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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) Y33
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) Y33
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) Y33
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) Y33
管理番号 1134819 
審判番号 無効2005-89042 
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-03-30 
確定日 2006-04-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第4751227号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4751227号の指定商品中「日本酒」についての登録を無効とする。 その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4751227号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲に示す構成からなり、平成15年5月27日に登録出願、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として、平成16年2月27日に設定登録されたものである。

2 請求人の引用する商標
請求人が引用する登録第1608935号商標(以下、「引用商標1」という。)は、「千年壽」の文字を縦書きにしてなり、昭和54年6月21日に登録出願、第28類「酒類(薬用酒を除く)」を指定商品として、昭和58年8月30日に設定登録されたものである。
同じく、登録第3018245号商標(以下、「引用商標2」という。)は、「越乃千年樹」の文字を縦書きにしてなり、平成4年8月11日に登録出願、第33類「日本酒」を指定商品として、平成7年1月31日に設定登録されたものである。
同じく、登録第4709961号商標(以下、「引用商標3」という。)は、「越乃千年樹」の文字を標準文字としてなり、平成15年1月28日に登録出願、第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品として、平成15年9月12日に設定登録されたものである。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同36号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当し、よって商標法第46条第1項第1号に該当するので、その登録は無効とされるべきものである。
ア 商標法第4条第1項第11号該当について
(ア)本件商標と各引用商標との観念類似
本件商標の漢字部分の前半部「越乃」は、特に商品「日本酒」については「越」が北陸道(現在の新潟県、富山県、石川県、福井県の地域)、「乃」は所有・所在等を表す助詞「の」の漢字表記であって、「北陸道産の米を使用した」「北陸道産の」の意味を生ずる。事実、北陸道は米の名産地かつ酒の名産地であり、その事実は取引者・需要者に広く認識されているところである。
後半部の「千年寿」は、日常生活で使用され、人口に膾炙される類の語ではないが、広辞苑(第5版)によれば、
せん‐ねん【千年】千の年。ながい年月。
ねん‐じゅ【年寿】人の寿命。人のいのち。
じゅ【寿】1.ながいき。長命。「福寿・寿老」2.とし。よわい。「寿命・喜寿」3.ことほぎ。いわい。「寿詞・賀寿」
のように「千年」「年寿」「寿」の語はそれぞれ掲載されているから、「千年にも及ぶ寿命(=長寿)」「千年(長い年月)に亘ってめでたい」のような意味を生ずるが、酒類、特に日本酒は祝い事や慶事に使用されることが多いから、その商標としてもおめでたい語が慣用されているという事情もあり、よって、市場において日本酒について使用された本件商標を看た需要者は、この部分がその日本酒の自他商品識別標識としての商標であると直ちに認識する。
また、例えば、「越の白梅」の如く「北陸道の白梅」のような全体として一つのまとまった観念が生ずると解する余地はない。
本件商標の平仮名文字の部分「ちとせほ」は、万葉時代の短歌において「千年寿」の漢字が「ちとせほ」と読まれた例やラーメン屋の店名が発見されたが、人口に膾炙される語ではないことは明白である。したがって、一般の取引者・需要者は、短歌や古代史に精通した人でなければ、何らかの意味があるにせよ何の意味かは理解できない語、すなわち造語か人名・地名などの固有名詞であると認識するにとどまる。もちろん広辞苑や大辞林に「ちとせほ」の項目はない。
そうすると、本件商標からは「北陸道産の米を使用した千年寿なる酒」「北陸道産の千年寿なる酒」の観念に加え、原材料又は生産地を表示するにすぎない「越乃」の部分を除いた単なる「千年寿」の観念を生じ、「ちとせほ」は造語または固有名詞と認識される。
これに対して、引用商標1からは、本件商標の漢字の後半部分と同様「長い寿命」「千年に亘ってめでたい」のような意味を生じ(「壽」が「寿」の旧字体であることはいうまでもない)、需要者は「千年寿なる酒の名称」と認識する。
引用商標2、3の後半部分からは「千年樹」、すなわち「千年に亘って青々と茂るおめでたい樹木」のような意味を生じるが、上述のように日本酒は祝い事に使用され、おめでたい事柄が自他商品識別標識として採用されるという当業界の常識があるため、「北陸道産の千年樹なる酒」の観念を生ずる。
よって、本件商標と各引用商標とは観念が相紛らわしい関係にある。
(イ)本件商標と各引用商標との称呼類似
本件商標からは「チトセホ」及び「コシノチトセホ」の各称呼が生じることは明らかであるが、これに加えて、「コシノセンネンジュ」、及び原材料又は生産地を表示する「コシノ」を除いた「センネンジユ」の称呼が生じる。
本件商標中「千年寿」の部分は、一般的な取引者・需要者にあっては「チトセホ」と読むことができないから読み仮名とは認識されず、「センネンジュ」と称呼される。また、一般的な日本語の用法に従えば、「千年寿」の部分の自然な読みは「センネンジュ」であり、たとえ「ちとせほ」を振り仮名と認識したとしても、なお自然な読みが生じると解するのが相当である。通常の見識に基づけば、「千年」は「千歳」に通ずるから「ちとせ」とまでは読めても、広辞苑(第5版)にて「寿」を「ほ」と読む用例は「寿」の文字を含む見出し語122中「神寿く(かむほく)」と「室寿ぎ(むろほぎ)」の2件にすぎず、いずれも古語なので、一般の需要者・取引者が「寿」を「ほ」と読む用例を知っているとは到底認められない。
このような判断は、商標審査基準の第4条第1項第11号の解説にも即するものである。
かりに「千年寿」の「チトセホ」との読みが古典や歴史の学術的研究の分野において正当であるとしても、本件商標の指定商品である日本酒等の取引者・需要者が全て古典や歴史に通暁しているとは到底認められず、したがって、本件商標からは辞典や日常の用法に即した「コシノセンネンジュ」や「センネンジュ」の自然な称呼が生ずるものと解される。
過去の審決例を見るも、漢字に振り仮名が振ってあっても、なお他の自然な称呼が生じるとされたものが多数存在する。
これらの審決例と比較すると、本件商標中「千年寿」の部分の「ちとせほ」の読みは極めて専門的であり、いずれの文字も音読みした「センネンジュ」の方がより自然な称呼であると解するのが常識的である。
よって、本件商標からは「コシノセンネンジュ」又は「センネンジュ」の称呼を生じ得るので、同じく「センネンジュ」の称呼を生じ得る引用商標1及び「コシノセンネンジュ」の称呼を生じる引用商標2、3とは称呼上相紛らわしい関係にある。
なお、被請求人は、本件商標の審査において、審査官より引用商標2、3を引用して拒絶理由通知を受け、これに対して意見書を提出し、「千年寿」が「ちとせほ」とのみ読まれる旨主張している。
もしも仮に、被請求人が主張したとおり「千年寿」を「ちとせほ」と読むのが一般の取引者及び需要者の認識とすれば、「千年壽」の文字よりなる引用商標1からも「チトセホ」の称呼が生じ、これは本件商標の平仮名部分「ちとせほ」から生じる称呼と同一の称呼なので、結論として引用商標1と称呼が相紛らわしいことに変りはない。
(ウ)以上のように、本件商標と各引用商標とは観念及び称呼の点で相紛らわしいので相類似するものであり、指定商品も同一又は類似するから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当する。
イ 商標法第4条第1項第15号該当について
(ア)請求人の著名商標
請求人は、引用商標1とほぼ同一の態様である「千年壽」の文字よりなる商標(以下、「引用著名商標」という。)を永年に亘って盛大に使用し続けた結果、引用著名商標は遅くとも本件商標の登録出願時には、請求人の製造・販売する商品を表示するものとして需要者・取引者の間で広く認識された著名なものとなっていた。
請求人は、引用商標1の権利取得前は、請求人の他の著名商標「白鹿」商標の付記的商標として、引用商標1の登録出願当時頃より独立した商標として引用著名商標を日本酒について今日に至るまで継続して使用している。
その間、請求人は、テレビコマーシャルをネット局や地方局においてたびたび放映し、全国紙や地方紙に頻繁に広告を掲載するなど、盛大に宣伝活動を行ってきた。
その結果、平成12年(2000年)より平成16年(2004年)までに製造・販売された引用著名商標を付した清酒の販売本数は約15万9千本、総売上高は約5億円に達した。
引用著名商標は、上述したようにおめでたい意味を有するから、引用著名商標を付した商品は特にお歳暮等の贈答品として販売されており、特にお中元やお歳暮の時期に盛大に宣伝広告され、販売されている。
以上のような使用の結果、遅くとも本件商標の登録出願前には、「千年壽」の文字よりなる引用著名商標は、請求人の製造・販売する日本酒を表示するものとして需要者・取引者間において広く認識されていた。
(イ)本件商標と引用著名商標との混同
本件商標は、「越乃千年寿」の漢字と、その上に小さく「ちとせほ」の平仮名文字を配してなる。本件商標中「越乃」の部分は原材料又は生産地を表示するため、もしも本件商標を付した日本酒等が市場を流通したとすれば、請求人の製造・販売に係る日本酒「千年壽」のうちで、例えば北陸道産の米を使用して製造されたものの如く需要者に認識され、その結果請求人の製造・販売に係る日本酒との間で出所の誤認混同を生じる可能性が十分に認められる。
よって、本件商標は、現実に市場において使用された場合には請求人の業務に係る商品と混同を生じるので、商標法第4条第1項第15号に該当する。
ウ 商標法第4条第1項第19号該当について
(ア)請求人の著名商標及び類似性
請求人が「千年壽」の文字よりなる引用著名商標を有していることは上述のとおりである。また本件商標と引用著名商標(引用商標1)とが相互に類似することも上述した。
(イ)不正の目的
被請求人は、過去に「越乃立山」なる登録商標を日本分類第28類「酒類(薬用酒を除く)」について登録し(登録第2694432号)、使用していた。
これに対して、「立山」「…立山」の文字からなり、日本酒について少なくとも当時、富山県内で周知となっていた商標を有し、かつ「立山」の文字からなる登録商標を所有している立山酒造株式会社が、「越乃立山」の登録を無効とする無効審判を請求し、不正競争防止法に基づく差止仮処分異議申立てを行い、さらに不正競争行為差止請求の訴えを行った。不正競争行為差止請求事件は、結局最高裁にまで上訴されたが、結局いずれの事件においても立山酒造株式会社の請求が容認され、被請求人の登録商標は一部無効となり、被請求人による「越乃立山」の使用が差止められた。
また、被請求人は「立山の里」の文字よりなる商標を使用して、やはり立山酒造株式会社よりその使用を差止められた。
さらに、被請求人は、「越乃/たちやま/越乃/たち山」なる商標を登録出願するも拒絶され、さらに「こしのたちやま/越乃たちやま」なる商標を登録出願し、周知商標「立山」に対する誤認混同行為をさらに継続する意思が明白に窺われる。
本件商標も、前記の各事件と同様に、周知商標に「越乃」の文字を付した態様であり、被請求人が請求人の引用著名商標の信用を利用して出所混同を生じさせ、不当な利益を得ようとする意図を持って本件商標を登録したことは明らかである。
(2)答弁に対する弁駁
ア 商標法第4条第1項第11号該当について
(ア)被請求人は、引用商標1と引用商標2及び3との併存理由は、引用商標1から「チトセホ」の称呼のみが生ずる、と審査官が判断したという可能性を無視している。被請求人は、「千年寿」を「ちとせほ」と読むことは一般の取引者及び需要者に認識されている旨を本答弁書のみならず、審査段階から繰り返し述べ、答弁書では引用商標1から「チトセホ」の称呼が生ずると自認しているにもかかわらず、ここにおいてのみは引用商標1から「チトセホ」の称呼が生じる可能性に触れておらず、答弁全体の論理的一貫性がなく、結局被請求人は、その場凌ぎの独善的な所論を述べているにすぎない。
(イ)被請求人は、本件商標を商標構成上まとまりが良いと述べているが、「ちとせほ」の平仮名と「越乃千年寿」の漢字を上下二段に、それぞれ左右にずらして並べた構成が「まとまり良い」とは到底認められない。乙第1号証の1ないし40にはこのような構成のものは一つも見あたらない。
さらに、引用商標1は引用著名商標とほぼ同一の構成であり、取引の実情を考慮するも、本件商標からは「千年寿」の部分のみが分離されて観念・称呼される可能性があると解するのが自然である。
(ウ)被請求人がいくつか挙げた「千年寿」を「チトセホ」と読んでいる例は、高岡市の史跡表示碑に刻まれた大伴家持の歌のみであり、高岡市のラーメン屋はこの歌にちなんで店名を付けたもので、出所は同一と思われる。大伴家持の歌という唯一の根拠をもって、一般の取引者・需要者の認識とする被請求人の主張は、強弁というほかはない。被請求人は富山市及び高岡市における認識を日本国全体の認識と勘違いしている。
(エ)被請求人は、乙第5号証の商標が引用商標1と併存していることをもって、引用商標1からは観念が生じないことの理由とする。
しかしながら、一般世人は「千歳」の文字から「北海道札幌市の南東に位置する千歳市」「千歳空港」「千歳飴」などを想起する。したがって被請求人の主張は誤りである。
(オ)被請求人は、本件商標は「この言葉自体が造語であって振仮名が振ってあるので、既成語としての他の読みが生じるものではなく、振仮名読みに限定して称えるのが寧ろ社会の一般通念である」と述べているが、意味不明である。
被請求人は、「千年寿」が「ちとせほ」と読まれる既成語であるという趣旨の主張をしてきたはずである。「造語」とは「越乃」と「千年寿」とを結合した造語という意味なのか。そうすると、被請求人は「越乃千年寿」全体で「チトセホ」との称呼が生ずると主張しているのであろうか。そうだとすれば、被請求人は引用商標1から「チトセホ」の称呼が生じることを認めているから、本件商標と引用商標1とは同一の称呼が生じると自白していることになる。
(カ)被請求人は、本件商標の称呼は「コシノチトセホ」であり、引用商標1の称呼「チトセホ」とは異なると主張する。
しかしながら、本件商標中、平仮名の「ちとせほ」の部分から「チトセホ」の称呼が生じることは明白である。すなわち、本件商標において平仮名の「ちとせほ」は漢字部分の振り仮名とは必ずしも認識されないから、本件商標からは、平仮名部分のみの称呼「チトセホ」が生じ得る。よって、本件商標と引用商標1とは称呼が同一の相互に類似する商標である。
(キ)被請求人は、瓶容器の肩ラベルに商標の読みが付されているので称呼上誤ることはないと主張しているが、明らかに誤りである。
一升瓶に詰められた清酒であって、肩ラベルの付いていないものもある。また、清酒の販売形態は瓶詰めの他に樽詰め、カップ詰め、紙容器詰めなどさまざまである。
イ 商標法第4条第1項第15号該当について
(ア)被請求人は「甲第9号証の発行年は不明」と主張する。甲第9号証を再提出した。
(イ)被請求人は、テレビコマーシャルについて言及しているが、被請求人は独善的な感想を述べているとしか思えない。請求人が「千年壽」の清酒についての商標をテレビというメディアを通じて多数の需要者に示した事実は明確に証明されている。
(ウ)被請求人は、新聞掲載日数が少ないこと、販売本数が少ないことを挙げて、引用著名商標の著名性を否定しようとしている。
引用著名商標を付した清酒は、お歳暮やお中元等の贈答品として製造販売される特殊な商品であり、自分が飲むために日常酒屋で購入するような商品ではない。よって、テレビコマーシャルの放映時期、新聞広告の掲載時期は、お中元・お歳暮シーズンに偏っている。また、引用著名商標を付した清酒は、贈答用の高額商品であり、販売本数が少ない割には売上高は大きく、利益もその分大きいが故に、テレビコマーシャルや新聞広告に多額の広告宣伝費を使っても、なお利潤が出るのである。また、大企業の贈答品担当者が一括して多数の商品購入することも多く、一回の取引で多額の収益を見込むことができる種類の商品である。
被請求人は、市場占有率が0.0000665%ないし0.0000777%の商品がなぜネット局のテレビコマーシャルや全国紙の新聞広告で宣伝広告されているのか、その経済的な意味を全く理解していない。
ウ 商標法第4条第1項第19号該当について
被請求人は、「越乃立山」の文字について、いったん設定登録を受け、異議理由もなかったと特許庁が認定したという事実をもって、自らの不正競争行為の意思を否定しようとしている。
しかしながら、いかに特許庁といえども富山県における清酒の販売事情まで調査して審査・審理を行うわけではなく、したがって、特許庁において商標登録を得たことが不正競争行為の違法性を阻却する事由にはならない。このことは、平成5年の不正競争防止法の大改正において、旧法第6条の適用除外条項に対応する条項が設けられなかったことよりも明らかである。甲第29号証の仮処分事件当時から、被請求人は上記のような改正内容を知悉しつつ、仮処分事件と同様の主張をここでも繰り返していることよりしても、本件商標に係る商標権を濫用して仮処分事件と同様の不正競争行為を繰り返そうとする被請求人の意思は明白である。

3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、答弁の理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし同10号証(枝番を含む。)を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号該当について
ア 請求人が提示している引用商標1と引用商標2(引用商標3)とは権利主体を異にしてそれぞれ独立して何らの問題もなく登録になっている。
請求人の主張を仮にそのまま受け入れるとすれば、引用商標2(引用商標3)の自他商品識別機能を有する部分は後半部の「千年樹」のみとなり、この「千年樹」は引用商標1の「千年寿」と称呼が同一になって相抵触することになり、相互に登録商標として併存できないことになる。
それにもかかわらず、両登録商標が併存する理由は、特許庁が両商標を非類似と認定したからである。すなわち、引用商標2(引用商標3 )は「越乃千年樹」の一連商標であって、「越乃」と「千年樹」とを分離することなく一体として捉えたからに他ならない。
してみれば、本件商標においても、商標構成上のまとまりの良さ及び語呂の良さとも相まって「越乃」と「千年寿/ちとせほ」とを分離すること自体が前記事例との関係で不自然であり、「越乃千年寿/ちとせほ」を一体不可分の一連商標として捉えることが、過去の枚挙に遑がないほどある同一視できる登録例(請求人の例示する「越の白梅」と「白梅」との関係に類するものではない登録例 )からみても是認されるところである。
そして、本件商標からは 「コシノチトセホ」と頗る語呂良く称えられる称呼が生ずるのが自然であり、かつ、本件権利者の意思でもある。「千年寿」に「ちとせほ」と振仮名を振ってあるにもかかわらず、これを「センネンジュ」と敢えて読む方が寧ろ不自然であり、一般の取引者及び需要者の認識とは懸け離れている。「千年寿」を「ちとせほ」と読むことは古来からなされており、たとえば、大伴家持の歌(万葉集)の中にも存在しており、富山県高岡市伏木古国府の勝興寺にある史跡表示碑の裏側にこの歌が刻まれている。また、インターネット上での検索情報にも 「千年寿」を「ちとせほ」と読む旨の記載が載っている。請求人においても、「千年」を「ちとせ」と読めること、また「寿」を古語として「ほ」と読むことが可能なことを消極的に認めている。
イ 請求人は、「引用商標1からは、本件商標の漢字の後半部分と同様『長い寿命』『千年に亘ってめでたい』のような意味を生じ(「壽」が「寿」の旧字体であることはいうまでもない)需要者は 『千年寿なる酒の名称』を認識する」と主張しているが、もしそうだとすれば、「千歳寿」の縦書漢字の右横に振仮名で「ちとせことぶき」と表記されている登録商標は、引用商標1と実質的に同じ観念を有することになって、相抵触する商標権が権利主体を異にして相互に併存することになる。
このように登録商標「千年壽」と登録商標「千歳寿/ちとせことぶき」が何らの問題もなく適法に併存している理由は、取引者及び需要者はいちいち「千年」「千歳」や 「壽」「寿」の語の意味を解釈して当該商標全体の意味合いを深く考察することなく、「千年壽」又は「千歳寿/ちとせことぶき」を単に造語商標と捉えて「センネンジュ」「チトセコトブキ」の称呼をもって通常取引される実状に立脚して認定判断したからに他ならない。
したがって、本件商標においても、「千年寿/ちとせほ」の意味を深く考慮することなく、全体を一連商標として捉えて「コシノチトセホ」の称呼の下で市場において取引されるものと判断すべきである。
ウ 請求人は、「紅梅」「白梅」「竜田川」の例を商標審査基準から挙げている。
しかし、「紅梅」については、特定の意味を有する既成語としてその読みも「コウバイ」に特定されており、また「白梅」については、特定の意味を有する既成語として「ハクバイ」「シラウメ」の両方の読みが認められていることが、いずれも国語辞典に示されているところである。さらに、「竜田川」は奈良県を流れる川として現存しており、その読みは「タツタガワ」である以上それ以外の読みが生じないのは当然である。
本件商標は、この言葉自体が造語であって振仮名が振ってあるので、既成語としての他の読みが生じるものではなく、振仮名読みに限定して称えるのが寧ろ社会の一般通念である。
エ 請求人は、「被請求人が主張したとおり『千年寿』を『ちとせほ』と読むのが一般の取引者及び需要者の認識とすれば、『千年壽』の文字よりなる引用商標1からも 『チトセホ』」の称呼が生じ、… 結論として引用商標1と称呼が相紛らわしいことに変わりはない」と主張する。
しかしながら、本件商標の称呼は前述のとおり 「コシノチトセホ」であり、引用商標1の称呼「チトセホ」とは明らかに異なり、両商標は称呼において十分聴別できる。
オ 請求人が製造販売している清酒については、瓶容器には胴ラベルと肩ラベルが貼られており、胴ラベルには商標が示されており、肩ラベルには通常当該商標の読みをローマ字等で表示されている。
したがって、取引者及び需要者は、当該商標の読みを肩ラベル表示により正確に認識し、その読みで商品取引がなされるため、本件商標の付された商品と各引用商標が付された商品とを称呼上誤って商取引される懸念は現実的に杞憂に等しいほどないといえる。
カ 以上述べたように、本件商標は、各引用商標とは観念は勿論称呼においても非類似商標であるので、商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。
(2)商標法第4条第1項第15号該当について
ア 請求人は、引用商標1とほぼ同一態様である「千年壽」の文字よりなる商標が著名商標である旨を主張する。
そして、著名商標になっている根拠として、まず甲第9号証ないし同15号証を提示して、昭和54年頃より日本酒について今日に至るまで継続して使用している旨を立証しようとしている。
しかしながら、甲第9号証ないし同14号証までが贈答品の商品チラシであり、そのチラシの発行年が分かるものは第10号証の1997年、甲第11号証ないし同13号証により2001年ないし2003年、甲第15号証の2004年であり(甲第9号証の発行年は不明 )、この程度の商品チラシを証拠として前記使用期間の継続使用の証明は極めて不十分である。
イ また、請求人はテレビコマーシャルを提示し、ネット局や地方局を通じて放映している旨の主張をしているが、その放映内容は白い鹿の動画が主で、全体として清酒 「白鹿」のブランドイメージを高める内容であり、最後の画像では、ほぼ中央に「黒松」と横書き表記した下側に大きな文字で「白鹿」と縦に表記してある左側に、立った清酒一升瓶があり、その瓶ラベルの文字はデザイン化されており、特に「壽」の文字は判読し難く、瓶曲面による画像の不明瞭さとも相まって注意深く見ても「?千年?」と何とか判読できるのがやっとである。
しかも、前記最後の画像ではその配置や文字の大きさ等から「黒松」「白鹿」が目立ち、しかも最後の画像に入る「クロマツ ハクシカ」の音声によってより一層その部分が強調され、その結果、瓶に貼ったラベル文字が不明瞭であることとも相まって、引用商標1「千年壽」のテレビコマーシャルでの印象が極めて弱いことは否めない事実である。
したがって、前記のテレビコマーシャルをもって引用商標1「千年壽」が周知著名になっているとの請求人の主張は、その放映内容からは具体的妥当性に乏しいものといわざるを得ない。
全国紙や地方紙での広告については、実施新聞に実際に載った事実が提示の証拠からは明らかではなく、仮に実施新聞に広告が載っていたとしても、その掲載日は、1999年は7月2日、7月9日及び12月3日の3日間だけ、2000年は、7月7日、7月14日、12月は掲載日不明、2001年は、7月13日及び12月8日の2日間だけ、2002年は、7月3日、7月5日、12月6日及び12月7日だけ、2003年は、5月29日、6月18日、7月 7日、11月26日、11月28日及び12月2日だけ、2004年は正月(1日、3日、4日、5日 )だけである。
このように、年間において数日の頻度でしか新聞広告を行っていない事実に鑑みて判断すれば、引用商標1はこれをもって周知著名になっているとは到底いうことはできない。
ウ さらに、請求人は、引用商標1を付した清酒の販売本数及び総売上高を示している。請求人の清酒「千年壽」に関して、各年度の本数からキロリットルを算出すると、2000年の年間出荷量は約71.9キロリットル、2001年の年間出荷量は約64.3キロリットル、2002年の年間出荷量は約70.6キロリットル、2003年の年間出荷量は約59.6キロリットルである。
ところで、「清酒造り別出荷量推移」によると、清酒全般の全国合計の年間出荷量は、2000年は 1,041,288キロリットル、2001年は987,824キロリットル、2002年は925,825キロリットル、2003年は870,957キロリットルである。
そこで、清酒全般の全国合計と比較した「千年壽」を付した請求人商品の市場占有率は、2000年は0.000069%であり、2001年は0.000065%であり、2002年度では0.0000762%であり、2003年度では0.0000684%である。
また、請求人が「千年壽」を付している吟醸酒だけに限ってみてみると、吟醸酒の全国の年間出荷量は、2000年は60,455キロリットル、2001年は60,740キロリットル、2002年は57,799キロリットル、2003年は55,800キロリットルである。
吟醸酒について全国と比較した「千年壽」を付した請求人商品の市場占有率は、2000年は0.0011893%であり、2001年は0.0010586%であり、2002年は0.0012214%であり、2003年は0.0010681%である。
このように、清酒全般と比較した市場占有率が僅か0.0000665%ないし0.0000777%しか販売量がなく、しかも同品位酒の吟醸酒との比較においても、市場占有率が0.0010586%ないし0.0012214%の販売量しかない商品に付されている商標が、需要者・取引者間において広く認識されているとは一般常識から到底いえないことは明白である。
エ 以上述べたように、引用商標1は、未だ周知著名になっているとはいえないので、本件商標は請求人に係る商品と混同を生じる懸念はなく、商標法4条1項15号に該当しないものである。
(3)商標法第4条第1項第19号該当について
ア 請求人は、過去に被請求人が商標登録を取得した「越乃立山」及び「立山の里」の件を持ち出して、被請求人に 「不正の目的」があるかの如くの主張をする。
しかし、被請求人は、前記「越乃立山」及び「立山の里」について、先登録商標との関係で使用できる商標か否かの判断を特許庁に仰ぐために、商標登録出願をし、その結果いずれも設定登録されたものである(「越乃立山」については異議申立があったが、「異議理由なし」の決定も賜る。)。
この特許庁の判断を経て、被請求人は当該登録商標の使用の準備を開始したものであり、この手順には何らの問題もないと思料する。
また、「越乃 / たちやま /越乃たち山」等の商標登録出願をすることが何故、周知商標「立山」に対する誤認混同行為の継続する意思が明白に窺われる、と主張しているのか理解に苦しむ。
なお、「越乃立山」は、古来の和歌に「越のたち山」「越の立山」「こしの立山」というように一体の言葉としてよく用いられていたことに由来する言葉である。
イ 「立山」は富山県南東部、北アルプスの北西端に連なる連峰で、いわゆる立山連峰を指称する言葉としての意味を有し、富山県のシンボルであると共に富山県人全体の共有の財産でもある。したがって、富山県人であれば、「立山」の名称や商標の使用の想いはひとしお強く、富山駅の構内にも「立山そば」の立食いそば店があるごとく、多様な業種の企業名や事業所名あるいは多様な商品の商標名として数多く使用され、富山県内いたるところで「立山」という看板や表示などの広告物があふれていることを付言しておく。
(4)以上、本件商標は、各引用商標と観念はもちろん称呼においても相紛れるおそれのない非類似商標であるので、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
また、本件商標は、請求人の引用商標1が周知著名商標であると認められないものであるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
さらに、本件商標は、請求人の引用商標1が周知著名でもなく、不正の目的もないから、商標法第4条第1項第19号に該当するものではない。

4 当審の判断
(1)第4条第1項第11号該当について
本件商標は、その構成態様に徴すれば、「コシノセンネンジュ」及び「コシノチトセホ」の自然な称呼を生ずるものというべきである。しかし、単に「センネンジュ」と称呼されるとみるべき特段の理由はみいだせない。また、特定の観念を生ずることのない一連の造語からなるものというべきである。
一方、引用商標1は、「千年壽」の構成文字から「センネンジュ」の称呼を生ずるものであり、「千年にも及ぶ寿命」の意を看取させるというのが相当である。
しかして、本件商標と引用商標1とは、称呼において明らかな差異を有しており、その観念においては比較すべくもない。また、外観で相紛れるおそれもない。
さらに、引用商標2及び3は、その構成文字に相応して「コシノセンネンジュ」の称呼を生ずるものであり、「北陸道に千年に亘って生育する樹木」との明確な観念をもって看取されるものというのが相当である。
しかして、本件商標と引用商標2及び3は、観念において明確な差異を有しており、また、外観上も明らかに異なるものであるから、称呼において共通するところがあるとしても、出所の混同を惹起することなく区別し得るものと判断するのが相当である。
以上、外観、称呼及び観念を総合してみると、本件商標は、各引用商標に類似する商標とはいえないと判断すべきものである。
したがって、本件商標は、第4条第1項第11号に該当しない。
(2)第4条第1項第15号該当について
ア 請求人提出の証拠(甲第9号証ないし同26号証)によれば、以下の事実が認められる。
請求人は、「千年壽」からなる商標(以下、「使用商標」という。)を商品清酒に継続して使用している。1993年のカタログに「千年壽」を付した商品が掲載されているのをはじめ、1997年、2001年、2002年及び2003年のカタログに同商品が掲載されている(甲第9号証ないし同13号証)。そして、1999年には使用商標を付した商品について、テレビコマーシャルの発注をしたこと、その後も、継続的にテレビコマーシャルを発注し、その放映がされたこと、その範囲は札幌テレビ、北陸放送、東海テレビ、中京テレビ、関西テレビ、テレビ高知、佐賀テレビ等々広域に及んでいることが認められる(甲第18号証ないし同23号証)。また、その間、新聞にも「千年壽」を付した商品の広告が掲載されている(甲第24号証及び同25号証)。そして、当該「千年壽」の売り上げが5年で計5億円を超えたことが認められる(甲第26号証)。
イ してみると、使用商標は、商品「清酒」について、本件商標の登録出願時には既に、需要者の間で広く認識されるに至っていたというのが相当である。
この点、被請求人は、市場占有率を計算して、販売量が少ないから、使用商標が広く認識されているとはいえない旨主張する。
しかし、前記認定のとおり、使用商標は継続的に広範囲に亘る広告宣伝がなされたものであり、また、販売時期が限定的な商品である点をも考慮すれば、相対的な市場占有率の多寡によって、前記判断は左右されないというべきであり、被請求人の主張は採用し得ない。
ウ 本件商標は、前記1のとおりの構成からなるものであり、その構成中に「千年寿」の文字を有するものであり、使用商標は、「千年壽」の文字からなるものである。両者にあっては、「寿」と「壽」との差異はあるとしても、当該差異文字はいずれも「ことぶき」あるいは「ジュ」と読まれ、「寿命」等の意を表す同一の語として親しまれていることは顕著な事実である。そして、「千年寿」及び「千年壽」の文字はともに「千年にも及ぶ寿命」程の意をもって看取されるといい得るものである。
そうしてみると、本件商標は、使用商標を一部に含んだ標章として看取される場合も決して少なくないとみるのが相当であって、両者は類似性の程度が低いものとはいえない。
また、使用商標は「清酒」に使用されているものであり、本件商標は「日本酒」を指定商品の一とするものであるから、両商標は、同一の商品および類似の商品に使用されるものであり、その需要者を共通にするものである。
エ 以上のことから、使用商標の周知性の程度、商標の類似性の程度、商品の関連性及び需要者の共通性等を勘案すれば、本件商標をその指定商品中「日本酒」に使用するときには、請求人の使用商標を想起し連想して、請求人あるいは同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく誤信し、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、その指定商品中「日本酒」については、商標法第4条第1項第15号に該当するといわざるを得ないものである。
オ しかし、「日本酒」以外の指定商品については、周知性の程度と商品の品質や流通経路の違いなど関連性の程度等を併せ考慮すれば、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとはいえないとするのが相当である。
(3)第4条第1項第19号該当について
請求人は、別件商標「越乃立山」等に関連しての被請求人の出願、登録行為や不正競争の差止事件を引いて、本件商標についても、不正の目的をもって使用をするものに該当する旨主張する。
しかし、前記「越乃立山」商標等と本件商標とが別異の商標に係る事案であることは明らかなところであり、前記事件で差止請求等が認容されたことから、直ちに本件商標についても不正の目的をもって使用をするものであるとすることはできない。
そして、他に、本件商標が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的等の不正の目的をもって使用をするものである、とすべき証左はみいだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標は、指定商品中「日本酒」について、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項に基づき、その登録を無効とすべきものである。
しかし、本件商標の指定商品中「日本酒」以外の指定商品は、商品の出所について混同を生じるおそれがあるとはいえないから、それらについての商標登録は、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標


審理終結日 2006-02-08 
結審通知日 2006-02-14 
審決日 2006-02-28 
出願番号 商願2003-43293(T2003-43293) 
審決分類 T 1 11・ 263- ZC (Y33)
T 1 11・ 22- ZC (Y33)
T 1 11・ 271- ZC (Y33)
T 1 11・ 262- ZC (Y33)
最終処分 一部成立  
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 寺光 幸子
小林 薫
登録日 2004-02-27 
登録番号 商標登録第4751227号(T4751227) 
商標の称呼 コシノチトセホ、コシノセンネンジュ 
代理人 宮田 信道 
代理人 網野 友康 
代理人 初瀬 俊哉 

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