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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z3642
審判 一部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z3642
管理番号 1124571 
審判番号 無効2004-89080 
総通号数 71 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-21 
確定日 2005-09-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第4765923号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4765923号商標の指定役務中、第42類「全指定役務」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4765923号商標(以下「本件商標」という。)は、「シルバーヴィラ」の文字を標準文字により表してなり、平成12年4月4日に登録出願され、第36類及び第42類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務を指定役務として同16年4月23日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第102号証(枝番を含む。)を提出している。
1 無効理由1:商標法第4条第1項第10号
(1)請求人商標「シルバーヴィラ向山」(以下「引用商標」という。)の周知著名性
(ア)老人ホーム「シルバーヴィラ向山」とその時代背景について
請求人の株式会社さんわ(以下「さんわ社」という。)は、今から約23年前(昭和56年4月)に、有料老人ホーム「シルバーヴィラ向山」を開設した(甲3号証)。
昭和56年は、有吉佐和子の「恍惚の人」が書かれた年で、痴呆症老人の存在さえ驚きだった程で、介護黎明期であった。当時は、老人が痴呆症になれば精神病院に行くと決まっており、特別養護老人ホームのような公的ホームには全く入居できなかった。
そのような時期に、痴呆症の老人でも、ホテル並みにお客様として扱ってもらえる「シルバーヴィラ向山」という老人ホームが現れたことは、当時たいへんセンセーショナルな出来事であったようで、痴呆症の親族を持つ人の間に想像を絶するスピードでこのニュースが伝わった。
昭和56年2月4日に、日経新聞紙上に[ホテル並み?新型老人ホーム]と「シルバーヴィラ向山」の囲み記事が掲載された。これは、オープン2ヶ月前だったが、開設前から「シルバーヴィラ向山」は有名になり、関東一円から問合せが殺到した。また、昭和56年9月15日には、NHKのニュースで[ユニークな老人ホーム]として全国放映されたので、さらに有名になった。他のジャーナリズムも刺激され、新聞・雑誌・NHK以外のテレビなどの取材合戦になり、昭和56年の年の暮れには、一般需要者や老人ホーム業界では、「シルバーヴィラ」といえば岩城さんの経営する老人ホームである、と広く知られるようになった(甲第4号証)。
(イ)周知のみならず著名であること(著名商標の要件)
平成16年3月23日の本願の拒絶査定不服審判に関する審決(甲第5号証。以下「H16審決」という。)において、第42類「老人の養護」及びこれに関連する役務についてさんわ社の「シルバーヴィラ向山」が周知である点については、既に認定済みである。
著名の判断については、特許庁商標課編の商標審査基準(甲第6号証)には、(a)周知度 (b)創造標章かどうか (c)ハウスマークかどうか (d)多角経営の可能性 (e)役務との関係 を考慮するものとする、との判断基準が例示されている。この判断基準にしたがい、著名商標であるかどうかを以下に逐一検討する。
(a)周知度
「シルバーヴィラ向山」は、多数の新聞掲載、テレビでの放映、多数の著作掲載やその映画化など、一般需要者・取引者の周知度は高い。
追って、次項(2)において、その周知性を立証する。
(b)創造標章かどうか
片仮名の「シルバーヴィラ」という名称は、当時さんわ社の社長であった岩城祐子が新規に考えた造語である。
silverは「銀」の意味で、老人のsilver ageを連想させる。また、villeは「町」という意味である。この2つの単語を組合せたSilver ville という老人ホーム名称(ハウスマーク)は、「お年寄りのための高級な別荘」といったイメージを持つ、岩城祐子の創造商標である。
岩城祐子が、当時には稀な酒落た「イメージ造語」名称を老人ホームに付けたのは、「痴呆症の老人でも、ホテル並みにお客様として扱おう」という彼女の考えに基づいたもので、老人ホームは「暗く、汚い」という先入観を変えて「明るく、きれいな、ホテルのような環境で、人生最後の時を過ごしてもらいたい」と考えたからである。
漢字の「向山」は練馬区向山の地名である。
(c)ハウスマークかどうか
「シルバーヴィラ」は、さんわ社のハウスマークである。
老人ホーム業界では、ハウスマークに地名を加えて具体的な店名を表示する慣行がある。岩城祐子の宣誓供述書(甲第4号証)にも「多数の店舗展開をするつもりでしたから、1号店の所在地である『向山』を『シルバーヴィラ』の後に付けた」との記述がある。
追って、次項(2)において、その慣行を立証する。
(d)多角経営の可能性
主に、シルバービジネス関係を中心とするが、その他にも財界関係の講演や執筆を多数手がけており、活動範囲は多岐にわたっている。
都内とカナダケベック州の老人ホーム交流や、練馬区を中心とした地域との交流・演奏会、秋田県の岩城町を後援する活動、身体障害者施設「創生苑」の運営、身体障害者の自立を支援する活動などにも有名である。
追って、次項(2)において、その活動事実を立証する。
(e)役務との関係
「シルバーヴィラ向山」は、介護業界の草分け的存在で、老舗の老人ホームである。長い間、42類「老人の養護,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,あん摩・マッサージ及び指圧,きゅう,はり,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導,衣服の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,タオルの貸与,布団の貸与」に関連する業務を行っている。経営者の岩城祐子は、シルバービジネス関係の当業者間では、名物ともいえる女性経営者である。映画化された久田恵さんのノンフィクション「母のいる場所/シルバーヴィラ向山物語」(文芸春秋社)(甲第36号証)にも岩城祐子の前向きな性格が、よく記述されている。
「シルバーヴィラ向山」、介護ビジネスの世界及び介護に関心のある一般需要者の間では極めて有名である。
追って、次項(2)において、その事実を立証する。
上記のとおり、「シルバーヴィラ向山」は、特許庁商標課編の商標審査基準に例示された著名商標の要件上記(a)ないし(e)を備える著名商標である。
(2)本件商標は、他人の役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であって、同一若しくは類似役務に使用するものに該当する。
(ア)黎明期の介護業界において周知著名であったこと
(a)「シルバーヴィラ」のオリジナリテイ
「シルバーヴィラ」の名称は、岩城祐子の老人介護に関する独自の考え方を示すもので、オリジナリテイを有する。彼女は「暗く、汚い」という老人ホームの先入観を変えて「明るく、きれいな、ホテルのような環境で、人生最後の時を過ごしてもらいたい」と考えたから、当時には珍しい「シルバーヴィラ」という酒落た名称を付けたのである。
(b)黎明期の介護業界における「シルバーヴィラ向山」
前述のように、「シルバーヴィラ向山」の開設当時は、介護の黎明期であり、「シルバーヴィラ向山」のような老人ホームができたというニュースは、想像を絶するスピードで伝わり、昭和56年の暮れには、一般需要者及び老人ホーム業界では、「シルバーヴィラ」は「岩城さんの老人ホーム」であるというイメージが、しっかり定着したと思われる。
(c)黎明期の介護業界における多数の新聞掲載について
昭和56年から58年にかけて多くの新聞に掲載されている。東京版や首都圏版への掲載もあるが、多くは全国版の掲載であり、社会面、婦人欄、暮らし欄、そして地方新聞へも、掲載範囲が広がっている(甲第7ないし第24号証)。
これらの掲載記事は、広告ではなく、全て新聞社からの取材記事である。これらの掲載記事を読めば、「ホテル並み老人ホーム」が、当時、如何に全国的にセンセーショナルな話題を提供したかが、わかるはずである。
(イ)本件商標の出願時及び登録時においても、周知著名な事実
上記(ア)の黎明期の介護業界における周知著名を証明する事実と併せ、その後の新聞、雑誌、週刊誌、久田恵さんの本や映画にも「シルバーヴィラ向山」が多数掲載されており、本件商標の出願時及び登録時に「シルバーヴィラ向山」は周知著名である。
(a)週刊女性に毎週1回ずつ52週間(約1年間)にわたって連載された岩城祐子の「老人ホームはおもしろい !」(甲第25号証の1ないし52)は、老人ホーム「シルバーヴィラ向山」での生活、特に老人の赤裸々な思いを代弁していて、たいへん好評であった。
この連載を楽しみにして、「シルバーヴィラ向山」の名前を覚えた週刊女性の読者がたくさんいる。
(b)シルバービジネス関係の業界紙「シルバーウエルビジネス」にも連載がある。これは、「シルバーヴィラ向山」社長・岩城祐子の生い立ちから成長に至るまでの伝記風読み物「ビッグママの花エプロン」(甲第26号証の1ないし10)である。
岩城祐子の「シルバーヴィラ向山」は、介護業界でたいへん有名であり、名物女性の話を是非聞きたいという当業者の要望に応えた企画である。
(c)Epic World(甲第27号証)にも連載している。これは、季刊で年4回発行される。老人ホームの日常を書いて連載している。
(d)TOTO通信など、建築関係の雑誌から「シルバーヴィラ向山」に学ぶ(高齢者住宅のソフト)(甲第28号証)のインタビューを受けている。ローコストで高齢者の満足のいくように設計するためのアドバイスが書かれている。良心的な経営努力が感じられる。
(e)財界関係の講演や執筆
雑誌「財界」(甲第29号証)には、「役所の指導を拒否、完全自立で成功した有料老人ホーム」の例として「シルバーヴィラ向山」が挙げられている。助成金を貰わず、納得のいく経営努力をしている「シルバーヴィラ向山」の様子がわかる。
書籍「一歩踏み出せ(出なおしが人生を面白くする)」(甲第30号証)は、「シルバーヴィラ向山」会長の岩城祐子が、女性としてどのように現在までの道を切り開いていったかが書かれている。勇気を与えてくれる本である。この本は、12,000部売れた。全国の公立図書館にも置かれている。
書籍「伸びるサービスもうかるサービス」(甲第31号証)では、11頁にHISとさんわ社を並べて掲載し、更に145から148頁で「シルバーヴィラ向山」を取上げている。さんわ社の特徴は、コスト意識がはっきりした良心的な経営である。逆説的だが、「シルバーヴィラ向山」は儲け主義でないからこそ、「もうかるサービス」に掲載されたのだと考えている。
(f)都内とカナダケベック州の老人ホーム交流
岩城祐子は、日本・ケベック友好協会の会長をしている(甲第32号証)。また、モントリオール大学の日本語講座受講生を毎年数人ずつ「シルバーヴィラ向山」にホームステイさせている。「シルバーヴィラ向山」のお年寄りも、青い目の大学生との交流を自然に楽しんでいる。
(g)地域との交流
「シルバーヴィラ向山」では、地域の子供にプールを開放している。小さな子供や若いお母さんを見るだけでも、お年寄りの顔が和らぎ、双方に好評である。また、「サロンコンサートシルバー」の定期演奏会(甲第33号証の1ないし14)は、一般に無料で開放しており、地域の方々も楽しみにしている。演奏会は音楽家の出演が多いが、歌舞伎の片岡孝二郎氏やかっぽれの桜川ぴん助氏にも出演を依頼している。
ホームでは時々バザーも開催され、地域の方と一緒に賑やかである。
「シルバーヴィラ向山」のお年寄りは、痴呆が軽い人はホームの外に出入り自由なので、地域の交流はたいへん重要である。入居者は、地域の方々にいつも笑顔で接して頂いている。
(h)秋田県の岩城町を後援
岩城家は、秋田県の旧岩城藩・藩主の直系で、その関係から請われて岩城町のふるさと文集「実は皆さまドラマチック」を発行した(甲第34号証)。
これは、「シルバーヴィラ向山」での生活を書いた本で、週刊女性の連載を加筆して本にしたものである。
「シルバーヴィラ向山」の第1号パンフレット(甲第35号証)にあるように、戊辰の役の際の岩城隆邦公のエピソードをはじめとして、岩城の殿様は、代々家臣や領民を大事にし、常に人格高潔、誠実をモットーに、人々に永く信頼されてきた。老人ホーム経営にもその誠実な精神が受け継がれている。
(i)身体障害者の自立を支援する。
岩城祐子は、身体障害者施設と特別養護老人ホームを併設した創生苑の施設長もしている。
ここでは、身体障害者の自立支援事業として、岩城町の特産にんじんジャムを製造している。80歳の今も、現役として身体障害者と共に労働し、その自立を支援しようと努力する姿には頭が下がる。
(j)久田恵「母のいる場所/シルバーヴィラ向山物語」(文芸春秋社)の本(甲第36号証)、この本に関連した新聞記事(甲第37ないし第41号証)、映画化に関連した資料(甲第42ないし第45号証)
久田恵著「母のいる場所/シルバーヴィラ向山物語」は、実話に基づくノンフィクションである。この本は、介護に関心のある一般需要者に評判になり、映画化された。映画は実際に「シルバーヴィラ向山」で撮影され、その日常を描いている。岩波映画系列の有限会社パオの製作になる。
平成15年11月5日には、第16回東京国際女性映画祭(渋谷東京ウィメンズプラザ)でも上映された(甲第46及び第47号証)。この映画祭は、多数の国から選ばれた女性監督の映画を紹介する。会場では、車椅子でメガホンを取り、この映画を製作した「榎坪多鶴子監督」や岩波映画総支配人の「高野悦子さん」が挨拶した。この映画は第16回東京国際女性映画祭での「観客動員最高記録」を上げた。会場は満席で、多数の立見客が出た。一般需要者、特に女性達の、介護への関心の高さが感じられる。現在まで、多数の映画館・地域の公共的な会館などで上映中。今後も上映予定。岩波映画でも上映する(甲第48号証)。
(k)その他の新聞掲載や雑誌
その他、「月刊建築設計資料」、「週刊時事」、「週刊宝石」、「群居」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「週間読売」、「経済界」、「財界」等の雑誌、「朝日新聞」、「日経産業新聞」、「東京新聞」等に、「シルバーヴィラ向山」が紹介されている(甲第49ないし第69号証)。
(l)「銀杏」(老人ホーム「シルバーヴィラ向山」発行の機関紙)
「シルバーヴィラ向山」の様子やインタビュー、トピックが掲載されている機関誌である(甲第70号証の1ないし11)。
(ウ)周知著名な引用商標と本件商標とは、明らかに類似商標である。
(a)「シルバーヴィラ」は、さんわ社の「ハウスマーク」である。岩城祐子の宣誓供述書(甲第4号証)にあるように、「シルバーヴィラ」は、さんわ社の岩城祐子の創造語であり、請求人さんわ社の屋号とも言うべき「ハウスマーク」である。
(b)「ハウスマークと地名」で、店舗を表示するのは、老人ホーム業界で、一般的な名称の表示方法である。甲第71ないし第75号証としてその例を示す。
してみると、「ハウスマークと地名」の結合商標は、「ハウスマーク」と類似することは、明らかであろう。
(c)本件商標のH16審決について
H16審決は、(1)取引者、需要者が「シルバーヴィラ向山」に接した際、「向山」の語が直ちに役務提供の場所として認識し得るほど知られていることを認めるに足る証左はない、(2)請求人は、「シルバーヴィラ向山」では周知商標と言えるが、「シルバーヴィラ」では周知商標と言えない、(3)以上から「シルバーヴィラ向山」と「シルバーヴィラ」は、外観・称呼・観念ともに非類似な商標である、として本件商標を登録した。
このH16審決は、老人ホーム業界の名称慣行を無視した審決である。(b)で述べたとおり、「ハウスマークと地名」の結合商標が、「ハウスマーク」と類似することは、明らかである(これは、名称・地名の有名無名には関係がなく、老人ホーム業界の一般的な慣行である。)。
たとえ、「シルバーヴィラ」のみでは周知と言えないとしても、「シルバーヴィラ向山」と「シルバーヴィラ」とは、少なくとも類似商標であることは間違いない。H16審決が、何故、一般的な慣行とは別に本件だけを非類似として扱うのか、その理由がわからない。
もし、審決のように、これを非類似と認定するならば「ハウスマーク+地名」ごとに、何件もの商標登録が必要になるはずである。これは、商標法の法趣旨に反する。
(d)役務提供の場所として知られていることを検討する必要性
上記のとおり、老人ホーム業界の商慣行から、「ハウスマークと地名」の結合商標は、「ハウスマーク」と明らかに類似する。
H16審決の指摘、即ち、「向山」の語が直ちに役務提供の場所として認識し得るほど知られていないとの認定に敢えて反論する必要はないと考える。
しかし、念のため、「向山」の語は、「(地名として有名で)役務提供の場所として直ちに認識し得るかどうか」についても、検討しておく。
(e)「向山」は地名として有名である。
「向山」は、大正12年の関東大震災後に、被災した財界人の要請を受けて開発された高級住宅地の地名である。同じ頃、東急電鉄が開発した田園調布に対応する「練馬の田園調布」のような場所である。
建築史を専門とする藤森照信(現在東大教授)と博物学の奇才・荒俣宏の共著になる「東京路上博物誌」(甲第76号証)には、その間の事情が良く描写されている。その203頁には「練馬区向山にある城南田園住宅組合は、通称<城南文化村>と呼ばれ、練馬区では群を抜く田園住宅都市志向の美しい住宅地域である。町はどこも陽あたりがよさそうで、各住宅の庭にある緑が実にさわやか。特徴は、頑固なくらいに生垣を護っていることである。」との記載がある。城南田園住宅組合は、現在も続いており、良好な環境が保たれている(甲第77号証)。
「向山」は、「こうやま」或は「むこうやま」(旧地名)とも呼ぶ。「向山(むこうやま)庭園」も有名である(甲第78号証)。
上記のとおり、「向山」の語は、地名として有名で、役務提供の場所として認識し得ることは明らかである。
(3)まとめ
以上のとおり、本件商標は、他人の周知商標である引用商標に類似する商標であって、同一若しくは類似役務に使用するものに該当し、商標法第4条第1項第10号により無効とすべきである。
2 無効理由2:商標法第4条第1項第8号
(1)他人の名称の著名な略称を含む商標
有料老人ホーム「シルバーヴィラ向山」の著名性は、既に検討した。老人ホーム業界では、「ハウスマーク」に地名を加えて、支店名を表示する慣行があり、この点は、前記のとおりである。老人ホームを、「ハウスマーク」のみで略称することは一般的である。
さらに、商標法第4条第1項第8号の無効理由に拠るまでもなく、業界の商慣行として、他人の「ハウスマーク」を無断で使用することはない。必ず、「ハウスマーク」を有する他人の承諾を得て使用するはずである。
(2)被請求人である太平洋興発株式会社(以下「興発社」という。)には、明らかにさんわ社の「ハウスマーク」との認識がある昭和58年10月に、興発社の当時の首脳陣・労働組合委員長等は、老人ホーム「シルバーヴィラ向山」の評判を聞いて、さんわ社を訪問した。炭鉱閉山の代替事業をするにあたり、協力を要請したのである。
彼らは、少なくとも以下の点を認識していたはずである。
a).「シルバーヴィラ向山」が、さんわ社の周知或は著名な老人ホーム名称であること
b)老人ホーム「シルバーヴィラ向山」が周知著名になった結果、「シルバーヴィラ」という「ハウスマーク」には、顧客吸引力・信用等が化体されていること
c)興発社は、自らは「シルバーヴィラ」という名称を創作していないという自覚があること
d)老人ホーム業界の慣行から、他人が創作して、周知・著名にした「シルバーヴィラ」という「ハウスマーク」を使用するためには、さんわ社の承諾を得る必要があること(それ故の訪問であろう)
e)さんわ社を吸収して単独経営することまでは求めず、共同経営することで合意に達したこと
新会社の株式会社太平洋シルバーサービス(以下「サービス社」という。)を共同経営にしたのは、さんわ社の「シルバーヴィラ」という「ハウスマーク」に化体された顧客吸引力・信用・ノウハウ等を尊重して、共同という形式での合意に達したからに他ならない。
(3)被請求人単独で商標出願することを、さんわ社は承諾していない
請求人さんわ社は、被請求人興発社に請われて、共同会社のサービス社を設立した(甲第79号証)。共同会社の持株比率は、興発社が8割、さんわ社が2割である。他に、株主はない。
さんわ社は、サービス社において「シルバーヴィラ」を共同使用することは承諾したが、興発社単独での商標使用について承諾した事実はない。
岩城祐子の宣誓供述書には、その間の事情が以下のように記載されている。
「共同経営でサービス社を設立後、新しい老人ホームの名称をどのようにするか、いろいろ悩みました。しかし、開設までの短期間に、たくさんの入居者を集めるには、多大な困難が伴います。全く新規な老人ホーム名称では、多くの顧客を集められないと思われました。/昭和59年11月にオープンした新老人ホームには、『シルバーヴィラ』第2号店の意味合いを表現すべく『シルバーヴィラ哲学堂』と名付けました。/実績ある『シルバーヴィラ』の名称を付けましたので、幸い、好調にオープンできました。」
また、「被請求人と共同会社のサービス社において『シルバーヴィラ』の名称で、5店舗(哲学堂・聖蹟桜ヶ丘・武蔵境・石神井・武蔵野)出店し、約15年の間、共同経営は順調に続きました。」との記載がある。
この記載から、「シルバーヴィラ」商標の「共同使用」については、承諾があることがわかる。
被請求人の興発社は、「サービス社の社長や取締役の許可を得ずに、『シルバーヴィラ』5店舗(哲学堂・聖蹟桜ヶ丘・武蔵境・石神井・武蔵野)の入居預り金・約 50億円を興発社の債務に流用・消費した』という事実、そして『私(岩城祐子専務)はこれに難色を示したので、平成11年5月の株主総会で取締役を解任され、中村憲昭取締役も同様になりました。」と取締役を解任された事実が書かれている。
「当社が当該商標の出願時(商標法4条3項の登録要件判断の基準時)はもちろんのこと、その後も一貫して、興発社に対して『シルバーヴィラ』名称の単独商標出願を承諾していない事実に変わりはありません。」と明言する。
「私は、取締役の解任・株式の簡易交換が商法上適法な行為であるとしても、興発社による『シルバーヴィラ』商標の単独出願に関しては、当社が地道に、広く世間に知らしめた『シルバーヴィラ向山』商標に蓄積してきた『成果の横取り』に変わりなく、モラルに反する行為であると、確信しています。」との記載がある。
上記のとおり、興発社がサービス社の完全親会社になり経営を統合したとしても、商標使用の「承諾がない」事実を変えることにはならない。商標法第4条第1項第8号で「承諾を得ているものを除く」と規定した法趣旨は、まさに、本件商標におけるように、商標に蓄積された「顧客吸引力の横取り」ないしは「人格権(モラル)の毀損」のような事態から、著名略称の所有者を守るという点にある。
(4)まとめ
本件商標は、被請求人さんわ社の老人ホーム「シルバーヴィラ向山」の著名な略称「シルバーヴィラ」を含む商標であって、商標出願時あるいは商標登録時にさんわ社の承諾を得ていない商標であり、商標法第4条第1項第8号により無効にすべきである。
3 無効理由3:商標法第4条第1項第15号
(1)これは、補足的な理由である。請求人は、本件商標の無効理由には、商標法第4条第1項第10号又は同第8号が優先適用されると信ずる。
しかし、上記条項の適用を否定したH16審決のように、「シルバーヴィラ向山」と「シルバーヴィラ」とが非類似であると考えた場合でも、商標法第4条第1項第15号(出所の混同)によって無効になるはずである。
(2)「シルバーヴィラ向山」の著名性については、既に詳説したとおりである。
「シルバーヴィラ向山」と本件商標とは、必ず出所の混同を生じるおそれがある。「シルバーヴィラ向山」と「シルバーヴィラ(5店舗)」とは、相互に「ハウスマーク」を共通にするからである。実際に使用する際には、多くは店舗表示を付記した商標を使用する。
一般需要者・取引者が、請求人の「シルバーヴィラ向山」と現在被請求人が使用する「シルバーヴィラ哲学堂」とを相互に関連する老人ホームと誤解してしまうことは、必然である。出所の混同のおそれは、極めて大きい。
(3)まとめ
商標法第4条第1項第10号又は同第8号が優先適用されない場合には、本件商標は、商標法第4条第1項第15号(出所の混同)によって、無効とすべきである。
4 結論
以上詳述したとおり、本件商標は、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標又はこれに類似する商標であって、同一若しくは類似役務に使用するもの、又は他人の名称「シルバーヴィラ向山」の著名な略称「シルバーヴィラ」を含む商標であって、他人の承諾を得ていないもの、又は他人の業務に係る引用商標と混同を生ずるおそれがある商標に該当し、商標法第46条により無効にするべきである。
5 弁駁の理由
(1)請求人の証拠書類全般について
被請求人は、請求人の証拠書類について、その証拠能力に疑義があると述べる。その理由は、(ア)単なる記事であること、(イ)本件商標の出願後の証拠があること、(ウ)日付が不明な証拠があること、とする。
しかしながら、以下の点で被請求人の指摘は誤っている。
(ア)高い評価を受けた記事は、周知・著名性を立証する重要な証拠である。
被請求人は、単なる記事は証拠能力がない、と述べる。しかし、当該記事は、明らかに請求人の老人ホーム「シルバーヴィラ向山」を特定しており、しかも、老人ホーム「シルバーヴィラ向山」に関して、一般需要者・当業者から高い評価を得ていることを内容に含む。高い評価を受けた記事は、誰にでも載せてもらえる訳ではない。老人ホーム「シルバーヴィラ向山」が、掲載に値する実績、内容があったこと、実際に「シルバーヴィラ向山」を利用した需要者やシルバービジネスの当業者から「なるほど」と評価されてこそ載るはずである。実績こそが評判を生む。
被請求人は、極めて多数の求人広告(約180件)を掲載し、それ故被請求人は周知・著名である、という論理を展開している。自己使用の(入居者募集・求人)広告でなければ役務商標を周知・著名にしない、と言っているかのようである。
しかしながら、広告の「量より質」ということは、実際に存在する。多数の求人広告より、少数でも高い評価を受けた記事掲載の方が、役務商標を周知・著名にする広告効果がある。
請求人は、昭和56年1月項「シルバーヴィラ向山」開設前に、甲第35号証のパンフレットを約300通いろいろな方に送った。当時は、老人ホームに対する印象が悪く、新聞掲載前は3人しか成約がなかった。しかし、ひとたび新聞記事に掲載された際の広告効果は素晴らしかった。新聞記事で良い評価を受け、注目された途端、自己宣伝せずとも「評判が評判を呼び」あっという間に満室になった。
その後も新聞掲載が続いたことや、入居者からの口コミ、そして、NHKテレビの放映により大反響となり、入居待ちの希望者がたいへん多かったので、「シルバーヴィラ向山」の隣接地(女子学生会館の敷地)を買い取った。そして、昭和59年に老人ホーム向けに改装増設した(施設内2号館)。ここは、改装前から、入居待ちの方で満室になった。 その後も、施設内の3号館、4号館(健常者向け老人ホームは「アプランドル向山」として別に経営)、5号館と、規模が更に大きくなっている。「シルバーヴィラ向山」の現在の総部屋数は、165室である。
このように、高い評価を受けた記事の広告効果により周知・著名になるということは実際に存在する。
請求人が証拠提出した、多くの、高い評価・良い評価を受けた記事は、老人ホーム「シルバーヴィラ向山」を周知・著名にした重要な証拠である。
(イ)本件商標の出願後・登録査定時までの証拠提出は必須である。
被請求人は、本件商標出願時以降の証拠は証拠能力がないと述べる。
しかし、商標法第4条第3項の規定は、「出願時において各号の規定に該当し、かつ、査定時においても該当しなければならないものとする」との意味である(甲第91号証)。
商標出願時のみならず、商標出願後・登録査定時までの証拠を提出することは必須である。この証拠提出がなければ、明らかに片手落ちである。
したがって、商標出願後の平成13年に出版された、老人ホーム「シルバーヴィラ向山」を題材にした本「母のいる場所(シルバーヴィラ向山物語」(甲第36号証)は、「シルバーヴィラ向山」の周知・著名性を立証する重要な証拠である。
この本は、介護に関心のある女性達に大きな反響を呼んで、増刷を重ねている。現在、この本は、文庫本にもなったことを付言する(甲第92号証)。
本の売れ行き好調に勢いを得て、映画化が進められた。監督は、車椅子でメガホンを取る榎坪多鶴子氏である。平成14年暮れには、「シルバーヴィラ向山」で現地ロケが始まった。紺野美紗子、馬渕晴子、野川由美子、米倉斉加年、小林桂樹等が出演し、平成15年秋には映画が完成した。初上映の平成15年11月15 日(甲第46号証)は、満席になり、立見も出るほどで、同映画祭で入場者が最も多かったそうである。以後も、全国各地で上映されている(甲第48及び第93号証)。
この映画を見ると、さんわ社の老人ホーム「シルバーヴィラ向山」の良さ・あたたかさが、知らず知らずのうちに視聴者に伝わる。決して派手ではないが、介護に関心のある女性達にたいへん好評な映画である。
この映画は「シルバーヴィラ向山」の周知・著名性を立証する重要な証拠である。現在でも、全国各地で盛んに上映が続いていることを付言する(甲第94ないし第97号証)。
なお、被請求人の乙号証には、出願日以降の証拠はもちろんのこと、登録査定日以降の証拠もたくさんある(甲第89号証)。 被請求人の主張によれば、自ら提出した証拠も、証拠能力がないはずである。矛盾した主張であろう。
(ウ)日付が不明であっても、時期・年度が明らかに特定できる証拠には、証拠能力がある。
被請求人は、甲第35号証の「シルバーヴィラ向山」の第1号パンフレットは、日付が不明であるから証拠能力がないとする。
この第1号パンフレットは、「シルバーヴィラ向山」開設前に作られた。請求人にとって記念すべきパンフレットである。開設前の昭和55年12月頃印刷し、56年1月より配布したものである。明確な印刷日付・配布日付は不明であるが、その記載内容から印刷時期・配布時期が特定できる。
寺岡武治氏の「たいへん結構な趣旨であると思います。ただ非常に難しい仕事ですが、岩城祐子社長の活躍状況を知っている私としては、りっぱに経営なされると思います。成功をおいのりいたします。」の文面や、医学博士石川昌氏の「岩城さんは、日頃私が尊敬している身近な友人であり、良き先輩である。それは、ひとえに岩城さんの人徳によるものであろうか、この度祖先の遺産をなげうって、理想の老人ホーム建設に乗り出されるという。」の文面から「シルバーヴィラ向山」開設前であることがわかるし、写真掲載の方の肩書き「埼玉銀行」(現在は、りそな銀行)や、顔写真の年齢などからも立証可能である。
甲第39号証は、2002年12月8日の読売新聞掲載である。
ちなみに、被請求人の乙号証には、日付不明のものがたくさんある(甲第90号証)。被請求人は、先ず、自らの証拠書類について検討し直すべきであろう。
(2)甲第4号証について
請求人提出の証拠資料のなかで、唯一、甲第4号証だけは公証人による私書認証である。この宣誓供述書は、岩城祐子の「生の声」である。岩城祐子は正直な人で、無類の善人である。
証拠資料に提出した多くの記事や、雑誌、書籍を見れば、岩城祐子の「働き者で、誠実な、心の優しい、肝っ玉かあさん」ぶりがおわかり頂けよう。お年寄りや身体障害のある人達に、まごころを以って接する、心の温かい、気骨ある立派な人である。
被請求人は、岩城祐子の宣誓供述書を、公証人を欺いた信憑性のないものと攻撃する。しかし、説明が不足していた部分や多少の思い違いがあったとしても、この宣誓供述書は、実際に体験したことのみを述べたものである。
甲第4号証については、再検討して正確を期し、新たに、ほぼ同趣旨の甲第82号証宣誓供述書を作成した。
また、甲第82号証宣誓供述書については、甲第83号証として「宣誓供述書の補足点とその理由」を提出し、被請求人の答弁書での指摘にも証拠資料を明示して回答した。
この宣誓供述書で、特に岩城祐子が主張したいのは、次の点である。
(ア)「シルバーヴィラ」は、昭和56年「シルバーヴィラ向山」を開設する際に、さんわ社の岩城祐子が考えた老人ホームの名称である。この名称には、岩城祐子の老人ホームに対する確固とした考え(哲学)が基盤にある。また、「向山」は所在地名であり、他に増設する際に備えて、末尾に地名を付けたものである。
(イ)「シルバーヴィラ向山」開設にあたり、「ホテル並みの待遇(個室)で、お年寄りを大切に扱うという考え」は当時の厚生省から猛反対を受けたが、世論からは大きな支持を得て、周知商標になった。「シルバーヴィラ」は老人ホームのお手本たらんとして付けた名称で、さんわ社にとって、伝統ある、誇りに満ちた、大事な商標である。
(ウ)昭和58年10月には、興発社は、将来の閉山対策事業を模索していた。当時、石炭産業は衰退の一途で、斜陽化し、興発社は構造的不況に陥っていた。これに同情したことや、労働組合の委員長から社長までの熱心な訪問を受けたこともあり、さんわ社は共同事業をした。
興発社は、「シルバーヴィラ向山」が、さんわ社の周知商標であることを知っていて、提携を申し込んだはずである。
(エ)本件商標は拒絶査定になったが、興発社より拒絶査定審判請求が提起され、さんわ社の周知商標「シルバーヴィラ向山」が有るにもかかわらず、「シルバーヴィラ」とは非類似であるとして、登録されてしまった。
興発社の継続的使用権による商標の継続使用は、やむを得ないと考えているが、権利として商標登録されたことには、納得がいかない。
(オ)さんわ社は「ホテル並み老人ホーム」を象徴する「シルバーヴィラ」という名称を創造し、それ故(個室に関する意見の食違いのため)、厚生省の猛反対にあった。「厚生省が反対するような事業はうまく行くはずがない」と銀行に言われ、銀行ローンは途中で解消になった。しかし、自己資金を投入して踏ん張り、「シルバーヴィラ向山」を開設できた。創業の苦労は、大変なものであった。
このような創業の苦労やリスクもなく、周知商標「シルバーヴィラ向山」の顧客吸引力を利用した興発社だけが、これからも自由に権利として商標を使えるのは納得がいかない。
(カ)興発社は、苦しい時には世話になり、周知商標「シルバーヴィラ向山」の顧客吸引力を利用するだけ利用して、後は「お払い箱」では「アンフェア」である。商業道徳は何処にあるのかとさんわ社は考えている。
手貝社長のメモにある様に、興発社が、さんわ社からノウハウも得て、さんわ社は不要と考えたのであれば、さんわ社の商標はさんわ社に返すべきであろう。今後の興発社の老人ホーム名称には、自らが創作したオリジナルな商標「シルバーシティ」を使うのが筋であるとさんわ社は信ずる。
(3)商標法第4条第1項第10号に対する反論について
(ア)施設数について
被請求人は、請求人の施設数が1施設のみであるから、周知・著名でないとする。
しかしながら、被請求人の施設・広告の殆どは、出願時には被請求人と別会社(さんわ社と共同経営の会社)であったサービス社の施設・広告である。商標出願時には、これらの施設・広告資料は、別会社のものであろう。
サービス社が、興発社の完全子会社になったのは、商標出願後約8ヶ月経過した、平成13年2月1日からである。別会社の施設・証拠資料を以って、商標出願時の周知・著名を立証するのは、如何なものかと考える。
(イ)「シルバーヴィラ向山」は、「シルバーヴィラ」と類似する。
この点については、既に述べたように、以下の理由から明らかである。
(a)「シルバーヴィラ」は、さんわ社の「ハウスマーク」で、岩城祐子が独自に考えた「ホテル並み老人ホーム」の名称である。(b)「ハウスマーク+地名」で、店舗を表示するのは、老人ホーム業界で、一般的な名称の表示方法である。(c)「向山」は地名として有名である。
ちなみに、「母のいる場所(シルバーヴィラ向山物語)」には、ハウスマークの「シルバーヴィラ」だけで書かれた箇所がたくさんある(甲第98号証)。作者の久田恵さんやお父さんは、ごく普通に、何の抵抗もなく「シルバーヴィラ」と略称している。これは、向山が地名だからで、「シルバーヴィラ」と略称するのは自然なことである。
(ウ)記事に掲載された事実は、昭和58年から数年だけではない。
商標出願時、登録査定時に、周知・著名なことは明らかである。特に、発行部数39万部の週刊女性の記事「だから老人ホームはおもしろい !」(甲第25号証の1ないし52)は、平成11年に毎週1回約1年間(計52回)の連載が続いたので、老人ホーム「シルバーヴィラ向山」の名前は、強く印象に残ったはずである。若い読者の間でたいへん有名になった。
発行部数1万部のシルバーウエルビジネス「ビッグママの花エプロン」(甲第26号証の1ないし10)は、介護業界の雑誌である。平成12年1月から10ヶ月間連載が続いた。介護業界では、「シルバーヴィラの岩城祐子」として、たいへん有名である。
久田恵さんの本「母のいる場所(シルバーヴィラ向山物語)」(甲第36号証)はたいへん好評で、何度も増刷され、最近は文庫本にもなった。この本は映画化され、映画は、最多観客動員数を記録し、その後も各地で連綿と公開されている。
このように、たいへん有名だから、特に求人広告や入居者募集広告を出さなくても、「シルバーヴィラ向山」には、いつも自然に人が集まってしまう状況である。
上記のとおり、(有名なため、自己宣伝の必要があまりないから)自己使用の求人広告や入居者募集広告はないが、その他の証拠資料により「シルバーヴィラ向山」が請求人の老人ホーム名称として周知・著名なことは、明らかである。
老人ホームとして高い評価を受けた記事や本・雑誌などの出版物は、役務商標としての周知性を立証する重要な証拠である。
また、請求人の商標「シルバーヴィラ向山」に周知性があることは、審査・審判を通じて、特許庁での一貫した判断である。
(4)商標法第4条第1項第8号に対する反論について
書籍「母のいる場所(シルバーヴィラ向山物語)」には、ハウスマークの「シルバーヴィラ」だけで書かれた個所がたくさんある(甲第98号証)。例えば、46頁には「シルバーヴィラから引っ越してきた」「シルバーヴィラのプレーボーイ」「シルバーヴィラの玄関のところ」「シルバーヴィラのコックの石塚さん」と言った具合に、ごく普通に呼ばれている。
上記のとおり、「ハウスマーク」の「シルバーヴィラ」だけで「シルバーヴィラ向山」を略称するのは、老人ホーム業界では一般的なことである。
その上、その由来から明らかなように、「シルバーヴィラ」はさんわ社の岩城祐子が創造した老人ホーム名称であり、「ホテル並み老人ホーム」を象徴するハウスマークである。
「シルバーヴィラ」は、さんわ社がオリジナリテイを持つ、「シルバーヴィラ向山」の著名な略称である。
(5)商標法第4条第1項第15号に対する反論について
(ア)乙各号証は、被請求人の商標使用であるかについて
被請求人の証拠資料の殆どは、出願時には被請求人と別会社(さんわ社と共同経営の会社)であったサービス社の証拠資料である(甲第87ないし第89号証)。商標出願時には、これらの証拠資料は別会社のものであろう。別会社の証拠は、出願時における興発社の証拠資料とは言えない。
したがって、商標法第4条第1項第8号、同第10号及び同第15号について、甲第87及び第88号証に掲げた証拠書類は、本件商標出願時の証拠書類としての適格を欠くものである。
(イ)本件商標は、さんわ社がオリジナリテイを持つ、周知・著名な引用商標とハウスマークを共通にし、一般需要者及び当業者が出所の混同を生じるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第430号証を提出している。
1 本件商標について
本件商標は、被請求人である商標権者のグループ会社(現在は子会社であるサービス社)が、シルバー部門を開始するときに採択した造語であり、直に特有の観念を生じるものではない。そして、本件商標は、標準文字として同一書体でまとまりよく構成されていることから、「シルバーヴィラ」又は「シルバービラ」の称呼が生じるとすることが自然である。
2 請求人提出の甲第4号証について
(1)請求人のさんわ社は、自身の会長である岩城祐子氏が、被請求人のグループ会社(サービス社)の専務取締役であったことから、さんわ社の代表或は会長である岩城祐子氏と、サービス社の専務取締役である岩城祐子氏を混同して、各種主張を展開している。しかし、平成11年にサービス社を退職するまで、岩城祐子氏は、サービス社の専務取締役としての活動もしていたものである。
乙第37号証で示されるように、被請求人のグループ会社(サービス社)は、岩城祐子氏の指導を受けた事実があるが、自らのブランドとして「シルバーヴィラ」の第1号店として「シルバーヴィラ哲学堂」をオープンし、第2号店として「シルバーヴィラ聖蹟桜ヶ丘」、以下6店舗展開が示されている(ここでは「6棟目の『シルバーシティ石神井』をオープンしたのは今年6月。同社のこれまでのブランド『シルバーヴィラ』ではなく、新たに『シルバーシティ』のブランド… 」と記載されている。)。
(2)そこで、先ず、甲第4号証で示される請求人の会長である岩城祐子氏の「宣誓供述書」であるが、事実に基づかない主張、事実に反する虚偽の主張が多数含まれており、公証人を欺いた信憑性のない宣誓供述書であり、これについて以下に説明する。
(ア)項目1については、被請求人は承知している。項目2及び3については、被請求人は知らない。項目4については、「昭和56年2月4日に、日経新聞紙上に『ホテル並み?新型老人ホーム』と『シルバーヴィラ向山』の囲み記事が掲載された」について認めるが、その余は知らない。
(イ)項目5について、「興発社の根津武義社長及び若井紀常務も、シルバーヴィラ向山を訪ねて来て、協力を要請しました」は認める。「『シルバーヴィラ向山』開設後、不動産会社や大手ゼネコンなど、たいへん多くの方々の訪問・見学を受けました。一緒に老人ホーム経営をしたいという方もおられましたが、気乗りせず、断っておりました」、「私は労働組合委員長から役員までの全社的な要請と考え、心意気に感じ」については知らない。また「昭和58年10月には、興発社の労働組合の委員長である馬島茂さんの訪問を受けました。」とある点について、訪問は事実であるが、昭和58年、馬島は委員長ではなかった。当時の馬島は正確には企画部係長であり、昭和58年当時の委員長は別の者である。
さらに、「国の方針として炭鉱閉山が決まったので、興発社の社員のためにも、是非とも協力してほしいとの依頼でした」とあるが、太平洋炭礦の閉山は昭和58年ではなく、平成14年1月30日(乙第422及び第423号証)、太平洋炭礦が初めて閉山を表明したのは平成13年11月27日(乙第424号証)であり、昭和58年当時は、このような事実はまったく存在しないものであり、炭鉱閉山と「シルバーヴィラ」事業とは無関係である。したがって、この項目5は、事実に基づかない作文に過ぎないものである。
(ウ)項目6について、「資本金を20%投入して、共同でサービス社を設立し、岩城祐子は専務として経営に責任をもつ」については認める。この資本金20%というのは事実であり、500万円の出資を得たものである。なお名称に関しては、自然に決まったものであり、その他の経緯については知らない。
(エ)項目7について、昭和59年5月頃から哲学堂のパンフレットが存在するものであり、「2号店の意味合いを表現すべく」とあるが、請求人のさんわ社とは関係がなく、被請求人である興発社は「シルバーヴィラ向山」を1号店として、哲学堂を2号店とするものではない。あくまでも被請求人の哲学堂は「シルバーヴィラ」の1号店であり、前記した乙第37号証の記載事項及び乙第426号証の第2期営業報告書のく新規開発>に「シルバーヴィラ2号店計画に関しては、当初投資の軽減を計る為、親会社である太平洋興発の協力を得、都内にて興発社が他社より賃貸する建物の一部を借り受け、オープンする予定です。」とあるように、次に展開するものが「シルバーヴィラ」の2号店との認識であったものである。また「シルバーヴィラの名称を付けましたので、幸い、好調にオープンできました。」とあるが、営業報告書(乙第425号証)によれば、欠損がでているものであり、昭和60年3月には稼働率が40%くらいであった。つまり、単に「シルバーヴィラの名称を付け」ただけで、業績が良好になったのではないものである。
また、ここで述べている「オープン時の記者会」に関しては知らない。そして、「さんわ社側の岩城祐子専務が」とあるが、岩城祐子氏は、サービス社の専務取締役として活動していたものであり、さんわ社としての活動ではない(項目6において「サービス社を設立し、岩城祐子は専務として経営に責任をもつ」とするところからすれば、サービス社の専務取締役としての活動であることは明白である)。
なお、「約15年の間、共同経営は順調に続きました。」とあるが、必ずしも順調とはいえないものであったが、岩城祐子氏の主張からも伺えるように「シルバーヴィラ」シリーズは15年間において、被請求人のグループ会社の商標として定着し、周知性を獲得していったものである。
(オ)項目8について、「平成11年1月、興発社は、鉱内事故を隠蔽したことが発覚し、通産省より営業停止の処分を受けました。」という点については事実無根である。つまり、被請求人である興発社が営業停止を受けた事実は一切ないものである。但し太平洋炭礦(100%子会社)の自然発火事故が、平成13年1月27日に発生した事実(乙第427号証)はあるが、平成11年ではない。したがって、被請求人が資金繰りに困ったなどということはなく、流用などということもない。また、50億円という数字は誤りで、入居預り金は平成13年3月末において、37億円程度である。さらに「三井住友銀行の管理会社になり」、とあるが、三井住友銀行は平成13年4月に「さくら銀行」と「住友銀行」が合併したものであることは周知の事実であり、平成11年3月時点では、このような銀行自体、存在しないものである。つまり、「通産省より営業停止の処分を受け」、「入居預り金・約50億円を、興発社の債務に流用消費してしまいました」、「三井住友銀行の管理会社になり」などという事実無根の主張を行い、自ら都合のよい主張を作文し、公証人を欺いて宣誓供述書を作成するような行動は、被請求人に対するいわれのない誹謗中傷であり、このような悪意に基づいた主張は、被請求人の名誉殿損であり、被請求人としては憤りを持つものである。
なおこの項目8において、「サービス社」の「小沢廣國社長から手貝哲夫社長に代わりました」という社長交代の点のみは事実であるが、理由は別である。
(カ)項目9について、「私(岩城祐子専務)はこれに難色を示したので、平成11年5月の株主総会で取締役を解任され」と主張しているが、岩城祐子氏の退任は、任期満了、年齢等を考慮したもので解任ではない。当時の役員任期に関する内規が存在し(乙第428号証)、これに従うと60歳定年であるが岩城祐子氏はそれを超えていたものである。また中村氏の退任は、別の理由によるものである。
また、サービス社が岩城祐子氏の退職に際して支払った退職金について、取締役会議事録が存在(乙第429号証)し、役員退職慰労金の支払いもなされている(乙第430号証)ことからも、岩城祐子氏は間違った認識をしているものである。
なお、「解任前の平成11年4月のある日、サービス社の或る幹部社員(匿名を希望します)が、私を訪ねて来ました。この社員は、困惑したような表情で、手にしたメモを見せ、『実は、メモは見せないで、口頭で岩城さんを説得する様に、との手貝社長のご命令だったのですが』と、私に言いました。手貝社長が書いたというメモには『今までに/岩城さんのノウハウで/必要なものは全部入手したので/岩城さんは不要』と書いてありました」については、根拠不明であり、いわれのない主張である。
(キ)項目10について、全店舗が貸借物件であること、商標出願をしたことは事実であるが、その余の主張、預り金約50億円の流用などは、前述したように事実無根である。
なお、株式交換に関する商法改正は平成11年改正であり、国会通過は平成11年8月9日で、施行日は平成11年10月である。したがって、平成12年云々は間違いである。項目11について、拒絶理由通知を受け、拒絶査定になり、拒絶査定不服審判の審決で登録されたことは事実である。
(ク)項目12における岩城祐子氏の主張は、サービス社が被請求人のグループ会社(現在は完全子会社)であることを知りながら主張しているものであり、失当である。
項目13については、前述のように、株式交換に関する商法改正は平成11年に行われたものであり、出資資本金は500万円である。また、株式交換は当時盛んだったもので、株式交換に関しては適法に処理されているものである。商標との関係はなく、時期がたまたま重なっていたに過ぎない。強制的な交換との主張については、強制ということはなく、商法に則した経済活動であった。
項目14において主張されている高橋弁護士は知らないものであり、釈明を求められた事実も存在しない。また、事業展開において、親会社がグループ会社や子会社の商標管理を行なうことは一般に行われており、いわんや権利を所有しない他社(さんわ社)の承諾など不要であることは言うまでもないことである。
(ケ)項目15において主張されている事柄は事実無根である。炭鉱閉山は、乙第422ないし第424号証、乙第427号証等で示されるように、平成14年であり、昭和58年当時には、「閉山した従業員の再就職先」などということはありえないことである。岩城祐子氏は、15年にわたり、被請求人のグループ会社の専務取締役としての活動を行っており、その過程において、本件商標は、被請求人のグループ企業(完全子会社)の商標として周知になってきたものであり、例え、「シルバーヴィラ向山」が先に存在していたとしても、「シルバーヴィラ」を使用し周知にしたのは、被請求人のグループ企業(完全子会社)の商標としてであって、ここでの主張は、さんわ社の会長である岩城祐子氏と、サービス社の専務取締役である岩城祐子氏を混同した主張に過ぎなく、陳述が支離滅裂であって信憑性が全くないものである。
(コ)項目16については、「シルバーヴィラ」と「シルバーヴィラ向山」とは異なるものであり、これは審決においても認定されている事柄である。「興発社の債務処理がうまくいかず… 」との主張においては、どのような根拠で主張されているのか釈明を求めたいものである。
項目17において、映画などについても陳述しているが、本件商標の出願後の事柄であり、時期が違うものであって、何ら証拠となるものではない。
(3)以上のように、岩城祐子氏の宣誓供述書(甲第4号証)は、さんわ社の代表者或いは会長である岩城祐子氏と、サービス社の専務取締役である岩城祐子氏を混同した主張であって、経済活動の原則を無視した主張であり、信憑性に欠けるものであり、宣誓供述書に基づく主張である審判請求書の第5頁中ほど、第6頁中ほど、第14頁など、18頁から19頁第2行までなど、悪意に満ちた事実に基づかない主張がなされており、これらの主張に関する限り、失当のそしりを免れないものである。
3 商標法第4条第1項第10号に対する反論
(1)役務商標(サービスマーク)の創設された平成4年から本件商標の商標出願日までの間の請求人の提出した証拠は、いずれも記事が中心であって、記事中の記載や記事として話題にはなっているが、商標的使用がなされていないものである。また請求人さんわ社の運営する「シルバーヴィラ向山」は、施設数についても「シルバーヴィラ向山」の1施設のみが存在するに過ぎず、「シルバーヴィラ」ではなく「シルバーヴィラ向山」である。この「シルバーヴィラ向山」が昭和58年当時から数年において記事として話題になっていた事実が存在していたとしても15年以上経過した後の被請求人の商標出願時である平成12年において、請求人の「シルバーヴィラ向山」は役務商標として周知とは言えないものであり、ましてや「シルバーヴィラ」に至っては、単独で何ら使用した事実すら見出すことができないものである。請求人の証拠は、1施設であることや、その記事の量、その他、コンサートのパンフレットなど、いずれも周知性の立証となる証拠としては不十分なものであり、役務商標として周知とするには大きな疑義が存するところである。
(2)むしろ被請求人のグループ企業は、昭和58年から商標登録出願時である平成12年、さらには現在に至るまで、「シルバーヴィラ」シリーズとして「シルバーヴィラ哲学堂」、「シルバーヴィラ聖蹟桜ヶ丘」、「シルバーヴィラ武蔵境」、「シルバーヴィラ石神井」、「シルバーヴィラ武蔵野」、「シルバーヴィラ駒込」の全6物件を管理・運営しており、乙各号証で示されるように、「シルバーヴィラ・シティシリーズ」として雑誌の紹介記事、テレビ放映、新聞広告の掲載、インターネット上のホームページなどを通じた広告宣伝活動を行なった結果、本件商標をその登録出願前より広く需要者に認識させるに至っている。この事実は後述の乙各号証で示すものである。
(3)仮に、H16審決で述べられているように「シルバーヴィラ向山」が周知と仮定しても、この審決でも示されるように、「『シルバーヴィラ』のみでの使用は、甲各号証及び各資料に徴してもその事実を殆ど見出すことができない」、「また情報提供者が述べるように『シルバーヴィラ向山』の『向山』の文字部分は、東京都練馬区向山の地名『向山』であるにしても、取引者、需要者が『シルバーヴィラ向山』に接した際、『向山』の話が直ちに役務提供場所等の地名として認識され得るほど知られていることを認めるに足る証左はない」との審決の理由を被請求人は有利に援用するものである。
(4)このように本件商標は、被請求人が「シルバーヴィラ」シリーズとして展開し、現時点においては出願時より1施設を増設して6施設として運営しているものであり、被請求人のグループ企業がその活動により周知・著名にしたものと認められるべきものであって、いわんや請求人の引用商標とは類似するものではなく、また誤認混同をするものでもない。
4 商標法第4条第1項第8号に対する反論
(1)請求人の商標法第4条第1項第8号に関する主張は、「シルバーヴィラ」がさんわ社の商標として、著名な略称であることを前提とした主張であるが、「シルバーヴィラ」が「シルバーヴィラ向山」の略称として著名である事実は何ら在在しないものである。むしろ、「シルバーヴィラ」は、「シルバーヴィラ向山」と異なり、後述する乙各号証で示されるように、被請求人に係る商標として周知性を備えているものであり、請求人主張の理由は失当であると言わざるを得ない。
(2)また、岩城祐子氏の宣誓供述書に基づく、審判請求書第18頁第4行ないし第19頁第8行の主張は、前述した宣誓供述書の虚偽の事実に基づいた主張であり、意味のない主張である。
5 商標法第4条第1項第15号に対する反論
(1)商標法第4条第1項第15号の主張に至っては、反論するまでもなく、乙第44、第188及び第379ないし384号証において、出所の混同がされていない事実を示すことによって、かかる主張が失当であることを指摘することで、反論とする。
(2)上記被請求人の主張(すなわち本件商標は被請求人の役務商標として周知・著名となっていること)を補強するものとして、乙各号証を提出する。
なお、乙各号証は、被請求人及び被請求人のグループ企業(現在は完全子会社)が行った「シルバーヴィラ」に関するものであって、請求人のさんわ社とは直接関係のない活動であり、それ故に被請求人が本件商標を自らの施設に使用した事実を物語るものである。
(3)以上のように、被請求人は、役務商標の創設以前から、多数の広告、雑誌への掲載、テレビ放映、インターネット上のホームページへの掲載などを通じ、幅広く広告宣伝活動を行なった結果として、本件商標は被請求人の商標として出願時において周知なものとなっていたものであり、現在に至っては、さらに著名なものといえる存在となっているものである。
一方、請求人であるさんわ社の「シルバーヴィラ向山」は1施設が存在するに過ぎず、提出された証拠は連載記事の中に記述されたものなど、到底、役務商標としての使用とは言えず、提出された証拠からも、「シルバーヴィラ向山」の略称としての「シルバーヴィラ」が著名というものはなく、「シルバーヴィラ」は、被請求人の商標として出願当時周知であったもので、現在も被請求人の商標として需要者間に広く認識されているものである。
特に、取引の実情を考慮するに、現時点で6施設、出願時に5施設を運営している、被請求人の登録商標として「シルバーヴィラ」は周知なものであり、請求人の1施設とは異なるものである。
6 まとめ
以上のように、本件商標の商標出願時において、「シルバーヴィラ」は被請求人の商標として需要者の間に広く認識されている商標であり、請求人の「シルバーヴィラ向山」とは非類似であって、商標法第4条第1項第10号に該当しないものである。
また、本件商標は、「シルバーヴィラ向山」とは異なるものであって、さんわ社の名称ではなく、「シルバーヴィラ向山」の著名な略称というものでもなく、商標法第4条第1項第8号に該当するものでもない。
さらに、「シルバーヴィラ」と「シルバーヴィラ向山」は乙第44、第188及び第379ないし384号証で示したように、被請求人のグループ企業とさんわ社との間で混同無く識別されている事実から商標法第4条第1項第15号に該当しないものである。
よって、本件審判請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知著名性について
(1)請求人の提出に係る各甲号証によれば、以下の事実が認められる。
(ア)請求人は、昭和56年4月に東京都練馬区向山において有料老人ホーム「シルバーヴィラ向山」を開設した。その名称の「シルバーヴィラ」は、請求人の当時社長であった岩城祐子が、「銀」の意味の英語「silver」と「町」の意味のフランス語「ville」を組み合わせて作った創造語であり、「向山」は地名である(甲第3、第4、第82及び第83号証)。
(イ)昭和56年当時は、老人介護の黎明期であって、「シルバーヴィラ向山」は、痴呆症老人をも受け入れてくれるホテルタイプのユニークな老人ホームとして話題になり、その開設前に日本経済新聞において「ホテル並み?新型老人ホーム」の見出の下に「ホテル並みの食事から健康管理までを提供し、短期間の滞在もできるという民間の老人ホームが、ことし四月、東京都内にオープンする。・・・・この老人ホームは・・・・岩城祐子さんが、西武池袋線豊島園駅から徒歩六分の住宅地に所有している・・・敷地に建設中の『シルバーヴィラ向山』。」として紹介されたほか、開設後も昭和56年6月から同59年1月にかけて首都圏のみならず、秋田県、神奈川県等の地方新聞においても報道・紹介された。例えば、昭和58年8月7日付け神奈川新聞には「老人専用ホテル大盛況 平均68歳、固定客もつく」の見出の下に「全国で初めてという老人専用のホテルが人気を呼んでいる。東京・練馬にある『シルバーヴィラ向山』がそれ。・・・いまは満員の盛況。新規の利用申し込みも全国各地からきており、・・・」と記載されている(甲第7ないし第24号証)。また、各種雑誌等においても紹介された(甲第49ないし第51号証)。
(ウ)その後も、本件商標の登録出願時までに発行された新聞(甲第55ないし第58及び第65号証)及び各種書籍・雑誌(甲第28ないし第32、第52ないし第54及び第59ないし第61号証)において紹介された。
平成10年9月から同11年9月までは、「シルバーヴィラ向山代表岩城祐子」の名で女性週刊誌に「シルバーヴィラ向山」に関連した連載記事が掲載され(甲第15号証の1ないし52)、業界誌「シルバーウェルビジネス」にも岩城祐子による記事が連載された(甲第26号証の1ないし10)。これら連載記事の随所に「シルバーヴィラ向山」の名称が見られる。
その他、「シルバーヴィラ向山」では、機関誌「銀杏」を発行している(甲第70号証の1ないし11)ほか、音楽等の定期演奏会が開催され、一般に無料公開されている(甲第33号証の1ないし14)。
(エ)特に、平成13年10月には、実話に基づくノンフィクション書籍である、久田恵著「母のいる場所 シルバーヴィラ向山物語」が発行され(甲第36号証)、該書籍は、介護に関心のある一般需要者間において評判となり、雑誌・新聞等に紹介された(甲第38ないし第41号証)。さらに、該書籍に基づいて映画化され、映画「母のいる場所」は、第16回東京国際女性映画祭において上映され好評を博したほか、全国各地で上映され、現在も上映が続いており、該映画については新聞等においても紹介されている(甲第42ないし第48及び第93ないし第102号証)。
(2)以上の認定事実によれば、「シルバーヴィラ向山」の文字は、本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係る老人ホームの名称として、また、老人の養護について使用する商標としてこの種業界における取引者・需要者間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録時においても継続していたものというべきである。
2 本件商標と引用商標との類否について
(1)引用商標たる「シルバーヴィラ向山」は、その構成に照らし、視覚上「シルバーヴィラ」の文字部分と「向山」の文字部分とに分離して看取されるのに加え、両文字部分が常に一体不可分のものとして認識されるべき必然性はなく、後述のとおり、「向山」は地名として認識されるものであり、老人の養護等の業界においては施設名を表すためにハウスマークに地名を付加して名称とすることが一般に行われている。
してみれば、引用商標は、「シルバーヴィラ」の文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能を果たすものというべきであり、これより単に「シルバーヴィラ」の称呼をも生ずるものと判断するのが相当である。
他方、本件商標は、その構成文字に相応して「シルバーヴィラ」の称呼を生ずること明らかである。
したがって、本件商標と引用商標とは、「シルバーヴィラ」の称呼を共通にする類似の商標といわなければならない。また、本件商標は、引用商標が使用されている老人の養護等の役務を含むものである。
(2)被請求人は、引用商標については「シルバーヴィラ」のみの使用はないし、「向山」は地名として認識されず、むしろ本件商標たる「シルバーヴィラ」が被請求人の商標として周知性を具備したものであるから、本件商標と引用商標とは非類似のものであり誤認混同もない旨主張している。
しかしながら、「向山」は、請求人の施設が所在する場所であり、練馬区の住宅地域の名称として知られているものである(甲第76及び第77号証)。
そして、請求人及び被請求人の両当事者の提出に係る証拠からも明らかなように、老人養護等の施設の名称を表示するために、例えば「シルバーヴィラ哲学堂」、「シルバーヴィラ聖蹟桜ヶ丘」、「シルバーヴィラ武蔵境」、「ベストライフ昭島」、「ベストライフ小岩」、「ベストライフ与野」の如く、ハウスマークないしは基幹標章に地名を付加して名称とすることが一般に行われている。
また、被請求人は、本件商標が被請求人の商標として周知性を具備したものであるとして多数の証拠を提出しているが、提出された乙号証の多くは、請求人と被請求人の共同出資により設立されたサービス社(甲第4、第79及び第82号証参照)に係るものである。つまり、被請求人のみならず、請求人にとっても関連会社といい得る別会社によって「シルバーヴィラ」シリーズの商標が使用されていたというべきである。すなわち、提出された乙第1ないし第430号証のうち、日付が確認できるもので、被請求人が株式交換によりサービス社を完全子会社とした平成13年2月1日(甲第4及び第82号証中の資料2参照)前のものは、乙第1ないし6、8ないし12、17ないし45、47ないし50、52ないし60、63ないし66、68、69、73ないし93、95ないし111、113ないし115、117ないし121、123ないし135、142ないし151、155ないし157、159ないし165、167、169ないし177、183ないし190、192ないし199、201ないし206、209、215、218ないし221、225、228、230ないし252、259、264,267、272ないし274、278、279、318、327ないし334、380,425及び426号証であり、これらは本件商標の登録審決がされる前のものである。
さらに、「シルバーヴィラ」と「シルバーヴィラ向山」とは出所の混同のおそれがない事実として被請求人が提出する乙第44、第188及び第379ないし第384号証は、いずれも老人ホーム等の施設の一覧表であって、「シルバーヴィラ向山」と「シルバーヴィラ哲学堂」、「シルバーヴィラ武蔵境」等と共に「さんわ」と「太平洋シルバーサービス」とが併記ないしは括弧書されていることが認められるところ、これは、むしろ「さんわ」又は「太平洋シルバーサービス」の表示がなければ、「シルバーヴィラ向山」、「シルバーヴィラ哲学堂」、「シルバーヴィラ武蔵境」等のみでは他人のものと区別し得ないことを示すものといえる。
したがって、被請求人の主張は採用することができない。
3 出所の混同のおそれについて
(1)上記1のとおり、引用商標は老人の養護について使用する商標として取引者・需要者間に広く認識されているものである。また、上記2のとおり、本件商標と引用商標とは類似するものである。
(2)請求人が経営する老人ホームにおいては、老人の養護はもとより宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ、飲食物の提供、入浴施設の提供、医療情報の提供、栄養の指導、衣服の貸与、家具の貸与等の関連する役務の提供が行われているものといえる。加えて、これらの役務と本件商標の指定役務中の第42類に属する役務とは少なからぬ関連を有するものである。
(3)そうすると、本件商標をその指定役務の第42類に属する役務中「老人の養護」以外の役務について使用した場合、これに接する取引者、需要者は、「シルバーヴィラ」の文字に注目して、周知になっている引用商標ないしは請求人を連想、想起し、該役務が請求人又は同人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかの如く、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、請求人の業務に係る役務「老人の養護」を表示するものとして需要者間に広く認識されている引用商標と類似する商標であって、その指定役務中の第42類「老人の養護」については、引用商標の使用に係る役務と同一の役務であるから、商標法第4条第1項第10号に該当するものであり、また、指定役務中の「老人の養護」以外の第42類に属する役務については、役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものであるから、同法第4条第1項第15号に該当するものである。
したがって、本件商標は、その指定役務中、第42類「全指定役務」については、同法第4条第1項第10号及び同第15号の規定に違反して登録されたものであるから、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2005-07-22 
結審通知日 2005-07-27 
審決日 2005-08-19 
出願番号 商願2000-34404(T2000-34404) 
審決分類 T 1 12・ 252- Z (Z3642)
T 1 12・ 271- Z (Z3642)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 英一郎 
特許庁審判長 小林 薫
特許庁審判官 池田 光治
岩崎 良子
登録日 2004-04-23 
登録番号 商標登録第4765923号(T4765923) 
商標の称呼 シルバービラ 
代理人 牧 レイ子 
代理人 城田 百合子 
代理人 秋山 敦 
代理人 牧 哲郎 

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