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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z28
管理番号 1136405 
審判番号 無効2005-89014 
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-01-31 
確定日 2006-04-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第4458233号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4458233号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4458233号商標(以下、「本件商標」という。)は、「ウイルスバスター」の文字を標準文字としてなり、平成12年3月7日に出願、第28類「遊戯用器具,ビリヤード用具,ボードゲーム,囲碁用具,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,マージャン用具,液晶画面ゲームおもちゃ,液晶画面ゲームおもちゃ用プログラムを記憶させた記憶媒体,その他の液晶画面ゲームおもちゃの部品及び附属品,電子おもちゃ,その他のおもちゃ,人形,運動用具,釣り具」を指定商品として、平成13年3月9日に設定登録されたものである。

2 請求人の主張
請求人は、結論と同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第36号証を提出した。
(1)請求の理由
本件商標は、請求人の業務に係る「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」あるいは「コンピュータウイルス駆除に関する情報提供サービス」との間で混同を生ずるおそれがあったにも拘らず商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づきその登録は無効とされるべきである。
【a】本件審判を請求する利益
請求人は、自己の商標登録出願(商願2002-25441号)について本件商標を原因とする拒絶理由を通知されており、本件無効審判について請求の利益を有している。
【b】商標法第4条第3項と立証の趣旨
「コンピュータ2000年問題」が取り沙汰されていた1999年の暮れ頃(本件商標の出願日の数ヶ月前)には、既に「ウイルスバスター」という言葉が請求人の製造・販売に係る「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」の商標として広く認識されていたという点を先ず始めに立証し、次に、この情況が本件商標の登録査定日の属する翌2001年1月まで継続していたという事実につき述べる。すなわち、本件商標は、その登録査定日のみならず出願日においても商標法第4条第1項第15号に該当していた。
なお、請求人の製造・販売に係る「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」を以下単に「ウイルス駆除ソフト」と称すとともに、これを「請求人商品」と略し、また同人の使用する商標「ウイルスバスター」を、以下「引用商標」という。
【c】引用商標の使用実績(請求人商品の存在)-その1:本件商標の出願前
初めて請求人がウイルス駆除ソフトについて「ウイルスバスター」という商標を採択しこれを流通においたのは、平成3年(1991年)4月であるところ、本件商標の出願日より2年ほど前の1998年に作製した商品パンフレットが現存しているので提出する(甲第2号証ないし同第8号証。なお、引用商標が最初に採択された時期が1991年である点については、甲第30号証ないし同第34号証参照)。
甲第2号証は、1998年3月に作成した請求人の「総合カタログ」であり、ここには同人の主力商品として「ウイルスバスター97」及び「ウイルスバスター サイトライセンスパック」が同時に紹介されている。
また、甲第3号証は、「ウイルスバスター97」を個別に紹介するパンフレットであり、甲第4号証は、その「ウイルスバスター97」を「98年度版」に無料でアップグレードすることを併せて宣伝するためのパンフレット、更に甲第5号証は、「ウイルスバスター」シリーズの中の「サイトライセンスパック」を紹介するパンフレットとなっている。ちなみに、「ウイルスバスター」の後に続く「97」や「98」は当該ソフトウェアの発表年を西暦で示したものであり、概ね「バージョン表示」に代わるものとして使用されている。また「サイトライセンスパック」とは、単体のソフトウェアとしてだけではなく、事業所向けに複数本のライセンスを含めたパック商品のことをいう。
続く甲第6号証は、1998年6月に作成された総合カタログであって、前記「ウイルスバスター97」の次バージョンである「ウイルスバスター98」及び「ウイルスバスター サイトライセンスパックII」を紹介している。甲第7号証及び同第8号証は、共に「ウイルスバスター98」を個別に紹介するパンフレットである(このパンフレットは、表紙は同じだが記述内容が若干異なる。)。
このように、請求人の製造・販売に係るウイルス駆除ソフト「ウイルスバスター」は、本件商標が出願される前から確実に存在していた。
【d】引用商標の使用実績(請求人商品の存在)-その2:本件商標の出願日以降
請求人の製造・販売に係るウイルス駆除ソフトは、コンピュータウイルスを識別するための「パターンファイル」(ウイルス定義ファイル)をほぼ毎日アップデートするので、「バージョンアップ」という概念を広く捉えるのであれば、請求人商品は「毎日バージョンアップされているソフトウェア」ということなる。これは、ウイルス駆除ソフトという商品の属性上至極当然のことであって、頻繁にバージョンアップ(アップデート)されないウイルス駆除ソフトは「コンピュータウイルスに対抗できない」という意味でその使用に耐え得ない。そして、この種の頻繁なアップデートとは別に、請求人はほぼ一年に一度、製品自体に変更(いわば本格的なバージョンアップ)を加えてきており、そのバージョンアップに連動して、「ウイルスバスター」の後ろに当該年を示す「98」や「2001」といった数字を付し、需要者が当該商品の属する「大まかなバージョン」を把握できるように配慮している。
このように請求人は、1991年からほぼ毎年継続的に「ウイルスバスター」の更新・バージョンアップを行ってきておるところ、本件商標が出願された時期には「ウイルスバスター2000」が、また本件商標の審査が終了した時期には「ウイルスバスター2001」が存在し、共に相応の広告実績・販売実績を誇っていた。
【e】引用商標の著名性-その1:本件商標の出願日前後
請求人は、1991年(平成3年)からウイルス駆除ソフトの商標として「ウイルスバスター」という標章を一貫して使用し今日に至っている。のみならず、請求人商品「ウイルスバスター」については、本件商標の出願日・登録査定日のいずれにおいても、継続的且つ大々的な宣伝・広告が行われていた。
そこで、本件商標の出願時において、「ウイルスバスター」の語が、被請求人の遊戯用器具やおもちゃとしてではなく、既に「ウイルス駆除ソフト」の商標として、就中、請求人の製造・販売に係るウイルス駆除ソフトとして認識されていた筈である点を立証する。
はじめに、請求人商品の存在理由、すなわち「コンピュータウイルス」にまつわる当時の事情・時代背景につき述べるが、詳細は当時の雑誌記事「SPECIALREPORT/コンピュータウイルス傾向と対策」本文(甲第9号証)に詳しい。
これを敷衍すると概ね以下の如くである。
(ア)1999年3月に発症したウイルス「Melissa」の登場以降、コンピュータウイルスに対する一般的な理解が広まった。
(イ)1998年度に報告のあったウイルス感染事例は年間2,035件であったのに対し、1999年は1月〜7月の7ケ月間で2,235件と既に前年合計を上回っており、コンピュータウイルスの数は年々増加の一途をたどっている。
(ウ)いわゆる「2000年問題」(年号の認識を西暦の下二桁だけに頼っているソフトウェアの誤作動対策)と時を同じくしたこともあり、「コンピュータの自己管理」や「セキュリティ」が強く意識され始め、ユーザ自らがコンピュータウイルスからの様々な防衛手段を執る必要性につき提唱されるようになった。
(エ)のみならず、例えばMicrosoft/マイクロソフト社の名を語り「2000年間題対策用のソフトを配布する」と称してウイルスメールを送りつけるといったように、「2000年間題」に便乗してコンピュータウイルスが拡散するような社会現象まで登場した。この種のコンピュータウイルスは「Y2Kウイルス」「2000年ウイルス」などと総称されている。
要するに、1999年の下期、とりわけ年末にかけては、いわゆる「2000年問題」で持ちきりであり、それに連動してコンピュータウイルス対策が社会的に大きくクローズアップされてきた時期といえる。そこで、このような事情の下で、請求人商品が需要者にどの程度理解され、あるいは認知されていたのかを、当時の雑誌記事から推し測ることとする。
先ず、パソコン雑誌業界の最大手である「日経BP社」が1999年9月(本件商標出願の約半年前)に実施した「日経BP社パソコン雑誌9誌共同開催:第12回140万読者が選ぶパソコン・ベスト・ソフト」の選考結果に関する記事である(甲第10号証)。ウイルス駆除ソフトが属する「システム・ユーティリティー部門」では、ライバルであるシマンテック社の製品に僅かに及ばないものの、請求人の「ウイルスバスター」は第2位という順位を確保している(ウイルス駆除ソフトという範疇で捉える限り、請求人商品はシマンテック社のNorton AntiVirusを押さえて実質的に第1位ということになる。)。
ここで重要なのは順位それ自体ではない。その当時、我国の国民をしてコンピュータウイルスに関するある程度の認識があり、自分のパソコンがこの種のウイルスに感染しないように防衛することの必要性を感じ、あるいは万が一ウイルスに感染してしまった場合に備えて様々な対策を講じておくといったことを考える土壌があったか否か、そのような土壌があるとした場合に、請求人商品「ウイルスバスター」に接しこれを記憶に留める機会があったのか否か、更にその機会があったとした場合に、実際ほどの程度の範囲の人間に認識されていたと考え得るのかといったことこそが意味を持っている。 そして、コンピュータウイルスに対して何らかの策を講じる必要性が認識されていたという事実があり、そのための製品として請求人商品「ウイルスバスター」が何割かの需要者に支持されていたという実情があるならば、ウイルス駆除ソフトの需要者や当業者のみならず、凡そコンピュータを日常的に使用する者であれば誰でも一度は「ウイルスバスター」と称される「ウイルス駆除ソフト」に接したことがあると解しても何ら不自然ではない。勿論、その当時においてパソコンを一度も利用したことがない日本人もいるのだろうが、少なくとも学生や一般社会人を対象とする限りパソコンを使ったことがない者は極めて少数と目され、そのような意味での「パソコンユーザ」ならば、ウイルス対策にもそれ相応の意識を払っていた筈であるとの予測がつく。そして後述のように、ライバル製品が合わせて2〜4種類しかなく、実際には請求人商品を購入しなかった需要者も必ず請求人商品のことを比較対象候補として念頭に置いている筈との取引実情に照らせば尚更のこと、広い範囲の需要者が「ウイルスバスター」という商品名に接していたといい得るのである。以下、時系列順に当時の雑誌・新聞記事を俯瞰することで上記の主張事実を立証する。
甲第11号証は、1999年10月11日付の「The Business Computer News」 (以下 「BCN」 という。)中の「Market View」欄である。この「BCN Market Biew」は、当時における「東名阪の大手パソコン専門店218店舗の実売データをオンラインで集計する日次POSデータ収集システム」に基づいているのだからその信憑性は極めて高い。これによると請求人の「ウイルスバスター2000」は、ユーティリティソフトとしては初登場第1位の売り上げを誇っている。
また、同年12月13日に発売された「日経パソコン」中の記事「ベストセラーソフト」(甲第12号証)によっても、請求人商品「ウイルスバスター2000」が全てのジャンルのソフトウェアの中で第5位の売り上げとなり、ウイルス対策ソフトの中では最も売れていたということがわかる。
もっとも、ウイルス対策ソフトとしての販売実績を重ねているのは、請求人商品と前述のシマンテック社製品の二種類しかなく、ほぼ二社の寡占状態である。このことを如実に示すのが、同年12月15日に毎日コミュニケーションズから発行された「PCfan」(甲第13号証)中にある「ウイルス対策ソフトのシェア」というグラフであろう。ここでは、少なくともウイルス対策ソフトを購入した者の半数近い43%の人間が請求人商品を実際に選択しているという結論が示されている(同誌の「総合Best10」では第7位にランクされている。)。また、シマンテック社製商品を購入した者が必ず請求人商品との対比をしている筈との前提に立てば、何らかのウイルス対策ソフトの購入を検討したことのある人間のほぼ8割以上に相当する数の人間が、「ウイルスバスター」という商標に接し、これを請求人のウイルス対策ソフトとして認識してしたということになる。
ちなみに、記事の本文中では、ランクインされた各種ソフトを総評して「『ウイルスバスター2000』(中略)などウイルス対策ソフトも伸びた。」(甲第12号証)とか、「99年を振り返ると、全体的にユーティリティの強さが自立った。(中略)トレンドマイクロの『ウイルスバスター』、シマンテックの『ノートンアンチウイルス』も安定した人気を保った。」(甲第13号証)との分析がされている。その理由として(請求人自らの言葉ではあるが)「2000年問題をきっかけに、パソコンユーザーの間でセキュリティへの関心が高まっている」といった説明が付されており、これが当時の世情を正確に反映しているとすらいえる。
次に、年明け2000年の記事を検証する。先にも提出した「BCN」の2000年1月10日号「BCN Market View」(甲第14号証)によると、ユーティリティ分野において請求人商品が相変わらず第1位の売れ行きを誇っていることがわかる。この現象を総じて評すれば、主要55ジャンルに及ぶパソコン周辺商品の中のユーティリティソフト部門において、請求人商品「ウイルスバスター2000」は1999年に一番売れた商品ということになる(甲第15号証)。
すなわち、引用商標は、本件商標の出願時において、少なくとも「周知」といい得る程度には業務上の信用を獲得済みであった。
【f】混同のおそれ-その1:引用商標の構成と商品の関連性
人々が引用商標「ウイルスバスター」に接した際、実際にこれを十分記憶にとどめることができていたか否か、更には「遊戯用器具」や各種「ボードゲーム類」、「おもちゃ」「人形」等に「ウイルスバスター」の文字列が使用されていたと仮定した場合に、これが請求人と何らかの繋がりを持つ者の業務に係る商品であると理解されてしまうおそれがあったのか否かという点につき、簡単に触れておく。
確かに、コンピュータソフトウェアと第28類の「遊戯用器具」や「ボードゲーム」の類、「おもちゃ」「人形」とは商品の性格が全く異なるし、需要者の購買目的にも重なり合いはない。また、具体的な出所混同の可能性はともかく、「一般的出所混同」の見地からも両者は非類似商品として扱われている(類似商品役務審査基準)。
しかしながら、「コンピュータゲーム」や「ハイテクおもちゃ」という概念の商品があることからもわかるように、コンピュータソフトウェアと第28類に帰属する商品の間には、そもそも密な関係があるというべきだし、本件商標の指定商品として特掲されている「液晶画面ゲームおもちゃ用プログラムを記憶させた記憶媒体」の本質は、それがコンピュータ用であるかおもちゃ用かの違いはあるものの、まさに「プログラム」すなわち「ソフトウェア」である。
また、同じく引用商標の指定商品である「液晶画面ゲームおもちゃ」が第28類に帰属する一方で、その「プログラム」は第9類に属することが明示されるに至っており(国際分類第8版。なお本件商標の出願時には第7版適用。)、概念括りをしない国際分類の考え方でも第9類と第28類の間は関連深いことが窺われる。その意味でもコンピュータソフトウェアと引用商標の指定商品には共通項があるといえるから、もしこのような関係に立つ二種の商品について同一の商標が付されており、片方がコンピュータソフトウェアの商標として少なくとも周知の域に達していたとすれば、両商品の製造・販売過程には「何らかのビジネス上の繋がりがあるのだろう」と考える方がむしろ自然である。このようにコンピュータソフトウェアと本件商標の指定商品は、「決して出所混同など生じ得ない」と言い放ってしまえる程度に無関係なわけではない。
しかも「ウイルスバスター」という言葉は記述的なものでもなく、ウイルス駆除ソフトの商標として採択使用されることが極めて当たり前というわけでもない。古くはプロレス技としての「ブレーンバスター」や名作映画の題号である「ゴーストバスターズ」(幽霊退治屋)で馴染みのある「バスター」には「破壊的な力を持つもの」の意があり、これが他の語と結びつくことで「〜を破壊する入」といった意味を帯びるに至るが、同様に請求人も当該ウイルス駆除ソフトのことを「コンピュータウイルスを退治する者」「ウイルス退治屋」の如く擬人化しているのである。その意味において本件商標の造語性は比較的高い(なお、「駆除ソフト」のことを「バスター」と称す傾向がないことはいうまでもない。)。
すなわち、引用商標は、「ウイルス退治人」の如き独特の意味合いと「ウイルスバスター」の特異的な称呼をして需要者の記憶に残りやすい属性を本来的に兼ね備えていると評価できるのであり、もしこれが「おもちゃ」その他の国際分類第28類に属す商品について使用されていたならば、これを請求人の業務に係る商品と誤解するであろう場合の多いことは容易に想像できる。例えば、請求人商品が広く世に知られている時期に、コンピュータソフトウェアの販売促進活動の一環としてマスコット人形のノベルティを企画したとしたら、「ウイルスバスター」という商標の付されたおもちゃやボードゲーム・人形を請求人による販促業務の一つと理解することは極めて自然である。そして、コンピュータソフトウェアのユーザがそのおもちゃ等に接した時、少しでも請求人商品「ウイルスバスター」のことを想起したのなら、それは出所混同の「おそれがあった」と解せば足るものであるところ、その蓋然性が高かったことも、甲第9号証ないし同第15号証、並びに、同第16号証以下の書証に照らして明らかと確信する。
なお、登録査定に至るまでの中間時期、例えば2000年の6月頃においても請求人商品「ウイルスバスター2000」が順調な売れ行きを伸ばしていた事実には変動がなく、この点を疎明すべく念のため2000年6月1日に毎日コミュニケーションズから発行された「PCfan」を提出しておく(甲第16号証)。これによれば、ウイルス対策ソフトの中で請求人商品が占める割合は若干減少しているものの未だ第1位の売れ行きを誇っていたことがわかる(ちなみに、当時「I Love Youウイルス」が流行したことによりウイルス対策ソフトが再度注目されていた時期であることを付言する。)。
【g】引用商標の周知性-その2:本件商標の登録査定日前後
本件商標の登録査定日(発送日)は平成13年1月22日だから、起案がその数週間前に行われたとして、これに先行する2〜3ケ月間(2000年10月〜12月)の世情は審査内容に最も影響を及ぼして然るべきと目されるところ、丁度その時期に「日経BP社パソコン雑誌12誌共同開催:パソコン・ベスト・ソフト」の選考結果が出ているので、これを検証する。
第13回大会では媒体数が9誌から12誌へと増えているものの、どの雑誌に掲載されているかによって内容に差が出るわけではないから、甲第17号証以下では、この雑誌記事を企画した前記日経BP関連12誌中の幾つかを発行日順にピックアップして示すが、重要なのは媒体数の増加に伴い読者数も140万人から190万人へと50万人増が予想されている点である。
甲第17号証は2000年10月24日付発行の「日経モバイル」12月号、甲第18号証は同日付「日経PC21」12月号、甲第19号証は同年10月29日付発行の「日経ネットナビ」12月号、甲第20号証は同日付「日経WinPC」12月号、甲第21号証は同年11月8日付発行の「日経Click」12月号、甲第22号証は同年11月13日付発行の「日経ベストPC」12月号、甲第23号証は同年11月14日発行の「日経ビギナーズ」12月号の記事であって、何れも「システム・ユーティリティー」と呼ばれる分野のソフトウェアで請求人商品「ウイルスバスター」が首位であった旨をそれぞれ報じている。このような記事に徴すれば、ウイルス駆除ソフトやウイルス対策ソフトと呼ばれる商品群の中にあって、請求人商品「ウイルスバスター」が相当広い範囲のコンピュータユーザの支持を集めていたであろうことは容易に想像がつくし、190万人読者の少なくとも8割以上の人間(推定150万人)は「ウイルスバスター」という特異な名前のソフトウェアのあることを明確に認識していたであろうと目される。それに「インターネットを経由したウイルス被害が拡大したことを反映してか、ウイルス対策ソフトが人気を集め」ている(甲第23号証)という情況は、本件商標が出願された時と何ら変わっていない。
このような現象は日経BP及びその関連会社だけが認識しているわけではない。甲第24号証としてまとめて提出するのは株式会社アスキーの発行する「週刊アスキー」2000年9月26日発行分から同年12月26日発行分までの14週分だが、ここでは毎週の売れ筋商品ベスト5が掲載されているところ、請求人商品「ウイルスバスター2001」は当時14週連続でベスト3以内を確保している。ちなみに、対象となっているソフトウェア分野は「ビジネス」と広く、「ウイルス対策ソフト」や「システム・ユーティリティー部門」といった限定があるわけでもない。にもかかわらず、3位はおろか、同時期に14週連続で5位以内を確保したソフトウェアは一つもないという情況である。それだけソフトの需要は移り変わりが激しいということにもなろうが、その中にあって請求人商品だけが売れ続けているのにはそれなりの理由があったと目すべきである。
甲第25号証は、2000年10月から11月に発行された毎日コミュニケーションズ「PCfan」(隔週刊4回分)であり、請求人商品「ウイルスバスター」が「ユーティリティランキング」の第1位と第5位にランクインされていること、「ソフト総合ランキング」では第1位となったこと、「ソフト市場は依然低迷気味だが、その中で気を吐いたのがウイルス対策のウイルスバスター2001」であり、これが「ダントツの売れ行きを見せた。」旨を報じるもの、並びに、「ソフト総合ランキング」でなお第4位にランクインされていることがそれぞれの記事内容となっている。
甲第26号証は、同じく毎日コミュニケーションズが発行していた「PCSTYLE21」(現在は廃刊)からの抜粋である。この雑誌は月刊であるが、10月18日発行号は請求人商品「ウイルスバスター2000アップグレード版」が第3位、他方「ウイルスバスター2001」が第5位の売り上げである旨(ウイルスソフト分野ではそれぞれ第1位及び第2位を独占)を、更に11月18日発行号では「ウイルスバスター2001」が総合・部門別共に第1位の売り上げである旨を報じている。
甲第27号証は、同じく毎日コミュニケーションズが発行していた「タッチPC」(これも現在は廃刊)からの抜粋である。こちらは「実用ソフト」という分類を用い、「ウイルスバスター2000アップグレード版」が第2位、「ウイルスバスター2001」が第5位の売り上げである旨(10月24日発行号)、11月24日発行号では「ウイルスバスター2001」が第1位、12月24日発行号では第2位の売り上げである旨をそれぞれ報じている。
甲第28号証も毎日コミュニケーションズが発行する「Windows Start」(月刊)である。こちらは「電脳番付TOP10」というコーナーでソフトウェア一般の売り上げを示している。10月29日発行号では「ウイルスバスター2000アップグレード版」が第1位からダウンして第3位であるのに対し、「ウイルスバスター2001」が初登場第5位の売り上げである旨を、また11月29日発行号では「ウイルスバスター2001」が第1位である旨を、更に12月29日発行号では第1位からランクダウンして第4位の売り上げである旨をそれぞれ報じている。
その他、2000年の同時期に発行された朝日新聞社の「ASAHIパソコン」や、ソフトバンク社発行の「DOS/V Magazine」、インプレス社発行の「DOS/V Power Report」の何れにおいても、請求人商品を売り上げの多いソフトにランクしている(甲第29号証)。なお、広告宣伝費の詳細については、必要ならばこれを立証する用意がある。
【h】混同のおそれ-その2:需要者・取引者の直接的な認識
請求人商品「ウイルスバスター」は、本件商標の出願日前からコンピュータユーザの間で広く浸透していただけでなく、その傾向は本件商標の審査中も継続していた。そして元々「ウイルスバスター」という言葉に特異的な称呼・観念が具わっていたこと上述のとおりであるから、需要者・取引者が引用商標を記憶にとどめるのも容易といえ、且つ、コンピュータソフトウェアと「おもちゃ・人形」等との間にはある種の繋がりも認められる以上、本件商標の使用された「おもちゃ、人形」等に接すれば、これを請求人の業務に係る商品であると誤解するおそれは多分にあったというべきである。
そこで、「混同のおそれ」 をより直接的な形で立証すべく、甲第30号証ないし同第34号証として計5通の「証明書」を提出する。
先ず甲第30号証は、株式会社大塚商会LA事業部事業部長矢野克尚氏の記名押印による平成14年6月3日付の証明書並びに署名者が所属する株式会社大塚商会の企業概要・事業拠点を紹介するウェブサイトの写しである。株式会社大塚商会が全国規模で事業展開しているシステムインテグレーター・OAサプライヤーの最大手であることは顕著な事実と目されるので、この点に関する詳細な立証は割愛するが、同社の資料「アニュアルレポート2001」(http://www.otuka-shokai.co.jp/ir/pdf/200112_ar.pdf)の記述によると、「LA事業部」は「Large Account事業部」を意味し、「年間売上高1,000億円以上の大手企業もしくは上場企業を対象に、高度情報インフラ提案などを行なう」同社のコンピュータ販売部門である。このような事業部の責任者が、請求人による引用商標の最初の採択は平成3年(1991年)4月頃であったこと(証明内容の1.)、請求人商品に触れた時期として明確に記憶しているのが「2000年問題」の騒がれていた1999年後半から2000年の初頭であり、この時期に「ウイルスバスター」は世間的に既知の商標になっていたこと(証明内容の2.及び3.)、並びに、その当時、ソフトウェア以外の商品で「ウイルスバスター」というものがあれば、請求人の商品であると誤解するおそれがあったと目されること(証明内容の4.)が述べられており、これらは何れも署名者が自己の職業観に基づいて認識した内容を如実に示したものとして評価できる。
その一方で、署名者が他人である需要者の考えを余すところなく正確に把握することなど不可能であり、この種の証明書を以て出所混同が生じる蓋然性を計ることなどできないとの批判を加えることもできよう。しかしながら、当該証明書は既に検証した引用商標の使用実績が真なるものであることを別の立場から補足するものであるから何らその証明力に欠けるところはない。
そこで、他にも同様の認識を持っていた第三者がいたことを立証すべく、甲第31号証としてソフトバンク・コマース株式会社(現ソフトバンクBB株式会社)の当時の代表取締役宇陀栄次氏の記名押印による証明書と同社事業経歴を示すウェブサイトの写しを、甲第32号証としてソフトバンクパブリッシング株式会社DOS/V Magazine編集部澤田健太郎氏の記名押印による証明書と当該発行媒体に関する資料を、甲第33号証として同じソフトバンクパブリッシング株式会社のYahoo! Internet Guide編集部副編集長伴雅子氏の記名押印による証明書と当該発行媒体に関する資料を、甲第34号証として株式会社アスキーASCII24編集部デスク佐々木俊尚氏の署名に係る証明書と同社の業務に関する資料を提出する。
ソフトバンク・コマースからの証明書(甲第31号証)を除き証明書の文面は全て共通しているので(甲第31号証には証明内容の4.が含まれていない。)署名者が所属する会社の中立性・事業規模・公共的信頼性・署名者自身の役職や立場に照らせば、一連の証明書作成作業がいわゆるメクラ判の類でないことは一目瞭然である。また請求人は、署名予定者に「特許庁提出用『証明書』署名ご依頼の件」と題する書面(甲第35号証)を配布して証明内容の周知徹底を図っており、本件証明書の内容が請求人に都合よい誘導をするようなものではないことも明らかなので、これらをして出所混同の蓋然性を検証することは法的に何ら不自然ではない旨を付言する。
【i】以上、請求人の使用に係る「ウイルスバスター」は、本件商標の出願時及び登録査定時共に需要者の間で広く認識されていたということができ、これと同一の称呼を生じる本件商標がその指定商品について使用されていれば、需要者・取引者は、これを請求人の業務に係る商品であると、あるいは、直接請求人が製造した商品とは思わないにしても、販売促進用のノベルティ等、同人の業務と何かしらの提携関係・経済的繋がりのある商品として理解すること必定である。
(2)弁駁
ア.甲第2号証ないし同第8号証は、請求人商品「ウイルスバスター」がその時期確実に「存在していたこと」のみを立証の趣旨とするものであるし、請求人もこれらカタログ・パンフレットを提出しただけで引用商標の周知性が立証されるとは思っていない。本件商標の出願前における引用商標の周知性は、甲第10号証ないし同第15号証の雑誌記事によって十分その心証を得ることが可能と目される。
イ.コンピュータウイルスがインターネット以外の経路(例えばフロッピーディスクその他の記録メディアのやりとり)を介しても感染し得るものであることはいうまでもなく、インターネットの利用率云々はコンピュータウイルスの持つ属性・歴史的背景を語る上では適切でない。
確かに、インターネットその他のネットワークに繋がっているコンピュータの方がウイルスの脅威にさらされ易く、また、その危険性を実感しやすいといえるが、コンピュータウイルスに対する認知度とインターネットの普及率が正比例しているかのように考えるのは早計に過ぎる。まして、当時はインターネットが普及していなかったからコンピュータウイルスについての知識もなく、だからウイルス駆除ソフトについても注意を払うことはなかったというような理屈が通用するはずもない。
ウ.甲第16号証ないし同第29号証は、請求人商品が本件商標の「出願後」「登録査定前」という時期にも売れ続けていたという事実を疎明・立証するためのものであるが、これらの雑誌中に請求人商品の「具体的な販売数量の記載は一切ない」という指摘は尤もといえるので、これにつき以下に記す。
販売年度 販売本数
1996 81,055本
1997 161,404本
1998 184,460本
1999 217,801本
2000 300,068本
2001 925,307本
2002 1,142,315本
累計 3,012,410本
被請求人は、有名な「ゲームソフト」の販売本数を引き合いに出し、これと「ウイルス駆除ソフト」とを比較しつつ「その購買者層はきわめて限定的である」とか「平成12年(2000年)におけるゲームソフトの販売本数は(中略)50万本を超えたものが実に13タイトルにも上る」と述べているが、そのような視点での商品の対比を前提にすることが適切であるかどうか、更には、年間50万本とか100万本という数字が周知性の判断基準として適当なものであるかどうかという点については疑問なしとしない。
なお被請求人は、「平成8年(1996年)から平成14年(2002年)の7年間における累計に至っては、35タイトルが100万本を超える販売本数を誇っている」「引用商標が同号(4条1項15号)によって他人の登録を阻却できるほど著名であるというためには、他人の商標登録出願時に少なくともこれらと同等かそれ以上の販売実績を立証すべき」であると主張している。そこで上記の数字を当てはめてみると、平成8年から平成11年までの4年間における請求人商品の販売累計は644,720本となり、被請求人のいう100万には届かないことがわかる(本件商標の出願時に固執する被請求人が何ゆえ平成8年から平成14年という7年の期間を問題にしているのか不明だが、この7年間の販売本数総計は3,012,410本となり、100万本を超えている旨、申し添える。)。但し、上記の数字はパッケージ数をベースに算出したものであり、1パッケージで例えば5ライセンスを含むものも「1」と数えている。よって、引用商標に接する機会のあった需要者の実数が上記よりも多いことを考慮すると、前記4年間における実質的な販売累計数は少なくとも70万本を下らない。また、2000年の販売本数300,068本のうち、3月7日までの約二ケ月分を50,000本と仮定しこれを加えると、本件商標の出願日前の販売本数はおよそ750,000本であったと考えられる。勿論、「何万本を超えれば有名」というような基準があるわけではないから何ともいえないものの、750,000という数字は「評価にすら値しない」というレベルの本数ではない。
ちなみに、引用商標に関する 2000年の宣伝広告料は計66,729,000円であったことを付言する(必要があれば証明する。)。
エ.被請求人は、請求人が提出した「証明書」(甲第30号証及び同第31号証)につき「証拠能力はないに等しい」と、また、甲第32号証ないし同第34号証の証明書の「証明者」について、「コンピュータについては専門的な知識を有する者であるから、その専門分野における認識は世人のそれとかけ離れている」などと述べている。
甲第30号証ないし同第34号証の証明書は、その当時に証明者本人が認識していたであろう内容を事後的に確認し書面として記録したものに過ぎないから、もとより補強証拠としての意味しか持ち得ないし、これをして引用商標の周知性が確定的となるわけでもない。甲第10号証ないし同第29号証のような雑誌媒体で喧伝されている当業界の事情と一致する認識を持っていた者が少なからず実在するということが立証できれば十分と考える。
また、コンピュータの専門家の知識と一般人のそれとの間に格差があるとしても、ソフトウェアの名称を記憶したり、コンピュータウイルスに関する一般的なニュースを理解するのに殊更専門的な知識が必要と考えるのはいささか大げさだし、そもそも「そのような専門家(当業者)であれば、皆ウイルスバスターのことを請求人の商品であると理解していた」と考えれば、当業者の間では出所混同の生じる可能性があったことになるから、一般人と専門家とを峻別する実益は乏しい。証明書の証明内容は、日常コンピュータを使っている人のうちコンピュータについて平均的な知識を持っている者の認識を類推させ得るものとして一定の証明力を有している。
オ.被請求人は、引用商標の「造語性」を問題にしているが、「創造標章であるか」ということを「識別力の多寡」ということと完全に置き換えて論じている被請求人の主張は、その前提において失当である。
ちなみに、そもそも英語圏においてすら「コンピュータウイルスを駆除するソフトウェア」を指して「ウイルスバスター」と称しているわけでもない。「ウイルス」と「バスター」が持つそれぞれの語義から所定の意味合いを連想できるからといって、「ウイルスバスター」が創造標章でないとはいえない。
なお、被請求人は、無効審判事件での経緯を挙げ、「識別力がないことを請求人は自認していた」と主張しているが、当時、請求人は商標権侵害に基づく商標使用差止請求事件の被告となっており、権利侵害を否定するために原商標登録を無効にする必要があったから、その一手段として識別力の欠缺を主張したに過ぎない(本来「ウイルスバスター」は請求人の商標として使用実績を積んでいたものであるところ、他人「差止請求事件原告」がこれを登録してしまったという特殊事情が介在している。)。
何れにしても、本件商標に4条1項15号該当の無効理由があることと、過去、識別力の欠缺を理由に無効審判を請求した経緯のあることとは、その目的において相反するわけではない。
カ.引用商標がハウスマークとしての位置づけをされていないこと、請求人が審査基準にいうような意味での多角経営に乗り出している者でないことは認める。但し、そのことが本件商標の無効理由の存否には全く影響しない。審査基準に掲げられている(イ)ないし(ホ)の基準は無効理由の存否を検討する上での指針に過ぎない。
キ.請求人商品の需要者を「高度且つ専門的な知識を有する」コンピュータユーザとしているが、そのレベルに至らない「一般的コンピュータユーザ」や、「勉強や仕事をする上でコンピュータが不可欠」だが「ネットワークやシステム構築については些程の知識を持っているわけではない者」というようなレベルの者にとっても、コンピュータウイルスについての関心は十分あったというべきである。請求人商品の需要者については、この程度の者をして中心的な購買層であったと仮定しても何ら不思議ではなく、被請求人のいうように「きわめて限定的」な範囲の人間のみを想定する必要はない。
次に、請求人商品の需要者をして「その年齢層は比較的高い」としているが、むしろコンピュータについて専門的な知識を持つのは若い世代のはずである(ハッカーやウイルス開発者の多くが若年層であるといっても言い過ぎではない。)。
次いで被請求人は、本件商標の指定商品の需要者層(自社商品の需要者層)をティーンエイジャ一以下の若年層と位置付けているにも拘らず、彼らがコンピュータウイルスについて全く関心がないかのような前提の議論を展開しているが、コンピュータや携帯用ゲーム機を日常不可欠の道具としているのは正にティーンエイジャーであるという情況から推察すると、被請求人の反論はこの点においても何らかの誤解があるというほかない。請求人商品の需要者と本件商標の指定商品の需要者層は、正に重複するといって過言ではない。
ク.甲第36号証として提出する書面は、1997年9月1日(平成9年)に作成された「コンピュータウイルスの被害とその対策について」というアンケート結果の集計である。アンケートの実施期間は1997年7月18日から7月29日、有効回答を待た4,486人中、自分のPCにコンピュータウイルス駆除用ワクチンソフトをインストールしているのは3,397人(有効回答数の約75%)おり、更に、その中の約60%の人間が「ウイルスバスター」の何らかのバージョンを利用していると回答していることを示している。

3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第8号証を提出した。
(1)次のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものではないから、請求人の主張には理由がないものである。
(2)特許庁商標課編「商標審査基準〔改訂第7版〕」によれば、商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かの判断にあたっては、
(イ)その他人の標章の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)
(ロ)その他人の標章が創造標章であるかどうか
(ハ)その他人の標章がハウスマークであるかどうか
(ニ)企業における多角経営の可能性
(ホ)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
等を総合的に考慮するものとする、とされている(乙第1号証)。
そこで以下、上記(イ)ないし(ホ)に照らし、請求人が商品「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」に使用していたと主張する商標「ウイルスバスター」(以下「引用商標」という。)との関係において、本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するか否かについて検討する。
(3)引用商標の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)
ア.甲第2号証ないし同第8号証(カタログ・パンフレツト)によれば、本件商標の出願前から請求人が「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」に引用商標を使用していたであろうことは推察される。しかしながら、これらのカタログやパンフレットが、いかなる地域に、いかなる数量、いかなる方法で頒布されたものであるのか、何ら立証されておらず、これらをもって引用商標が請求人の商標として本件商標の出願前から広く知られていたということはできない。
イ.コンピュータウイルスは、ネットワークなどを通じて次々にコンピュータに感染するという性質を持つものであるから(乙第2号証)、世間一般、個々人がその脅威を実感するようになったのは個々人が日常的にインターネットに接する環境が整ってからである。そして、コンピュータウイルスの脅威を実感すればこそ、その対策の必要性を感じ、そこで初めてコンピュータウイルス対策ソフトの存在を意識するのである。そこで、以下、本件商標の出願時におけるインターネット事情について検証する。
総務省の情報通信白書平成16年度版(乙第3号証)によれば、平成11年末(本件商標の出願の約2ケ月前)における我が国のインターネット利用人口普及率は21.4%であって、平成15年末の60.06%に比べ、低いものであった(乙第3号証、26頁上段図表)。さらに詳細にみれば、同時期における自宅等において個人的な使用目的のためにインターネットを利用している構成員がいる世帯の割合(世帯普及率)は19.1%であって、平成15年末の88.1%に比べ、きわわめて低いものであった(乙第3号証、26頁下段図表)。インターネット普及の阻害要因としては、当時の通信速度の遅さが挙げられる。現在でこそネットワークインフラが整備され、ブロードバンド化が進んでいるが、平成11年末(本件商標の出願の約2ケ月前)における我が国のブロードバンド契約数は22万件であって、平成15年末の1495万件に比べ、きわめて少ないものであった(乙第3号証、4頁図表)。前述のとおり、コンピュータウイルスは、ネットワークなどを通じてコンピュータに感染するという性質を持つものであるから、通信速度が遅ければ、コンピュータウイルスの感染速度も当然に遅く、したがって、その被害範囲も限定的であり、それに相応してコンピュータウイルスの脅威にさらされていた者もさほど多くなかったとみるのが妥当である。
このようなインターネット事情からみて、本件商標の出願時に広く世間一般、個々人がコンピュータウイルスの脅威を実感していたとは言い得ず、したがって個々人がコンピュータウイルス対策ソフトの商品名を逐一記憶に留めることはなかったとみるのが妥当である。そうとすれば、引用商標が請求人の商標として本件商標の出願前から広く知られていたというには無理があると言わざるを得ないものである。
ウ.請求人は甲第10号証ないし同第18号証の雑誌等を提出している。 しかしながら、このうち甲第15号証ないし同第28号証の雑誌は、本件商標の出願後に発行されたものであるから、本件商標の出願時における引用商標の周知度を何ら立証し得ないものである。
甲第10号証ないし同第15号証の雑誌等は、本件商標の出願前に発行されたものではあるが、いずれもコンピュータ専門誌であって、その購読者層はきわめて限定的である。特にその発行当時においては尚更である。また、これらの雑誌には、引用商標の使用された「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」の具体的な販売数量の記載は一切ないものである。よって、これらに「ウイルスバスター」の文字が散見されるからといって、引用商標が請求人の商標として本件商標の出願前から広く知られていたということはできないものである。
ちなみに、本件商標が出願された平成12年(2000年)におけるゲームソフトの販売本数は、年間第1位「ドラゴンクエストVII〜エデンの戦士たち〜」の378万本を筆頭に、50万本を超えたものが実に13タイトルにも上るものである(乙第4号証)。そして、平成8年(1996年)から平成14年(2002年)の7年間における累計に至っては、35タイトルが100万本を超える販売本数を誇っているものである(乙第4号証)。しかしながら、これらのゲームソフトの名称でさえも、当時そのすべてが商標法第4条第1項第15号の規定によって他人の登録を阻却できるほど著名であるとは必ずしも言い得ないところであるから、引用商標が同号によって他人の登録を阻却できるほど著名であるいうためには、他人の商標登録出願時に少なくともこれらと同等かそれ以上の販売実績を立証すべきである。
エ.請求人は、甲第30号証ないし同第34号証として証明書を提出している。
甲第30号証及び同第31号証の署名者は、それぞれ株式会社大塚商会及びソフトバンク・コマース株式会社(現ソフトバンクBB株式会社)に所属する者である。ここで請求人のホームページ(乙第5号証)を見るに、両社は請求人の代理店として記載されていることから、両社に所属する者が請求人の意向に逆らって署名を拒むことは考え難く、甲第30号証及び同第31号証の証拠能力はないに等しいものである。
また、甲第32号証ないし同第34号証の署名者は、いずれもコンピュータ関連専門誌の編集部に所属する者であって、コンピュータについては専門的な知識を有する者であるから、その専門分野における認識は世人のそれとかけ離れている可能性を否定できず、その証明内容を真に受けることはできないものである。
しかも、甲第30号証ないし同第34号証の証明書は、いずれも平成14年5月から6月にかけて署名されたものであり、これよりも2年以上前の本件商標の出願時の状況を正しく証明し得るとは到底考えられない。
(4)引用商標が創造標章であるかどうか
引用商標は片仮名文字「ウイルスバスター」 を書してなるものである。ここで「ウイルス」の文字は「濾過性病原体」を意味する語として我が国において広く知られており、「インフルエンザウイルス」「HIVウイルス」等、日常頻繁に使用されており、特にコンピュータ関連業界においては「コンピュータウイルス」の略称としても使用されているところである(乙第2号証)。
また、「バスター」の文字も「古くはプロレス技としての『ブレーンバスター』や名作映画の題号である『ゴーストバスター』(幽霊退治屋)で馴染みのある」語であり、これが他の語と結びつくことで「〜を破壊(撃退)する物(者)」といった意味合いを帯びる語である。
そうとすれば、引用商標からは「コンピュータウイルスを破壊(撃退)する物(者)」という意味合いが容易に想起されるものである。このような意味合いからすれば、引用商標は、商品「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」について自他商品の識別力がないか、きわめて弱いものであって、創造標章とは言い得ないものである。
このことは、片仮名文字「ウイルスバスター」を横書きしてなり、第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」を指定役務とする登録第3137652号商標について、請求人が請求した無効審判事件(平成10年審判第35546号)において、請求人自らが主張しているところであり、特許庁もその主張を容れて無効審決をなしている(乙第6号証)ことからも明らかである。ちなみに、この無効審判事件の審判請求日は平成10年11月6日、審決日は平成12年8月15日であるから、少なくとも本件商標の出願時には、「ウイルスバスター」の語が「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」「電子応用機械器具及びその部品」等について自他商品(役務)の識別力がないことを請求人は自認していたものである。
(5)引用商標がハウスマークであるかどうか
甲第2号証及び甲第6号証の請求人カタログを見てもわかるように、請求人は引用商標を「ウイルス駆除ソフト」についてのみ使用しているのであり、その他の用途の商品には「ServerProtect」「ScanMail」等、引用商標とは異なる商標が使用されているところである。また、請求人の社名も引用商標とは何ら結びつきのないものである。
したがって、引用商標が請求人のハウスマークでないことは明らかである。
(6)企業における多角経営の可能性
現在の請求人の事業内容は「コンピュータ及びインターネット用セキュリティ関連製品・サービスの開発・販売」とされており(乙第5号証)、きわめて専門的な分野に特化されているものである。
そして、甲第2号証及び同第6号証の請求人カタログからみて、本件商標の出願時においてもその事業内容は同様であったものと推察される。そうとすれば、請求人の経営は、本件商標の出願時から現在に至るまで何ら多角化されていないものである。
また、請求人も競合会社と認めるシマンテック社やマカフィ一社もその事業内容をコンピュータセキュリティ分野に特化しており(乙第7号証及び同第8号証)、他の事業分野にまで経営を多角化している事実は見出せない。
してみれば、今後も請求人が他の事業に経営を多角化する可能性は低く、いわんや本件商標の指定商品にまで経営を多角化する可能性はきわめて低いものである。
(7)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
請求人が引用商標を使用していたと主張する商品は「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」である。前記(3)イで述べたとおり、本件商標の出願時における我が国のインターネット普及率からみて、平成12年当時に広く世間一般、個々人がコンピュータウイルスの脅威を実感していたとは言い得ず、したがって「コンピュータウイルス駆除のためのソフトウェア」なる商品の需要者は、大企業のコンピュータシステム管理者や一部のコンピュータマニアなど、コンピュータについて高度かつ専門的な知識を有する者に限られ、その範囲はきわめて限定的であったとみるのが妥当である。また、本件商標の出願時におけるこれらの者の年齢層は、その性質上比較的高いものであったと推定される。
一方、本件商標の指定商品は広く一般大衆が対象となり得るものであるが、特に「おもちゃ,人形」等についてみれば、本件商標の出願当時からティーンエイジャー以下の若年層が主たる需要者である。
このように、両商品の需要者層は大きく異なり、両商品の用途、両商品の製造メーカー及び流通ルートも大きく相違していたことからみて、本件商標の出願時における両商品間の関連性はきわめて薄いものであったというべきである。
(8)以上の事情を総合して考察すれば、引用商標との関係において、少なくとも本件商標の出願時に、本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当しないものであったことは明白である。

4 当審の判断
(1)本件商標及び引用商標
ア.本件商標は、前記1のとおり、「ウイルスバスター」の片仮名文字からなるものであり、請求人が商品「ウイルス駆除ソフト」に使用する引用商標が「ウイルスバスター」の片仮名文字からなるものであることについては、当事者間にも争いはない。
イ.「ウイルス」の文字は、「濾過性病原体」を意味する語として我が国において広く知られており、コンピュータ等との関係においては、「コンピュータウイルス」をも意味するものである(乙第2号証)。また、「バスター」の文字は、プロレス技としての「ブレーンバスター」や映画の題名である「ゴーストバスターズ」(幽霊退治屋)で馴染みのある語であり、これらから「バスター」は、「〜を破壊するもの」との意味合いをもって理解されているといい得るものである。
しかして、「ウイルス」と「バスター」の各文字を一連に結合した「ウイルスバスター」の文字は、前記「ウイルス」及び「バスター」が有する意味から派生して、「ウイルスを撃退するもの」との意味合いを想起させることがあるとしても、直ちに固有の語義を有する既成語であると認め得る証拠はなく、また、当該「ウイルスバスター」の語が、コンピュータのソフトウェア等の取引界において、商品の品質等を表示するため取引上普通に使用されているとの事実を認め得る証拠もない。
してみれば、「ウイルスバスター」の文字は、「ウイルス」及び「バスター」を組み合わせて結合することにより、前記「ゴーストバスター(幽霊退治屋)」を模して、「ウイルス退治屋」というような擬人化した表現の造語というのが相当であって、「ウイルスバスター」の文字は、商品「ウイルス駆除ソフト」との関係においてみても、「コンピュータウイルスを撃退するもの(物)」を暗示させる限りにおいては識別力が高いといえないとしても、その構成文字をもって、創造語でなく独創性が低いとまでいうことはできない。
ウ.また、本件商標と引用商標とは、その構成文字「ウイルスバスター」を全く同じにするものであり、両商標は極めて類似性の高いものである。
(2)引用商標の周知性
ア.引用商標が「ウイルスバスター」の片仮名文字からなり、「ウイルス駆除ソフト」に使用されているものであることについては、当事者間に争いはない。そして、本件商標の出願日が平成12年3月7日であり、その登録査定日が平成13年1月22日であることは、商標登録原簿に徴して明らかである。
イ.平成3年4月若しくは同年5月頃に、引用商標に接したことのある者が複数存在することが認められ(甲第30号証ないし同第34号証)、また、平成10年から同11年にかけて「ウイルスバスター」の標章を付した請求人の商品カタログが継続して作成された事実が認められる(甲第2号証ないし同8号証)。
ウ.本件商標の出願前に当たる平成11年(1999年)後半には、いわゆる「コンピュータ2000年問題」が話題になって社会的な関心事となったことは顕著な事実である。これと時期を同じにしてコンピュータウイルスへの関心(対策への関心)もまた高まりをみせたことが、平成11年11月29日インプレス社発行の「DOS/V POWER REPORT 2000 January」(甲第9号証)の「コンピュータウイルス 傾向と対策」(334頁以降)に記載された記事によって確認することができる。
エ.雑誌「日経PC21(1999年11月号)」の「日経BP社パソコン雑誌9誌が共同で開催した第12回140万読者が選ぶパソコン・ベスト・ソフト」の選考結果に関する記事(甲第10号証)には、「ウイルスバスター」がシステム・ユーテリティー部門で第2位に選ばれたとの記事が掲載された。また、1999年10月11日付の「The Business Computer News」中の「Market View」欄(甲第11号証)には、商品「ウイルスバスター2000」が、ユーティリティソフトとしては売り上げ第1位であったことが記載されている。さらに、同年12月13日に発売された雑誌「日経パソコン」の記事「ベストセラーソフト」(甲第12号証)によれば、請求人商品「ウイルスバスター2000」が全てのジャンルのソフトウェアの中で売り上げ第5位のとなったことが記載されている。これに関連して、「『ウイルスバスター2000』(トレンドマイクロ)や『ノートン・アンチウイルス2000』などウイルス対策ソフトも伸びた。」「『2000年問題をきっかけに、パソコンユーザーの間でセキュリティへの関心が高まっている』(トレンドマイクロ)ことも影響したようだ。」との記述が掲載された。
オ.平成11年12月15日発売の雑誌「PC fan」(毎日コミュニケーションズ発行)に掲載の「ウイルス対策ソフトのシェア」には、請求人の商品「ウイルスバスター2000」のシェアが43%(第一位)であるとの記載が認められ、また、これに関連して「インターネットやメールを頻繁に使うケースが増えたことで、外敵(ウイルス)から身を守るウイルス対策ソフトの人気が高まっている。個人では『ウイルスバスター2000』や『ノートンアンチウイルス』の2つが双璧。」との記述がある。さらに、商品「ウイルスバスター2000」が、各種コンピュータソフトウエアにあって、同雑誌記事中「総合Best10」の第7位にランクインしたとの記載が認められる(甲第13号証)。
カ.平成9年9月1日作成のアンケート結果の集計「コンピュータウイルスの被害とその対策について」(甲第36号証)によれば、約6万人に対して行ったアンケートの有効回答者4,486人のうち、自分のPC(パソコン)にワクチンソフトのインストールをしていると答えた者は3,397人であること、その中でインストールソフトが「ウイルスバスター95」であると答えた者は1,774人であり、次点の533人に比べて3倍以上の高い数字を示しており、これに「ウイルスバスターPOWER PACK」及び「ウイルスバスターVer.5」をインストールしていると答えた人数(121人及び129人)を加えると、引用商標「ウイルスバスター」に係る商品を使用している者はインストール者全体の約59.6%になることが認められる。
キ.以上よりみると、引用商標は、本件商標の出願より少なくとも3年以上前から商品「ウイルス対策ソフト」について使用された結果、本件商標の出願時には既に、コンピュータのソフトウェア等を取り扱う業界において遍く知られ、当該標章から直ちに請求人商品を認識できるほどに需要者間において広く認識され著名な商標となっていたというべきである。そして、そのことは、本件商標の登録時においても継続していたものと認められるところである(甲第16号証ないし同第29号証)。
(3)商品の関連性及び需要者
ア.本件商標の指定商品は、前記1のとおりのものである。そして、その中には、「液晶画面ゲームおもちゃ」や「電子おもちゃ」といったいわゆるハイテクおもちゃも含まれており、これらとプログラム及びコンピュータのソフトウェアとは密な関係を有するものである。ちなみに、「液晶画面ゲームおもちゃ用プログラムを記憶させた記憶媒体」のように、実質的にみれば、プログラムそのものともいうことができるものがあり、コンピュータのソフトウェアとの関係が極めて高い商品を含むものである。また、さらに、本件商標の指定商品は、一般に趣味や娯楽の用途に資する性質のものであるところ、趣味や娯楽に資するといった観点からみれば、コンピュータのソフトウェアの中にはかかる用途のものが含まれており、両者の使用目的も決して遠いものとは言い難い。
してみれば、本件商標の指定商品と引用商標の使用商品との間には関連性が認められるから、両者の間で関連性の程度が低いとすることはできない。
イ.本件商標の指定商品の一般の需要者は、コンピュータのソフトウェアに対して格別に関心の高い者や詳しい者であるとは言い切れない。けれども、一方で、「おもちゃ」についてみても、例えば、1980年代中頃に一世を風靡した家庭用テレビゲームおもちゃ(例えば、「ファミリーコンピュータ」)にみられるように、ハイテク化が進み、また、コンピュータのソフトウェア部門においても、例えば、甲第14号証にもみられるような趣味娯楽ソフトといった類の商品も取引されていることは顕著な事実といえる。そうしてみると、引用商標の使用商品を含むコンピュータのソフトウェアの需要者が本件商標の指定商品に接する機会のある者であることは、決して稀なこととはいえないし、また、両商品の需要者における若年層の比率が熟年齢層等高年齢者に比して決して小さいとはいえず、むしろ、かかる若い世代の者は両商品の共通の需要者である傾向が強いとみるのが一般的といえるから、本件商標の出願時において、両商品について共通の需要者が普通に存在したというのが相当である。
ウ.なお、情報通信白書平成16年度版(乙第3号証)によれば、インターネット普及率は、本件商標の出願時は後年(平成15年)に比べれば相当に低いけれども、出願前の時期はいわゆる「2000年問題」が社会的関心事となったこともあり、前記(2)オ.にもあるとおり、「インターネットやメールを頻繁に使うケースが増えたことで、外敵(ウイルス)から身を守るウイルス対策ソフトの人気が高まっている」時期でもあって、前記普及率が急速に普及した後年と比して相対的に低いからといって、当時、本件商標の需要者が、コンピュータウイルスやその対策等への関心が全くないか極めて低かったとまでいうことはできない。
エ.したがって、両商品間の関連性も低いものではなく、また、需要者を共通にすると言い得るものである。
(4)出所混同のおそれ
以上により、本件商標と引用商標の類似性の程度、引用商標の周知著名性の程度や独創性の程度、両商品間の関連性の程度、需要者の共通性等を総合勘案(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号)すると、本件商標の登録時はもとよりその出願時において、本件商標をその指定商品に使用したときには、これに接する需要者が、引用商標を想起し、これより連想して、当該商品が請求人又は同人と経済的、組織的に関係を有する事業者の業務に係る商品であると誤信し、その商品の出所について混同するおそれがあったというべきである。
(5)多角経営等について
引用商標が請求人のハウスマークではなく、また、請求人の事業形態が多角経営とはいい得ない現状にあるとしても、ハウスマークであるか否かは出所混同のおそれの範囲等を検討するえうでの一の指針というべきものであり、また、近時一般に企業が多角経営化の傾向にあると認識されているところであるから、ハウスマークであることや現今に多角経営を行っていることが認められないからといって、直ちに前記混同のおそれがあるとの上記判断を左右することにはならないというべきである。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2006-02-28 
結審通知日 2006-03-06 
審決日 2006-03-17 
出願番号 商願2000-21668(T2000-21668) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Z28)
最終処分 成立  
前審関与審査官 蛭川 一治 
特許庁審判長 山口 烈
特許庁審判官 水茎 弥
山本 良廣
登録日 2001-03-09 
登録番号 商標登録第4458233号(T4458233) 
商標の称呼 ウイルスバスター 
代理人 香原 修也 
代理人 高田 修治 
代理人 藤田 雅彦 

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