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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 120
審判 全部取消 かけ込み使用を含めた商標の使用 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 120
管理番号 1153882 
審判番号 取消2004-31596 
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2004-12-13 
確定日 2007-03-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第1412699号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第1412699号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第1412699号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲Aに表示した構成よりなり、昭和51年4月30に登録出願、第20類「家具、畳類、建具、屋内装置品(書画及び彫刻を除く)屋外装置品(他の類に属するものを除く)記念カップ類、葬祭用具」を指定商品として、同55年3月28日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第18号証(枝番を含む。)を提出した。
1 取消事由
本件商標は、その指定商品について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により、その登録を取消されるべきものである。
2 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、仮処分決定及び確定判決によって、「PETER RABBIT」等の表示を使用することを禁止されている。
被請求人は、別紙「訴訟の概要」(甲第1号証)に記載のとおり、裁判所の仮処分決定及び確定判決によつて「PETER RABBIT」等の表示を使用することを禁止されている。
すなわち、請求人は、「PETER RABBIT」などの表示をその製造販売する商品に使用していた被請求人に対して、不正競争行為差止等仮処分命令を申し立てた(以下「仮処分申立事件」という)。
これに対して、平成13年12月7日、東京地方裁判所(以下「東京地裁」という。)は、「1.債務者(引用注:被請求人)は、別紙債務者表示目録記載の表示を付した商品を製造してはならない。2.債務者は、別紙債務者表示目録記載の表示を付した債務者製造に係る商品を譲渡し、譲渡のために展示し、並びにその包装及び広告に上記表示を使用してはならない。(以下省略)」との決定を下し(甲第1号証)、同決定は、同年12月14日に被請求人に送達された(甲第1号証の2。以下「仮処分命令」という)。
そして、仮処分命令が使用禁止の対象とする表示を特定した債務者表示目録には、「PETER RABBIT」、「Peter Rabbit」及び「ピーターラビット」の各表示が記載されている(以下、まとめて「ピーターラビット表示1」という。別掲「参考資料1」参照)。
さらに、請求人は、不正競争行為等の差止及び、本件商標を含むピーターラビットに関連する被請求人名義の商標登録を請求人に移転登録することを求めて、被請求人に対し、不正競争行為等差止請求訴訟を提起した(以下「本案訴訟」という)。
これに対して、平成14年12月27日、東京地裁は、「1.被告(引用注:被請求人)は、別紙被告表示目録記載の表示を付した商品を製造してはならない。2.被告は、別紙被告表示目録記載の表示を付した被告製造に係る商品を譲渡し、譲渡のために展示し、並びにその包装及び広告に上記表示を使用してはならない。(以下省略)」との判決を下し(以下、「本案判決」という)(甲第2号証)、同判決は平成16年9月21日に確定した(甲第3及び4号証)。
そして、本案判決が使用禁止の対象とする表示を特定した被告表示目録には、「PETER RABBIT」、「Peter Rabbit」、「PETER RABBIT(1文字目のPと6文字目のRが他の文字よりもやや大きく、そのRの右下方向へ伸びた足が次のAの文字の下方へ達している)」及び「ピーターラビット」の各表示が記載されている(以下、まとめて「ピーターラビット表示2」という。別掲「参考資料2」参照 ピーターラビット表示1及び2を総称して「ピーターラビット表示」という)。
すなわち、被請求人は、平成13年12月14日以降は仮処分命令により、同16年9月21日以降は確定した本案判決によって、ピーターラビット表示をその商品に付することを禁止されているのである。
一方、本件商標は、横書きの「ピーターラビット」を上段に、「PETERRABBIT」を下段に、上下二段に併記してなる商標であるから、本件商標を使用することは必然的に不正競争行為となる。
したがって、仮処分命令が送達された平成13年12月14日以降、被請求人が本件商標を使用することは、東京地裁の決定及び最高裁決定により確定した司法判断を公然と無視する行動を取るということであり、司法秩序を真向うから否定する重大な違法行為といわざるを得ない。
(2)被請求人は本件商標の使用を立証していない。
被請求人の答弁の内容は、(ア)平成16年5月19日に本件商標と社会通念上同一の商標を商品に関する広告に用いた(乙第3号証の1及び2)、(イ)平成16年10月15日ないし同年11月3日の期間、被請求人の直営店において本件商標と社会通念上同一の商標を使用した商品を宣伝・販売した(乙第4号証ないし乙第20号証(枝番を含む))という2点に整理することが出来る。そこで、その各々について、以下のとおり弁駁する。
(ア)乙第3号証について
乙第3号証は、被請求人が平成16年5月19日付け日本繊維新聞第6面に掲載した広告(以下「本件広告1」という。)であり、被請求人は、「これは商標法2条3項8号の『商品に関する広告』に該当する」と主張する。
しかしながら、以下に述べる理由により、本件広告1は、商標法2条3項8号に該当しない。
(a)広告に登録商標を付してこれを頒布する行為が商標法2条3項に規定する登録商標の使用に該当するためには、それが「商品についての広告」であり、かつ、そこで登録商標が自他商品識別標識として使用されていなければならない。
(b)本件広告1は「商品についての広告」ではない。
広告に商標が付されている場合には、その広告が特定の指定商品又はサービス「について」の広告でなければ、商標法2条3項8号に規定する商標の使用には該当しない。
この点について、最判昭和43年2月9日(昭和42年(行ツ)第32号)は、「商標の使用があるとするためには、当該商標が、必ずしも指定商品そのものに付せられて使用されていることは必要でないが、その商品との具体的関係において使用されていることを必要とするものと解するのが相当である」と判示し、社用便箋に登録商標が記載されていても、登録商標をその指定商品との具体的関係において使用しているものとは認められないとした原審に違法はないと判示している(甲第8号証)。
以上を踏まえ、本件広告1を検討すると、まず中央に「ピーターラビットは(株)ファミリアの登録商標です。」と大きく記載され、その下方に「登録商標ピーターラビットの入ったファミリアのオリジナル商品とフレデリック・ウォーン社やコピーライツグループの商品とは、何ら関係ありませんので、混同しないように願います。」との記載があり、さらに「当社の保有ピ
ーターラビット商標」の見出しのもとに被請求人が有する登録商標の登録番号、区分及び指定商品の一部が羅列されていることから判断して、本件広告1は、被請求人が本件商標を含む複数の商標登録を有している事実及びかかる商標登録の概要の告知並びに被請求人の商品と請求人またはコピーライツグループの商品との間には関係がないから混同しないで欲しいという被請求人の一方的要望の表明にすぎない。
(c)本件広告1には出所識別表示としての登録商標の使用がない。
形式的に商標が広告等に付されている場合であっても、それが特定の商品の出所を識別する標識として使用されていなければ、商標法2条3項に規定する商標の使用があったということはできない。
裁判例においても、東京高判平成13年2月28日(平成12年(行ケ)第109号)は、「『商品についての登録商標の使用』があったというためには、当該商品の識別表示として同法(引用注:商標法)2条3項、4項所定の行為がされることを要するものというべきである」と判示している。
(d)小括1
以上のように、本件広告1が単なる事実の告知並びに被請求人の要望の表明のみを目的とした被請求人自体の広告であって、「商品についての広告」ではないことが明らかである。
また、本件広告1において本件商標が特定の商品についてその出所を識別するための標識として使用されていると認めることもできないことから、本件広告1は、商標法2条3項8号が規定する「商品に関する広告」に該当するとはいえない。
したがって、乙第3号証の1及び2によって本件審判の登録前3年内における本件商標の使用が立証されたものとはいえない。
(イ)乙第4号証ないし乙第20号証(枝番を含む)について
次に、被請求人は、乙第4号証ないし乙第20号証を提出し、平成16年10月15日ないし同年11月3日にかけて本件商標を使用した商品を宣伝・販売したと主張する。
しかしながら、(a)被請求人が提出する証拠には証明力はなく、(b)仮に被請求人が主張するような本件商標の使用があったとしても、それは商標法50条3項に規定するいわゆる「駆け込み使用」であり、商標法50条1項に規定する登録商標の使用には該当しない。以下、その理由を述べる
(a)乙第4号証ないし乙第20号証には証明力がない。
ア)乙第4号証は、被請求人の会社案内であって、これ自体本件商標の使用を何ら立証するものではない。
イ)乙第5号証は、商品が展示されている様子を撮影したものであるが、これらは被請求人の従業員が自ら撮影したものであって、証拠としての客観性がない。また、答弁書に記載された平成16年10月14日の日付けは、同日に撮影され成立したものとして信用するには到底足りない。
ウ)乙第6号証及び同第7号証の広告(以下「本件広告2」)及びチラシ(以下「本件チラシ」という。)には、「ファミリア・オリジナル・ピーターラビット商品のご案内」、「…ファミリア・オリジナルのピーターラビット衣料・バッグ・タオル・ポーチ等の販売を行います」との記載があるが、本件広告2及び本件チラシをもって、本件商標の使用があったということは出来ない。その理由は、上記広告2及びチラシによっては、指定商品との具体的な関係における本件商標の使用を認めることができないからである。
また、本件広告2からは、被請求人が2004年10月15日ないし11月3日まで「ウィンターコレクション2004」の開催を企画したことは窺えるとしても、現実に開催され、本件商標を使用した指定商品の販売等が行われたことまでも立証するものではない。
エ)被請求人は、乙第8号証について、これが商品のカタログであると主張するが、そもそもこれが商品のカタログと認めることはできない。
加えて、乙第8号証(商品カタログ)の制作・印刷に係る発注書、納品書等の客観的資料を何ら提出していないから、当該物件が、いつ、誰により制作され、何部印刷され、いつ、被請求人に納品されたかも全く不明である。
オ)乙第9号証ないし乙第20号証(枝番を含む)は、答弁書の記載によれば、本件審判請求の登録日後である平成17年2月16日に撮影されたものであって、本件審判請求の登録日前3年間における登録商標の使用を立証する証拠としての証明力がなく、それ自体本件審判請求の登録日前3年間における本件商標の使用を立証するものではない。
なお、乙第9号証ないし乙第14号証(枝番を含む)及び乙第17号証ないし乙第19号証(枝番を含む)に撮影されている各商品は本件商標の指定商品ではないから、これらは本件取消審判に係る指定商品についての本件商標の使用を立証するものではない。
カ)乙第5号証(売場写真)、同第6号証(新聞広告)、同第7号証(チラシ)及び同第8号証(カタログ)は、その内容自体、以下の(i)ないし(iii)の点において極めて不自然であり、信用することが出来ない。
(i)実際に一般の顧客に対する販売を目的とした商品の展示とは考えられず、写真撮影のために即席で設営された売場と推認され、また、写真に人影が全く映っていないことからも、これらの商品が実際に取り引きされていた立証にはなっていない。
(ii)さらに、乙第4号証によれば、被請求人は日本全国に合計200ヶ所に及ぶ販売拠点を有しているにも関わらず、写真から判断すると小規模な「ファミリアポケット三田店」一店舗のみで、しかも種類・数量とも極めて限定された商品を展示・販売したというのは極めて不自然である。
(iii)乙第8号証については、単なる紙一枚に、住所や電話番号等の記載もなく、単に登録商標及び各商品のイラストが2004年10月13日の日付けと共に表示されているのみである。一般的に商品カタログというときには、当該企業の取扱い商品を網羅的に掲載した冊子をいうから、このような紙一枚のものを「カタログ」であるとは認めがたい。
キ)仮に被請求人が主張するように、ファミリアポケット三田店において、前記の期間、現実に本件商標を付した商品の販売行為を行ったのであれば、当該販売行為に関連して、注文書、納品書、送り状、領収証等の一連の取引書類も被請求人において所持し、提出可能のはずである。
にもかかわらず、そのような客観的証拠を何ら提出していないということは、実際の取引がなかったことの証左である。
ク)小括2
以上のように、被請求人は、成立日の不明な売場写真並びにカタログ及びそれ自体には本件商標が使用されていない広告並びにチラシを証拠として提出して、「平成16年10月15日から同年11月3日までの間、その直営店であるファミリアポケット三田店(中略)において(中略)マガジンラック、テーブルクロス(中略)に、欧文字「PETERRABBIT」(ゴシック体)(中略)または欧文字「PETERRABBIT」(明朝体)(中略)の表示を付して、販売を行っている」と主張するが、被請求人が主張する販売の事実を立証する客観的な証拠はひとつも提出していない。
そればかりか、力)で述べたように乙号証の内容が明らかに不自然で信憑性の低いものであることを併せ考えると、これらの証拠には証明力はなく、或いは証明力の極めて弱いものであり、これらをもって被請求人が本件審判請求の登録日前3年間における本件商標の使用を立証したものとは到底いえない。
(b)駆け込み使用であること
仮に万一、被請求人が提出した乙第4号証ないし乙第20号証によって、本件商標の使用が立証されたとしても、以下のア)ないしウ)に述べるとおり、かかる使用は、被請求人が審判請求の前3月以内にした「駆込み使用」であって、商標法50条1項に規定する登録商標の使用には当らない。
ア)商標法50条3項は、いわゆる「駆込み使用」を防止するため、同条1項の審判請求前3月からその審判請求の登録の日までの間に登録商標の使用があった場合でも、その登録商標の使用が当該審判請求のされることを知った後であることを請求人が証明した時は、かかる使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しないと規定している。
イ)本件審判請求日は、平成16年12月13日であるところ、仮に被請求人が主張するように、平成16年10月15日から同年11月3日までの期間、本件商標を付した商品の販売がされ、同16年10月14日に本件商標を使用した広告の頒布が実際になされたと仮定しても、それは本件審判請求前3月(即ち同16年9月14日)から本件審判請求の登録の日(すなわち同17年1月6日)までの間における使用である。
ウ)また、甲第13号証ないし甲第15号証によれば、以下の事実が認められる。
(i)請求人は、本案訴訟において、ピーターラビットに関連する商標登録を請求人に移転登録することを請求した(甲第13号証)。
したがって、被請求人は、請求人が本件商標を請求人に移転させる意図を持っていることを知っていた。
(ii)被請求人は、請求人が本案訴訟を提起し、本件商標登録移転の強い意思を表示したことを受けて、仮処分申立事件における平成13年12月10日付け第7回準備書面21頁の「第4」において、自発的に債務者(注:被請求人)は、「商品の販売を停止することにしたから差止の仮処分の必要はない」と主張する一方で、(本案訴訟で請求人の請求が認められなかったり裁判上の和解が不成立に終わるなどして請求人が本件商標の移転を受けない事態になれば)不使用取消審判請求が不可能な期間が経過した後には請求人が商標法50条1項不使用取消審判を請求することを知っていた故に「但し、不使用取消審判を受けない程度の実害を生じない程度の使用は、将来不使用取消期間を勘案して行う」と主張した(甲第14号証)。
また、被請求人は、平成16年1月28日における本案判決に対する控訴審の弁論期日においても、裁判長による「familiarの表示にそれほど識別力があるならば、『PeterRabbit』の表示をする必要などないのでは。一層のこと、消してしまえばよい」との釈明に対して、「請求人によって商標の不使用取消を請求される可能性があるので、使用の必要がある」と述べている(甲第15号証)。
これらの主張等から、被請求人が、仮処分命令1が被請求人に送達された平成13年12月14日から起算して3年を経過すれば、請求人が本件取消審判を請求すること、そうなれば本件商標は不使用取消の審決を免れないことを認識していたことは明白である。
(iii)平成16年4月23日に被請求人が東京地裁において申し立てた事情変更による保全取消申立事件(平成16年(モ)第5300号)において、請求人は、平成16年7月26日付けの第一準備書面を提出し、前記のような被請求人の過去の陳述及び釈明を指摘した。
そして、その上で、仮処分命令1によって適法に本件商標を使用することができない被請求人が、「商標登録の不使用取消審判の請求を免れる目的で、第三者に対して本件商標権を使用許諾する可能性は非常に高いとの懸念を表明した。
したがって、被請求人はかかる準備書面を受領し、期間が経過すれば請求人が不使用取消審判を請求することを了知していた(甲第15号証)。
工)小括3
以上のとおり、仮に被請求人が平成16年10月14日ないし同年11月3日までの期間、本件商標を使用した商品を宣伝・販売した事実があったとしても、それは、本件審判の請求前3月から本件審判請求の登録の日までの間の行為であって、かつ、被請求人が本件取消審判を請求することを知った後であることは明らかであるから、商標法50条3項のいわゆる「駆込み使用」に該当し、同法50条1項に規定する登録商標の使用には該当しない。
(3)名目的な使用であること
仮に万一、被請求人が提出した乙各号証によって被請求人による本件商標の使用が立証されたとしても、それは単に不使用取消審判を免れる目的で名目的に商標を使用したものに過ぎず、以下のとおり、登録商標の使用と評価されるべきではない。
(ア)商標法50条2項不使用取消審判の請求があった場合、当該審判請求の登録前3年以内における登録商標の使用をしていることを被請求人が証明すれば、商標登録の取消を免れると規定する。
しかしながら、単に不使用取消を免れるためだけの名目的な使用の行為があっても使用とは認められない(特許庁編「工業所有権法逐条解説(第16版)」1044頁)。
裁判例においても、東京高裁の平成5年11月30日判決(東京高裁平成4年(行ケ)第144号・平成5年(行ケ)第168号)は、不使用取消審判の請求を受けた原告が登録商標を使用した証拠として、原告が新聞に掲載頒布した広告を提出した事案において、「単に不使用取消の審判を免れる目的で名目的に商標を使用するかのような外観を呈する行為があっただけでは、改正前商標法2条3項3号にいう商品に関する広告に標章を付して展示または頒布する行為には該当せず、したがって、同法50条による不使用取消の審判請求を免れることは出来ないと解すべきである」と判示した上で、「本件広告は専ら不使用取消を免れるために名目的に本件商標を附した広告が頒布されたような外観を与えるためになされたに過ぎない」と判断している(甲第16号証)。
(イ)被請求人が提出した乙各号証によって、仮に被請求人が主張する商標の使用行為が立証されたとしても、以下の(a)ないし(c)の事情に鑑みると、被請求人は、単に不使用取消の審判を免れる目的で名目的に商標を使用するかのような外観を呈する行為をなしたに過ぎないというべきである。
(a)被請求人は、不使用取消審判の請求があれば、本件商標の取消を免れないと認識していたこと。
さらに被請求人は、平成16年1月28日における本案判決に対する控訴審の弁論期日においても、裁判長による釈明に対し、「請求人によって商標の不使用取消を請求される可能性があるので、使用の必要がある」と述べていること。
これらの陳述及び釈明において、被請求人は、仮処分命令が被請求人に送達された平成13年12月14日から起算して3年が経過すれば、本件商標は不使用取消の審決を免れないと認識していたこと及び「実害を生じない程度の」名目的な商標の使用をすることによって不使用取消を免れる意図を有していることを自認している。
(b)さらに、被請求人の広告は、本件商標と指定商品の関係が不明な漠然としたものであること。
(c)被請求人による本件商標を付した商品の実質的な販売の事実はなかったこと。
また、前記のとおり、(i)被請求人は全国200ヶ所に及ぶ販売拠点を有しているにも関わらず、被請求人による当該販売行為がファミリアポケット三田店1店舗の一角で行われたにすぎないこと、(ii)当該販売行為が20日間という極めて短い期間に限定された単発のものに過ぎず、恒常的な販売行為ではないこと、(iii)販売された商品の種類・数量が極めて限定されていること、(iv)当該販売行為に先立つ宣伝活動としての広告は、神戸新聞一紙の地方欄に一度、単発で掲載されたに過ぎない。
以上のとおり、被請求人が主張するような販売・宣伝行為があったと仮定しても、それは単に不使用取消の審判を免れる目的で名目的に商標を使用するかのような外観を呈する行為をなしたに過ぎないから、これをもって本件商標の取消を免れることは許されない。
(4)違法な使用であること
被請求人が提出した乙各号証によって、被請求人による本件商標の使用が立証されたとしても、かかる使用は違法な使用であって登録商標の使用として顧慮するべきではない。
(ア)商標法50条2項は、不使用取消審判の請求があった場合、当該審判請求の登録日前3年以内における登録商標の使用をしていることを被請求人が証明したときは、商標登録の取消を免れると規定している。
しかしながら、ここでいう登録商標の使用とは、適法な使用をいうのであって、法律に違背した使用行為をもって商標権者が不使用による取消を免れて商標登録を維持することは許されない。万一国家が違法な使用を法律上の「使用」と認めることになれば、法の自己矛盾となる。
裁判例においても、東京高裁昭和36年4月11日判決(昭和35年(行ナ)第41号)は、散薬、錠薬を指定商品とする「バナヂン」という商標登録について、商標不使用の証拠として、「バナヂン」なる商標を付した医薬品について製造登録及び公定書外医薬品としての許可がされたことがない旨の厚生省薬務局による証明書が提出された事案において「いやしくも本件商標の指定商品の製造については法律による許可を得る必要がある…かりに法律に違背した製造、販売等がなされたとしても、右の行為は登録商標の正当な使用として顧慮するにあたらない」と判示した。
そして、法律による医薬品の製造許可の有無は必ずしも事実上の営業の有無を立証するに足るものでないから、これのみを持って本件商標が使用されていないと断定できないとした審決を取消している(甲第17号証)。
(イ)前述の2(1)に述べたとおり、被請求人は、平成13年12月14日以降は仮処分命令により、平成16年9月21日以降は確定した本案判決により、ピーターラビット表示をその商品に付することを禁止されている。
仮に、被請求人が主張するように、被請求人が使用商標1ないし4を付した商品を製造し、平成16年10月15日ないし同年11月3日までの期間、使用商標1ないし4を使用した商品を販売・展示し、その包装及び広告に使用したのであれば、かかる商標の使用は確定した本案判決に違反した重大な違法行為である。
以上のとおり、被請求人は、本件審判請求の登録日前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が、請求にかかる指定商品についての本件商標の使用をしたことを何ら立証していない。
百歩譲って、被請求人が主張するような商標の使用行為があったとしても、それは単に不使用取り消しを免れるための名目的な登録商標の使用にすぎないし、また、駆け込み使用に該当するものである。
さらに、それは確定した司法判断を無視した違法な使用であって登録商標の正当な使用として顧慮するに当たらない。
したがって、いずれにしても本件商標登録は商標法50条1項の規定により取消を免れることが出来ないから、弁駁の趣旨のとおりの審決を求めるものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。と答弁し、その理由及び請求人の弁駁に対する答弁を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第26号証(枝番を含む)を提出している。
1 答弁の理由
(1)審判請求の登録前3年以内の使用について
請求人は、平成16年12月13日に本件商標について不使用取消審判の請求を行い、同17年1月6日に審判の請求が登録された(乙第1号証)。
そこで、以下、審判請求の登録がなされた平成16年12月13日(同17年1月6日の誤り)前3年以内の平成13年12月14日以降において、商標権者である被請求人が行った本件商標の使用について述べる。
(2)商標の使用(その1)
被請求人は、平成16年5月19日に日本繊維新聞第6面に広告を掲載している(乙第3号証)。このときに使用された商標(以下「使用商標1」という。別掲B参照)は、本件商標と社会通念上同一である。
そして、この新聞広告は、請求人商品と被請求人のオリジナル商品とを混同しないよう注意を喚起するとともに、被請求人のオリジナル商品の写真を掲載した上で、それを広告宣伝する内容である。したがって、これは商標法2条3項8号の「商品に関する広告」に該当する。以下、使用商標1の使用について具体的に述べる。
(ア)使用商標1と本件商標の同一性
使用商標1は、片仮名「ピーターラビット」を横書きで一段に表記したものであるのに対し、本件商標は、片仮名「ピーターラビット」と欧文字「PETERRABBIT」を横書きで上下二段にして表記したものである。
しかし、「ピーターラビット」は、「PETERRABBIT」の称呼を片仮名で表したものであることは明らかであり、また、本件商標の片仮名部分「ピーターラビット」と使用商標1の「ピーターラビット」は、文字の態様も全く同じである。
したがって、使用商標1は本件商標と「社会通念上同一」の商標である。
(イ)「指定商品」についての使用
新聞広告では、「当社所有のピーターラビット商標」として、本件商標の登録番号を挙げるとともに、商品の分類、指定商品が記載され(乙第3号証)、また、上記広告の上段には、衣料をはじめ被請求人のオリジナル商品の写真が掲載されている。
(3)指定商品における商標の使用(その2)
被請求人は、平成16年10月15日から同年11月3日までの間、その直営店であるファミリアポケット三田店(乙第4号証)において、(ア)長袖Tシャツ(イ)エプロン(ウ)タオル(エ)クッション(オ)フキン(カ)トイレットペーパーホルダー(キ)マガジンラック(ク)テーブルクロス(ケ)バッグ(コ)巾着(サ)ペンケースなどのオリジナル商品に、欧文字「PETERRABBlT」(ゴシック体)(以下「使用商標2」という。別掲B参照)または欧文字「PETERRABBIT」(明朝体様)(以下「使用商標3」という。別掲B参照)の表示を付して、販売を行っている(乙第5号証)。
また、被請求人は、商品を販売した際には、商品を紙袋などにより包装した上に欧文字「Peter Rabbit」(以下「使用商標4」という。別掲B参照)と付されたリボンで包装を行っていた。
このときに使用された使用商標2、3及び4は、いずれも本件商標と社会通念上同一である。
そして、使用商標2、3は、被請求人のオリジナル商品に付されて販売されているので、商標法2条3項1号前段の「商品に標章を付する行為」または同条項2号の「商品に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示」する行為に該当するのは明らかである。
以下、使用商標2、3及び4の使用について具体的に述べる。
(ア)宣伝・販売状況
まず、上記期間での販売開始前日の平成16年10月14日に神戸新聞朝刊第28面に広告が行われた(乙第6号証)。また、チラシ(乙第7号証)が作成、配布され、三田店内の陳列棚にも展示された(乙第5号証写真 参照)。さらに、上記各商品についてカタログ(乙第8号証)が作成された。
(イ)使用商標2、3及び4と本件商標の同一性
(a)使用商標2は、欧文字「PETERRABBIT」を同一同大で横書きで一段に表記したものである。
これに対し、本件商標は、欧文字「PETERRABBIT」を横書きで一段に表記したもので、先頭の「P」の文字だけが他の文字よりも若干大きくなっており、使用商標2とは欧文字の書体が若干異なる。
しかし、両者は、いずれも欧文字の綴りは共通し、表記の仕方もほぼ同一同大の大きさでなされており、書体以外については、本件商標の欧文字部分をそのまま表したものである。そのため、両者の書体に若干の違いがあったとしても、相違としてはごく僅かであるから、使用商標2の「PETERRABBlT」は、本件商標と「社会通念上同一」の商標である。
(b)また、使用商標3は、欧文字「PETERRABBIT」を横書きで一段に表記したものであり、前述の本件商標の特徴を全て備えている。本件商標の片仮名「ピーターラビット」は、「PETERRABBIT」の称呼を片仮名でそのまま表したものであることは明らかである。
したがって、使用商標3は、本件商標と「社会通念上同一」の商標である。
(c)さらに、使用商標4は、欧文字「Peter Rabbit」を横書きで一段に表記したものであるが、「P」と「RABBIT」のうち「R」以外の文字を小文字で表したものである。
しかし、使用商標4の欧文字部分「Peter Rabbit」は、本件商標の「PETERRABBIT」を各単語の先頭の欧文字だけを大文字にしたまま、それ以外の欧文字を小文字にしただけで、そのまま表したものであることは明らかである。また、頭文字以外を小文字で表記することは、ありふれた普通に行われる程度の変更にすぎない。
したがって、使用商標4は、本件商標と「社会通念上同一」の商標である。
(ウ)「指定商品」についての使用
(a)被請求人は,上記三田店において、そのオリジナル商品である以下の各商品本体に使用商標2、3を付して、展示の上、販売を行っている。これは、上記各指定商品についての使用にあたる。(i)長袖Tシャツ(乙第9号証)使用商標2、(ii)エプロン(乙第10号証)使用商標3、(iii)タオル(乙第11号証)使用商標3、(iv)クッション(乙第12号証)使用商標3、(v)フキン(乙第13号証)使用商標3、(vi)トイレットペーパーホルダー(乙第14号証)使用商標3、(vii)マガジンラック(乙第15号証)使用商標3、(viii)テーブルクロス(乙第16号証)使用商標3ほか。
(b)また、上記長袖Tシャツには、使用商標3が付された「衿ネーム」が縫い付けられていた(乙第9号証の3)。さらに、上記各商品の全てに使用商標3が付された「縫い付けネーム」が付けられていた(乙第9号証の4、乙第10ないし19号証各枝番の3)。
他方、上記各商品の全てには、「吊り札」(乙第9ないし19号証各枝番の2)が付けられ、同「吊り札」には、被請求人名である「familiar」だけを大きく表示するとともに、請求人とは関係がない旨の打ち消し表示をして、被請求人のオリジナル商品であることが明瞭に分かるようにして販売されていた。
そして、「縫い付けネーム」にも、同様の打ち消し表示がなされていた(乙第9号証の4、乙第10ないし乙第19号証各枝番の3)。
(4)前記のとおり、使用商標1ないし使用商標3は、本件商標と社会通念上同一の商標である。
また、上記各商品の包装には、使用商標4が付されたリボンが使用された(乙第20号証各枝番)。(なお、被請求人は、平成17年6月16日付けで提出した答弁書(2)において、上記の包装に使用されたとするリボン(乙第20号証各枝番)は、実際には使用されなかったことが判明した旨答弁の訂正をし、これに関する陳述書(乙第21号証)を提出している。)
(5)まとめ
以上のように、被請求人は、本件審判請求の登録の3年以内に本件商標を使用した事実があるので、本件審判の請求には理由がない。
2 請求人の弁駁に対する答弁
請求人の平成17年4月25日付け弁駁書に対し以下のとおり反論する。
(1)登録商標の使用の適法性
仮処分事件・訴訟事件で差止めの対象となった標章は、債務者表示目録、被告表示目録記載の各標章であるが、具体的事案における各目録記載の標章について差止めが認められただけであり、「PETERRABBIT」ないし「ピーターラビット」の文字一般に差止めが認められたのではない。
他方、本件登録については、請求人への移転登録請求は認められず被請求人の保有が認められており、本件取消審判において、被請求人が使用したと主張する各使用商標は、被請求人が保有を認められた商標であり、差止め対象となった標章とは、書体、構成などが異なるものであるから、本件商標そのものの使用であり適法である。
(2)登録商標の使用の事実
(ア)商品に関する広告についての使用
平成16年5月19日付け日本繊維新聞の広告(乙第3号証)は、商品に関する広告に当たる。
当該広告は、単に会社自体の宣伝、事業活動を紹介するもののみでなく、被請求人の商品を宣伝する広告でもある。すなわち、被請求人は長年に亘り、本件商標を使用した商品を販売しており、そのことは、この広告に触れる需要者にはよく知られている。そして、本件商標が被請求人の登録商標であり、請求人と混同しないように明確に告知するということは、単純に両者の区別について注意を喚起するだけでなく、被請求人の商品を買い求めるようにしてほしいという意味も当然に含んでいるのである。
したがって、当該広告は、被請求人の商品との具体的関係において使用されており、被請求人の商品に関する広告であることは明らかである。
なお、請求人の挙げた裁判例は、商標権者が指定商品に商標を使用しなかった事案であり、本件とは前提となる事実が異なっている。
(イ)本件商標の指定商品への使用
本件商標は、指定商品について使用されており、各商品と指定商品との関係は以下のとおりである。
(a)長袖Tシャツ(被服)、(b)エプロン(被服)、(c)マガジンラック(家具)、(d)テーブルクロス(屋内装置品)ほか。
(3)名目的使用、駆け込み使用ではない
(ア)名目的使用について
日本繊維新聞の広告(乙第3号証)、ファミリア・オリジナル商品の広告・販売(乙第5号証ないし乙第19号証)は、広告が被請求人の商品を現実に販売するために行われたこと、また、現実に各種商品を製作・販売したことは明らかであり、名目的使用とは到底いえない。
単に名目的な使用であるとの請求人の主張が、根拠のないものであることを示すため、実際に販売を行った資料として、発注書、納品書、売上げレシートなどを必要な限度で証拠として提出する(乙第22号証ないし乙第26号証)。
(イ)駆け込み使用について
平成16年10月15日以降の被請求人直営店であるファミリアポケット三田店における本件商標が付された各商品の販売、その前日14日の広告は駆け込み使用ではない。
被請求人は、請求人標章の使用差止め仮処分事件及び同訴訟において、無用の争いを避け、また、被請求人の営業上の信用を守るために、自発的に本件商標の使用を見合わせた。
そして、請求人が述べるように、本件取消審判が請求される前から、被請求人は、本件商標の使用を自発的にやめた後も、使用する意思を有していた。すなわち、今後も本件商標を使用した販売を続けるために、不使用取消とならない程度の使用を行うことを当然に予定していたのである。
本件商標の使用は、事前の計画に基づいて行われたものであり、単に不使用取消を免れることのみを目的としてなされたものではない。また、前述のように名目的な使用でないことも明らかである。
したがって、三田店における使用が、本件不使用取消審判の請求登録前3月以内になるとしても、その使用は事前の計画に基づく「正当理由」がある(商標法第50条3項)。
なお、「審判請求をされることを知った」(第50条第3項)について、本件審判請求が行われるという認識はなかったことも明らかである。
以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がないものである。

第4 当審の判断
本件取消審判の請求に関し、請求人は、本件商標の登録を取り消すべき理由として、概略以下の3点を挙げている。
1 被請求人は、仮処分決定及び確定判決により、「PETER RABBIT」等の表示の使用を禁止されているから、本件商標の使用は違法であり、使用と認められない。
2 被請求人は、本件商標の使用を立証していない。仮に使用が認められるとしても、「駆け込み使用」であり、取り消しを免れない。
3 本件商標の使用は、単に不使用取消審判を免れる目的で、名目的に使用したにすぎず、かかる場合は使用と認められない。
他方、上記請求人の主張に対し、被請求人は、答弁書において、いずれも請求人の主張を否定しているので、以下、これらの点について判断する。
1 仮処分決定及び確定判決により、「PETER RABBIT」等の表示の使用を禁止されているから、本件商標の使用は違法であるとの主張
(1)請求人は、東京地裁に対し、債務者(被請求人)は、債権者(請求人)及び同グループの商品等表示又は営業表示として周知著名な「PETER RABBIT」等の表示を使用している又は使用するおそれがあるから、これは、不正競争防止法第2条第1項第1号、同第2号及び同法第3条第1項に該当し、同表示の使用を差し止めるとの仮処分の申立を行った(平成12年(ヨ)第22063号 不正競争仮処分申立事件)。
そして、平成13年12月7日に、東京地裁は、「1.債務者は、別紙債務者表示目録記載の表示をした商品を製造してはならない。2.債務者は、上記目録記載の表示をした債務者製造に係る商品を譲渡し、譲渡のために展示し、並びにその包装及び広告に上記表示をしてはならない。」との決定を下し、同決定は、同年12月14日に被請求人に送達された。
さらに、請求人は、東京地裁に対し、不正競争防止法に基づく差止請求を提訴し(平成12年(ワ)第14226号 不正競争行為差止請求事件)、その結果、「1.被告(被請求人)は、別紙被告表示目録記載の表示を付した商品を製造してはならない。2.被告は、上記目録記載の表示を付した被告製造に係る商品を譲渡し、譲渡のために展示し、並びにその包装及び広告に上記表示を使用してはならない。」等を内容とする判決が平成14年12月27日になされた(同判決は、平成16年9月21日に確定した。)。
(2)そこで、上記事情のもと、被請求人が本件商標と社会通念上同一と認められる商標をその指定商品に使用した場合、かかる使用は違法な行為であり、使用と認められないか否かについて判断する。
商標法第50条不使用取消審判は、本来、商標法上の保護は商標の使用により蓄積された信用に対し与えられるのであるから、一定期間登録商標を使用しない場合は、信用が発生しないか又は信用が消滅して保護の対象がなくなり、これに独占権を与えておくのは国民一般の利益を不当に害し、かつ、使用希望者の商標選択の余地を狭めるから、請求により、これを取り消そうというものである。
したがって、商標権者が取消を免れるためには、商標権者又は専用使用権者等が、一定期間内に使用していることを立証する必要があるところ、当該使用が違法な使用であったり、あるいは虚偽に基づく使用であったような場合についてまで、当該商標権を保護する必要はないものと解するのが商標法第50条の趣旨からも相当であり、よって、かかる場合は、登録の取り消しを免れないものというべきである。
これに関連し、裁判例においても、たとえば、東京高裁昭和36年4月1日判決言い渡し(昭和35年(行ナ)第41号)は、「登録商標の指定商品である『散薬、錠剤』の製造については、薬事法の規定により、製造許可が必要であり、その製造許可がなされないまま、つまり、法律に違背した製造・販売がなされたとしても、右の行為は、登録商標の正当な使用として顧慮するに値しない。」として、登録商標の不使用の事実を認めない、とした審決を取り消している。
そこで、本件についてみるに、本件は、不正競争防止法に基づく仮処分決定及び確定判決により、「PETER RABBIT」、「ピーターラビット」等の表示の使用が禁止されていたのである。
したがって、前記判例において判示された、法律で使用を禁止された状況にある登録商標の使用が使用として顧慮するに値しないのと同様に、たとえ、商標権者といえども、仮処分決定及び確定判決により使用を禁止されている「PETER RABBIT」等の表示を被請求人(商標権者)が使用したとしても、これを正当な使用として認めるべき合理的な理由はないものといわなければならない。
これに対し、被請求人は、仮処分及び訴訟事件で差止めの対象となったのは、債務者目録等の表示であり、被請求人の使用商標は、被請求人が保有を認められた商標で、その書体、構成が異なるから適法である旨主張している。
しかしながら、債務者目録等の表示と本件商標及び使用商標は、極めて酷似する態様からなるものであり、仮に差止め対象となった債務者目録等の表示と酷似する商標の使用が許されるとするならば、仮処分決定や確定判決そのものが、ほとんど効力のないものとなってしまうから、結局、この点に関する被請求人の主張は採用することができない。
してみれば、被請求人の使用商標は、仮処分決定及び確定判決で使用を禁止されている債務者表示目録等記載の商標と酷似し、また、本件商標と社会通念上同一の商標ということができ、かかる商標の使用は禁止されているとみるべきであるから、上記使用商標の使用をもって、本件商標を使用していると認定することはできない。
2 被請求人は、本件商標の使用を立証していない。仮に使用が認められるとしても「駆け込み使用」であり、取り消しを免れないとの主張
(1)平成16年5月19日付け日本繊維新聞の広告について
被請求人は、本件商標をその指定商品に使用しているとして、平成16年5月19日付け日本繊維新聞の広告(乙第3号証)を提出している。
そこで、乙第3号証を検討するに、これは新聞広告と認められるが、その構成は、最上段に「familiar」、その下に不鮮明な商品らしき写真、その下に「ピーターラビット(マルアール(R))は、(株)ファミリアの登録商標です。」、その下に小さく「登録商標ピーターラビットの入ったファミリアのオリジナル商品とフレデリック・ウォーン社やコピーライツグループの商品とは、何ら関係ありませんので、混同しないように願います。」の表示、さらに、その下の四角形の枠内に「当社の所有するピーターラビット商標」として、登録商標NO.1391892号 第16類「織物等」ほか5件の登録商標を表示し、最下段には大きく「株式会社ファミリア」の表示を配してなるものである。
そうすると、被請求人が、「ピーターラビット」の登録商標を所有していること及びその登録番号、フレデリック・ウォーン社やコピーライツグループの商品と混同しないための注意喚起等の表示は窺われるものの、本件商標をその指定商品である「マガジンラック、テーブルクロス」等の具体的な商品についての広告であるとはいえないものと判断するのが相当である。
したがって、上記乙第3号証によっては、本件商標をその指定商品に使用しているものとはいえない。
(2)乙第4号証ないし乙第19号証(枝番を含む)について
被請求人は、平成16年10月14日発行の神戸新聞において、同年10月15日から同年11月3日まで、「ファミリアウインターコレクション2004」と称するイベントを開催することを広告したと認められる(乙第6号証の1)。
そして、乙第8号証は、商品カタログであり、作成日は2004年10月13日であること、上記イベント用として作成したものと推認されること、該商品カタログで紹介されている商品中には、本件指定商品に包含される「マガジンラック、テーブルクロス」が表示され、その下部に「760007 ピーターラビット マガジンラック 000 QQ ¥2,000」、「760008 ピーターラビット テーブルクロス 000 QQ ¥3,500」と記載された商品が掲載されていること等から、本件商標と社会通念上同一の商標を本件審判請求前3年以内に本件商標権者がその指定商品に使用していることが窺われるものである。
したがって、前述の1(2)でいう正当な使用と認められない点を除けば、本件商標をその指定商品に使用していないとまではいうことができない。
(3)本件商標の使用が「駆け込み使用」であるとの主張
請求人は、被請求人の提出に係る乙第5号証ないし乙第20号証(枝番を含む)について、いずれも、平成16年10月14日ないし同11月3日までのものであること及び前記した仮処分決定及び本案判決における被請求人の陳述等から、上記期間における被請求人の本件商標の使用は、駆け込み使用であると主張し、他方、被請求人はこれを否定している。
商標法第50条第3項においては、(ア)第1項の審判請求前3月からその審判の請求登録までの間に、(イ)その登録商標の使用が審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したときは、(ウ)その登録商標の使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しない、(エ)「但し、その登録商標を使用したことに正当な理由があることを被請求人が明らかにした場合はこの限りでない、旨規定している。
そこで、本件についてみるに、(ア)まず、本件審判請求日は平成16年12月13日であるところ、その3月前、すなわち同年9月13日から、請求登録日である平成17年1月6日までの使用か否かについては、前述のとおり、被請求人の提出に係る乙第4号証ないし乙第19号証(枝番を含む)は、この期間内の使用と認められるものである。
(イ)次に、登録商標の使用は審判の請求がされることを知っていたことを請求人が証明したか否かであるが、この点について請求人は、以下のとおり述べている。
すなわち、被請求人は、(a)請求人が本件商標の権利移転を求めていたこと(b)仮処分申立事件において、「商品の販売を停止するから差止めの仮処分は必要ない」と主張しながら、不使用取消審判の請求を知っていたが故に「不使用取消審判を受けない程度の実害を生じない使用は、将来、これを行う」と主張していること、(c)裁判長から「PeterRabbitの表示をする必要はないのでは」との釈明に対し、「請求人によって、商標の不使用取消審判を請求される可能性があるので使用の必要がある」と述べていること等をもって、被請求人が、仮処分命令が被請求人に送達された平成13年12月14日から起算して3年が経過すれば、請求人が取消審判を請求すること、そうなれば、本件登録商標は不使用取消の審決は免れないことを認識していたことは明白である。
これに対し、被請求人は、本件商標の使用を自発的に見合わせたのであり、不使用取消とならない程度の使用は当然に予定していた旨述べている。
しかしながら、前述のとおり、被請求人は、平成13年12月7日に仮処分決定がなされ、同月14日にその決定が送達されたから、同日以降、「PETER RABBIT」、「ピーターラビット」等の表示の使用が禁止され、その状態が3年経過すると、すなわち、平成16年12月14日以降、請求人により、不使用取消審判が請求されれば、取り消されることを認識していたことは容易に推認でき、また、このことは、前述の仮処分申立事件における被請求人の陳述等からも窺われるところである。
してみれば、被請求人は、上記の事実を知りつつ、本件審判の請求前3月以内の平成16年10月14日に新聞広告をし、同15日から同年11月3日まで「ファミリアウインターコレクション2004」を開催して、本件商標を使用したものということができ、上記のことから、かかる行為は、商標法第50条第3項でいう、駆け込み使用と推認されても止むを得ないものと判断するのが相当である。
また、これに対する被請求人の答弁も極めて説得力を欠くものといわざるを得ないものであるし、さらに、被請求人が正当な理由を有していたものと認めるべき証左もない。
してみれば、本件商標の使用は「駆け込み使用」と推認せざるを得ない。
3 本件商標の使用は、単に不使用取消審判を免れる目的で、名目的に使用したにすぎず、かかる場合は使用と認められないとの主張
前記1及び2(3)で述べたとおり、そもそも、本件商標の使用は違法なものであって、正当な使用には該当しないものであるし、また、その使用は駆け込み使用と推認し得るものである。
したがって、この上さらに、本件商標の使用が単に不使用取消審判請求を免れる目的をもってした名目的使用であるか否かについて判断するまでもなく、本件商標の登録は前記の理由で取り消されるべきものである。
なお、被請求人は、平成18年2月23日付けで、審理再開の申し立てをし、同日付けで答弁書を提出しているので参酌するも、前記判断に影響を与えるものとみることができないから、審理再開の申し立ては認められない。
4 結語
以上のとおり、請求人の主張並びに同人の提出した甲各号証、及び被請求人の主張並びに同人の提出した乙各号証を総合的に判断すれば、被請求人が本件商標をその指定商品に使用する行為は、そもそも仮処分決定及び本案判決に違背するものであって、これが商標法第50条第1項に規定する登録商標の使用ということはできない。
また、被請求人提出の乙第3号証の新聞広告によっても、本件商標の使用は認められないし、さらに、被請求人の提出したその他の乙各号証で示された証拠は、いずれも、商標法第50条第3項に規定する、いわゆる駆け込み使用と推認し得るものである。
したがって、請求人のその余の請求理由について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第50条第1項の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲A
本件商標

別掲B
使用商標1

使用商標2

使用商標3

使用商標4

別掲「参考資料1」
ピーターラビット表示1

別掲「参考資料2」
ピーターラビット表示2


審理終結日 2005-10-26 
結審通知日 2005-10-31 
審決日 2006-03-15 
出願番号 商願昭51-27532 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (120)
T 1 31・ 12- Z (120)
最終処分 成立  
前審関与審査官 栗原 清一 
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 寺光 幸子
小林 薫
登録日 1980-03-28 
登録番号 商標登録第1412699号(T1412699) 
商標の称呼 ピーターラビット 
復代理人 廣中 健 
代理人 小野 昌延 
代理人 菅 尋史 
代理人 三山 峻司 
復代理人 太田 雅苗子 
代理人 井上 周一 
代理人 鳥海 哲郎 
代理人 小泉 淑子 
代理人 井上 祐子 

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