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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z29
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z29
管理番号 1136473 
審判番号 無効2005-89001 
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-01-07 
確定日 2006-04-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第4464953号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4464953号商標(以下「本件商標」という。)は、平成12年3月28日に登録出願され、別掲のとおりの構成よりなり、第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物,豆,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」及び第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール製造用ホップエキス」を指定商品として、平成13年4月6日に設定登録されたものである。

第2 請求人の引用する商標
本件商標を構成する図形中、「雲と思しき図形」部分を省いた図形商標(以下「引用商標」という。)

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標は、その登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。と申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証(枝番を含む。以下、枝番の全てを引用する場合は、その枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第15号について
(ア)本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、「両翼を広げて斜め右上方に向けて飛んでいる状態を表した鳥と思しき図形と、その右斜め上方に太陽をモチーフしたと思われる飛び出し線が多数ある円形図形と、当該鳥と思しき図形の右下から当該太陽をモチーフしたと思われる図形の下に架けて雲と思しき図形」を配置した構成よりなる。
引用商標は、「両翼を広げて斜め右上方に向けて飛んでいる状態を表した鳥と思しき図形と、その右斜め上方に太陽をモチーフしたと思われる飛び出し線が多数ある円形図形」を基本とした構成よりなる。
本件商標と引用商標とは、太陽の図形の下、鳥図形の右側に「雲と思しき図形」が有るかどうかの違いにすぎない。
また、請求人及び被請求人は、1979年以降、「豆乳」及び「豆乳飲料」のパッケージに、引用商標に「果実の絵」、「樹木の絵」、「野菜の絵」、「コーヒー豆」の絵など付加的な図柄を加えたデザインを使用している。
そうとすれば、本件商標と引用商標とは、デザインの軌を同じくするものであるから、外観上類似する商標である。
(イ)引用商標の著名性について
(a)請求人の社歴について
1)1947年 水産ねりもの製品のメーカーとして設立される。
2)1967年頃 豆乳製造の研究を開始する。
3)1973年 豆乳の研究を本格的に開始する。
4)1975年 豆乳製造に関する特許出願を申請する。
5)1977年 豆乳の製造販売の事業化を正式に決定する。
豆乳の製造販売を目的として、請求人が株式を100%有する「キボンフーズ株式会社」(以下「キボンフーズ」という。)を設立する。
6)1978年 豆乳のブームが始まり、全国販売が開始される。
7)1979年 パッケージのデザインを一新する。
8)1979年以降現在まで
「キボンフーズ」及び被請求人が製造し、請求人及び被請求人が販売する、数種類の「豆乳飲料」と「調製豆乳」の全てのパッケージには、引用商標が使用されている。
また、当該「豆乳」のパッケージには、引用商標に加え、「KIBUN」、「紀文」及び「三つのハートマーク」(1986年から現在に至るまで、請求人のコーポレートマークとして知られているマーク)の表示が使用されている。
そして、引用商標に「果実の絵」、「樹木の絵」、「野菜の絵」、「コーヒー豆」の絵など付加的な図柄を加えた商標が使用されている豆乳の、市場全体に占める割合は、50%にあがる。
これらの事実を考慮すると、「豆乳」に使用される引用商標は、本件商標が出願された2004年2月26日までには、請求人に帰属する商標として認識されていたといわざるを得ない。
新聞、雑誌における広告を甲第10号証ないし甲第11号証として提出する。
また、市場占有率を示す資料を甲第12号証として提出する。
(b)引用商標の商標所有者について
キボンフーズ及び被請求人が製造し、請求人及び被請求人が販売する「豆乳」のパッケージの販売者の欄には、当初、「株式会社紀文」及び「株式会社紀文ヘルスフーズ」(以下「紀文ヘルスフーズ」という。)が表示されていたが、1990年頃からは、製造者の欄に、被請求人の名称が、表示されるようになった(甲第9号証の2)。
これは食品衛生法上の「製造者」としての必要的記載事項であって、使用されている商標の真の所有者が、被請求人であることを意味するものではない。
20年もの間使用されてきた引用商標の商標所有者は、請求人であって、被請求人ではない。
被請求人は請求人のグループ企業であるが、法律上はあくまでも第三者であり、請求人は、商標法第4条第1項第15号が規定する「他人」である。
(c)まとめ
そうとすれば、被請求人が、請求人と関係なく独自に商品販売を展開すると出所の混同を引き起こすことは必然である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第7号について
(ア)他の法律によって使用が禁止されている商標について
(a)引用商標は、請求人が創作した著作物であり、商標としてパッケージのデザインとして採用されていたものである(甲第2号証)。
そして、被請求人はこの事実を知っていた立場にある。
(b)パッケージのデザインとして採用される図形商標が著作権法上の著作物であるか否かについては議論がある。
しかしながら、引用商標は、「太陽に向かって飛び立つ鳥」という思想又は感情を表現していると考えられるから、著作権法第2条第1項第1号の「思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範疇に属するもの」に該当する。
したがって、引用商標は、著作物であり、豆乳のパッケージに施したデザインは、著作権法第2条第1項第15号の「複製」に該当する。
(c)商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良なる風俗を害するおそれがある商標」の登録を拒絶すると規定している。
特許庁の商標課が作成した商標審査基準では、この規定に該当する商標の一例として「社会公共の利益に反し又は社会の一般的道徳観念に反する商標」や「他の法律によって使用が禁止されている商標」を挙げている。
著作権法第21条では、著作権利者が著作物の複製をする権利を専有すると規定する。
すなわち、著作権者の同意を得ないで著作物を複製すると著作権の侵害になる。
よって、本件商標は、「他の法律によって使用が禁止されている商標」に該当する。
(イ)公正な競業秩序の維持を害する商標について
(a)請求人と被請求人の関係について
1)請求人は、1978年11月1日に、「キボンフーズ」と「豆乳及び豆乳を利用した食品の製造販売に関する基本協定」(甲第3号証。以下「基本協定」という。)を交わした。
それによって、請求人は、「キボンフーズ」に対して特許実施許諾並びに製造のノウハウなどを提供し、これに基づきキボンフーズが製造し、請求人が販売を行うという体制になった。
請求人が日本全地域における一手販売権を有するという体制を敷いたのである(「基本協定」第7条)。
すなわち、「キボンフーズ」は、請求人から製造委託を受けた製造会社にすぎなかった。
2)「豆乳」の販売が軌道に乗ってきた1979年頃から、「果汁入り豆乳」や「野菜ジュース入り豆乳」などの豆乳飲料の販売を皮切りに、「麦芽コーヒー入り豆乳」、「乳酸発酵豆乳」など、単なる調製豆乳ではなく、味付けした豆乳を多種類販売するようになっていた。
3)1981年、「キボンフーズ」は、「紀文ヘルスフーズ」に商号変更した。
4)請求人と「紀文ヘルスフーズ」は、1984年(昭和59年)10月23日に、請求人の営業部門中の「第三事業本部 豆乳第一営業部および第二営業部に属する営業の一切」を紀文ヘルスフーズヘ譲渡する旨の確認書(甲第4号証の1)及び営業譲渡契約書(甲第4号証の2)を取り交わした。
この「第三事業本部 豆乳第一営業部および第二営業部に属する営業」は、「首都圏」のみにおける豆乳の製造販売に関するものである。それ以外の日本各地における豆乳の販売は、請求人が行う事業として請求人に残っており、現時点においても変わりはない。
その当時、請求人は、分社化政策を打ち出し、分社経営と本社の再編成を行い、1983年頃にはその体制が完了した。
すなわち、日本各地の営業所のあった各事業本部を、子会社として独立させ、小集団による意思決定の迅速化と柔軟な行動を可能とすることがねらいとするものであった。
請求人は「首都圏」においてのみ、主たる水産ねりもの製品事業をはじめ、豆乳事業などを行う親会社として存続し、その他の日本の各地における事業は子会社として設立された、(株)札幌紀文、(株)東北紀文、(株)仙台紀文、(株)北関東紀文、(株)上信越紀文、(株)北陸紀文、(株)東海紀文、(株)関西紀文、(株)西日本紀文などという会社が、「紀文ヘルスフーズ」の製造した「豆乳」を各々の地方で販売を行っていた状況であった。
これらの子会社は、請求人が設立した株式会社首都圏・紀文と共に、1990年4月26日に、請求人と同じ商号であるが別法人である、株式会社紀文食品に吸収合併された。
そして、請求人は、1992年7月7日、株式会社紀文食品を吸収合併し、かつて子会社が行っていた全ての事業を引き継いで現在に至っている。
5)一方、被請求人は、その前身を鴨川化成工業株式会社といい、1977年に請求人の子会社となり、1983年4月1日に現商号に変更している(甲第2号証)。
資本関係は、その当時から2001年8月まで、請求人が被請求人の株式の50%以上を有しており、被請求人は、請求人のコントロールの下に置かれる子会社であった。
現在も、被請求人は、請求人のグループ企業(関連会社)である。
6)1983年4月頃までは、「紀文ヘルスフーズ」が「豆乳」を製造していたが、その後、被請求人は、「紀文ヘルスフーズ」より「豆乳」の製造工場の譲渡を受け、「豆乳」及びそれに付随する製品の製造ノウハウの指導を受けて「豆乳」の製造を引き継いだ。
その後、被請求人は、請求人と「紀文ヘルスフーズ」が取り交わした、「首都圏」のみにおける「第三事業本部 豆乳第一営業部および第二営業部に属する営業」について、「紀文ヘルスフーズ」より譲渡を受けた(甲第5号証)。
この点に関する請求人と被請求人との関係は、基本的には請求人と「紀文ヘルスフーズ」との関係と同じである。
すなわち、「首都圏」のみにおける豆乳の製造、販売に関するものである。
7)被請求人は、「紀文ヘルスフーズ」より豆乳製造工場を譲り受けて、1983年5月頃から豆乳の製造を始めた。
そして、1983年5月9日には、請求人と被請求人の間で、被請求人が製造した商品を請求人が継続的に買取るという「商品売買基本契約書」(甲第6号証)を取り交わしている。
8)1990年9月1日に、請求人と被請求人の間で、請求人の有する幾つかの商標に関し被請求人に通常使用権を許諾する「商標使用契約書」(甲第7号証の1)及びこれに関する「変更契約書」(甲第7号証の2)が取り交わされた。
その「商標使用契約書」に、既に消滅している「商標登録第1749504号」及び「同第1749508号」が含まれていた。
なお、この他に「登録第1749501号」の記載があるが、「登録第1749506号」の誤記である。
この使用契約内容によれば、被請求人は「使用料を請求人に支払い」、「使用許諾された商標については、その価値を害することのないように十分に留意し」、「請求人の承諾無くしては商標の色、形態などに変更を加えたりして使用してはならないこと」などの義務を負っているものである。
請求人と被請求人は、本件商標、その他を巡って話し合いを行っているが、被請求人は「紀文ヘルスフーズ」からの営業譲渡を受けたことにより、「豆乳」に関する全ての財産を引き継いだとの誤解を持っている(甲第5号証)。
しかしながら、事実は、上記に述べたように「首都圏」においてのみ豆乳事業を行う営業の譲渡にすぎないものである。
上記の「商標使用契約書」があるにもかかわらず、本件商標を請求人へ譲渡するようにとの請求人の要求を拒んでいる状況である。
すなわち、被請求人は「首都圏」における豆乳事業の営業譲渡と商標の帰属関係は別な問題であることを認識していない。
9)請求人が、引用商標について、存続期間の更新登録を行わなかったのは、1991年に至って、1981年当時のパッケージデザインを構成する「果実の絵」、「樹木の絵」、「野菜の絵」、「コーヒー豆」などの絵を削除した引用商標のみのデザインのパッケージと、引用商標を基調とし、それに新たな絵を付加したデザインパッケージに変更したことによるものである。
当該登録商標との同一性に問題があったために更新を断念したが、請求人は、それら新しいデザインについて、商標登録出願を単純に失念するという過ちをおかしていた。
1991年ごろまでに使用されていたこれらデザインの変遷を示す一覧表を甲第9号証の1として提出する。
また、1979年から2001年にかけて、発売者あるいは製造者として表示された会社名がどのように変わっていったかを示すため、パッケージデザインの幾つかを甲第9号証の2として提出する。
被請求人はその間、請求人の発注を受け、1979年に一新され、その後商標登録出願されたデザイン及びその後変更されたデザインにより、「豆乳」を製造し、請求人へ一手販売を行い、請求人が「豆乳」を販売してきた。 ところが、被請求人は、2000年3月28日に、本件商標の登録出願を請求人に無断で行った。
請求人と被請求人との法律関係は、請求人と「紀文ヘルスフーズ」との関係のように、完全に製造と販売を分担する親子関係会社、あるいは、グループ企業内における共同事業形態を採用している関係であるので、そのような登録出願の行為は、正当な商行為にもとるものといわざるを得ない。
10)被請求人は、2004年に本件商標の出願を行う20年近く以前から、請求人は、引用商標を使用して「豆乳」を販売してきたし、被請求人はその製造を担当してきた。
すでに、一定の信用や顧客吸引力が形成されている引用商標が存在していることを充分に知りながら、また、請求人が所有していた商標登録第1749504号ないし同1749508号が1995年に消滅したことを奇貨として、引用商標に「雲と思しき図形」を付加して、請求人に同意を求めることなく自己の名義により本件商標の出願を行った行為は、まさに「社会公共の利益に反し又は社会の一般的道徳観念に反する」ものといわざるを得ない。
11)自己が新たに採用したものではなく、すでに、他人が使用していた商標であることを知りながら利用することは、「公正な競業秩序を害する」ものであって、公序良俗に反する。
(3)まとめ
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当するものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)「紀文グループの工業所有権管理について」(乙第14号証)の意図するところは、請求人がグループの工業所有権全体を一元管理していたが、その第1条で示すように「グループ各社それぞれの工業所有権は、グループ各社それぞれが、自己の責任と費用において出願・管理を行う。」ことになったにすぎない。
請求人は、それまでグループ各社の自己で開発した特許・商標などを請求人が費用を負担し、請求人名義であるいは請求人と子会社の共有名義で出願・特許(登録)していたが、紀文グループの工業所有権管理の方針に基づき、グループ各社のエ業所有権を各社へ無償で譲渡を行った。
平成9年10月11日付の請求人稟議書(「紀文フードケミファへの工業所有権返却」)の写し(甲第14号証)の中に、商標が15件が含まれており、名義変更が実際になされ、被請求人名義で登録された商標が5件ある(登録第4147665号、同第4186350号、同第4239241号、同第4247960号及び同第4247961号)(甲第15号証)。
被請求人の独自の商標は15件あり、これらは請求人の費用において出願或いは登録されていたが、無償で被請求人へ譲渡された。
しかし、被請求人の選択により、全てが名義変更されたものではなかった。
すなわち、乙第14号証は、請求人がその名義と費用で出願・登録・管理を行っていた紀文グループ子会社の工業所有権の全てを各子会社へ返却するという内容の文書である。
(2)被請求人は、「特許譲渡契約書」(乙第13号証)を提出し、請求人から6000万円で譲渡を受けたと述べ、それが「紀文グループの工業所有権管理」(乙第14号証)の方針に沿うものであるかのごとき主張をしているが、この特許譲渡契約は、「紀文グループの工業所有権管理」の方針とは全く関係がない。
当該特許は、豆乳の技術とは全く関係のない分野であること、もともと請求人の開発した発明であり、「グループ各社それぞれの工業所有権」という範疇には入らない特許であるので、上記のように、「グループ各社の工業所有権は各社へ無償で譲渡した」のとは異なり、有償譲渡となったものである。
(3)被請求人は「営業譲渡と商標の帰属関係は別な問題ではなく、密接、不即不離の関係である。」と主張する。
しかし、通常、営業譲渡には財産目録が添付される。
もし、工業所有権がその中に入るのであれば、番号を特定して財産目録に記載される。請求人と紀文ヘルスフーズ間の「営業譲渡契約」(甲第4号証の2及び乙第5号証の1)の第2条には「甲から乙に譲渡すべき財産は、譲渡日現在の本営業に属する資産及び負債並びに営業上の権利、義務(以下これらを一括して譲渡財産という。)の一切とし、その細目は、甲乙協議の上決定する。」と、同第3条には「譲渡財産の対価は、昭和59年11月30日現在における甲の帳簿価額によるものとする。」と規定されており、「覚書」(乙第5号証の2)で、「1 原契約に定める譲渡財産の対価は、本書目録のとおりとする。」と規定され、目録として「資産 売掛金,貯蔵品、棚卸商品及び什器」が挙げられているにすぎない。また、商標に関しては何等記載されていない。
その当時は、分社化政策により日本各地に設立された子会社が、「紀文ヘルスフーズ」が製造した「豆乳」を日本全国で販売を行っていた。
上記営業譲渡により、「紀文ヘルスフーズ」は、首都圏での販売が可能になったという状況であり、日本全国で販売されていた「紀文の豆乳」に使用されていた引用商標の商標権が、子会社である「紀文ヘルスフーズ」ヘ譲渡されるようなことがあるはずはない。
また、請求人と被請求人の間で、請求人の有する幾つかの商標に関し、被請求人に通常使用権を許諾する「商標使用契約書」(甲第7号証の1)及びこれに関する「変更契約書」(甲第7号証の2)が取り交わされていた。 その「商標使用契約書」には、その当時は有効に存続していた「引用商標」を含んでいる文字と図形の結合商標である、商標登録第1749504号と同第1749508号が含まれていた。
(4)「グループ標章に関する基本規程」(乙第12号証)は、第2条第2.で、「グループ標章」の「商品商標としての使用は含まない。」と規定されている。この基本規程は、「グループ標章を商号、看板、広告塔、名刺、封筒などに営業表示(役務商標としての使用を含む)として使用する」ことを許諾したにすぎない。
(5)豆乳関連商品に「株式会社紀文フードケミファ」と記載されているから商標権利者であるという被請求人の主張は、否認する。
製造者と表示されている者が商標の真の所有者でない場合は多々ある。
そのような表示は、商標法以外の法律上の表示義務による場合が多い。請求人と被請求人とは、長年にわたり子会社あるいは関連会社の関係にある。
商標の真の所有者は、商品パッケージ上の表示のような形式的な外観や製造者の名称などで推し量れるものではない。
商標法上における商標の示す出所の概念は、特定の者の業務にかかるものであることを認識するか否かを問題にするのではなく、商品が一定の出所から流出していることを認識せしめるだけでよい。
請求人と被請求人のような子会社あるいは関連会社関係の場合や使用許諾関係のような場合における真の商標所有者は、単なる製造者表示やその製造者がシェアの多く占めているというようなことで決まるものではない。
したがって、そのような事実を基に、被請求人が本件商標の真の所有者であるという被請求人の主張は否認せざるを得ない。
被請求人は、甲第13号証の2ないし4を根拠に、本件商標が被請求人の商標であることが広く認識されていると主張するが、これまで主張してきたように、被請求人は、あくまでも請求人の子会社あるいは関連会社として、豆乳の製造に携わってきており、かつ食品衛生法上「製造者」としてその名前が出ていたにすぎず、商標法上の所有者を決するものではない。
甲第12号証の5ないし8として、株式会社富士経済の発行する2002年ないし2005年の統計を記した「マーケティング便覧」の抜粋写しを提出する。
これらに最近の豆乳製品のマーケットシェアが出ており、企業名としては「紀文フードケミファ」が、ブランドとしては「紀文」が表示されている。 商標「紀文」は、請求人から被請求へ使用許諾されている商標であり、既に消滅しているが、引用商標を含んだ登録商標も、かつては被請求人へ使用許諾されていた。
よって、これらの記述からも判るように、商標「紀文」が使用されている豆乳に使用されている、その他の商標も同じく商標「紀文」を有する企業の商標として認識されることを示し、パッケージ上の製造者表示により決まるものではないのである。
また、甲第13号証の5として、日本食糧新聞社発行(平成17年2月22日)の「臨時増刊 日本食糧新聞」の抜粋写しを提出する。
「臨時増刊 日本食糧新聞」は同社が毎年発行している、前年度の「食品ヒット商品と新技術・食品開発」に関する選考結果を記載した雑誌である。 昭和57年に「紀文豆乳」が「優秀ヒット賞」を得ている。
既に主張してきたように、製造者と商標の所有者とは別物であるということがこれらの証拠も物語っている。
(6)被請求人は、著作権法における「複製」は「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」をいうから、「引用商標図形」と本件商標は同一でないから、「本件商標の使用」は引用商標を有形的に複製したものではないと主張している。
被請求人の主張は、そっくりそのままのコピーを作ることのみが著作権法上の「複製」の意味であるかのごとき主張であるが、判例では、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製すること」も含まれるとするから、原著作物を認識させれば足りる。
「上申書」(乙第18号証)によれば、株式会社ザ・デザイン・アソシエイツの代表取締役、佐藤忠彦氏は「被請求人の代表取締役の重山俊彦様から豆乳の図案作成を依頼されて、本件商標のデザインを作成した。」と述べている。
上述したように、代表取締役の重山俊彦氏は請求人の元取締役で、豆乳事業を担当しており、引用商標についてもよく知っていた。このような事情の下、本件商標が引用商標をすべて具備していることから、本件商標が引用商標に依拠していることが容易に推認することができる。
上記デザイン会社は、「紀文豆乳」リニューアル基本デザイン料として、210万円を被請求人に請求し、引用商標に「雲と思しき図案」を付加して「新たな思想又は感情を創作的に表現」したものであるとしても、その創作された本件商標は、引用商標に依拠したものといわざるを得ない。
(7)請求人が、審判請求書で指摘した、幾つかの商標法第4条第1項第7号に該当事件に対して、被請求人は事案が違うとしているが、それらの事件で裁判所が判示しているところは本件請求人の行動に共通する。
いずれも、登録における不法性に鑑み、「公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反する」という理由で、商標法第4条第1項第7号により無効とすべきとの判断を示した事件である。
その根底に流れるものは、自己が新たに採用したものではなく、既に他人が使用していた商標であることを知りながら利用することは、「公正な競業秩序を害するものであって、公序良俗に反する」という思想である。
本件もその点においては同じ事案である。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当するものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第54号証(枝番を含む)を提出している。
1 商標法第4条第1項第15号について
(1)紀文グループの豆乳関連についての営業譲渡の経緯について
平成2年9月1日をもって、被請求人は、豆乳関連商品の「企画・研究開発」と製造拠点である全工場、及び、「首都圏の豆乳販路」と「全国の豆乳の新規販路開拓」の営業を買収したものである。
その結果、請求人は、「魚肉練り製品についての株式会社紀文の従前の販売先」という販路において、豆乳を販売するにすぎない。
(2)被請求人による本件商標の使用について
本件商標が被請求人の営業を示すものであることは、甲第13号証の2「(株)フードリンクのホームページからの豆乳に関する記事のプリント」、甲第13号証の3「(株)サンキメラのホームページからの豆乳に関する記事のプリント」、甲第13号証の4「(株)トムスのホームページからの豆乳に関する記事のプリント」からも明らかである。被請求人が本件商標を使用することは、被請求人が製造し、かつ販売する商品であることを示すものであって、「他人の業務に係る商品又は役務と混同」を生じさせるものではない。
(3)まとめ
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)他の法律によって使用が禁止されている商標について
引用商標は、株式会社ザ・デザイン・アソシエイツの代表取締役佐藤忠敏が商品を識別する標識の図案、すなわち、もっぱら商標として作成されたものであり、思想感情を創作的に表現するものとして創作されたもの、すなわち著作物ではない。
請求人は、「『引用商標』自体は、『太陽に向かって飛び立つ鳥』という思想又は感情を表現していると考えられる。」とするが誤りである。その図形を作成した当事者が、著作物として作成したものではなく、もっぱら識別標識として作成したものである以上、著作物でありえない。
仮に、引用商標に著作権が成立したとしても、本件商標の使用は、引用商標を有形的に再生するもの、すなわち複製にはあたらない。
したがって、著作権法第2条第1項第15号の「複製」に該当する余地はない。
(2)公正な競業秩序の維持を害する商標について
請求人は、「被請求人が請求人に無断で『本件商標』を得たことは、商標法第4条第1項第7号は『公の秩序又は善良なる風俗を害するおそれがある商標』に該当するというべきである。」とするが、全くの誤りである。
請求人作成の「紀文グループの工業所有権管理について」と題する文書(乙第14号証)に記載の方針に合致するものであり、「請求人に無断で行った」ものではない。
したがって、「公の秩序又は善良なる風俗を害するおそれ」など存在しない。
(3)まとめ
よって、商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号について
(ア)本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、別掲(1)のとおり、「直線光線を伴った太陽と思しき図形」を描き、また、当該太陽と思しき図形の左斜め下には、「左斜め下に複数の直線を伴い右斜め上に飛行している鳥と思しき図形」を描き、当該太陽と思しき図形と当該鳥と思しき図形の間に、「雲と思しき図形」を描いてなるものである。
一方、引用商標は、本件商標の構成から、「雲と思しき図形」の部分を除いた図形よりなるものである。
そこで、両商標の類否について比較するに、引用商標は、本件商標の構成中、顕著に描かれている「雲と思しき図形」の部分を欠いているため、両商標の全体の構成が大きく異なるものである。
また、本件商標は、太陽と思しき図形、鳥と思しき図形及び雲と思しき図形の図形部分がまとまりよく一体的に表示されていることから、「雲の上を太陽に向かって飛んでいる鳥」の印象を強く与えるのに対して、引用商標は、「太陽に向かって飛んでいる鳥」の印象を強く与えることから、両商標は、受ける印象が著しく相違するものである。
また、両商標は、特定の称呼、観念を有さないものであるから、称呼、観念については、比較することができない。
してみれば、両商標は、その全体の構成における特徴が大きく異なり、受ける印象も著しく相違するというべきであるから、時と所を異にして離隔的に観察した場合であっても、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(イ)引用商標の著名性について
請求人は、過去に引用商標の根拠とする、登録第1749504号ないし1749508号の各登録商標(いずれも平成7年2月27日に存続期間満了により、同年11月9日に登録の抹消がされているものである。)を所有していたことが認められる。
しかして、請求人が商品「豆乳」に使用してきたとされる当該各登録商標は、引用商標の下に果実の絵、樹木の絵、野菜の絵、コーヒーの絵などの図柄を顕著に描いてなるものであり、引用商標とは、その構成を著しく異にするものである。
また、上記の各登録商標が豆乳に使用されていたとする証拠も、昭和57年から同61年頃に限られていて、その後、使用されていることを裏付ける証拠は見いだせない。
さらに、引用商標のみが単独で使用されているとする証拠も見当たらないから、引用商標は、需要者の間に広く認識されている商標とはいえない。
(ウ)まとめ
そうとすれば、本件商標と引用商標は、類似しないものであり、また、需要者の間に広く認識されている商標とはいえないものであるから、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想、想起し、申立人又は申立人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれのないものである。
2 商標法第4条第1項第7号について
(ア)他の法律によって使用が禁止されている商標について
請求人は、引用商標に著作権がある旨主張しているが、仮に、引用商標に著作権があり、本件商標の使用が他人の著作権と抵触する商標であっても、商標法第4条第1項第7号に規定する商標に当たらないものと解するのが相当であり、同号に関する審査基準にいう「他の法律によって、その使用が禁止されている商標」には該当しないものというべきである(平成12年(行ケ)第386号判決 東京高等裁判所 平成13年5月30日判決言渡)。 また、請求人の援用する判決は事案を異にしており、採用できない。
(イ)公正な競業秩序の維持を害する商標について
上記1(イ)で述べたとおり、請求人より提出された証拠によっては、引用商標図形は、需要者の間に広く認識されている商標とはいえないものである。
また、請求人は、「本件商標の登録出願は、請求人の所有する登録第1749504号ないし同第1749508号が、存続期間満了により消滅したのを奇貨としてなされたものである。」旨主張するが、本件商標は、請求人の挙げる当該商標が存続期間満了となって、9年も経てから登録出願されたものであるから、請求人の主張は採用できない。
さらに、請求人は、「本件商標の登録出願は、請求人の同意なくなされたものである」旨主張するが、請求人より、紀文グループの各社、社長宛に平成9年9月10日付で発信した「紀文グループの工業所有権管理について」(乙第14号証)の連絡内容をみると、「1.グループ各社のそれぞれの工業所有権は、グループ各社それぞれが、自己の責任と費用において出願・管理を行う。」との記載があり、紀文グループの一員であった被請求人は、この連絡文書に沿って本件商標の登録出願を行ったものと推認し得るものであるから、この点についても、請求人の主張は採用できない。
加えて、「商標使用契約書」(甲第7号証の1)及びこれに関する「変更契約書」は、「商標リスト」の「3.対照商標及び関連商標の表示」中に本件商標は、含まれていないから、本件商標とは無関係である。
また、請求人は、「被請求人が紀文ヘルスフーズから、譲渡を受けた、『第三事業本部 豆乳第一営業部および第二営業部に属する営業』は、『首都圏』のみにおける豆乳の製造販売に関するものである。それ以外の日本各地における豆乳の販売は、請求人が行う事業として請求人に残っており、現時点においても変わりはない。」旨主張しているが、被請求人が紀文ヘルスフーズから、譲渡を受けた営業が「首都圏」のみであるか「全国」であるかという点は、本件商標とは無関係である。
(ウ)さらに、本件商標は、その構成自体が矯激、卑猥、差別的な印象を与えるような文字又は図形からなるものでなく、これをその指定商品について使用することが社会公共の利益・一般道徳観念に反するものでもない。
(エ)まとめ
そうとすれば、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害する商標ではない。
3 むすび
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第15号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲

本件商標


審理終結日 2006-02-21 
結審通知日 2006-02-27 
審決日 2006-03-14 
出願番号 商願2000-30803(T2000-30803) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (Z29)
T 1 11・ 271- Y (Z29)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 井岡 賢一
久我 敬史
登録日 2001-04-06 
登録番号 商標登録第4464953号(T4464953) 
代理人 柳生 征男 
代理人 青木 博通 
代理人 足立 泉 
代理人 日野 修男 
代理人 中田 和博 

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