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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 117
管理番号 1114897 
審判番号 無効2003-35031 
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-05-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-01-30 
確定日 2005-04-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第2634277号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2634277号商標(以下「本件商標」という。)は、「インディアンモーターサイクル」の片仮名文字を横書きしてなり、平成3年11月5日に登録出願、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成6年3月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第209号証(枝番を含む。)を提出した。
1 無効理由
本件商標は、被請求人が、「Indian」からなる商標等を使用してビジネスを行う正当な権利者(請求人)の企業努力、投資の成果に便乗して不当な利益を得ることを目的として登録したものであるから、公正な競争秩序を乱すものであり、公の秩序を害するものである。
よって、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当し、その登録は同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
(1)「Indian」(アメリカのトロフィーブランド)について
インディアン・モトサイクル・カンパニー(以下「インディアン社」という。)は、1901年マサチューセッツ州スプリングフィールドに設立されたオートバイのメーカーである。
インディアン社がオートバイに使用する、特徴ある筆記体の「Indian」(即ち、「Indianロゴ」)、羽根飾りを冠した右向きのインディアンの酋長の図形(即ち、「インディアン図形」)に「Indianロゴ」を配したもの(即ち、「ヘッドドレスロゴ」)等は、インディアン社の製造販売するオートバイの商標として、米国はもとより、ヨーロッパや日本でも周知であり、また、「INDIAN MOTOCYCLE」「インディアンモトサイクル」は、インディアン社の略称として、米国はもとより、ヨーロッパや日本においても周知であった。
インディアン社は、1953年(昭和28年)操業を停止し、後に解散した。
しかしながら、インディアン社のオートバイの愛好者は多数おり、同好者向けの雑誌が発行されている程であり、「Indian」は、米国を象徴するトロフィーブランドである(甲第2号証ないし甲第5号証)。
(2)「Indian」の復活とその報道について
フィリップ・ザンギ(以下「ザンギ」という。)は、1990年(平成2年)6月26日、かつてインディアン社が存在していたマサチューセッツ州に、インディアン・モトサイクル・カンパニー・インク(以下「ザンギインディアン社」という。)を設立し、前記のインディアン社を復活し、「Indian」のオートバイの復活製造及び「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」等を使用した「Indian」ブランドのアパレルやアクセサリー等のマーチャンダイジングビジネスを開始した。
ザンギによるザンギインディアン社の設立、「Indian」のオートバイの再興及び「Indian」ブランドのライセンス(マーチャンダイジング)ビジネスの開始は、米国の一般紙「ザ・デイリー・ニュ一ス 1991年7月1日号」(甲第6号証)及び「USA・TODAY 1991年7月1日号」(甲第7号証)により、大々的に報じられた。
即ち、ザンギインディアン社は、オートバイ「Indian」に使用されて周知であった「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標に、オートバイのみならず、アパレル、アクセサリー等の広範囲の商品について使用する商標としての価値を新たに創設し、その正当な出所として、社会的に認知されたのである。
(3)被請求人による本件商標の出願登録について
被請求人は、かかる報道がなされた1991年(平成3年)7月1日のわずか4ヶ月後である同年11月5日に本件商標を出願した。
被請求人は、上記「ザ・デイリー・ニュース」及び「USA・TODAY」の記事を見て、「Indian」のブランドビジネスがいずれ正規の権利者によって日本において展開されるであろうことを予測し、正規の「Indian」ブランドビジネスの進展に伴い、「Indian」ブランドが市場に浸透したときに、これに便乗することを企図して、本件商標を出願登録したものである。
(4)請求人による日本における「Indian」ブランドビジネスを行う正規の権利資格の取得について
ザンギは、復活した「Indian」ビジネスの展開のため、事業への出資者を求めていた。
当時日本において、コンセプト・デザイナーとして活躍していたスコット・エス・カジヤ(以下「カジヤ」という。)は、「Indian」のブランドとしての将来性に着目し、日本において「Indian」が復活されれば、日本においてブランドとして成功すると確信し、1991年ザンギインディアン社と契約した。
ザンギは、「Indian」ブランドのビジネス一切について、「Indian」商標の出願、登録、ライセンスを含め、日本での全ての権利をカジヤに譲渡した(甲第10号証及び甲第12号証の2)。
カジヤは、かかる権利の譲渡を受け、1992年(平成4年)2月、「ヘッドドレスロゴ」と特徴ある筆記体の欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」(「モトサイクルロゴ」)の組合せよりなる商標(以下「インディアンモトサイクル商標」という。)を旧第17類等に自己の名義で出願した(甲第9号証)。
1992年のザンギインディアン社のカタログは、カジヤが企画した商品のカタログであるが、商品は、レザージャケット、Tシャツ、帽子、眼鏡、ペンダント、キーホルダー等であり、「Indianロゴ」及び「ヘッドドレスロゴ」、「Indianロゴ/MOTOCYCLE」、筆記体の「I」等が使用されている(甲第12号証)。
カジヤは、株式会社サンライズ社(以下「サンライズ社」という。)と合弁し、1993年(平成5年)6月3日、請求人(株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン)を設立し、代表取締役に就任した(甲第13号証)。
そして、後に、カジヤは、「インディアンモトサイクル商標」の出願・登録を請求人に譲渡した(甲第11号証)。
以上から明らかなように、ザンギインディアン社は、1901年創立のインディアン社の復活であり、「Indian」に使われていた商標の使用を再開し、「Indian」のマーチャンダイジングブランドとしての可能性を開拓し、新たな価値を創設したものであり、「Indian」に使用されている商標の正当な出所である。
そして、請求人は、かかる「Indian」商標を日本において出願登録し、マーチャンダイジング、ライセンスビジネスをする権利を取得したカジヤ及びサンライズ社の設立に係る会社であり、カジヤより同人のかかる権利の譲渡を受けた者であり、「Indian」商標を日本において復活させ、多大の企業努力により「Indian」をブランドとして日本において育て確立させたものである。したがって、請求人は、「インディアンモトサイクル商標」はもとより、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「モトサイクルロゴ」等(以下、これらを総称して「インディアン商標」という。)の正当な登録、使用権者である。
(5)請求人及びサンライズ社による「Indian」ブランドの広告及びライセンスビジネスの展開並びに被請求人による「Indian」ブランドの冒用について
請求人及びサンライズ社はマスターライセンシーとして、「Indian」ブランドの広告宣伝、輸入販売及びライセンスビジネスを展開した。
1993年(平成5年)7月24日、繊研新聞及び日経流通新聞で、請求人の設立、「Indian」ブランドの輸入、ライセンスビジネスの展開の開始が報じられた(甲第16号証及び甲第17号証)。
また、請求人及びサンライズ社は、当初米国製の「Indian」ブランド商品の輸入販売を行い(甲第19号証)、「Indian」ブランドの市場への浸透を図ったが、1993年(平成5年)11月の時点で、既に、米国ではブームであり、日本でも、「Indian」ブランドのマーチャンダイジングは、「ブーム着火は時間の問題」という程であった(甲第18号証)。
また、請求人は、月刊誌「DICTIONARY」に、1994年(平成6年)1月から翌年2月にかけて、定期的に広告をし「Indian」ブランドの宣伝に務めた(甲第20号証)。
宣伝のかいあって、「Indian」ブランドは1994年(平成6年)前半には市場に充分浸透し、同年、サンライズ社は、株式会社マルヨシ(以下「マルヨシ」という。)と、バッグについてサブライセンス契約を締結し、マルヨシは、同年5月展示会を開催し、販売を開始した(甲第21号証)。
マルヨシは、同社の「Indian」商品に、「インディアン商標」を使用した。即ち、「インディアン商標」は、1994年(平成6年)前半には、既に、請求人を出所とするブランド及び商標として市場に浸透していった。
マルヨシのバッグ及びサンライズ社の輸入に係るTシャツ、トレーナー等及びサンライズ社の製造に係るTシャツ等は、1994年(平成6年)に雑誌等で広告され(甲第24号証及び甲第25号証)、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の「lndian」ブランドは、衣類、バッグ、身飾品の分野において更に市場に浸透した。
請求人のライセンスビジネスは、順調に発展し、1995年(平成7年)に、サンライズ社経由で西澤株式会社(以下「西澤社」という。)と、革製ジャケット等について、サブライセンス契約を締結した。
西澤社は、1995年(平成7年)から翌年にかけて巨額の資金を投入して、展示会を行ったり、同社の製造販売に係る革製ジャケットなどの広告宣伝を行い、同社の「Indian」レザージャケット等の市場への浸透に務め、「Indian」はレザージャケット等のブランドとしても市場に浸透した(甲第31号証ないし甲第40号証)。
そして、西澤社が、1996年(平成8年)秋冬シーズンから、前年のシーズンの広告宣伝によって市場に浸透させた同社の「Indian」レザージャケット等の販売を本格的に行っていた矢先、被請求人は、1996年の秋冬から、「Indian」の周知性に只乗りして、「Indianロゴ」を使用したレザージャケット等の製造、販売、広告を開始するという情報を、請求人、サンライズ社及び西澤社は入手した。(被請求人は、実際にレザージャケット等の製造、販売、広告等を行った。)
そこで、請求人は、平成8年5月、被請求人に対し、東京地裁に、商標権侵害差止等の訴を提起し(平成8年(ワ)第9391号事件)、かつ、市場の混乱を防ぐため、平成8年7月「インディアンモトサイクル商標」が請求人の登録商標であり、正規のサブライセンシーが西澤社等であることを繊研新聞で業界に広告した(甲第41号証)。
しかし、被請求人は「Indianロゴ」等の不正使用を継続した。そこで、請求人は、平成8年9月、請求人の旧第17類に登録されている「インディアンモトサイクル商標」に基づき東京地裁に商標権侵害差止の仮処分申請をし、同年12月仮処分決定が出された(甲第42号証)。
それにも拘わらず、被請求人は、平成8年9月から12月にかけて、請求人の「Indianロゴ」を使用した侵害品の革製ジャケットの製造、販売、広告を行った(甲第43号証ないし甲第45号証)。
また、被請求人は、平成8年7月以降、請求人により訴を提起され、仮処分命令申請を受け、仮処分決定を受けながら、「Indian」を含む又は「Indian」に関連する商標を出願した(甲第1号証)。
更に、被請求人は、仮処分決定が出された後も、「Indianロゴ」、「Indianロゴ」と同一又は酷似した筆記体の欧文字「Indian/Motorcycle」(上下二段)及び「Indian Motorcycle」等を使用した革製ジャケットやTシャツ等の輸入、製造、販売、広告を継続している(甲第47号証、甲第48号証及び甲第58号証ないし甲第75号証)。
被請求人のかかる行為により、市場に混乱を来し、請求人は多大の迷惑を蒙っている。
仮処分決定後も請求人は企業努力を傾注し、請求人が「Indianロゴ」等の正当な権利者であり、これらの商標のライセンサーであることは、新聞雑誌等の記事を通じて、また、フォーミュラニッポンのレーシングチームのスポンサーになること、展示会を開催すること等の広告を通じて周知徹底され、現在請求人のライセンシー及び対象商品は、多数の会社、商品にのぼり、請求人自ら製造販売するTシャツ、スエットシャツ、パーカー、ニット類、パンツ、シャツ、ジャケット、バッグ類、ジュエリー及びアクセサリー類等と相俟って、需要者の間で一層周知が図られ、請求人の「Indian」ブランドは、ビンティージ・バイカー系を代表するプレスティージのあるブランドとして定着し、着実に成長している(甲第76号証ないし甲第193号証)。
然るに、被請求人は、請求人のかかる企業努力に便乗し、「Indianロゴ」や「Indianロゴ」に酷似した標章を冒用して、請求人の「Indian」ブランドビジネスを妨害している。
(6)被請求人による商標の冒用出願登録及び正規のライセンスビジネスの妨害について
被請求人は、ブランドビジネスが利益を産むものであることに着目し、海外のブランド、映画のタイトルや映画中で使用されたブランド、人名、社名、地名等のいわゆる「キャラクター」で、日本において、将来ブランドビジネス、キャラクターマーチャンダイジング展開の基となりそうなものを権利者に無断で少し変えたりして先ず出願登録し、これを利用して、ビジネスを展開せんと企画するに至った、と解される。
被請求人が出願登録している商標中には、著しく違法性のあるものと解さざるを得ないものが多く含まれている(甲第1号証)。
被請求人は、「Indian」のブランドビジネスが日本でも展開されることが予想されるに至るや、一切使用する意思なしに、本件商標を登録し、これを一切使用することなく、「Indianロゴ/Motorcycle」や「Indian/MOTOCYCLE」や「Indianロゴ」等を使用し、警告を受けても使用を止めず、仮処分決定を受けた後も冒用行為を継続し、請求人の正規のブランドビジネスを妨害しているのである。
(7)結び
よって、本件商標は、「Indianロゴ」等を使用してブランドビジネスを行う正当な権利者(請求人)による「Indian」ブランドに対する企業努力、投資の成果に便乗して違法に「Indianロゴ」を使用して不当な利益を得ることを目的として登録されたものであることは明白である。
したがって、本件商標は、公正な競争秩序を乱し、公の秩序を害するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)不適法な審判請求(却下理由)について
(ア)平成6年審判第13787号無効審判請求事件(以下「前審判事件」という。)における事実及び証拠と本件審判請求事件における事実及び証拠とは明白に異なる。
(イ)事実の相違
請求人が前審判事件において商標法第4条第1項第7号の無効事由として主張した具体的事実は、乙第1号証において摘示されているとおりであり、これを本件無効審判請求事件の審判請求書において請求人が主張した具体的事実と対比すれば、両者が異なる事実であることは明白である。
(ウ)証拠の相違
本件審判請求事件において請求人が提出した証拠は甲第1号証ないし甲第209号証であるが、前審判事件において提出した証拠は甲第1号証ないし甲第23号証であり、両者が証拠において相違することは明白である。
(2)予備的答弁(棄却理由)について
被請求人は、ザンギを誹謗し、請求人が欺瞞的主張を繰り返す、と述べるが、かかる主張は請求人の主張を曲解するものであり、何ら根拠のあるものではない。
(ア)ザンギが設立したザンギインディアン社は、「Indianロゴ」等の商標に、オートバイのみならず、アパレル、アクセサリー等の広範囲の商品に使用する商標としての価値を新たに創設し、「Indianロゴ」等の商標のオートバイのみならず、アパレル、アクセサリー等の広範囲の商品に使用する商標の出所として、社会的に認知された。であるからこそ、カジヤが日本における「Indian」ブランドの商標権を同社から取得したのである。
ザンギの設立したザンギインディアン社が「Indianロゴ」等の商標に新たな価値を創設したのであるから、同社が新たな価値を付与された「Indianロゴ」等の出所として取扱うのはビジネス上当然の事であり、あるべき姿である。
被請求人はザンギが有罪判決を受けたなどと述べるが、そのことと、同人の設立したザンギインディアン社が新たな価値を付与された「Indianロゴ」等の出所として認知されることとは全く別の事である。
そして、カジヤは、日本における商権を取得し、サンライズ社とともに請求人を設立し、「Indianロゴ」等を日本市場に導入し、資金、企業努力を投入して、「Indianロゴ」等をブランドとして育て日本市場に浸透させたのであり、請求人は、かかる商権をカジヤより取得して、資金を投入し、企業努力を傾注し、更に「Indianロゴ」等をブランドとして育て日本市場に浸透させたのであって、カジヤも請求人も、ビジネスの常道に従い、あるべきビジネスの慣行に従って、「Indianロゴ」等を日本においてブランドビジネスに使用する商権を正当に取得したのである。
したがって、日本の市場は、請求人を「Indian」ブランドの日本における正当な出所であると認識し、請求人からライセンスを受けるなどしているのである。
よって、請求人が「Indianロゴ」等の日本における正当な出所であることは明白である。
これに対し、被請求人は、本件商標を「インディアンの復活」が報じられるや否や出願登録し、「インディアンモーターサイクル」を一切使用せず、「Indianロゴ」等がカジヤ、サンライズ社及び請求人の企業努力により日本市場に浸透するにつれ、次々と「Indianロゴ」等を違法に使用した商品を日本の市場に投入していったのである。
したがって、本件商標は、被請求人が特微のある筆記体の欧文字「Indian」からなる商標(Indianロゴ)等を使用してビジネスを行う正当な権利者(請求人)による「Indian」ブランドに対する企業努力、投資の成果に便乗し違法に「Indianロゴ」等を使用して不当な利益を得ることを目的として登録したものであるから、本件商標は公正な競争秩序を乱すものであり、公の秩序を害するものであることは明白である。
ちなみに、1953年に解散したインディアン社と何の関係もないにもかかわらず、これと関係があるかの如き広告を行ったのは被請求人であり(甲第26号証ないし甲第29号証)、「Indianロゴ」のみならず、「Indian Motocycle」を使用した(甲第29号証)のも被請求人である。
(イ)請求人は、本件商標の出願日や登録査定時の前迄に、「インディアン商標」が周知になったと主張しているのではないし、かかる主張を前提として被請求人のいう「フリーライド」を主張しているのではない。
被請求人は、ザンギインディアン社、カジヤ、サンライズ社及び請求人(以下「請求人等」という。)の行っているライセンスビジネスはインディアン社との関係を偽装することによって成り立っている欺瞞的ビジネスである、と主張するが、かかる主張は全く事実に反する。請求人は、1901年設立のインディアン社との関係を偽装したりしていない。また、請求人は、ザンギの設立したザンギインディアン社から日本における商権を取得したカジヤから当該商標を承継したものであり、関係の偽装などそもそも問題とならない。
逆に、1901年設立のインディアン社と何らかの関係があるかの如き広告をしたのは被請求人である。
(ウ)被請求人がかかる主張の根拠にせんとしているのは乙第12号証であるが、同号証は単に被請求人の取締役の言葉を載せているにすぎず、何の裏付けもない。しかも本件商標の登録の3年後である1997年(平成9年)発行の雑誌中の記事であり、請求人らが商標権侵害の差止請求の本訴及び仮処分を提起し、仮処分命令が出された後に発行されたものであり、被請求人が違法行為の継続を取り繕うために出したものと合理的に解すべきものであって、到底信用できない。
そもそも、被請求人は片仮名の「インディアンモーターサイクル」を出願登録したのであり、被請求人の主張するような経緯で被請求人が本件商標を採択したことなどあり得ない。
また、被請求人は、カナダの商標権者と業務提携をして、本件商標の使用を開始したとも述べるが、かかる主張もまた理由がない。また、カナダで登録された商標(乙第11号証)は、活字体の「INDIAN MOTORCYCLE」であって、「Indianロゴ」等と明らかに書体を異にする。然るに、被請求人の使用したのは、「Indianロゴ」等である。
この点に照らしても、被請求人の主張に理由がないこと明白である。
(エ)したがって、被請求人は「インディアンの復活」の報を知り(このことは、甲第209号証の審決も認める)、日本における正規の「Indian」ブランドビジネスの展開を予期して、不当な利益を得ることを目的として本件商標を登録したものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 不適法な審判請求(却下理由)
本件商標に対しては、請求人会社の元代表者、カジヤによって商標法第46条第1項第1号に基づく無効審判平成6年審判第13787号(以下「前審判事件」という。)が請求され、請求不成立の審決が既に確定している(乙第1号証)。
前審判事件と同一事実及び同一証拠に基づいてなされた本件審判の請求は、商標法第56条第1項で準用する特許法第167条の規定に違反するものであるから、不適法な審判請求として却下されるべきである。
(1)同一の主張理由(事実)
前審判事件での商標法第4条第1項第7号に関する前請求人の主張は、本件審判での無効理由及び主張事実と同一である。
(2)同一の証拠
本件審判で提出された証拠は、甲第1号証ないし甲第208号証に及ぶが、このうち、主張事実(著名商標)の存否を判断するうえで、多少なりとも検証に値する証拠といえるものは、甲第5号証ないし甲第7号証のみで、これらは前審判事件で証拠として提出されたものと同一である。これら以外は、本件無効理由とは関係のない資料であって、新たな証拠とは認められない。
(3)また、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当することを無効理由とする場合には、本件商標に係る商標権の設定登録日から5年が経過する以前に審判請求をしなければならないところ(商標法第47条)、本件審判の請求は、同条の適用を回避するためになされた脱法行為であることは明らかで、権利の濫用に当たる。
2 予備的答弁(棄却理由)
仮に、上記主張が認められないとしても、本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当するとの請求人の主張は、全く根拠のないものであり、本件審判の請求は棄却されるべきである。
(1)事実関係
インディアン社は、1901年に設立され、1953年に解散消滅したインディアン社の歴史的事実等については、被請求人も特に異論の存するところではない。しかしながら、請求人等が実際に関係したのは、このインディアン社ではなく、インディアン社の商標に関連した事件で米国連邦裁判所により有罪判決を言い渡されたザンギと、ザンギが犯罪を実行するためだけに設立した同名の米国法人ザンギインディアン社であり、1901年に設立されたインディアン社とは、法的にも事実としても一切の関係も関連もない人物及び法人である。
したがって、請求人提出の証拠(甲第2号証ないし甲第5号証)で示されているインディアン社の過去の商標使用実績と請求人商標とは、如何なる関係も関連もなく、請求人のザンギインディアン社はインディアン社の復活であるとの主張や、恰も、請求人等がインディアン社と何らかの関係があることを窺わせるような記述は全くのでたらめで、仮に請求人が、インディアン社の過去の事実を無効理由の根拠とするのであれば、少なくとも、請求人等のうちの何れかが、該インデアン社と何らかの関係があることを立証するのが必要不可欠な前提である。にも拘わらず、本件審判において、その関係を示す一片の証拠も提出していない。
何の根拠もなく、カジヤに対して日本での商標使用を許諾したザンギという人物は、インディアン社及び同社商標に関連して国内外200人にも及ぶ者から金員を詐取したとされる人物で、現にその詐欺的行為に対し、米国連邦裁判所より懲罰的賠償命令が下されたのみならず、刑事犯として実刑判決が言い渡された人物である(乙第3号証ないし乙第5号証、乙第9号証及び乙第10号証)。
そして、ザンギインディアン社の実体は、ザンギの犯罪行為の手口から明らかにされている(乙第5号証)。
要するに、ザンギインディアン社は、1901年に設立されたインディアン社とは全くの別法人で、意図的に消滅したインディアン社と同一の商号を騙り、同社社章をデッドコピーしたものを勝手に自らの社章として採択し、更に、所在地をも同じにすることによって、消滅したインディアン社が復活又は再興されたかのように装い、この犯罪行為の道具として利用した会社である。そして、ザンギインディアン社は、投資家から金員を詐取しただけで、オートバイの製造は勿論のこと、企業本来の事業活動はおろか、その準備行為すら一切せずに設立後間もなく倒産している(乙第6号証)。
したがって、請求人主張のように、ザンギインディアン社の設立がインディアン社の復活であるとか、ザンギやザンギインディアン社のビジネスの開始により、「インディアン商標」がオートバイのみならず広範囲な商品についての正当な出所として社会的に認知されたといったことには全くならない。
ザンギ及びザンギインディアン社の実体は上記のとおりで、これより日本をテリトリーとする「インディアン商標」の使用許諾を受けたと主張する者がカジヤであり、このカジヤより「インディアン商標」を譲り受けたとするのが請求人で、請求人の親会社にあたるのがサンライズ社である。カジヤとザンギインディアン社との間で締結された商標使用許諾契約が有効であるか否かは当事者間の問題であるとしても、「インディアン商標」に関して日本において何らの権原も有さず、しかも、米国内にあっても如何なる事業実績も保護法益も有さないザンギやザンギインディアン社が、第三者の使用をも拘束する日本における商標使用許諾権限を持たないことは論ずるまでもないことである。
(2)著名商標の存在
請求人は、本件商標は、請求人による「インディアン商標」に対する企業努力や投資の成果に便乗し、不当な利益を得ること(フリーライド)を目的として登録したものであると主張し、その前提として「インディアン商標」が周知著名であることを主張する。
(ア)請求人の主張が、「インディアン商標」は、解散消滅したインディアン社の商標として著名であるとの主張であるならば、同社は、1953年に消滅した以降現在に至るまで一切の営業活動を行っていないのであるから、過去において周知著名であったにしてもその周知著名性は既に消滅しており、そもそも、混同を来すべき営業主体(出所)そのものが存在しないのであるから、競業秩序を乱すことは論理的にも有り得ない。
(イ)請求人主張が、「インディアン商標」は、請求人等の商標として著名であるとの主張であるならば論外である。ザンギ及びザンギインディアン社は、日本国内はもとより、米国においても企業本来の事業活動を一切行っておらず、本件商標の出願日(又は登録査定日)前の事実が在るとすれば、1991年(平成3年)7月1日付の「ザ・デイリー・ニュース」(甲第6号証)と同年7月5日付の「USA・TODAY」(甲第7号証)の掲載記事があるのみで、しかも、これらの記事はザンギの一方的な発表にすぎず、現実には、1台のオートバイも生産せず、他の商品についての使用実績もないのであるから、請求人が主張するように、「インディアン商標」は、オートバイのみならず、アパレル、アクセサリー等の広範囲な商品について正当な出所として社会的に認知されたことの根拠には到底なり得ない。
(ウ)また、請求人主張が、「インディアン商標」は、請求人やそのライセンシーの使用によって周知著名になったということであれば、本件商標の出願日前はもちろん、登録査定日前においても、「インディアン商標」が請求人やそのライセンシーによって具体的に使用されたという事実はなく、本件審判において提出された証拠のほとんどは、登録査定日後の事実を示す資料であって問題外である。
(エ)本件商標と請求人登録商標(登録第2710099号)とが類似するか否かで争われた審決取消請求事件(東京高裁:平成14年(行ケ)第140号)においても、請求人は本件審判と同様の証拠に基づき同様の主張をしたのであるが、同判決は、「インディアン商標」が、平成7年3月30日(請求人登録商標の登録査定日)において、周知であったとまで認めることはできないとして、請求人主張を全面的に退けている(乙第2号証)。
(3)フリーライド
請求人は、本件商標はフリーライドを目的として登録したものであると主張する。しかしながら、前記のとおり、フリーライドの前提となる著名商標の存在自体が認められないのであるから、請求人の主張は失当である。
(4)ブランドビジネスの妨害
請求人は、請求人等のライセンスビジネスが正規のブランドビジネスであることを強調し、被請求人が請求人ビジネスを妨害するものと非難するが、請求人のいう「正規」とは如何なる意味なのか、また、その根拠は何処に在るのか、全く理解できない。
仮に、請求人が主張する正規の意味を、「インディアン商標」を使用する社会的正当性又は妥当性と善解するにしても、請求人等の行っているライセンスビジネスは、インディアン社との関係を偽装することによって成り立っている欺瞞的ビジネスであり、むしろ、商道徳に反し、社会的正当性又は妥当性に欠けた商行為というべきである。
即ち、請求人らは、1901年創業のインディアン社と、ザンギインディアン社との商号や住所地が同一であることを悪用し、当然に知り得ていた事実、両社は全くの別会社で何の関係もないこと、ザンギはインディアン社及び同社商標に関連し刑事犯として有罪判決を受けていること、ザンギが米国で譲り受けた商標は、1970年(昭和46年)にメリル・クライマーという人物が、インディアン社と関係なく登録した商標にすぎないこと等をライセンシー等に告げず、しかも、1993年(平成5年)には、当該インディアン社と関係する日本法人であるかの如き商号を採用した請求人会社を設立し(甲第13号証)、全く関係のないインディアン社の過去の実績や名声を利用して多額のロイヤリティーを得ているのである。このような請求人等による欺瞞的なビジネスは、ザンギの米国での犯罪行為に追随するものであり、真実を知り得ない我が国におけるライセンシー、取引業者及び需要者等を故意に騙しているものであって、商道徳上からも到底是認されるべきビジネス手法ではない。
(5)請求人主張の独善性
請求人が、自らが「インディアン商標」についての正当な所有者であると主張する根拠は、ザンギからの使用許諾であり(甲第10号証)、その前提として、「インディアン商標」について世界的所有者が存在し、それがザンギ又はザンギインディアン社であるとの理屈である。このような請求人の主張が全くの独善であることは、権利の属地性を論ずるまでもなく、インディアン社の歴史的事実やザンギの犯罪行為、更には、「インディアン商標」についての各国での保護実体からも容易に証明されることである。
被請求人は、1965年(昭和40年)頃からアメリカンカジュアル衣料の製造販売を主に、高品質な商品の提供をし続け、業界や需要者からの高い信頼と支持を得ている会社である。このような事情から、被請求人は数百人からなる米国ヴィンテージバイクの愛好家団体よりライダージャケットの制作を依頼されたのが本件商標採択のきっかけで(乙第12号証)、彼らの奨めからこのジャケットを市販品化することとし、そして、また、彼らの提案により商標を「インディアンモーターサイクル」とすることとし、1991年(平成3年)11月5日に本件商標を出願したものである。
その後、本件商標が1994年(平成6年)3月に登録されたことを踏まえ、商品の具体的な販売計画に着手するとともに、カナダ国登録商標「Indian Motorcycle」の正当な権利者(乙第11号証)との間で業務提携を図り(乙第7号証)、本件商標の使用を開始したものである。
上記した一連の時間的経緯から明らかなことは、被請求人による本件商標の採択時期は、遅くとも出願日である1991年(平成3年)11月5日より以前であって、請求人等の如何なる行為よりも先行しているということである。「将来の周知化を予見しての冒認」とか、「後発的事実の事前盗用」とかといった請求人主張は、論理的にも成立し得ないことである。
そもそも、アメリカンカジュアル衣料についての被請求人の市場における圧倒的な知名度や実績、商品自体のクオリティ-や価格等から、被請求人商品は需要者や取引業者から多大な支持を得ており(乙第13号証)、請求人商品と間違えられることは、むしろ被請求人にとって不利益なことであって、請求人ビジネスに便乗しなければならない事情は、主観的にも客観的にも存しない。
(6)結び
以上のとおり、本件審判の請求は不適法な請求として却下されるべきであり、仮に、その主張が認められないとしても、請求人主張の無効理由は何ら根拠のないものである。

第5 当審の判断
1 不適法な審判請求(却下理由)について
請求人の提出した甲第3号証及び被請求人の提出した乙第1号証によれば、本件商標に対して、請求人、株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパンの代表者である、スコット・エス・カジヤ(スコット・サトシ・カジヤ)は、商標法第4条第1項第7号、同第8号及び同第15号に該当することを無効の理由とし、同法第46条第1項第1号に基づく無効審判平成6年審判第13787号(即ち、前審判事件)を請求し、前審判事件は不成立の審決が既に確定していることが認められる。
しかして、被請求人は、前審判事件と同一事実及び同一証拠に基づいてなされた本件審判の請求は、商標法第56条第1項で準用する特許法第167条の規定に違反するものであるから、不適法な審判請求として却下されるべきである旨主張する。しかしながら、被請求人がこれを証する証拠の提出は当該審決書(乙第1号証)のみであって、その事実を証する具体的証拠の提出はなされていない。
してみれば、本件審判の請求は、その請求理由のなかで無効原因として主張する事実及び提出された証拠が前審判事件と同一の事実、同一の証拠に基づいてなされたものと断定することはできない。
そうとすれば、本件審判の請求は、商標法第56条第1項で準用する特許法第167条の規定に違反するものということはできない。
また、被請求人は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第19号に該当することを無効理由とする場合には、本件商標に係る商標権の設定登録日から5年が経過する以前に審判請求をしなければならない(商標法第47条)規定が有することをもって、本件審判の請求は、脱法行為であって、権利の濫用に当たる旨主張する。しかしながら、本件審判請求の無効理由である、商標法第4条第1項第7号の無効審判請求には除斥期間の規定はないから、被請求人の前記主張をもって、本件無効審判の請求は、脱法行為であって、権利の濫用に当たるものということはできない。
したがって、本件審判の請求は、却下すべきものではない。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人の主張並びに提出した甲第2号証ないし甲第5号証によれば、インディアン社は、1901年マサチューセッツ州スプリングフィールドに設立されたオートバイのメーカーであり、1953年操業を停止し、後に解散したことが認められる。そして、過去において、インディアン社の使用していた「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標が、該会社のオートバイに使用された結果、米国、ヨーロッパ、日本において需要者の間に広く認識され、周知著名性を獲得するに至っていたことを否定することはできない。
しかしながら、インディアン社は、1953年に操業を停止し、後に解散しており、その後において営業活動(製造、販売)を行っていたものとは認め得ないから、インディアン社が使用していた「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標の周知著名性は、過去において高い水準にあったとしても、解散後38年を経過した、本件商標の登録出願時には、消滅していたに等しいというべきであり、混同を生ずる営業主体(出所)そのものが存在しないから、本件商標はインディアン社との関係において、社会の商取引の秩序を乱すものと認めることはできない。
(2)請求人の主張並びに提出した甲第6号証及び甲第7号証によれば、ザンギは、1990年(平成2年)6月26日、かつてインディアン社が存在していたマサチューセッツ州スプリングフィールドに、ザンギインディアン社を設立し、前記のインディアン社を復活し、「Indian」のオートバイの復活製造及び「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」等を使用した「Indian」ブランドのアパレルやアクセサリー等のマーチャンダイジングビジネスを開始した旨の記事が米国の一般紙「ザ・デイリー・ニュ一ス」1991年(平成3年)7月1日号(甲第6号証)及び「USA・TODAY」同年7月1日号(甲第7号証)により、報じられた事実は認められる。
しかしながら、ザンギインディアン社がこの報道以前に「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標を使用していた事実は認められない。そして、かかる報道がなされたのは1991年7月1日であり、本件商標の登録出願は、その4ヶ月後である1991年11月5日であるから、この報道のみで、本件商標の登録出願時に、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標がオートバイ、アパレル、アクセサリー等の商品について、サンギインディアン社の業務に係る商品として広く認識されていたものとは認められない。
(3)請求人の主張並びに提出した甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証の2及び甲第13号証によれば、コンセプト・デザイナーであるカジヤは、我が国において、1993年(平成5年)6月3日、株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン(請求人)を設立し、代表取締役に就任したこと(甲第13号証)、そして、ザンギは、カジヤに「lndian」ブランドのビジネス、「インディアン商標」の出願、登録、ライセンスを含め、日本での権利を譲渡したこと(甲第10号証及び甲第12号証の2)、さらに、カジヤは、日本に登録出願した「インディアン商標」を請求人に譲渡したこと(甲第11号証)が認められる。
しかしながら、インディアン社とザンギインディアン社とが何らかの関係を有しているものと認め得る証左は見当たらないから、ザンギは、過去においてインディアン社が使用していた「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標を単に採択したものといわざるを得ない。そうとすれば、請求人は、カジヤが「インディアン商標」を日本において出願登録した商標権の譲渡を受けた者であるにすぎず、請求人が、唯一の「インディアン商標」の独占的使用権者であるということはできない。
(4)繊研新聞及び日経流通新聞(いずれも1993年(平成5年)7月24日付)において、請求人が「Indian」ブランドの輸入、ライセンスビジネスの展開を開始する等の内容の記事が報じられたこと(甲第16号証及び甲第17号証)、「インディアン商標」に関して、マルヨシが1994年(平成6年)5月に展示会を開催し、販売を開始したこと(甲第21号証)、同じく、マルヨシ及びサンライズ社の輸入に係るバッグ、Tシャツ、トレーナー等及びサンライズ社の製造に係るTシャツ等が1994年(平成6年)に雑誌等で広告されたこと(甲第24号証及び甲第25号証)、同じく、西澤社が1995年(平成7年)から1996年にかけて展示会を開催するとともに、同社の製造販売に係る革製ジャケットなどの広告宣伝を行ったこと(甲第31号証ないし甲第40号証)、その他の使用の事実(甲第19号証、甲第20号証及び甲第76号証ないし甲第193号証)等よりすれば、請求人をはじめとする前記各社が「インディアン商標」を使用している事実は認め得るものである。
しかしながら、前記の証拠は、本件商標の登録査定時(平成5年7月16日)以降の証左であって、本件商標の登録査定時に、請求人をはじめとする前記各社が使用する「インディアン商標」が、同人らの業務に係る商品標識として周知であったとまで認めることはできない。
(5)請求人は、平成8年7月22日付繊研新聞に、「インディアンモトサイクル商標」が請求人の登録商標であり、類似品の出現など侵害行為には法的措置も辞さない旨を付記して新規ライセンシーの募集広告をしたこと(甲第41号証)、また、平成8年9月に東京地裁に商標権侵害差止の仮処分申請をし、同年12月仮処分決定が出されたこと(甲第42号証)、被請求人は、仮処分決定が出された後も、「インディアン商標」を使用した革製ジャケットやTシャツ等の輸入、製造、販売、広告を継続していたこと(甲第47号証、甲第48号証及び甲第58号証ないし甲第75号証)、被請求人が出願登録している商標中には、海外ブランドを意図して採択されていると推認されてもやむを得ない商標が見られること(甲第1号証)は、被請求人主張のとおりである。
しかしながら、被請求人が「インディアン商標」を請求人からの警告、仮処分命令後も使用を継続したこと、被請求人が出願登録している商標中には、海外ブランドを意図して採択されている商標が見られるとしても、これらの事実が、市場を撹乱させ、請求人の業務を妨害しているものと直ちに断定することはできない。
3 結語
本件商標は、「インディアンモーターサイクル」の文字よりなるところ、前記したとおり、(1)本件商標は、解散後38年を経過したインディアン社との関係においては、社会の商取引の秩序を乱すものと認めることはできず、(2)本件商標の登録出願時、登録査定時のいずれにおいても、「インディアン商標」は、請求人ほか、サンライズ社、マルヨシ及び西澤社の業務に係る商品標識として広く認識されたものとは認められず、(3)請求人が唯一の「インディアン商標」の独占的使用権者であるということはできず、(4)被請求人が「インディアン商標」を請求人からの警告、仮処分命令後も継続使用していたり、さらには、被請求人が出願登録している商標中には、海外ブランドを意図して採択されている商標が見られるとしても、それをもって直ちに請求人の業務を妨害しているものとは断定することができないものである。
してみれば、本件商標は、請求人の「インディアン商標」を妨害し、公正な競争秩序を乱すものであり、その使用に便乗して不当な利益を得ること(フリーライド)を目的として使用されるものということはできない。また、本件商標は、請求人の「インディアン商標」を冒用して採択したものとも断定することはできない。
そうしてみると、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-02-05 
結審通知日 2004-02-10 
審決日 2004-02-24 
出願番号 商願平3-114779 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (117)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 正雄 
特許庁審判長 小池 隆
特許庁審判官 柴田 昭夫
鈴木 新五
登録日 1994-03-31 
登録番号 商標登録第2634277号(T2634277) 
商標の称呼 インディアンモーターサイクル、インディアン、モーターサイクル 
代理人 古木 睦美 
代理人 野原 利雄 
代理人 佐藤 雅巳 

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