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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 001
審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 001
管理番号 1127788 
審判番号 無効2003-35500 
総通号数 73 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2006-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-12-03 
確定日 2005-12-20 
事件の表示 上記当事者間の登録第4219696号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4219696号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4219696号商標(以下「本件商標」という。)は、平成8年4月19日に登録出願され、「PEEK」の欧文字を横書きしてなり、第1類「粉状・泥状・粒状・液状・分散状プラスチック,その他の原料プラスチック」を指定商品として、平成10年12月11日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第18号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第3条第1項第1号又は第3号、同第4条第1項第16号の規定に該当するものであって、商標法第46条第1項第1号の規定によりその登録は無効とされるべきものであるので、以下にその理由を述べる。
(1)まず、本件商標を構成する「PEEK」の欧文字は、所謂スーパーエンジニヤリングプラスチックと称されている熱可塑性高性能プラスチックの一種であるポリエーテル・エーテル・ケトン(polyether ether ketone)の略語「PEEK」に相当するものとして、本件商標の登録査定時の平成10年10月16日(発送日)の時点で、当業界においては広く認識され、且つ普通に使用されていたものである。甲第1号証として提出する工業調査会発行「プラスチック大辞典」(1994年10月20日初版第1刷発行)にも、「polyether ether ketone」(ポリエーテル・エーテル・ケトン)の項において、「略称PEEK」と明記されている。
プラスチックの分野では各種の合成樹脂が存在し、その名称は当該合成樹脂を構成する各物質名称の組み合わせからなる場合が多く、勢い冗長な名称となってしまう。そこで、当業界では、本来の合成樹脂名に代えて、アルファベットの頭文字を組み合わせた略称を用いることが一般的に行われている。例えば、ペットボトル等の原材料として良く知られているポリエチレンテレフタレート(polyethylene telephthalate)は「PET」と略称されており、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)は「PVC」と略称されている。
本件商標に相当する「PEEK」に関しても、その登録査定時以前より「ポリエーテル・エーテル・ケトン」の略称として当業者間で認識されていた語であるので、以下に詳述する。
(2)「NIKKEI NEW MATERIALS」1992年9月14日号(甲第2号証)では、「ポリイミドに代表されるイミド系、PEEK樹脂(ポリエーテル・エーテル・ケトン)に代表されるケトン系」との記載があり、これより普通名称である「ポリイミド」と同程度の普通名称として「PEEK樹脂」の語が使用されていることは明白である。
工業調査会発行の「プラスチックス」1997年4月号Vol.48No.4(甲第3号証)では、「ポリエーテルサルホン」(PES)等の他の樹脂名と同等の記載方法で「PEEK」の語が用いられている。
工業用熱可塑性樹脂技術連絡会発行の「新・エンプラの本」(1996年7月改訂版第2刷発行)(甲第4号証)では、プラスチックの分類の表中に「ポリアミド・・・PA」等の他の樹脂名と同等の記載方法で「ポリエーテルエーテルケトン・・・PEEK」の語が用いられている。
日刊工業新聞社発行の「エンジニアリングプラスチック活用ガイド」(1991年4月30日初版第1刷発行)(甲第5号証)では、「ポリエーテルサルホン(PES)とポリエーテルエーテルケトン(PEEK)はいずれもイギリスのICI社が開発し、製造している熱可塑性高性能のエンジニアリングプラスチックで、それぞれ“VICTREX”PES及び“VICTREX”PEEKの商標で販売されており」という記述があるが、クォーテーションマーク(“”)で囲まれている「VICTREX」の部分が商標であり、「PES」及び「PEEK」の語については、樹脂の一般名称として用いられていることは明白である。
日経ニューマテリアル編集の1989年7月24日発行の「全調査エンジニアリングプラスチック-技術・応用・需給動向の全て」(甲第6号証)では、「ケトン系(ポリエーテルエーテルケトン,ポリケトンなど)の欄で、「PEEK」の語が頻繁に用いられているが、この書籍では例えば「本田技研工業の「レジェンド」の自動シート」等の表示から明らかなとおり、商標名については「」(カギ括弧)を用いているので、該書籍に表示の「PEEK」は樹脂の一般名称として用いられていることは明白である。
工業調査会により昭和60年11月15日に発行された「エンジニアリングプラスチックの精密成形技術(甲第7号証)では、「ポリエーテルエーテルケトン(以後、「PEEK」と略す)」と記載されており、発行人が「ポリエーテルエーテルケトン」という樹脂名を略称するために「PEEK」の語を用いていることは明白である。
プラスチック・ニュース社発行の「プラスチック成形材料データBOOK97/98」(甲第8号証)では、「ポリケトン,PEEK」の語が、樹脂名であることが明らかな「ノルボルネン系樹脂(高耐熱透明樹脂)」等の語と同列に記載されている。更に該書籍では「ビクトレックスPEEK(PEEK)」の表示があるが、その上段の「BTMC(不飽和ポリエステル)」等の表示からすれば、括弧内に表示されている「PEEK」の語は、樹脂の一般名称として用いられていることは明白である。
「NIKKEI NEW MATERIALS」1990年5月7日号(甲第9号証)には、各種のエンジニアリングプラスチックの相関図が掲載されており、「PEEK樹脂」もまた掲載されている。この相関図に掲載の「ナイロン46」、「PCT樹脂」等の他の樹脂名との記載方法からすれば、「PEEK樹脂」の語もまた樹脂の一般名称として用いられていることは明白である。
工業調査会発行の「プラスチックス」1991年4月号Vol.42.No.4(甲第10号証)では、各種の樹脂の特性を紹介しているが、その中にも「ポリエーテルエーテルケトン(Polyetheretherketone,PEEK)」が掲載されている。
「NIKKEI NEW MATERIALS」1989年4月24日号(甲第11号証)では、「PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)」の記載があり、「ICI以外のメーカーもPEEK系樹脂を華々しく発表した」と紹介されている。
「工業材料」1994年5月号(甲第12号証)では、「エンプラの種類と分類」の表中に「PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)」と表示されており、更に「表1 結晶性耐熱エンプラの構造と耐熱性、加工性」の「樹脂名」の項目中に「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」が表示されており、この雑誌においては「PEEK」が樹脂の一般名称として用いられていることは明白である。
化学工業日報社より昭和60年1月31日に発行された「改訂第3版エンジニアリングプラスチックス=その解説と物性表=」(甲第13号証)にも、「もっとも新しくもっとも高性能な芳香族樹脂の一つがポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。」と紹介されている。
上述の甲第1号証ないし第13号証は、いずれも本件商標の登録査定時以前に発行された印刷物であり、これらより「PEEK」の語が本件商標の登録査定時以前より、樹脂の一般名称又はその略称として当業界内で用いられてきたことは明白である。
また、甲第14号証(日刊工業新聞社発行「工業材料」2002年10月別冊)及び甲第15号証(工業調査会発行「プラスチックス」2002年4月号)に示す通り、現在に至るまで一貫して「PEEK」の語は、樹脂の一般名称又はその略称として用いられ続けている。
(3)なお、PEEK樹脂は、当初は英国法人ICI社が開発した樹脂ではあるが、甲第11号証(「NIKKEI NEW MATERIALS」1989年4月24日号)に「ICI以外のメーカーもPEEK系樹脂を華々しく発表した」と紹介されている通り、ICI社以外にも製造販売され、当業界においては樹脂の一般名称又は略称として認識されているものである。
よって、本件商標「PEEK」が、その指定商品中「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」に使用された場合、これに接する取引者、需要者は単に樹脂の一般名称又は略称と認識するに止まるので、本件商標は商標法第3条第1項第1号又は第3号に該当することは明らかである。また、上記以外の指定商品に使用された場合は、商品の品質につき誤認を生ずるおそれがあるので、商標法第4条第1項第16号に該当するものである。
以上の通り、本件商標は、商標法第3条第1項第1号又は第3号、同第4条第1項第16号の規定に該当することは明らかであるから、商標法第46条第1項第1号の規定によりその登録は無効とされるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担と
する、との審決を求める。と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び同第2号証を提出した。
1 無効理由について
(1)本件商標「PEEK」は確かに現在、被請求人の商品である「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」について使用されているが、もとをただせばこの高性能熱可塑性樹脂は、英国のICI社が開発した特許により、同社が世界で初めて事業化に成功した商品であり、現在では被請求人会社がこの事業を引き継ぎ、全世界的に製造・販売をおこなっているものである。また、我国においては、被請求人と三井化学株式会社の合弁企業であるビクトレックス・エムシー株式会社がこの商品の販売をおこなっている。
「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」は、これまで被請求人のみが製造・販売をおこなうことができた商品であり、これに「PEEK」の商標を付して製造・販売をおこなうことも被請求人のみがなしえたことである。従って、「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」の「PEEK」といえば、それは被請求人会社の商品を表示するものであり、まさに特定の者に係る商品を表示するものである。本件商標「PEEK」はすべて被請求人の商品を表し、商標と出所の結び付きは明確であるので、これが例えば商品の普通名称であるとか、略称であると認識されることはない。そして、このことは本件商標の登録査定時においても同じことである。
また、仮に特許が満了した後でも、完全に同一の品質を有する商品を製造することは技術的に難しく、「PEEK」といえば単なる「ポリエーテルエーテルケトン」に留まらず、被請求人会社が製造する高品質の樹脂であることを表示しているのである。
(2)請求人は、種々の文献を挙げて本件商標が商品の普通名称あるいは略称であることを主張するが、もちろんこれら文献の記載によっても、本件商標が商品の普通名称等にあたるということはできない。
まず、請求人は甲第1号証「プラスチック大辞典」において、「PEEK」が「polyether ether ketone」の略称と明記されているとするが、ここでの略称というのは、例えば「コンパクトディスク」が「CD」と略されているように、一般的に商品の普通名称として認識されているものが略称されていることをいうのではなく、当該特許が有効期間中であることから分かるように、唯一被請求人の商品である「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」という前提があって、これを「PEEK」ということを説明しているだけである。ここでは、明確な商品の出所との関係のもと、「PEEK」の記載がされているのであって、これが商品の普通名称や品質等表示であることが述べられているわけではない。その証拠に、直後では「現在はICI社が製造しているだけで、Victrex PEEKの商標で販売されている。」との記載があり、本商品の出所が唯一ICI社であることが明らかにされており、略称といっても単にICI社がこれを商標として「PEEK」といっているに過ぎないのである。
次に、甲第2号証「NIKKEI NEW MATERIALS」では普通名称である「ポリイミド」と同程度の普通名称として「PEEK樹脂」の語が、甲第3号証「プラスチックス」では「ポリエーテルサルホン」(PES)等の他の樹脂名と同等の記載方法で「PEEK」の語が、甲第4号証「新・エンプラの本」では「ポリアミド…PA」等の他の樹脂名と同等の記載方法で「ポリエーテルエーテルケトン・・・PEEK」の語が、それぞれ用いられている旨主張するが、これらも「PEEK」が普通名称であることの証拠とはならない。なぜなら、たしかに「ポリイミド」「ポリエーテルサルホン」などはプラスチック樹脂の普通名称であるかもしれないが、それと並列的に「PEEK」が用いられていたからといって、ただちにこれを普通名称ということはできないし、そもそも当時独自に特許開発されたような「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」を表す普通名称がなく、ここではこれを指称するのにICI社あるいは被請求人が採用した商標「PEEK」が用いられているに過ぎないからである。逆にいえば、「PEEK」といえば特許技術に裏打ちされたICI社が開発した樹脂のみが理解されるのである。
甲第5号証「エンジニアリングプラスチック活用ガイド」では、「“VICTREX”PEEKの商標で販売されている」との記載に関し、クォーテーションマークで囲まれた「VICTREX」の部分が商標であり、「PEEK」の語は樹脂の一般名として用いられていると指摘するが、クォーテーションマークで囲まれていないからといって、「PEEK」が普通名称であるということにはならないし、そのような注釈もない。事実「“VICTREX”PEEKの商標として」との記載から分かるように、「PEEK」までもを含めた部分に関しこれを商標といっているのであり、クォーテーションマークは単に商標中にあって「VICTREX」が社名であるということの区別に過ぎない。
甲第6号証「全調査エンジニアリングプラスチック-技術・応用・需給動向の全て」でも表記の仕方につき、「PEEK」が鉤括弧で囲まれていないことをもって、これを樹脂の一般名称というが、ここでも単に鉤括弧がないからといって「PEEK」が一般名称であるということはできない。たしかに、「本田技研工業の『レジェンド』の自動シート」のような鉤括弧の用いられ方もされているが、「レジェンド」のような片仮名文字は文中に入ってしまうとそれが商品名であるのか、あるいは別の意味で用いられていることばなのかが不明確になってしまうため、これを区別する意味合いで鉤括弧を用いているものと見られる。一方、「PEEK」は欧文字で表されており、文中に入っても目立つため、例えば「…英ICI社が製造するPEEK」のような記載によっても、これを独立した商標と認識することが可能である。
甲第7号証「エンジニアリングプラスチックの精密成形技術」では、「ポリエーテルエーテルケトン(以後「PEEK」と略す)」との記載に関し、甲第8号証「プラスチック成形材料データBOOK’97/98」では、「ビクトレックスPEEK(PEEK)」との記載に関し、また甲第9号証「NIKKEI NEW MATERIALS」では、相関図中の「PEEK樹脂」の記載に関し、いずれも「PEEK」が樹脂の一般名称として用いられている旨主張するが、これらからも上記甲第2〜4号証に関して述べたのと同様、これが一般名として用いられているということはできない。すなわち、当時独自に特許開発されたような「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」を表す普通名称がなく、請求人の挙げる文献においては、単にこれを指称するのに1CI社あるいは被請求人が採用した商標「PEEK」が用いられているに過ぎないのである。なお、請求人は甲第7号証の部分で、「ノボルネン系樹脂(高耐熱透明名樹脂)」等の語と同列に「ポリケトン、PEEK」の語が記載されている点を主張するが、被請求人が審判請求書副本とともに受け取った甲第7号証には、その主張に関する部分が添付されていない。ただ、その主張の趣旨は甲第7号証の上記部分及び甲第8・9号証での主張と同様と思われるので、ここでも被請求人の反論が該当する。
甲第10号証「プラスチックス」では、「ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone,PEEK)」との掲載があるとのことだが、これだけでは何ら「PEEK」が普通名称であることの証拠にはならず、当該ページ右下の「ポリエーテルエーテルケトンの需要内訳」という「ポリエーテルエーテルケトン」が一般名ともとれるような表現方法を見るに、この文献での上記「PEEK」の表示は、むしろ「ポリエーテルエーテルケトン」の商標である旨の注記であるといえる。
甲第11号証「NIKKEI NEW MATERIALS」では、「PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)」の記載があるとするが、これも「PEEK」が普通名称であるとの証拠にはならない。逆に、これは「PEEK」という商標名で呼ばれているのが「ポリエーテルエーテルケトン」である旨の記載であるといえる。また、「ICI以外のメーカーもPEEK系樹脂を華々しく発表した」との記載も指摘するが、「PEEK系」といっても「PEEK」が普通名称であるとは限らないし、むしろ「NTT系」「スタバ系(STARBUCKS系)」などのように商標(固有名詞)に連なる系列企業や追随商品を「○○系」と表す場合も多いので、このような記載は「PEEK」が立派な商標であることを表すものともいえる。なお、この「ICI社以外のメーカーがPEEK系樹脂を華々しく発表した」という点に関し、請求人はあたかも「PEEK」自体を他社が製造販売しているようなことを述べるが、仮に「ポリエーテルエーテルケトン」に関する特許の存続期間が満了して、その技術を他社が使用できるようになっても、「PEEK」は登録商標なのであり、物は同じでも誰もが「PEEK」という商標のもとこれを製造販売できるものではないため、「PEEK」が普通名称として認識され、使用されていたということは決してない(そもそも「PEEK系」といっても「PEEK」そのものではないので、他社が「PEEK」を製造販売したことにはならならず、PEEK系樹脂として他社は例えば「スミプロイ」(甲第6号証・102頁)など別の名称で呼んでいるのである)。
甲第12号証「工業材料」では、分類表中に「PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)」あるいは「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の記載が、また甲第13号証「改定第3版エンジニアリングプラスチックス=その解説と物表性=」では、「もっとも新しくもっとも高性能な芳香族樹脂の一つがポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である」という記載があるとのことだが、何度も述べるように、「ポリエーテルエーテルケトン」と「PEEK」が組み合せて使用されたからといって「PEEK」が普通名称だということにはならず、これは単に独自の特許開発品であるゆえに普通名称がなく、より短い表示として「PEEK」という商標名があるということが記載されているに過ぎない。
さらに、請求人は甲第14号証「工業材料」や甲第15号証「プラスチックス」を挙げ、本件商標の登録査定時以後も一貫して「PEEK」が樹脂の一般名称又はその略称として用いられていると主張するが、ここでも「PEEK」の用いられ方は上に挙げるものと変わらないのであり、何ら「PEEK」が一般名称として使用されていた証拠とはならない。
このように、請求人の述べる主張はそのいずれにおいても理由がない。結局、請求人が挙げる種々の文献は、みなプラスチック樹脂の専門的な文献で、その特性や性能、応用範囲などを説明するものであるため、例えば他のメーカーが「PEEK」というプラスチック樹脂を製造販売していたとか、世の中にいくつもある「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」を指して各社でこれを「PEEK」と称していたなど、本件商標が商品の普通名称やその略称として一般的に使用されていたという事実を証明するものではない。
(3)繰り返すが、「ポリエーテルエーテルケトン樹脂」は特許製品として唯一ICI社のみが製造販売できたのであり、同時に「PEEK」という商標も同社あるいはこれを引き継いだ被請求人が唯一これについて使用できるものであるから、請求人の挙げる文献によっては「PEEK」が商品の普通名称やその略称として認識されていたことを示すことができないのは当然である。たしかに、色々な文献で「ポリエーテルエーテルケトン」に関し「PEEK」の記載はあるが、それはこの商品が新商品であって当時普通名称がなく、商標として採用した「PEEK」がこれを表象するものとしてたまたま併記されているに過ぎないのである。
「PEEK」が「polyetheretherketone」の略称といえるとしても、これは上述のように商品の一般名を略称しているのではなく、単にICI社がこの新商品を自ら「PEEK」と略し、それを商標としたということに過ぎない。何も「ポリエーテルエーテルケトン」を「PEEK」と呼ばなければならないという規制があるわけでもなく、どのように呼ぼうがそれは開発者の自由であって、本件ではたまたまこれを「PEEK」と称し、商標として採用したというだけの話である。「PEEK」などということばはそれまでにない新しいことばで、ICI社が生み出したものであるので、これを商標として使用開始すればもちろん自他商品の識別標識となる。また、「PEEK」は例えば「TPI」などのような語と異なり、これをひとつの単語のように「ピーク」と商標的に発音できるものであるため、よりいっそう自他商品識別標識たる商標として認識されやすいものとなっているのである。
なお、本件商標が商品の普通名称や略称にあたらず、また商品の品質の誤認を生じるものでもないことは、既に特許庁において明らかな事実である。
(4)乙第1号証として、平成11年に本件商標に対してなされた商標登録異議申立についての決定(写)を提出するが、ここでは本件審判請求と同じ理由でなされた異議申立を理由のないものとし、本件商標の登録を維持する決定が下されている。
すなわち、「改定第3版エンジニアリングプラスチックス」(本件甲第13号証と同じ)、「プラスチック大辞典」(本件甲第1号証と同じ)、「現代商品大辞典新商品版」(乙第2号証)、「プラスチック事典」における記載を総合すれば、「ポリエーテルエーテルケトン」は英ICI社の特許により同社が製造、商標権者ヴィクトレックス リミテッドにより「VictrexPEEK」の商標で販売され、同業他者により製造販売されておらず、「PEEK」が「ポリエーテルエーテルケトン」の略称として使用されるとしても、特定の者に係る商品を表示するものであり、この種業界において商品の普通名称の略称を表すものとして取引者、需要者間に認識されているものであると認めることはできない、と判断されている。
これまで述べてきたところより明らかであるが、本件審判請求においても、この異議決定における判断がそのまま当てはまるのであり、やはり本件商標は商品の普通名称やその略称であるということはできない。
2 まとめ
このように、本件商標は商品「ポリエーテルエーテルケトン」の普通名称あるいはその略称、また商品の品質等表示であるということはできず、十分に自他商品の識別力を有する商標である。また、それゆえに上記以外の商品についてこれを使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれはないため、本件商標は請求人主張のいずれの無効理由にも該当しない。
従って、本件審判の請求は成り立たず、答弁の趣旨の通りの審決を求める次第である。

第4 当審の判断
1 請求人は、本件商標が商標法第3条第1項第1号又は第3号及び同第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし同第18号証を提出した。
一方、被請求人は、請求人主張のいずれの無効理由にも該当しない旨主張し、証拠方法として乙第1号証及び同第2号証を提出した。
そこで、両当事者提出に係る各証拠によれば、次の事実が認められる。
(1)甲第1号証(「プラスチック大辞典」(株)工業調査会1994年10月20日発行639頁)によれば、「polyerther ether kentone PEEK」の項で「略称PEEKといわれている。現在はICI社が製造しているだけで、Victorex PEEKの商標で販売されている。……」との記載があること。
(2)第2号証(「NIKKEI NEW MATERIALS」1992年9月14日号55頁)によれば、「超耐熱エンプラ(イミド系、ケトン系など)」の見出しの下、「連続使用温度がそよそ200゜C以上に及ぶ超耐熱エンプラは、ポリイミドに代表されるイミド系、PEEK樹脂(ポリエーテル・エーテル・ケトン)に代表されるケトン系に大きく分けられる(液晶ポリマーは除く)。……」との記載があること。
(3)甲第3号証(「プラスチックス」工業調査会1997年4月号Vo.48No.4 66頁)によれば、「ポリエーテルエーテルケトン・Polyetheretherketone,PEEK・」の見出しの下、「……PEEKは、ジハロゲノベンゾフェノンとヒドロキノンとの重縮合で得られる融点334゜C、ガラス転移温度143゜Cポリマーである。」との記載があること。
(4)甲第4号証(「新・エンプラの本」工業用熱可塑性樹脂技術連絡会1996年7月発行9頁及び128頁)によれば、「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の小見出しの下、「PEEKは、従来にない特性を備えた結晶性樹脂である。……」と、「エンプラ関連の熱可塑性ピラスチックの名称と記号」の見出しの下、「記号 PEEK」「プラスチック名 ポリエーテルエーテルケトン」との記載があること。
(5)甲第5号証(「エンジニアルングプラスチック活用ガイド」日刊工業新聞社1991年4月30日発行161頁)によれば、「11 ポリエーテルサルホン(PES)/ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」の見出しの下、「ポリエーテルサルホン(PES)とポリエーテルエーテルケトン(PEEK)はいずれもイギリスのICI社が開発し、製造している熱可塑性高性能ポリエーテルサルホン(PES)/ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)エンジニアリングプラスチックで、それぞれ“VICTREX”PESおよび“VICTREX”PEEKの商標で販売されており、……」との記載があること。
(6)甲第6号証(「全調査エンジニアリングプラスチック」日経BP社1989年7月24日発行102頁及び103頁)によれば、「ケトン系(ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトン)」の見出しで「需給」の小見出の下、「分子中にケトン基をもつケトン系ポリマーの草分けは、英ICI社が製造するPEEK。……」と、「グレード展開」の小見出しの下、「アモコが参入 その中で、アモコジャパンは、ケトン系ポリマー(同社はポリケトンと呼んでいる)「ケーデル」のサンプル出荷を4月から始めた。ICIのPEEKよりも耐熱性が10゜C程度高いという。……」との記載があること。
(7)甲第7号証(「エンジニアリングプラスチックの精密成形」(株)工業調査会昭和60年11月15日発行116頁)によれば、「ポリエーテルサルホン/ポリエーテルエーテルケトン」の見出しの下、「……本稿では、これらスーパーエンプラのうち、熱可塑性で、通常の成形方法が適用できる樹脂の中で、非晶性および結晶性樹脂の中でそれぞれ最高のランクに位置するポリエーテルサルホン(以後、「PES」と略す)とポリエーテルエーテルケトン(以後、「PEEK」と略す)および需要業界の多様化するニーズに応えるため、……」との記載があること。
(8)甲第11号証(「NIKKEI NEW MATERIALS」1989年4月24日号92頁及び93頁)によれば、「・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)高強度な特殊グレードや摺動性上げたカスタムグレードを供給」の見出しの下、「ここ数年で、ICI以外のメーカーもPEEK系樹脂を華々しく発表したが、その割には日本市場へは導入されていない。その中でアモコジャパンリミテッド(東京)は、「ケーデル」のサンプル出荷を4月から始める。ICIのPEEKよりも耐熱性が10゜C程度高いという。……」との記載があること。
(9)甲第12号証(「工業材料」1994年5月号(Vo.42No.6)49頁及び21頁)によれば、「ノッチ効果をなくす特性を持つポリエーテルエーテルケトン」の見出しの下、「ポリエーテルエーテルケトン(以下PEEKと呼ぶ)は1980年にICI(英)で開発された結晶性の熱可塑性樹脂で、1982年に日本国内での販売が開始された以来、すでに13年目に入っている。PEEKはポリイミドに匹敵する耐熱性とフッ素樹脂に次ぐ耐薬性を備えたスーパーエンプラである。……」と、及び「表1 結晶性耐熱エンプラの構造と耐熱性、加工性」中、「分類 ケトン」「樹脂名 ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)」「商品名(メーカー) ビクトレックス(ビクトレックス)」との記載があること。
(10)甲第13号証(「改訂第3版エンジニアリングプラスチックスその解説と物性表」化学工業日報社昭和60年1月31日発行95頁)によれば、「ポリエーテルエーテルケトン」の見出しで「はじめに」の小見出しの下、「もっとも新しくもっとも高性能な芳香族樹脂の一つがポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。これは英ICI社の開発によるものであり、VICTREXPES(なお、「X」の右肩上に円輪郭内に「R」の文字を配している。)(ポリエーテルサルホン)に続くものである。PEEKは結晶質であり、PESは非晶質である。両者はその点で相補的である。……」との記載があること。
(11)乙第2号証(「現代商品大辞典」東洋経済新報社昭和61年10月18日発行118頁)によれば、「3 高分子材料」の見出しの下、「ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、polyetheretherketones)」の項に「英ICIにより開発された芳香族直鎖状の結晶性樹脂」との記載があること。
以上の認定した事実及び両当事者主張の全趣旨を総合すると、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)は、結晶質の熱可塑性樹脂で、1980年に英国ICI社が開発し、かつ、製造販売した。
しかし、現在では、被請求人がこの事業を引き継ぎ、全世界的に製造販売している。我が国では、被請求人と三井化学株式会社の合弁企業であるビクトレックス・エムシー株式会社がこの製品の販売を行っている。そして、その製品に使用されている商標は、「VICTREXPEEK」又は「VictrexPEEK」の欧文字を書したものであることが推認し得るところ、その商標中「PEEK」の文字部分は、本件商標の指定商品を取り扱う業界において、専門辞典、雑誌に徴して、樹脂の一つであるポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)を指称することが認められる。
加えて、ポリエーテルエーテルケトンの先行商品である非晶質の熱可塑性樹脂のポリエーテルサルホン(PES)について使用されている商標は、「VICTREXPES(なお、「X」の右肩上に円輪郭内に「R」の文字を配している。)」であって「VICTREX」の文字部分が、その表示によって登録商標であることが認められる。そして、このことより類推して、「“VICTREX”PES」及び「“VICTREX”PEEK」の表記中に使用されているクォーテーションマーク「“”」は、登録商標であることを表すために用いられたものと推認し得るものであり、かつ、それに続く「PES」及び「PEEK」の文字部分は、商品の普通名称の略称を表示したものと認められる。
一方、本件商標「PEEK」が特定の商品出所を表示する識別力を有すると認めるに足りる証拠は見出せない。
してみると、「PEEK」の欧文字を普通に用いられる方法で表示してなる本件商標は、遅くともその登録査定時(平成10年10月2日)において、当業界で、「ポリエーテルエーテルケトン」の普通名称の略称を表すものとして取引者、需要者間に広く認識され、かつ、使用されていたものといわなければならない。
また、本件商標を前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものである。
なお、被請求人は、乙第1号証(平成11年異議第90496号)を提出し、本件商標は、この異議決定に示す判断のとおり、商品の普通名称の略称に当たらない旨主張している。
しかしながら、確かに、前記登録異議申立事件は、本件登録無効事件の対象となる登録商標及び適用条文も同じであるが、登録異議申立人と審判請求人とは何ら関係が認められない別人である上、両事件における当事者の主張、立証内容は必ずしも一致しているものと言い得ないものであり、同列に判断することはできない。そもそも、両事件は、別案件であり個別、具体的に判断されるものであるから、被請求人の主張は採用の限りではない。
2 まとめ
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第1号及び同第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-09-13 
結審通知日 2004-09-14 
審決日 2004-09-27 
出願番号 商願平8-43496 
審決分類 T 1 11・ 11- Z (001)
T 1 11・ 272- Z (001)
最終処分 成立  
特許庁審判長 佐藤 正雄
特許庁審判官 宮川 久成
山本 良廣
登録日 1998-12-11 
登録番号 商標登録第4219696号(T4219696) 
商標の称呼 ピーク 
代理人 神林 恵美子 
代理人 小谷 武 

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