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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 041
管理番号 1119701 
審判番号 無効2003-35084 
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-03-07 
確定日 2005-07-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第4136256号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4136256号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4136256号商標(以下「本件商標」という。)は、後掲のとおりの構成よりなり、平成8年1月30日に登録出願、第41類「学習塾における教授,教育情報の提供,学習塾における模擬テストの実施」を指定役務として、平成10年4月17日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第25号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお、甲第6号証と甲第25号証その1、甲第7号証と甲第25号証その2、「甲」符合なしの「1994一橋学院早慶外語 大学受験科入学案内(表・裏表紙及び'93年度合格状況の写しのみ)」と甲第25号証その6、甲第8号証と甲第25号証その3、甲第9号証(「OMNIBUS 1986」)と甲第25号証その4、甲第9号証(「OMNIBUS 1988」)と甲第25号証その5(表紙の写しのみ)、甲第10号証及び甲第16号証と甲第25号証その7、甲第11号証と甲第25号証その8の各甲号証については、甲第9号証(「OMNIBUS 1988」)と甲第25号証その5を除き、写し(抜粋)とその印刷物(実物)との関係にあるから、これら甲各号証を表示するときは後者の符号により表示することがある。
1.請求の理由
(1) 引用商標について
引用商標は、漢字で「一橋学院」と横書きしてなり、第41類「知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,書籍の制作,図書の貸与」を指定役務として、平成15年1月21日に登録出願(商願2003-3637)しているものである。
(2) 商標法第4条第1項第10号について
請求人は、昭和26年に杉並区高円寺に大学受験の個人塾を開設、昭和30年10月19日に新宿区高田馬場に法人登記し(甲第4号証)、校舎を高田馬場に移転して、事業目的にも掲げられている「一橋学院早慶外語」なる学校を東京校・本校として設置する(甲第5号証)。昭和45年1号館校舎完成を皮切りに、正式学校名である「一橋学院早慶外語」とその前半部をとった「一橋学院」の両方の名称を表示するようになる(甲第25号証その1)。
その際、学校案内書・パンフレット・冊子類にはすべて「一橋学院」の名称で出版し頒布している(甲第25号証その2)。さらに平成4年からは看板そのものにおいても「一橋学院」のみで表示するようになる(甲第25号証その3)。そして現在に至るまで「一橋学院」が正式学校名であるかごとき全国的に知名度を有し、大学受験予備校としてトップレベルにまで到達してきた。
また、商標「一橋学院」が需要者及び一般に知られた周知の商標であるかは、例えば、昭和60年度総合成績表(甲第25号証その4)、平成5年度、平成6年度に「一橋学院」に入学した地域別・出身校一覧表と大学受験合格状況(甲第25号証その7)及び本学院のOBの紹介とその思いでの綴り(甲第25号証その8)からも、その永年の営みにより予備校としての地位を確立してきたことがわかる。したがって、引用商標は、請求人がその取扱に係る役務「知識の教授」について、永年にわたり使用してきた結果、遅くとも、本件商標の登録出願日前には、同人の業務に係る役務「知識の教授」を表すものとして、需要者間に広く認識されていたものであるといえる。本件商標の後半部「一橋学院」は、これら周知の商標と同一又は類似し、類似の役務に使用するものである。
そうすると、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
(3) 商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標とは、類似の商標であり、かつ、その指定役務も同一又は類似しているから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
2.答弁に対する弁駁
(1) 商標法第4条第1項第10号(周知性)について
(ア) 請求人は、学校法人であることから、毎年公的機関に学校基本調査表を提出しており、請求人の証拠書類は立証できる資料となりえる(甲第25号証その1ないしその8)。また、請求人は昭和40年頃から山手線沿線高田馬場・目白・池袋・巣鴨・大塚・新大久保・新宿・代々木、その他のJR沿線、地下鉄沿線等、駅構内のしかも一番人目に付く場所に引用商標「一橋学院」の看板を挙げて宣伝広告をしている(甲第13号証)。
(イ) 請求人は、既に昭和56年頃から朝日新聞や読売新聞に広告掲載をしているが、「共通一次試験」いわゆる「大学入試センター試験」が、毎年ニュースで報道され、1月は、全国的行事ともいえる程世間一般で話題になることが多く、全国紙の新聞記事にこの「センター試験」の全問題と全解答が掲載され、受験生はもとより新聞を購読する者であれば必ずそのページは目にするものであって、その下段には各予備校の宣伝広告が載せられていることは承知のとおりであり、請求人はその広告掲載を「センター試験」が始まった翌年から現在に至るまで継続している事実がある(甲第14号証)。そして、通常の新聞広告に掲載する意味合いと違いがあり、むしろ受験生やその家族及び全国高等学校進路指導関係者等にとってはインパクトのある欄である。
(ウ) 大学受験の場合は全国規模で行われるため、多くの受験生はそれぞれが地元の大学へ入学を希望するより、むしろ名門大学・有名大学等の合格を目指すものであり、受験生の地元を中心とする中学受験や高校受験とは異なり、たとえ各地に予備校が存在しなくても、おのずと情報源の多い主要都市に集中する傾向があることは昔も今も変わらないから(甲第25号証その7)、予備校は全国に展開しているから知名度があるとは限らず、少なくとも一番需要者の多い関東一帯には引用商標「一橋学院」の名称が知れわたっていることには間違いない。
(エ) 請求人は、北海道から沖縄まで、全国の有力予備学校でつくる「大進研グループ」というネットワークを開設し、1978年1月から年数回に渡り「大学進学研究」誌という雑誌を発刊しているが、1996年12月で100号を刊行している(甲第18号証)。これは、各テーマを設けた特集や連載などを通して、入試制度や大学改革、高校教育、就職問題などの多様なテーマを追求し掲載されたものである。また、特別に「入試情報研究所」を設けて、年1回受験者向けに【入試のてびき】や【大学入試センター試験自己採点分析資料】等を刊行している(一部抜粋資料として甲第19号証その1ないしその6)。
(2) 本件商標と引用商標との類似性
(ア) 外観について
本件商標は白抜きの口ーマ字「IE」と黒塗りの肉太の漢字で「一橋学院」の文字を表記していることから、「一橋学院」が見る人にひときわ目に付くように構成されている。
(イ) 観念について
本件商標は、自他識別力のない「個別指導」とキャッチフレーズのことばと「IE一橋学院」の組合せからなり、特に「IE一橋学院」をみれば、前半部の「IE」は、英語の「個別指導」を意味する単語の頭文字をとったものであり(甲第22号証)、後半部の「一橋学院」は、集合体を表す学校の名称の観念が生じるとみるべきである。してみれば、ローマ字の略語である前半部の「IE」よりは、むしろ、後半部の「一橋学院」の方が観念的により強い印象を与えるとみるべきであり、文字体や態様も異なる前半部と後半部を切離して観念が生じるとみるべきである。したがって、本件商標は引用商標と同一校又は関連校の印象を十分に与え、若しくは請求人が大学受験予備校と平行して個別指導なる新たな事業展開をすると錯覚させる程、両者は観念的に類似する商標である。
(ウ) 称呼について
本件商標からは、「アイイーヒトツバシガクイン」又は「アイイー」、「ヒトツバシガクイン」とそれぞれの称呼が生じるが、「アイイー」がローマ字の発音であり、しかもそれだけを聴いては何も連想できないことから、どうしても後者の「ヒトツバシガクイン」の方がより聴別し易く耳に残る作用を有する。したがって、本件商標は「アイイー」と「ヒトツバシシガクイン」と分離して称呼が生ずるものと考えた方が自然である。
(3) まとめ
請求人は、引用商標を学習塾として永年にわたり使用し、その結果、引用商標は、需要者の間に広く認識されている周知商標である。
そこで、教育に携わる被請求人であれば、既に塾開設時や本件商標の登録出願時又は設定登録時には明らかに引用商標を認識しており、請求人が永年使用してきた標章を使用したものであるといえる。
そして、本件商標は、請求人に係る標章「一橋学院」を連想し、想起し、請求人又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように錯覚させるものであり、その指定役務においても、両者は共通するものであるから、その出所について混同を生ずるおそれれがあるので、両者は類似商標と判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものである。
(4) 商標法第4条第1項第11号について
本件商標が引用商標より先に出願していることは争わない。
(5) その他
被請求人は、インターネットのホームページの検索状況を証拠に挙げ、あたかも全国的に広く浸透しているかのごとく主張しているが、被請求人のように、フランチャイズ制の塾経営(甲第21号証)であれば、それぞれの教室が独自のウェブサイトを持つことは通常行なわれ、自ずとリンク数が多くなるがこれはあくまでウェブサイト上のことだけであって、このことが一概に周知性や知名度又は規模の大きさ等の証明になるものではない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、平成15年5月12日付答弁書に乙第1号証ないし乙第8号証(枝番号を含む。)、及び平成16年1月13日付答弁書に乙第1号証ないし乙第8号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお、被請求人の提出に係る乙各号証はその符号が重複するから、弁駁に対する答弁の証拠については「第二乙第○号証」のように「第二」を付して読み替えた。
1.商標法第4条第1項第10号について
(1) 商標「一橋学院」の周知性
甲第6号証ないし甲第11号証はいずれも入学案内・冬季講習案内・入試情報などパンフレット類の写しであるが、これらが現実に発行された事実、さらには配布された時期・部数・範囲等が何ら証明されておらず、証拠能力に欠けるものであって、請求人が当該「一橋学院」の名称を使用していた旨の請求人の指摘は、何ら法的根拠のあるものではなく、当該「一橋学院」の周知性を何ら立証するものではない。
例えば、請求書によれば甲第9号証は「総合成績書の一部」と記されているが、パンフレット掲載用の総合成績書の一例(サンプル)であることが明確であり、当該「一橋学院」を利用した学生数を立証したことにならない。
また、甲第12号証は、朝日新聞・讀賣新聞に掲載された広告、いわゆる連合広告であり、この抜粋された連合広告に掲載されたことを根拠にしても、当該「一橋学院」が周知商標であることの証明にはならない。
かつ、昭和60年ないし昭和62年及び平成7年については添付されておらず、そして、ほとんどの年が1回のみの広告掲載(昭和63年だけが2回)であり、しかも単独ではなく連合広告での掲載では、これに掲載されたことによっても当該「一橋学院」が周知性を取得することにはならないと思料する。さらに、朝日・讀賣新聞の各広告掲載(甲第12号証)では、「一橋学院早慶外語(あるいは「一橋学院」「早慶外語」の二段並記)」と「一橋学院」の両方の名称の広告が混在している。商標的に見れば「一橋学院早慶外語(あるいは「一橋学院」「早慶外語」の二段並記)」では「早慶外語」の部分にも自他役務識別力を有するものであるから、「一橋学院」と「早慶外語」の結合した結合商標であり、「一橋学院」とは別商標であると考えられる。そうであれば、「一橋学院早慶外語(あるいは「一橋学院」「早慶外語」の二段並記)」がいくら新聞広告に掲載されていたとしても、当該「一橋学院」の周知性を何ら立証するものにはならない。
なお、大学受験は、受験生の地元を中心とする中学受験や高校受験と異なり、全国規模で行われるものであり、そういった意味では、大学受験機関である大学受験予備校が周知性を取得するためには、一地域だけの知名度だけでは足りず、全国的な知名度が必要になると考える。これに対して、請求人提出の甲第5号証の法人組織図等には、「一橋学院早慶外語」の校舎として、高田馬場校、大宮校、八王子校、横浜校の4校が挙げられている。すなわち、「一橋学院早慶外語」は東京都・埼玉県・神奈川県の一都二県の極めて限られた範囲においてのみ存在する大学受験予備校であり、全国的に広く知られた大学受験予備校とは到底いえないと思料する。
また、大宮校に関しては、休校中にあったが、再開の見込みが立たず、平成14年9月に廃止認可申請されている(乙第1号証)。同様に、八王子校についても、平成14年9月に廃止認可申請されている(乙第2号証)。いずれも、生徒数の増加による校舎の移転ならともかくも、生徒数の減少に伴う廃止認可の申請であり、このような事情を鑑みると、請求人による積極的な立証がなされない限り、本件商標の出願時及び査定時の当該「一橋学院」の周知性は認定され得ないものと考える。
(2) 本件商標と「一橋学院」の類似性
請求人は、甲第12号証までの証拠を堤出ているが、周知商標と主張する商標を全く特定してしていないが、被請求人は参考として、標準文字としての「一橋学院」を比較対象として検討する。
(ア) 称呼について
本件商標の構成は「個別指導/個別指導だから、よくわかる/IE一橋学院」となっており、構成中の「個別指導」と「個別指導だから、よくわかる」の部分は、役務内容(個別指導)とキャッチフレーズ(個別指導だから、よくわかる)なので識別力のない部分と判断でき、商標の要部は「IE一橋学院」にある。この「IE一橋学院」は、「IE」が白抜きで表記され、「一橋学院」が黒の大文字で表記されているが、「I」「E」「一」「橋」「学」「院」の6文字が同じ大きさで等間隔に配置され、しかも、キャッチフレーズ(個別指導だから、よくわかる)の下にキャッチフレーズと同じ長さでバランスよく配置されている。
したがって、本件商標からは、「IE一橋学院」に相応して「アイイーヒトツバシガクイン」の称呼のみが生ずるものである。
一方、標準文字「一橋学院」からは、単に「ヒトツバシガクイン」の称呼のみが生ずるから、両称呼は、4音(アイイー)の相違があり、称呼的に近似するものではない。
(イ) 外観について
本件商標の構成は上述のようになっており、一方、標準文字「一橋学院」は、漢字4文字を横一列に記したものであり、両者は、外観的に近似するものではない。
(ウ) 観念について
本件商標の要部である「IE一橋学院」からは、特定の観念の生じ得ない造語と理解できる。一方、標準文字「一橋学院」からも特定の観念の生じ得ない造語と理解できる。したがって、本件商標と標準文字「一橋学院」とは、ともに特定の観念の生じ得ない造語であるため、観念的に近似するものではない。
(エ) 以上のように、本件商標と標準文字「一橋学院」とは、称呼、外観及び観念のすべてにおいて近似するものではなく、両者は類似する商標ではない。
(3) まとめ
請求人の主張する商標「一橋学院」は、本件商標の登録出願時及び査定時において周知商標であったと認定し得ない上、請求人の主張する「一橋学院」が特定されていないために、本件商標と類似判断できない。このため、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
2.商標法第4条第1項第11号について
本件商標の登録出願日は平成8年1月30日、その設定登録日は平成10年4月17日であって、一方、請求人の主張する引用商標(商願2003-3637)の登録出願日は平成15年1月21日であり、本件商標は、引用商標の先願・先登録になるため、本件商標と引用商標との類似を検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
3.その他
被請求人は、主に小中学生を対象とした個別指導塾を全国展開するにあたり、無用な紛争を事前に回避して健全な成長を図るべく、本件商標である塾の名称「個別指導/個別指導だから、よくわかる/IE一橋学院」を商標登録した。その結果、現在(平成15年2月)個別指導塾「IE一橋学院」は全国で283教室を数え(乙第3号証)、生徒数は1万3000人を超えるまでに成長している。ちなみに、インターネットによる検索(乙第4号証、乙第5号証、乙第6-1号証、乙第6-2号証、乙第7-1号証、乙第7-2号証)を実施した結果は、圧倒的に「IE一橋学院」のウェブサイトが多い。
このように、被請求人の個別指導塾「IE一橋学院」は、日本全国に広く浸透している。
これに対して、本件無効審判の請求は、除斥期間満了直前になって、根拠のない商標法第4条第1項第11号及び証拠能力の欠ける証拠によって商標法第4条第1項第10号を理由に無効審判請求することは、権利の濫用であり決して許されるものではない。
これまで、被請求人たる商標権者が商標登録の下で正当に築き上げた信用を著しく損ない、被請求人の経営をいたずらに不安定とするものであり、商標法の理念である競業秩序の維持(商標法第1条)に反する。
4.弁駁に対する答弁
(1) 商標の周知性について
(ア) 請求人の「一橋学院早慶外語」は大学受験予備校であるところ、本件商標の登録出願時(平成8年)及び設定登録時(平成10年)のセンター試験受験者総数は、約60万人であり(第二乙第1号証)、大学受験者総数はこれを上回るものと推察されるのに対して、請求人の大学受験予備校「一橋学院早慶外語」は例年受験対象生徒数が500人前後といわれており(第二乙第2号証)、大学受験者総数に占める割合は0.1%にも達しない。
(イ) 一般に大手といわれる大学受験予備校は、次のようになっている。
・河合塾 生徒数 84,250人
・ナガセ(東進) 生徒数 60,000人
・駿河台予備校 生徒数 20,000人
・代々木ゼミナール 生徒数 28,000人
・早稲田塾 生徒数 12,500人
・城南予備校 生徒数 12,000人
・四谷学院 生徒数 8,000人
・お茶の水ゼミナール 生徒数 6,000人
以上のように、大学受験予備校業界から見た場合、請求人の大学受験予備校「一橋学院早慶外語」の規模は決して大きいものではない。
(ウ) 請求人は、東日本全体から生徒が入学していると主張している。しかし、その人数は、大学受験者総数に対して微々たるものであり、それをもってして、請求人の引用商標「一橋学院」が周知であることの証明にはならない。
(エ) 請求人は、引用商標「一橋学院」の記載された看板を昭和40年頃から高田馬場駅他で掲げている旨主張している。しかし、その証拠として提出されている甲第13号証は、平成15年6月13日に撮影されたものであり、前記主張の証拠となり得ない。そもそも、大学受験予備校における大学受験の指導という役務の対象は、日本全国の大学受験生であって、商標の周知性の範囲も自ずから日本全国であるべきであり、かりに、本件商標の登録出願時及び設定登録時に、高田馬場駅他で当該看板を掲げていたとしても、それは高田馬場駅近辺という一地区における認識に止まるものであり、到底全国的な周知性獲得に寄与するものではない。
(オ) 請求人は、センター試験時に朝日新聞等に連合広告を掲載している旨主張している。確かに、請求人に対して広告会社から連合広告の掲載依頼があったものと推察できる。しかし、広告掲載の依頼と商標の周知性とは別問題であると考える。事実、連合広告に掲載された校名等を、全て周知商標として認定できるものではないことがその証左である。
(2) 商標の類似性について
日本国内において、学習塾等の名称に「一橋」の語が多く使用されているという事実がある(第二乙第3-1号証ないし第二乙第3-8号証)。
また、「一橋」と同様に、学校名又は地名として存在する「早稲田」「代々木」「四谷」についても、学習塾等がある(第二乙第4-1号証ないし乙第4-12号証、第二乙第5-1号証ないし第二乙第5-5号証、第二乙第6-1号証ないし第二乙第6-5号証)。
これが我が国における教育・受験業界の実情であり、このため需要者は、学習塾等の名称(校名)については、自ずと一字一句注意深く判断するものと考えられる。
これより、本件商標については「IE一橋学院」を一体として認識するのが、需要者の一般的な判断であり、これを単に「一橋学院」と認識するのはあまりにも恣意的な判断であり、教育・受験業界の実情に沿うものではなく、とくに、「IE」の文字が語頭に位置していることから、一連に「IE一橋学院」と認識でき、本件商標の要部は、その構成及び実情から「IE一橋学院」となる。
そして、被請求人が上述したように、本件商標と請求人の引用商標「一橋学院」とは、外観、観念及び称呼の点で明らかに異なるものである。
以上のように、受験指導等を指定役務とする商標中に「一橋」を含むものは、教育・受験業界の実情からその類似範囲を極めて狭く解釈され、その結果、本件商標と請求人の引用商標「一橋学院」とは、外観、観念及び称呼いずれの点からも異なるものと判断され、非類似の関係にあると思料する。
(3) まとめ
被請求人の個別指導塾「IE一橋学院」は開校以来、順調に教室数・生徒数を増やし、今や教室数400校、生徒数約18,000人を数えるまでになった。これは、あくまでも被請求人が独自に開発したETS・PSS・PCSといった指導方法(第二乙第7号証)が評価されたものであり、請求人の引用商標「一橋学院」の名称によるものではない。
そもそも、被請求人は、個別指導の学習塾を全国展開するに際して、その校名を長期的かつ安定的に保持するために商標登録制度を利用したものであって、まさに商標登録制度の趣旨に合致するものであると確信する。
以上のように、本件商標の登録出願時又は設定登録時において、請求人の引用商標「一橋学院」は周知商標ではなく、また、本件商標は引用商標「一橋学院」と同一又は類似する商標ではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものではなく、商標登録の無効理由を有するものではない。

第4 当審の判断
本件商標は、その構成を後掲のとおり、上下二段に「個別/指導」の漢字を4個の黒塗り方形内に白抜き風に書し、その右側に顕著に表した籠字風の欧文字と太文字の漢字とを「IE一橋学院」と書し、その上段に小さく書した「個別指導だから、よくわかる。」の文字を配した構成からなり、指定役務を第41類「学習塾における教授,教育情報の提供,学習塾における模擬テストの実施」とするものであるところ、請求人は、本件商標の登録無効理由として商標法第4条第1項第10号及び同第11号に該当すると主張している。
しかし、請求人が、本件商標と対比すべき登録商標として挙げた引用商標(平成15年1月21日に登録出願(商願2003一3637)、商標の構成を標準文字による漢字で「一橋学院」、指定役務を第41類「知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,書籍の制作,図書の貸与」)は、本件商標の登録出願日(平成8年1月30日)より後に登録出願されたものであって、商標法第4条第1項第11号の「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標」には該当しないこと明らかである。
そこで、本件商標は、請求人がその登録無効理由の一として主張する商標法第4条第1項第10号に該当するものであるか否か、すなわち、請求人の業務に係る「大学受験指導に関する役務」を表示ものとして「一橋学院」が需要者の間に広く認識されているものであって、これと本件商標及びその指定役務とが同一又は類似するものであるか否かについて、以下検討する。
1.「一橋学院」の周知性について
請求人の主張及び提出に係る証拠(甲第各号証)によれば、請求人は、昭和30年10月19日に新宿区高田馬場に法人登記されている学校法人であって、名称を「一橋学院早慶外語」とする学校を設置し(甲第4号証)、当該校は大学受験予備校としてその学校案内書や宣伝広告に登記されている名称である「一橋学院早慶外語」という学校名の外に、その略称としての「一橋学院」を使用してきたこと、これが大学受験予備校としての永年にわたる業務実績により本件商標の登録出願時(平成8年1月30日)及び登録査定時(平成10年2月17日)には大学受験生やその父母あるいは高等学校の進路指導関係者及び同業者の間に広く知られるに至っていたことを以下の事実により認めることができる。
(1) 日刊紙への大学受験予備校としての広告掲載(甲第12号証、甲第15 号証)
(ア) 昭和55年(1980年)1月13日付朝日新聞、昭和56年(1981年)1月11日付朝日新聞、昭和57年(1982年)1月17日付朝日新聞、昭和58年(1983年)1月16日付讀賣新聞及び昭和59年(1984年)1月15日付朝日新聞では「一橋学院早慶外語」の掲載、
(イ) 昭和60年(1985年)1月27日付朝日新聞では間隔を大きく開けた「一橋学院」と「早慶外語」の掲載、
(ウ) 昭和61年(1986年)1月26日付朝日新聞、昭和62年(1987年)1月26日付讀賣新聞、昭和63年(1988年)2月4日付朝日新聞、昭和63年(1988年)2月11日付朝日新聞及び平成元年(1989年)1月23日付讀賣新聞では「一橋学院」の掲載、
(エ) 平成2年(1990年)1月14日付朝日新聞では「一橋学院早慶外語」と「がんばれ!一橋学院生」を、平成3年(1991年)1月13日付讀賣新聞及び平成4年(1992年)1月12日付讀賣新聞では「一橋学院早慶外語」を、平成5年(1993年)1月17日付朝日新聞では二段で「一橋学院」を大きく書しその下に「早慶外語」を小さくした掲載、
(オ) 平成7年(1995年)1月15日付朝日新聞、平成8年(1996年)1月14日付朝日新聞、平成9年(1997年)1月19日付朝日新聞、平成10年(1998年)1月18日付朝日新聞、平成11年(1999年)1月17日付讀賣新聞及び平成12年(2000年)1月16日付朝日新聞では二段で「一橋学院」を大きく書しその下に「早慶外語」を小さくした掲載、
(カ) 平成6年(1994年)1月16日付讀賣新聞、平成13年(2001年)1月21日付朝日新聞、平成14年(2002年)1月20日付朝日新聞及び平成15年(2003年)1月19日付朝日新聞では「一橋学院」の掲載をそれぞれ日刊各紙に掲載した事実がある。
そして、これら広告掲載は、大学入試共通一次試験にかかる試験問題と解答等を掲載した頁にされているものであって、大学受験生や高等学校の進路指導関係者には精読されるところであり、また、一般に高校生を含む大学受験生の多くは受験に備え予備校に通うといえるから、自ずと当該広告箇所にも関心を示すものとみて差し支えない。
そうすると、「河合塾」「駿台(駿台予備学校)」及び「代々木ゼミ(代々木ゼミナール)」等との連合広告といえどもその認識性は高いというべきであって、昭和55年(1980年)以降平成15年(2003年)までの間、「一橋学院 早慶外語」、「一橋学院」ないし上段に顕著な「一橋学院」と小さく「早慶外語」を二段書きした各標章の広告掲載の使用をもってすれば、当該予備校は、その前半の「一橋学院」によっても、本件商標の登録出願時(平成8年1月30日)及び登録査定時(平成10年2月17日)において、大学受験生やその父母あるいは高等学校の進路指導関係者及び同業者等の間に広く知られるに至っていたものと認められる。
(2) 入学案内・冬季講習案内・入試情報などパンフレット類(甲第25号証その1ないしその4、甲第25号証その6ないしその8、甲第18号証、甲第19号証その1ないしその4、)
(ア) 1988入学案内(甲第25号証その1)において、その表紙に「一橋学院」の表示、その裏面写真の東京校・1号館の屋上看板ほか、入学案内中の各記述にも「一橋学院」の使用が認められる。
(イ) 昭和63年12月に開講の冬季講習案内(甲第25号証その2)において、その表紙に「一橋学院」の表示、その裏面写真の東京校・1号館の屋上看板、八王子校及び横浜校の建物側面看板ほか、講習案内中の各記述にも「一橋学院」の使用が認められる。
(ウ) 1993入学案内(甲第25号証その3)において、その表紙に「一橋学院」の表示ほか、入学案内中の各記述にも「一橋学院」の使用が認められ、'92年度合格状況として、国立大学に約900名、公立大学に約90名、私立大学に約11'000名、及び私立短期大学に100名との掲載(134頁)、そして、地域別出身高校一覧には、東京都、北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、及び静岡の各県にわたる多数の高校名の掲載(136頁)が認められる。
(エ) OMNIBUS 1986(甲第25号証その4)において、その表紙に「一橋学院」の表示ほか、「60年度入試 本学院出身生合格者数一覧<主要大学>」の掲載(2頁)、模擬試験の成績や毎日の出席状況をまとめた総合成績書例の掲載(4頁)等が認められる。
(オ) 1994入学案内(甲第25号証その6)において、その表紙に「一橋学院」の表示ほか、入学案内中の各記述にも「一橋学院」の使用が認められ、'94年度 校内テスト・公開模試実施予定表(10頁)には「大進研全国判定模試」ほかのテストの予定の記述、上記(ウ)と同様の'93年度合格状況及び地域別出身高校一覧の掲載(92頁及び94頁)、また、一橋学院交通案内の箇所(100頁)の高田馬場校、八王子校及び横浜校の各建物写真に「一橋学院」の表示した看板への使用が認められる。
(カ) 1995入学案内(甲第25号証その7)において、その表紙に上段に顕著な「一橋学院」と小さく「早慶外語」を二段書き表示ほか、入学案内中の各記述には「一橋学院」の使用が認められ、公開模試の説明(14頁)には「大進研全国判定模試」に関する記述、上記(ウ)と同様の'94年度合格状況及び地域別出身高校一覧の掲載(82頁及び84頁)、また、一橋学院交通案内の箇所(90頁)の高田馬場校、八王子校及び横浜校の各建物写真に「一橋学院」の表示した看板への使用が認められる。
(キ) 入試情報シリーズSUCCESS1989新学期特別号(甲第25号証その8)において、その表紙に「一橋学院」の表示ほか、冊子中の各記述には「一橋学院」の使用が認められ、また、'88年度全国大学合格者名簿の掲載が認められる。
(ク) 1996年度 大学入試センター試験 自己採点分析資料(甲第19号証その1)によれば、当該資料は1996年度の大学入試センター試験を受験した生徒の自己採点結果を大進研グループが全国的な規模で全国の高校の先生に協力(参加学校数:1,546校、人数182,890名)を得て集計したものであるとされ、最終頁にそのグループ予備校と大進研入試情報研究所が東京都新宿区高田馬場4-23-23 一橋学院早慶外語内に所在する記載が認められ、当該予備校がその中核であるといえる。
そうしてみると、上記(ア)ないし(ク)で述べた入学案内・冬季講習案内・入試情報などパンフレット類は、その目的に沿って受験生や高等学校の進路指導関係者等に頒布されたとみるのが自然であって、これにおいてみると本件商標の登録出願時及び登録査定時には「一橋学院早慶外語」よりも「一橋学院」ないしこれを顕著に表示したものを使用してきたこと、当該予備校生の各大学への合格状況、多くの都府県にわたる出身高校、及び大進研グループの予備校での中核をなしていることからして、「一橋学院」が予備校名であるが如くに又は商標として大学受験生やその父母あるいは高等学校の進路指導関係者及び同業者の間に広く知られるに至っていたというべきである。
(3) 山手線・地下鉄駅構内看板(甲第13号証)
請求人は昭和40年頃から山手線沿線高田馬場・目白・池袋・巣鴨・大塚・新大久保・新宿・代々木、その他のJR沿線、地下鉄沿線等、駅構内のしかも一番人目に付く場所に引用商標「一橋学院」の看板を挙げて宣伝広告をしている(甲第13号証)旨述べている。
甲第13号証をみるに、かかる証拠は2003年6月13日に撮影したとする写真10葉であって、代々木、高田馬場、新宿、新大久保、大塚、巣鴨、目白の山手線各駅、及び高田馬場、九段下の地下鉄駅構内に「一橋学院」と表示した看板の掲示が認められるものであり、平成4年頃から撮影時までの間に掲示されたことを前提とすれば、これら各駅を利用する大学受験生はじめ高校生等には、予備校名又は商標としての認識性は高いものというべきである。
しかしながら、その掲示時期ないし期間が本件商標の登録出願時前及び登録査定時にされていたかは必ずしも明らかでなく、その点の立証を求めるべきところ、これをなくしても、上記(1)及び(2)で述べたとおり、「一橋学院」の周知性については十分認定できるからこれを省略した。
(4) 周知性の反論について
被請求人は、連合広告に掲載された校名等を全て周知商標として認定できるものではないことがその証左である旨述べているが、上記のとおり、請求人の当該予備校は、永年にわたり継続して広告掲載しており、その周知性は高いものと認められ、これを覆すに足りるものは見出せない。
また、被請求人は、大学受験予備校が周知性を取得するためには、全国的な知名度が必要になると考えるとし、当該予備校は東京都・埼玉県・神奈川県の一都二県の極めて限られた範囲にしか展開しておらず、また、その予備校の大宮校及び八王子校については廃止の許可申請がされている事実を指摘する。しかし、限られた地域のみに校舎や施設を有する大学の中にも全国的に知られた学校があるのと同様のことが大学受験のための予備校についてもいえるものであり、また、大学受験予備校の大宮校及び八王子校について廃止の許可申請がされたとしても、学校経営上の理由により校舎の統廃合が行われることはむしろ当然であるから、これらの事実をもって、本件商標の登録出願時及び登録査定時における当該予備校及びその略称ないし商標としての「一橋学院」の周知性の判断は左右されない。
その他、被請求人の主張をもって、請求人の使用にかかる「一橋学院」が大学受験生やその父母等にあるいは高等学校の進路指導関係者及び同業者の間に広く知られるに至っていたという点を覆す事由にできるものでなく、その証左もない。
2.本件商標と請求人使用商標の類似性
(1) 請求人の周知商標について
被請求人は、請求人は周知商標と主張する商標を特定していない旨述べているが、その主張理由及び立証によれば、請求人が周知商標である旨述べる商標は、請求人の業務に係る「大学受験指導に関する役務」を表示ものとして、日刊紙への広告、入学案内・冬季講習案内・入試情報などパンフレット類において使用されるところの格別特殊とはいえない活字体で表した「一橋学院」の漢字で表した商標をいうものと認められる。そして、この程度に当該周知商標が特定されていることから、本件商標と当該周知商標とが同一又は類似の関係にある商標であるか否かを検討するための支障はないものである。したがって、請求人が周知商標である旨主張する商標は、漢字で表された「一橋学院」に特定されているとみて差し支えない。
(2) 本件商標の要部について
本件商標は、後掲のとおりの構成よりなるところ、被請求人が述べるように、構成中の「個別指導」と「個別指導だから、よくわかる。」の部分は、役務内容(個別指導)とキャッチフレーズ(個別指導だから、よくわかる)を表すものであり識別力のない部分との点は認めることができる。
しかし、本件商標の構成中、上記以外の構成部分である「IE一橋学院」の文字部分は、欧文字「IE」が籠字風に、漢字「一橋学院」が黒塗りで表されており、欧文字と漢字との字種及び籠字風と黒塗りによる態様の相違により視覚上自ずと分離して看取されるばかりでなく、意味上においてこれらを常に一体のものとして把握しなければならないような格別の事情は存しない。そうすると、本件商標の構成中「IE一橋学院」の文字部分は、欧文字「IE」と漢字「一橋学院」とを常に一体不可分のものとして把握されるとはいい得ないから、かかる文字部分の「一橋学院」が独立した固有の学校名として認識されるというべきであり、それを自他役務識別のためのものとして取引に資される場合が少なくないというべきである。
(3) 両商標の類似性について
してみると、本件商標構成中「一橋学院」が独立した取引指標として看取されるものというのが相当であり、これと請求人使用商標「一橋学院」とは、当該漢字4文字で構成される点において外観を同じくし、また、固有の学校名を観念する点において及び当然にそれより生ずる称呼も「ヒトツバシガクイン」と同じくするするものであるから、本件商標は、請求人使用商標と類似する商標といわなければならない。
(4) 「IE一橋学院」について
被請求人は、現在(平成15年2月)個別指導塾「IE一橋学院」は全国で283教室を数え(乙第3号証)、生徒数は1万3000人を超えるまでに成長している。ちなみに、インターネットによる検索(乙第4号証、乙第5号証、乙第6-1号証、乙第6-2号証、乙第7-1号証、乙第7-2号証)を実施した結果は、圧倒的に「IE一橋学院」のウェブサイトが多く、被請求人の個別指導塾「IE一橋学院」は、日本全国に広く浸透していること、また、日本国内において学習塾等の名称に「一橋」の語が多く使用されているという事実があり、同様に学校名又は地名として存在する「早稲田」「代々木」「四谷」についても学習塾等があるから、需要者は、学習塾等の名称(校名)については、自ずと一字一句注意深く判断するものと考えられ、本件商標については「IE一橋学院」を一体として認識する旨述べている。
確かに、被請求人の提出に係る証拠によれば、既に本件商標の登録出願時(平成8年(1996)年1月30日)前の1995年(平成7年)2月に「直営 28」の記載、及び1995年(平成10年)2月には「直営 28/FC 6」の記載が認められ(「IE一橋学院教室変化数」乙第3号証)、また、インターネットによる検索(乙第4号証、乙第5号証、乙第6-1号証、乙第6-2号証、乙第7-1号証等)において進学塾又は進学教室として各地に点在する「IE一橋学院」があることは認め得るとしても、かかる証拠のほとんどが最近のインターネット情報又は発行日の特定できないもの(第二乙第7号証)であり、それらには請求人と何らの関係もないものと認識させるような表示もなく、かつ、請求人使用商標を凌ぐ程に、不可分一体の商標として請求人以外の役務の出所を強く連想するとの事情ないし使用商標との関連性を否定し得るものともいい難いものである。
また、学習塾等の名称に「一橋」の使用、同様に学校名又は地名として存在する名称の学習塾等があるとしても、これら事情をもって、請求人使用商標が本件商標の登録出願時に請求人の業務に係る役務を表す商標として需要者、すなわち大学受験生やその父母あるいは高等学校の進路指導関係者及び同業者の間に広く知られ周知性を獲得していたことを左右するものでない。
そして、学習塾等を選択する場合、少人数指導や個別指導、希望校への合格実績、模擬テストの実施状況などの授業ないし学習(指導)システムに関心を示すほか、小中学生を対象とする進学塾又は進学教室と大学受験予備校の経営母体にまで特別の関心をもつとまでいい難く、一般の生徒や学生及びその父母の払う注意力はさほど高いものでないというべきである。
したがって、被請求人の「IE一橋学院」が常に一体としてのみ認識される旨の主張は直ちに採用することができない。
(5) 役務の類似性について
一般的に学習塾や予備校の需要者といえる生徒や受験生などは、小学校ないし高等学校と段階を経て大学へ進学するための入試とその合格を目途とし、これを視野に入れて学習塾や予備校を選択するものであり、授業ないし学習(指導)システム等に関心を示すものである。
そして、請求人の当該予備校に係る役務「大学受験指導に関する役務」と本件商標の指定役務は、同一ないしは類似の模擬テストの実施、入試情報の提供等をも含み、いずれも教育関連分野に関するものである(ちなみに、駿台予備学校の「駿台の小・中学校クラス/駿台リンデンススクール」ほか、河合塾や東進(株式会社ナガセ)も小・中学生を対象とするクラスを設置している。)。
そうすると、請求人に係る役務「大学受験指導に関する役務」と本件商標の指定役務である第41類「学習塾における教授,教育情報の提供,学習塾における模擬テストの実施」とは、同一又は類似するものといえる。
3.出所の混同を生ずるおそれ
以上の1.及び2.の各項で述べたとおり、少なくとも本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人使用商標「一橋学院」が大学受験指導に関する役務について周知であること、本件商標の指定役務と請求人の業務に係る役務が同一ないしは類似のものであることの各事情を総合的に勘案すれば、本件商標をその指定役務に使用した場合、当該漢字部分に注意を引かれ、この漢字部分の前に「IE」のローマ字部分があるとしても、その役務が請求人予備校に係るもの、又は少なくとも大学受験予備校の姉妹校など関連校の業務に係るものであるかのように誤認して、その出所について混同を生ずるおそれがあったものといわなければならない。
4.権利濫用などの主張について
被請求人は、本件審判請求が商標法第47条に規定する除斥期間満了直前になってされたことが権利濫用であって、商標権者が商標登録の下で正当に築き上げた信用を著しく損ない、被請求人の経営をいたずらに不安定とするものであり、商標法の理念である競業秩序の維持(第1条)に反する。そもそも、被請求人は、個別指導の学習塾を全国展開するに際して、その校名を長期的かつ安定的に保持するために商標登録制度を利用したものであって、まさに商標登録制度の趣旨に合致するものであると確信する旨主張する。
しかし、被請求人の述べるところの主張を全て考慮しても、法定されている審判請求の期間内に審判請求をすることが権利濫用となるとはいえないし、その事情を認めることはできない。そして、本件商標をその指定役務に使用することが請求人使用商標との間においてその出所の混同を生ずるおそれがある以上、当該役務に関しての取引秩序の維持についてその妥当性を欠くものとするのは困難であり、商標の使用をする者(請求人)の業務上の信用を維持するという見地からして、ひいては需要者(受験生、生徒等)の利益を保護する点よりしても、その登録を無効することが商標法の目的に反するということはできないし、その他、被請求人の主張によって、本件商標が商標法第4条第1第10号に該当する商標でないとすべき事情を見出せない。
5.結語
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して商標登録されたものであるから、商標法第46条第1項の規定により、その商標登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 本件商標


審理終結日 2004-05-17 
結審通知日 2004-05-18 
審決日 2004-06-02 
出願番号 商願平8-8411 
審決分類 T 1 11・ 25- Z (041)
最終処分 成立  
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 茂木 静代
高野 義三
登録日 1998-04-17 
登録番号 商標登録第4136256号(T4136256) 
商標の称呼 コベツシドーダカラヨクワカルコベツシドーアイイイヒトツバシガクイン、コベツシドーアイイイヒトツバシガクイン、アイイイヒトツバシガクイン、ヒトツバシガクイン、ヒトツバシ 
代理人 的場 成夫 
代理人 特許業務法人共生国際特許事務所 
代理人 岩田 敏 

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