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審決分類 |
審判 全部無効 称呼類似 無効としない Z33 審判 全部無効 観念類似 無効としない Z33 |
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管理番号 | 1155456 |
審判番号 | 無効2005-89132 |
総通号数 | 89 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2007-05-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-10-07 |
確定日 | 2007-03-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4428733号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4428733号商標(以下「本件商標」という。)は、「くつろぎ」の文字を標準文字により表してなり、平成11年12月1日に登録出願され、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として平成12年10月27日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が引用する登録第1667539号商標(以下「引用商標」という。)は、「寛」の文字を毛筆風に書してなり、昭和56年6月22日に登録出願、第28類「酒類」を指定商品として昭和59年3月22日に設定登録され、その後、平成6年9月29日及び同15年10月7日の2回に亘り商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成16年1月28日に指定商品を第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」とする書換登録がされているものである。 第3 請求人の主張の要点 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第26号証(枝番を含む。)を提出している。 1 本件商標と引用商標との対比 (1)称呼について 本件商標は、「くつろぎ」の標準文字からなり「クツロギ」の称呼が生じるのは明らかであるのに対し、引用商標は、「寛」の文字からなり「カン、ヒロシ、クツロギ」の称呼が生じる。 ここで「寛」の文字から「クツロギ」の称呼が発生することは、甲第3号証に示す新編大言海、並びに甲第4号証に示す修訂大日本国語辞典(新装版)及び甲第5号証に示す広辞苑(第二版補訂版・第三版)の「くつろぎ|寛|」の記載からも明らかである。 しかも、権利者は「寛=くつろぎ」として商標権取得を希望し、広辞苑にて「くつろぎ|寛|」の記載を確認した上で出願を行い、権利取得後「寛」の文字に「くつろぎ」の称呼を併記して使用をしている(甲第6号証)。 なお、第四版以降の広辞苑の記載は「くつろぎ|寛ぎ|」と改訂されているが、これは昭和48年6月18日内閣告示第二号(昭和56年10月1日内閣告示第三号により一部改正)により、送り仮名の付け方が示され、通則4で「活用のある語から転じた名詞は、もとの語の送り仮名の付け方によって送る。」とされたことによるものと推察する(甲第7号証)。しかし、依然として「寛」の文字から「クツロギ」の称呼が発生することは何ら変わりない。 このことは、甲第8号証で示す審決例からも明らかである。すなわち、引用商標と同じく活用のある語から転じた名詞である「極み」の語の、送り仮名「み」がない「極」という商標と、「きわみ」の文字を有する商標が称呼上類似するとされている。 さらに、名詞である「漢字1文字」と「その漢字の読みの平仮名」において、同一の称呼が発生することは、甲第9号証に示す商標登録第3027194号商標「輝」と甲第10号証に示す商標登録第3040596号商標「かがやき」が、平成4年のサービスマーク登録制度導入に伴う特例による重複登録商標であることからも明らかである。 また、「くつろぎ」の語は、動詞「くつろぐ(寛)」の連用形の名詞化したものであるが(甲第11号証に示す日本国語大辞典(縮刷版)の記載より)、動詞の連用形の名詞化した語としてこの他に「しらべ」(動詞「しらべる(調)」)、「あそび」(動詞「あそぶ(遊)」)がある。 そして、これら動詞の連用形の名詞化である語の称呼が、元の動詞である漢字から生じることは、甲第12号証に示す日本国語大辞典(第二版)の記載からも明らかである。 なお、このことは以下の甲第13及び第14号証で示す特許庁ホームページの商標出願・登録情報検索の情報からも推察できる。 すなわち、 ア 甲第13号証に示す商標登録第2413397号商標は「調」の文字からなり、その動詞「調」の連用形の名詞化である「シラベ」の称呼が生じている。 イ 甲第14号証に示す商標登録第3261246号商標は「遊」の文字からなり、その動詞「遊」の連用形の名詞化である「アソビ」の称呼が生じている。 したがって、本件商標と引用商標の称呼はともに「クツロギ」で同一である。 (2)観念について 本件商標「くつろぎ」の語は、「くつろぐこと。気持ちが落ち着いて、ゆったりとしていること」(甲第15号証)、「のびのびすること。ゆったりとした気分になること。また、そういう気分」(甲第11号証)という意味内容を有する。 これに対し、引用商標「寛」の語は、「心がゆったりとしてゆとりがある。度量が豊か。ゆるい。ゆるやか。また、のびやか。おだやか。ゆるやかにする。ゆるめる。許す。また、いつくしむ。くつろぐ。のんびりする。」(甲第16号証)、「ひろびろとしてゆとりがある。ゆったりしている。おおまか。くつろぐ」(甲第17号証)という意味内容を有する。 したがって、本件商標と引用商標の観念は、語の持つ意味内容からともに「ゆったりしている様、くつろぐこと」という観念が想起され、同一又は類似である。 (3)指定商品について 本件商標と引用商標の指定商品は、「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」で同一である。 以上のことから、本件商標と引用商標とは、称呼及び指定商品が同一で、観念が同一又は類似していることから相類似する商標であることは明らかである。 2 結び 以上のように、本件商標は、引用商標と類似であるにも関わらず商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。 3 弁駁の理由 (1)被請求人は本件商標と引用商標が非類似の商標であって商標法第4条第1項第11号に該当しないと主張しているが、以下の理由により認められない。 (2)まず、被請求人は引用商標が「寛」一文字で送り仮名が付されたものではないことから、その称呼は「カン」のみに限られ、本件商標とはその称呼が非類似であると主張し、その証拠として乙第1及び第2号証を提出している。 確かに、被請求人が挙げる「常用漢字表」(乙第1号証の1)、「当用漢字改定音訓表」(乙第2号証の2)には「カン」としか記載はない。しかし、「常用漢字表」の前書き(甲第18号証)及び「当用漢字改定音訓表」の前文(乙第2号証の1)には、「漢字使用の目安を示すもの」との記載があり、商標の称呼は各表に記載されている読み方しか出ず、「寛」の称呼が「カン」のみであるとする証拠にはならない。 このことは、以下の登録例からも明らかである。 ア 「想」は「ソウ」「ソ」としか記載されていないが、登録第1049642号は「オモイ」(想い)の称呼が記載されている(甲第19号証)。 イ 「活」は「カツ」としか記載されていないが、登録第1994519号、登録第4460247号には「イキ」(活き)の称呼が記載されている(甲第20号証)。 また、「過去の著作や文書における漢字使用を否定するものではない」との記載がある。そして、甲第4及び第5号証から明らかなように、改定以前は「くつろぎ|寛|」として辞書に記載されている。このことからも、各表に記載のないことをもって、「寛」の称呼が「カン」のみとする証拠にはならない。 しかも、乙第3号証(改定後の広辞苑)には、「寛の御衣」<くつろぎ-の-おんぞ>「寛殿」<くつろぎ-どの>の記載があり、現在でも「寛」より「クツロギ」の称呼が発生することは明らかである。 さらに、「この表は、科学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の標記にまで及ぼそうとするものではない」、「運用に当たっては、個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地のあるものである」との記載もある。そして、商標の称呼については、需要者すなわち、商標に接する者があらゆる読み方をすることは経験則から明らかである。したがって、考えられるすべての読みを想定して判断すべきものであり、各表に記載のないことをもって、「寛」の称呼が「カン」のみとする証拠にはならない。 そして、送り仮名が付されたものではないことから、その称呼は「カン」のみに限られるとあるが、先に述べたとおり改定以前は「くつろぎ|寛|」として辞書に記載されており、かつ現在でも「寛の御衣」<くつろぎ-の-おんぞ>「寛殿」<くつろぎ-どの>の記載があることから、「寛」一文字でも「クツロギ」の称呼は発生する。 したがって、送り仮名が付されていないから「カン」の称呼しか発生しないという被請求人の主張は認められない。このことは、甲第8号証の審決からも明らかである。 しかも、送り仮名の付されていない漢字一文字である「輝」「極」「調」「遊」の文字が、「かがやき」「きわみ」「しらべ」「あそび」と類似であることは、被請求人も認めているところである。 なお、送り仮名の付されていない漢字一文字の称呼に送り仮名を含んでいる例として以下の登録例もある。 ア 「愛」について「メデル」(愛でる)の称呼を記載(甲第21号証) イ 「囲」について「カコイ」(囲い)の称呼を記載(甲第21号証の1、甲第22号証) ウ 「隠」について「カクレ・カクシ」(隠れ・隠し)の称呼を記載(甲第23号証) したがって、送り仮名が付されたものではないことから、その称呼は「カン」のみに限られ、本件商標と引用商標とはその称呼が非類似であるとの被請求人の主張は認められない。 (3)次に、被請求人は引用商標が「寛」一文字で送り仮名が付されたものではないことから、称呼が「カン」のみに限られ、その観念は「ひろい」程度であり、引用商標と本件商標とは観念が異なることから両商標は非類似であると主張し、その証拠として乙第3号証を提出している。 しかし、審判請求時に提出した漢和辞典、漢語辞典(甲第16及び第17号証)からも明らかなように、寛の文字は「ひろい。ゆるやか。くつろぐ。」等の意味を有しており、被請求人もこのことは認めている。 そして、上記のとおり、「寛ぎ」と送り仮名が付されていなくとも「クツロギ」の称呼は発生する。 したがって、引用商標の観念が「ひろい」程度であって、本件商標と引用商標は観念の相違する非類似商標であるとの被請求人の主張は認められない。 なお、被請求人は「寛|カン」の観念が「ひろい」程度である理由として「寛大」「寛容」等の熟語を挙げているが、同じく「寛」の漢字を有する以下の熟語は「くつろぐ」の観念を含んでいる(甲第16号証)。 ア 寛仮<カンカ>…ゆるい。またゆるやかにする。くつろぐ。 イ 寛窄<カンサク>…広いことと、狭いこと。広狭。くつろぐことと、窮屈なこと。 したがって、「寛|カン」からは「くつろぐ」の観念も生じる。このことからも、「寛」の称呼・観念は「カン」に限定され、両商標は非類似であるとの被請求人の主張は認められない。 (4)この他、被請求人は漢字一文字からなる商標については、「常用漢字表」の表示によりその称呼を特定し、その称呼をもって取引にあたるとするのが自然であると主張し、その証拠として乙第4ないし第8号証を提出している。 しかし、これら証拠は以下に述べるとおり、その証拠とならず、被請求人の主張は認められない。 ア 被請求人が挙げる審決例(乙第4号証)は、「潤」で「ウルオイ」と訓読みするのみではなく、常用漢字表から「ジュン」とも音読みするとされた例であり、「ウルオイ」の称呼も発生すると判断された審決である。 つまり、称呼は「常用漢字表」に記載された読み方のみに限られないという証拠であり、「寛」より「クツロギ」の称呼が発生することは明らかである。 イ 被請求人が挙げる審決例(乙第5号証)は、その外観が、漢字1文字の「訓」と、漢字2文字の「遺訓」という差異を有し、その観念も「教えること。教育。教える事柄。教訓。教養。」と「故人ののこした教え。」(広辞苑第5版)という相違があり、本件審判とは具体的な事例を異にするものであるため、本件商標と引用商標が非類似である根拠とならない。 ウ 被請求人は漢字一文字の商標と、常用漢字表には無い当該漢字の訓読みからなる商標の並存登録例として、「癒」(乙第6号証)と「いやし」(乙第7号証)を挙げている。 しかし、乙第7号証は先登録である「HEALING MINERAL/ヒーリング ミネラル/癒」(登録第4276026号)を根拠に商標法第4条第1項第11号で拒絶査定されており、その後拒絶査定不服審判(不服2003-6525)にて抵触する商品を削除補正することにより登録されている経緯がある(乙第7号証及び甲第24号証)。 つまり、同じ「癒」の文字からなる登録第4086418号(乙第6号証)は、本来「いやし」(乙第7号証)と類似する先登録商標であって、「いやし」(乙第7号証)が並存登録されたことは不可解であり、本件商標と引用商標が非類似である根拠とならない。さらに、このことは、漢字一文字の「癒」から「イヤシ」の称呼が発生する証拠でもある。 したがって、同じく漢字一文字の「寛」から「クツロギ」の称呼が発生することは明らかである。 エ 被請求人は、特許庁「電子図書館」の商標出願・登録情報の称呼の欄(乙第8号証)に「カン、ヒロシ」のみが記載されており、この内「ヒロシ」の称呼は人名として「寛(ひろし)」から認定されていると主張する。つまり、裏をかえせば、「寛」より「クツロギ」の称呼はでないとの主張であると考える。 しかし、これは、「常用漢字表」及び「当用漢字改定音訓表」に記載のない読み方以外の称呼も発生する証拠であって、「寛」の称呼が「カン」のみであり本件商標と引用商標が非類似である根拠とならない。 このことは、特許庁「電子図書館」の商標出願・登録情報の称呼の欄に「常用漢字表」及び「当用漢字改定音訓表」に記載のない読み方の称呼が記載されている以下の登録商標からも明らかである。 (ア)「活」という同一の商標(漢字一文字)で出願人も同一である商標が、その称呼欄に登録第1994519号では「カツ、イキ」と記載され(甲第20号証の2)、登録第2294475号では「カツ」とのみ記載されている(甲第25号証)。 (イ)「英」という同一の商標(漢字一文字)が、登録第2116137号では「エイ、ハナブサ」と記載され、登録第3202861号では「ハナブサ、エイ、ヒデ」、登録第4855905号では「エイ、エー、ハナブサ、ヒデ」と記載されている(甲第26号証)。 これらは、同じ「漢字一文字」の商標であるにもかかわらず、特許庁「電子図書館」の商標出願・登録情報に記載された称呼が異なっている。すなわち、商標の称呼は「常用漢字表」及び「当用漢字改定音訓表」に記載された称呼のみであり、かつ特許庁「電子図書館」の商標出願・登録情報に記載のない称呼は発生しないというのであれば、これらの登録商標は同じ漢字(商標)でありながらその権利範囲が異なるという事態を招くこととなる。 このことからも、「寛」より「クツロギ」の称呼は発生することは明らかである。 (5)結論 以上のとおり、本件商標は引用商標と類似するものと判断されるべきである。よって、本件商標と引用商標とが非類似であるとの請求人の主張には、理由がない。 第4 被請求人の答弁の要点 被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第8号証(枝番を含む。)を提出している。 1 本件商標と引用商標との類否について (1)本件商標は「くつろぎ」の標準文字よりなるのに対し、引用商標は「寛」の文字を毛筆体で書してなるものである。 (2)そこで、まず本件商標と引用商標との外観について比較すると、上記のとおりの構成からなる本件商標と引用商標は、外観構成上著しく相違し、相紛れるおそれのない非類似の商標である。 (3)次に、本件商標と引用商標との称呼について比較すると、本件商標は上記のとおり「くつろぎ」の標準文字よりなる商標であり、その構成文字から「クツロギ」 の称呼が生じるものである。 これに対し、引用商標は、上記のとおり「寛」の一文字のみからなる商標で、特に送り仮名が付されたものではないことから、「カン」との音読みの称呼が生じ、かつこれに限られるものである。 このことは、一般の社会生活で使用する漢字の目安となる「常用漢字表」(昭和56年10月1日内閣告示)において、「寛」の文字に「カン」の読みだけが表示されていることからも明らかである(乙第1号証の1)。 なお、「当用漢字改定音訓表」(昭和47年6月28日内閣告示)(乙第2号証)においても、「寛」の文字には、「カン」の読みだけが付されている(乙第2号証の2)。 そこで、本件商標の「クツロギ」の称呼と、引用商標の「カン」の称呼とを比較すると、これらは著しく相違し、明確に区別して聴取されるものであるから、本件商標と引用商標は、その称呼においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。 付言すると、請求人の引用する「輝」、「極」、「調」及び「遊」の文字については、上述の「常用漢字表」及び「当用漢字改定音訓表」において、それぞれの音読み「キ」、「キョク」、「チョウ」、「ユウ」 に加えて、「かがやーく」、「きわーめる」、「しらーべる」、「あそーぶ」の訓読みがそれぞれ表示されていることから、先の審決例、重複登録例及び特許電子図書館商標出願・登録情報における称呼の認定にあるとおり、これら漢字一文字からなる商標とそれぞれの訓読みからなる商標とは類似するものであり、本件とは事情を異にする例であると考える(乙第1号証の2ないし4、乙第2号証の3ないし6)。 (4)さらに、本件商標と引用商標から生じる観念についてみると、本件商標は、「くつろぐこと。余裕。」を意味する語であることから(乙第3号証)、そのような観念が生じるものである。 これに対し、引用商標である「寛」の文字は、漢和辞典によれば、「ひろい。ゆるやか。くつろぐ。」等の意味を有するものではあるが、上述のとおり、送り仮名が付されていない「寛」の一文字であり、「カン」の称呼のみが生じるものであることから、「寛大」、「寛容」等の親しまれた熟語を想起し、上記の意味合いの内「ひろい」程度の観念が自然に生じるものと考える。 そこで、本件商標の「くつろぐこと。余裕」の観念と、引用商標の「ひろい」の観念とを比較すると、両者は明確に区別して認識されるものであり、本件商標と引用商標とはその観念においても、相紛れるおそれのない非類似の商標である。 2 漢字一文字からなる商標の称呼について 上述のとおり、漢字一文字からなる商標については、一般の社会生活で使用する漢字の目安とする「常用漢字表」の表示により、その称呼を特定し、その称呼をもって取引にあたるとするのが自然であるが、このことは、次の審決例からも明らかである。 ア 昭和58年審判第20587号審決(乙第4号証) 「潤」の文字からなる商標について、「ジュン」の称呼が生じるとした例 イ 不服2002-5222号審決(乙第5号証) 「訓」の文字からなる商標からは、「オシエ」の称呼は生じないとした例 また、本件商標と引用商標の関係と同様に、漢字一文字の商標と、常用漢字表には無いその漢字の訓読みからなる商標が、指定商品において相抵触するにもかかわらず、ともに登録を受け、有効に存続している例として、登録第4086418号商標「癒」(乙第6号証)と登録第4743928号商標「いやし」(乙第7号証)がある。 さらに、特許庁「特許電子図書館」商標出願・登録情報において、引用商標については、「カン」及び「ヒロシ」の称呼が生じるとされている(乙第8号証)。この内、「ヒロシ」の称呼は、我が国において「寛」の文字が人名としてよく使われる文字であり、「寛(ひろし)」との名前が非常に親しまれたものとなっていることから、認定されたものと考える。 これらのことからも、上記の被請求人の主張が正当であることは明らかである。 3 結論 以上のとおり、本件商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念において相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、その指定商品において、同一又は類似の商品に使用するものとしても、かかる本件商標は、商標法第4条第1項第11号には該当しないものである。 よって、本件審判請求は成り立たない。 第5 当審の判断 本件商標と引用商標との類否について、先ず、両者から生ずる称呼について検討する。 本件商標は、上記1のとおりの構成からなるところ、その構成文字に相応して「クツロギ」の称呼を生ずることは明らかであり、この点については当事者間に争いはない。 他方、引用商標は、上記2のとおりの構成からなるところ、これから「クツロギ」の称呼を生ずるか否かについては当事者間に争いがある。 一般に、商標の類否の判断は、当該商標が使用される商品の一般的な需要者の平均的な注意力を基準にし、取引の実情を考慮して行われるべきであるから、称呼上の類否の対象となる称呼は、取引の実際において、当該商標に接する上記需要者によってどのように称呼されるのが自然であるかにより判断されるべきである。 これを本件についてみると、引用商標を構成する「寛」の文字については、一部の国語辞典には「くつろぎ」の見出と共に「寛」の文字が表示されているものの(甲第3ないし第5号証)、他の国語辞典では「くつろぎ」の見出と共に「寛ぎ」と送り仮名を付して表示されている(甲第15号証及び乙第3号証)。さらに、一般の社会生活で使用する漢字の目安となる「常用漢字表」や「当用漢字改訂音訓表」においては「寛」の文字に対して「カン」の読みが表示されている(乙第1及び第2号証)。また、「寛」の文字は人名としてもしばしば用いられるものであり、多くは「ヒロシ」と読まれる(甲第16及び第17号証)。そして、引用商標の指定商品の需要者は、一般的な社会人というべき者であって、殊更、漢字に精通している者のみという訳でもなく、引用商標が常に「クツロギ」と称呼されるものとして広く認識されているというような格別の事情も見出せない。 そうすると、引用商標を構成する漢字1字の「寛」については、「カン」又は「ヒロシ」と読まれるのが自然であり、送り仮名「ぎ」が付されて初めて「クツロギ」と称呼されるというべきである。したがって、引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生ずるというのが相当である。 しかして、本件商標から生ずる「クツロギ」の称呼と引用商標から生ずる「カン」又は「ヒロシ」の称呼とは、それぞれの構成音が著しく相違し、全体の音感音調が明らかに異なり、明瞭に区別し得るものである。 次に、両商標から生ずる観念についても両当事者間に争いがあるので、検討するに、本件商標は、その構成文字に相応して「くつろぐこと、余裕」の観念を生ずるのに対し、引用商標は、上記のとおり、送り仮名がなく「クツロギ」とは称呼されないことから、これに接する取引者・需要者が、直ちに「くつろぐこと、余裕」の観念を想起するようなことはなく、むしろ、「寛大」、「寛容」、「寛厳」といった熟語ないしは人名としての「寛(ひろし)」を想起するというのが自然である。 そうすると、本件商標と引用商標とは、観念においても相紛れるおそれはない。 さらに、本件商標と引用商標とは、それぞれの構成に照らし、外観上判然と区別し得る差異を有するものといえる。 してみれば、本件商標と引用商標とは、称呼、観念及び外観のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべき限りでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-09-29 |
結審通知日 | 2006-10-05 |
審決日 | 2006-10-17 |
出願番号 | 商願平11-110552 |
審決分類 |
T
1
11・
263-
Y
(Z33)
T 1 11・ 262- Y (Z33) |
最終処分 | 不成立 |
特許庁審判長 |
高野 義三 |
特許庁審判官 |
井岡 賢一 中村 謙三 |
登録日 | 2000-10-27 |
登録番号 | 商標登録第4428733号(T4428733) |
商標の称呼 | クツロギ |
代理人 | 鳥居 和久 |
代理人 | 鎌田 文二 |
代理人 | 東尾 正博 |
代理人 | 杉本 勝徳 |