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審決分類 審判 全部無効 商64条防護標章 無効としない Y36
管理番号 1116547 
審判番号 無効2003-35485 
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-06-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-11-25 
確定日 2004-10-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第0655209号商標の登録第24号防護標章の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件防護標章
本件登録第655209号商標(以下「原登録商標」という。)の防護標章登録第24号(以下「本件防護標章」という。)は、別掲の(1)のとおりの構成よりなり、平成14年9月5日に登録出願、第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡,有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり,両替,金融先物取引の受託,金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け,債券の募集の受託,外国為替取引,信用状に関する業務,割賦購入のあっせん,前払式証票の発行,ガス料金又は電気料金の徴収の代行,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引,有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理,有価証券の引受け,有価証券の売出し,有価証券の募集又は売出しの取扱い,株式市況に関する情報の提供,商品市場における先物取引の受託,生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出,建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供,骨董品の評価,美術品の評価,宝玉の評価,中古自動車の評価,企業の信用に関する調査,税務相談,税務代理,慈善のための募金,紙幣・硬貨計算機の貸与,現金支払機・現金自動預け払い機の貸与」を指定役務として、同15年6月20日に設定登録されたものである。

第2 原登録商標
原登録商標は、別掲の(2)のとおりの構成よりなり、昭和36年10月23日に登録出願、第26類「印刷物、ただし、この商標が特定の著作物の表題(題号)として使用される場合を除く」を指定商品として、同39年10月9日に設定登録され、その後、同50年8月1日、同59年9月17日、平成6年9月29日及び同16年4月20日の4回にわたり商標権存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件防護標章の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第79号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件防護標章の登録は、以下のとおり、商標法第64条第1項の要件を具備しないものである。
(1)原登録商標と本件防護標章の同一性の不一致について
商標審査便覧の「防護標章登録出願及び防護標章更新登録出願の審査」(甲第1号証)には「登録しようとする防護標章は、原登録商標と同一のものでなければいけない。(原登録商標と同一でないものは登録し得ない。)」記載されている。
そこで、原登録商標と本件防護標章とを比較すると、原登録商標は、等間隔で大文字「V」、「O」、「G」、「U」、「E」を横一連に結合させており、それぞれのロゴは互いに離れている。これに対して、本件防護標章は、「V」の右端より「O」の左端の方が左に位置しロゴが重なり合っている。また、原登録商標では、「U」と「E」とは完全に離れた位置関係を持つのに対して、本件防護標章では「U」の右上部と「E」の左上部とが接触しており、ロゴが重なり合っている。
さらに、全体として原登録商標の書体は、本件防護標章の書体も文字よりも横長に形成されていることからも明らかである。
(2)自己の業務に係る指定商品を表示するものとして、需要者の間に広く認識されているか否について
原登録商標の商標権者は、被請求人である「コンド ナスト アジア パシフィック インコーポレーテッド」(以下「コンドナストアジア社」という。)であるが、その商標権には専用使用権が設定登録されており、専用使用権者は、東京都千代田区所在の「有限会社日経コンデナスト」(以下「日経コンデナスト」という。)であって、該日経コンデナストは、1999年9月1日創刊されたファッション誌「VOGUE NIPPON」(以下「『VOGUE NIPPON』誌」という。)を販売している(甲第5号証)。
また、米国におけるファッション誌「VOGUE」(以下「『VOGUE』誌」という。)の発行者は、「コンド ナスト パブリケーションズ インク」(以下「コンドナスト社という。)であるが、米国における商標権者は、「アドバンス マガジン パフリッシャーズ インク」(以下「アドバンス社」という。)である(甲第5、8号証)。
したがって、上記日経コンデナストの商標の使用によって原登録商標が周知になったものではなく、かつ、他の法律上の通常使用権者もいないことから、商標法第64条第1項に規定する「自己(コンドナストアジア社)の業務に係る指定商品を表示するものとして」日本国内において広く知られたものではなく、主体的要件を欠く。
(3)印刷物と第36類の役務との間の混同の可能性について
(ア)原登録商標の著名性について
(a)「10グループ月刊誌563誌」におけるファッション誌のデータ(甲第6号証)によれば、日経コンデンストの発行する雑誌「VOGUE NIPPON」誌は、141誌中第123番目の9万部と掲載されている。かかるファッション誌・女性総合誌の発行部数の順位第123位に属する雑誌の名称は、日本国内において周知であるとしても著名性を主張するにはあまりに少ない部数といえる。
また、アドバンス社による「VOGUE」誌の発行部数は、6か月で120万部程度(月20万部程度)である(甲第10号証)。かかる発行部数は、全米月刊誌における第69位にすぎず、このような状況において、商標「VOGUE」が指定商品「印刷物」について日本国内において需要者の間に広く認識されているということはできない。
(b)著名性の判断基準の参考例として、「文春」が雑誌に係る登録商標として著名であると認定し、第36類を指定役務とする防護標章登録を認めた審決がある(甲第11号証)。創業40年以上の歴史を有する週刊雑誌第3位の販売数(64万部)を持つ雑誌の名称の商標についてすら、審査段階では著名性が拒絶されているのであるから、発行部数9万部の商標「VOGUE」について著名性を肯定することは到底できない。
また、例え「印刷物」について周知であるとしても、以下に述べる理由からも、他人が「VOGUE」の文字よりなる商標を第36類の指定役務に使用しても、役務の出所の混同を生ずるおそれがある程度に、原登録商標は、需要者の間に広く認識されているものとは認められない。
(イ)出所の混同のおそれについて
(a)原登録商標の前商標権者であるアドバンス社及びその専用使用権者である日経コンデナストが、その指定商品「印刷物」中の「月刊雑誌」についてのみ「VOGUE」誌又は「VOGUE JAPAN」誌を発行しているにすぎない。
商標権者自らが原登録商標を使用している事実はなく、また、商標権者は多数の分類に「VOGUE」を登録商標として所有しているが、多角経営を営んでいるためではなく、使用されている事実は全くない。また、請求人と被請求人との間の交渉過程において、被請求人は、商標「VOGUE」について過去に第三者にライセンスを付与したことがない旨述べたことより、ファッション誌以外に被請求人の商品は日本国内において販売されていない。
かかる事実は、需要者、取引者がファッション関連商品以外の商品に「VOGUE」が付されていても、被請求人に係る商品と連想し得ないことを意味する。
審決例からも、商標「VOGUE」が雑誌について周知であるという事実のみをもって、商標法第64条第1項の要件を具備すると判断するのは不当であることがわかる(甲第12、13号証)。
(b)原登録商標は、ファッションと同義の「流行、人気」を意味する単語として辞書に掲載されているものであり、辞書中から採択された商標にすぎない(甲第14ないし18号証)。かかる辞書に掲載された単語は、商標としての独占適用性の弱い単語として位置付けされるものであり、原登録商標は、ファッション雑誌の題名として継続使用された結果、雑誌に関して二次的な出所表示機能を取得したにすぎない。
このような商標であっても、それが周知になりさえすれば、当該商品等表示が用いられている商品と全く異なる分野の商品や役務にこれと同一の表示を使用した場合に、当然に出所の混同が生ずるとみなすのは失当である。
前掲甲第11号証(審決)においても、「原登録商標『文春』は独創的な標章であること」が挙げられている。さらに、外国においてのみ周知、著名な商標については、「その周知、著名商標が造語よりなるものであるか若しくは構成上顕著な特徴を有するものであること」が保護の要件となっている(甲第19号証)。
したがって、例え「VOGUE」が外国で周知、著名であるとしても、辞書掲載単語を採択したにすぎない原登録商標の権利範囲を広げるような商標法上の保護は受けられないはずである。
(c)前掲甲第11号証の請求人は、その会社登記簿謄本(甲第20号証)の会社目的に「不動産の賃貸、飲食店の経営」が記載されているように、経営の多角化が行われている事実が存在することから、第36類での防護標章登録が認められたものである。これに対して、原登録商標の商標権者は、上記(イ)(a)で述べたように、自ら商標を使用するのではなく、また、ファッション雑誌以外の商品にすら使用しているわけではないから、ファッション関連商品とは全く関係のない「建物の売買等」に、他人が「VOGUE」の文字よりなる商標を使用したとしても、出所について混同を生じる可能性は皆無である。
このことは、分野の異なる商品区分に、被請求人以外の者を権利者とした「VOGUE」の登録商標が存在する事実からも明らかであり(甲第21ないし33号証)、また、米国においても、ファッション関連商品を含む多数の商品、役務において「VOGUE」を含む商標が被請求人以外の名義人名で併存登録されている(甲第34ないし70号証、但し、甲第43、45、47ないし49、59号証は除く。)。
これらの事実から、標章「VOGUE」を第36類指定役務に使用しても出所の混同のおそれはないということができる。
(d)「印刷物」と第36類指定役務中「建物の売買等」の関係について
原登録商標は、商品「印刷物」に使用されている商品等表示であり、需要者は、商品に表示された標章をもって書店で購入する類の商品である。
他方、第36類指定役務中「建物の売買」についての標章の使用とは、建物の売買の取引書類等に使用されるものであり、区分所有建物の単価は数千万円と高額であり、その売買に際しては、仲介ないし売主である宅地建物取引業者から、物件の詳細について重要事項の説明がなされ、所有権移転登記のため印鑑証明書の提出や実印の押印が必要とされるなど慎重に取引がなされる(甲第71号証)。したがって、建物購入者は、事前に、誰が販売するものであるか、施工業者は誰であるか、さらに、管理会社は何処かを確認した上で契約を締結するのが一般であって、印刷物と建物の売買とは取引形態が全く異なり、建物の購入者が、当該建物を被請求人の所有物であると混同する可能性は皆無である。
マンションの販売を例に取ると、その販売業者は、「宅地建物取引業者」として東京都知事等の免許を受けなけば業務を行うことができない。業務を行う権限がない分野において出所の混同のおそれがないことは、商品「たばこ」に関する商標「VOGUE」の登録異議決定(甲第72号証)から容易に予想されるところである。
(e)需要者・取引者が、役務に係る取引書類に商標「VOGUE」が付されていることで被請求人を連想するか否については、NTTのタウンページ検索システムにおいて、商店名称「ヴォーグ」として、主要都道府県である東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、兵庫県、福岡県、北海道の各地域について検索したところ、「手編み教室」及び「美容院」等の名称としてそれぞれ88件、52件、30件、25件、24件、31件、20件の検索結果(甲第73号証)が得られた事実から「否」といえる。
かかる事実は、日本国内における「建物の売買等」の役務に関する需要者・取引者間において「VOGUE」という標章が使用されたとしても、それを被請求人が役務の提供を行っていると連想する人はなく、混同のおそれはないことを意味する。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人が述べる当事者間の紛争の経過について補足説明すると、不正競争仮処分命令申立事件については、保全命令書を平成15年10月24日付で東京地裁に提出し、現在係属中である。また、不正競争差止請求事件は、平成15年12月1日付けで訴状が提出され、東京地裁に係属している(甲第74、75号証)。
(2)原登録商標と本件防護標章の同一性の不一致について
(ア)被請求人が挙げるサンヨーレインコート事件(乙第2号証の1)は、商標権者が現実に使用している商標(周知商標)と登録商標の同一性であり、登録商標と防護標章が物理的に同一であることは前提要件となっている。したがって、上記事件と本件とは事案が異なるものであり、請求人の主張の裏付けとはなり得ない(甲第1号証参照)。
(イ)登録商標と防護標章の物理的同一性が商標法第64条の要件となっていることは、商標法第70条第1項に同一性に関し「・・・第64条第73条又は第74条における『登録商標』には、その登録商標に類似する商標であって、色彩を登録商標と同一にすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含むとする。」と例外規定が設けられている事実からも明らかである。
この点に関し、被請求人は、「物理的同一などあり得ない」と主張するが、原登録商標の見本は、登録原簿の一部であると共に商標公報に掲載されているものであり、被請求人が原登録商標と実質的に同一の商標見本を作成することは実に容易なことである。
(3)自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているか否かについて
(ア)被請求人は、「請求人は、正にこの動向に合わせるように、世界的な『VOGUE』誌へのフリーライドを採択したものである。」と主張するが、辞書に掲載されている用語を自己の商標として選択するのは何人も自由に行えるのであり、これをすべてフリーライドであるとすれば、商標法の目的である商業秩序の維持が図れない結果となる。
(イ)被請求人は、例え発行部数が少なくとも、110年以上の歴史や15か国において発行されている事実から著名性を獲得していると主張するが、そのような事実があるにしても、発行部数が少なければ結局「VOGUE」誌を手にする人数も限定されることを意味するのである。歴史云々は商標の著名性を裏付ける根拠とはなり得ない。
(ウ)被請求人は、多数の審査・審決例を挙げ、拒絶された出願等が広範囲の商品にわたることを主張するが、「雑誌」と「建物の売買等」という全く性質の異なる商品と役務について争っている事案は皆無であり、これらは本件とは事案が異なる。
また、被請求人は、「ほとんどの出願について、『異議理由あり』の決定がなされ、拒絶査定の処分がなされている」と主張するが、混同が生じないと判断されて登録された商標があることも事実であり、被請求人の挙げた事案は、「雑誌」と「建物の売買等」の間で混同が生じることを裏付ける根拠とはなり得ない。
(エ)被請求人は、商標権者は「VOGUE」誌を発行するコンドナスト社の関連会社である旨述べるが、需要者が関連会社であるという事実は通常知り得ないことであり、商標法第64条第1項に規定する「自己(コンドナストアジア社)の業務に係る指定商品を表示するものとして」日本国内において広く知られたものではないという事実に変わりはない。
また、被請求人は、専用使用権者が発行する「VOGUE NIPPON」誌の広告収入は高額にのぼる旨主張するが、この主張は、発行部数が少ないことを裏付ける要素となり得るとしても、商標の著名性の判断要素とはなり得ない。
3 むすび
以上述べたように、本件防護標章の登録は、商標法第64条第1項の要件を具備しないため、同法第68条第4項で準用する同法第46条第1項第1号により、無効にされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第20号証(枝番を含む)を提出した。
1 原登録商標と本件防護標章との同一性について
(1)請求人は、商標法第64条の同一性に関し、商標審査便覧を引用し、「この意味するところは、物理的同一性を意味し、社会通念上の同一性まで広げられていない」等と主張する。
しかし、上記主張は、商取引会社における商標の機能等を含む商標の本質的意義を見誤った主張であるといわざるを得ない。商標に関し、正確な「物理的同一」などはあり得るはずがない。また、それを求める必要性もないはずである。
商標は、商標法第1条の目的にそって運用されるものであり、第64条第1項の同一についても、商取引の実際における需要者・取引者を離れて存在するものではない。
(2)商標法第64条の「同一」については、最高裁の判断がされている(昭和45年(行ツ)第41号、サンヨーレインコート事件;乙第2号証の1ないし4)。
上記東京高裁及び最高裁の判断からして、請求人の主張は、商標の本質並びに防護標章制度の存在意義の誤解に基づくものであり、本件防護標章の登録は、商標法第64条1項の要件を満たしているものである。
2 原登録商標の著名姓を否定する請求人主張について
(1)請求人は、「VOGUE」誌と極めてまぎらわしい使用態様の下に、建物(マンション)販売の宣伝・広告をしている。
しかるに、役務「建物の売買」に関する最近の動向は、「建物のファッション化」が著しく展開している点である。請求人は、正にこの動向に合わせるように、「VOGUE」誌へのフリーライドを採択したものである。そして、請求人の不正競争行為の存在は、東京地裁の決定(乙第1号証の8)によりすでに示されたとおりである。
(2)発行部数について
「VOGUE」誌は、今から110年もの昔、すなわち、1892年(明治25年)から米国で発行され、現在は、日本を含め、コンドナストグループの雑誌として、世界15ヶ国で発行されている。
請求人の主張は、この110年を超えるというファッション誌の存在事実を全く無視し、日本語版「VOGUE」のみの発行部数を云々する主張にすぎない。日本に限らず、低俗で下劣な雑誌本等の発行部数は非常に高いであろう。しかし、「VOGUE」誌のような優雅、高品位、高品質、ハイソサイア、創造的等の文言で表現されるファッション雑誌で110年もの歴史を維持している本が他にあるであろうか。
(3)請求人は「VOGUE」の周知性、著名性を争っているので、被請求人は、特許庁における登録異議申立によって拒絶された事件76件の拒絶査定等、及び登録無効審決によって無効とされた事件26件の無効審決、並びに東京地裁、東京高裁、大阪地裁、大阪高裁の各判決を提出する(乙第3ないし14号証)。
被請求人及びその関連会社は、約20年間にわたり、「VOGUE」の保護のために、裁判所に対しては、侵害訴訟の提起等、特許庁に対しては、登録異議申立(含付与後異議申立)をし、登録無効審判の請求を行う等を重ね、防衛のためにあらゆる企業努力を重ねてきたのである。
(4)周知・著名商標「VOGUE」とその主体の同一性に関する請求人主張の誤りについて
(ア)VOGUE誌発行の歴史とコンドナストグループ
原登録商標は、1892年(明治25年)、ニューヨークで創刊されたファッション誌のタイトルであって、今では、米国だけでなく、世界を代表する老舗のファッション誌のタイトルである。すなわち、「VOGUE」は、米国のコンドナスト社、並びにアドバンス社の所有を経て、現在、我が国においては、その関連会社であるコンドナストアジア社が所有する登録商標である。
上記3社の関係を簡単に説明すれば、まず、コンドナスト社は、1909年(明治42年)に「VOGUE」誌の発行を引き継いで以来、今日に至るまでのほぼ一世紀にも及ぶ年月にわたって、継続して「VOGUE」誌を発行している世界的に名の知られた出版社である。
該コンドナスト社は、わが国においては、1961年(昭和36年)「VOGUE」を出願し商標登録を受けた当初の商標権者である。
次に、アドバンス社は、1988年(昭和63年)に、コンドナスト社を吸収合併し、コンドナスト社が所有する商標権を一般承継した。
ただし、米国におけるコンドナスト社は消滅したわけではなく、アドバンス社の一部門として現在も存続しており、米国版の「VOGUE」誌は、引き続きコンドナスト社の名前で発行されている(乙第15号証)。
我が国においては、上記のアドバンス社の関連会社であるコンドナストアジア社が、1997年(平成9年)に、アドバンス社から「VOGUE」のほか「VOGUE」関連商標を譲り受け、それらの商標権を管理している。すなわち、被請求人は、「VOGUE」の現在の商標権者である。
(イ)前記世界15ヶ国の「VOGUE」誌発行組織は、いずれもファッション・リーダーとしての「コンドナストグループ」として相互に関連を有しているものである。すなわち、「コンドナスト」としての主体は完全に維持されているのである(乙第16ないし19号証)。
高品質が維持されている有名ブランドは、所有者名義の変動によっては、これに蓄積されているグッドウィルは変動しないということである。
(ウ)したがって、主体についての110年以上もの歴史を無視し、「VOGUE」の日本語版の日経コンデナスト発行の「VOGUE NIPPON」誌の点のみを捉えての請求人主張は、極めて短絡的であり、全体像を見失った事実誤認の主張である。
3 混同を生ずるおそれに関する請求人の主張の誤りについて
請求人の主張を要約すれば、世界的著名性を有する「VOGUE」誌という商品と、マンション等の「建物の売買」サービスとの間には混同は生じないとするものである。
しかしながら、この請求人の主張の誤っていることは、前記東京地裁の決定(乙第1号証の8)によって明らかにされたとおりである。
すなわち、我が国では少なくとも数年来ファッション性とブランドを重視するデザイナーズマンションが建築界や住宅を求める消費者の間で大きな問題となり、かつ、人気化している社会的な背景が現存しているのである(乙1号証の7)。
したがって、本件防護標章の登録は、これらの諸事実に照らして、出所混同のおそれの要件を十分満たしているものである。
よって、請求人の主張は、上記の現在の社会的背景の存在を見落とした一方的な主張であり、客観性がなく誤った主張といわざるを得ない。
4 むすび
以上のとおり、請求人の主張は、「VOGUE」誌の有する110年以上ものファッション誌としての歴史と世界のファッション・フロンティアとしての現実を無視しつつ、自己の不正競争行為を合法化せんとする意図に基づく主張である。
したがって、被請求人は、これらの主張を到底認めることはできない。

第5 当審の判断
1 商標法第64条第1項は、「商標権者は、商品に係る登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において、その登録商標に係る指定商品及びこれに類似する商品以外の商品又は指定商品に類似する役務以外の役務について他人が登録商標の使用をすることによりその商品又は役務と自己の業務に係る指定商品とが混同を生ずるおそれがあるときは、そのおそれがある商品又は役務について、その登録商標と同一の標章についての防護標章登録を受けることができる。」と規定している。
そこで、本件防護標章が上記条文の要件を具備しないにもかかわらず、登録されたものであるか否かについて検討する。
2 本件防護標章登録出願の出願人が原登録商標の商標権者であることについては、当事者間に争いがない。
3 原登録商標が、その商標権者の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であるか否かについて
(1)乙第8号証ないし乙第19号証の2及び答弁の理由並びに甲第4号証、甲第5号証及び甲第8号証によれば、以下の事実を認めることができる。
(ア)「VOGUE」誌は、1892年(明治25年)に米国で創刊されたファッション雑誌であり、1909年(明治42年)からは、コンドナスト社により発行されるようになった。1988年(昭和63年)に、コンドナスト社は、アドバンス社に合併され、その結果、「VOGUE」商標の商標権は、アドバンス社に譲渡されたが、コンドナスト社は、アドバンス社の一部門として米国の「VOGUE」誌の発行に携わっており、「VOGUE」誌はその後も同様に発行されていること。
そして、アドバンス社より発行された「VOGUE」誌は、その関連会社を通じて、アメリカ、フランス、イギリス、イタリア、ドイツ等世界15ヶ国で各国版が発行されており、100年以上発行され続けているファッション雑誌であること。
(イ)原登録商標は、前記のとおり、昭和36年10月23日に登録出願され、同39年10月9日に商標権者をコンドナスト社として設定登録されたが、その後、アドバンス社に商標権が移転され(原因;昭和63年9月30日の合併、平成3年8月26日移転登録)、さらに、アドバンス社の関連会社であるコンドナストアジア社(被請求人)に商標権が移転され(平成9年6月9日移転登録)、コンドナストアジア社は、原登録商標を管理していること、原登録商標の商標権には、専用使用権が設定され、専用使用権者は日経コンデナストであること。
そして、我が国においては、1999年(平成11年)9月1日に上記日経コンデナストにより「VOGUE NIPPON」誌が発行されたが、それ以前より、「VOGUE」誌が販売され、かつ、「VOGUE」誌に関する解説、紹介記事、広告等が数多くの書籍、事典、新聞、雑誌等に記載されていたこと。
(ウ)「VOGUE NIPPON」誌に掲載される広告は、クリスチャン・ディオール、ルイ・ヴィトン、ジバンシイ、グッチ、シャネル、資生堂、ボルボ、トヨタ自動車、ワコール、セイコーウオッチ、サントリー、日本航空など、ファッション関連商品の企業の取り扱う商品のみならず、化粧品メーカー、自動車メーカー、時計メーカー、アルコールメーカー、航空会社などが自己の取り扱う商品又は役務の広告を掲載したこと、その広告料も、ファッション誌では一番高額であり、広告市場が低迷するなかで、平成14年10月号の広告収入が創刊以来最高の4億円を超えたこと、「VOGUE NIPPON」誌について「世界的な知名度のある雑誌」、「同誌は米国のコンドナスト社が発行する世界的ブランド誌の日本版」、「同誌は2万人にのぼる定期購読者を抱えている。」などと新聞に記載されたこと。
(エ)「VOGUE」誌の表紙等には、本件防護標章と同一の構成よりなる標章が大きく表示されていること、及び「VOGUE NIPPON」誌の表紙等には、本件防護標章と同一の構成よりなる標章が大きく表示され、「VOGUE」の文字中の「O」文字部分の内部に、「NIPPON」の文字が小さく表示されていること。
(2)上記(1)で認定した事実を総合すると以下のとおりである。
(ア)アドバンス社は、自己の管理する、あるいはその関連会社が管理する「VOGUE」商標に基づき、「VOGUE」誌をアドバンス社自ら、あるいはその関連会社を通じて、世界15ヶ国において各国版を発行し、その創刊から通算すれば、100年以上にわたり発行し続けてきたことが認められる。そして、原登録商標の商標権者であるコンドナストアジア社は、アドバンス社を中核として「VOGUE」誌を発行する企業グループの一員として、我が国において原登録商標の管理に当たっていることが認められる。
(イ)「VOGUE」誌は、上記したとおり、創刊以来100年以上にわたり発行され続け、世界15ヶ国に各国版が発行されており、その内容も、古典的かつ世界的な権威を持ったファッション雑誌として、世界的に広く知られていると認めることができる。
また、「VOGUE」誌は、我が国においても、1999年9月の「VOGUE NIPPON」誌発行以前より、我が国において販売され、かつ、多数の書籍、事典、新聞、雑誌等で紹介されており、その掲載内容も、著名ブランド商品が多数掲載され、高級志向のファッション雑誌として、本件防護標章の登録出願時には既に、わが国の服飾関係のデザイナーをはじめとするファッション関連商品の取引者のみならず、一般の需要者の間でも広く認識されていたと認めることができる。
さらに、「VOGUE NIPPON」誌も世界的に著名な「VOGUE」誌の日本版として、その掲載内容も「VOGUE」誌と同程度のハイセンスなファッションの広告等が掲載されている雑誌として注目され、本件防護標章の登録出願時には既に、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。そして、その表紙等に表示される題号は、本件防護標章と同一の構成よりなる「VOGUE」の文字部分が顕著に表されているものである。
(ウ)そうすると、本件防護標章(別掲(1))と同一の構成よりなる「VOGUE」の表示(以下「使用に係る『VOGUE』表示」という。)は、アドバンス社及びその関連会社が発行するファッション雑誌の題号に使用されるものとして、本件防護標章の登録出願時には既に、我が国のファッション関連商品の取引者のみならず、一般の需要者の間でも広く認識されていたというべきである。
(3)使用に係る「VOGUE」表示は、前記認定のとおり、世界的に著名であり、また、我が国の需要者の間においても広く認識されているものである。
一方、原登録商標は、別掲(2)のとおりの構成よりなるものであるところ、原登録商標と使用に係る「VOGUE」表示と比較すると、配列する文字と文字との間隔に多少の差異があり、したがって、配列する文字と文字との間隔がやや狭い使用に係る「VOGUE」表示にあっては、「U」と「E」が上部が接するように書されていること等若干の差異が認められる。
ところで、甲第14号証ないし甲第18号証によれば、「VOGUE」の語は、「流行」などの意味を有する英語、仏語であることが認められる。
しかしながら、「VOGUE」の語は、元来我が国において、上記意味をもって親しまれて使用されていたものではなく、むしろ、我が国の需要者は、世界的な著名な「VOGUE」誌の存在を知るに至って、初めて「VOGUE」の言葉の意味を理解したとみるのが相当である。
そして、我が国においては、その構成態様の如何を問わず、「VOGUE」の綴り文字、若しくはこれより生ずる「ヴォーグ」の称呼、又は「VOGUE」の片仮名表記である「ヴォーグ」の表示から、直ちにアドバンス社及びその関連会社が発行するファッション雑誌の題号が想起される状況にあるから、使用に係る「VOGUE」表示と原登録商標とがいずれもモダンローマン体で書されていることを考えれば、両者の上記差異は、その需要者をして、容易に区別し得るものではないというべきである。
そうすると、「VOGUE」の綴り文字からなる表示の著名性を考慮すれば、使用に係る「VOGUE」表示と原登録商標とは、同一性を有するものというべきである。
(4)以上によれば、原登録商標は、その商標権者の業務に係る指定商品であるファッション雑誌を表示するものとして、本件防護標章の登録出願以前より、需要者の間に広く認識されている商標であるということができる。
4 原登録商標に係る指定商品である「印刷物」に類似しない「建物の売買」を含む第36類の役務について他人が原登録商標の使用をすることにより、その役務と自己の業務に係る指定商品とが混同を生ずるおそれがあるか否かについて
(1)前記3で認定したとおり、「VOGUE」の表示は、アドバンス社及びその関連会社が発行するファッション雑誌の題号に使用されるものとして、本件防護標章の登録出願時には既に、我が国の需要者の間に広く認識されていたものというべきである。
(2)一方、第36類に属する役務、とりわけ建物の賃貸、売買等に関する分野においては、近時、住宅にファッション性を求める動きが高まっている傾向にあり、例えば、2000年1月18日付け読売新聞(東京朝刊、18頁)には、「賃貸住宅、個性派が人気 デザイナーズマンション 間取りや外観多様化」の見出しのもと、「賃貸住宅市場が低迷する中、コンクリート打ち放しの壁や吹き抜けのリビングなど個性的な外観、間取りにこだわったデザイナーズマンションと呼ばれる住宅が、首都圏で人気を集めている。常に『空き待ち』状態のマンションも多い。ブティックで気に入ったデザイナーの服を選ぶように、個性的なデザインや建築家の名前で住む場所を選ぶ傾向が進んでいる。」との記事、2000年5月15日付け朝日新聞(東京朝刊、23頁)には、「マンションにファッションの波 雑貨ブランドと提携」の見出しのもと、「生活雑貨や家具などのブランドを展開する企業と提携したり、有名建築家を起用したりして、外観や内装に特色を持たせたマンションの売れ行きが好調だ。『おしゃれな生活』にあこがれる層に受けて販売に効果をあげており、販売競争の激化を背景に、マンションにファッション性を採り入れようとする動きは今後も広がりそうだ。・・ 東京都町田市のマンションのモデルルームはゴールデンウィーク中、子ども連れの若い夫婦で連日にぎわった。ファッション雑誌やインテリア雑誌を読み、おしゃれに敏感な三十代が中心だ。開発業者の三菱地所と、生活雑貨などで人気の『アフタヌーンティー』ブランドを持つサザビーが提携し、マンションの外装や、各戸の玄関周りなどに『アフタヌーンティー』の店舗と同じイメージのタイルを使い、室内の床や壁の色などにサザビー側の提案を生かした。」との記事が掲載され、上記建物の賃貸、売買等における取引の事情からすれば、ファッションと建物の賃貸、売買等における建築とは、必ずしも無関係であるとはいえない。
(3)上記(1)及び(2)によれば、原登録商標に係る指定商品である「印刷物」に類似しない「建物の売買」を含む第36類の役務について、他人が原登録商標の使用をすることにより、その役務と被請求人の業務に係る指定商品とが混同を生ずるおそれが十分にあるといわなければならない。
5 本件防護標章と原登録商標の同一性について
本件防護標章は、使用に係る「VOGUE」表示と同一の構成よりなるものであり、使用に係る「VOGUE」表示と原登録商標とは、前記3(3)で認定したとおり、同一性を有するものであるから、本件防護標章と原登録商標の同一性を有するものであることは明らかである。
6 請求人の主張
(1)請求人は、「VOGUE」誌及び「VOGUE NIPPON」誌の発行部数が少ないと主張する。
しかしながら、発行部数が少ないことと当該発行に係る書籍の題号の著名性とは表裏一体の関係にはなく、発行部数は、著名性を認定する一事情にすぎない。そして、前記認定の「VOGUE」誌の掲載内容から需要者の受ける印象、評判等よりすれば、「需要者の間に広く認識されている」との認定を左右するものではない。
(2)請求人は、「VOGUE」若しくはこれを含む商標が日本及び米国において数多く登録されていることからして、「印刷物」以外の商品及び役務に「VOGUE」を使用しても、被請求人の商品との間に混同を生じないものである旨主張する。
しかしながら、「vogue」を普通名詞とする米国において「VOGUE」を含む商標が登録されているとしても、そのことは我が国における混同惹起の有無とは直接関係がない。また、我が国における商標登録についても、被請求人において除斥期間の経過等の理由により無効審判を請求できなかったものも存在するし、類似性が認められないものも存在する。そして、混同のおそれの有無は、取引の実情に照らして判断されるべきであるから、他の指定商品及び指定役務において、「VOGUE」若しくはこれを含む商標が登録されているとしても、本件においては、前記認定のとおり判断すべきものであるから、請求人の主張は採用することができない。
7 むすび
以上のとおり、本件防護標章は、商標法第64条第1項の要件を具備するものであって、その登録は、上記条項に違反してされたものではないから、同法第68条第4項において準用する第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件防護標章



(2)原登録商標


審理終結日 2004-08-25 
結審通知日 2004-08-26 
審決日 2004-09-10 
出願番号 商願2002-75705(T2002-75705) 
審決分類 T 1 11・ 8- Y (Y36)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今田 三男 
特許庁審判長 野本 登美男
特許庁審判官 三澤 惠美子
茂木 静代
登録日 2003-06-20 
登録番号 商標登録第655209号(T655209) 
商標の称呼 ボーグ 
代理人 島田 義勝 
代理人 押本 泰彦 
代理人 近藤 美帆 
代理人 水谷 安男 

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