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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z16
管理番号 1116519 
審判番号 取消2004-30274 
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-06-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2004-03-01 
確定日 2005-04-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第4455674号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4455674号商標の登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4455674号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成10年2月23日に登録出願され、第16類「 紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手ふき,型紙,紙製テーブルクロス,紙製テーブルナプキン,紙製タオル,紙製手ふき,紙製のぼり,紙製旗,紙製ハンカチ,紙製ブラインド,紙製幼児用おしめ,裁縫用チャコ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印刷用インテル,印字用インクリボン,活字,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,装飾塗工用ブラシ,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,封ろう,マーキング用孔開型板,郵便料金計器,輪転謄写機,観賞魚用水槽及びその附属品」を指定商品として平成13年2月23日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨のとおりの審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第13号証を提出している。
1 請求の理由
請求人の調査によれば、本件商標に専用使用権及び通常使用権の登録はなく、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても本件商標がその指定商品について一度も使用された事実が存在しない。
これらの事実状況に関し、第1に、使用権登録の事実がないことは、甲第2号証の登録原簿の記載から明らかである。
第2に、商標権者である本田宗一郎スピリッツ株式会社の商業登記簿(甲第3号証)に記載された本店所在地は、本件商標の登録原簿に記載された商標権者の住所地と同一の住所であるが、その住所地である東京都港区南青山3丁目3番3号には、本田宗一郎スピリッツ株式会社の実体が存在しない。
第3に、同社の商業登記簿に登記されている代表取締役「渡部圭二」氏の住所地である東京都品川区豊町1丁目8番12号(甲第3号証)には同氏の自宅が存在するが、通常の住宅が存在するのみで、本田宗一郎スピリッツ株式会社としての営業が行なわれている外観を示す営業表示等が全く見られない。
第4に、取締役の任期は原則として2年を超えないところ(商法第256条)、平成16年1月27日登記官証明による甲第3号証の商業登記簿中の「役員に関する事項」を見ると、取締役の就任日及びその登記日はいずれも平成13年2月27日であり、既に2年をはるかに経過して3年を経過しようとしているにも拘わらず、役員の変更登記が行われていない事実も存在する。よって、商標権者は、既に営業活動を停止しているか、又はそもそも営業活動を行っていない蓋然性が極めて高い。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 弁駁の理由
(1)本件審判事件の周辺状況
(ア)請求人は被請求人に対し、本件審判事件を含む合計31件の不使用取消審判を請求していることは、特許庁においても顕著な事実であるが、この状況を示すリストを、甲第5号証として提出する。同リストから明らかなとおり、不使用取消審判の対象となる登録商標は、請求人の亡き父親である「本田宗一郎」の氏名を容易に想起させる「Honda Soichiro」の文字部分を構成要素とする商標である。
(イ)これらの審判事件における被請求人の答弁手続は、第1に、その概要を記載した全く同一内容の答弁書をまず提出し、その答弁中において、証拠の提出並びに追加の主張は追って行う旨(これらの事項も全件同一である)を申し出て、そのまま数ヶ月の時間確保を行う。第2に、その後、全件において同一内容の第2答弁書の提出を行うというもので、各案件における個別具体的な主張及び立証は全く行っていない事実が存在する。
(ウ)この状況は、本件の直前の手続においては、取消2003-31476号(商標登録第4428808号)においても同様であったので、当該事件に関する書類の写しを、甲第6号証として提出する。
(2)被請求人の答弁について
(ア)まず、被請求人の答弁に対する反論を行う前提として、被請求人は、本件審判事件においても上記(1)で述べた手続を意図した第1答弁書を提出した時点において、審判長は第2答弁書の提出を待つことなく、請求人に対し弁駁の手続を要求している。上記のとおり、第2答弁書の内容は過去の実績からして、全く同一の主張・立証であって個別具体的な答弁が行われていないこと、並びに、後日、第2答弁書の提出が予想されることから過去の実績を踏まえた反論をここで行うものである。よって、被請求人から、過去の実績において見当たらない新たな主張及び証拠の提出が行われた場合には、今一度、請求人における反論の機会を与え、当事者間の攻撃防御の機会の公平を保つことを要請する次第である。
(イ)被請求人は、本件商標の使用の説明を行うことなく、a.本件商標が使用できる状況にないこと、b.本件審判請求が権利濫用であること、等を理由に本件審判請求は棄却ないし却下されるべきであると主張する。
よって、商標法第50条に規定する不使用取消審判の要件との関係が必ずしも明確ではないが、本件商標をその指定商品に過去3年間使用していない事実を自認しつつ、商標法第50条第2項ただし書の「不使用の正当理由」を述べると共に、本件審判請求自体が権利濫用であることを主張しているものと推察される。
(ウ)しかし、本件商標がその指定商品について過去3年間不使用であった事実以外については、被請求人の主張は明らかに失当であり、本件商標登録は商標法第50条の規定により取り消されるべきであるので、以下のとおり、その理由を弁駁するものである。
(3)本件商標の過去3年間不使用についての被請求人の自認
被請求人は、答弁書第3頁(2)「本件商標が使用できる状況にないこと」の項目中の結論部分において「本件商標を使用することなど到底できない。」と述べ、また、本件審判事件では未提出の全ての第2答弁書(以下「別件第2答弁書」という。)第8頁前半部分においても、「本件商標を使用することなど到底できない。」及び「本件商標の使用もまた不可能な状況になっているのである。」と述べており(甲第6号証参照)、この例外となる主張となるような事項の主張は過去において実績が存在しない。
よって、本件商標がその指定商品について過去3年間不使用であることを被請求人が自認していることは明らかである。
(4)商標法第50条第2項ただし書の「不使用の正当理由」の有無
(ア)答弁書第3頁(2)「本件商標が使用できる状況にないこと」の項目の趣旨に関しては、別件第2答弁書第8頁8「小括」において、「請求人が一連の騒動に被請求人を巻き込み、同社は事業の進展を中断せざるを得ない状況となってしまっており、したがって、本件商標の使用もまた不可能な状況になっているのである。このような状況は請求人が引き起こしているものであり、被請求人の責に帰すことはできないものである。」と被請求人が述べている部分を勘案すると(甲第6号証参照)、被請求人が明確にその主張を行っているものではないが、商標法第50条第2項ただし書の「不使用の正当理由」の存在を主張するものと推察されるので、この点に対する反論を行う。
(イ)特許庁見解を示す特許庁編「工業所有権法逐条解説」によれば、この「正当な理由」とは、「例えば、その商標の使用をする予定の商品の生産の準備中に天災地変等によって工場等が損壊した結果その使用ができなかったような場合、時限立法によって一定期間(三年以上)その商標の使用が禁止されたような場合等が考えられる。」というように極めて限定的に解釈されている(甲第7号証参照)。
(ウ)判例を見ても、
a.「プリンセス・クルーズ事件」(甲第8号証)では、この「『正当な理由』とは、地震、水害等の不可抗力、放火、破壊等の第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために使用をすることができなかった場合をいう」と判示され、
b.「プルデンシャル事件」(甲第9号証)では、「原告は、まず、企業の内部において商標の使用の準備がされている場合には、商標法50条2項ただし書所定の正当理由がある旨主張するが、例えば、商標権者において商標の使用の準備を進めていたにもかかわらず、商標権者の責めに帰することのできない特別の事情により現実の使用に至らなかったなどの事実関係が、具体的に主張立証されるのであれば格別、単に商標の使用の準備が進められていたという事実のみから、上記正当理由を認めることはできない。また、原告は、本件商標の不使用は、被告の信義に反する行為に起因するとも主張するが、その具体的な内容として主張するところは、世界各国における『Prudential』、『PRU』及びその派生商標の使用に係るルールをめぐって、原、被告間で交渉が行われていたため、原告において、この交渉への影響を配慮して本件商標の使用を差し控えていたというものにすぎない。原告が本件商標の使用を差し控えていた理由が、原告の上記主張のとおりであるとしても、被告による本件商標の不使用取消審判の請求が信義に反する行為であるとか、原告の責めに帰することのできない事由に基づくものであるということは到底できず、また、そのような事実関係から、商標法50条2項ただし書所定の正当理由を認めることもできない。」と判示されている。
(エ)上記判例によっても、商標法第50条第2項ただし書の「不使用の正当理由」とは、「地震、水害等の不可抗力、放火、破壊等の第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために使用をすることができなかった場合」に限定されているところであるが、本件では、このような「地震、水害等の不可抗力、放火、破壊等の第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由」は発生していない。
(オ)ところで、被請求人は、裁判が多数提起されていることをもって本件商標が使用できなかった旨を主張している。
しかし、本件答弁書第3頁(2)「本件商標が使用できる状況にないこと」の項目で挙げた紛争の詳細は、本件答弁書ではその内容を明らかにしていないが、別件第2答弁書第7頁6で言及している裁判事件に対応しているので(甲第6号証参照)、これを見ると、被請求人が提出した別件第2答弁書に添付された「仮処分命令申立書」、「訴状」、「不動産仮差押命令申立書」及び「訴状」の記載から明らかなとおり、本件審判事件の被請求人である「本田宗一郎スピリッツ株式会社」を相手方とする訴訟は提起されていない。また、上記訴訟が多数係属していても、本件商標の使用に対し何らの関係もないのであるから、本件商標の使用にあたり何らの支障もない。
よって、被請求人の主張には理由がない。
(カ)したがって、商標法第50条第2項ただし書の「不使用の正当理由」が存在しないのであるから、同ただし書の適用によって本件商標登録の取り消しを免れることができないことは明らかである。
(5)本件審判請求の権利濫用該当性
(ア)被請求人は、答弁書第4頁において、「請求人が本件商標の使用を意図しているのであれば、本件審判請求のような被請求人から本件商標を奪うに等しい行為に及ぶことはなどあり得ない。」として「本件審判請求は、いわば権利の濫用として却下されるべきものである。」と述べているので、この点に対する反論を行う。
(イ)そもそも立法趣旨(甲第7号証参照)に遡っても、不使用取消審判制度の公益性から商標法第50条第1項において請求人適格として「何人も」と明記されていること、並びに、この趣旨を前提としてもなお「権利濫用」とする具体的な証拠に基づいた合理性のある法的根拠が何ら示されていないのであるから、この点を審理するまでもなく失当な主張である。
(ウ)また、被請求人は、上記のとおり、答弁書において、「請求人が本件商標の使用を意図しているのであれば」との立論を前提とするが、請求人は、亡き父親である「本田宗一郎」の氏名を容易に想起させる「Honda Soichiro」の文字部分を構成要素とする商標の使用が、遺族である本田家又は同氏が創業した本田技研工業株式会社において、現状においてそのコントロールが及び得ない結果となっている法人によって自由にその営業行為に使用されることを阻止するために本件審判請求を遂行するものであるのであるから、被請求人の上記主張はその立論の前提において全く合理性のない主張であることは明らかである。また、上記事情は、本件審判の請求行為が不使用取消審判制度の公益性の趣旨(甲第7号証参照)に合致するものであり、被請求人を害することを目的とするような行為ではないことを明らかに示すものでもある。
(エ)したがって、本件審判請求が権利濫用であることを理由に本件審判請求は却下されるべきであるとする被請求人の主張自体が失当である。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べている。
1 被請求人に実体があること
被請求人本田宗一郎スピリッツ株式会社は、本田技研工業株式会社(以下「本田技研」という。)の創業者である故本田宗一郎(以下「宗一郎」という。)の偉業を称え、その精神を後世に伝えるための事業、具体的には、本田宗一郎に関する記念館の設立、維持及び運営等を主たる目的として廣川則男(以下「廣川」という。)により設立され、同人の主導の下、これらの業務を現実に行っていた会社である。詳細は追って主張するが、被請求人は、請求人が主張するような、実体を有しない会社などではない。
そして、本件商標は、被請求人がこのような事業に関連して、例えば、来館者に販売する商品や提供する役務に付して用いるために登録を行った商標である。
2 本件商標が使用できる状況にないこと
請求人本田博俊(同人は宗一郎の長男である。株式会社無限の株式は請求人及びその家族らによって所有されており、請求人がその実質的支配権を有している。また、同社の代表取締役は、請求人である。)は、平成12年頃から廣川に敵対的な行動を取り始め、同人に対し、いわれのない多数の民事保全の申立てや民事訴訟の提起、刑事告訴などを行っているが、その一環として、自らが被請求人の株主であると主張し、平成14年9月17日付けにて、被請求人の株券の執行官保管及び処分禁止を命ずる仮処分の申立てを行い(東京地方裁判所平成14年(ヨ)第3824号仮処分命令申立事件)、更には、株券の引渡を求める訴えを提起している(東京地方裁判所平成14年(ワ)第27633号株券引渡請求事件)。また、請求人は、被請求人とともに記念館事業に参加していた株式会社ヒロ・コーポレーション(以下「ヒロ・コーポレーション」という。)が記念館建設用地として取得した港区南麻布の土地に対して仮差押を申立て(平成13年(ヨ)第694号仮差押命令申立事件)、ヒロ・コーポレーション等に対し、当該物件の所有権移転登記手続等を求める訴えを提起している(東京地方裁判所平成14年(ワ)第14146号土地所有権移転登記等請求事件)。このような状況の下では、被請求人が記念館事業を進展させることなど到底できず、したがって、本件商標を使用することなど到底できない。なお、記念館事業が開始された経緯、進展、及びこれを巡る紛争の経緯等については、追って主張する。
3 請求人の申立てが権利濫用であること
請求人は、廣川らに対して多数の民事保全及び民事訴訟を提起している上、刑事告訴までも行っているし、一方では、請求人が関与したとしか考えられないマスコミ報道が行われていた。請求人は、いわば、法的手続やマスコミなどを利用して、廣川に強烈かつ不当なプレッシャーを加え、廣川をねじ伏せて事実を隠蔽しようとしているとしか考えられず、本件もまたその一環であると考えざるを得ない(先に述べたとおり、無限は請求人が支配権を有する会社であり、同社代表取締役は請求人である。)。請求人は、訴訟という手続に訴えてまで被請求人が自らの所有する会社であると主張しているが、仮に、請求人が本件商標の使用を意図しているのであれば、本件審判請求のような被請求人から本件商標を奪うに等しい行為に及ぶことなどあり得ない。
以上のとおり、本件審判請求は、いわば権利の濫用として、却下されるべきものである。

第4 当審の判断
1 不使用による商標登録の取消の審判について
商標法第50条は、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる、と規定しており、同条による商標登録の取消の審判の請求があったときは、被請求人が、その取消請求に係る指定商品又は指定役務について当該商標を使用していることを証明し、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消を免れないものである(同条第2項)。
2 本件商標の使用の有無について
被請求人は、本件商標の使用の事実について、何ら主張立証するところがない。かえって、本件商標を使用できる状況にないとして、本件商標の不使用について正当な理由がある旨主張しているものといえる。
したがって、本件審判請求の登録がなされた平成16年3月24日前3年以内に、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、指定商品のいずれかについて本件商標の使用をしていた事実は、認めることができない。
3 不使用についての正当な理由の存否について
商標法第50条第2項ただし書にいう登録商標の不使用についての「正当な理由」があるといえるためには、登録商標を使用しないことについて当該商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責に帰することのできない事情がある場合、例えば、地震、水害等の不可抗力、放火、破壊等の第三者の故意又は過失による事由等が発生したために使用することができなかったような場合や時限立法により一定期間(3年以上)当該商標の使用が禁止されたような場合をいうものと解するのが相当である(平7(行ケ)124 平8.11.26判決、平9(行ケ)53 平9.10.16判決、平14年(行ケ)50 平14.9.20判決、特許庁編逐条解説14版1087頁末行ないし1088頁3行)。
これを本件についてみるに、被請求人が本件商標の不使用についての「正当な理由」として主張する事由は、要旨次のとおりである。
被請求人会社代表者廣川は、本田宗一郎の偉業を称え、その精神を後世に伝えるために、本田宗一郎に関する記念館の設立、維持、運営等を主たる目的として被請求人を設立した。被請求人は、これらの記念館事業に関連して本件商標を使用する予定であったところ、請求人は、平成12年頃から廣川に敵対的な行動を取り始め、同人に対し、いわれのない多数の民事保全の申立や民事訴訟の提起、刑事告訴などを行っている。その一環として、平成14年9月17日付けで被請求人の株券の執行官保管及び処分禁止を命ずる仮処分の申立を行い(東京地方裁判所平成14年(ヨ)第3824号仮処分命令申立事件)、さらには、株券の引渡を求める訴えを提起(東京地方裁判所平成14年第27633号株券引渡請求事件)、ヒロ・コーポレーションが記念館建設用地として取得した港区南麻布の土地に対して仮差押を申立て(平成13年(ヨ)第694号仮差押命令申立事件)、ヒロ・コーポレーション等に対し、当該物件の所有権移転登記手続等を求める訴えを提起している(東京地方裁判所平成14年(ワ)第14146号土地所有権移転登記等請求事件)。このような状況下では、被請求人が記念館事業を進展させることなど到底できず、本件商標を使用することなど到底できない。
しかしながら、被請求人は、同人の主張する記念館事業に本件商標の使用を予定していたものであるとしても、同人が主張する民事保全の申立や民事訴訟の提起は、被請求人を相手方とするものでないばかりか、本件商標が設定登録された平成13年2月23日から相当期間経過しているにも関わらず、上記主張以外に本件商標の使用状況または準備状況についての具体的主張立証はなく、本件商標の使用の妨げになったとは認められないものであるから、これらの主張事由が本件商標の不使用につき商標権者の責に帰することのできない事由が発生した場合に該当するものとは到底いえず、その他「正当な理由」に該当すると認めるに足りる証拠はない。
したがって、被請求人が主張する上記事由は、いずれも商標法第50条第2項ただし書にいう「正当な理由」に該当するものとはいえないものである。
なお、被請求人は、記念館事業が開始された経緯、進展、及びこれを巡る紛争の経緯等については、追って主張すると述べているが、相当の期間が経過するも何ら主張するところがないので、上記のとおり判断するのが相当である。
4 本件審判請求の権利濫用の該当性について
被請求人が本件審判の請求を権利濫用であるとして主張する事由の要旨は、請求人は、廣川らに対して多数の民事保全及び民事訴訟を提起している上、刑事告訴までも行い、一方では、請求人が関与したとしか考えられないマスコミ報道が行われており、請求人は、廣川に強烈かつ不当なプレッシャーを加え、廣川をねじ伏せて事実を隠蔽しようとしているものとしか考えられない、というものである。
商標法第50条の審判の請求人適格については、平成8年の商標法改正により、上述のとおり、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる、と規定しており、請求人適格を「何人」に認められるとしても、当該請求が被請求人を害することを目的としていると認められる場合には、その請求が権利濫用として認められない可能性があると解される(特許庁編逐条解説14版、1087頁10行ないし11行)。
しかしながら、被請求人の主張する上記事由については、本件全証拠から権利の濫用とすべき事実を認めることができず、他に権利の濫用と認めるに足る証拠がない。
したがって、本件審判の請求を権利の濫用とすることはできない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが指定商品のいずれかについて使用をしている事実が認められず、かつ、本件商標の不使用について商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかに正当な理由があるとも認められないものであり、本件審判の請求が権利の濫用とは認められないものであるから、商標法第50条の規定により、本件商標の登録は、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別 掲
本件商標

審理終結日 2005-02-23 
結審通知日 2005-03-01 
審決日 2005-03-15 
出願番号 商願平10-13473 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (Z16)
最終処分 成立  
特許庁審判長 佐藤 正雄
特許庁審判官 山本 良廣
宮川 久成
登録日 2001-02-23 
登録番号 商標登録第4455674号(T4455674) 
商標の称呼 エイチエスエスシイ、エッチエスエスシイ、ホンダソーイチロースピリットコーポレーション、ホンダソーイチロースピリット、ホンダソーイチロー 
代理人 石戸 久子 
代理人 牛島 信 
代理人 山口 栄一 
代理人 影島 広泰 
代理人 井上 雄樹 
代理人 橋場 満枝 
代理人 高橋 健一 
代理人 渡邉 弘志 

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