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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y08
管理番号 1145043 
審判番号 無効2005-89112 
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-02 
確定日 2006-10-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第4861844号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4861844号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4861844号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成16年5月18日登録出願、第8類「手動利器」を指定商品として、同17年5月13日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第96号証を提出した。
1 請求の理由
(1)請求人は、個人事業から昭和42年(1967年)3月に、有限会社中屋鋸機械製作所として設立され、平成13年(2001年)6月1日に株式会社中屋に組織変更したものである(甲第1号証)。
業務は、鋸目立機の製造販売と、手引鋸の製造販売を行っている(甲第2号証)。
(2)引用商標の使用形態
(ア)請求人は、商品に引用商標「NAKAYA」(以下「引用商標」という。)を付している。
「BIGシリーズ」においては、柄のシール・背金に表示し、「BIGシリーズ儲龍」においては、背金・牛革グリップに表示し、「プロフェッショナルシリーズ」においては、柄のシール・鋸板に表示し、「ワンダーソーシリーズ」においては、柄のシール・背金に表示し、「快速シリーズ」においては、柄のシール・鋸板に表示し、「両刃鋸鬼刀」においては、背金に表示し、「eaks胴付鋸」においては、柄の帯シール・背金・鋸板に表示し、「仮枠切れ太郎(仮枠用鋸)」においては、柄のシール・鋸板に表示し、「折込鋸」においては、柄のシールに表示し、「万能鋸」においては、柄のシール・鋸板に表示し、「名工シリーズ」においては、柄のシール・背金に表示し、「剪定エキスパート」においては、背金に表示し、「ダブルウイング」及び「洋鋸」においては、鋸板に表示している。(甲第2号証ないし甲第7号証及び甲第10号証ないし甲第12号証)
(イ)商品カタログにマーク(社標)と一緒に引用商標を付している。
(ウ)商品包装についても、「BIGシリーズ」、「ワンダーソーシリーズ」、「快速シリーズ」、「両刃鋸鬼刀」、「eaks胴付鋸」、「万能鋸」、「名工シリーズ」、「剪定エキスパート」、「ダブルウイング」の各商品において、ダース単位の包装箱には、引用商標が表示され、また、各個別の商品及び鋸板の包装紙にもマーク(社標)と一緒に引用商標を表示され(甲第13号証)、「eaks」の帯シールにも引用商標が表示されている。
(3)引用商標の周知性
(ア)引用商標の識別性
(a)「中屋」との関係
引用商標は、「中屋」のローマ字表記であると認めることができるものであり、「中屋」は、鋸生産者の屋号として広く使用されている。
「中屋」の屋号の起源は不明であるが、例えば「中屋伊之助」のように著名な鋸職人も知られており、「中屋・・」という鋸の銘は広く使用されていた。これは親方から独立した職人が新たに「中屋・・」と自ら製造した鋸に銘を刻むようにして、この「中屋・・」が広く使用されるに至ったものと推測できる(甲第14号証)。
従前から鋸の商標として「中屋・・」は多数存在していた。現在の商標登録をみると、「中や貞五郎作」(登録第202231号)、「中屋丈右エ門」(登録第387173号)、「中屋義兵衛作」(登録第496440号)、「中屋定一郎」(登録第852064号)などが認められる。このように「中屋」は、鋸職人の屋号というべきものであり、「中屋」自体には識別性が認められない。
しかしながら、「中屋」は、伝統的な屋号であることから、通常は、「漢字」で表示されている。引用商標は、「アルファベット文字」で表示されたもので、通常の屋号の使用とは認められない独自の表現形式である。しかも、他の鋸製造業者において、「中屋」を単独で使用するようなことはなかった。
したがって、引用商標は、充分に特別顕著性を備えている。
(b)使用による識別性の獲得
また、引用商標が、商標構成自体には特別顕著性が認められないと仮定したとしても、後述するようにその使用によって、引用商標は、請求人の業務に係る商品を示すものとして、広く認識されているものであから、自他商品識別性を獲得したものである。
(イ)継続的使用及び新聞などによる宣伝広告
請求人の製造販売する鋸は、その新発売などについて、多数の新聞で紹介される(甲第16号証ないし甲第31号証)ことから、業界において注目を浴びていると認められ、引用商標を使用した商品は、昭和時代(甲第2号証及び甲第29号証)から現在(甲第13号証)に至るまで、製造販売されているものである。
また、請求人は、新聞広告において積極的な宣伝も展開している(甲第32号証ないし甲第50号証)。なお、近年の日本刃物工具新聞の広告は、月3回、年36回の掲載で契約をしている。このほか、平成8年(1996年)7月から1年間、JR東3条駅改札口前に、引用商標を表示した看板広告を出し(甲第51号証)、引用商標及び請求人の商品を表示した1987年(昭和62年)版のカレンダーを配布した(甲第52号証)。
請求人は、毎年、小売店向け営業活動(販売促進キャンペーン)を展開している。特に秋季の「新米(コシヒカリ)プレゼントセール」は、昭和57年から平成16年の間、毎年実施(昭和63年は未実施)している(甲第53号証ないし甲第73号証)。チラシには、引用商標が表示されており(甲第53号証を除く。)、また、甲第61号証ないし甲第67号証及び甲第70号証のチラシには、引用商標が使用されている商品が表示されている。
さらに、請求人は、前記キャンペーンの他、「プレゼントセール」、「キャッシュバックセール」、「消費税還元セール」、「新春セール」、「盛夏セール」等の各種キャンペーンを行い、そのチラシには、引用商標が表示されているものである(甲第74号証ないし甲第82号証)。
以上のとおり、本件商標出願時の平成16年5月以前において、既に請求人商標は、新商品としての新聞紹介記事、新聞広告、販売キャンペーンの実施等によって、需要者(販売末端である小売業者、切れ味に着目する大工職人等)に請求人の業務に係る商品であることを示すものとして広く知られていたものである。
(ウ)請求人自体の業界での著名性
請求人は、鋸メーカーであると共に鋸機械のメーカーでもある。鋸機械(目立機)については、昭和46年に「中屋式万能目立機」を発売開始以来、種々の改良を加え、製造対象の鋸構造に合う新型機械を順次開発販売してきた(甲第83号証ないし甲第93号証)。
現在においては、全国の鋸メーカー・目立業者129業者中127業者が請求人の機械を購入し使用している(甲第94号証のリスト参照)。
請求人は、鋸目立機のトップメーカーであり、業界においては著名な企業であり、当該機械やカタログには、引用商標が付されている。そして、請求人は、鋸製造機械ばかりではなく、鋸メーカーであることも知られているので、鋸製造業界では、引用商標は、商品「鋸」においても周知であるといえる。
(エ)被請求人自体の認識(不正競争行為)
甲第95号証は、日本欧和有限会社の中国向けカタログである。このカタログ製作者(使用者)と被請求人は同一所在地である。さらに、カタログに形成されている別掲(2)に示すとおりの商標(以下「A商標」という。)は、本件商標の一部である。したがって、該カタログの製作者(使用者)は、実質的に被請求人と同一人であるといえる。
また、該カタログに使用されている別掲(3)に示すとおりの商標(以下「B商標」という。)は、請求人の登録商標(登録第3088956号)である。もちろん、請求人は、該カタログへ引用商標の使用は不承知である。
更に、該カタログの最終頁の企業紹介の欄では、「NAKAYA」ブランドは、有名ブランドであることを述べており、カタログの表紙の請求人登録商標の表示から、被請求人自体が、引用商標が請求人の業務を示す商標として周知であることを自認しているものである。
(オ)したがって、商品「鋸」において、引用商標「NAKAYA」は、請求人の業務に係る表示であることは、少なくとも、本件商標の出願日である平成16年5月18日以前に、需要者(直接商品を仕入れ販売する末端小売店、大工職人)に広く知れわたっていたものである。
(4)引用商標と登録商標の類似
本件商標は、その商標の構成に引用商標が含まれているものであり、「NAKAYA」の部分は、自他商品識別性を備えているので、本件商標と請求人商標とは類似する。
また、引用商標は、商品「鋸」に使用されているものであり、本件商標の指定商品「手動利器」に含まれる。
(5)結 語
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似し、請求人の業務に係る商品について使用するのであるから、商標法第4条第1項第10号の規定に違背して登録されたものである。よって、無効とされるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)引用商標の自他商品識別性
(ア)使用による識別力の獲得
仮に、「中屋」がありふれた氏名・名称であったとしても、商標法第3条第2項に、当該商標の使用によって自他商品識別性を獲得した場合には、当該商標の登録が認められると規定されているとおり、使用によって自他商品識別性が獲得(登録)できることは周知の事項である。
引用商標も、その永年使用によって、「中屋」が鋸業界において、ありふれた名称であっても、「中屋」の名称を使用している他の同業者と明確に区別できた場合には、当然、自他商品識別性を備えることになり、「中屋」がありふれているから、そのローマ字表示「NAKAYA」が商品識別性を獲得できないとの被請求人の主張は、誤りである。
(イ)引用商標のローマ字表示の特異性
被請求人提出に係る乙各号証を詳細に検討すると、鋸の商標として使用される「中屋」の名称の形態は、「中屋○○」のように単独での使用ではなく、鍛冶職人の氏名(屋号+名〈鋸の銘〉)としての使用されているのが一般的である。
また、前記以外の「中屋」の使用例は、乙第24号証及び乙第25号証の「株式会社中屋」(請求人)、乙第27号証の「有限会社中屋」や、電話番号から検索したとして提示されている「中屋鋸店」「中屋刃物店」などが見受けられる。
しかし、被請求人が提出した乙号証等において、ローマ字表記の「NAKAYA」を使用しているのは、請求人のホームページだけである。
そして、本来、「中屋」は、鍛冶職人の所定の系列(師弟関係)を示す名称(屋号)であり、使用対象も「和鋸」であり、その商品イメージから、表示においても「中屋」(一部「中や」がある。)として漢字で表示するのが一般的であり、現実にも、そのような漢字表記で使用されている。「和鋸」に使用する商標として、ローマ字表示は馴染みが薄いといえる。
しかし、請求人は、あえて自己の製造販売する「和鋸」に「NAKAYA」の表示を使用したものである。これは特に、請求人の鋸目立機械の商標と同一の商標を使用したことによるものである。
したがって、引用商標は、使用商品について一般的にローマ字が採用されておらず、かつ、他の「中屋」を使用している当業者は、ローマ字表示を使用している事実は認められないので、引用商標は、ローマ字で表示するという特異性を備えている。
(ウ)引用商標の使用による自他商品識別性の獲得
昭和56年から現在までの間に、甲第16号証ないし甲第82号証に示すとおり、請求人は商品「鋸」に引用商標を使用しており、かつ、請求人の商品は業界において注目されていた商品であり、本件商標の登録出願時には、その使用によって自他商品識別性を獲得したと認められる。
引用商標の使用が全く認められない乙第1号証ないし乙第32号証(請求人の使用である乙第24号証及び乙第26号証を除く。)は、引用商標の自他商品識別性の獲得を否認する証拠とはならない。
(2)引用商標と本件商標の類似
(ア)被請求人は、本件商標について、「本件商標は 『W図形、NAKAYA、中屋、三倍速』と一体不可分に融合している結合商標である。」と述べ、更に、「本件商標において、要部は『W図形』であり、他の構成部分は付記的部分とすべきである。」と主張をしている。
また、商標の類否について、被請求人は、「外観において両者が互いに類似すると考えられる要素はないし、称呼及び観念においても両者が互いに類似すると考えられる要素はまったくない。すなわち、本件商標と引用商標との関係において、比較する商標の有する外観、称呼又は観念により判断したとき、それらの一つにおいても、相紛らわしいと考えられる要素はない。」と主張している。
しかしながら、本件商標は、「W図形、NAKAYA、中屋、三倍速」で構成されており、商標の類否判断は、被請求人の主張の前提である「結合商標」自体の考察が必要であり、また、相紛らわしいか否かの点についても、取引の実情等を考慮して考察されるべきである。
すなわち、商標類否の判断は、取引の実情に照らして、具体的、個別的にするほかはなく、その性質上、まず一般的基準を定めてこれを機械的に適用することによってなし得るものではないし(最高裁昭和43年10月29日第3小法廷判決:昭和43年(行ツ)58号参照)、そして、商標の類否は、商標が取引において所定の者の業務に係るものであることを表象するために使用されるものであるから、当該商品に使用した場合に、取引者や需要者の間に混同誤認を引き起こすおそれがあるかによって決定されるものである。
(イ)そこで、本件商標を観察して見みると、本件商標は、「W図形」と上下二段に表記された「NAKAYA」、「中屋」と、やや大きく表記された「三倍速」を横列にして記載されている。
すなわち、単に横列に表示されているに過ぎず、全体が統一感のある一体性をもって構成されているとはいい難い。
したがって、被請求人の「『W図形、NAKAYA、中屋、三倍速』と一体不可分に融合している結合商標である。」との主張は、事実認定に誤りがある。
本件商標については、「W図形」、「NAKAYA」、「中屋」、「三倍速」の各構成が、それぞれ個別に需要者・取引者に認識される可能性が高いと認められる。
(ウ)引用商標との類否
引用商標は、前記したとおり、本件商標登録出願時には、請求人の業務に係る商品「鋸」であること示すものとして、需要者・取引者に認識され、自他商品識別性を獲得しているものである。
してみれば、本件商標中に、引用商標と実質的同一の「NAKAYA」が、独立して認識される構成で含まれているものであるから、「NAKAYA」の文字部分から、請求人の業務と関連があると需要者・取引者に認識されるおそれがある。
したがって、本件商標をその指定商品中「鋸」に使用すると、請求人の商品と出所混同のおそれがあることは明らかであり、本件商標と引用商標は類似する。
(3)その他の事項
被請求人は、甲第95号証及び甲第96号証について、「請求人会社と株式会社ナカヤと被請求人との三者面談において、中国国内における請求人に係る前記B商標の商標権の取得も、その使用についても、許諾がなされていたのである。」と述べているが、請求人は、許諾していない。
被請求人は、請求人が引用商標を使用していることを充分に認識し、かつ、引用商標が周知であることも認識して(甲第96号証から充分に裏付けられる。)、本件商標を出願したものであり、商品の機能・品質を表示する「三倍速」は付記的部分といえるが、「中屋○○」のような出所表示機能を有する構成を採用せずに、態々(被請求人の主張によると)意味の無い「中屋」「NAKAYA」を付記すること自体、請求人の業務に係る商品との混同を意図したとしか推測ができない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第36号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号の規定について
本号は、登録商標が,「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品又はこれに類似する商品について使用をするもの」に該当する場合には、登録を受けることができないという規定である。
したがって、本件における本号規定の適用要件としては、(a)引用商標が、「請求人の業務に係る鋸を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」に当たるか否か、(b)本件商標が、「引用商標に類似する商標」に当たるか否かが問題となる。
2 本件商標と引用商標の類似について
(1)引用商標の「NAKAYA」が、商標法第3条第1項第4号に規定される、ありふれた氏に該当する商標であることは、顕著な事実であり、そうである以上、引用商標が、「請求人の業務に係る鋸を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」となり得ることはあり得ないと判断しなければならない。
したがって、上記(a)の適用要件は、阻却されることになる。
(2)請求人は、本件商標と引用商標とは類似する、と主張している。
商標の類否判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を基に総合的に考察しなければならない。本件商標は、「W図形、NAKAYA、中屋、三倍速」を一体不可分に融合してなる結合商標であるところ、外観において、両商標が互いに類似すると考えられる要素はないし、称呼及び観念においても、両商標が互いに類似すると考えられる要素はまったくない。
すなわち、本件商標と引用商標との関係において、比較する商標の有する外観、称呼又は観念により判断したとき、それらの一つにおいても、相紛らわしいと考えられる要素はない。
この点、請求人は、本件商標中に引用商標が含まれているという一点を根拠とし、一方的に両商標は類似すると決めつけているが、本件においては、本件商標の一部に含まれる構成の面だけからみて類似の商標と判断するのではなくて、全体の外観、称呼及び観念上をも含めて総合的に考察して、両商標の類否を判断すべきである。本件商標において、要部は、W図形であり、他の構成部分は、付記的部分とすべきである。
したがって、本件商標と引用商標とは、互いに類似する関係にはなく、上記(b)の適用要件も阻却されることになる。
3 事情
仮に、請求人が主張するように、商標「中屋」が鋸職人の屋号、従前からの鋸の商標としては、何ら周知性が認められないとするならば、商標「中屋」は、もはや鋸における慣用商標というべき商標ともいえる。この慣用商標を単にローマ字化してなる引用商標が、使用による自他商品識別力を獲得することは全く想定することができない(商標法第3条第1項第2号、同第2項)。
(1)商標「中屋・・」、「中や・・」が商品「鋸」について、請求人の使用の前後において商標登録されている事実に照らし、これをローマ字にしただけの引用商標が、他人の商標を拒絶するほどまでに周知な商標となることはあり得ない。
(2)被請求人の調査によると、「脇野町鋸と中屋庄兵衛」(乙第3号証)に「鋸鍛冶、中屋庄兵衛の養成した4人の弟子の系譜をたどれば、長岡、柏崎、関原、出雲崎などの鋸鍛冶は、ほとんどこの門下生に属し、この系統に属する同業者は、新潟県、関東、北海道などの各方面に500名以上いるといわれている。」とあり、「鋸鍛冶開祖二見屋甚八之碑」(乙第18号証)に「鋸鍛冶『二見屋』は東日本の鋸鍛冶の継承系統としては、『中屋』と並び称される一大系統をなすといわれる。師弟関係のない鋸鍛冶までが、二見屋や中屋の名を名乗る者がいた』とあるほか、「中屋・・」が鋸関係で多数使用されている(乙第1号証ないし乙第36号証)。
(3)電話帳の調査によると、社名に「なかや」、「ナカヤ」、「中屋」の何れかを冠し、それぞれ独自の鋸製造ないしは販売を展開中の会社は、北海道・東北地域46社、関東地域68社、信越・北陸地域21社、東海地域10社、近畿地域1社、中国地域2社、四国地域2社、九州・沖縄地域1社、発見される。加えて、社名には、「なかや」、「ナカヤ」、「中屋」を冠していないが、「中屋-長二郎」、「中屋-吉五郎」等の銘を付し、製造又は販売している会社も多数発見される(乙第27号証ないし乙第32号証)。
(4)長岡市メールマガジン「米百俵メール」(乙第33号証)の「脇野町ののこぎり」の項に、脇野町の鋸及び脇野町の鋸の祖とされる「中屋庄兵衛」の解説があり、水戸市所在の有限会社中屋平治に関連するホームページ等に「ずばり、『中屋』とは鋸屋・鋸鍛冶という事です。中屋○○、中屋△△という具合に、中屋の次に来る○○・△△は、大体がその店・鍛冶屋の初代の方のお名前になっているようです。当店の場合は初代の名は武石平治です。水戸にも何件か中屋の屋号を持つ鍛冶は、いらっしゃいました。残念ながら皆やめられてしまいましたが、いずれも当店に弟子入り、独立された鋸鍛冶でした。一番最初は、関西方面に中屋という鋸鍛冶がいらしたようです。その弟子などが江戸に広まり、越後に広がり、さらに全国に広まったのではないでしょうか。その後、鍛冶業を続けている人、業種は変化して屋号のみが引き継いでいる人など多くの人が『中屋』を名乗っているのだと思います。」(乙第34号証)、「中屋とは、鍛冶屋の総呼のようなもので、中屋平治とは、鍛冶屋の平治といった意味合いの事だそうです。」(乙第35号証)と掲載されている。
(5)以上のとおり、鋸業界においては、請求人の使用する以前及び以後においても、昔から多くの鋸鍛冶、鋸業者が社名や屋号に「中屋」を冠し、鋸には「中屋-○之助」などの銘を付し、社名に「なかや」、「ナカヤ」、「中屋」の何れかを冠し、それぞれ独自の鋸関係事業を展開中の会社が多数あり、付加価値を付けて商売をしてきた歴史並びに現状が理解される。近年においては、鋸業者の中には、純粋な中屋の系統と全く関係ない鋸鍛冶の鋸を「中屋」-「×之助」などの銘を付して、いわゆる、偽の中屋鋸も流通していることも事実であり、このことからして、「中屋」の単なるローマ字表記に過ぎない引用商標が、商標法第4条第1項第10号に規定するような周知商標であると認められる余地は全くない。
4 請求人は、本件商標の構成の一部になっているA商標に使用されているカタログ(甲第95号証)に請求人のB商標が使用されていることについては不承知であり、不正競争行為である旨主張している。
しかしながら、同カタログは、被請求人との中国における合弁会社の作成に係るものであり、請求人の製造に係る鋸を株式会社ナカヤ(新潟県3条市柳沢1313-92 代表取締役 衛藤康男。請求人とは別人。)を経由し、中国での販売を企画する際に印刷した中国向けカタログであり、日本国内において使用頒布したことはない。なお、その際、請求人と株式会社ナカヤと被請求人との三者面談において、中国国内における請求人にかかる前記B商標の商標権の取得も、その使用についても許諾がなされていたのである。
その後、一転、請求人が、前記B商標の使用に不快感を示しているとの伝聞を耳にしたので、被請求人は、前記B商標の使用を自発的に中止している。
したがって、請求人の中傷であって、被請求人の悪意は全くない。
5 まとめ
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号の規定にまったく該当せず、本件無効審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 引用商標の自他商品識別力及び周知性について
(1)請求人及び被請求人の提出に係る証拠及び請求人並びに被請求人の主張よれば、以下の事実が認められる。
(ア)鋸生産者における屋号「中屋」について
(a)鋸生産者(鋸鍛冶)の業界においては、親方について、その技術を学び、弟子が、親方の屋号を冠して、自分の銘とすることが多く行われている。「中屋」の屋号については、その起源は不明であるが、少なくとも江戸時代より、当該屋号を冠して銘とする鋸鍛冶が多数いたことが認められる。さらに、「中屋金物株式会社」、「中屋鋸店」など「中屋」を含む名称が、数多く採択されている。
(b)銘あるいは名称に、ローマ字表記による「NAKAYA」を使用しているものは、請求人を除いて、認められない。
(イ)引用商標及び「中屋」について
(a) 請求人は、明治40年に初代中屋仁太郎が北海道において鋸製造業を開業して、昭和36年に工場を新潟県3条市に移転し、鋸の製造とともに鋸目立用の刃摺機の製造も行った個人事業を前身として、昭和42年3月有限会社中屋鋸機械製作所を設立し、平成13年6月1日に「株式会社中屋」に組織変更したものである(甲第1号証ないし甲第2号証)。
(b)請求人は、請求人の略称として、有限会社中屋鋸機械製作所の当時から、現在に至るまで「中屋」を使用している。
例えば、「QUALITY」と題するパンフレット(有限会社中屋鋸・機械製作所発行 甲第2号証)には、「中屋は自動目立機や・・」、「のこぎり業界の未来を常に中屋はみつめています。」、「のこぎりの歴史は中屋の歴史です。」の記載がある。また、社歴の1931年の項には、「中屋の山林用のこぎり」の記載がある(なお、請求人ホームページにも同様の記載がある(乙第24号証))。
甲第3号証及び甲第4号証の「NAKAYA selection」と題するパンフレットには、それぞれに「中屋独自のアール付刃」の記載がある。
「eaks」の関するカタログ(甲第5号証)及び「日本刃物工具新聞」(平成5年10月20日 甲第41号証)には、「『イークス』は中屋のオリジナルブランドです。」
日本刃物工具新聞(平成2年1月20日 甲第34号証)の広告中に、「中屋の山林ののこぎりは」の記載がある。
「越後ジャーナル」(平成5年4月17日 甲第39号証)及び「産経新聞」(平成5年6月24日 甲第40号証)の広告中に、「中屋のオリジナルブランド イークス(Eaks)は」の記載がある。
1987年カレンダー(甲第52号証)には、「ナカヤの折込鋸」、「ナカヤの快速切替刃鋸240m/m」、「ナカヤの快速胴付鋸」、「ナカヤの快速切替刃鋸270m/m」、「ナカヤの万能鋸」、「刃の先端はナカヤ独自の」の記載がある。
昭和59年及び昭和60年のコシヒカリプレゼントセールのパンフレット(甲第55号証及び甲第56号証)には、「中屋の快速胴付鋸」の記載がある。
第7回ないし第11回、第13回ないし第22回のコシヒカリセールのパンフレット(甲第58号証ないし甲第62号証、甲第64号証ないし甲第73号証)には、「中屋・替刃式鋸」、「中屋替刃式鋸」又は「中屋替刃式のこ」の記載がある。
平成3年7月から9月までのキャンペーンのパンフレット(甲第74号証)には、「中屋の替刃式鋸」の記載がある。
平成6年7月から9月までのキャンペーンのパンフレット(甲第75号証)には、「中屋 2大企画」の記載がある。
「2000ミレニアムセール第二弾」のパンフレット(甲第77号証)には、「中屋替刃式鋸」の記載がある。
平成11年9月から11月までの「消費税相当5%還元セール」のパンフレット(甲第78号証)には、「中屋 替刃式鋸」の記載がある。
平成15年の「2003年新春セール」のパンフレット(甲第79号証)には、「中屋替刃式鋸」の記載がある。
平成16年1月5日からのセールを「2004年中屋新春セール」と銘打って行い、そのパンフレット中に「中屋 替刃式鋸」の記載がある(甲第80号証)。
平成16年4月1日からのセールを「2004 中屋 スプリングセール」と銘打って行い、そのパンフレット中に「中屋替刃式鋸」の記載がある(甲第81号証)。
平成16年4月8月2日からのセールを「2004年 中屋 盛夏セール」と銘打って行い、そのパンフレット中に「中屋 替刃式鋸」の記載がある(甲第82号証)。
(c)また、「NAKAYA」については、有限会社中屋鋸・機械製作所当時の製作と認められるパンフレットの名称に「NAKAYA selection」と題したものがあり、その中に「NAKAYAの本格仮枠鋸」の記載があり(甲第3号証及び甲第4号証)、「SAW」と題したパンレットには、「PRODUCTED BY NAKAYA」、「より鋭い切味の追求、卓越した作業性に更に磨きをかけたNAKAYAの鋸」の記載がある(甲第6号証)。
1987年のカレンダーに「NAKAYA 信頼のブランド」の記載がある(甲第52号証)。
請求人の製造に係る鋸(及びその柄、柄用の牛革グリップ)、包装用のケース、箱に「NAKAYA」の文字が独立して認識されるようにして記載している(甲第4号証、甲第5号証、甲第10号証、甲第12号証、甲第13号証、甲第41号証、甲第44号証、甲第45号証、甲第61号証、甲第62号証及び乙第24号証)。
(d)さらに、有限会社中屋鋸・機械製作所から株式会社中屋に改称した現在に至るまで、「N」と三角形を図案化し、その下に「NAKAYA」と配した図形をハウスマークとして、請求人のパンフレット、新聞広告等の広告、請求人の製造に係る鋸に使用されていたことが認められる。
(2)上記(1)で認定した事実によれば、請求人は、引用商標「NAKAYA」を請求人の業務に係る商品「鋸」に使用してきたことが認められ、広告の回数等を総合すると、その鋸は、相当程度の数量をもって広範囲に流通していたものと推認することができる。
一方、鋸を取り扱う業界においては、「中屋」を銘及び名称中に使用するものが多く、「中屋」の文字は、当該業界においては、自他商品の識別標識として機能しないものということができる。
しかしながら、「中屋」が屋号として用いられているように、古くから技術・伝統等とともに親方から弟子へと受け継いできていることから、銘及び名称として使用されるときは、通常は漢字で表され、ローマ文字をもって「NAKAYA」と表示することは行われていない。
そうすると、請求人商標が「中屋」をローマ文字で表記したものであることをもって、直ちに自他商品の識別力を有さないとまではいえない。
そして、上記のように、鋸を取り扱う業界において、「中屋」の文字が銘や名称として頻繁に用いられることから、一般には、「中屋」の部分をもって略称されるのではなく、「中屋庄兵衛」等のように、「中屋○○」の全体をもって、使用し、識別されていたものといえるところ、請求人は、前記のとおり、以前より、「中屋」の文字のみをもって、その略称として使用し、一定程度需要者に知られていたものということができ、それに、引用商標の上記の使用状況及び請求人が「NAKAYA」の文字を含んでなるハウスマークを使用してきていることをかんがみると、引用商標は、本件商標の登録出願時には、既に、請求人の業務に係る商品「鋸」を表す商標として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものというのが相当であり、その状態は、本件商標の登録時においても継続していたものというべきである。
2 本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、別掲のとおり、「W」の文字をモチーフにした図形及び「NAKAYA」、「中屋」、「三倍速」の各文字よりなるものであるが、図形と文字部分とを常に一体として認識すべき特段の事情はなく、「三倍速」の文字は、「三倍速く(切ることができる。)」程度の品質・効能を表示したものとして認識されるものであることから、構成中の「NAKAYA」の文字部分も、独立して看取されることがあると認められ、加えて、該文字部分は、上記1(2)のとおり、請求人が商品「鋸」について使用し、取引者、需要者の間に広く知られている引用商標と、同一又は類似する「NAKAYA」の文字からなるものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、「NAKAYA」の文字部分から生ずる称呼、観念及び外観において、類似する商標というべきであり、かつ、本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る「鋸」とは、同一又は類似の商品である。
3 被請求人の主張について
(1)被請求人は、引用商標「NAKAYA」が、商標法第3条第1項第4号に規定される、ありふれた氏であることは顕著な事実であると主張しているが、被請求人は、ありふれた氏であるとする証拠を何ら示していないから、その主張は、採用することができない。
なお、被請求人は、上記ありふれた氏に該当するものである以上、引用商標が「請求人の業務に係る鋸を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」となり得ない、旨主張しているが、ありふれた氏に該当するものであっても、長年使用することにより、その商標がその商品と密接に結びついて出所表示機能を発揮し、自他商品の識別力を獲得する場合もあることを付言する。
(2)被請求人は、本件商標において、要部は、「W」の文字をモチーフにした図形であり、他の構成部分は、付記的部分とすべきである旨主張しているが、「NAKAYA」の文字が、前記のとおり、請求人が商品「鋸」について使用をし、自他商品の識別力を獲得しているものと認め得ることから、本件商標をその指定商品に使用したときは、請求人の業務に係る商品と商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというべきであるから、その主張は、採用することができない。
(3)なお、被請求人の示す証拠の中に「『中屋』とは、鋸屋・鋸鍛冶のことです。」の記載が見受けられるが、これは、鋸業界以外の者にわかりやすく説明するために表現したものと認められ、しかも、他に「中屋」を鋸屋・鋸鍛冶を意味するとする証拠もないから、「中屋」が鋸鍛冶を意味する普通名称あるいは、慣用商標となっているものとは、認めることができない。
4 結び
以上のとおり、本件商標は、請求人の業務に係る商品「鋸」を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く認識されている引用商標と類似する商標であって、その指定商品は、引用商標の使用に係る商品と同一又は類似の商品であるから、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に違反してなされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (別掲)
(1)本件商標

(色彩については、原本を参照されたい。)

(2)A商標

(色彩については、原本を参照されたい。)

(3)B商標

(色彩については、原本を参照されたい。)

審理終結日 2006-03-13 
結審通知日 2006-03-17 
審決日 2006-03-30 
出願番号 商願2004-45748(T2004-45748) 
審決分類 T 1 11・ 252- Z (Y08)
最終処分 成立 
特許庁審判長 大場 義則
特許庁審判官 内山 進
蛭川 一治
登録日 2005-05-13 
登録番号 商標登録第4861844号(T4861844) 
商標の称呼 ダブリュウ、ナカヤサンバイソク、ナカヤ、サンバイソク、ナカ 
代理人 近藤 彰 
代理人 黒田 勇治 
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