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審決分類 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z09
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z09
管理番号 1111319 
審判番号 無効2004-35158 
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-22 
確定日 2005-01-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第4573045号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4573045号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4573045号商標(以下「本件商標」という。)は、「ENABLE」の文字を標準文字により表してなり、平成13年4月13日に登録出願、第9類「配電用又は制御用の機械器具」を指定商品として平成14年5月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論掲記のとおりの審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁の理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1ないし第8号証(枝番を含む。)を提出している。
1 本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当する理由
(1)「ENABLE」の語について
本件商標は、「ENABLE」なる欧文字を横書して構成されているものである。
ところで、一般的に「ENABLE」なる語は「…できるようにする」を意味する平易な英語であり、これを字訳すると「イネーブル」となることは誰もがわかるといっても過言ではないほど我が国において馴染まれた語である。
(2)「イネーブル」の当業界における語義
(ア)「イネーブル」なる語を技術用語辞典で調べると、複数の技術用語辞典に「イネーブル装置」として以下のような記載がある(甲第2号証の1ないし3)。すなわち、「JIS工業用語大辞典」には「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作装置」なる定義付がされている。また、「機械工学事典」では「人間の手指等が指定された位置に保持されているときに限り、機械の作動を許可する装置.イネーブル装置を保持していなければ、仮に運転命令を与えても機械は作動しない.」なる定義付がされている。
(イ)また、日本規格協会発行の「JIS産業用マニピュレーティングロボット-用語」、「JIS電子部品実装ロボット-用語」、「JIS産業用マニピュレーティングロボット-安全性」、「JIS電子部品実装ロボット-安全性」によれば、「イネーブル装置」として上記「JIS工業用語大辞典」と同様の定義がされている(甲第3号証の1ないし4)。さらに、「JIS機械類の安全性-機械の電気装置-第1部:一般要求事項」には「イネーブル機器」として、「始動制御とともに使う手動操作機器であり、継続操作したとき機械の運転が可能となる」の記載があり、以降その具体的な説明がされている(甲第3号証の5)。これら以外にも「JISハンドブック」等、JIS関連の刊行物には同様の定義付がされている(甲第3号証の6及び7)。
(ウ)言うまでもないが、「JIS(日本工業規格)」は、我が国の工業分野における標準化のことである。工業標準化をはかることで、国レベルで「規格」を統一・単純化し、これにより生産効率の向上、経済利便性の確保等を臨むことができ、「JIS」は我が国で商取引を行なう者にとっては最大の関心事といっても過言ではない。これよりすれば、「JIS」関連の文書に記載されている前記「イネーブル装置」の定義は我が国における取引者間に浸透していること明白である。事実、前記定義に沿って、「イネーブル」なる語、とりわけ「イネーブルスイッチ」なる語が取引者間で普通に使用されている例が多数見うけられる。以下に当該事実を示す。
(3)「イネーブル」なる語の具体的使用例
(ア)特許公報等
甲第4号証の1ないし102は、「イネーブルスイッチ」なる語が使用されている公開特許公報等を示したものである。
請求人が本件無効審判を請求するにあたり「イネーブル」なる語が使用されている特許公報等を探したところ、少なくとも102件もの公報における使用例が見つかり、その中で48社もの企業が(延数ではない。)「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」を表す言葉として、それぞれ「イネーブルスイッチ」なる語を用いて明細書を記載していることが判明した。そしてそれらはいずれも本件商標が出願・登録される以前からの使用である。
例えば、ソニー株式会社を出願人とする特開平5-276128号(甲第4号証の4)における公開特許公報の明細書中には「イネーブル/ディセーブルスイッチ」なる記載があり、旭光学工業株式会社を出願人とする実開平5-69964号(甲第4号証の2)における公開実用新案公報の明細書中には「イネーブルスイッチ」なる記載がある。
そして、請求人もまた甲第6号証の1ないし6に示すように「イネーブルスイツチ」なる語を遅くとも2001年から「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」に使用している。
とすれば、「イネーブル」なる語は本件商標の登録査定時には既に当業界で「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」なる語義を有するものとして一般的に使用されていたこと明らかである。
(イ)インターネット上における使用例
さらに、最近ではインターネットにおける使用例も多数見られ、「イネーブルスイッチ」で検索すると211件ものヒットがある(甲第7号証の1)。具体的には、株式会社ソルトン、安全技術応用研究会、東芝機械株式会社、株式会社アイチコーポレーション、サムタク株式会社(甲第7号証の2ないし7)等がいずれもホームページ上で「イネーブルスイッチ」なる語を前記定義付けにおける意味合いにおいて普通に使用している。
(ウ)被請求人による使用態様
そして、被請求人による商標の使用態様に着目すると、欧文字で書された本件商標の使用は見当たらず、被請求人は、片仮名で横書された「イネーブル」をその右上に登録商標を意味するであろうR(マル)を付して使用しているようである。R(マル)が付されてはいるものの、被請求人は「イネーブルスイッチ」として一体的に使用しているとともに、これまた普通に使用されている「グリップスイッチ」と並列して記載している。加えて「イネーブルスイッチ」について上述の定義付と同旨の記述的な説明がなされている(甲第8号証)。
この使用態様よりすれば、本件商標中、「イネーブル」の部分が独立して自他商品識別力を生じているとは到底思えない。また、「イネーブル」は本件商標「ENABLE」に容易に通じるものであり、「ENABLE」を使用した場合に識別力が生じるとも思えない。
(4)本件商標が自他商品識別力を有するか否か
上記事実を総合的に勘案して、本件商標が自他商品識別力を有するか否かを考察する。
本件商標は欧文字「ENABLE」を横書して構成されその指定商品を「配電用又は制御用の機械器具」とするものである。上述の如く「ENABLE」は平易な英語であり、「イネーブル」に通じることは明らかである。そして「イネーブル装置」に明確な定義付けがされており、「イネーブルスイッチ」を使用する取引者が多数存在することに徴すれば、取引者間では「イネーブル(ENABLE)」の語義を「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」と認識し、本件商標をその指定商品に使用しても、需要者はこれを「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための配電用又は制御用の機械器具」と理解するにとどまり、「ENABLE」なる語が自他商品識別力を有しているとは到底思えない。まして、使用者が多数存在する「イネーブルスイッチ」の「スイッチ」は「配電用又は制御用の機械器具」の範疇に属するものであることは言うまでもない。
「イネーブルスイッチ」、「イネーブル機器」の英語表記が「enabling swicth」又は「enabling device」であったとしても、「イネーブル」なる語の多数の当業者間における浸透度の強さ、及び「ENABLE」が平易な英語であることを考慮すると本件商標「ENABLE」を使用しても識別力を生じるとは言い難い。
とすれば、当業界で「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」なる語義を有する「ENABLE(イネーブル)」なる語を一私人に独占させるのは妥当ではなく、本件商標は無効とされて然るべきである。
上述の如く、被請求人自身による本件商標の使用に徴してみてもこれが自他商品識別標識たる商標の使用であるとは捉えがたく、かかる観点からしても本件商標は無効とされるべきである。
以上より本件商標は商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものである。
2 本件商標が第4条第1項第16号に該当する理由
上述の如く「ENABLE(イネーブル)」なる語は「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」なる語義を有しているとして需要者に浸透しているため、本件商標を、前記品質を有する商品以外の商品に使用すると、需要者はその商品の品質を誤認すること必至である。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである。
3 結 語
叙上に徴し、本件商標は、これを指定商品に使用しても自他商品識別力を有さず、また、本件商標を「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作装置」以外の指定商品に使用すると需要者をしてその商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
4 弁駁の理由
(1)本件商標をその指定商品に使用した場合の自他商品識別力の有無
被請求人は、「イネーブル」及び「ENABLE」には「作動状態」「使用可能にする」等の一般的意味があると述べ、これよりすれば、「イネーブル」「ENABLE」の語義が「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作」であるという語義に特定して認識されるとは言い得ない旨主張する。そして、本件商標は商標法第3条第1項第3号違反ではないと結論づけている。
また、被請求人は、請求人が提出した甲第4号証に言及し、そこから「使用可能にする」等の語義で使用されていると思しき証拠のみを抽出し上記の根拠としている。
しかしながら、商標が自他商品等識別力を有するか否かの判断は、指定商品との関係を考慮せずには議論できないことは同法第3条第1項第3号が「その商品の」と明示していることからも明らかである。
すなわち、本件商標の指定商品は、「配電用又は制御用の機械器具」であるところ、当該指定商品には「イネーブル装置」としての語義がそっくりあてはまる商品が含まれている。とりわけ「スイッチ」は「イネーブル装置」の代表的なものであり、本件商標が指定商品「スイッチ」に使用された場合は「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」を意味する品質表示とならざるを得ない。
被請求人は、上述の如く請求人が提出した甲第4号証に言及しているが、甲第4号証中被請求人が言及していない証拠が67件もあり(資料1)、裏を返せば言及のない証拠については「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作」の意味合いで使用されている「イネーブルスイッチ」であることが窺われる。これらはすべて本件商標の登録査定時前の使用であり、67件もの公開特許公報等における使用があれば「イネーブル」または「ENABLE」なる語が「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」なる語義を有するものとして本件商標の登録査定時において少なくとも当業者間では一般的に認識されており、使用されているといえる。
また、被請求人自身、答弁書において「イネーブルスイッチ」なる語が当業界で使用されてきた事実を否定していない。
さらに、なによりも甲第8号証に示すように被請求人自身、まさにJISに示すとおりの「イネーブル装置」の意味合いで商品「スイッチ」に本件商標「イネーブル」を使用している。かかる「イネーブル」の表示は、品質表示でないといえるのだろうか。
請求人は、「ENABLE」に「使用可能にする」等の一般的意味があることを根拠として、被請求人の本件商標の使用が自他商品識別力を有する使用であるとするのには無理があると思料する。
例えば、商品「スイッチ」に付された「イネーブル」もしくは「ENABLE」なる商標に接した需要者は当該「スイッチ」が「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするスイッチ」であると認識するのが自然であると思われる。
このことは需要者が当業者であるとなおさらのことである。しかも、本件商標の指定商品に含まれる「イネーブル装置」としてのスイッチ等は、甲第6ないし第8号証に示す製品記事からもわかるように、当業者間で現に頻繁に取引されている。「イネーブル」、「ENABLE」が品質表示と認識されるというのは、単なる可能性ではなく、市場における現実の事態である。そしてこの品質表示の認識は、本件商標の出願前に発行されたJISに依拠することができるものであって、本件商標が品質表示の認識の成立に先行したものではない。
「イネーブル」及び「ENABLE」なる商標が、「イネーブル装置」とはかけ離れた全く関連性のない商品に使用されるときは、一般用語としての「ENABLE」の語義があてはまることがあるとしても、本件商標の指定商品たる「配電用又は制御用の機械器具」の如き、「イネーブル装置」と密接につながる指定商品については、被請求人の主張の如き、一般用語として異なる意味が存在することを理由として本件商標が識別力を有するとする主張は到底受け入れられない。
本件商標をその指定商品に使用しても需要者は単に「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための配電用又は制御用の機械器具」と認識するにとどまり、本件商標は単に商品の品質を表示するにすぎず、自他商品識別力を有しない。
(2)本件商標が商標法第4条第1項第16号に該当する理由
上述の如く「イネーブル」なる語が「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」なる語義を有するものとして少なくとも当業者間では一般的に認識されており、使用されているといえる。
ところで、本件商標の指定商品中には、「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする装置」以外の「装置」も当然に含まれている。
そのような商品に本件商標が使用された場合には需要者は当該商品を「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする装置」であると誤認することは明らかである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」と答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1及び第2号証(枝番を含む。)を提出している。
1 商標法第3条第1項第3号該当について
(1)「イネーブル」の当業界における語義
請求人は、「イネーブル」の語義を示すものとして甲第2及び第3号証を引用し「イネーブル装置」として「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作装置」の語義、「イネーブル機器」として「始動制御とともに使う手動操作機器であり、継続操作したとき機械の運転が可能となる」の語義、などが定義付けされていると主張する。
しかしながら、それらを見る限り、甲第2号証の2及び3並びに甲第3号証の1ないし7において「イネーブル装置」又は「イネーブル機器」の語義は掲載されているとしても、同頁に「イネーブル」「ENABLE」の語について、その語義が定義されている事実は見られない。
そこで、「イネーブル」「ENABLE」単独の語の語義を調べてみるところ、請求人も引用している「JIS工業用語大辞典」には「イネーブル」として「作動状態」の語義が、「情報技術用語大事典」では「イネーブルenable」として「ある機能やある装置が選択されて使用可能となること」の語義が、「インタープレス版 科学技術35万語大辞典【英和編】」には「enable」として「使用可能にする/できるようにする/能力を与える/割込可能にする」などの語義が、「理工学辞典」には「イネイブルenable」として「システムやプログラムおよび通信制御装置などを使用可能にすること」の語義が、「小学館ランダムハウス英和大辞典」では「enable」として「できるようにする/…する力を与える/…する資格を与える/可能にする/容易にする」という語義がそれぞれ定義付けされ、掲載されている(乙第1号証の1ないし5)。
以上の事実から、請求人の引用する「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作スイッチ」などの語義は、「イネーブル装置」又は「イネーブル機器」というそれぞれの語句の語義として定義されているものであり、一方「イネーブル」「ENABLE」単独の語としては、前記のような語義の定義付けはどこにも見ることができず、別に「作動状態」や「使用可能にする/できるようにする/能力を与える/割込可能にする」の語義が明確に定義されている。
これよりすれば、「イネーブル」「ENABLE」の語義が「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作」であるという語義に特定して認識されるとは言い得ない。
(2)「イネーブル」なる語の具体的使用例
(ア)特許公報等
請求人は、その引用する特許公報等(甲第4号証の1ないし102)について、『「イネーブル」なる語が使用されている特許公報等を探したところ、…「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」を表す言葉として、それぞれ「イネーブルスイッチ」なる語を用いて明細書を記載していることが判明した。』と論じるところ、甲第4号証の1ないし102にわたる102件の特許公報等に「イネーブルスイッチ」なる語が含まれていることは確かである。
しかしながら、甲第4号証の1ないし102を検証する限り、それぞれの「イネーブルスイッチ」という語は、必ずしも「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という意味をもって使用されているとは言いきれないと思われる。以下に根拠を論じる。
(a)甲第4号証の1における「…行わせるための重ね合わせイネーブルスイッチ」「…手段は該同期割込みイネーブルスイッチ」なる使用例は、日本語として若干の不自然さを感じさせるものであり、そこに「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という語義を当てはめれば、なおさら解釈に違和感を感じさせるものである。被請求人の思うところ、この公報は米国出願の翻訳であることを考慮に入れると、英文翻訳の過程において「イネーブルスイッチ」という言葉に置き換えられてはいるものの、それはそれぞれ単に「enabling」という英単語の翻訳であり、その前後の語句と合わせて「…行わせるための重ね合わせを可能にするスイッチ」「…手段は該同期割込みを可能にするスイッチ」と解釈することが自然と思われる。
すなわち、翻訳上、片仮名表記により「イネーブルスイッチ」という語が抽出され使用されているとしても、それは単に英単語を片仮名表記したに過ぎず、その内容は「…を可能にする」の意味と捉えて理解すべきものであり、それらが請求人の主張するように「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という意味をもって使用されているとは考え難いのである。このことは甲第4号証の3・5・7・11・14・15・25・67・73・101における「イネーブルスイッチ」の語の使用例においても同様である。
(b)甲第4号証の4における「イネーブル/ディセーブルスイッチ」なる使用例は、「イネーブル」と「ディセーブル」が反対の意味を持つ英単語「enable」「disable」を片仮名表記したものであり、その2つの語を「/」で対比させながら記載しているところ、それは反対語を並列して「可能/不可能」という意味を表していると捉えるのが自然であり、これを「イネーブルスイッチ」についてのみ抽出し「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という意味をもって使用されていると理解するのは著しく不自然であると言わねばならない。このことは、甲第4号証の25・33・36・99における「イネーブルスイッチ」の語の使用例においても同様である。
(c)甲第4号証の5における「イネーブルスイッチ」なる使用例は、その前後の文脈全体から読み取れば、正しくは「イネーブルスイツチング入力信号」を一単語として捉えるべきところ、請求人がその一部である「イネーブルスイッチ」の語のみをマーカーしているものである。同じく甲第4号証の66における「イネーブルスイッチ」なる使用例も、前後の文脈から読み取れば、正しくは「ローイネーブルスイッチ」を一単語として捉えるべきものである。
このように文章上本来意図されている一単語の一部分にすぎない「イネーブルスイッチ」だけを抽出し、その部分が独立して「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という意味をもって使用されていると理解するのは著しく不自然であると言わねばならない。この場合、文章上本来意図されている一単語をひとつのまとまりとして、そこから解釈される意味において理解することが適当である。このこのことは、同じく甲第4号証の3・6・7・9・11・14・15・17・20・21・26・27・29・30・43・67ないし70・73・75・82・86ないし89・93・94における「イネーブルスイッチ」の語の使用例においても同様である。
以上からすれば、特許公報等中のそれぞれの「イネーブルスイッチ」という語は、必ずしも「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という意味をもって使用されているとは限らないことが明らかである。
(イ)インターネット上における使用例
請求人の示す「イネーブルスイッチ」の検索による211件というヒット件数は、2004年3月5日現在のものであり、本件商標の登録査定時である2002(平成14)年当時の件数ではない。しかしながら当時の検索ヒット件数が皆無であるとは断定できず、「イネーブルスイッチ」の語が世間一般に広くとは言えずとも、業界内では使用されていたかもしれないことは否定できないものである。ではあるが、同時に、それらが「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という意味をもって使用されていたことも断定できないものである。
(ウ)被請求人による使用様態
請求人の示す被請求人の使用様態について、被請求人は答弁しない。
(3)本件商標が自他識別力を有するか否か
(ア)本件商標は、欧文字「ENABLE」を横書きして構成され、その指定商品を「配電用又は制御用の機械器具」とするものである。
請求人は「『イネーブル装置』に明確な定義付けがされており、『イネーブルスイッチ』を使用する取引者が多数存在することに徴すれば、取引者間では『イネーブル』の語義を『あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする』と認識し、本願商標をその指定商品に使用しても、需要者はこれを『あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための配電用又は制御用の機械器具』と理解するにとどまり、イネーブルなる語が自他識別力を有しているとは到底思えない」と主張する。
確かに、辞書等掲載例において「イネーブル装置」に明確な定義付けがされている事実、特許公報等の中には「イネーブルスイッチ」という語が「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」の語義において使用されているものがあるかもしれない事実、登録査定当時のインターネット上におけるヒット件数が皆無であるとは言いきれない事実、などの存在があり、「イネーブルスイッチ」の語が世間一般に広くとは言えずとも、少なくとも業界内では「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という語義をもって認識されていたかもしれないことは否定できない。
(イ)しかしながら、既に述べてきたように「イネーブル装置」とは別に「イネーブル」「ENABLE」そのものの語において他の明確な定義付けがされている事実、また、「イネーブルスイッチ」という語がいつも必ずしも「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」という語義を意図して使用されているのではなく、それぞれの文脈に見合った「…を可能にする」などの単なる英単語としての意味として使用されている事実、なども多数存在する限り、「イネーブル」「ENABLE」なる語が、いつも直ちにすべての取引者間において「イネーブル装置」「イネーブルスイッチ」の語義と通じ「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」なる語義として認識されているとは言うことができない。
(ウ)また、請求人の示す甲第4号証の12及び13においては「イネーブルスイッチ」の語のあとに「ES」と記載されており、甲第4号証の49においては「イネーブルスイッチ」の語のあとに「(ENSW)」と記載されており、また甲第4号証の50ないし64においては「イネーブルスイッチ」の語のあとに「(EN-SW)」と記載されている。
このように、「イネーブルスイッチ」の語を略して記載する場合においては必ず「イネーブル」と「スイッチ」の語をそれぞれ表す文字を含んで略されており、それを切り離して「イネーブル」のみを略語として使用している例は見受けられない。つまり、「イネーブルスイッチ」の語の語義はある程度認識されていたとしても、その語義を意味しようとすれば、必ず「イネーブル」と「スイッチ」の語を一連とした「イネーブルスイッチ」という一単語として使用する必要があると認識されており、単に「イネーブル」の語のみでは「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」と同様の意味を認識させることはできないのである。
(エ)さらには、請求人の主張するように英語「ENABLE」なる語はわが国でも馴染まれた平易な英単語であり、「イネーブル」がその英単語に通じることが明らかであればこそ、「イネーブル」「ENABLE」の語からは、その英単語がもつ語義である「できるようにする/…する力を与える/…する資格を与える/可能にする/容易にする」という意味こそがより馴染み深く、需要者においてもそのような意味を自然と認識すると考えるべきである。
(オ)請求人は本件商標が商標法第3条1項3号に違反して登録されたものであると主張するところ、その主旨は「イネーブル」「ENABLE」なる語が商品の品質を表示するに過ぎないから無効となって然るべき、というものであると思料する。
しかしながら、被請求人がこれまで述べてきたように、本件商標は「できるようにする/…する力を与える/…する資格を与える/可能にする/容易にする」という意味において自然に認識されるところ、その意味においては、それが直ちに具体的な商品の品質・機能を直接的に表すものとして認識され理解されるとは言えず、商標法第3条第1項第3号に違反しているものではない。
例えば、商標登録第4447137号「RESET」については、「JIS工業用語大辞典」において明確に「リセットスイッチ」の定義付けがされており、また、「情報技術用語大事典」においても「リセットボタン」「リセットレバー」などの定義付けが明確にされているにもかかわらず、この登録例が指定商品「配電用又は制御用の機械器具」その他について存在していることからしても、特許庁審査においては「RESET」の語がいつも直ちに「リセットスイッチ」等の語義に結びついて認識されるものではないと判断され、「RESET」単独の語義のみではそれが直ちに具体的な商品の品質・機能を直接的に表すものではないと判断されているものと窺えるところである(乙第2号証の1ないし3)。
2 商標法第4条第1項第16号該当について
上述の如く、本願商標は「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にする」という意味がいつも直ちにすべての取引者間において認識されるものではなく、むしろそれ以上に一般的に「イネーブル」「ENABLE」の語の語義である「できるようにする/…する力を与える/…する資格を与える/可能にする/容易にする」という意味が自然に認識されるものであるところ、そのような意味を認識させる本件商標は、直ちに具体的な商品の品質・機能を直接的に表すものではなく、したがって需要者において商品の品質の誤認を生じさせるものではなく、商標法第4条第1項第16号に違反しているものではない。
3 結 語
以上のように、本件商標は指定商品の「品質」「効能」等を間接的に表示するものに過ぎず、そのため商品の品質の誤認を生ずるおそれのあるものでもない。
したがって、本件商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものとして、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきことを求める本件審判の請求は、成り立たない。

第4 当審の判断
請求人は、本件商標は単に商品の品質を表示するにすぎず、自他商品の識別力を有しないものであり、かつ、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるから、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当する旨主張しているので、この点について以下に検討する。
1 商標法第3条第1項第3号該当について
本件商標は、上記第1のとおりの構成からなるところ、「ENABLE」の文字は、元来「...できるようにする」を意味する英語であり、「イネーブル」と表音されるものである。
ところで、請求人の提出に係る甲各号証によれば、本件商標の指定商品を取り扱う分野においては、「イネーブル装置」ないしは「イネーブルスイッチ」と呼ばれる商品が存在していること、「イネーブル装置」は、「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作装置」をいうものとされていること(甲第2号証の1ないし3、甲第3号証の1ないし7)、また、「イネーブルスイッチ」の語は、「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするためのスイッチ」の意味合いで公開特許公報を初め、インターネットの各社ホームページ等において普通に使用されていることが認められる(甲第4号証の1ないし102、甲第6号証の1ないし6、甲第7号証の1ないし7)。
なお、甲第8号証によれば、被請求人も、その商品カタログにおいて、「イネーブル装置」及び「イネーブルスイッチ」の語を記述的に使用していることが認められる。
しかして、本件商標の指定商品は、「配電用又は制御用の機械器具」であり、上記「イネーブルスイッチ」を初めとするスイッチを含むものであることは明らかである。また、スイッチは上記「イネーブル装置」の範疇に属するものといえる。
そうすると、本件商標の指定商品を取り扱う分野においては、上記のとおり「イネーブル」と表音される本件商標から上記「イネーブル装置」ないしは「イネーブルスイッチ」が連想、想起されることは想像に難くないというべきである。
そして、本件商標をその指定商品、とりわけ「イネーブル装置」ないしは「イネーブルスイッチ」に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、該商品が「イネーブル装置」ないしは「イネーブルスイッチ」としての機能、品質を有するものであることを表示したものと認識し理解するに止まり、自他商品の識別標識としては認識し得ないものというべきである。
この点に関し、被請求人は、「イネーブル」及び「ENABLE」の語のみでは、「作動状態」、「使用可能にする/できるようにする/能力を与える/割込可能にする」等の語義が定義付けされており(乙第1号証の1ないし5)、「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作」という語義に特定して認識されるとはいい得ないと主張している。
確かに、「イネーブル」及び「ENABLE」の語自体が「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作」という厳密な定義付けがされていることを示すものはない。
しかしながら、ある商標が自他商品の識別力を有するか否かは、その商標が使用される商品との関係を抜きにして判断することができないのは当然である。然るに、上記のとおり、本件商標の指定商品の分野においては、「イネーブル装置」、「イネーブルスイッチ」と呼ばれる一群の商品が存在しており、これらの商品は本件商標の指定商品に含まれるのであるから、本件商標が「イネーブル装置」、「イネーブルスイッチ」等に使用された場合には、当業者が「イネーブル装置」の機能である「あらかじめ定められた動作位置に保持されている間に限り、ロボットの作動を可能にするための手動操作」の意味合いを認識し理解するであろうこと明らかというべきである。よって、被請求人の主張は採用することができない。
したがって、本件商標は、商品の品質、機能を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきであるから、商標法第3条第1項第3号に該当するものである。
2 商標法第4条第1項第16号該当について
本件商標の指定商品には「イネーブル装置」及び「イネーブルスイッチ」以外の商品が含まれているから、それらの商品に本件商標が使用された場合には、該商品が「イネーブル装置」ないしは「イネーブルスイッチ」としての機能を有する商品であるかの如くその品質について誤認を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものである。
3 まとめ
以上のとおり請求人の主張には理由があり、結局、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-11-09 
結審通知日 2004-11-10 
審決日 2004-11-29 
出願番号 商願2001-34414(T2001-34414) 
審決分類 T 1 11・ 272- Z (Z09)
T 1 11・ 13- Z (Z09)
最終処分 成立  
特許庁審判長 山田 清治
特許庁審判官 岩崎 良子
小林 薫
登録日 2002-05-31 
登録番号 商標登録第4573045号(T4573045) 
商標の称呼 イネーブル、エナブル 

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