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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z29
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Z29
管理番号 1098599 
審判番号 無効2001-35157 
総通号数 55 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-04-10 
確定日 2004-06-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第4313668号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成14年4月26日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第292号 平成15年1月29日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4313668号商標(以下「本件商標」という。)は、「赤本」の文字を縦書きしてなり、平成10年8月6日に登録出願され、第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,かつお節,寒天,削り節,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,その他の加工水産物,豆,加工野菜及び加工果実,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」を指定商品として、平成11年9月10日に登録(平成11年7月2日登録査定)されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第47号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)本件商標について
本件商標は、請求人の業務に係る民間療法に関する書籍、梅肉エキス等を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と同一または類似し、その商品またはこれに類似する商品について使用されるものである。
また、本件商標は、その指定商品に使用されるときは、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれを有している。
(2)周知性について
赤本とは、築田多吉海軍大尉著作、請求人刊行の「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の通称である(甲第2号証)。赤本は家庭における医学の普及を目的として、大正14年に初版本が発売されたもので、大正・昭和時代のベストセラーとなり、昭和5年には文部省認定本にもなっている。同書籍の内容は、やけどや打ち身の対処法などあらゆる種類の全国各地にある民間療法のうちから、築田多吉が効果があると認めた方法、効能などをわかりやすく解説したもので、現在、版を重ね第1616版以上、累積発行部数は1000万部を優に超えるに至っている。
近年においても、ベンネット方式美容法、青汁、梅肉エキス、卵黄油の製造方法・効能などが注目されている(甲第3号証ないし甲第24号証)。
築田多吉は、昭和21年に薬種商として認可され、東京都目黒において三樹園社の屋号を用いた梅肉エキス、卵黄油等の製造・販売を開始した。その後、三樹園社は昭和32年3月に法人化され、請求人が設立されている(甲第1号証及び甲第25号証)。
請求人は、主として書籍の販売、梅肉エキス、卵黄油等の食品、医薬の製造販売を業とする有限会社である(甲第1号証)。梅肉エキス、卵黄油等については、請求人が法人化した昭和32年以降、「赤本」「赤本印」等の商品名を付け製造・販売してきた(甲第3号証、甲第12号証及び甲第13号証)。
(3)商標及び商品について
請求人の商標は、「赤本」と題し、「築田多吉」と記載した本を半開きで立ててある図形商標(別紙1及び2)や、また、梅肉エキスの包装に「赤本」の図形及び「赤本印梅肉エキス」と書してなるものである(甲第3号証)。書籍についても、「赤本」が全国的な通称となっており(甲第4号証ないし甲第11号証、甲第14号証ないし甲第24号証、甲第26号証及び甲第27号証)、カバーには「赤本」という名称を記載している(甲第2号証の1)。
これに対し、本件商標は、上記のとおり「赤本」である。さらに、被請求人の商品に付属している説明書には、この「赤本」のいわれについて「大正14年、元日本海軍大尉であった築田多吉が著した『家庭に於ける実際的看護の秘訣』のことで、赤い装丁のため『赤本』と呼ばれました。・・・当社商標はこの『赤本』にちなんで命名したものです。」と述べ、宣伝広告においても築田多吉の名を引用している(甲第26号証及び甲第27号証)。
そして、請求人の書籍における商標「赤本」及び梅肉エキス等における「赤本」の図形と「赤本印の梅肉エキス」と、本件商標は、いずれも「赤本」の部分が称呼、外観において同一であり、明らかに類似性があり、民間治療法に関する名著である「家庭に於ける実際的看護の秘訣」を連想させるという点で、観念も全く同一である。したがって、本件商標と請求人の商標とは、称呼・外観・観念において同一もしくは類似している。
また、本件商標の指定商品は、第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,かつお節,寒天,削り節,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,その他の加工水産物,豆,加工野菜及び加工果実,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」である。その指定商品中、加工野菜及び加工果実は、梅肉エキス、青汁等と、食用油脂は卵黄油、卵油球等と類似する。
したがって、本件商標は、需要者に広く知れ渡っている請求人の各商標と「赤本」の部分が同一であり、商品及び役務も類似し、混同のおそれが充分に存在するから、商標法第4条第1項第10号若しくは同第15号及び同法第46条第1項第1号に該当し無効とされるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)書籍に関する「赤本」の周知著名性
請求人の「赤本」は、昭和においては、文部省に社会教育に役立つ図書として認定され、海軍に採用され、戦後においては毎日新聞社調査に基づき全国書店に於ける評判の良かった書籍ベスト27、同読者から重版希望の多かった書籍ベスト17に入るなど、民間療法のバイブル的存在であり、実用書としては異例のベストセラーであった(甲第28号証)。
しかし、題名が長いため、装丁にちなんで「赤本」と呼ばれるようになり、正式名称は知らなくとも「赤本」という愛称は極めて普及するようになった(甲第5号証等)。また、赤本は、現在においてもなお、需要者に周知性を有し、著名である(甲第29号証及び甲第30号証等)。
被請求人は、「赤本」が低俗本を意味し、あるいは他の分野の書籍において「赤本」が請求人書籍以外の書籍を表わす表示として使われていることから、「赤本」の語は「書籍」に関して識別力がないとするが、仮りに、書籍一般に関して「赤本」の語が請求人書籍を指すものとして著名でないとしても、「家庭用医学書」あるいは「民間療法に関する書籍」について該語が請求人書籍を指すものとして著名であれば商標法第4条第1項第15号の該当性は充たされる。
被請求人は、1000万部を優に超える「赤本」の累積発行部数が全く信用できない数字である、と主張する。しかし、「赤本」は、もともと大正14年に後備役海軍看護特務大尉築田多吉が海軍向けに出版し、海軍の協力により日本中に広まった実用的な家庭看護書であって、「赤本」は膨大な数の出版元から、様々な形態で出版され、終戦前には空襲で記録が焼失しているため、正確な累積発行部数、版数の算出は不可能である。
現在の「赤本」に記載されている版数は、かつて出版元の1つであった研数広文館の記載を引き継いでいるので、全出版元の総版数が現在の「赤本」に記載された数字を遥かに上回ることは明白である。
以上から、請求人の「家庭用医学書」あるいは「民間療法に関する書籍」についての「赤本」商標の著名性は明らかであり、梅肉エキスが属する「加工野菜及び加工果実」あるいは卵黄油が属する「食用油脂」だけではなく、本件商標の指定商品すべてが同書籍と密接に関連するものであるから、本件商標は請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるものであり、商標法第4条第1項第15号に該当することは明らかである。
(2)「梅肉エキス」、「卵黄油」に関する「赤本」の周知著名性
請求人の「梅肉エキス」ないし「卵黄油」は、対面販売で顧客の具体的な状況等を勘案しながら販売されるため、畢竟、その販売量は大きなものとはならないが、請求人は40年の長きにわたって、これら商品を「赤本」あるいは「赤本印」の商標の下に販売し続けてきたのである。
乙第12号証が示すとおり、梅肉エキスの市場は年々拡大し続けており、請求人が40年前から築いてきた請求人の赤本商標を用いた商品に関する周知著名性は、このような市場の拡大によって失われるものではない。むしろ、対面販売を続けながら、拡大した現在の市場の600分の1のシェアを有しているということは驚異的なことであり、それだけ請求人の商品が著名であることを表わしている。
したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第10号に該当することはもちろん、同法第4条第1項第15号にも該当するものである。
3 上申による主張
(1)「商標法4条1項15号にいう『他人の業務に係る商品、又は役務と混同が生ずるおそれがある商標』には、・・・当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下『広義の混同のおそれ』という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。・・・そして、『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示の類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。(最高裁判所平成12年7月11日付判決)」。
すなわち、商標法第4条第1項第15号の規定がフリーライド等を防止して商標の自他商品識別機能を保護することを目的とするものであり、その「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するにあたっては、取引の実体を含めた総合的な判断が必要であるとしているものである。
(2)本件において、被請求人が本件商標を取得した目的がフリーライドであることは明らかである。
被請求人は「梅肉エキス」を販売する際に、築田多吉に由来している旨を、「赤本」の図形の一部、製造元名において明示しているうえ、請求人が出版している赤本に基づいて、同社が製造した商品であることを示しているのであって、これらは、消費者をしてあたかも請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると認識させ、その商品の需要者が商品の出所について混同するおそれを生ぜしめている。
(3)もともと書籍において、赤本という商標は、本判決においても認められているように、大正時代はもちろんのこと、現代においても請求人が出版している「実際的看護の秘訣」を示すものとして民間療法に関心のある一般的な需要者に周知性が認められる。
そして、書籍の内容は、築田多吉が明治から大正、昭和にかけて全国に散在していた各地の民間療法をまとめあげたもので、改訂増補を何度となく繰り返し現在に至る。赤本の民間療法の分野における権威は確かであり、「赤本」の表示は請求人の表示として著名である。
(4)民間療法において用いられる梅肉エキス、卵黄油等の健康食品を購入して使用する需要者と、民間療法に特化した書籍である「赤本」を購買する需要者は、ともに自らの健康あるいは家族・知人の健康に気を遣う者であるので、全く重なり合い、両商品の関連性は極めて密接である。
現在、請求人は薬局を経営し、その代表者は薬剤師でもあるが、請求人においては、医薬品と共に梅肉エキス、卵黄油、漢方などの各商品を販売し、商品の使用方法の説明を補助する目的で、赤本を販売している。請求人が行っているように、健康食品の販売所と同じ場所でそれに関連する書籍が販売されていることもしばしば行われているところである。
以上のように、健康食品について記載された書籍と健康食品の関連性は極めて密接である。
(5)上記のとおり、書籍との関係、とくに健康に関心を有する需要者との関係で「赤本」の商標が請求人の表示として著名であること、健康食品と書籍(特に健康に関する書籍)とは密接な関連性を有するものであり、その需要者も共通であること、健康食品と書籍とが同じ場所で売られていることが多いこと、被請求人の本件商標の取得がフリーライドの意図の下に行われたものであること等から考えれば、本件において本件商標が請求人の「赤本」の表示と混同を生ずるおそれがあることは明らかである。
したがって、被請求人の「赤本」の登録商標は、請求人を不当に害するものにほかならず、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当し無効にすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第19号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)被請求人は、請求人が掲示した商標は周知著名なものではなく、本件商標は商標法第4条第1項第10号、同法第4条第1項第15号の規定に該当するものではない。
(ア)「赤本」の語について
請求人は、「赤本」について『そもそも、赤本とは、築田多吉海軍大尉著作、請求人刊行の「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の通称である』と述べている。
しかしながら、そもそも赤本とは『「赤表紙(赤い色の表紙)」と同義に使われ「絵が主体で子供向けのもの。多くは赤い表紙の全五丁一冊本。赤表紙。明治時代の少年向けの本。俗受けをねらった低俗な単行本。」で「青本(萌葱色の表紙で歌舞伎・浄瑠璃・軍記物などに題材をとり絵を主とする。)、「黒本(表紙は黒色。歌舞伎・浄瑠璃・軍記物などから材をとり、青本と同一内容の物が多い。黒表紙。)」、「黄表紙(黄色い表紙の絵本の称。成人向けの読み物。)」等と共に草双紙と呼ばれる絵を主体とした読み本の一つ』を意味するもので(乙第2号証)、簡単にいえば、「表紙」が「赤色」のものを「赤本」と呼んだだけであり、特定の書籍名を指す言葉でないこと明らかである。現代でも書籍に関し「赤本」、「青本」、「黒本」等の言葉は頻繁に使われている(乙第3号証の1ないし10)。
そして、請求人が「赤本」と称する本の本体からは、「赤本」の文字を見つけることができない。かすかに、本ケース背表紙白抜き部分の右上に小判型赤印の中に「赤本」と書いた部位が有るだけである(実際は文字以外の黒色に見える部分は赤色である)(乙第5号証)。
以上のように、「赤本」の語は別段請求人が作った語でもないし、江戸時代から書籍に関し分類、区分けする言葉として自由に使われてきた語であって、現にインターネットで該語を検索すればあらゆる分野で自由に使われている状況を見出すことができる(乙第3号証)。
ここで卑近な例を述べるならば、「家庭の医学」発行株式会社保健同人社を挙げることができる(乙第6号証)。上記の本は赤いケースに入っていてケースの表、上、下、背に「新赤本」の文字が表記されている。そして、株式会社保健同人社は上記書籍を発刊するに際し、『私たちが「保健同人家庭の医学」略称「赤本」を発行したのは昭和44年のことです。それを全面改訂し、「新赤本」を発行したのが平成5年のことでした。(中略)赤本が新赤本になり、それが新・新赤本となっても変わりません。後略』(乙第6号証)と表明している。昭和44年から平成5年までの23年間、株式会社保健同人社は「家庭の医学」という本を「赤本」と略称して販売していたことになる。
「赤本」の語は、「家庭に於ける実際的看護の秘訣」のみならず同じ家庭の医学に関する本でも使われており、とても「家庭に於ける実際的看護の秘訣」なる本を特定できるような語ではなく、商品「書籍」に関し全く識別力を持たないものである、との判断が妥当なものといえる。
(イ)商品「書籍」に関する「赤本」の周知性について
「家庭に於ける実際的看護の秘訣」なる著書は、築田多吉著作で大正14年初版、その後版を重ね平成6年11月24日に1616版を発行した(甲第2号証の9)ことは窺えるが、「累積発行部数は1000万部」を越えるとの記載について、これを証明するものは何もない。
請求人が提出した書籍に関する証拠の記事は、「オール読み物」の「時代小説ヒーロー特集」での作品であったり、20年前(1980年10月31日)発行の「週間朝日」の記事であったりする。「週刊朝日」の記事にあっては『「赤本」といわれてもなじみのない若い読者のために説明すると、・・・』と記載されている。今から20年余り前においてかくのごとく一般には知られていない状態が分かる(甲第8号証)。
ちなみに書店で「家庭に於ける実際的看護の秘訣」なる書籍を見つけることができない。紀伊国屋(新宿店)、三省堂(新宿店)においても書棚に該本を見つけることはできない。前記両書店のホームページを利用して検索すると、紀伊国屋は「絶版のため入手不能です」(乙第7号証)、三省堂は「検索結果は有りません。」(乙第8号証)の情報が得られる。インターネット書籍販売の最大手ともいえる「amazon.co.jp /アマゾン、ドット、コム」で検索しても「家庭に於ける実際的看護の秘訣に完全に一致する結果が有りませんでした。」(乙第9号証)という情報が得られる。国会図書館のホームページからは三冊の蔵書が見つかり、最新本では1963年、東京書院発行の「家庭に於ける実際的看護の秘訣」を見つけることができる(乙第10号証)。
同じく、「赤本」の語で検索すると、医学系の書籍としては保健同人社の「家庭の医学」(乙第11号証)は検索されるが、請求人の主張する「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の本は検索されない。
つまり、一般需要者は上記書籍を求めることができないのであるから「赤本」が「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の通称であるということを知る手段もないのであり、このような現況で本件商標の登録査定時に「赤本」の語が「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の通称として周知とはとても判断できない。
(ウ)請求人が、「赤本」の語を書籍「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の本ケースに使用していても、本件商標の指定商品は第29類全類であるから、たとえ標章についてその称呼、観念が同一であったとしても使用される商品が非類似であり、また、「赤本」の語は商品「書籍」について単に表紙等の装丁が赤色であることを認識させるものでしかなく、いわゆる品質表示部分でしかないことから、本件商標に対し商標法第4条第1項第10号の規定を適用することはできない。
(エ)また、既述のとおり「赤本」の語は誰でも自由に「書籍」に使うことができる言葉であり、該語は実際に多くのジャンルの書籍に使われているわけで、「赤本」なる語が「家庭に於ける実際的看護の秘訣」という書籍を特定できるほど広く知られていないこと明らかであるから、一般取引者、需要者が本件商標に係る指定商品の出所について混同を生ずるおそれは全くないといえ、本件商標の登録が商標法第4条第1項第15号に該当するとの主張も当を得たものとはいえない。
(2)請求人は、赤本印の商品及びその周知性について、「昭和32年以降、『赤本』『赤本印』等の商品名を付け製造・販売してきた」と述べている。
請求人が販売の証拠として提出した甲第3号証、甲第12号証及び甲第13号証を見分するに、概略甲第3号証の1及び2には赤本印、梅肉エキス、登録商標、健康食品等が書かれた包装箱と、赤本印、梅肉エキスの帯が巻かれた瓶の写しが表わされている。
甲第12号証の1及び2にはほぼ甲第3号の証1及び2の状況と同じで「梅肉エキス」の文字の代わりに「卵黄油」、「健康食品」の代わりに「栄養補助食品」となっている。そして「請求人の赤本印梅肉エキスはその時代の人気に左右され幅があるものの、法人設立当初から毎年平均220キログラムが販売されている。」と述べている。「毎年平均220キログラムの販売量」と言うが、それを証するものは何もない。上記数字を信用するとしても、請求人の一日あたり販売量は80グラム容器で7本半でしかなく、しかも添付証拠を見る限り宣伝媒体費用はゼロといえる。数年に一度、書籍「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の紹介記事中に記載された程度である。
そして、上記、請求人の販売額は梅肉エキス市場の略600から700分の1にすぎないということになる。
周知性を判断する資料としてテレビ、新聞、雑誌などの宣伝媒体を始め販売量も判断資料となるものであるが、請求人の販売量ではとてもそれをもって周知判断できるほどの販売量ではない。
その他、甲第6号証、甲第14号証の資料をもって請求人の使用する「赤本」が「梅肉エキス」について「需要者の間に広く知られた商標」であるとはとても判断できないものである。
これをもって商標法第4条第1項第10号のいわゆる周知商標とはとてもいうことはできない。
また、包装用箱、包装用容器は、いつ製造、撮影されたのか不明であるから、その存在に問題がある(甲第3号証の1及び2、甲第12号証の1及び2、甲第13号証の1及び2)。古い商品包装容器の使用例ではとても本件商標の登録査定時に周知商標であったとする請求人の主張には与し得ない。
しかりとすれば、本件商標は商標法第4条第1項第15号にも該当するものではない。
(3)「赤本」なる語は書籍に関し江戸時代からある語で、現在も誰でも自由に使ってよい語であってそれを商標として使用するか否かは全ての人の自由選択である。
請求人は更新登録を失念したというが、昭和61年に消滅しているのであって今から15年も前のことである。しかも消滅した商標権は「化学品、薬剤、医療補助品」と考えられるものであって、本件商標の指定商品とは異なるものである。第29類の商品について必要なら15年の間に新規に出願し権利を得る機会は十分あったわけである。
また「類似性」に関し、被請求人は請求人が提示した「赤本」等の表示が「アカホン」と称呼されることについて別段異議をはさむものではないし、本件商標の称呼も「アカホン」であって、その限りで称呼が同一であることにも何も異議をはさむものではない。外観が同一であろうとなかろうと別段問題にならない。
ただ観念について請求人は「赤本」が「家庭に於ける実際的看護の秘訣」を連想させるから「観念も全く同一である。」と述べているが、「赤本」は歴然とその意義を有して日本語辞書に存在しているのであって、恣意的に判断されるものではない。さらにその意義のもと多くの書籍で「青本」、「黒本」等と同様に「赤本」の語が赤い表紙の本を著わす言葉として、通用している事実を理解しない判断であって当を得たものとはいえない。
(4)請求人は、「赤本」の語は書籍「家庭に於ける実際的看護の秘訣」の略称として周知である、と主張するが、もともと「赤本」の語が使用される対象商品が本件商標の指定商品とは非類似であるから、検討するまでもなく本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはない。
上記「赤本」なる語は赤色表紙の「書籍」について多くの人が使っていて、いわゆる自由商標となっている訳であるから、「赤本」の語が「家庭に於ける実際的看護の秘訣」なる本をとても特定できるようなものではなく、「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」となっていない。 本件商標とたとえ商標、商品において同一、類似の関係があったとしても商標法第4条第1項第10号、同法第4条第1項第15号に該当するものではない。
2 弁駁に対する答弁
(1)請求人が、本件商標の出願時、登録査定時以前の数年間における書籍販売数、売上げ金額、出版社名あるいはテレビ、ラジオ、新聞をはじめとする宣伝媒体に使用した資料を提出するならば実に明確に「実際的看護の秘訣」なる書籍の周知性、あるいは著名性存否の判断ができるのにその提出がない。
(2)被請求人は請求人の述べる「事情」については不知であり、何より、現実に株式会社保健同人社の「家庭の医学」書が出版されていて、同書内「発刊にさいして」の記載中に「赤本」の記載があり「新赤本」と略称して継続販売している事実は明らかなのである(乙第6号証)。
そして同社のパンフレット、さらにはホームページにおいて現在も「赤本として親しまれているミリオンセラー」の宣伝文のとおり「赤本」の語を用いているわけで、多くの人が株式会社保健同人社の「家庭の医学」を「赤本」、「新赤本」と認識しているであろうことが容易に推察できるのである(乙第15号証ないし乙第17号証)。
当業者たる出版社、取次店、書店の業界においては請求人会社の略称「赤本」より保健同人社の「家庭の医学」の方が「赤本」として理解されている、と判断する方がより自然で妥当といえる。
(3)請求人の主張する「赤本」の周知性、著名性については本件商標の登録査定時、出願時に存する事の証明は何らなされておらず、それに加えて「赤本」の語は江戸時代から書籍に使われているもので請求人がそれを書籍に使用したからといって独創性は皆無である。
また、比較される指定商品について言及するならば、請求人の対象物は「書籍」であるところ、本件商標の指定商品は「加工食品」等であって、一般的に書籍発行企業が加工食品を製造販売することはない。つまり両者に関連がない。
(4)請求人は弁駁書においていくつかの新たな証拠を提出した。そこにおいて「実際的看護の秘訣」なる本のことに多くを割いているが、本件審判の対象登録商標の指定商品は加工食品関連のものであり、説明すべきは基本的に請求人の販売する「梅エキス」についての販売数、宣伝費など周知・著名性に関する必須事項であるべきなのにそれらに関する証拠は皆無といえる。
「実際的看護の秘訣」がたくさん販売されたか否かは本件無効審判の無効理由とは基本的に無関係である。上記書籍が一部において「赤本」と呼ばれていてもそれをもって指定商品を異にする本件商標が商標法第4条第1項第10号に問疑されることはないし、本件商標の登録査定時、出願時に「実際的看護の秘訣」が「赤本」と特定できる程の著名性の証明はなされていないわけで、かつ書籍発行と、食品販売の業界において企業グループ、あるいは親子会社や系列会社の緊密な営業上の関係、商品が前記関係にある者の商品であると誤信されるおそれ等は取引者・需要者において通常払う注意力をもってすれば全くなく、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとの請求人の主張は当を得たものとはいえない。

第4 当審の判断
1 「赤本」の語について
(1)大辞林第11刷(乙第2号証)には「草双紙の一。・・・絵が主体で,子供向けのもの。・・・多くは赤い表紙の全五丁一冊本。赤表紙。明治時代の少年向けの本。表紙・口絵などに赤・青など原色を多く使用した落語・講談本。俗受けをねらった低俗な単行本・雑誌の類。いかがわしい内容の本」との記載が、広辞苑第5版には「江戸中期に刊行された草双紙の一。・・・赤色の表紙を用いた。・・・草双紙の総称。赤色を主とした極彩色の表紙の少年向き講談本。俗受けをねらった低級な安い本」との記載があり、また、医学の分野について見ると、保健同人社のホームページ(乙第17号証)には「保健同人家庭の医学〔新版〕〈略称・新赤本〉・・・『赤本』と親しまれているミリオンセラー。日常かかりやすい病気を重点的にとりあげ、具体的に解説した一家に一冊の必携本」との記載が、藤森システムサポートホームページ(乙第3号証の3)には「翔英社のMCSE教科書(赤本)だけではぎりぎり合格に届くかどうか・・・」との記載が、FTOSHIBAホームページ(乙第3号証の4)には「『Librettoスーパーブック』(通称:赤本)」との記載がある。
(2)他方、1996(平成8)年11月24日発行の「家庭に於ける実際的看護の秘訣」(以下「実際的看護の秘訣」という。)増補新訂版(甲第2号証)によれば、同書は、元海軍看護特務大尉であった故築田多吉(以下「築田多吉」という。)が著した民間療法に関する書籍であり、大正14年にその初版が発行された後、版を重ね、その奥書には昭和19年4月5日に第1530版、昭和21年11月1日に第1531版、平成6年11月24日に第1616版、1996(平成8)年11月24日に増補新訂版が発行された旨の記載があるが、各版の発行部数は、証拠上明らかではない。
(3)また、文藝春秋発行の「オール讀物」平成12年12月号(甲第4号証)には「日本の健康を創った男たち『赤本』一千万部の男」との記事、プレジデント社発行の「プレジデント」1998(平成10)年6月号(甲第5号証)には「日本の名薬・・・第六回梅肉エキス(ばいにくえきす)」の題号の下に「民間療法の集大成『赤本』の偉業」「赤本で広まった『梅肉エキス』の効き目」との記事、医薬・健康ニュース社発行の1990(平成2)年10月1日付け「医薬・健康ニュース」(甲第6号証)には「“明治の益軒”が書いた『赤本』が手本」との記事及び「週刊朝日」1980(昭和55)年10月31日号(甲第8号証)には「旧海軍“御用”の医学全書『赤本』の魅力」との記事が掲載され、これらの著作及び記事は、その著者築田多吉とともに、「実際的看護の秘訣」を通称「赤本」として紹介し、その総発行部数は1000万部を超えるとしている。
さらに、マガジンハウス発行の「an・an」2000(平成12)年6月23日号(甲第21号証)、春秋出版社発行の「pitipiti」1999(平成11)年9月号(甲第22号証)、筑摩書房発行の筏丸けいこ著「試してよかった!自然美容法」(甲第23号証)などにも、「実際的看護の秘訣」を通称「赤本」として紹介する記載がある。
(4)以上の認定事実と請求人のその余の立証(甲第2号証、甲第9号証、甲第14号証ないし甲第20号証、甲第24号証、甲第26号証ないし甲第30号証、甲第32号証、甲第33号証、甲第37号証ないし甲第47号証)を総合すれば、「赤本」の語は、本来、絵が主体の子供向けの草双紙,原色を多用した明治時代の少年向けの落語・講談本,低俗な単行本・雑誌の類を表す普通名詞であるが、一般には,赤い表紙の書籍の通称としてもよく用いられ、医学の分野に限っても、「赤本」と通称される書籍が存在していること、戦前においては、「実際的看護の秘訣」は、「赤本」の通称で広く知られ、戦後においても、上記「赤本」と通称される書籍の一つとしてではあるが、民間療法に関心が深い者の間に、なおある程度の周知性を維持していたことが認められる。
しかしながら、上記「赤本」の周知性は、請求人の業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」についてのものではなく、書籍である「実際的看護の秘訣」の通称としてのものであるから、同事実のみによっては、本件商標の登録出願時(平成10年8月6日)及び登録査定時(平成11年7月2日)における被告の業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」についての引用商標の周知性を推認するに足りない。
2 商標法第4条第1項第10号について
そこで、進んで、本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人の業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」についての引用商標の周知性について検討する。
(1)「実際的看護の秘訣」増補新訂版(甲第2号証)の見返しに貼付した「本書の内容」中の末尾付近に「赤本『実際的看護の秘訣』発売元赤本印梅肉エキス・卵黄油其他生薬製造販売」として被告及び広島市所在の「株式会社築田三樹園社」との記載、本文619頁に「梅肉エキス・・・東京・広島の三樹園社に良品があります」との記載,同620頁に「卵の油 東京・広島の三樹園社にあります」との記載がある。
しかし、上記「本書の内容」は、「実際的看護の秘訣」の書籍本体に貼付されているものであるが、これが貼付された書籍の頒布時期、頒布数は明らかではなく、上記本文中の記載は特に目立つものではない。
上記「プレジデント」1998(平成10)年6月号(甲第5号証)に「『梅肉エキス』(三樹園社・東京世田谷区)は多吉が創製し『赤本』で広まった和漢薬である」との記載があるが、同記事は、引用商標に係る「梅肉エキス」自体を紹介するものではない。1990(平成2)年10月1日付け「医薬・健康ニュース」(甲第6号証)中に「主な製品『梅肉エキス』『卵黄油』・・・(有)三樹園社」との記載、1992(平成)4年7月1日付け「医薬・健康ニュース」(甲第14号証)に「卵黄油・・・(有)三樹園社」との記載があるが、これらは一般の需要者を対象としたものとは認められない。
そして、「実際的看護の秘訣」を紹介する記事等のうち、請求人の業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」に関する上記登録出願時前の記載は、上記以外には見当たらない。
(2)請求人商品「梅肉エキス」、同「卵黄油」及び同「卵油球」の包装箱と容器の写真(甲第3号証、甲第12号証及び甲第13号証)によれば、請求人の業務に係る上記各商品の包装箱及び容器には、引用商標ないし「赤本」の商標が付されていることが認められるが、これらの販売時期及び販売数量は明らかではない。
なお、請求人は、いずれも指定商品を旧別表第1類「化学品、薬剤及び医療補助品」とし、昭和31年3月31日に設定登録された、厚みのある本を立てた状態の図形とその本の表紙に「赤本」「築田多吉」の文字を横書きしてなる商標登録第478771号商標及び「赤本」の文字を横書きしてなる商標登録第478772号商標の商標権者であったが、いずれも昭和61年3月31日存続期間満了を原因として昭和62年8月6日抹消登録された(乙第13号証)。
(3)請求人は、上記「梅肉エキス」を法人設立当初(昭和32年)から毎年平均220キログラム、平成11年には約470キログラムを販売してきたものであると主張し、平成10年3月〜平成11年11月の納品書(甲第36号証)を提出する。
しかし、請求人は、昭和32年3月30日に梅肉エキス・卵黄油・卵油球・茶剤類食品の製造販売等を目的として設立された会社である(甲第1号証及び甲第25号証)ところ、その設立に先立って取得した上記「赤本」等の商標権を昭和61年には失っていることにかんがみると、主張自体として疑問の余地があるばかりでなく、その主張の上記平均販売数量を認めるに足りる証拠はない。
また、仮に、請求人主張に係る平成11年の上記販売数量が真実であるとしても、上記甲第3号証の請求人商品「梅肉エキス」の包装箱の「内容量80g¥3000(注、1グラム当たり37.5円)」との記載に照らすと、請求人の平成11年における販売額は計算上おおよそ1700万円となるところ、山の下出版発行の「1999年版全国エリア別『健康自然食品 業者一覧』」(乙第12号証)によれば、平成11年における梅肉エキスの市場規模は末端製品価格にして50億円と推定されているのであるから、以上の数値を前提とする限り、梅肉エキスについて、被告の業務に係る商品のシェアは、微々たるものにすぎない。
(4)請求人が、「赤本」「赤本印」の文字からなる商標を付したその業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」について、新聞、雑誌、テレビ等による広告、宣伝を行ったことを認めるに足りる証拠は全くない。
上記、検討したところによれば、「赤本」の語が、「実際的看護の秘訣」の通称としてある程度の周知性を維持していた事実のみによっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時における被告の業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」についての引用商標の周知性を推認するに足りず、「実際的看護の秘訣」を紹介する記事等のうち、請求人の業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」に関する上記登録出願時前の記載に格別のものはなく、また、その広告、宣伝等を行ったこともないのであるから、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が、請求人の業務に係る「梅肉エキス」「卵黄油」を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
3 商標法第4条第1項第15号について
(1)「赤本」の語は、本来、絵が主体の子供向けの草双紙、原色を多用した明治時代の少年向けの落語・講談本、低俗な単行本・雑誌の類を表す普通名詞であり、一般には赤い表紙の書籍の通称としても用いられ、医学の分野に限っても、「赤本」と通称される書籍が存在していること。また、該語は、戦前においては、「実際的看護の秘訣」の通称として広く知られ、戦後においても、「赤本」と通称される書籍の一つとしてではあるが、民間療法に関心が深い者の間に、なおある程度の周知性を維持していたことが認められることは、上記第4 2(4)のとおりである。
(2)ところで、請求人の取扱いに係る書籍の対象(需要者層)は、その題号「家庭に於ける実際的看護の秘訣」中の「家庭に於ける・・・」(甲第2号証)の語が示すとおり、あるいは、同書籍の出版案内の類の一つとみられる甲第2号証の10の「・・・実地体験にもとづいて千に一失のない民間療法として、各家庭に贈るものである。」の記載、甲第2号証の2の「・・・体得せし漢方療法の体験記録であって、之を各家庭で誰でも出来る様に民間療法として掲げたのであるが・・・」等の記載よりみて、一般家庭の主婦等、すなわち、特段の医療技術、医薬品ついての専門的な知識、知見等を有することのない、世上一般の者をその販売・拡布の対象としているものということができる。
そうとすると、本件において、混同を生ずるおそれの有無の判断に当たっては、本件商品の性質上、世上一般の取引者、需要者をその対象とすべきであり、そして、混同を生ずるおそれの有無は、かかる者の間において、当該「実際的看護の秘訣」が通称「赤本」として広く認識されている程度によって決せられるべきというのが相当である。
しかして、上記のとおり、「赤本」の語は、戦前においては「実際的看護の秘訣」の通称として広く知られていたものであるとしても、戦後においては、民間療法に関心が深い者の間にある程度の周知性を維持していたものと認められるにすぎないものである。
(3)この点について、本件書籍「実際的看護の秘訣」は、大正14年に民間療法に関する書籍としてその初版が発行された後、版を重ね、その奥書には昭和19年4月5日に第1530版、昭和21年11月1日に第1531版、平成6年11月24日に第1616版、平成8年11月24日に増補新訂版が発行された旨の記載があるが、各版の発行部数は、証拠上明らかではないばかりでなく、請求人は、同書籍に関し、「昭和のベストセラーは現在においてもなお、需要者に周知性を有し著名である。」(弁駁書第3頁)旨述べているが、被請求人が、「本件商標の登録出願時、登録査定時以前の数年間における書籍販売数、売上げ金額、出版社名あるいはテレビ、ラジオ、新聞をはじめとする宣伝媒体に使用した資料・・・」(第二答弁書第3頁)等が存しないことについての指摘に対し、具体的にその事実を明らかにし得るところの証拠等を何ら提出するところがない。
また、同書籍は、紀伊国屋(新宿)や三省堂(新宿)といった、我が国においては比較的規模の大きい書店においても、直ちに入手できないことが窺えること(乙第7号証、同第8号証)、同書籍の文体は、大正14年2月発行の初版本以来変更されることがなく、当時の文体のままであることを考慮すれば(甲第2号証、甲第8号証)、同書籍は、今日において、一般の需要者が、各家庭における日常的な怪我や病気の治療のため買い求める類のものとは俄に首肯することができない。
(4)そうとすると、「赤本」の語が、戦前においては「実際的看護の秘訣」の通称として広く知られ、戦後においても「赤本」と通称される書籍の一つとしてではあるが、民間療法に関心が深い者の間に、なおある程度の周知性を維持していたとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、これを超え、世上一般の取引者、需要者の間に「実際的看護の秘訣」の通称として広く知られていたことを認めるに足る十分な証拠はなく、しかも、「赤本」の語は、もともと独創性のある語ではなく、医学書の分野においても、現に、他に書籍の略称等として使用されている事実があることを勘案すれば、該語は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「実際的看護の秘訣」の通称として、取引者・需要者の間に広く知られていたものと認めることはできない。
(5)以上によれば、被請求人が、本件商標をその指定商品について使用したとしても、これに接する取引者、需要者が、これが請求人又は同人と関係ある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれあるものとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同15号のいずれにも違反して登録されたものではないから、その登録は、商標法第46条1項により、これを無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-04-10 
結審通知日 2002-04-15 
審決日 2002-04-26 
出願番号 商願平10-67992 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (Z29)
T 1 11・ 271- Y (Z29)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高山 勝治 
特許庁審判長 小池 隆
特許庁審判官 柴田 昭夫
鈴木 新五
登録日 1999-09-10 
登録番号 商標登録第4313668号(T4313668) 
商標の称呼 アカホン、セキホン、セキモト、シャクホン 
代理人 窪田 英一郎 
代理人 吉田 聡 
代理人 柿内 瑞絵 
代理人 内山 充 

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