• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
管理番号 1155330 
審判番号 無効2005-89114 
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-07 
確定日 2007-03-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4814800号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4814800号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4814800号商標(以下「本件商標」という。)は、「鈴屋国際」の文字を標準文字で表してなり、平成16年4月15日に登録出願、第25類「被服,洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子」を指定商品として、同16年10月7日に登録査定がなされ、同年10月29日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
請求人が本件商標の登録の無効に引用した商標は、以下の12件である。
(1)引用登録第4252518号商標(以下「引用商標1」という。)は、平成10年2月12日に登録出願、「鈴屋」の漢字と「suzuya」の欧文字とを二段に併記してなり、第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同11年3月19日に設定登録されたものである。
(2)同登録第4360076号商標(以下「引用商標2」という。)は、平成10年11月24日に登録出願、別掲(1)のとおりの構成よりなり、第18類及び第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同12年2月10日に設定登録されたものである。
(3)同登録第4317341号商標(以下「引用商標3」という。)は、平成10年9月10日に登録出願、「株式会社 鈴屋」の漢字と「SUZUYA CO LTD」の欧文字とを二段に併記してなり、第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同11年9月24日に設定登録されたものである。
(4)同登録第1293128号商標(以下「引用商標4」という。)は、昭和49年1月16日に登録出願、「鈴屋」の漢字を横書きしてなり、第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同52年8月15日に設定登録されたものである。
(5)同登録第1728553号商標(以下「引用商標5」という。)は、昭和49年12月24日に登録出願、別掲(2)のとおりの構成よりなり、第22類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同59年11月27日に設定登録されたものである。
(6)同登録第1247031号商標(以下「引用商標6」という。)は、昭和49年1月16日に登録出願、「鈴屋」の漢字を横書きしてなり、第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同52年2月7日に設定登録されたものである。
(7)同登録第1258851号商標(以下「引用商標7」という。)は、昭和49年1月16日に登録出願、「鈴屋」の漢字を横書きしてなり、第18類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同52年3月14日に設定登録されたものである。
(8)同登録第4301647号商標(以下「引用商標8」という。)は、平成10年2月12日に登録出願、別掲(3)のとおりの構成よりなり、第3類、第14類、第16類、第18類、第21類及び第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として同11年8月6日に設定登録されたものである。
(9)同登録第3141647号商標(以下「引用商標9」という。)は、平成4年4月20日に登録出願、別掲(4)のとおりの構成よりなり、第37類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として同8年4月30日に設定登録されたものである。
(10)同登録第3102824号商標(以下「引用商標10」という。)は、平成4年4月20日に登録出願、別掲(4)のとおりの構成よりなり、第40類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として同7年12月26日に設定登録されたものであるが、同17年12月26日に存続期間満了により、その抹消の登録が同18年9月6日になされている。
(11)同登録第3096565号商標(以下「引用商標11」という。)は、平成4年4月20日に登録出願、別掲(4)のとおりの構成よりなり、第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として同7年11月30日に設定登録されたものであるが、同17年11月30日に存続期間満了により、その抹消の登録が同18年8月9日になされている。
(12)同登録第3310953号商標(以下「引用商標12」という。)は、平成4年4月20日に登録出願、別掲(4)のとおりの構成よりなり、第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務を指定役務として同9年5月23日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第163号証を提出している。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同第7号、同第8号、同第10号、同第11号及び同第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
(1)請求人及び引用各商標の著名性
請求人は、明治42年6月に鈴木房吉により、東京・上野で肌着の仕立て直しや雑貨販売の鈴木屋として創業された。昭和26年3月30日に「株式会社鈴屋」として法人化され、その後、業態を女性用被服、衣料用小物類などのデザイン・企画並びにこれらの商品の製造販売を業とするアパレルメーカーに転換し、商号の一部でもある「鈴屋」及び「SUZUYA」ブランドは、請求人の大手婦人服専門店を表示するものとして、また請求人の業務に係る商品を表示するものとして、日本国内において確固たる地位を築き上げてきた(甲第14号証及び甲第84号証)。また日本国内ばかりでなく、昭和46年5月のパリ・シャンゼリゼ店オープンの後、昭和48年のサンジェルマン店、香港店等のオープンにより、海外においても広く知られ、その商品には高い信用が形成されているものである(甲第14号証)。
昭和51年には、請求人は東京・青山に複数店舗からなるファッションビル「青山ベルコモンズ」を開店(現在は第三者により所有されている。)し、婦人服専門店として、ファッション業界をリードするポジションを維持し続けてきた(甲第15号証ないし甲第65号証)。そして、請求人の動向や請求人の当時代表取締役社長(現会長)であった鈴木義雄氏のコメントは、被服業界において常に注目されるものであり、日本繊維新聞、センイジャアナル、繊研新聞等の業界紙及び一般紙には、「鈴屋」の名称は絶え間なく掲載されていた(甲第30号証ないし甲第65号証)。
最盛期である平成5年の請求人の関連会社(「鈴屋」グループ)の年間売上高は約692億円、平成6年度は約649億円、平成7年度は約507億円である。また、請求人は繊研新聞において毎年公表される衣料専門店ランキング上、第3位の地位を度々獲得する程の婦人服専門店のランキング常連企業であり(甲第15号証ないし甲第17号証)、長年にわたり婦人服専門店業界をリードし続け、請求人、鈴丹(愛知県名古屋市)及び三愛(東京都)の三社を「名門3S」又は「御三家」とする表現が存在するほどであった(甲第65号証及び甲第67号証)。
その後、個人消費の低迷と海外製品の輸入増加などによる価格破壊現象と並行する形で、請求人の売上は減少傾向をたどることとなり、業績の悪化により、請求人は平成9年2月和議申請を行った。婦人服専門店として需要者及び取引者に著名であった請求人が、和議申請を行ったという事実は広く報じられ、また、申請前においても、再建策について新聞記事に取り上げられるほど、請求人は注目を浴び続けた(甲第63号証ないし甲第67号証)。 そして、請求人が和議申請を行った平成9年には、量販店のヤオハンジャパン、婦人服のオオコシ等、大型量販店及び婦人服関連企業の倒産が相次いだことから、平成9年当時の婦人服の企業の業績悪化が相次いだという景気動向について報じられるたびに、その例として、婦人服専門店の老舗として著名であった請求人の和議申請の話題が取り上げられ、「鈴屋」の名前は引き続き注目された。即ち、請求人は、その業績が好調であっても、悪化した場合であっても、常に婦人服業界の老舗として注目を浴びる存在であるといえ、その長い歴史から蓄積された商品に対する信用や、「鈴屋」及び「SUZUYA」ブランドの著名性は顕著なものである。
また、平成9年以降は、老舗大手婦人服専門店の企業再編事例として注目を浴びることとなるが、平成9年以降も繊研新聞の全国専門店ランキングに請求人の名前は掲載され続け(甲第19号証ないし甲第26号証)、営業黒字に転換したことも新聞記事となった(甲第92号証)。そして、請求人の継続した企業努力の結果、現在、請求人は日本全国に73店舗の店舗数を有し、売上高が約110億円(平成15年度、甲第24号証)と業績回復の路を辿るものである。すなわち、請求人の「鈴屋」及び「SUZUYA」ブランドは依然、被服業界においてその著名性を失ってはおらず、その商品にも高い信用が形成され続けているものである。
これらの事実は、本件商標登録出願前に刊行された各種刊行物により、請求人の動向や請求人に関する記事が数多く紹介されていることからも明らかである(甲第15号証ないし甲第94号証)。
以上のことから、婦人服業界においては「鈴屋」若しくは「SUZUYA」関連の商標といえば、請求人を出所とする商品又は役務についての商標であると、需要者及び取引者において広く認識されていたものといえ、本件商標の登録出願当時の2004(平成16)年においても、すでに請求人が自らのブランドとして婦人服等のファッションに関係する商品に使用する引用各商標「鈴屋」及び「SUZUYA」は、請求人の商標として極めて広く知られていた商標であるというべきである。
(2)本件商標と引用各商標の類否について
本件商標は、「鈴屋国際」という4文字の漢字により構成される外観を持ち、「鈴屋」の文字は、婦人服専門店として著名な請求人の引用各商標「鈴屋」の文字部分と同一の構成である。
また、本件商標を構成する文字のうち「国際」は、一般的に企業が国際的に業務を行っていることを示唆する言葉であって、商標としての識別性が弱い語であり、ともに構成される言葉(本件の場合「鈴屋」)を要部として強調するものである。即ち、本件商標に含まれる「国際」という日本語は、英語に置き換えると「インターナショナル」に相当することは一般的によく知られている(甲第139号証)。そして、本件商標の指定商品の分野である被服業界においては、もともと採用していた屋号に「インターナショナル」を付し、商号として使用している企業は少なくないのが事実であり、例えば「株式会社サンエーインターナショナル」「東レインターナショナル」「ナルミヤインターナショナル」「トリンプインターナショナルジャパン」「ヤマトインターナショナル株式会社」「アオキインターナショナル」等がある(甲第140号証)。
また、「○○インターナショナル」若しくは「○○International」との構成の登録商標が、本件商標の指定商品と同一の区分(第25類)に多数登録されており(甲第141号証)、この事実からも、被服業界において「○○インターナショナル」という商標は多数使用される傾向にあることが看取できる。
よって、本件商標の指定商品の関連分野において「国際」若しくは「インターナショナル」という言葉を含む商標を見て、「国際」若しくは「インターナショナル」以外の部分についてが、その表示を他の表示と識別する部分(すなわち要部)となっていることが通例であるといわざるを得ない。
このような「国際」若しくはその英語である「インターナショナル」という言葉を含む結合商標の、本件商標の指定商品である被服関連分野における上記事情を鑑みると、本件商標の要部は「鈴屋」であるというべきである。 そうすると、本件商標の「鈴屋」部分からは、婦人服業界において著名な請求人若しくは引用各商標を想起させる観念が生ずることが必定である。
さらに本件商標の要部は上述のごとく「鈴屋」の部分であるといえるので、本件商標からは「スズヤコクサイ」という称呼のほか、「スズヤ」の称呼をも生ずるというべきである。
一方、引用各商標は、その構成中に「鈴屋」の漢字及び「SUZUYA」等の文字部分より「スズヤ」の称呼を生じること明らかである。
してみれば、本件商標と引用各商標は、「スズヤ」の称呼及び「鈴屋」の観念及び外観において類似する。
(3)商標法第4条第1項第15号
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の判断基準につき、最高裁は「『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべきである。」のように判示している(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決、甲第144号証)。
以下、上記判断基準に照らし、本件商標が請求人若しくはその関連会社の取り扱い業務に係る商品、または、経済的、組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかの如く誤認され、その商品の出所について混同を生ずるおそれがある点について検討する。
(ア)本件商標と引用各商標の類似性の程度
本件商標「鈴屋国際」のうち「国際」部分については、前述のとおり、商標としての識別性が弱い語であり、ともに構成される言葉(本件の場合「鈴屋」)を要部とする商標である。一方、引用各商標は「鈴屋」又はその欧文字表記である「SUZUYA」の文字を有する商標であり、両商標からは「スズヤ」の称呼が生じ、外観においても「鈴屋」と共通する文字を有する商標である。そして観念上においても、本件商標の指定商品の分野における請求人及び引用各商標の著名性を考慮するに、本件商標の要部及び引用各商標からは、婦人服専門店として著名な請求人を想起させるという共通の観念を有するというべきである。したがって、本件商標と引用各商標は互いに類似する商標であるというべきである。
(イ)引用各商標の周知著名性の程度
引用各商標の著名性については、請求人が明治42年に創業され、昭和26年から「株式会社鈴屋」の商号を使用している老舗の婦人服専門店として、広く知れ渡っているということは上述のとおりである。請求人は平成9年に和議申請をしたが、それ以後も、継続的な努力によって「鈴屋」及び「SUZUYA」ブランドの婦人服業界における著名性を維持しており、その商品にも高い信用が形成され続けている。
(ウ)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
本件商標の指定商品は上記のとおり、第25類の「被服等」であり、一方、引用各商標のうち、引用商標1ないし3は、本件商標と同一の指定商品を含むものである。また、引用商標4ないし12においても、その指定商品又は役務は請求人の業務の範疇であり、請求人は、婦人服専門店の老舗として著名であるため、本件商標の指定商品である被服等と需要者及び取引者を共通にするものである。
さらに、これら商品は、大型スーパーマーケットにおいて販売されていることが発見されており(甲第146号証及び甲第147号証)、近年の大型スーパーマーケットには、あらゆる年代の需要者が訪れ、買い物を楽しむことが通常であるといえる。
よって本件商標と引用各商標の需要者及び取引者が共通することは明らかであり、本件商標がその指定商品に使用されると、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。
(エ)その他取引の実情
「国際」若しくはその英語である「インターナショナル」という言葉を含む結合商標の事情と、本件商標の指定商品である被服関連分野の上記事情を鑑みると、本件商標の要部は「鈴屋」であるというべきであり、本件商標が常に一体で「鈴屋国際」とのみ把握されるとの主張を裏付ける事実は何ら存在しない。そうすると、本件商標の要部である「鈴屋」部分からは、婦人服業界において著名な請求人若しくは引用各商標を想起させる観念が生ずることが必定であり、本件商標をその指定商品に使用すると、商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるものといわざるを得ない。
(オ)小括
以上のように、本件商標は、我が国において「婦人服」等の商品に関して著名な引用各商標「鈴屋」を含み、また引用各商標を容易に想起させるものというべきであり、指定商品の関連性等の具体的事情を考慮すると、本件商標がその指定商品に使用された際には、これに接する取引者・需要者は、恰も請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何等かの関係がある者の業務にかかる商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当し、無効にすべきものである。
(4)商標法第4条第1項第8号
本件商標は、婦人服専門店の老舗として著名な「株式会社鈴屋」の著名な略称である「鈴屋」の文字を含むものである。そして、請求人は、本件商標の登録出願について承諾を得ていない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものである。
(5)商標法第4条第1項第11号
本件商標と引用商標1ないし3は、上記したとおり「スズヤ」の称呼、「鈴屋」の観念及び外観において類似する商標である。
また、本件商標の指定商品と引用商標1ないし3の指定商品は、同一又は類似するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
(6)商標法第4条第1項第10号
本件商標は、請求人が使用する著名な商標「鈴屋」若しくは「SUZUYA」と類似する商標であり、また、同ー又は類似の指定商品を含むものであるから、本件商標がその指定商品に使用された場合、その商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
(7)商標法第4条第1項第7号
本件商標は、香港における請求人の子会社であったSuzuya HKが、請求人と組織的及び経済的に何ら関係がなくなったにも拘らず、Directorを共通にするニューベルコモンズ(香港)カンパニーリミテッドの名義で出願、登録されたものである。
したがって、係る事情のもとで出願、登録された本件商標は、請求人の「鈴屋」及び「SUZUYA」の持つ著名性にフリーライドするものである。 よって、本件商標は、公正な取引秩序に反し、社会一般道徳に反する商標というべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
(8)商標法第4条第1項第19号
本件商標は、請求人の取り扱い業務に係る商品を表示するものとして著名な引用各商標に、識別力の弱い「国際」の文字を結合させたにすぎず、著名な請求人の「鈴屋」及び「SUZUYA」を容易に想起させる類似の商標であるから、著名な商標「鈴屋」に化体した業務上の信用にフリーライドするという不正の目的をもって使用するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第15号について
(ア)本件商標と引用各商標との類否
被請求人は、「被請求人が所有する別件の商標『SUZUYA INTERNATIONAL』も本件商標『鈴屋国際』も、一連不可分に構成される商標としてはじめて自他商品識別力を発揮するものであると認定されたものであり、何れか一方を切り離して、個別的に自他商品識別力について論議するものではないことは明らかである。」とし、その主張の根拠として、被請求人が有する別件の登録第4865303号「SUZUYA INTERNATIONAL」商標について、請求人の登録商標3件を引用して商標法第4条第1項第11号に基づく拒絶理由で拒絶されるも、意見書を提出し登録査定を得ているという経緯を述べている。
この点については、審判請求書において詳述したように、被請求人が主張の根拠とした過去の審決2件については、ともに昭和52年という、請求人の業績が最盛期であってその伝統と名が広く知れ渡ることとなった平成5年頃から15年以上も前の審決である。したがって、昭和52年当時の判断と、婦人服の専門店としての著名性を得た時期以降である現在とでは、取引の実情も異なり、当該審決の判断を本件審判において採用されることは妥当ではない。したがって、本件商標の、登録出願時に請求人の登録商標を引用され拒絶されるも意見書を提出して反論し登録になったという経緯は、本件商標の登録が無効とされない根拠とはならない。
(イ)引用各商標の周知著名性の程度について
被請求人は、請求人及び引用各商標の著名性を裏付ける証拠として審判請求書とともに提出された記事(甲第15号証ないし甲第94号証)について、請求人の商号又は商号の略称として使用されていることを証明するにすぎず、これらの証拠に基づいて、商標としての「鈴屋」、「株式会社鈴屋」又は「SUZUYA」の著名性を立証することはできない旨主張し、また、引用各商標が、請求人の「鈴屋」若しくは「SUZUYA」が需要者等において広く認識された商標であるとは言えないと主張する。
しかしながら、これらの記事から、請求人がアパレルの一企業として、若しくは、少なくとも婦人服専門店として、取引者及び需要者に広く知れ渡っていることが看取できることは、否定し得ない事実である。
また、被請求人は、請求人と経済的にも組織的にも何らかかわりのない第三者が「鈴屋」、「すずや」又は「スズヤ」を含む商号を採用しているとして乙第1号証ないし乙第6号証を提出している。
しかしながら、これらは重複したものを除くと23店舗に関する情報にすぎず、その半数以上が従業員5人以下の小規模な、いわゆる町の衣料品店である。したがって、これらの証拠をもって、「請求人と関係のない『鈴屋』、『すずや』又は『スズヤ』を含む商号が日本各地に多数存在する」との被請求人の主張は、到底認められるものではない。
また、たとえこれら「鈴屋」、「すずや」又は「スズヤ」を店舗名として使用するものが日本国内に23店舗存在するという事実があるとしても、このことから請求人がこれまで蓄積した伝統と、被服業界、少なくとも婦人服専門店の「鈴屋」といえば、請求人のことであるというその著名性を否定できるものではない。
さらに、請求人は、請求人の商標が周知・著名なものであることを立証するため、今般、アンケート方式による市場調査を行った(甲第154号証)。
報告書(甲第154号証)によれば、請求人の商標を知っていると回答した者が、70.7%おり、そのうち、「具体的製品名」に被服(注:請求人は和服を提供していないため、和服と回答した者は誤答として処理)と回答したものが57.0%であった。この調査結果を鑑みるに、被請求人が主張する請求人の周知著名性の否定は、根拠に乏しいものといわざるを得ない。
請求人は、被服業界における請求人及び引用各商標の著名性について証明するために、同業者による陳述書を提出する(甲第155号証)。
これにおいて、同業者は、「鈴屋」及び「SUZUYA」は請求人及びその商品を示すブランドであると認識していると宣言し、現在においても、「鈴屋」及び「SUZUYA」ブランドは、アパレル業界で働く者にとっては、知らない者はいないくらい有名なブランドであることに変わりはなく、「鈴屋」及び「SUZUYA」と類似した商標が存在し、それが婦人服に使用されていれば、それを見た人は、当然、請求人を出所とする商品であると認識する旨、述べている。
したがって、請求人が被服業界において、婦人服の老舗として、周知著名性を有することは否定することができず、被請求人の、「引用各商標が需要者等に広く認識された商標であり、周知著名性を有するに至ったという請求人の主張を認めることができない」という主張は失当であるといわざるを得ない。
(ウ)その他取引の実情
被請求人は、「国際」等以外の文字部分が、商標の自他商品識別表示となる部分であるとの請求人の主張に対し、「○○」と「○○インターナショナル」の併存登録(乙第7号証ないし乙第18号証)が存在するとの事実を根拠に、請求人の上記主張に対し疑問があると主張する。
しかしながら、答弁書において、被請求人が列挙した併存登録例とする商標について検討すると、(a)それぞれ「インターナショナル」以外の文字部分から生ずる称呼が同一でなく、本件商標と引用各商標との関係とは異なる状況下における併存登録例、(b)両商標の使用する商品を比べると、需要者及び取引者層が異なり、商品の出所について混同を生ずるおそれがないものと考えられる登録例、(c)アルファベット2文字部分が商標としての自他商品識別機能を有さないと判断され、商標全体としてのみ把握される登録例等である。
したがって、本件については、事情が異なるといわざるを得ず、これらの併存登録の例を根拠として、本件商標を付した商品の出所につき、混同を生ずるおそれがないとの主張は認められるものではないと思料する。
以上より、被請求人の「本件商標と引用各商標とが互いに類似するという請求人の主張に妥当性がない」とする主張は受け入れがたいものである。
(オ)以上のとおり、被請求人の答弁によっても未だ本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するというべきであり、無効とされるべき商標である。
(2)商標法第4条第1項第8号
被請求人は、商標法第4条第1項第8号における「著名な略称」とは、「特定の商品の取引者、需要者に広く知られているかどうかではなく、その略称が特定人を表示するものとして世間一般に広く知られているかどうかであることが記載されている。」として「商標審査基準の解説(第三版)」第150頁中段以降を引用している(乙第22号証)。その上で、「請求人の主張する著名な略称は、被服業界における、いわゆる特定の取引者間における著名性について言及するものであり、商標法第4条第1項第8号にいうところの世間一般に広く知られている『著名な略称』とはいい得ないものである」と主張する。
この点につき引用各商標について検討すると、請求人の商号の略称である「鈴屋」は、被服という至極一般的な日常生活の必需品に使用されるものであって、「一般人が購入するようなものである場合」に該当することは明らかであり、この場合には上記が判示するように「当該他人の略称(『鈴屋』及び『SUZUYA』)が世間一般に広く知られて著名であるということができる」ものと思料する。したがって、上記裁判所の判断の一部分を根拠として、本件商標が商標法第4条第1項第8号違反という無効理由を有さないとする被請求人の主張は妥当ではない。
(3)商標法第4条第1項第11号
被請求人は、本件商標は「一連不可分に構成される『鈴屋国際』として自他商品識別力を発揮するものであって、何れか一方を切り離して個別的に自他商品識別力について議論するものではない」と主張する。
しかしながら、商標法第4条第1項第11号の審査基準には、「指定商品又は指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その他人の登録商標と類似するものとする。」(甲第156号証)とある。
すなわち、本件商標が「鈴屋国際」とまとまりよく一体に表されているとしても、他人である被請求人の広く知られた引用各商標を含むものであって、引用商標1ないし3と同一又は類似する商品を指定するものであるので、商標法第4条第1項第11号に該当するという無効理由が存在することは否定することができない。
(4)商標法第4条第1項第10号
被請求人は、請求人が提出した「鈴屋」及び「SUZUYA」が周知著名な商標であること示す書面について、単に請求人の商号の略称として使用されていることを証明するにすぎず、これらの証拠に基づいて、商標としての「鈴屋」等の著名性を立証することはできない旨主張する。
しかしながら、上記に述べたとおり、引用各商標は商標として使用されており、周知著名性を獲得しているこということは言うまでもない。そして、要部を「鈴屋」とする本件商標と引用各商標の類似性については上記に述べたとおりである。
したがって、被請求人の答弁によっても未だ、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するというべきである。
(5)商標法第4条第1項第7号
被請求人は、自らがアジア地域において「鈴屋国際有限公司」や「SUZUYA INTERNATIONAL」の商号及び商標を使用することは正当な行為であると主張する。
また、被請求人は、請求人と資本関係を有さず、商品を共有している事実がないにもかかわらず、自己のホームページにおいて、請求人である株式会社鈴屋の歴史を紹介し、あたかも請求人と繋がりがあるかのような表示を行っている(甲第162号証)。
その後、幾度もの書簡の送付や、電話及び面会において請求人は、その立場を被請求人に明確に表示し、本件商標等の使用を今後中止する旨の約束は取り付けたものの、当該商標権の帰属については、継続して争う姿勢を被請求人は見せている。このようなことからも、本件商標が公正な取引秩序及び社会一般道徳に反するものといわざるを得ず、被請求人の答弁によっても未だ、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するというべきであり、無効とされるべき商標である。
(6)商標法第4条第1項第19号
被請求人は、本件商標について「香港を中心とする東南アジア諸地域における営業活動の結果、高い名声と信用を勝ち得ているものであり、既に顧客吸引力を十分に具備している商標による日本国内の展開である」と主張するが、日本国内で周知な商標について上記のような信義則に反する不正の目的で登録出願され、請求人の業務にかかる商品等を表示するものとして、日本国内に広く認識されている引用各商標と類似の商標である本件商標が、仮に海外の一定国で知られた商標であるとしても、そのことによって本件商標が商標法第4条第1項第19号違反とする無効理由を有するという事実は否定されるものではない。
以上のとおり、被請求人の答弁によっても未だ、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当するというべきであり、無効とされるべき商標である。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第23号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第15号について
(1)請求人は、本件商標が請求人により使用される商標として著名な引用各商標「鈴屋」等に、国際的な企業であることを示唆する言葉である「国際」という語を結合したにすぎないものと認められるから、本件商標の要部は「鈴屋」であり、本件商標がその指定商品に使用されるときには、これに接する取引者・需要者は、恰も請求人又はその関連会社の取り扱い業務に係る商品であるかの如く認識し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあると主張する。
その根拠として、請求書において、本件商標と引用各商標との類似性の程度、引用各商標の周知著名性の程度、本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性、その他取引の実情について種々述べているが、何れの主張も認めることができない。
(2)本件商標と引用各商標の類似性の程度
請求人は、本件商標の指定商品の関連分野において「国際」若しくは「INTERNATIONAL」という言葉を含む商標を見て、「国際」若しくは「INTERNATIONAL」以外の部分についてが、その表示を他の表示と識別する部分(すなわち要部)となっていることが通例であるといわざるを得ないとし、本件商標の指定商品である被服関連分野における上記事情を鑑みると、本件商標の要部は「鈴屋」であるというべきであり、本件商標の「鈴屋」の部分からは、婦人服業界において著名な請求人若しくは引用各商標を想起させる観念を生ずることは必定であると主張する。
しかしながら、上記請求人の主張を認めることができない。以下にその理由を示す。
「○○インターナショナル」若しくは「○○International」との構成を備える登録商標が多数登録されている事実をもって、本件商標の要部が「鈴屋」であるとし、当該「鈴屋」から婦人服業界において著名な請求人若しくは引用各商標を想起させる観念が生じ、本件商標をその指定商品に使用すると、恰もその商品の出所が著名な請求人であるか若しくは請求人と経済的又は組織的関連性を有する者の商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわざるを得ないとする請求人の主張には何ら根拠が無いものである。
つまり、被請求人が所有する別件の商標「SUZUYA INTERNATIONAL」も本件商標「鈴屋国際」も、「SUZUYA」、「鈴屋」或いは「INTERNATIONAL」、「国際」の夫々の自他商品識別力云々の問題ではなく、一連不可分に構成される商標「SUZUYA INTERNATIONAL」や「鈴屋国際」としてはじめて自他商品識別力を発揮するものであると認定されたものであり、何れか一方を切り離して、個別的に自他商品識別力について論議するものではないことは明らかである。
そこで、改めて本件商標と引用各商標との類否を称呼、外観、観念について観察してみると、本件商標からはその構成文字「鈴屋国際」から「スズヤコクサイ」の称呼が生じ、上記引用各商標からは「スズヤ」、「スズヤカブシキカイシャ」、「スズヤシーオーエルティーディー」の称呼が生じる。
また、その外観においては比較するまでもなく一見して相違することが明らかであり、さらに、本件商標からは「国際的な鈴屋」といった特定の観念が生じるのに対し、引用各商標からは「鈴屋」又は「株式会社鈴屋」といった異なる観念が生じるものである。
したがって、本件商標と引用各商標とは、互いに称呼、外観、観念の何れにおいても相違することが明白であり、時と処を異にする離隔的観察を試みたとしても、両者は彼此相紛らわしく看取されることはなく、互いに非類似の商標である。
よって、本件商標と引用各商標とが互いに類似するという請求人の主張には妥当性がなく、これを認めることができない。
(3)引用各商標の周知著名性の程度について
請求人は、引用各商標の著名性の証拠として「繊研新聞」に掲載されている全国婦人服専門店ランキング(甲第15号証ないし甲第26号証)、「日経流通新聞」に掲載されている売上げランキング(甲第27号証ないし甲第29号証)、「日本経済新聞」に掲載されている「これからの専門店経営」と題されたコラム(甲第30号証ないし甲第34号証)、「日本繊維新聞」をはじめとする各種新聞紙面又は雑誌等の経済記事(甲第35号証ないし甲第94号証)を引用している。
しかしながら、甲第15号証ないし甲第94号証においては、「株式会社鈴屋」、その略称としての「鈴屋」又はその英文字表記である「SUZUYA」が商号又は商号の略称として使用されていることを証明するにすぎず、引用各商標が本件商標の指定商品の分野における商品の商標として使用されているという事実並びにその商標の著名性を何ら立証するものでなく、単に請求人の商号である「株式会社鈴屋」が取り上げられていることを示すだけである。つまり、甲第15号証ないし甲第94号証に基づいて、商標としての「株式会社鈴屋」、「鈴屋」又は「SUZUYA」の著名性を立証することはできず、単に商号「株式会社鈴屋」又はその略称としての「鈴屋」或いは「SUZUYA」が新聞や雑誌コラム等に掲載されたという事実を述べるに留まるものである。
また、一部において重複掲載されている商号を含むものであるが、乙第1号証の「レディスファッション店名鑑2004〔東日本編〕(ボイス情報株式会社)」には、法人であることを示す「株式会社」又は「有限会社」の表記以外に、「鈴屋」、「スズヤ」又は「すずや」を含む請求人以外の商号が6件掲載され、同様に乙第2号証の「レディスファッション店名鑑2004〔西日本編〕(ボイス情報株式会社)」には4件、乙第3号証の「全国ブティック名鑑2005(ボイス情報株式会社)」には4件、乙第4号証の「メンズファッション店名鑑2005【西日本編】(ボイス情報株式会社)」には1件、乙第5号証の「西日本レディス専門店(株式会社日本繊維経済研究所)」には5件、乙第6号証の 「日本ファッション小売店名簿(株式会社アパレルファッション)」には14件掲載されている。これらに掲載されている商標は、何れも請求人である「株式会社鈴屋」とは経済的にも組織的にも何ら関わりのないものである。
してみると、経済的にも組織的にも何ら関わりのない「鈴屋」、「スズヤ」又は「すずや」を含む請求人以外の商号が日本各地に多数存在することに鑑みれば、必ずしも引用各商標である「鈴屋」若しくは「SUZUYA」が需要者及び取引者において広く認識された商標であるとは言えず、また、「鈴屋」又は「SUZUYA」が一概に被服業界において請求人を指し示すものであるとはいえない。
(4)上記したとおり、本件商標である「鈴屋国際」は、一連不可分にして自他商品識別機能を発揮する商標であり、引用各商標とは称呼、外観、観念の何れにおいても明白に相違するもので、これに接する取引者、需要者が普通に払われる注意力をもってすれば、両者は十分に識別可能な互いに非類似の商標であり、かつ、引用各商標は著名商標でもないため、本件商標をその指定商品に使用しても商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
2 商標法第4条第1項第8号について
請求人は、明治42年に創業され、昭和26年から「株式会社鈴屋」の商号を使用し、老舗の婦人服専門店として広く知れ渡っており、平成9年に和議を申請したものの、それ以後も毎年公表される繊研新聞上の専門店ランキングにその名を連ね、被服業界における請求人の著名性は変わらないことを甲第15号証ないし甲第26号証をもって述べている。
そもそも、商標法第4条第1項第8号における「著名な略称」とは、社団法人発明協会発行の「商標審査基準の解説(第三版増補)」の第150頁中段以降には、特定の商品の取引者、需要者に広く知られているかどうかではなく、その略称が特定人を表示するものとして世間一般に広く知られているかどうかであることが記載されている(乙第22号証)。
してみると、請求人の主張する著名な略称とは、甲第15号証ないし甲第26号証に基づいて被服業界における請求人の商号である「株式会社鈴屋」及びその略称である「鈴屋」又は「SUZUYA」についての著名性であり、いわゆる特定の取引者間における著名性について言及するものであって、商標法第4条第1項第8号にいうところの世間一般に広く知られている「著名な略称」とはいい得ないものである。
よって、請求人の商号である「株式会社鈴屋」の略称としての「鈴屋」又はその欧文字表記である「SUZUYA」については、商標法4条第1項第8号に規定される「著名な略称」には該当しない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものではない。
3 商標法第4条第1項第11号について
上記したとおり、本件商標と引用商標1ないし3は、その称呼、観念及び外観のいずれからしても十分に区別し得る商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。
4 商標法第4条第1項第10号について
請求人は、本件商標が請求人の使用する著名な商標「SUZUYA」及び「鈴屋」等と類似する商標であると述べている。
しかしながら、本件商標と引用商標1ないし3が、その称呼、観念及び外観のいずれからしても十分に区別し得る商標であることは上記したとおりである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものではない。
5 商標法第4条第1項第7号について
鈴屋国際有限公司は、もともと、昭和48年1月、株式会社鈴屋の香港現地法人として成立されたものであるが、現在の鈴屋国際有限公司が株式会社鈴屋と資本関係を有さないことは事実である。請求人である株式会社鈴屋が平成9年2月の和議申請したのと関連して、鈴屋国際有限公司の株主である被請求人ニューベルコモンズ(香港)株式会社(代表者:岡田康司)が、株式会社鈴屋から鈴屋関連商標のアジア地域における一切の権利を譲り受けたためである。被請求人ニューベルコモンズ(香港)株式会社と資本関係にある鈴屋国際有限公司が、アジア地域において「鈴屋国際有限公司」や「SUZUYA INTERNATIONAL」の商号および商標を使用することは正当な行為である。
鈴屋国際有限公司は、昭和48年の設立以来、アジア地域での「SUZUYA INTERNATIONAL」の商標を継続使用し、特に、平成9年2月に被請求人に譲渡された以降も、そのブランドイメージを維持している。被請求人は、乙第23号証に示すように、香港(直営店35店舗)を拠点とし、マカオ(直営店6店舗)、中国(直営店10店舗、フランチャイズ店15店舗)、シンガポール(直営店2店舗)、マレーシア(直営店5店舗)、タイ(直営店4店舗、フランチャイズ店1店舗)、ベトナム(直営店1店舗、フランチャイズ店1店舗)、インドネシア(フランチャイズ店1店舗)というように、東南アジア地域において精力的に営業活動を行っているものである。また、2004年9月から2005年8月までの売上高も香港の直営店だけで164,470,053.8HKドル(日本円で約25億円)、他の直営店及びフランチャイズ店の売上高の合計が203,369,035.99HKドル(日本円で約31億円)に達するものである。被請求人は過去に請求人との間で特別な関係にあった事実はあるものの、乙第20号証及び乙第21号証をもって示したように、請求人は実際に商標「鈴屋」又は「SUZUYA」を商品に使用しているものではなく、既述したように請求人による引用各商標が著名性を有するに至ったとする何らの根拠もないものである。
よって、本件商標が請求人の「SUZUYA」及び「鈴屋」の持つ著名性にフリーライドすべくなされた出願であり、請求人の商標「鈴屋」及び「SUZUYA」の自他商品識別機能を著しく希釈化させるもので、本件商標の登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであるという請求人の主張は、これを認めることができない。
したがって、本件商標は、公正な取引秩序及び社会一般道徳に反するものではなく、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。6 商標法第4条第1項第19号について
請求人が提出した証拠資料の甲第15号証ないし甲第94号証には、請求人の商号である「株式会社鈴屋」、その略称としての「鈴屋」又はその英文字表記である「SUZUYA」が商号又は商号の略称として使用されていることを示すものであり、引用各商標が本件商標の指定商品の分野における商標として使用されているという事実並びにその商標の著名性を何ら立証するものでなく、引用各商標である「鈴屋」若しくは「SUZUYA」が需要者及び取引者において広く認識された商標であるとはいえない。
また、本件商標と引用各商標が非類似の商標であること上記したとおりである。
よって、引用各商標が著名であるとはいえず、また、本件商標と引用各商標とは互いに非類似のものであるから、本件商標が請求人の商標である「鈴屋」及び「SUZUYA」に化体した業務上の信用にフリーライドするという不正な目的をもって使用するものではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではない。
7 結語
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第15号、同第8号、同第11号、同第10号、同第7号及び同第19号の何れにも違反して登録されたものではない。

第5 当審の判断
1 商標「鈴屋」及び「SUZUYA」の著名性について
(1)甲第14号証の「鈴屋65年史」(昭和50年6月10日発行)及び甲第84号証の「流通サービス新聞」(平成10年7月3日発行)によれば、請求人は、明治42年6月に、東京、上野で肌着の仕立て直しや雑貨販売の鈴木屋として創業された。昭和26年3月30日に「株式会社鈴屋」として法人化され、その後、業態を女性用被服、衣料用小物類などのデザイン、企画並びにこれらの商品の製造販売を業とするアパレルメーカーに転換した事実を認めることができる。
(2)甲第15号証ないし甲第17号証の「繊研新聞」(平成6年7月26日、平成7年7月27日、平成8年7月24日発行)、甲第65号証の「日経流通新聞」(平成8年6月25日発行)及び甲第67号証の「流通サービス新聞」によれば、最盛期である平成5年の請求人の関連会社(「鈴屋」グループ)の年間売上高は約692億円、平成6年度においては約649億円、平成7年度は約507億円と非常に高額であり、また、請求人は、繊研新聞において毎年公表される衣料専門店ランキング上、第3位の地位を度々獲得する程の婦人服専門店のランキング常連企業であり、長年にわたり婦人服専門店業界をリードし続け、請求人、鈴丹(愛知県名古屋市)及び三愛(東京都)の三社を「名門3S」又は「御三家」とする表現が存在するほどであった事実を認めることができる。そして、上記「繊研新聞」等には、請求人を指称するものとして、「鈴屋」の名前が掲載されている。
(3)甲第19号証ないし甲第26号証の「繊研新聞」(平成10年8月7日ないし平成17年8月9日発行)、甲第92号証の「日経流通新聞」(平成10年11月12日発行)によれば、請求人は、業績の悪化により、平成9年2月和議申請を行ったが、平成9年以降も繊研新聞の全国専門店ランキングに「鈴屋」の名前は掲載され続け、営業黒字に転換したことも新聞記事となった。そして、請求人の継続した企業努力の結果、平成15年度には、請求人は日本全国に73店舗の店舗数を有し、売上高が約110億円(甲第24号証)と業績を回復した事実を認めることができる。
(4)甲第47号証の「日経流通新聞」(平成6年9月15日発行)、甲第56号証の「日本繊維新聞」(平成8年5月1日発行)、甲第64号証の「流通サービス新聞」(平成8年6月21日発行)、甲第70号証の「繊研新聞」(平成9年2月26日)、甲第72号証の「毎日新聞」(平成9年2月25日)、甲第75号証の「日刊工業新聞」(平成9年2月25日)、甲第77号証の「産経新聞」(平成9年2月25日)及び甲第78号証の「東京新聞」(平成9年2月25日)には、請求人を指称するものとして、「鈴屋」の欧文字表記と認められる「SUZUYA」の文字が掲載されている。そして、甲第151号証によれば、請求人は、被服そのものにそれぞれ個別のブランド名を採用しているばかりでなく、その被服の包装用袋又はレシートには、請求人を指称する「SUZUYA」の文字も表示されている事実を認めることができる。
(5)甲第154号証は、請求人の商標「鈴屋」が消費者にどの程度認知されているかを調査することを目的として、平成18年1月16日から同年1月20日までの期間内に、無作為に抽出された首都圏に住む35ないし64歳までの女性を対象者として、インターネットを利用したアンケート調査により実施されたものであり、請求人の上記商標を知っていると回答した者が、70.7%おり、そのうち、「具体的製品名」に被服と回答したものが57.0%であったことが認められる。
以上によれば、商標「鈴屋」は、本件商標の登録出願時ないし登録査定時には、請求人を指称するものとして、また、請求人の業務に係る商品「婦人服」を表示する商標として、少なくもファッション関連商品を取り扱う取引者、需要者の間に広く認識され、著名性を獲得していたものというべきであり、その状態は現在に至るまで継続しているものと認められる。
2 本件商標と引用各商標との類否について
本件商標は、上記のとおり「鈴屋国際」の文字よりなるところ、その構成中の「国際」の語は、一般的に企業が国際的に業務を行っていることを示唆する語であって、識別力の弱い語であるといえるものである。
そうとすれば、本件商標中の「鈴屋」の文字部分が特に注意を引く文字部分といわざるを得ず、他方、引用各商標は上述のとおり、「鈴屋」「SUZUYA」の文字よりなるものであるから、両者は、その称呼において相紛れるおそれのある類似性の高い商標といわなければならない。
また、本件商標の指定商品は、上記のとおり請求人の業務に係る商品「婦人服」を含むファッションに関連する商品であると認められる。
3 請求人と被請求人の関係について
甲第14号証の「鈴屋65年史」、甲第148号証及び甲第149号証の各「周年申報表」(Annual Return)によれば、被請求人は、岡田氏をDirectorとし、香港をその住所とする企業であり、被請求人は、鈴屋国際有限公司の株を12.5%所有する株主でもある。その鈴屋国際有限公司は、日本を除く、香港における請求人の国際的経営の主体となりうるべく設立された会社であった。その後、平成9年に請求人が所有していた鈴屋国際有限公司の株式は全て第三者に譲渡され、請求人との資本関係は完全に絶たれることとなり、現在もその状況に変わりはなく、被請求人のDirectorである岡田氏が、鈴屋国際有限公司のDirectorとして経営を行っている事実を認めることができる。
4 被請求人の主張について
被請求人は、「本件商標は、一連不可分にして自他商品識別機能を発揮する商標であり、引用各商標とは称呼、外観、観念の何れにおいても明白に相違するもので、これに接する取引者・需要者が普通に支払われる注意力をもってすれば両者は十分に識別可能な互いに非類似の商標であり、且つ、引用各商標は著名商標でもないため、本件商標をその指定商品に使用しても商品の出所について混同を生ずるおそれはない。」旨主張している。
しかしながら、上記のとおり本件商標の構成中の「国際」の語は、一般的に企業が国際的に業務を行っていることを示唆する語であって、識別力の弱い語であり、また、商標「鈴屋」の著名性が認められることから、この点に関する被請求人の主張は採用の限りでない。
5 結語
商標「鈴屋」の著名性が、上記1のとおり認められること、また、本件商標の構成及び指定商品が、上記2のとおり認められ、その指定商品には請求人の使用する商品が包含されており、それ以外の商品も、専らファッションに関連する商品であるということ、さらに、請求人と被請求人の関係が、上記3のとおり認められることからすれば、「鈴屋」の文字を含む本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、これより容易に商標「鈴屋」を連想、想起し、該商品が請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について誤認、混同を生ずるおそれがある商標といわなければならない。
したがって、本件商標は、請求人の他の主張について判断するまでもなく、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)登録第4360076号商標(引用商標2)

別掲(2)登録第1728553号商標(引用商標5)


別掲(3)登録第4301647号商標(引用商標8)


別掲(4)登録第3141647号商標(引用商標9)、登録第31028 24号商標(引用商標10)、登録第3096565号商標(引用商 標11)、登録第3310953号商標(引用商標12)


審理終結日 2006-07-28 
結審通知日 2006-09-22 
審決日 2006-10-31 
出願番号 商願2004-35990(T2004-35990) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Y25)
最終処分 成立  
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 澁谷 良雄
久我 敬史
登録日 2004-10-29 
登録番号 商標登録第4814800号(T4814800) 
商標の称呼 スズヤコクサイ、スズヤ、スズ 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 中嶋 伸介 
代理人 佐藤 真太郎 
代理人 石田 良子 
代理人 奥山 倫行 
代理人 田中 克郎 
代理人 中村 勝彦 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ