成9年2月27日及び同18年4月18日の2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、指定商品については、第1類、第2類、第3類、第4類、第5類、第8類、第9類、第10類、第16類、第19類、第21類及び第30類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品とする書換登録が同19年4月18日にされているものである。
同じく登録第3160528号商標(以下「引用B商標」という。)は、「CAKONAL」の欧文字を横書きしてなり、平成5年5月31日に登録出願、第5類「薬剤,歯科用材料,医療用油脂,衛生マスク,オブラ?ト,ガ?ゼ,カプセル,耳帯,眼帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液」を指定商品として、同8年5月31日に設定登録され、、その後、同18年4月18日に商標権の存続期間の更新登録がされているものである(以下、これらをまとめていうときは「引用商標」という。)。
イ.本件商標と引用商標との類否
両者の構成は上述のとおりであって、本件商標は、「カロナール」の称呼を生ずるとするのを相当とするのに対して、引用商標からは、「カコナール」の称呼を生ずるとするのが相当である。
しかして、本件商標と引用商標とは、共に5音構成からなるものであって、第1音の「カ」、第3音以降の「ナ」、「ー」、「ル」の4音を同じくし、第2音の「ロ」音と「コ」音に差異を有するものであるところ、両商標は同じ5音節であり、相違するのは「ロ」音と「コ」音との1音だけであり、母音を共通にするものであるから、本件商標は、引用商標と称呼において相紛らわしい類似の商標である。
さらに、本件商標と引用A商標は、5文字中4文字が同一の文字で同じ音であり、その同一文字に対する配置も全く共通にしており、かつ、相違する「ロ」と「コ」の片仮名文字は、文字を構成する形状が類似していることから、全体として看るときには、一見して誤認混同をするほど類似した構成となって、称呼だけでなく、外観上相紛らわしい商標であるといわなければならない。
ウ.今日の課題として、医薬品に類似名称が使用されていることが問題視されており、新聞の掲載記事として、「ヒューマンエラー/似ている薬品名 ミス誘う」処方する際に間違えて事故を招くケースが相次いでいること、旧厚生省研究班が99年に218病院から看護師が「ヒヤリ」とした事例約1万1千件を集めて分析した結果、名前が似た薬での「体験」がかなりあったことが報告され、日本病院薬剤師会も類似名称医薬品について注意を呼びかけており、例えば「アマリール」と「アルマール」、「サクシン」と「サクシゾン」などが類似として挙げられている(甲第8号証)。
これらは語頭文字が同じで、その後の音韻が類似する例であり、本件商標「カロナール」と「カコナール」は、称呼及び外観において、正にこの例の適例とも言えるものである。
(2)商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
ア.請求人による確認結果及びアンケート調査結果
「カコナール」を取り扱っている薬局、販売店に、「カロナール」を取り扱うことによる誤認混同の可能性を確認、及び同時にアンケート調査を実施した結果、誤認混同を生じるとする確認がなされ、薬剤を調剤する薬局、薬店における誤認混同のおそれは極めて大きいものといわざるを得ない(甲第18号証の1ないし752、第19号証の1ないし896)。
イ.引用商標の周知性
引用商標は、請求人の業務に係る商品「かぜ薬」に付されて使用され、その売上高は、カコナールシリーズとして年間20億円近くを売り上げている(甲第20号証)。
また、上記商品の宣伝活動も、テレビCM放送や販売店へのパンフレット・カタログの提供等によって、全国的に広く広告宣伝活動を行い、その結果として、引用A商標及びその称呼「カコナール」は風邪薬であることが広く認識されるようになったものである。
山之内製薬がこれら広告宣伝活動に要した費用は、1998年が約12億円、1999年が約6.2億円、2000年が10.3億円、2001年が約7.1億円となっており、年度により異なるが、およそ6億円から12億円を投入している(甲第21号証)。
このような取引の実情を総合的に判断するに、引用商標は、「かぜ薬」を表示するためのものとして、この種商品を取り扱う業界における取引者・需要者の間において、広く認識されている周知・著名な商標であるから、これと相紛らわしい本件商標を、その指定商品中の「薬剤」について使用するときには、これらに接する取引者・需要者をして、その商品が請求人の業務に係る商品であるかの如く誤認し、その商品の出所につき混同を生じさせるおそれが充分にあるものといわなければならない。
(3)以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に違反して登録されたものであるから、その登録は無効とされるべきものである。
2 被請求人の答弁に対する弁駁の理由
(1)被請求人は、「本件商標と引用商標より生ずる称呼を全体として比較すれば、両商標ともに二音節風に抑揚をもって発音されるものである。後半部の『ナール』は、長音を伴うことから、これにアクセントがかかるが、『ナ』は鼻音であることから、その前にある『カロ』と『カコ』も強く明瞭に発音され、かつ、これらの語頭部は、明らかに聴者の印象に強く残るものであり、『ロ』と『コ』音の音質の相俟って、両者は十分に聴別できるというべきである」と主張するが、両商標より生ずる称呼は、全体として5音であり、これらは一連として「カロナール」、「カコナール」と称呼されるものである。
そして、「ロ」と「コ」の相違については、それぞれ母音を同じくするものであり、称呼上の類似度が高く、特に通常「ロ」と「コ」の左側に位置する「カ」の文字が右側に縦に伸びる線を有する文字であり、「ロ」と「コ」の外観上の相違が左側の縦に伸びる線の有無の違いであることから、先頭の2文字が近接して書かれた場合に、両商標の綴りを見誤りやすいという外観上の特殊性を有しており、類似度も高いものである。
(2)被請求人は、薬価基準(乙第13ないし第16号証)を証拠として提出し、本件商標「CALONAL/カロナール」の周知・著名性を主張しているが、薬価表は申請して承認を取れば自動的に掲載されるものであり、薬価表に掲載されていること自体は、周知であることの証明とならない。
また、「薬価基準へ収載された医療用医薬品については、そのメーカーは、該当医薬品の提供義務が課される。」旨主張するが、特段の事由がない限り承認されて3ヶ月以内に販売しないといけない、という決まりはあるものの、その後の提供義務が課されるというものではないし、仮に、提供義務があったとしても、そのことと周知性とは全く無関係である。
(3)被請求人は、2005年医療用医薬品データブック(乙第18号証)を提出し、「本件商標が使用された医療用医薬品(解熱鎮痛薬)は、医療用解熱鎮痛薬の分野においては、2003年から2005年において他を圧倒するシェアを誇っている」と主張するが、乙第18号証は、本件商標登録後の平成16年時点の資料であり、本件商標の設定登録時である平成14年時点の事実ではなく、何ら周知性を証明する証拠となるものではない。
(4)被請求人は、「被請求人が販売する『医療用医薬品』は、薬事法上、広告宣伝が禁じられているものである」旨主張するが、同法で制限されているのは、一般消費者に対してのものであり、医療用として専門家向けに宣伝することを禁じているわけではなく、前記記載は不正確であり、現に医療用の業界紙に広告を掲載することは業界において一般的に行われていることであり、医療用医薬品であるからといって広告宣伝を全く行えないという事実はない。
(5)被請求人は、「本件商標『カロナール(英文字では「CALONAL」を使用)』は、昭和30年(1955年)から現在にいたる50年の長きにわたって、『歯科用・医科用の鎮痛剤』の商標として、継続して使用され続け、その結果、『医療用医薬品』の分野における取引者・需要者において、周知・著名商標として十分に熟知されるに至っている」と主張するとともに、「請求人の引用商標『カコナール』が、一般用医薬品である『かぜ薬』に使用され、周知なものとなっているとしても、2005年に至る高々6年程度のものである」と主張するが、周知性と期間とは直接的な関係はなく、周知されているかどうかは需要者を基準として判断するものであり、「カコナール」は風邪薬として需要者をして周知性を獲得しているものである。
そして、風邪薬として比較したときに「カロナール」と「カコナール」が混同するかどうかが問題であって、販売経路が異なるとしても、商標法上、それぞれ同じ薬剤が含まれている区分の権利であることには変わりないものである。
(6)被請求人は、アンケート調査の妥当性に関して、「アンケート調査に対する所見」を提出し、請求人によるアンケート結果等の偏り、不当性を指摘するが、請求人が提出したアンケートは、周知性を確認するものであり、商標法上「薬剤」に分類される風邪薬の需要者、取引者として知っているかどうかを主にしたアンケートである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び上申書において、要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第25号証を提出した。
1 本件商標と引用商標の非類似性
本件商標より生ずる「カロナール」の称呼と、引用商標より生ずる「カコナール」の称呼とは、共に5音構成からなるうち、第1音の「カ」、第3音以降の「ナ」、「ー」、「ル」の4音を同じくし、かつ、第2音の「ロ」音と「コ」音も母音を共通にする音であるところ、該第2音の「ロ」と「コ」は、母音「O」を共通にするものの、前者は「R」を子音とし、舌を軟口蓋につけて発する柔らかい音であるのに対して、後者は「K」を子音として、舌を歯茎に接して発する固い音であり、その音質・語感は明らかに異なる。
また、本件商標の称呼「カロナール」と引用商標の称呼「カコナール」を全体として比較すれば、本件商標は、後半部の「ナール」が長音を含むことから、「カロ/ナール」と二音節風に抑揚をもって発音されるものであるのに対し、引用商標も「カコ/ナール」と二音節風に抑揚をもって発音されるものである。
後半部の「ナール」は、長音を伴うことから、これにアクセントがかかるが、「ナ」は鼻音であることから、その前にある「カロ」と「カコ」も強く明瞭に発音され、かつ、これらの語頭部は、明らかに聴者の印象に強く残るものであり、「ロ」と「コ」音の音質の相俟って、両者は十分に聴別できるというべきである。
特に、本件商標と引用商標は、僅かに4音からなる称呼の短い商標であり、「ロ」と「コ」の音質の差異がこれらの称呼全体に及ぼす影響は大きく、両商標は、十分に聴別できるものである。
なお、請求人は、本件商標と引用A商標とが外観において酷似しており誤認混同を惹起されると主張するが、わが国において、「薬剤」を取り扱う需要者の通常の判断力によれば、「ロ」と「コ」を混同することはあり得ず、かつ、「カロナール」と「カコナール」の称呼の明瞭な相違からも、両商標の「ロ」と「コ」のつづりの相違に容易に気がつくものというべきである。
2 本件商標の周知・著名性
(1)本件商標「CALONAL/カロナール」は、その指定商品「薬剤」に含まれる「医療用の歯科用鎮痛剤」に関して、昭和30年2月10日に薬事法の許可が下り、同年2月20日から販売開始されたものである(乙第15号証)。その後、「医療用の医科用鎮痛剤」としても使用されてきているものである。
(2)わが国における医薬品は、その用途により、医療用医薬品(主として医療機関において使用される医薬品)と、一般用医薬品(一般大衆が自己治療の目的で使用するため薬局等から直接購入する医薬品)に大きく分類されることは周知の事実である。
そして、本件商標「CALONAL/カロナール」は、昭和30年の薬事法による承認後、現在に至るまでの50年以上の長きにわたって、医療用の歯科用鎮痛剤、さらに、医療用の医科用鎮痛剤として継続的に提供され、薬価基準に収載されてきたものである(乙第13ないし第16号証)。
さらに、本件商標が使用された医療用医薬品(解熱鎮痛薬)は、医療用解熱鎮痛薬の分野においては、2003年において販売高21億円、シェア46.7パーセント、2004年において販売高22億円、シェア47.8パーセント、2005年においては販売高23億円、シェア50パーセント(見込み)となっており、当該分野にあって、他を圧倒するシェアを誇っている(乙第18号証)。
なお、本件商標が使用された医療用医薬品「解熱・鎮痛薬」は、平成16年時点におき、日本全国約7万の納入先に及んでいる(乙第24号証)。
(3)請求人は、「引用A商標及びその称呼の周知性」として、引用商標が一般用医薬品(かぜ薬)として、周知・著名になっている証拠として広告宣伝の事実を指摘する。
しかしながら、被請求人が販売する「医療用医薬品」は、薬事法上、広告宣伝が禁じられているものである(乙第25号証:薬事法第67条及び「医薬品等適正広告基準について」第5条(1))。
(4)本件商標の実際の使用例を示すものとして、「歯科用強力カロナールO錠」薬品添付文章(1995年)、「CALONAL/カロナール錠」カタログ(2001年5月)があり、さらに、昭和54年に発行された「現代歯科薬理辞典」に本件商標が紹介されている(乙第7ないし第9号証)。
(5)請求人の引用商標「カコナール」が、一般用医薬品である「かぜ薬」に使用され、よしんば、周知なものとなっているとしても、それは1990年以降、特に2005年に至る高々6年程度のものであり、これに対して、本件商標「カロナール/CALONAL」は、被請求人により、約50年の長きにわたって継続的に使用され、取引者・需要者間において、「医療用解熱・鎮痛剤」として、それ自体、広く認識されるに至っているものである。
よって、かかる観点も相俟って、明らかに、語感・語調の異なる、引用商標「カコナール/CAKONAL」とは、混同するおそれはなく、両商標は、十分に非類似の商標というべきである。
3 請求人によるアンケート結果等の不当性
(1)財団法人知的財産研究所刊行の「知的財産の潮流」(1995年)に掲載された、井上由里子現神戸大学教授の「『混同のおそれ』の立証とアンケート調査」の論文において、「二つの商標を混同すると思うか」を問う質問票について、「アメリカでは、このように混同のおそれを直接に問う質問票が妥当でないことは当然のこととされている」と指摘する。
さらに、その根拠として、「法的知識のない需要者がかかる判断をなすことは困難である。『混同』概念は、法的意味に満ちた概念であり、一口に『混同』といっても、『狭義の混同』、『広義の混同』、『シリーズ商品の混同』等、法的には様々な類型が含まれている。(中略)法律に暗い個々の回答者が、不正確で、しかも各自ばらばらの『混同』概念に基づいて判断するとすれば、いかに回答者の数を重ねたところでその累積である数字には何らの意味がない。」と、明瞭にこのようなアンケート調査の証拠力を否定する。
(2)被請求人は、上記アンケート調査及び結果の妥当性について、アンケート調査に対する専門家であるマーケッティングを専門とする高千穂大学理事・大学院教授の新津重幸氏の鑑定を求めた(乙第20号証)。
同鑑定書によれば、上記調査は、ア.調査対象の選び方の疑問、イ.ブランド認知率調査の手法上の疑問、ウ.アンケート内容、質問文等に関する問題、疑問が明瞭に示されている。このような調査に何らの調査精度も認められないことが明確に述べられている。
4 商標の誤認・混同の判断基準
商標の類否について、最高裁判所は、「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき、誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決するべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって、取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその取引の実情を明かにし得る限り、その具体的取引状況に基づいて判断すべきものである。」と判示する(乙第21号証)。
該判示に照らせば、本件商標が、50年以上の長きにわたり、「医療用医薬品」に継続使用されてきた事実、他方、引用商標が「医療用医薬品」とは全く流通経路の異なる「一般用医薬品(かぜ薬)」に使用されているという事実は、商標の類否判断において十分に考慮されるべきである。
5 結語
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念上類似するものでなく、かつ、両者は誤認・混同するおそれもない。
よって、本件商標は、請求人が主張する商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号のいずれにも違反するものではない。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とすべきである旨主張しているので、以下、これらの点について判断する。
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、上記第1のとおり、「カロナール」の片仮名文字を横書きしてなり、他方、引用商標は、上記第2のとおり、「カコナール」または「CAKONAL」の文字をそれぞれ横書きしてなるものである。
ところで、最高裁判所の昭和39年(行ツ)第110号判決(昭和43年2月27日言い渡し)によれば、「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引の実情に基づいて判断すべきものである。」と判示されている。
(1)本件商標と引用商標の使用の事実について
後述するように、本件商標「カロナール」は、被請求人が医療用医薬品、特に「医療用の医科用・歯科用鎮痛剤」として、昭和30年代から50年以上にわたり使用され、医療用解熱鎮痛薬を取り扱う分野における需要者間には、広く認識されていた商標ということができる。
他方、引用商標も後述のとおり、一般用医薬品中、「かぜ薬」について使用され、相当程度、著名性を獲得していた事実を窺い知ることができる。
また、医療用医薬品と一般用医薬品とは、その需要者及び取引系統を必ずしも同一としない商品であることが認められる。
上記の実情を踏まえ、以下両商標の類否について判断する。
(2)本件商標と引用商標の類否
ア.外観上の類否
まず、本件商標は片仮名文字、引用B商標は欧文字により構成されているから、両者は外観上互いに区別し得るものである。
次に、本件商標と引用A商標について判断するに、両者は、第2文字目において「ロ」と「コ」の相違を有するものであるところ、共に5文字という短い文字構成からなることを考慮すると、通常の注意力を払えば十分区別し得るものとみるのが相当である。
したがって、両者は外観上相紛れるおそれはないものというべきである。
イ.称呼上の類否
両商標はともに5音から構成されているところ、そのうち語頭の「カ」の音と中間から末尾までの「ナ」「ー」「ル」の3音の計4音を共通にし、「ロ」と「コ」の1音において異なる。
「ロ」の音は子音「r」と母音「o」から、「コ」の音は子音「k」と母音「o」からなる綴り音である。
ところで、当該差異音である「ロ」の音は、舌面を硬口蓋に向けて弾くようにして発声される内にこもるような弾音であるのに対して、「コ」の音は、後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発する無声の破裂音であって、両者は、さほど冗長ともいえない音構成のうえ、前記差異音は、前後の「カ」、「ナ」の音が比較的安定した母音「a」であるので、全体として称呼されるときは明かに聴別できるといえる。
そうとすれば、当該差異音が称呼の識別に重要となる語頭に続く第2音に位置するものであることに加えて、発声上のかかる事情と上述の音の差異とを併せ考慮すれば、両商標は、称呼上相紛れることはないとみるのが相当である。
ウ.観念上の類否
両商標はともに、医薬品名というほかは特定の意味合いを生ずることのない造語であるので、観念上直ちに紛らわしいとすることはできない。
エ.その他の類似性について
請求人は、医薬品における引用商標「カコナール/CAKONAL」の具体的な取引状況や類似医薬品名による医薬品の取り違えによる医療事故の事象等を考慮して、商標の類否判断を考えるべきである旨述べているが、本件商標と引用商標とは、前述のとおり、相紛れるおそれのない非類似の商標と認められるものであり、これを類似するものとみなければならない格別の理由は、たとい前記の点や後述のような具体的な取引状況を考慮しても存しないというべきである。
オ.したがって、両商標の間に多少の近似性が存することは否定し得ないとしても、上述した事情を総合勘案すれば、両商標は、外観、称呼及び観念において、互いに相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
2 商標法第4条第1項第10号及び同第15号について
(1)商標法第4条第1項第10号
前記1のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、引用商標が広く需要者に認識されていたか否かについて判断するまでもなく、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するということはできない。
(2)商標法第4条第1項第15号
最高裁判所の平成10年(行ヒ)第85号判決(平成12年7月11日言い渡し)によれば、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る・・・商品と混同を生ずるおそれがある商標」には、「当該商標をその指定商品に使用したときに、当該商品が他人の商品に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして、上記『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品と他人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」と判示されている。
そこで、上記判決を踏まえ、以下、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するか否かについて判断する。
ア.引用商標の著名性について
請求人の提出に係る甲号証を総合判断すると、引用商標は、一般用医薬品中、「かぜ薬」について使用され、相当程度、著名性を獲得していた事実を窺い知ることができる。
イ.本件商標の著名性について
被請求人が販売する医療用医薬品は、一般人を対象とする広告は行うことができない商品であり、一般の消費者が最終消費者ではないことから、本件商標「カロナール」が一般消費者間において広く知られていたものとはいい難いが、請求人の取扱いに係る医療用医薬品中の一つである「医療用解熱鎮痛薬」を表示するものとして、昭和30年より使用されている商標であり、かつ、該商品は、販売開始から現在まで継続的に供給されてきたものであって、「医療用の医科用・歯科用鎮痛剤」を取り扱う分野における需要者間には、広く認識されていた商標ということができる。
ウ.出所の混同のおそれについて
本件商標は、いわゆるペットマークといわれる商標であり、被請求人の取り扱いに係る業務全般を表象する標章ではなく、また、本件商標を使用している商品は、一般の需要者を対象とした商品ではないから、その著名性は、一定の限界があるといわなければならないが、前記イ.のとおり、被請求人の取扱いに係る医療用医薬品中の一つである「医療用解熱鎮痛薬」を表示するものとして、「医療用の医科用・歯科用鎮痛剤」を取り扱う分野における需要者(医師、歯科医師及びその他の医療関係者)においては、広く認識されていたものと推認し得るところである。
また、被請求人の取り扱いに係る「医療用解熱鎮痛薬」の流通経路は、医師により処方され、薬剤師等が需要者(当該疾病患者)に供するものであって、近時では薬剤師により「商品名」、「効能・効果」、「用法・用量」及び注意事項等が説明され、その説明書とともに手渡されれるものであって、一般の薬局・薬店で販売される薬剤とは、自ずとその流通経路を異にするといえる。
そうとすれば、請求人の取り扱いに係る商品「かぜ薬」の商標として、引用商標「カコナール/CAKONAL」が一般需要者に広く知られて周知・著名な商標であるとしても、本件商標は、前記1のとおり、引用商標とは非類似の商標というべきものであり、加えて、被請求人の取り扱いに係る「医療用医薬品」と請求人の取り扱いに係る「一般用医薬品」との関係をも併せ考慮すれば、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者・需要者をして、引用商標を連想又は想起させるものとは認められず、その商品が請求人しくは請求人と何らかの関係を有する者の取り扱いに係る商品であるかの如く、その商品の出所について誤認・混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
なお、請求人は、現在、スイッチOTC薬と呼ばれる、医家向けの医薬品から一般薬への転用が進んで行われるようになり、同一の商品名で販売されるケースもあり、今後更に転用が拡大方向にあるものと予想されることから、現在医家向けに販売されている「カロナール」が一般薬として転用されて販売されるケースも可能性として充分に考えられ、類似する商品について使用した場合には誤認・混同を生じるおそれが極めて高いものとなる旨主張する。
しかしながら、本件商標の登録査定時において、本件商標が一般薬として転用され、販売されている事実が認められない以上、上記請求人の主張は採用することができない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同第15号に違反して登録されたものではない。
3 結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当するものではないから、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2007-02-26 
結審通知日 2007-03-01 
審決日 2007-04-25 
出願番号 商願2001-78195(T2001-78195) 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (Z05)
T 1 11・ 26- Y (Z05)
T 1 11・ 271- Y (Z05)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 久我 敬史
小林 和男
登録日 2002-07-19 
登録番号 商標登録第4587409号(T4587409) 
商標の称呼 カロナール 
代理人 秋山 敦 
代理人 熊倉 禎男 
代理人 大島 厚 
代理人 中村 稔 
代理人 城田 百合子 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 松尾 和子 
代理人 秋山 敦 
代理人 城田 百合子 
代理人 東谷 幸浩 

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