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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない 029
管理番号 1103319 
審判番号 無効2003-35429 
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-10-09 
確定日 2004-09-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第4201000号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標登録の無効の審判
1 本件商標
本件商標登録の無効の審判に係る、登録第4201000号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲に示すとおりの構成よりなり、平成8年7月31日に登録出願され、第29類「豆腐」を指定商品として、平成10年10月16日に設定登録されたものである。
2 本件商標登録の無効の審判
本件商標登録の無効の審判は、本件商標が商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるとして、同法46条により本件商標の登録を無効にすることを請求するものである。

第2 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の登録の無効理由に引用する登録第4055867号商標(以下「引用商標」という。)は、平成7年6月21日に登録出願され、「絹揚げ」の文字を横書きしてなり、第29類「肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,卵,加工卵,カラー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」を指定商品として、平成9年9月12日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁の理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第11号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標は、商標法4条1項11号に該当するものであるから、同法46条1項1号により、その登録を無効とされるべきものである。
1 本件商標と引用商標との類否
(1)本件商標は、「京みやび」、「絹あげ」、「豆腐」、「絹あげやっこ」その他の文字及び図形からなるものであるが、これを構成する各語のうち「豆腐」の語が指定商品そのものを表すものであり、その他の「懐石仕立ての」、「新しいおいしさ。」、「上品でなめらかな」、「絹ごしの食感を、」、「季節のお料理で」「お楽しみください」の文字は、商品の品質や特徴を説明する語であり、自他商品を識別する機能を有しない。
また、背景として表された図形も自他商品識別力を有するものではない。
してみると、本件商標にあって自他商品識別力を有する構成要素は「京みやび」、「絹あげ」及び「絹あげやっこ」の文字であると判断する。
(2)上記のように本件商標にあって自他商品識別力を有する構成要素は「京みやび」、「絹あげ」及び「絹あげやっこ」の文字であると判断できるのであるが、このうち「京みやび」は行書体により四角い枠の中に白抜き文字で表されているのに対し、「絹あげ」の文字は著しく大きく、多少図案化された筆記体で目立つように表されている。また「絹あげやっこ」の文字は商標全体の下端部に離して、目立たないように表されている。これらの表示方法及び表示位置からみると「京みやび」、「絹あげ」及び「絹あげやっこ」の文字はいずれも切り離されて認識されるものであり、これらをいずれか他の文字と一連なものとして見ることは不自然である。これを要するに、「京みやび」、「絹あげ」及び「絹あげやっこ」の文字はいずれも独立して本件商標の要部として認識されうるものである。
なお、これらの本件商標の要部と目される文字のうち、「絹あげやっこ」にあって「やっこ」の文字は「奴」に通じ、豆腐の料理方法の一種として知られているところから、「絹あげやっこ」の文字にあって自他商品識別力を有するのは「絹あげ」の部分に限られると判断する。
(3)本件商標の要部として認識されうるこれら「京みやび」、「絹あげ」及び「絹あげやっこ」の文字は、明らかにそれぞれ「キョウミヤビ」、「キヌアゲ」及び「キヌアゲヤッコ」の称呼をもたらすものである。
(4)他方、引用商標はゴシック体で「絹揚げ」の文字を横書きした構成のものであり、これが「キヌアゲ」の称呼をもたらすものであることも明らかである。
(5)従って、本件商標はその要部のうち「絹あげ」及び「絹あげやっこ」の称呼は、引用商標の称呼と同一もしくは類似するものである。また本件商標の指定商品が引用商標の指定商品と同一もしくは類似するものであることは明らかである。
(6)なお、被請求人は、本件商標にあって「絹あげ」の語は商品の普通名詞であり、従って自他商品識別機能を有する要部ではないと反論するかもしれないが、その論について請求人は下記の通り主張する。
(ア)まず、指摘したいのは、「絹あげ」もしくは「絹揚げ」なる語は請求人が知る限りでは広辞苑などの国語辞典はもとより、食品についての専門用語辞典にも収録されていないということである。従って、これが特定の商品の普通名詞であるということはない。なおこの事実については甲第1号証ないし同第4号証を参照されたい。
また、引用商標が格別自他商品識別力の有無が問題にされることなく登録されたこともまさしくこの事実を裏付けするものである。
(イ)次に、もしかすると被請求人は請求人もしくは請求人から使用許諾を受けた者以外の者が、ある食品について「絹あげ」もしくは「絹揚げ」なる語を使用している事例がある、と主張されるかもしれないが、それはいずれも請求人の引用商標の存在を知らないで使用しているに過ぎない。即ちそのような使用が引用商標に係る商標権を侵害する行為であることはいうまでもない。
従って、そのような違法行為を例に挙げて「絹あげ」もしくは「絹揚げ」なる語がある食品の普通名詞であるという主張を正当化しようとすることが不当であることは極めて明らかである。
2 弁駁の理由
(1)被請求人の、引用商標「絹揚げ」は自他商品識別力を持たず、本件商標と引用商標とは非類似であるとの主張について
(ア)被請求人は、引用商標「絹揚げ」は「豆腐」については自他商品識別力を持たないと主張し、証拠として乙第3号証ないし同第10号証を提出している。
しかし、これらの書証はいずれも極めて最近のインターネットのホームページの写もしくは現物の包装などの写であって、引用商標が出願された当時の事実を示すものではない。
また、たとえ第三者が「絹あげ」もしくは「絹揚げ」なる語を引用商標の指定商品につき使用している事実があるとしても、それは引用商標に対する権利侵害行為にほかならないから、そのような違法行為をもって引用商標が自他商品識別力を欠くと即断することが不当であることはいうまでもない。
従って、引用商標はその出願時点においてすでに特定の商品を指すものとして一般的に使用されていたとの被請求人の主張は根拠がない。
(イ)他方、被請求人は、被請求人の商品に付された「絹あげ」は引用商標が出願される前からすでに一般消費者に十分周知され、著名商標となっていたと主張し、乙第1号証を提出している。これを換言すれば、被請求人は「絹あげ」は被請求人が使用している商標である、と主張しているのである。
ところが一方、被請求人は本件商標に見られる「絹あげ」は商品の内容ないしは品質を表示するものであり、自他商品を識別するものではないと主張し、乙第11号証及び同第12号証を提出している。
しかしこれらの主張が互いに矛盾することはいうまでもない。
なお、被請求人の商標「絹あげ」が、引用商標が出願される前から被請求人により商標として使用されていたのか、更にはそれが著名商標となっていたかについては、被請求人が提出した証拠からは認めることができない。
即ち、乙第1号証には「絹あげ」が被請求人の商品名欄に掲載されているが、他社の同商品名欄には商品の普通名詞のほかに、明らかに商標とおぼしい記載が多数見うけられる。たとえば乙第1号証の1によれば「茶福豆」(順位3)、「コカコーラ」(順位35)、「キットカットスティック」(順位36)、「四姉妹物語」(順位58)等など、枚挙にいとまがないほどである。
従って、これに掲載されているからといって、「絹揚げ」の語が当時「商標」として(または「普通名詞」として)使用されていたという論拠にはならない。
(ウ)なお上述のように被請求人は極めて最近のインターネットのホームページの写もしくは現物の包装などの写を乙第3号証ないし同第10号証として提出し、引用商標「絹揚げ」は「豆腐」について特定の商品を指すものとしてあたかも現在においても一般的に使用されているかの如くに主張しているが、この答弁書を受領した後に請求人が実際の市場(コンビニエントストア、スーパーマーケットなど)において購入、入手した「揚げた厚揚げ」の包装紙もしくは包装箱写を甲第5号証(その1ないし、その7)として添付する。
このように、これらに表示されている品名は「絹あげ」(甲第5号証の1)、「絹厚あげ」(甲第5号証の2)、「きぬなまあげ」(甲第5号証の3)、「なまあげ」(甲第5号証の4)、「生揚げ」(甲第5号証の5、同6)、「絹生あげ」(甲第5号証の7)などであり、甲第5号証の1以外には「絹あげ」もしくは「きぬあげ」の表示は見られない。
上記のように甲第5号証の1にあっては例外的に「絹あげ」の表示が「品名」として用いられているが、その包装袋をよく見ると「品名」のほかに「名称」の欄があり、そこには「厚あげ」と明記されている。してみるとこの商品を製造している者は「絹あげ」を商標としてとらえ(かかる表示が請求人の引用商標の商標権を侵害するかどうかはさておいて)、それを「品名」として表示し、他方その商標が使用される商品は「厚揚」であるとの認識のもとに「名称」の欄に「厚あげ」と別途記載したと類推して間違いはないだろう。即ち、この事例にあっても商品の製造者はその商品の一般的な名称は「厚あげ」であると認識してかかる表示をなしたとしか考えられず、さもなければ「名称」の欄を設けて「厚あげ」と表示している理由が説明つかないのである。従って甲第5号証の1の事例にあっても「絹あげ」の表示は特定の商品の普通名詞もしくは品質を表示する語としては用いられていないのである。
ところで、この甲第5号証の1として提出する包装紙は、いみじくも「絹あげ」なる語が特定の商品の普通名詞もしくは品質を表示する語として用いられている旨を主張された被請求人が、その証拠の一つとして提出された乙第6号証が示す件外株式会社手造り屋の製品にほかならず、この事実から見ても単にホームページ上の用例をもって、ある語が特定の商品の普通名詞もしくは品質を表示する語として、世間であたかも普通に用いられているかの如くに即断することが、如何に事実を見誤るかを如実に示す事例であると言える。
(エ)請求人は、上記甲第5号証の1における使用をしている件外株式会社に対し、「絹あげ」の使用中止を申し入れたところ、同人は使用を中止した(甲第8号証ないし同第11号証)。
この事実は、引用商標の有効性を示すものにほかならず、被請求人の主張は根拠がない。
(オ)以上で明らかとなった事実は、本件引用商標がその出願時点はもとより現在においても特定の商品を指すものとして一般的に使用されている事実はなく、また本件商標にあって「絹あげ」の部分はやはり要部として認識されるべきであるとの事実である。
してみると「本件商標と引用商標とは非類似である」との被請求人の主張が失当であることは明らかである。
(2)被請求人の、本件審判請求は信義誠実を欠く権利濫用に亙るとの主張について
(ア)被請求人は、本件審判請求は信義誠実を欠く権利濫用に亙るものであり、不適法な請求であると主張し、その論拠として請求人による引用商標の不当性、過去の当事者間の交渉の経緯などを縷々述べている。
(イ)即ち、被請求人は、請求人が引用商標を登録したことが不当であったと主張するが、既に述べたように、引用商標がその出願時点においてすでに特定の商品を指すものとして一般的に使用されていた事実はないのであるから、かかる主張は根拠のないものである。
(ウ)また、被請求人は、当事者間の交渉経過を云々した上で本件審判請求は信義誠実を欠くと批難しているが、この間の請求人の行為は何ら非難されるものではない。
3 結語
以上、本件商標は引用商標に類似し、またその指定商品も引用商標の指定商品と同一もしくは類似であるから、本件商標は商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものである。
よって、請求の趣旨の通りの審決を求めるものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第17号証(枝番を含む。)を提出した。
本件審判請求は、以下に述べる理由により却下されるべきである。
理由1 本件商標と引用商標とは非類似である
理由2 本件審判請求は信義誠実を欠く権利濫用に亘るものであり、不適 法な審判請求として却下されるべきものである。
1 本件商標と引用商標との非類似性
審判請求人は、本件商標と請求人の引用商標とを比較し、双方の商標は「絹揚げ」、「絹あげ」において共通するから類似すると主張している。
しかしながら、本件商標は、請求人の引用商標とは非類似として登録されたものである。これは以下に述べるように、「絹揚げ」なる文字は「豆腐」に対しては顕著性を欠くことからくるものである。
以下にその根拠となる理由を述べる。
(1)「絹揚げ」は「豆腐」に対しては顕著性を持たない。
(ア)請求人が本件審判の無効理由の根拠として引用商標「絹揚げ」は、「油で揚げた絹豆腐」を指す商品名として、引用商標が出願(平成7年6月21日)される前から、被請求人により日本各地で大々的に販売されてきたものである。すなわち、乙第1号証の1ないし8に示すように、被請求人の「絹あげ」は、引用商標が出願される前の平成2年2月21日に市場に登場すると同時に需要者からの絶大の好評を得、「豆腐」は日本の伝統的な大衆食品であることと相まって、「絹あげ」の名称は一般消費者間に上記商品を指すものとして広く認識されたのである。
(イ)「絹揚げ」についての由来は、後述の(3)「絹揚げ」の由来の項で述べるように、最初は関西方面(奈良所在)の豆腐業者により、絹豆腐の二次加工方法が研究され、絹豆腐を油で揚げて商品化しており、これが昭和62年頃にすでに「絹揚げ」として販売されていた。被請求人は、昭和62年に「絹揚げ」を商品化する方針を立て、奈良の業者による「絹あげ」を参考にし、独自の開発方法を検討した結果、平成2年に本格的な高品質の「絹あげ」の商品化に成功し、これを同年7月に市場に登場させるや、需要者からの絶大な好評を得て、瞬く間に全国的商品へと急成長したものである。「絹揚げ」は、被請求人以外にも様々な業者によって製造販売が試みられていたが、本格的な高品質の商品に仕立てたのは被請求人である(乙第1号証の1ないし8)。
なお、被請求人の「絹あげ」は、平成2年7月東北地方で販売開始して以来、平成5年5月には東京を含む関東一円で大々的に販売され、現在の販路は北陸中部まで拡大している。
(ウ)乙第1号証の1ないし8(平成7年3月4日から平成7年4月22日にかけての日経流通新聞)は、「新製品売れ行き週間ランキング」に被請求人の「絹あげ」がランキングされていることを示す記事である。被請求人の「絹あげ」は13週連続してランキングされている。
(エ)上記の日経流通新聞における「新製品売れ行き週間ランキング」は、その調査方法の記載からも明らかなように全国調査であり、被請求人の「油で揚げた絹豆腐」が「絹あげ」の名称で、本件引用商標が出願される前より、すでに一般消費者に十分周知され、著名商標となっていた事実を物語るものである。
(オ)乙第2号証は、被請求人の「絹あげ」の現実の使用を示すラベルで、これは最近のものであるが、発売開始以来(平成2年7月)ほぼ同じ形態で使用されてきている。
(カ)さらに、乙第3号証乃ないし同第10号証は、被請求人以外の業者による「絹揚げ」の使用例を示すもので、これら証拠からも明らかなように「絹揚げ」は、被請求人を筆頭としてそれ以外の様々な豆腐業者、食品業者によっても「油で揚げた絹豆腐」を表すものとして、引用商標が出願される前より製造され、販売されていたのであって、日本各地の有名スーパー、食料品店の豆腐売り場をみても必ず、何社かによる「絹あげ」と普通に表示した「油で揚げた絹豆腐」を目にするところである。乙第11号証、同第12号証は、被請求人による「絹あげ」の一般商品名としての使用例を示すものである。
従って、本件引用商標は、その出願時点においてすでに上記商品を指すものとして一般的に使用され、消費者にも広く知られた一般的な商品名だったのである。
(2)本件商標の要部
以上のことから、被請求人所有の本件商標は、中央に大きく「絹あげ」の文字があるが、これは正に本件商標が使用される商品の内容ないしは品質表示をしているものであり、「絹あげ」の文字をもって他の商品との識別をしているものではない。使用される商品も一般消費者に広く知られた「絹揚げ豆腐」そのものである。
従って、被請求人の本件商標にあっての顕著性と要部は、「京みやび」の文字、中央に大きくややデザイン的に表示した「絹あげ」の文字、そして、さらに「豆腐の図形」等を調和良くデザイン的にまとめ上げた全体的構成にあるのである。
(3)「絹揚げ」の由来
「絹揚げ」の由来について、被請求人が理解しているところを述べれば以下の通りである。
(ア)「絹ごし豆腐」は「木綿とうふ」と異なり、二次加工が難しい。従って、「絹とうふ」が余った場合にその処分方法が悩みの種だった。そこで、最初に関西地方において、「絹とうふ」の余り物を冷蔵庫に保管し、水を切ってから油で揚げるということが行われた。
これが以外に評判が良く、「絹揚げ豆腐」として好評となり段々と商品化されるようになった。これを参考として、本格的な「絹揚げ」が被請求人によって商品化され、平成7年3月には、日経流通新聞の「新製品売れ行きランキング」等でも取り上げられ、13週連続してランキング入りするほどの成長をしたのである。
(イ)従って、「絹揚げ」は本件引用商標が出願(平成7年6月21日)されるよりずっと前から存在し、被請求人が本格商品に仕立てる一方において、他の業者も「絹揚げ」を製造販売していたのである。ただ、上述のように絹豆腐を二次加工し、商品化するにはかなりの技術力を要するため、全ての豆腐業者が本格的に製造販売できるというものではないというだけのことである。これが、被請求人が理解する「絹あげ豆腐」の由来である。
(4)「絹あげ」とは「厚揚げ」に対する自然発生称呼である
(ア)「絹揚げ」は従来から知られている「厚揚げ」、「生揚げ」等に対し、「絹豆腐」の「厚揚げ」であることを示すための呼称として自然発生的に生じた自然称呼である。従って、このような自然称呼について、たまたま商標登録出願がされていなかったからといって、これを奇貨として事後的に独占権を得ようとするのは商標法本来の保護目的から外れたものであり、かかる商標は商標法の目的に逆行するものと言わねばならない。
(イ)請求人は、「絹揚げ」なる語句は辞書に掲載されていないなど主張している(甲第1号証ないし同第4号証)が、ある商標が識別力を有するか否かは辞書等に掲載されているか否かの学術的問題ではなく、市場における取引者、需要者の意識、認識の問題であって現実的な事実問題である。
(ウ)なお、被請求人の本件商標は、請求人の引用商標出願時(平成7年6月21日)にはすでに、周知・著名商標であったことは疑いのない事実であるから(乙第1号証の1ないし8)、もし、「絹あげ」の文字そのものに顕著性が認められるとするならば、請求人の引用商標こそ被請求人の著名商標(本件商標)の存在により登録性が否定され、無効にされるべき商標である。
2 不適法な審判請求(信義則違反と権利濫用)
本件審判請求は、本来登録を受けるべき資格のなかった商標が、先願主義の結果登録されたものであり、本件審判はかかる登録に基づいてのものである。しかしながら、係る商標に基づき既に業者間、一般消費者間において一般的商品名として定着している名称に対し独占権を行使するのは、取引の安全を崩し法律全てに通ずる信義誠実に違反し権利濫用となる。
よって、このような登録に基づく本件審判請求は商標法が予想する保護目的から大きく逸脱したものであって、不適法な審判請求として却下されるべきである。

第5 当審の判断
1 本件審判請求は不適法であるとの被請求人の主張について
被請求人は、本件審判請求は信義則違反と権利濫用によるものであり、商標法が予想する保護目的から大きく逸脱したものであって、不適法な審判請求として却下されるべきである旨主張している。
しかしながら、両当事者の主張の全趣旨及び提出された甲・乙各号証に照らしても、本件審判請求が、商標法56条で準用する特許法132条の2あるいは135条の規定に反しているとの事実・事情は認められない。
また、本件審判請求に係る行為が信義誠実に違反し権利濫用であるとすべき理由はない。
よって、本件審判請求は、これを却下すべき違法性はない。
2 本案の審理
本件商標と引用商標の構成は、それぞれ前記したとおりであるところ、本件商標は、いわゆる色彩を施してなる全形商標といえるものであり、最上段には、紫色の長方形内に白抜きで「京みやび」と表示してなり、その下に大きく「絹あげ」と表し、さらに、その下部の左側には商品説明と認められる小さな文字を「懐石仕立ての」「新しいおいしさ。」「上品でなめらかな」「絹ごしの食感を、」「季節のお料理で」「お楽しみください。」と6段に横書きし、その右側には下部を少し欠いた赤色の円内に白抜きで「豆腐」の文字を書し、これらの下部に器に盛りつけた商品写真と認められるカラー写真を大きく配し、最下部には「絹あげやっこ」の文字を小さく表示してなるものである。
しかして、かかる構成態様においては、これに接する取引者・需要者は、上部に書された「絹あげ」の文字は、商品説明中の「〜上品でなめらかな 絹ごしの食感を、〜お楽しみください。」の表記及び、中央部の大きな「厚揚げ豆腐」と思しき商品写真等からして、この商品が「油で揚げた絹ごし豆腐」であることを表した部分として認識するとみるのが自然であり、該「絹あげ」の文字部分は、本件商標にあっては自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないもので、ここから生ずる「キヌアゲ」の称呼をもって、取引に資されることはないと判断するのが相当である。
そして、これを裏付ける証拠の一例として、製造年月日を、本件商標の登録前である「03.08.07」とする本件と同じ商品と認められる商品の包装袋(乙第2号証)が請求人より提出されている。
この左上部には、「絹あげ」の文字が大書され、右側に「クリーミーな絹ごしを」「うす皮がはる程度に」「サッとフライした」「お豆腐です」との表示がされており、また、下部の「品名」欄には「きぬあげ(豆腐類)」と表示されていることが認められることから、ここにおける「絹あげ」の文字も、本件商標の場合と同様に「油で揚げた絹ごし豆腐」であることを意味するものとして表示されていたとみるのが相当である。
また、乙第10号証においても、製造年月日を「03.11.29」とする、名称「絹厚揚げ」の商品について「絹あげ」との表示がされていることが認められる。
そうとすれば、本件商標構成中の「絹あげ」の文字は、その商品が「油で揚げた絹ごし豆腐」であることを示すための、商品の品質を表示したものと認識されるというべきであり、この文字部分が本件商標において自他商品の識別機能を果たしているということはできない。
また、最下段に小さく書された「絹あげやっこ」の文字部分は、前記の器に盛りつけた写真及び商品の説明等からして「油で揚げた絹ごし豆腐をやっこ(豆腐)」風に器に盛り付けたことを端的に表現したものと看取し得るものである。
さらに、請求人の申し入れにより件外株式会社が「絹あげ」の語の使用を中止した事実があるとしても(甲第8証ないし同第11号証)、そのことにより、本件商標構成中の「絹あげ」の文字は自他商品識別標識としての機能を果たし得ないとの、上記の認定・判断を左右するということはできない。
してみると、本件商標は、目立つ最上部に紫色の長方形内に白抜きで「京みやび」と表示された部分が、他の文字及び図形(商品写真)等とは視覚的に分離され、また、語義的にも何ら関連性がなく、独立して自他商品識別標識としての機能を果たす要部と認められるものである。
そうすると、本件商標において、「京みやび」の他、「絹あげ」の文字が独立して自他商品識別力を有するとして、その上で、本件商標と引用商標とが類似するものであるとする請求人の主張は採用することができないものである。
それゆえ、本件商標より生ずる称呼は「キョウミヤビ」のみであって、引用商標より生ずる「キヌアゲ」の称呼と比較しても何ら称呼上、相紛れるおそれはなく、さらに、両商標の構成上の顕著な差異よりすれば、両者は外観・観念においても十分に区別し得るものと認められる。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれからみても非類似の商標といわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項11号に違反して登録されたものではないから、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別掲】
本件商標


(色彩については、原本を参照されたい。)
審理終結日 2004-07-08 
結審通知日 2004-07-09 
審決日 2004-07-21 
出願番号 商願平8-84881 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (029)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 旦 桂子 
特許庁審判長 佐藤 正雄
特許庁審判官 山本 良廣
宮川 久成
登録日 1998-10-16 
登録番号 商標登録第4201000号(T4201000) 
商標の称呼 キョーミヤビキヌアゲトーフ、キョーミヤビ、キヌアゲ、キヌアゲヤッコ 
代理人 清水 徹男 
代理人 吉野 日出夫 
代理人 鈴江 武彦 
代理人 幡 茂良 
代理人 醍醐 邦弘 
代理人 石川 義雄 
代理人 小出 俊實 

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