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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z04
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Z04
管理番号 1149905 
審判番号 無効2005-89127 
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2007-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-22 
確定日 2006-12-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第4638688号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4638688号商標(以下「本件商標」という。)は,「WildRover」の欧文字を横書きしてなり,平成9年11月5日に登録出願され,第4類「自動車用エンジンオイル」を指定商品として,同15年1月24日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用商標
1 請求人が本件無効審判に引用する登録商標は,以下のとおりである。
(1)登録第975507号商標は,「RANGE ROVER」の欧文字よりなり,昭和44年7月16日登録出願,第12類「輸送機械器具,その部品及び附属品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として,同47年8月16日に設定登録,その後,平成16年9月1日にその指定商品を第6類「いかり,金属製ビット,金属製ボラード」,第9類「消防艇,ロケット,消防車,自動車用シガーライター」,第12類「船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品,乳母車,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」,第19類「ビット及びボラード(金属製のものを除く。)」とする書換登録がなされたものである(以下「引用商標1」という。)。
(2)登録第1000337号商標は,「LANDROVER」の欧文字よりなり,昭和45年5月25日登録出願,第12類「輸送機械器具,その部品及び附属品」を指定商品として,同48年2月15日に設定登録され,その後,平成15年12月3日にその指定商品を第6類「いかり,金属製ビット,金属製ボラード」,第9類「消防艇,ロケット,消防車,自動車用シガーライター」,第12類「船舶並びにその部品及び附属品(「エアクッション艇」を除く。),エアクッション艇,航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品,乳母車,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」,第19類「ビット及びボラード(金属製のものを除く。)」とする書換登録がなされたものである(以下「引用商標2」という。)。
(3)登録第1371800号商標は,後掲(1)のとおりの構成よりなり,昭和46年6月28日登録出願,第12類「自動車,自動車の部品および附属品,その他本類に属する商品」を指定商品として,同54年2月22日に設定登録されたものである(以下「引用商標3」という。)。
(4)登録第1371801号商標は,後掲(2)のとおりの構成よりなり,昭和46年6月28日登録出願,第12類「自動車,自動車の部品および附属品,その他本類に属する商品」を指定商品として,同54年2月22日に設定登録されたものである(以下「引用商標4」という。)。
(5)登録第2048321号商標は,「RANGE ROVER VOGUE」の欧文字よりなり,昭和60年11月22日登録出願,第12類「自動車,その他の輸送機械器具,その部品および附属品」を指定商品として,同63年5月26日に設定登録されたものである(以下「引用商標5」という。)。
(6)登録第3000488号商標は,後掲(3)のとおりの構成よりなり,平成4年5月25日登録出願,第37類「自動車の修理又は整備,二輪自動車の修理又は整備」を指定役務として,同6年7月29日に登録されたものである(以下「引用商標6」という。)。
(7)登録第4085102号商標は,同じく後掲(3)のとおりの構成よりなり,平成8年5月9日登録出願,第12類「自動車並びにその部品及び附属品,自動二輪車並びにその部品及び附属品,陸上の乗物用の動力機械器具」を指定商品として,同9年11月21日に設定登録されたものである(以下「引用商標7」という。)。
(8)登録第4122090号商標は,「LAND ROVER」の欧文字よりなり,平成8年5月10日登録出願,第37類「自動車の修理・保守又は整備,自動二輪車の修理・保守又は整備」を指定役務として,同10年3月6日に登録されたものである(以下「引用商標8」という。)。
(9)登録第4177982号商標は,「LAND ROVER」の欧文字よりなり,平成8年5月10日登録出願,第41類「自動車の構造・四輪駆動技術・操作方法・地図読取り・安全及び環境問題に関する知識の教授,自動車運転の教授,自動車に関するオフロード競技・その他の競技の企画・運営・又は開催」を指定役務として,同10年8月14日に設定登録されたものである(以下「引用商標9」という。)。
(10)登録第4189762号商標は,後掲(3)のとおりの構成よりなり,平成8年5月9日登録出願,第41類「自動車の構造・四輪駆動技術・操作方法・地図読取り・安全及び環境問題に関する知識の教授,自動車運転の教授,自動車に関するオフロード競技その他の競技の企画・運営・又は開催」を指定役務として,同10年9月18日に設定登録されたものである(以下「引用商標10」という。)。
(11)登録第4334758号商標は,「LAND ROVER」の欧文字よりなり,平成10年1月26日登録出願,第36類「自動車の購入のための資金の貸付け,自動車に関する部品の保証保険の引受け,生命保険の引受け,損害保険の引受け,債務の保証,割賦購入のあっせん,割賦販売利用者に代わってする支払代金の清算」を指定役務として,同11年11月12日に登録されたものである(以下「引用商標11」という。また,これらを一括して「引用各商標」という。)。

第3 請求人の主張
請求人は,「本件商標を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし同第20号証を提出した。
1 請求の理由
(1)請求の根拠
本件商標は,商標法第4条第1項第15号及び同第10号に該当するものであるから,商標法第46条第1項の規定により,無効とされるべきものである。
(2)具体的理由
(イ)本件商標について
本件商標は,「WildRover」の欧文字よりなるものである。
そして,本件商標からは,その文字部分に相応して「ワイルドローバー」の称呼を生ずるものであるが,その構成中「W」の文字と「R」の文字のみが大文字で表記されていることから,それによって看者は,自然に「ワイルド」部分と「ローバー」部分とを区別して認識する可能性も少なくないから,これよりは,前記「ワイルドローバー」の称呼のほか,「ワイルド」及び「ローバー」の称呼も生じるといえる。
また,我が国の標準的消費者層において,「Wild」の語は,「野生の,野性的な」といった意味合いを持つことは,あまねく知られており,「ワイルド(Wild)」の語は,日本語となった外来語として普通に用いられているといっても過言ではない。一方,「Rover」の語は,「放浪者,漂流者」といった意味合いを持つ英語であるが,こうした意味が我が国において一般的に理解されているといった事実は,見受けられず,むしろ,後に述べるとおり請求人及び請求人の提供する著名な自動車の略称を想起させるものである。このような事情から,本件商標は,「ワイルド(野性的)なローバー」といった意味合いで認識されるものである。
(ロ)引用各商標について
引用各商標は,前記のとおりであって,いずれの商標も,請求人の提供する著名な自動車ブランドの名称を表示するものであり,自動車に関連した商品・役務に関して登録を認められたものである。
(ハ)引用商標の著名性について
引用各商標は,請求人が,本国英国はもちろん,その他世界各国で,自動車のブランド名として長年使用している著名商標である。
請求人の提供する商品である自動車には,「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」の主力2ブランドがあり,総じて「ROVER」,「ローバー」と称されることも多い(甲第13号証)。これら「ROVER」シリーズの自動車は,請求人の長年にわたる研究開発及び営業努力により,同社の提供する自動車は質の高い商品として需要者に高い人気を博するに至っている(甲第14号証)。
請求人であるランド ローバー社は,世界で唯一の四輪駆動車専門メーカである。「ランド ローバー」の名を冠したモデルが初めて発売されたのは,1948年であり,以来半世紀以上にわたり,卓越したオフロード性能と英国車伝統の優雅なスタイリングを併せ持つ四輪駆動車の開発を続けてきた。エアバッグや四輪に作動するABS,エア・サスペンションを四輪駆動車に搭載したのも請求人が最初であった。現在も,高速道路から悪路の走破まで幅広く高い走行性能を持ち,イギリス軍の軍用車としても採用されている。また,「ランド ローバー」は,英国の元首相ウィンストン・チャーチルを始め,エリザベス女王の戴冠式にも使用されるなど英国王室にも愛用されてきた。現に,自動車としては,唯一,王室御用達のあかしであるロイヤル・ワラントをエリザベス女王,故エリザベス皇太后,エジンバラ公,そしてチャールズ皇太子の4人の王族すべてから授かった由緒あるブランドである。
1970年,請求人がオフロードの走破性に加えてセダンの快適さを追及して開発したのが「レンジ ローバー」である。1972年には南北アメリ力大陸縦断,1974年にはサハラ砂漠横断を成功させるなどその高い構造性に加え,富裕者層をターゲットにした高級感あふれるインテリアを採用した,いわゆる「プレミアムSUV」の先駆けであり,「四駆のロールスロイス」とも称されている。
(ニ)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は,その審査時に「商標中に自動車及びその部品・附属品のメーカーとして有名な英国『Rover Group Limited(ローバー グループ リミテッド)』社が自己の業務に係る商品に使用している著名な商標『Rover』を一部に有するものであるから,本願商標を上記の会社が取り扱う『自動車』との関連の深い商品である『燃料』等が含まれているその指定商品に使用したときは,あたかも上記会社と経済的又は組織的に何らかの関係があるものの業務に係る商品と誤認させ,商品の出所について混同を生じさせるおそれがある」との認定のもとに拒絶理由通知を受けた(甲第15号証)。その後,出願人は,指定商品を「工業用油」と補正するとともに本件商標と著名商標「Rover」が誤認を生じるものでないことを主張したものの,引き続き同理由により拒絶査定を受けている(甲第16号証)。「Rover Group Limited(ローバー グループ リミテッド)」社は,本件審判請求人の前身であり,このような査定がなされたことは,一旦は特許庁において本件商標の使用が申請人の業務に係るものであるとの誤認を生ずるものであると判断された証左であるといえる。
その後,出願人が請求した拒絶査定不服審判において,本件商標は,「構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されると見るのが自然であり,全体として特定の観念を有さない一種の造語」であるとの認定を受け,登録すべきとの審決がなされた(甲第17号証)。
しかしながら,この判断は,以下の理由から妥当性を欠くものであるといわざるを得ない。
まず,本件商標に係る拒絶理由通知及び拒絶査定に対して,出願人は「Rover」の語を含む他の公告された商標を例に挙げ,本件商標についても同様に登録されるべきであると述べている。しかしながら,いずれもそれらの指定商品又は商標中「Rover」とその他の部分との観念上の結びつきの弱さにより,請求人の業務にかかる商標とは,非類似と判断されたと考えるのが相当であり,本件商標とは,事案を全く異にするものである。
事実,以下の商標については,その使用が請求人を含む「ローバーグループ」と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのごとく,その出所について誤認を生ずるおそれがあるものとして出願を拒絶する旨の査定がなされ,引き続き同査定に対する査定不服審判においても,これらの出願が商標法第4条第1項第15号に該当するとの審決がなされている(甲第18号証・甲第19号証)。
商 標 ROVER MINI
出願番号 平成2年商標登録願第5950号
区 分 旧第17類
指定商品 被服(運動用特殊被服を除く。),布製身回品(他の類に属 するものを除く。),寝具類(寝台を除く。)
商 標 ROVER CLUB
出願番号 平成7年商標登録願第122352号
区 分 第25類
指定商品 ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト
これらの商標中,「MINI」及び「CLUB」は,いずれもその意味合いを広く知られた語であるといえ,さらに,共に用いられる語を修飾,補足する意味合いを持つものであると理解されるところ,これらが「ROVER」と結びついた際は,著名な自動車メーカーである「ローバーグループ」を想起させやすいといえる。すなわち,「ROVER MINI」は,「小さなローバー」,「ROVER CLUB」は,「ローバーの愛好会」といった意味合いを生じさせるのである。
同様に,本件商標に含まれる「Wild」も前述のとおり,よくその意味を知られた形容詞であり,上記の2商標と同様,「Rover」と結びついて「ワイルドなローバー」との観念を容易に生じさせると考えるのが適当である。特に,請求人は,オフロードでの高い走破性を特徴とする四輪駆動車により,熱心な愛好者を集める自動車メーカーとして有名であり,「ワイルド」の語のイメージは,まさに請求人の提供する商品に当てはまるものである。そうとすれば,本件商標が使用された場合,取引者・需要者をして,使用に係る商品が請求人の提供にかかわるものであるかのごとく,あるいは,請求人と何らかの経済的・組織的関連がある者の提供するものであるかのごとく認識され,出所混同を生ぜしめるおそれがあるというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(ホ)商標法第4条第1項第10号について
引用各商標は,上述のとおり請求人の製造・販売に係る自動車に関する商品・役務を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く知られるに至った商標である。
一方,本件商標の指定商品は「自動車用エンジンオイル」であるところ,請求人の業務に係る商品「自動車」と「自動重用エンジンオイル」とは,極めて密接な関係を有する。すなわち,「自動車」の利用者にとって「自動車用エンジンオイル」は,必需品であるとともに,「自動車用エンジンオイル」を購入する者は,必ず「自動車」を所有又は使用するものであり,これらは,需要者を同じくする商品であるといえる。さらに,これらの商品を扱う取引者及び販売系統が同一である場合も少なくない。事実,請求人において調査したところによると,自動車の販売を行うウェブサイトにおいてエンジンオイルも販売されているケース,また,自動車の販売や修理等を行う際にエンジンオイルの交換を行うサービスを提供するケース等,同一の業者が自動車と自動車用エンジンオイルを取り扱うという場合も数多く見受けられた(甲第20号証)。
前出の本件商標に係る拒絶査定不服審判において,本件商標の最終的な補正後の指定商品である「自動車用エンジンオイル」と「自動車及びその部品・附属品」は,「その商品の生産者・取引系統等をも異にするものである」との認定がなされている。しかしながら,この認定は,上述のような取引の実情からあまりにもかけ離れたものであるといわねばならない。
上記のとおり,本件商標は,需要者の間に広く認識されている引用各商標を含むローバーグループ商標の総称・愛称である「Rover」と類似するものであり,かつ,請求人の業務に係る商品「自動車及びその部品・附属品」とは,密接な関係にある類似の商品である「自動車用エンジンオイル」に使用するものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(3)結び
以上,述べてきたところの理由により,本件商標は商標法第4条第1項第15号,同第10号に該当するものであるから,本件商標は,商標法第46条第1項の規定により,無効にされるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
請求人は,被請求人による審判事件答弁書に対し,次のとおり弁駁する。
まず,被請求人は「『ROVER』『ローバー』の文字は,そもそも本件請求人の業務とは関連性が無い」と述べている。確かに現在,請求人とMGローバーグループは,別組織となっているが,両者が共に格式あるローバーグループから生まれた自動車のブランドであること,また,請求人が「ROVER」「ローバー」の文字を含む「LAND ROVER」「ランドローバー」「RANGE ROVER」「レンジローバー」の各商標を冠した自動車を生産する権利を有する者であることは,事実である。したがって,「『ROVER』『ローバー』の文字は,そもそも本件請求人の業務とは関連性が無い」とする被請求人の主張は,失当である。
加えて被請求人は,「『ROVER』『ローバー』の文字は(中略)本件請求人の業務に係る商標として,著名であるということはできない」から,「本件商標が請求人の業務に係る商品と混同をおこすことはない」としているが,少なくとも請求人の提供に係る自動車ブランドである「LAND ROVER(ランドローバー)」「RANGE ROVER(レンジローバー)」が周知であることは,被請求人も認めるところである。そうとすれば,これら両商標が後半の「ROVER(ローバー)」部分を共通にするバリエーションであることから連想して,本件商標「WildRover」も,これらブランドの系列ブランドであると考えられる可能性は,依然として極めて高いといえる。
なお,「ROVER(ローバー)」自体が「MGローバーグループ」の自動車ブランドを示す著名商標であることについても,被請求人の認めるところである。そもそも商標法第4条第1項第15号の目的は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」の登録を禁止することであり,例え,本件商標が請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがなくとも,「MGローバーグループ」の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるとすれば,本件商標が商標法第4条第1項第15号の規定に該当することは,言うまでもない。
また,請求人が提出した商標「ROVER MINI」に対する商標法第4条第1項第15号に基づく拒絶審決(商願平2-5950号,甲第18号証)及び商標「ROVER CLUB」に対する商標法第4条第1項第15号に基づく拒絶審決(商願平7-122352号,甲第19号証)に関し,被請求人は,前者からは「『ローバー社の小型車』としか観念が生じない」とし,後者は「『ローバー愛好会』としか観念が生じ」ないことから,これらに対する拒絶審決は,「当然の審決内容であって,『乱暴な流浪者』や『野生的な流浪者』との特定の観念が生じる本件とは,事案が異な」ると述べている。しかしながら,英単語「Rover」の意味合いが我が国の平均的需要者層において広く理解されているとは考えにくいのに対し,「Wild」の意味合いについては,一般的に理解されていると考えられること,さらに,「ROVER」及び「ローバー」の語の自動車ブランドとしての著名性を考慮に入れれば,本件商標「WildRover」についても「乱暴なローバー(車)」「野生的なローバー(車)」の観念が生じ得る事は,明らかであり,被請求人の主張は,偏ったものであるといわざるを得ない。
また,被請求人は,「『Rover』の文字は,英語として存在する一単語であって,独創性は低く,(中略)複数のものに商標あるいは商標の一部に含む文字として採択,使用される可能性も当然に開かれているべき」と述べている。しかしながら,自動車に関係する商品・役務に関する限り,「Rover」の語は,その著名性ゆえにただの一英単語として考えられるべきではなく,むしろ第三者による商標としての採択,使用は,制限されるべきと考えるのが相当である。
これに関連し,本件商標の指定商品は「自動車用エンジンオイル」であり,被請求人は,現在,当該指定商品に関し本件登録商標を使用している。
これについて,被請求人は,「請求人の業務に係る商品『自動車』と,本件商標に係る商品『自動車用エンジンオイル』は,その商品の生産者・取引系統等をも異にするものであり,互いに非類似の商品である」と述べている。 その一方,被請求人は,乙第23号証(商標「ROVER/ローバー」)及び乙第26号証(商標「ROVER」)を提出し,これらの商標については,「『MGローバーグループ』社の業務上において非常に関連性の深い商品である『車載用レーダー機械器具,バッテリーチャージャー,バッテリー』等の商品を含んでいるにもかかわらず公告・登録されている」と述べている。ここで,「『車載用レーダー機械器具,バッテリーチャージャー,バッテリー』等」がMGローバーグループの業務,つまり,自動車の製造・販売と非常に「関連性」が深いと考えるのであれば,本件商標の指定商品である「自動車用エンジンオイル」は,より「関連性」が深いと考えるのが自然であり,需要者・取引者において混同が生じるおそれがあることは,容易に推認できるはずである。この点においても被請求人の主張は,矛盾しており,正当性に欠けるといわざるを得ない。また,請求人が甲第20号証において示したとおり,自動車と自動車用エンジンオイルは,同一の取引者によって扱われることがあるのも事実であり,これらが互いに非類似の商品であると結論付ける被請求人の主張は,適当ではない。
なお,被請求人の提出に係る乙第12号証ないし乙第22号証,乙第24号証及び乙第25号証の登録については,いずれも請求人の主要商品である自動車とは関連性が薄いと考えられることから,その指定商品が自動車と深く関連付けられる本件商標とは,事案を異にするものである。
以上の理由により,本件商標は依然として商標法第4条第1項第15号及び同第10号に該当し,同法46条第1項の規定により,無効にされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第26号証(枝番号を含む。)を提出した。
答弁の理由
(1)審判請求の内容
請求人は,甲第2号証ないし甲第12号証の引用各商標は,請求人本人の所有に係る登録商標であって,いずれもその態様中に「RANGE ROVER」あるいは「LAND ROVER」の文字を有する登録商標を挙げ,それらが著名商標であるとしている。
そして,引用各商標の著名商標が使用されている請求人の提供する商品「自動車」の主力2ブランドである「RANGE ROVER」と「LAND ROVER」のブランドが,「ROVER」又は「ローバー」と称されていることを理由として本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとしている(審判請求書の項目(2-3)冒頭。)。
また,請求人は,著名であって周知である上記引用各商標を含むローバーグループ商標の総称・愛称である「Rover」と本件商標が類似し,かつ,請求人の業務に係る「自動車及びその部品・附属品」と「自動車用エンジンオイル」が類似の商品であることを理由に,本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当するとしている(審判請求書の項目(2-5))。
なお,請求人の主張においては,請求人の主張する著名商標及び周知商標の対象が曖昧であるが,被請求人は,甲第2号証から甲第12号証の引用各商標と「ROVER」と「ローバー」の商標について,本件請求人が主張しているものとして,答弁する。
(2)商標法第4条第1項第15号及び同第10号について
本件商標は,その審査過程において,「本願商標は,『WildRover』の欧文字を普通に用いられる方法で書してなるところ,商標中に自動車及びその部品・付属品のメーカーとして有名な英国『Rover Group Limited(ローバー グループ リミテッド)』社が自己の業務に係る商品に使用している著名な商標『Rover』を一部に有するものであるから,本願商標を上記の会社が取り扱う『自動車』との関連の深い商品である『燃料』等が含まれているその指定商品に使用したときは,あたかも上記会社と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品と誤認させ,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるから,商標法第4条第1項第15号に該当する」として,拒絶査定を受けたものであるが,拒絶査定不服審判(審判平11-8486)において,拒絶査定は取り消されて,登録すべきものとの審決が下されたという経緯が有る(乙第1号証)。
(3)(2-1)(請求の理由(2)の(イ))に対する反論
本件商標中の「Rover」の文字は,英語として存在する一単語であって造語ではなく,何ら特異性のない既成語であり,しかも本件商標「WildRover」からは,単に「Rover」単独の意味合いとは観念の異なる「乱暴な流浪者」や「野性的な流浪者」といった特定の意味が生じる。よって,本件商標は,その全体として一体的に看取されるので,本件商標から「Rover」部分が分離されて,「Rover」の文字単独で認識されることはない。詳細に述べると,「Rover」の文字は,「さまよう人,漂泊者,流浪人,海賊」等を意味する英語として存在する単語である(乙第2号証:研究社発行,新英和大辞典)。つまり,「Rover」の文字自体は,全くの造語ではなく,既成語である。
本件商標「WildRover」中の「Wild」の文字は,「野生の,野蛮な,乱暴な」という意味を有する英語であり,本件商標全体からは,上記したように「乱暴な流浪者」や「野性的な流浪者」の意味が生じる。また,本件商標の構成も同書同大一連一体に書して成っており,その称呼も「ワイルドローバー」と冗長ではない。よって,本件商標は,その構成全体をもって一体不可分と認識されるので,本件商標から「Rover」部分が分離されて,「Rover」のみをもって出所表示としての識別力を発揮するものではないし,また,本件商標は「Rover」の称呼「ローバー」とは,構成音数が異なるので,称呼上相紛れることもない。
したがって,仮に,請求人の提供する商品「自動車」の主力2ブランドである「RANGE ROVER」と「LAND ROVER」のブランドが,「ROVER」又は「ローバー」と称されているとしても,本件商標は,請求人の業務に係る商品との混同を与えることはないので,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当することはない,また,仮に,「Rover」がローバーグループ商標の総称・愛称であるとしても,上述のとおり,本件商標と「Rover」とは,非類似であるので,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当するものでもない。
また,本件請求人が使用する著名商標「RANGE ROVER」あるいは「LAND ROVER」は,それぞれ「さまよう流浪者」「陸を歩き回る人」との特定の意味合いが生じ,構成全体をもって一体不可分として認識されるので,本件商標と称呼上も観念上も互いに相紛れることはない。
したがって,本件商標は,請求人の業務に係る商品と誤認を与えることはないので,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものではなく,また,引用各商標に類似するものでもないから,本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
(4)(2-2)(請求の理由(2)の(ロ))に対する反論
引用各商標が,請求人所有のものであり,それらの商標中の「RANGE ROVER(レンジローバー)」と「LAND ROVER(ランドローバー)」は,請求人の業務に係る商標として,著名で有ることは,認める。
(5)(2-3)(請求の理由(2)の(ハ))に対する反論
上記のように,引用各商標の商標中の「RANGE ROVER(レンジローバー)」と「LAND ROVER(ランドローバー)」が本件請求人の自動車のブランド名として著名で有ることは認めるが,それらの2つのブランドが,「ROVER」「ローバー」と称されているとして,「ROVER」「ローバー」の文字が,本件請求人の自動車のブランド名として,著名であるという点については,認めない。
というのも,「ROVER」「ローバー」の文字は,1904年に自動車製造を開始したローバー社(その後,ブリティッシュ・レイランド社→ローバー公社→ローバーグループ社→MGローバーグループ社)であり,現在のMGローバーグループ社の自動車ブランドを示す著名商標である(乙第3号証の1,乙第3号証の2)。
よって,2000年以降は,「ROVER(ローバー)」といえば,MGローバーグループ社の業務に係る自動車ブランドを示す著名商標なのであり,MGローバーグループ社と本件請求人は,全く別の会社組織であって,請求人であるランド・ローバー社と「ROVER(ローバー)」単独の標章との間には,現在は,何らの関連性も無いものと考える(乙第5号証の1,乙第5号証の2)。
なお,乙第6号証の1ないし乙第9号証の2のとおり,「ROVER」商標は,現在でもBMW社(バイエリシュモトーレンヴェルケ社)の所有に係るものであって,MGローバーグループ社のみが自社の乗用車のみに使用可能のようであり,請求人の示した甲第2号証から甲第12号証の引用各商標に関してのみ本件請求人に移転されているものであって,「ROVER(ローバー)」単独の商標は,移転されていない。
なお,IPDL(日本国特許電子図書館)の「日本国周知・著名商標検索」では,前記BMW社所有の乙第7号証の登録商標が周知・著名商標として掲載されている。
したがって,請求人の取り扱いに係る自動車ブランド「RANGE ROVER(レンジローバー)」と「LAND ROVER(ランドローバー)」が「ROVER」「ローバー」と称されているとして,請求人は甲第13号証を挙げているが,今後このような誤表記は,自動車ブランドについて歴史的背景や過去の変遷を語る上での表記以外は,正されていくものと考えられるし,なによりも,請求人が,自社の自動車ブランド「RANGE ROVER(レンジローバー)」と「LAND ROVER(ランドローバー)」が「ROVER」「ローバー」と称されていることの間違いを知っているものと考える。
上述のように,「ROVER」「ローバー」の文字は,そもそも請求人の業務とは関連性が無いものであるから,請求人の業務に係る商標として,著名であるということはできない。よって,「ROVER」「ローバー」の文字については,請求人の著名商標ではないので,この点から見ても,本件商標が請求人の業務に係る商品と混同をおこすことはない。
(6)(2-4)(請求の理由(2)の(ニ))に対する反論
請求人は,その審判請求書の項目(2-4)において,「拒絶査定自体が本件請求人の業務に係るものであるとの誤認を生ずるものであると判断された証左で有るといえる。」と主張するが,乙第1号証の審決のとおり,拒絶査定は,取り消されている。
次に,同じく(2-4)において,甲第18号証と甲第19号証の審決例を取り上げているが,甲第18号証の「ROVER MINI」に関しては,その商標中「MINI」部が,「英国における小型車」の愛称として親しまれている事実が有る上で,その「MINI」の文字に小型自動車も製造する著名なローバー社に関係する「ROVER」の文字を冠していることから,全体として「ローバー社の小型車」としか観念が生じないことから,当然の審決内容であって,「乱暴な流浪者」や「野性的な流浪者」との特定の観念が生じる本件とは,事案が異なる。
また,甲第19号証の「ROVER CLUB」に関しては,その商標中「CLUB」部が,「同好会,愛好会」の意味合いで親しまれている英語に著名なローバー社に関係する「ROVER」の文字を冠していることから,全体として「ローバー愛好会」としか観念が生じず,全く異なる特定の観念が生じないことから,当然の審決内容であって,「乱暴な流浪者」や「野性的な流浪者」との特定の観念が生じる本件とは,事案が異なる。
また,上述のように,「ROVER」「ローバー」の文字は,そもそも本件請求人の業務とは関連性が無いものであるから,請求人の業務に係る商標として,著名であるということはできない。
よって,本件商標が請求人の業務に係る商品と混同をおこすことはないので,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(7)(2-5)(請求の理由(2)の(ホ))に対する反論
引用各商標は,本件請求人の製造・販売に係る商品「自動車」を表示するものとして,周知で有ることは認める。しかしながら,本件請求人の業務に係る商品「自動車」と本件商標に係る商品「自動車用エンジンオイル」とは,その商品の生産者・取引系統等をも異にするものであり,互いに非類似の商品である。また,本件商標は,引用各商標とは,既に述べているように非類似である。さらに,本件商標は,ローバーグループ商標の総称・愛称である「Rover(ローバー)」とも非類似である。また,既に述べているように,「Rover(ローバー)」商標は,そもそも請求人の自動車ブランドとは,関連性がないものであるから,請求人の商品「自動車」について,周知な商標であるということはできない。
よって,本件商標が請求人の業務に係る商品を示す商標と誤認混同をおこすおそれはないから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(8)本件商標の使用状況
被請求人は,既に本件商標を「自動車用エンジンオイル」の商品に使用している。
乙第10号証と乙第11号証とは,本願出願人の販売する「自動車用エンジンオイル」4リットル缶と20リットルペール缶であって,本件商標「Wi1dRover」を使用している実際の商品が掲載されている。
この本願出願人の販売する「自動車用エンジンオイル」は,平成9年10月より販売を開始し,現在に至るまで,総数約19万缶を販売している。
このように,長年にわたって本願出願人は,既に「自動車用エンジンオイル」に本件商標を使用しており,本件商標「Wi1dRover」を使用する商品「自動車用エンジンオイル」が本件被請求人の業務に係る商品で有ることは,取引者及び需要者の間に浸透しているものであって,販売開始から現在に至るまで,本件請求人の業務に係る商品と混同を起こしたといった旨の苦情などはなく,現実の市場において本件商標は,本件請求人の業務に係る商品と明確に区別して認識されているものである。

第5 当審の判断
(1)本件商標と引用各商標との類否について
本件商標は,前記したとおり「WildRover」の欧文字を書してなるところ,その構成各文字は,同書,同大,等間隔に書されていて,これよりは,「野性的な流浪者」又は「乱暴な流浪者」程の意味合いをもって看取される「ワイルドローバー」の一連の称呼のみを生ずるものというのが相当である。
これに対し,引用各商標は,前記第2のとおりの構成であるから,各構成文字に相応して,引用商標1からは,「レンジローバー」の称呼を生じ,引用商標5からは「レンジローバー」及び「レンジローバーボーグ」の称呼を生ずるものと認められる。また,引用商標2ないし引用商標4,引用商標6ないし引用商標11からは,「ランドローバー」の称呼を生ずると認められるものである。
しかして,本件商標より生ずる「ワイルドローバー」の称呼と上記の引用各商標より生ずる「レンジローバー」又は「ランドローバー」の両称呼とは,各称呼の前半部において「ワイルド」と「レンジ」又は「ランド」の顕著な差異を有するものであるから,これらの差異が両称呼の全体に及ぼす影響は大きく,称呼上,十分に聴別し得るものである。
また,本件商標と引用各商標とは,それぞれ前記の構成よりなるから,外観上,相紛れるおそれがない程度に相違し,観念においては,両商標は,相通ずるところがない。
そうすると,本件商標と引用各商標とは,その外観,称呼及び観念のいずれの点からしても,非類似の商標といわなければならない。
(2)商標法第4条第1項第15号について
請求人より提出された甲第13号証及び同第14号証は,請求人の提供する自動車を紹介したインターネット上のウェブサイト(写し)と認められるところ,本件商標の登録出願時(1997年)より,はるか後の2005年9月6日に検索(打ち出し)されたものである上,請求人の提供する自動車が「LANDROVER(ランドローバー)」又は「RANGEROVER(レンジローバー)」の車名で需要者間に相当程度知られているとしても,「Rover(ローバー)」と略称されて広く知られるに至ったものとは,認め得ないものであり,かつ,本件商標の指定商品は「自動車用エンジンオイル」のみであって,請求人の業務に係る商品(自動車)とは,その生産・販売部門,原材料等を著しく異にするものであり,加えて,本件商標は,一連一体に把握・認識されるものであって,前記(1)で認定・判断したとおり,引用各商標及び請求人の提供に係る自動車の前記商標等とは,十分に区別し得る非類似の商標といえるものである。また,例え「Rover(ローバー)」が,現在「MGローバーグループ」の自動車ブランドとして広く知られているとしても,不可分一体の構成よりなる本件商標をその指定商品に使用した場合に,請求人及び上記他人の業務に係る商品又は役務と,その出所について混同を生ずるおそれがあるものとは,認められない。
(3)結び
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号又は同第15号のいずれにも違反して登録されたものでないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 (1)引用商標3



(2)引用商標4



(3)引用商標6,引用商標7及び引用商標10



審理終結日 2006-07-10 
結審通知日 2006-07-14 
審決日 2006-07-25 
出願番号 商願平9-174381 
審決分類 T 1 11・ 271- Y (Z04)
T 1 11・ 25- Y (Z04)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田代 茂夫
特許庁審判官 内山 進
柳原 雪身
登録日 2003-01-24 
登録番号 商標登録第4638688号(T4638688) 
商標の称呼 ワイルドローバー 
代理人 玉田 修三 
代理人 田中 克郎 
代理人 大賀 眞司 
代理人 稲葉 良幸 

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