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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z35
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効としない Z35
管理番号 1099937 
審判番号 無効2003-35216 
総通号数 56 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-05-28 
確定日 2004-05-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第4646871号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4646871商標(以下「本件商標」という。)は、「Name Bank」の文字と「ネームバンク」の文字とを二段に横書きしてなり、平成13年12月10日に登録出願、第35類「広告,トレーディングスタンプの発行,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,職業のあっせん,競売の運営,輸出入に関する事務の代理又は代行,新聞の予約購読の取次ぎ,書類の複製,速記,筆耕,電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作,文書又は磁気テープのファイリング,建築物における来訪者の受付及び案内,広告用具の貸与」及び第42類「商標・商号の評価および診断,商標・商号の選択に関する指導・助言又は相談,著作権又は工業所有権の利用に関する契約の媒介,特許・実用新案・意匠・商標の先行出願データ調査,著作権又は工業所有権の売買契約・質権設定契約の仲介・媒介又は取り次ぎ,著作権・商号又は工業所有権に関する情報の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,美容,理容,入浴施設の提供,写真の撮影,オフセット印刷,グラビア印刷,スクリーン印刷,石版印刷,凸版印刷,気象情報の提供,求人情報の提供,結婚又は交際を希望する者への異性の紹介,婚礼(結婚披露を含む。)のための施設の提供,葬儀の執行,墓地又は納骨堂の提供,一般廃棄物の収集及び分別,産業廃棄物の収集及び分別,庭園又は花壇の手入れ,庭園樹の植樹,肥料の散布,雑草の防除,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),建築物の設計,測量,地質の調査,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,機械器具に関する試験又は研究,通訳,翻訳,施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査,あん摩・マッサージ及び指圧,きゅう,柔道整復,はり,医業,医療情報の提供,健康診断,歯科医業,調剤,栄養の指導,家畜の診療,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,編み機の貸与,ミシンの貸与,衣服の貸与,植木の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,会議室の貸与,展示施設の貸与,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,漁業用機械器具の貸与,鉱山機械器具の貸与,計測器の貸与,コンバインの貸与,祭壇の貸与,自動販売機の貸与,芝刈機の貸与,火災報知機の貸与,消火器の貸与,タオルの貸与,暖冷房装置の貸与,超音波診断装置の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,凸版印刷機の貸与,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・磁気テープその他の周辺機器を含む。)の貸与,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与,布団の貸与,理化学機械器具の貸与,ルームクーラーの貸与」を指定役務として、平成15年2月21日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録は、これを無効にする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第39号証を提出している。
1 請求人
請求人は、代表取締役木通隆行(以下「木通」という)が言葉の音の響き・情緒的機能を研究し、また、これをビジネスの分野に応用、展開するために、平成2年に設立した神奈川県横須賀市所在の有限会社である。
2 商標法第4条1項7号について
(1)商標法第4条1項7号の解釈論
商標法第4条1項7号公序良俗に反する商標には、当該商標を指定商品・役務について使用することが社会公共の利益に反し、あるいは、社会の一般道徳観念に反するような商標が含まれるところ、この社会の一般道徳観念に反するような場合には、「ある商標をその指定役務について登録し、これを排他的に使用することが、当該商標をなす用語等につき当該商標出願人よりもより密接な関係を有する者等の利益を害し、剽窃的である、と評することの出来る場合も含まれる」(東京高裁平成14年(行ケ)第94号)。
(2)本件商標と請求人・音相理論との密接な関係
ア 音相理論とは、木通が長年に渡る研究の成果として作成した言語の著作物である。
その内容は、音声表現上の基本的な構成要素が単独又は組み合わせで有する表情・イメージを統計的手法による分析に基づいて確定・数値化して、所定言語表現の各音相基の各表情・イメージ数値について所定の演算処理することで、該所定言語表現の音声表現全体の表情・イメージを総合し数値的に表現するという理論である。
イ 音相理論が、ことばの音が持っているイメージや響きについて数値的に表現できるということは、ビジネス的には非常に様々な可能性を内包するものである。企業の商標・商品・ブランド名等のネーミング・ビジネスにも応用ができる。
そして、「ネームバンク」という名称は、音相理論の企業の商標・商品・ブランド名等のネーミング・ビジネスを表すことばとして極めて的確であって、その内容を少ないことばで明快に言い表せるものである。音相理論のネーミング・ビジネスは、(ア)企業の膨大な休眠商標等を音相理論で評価して、商標のイメージ付けをしてこれをストックする、そして、(イ)ある企業が求める商標等について、そのイメージに合う商標等を、既に請求人が音相理論で評価してコンピュータにストックしてある商標等の中から見つけ出して貸し出す(売る)という性格を有しているものであり、そのビジネスはまさに名前銀行であるからである。
ウ 「ネームバンク」という名前は、もともと請求人取締役武石哲夫(以下「武石」という)の考案である。すなわち、武石が近い将来開発されるであろうソフトウェアの一商品名、あるいはその商品を販売する会社名として考案していたものである。
請求人にとって、このネームバンクという名称は、営業秘密というべき重要なものであって、音相理論の商標等企業分野へのビジネス展開と不可分・密接な概念と理解していた。
(3)被請求人による本件商標の出願が剽窃であること
ア 請求人と被請求人の共同事業計画が破綻に至る経緯の概括
請求人と被請求人は、平成13年9月頃から、請求人の言葉の音相理論を商標等の企業ビジネス分野に展開するための共同事業を計画していた。
請求人と被請求人の共同事業は、音相理論を駆使して、商標分析ビジネスを行おうとするものであったが、本件商標「ネームバンク」について被請求人が無断で商標出願する等被請求人の様々な背信行為が原因となって、共同事業計画は破綻、終了した。
現在、請求人と被請求人は、その事後処理を巡って裁判になっている(東京地裁平成14年(ヨ)第22116号、同14年(ワ)第21479号)。
イ 共同事業における「ネームバンク」という名称の使われ方
まず、初めて請求人側が「ネームバンク」という名称を被請求人に公式に開示したのは、平成13年9月13日、請求人と被請求人が初めて共同事業についての会談をもったときである。
このとき初めて、被請求人に「ネームバンク」という標章・概念が浸透し、そして、これ以後、請求人・被請求人間の共同事業計画が、請求人・被請求人共通に、ネームバンク事業という名で呼称されていったものである。
ウ 「ネームバンク」について請求人が商標登録する予定であることを被請求人が認識していたこと
「ネームバンク」については、前述のように請求人の商品又は会社の名称として使う予定であった。
そして、「ネームバンク」を商品名称として使うものであり、商標登録する予定であることは被請求人に伝わっている。
すなわち、下記のとおりである。
請求人と被請求人は、共同事業計画と平行して、ネーミングに音相理論を適用するプログラムの開発を共同して行っており、この商品の名称「オンソニック」については、請求人が商標出願、登録した。
そして、この「オンソニック」基本ソフトウェアの派生的・二次的なソフトウェアの名称として、請求人の武石は、「ネームバンク」「ネームラボ」「ネーミックス」「ネーミング・システム」などの名称を被請求人に開示している。武石は、これらの名称について請求人が商品名に使用する意思と計画があることが被請求人に明確に伝えている。請求人がこれらの名称を請求人の商品に使用するのであれば、当然その商品の名称について商標出願することを認識していたはずである。
実際、被請求人は、平成14年4月5日付の請求人に対する手紙において、「『Name bank/ネームバンク』の商標登録申請についてですが、この商標が貴研究所にとって重要であることは重々承知しております。」と述べている。
エ 本件商標出願前後において被請求人の背信行為が連続していること
(ア)共同事業についての基本合意
平成13年9月13日以降、請求人と被請求人は、平成13年11月5日、これまでの交渉経過を踏まえ、(a)請求人は 主に商品の開発を、被請求人は営業を担当することとし、その事業における役割分担割合は半々とする(b)両社の業務提携書も含めて、同年12月1日迄には成約させ契約書に調印する(c)請求人と被請求人を結びつける役割を果たした請求人の客員研究員兼被請求人の社員でもあった黒川伊保子(以下「黒川」という)は、本共同事業を行うについての被請求人の担当者とし、請求人側からは、武石が被請求人の会社内において作業に当たる、などを内容とする共同事業についての基本的な合意がなされた。
(イ)被請求人の背信的な態度・行為
しかし、(a)12月8日の段階において、黒川が被請求人側の担当者としての役職を解任され、以降本共同事業計画からはずされたこと(b)平成13年12月1日までにつくる予定であった業務提携書の作成が行われていないことなど、被請求人は、請求人との基本的合意に反する背信的な態度・行為を連続して示している。その最たるものこそ、平成13年12月10日の本件商標の無断出願である(平成14年3月半ばに発覚し、最終的な共同事業計画破綻を決定づけた)。
(ウ)本件商標出願前後の状況について
以上のように、平成13年11月5日に基本合意がなされた後、平成13年12月頃から被請求人の背信行為が顕在化している。黒川が被請求人側の担当者から外された日付と、本件商標が無断出願された時期はほほ重なっている。その結果、平成14年の1月から3月まで基本ソフトの開発をのぞいて共同事業計画の進行は事実上止まった状況になっていた。
オ 本件商標出願後発覚まで被請求人が商標の出願事実を請求人に秘匿していたこと
平成14年1月13日には、被請求人の取締役松岡は、武石に対し、「商標(法制度)のことは、私たちに任せていただいてけっこうです」と申し向けており、実際は、平成13年12月10日に「ネームバンク」商標を出願していたにもかかわらず、「商標については心配するな」と、虚偽の認識を請求人に与えている。
「ネームバンク」の商標出願については、被請求人の黒川、また、ソフト開発担当の宥免ですら知らなかった。被請求人にとって、無断出願が秘密事項であったことのあらわれである。
以上のように、本件商標出願後発覚まで被請求人が出願事実を請求人に秘匿し、商標について心配するなといったことは被請求人の極めて背信的な態度を示すものである。
カ 請求人が被請求人に対して登録商標移転請求できること
無断出願が明らかになった後、被請求人は「早く出願しなければ押さえられる可能性があると考えてのこと」、「(出願は)第三者に先を越される・・・危険を回避する」ためである等、無断出願がいかにも請求人のためであるかのように言い訳をしている。
危険回避のために被請求人が請求人のために商標登録出願したというのであれば、合理的意思解釈として、あるいは事務管理として請求人から被請求人に対する登録商標移転請求が認められるものである(トロイブロス事件:昭和60年12月20日大坂高裁、エンペラーマーク事件:昭和55年10月28日仙台地裁判決参照)。
また、被請求人としても請求人の要求を断る理由は何もないはずである。
しかし、請求人が再三「ネームバンク」商標の商標権(登録を受ける権利)を移転せよと被請求人に請求しているにもかかわらず、現在まで、全く請求人の移転請求に応じていない。
キ 本件商標について被請求人が排他的使用権を保持することは、請求人の利益を著しく害するものであること
前述したように、請求人は、音相理論をネーミング・ビジネスに展開しようと従前より考えており、これは被請求人との共同事業計画が破綻した後も変わりない。
そして、被請求人が、本件商標を保持している限り、請求人としては、音相理論のネーミング・ビジネスについて、ネームバンクあるいはこれに類した名称でビジネス展開することが出来ない。
これは、請求人のネーミング・ビジネスにとって大きな阻害要因となるものである。
本件商標について被請求人が排他的使用権を保持することは、請求人の利益を著しく害するものである。
ク 結論
よって、本件商標は、商標法4条1項7号に反し、無効である。
3 本件商標について被請求人に使用意思がないこと
また、被請求人には、商標権の成立(登録)要件たる人的要件としての「使用意思」(商標法第3条第1項)が欠如している。
被請求人はメールその他を通じ、「・・・商標(法制度)のことは、私たちに任せていただいて結構です・・・」、「・・・(本件商標の)出願は、・・・勝手に被請求人で商標を押さえて出し抜くとか・・・全くない・・・共同事業という前提で進めているので、出し抜くという考えはないのは尚更のことです」、「・・・(出願は)第三者に先を越される・・・危険を回避する意味で・・・」、「・・・商標を被請求人で出願したのは・・・悪意は全くなく・・・」等と、その出願についてとりつくろい、言い訳を述べてきたものである。
以上より明らかのように、被請求人の商標出願は、請求人の業務に係る商品についての商標使用のためであるから、「自己の」業務に係る商品についての商標使用ではない。
仮に、平成14年5月30日までは、請求人は、被請求人と互いに共同作業を企画していたものであり、共同事業の限りには「自己の」という概念に包摂されるとしても、その共同事業が解消された現在においては、「自己の」ための業務ということはできず、商標法第3条第1項の登録要件は満たしていない。
したがって、本件商標は、無効とされるべきである。
4 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、その住所を「東京都港区虎ノ門2丁目6番13号」としている。しかしながら、少なくとも被請求人の「住所」は上記場所に存在しない。
被請求人の「住所」は、現在どこに存在するのかは不明であり、仮に偽りの住所をもって答弁する等は、その主張の真偽並びに真摯性に著しく欠けるものがあるといわなければならない。
(2)被請求人は、ネームバンクの商標は請求人の武石の考案したものではないと反論するが、ネームバンクの商標は、請求人・武石が、そのコンテンツサービスを提供しているNTTドコモの洋風ネーミング・サービスを開発する際に、「ネームバンク」とか「データバンク」という名称からヒントを得て(甲38号証)考案したものである。
商標法に基づく商標は、それ自体としては創作性、新規性を欠いても権利として保護されるものである。
請求人は、平成13年9月13日に「ネームバンク事業」の構想と課題(甲第32号証)を被請求人に提供した。被請求人が「ネームバンク」の名称を知ったのは、このときが始めてである。
(3)被請求人は、ネームバンクの商標は「ソフトウエア」(商品及び役務の区分第9類)のための一商標として着想されたもので、何等保護に値しないと反論するが、「ネームバンク事業」の一連の業務提携のため作成・交付された書類(甲第32号証、甲第5号証、甲第8号証、甲第9号証及び甲第17号証)を見れば、本共同事業ないし「ネームバンク」(事業構想)が、単なる「ソフトウエア」(商品及び役務の区分第9類)にとどまることなく、第35類の「広告、経営の診断及び指導、市場調査、商品の販売に関する情報の提供、文書又は磁気テープのファイリング」等に及び、また同第42類の「商標・商号の評価および診断、商標・商号の選択に関する指導・助言又は相談・・・」等幅広いものであることが理解できる。
これらをみれば、単に上記第9類のみならず、第35類、第42類の区分をも、その対象としていることは明らかである。
(4)被請求人は、「ネームバンク」は、「・・・未だ不使用であって・・・」「保護する必要はない」ともするが、先願登録主義を採用する我法制において、使用・不使用は問題ではない。しかも、請求人は、被請求人との共同事業を行うことを予定していたものであるから、この点に関する被請求人の主張は二重の意味において失当である。
被請求人は、甲第33号証に示される判例が商標が継続使用され、保護されるべき業務上の信用が化体していることを必要としているとも主張するが、上記判例(決)は、そのようなことを必ずしも無効たるべき要件とはしておらず誤解である。
上記事件は、登録されたある商標が、その出願までの経緯によっては、その商標の出願・登録がその商標を構成する名称の使用者等の利益を害することとなる場合には、剽窃的であって信義則に反するとされるものである。
被請求人の反論は理由がない。
(5)商標法第4条第1項第7号が禁止する公序良俗違反とは、商標それ自体が公序良俗に含まれる場合と、登録出願の手続が法秩序全体からみて公序良俗に反するものであることは既に述べたとおりであり、請求人の主張は、(a)昭和55年11月28日大阪地裁判決、同60年12月20日大阪高裁判決(甲第34号証)(b)昭和55年10月28日仙台地裁判決(甲35号証)(c)昭和63年6月29日東京地裁判決(甲36号証)(d)平成14年7月16日東京高裁判決(甲33号証)により裏付けられる。
上記判決例等は、商標の冒用(冒認)行為について一定の歯止めをかけるべく、公序良俗に反し、一般道徳に反する出願を無効とするものである。この趣旨とするところは、商標自体の公序良俗のみならず、出願の過程における手続の違法を問題(すなわち、公序良俗に反する等による無効)としているものである。
(6)被請求人は、本件商標を、次の理由に基づいて出願したものと判断される。
(a)本件商標の請求人における重要性を認識した上で、請求人を出し抜くためではなく、その使用は請求人からのロイヤリティという形で行うため
(b)第三者の出願による危険を回避するため
(c)被請求人の権利確保のためでなく、請求人の単独所有とするため
したがって、請求人は、商標法第3条に要求される登録要件としての自己の業務に係る商品について、その商品を使用する意思をもって登録申請したものではなく、無効(登録要件欠如)たるものというべきものである。
もし仮に、被請求人が被請求人において本件商標を自ら使用する意思が存在するとするのであれば、禁反言として許されないものである。
また、被請求人が自ら使用するため本件出願に及んだとするのであれば、請求人を欺瞞したものというべきでもある。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論と同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出している。
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)請求人は、標章「ネームバンク」は、武石氏によって考案されたものである旨の主張しているが、かかる事実を客観的かつ合理的に証明する証拠が示されておらず、かかる主張自体請求人の勝手な言い分にすぎないものといわざるを得ない。
また、請求人は平成12年5月頃に標章「ネームバンク」を考案したとするが、かかる考案時期を立証する客観的かつ合理的な証拠も存在しない。
一方で、標章「ネームバンク」は、請求人の提出した「新事業設計書」(甲第5号証)中においても、「ちなみに『ネームバンク』、『商標バンク』という商標が、1999年以降相次いで登録されています。」と記述されているとおり、例えば、米国では、請求人が考案したとする上記日付よりも約11年も前の1989年2月27日に出願された「NAMEBANK」の商標が存在することや(乙第1号証)、我が国においても、平成12年12月8日付出願に係る商標「ネームバンク」(乙第2号証)が存在することからも明らかなとおり、当該標章を武石氏が考案したという請求人の主張は、客観的事実に反するものといわざるを得ない。
(2)請求人の主張からも明らかなとおり、請求人及び武石氏は、自己の業務に係る商品「ソフトウエア」の名称に使用するため、一案として「ネームバンク」を着想したというにすぎず、武石氏が考案したとする平成12年5月から現在に至るまで当該標章を特定「ソフトウエア」の商標として使用していたとする事実は全く存在しない。保護に値する請求人の何らの利益も該標章には存在しないとみるのが相当である。
また、請求人は、甲第33号証(平成14年7月16日東京高裁平14(行ケ)94)を援用し、本件商標も同様に被請求人の剽窃的行為によってなされたものと主張する。
しかしながら、甲第33号証判例においても、単に被請求人が一商標案として着想したにすぎない段階の標章「ネームバンク」の如きを保護せんとするものではなく、「他人の商標を剽窃的に・・・」というには、少なくともその他人が創作した用語が、該他人等によって継続使用され、既に商標としての機能を十分に発揮し、保護すべき業務上の信用が化体している等、該他人との間に密接な関係をいてことが必要であることを教示するものである。
すなわち、本件商標が、請求人の業務に係る商品「ソフトウエア」との関係において使用され、保護されるべき業務上の信用が化体しているとの事実もなく、また、本件商標が請求人又は音相理論を指称若しくは想起させる程に密接な関係を有するとは到底考えられず、本件商標若しくは標章「ネームバンク」を何人が商標として採択し使用しようとも、害されるべき請求人の利益は全く存在しないというべきである。
してみれば、本件商標が、被請求人が請求人の商標を剽窃的に出願し権利化したものであるとする請求人の主張は合理的・客観的根拠がなく失当である。
(3)そもそも、請求人が標章「ネームバンク」の使用を意図した商品は、請求人自らの主張及び証拠書類から明らかなとおり、「ソフトウエア」である。
ところで、請求人と被請求人との間には仮称を「ネームバンク事業」とする業務を共同して行うことに関し、契約締結直前まで交渉した経緯がある(甲第12号証等)。
これは、上記のとおり、請求人が「ソフトウエア」の商品名として考案したとする平成12年5月よりも前に被請求人が構想したネームバンク事業を推進する一環として請求人の「音相理論」に着目したことに端を発したものである。しかしながら、該理論を用いずともネームバンク事業の推進は可能であることに加え、請求人の理不尽なる申し入れ(甲第20号証、甲第24号証等)もあって、残念ながら、最終合意に至らず現在に至っている。
なお、請求人は被請求人に背信行為があったなどと、恰も被請求人のみに非があって共同事業が決裂したかのように自己に都合良く一方的に主張している。もちろん、かかる請求人の主張自体、真実とは合致しない請求人自身の誤解に基づく論若しくは詭弁といわざるを得ず、被請求人としても承服し得ないものである。しかしながら、本件において、かかる事実関係を究明すること自体に益を見い出し得ないところ、むしろ請求人の矛盾に満ちた不的確な主張を指摘することによって、請求人の主張に合理的かつ客観的な理由が存在しないことを証明する。
すなわち、上述のとおり、請求人は、一貫して「ネームバンク」の標章を、商品「ソフトウエア」の一商標案として考案したと主張している。
ここで、商品「ソフトウエア」は、商品及び役務の区分第9類に属する商品である(乙第3号証、乙第4号証)。
一方、本件商標に係る指定役務は、被請求人のネームバンク事業を推進するための役務「第35類」並びに「第42類」に属する役務であって、請求人が使用を意図した商品とは全く関係のない非類似の役務群に対する登録商標である。
すなわち、たとえ請求人が「ネームバンク」の標章を、商品「ソフトウエア」(商品及び役務の区分第9類)を指定商品として出願をしても、本件商標が先行商標として請求人の出願の障害となることさえないのであるから、本件商標の存在が請求人の利益を害することにはならない。無論、請求人が「本件商標について被請求人が排他的使用権を保持することは、請求人の利益を著しく害するものである」とするような事実関係にないことも明らかである。
また、被請求人の商品「ソフトウエア」に対する一商標案にすぎない標章「ネームバンク」に、保護すべき請求人の何らかの利益が存在するとするならば、本件商標とは請求人が使用を意図した商品「ソフトウエア」についてのみ保護すれば十分であり、未だ不使用であって、保護すべき業務上の信用が全く化体していない単なる選択物にすぎない一標章に対し、請求人が使用を予定していた商品の類似範囲を超えて保護する必要はない。
してみれば、上述の如く使用する商品若しくは役務との関係においても、本件商標が、被請求人が請求人の商標を剽窃的に出願し権利化したものであるとする請求人の主張には合理的・客観的理由はなく失当である。
(4)請求人は、本件商標が無断出願であるから、登録商標移転請求できるとするが、誤りである。
すなわち、請求人は、被請求人の本件にかかる商標出願を無断出願であると主張しているが、上述のとおり、本件商標が被請求人の考案にかかる商標ではないこと、被請求人が使用を意図した商品「ソフトウエア」とは全く無関係の役務に対するものであること、標章「ネームバンク」と請求人との間には保護すべき密接な関係は存在しないこと等から、被請求人が本件商標を出願するに際し、請求人の許可を得なければならないとする特段の事情は存在しない。
してみれば、本件商標が、請求人に対して登録商標移転請求できるとする請求人の主張には合理的・客観的理由はなく失当である。
2 商標法第3条第1項柱書の要件を満たしていないとの主張について
被請求人において、出願から現在までの間、本件商標を指定役務に使用した実績はない。しかしながら、当然将来的には本件商標をその指定役務に使用することを目的として出願するに至ったのであり、現時点での不使用の事実をもって将来的な被請求人の使用意思までが否定されるものではない。このことは、現在不使用であって保護されるべき信用が現実に商標に化体していないとしても、近い将来、使用が予定され、未必的に可能性として存在する信用をも保護せんとする商標法第3条第1項柱書の主旨にも適うものである。
してみれば、本件商標は、被請求人がその業務に係る指定役務に使用することを目的として出願したものであり、商標法第3条1項の使用意思がないとする請求人の主張には合理的・客観的理由はなく失当である。
3 結論
以上を要するに、本件商標は、商標法第4条1項第7号には該当せず、また、商標法第3条1項柱書の要件をも満たすものである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
(1)本件商標は、前記のとおり「Name Bank」及び「ネームバンク」の両文字よりなるところ、「Name」「ネーム」の文字が「名前」を「Bank」「バンク」の文字が「銀行」意味するものであることからすると、全体で「名前銀行」の意味合いを看取させるものと認められる。
そうすると、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形よりなるものではなく、また、その指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反する商標、あるいは、他の法律によって、その使用等が禁止されている商標、特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標ということもできないといわなければならない。
(2)請求人は、被請求人が本件商標の登録出願をし、登録を得たことは剽窃的であり、一般道徳観念に反した公序良俗違反のものというべきであると主張し、(ア)「ネームバンク」の文字は、独創的なものではないとしても、請求人会社の取締役武石の考案によるものであること(イ)「ネームバンク」の文字は、請求人から被請求人にその業務提携交渉の中で、その一環として提供・呈示されたものであること(ウ)被請求人は、請求人に秘匿して本件商標の登録出願に及んだこと(エ)請求人の客員研究員兼被請求人の社員の黒川を被請求人側の事業計画からはずすなど、本件商標の登録出願前後において被請求人の背信行為が連続していたこと(オ)被請求人が本件商標を保持している限り、請求人は、ネームバンクあるいはこれに類した名称でビジネス展開できず、請求人の利益を著しく害するものであること、などをその理由に挙げている。
そこで、請求人と被請求人間の共同事業提携交渉の推移と本件商標の登録出願の経緯についてみるに、当事者の主張及び提出された証拠によれば、請求人と被請求人は、言葉の音相理論を商標等の企業ビジネスの分野に展開するための共同事業を計画した。平成13年9月13日に行われた会合の場において、請求人の武石が考案したと述べる「ネームバンク」の名称を被請求人側に示した。この事業は、両当事者間でネームバンク事業と呼ばれるようになった。その後、同年12月1日の日付の記載された業務提携契約書が準備されたが、契約されなかった。本件商標の登録出願は同年12月10日であった。そして、請求人は、平成14年4月25日に該共同事業を推進する意思のないことを被請求人に通知するに至った。本件商標の登録査定日は同15年1月14日、設定登録日は同年2月21日であったことが認められる。
以上によれば、提出された証拠による限り、上記ネームバンク事業計画は、契約に至らず破綻、終了したものと認められるから、準備された業務提携契約書など提携交渉の段階に作成された契約書類はいずれも発効しなかったということができる。
本件商標は、ネームバンクの共同事業の提携交渉の段階で被請求人により登録出願されたものであるが、我が国の商標法は、最先の登録出願人のみが登録を受けることができる先願登録主義を採用していることからすると、事業を開始する場合には、その事業で使用される商標は、可能な限り早急に登録出願することが必要であるということができる。そうすると、該ネームバンク事業についても、その事業で使用する商標を早急に登録出願をし、第三者がその登録を受けることを回避すべきであったことは、当然である。
しかしながら、当事者のいずれが登録出願をしたか、また、その登録出願を当事者の一方に無断でしたか、あるいは、その登録出願についてどのように対応したか、いずれかに背信行為があったかなどは、もっぱら両当事者間に起因した共同事業を巡る私的な事情にとどまるものである。
しかも、共同事業の「ネームバンク」の名称が請求人の武石が考案したものであると仮定しても、商標の考案者、創作者に商標権が帰属するものでないことは、我が国の商標法に照らし明らかである。そして、請求人は、「ネームバンク」の名称についての使用事実を主張、立証していない。そうすると、請求人は、「ネームバンク」の名称を考案したというにとどまり、使用しなかったのであるから、該名称には、害されるべき請求人の利益(業務上の信用)は、存しないといわなければならない。
してみれば、被請求人は、剽窃行為など一般道徳観念に反して本件商標を登録出願をし、登録を受けたものとは判断することができない。
(3)以上からすると、本件商標は、その構成自体が公序良俗に反するものではなく、また、登録出願等の行為においても、請求人の挙げる判決例に照らし公序良俗に反して登録されたものとも判断することができない。
したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれはないものといわなければならない。
2 使用の意志の有無について
本件商標の指定役務は、第35類及び第42類に属する前記第1に記載したとおりの役務を指定役務とするものであるところ、これらの指定役務は、法令上の制限により本件商標の出願人がその業務を行うことができないものとは認められないものである。
また、前記1の(2)で認定したとおり、本件商標は、請求人と被請求人間のネームバンク事業に関する共同事業提携交渉中に登録出願され、該共同事業提携交渉が破綻し、終了した後に登録査定がされ、設定登録がされたものであることからすると、被請求人は、請求人との共同事業に係る役務に使用する意思の下に本件商標を登録出願したが、共同事業計画の破綻後は、被請求人独自で本件商標を使用するという意思の下に本件商標の登録を受けたものというべきであって、提出に係る証拠にも、本件商標の登録査定の時に、被請求人が本件商標をその指定役務について使用する意思を有していなかったと認めるに足りる証拠はない。
3 結論
以上のとおりであり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に違反して登録されたものではなく、かつ、同法第3条第1項柱書きの要件を具備していたものといわなければならない。
したがって、本件商標は、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2004-03-08 
結審通知日 2004-03-11 
審決日 2004-03-26 
出願番号 商願2001-109793(T2001-109793) 
審決分類 T 1 11・ 18- Y (Z35)
T 1 11・ 22- Y (Z35)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田辺 秀三
特許庁審判官 井岡 賢一
柳原 雪身
登録日 2003-02-21 
登録番号 商標登録第4646871号(T4646871) 
商標の称呼 ネームバンク 
代理人 千田 稔 
代理人 山本 英史 
代理人 山下 雄大 
代理人 結城 康郎 
代理人 近藤 実 

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