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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z18
管理番号 1096587 
審判番号 無効2002-35323 
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-08-01 
確定日 2004-04-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第4381174号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4381174号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1.本件商標
本件登録第4381174号商標(以下「本件商標」という。)は、平成11年5月20日に登録出願され、「PATAGONIA CLUB」の文字(標準文字)を書してなり、第18類「皮革,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,乗馬用具,愛玩動物用被服類」を指定商品として、平成12年5月12日に設定登録されたものである。

第2.請求人の引用する商標
請求人が本件商標の登録の無効理由に引用する登録第2519526号商標は、「PATAGONIA」の欧文字を横書きしてなり、平成2年5月8日に登録出願され、第21類「かばん類、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成5年3月31日に設定登録されものである。
同じく、登録第2229244号商標は、「PATAGONIA」の欧文字を横書きしてなり、昭和55年6月10日に登録出願され、第17類「被服、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年5月31日に設定登録されたものである。、
同じく、登録第2420993号商標は、「PATAGONIA」の欧文字を横書きしてなり、平成2年5月8日に登録出願され、第24類「運動具、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成4年6月30日に設定登録されたものであり、その後、指定商品については、平成14年6月28日にした書換登録申請により、第9類、第18類、第25類及び第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成15年12月24日に書換登録されたものである。
同じく、登録第4025558号商標は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成7年12月4日に登録出願され、第25類「被服」を指定商品として、平成9年7月11日に設定登録されたものである。
同じく、4218945号商標は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、平成8年6月25日に登録出願され、第28類「サーフボード」を指定商品として、平成10年12月11日に設定登録されたものである。
同じく、登録第4271034号商標は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、1996年6月24日アメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成8年12月24日に登録出願され、第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、平成11年5月14日に設定登録されたものである。(以下、一括して「引用商標」という。)

第3.請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第200号証(枝番を含む。)を提出した。
本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第11号及び同第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすべきものである。
1.請求の理由
(1)引用商標の著名性について
引用商標は、請求人が我が国において永年アウトドアグッズについて使用した結果、これらの商品の取引者、需要者にとっては、請求人が自らの商品に使用する商標であると直ちに認識しうるほどに周知著名になっているものである。また、商標の要部「PATAGONIA」と請求人会社の商号の略称「PATAGONIA」が同一であるため,「PATAGONIA」は商号の略称としても広く知られるに至っている。
(a)請求人「パタゴニア・インコーポレーテッド」は、アメリカ法人である。その沿革をたどると、1957年サーファー・クライマーであるイヴォン・シュイナードが、クライミング道具を作り始め、シュイナード・エクイップメント社(パタゴニアの前身)の名で、登山の傍ら車で売り始めたことを起源とする。1970年にベンチュラに初の直営店「グレート・パシフィック・アイアン・ワークス」をオープン、1979年この衣料ラインを法人化し「パタゴニア社」として分離した。その間、ポリエステル・パイルを使用した初のパイルジャケット、現在フリースと呼ばれている生地の最初期モデルであるポリエステルを両面起毛させたバンティング地を採用したウエアなど、斬新な製品を次々に発売していった。1982年には日本、カナダ、ヨーロッパの企業とライセンス契約を結んだ。1985年毛玉ができず、保水性も極めて低く、更に軽量で肌触りの良い「シンチラ」を販売、アウトドア・ウエアに革命をもたらした。この年より、環境保護のため税引き前利益の10%を寄付し始め、環境保護助成プログラムがスタートした。
1988年には我が国に「Patagonia International Inc.」を設立、翌年、東京目白に日本初の直営店がオープンした。1994年に鎌倉に第2号店を、1998年に渋谷、大阪、1999年に横浜と、次々に直営店を出店している。直営店を通じて需要者と直接触れあうことができるようになり、需要者の声を聞く事、また、請求人の営業活動のスタンスをアピールする事が可能になり、営業も著しく拡大して今日に至っている。
(b)請求人会社は、高品質の製品を製造することと、環境問題への配慮を両輪に営業活動を行っていることを特徴とする。請求人会社について理解してもらうために、パタゴニア日本支社のホームページからのコピーを甲第9号証として提出する。
大きくは「オンラインストア」「パタゴニアについて」「カスタマーサービス」の3ジャンルに分かれており、それぞれの見出しから詳細情報へ入れる。若者に人気の商品であるため、「オンラインストア」によるネットショップは大きなウエイトを占めるものである。また、パタゴニアの直営店では、毎月パタゴニア・スタッフやゲスト・スピーカーを迎えて、アウトドア・スポーツや環境問題の話などをとりあげた講演会等がひらかれているが、この情報も「カスタマーサービス」に掲載されている。甲第10号証として最新のカタログを提出する。
また、直営店の他、全国のアウトドア用品店、若者向けの衣料品店など多くの店舗が請求人の商品を取り扱っている。それらの取扱者たちも、請求人が永年にわたる販売活動を通じて、商標「PATAGONIA」を我が国において周知著名にしたことを認めている。その事実を立証するため、甲第11号証の1乃至112として請求人の商品の取扱者による証明書を提出する。
(c)請求人の、品質の優れた商品販売と共に地球環境を配慮する企業スタンスは、我が国において大きな共感を持って受け入れられ、話題を呼んだ。 2000年11月18日「カレント」に「ブランド黙示録 第1回『パタゴニア精神の真実』patagonia」と言う記事が掲載された(甲第12号証)。また、「暮らしの手帖96号」(ユニクロとパタゴニア-あなたの考えを教えてください)において「ユニクロ」ブランドとの比較がなされている。「パタゴニア」ブランドはこの巨大ブランドと対時しうる特徴を備えたものなのである(甲第13号証)。
更に、甲第14号証ないし甲第22号証をもって、請求人及び請求人のブランドが我が国においてマスコミに取り上げられ、広く知られるに至っていることを立証する。
以上の通り、引用商標は請求人の使用する商標として我が国でも広く紹介され、知られているものである。また、上記の証拠より明らかなとおり、「PATAGONIA」は請求人の商号の著名な略称としても知られるものである。
(2)商標法第4条第1項第11号について
本件商標と引用商標は外観において類似するものではない。
そこで、称呼、観念について比較すると、引用商標はその要部から、「パタゴニア」の称呼を生じ、「パタゴニア地方(アルゼンチン・チリ両国にまたがる南米大陸の南端地方。)」または、上述のことから、請求人のアウトドアグッズ等に使用する著名な商標として理解されるものである。
一方、本件商標は「PATAGONIA」と「CLUB」を結合してなるものであるが、「パタゴニアクラブ」と発音される他、以下の理由から「パタゴニア」のみの称呼も生ずると言うべきである。
従来、ある言葉を冠した「CLUB」商標は、その前に置かれた言葉とは非類似と判断された例が多かったといえる。その理由は、そのような商標は分離して判断すべき特段の理由はないので、全体として比較した場合には類似しない、というものであったが、現在では、一概にそのように決し得るものではなく、むしろ、分離して観察するのが相当というケースも増えていると言うべきである。
翻って、本件を勘案すれば、本件商標は「パタゴニアクラブ」の称呼を生ずるものであり、全体が8音であって、冗長とまではいえないまでも簡潔なものでもないから、前半の「パタゴニア」をとらえて単に「パタゴニア」と略称して取引にあたることも少なくないと言うべきである。
以上のとおり、本件商標は、「パタゴニア」の称呼、観念も生ずると言うべきであり、引用商標と称呼及び観念において類似する。
また、本件商標は、引用商標と第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」について抵触する。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当し、登録を取り消されるべきである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、わが国において、引用商標をアウトドアグッズ(登山用のジャケット、スキーウエア等の衣類,バックパック等のかばん類他)について広く使用し、上記で述べたとおり、我が国において周知著名になったものである。本件商標「PATAGONIA CLUB」は、「PATAGONIA」の一部分を含み、この部分は単独で強い識別力を有してなるから、これを指定商品に使用する場合には請求人の関連商品であると認識され、商品の出所に関して混同誤認が生ずることは必至であるというべきである。
したがって、本件商標が、たとえ、第4条第1項第11号に該当しない場合であっても、かばん類は勿論,袋物,携帯用化粧道具入れ,かばん金具,がま口口金,傘,つえ,つえ金具等その他の指定商品に使用された場合には、商品の出所混同を生ずるおそれがきわめて高いと言うべきである。
よって、本件商標は第4条第1項第15号の規定に該当するものである。
(4)商標法第4条第1項第8号について
前記で述べたとおり、「PATAGONIA」は請求人会社の商号の著名な略称である。
本件商標が、この著名な略称と実質同一である「PATAGONIA」の語の後に「CLUB」の語を結合してなることは容易に理解されるものである。
したがって、本件商標は、他人の商号の著名な略称を含むものであり、しかも、この著名な略称を登録することについて、被請求人は請求人の承諾を得ていないものであるから、本件商標は商標法第4条第1項第8号に該当するものである。
2.答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、本件商標に対し、本件審判と同一の理由及び本件商標の出願日・査定日以前の、引用商標の周知性立証書類と同一の甲号証等をもって、登録異議申立を行っており、理由がないものとして、登録維持決定が出ているのであるから、請求人の請求は、その前提において全く理由がない、としている。
しかし、請求人は、本弁駁書において、以下の通り、新たな証拠を提出する。したがって、同一の書類に基づいて、引用商標の周知性を立証しているのではない。
(2)引用商標の周知著名性確立について
被請求人は、請求人の提出した甲第9号証ないし甲第22号証中、甲第11号証を除き、本件商標の出願時・査定時以降のものであるから、引用商標の周知性を立証するには不適切であるとしている。
しかし、この点についても、本弁駁書に添付の甲号証により、引用商標の周知性・著名性を立証し得るものであると思料する。
(3)「PATAGONIA」商標について
被請求人は、強力、効果的な広告活動、活発な販売活動なき地理的名称を由来とした「PATAGONIA」・「パタゴニア」なる商標が本件商標の出願・査定時のいずれの段階においても、取引者はもとより、一般消費者間において周知性を確立していないことは明らかである、としている。
いみじくも、被請求人は「取引者はもとより」と言及しているが、取引者である被請求人が引用商標の存在を知っていたことは、以下に述べる通り、客観的に明らかである。
(4)周知性立証資料について
被請求人は、甲第11号証の証明書は、請求人が有利な結果を求めるあまり、誘導的作為的に作成したものであり、その証明力は評価に値しない、と主張している。証拠の証明力の評価主体は、特許庁審判官の合議体であり、被請求人が評価する必要もなければ、その資格もない。
(5)請求人の主張に対する反論その1
被請求人は、「パタゴニアランド」の異議決定に関与した審判官と、本件異議申立事件に関与した審判官が同一人であるから、「パタゴニアランド」は、本件とは事案を異にすると主張している。
しかし、問題は、本件商標の「PATAGONIA」部分をして、地理的名称を表わした部分と、取引者、需要者が認識するか否かである。
(6)請求人の主張に対する反論その2
被請求人は、自ら原告となった訴訟事件の判決理由をそのまま引用し、本件商標の周知性が問題となる人的範囲は、取引者ではなく、需要者であるとしているが、その訴訟事件は、商品形態の商品表示性が問題となったものであって、本件商標の需要者とは何ら関連がない。
むしろ、「商標審査基準」十三、第4条第1項第15号6.によれば、「著名標章を引用して、商標登録出願を本号に該当するものとして拒絶することができる商標には、外国において著名な標章であることが商標登録出願の時に、我が国内の需要者によって認識されており(必ずしも最終消費者まで認識されていなくともよい。)、出願人がその出願に係る商標を使用した場合、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものを含むものとする。」と規定されているのである。
さて、請求人は、まず、50以上の国と地域に登録されている請求人の商標を提出する(甲第27ないし甲第148号証:参考までに、それらのリストを添付する(資料1))。その多くは、本件商標の出願前に、商標権の効力が発生しているものである。そして、また大多数の国と地域において、「PATAGONIA」の欧文字のみからなる商標が登録されている。この事実は取りも直さず、引用商標の登録・使用に係る文字商標「PATAGONIA」が、十分なる識別力を有するものであることが世界的に認められていること、そして、引用商標が世界的な商標であることを十分立証し得るものである。
この間、請求人の各国における1993年(平成5年)以降の売上高は、甲第149号証に示す通りである。本件商標の出願前年である1999年の売上高は、アメリカ合衆国において129,873,407ドル(120ドル換算で、155億円を超える金額である)、日本において26,036,888ドル(同様に、31億円超)と、決して低い額ではない。寧ろ、広告宣伝をしなくとも、これだけ一般消費者に浸透している事実は、引用商標の周知性を十分物語っていると云える。
次に、請求人は、請求人の発行に係る商品カタログを提出する(甲第150〜甲第190号証)。これらは、1986年以降のものであり、且つ、本件商標の出願以前のものである。また更に、請求人の日本法人の発行に係る商品カタログを提出する(甲第191ないし甲第196号証)。

第4.被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べている。
(1)請求人は、本件商標が商標法第4条1項8号、同第11号及び同第15号に違反して登録されていたものであることを理由に、本件無効審判請求をしているが、しかし、請求人は、既に被請求人の有する本件商標に対し、本件無効審判と同一の理由及び本件商標の出願日(平成11.5.20)・査定日(平成12.3.13)以前の、引用商標の周知性立証書類と同一の甲号証(無効審判の甲第11号証・異議申立時は甲第10号証)又は本件商標の査定日以降の、請求人の日本支社が、引用商標を付した具体的商品を全く記載せず、単に企業の歴史的事項を記述したにすぎない2000年11月7日作成のホームページ(異議申立時の甲第8号証)でもって、商標登録異議の申立を行っており、これに対して、請求人の異議の申立は理由がないものとして、本件商標は登録を維持する旨の決定を受けているものである(甲第26号証)。
したがって、請求人の請求は、その前提において全く理由がないものである。
(2)引用商標の周知著名性確立について
請求人は、引用商標が遅くとも平成11年1月ごろには、我が国の繊維業界、カバン、袋物、履物業界において、広く認識されていたと主張する。
そして、これの立証書類として甲第9号証ないし甲第22号証を提出しているが、しかし、引用商標の周知性の客観的事実状態が形成されていないにもかかわらず、誘導的作為的に作成され、その証明力がない甲第11号証の取引先証明書を除いて、上記各甲号証はいずれも本件商標の出願時(平成11.5.20)・査定時(平成12.3.13)以降のものであって、請求人が主張する引用商標の本件商標の出願当時あるいは査定当時における周知性を立証する書類として適切ではないことは明らかである。
加えて、甲第9号証のパタゴニア日本支社のホームページは、2002年に作成されたものであり、甲第10号証のカタログも、2002年に作成されたものであること、そして、被請求人が我が国の大手書店であるジュンク堂書店に確認したところ、甲第12号証の「カレント」・甲第15号証の「ILLUME」は一般書店で取り扱われていない非売品の雑誌であること、又甲第14号証の「THE21」、同17号証の「BE-PAL」、同18号証の「MILES」、同21号証の「FLYFISHER」、同22号証の「ROCK&SNOW」などは少数の愛好者用のみの雑誌であって、一般人には無縁であること、さらに甲第13号証の「くらしの手帖」、同14号証の「THE21」、同16号証の「DIME」、同20号証の「TARZAN」、同22号証の「ROCK&SNOW」は、かえってアルゼンチン南部に位置する「PATAGONIA」・「パタゴニア」という地名を想起・連想せしめる表示内容であること、甲第21号証の「FLYFISHER」は単に防寒対策用の他人の商品などを記載したものであること、そして、上記甲第12号証ないし甲第22号証中、引用商標が使用されているのは、わずか「カレント」(甲第12号証)、「MILES」(甲第18号証)、「FLYFISHER」(甲第21号証)、「ROCK&SNOW」(甲第22号証)4誌のみであり、他は「パタゴニア」の文字の使用のみである。
しかも、「MILES」、「FLYFISHER」、「ROCK&SNOW」には引用商標が見にくい雑誌記事中の文章と共に小さい文字で表示されているだけである。
よって、これらの各甲号証からみて、引用商標が本件商標の査定時以降においても、「パタゴニア」という地理的な名称を越えて、特定人の商品表示として取引者・一般消費者間において周知性を確立していないことは明らかである。
まして、周知性を越えて、引用商標が著名性を確立していないことはいうまでもないことである。以下、その理由を述べる。
(3)「PATAGONIA」商標それ自体について
請求人の「PATAGONIA」なる商標は、南米アルゼンチン南部に位置する著名な地名「PATAGONIA」「パタゴニア」の有する野生的な感じ、響き、その魂、さらにそれにたどり着くまでの旅路をイメージして、請求人の創業者イヴォン・シュイナードがその社名として採用したことを起源とするものである(乙第1号証)。
したがって、かかる著名な地理的名称は元来、何人もその使用を欲するものであり、一私人に独占を認めるのは妥当でないとの公益的理由、又当然のことながら識別力がないため登録要件を具備せず、登録は許されない記述的標章(商標法第3条1項3号)であり、これが地理的名称を越えて特定人の商品表示性を確立し、かつ、その周知性を確立するためには、単に当該商標が長年にわたって商品に使用されただけでは足りず、短期間でも強力な宣伝広告がなされ、且つ出所表示機能の具備と周知性の獲得を裏付ける活発な営業活動が必要不可欠であるといわざるを得ない。
しかるに、請求人は引用商標を本件商標の出願時、査定時以前の、いずれの段階においても、永続かつ短期間での強力な宣伝広告を一切行っておらず、このような性質をもった引用商標が我が国の取引者、一般消費者をして周知性を獲得することは極めて困難である、といわざるを得ない。
以上のとおり、強力、効果的な広告活動、活発な販売活動なき地理的名称を由来とした「PATAGONIA」・「パタゴニア」なる商標が本件商標の出願・査定時のいずれの段階においても、取引者はもとより、一般消費者間において周知性を確立していないことは明らかであり、請求人の本件無効審判請求は失当である。
(4)周知性立証資料について
請求人は、甲第11号証の1ないし112をもって引用商標は、被服,スポーツウェア・バンドベルト、履物、カバン、袋物に使用した結果、平成11年1月頃には当業界において広く認識されていたとの、取引先証明書を提出しているものであるが、元来、識別力を欠く引用商標が、単に商品に使用されただけで、周知著名性を確立するものでないことは前述したとおりである。
まして、請求人は、本件商標の出願時以前において、その基本的方針からマスメディアを利用した永続的かつ短期間の強力な宣伝広告を一切行っておらず、その結果、取引者のみならず、一般消費者をして周知性すら確立していないにもかかわらず、あたかも引用商標が既に平成10年12月末日又は平成11年1月頃に周知著名性を確立していたとの当該証明書は、客観的事実に反する虚偽の証明書であるといわざるを得ない。
そして、かかる状況からみて甲第11号証の証明書は、請求人が有利な結果を求めるあまり、誘導的作為的に作成したものであり、その証明力は評価に値しないものである。
(5)請求人の主張に対する反論その1
請求人は、被請求人の第25類における登録第4266392号商標「PATAGONIALAND」と「PATAGONIA」とは、共にパタゴニア地方を観念させるものであり、両商標は類似するとの、平成11年異議第91106号(甲第24号証)における特許庁の認定判断をとりあげ、これをもって、本件商標と引用商標とが類似すると主張する。
しかし、この認定判断はあくまで、引用商標が「パタゴニア地方(地域)」のみを認識させるものであるとの前提にたって、類似判断をしているのであって、「パタゴニアクラブ」の呼称のみを生じ、同好の士が集う、ある種のクラブ名を認識させる「パタゴニアクラブ」と、「パタゴニア」の呼称を生じ、地名(パタゴニア)として看取されると認められる引用商標とは、その構成音、構成音数に顕著な相違点があり、両商標は外観・呼称・観念のいずれにおいても類似するものでない(乙第4号証、甲第26号証)。
(6)周知性についての人的範囲についての反論その2
請求人は、引用商標が本件商標出願時に著名であることを前提に、本件商標と引用商標とが非類似であっても、現実の取引において外観、称呼、観念のいずれか紛らわしいと判断される場合がある。よって、本件商標を指定商品に使用した場合、商品出所混同のおそれがあると主張する。
しかし、引用商標が本件商標の出願当時又は査定当時、一般消費者及び取引業者間に周知性を獲得していないことは前述したとおりであり、請求人の主張は全く理由がないものである。
ところで、引用商標の周知性が問題となる人的範囲については、取引業者と一般消費者とが考えられるが、被請求人又は請求人が、取引先に本件商標を付した指定商品を販売する場合、取引口座を設け、取引者から被請求人又は請求人の会社名及びパタゴニア日本支社名、取引先口座番号、上代、納入価格、納期、商品分類などを記載した発注書を受けとり、取引先指定の納入伝票に同様の事項を記載して納品するのが取引の実情であり、被請求人会社と請求人会社名も、紛れるものではないから、取引業者が請求人の会社名及びパタゴニア日本支社名から引用商標を使用した商品を購入するつもりで被請求人会社から引用商標付商品を誤って購入するというような混同はなく、現にそのような混同は全くないというのが取引の実情であるから、本件無効審判においては、一般消費者のみが問題となるのである(乙第5号証の5)。
しかるに、請求人は、前述したとおり、少量販売に徹し、かつ、テレビ、新聞、雑誌などに一切宣伝広告をしないと明言しており、その必然的結果とし、一般消費者のみならず取引者間にも引用商標の浸透度は極めて低いものである。また引用商標が請求人によって一般消費者に周知ならしめたという証拠は全くない(甲第13号証の「くらしの手帖」103頁下段)。
また、甲第11号証の小売店に対する販売活動によって、これらの取引先にある程度の周知性が得られたとしても、それは主として取引業者を対象とするものであり、一般消費者の間における周知性の立証資料としては適切でないことは明らかである(乙第5号証の6)。
以上のとおり、引用商標は、本件商標の出願当時あるいは査定当時のいずれの時点においても、一般消費者のみならず、取引業者間においても周知性を確立していないことは明らかであり、被請求人が本件商標を指定商品に使用しても商品出所の混同のおそれがないことは明らかである。
(7)以上のとおり、請求人の地理的名称を由来とする「PATAGONIA」・「パタゴニア」なる商標は、本件商標の出願当時あるいは査定当時のいずれの時点においても、取引者はもとより、一般消費者間においても周知性を獲得していないことは、明らかであり、請求人の本件無効審判請求が全く理由がないものである。
よって、本件商標は、商標法第4条1項第8号、同条同項第11号及び同条同項第15号のいずれの規定にも該当しないものである。

第5.当審の判断
請求人より提出された甲各号証によれば、請求人「パタゴニア・インコーポレーテツド」は、1957年に創設者イヴォン・シュイナードが従来品より強固で技術的にも優れた登山のクライミング道具を作り「シュイナード・エクイップメント社」(パタゴニアの前身)の名で販売を始めたことを起源とするアメリカ法人であり、その後、シュイナード・エクイップメント社の活動の成功から、1970年にカリフォルニア州のベンチュラに初めての直営店を出店し、この地でジャケットも作り出されたことが認められる。そして、1979年には衣料ラインが法人化され、パタゴニア社(請求人)が分離されたものであるが、同社は、早くから地元の環境保護団体を支援するなど、環境保護活動に力を注ぎ、世界で初めてのペットボトルを再生した素材(RCRシンチラ)のジャケットやオーガニックコットンを使用したシャツを売り出すなど自然保護の企業姿勢が明確に反映されていることが認められる。
さらに、1988年には、パタゴニア日本支社(請求人の日本支社)が設立され、翌1989年には日本初の直営店(東京・目白)がオープン、その後、1999年までに、鎌倉、札幌、渋谷、大阪、横浜など、日本の大都市又は若者が多く集まる地に直営店が次々とオープンされたことが認められる。
この間、創設者及び請求人の「一度買ったら大事に何年も着てほしい」との企業姿勢からテレビ、新聞、雑誌等に積極的に広告を出さなかったものの、かえって、このような一貫した環境保護の姿勢が話題を呼び本件商標の出願より少し後の発行に係るものであるが、各種の雑誌又は新聞に請求人の製品と共にこれらのことが記事として掲載されていることが認められる。
しかるところ、請求人は、50以上の国と地域において「PATAGONIA」の文字又は「patagonia」の文字と図形を結合した引用商標を出願し登録されていることが認められ、請求人及び請求人の日本支社より発行された1986年以降のカタログによれば、これらの引用商標がアウトドア衣料(主に、被服、スポーツウェア、袋物など)の商標として一貫して使用されてきたことが認められる。
そして、請求人の製造販売するアウトドア衣料は、直営店はもちろんのこと、前記カタログを通して電話・FAX・郵便・インターネット等の方法により注文を受けて相当数に上る製品の販売が行われてきたと推認できる。
以上の事実からすると、請求人が「被服、スポーツウェアなどアウトドア衣料」について使用する「PATAGONIA」の文字からなる引用商標は、本件商標の登録出願の時には、既に、わが国において取引者、需要者の間にアウトドアブランドとして広く認識され、著名性を獲得していたものと判断するのが相当である。
しかして、本件商標は、「被服、スポーツウェアなどアウトドア衣料」について著名と認められる引用商標「PATAGONIA」に「会(クラブ)」を意味する「CLUB」の文字を付加したにすぎない「PATAGONIA CLUB」の欧文字よりなるものであるから、これを被請求人がその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、引用商標を直ちに連想、想起し、該商品を請求人又は請求人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)引用商標 登録第4025558号

(2)引用商標 登録第4218945号及び登録第4271034号

審理終結日 2004-02-10 
結審通知日 2004-02-16 
審決日 2004-03-05 
出願番号 商願平11-45038 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (Z18)
最終処分 成立  
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 小川 有三
富田 領一郎
登録日 2000-05-12 
登録番号 商標登録第4381174号(T4381174) 
商標の称呼 パタゴニアクラブ 
代理人 山川 茂樹 
代理人 紺野 正幸 
代理人 西山 修 
代理人 山川 政樹 
代理人 黒川 弘朗 

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