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審決分類 審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない Z08
審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Z08
管理番号 1096573 
審判番号 無効2003-35249 
総通号数 54 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-06-18 
確定日 2004-04-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4633759号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4633759号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成13年7月17日に登録出願され、第8類「理髪用はさみ,眉毛用はさみ,鼻毛用はさみ,愛玩動物用はさみ,その他のはさみ類,ほうちょう類,替え刃式かみそりの柄,髪梳き用かみそり,その他のかみそり,その他の手動利器,手動工具」を指定商品として、平成15年1月10日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標中、第8類指定商品「理髪用はさみ,眉毛用はさみ,鼻毛用はさみ,愛玩動物用はさみ,その他のはさみ類,ほうちょう類,替え刃式かみそりの柄,髪梳き用かみそり,その他のかみそり,その他の手動利器」について登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第31号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由
(1)本件商標は、ローマ字で「Hi-Z」と書いて成り、「H」と「i」が結合しており、さらに「Z」の斜線部分に白抜きの線が長手方向に延び、非常に特徴のある形態を有する商標である。本件商標は、以下に述べるとおり本件商標出願前から請求人が理髪用はさみに使用し、本件商標出願時には既に需要者である理美容師の間に広く認識されていた商標と同一の商標であって、その使用していた商品と同一又は類似の商品に使用するものである。
(2)請求人は理美容鋏専門の製造販売業者であり、請求人の代表者である梁木秀子は前夫梁木猛と共に、昭和51年に兵庫県西宮市で理美容師向けの理美容鋏の製造販売を目的としたハイゼット商会を創業し、製品の優秀さがプロの理美容師に高く評価されて事業は順調に拡大し、昭和58年に株式会社ハイゼットとして法人化した。それからも事業は拡大し販売額も増加の一途をたどっていたが、平成7年1月17日に阪神淡路大震災が会社を直撃し、壊滅的打撃を受けてその場所での事業再開は不可能になったので、やむなく岐阜県関市に会社を移転し現在に至っている。甲第1号証の登記簿謄本に、平成7年1月24日に本店移転について記載があるのはその理由による。
(3)理美容鋏の商品の流通について説明すると、最初に、原材料を加工して理美容鋏の原形である半製品を製造する加工業者があり、それが被請求人である。次にその半製品が仕上業者に納入され、鋏の製造で一番重要である刃付けが行なわれる。理美容鋏の命はこの刃付けにあるからこの刃付けを行なう仕上業者の使用する商標が、理美容師の商品選択の指標となる。仕上業者によって製品に仕上られた理美容鋏は卸業者に納品され、次いで卸業者から代理店に納品され、そこから理美容師に小売されるのである。前述したように、半製品を製造する加工業者が被請求人であり、請求人はその半製品を製品に仕上げる仕上業者である。被請求人である足立工業株式会社はかっては請求人に半製品を納品していた業者であったが(甲第16号証)、平成13年8月に請求人は取引を打ち切っている。請求人と被請求人との取引を示す伝票を甲第16号証として提出した。この伝票で被請求人の住所は現在と変更ないが名称は「有限会社」となっている。これはその後株式会社に組織替えしたためである。請求人と被請求人の取引は平成1年に開始しているので、被請求人は、多くの需要者に高く評価されている請求人の使用する商標について、その価値も含めてよく知っていることは明白である。
(4)本件商標が請求人の使用する商標として広く知られていることは多くの理美容店の主宰者によって証明されている(甲第2号証)。甲第2号証の7、11、12、13、18、32及び44は、いずれも公的な意味を有する証明であって単なる一個人の証明のみを提出したわけでない。また、このように多数の理美容店の主宰者が証明に応じてくれたのは、それだけ請求人の商品に信頼性を置いており、多くの理美容師が使用していることを知っているからである。なお、証明書の住所が登記簿の謄本の住所と異なっている理由は、現在、登記簿にある本店住所の不動産を売りに出しており、そのために会社の実体は「関市東新町5丁日901一2」に移転して営業しているので、証明願は実際に活動している住所を記載したのである。
請求人の商品は卸業者、代理店を経由して北海道から沖縄まで販売されており、特に兵庫県は平成7年まで会社が存在していたことにより周知度は非常に高くなっている。
(5)会社の売上高は、決算報告書(甲第21号証〜甲第23号証)のとおりである。
昭和60年代及び平成1,2年ごろは売上が3億円程度あって、業界第2位といわれていた。証拠となるものが大震災によって焼失し、提出できないのが残念である。理容鋏は高価であって利幅が大きいので、請求人の会社も含めて理美容鋏会社に勤務する社員が独立し、一匹狼となって中国製のような安価な理美容鋏を仕入れ、各理美容店をまわって直接売り歩く商売をする者が多く現われた。これにより、市場が荒らされて請求人の売上高が1年で1億数千万円程度になったのである。
(6)広告宣伝は甲第18号証〜甲第20号証の株式会社サムソン発行の小冊子や、甲第27号証〜甲第29号証の理美容ニュースに正月とお盆に定期的に広告を掲載し、その他にも広告を出していたが震災で焼失してしまい現存するものを提出した。前記株式会社サムソンは理美容店のチェーン店を全国的に有しており組合員数は約700人存在している。全国から加盟している店の多数の理美容師を集めて競技会を行ない、その際に参加者に配布されるのがサムソンの小冊子である。また、理美容ニュースは全国の多くの理美容店が購入している業界紙であって、多くの理美容師が目を通している。
請求人の商品は甲第24号証の価格表のとおり1丁の鋏でほぼ6.8万円〜10.5万円である。しかし、これは小売価格であって、請求人の出荷価格は小売値の約半値である。また、売上高は理美容鋏がほとんどを占めるが、甲第23号証に記載されているように修理代も含まれている。売上にその他のものが含まれているとしても1年間に約2900丁ほどの数を売り上げているのであり、理美容師専門の商品で小売値がほぼ7万円以上の商品ということを考えればかなりの数である。
(7)次に、甲第3号証〜甲第10号証として提出した売上伝票について説明する。
甲第3号証〜甲第6号証は卸業者の山本美材株式会社に関する売上伝票の納品書である。
甲第7号証は、甲第3号証と同時期の前記卸業者の山本美材株式会社及び株式会社武田以外の卸業者の納品書である。
また、甲第9号証は請求人と取引のない代理店向けの直接取引き納品書である。
このように、納品書からも理美容鋏をコンスタントに相当数販売していたことが理解できる。
甲第11号証は修理伝票であって、鋏を販売するのみでなく、販売後も鋏の調整修理を行なっており、木目細かい対応によって請求人の使用する商標には多大な信用が蓄積されていたことが容易に理解できる。
(8)請求人は、本件商標と同一の商標を甲第12号証及び甲第13号証にあるように鋏のケースの表面に表示して使用し、甲第12号証のように鋏掃除用のセーム皮にも使用し、説明書及び価格表にも表示している。また、鋏の個々の名称は側面に表示している。ここでは「ロータス6,5」と表示している。甲第13号証では軟質の鋏ケースにも商標を表示して使用している。1つのケースに1丁の鋏が包装される。
甲第17号証の上の写真は会社設立後まもなく使用していた木製のケースであり、下の写真は個人企業であった当時の木製のケースであり、ハイゼット商会設立時から本件商標を使用していたことが理解できる。
甲第15号証は最近まで鋏に直接刻印していた商標を示している。これはハイフンを含む本件商標と異なっていてピリオドを含む「HI.Z」と表示されている。
さらに、甲第14号証の請求人のパンフレットの鋏の写真にも記載されている商標であって、富士山の線図の中に「Z」を書き、その下に「OHY」と書いて成る商標も請求人の使用している商標であるが、この商標も「OHY]を外して登録出願し商標登録第4626491号として登録を受けている。
(9)次に、被請求人が本件商標の出願中に提出した意見書及び手続補足書を甲第25号証及び甲第26号証として提出する。被請求人が手続補足書で資料として提出した商品カタログは、すべて被請求人のものでなく請求人のカタログである。
しかも、資料として提出されたカタログの「その3」は事実を隠蔽した内容である。この提出されたカタログを含む手続補足書及び意見書を見れば、事情を知らない者、原審査官も含めて誰でもがこのカタログは被請求人が発行したものだと錯誤におとしいれられることは必定である。
本件商標の出願中に発せられた拒絶理由通知書の「この商標登録出願に係る商標は、…需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものと認めます。」との理由に対して提出した意見書には、「ちなみに、この「Hi-Z」なる文字列は未登録商標として長く用いられてきており、これにより既に確たる識別機能を発揮しているのであります。」と商標法第3条第2項の規定に該当するかのような記載がされ、さらに「単にこの鋏を「何人かの業務に係る商品である」と認識するのみなのです。」と信じ難いことが記載されている。この記載を読めば本件商標が被請求人によって長く使用されてきたと、原審査官その他誰でもが錯誤におとしいれられることは必定である。本件商標を昭和51年から現在まで使用してきたのは請求人のみであり、被請求人は使用していなかった。被請求人は、意見書において、他人が長年使用して周知にした商標を、恰も自分が使用してきたと錯誤させる記載によって本件商標の登録を得た。これら意見書及び手続補足書の手続は商標法第79条に規定する詐欺の行為の典型例と言わざるを得ない。
このような詐欺行為によって登録された商標を保護しなければならない合理的な理由は全く存在しない。
また、意見書における上記の記載は、被請求人が本件商標が周知商標であることを半ば認めた内容である。だからこそ、本件商標の価値をよく知っている被請求人が登録したということである。
本件商標の登録によって請求人の本件商標の使用が差し止められ、代わりに被請求人が本件商標を使用したとしたら、被請求人は請求人が長年に亘って築き上げた信用を利用してウハウハ儲けるという不合理が生じ、このような事態は商標法の目的に全面的に反することとなる。また、本件商標を付した理美容鋏を使用する全国の多数のプロの理美容師が計り知れない不利益を受けるのであって、需要者は堪ったものではない。食肉の不正表示等、近年特に公正な取引が叫ばれているなかで許されざる行為である。
(10)以上の次第で、本件商標は請求人の理美容鋏を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって、その商品及びこれに類似する商品について使用するものであるから指定商品「理髪用はさみ,眉毛用はさみ,鼻毛用はさみ,愛玩動物用はさみ,その他のはさみ類,ほうちょう類,替え刃式かみそりの柄,髪梳き用かみそり,その他のかみそり,その他の手動利器」については商標法第4条第1項第10号の規定に該当し、同法第46条第1項第1号の規定によって無効にされるべきである。
また、本件商標は、請求人が使用している特殊形態の「Hi-Z」の文字を大きさを別として全く同一に表示したものであり、商標法は公正な競争を図り、取引秩序を維持することを目的とする競合秩序を維持する面をもっているものであるのに、偶然に一致したものとは認められられない前記特殊形態の「Hi-Z」の文字より成る本件商標を、その使用者である請求人と何らの関係ない被請求人が、自己の商標として採択・使用することは商取引の秩序を乱すものであり妥当でないと言える。したがって、本件商標は、指定商品「理髪用はさみ,眉毛用はさみ,鼻毛用はさみ,愛玩動物用はさみ,その他のはさみ類,ほうちょう類,替え刃式かみそりの柄,髪梳き用かみそり,その他のかみそり,その他の手動利器」については商標法第4条第1項第7号の規定に該当し、同法第46条第1項第1号の規定によって無効にされるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、請求人から商標を譲渡されたと主張している。しかし、被請求人は譲渡契約も交わさないまま一方的に請求人の使用している商標を出願した。しかも、商標を譲渡すると言うことは友好的な関係を保っていくことが条件であり、条件を満たしていないのに商標を譲り受けたと言うことは正当性に欠ける。そもそも、自己が現に使用している大切な周知商標を他人に無条件で無償で譲るようなことはありえないと考えるのが当たり前である。譲渡は、譲渡の条件を定めその条件がクリアされたときにはじめて成立するというのが世の常識である。被請求人は、請求人から商標をもらったもらったとばかり言っているが、その事実を示す客観的な根拠は提示されていない。したがって、請求人は、商標を譲り受けたとする被請求人の主張を否認する。
請求人は、被請求人の言動に不信感をもつようになったので取引を中止したのである。
答弁書8ページ12行目以降に「新会社;ハイゼットシザーズが被請求人の出資により設立される話しが乙第3号証第2ページのm、iで請求人も認めているように実行に移されたのである。」と記載され、その根拠として乙第13号証の納品書を挙げている。ところが、乙第3号証第2ページのmは「新会社(株式会社ハイゼットシザーズ)を設立し」と記載されている。しかし、乙第13号証の納品書に押されたゴム印に「株式会社」などの法人を示す字句がなく個人商店のようであり新会社のゴム印でない。丸い印影もこれが何に使用するものであるか非常に不明瞭である。一体、何のためにこのようなゴム印や印鑑を作ったのか異様である。これは、いつでも消滅させることができる不自然な個人商店ハイゼットシザーズである。
しかも、新会社ハイゼットシザーズを設立するのであれば請求人の所有する特許権は新会社に譲渡すると考えるのが自然である。しかし、どういうわけか、被請求人の所有となっている。
これらのことだけをとっても、請求人が被請求人に不信感をもつのは当然である。
ともかく、商標を譲り受けた受けないの話は裁判のことであり、今は特許庁における無効審判であるから受けた受けないの判断をするところでなく、商標を譲り受けたと主張するならその客観的な根拠を提出されたい。商標権の移転登録申請で口頭で譲り受けましたと言って移転登録がされないことと同じである。
(2)被請求人は、答弁書の[2]で半製品のことについて述べているが、本件審判との関係において何を言いたいのかわからない。したがって、この項は無視する。
(3)答弁書の[3]、[4]、[5],[6]は、請求人が使用している商標を譲り受けたことについて述べているが、前述したように請求人は、被請求人のこの主張を否認する。客観的な根拠もない。
また、答弁書10ページに、被請求人が、本件商標出願中の意見書の中で請求人のカタログから請求人の住所や社名などを削除したコピーを提出したことについて述べているが、言い訳に過ぎない。審査や審判において、証拠として提出する他人のカタログのその発行元を消したコピーを提出するということは尋常でない。意図的に都合の悪い事実を隠蔽することに正当性はない。
(4)本件商標の出願時における伝票を提出する。平成13年4月26日から同年12月13日までの分で売上数は517丁でその販売額は13,932,710円である。これと既に提出した甲第10号証の分を加えると平成13年3月12日〜同年12月13日で売上数は657丁であり、販売額は17,819,240円であるから落ち込んだことは確かである。しかし、これは請求人代表者がその夫であった請求人前代表者と離婚したことに原因している。請求人は従来どおり誠実に商売をしていることが得意先に理解されてきており、業績は回復基調にある。甲第31号証の伝票によれば、平成14年9月12日〜平成15年1月27日までのほぼ4ヶ月で販売数は341丁でその販売額は7,620,050円であり回復基調にあることが明らかである。確かに、昔に比べれば販売数などは減っているが、鋏などに限らず多くの物が中国などアジアから安い値段で輸入され販売されていること、および世の中が不景気であることに伴い日本の多くの業者の売上が激減していることと同じである。そのような厳しい環境の中で着実に売上を回復しているのだから、これは請求人の使用している商標の周知性すなわちブランド力によると言える。さらには、平成7年の阪神大震災の際に多くのケミカルシューズ業者が廃業した中で、壊滅的打撃を受けた請求人が再起できたのもブランド力があったからだと言える。また、請求人は廃業したのでなく、販売数が落ち込んだといっても継続的に一定数は販売しており、あっと言う間に周知商標の周知性が消滅するものでない。しかも、理美容鋏は専門家である理美容師が高い費用で買い長期間使用するものであるから、なおさらのこと周知性が簡単に消滅することはない。
(5)請求人は証明書を新たに提出する。これにより証明書の提出数は163枚である。この狭い業界でこれだけの証明書を得ることができたことは、それだけ本件商標について需要者が広く知られていると認識している証拠である。
証明書の中で神戸地区のものは74枚あり、神戸地区では周知度が非常に高いことが理解される。日本全国一律に周知であるとは言わないが、神戸は阪神大震災の時まで会社が所在していた関係で理美容店との付き合いも多く特に周知であり、神戸地区に限れば需要者の間で著名とさえいえるほどブランドは浸透している。東北地方でも周知度が高い。
請求人の製造販売する理美容鋏は高品質であるために非常に長持ちし、10年以上、長いものは20年も使用された鋏が請求人に修理のために持ち込まれている。鋏は何度も何度も修理されて長く使用されるのである。請求人の鋏が高品質であるからこのように長持ちして評判が良いのであって、他社あるいは輸入品の品質の劣るものは5年程度で使えなくなってしまうのである。甲第30号証の100〜150は修理伝票であり多くの鋏が修理に持ち込まれていることが理解される。
請求人は今まで非常に多数の鋏を販売してきており、しかもそれらが何度も修理されて10年以上ほとんど毎日使用されているのだから、いかに多数の請求人の鋏が全国の理美容師に使用されているかが理解できる。したがって、本件商標は出願時及び査定時において請求人の製造販売する理美容鋏を表示するものとして周知であったことは明らかである。また、証明書も日付のないものもあるが平成15年のものであって査定時と同視できる時期であり、証明書によっても査定時に周知であったことが理解される。証明書は真正であり、疑いがあるなら被請求人が証明者に直接問いただせばよい。
また、請求人はそれほど広告宣伝を行っていないことは確かである。次々と新製品が出るお菓子を周知にさせるためには広告宣伝が欠かせないが、理美容鋏は専門家である理美容師が使用する高価な商品であり、その品質は長期間使用してはじめてわかるものであるから、広告宣伝が周知性獲得の必須の手段ではない。理美容鋏について広告宣伝費が少ないから周知性を獲得することはできないというのは当たらない。請求人の商品は品質の良いことが理解されることにより販路が広がって行き、周知性を獲得したのである。
以上の次第で、本件商標はその出願時及び査定時において請求人の製造販売する理美容鋏を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことは明らかである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求める、と答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第24号証を提出している。
理由
本審判の請求人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同条同頃第10号の規定に該当し、同法第46条第1項第1号の規定により無効にすべきものである、と主張している。これに対し、被請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号及び同条同項第10号の規定に該当しないことを以下に論証する。
なお、請求人と被請求人との間には、本審判とは別に、乙第1号証から乙第10号証に示す寄託物返還等請求事件に関する訴訟(平成14年(ワ)第251号;岐阜地裁)で、原告・被告(請求人が原告、被請求人が被告)の関係にあったが、この訴訟事件の背景・事情・陳述が、本件商標に関する背景・事情と多々重複する。また被請求人がする「本件審判請求は成り立たない」との答弁の根拠も、この訴訟の訴訟資料の中に多数見受けられる。よって被請求人は、本答弁をこの訴訟事件とその経緯の説明から始める。
[1]経緯の概要
(1)請求人と被請求人は、本件審判請求書(以下、「本請求書」という)及び乙第1号証にも記載してある様に、被請求人が理美容鋏の半製品を製造し、これを請求人が仕入れて完成品に仕上げて販売をする、という取引関係にあった。この業務形態自体は理美容鋏の業界では一般的である。
(2)その後、乙第2号証第2頁のaに述べてある様に請求人会社は業務が悪化し、平成13年6月に請求人会社から被請求人に、資金援助など支援要請の話が持ち込まれた。
またその頃、請求人から被請求人に小切手で支払われた売掛金があったが、平成13年7月に、この手形が落とせないので被請求人が納品した鋏により代物弁済したいと申し出があり、被請求人はこれに応じた(乙第2号証第3頁のb、乙第3号証第3頁のc)。被請求人は返却品を販売し原価の回収に当てた。
(3)その後、破産回避の対策が色々検討されたが再建は無理な状況となり、最終的には、請求人会社(株)ハイゼットは自己破産とし、乙第3号証第2頁のmに示す様に、請求人会社の代表者は、被請求人の出資する新会社の社員として生計を立てつつ、債務返済をする話が請求人や被請求人その他の者と進められた。この過程で請求人所有の特許権が被請求人に譲渡され(乙第15号証)、同様に請求人の承諾のもと(乙第3号証第3頁のd)、本件商標に係る商標出願が被請求人により成された。以上が平成13年7月〜8月頃になされ、乙第2号証第4頁のeで述べてある様に、同年9月5日に請求人会社は自己破産申立をするスケジュールになっていた。そして破産申立予定日が過ぎてから、破産申立が成されていないこと、請求人は別の支援者を見つけたことを間接的に伝聞した。
(4)その後、被請求人は、請求人から寄託物返還等請求の訴えを受けた(乙第1号証)。平成14年7月26日のことであり、(ア)金型の返還、(イ)特許権の返還、(ウ)標章の使用差し止め、がその請求内容である。因みに標章は本件商標とは別の標章である。この訴訟は平成15年6月24日に和解が成立し、その主な内容は乙第10号証に示す様に、(ア)金型は返還する、(イ)特許権の返還は求めず、被告の自由な使用を認める。また被告の元には請求人に納品するはずであった在庫が多数残っていたが、これに関しては(ウ)同標章の付されたものと付されていないとを問わず、被告において任意に処分することに原告は異議を述べない、(エ)原告はその余の請求を放棄する(標章の使用の差し止めは、この放棄の対象となる)、などである。
和解では、請求人に納品する予定で製造した製品在庫については、任意な処分ができることとなり、被請求人は少しづつではあるが現在もこれを販売している。そして、今回、本件商標の無効審判を請求されるに到った。
[2]以上の経緯の各々を詳説する。まず請求人と被請求人の関係であるが、上述した様に、被請求人が理美容鋏の半製品を製造し、これを仕入れた請求人が完成品にして販売するものである。ここで半製品と完成品の関係であるが、被請求人の出荷する製品は、半製品とはいえほとんど完成してあるのであり、請求人会社は刃付けといわれる刃を研ぐ作業と布ベルトなどにより表面を仕上げる作業が製造業務の主たる部分である。従ってあとは販売業務がある程度のウエイトを占めてくる。
乙第12号証は、請求人に納品する予定であった被請求人製造の半製品Aと、これを被請求人が仕上げた完成品Bとの比較写真である。完成品は被請求人の加工によるが、請求人が加工してもこの写真で見るレベルでは同じに見えるのであり、見た目には表面の仕上げ程度しか違いは無い。この半製品には商標の刻印も既に施してあって、切れ味は完成品には至らないが髪を切ることもできる。これは理美容鋏の刃体がその表面も裏面も砥石による研磨で形成され、刃先はその表面と裏面の合わさる箇所となるので、それなりに尖った形状となっていて切れるのである。ただ刃先を鋭利にする刃付け工程と、布ベルトなどによる磨き仕上げだけがされていないのである。
しかし刃付け等は理美容鋏の品質の一部でしかない。理美容鋏は理美容師が一日中使う物であるために、柄や指環の大きさ・形状などに様々な工夫が必要であり、被請求人はこれに関する多くの特許、意匠を出願している。また理美容鋏の刃裏は裏スキという凹曲面を設けることとなっていてこれが鋏の性能に大きく寄与するが、この裏スキは被請求人会社の技術により形成されているのである。更に鋏になされる焼き入れは刃物としての命であるが、この焼き入れをするのも被請求人であり、その際の焼き入れ温度などは企業秘密のレベルであって被請求人の高い技術によるのである。また材料に用いるステンレス鋼にも様々ありこれの選択も被請求人のノウハウでおこなっているのである。また梳鋏などは櫛刃の形状や櫛刃の刃先形状により大きく機能が異なるのであるが、これも被請求人の半製品の段階で完成しているのである。
現に乙第19号証に示す様に、被請求人は、理美容鋏を中心とした9件の特許・登録実用新案と35件の特許出願を有している。更に理美容鋏は手に持つ物であるために、扱い易い形状や、道具としての機能美を有する形状が求められのであるが、これに関し被請求人は、33件の意匠権と9件の意匠出願をも有している。これに対し、請求人の有していた特許は被請求人に譲渡した1件だけであり、意匠権に至っては1件も保有していないのである。これを見ても分かる様に、完成品のもつ品質・技術の大半は、被請求人の半製品が有している品質・技術なのである。
この様に請求人会社の理美容鋏は、80〜90%は被請求人会社製なのであり、製品の出所という意味では多々重複するのである。この点、請求人は刃付けの重要性を説明しているが、刃付けが製品の品質の主要部であるがごときの説明は間違いである。刃付けが大事であることに異論はないが、多数の重要な技術の内の1つに過ぎないのであり、品質の多くは半製品の段階で決まっているのである。因みに、髪は軟らかいと思われているが細いからその様に思われるに過ぎず、髪の硬さ自体は針金程度なのであって、請求人の刃付けによる新品当初の刃先などは、この様な硬さの髪を切るので比較的早く消失するのである。よって理美容師は適宜研ぎに出すのであり、1本幾らの手間賃で刃研ぎを専門に行っている業者は幾らでもいるのである。請求人が請求の理由で「理美容鋏の命は刃付けにある」という研ぎはこの様な位置づけのものである。
請求人は本審判請求の理由の中で「製品の優秀さがプロの理美容師に高く評価されて事業は順調に拡大し、」と記載している。しかし、以上に述べた様に、「プロの理美容師に高く評価されたと述べているその「製品の優秀さ」の大半は、被請求人会社の製品の「優秀さ」なのである。
[3]請求人会社は、一時は売上げが好調であった時期もあったかも知れないが、本請求書で述べられている様にその後経営困難に陥り、取引のあった被請求人会社代表に再建への協力を依頼した(乙第2号証第2頁のf)。請求人はこれを否認しているが(乙第3号証第2頁のg)、乙第11号証に示す請求人自筆の手紙の2枚目のhにはっきりと「どうぞ資金援助をご見当下さいます様に」と述べていることからも明らかである。
しかしその後、再起策は種々あったが(例えば乙第14の覚書の策)、乙第3号証第2頁のmに述べられている様に、最終的には元ハイゼット社員を代表とする新会社を立ち上げ、原告(請求人)はそこの社員として生計を立てつつ、債務返済をしてゆくという方策が浮上した。この方策は一度は実行に移されたのであり、請求人も乙第3号証第2頁のiでこれを認めている。このiで示された乙第13号証の「納品書」は、前記新会社ハイゼットシザーズのゴム印と丸印(実印)の納品書であり、これからも前記方策は実行に移されつつあったことがよく分かるのである。更にこの方策においては、被請求人が前記新会社の運転資金などの資本や商品の提供をすることになっていたのであり、つまり新会社は被請求人会社の子会社という関係で立ち上げつつある状態であったのである。そして子会社と共同で事業をする親会社(被請求人)がその商標出願したのである。乙第3号証第3頁のdに示されている様に、商標出願は請求人了解のもとに成されたのであって、不正に成されたものでも、不正目的をもって成されたものでもないのである。なお請求人は、この乙第3号証において、商標登録の容認は自分の本意ではなかったと云う様な言い方をしているが、この様な主張がまかり通るのであれば、契約社会における全ての契約がいくらでも撤回できることになってしまうのである。
[4]以上の破産対応の過程で成された特許権の譲渡と、商標出願の承諾について更に説明する。まず権利の存在が明確である特許権に関し、その譲渡がなされたこと、よって特許権の所有権が合法的に被請求人に移ったことを説明し、もって商標に付いても同様であることを説明する。
(1)請求人は乙第15号証の譲渡証書で特許権を被請求人に譲渡したことを表明している。にもかかわらず乙第3号証第2頁のnで、特許権の譲渡は仮装譲渡であるとか、そもそも被請求人の発案であって請求人の言い出したことではないという言い方を盛んにしている。しかし請求人が、それが仮装であるとの認識で譲渡したのであれば、その仮装譲渡が自発的な意思か否かに関わらず、譲渡という外見を作ったことにより特許権の譲渡は成立するのである。これは民法上の問題であり、「Aは、Aの財産をBに仮装譲渡したが、Bは仮装であることを知らなかった」という場合、民法の定めによりこの譲渡は成立するのである(民法第94条第2項)。この場合、仮にBも仮装であることを知っていたなら民法の定めではこの譲渡は無効になる(民法第94条第1項)。しかし被請求人は真に譲渡を受けたのであり、仮装などとは全く思ってもいなかったのである。もし被請求人も仮装譲渡であることを知っていたとの主張をするのであれば、その証明責任は主張者にあるのであり、ぜひ証明して頂きたい。しかし訴訟においても、被請求人が仮装であることを知っていたとの証明は何らされていないのである。当然である。被請求人は特許権そして商標権を得て、請求人の再起援助をすることにより人助けにも成り、もって自らの業務にもプラスになることを意図したのである。いずれにしろ、請求人は仮装譲渡であったといい、しかし被請求人は仮装とは思っていなかったのであるから民法第94条第2項の規定により、特許権の所有権は被請求人に移転しているのである。
(2)以上のことは商標に関しても同様に云えるのである。即ち、仮に未登録周知商標に先使用者(ここでは請求人)の私権があるのであれば、その私権も特許権と同様のプロセスにて移転しているのである。因みに、有斐閣出版、網野誠著「商標」には、商標法第4条第1項第10号の立法趣旨については、(ア)出所混同防止説、(イ)使用事実保護説、(ウ)折衷説があげられている。この中で(イ)使用事実保護説については、先使用による私権の保護について言及している。この説をとるのであれば、まさにその私権を被請求人は譲渡されたのである。また(ア)出所混同防止説をとるのであれば、請求人会社代表が破産後の再起をかけることとなっていた新会社が被請求人会社が出資する子会社として立ち上げる中での商標の譲渡だったのであって、親会社と子会社であれば出所が同一なのである。つまり同項10号の規定の趣旨を(ア)出所混同防止説、(イ)使用事実保護説のいずれであるとしても、被請求人の商標出願は同項10号には該当しないのである。因みに、請求人製品は刃付けと磨きを除いては被請求人会社製であり、つまり出所は完全同一ではないが被請求人の半製品にかなり近似していて、出所はもともと多分に混同していたのである。
(3)なお付言すると、上述の民事訴訟手続きにおいて、請求人は当初は特許の移転登録の抹消登録手続き並びに別件商標の使用差し止めを請求していたが、岐阜地裁における訴訟上の和解においては右については全て請求を放棄し、しかも、被請求人が製造した大量の在庫品(半製品のこと;別件商標付きもある)について、特許権や商標についての主張を行わずに被請求人において自由に処分することを認めている。
請求人は、本無効審判において、権利が請求人にあることを前提とした主張を展開しているが、そうであれば、被請求人が保有する大量の在庫について自由処分(乙10の第3の和解条項5)を許諾する必要は無いはずである。請求人が右訴訟上の和解に応諾した一事をみても、本件請求人の主張が事実に反するものであることは明らかである。
(4)また尚、商標法には「商標登録を受ける権利」は規定されていないが、よって「受ける権利」の有無といった議論に関しては問題が無く、この意味で被請求人の商標出願は正当なものである。また被請求人は請求人の承諾を得て出願をしており、当時は未登録であったこの商標に関し請求人に何らかの私権があったのであれば、その私権を譲り受けたのである。無論、仮装譲渡などではない。被請求人は、乙第16号証の登録公報及び登録証に示す様に、韓国、台湾、中国、香港で本件商標の登録をしている。また被請求人は出願を承諾された他の2つの商標についても外国商標出願をしており(乙第17号証、乙第18号証)、その出願費用は合計で200数十万円に上るのである。被請求人が商標譲渡を仮装譲渡と考えていたならこの様な投資をする訳がない。
[5]以上述べた様に、第一にそれまでこの未登録商標を使用していた請求人が被請求人による出願を承諾していたこと、第二に被請求人は請求人の破産後において請求人の業務を引き継ぐ新会社が被請求人会社の資本により立ち上げつつあった(つまり事業体が1つになった)ことから、いずれの場合でも、被請求人は商標法第4条第1項第10号にいう「他人」ではなくなっていたのであり、よって本審判に係る商標登録は商標法第4条第1項第10号には該当しないのである。
繰り返すが、本件商標のそれまでの使用者である請求人も認めている様に破産申請を予定していた状況であるので、最終的には(株)ハイゼットについては破産申立し、新会社;ハイゼットシザーズが被請求人の出資により設立される話しが乙第3号証第2頁のm、iで請求人も認めている様に実行に移されていたのである。そもそも上述の事業の移転については、被請求人が言い出したものではなく、請求人が依頼してきたものである。何れにしても、請求人会社ハイゼットのハイゼットシザーズへの業務移転は実行に移され始められていたのである。従って本件商標出願はこの様な流れと期を同じくして成されたのであり、よって被請求人は商標法第4条第1項第10号にいう「他人」ではないのであり、つまり無効理由を有しないのである。
[6]また本件商標出願は商標法第4条第1項第7号にも該当しないのである。これに関し、請求人は「請求人と何の関係もない被請求人が、自己の商標として採択・使用することは商取引の秩序を乱すものであり妥当でないといえる。」と驚くべき事を述べている。被請求人は、破産状態の請求人会社の債務保証人になり、また従来から請求人会社にほぼ完成品と完成度の近い半製品を納めており、請求人会社が破産は免れない状況になったので業務を引き継ぐ新会社に出資することを引き受けたのであり、つまり請求人は被請求人の資本系列に入って業務実態は一つになる方向に話が進んでいたのである。その様な状況下において既に述べた様に、請求人の承諾に基づき被請求人名義の商標出願をしたのであって、その被請求人をして「何の関係もない」などとする請求人の発言は信義則に反するものであり、更にはあれほど支援を頼んでおきながら、また被請求人にそれに応じてもらっておきながら、「何の関係もない」などとはその当人のするべき発言ではない。
因みに、再三示す乙第13号証の納品書は、新会社;ハイゼットシザーズのいわゆるゴム印と丸印の納品書である。この納品書に押印されているゴム印と丸印がその納品物と思われる。納品書日付は平成13年8月24日であり、破産申立を予定していた平成13年9月5日の12日前のことである。自己破産申立の代理人弁護士の名前も聞かされており、当然、破産申立は実行に移されつつあったのである(乙第2号証第4頁のe)。ところがその後、なぜか被請求人は請求人と連絡が取れなくなり、9月5日が過ぎてから、破産申立もしておらず、別のスポンサーを見つけ破産状態が一時延びたような話を聞くに至ったのである。ただ請求人からは何の連絡も説明もない状態であった。請求人は、請求人から別の者に何の相談もなく支援要請を移し替えたのである。そして、慌ててそれまでした被請求人との約束と信義を反故にし、「云った覚えはない」「本気でそういったのではない」などの発言を連発しだしたのである。
なお請求人は本審判の「請求の理由」の記載中では、この様な破産にまつわる種々の事情を一切説明していない。のみならず、被請求人が本件商標出願に関し提出した意見書及び補正書に関し、提出した商品カタログが全て請求人のカタログであり、またカタログ中の請求人会社名や住所などが隠蔽されているとか、果ては、この様にして登録を得たことが詐欺行為である等と述べている。しかも、自らは破産にまつわる様々な事情を一切隠蔽していながらこの様なことを述べている。請求人は、請求人会社の破産と、商標出願が被請求人会社出資の新会社への事実上の業務移管の一環として成されたこととを、例え見解の相異が双方にあるにせよ云うべきであった。乙第1号証に係る訴訟では、請求人が被請求人の商標登録を認めたとの陳述(乙第3号証第3頁のd)があるが、これを知られたくなかったのであろう。請求人は、商標登録を認めたのは本意ではなかった様なことを陳述しているが、訴訟において商標登録が審理対象の1つとなったにも拘わらず、この様な本審判に関わる重要な事情をなんら説明することなく、そしてその訴訟の存在自体に口を閉じてする主張こそが事実の隠蔽である。
請求人会社は長年に亘る業務で本件商標に仮に周知性を得たとしても、破産対応の中で商標に係る私権を被請求人に譲渡し、被請求人はこれを出願したのである。被請求人名義の出願は承諾したが、その商標を譲渡したのではないというのでは、意味不明で通らない主張である。いずれにしても商標は譲渡されたのである。ただ譲渡後の新しい商品カタログは無く、よって被請求人はこの旧・商品カタログを提出したのである。そして、この旧・商品カタログは破産対応などが関係者で話し合われるより何年も前のものであり、旧・商品カタログに記載された商標使用者としての請求人会社名などは、上述した出願当時の事実と異なった内容であって今となっては間違った内容となっている状態であったので、当然に削除したのである。乙第3号証第3頁のdをご確認頂きたい。ここで請求人は「被告人の商標登録を容認してしまった。」と明言している。なお請求人は自分の意志に基づくものではない様な言い方をしているが、泥酔状態であったとか脅迫されていたなどの民法に云う「意思表示の瑕疵」に当たらない限り、それは「本人の意思表示」なのである。カタログは何年か前のものであり、出願時の状況とは異なった譲渡前の状態のものであり、この事実と異なる箇所は当然に削除した。以上の経過に何ら触れず、その訴訟の存在自体を隠蔽し、「商標登録を容認する」との発言をも隠蔽して自らが望む審決を得ようとする請求人の行為こそが詐欺的行為なのである。
以上、[2]〜[6]では、訴訟資料を中心とした事実関係に基づき、本件商標登録が無効理由を有しないことを述べた。
次ぎに、[7]〜[8]では、請求人が、本審判請求書においては無効理由の存在を立証できていないことを述べる。
[7]請求人が無効理由の根拠にしているハイフン商標の周知性の立証につき、まず出願時の周知性が何ら立証の成されていないことに言及する。つまり、請求人は周知性の立証に多数の証拠を提出しているが、これによっても本件商標の出願時の周知性の立証は不十分であり、請求人による立証がなされたことにはならないのである。
(1)甲第2号証において請求人は、本件出願時の周知性の立証として120枚の証明書を提出している。一方、被請求人はここに乙第20号証を提出する。この乙第20号証は(株)全国理美容新聞社発行「理美容年鑑’95」の抜粋であり、乙第20号証の3には全国の理容施設(床屋のこと)の数が、また乙第20号証の4には美容施設の数が掲載してある。この年鑑はたまにしか発行されていない為に少し古いものであるが、しかし理容施設と美容施設(以下、「理美容店」という)が84年→93年の間に、約28.7万店舗→33.2万店舗と増加しており、10年前の統計ではあるが、現在でも少なくとも30万店舗程度はあろうことが充分推察できる。仮に理美容店が30万店舗であるとすると、甲第2号証は30万店舗中の120店舗と云うことになり、全国の店舗中の0.04%による証明と云うことになる。しかし、0.04%の店舗数の認識が証明されても充分認識されたとは云えないのであり、この様な120店舗;0.04%による証明では、何ら周知性を立証した事にはならないのである。また全国の理美容師は約50万人ともいわれているが、この点を鑑みても120人÷50万人=0.024%の認識度しか証明されず、いずれにしてもこの甲第2号証では、請求人が主張する無効理由の根拠たる周知性は、立証されたとは云えないのである。
また120枚という証明書の数が足りないだけではなく、証明書の各々に証明力があるかどうか、大いに疑問があるのである。
まず、請求人は証明書の中の幾つかが公的な意味を有する証明であって単なる一個人の証明ではないと述べている(甲第2号証の7、11、12、13、18、32、44)。しかし請求人が公的な証明というこれらの大半は、いずれも個人印を押したものであり公印を押したものではなく、何ら公的証明になっていないのである。厳密には「公的地位にある人が個人の立場で証明した書類」なのである。
その個人印も半分近くがシャチハタ印と思われるのであり、行政庁への提出書類にシャチハタが認められていないことを考慮すると「個人の証明」としてさえも、証明力の無いものと云わなければならないのである。因みに120の証明書中、シャチハタによる押印と見られるものは少なくとも50件あり、この50件は証明力がないと云わなければならない。
なお120件の証明書には、(ア)印の無いもの13件、(イ)印が不鮮明で押印した事にならないもの6件、(ウ)日付のないもの5件、(エ)当業者の証明かどうかが不明なもの11件、これに先に挙げた(オ)シャチハタと思われ行政手続き上の書類に成らないものが少なくとも50件である。以上、立証能力に欠けると思われる証明書は延べ85件、重複カウントを省いても120件中79件が証明力のないものか、証明力に瑕疵のあるものなのである。よって甲第2号証によっては、何ら周知性の立証は成されていないのである。
(2)また請求人は納品書等を甲第3号証〜甲第11号証として提出している。しかしこれが何を立証しているのか、はなはだ不明である。請求人はこれら証拠に基づき各年の販売額と販売数を説明しているが、甲第21号証〜甲第23号証の決算報告書に示された売上高(第12期;約1.27億万円、第13期;約1.39億、第18期;約0.45億万円)を見れば販売額などの概要は分かるからである。またその販売額も、約3000万円〜約6000万円程度であり、これは決して大きな額ではなく、何ら周知性の証明にはなっていないのである。特に、甲第3号証〜甲第8号証までの証拠は300枚にものぼるが、これら全部でその納品先は11社ほどである。なお乙第21号証は、先に挙げた「理美容年鑑’95」の抜粋であり、納品先となるディーラーの名簿である。この全国のディーラー数を鑑みると、請求人が甲第3号証〜甲第10号証に示した11社という僅かな取引先数では、何ら周知性の立証にはならないのである。
甲第11号証は修理伝票であるから、理美容店が中心となるが、理美容店が軽く30万店舗あることは先に示した。30万店舗中の数10店舗を挙げても、周知性の立証にはほど遠いのである。
よって甲第3号証〜甲第11号証によっても、何ら周知性の立証は成されていないのである。
(3)また甲第21号証〜甲第23号証には、平成5年、6年、7年、12年の各年の広告宣伝費が各々、170万円、331万円、約40万円、約39万円であったことが記載してある。これによれば、170万円、331万円当たりが最も高額な広告宣伝費であるが、これは本商標の出願された平成13年7月の6年〜7年前(平成5年、6年)のことであり、平成7年と12年とが各40万円程度であったことから類推するに、平成7年以降は多くても40万円程度であったと思われる。しかし、年間40万円程度ではよほど小さな業界であったとしても、そこでの周知性を得るだけの広告宣伝をすることは不可能である。更に、2年前には倒産に直面していたことを考えるとも、最近の広告宣伝費は40万円よりは少ないと考えるのが妥当であり、或いはゼロに近かったかも知れない。
これらが意味するのは、かって仮に周知性があったとしても、その後において、周知性の維持ができる様な広告宣伝は成されていないと云うことであり、よって出願当時の周知性の立証にはならないのである。因みに平成7年(95年)発行の前出の「理美容年鑑’95」には請求人の広告は掲載されていない(乙第22号証)。またこの「理美容年鑑’95」には529頁〜564頁にもわたり理美容のメーカー・商社名が多数掲載されているが、請求人会社は掲載されていない(乙第23号証)。換言するが、本件商標出願は平成13年に成されており、一方、出願のかなり前から広告宣伝費が落ち込んでおり、仮に平成5〜6年ごろに周知性があったと仮定しても、その後の周知性の維持ができた状態では無いのである。年間40万円の広告宣伝費を見る限りはそういわざるおえない。そもそも、平成5〜6年頃さえも商標法第4条第1項第10号にいう周知性はなかったのである。
(4)甲第27号証〜甲第29号証には「理美容ニュース」なる新聞が提出され、これへの請求人の広告が示してある。理美容業界の新聞は少なくとも5〜6紙以上はあり、被請求人が提出する乙第24号証の新聞もその1つである。また先に挙げた「理美容年鑑’95」の発行所も「全国理美容新聞社」である。この様に多数の新聞が乱立しおり、1紙に数回掲載されたことだけでは何ら周知性の立証にはならないのである。またこれら新聞の中には理美容卸業者の発行するものも多く、その卸業者の営業ツールとして使われているに過ぎないのものも多いのであって、甲第27号証〜甲第29号証の新聞が業界で広く購読されている訳でも、業界を代表する新聞でもない。因みに、理美容業界には、新聞なのかチラシなのか、またカタログをかねた「〇〇レポート」の類なのかが分からない様な零細な新聞が、業界紙と称して多数出回っているのである。よってその様な多数の新聞の中の1紙に数回掲載されたことを示すに止まる甲第27号証〜甲第29号証によっては、なんら周知性の立証はできていないのである。
[8]次ぎに、請求人は査定時の周知性を立証していないことに言及する。出願時と査定時の双方において商標法第4条第1項第10号に該当しなければ、無効理由は成立しないからである。
請求人の提出した甲第2号証の証明書は、平成13年7月13日当時での周知性に関するものであり、それから1年4ヶ月の後の査定時の周知性は何ら証明していない。またこの甲第2号証も、120件中の79件に証明力が無い・証明力に瑕疵がある旨を[7]の(1)で述べた。仮に出願時に周知性があったとしても、その後の1年4ヶ月の間も周知性が維持されたかどうかについて、請求人は何の立証もしていない。しかもこの1年4ヶ月は、請求人にとっては、破産から訴訟に至る期間であり、微々たる取引はしていたかも知れないが、周知性を維持するに足だけの業を成してはおらず、つまり実質、休眠状態だったのである。被請求人は、請求人と同じ市内の所在であり、市内の同業他社の風評は容易に分かるからである。
例えば請求人は甲第3号証から甲第11号証までの膨大な枚数の伝票類を提出しているが、この何百枚もの伝票類の中で一番新しい日付のものは、平成13年5月のものである。何百枚もの伝票を提出しておきながら、平成13年5月の最後の伝票から査定までの1年6月(あるいは本審判請求日までの過去2年1月)の間における「周知性を維持するに足る程度の取引量」が示されていないどころか、一件の取引伝票も証拠として挙げられていないのである。しかも甲第3号証から甲第11号証では平成6〜9年頃の伝票が最も多く、請求人が主張する周知性の形成時期はそのころと推察出来ること、またそれ以降は取引量が減っていることなどを考慮すると、甲第2号証で証明を試みた平成13年7月頃の周知性とは、その周知性が消失する寸前程度のものであったのである。そして少なくとも、その後の1年半余りの取引は無いか、あっても無いに等しい程度であったのであれば、仮に出願時に周知性があったとしても、その周知性が査定のときまで維持できているの論証が出来たことにはとてもならないのである。
なお請求人会社は、平成13年7月13日当時は代表が1人いるだけの状態であり、また破産に直面した状態であって実質、業務は行われていなかった状態である。その後の訴訟期間中は企業活動も無かったに等しい状況であり、最近に至っては社屋も売却し、同業他社の社内の一角が所在地となっての活動であり、同じ市内の被請求人にも、請求人が倒産に直面する前の状況に回復しているとはとても見えない状況である。つまり、単に最近の活動を示す伝票類が提出されていないだけではなく、現に周知性を維持するに足る活動が成されていないのである。この事からも分かる様に、出願時に仮に周知性があったとしても、その周知性を本件商標出願の査定時まで維持できる状況ではなくつまり周知性は消失していたのである。よってこの意味でも本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しないのである。
[9]まとめ
以上述べた様に、商標法第4条第1項第10号に関しては、出願時と査定時の双方において該当していなければならないところ、そのいずれにおいても該当していないのである。即ち、[3]〜[5]に述べた様に、訴訟資料その他の事実関係から、出願時においては、
(ア)商標を業務と共に譲渡されていたことが明白なために被請求人は同項10号に規定する「他人」に該当せず、よって無効理由を有しない。
(イ)また請求人の業務主体が被請求人の子会社化されつつあって事業主体の一体化が進んでいた中での出願であったために、この意味でも被請求人は「他人」に該当しなくなっていたのであり、よって無効理由に該当しないのである。
(ウ)また、譲渡人・譲受人の間で譲渡に合意があっても、需用者に混同による不利益があるのであれば商標法の趣旨にてらして問題があるが、その点、請求人の商品は、[2]で述べた様に、被請求人の商品と品質的には元々その多くが混同しているのであり、問題ない。
(エ)さらに、出願から査定に至るまでのあいだは、請求人にとっては破産への直面からその後の訴訟に至る時期であり、社員が一人もいない状態での休眠状態であり、仮に周知性があったとしてもその周知性を査定時まで維持できた状態ではない。
また請求人が本審判請求書の中で試みた主張は、[7]〜[8]に述べた様に立証がされていないのであり、即ち、
(オ)出願時の周知性に関する立証については、[7]で述べた様に、甲第2号証の証明力に瑕疵があり、甲第3号証〜甲第11号証が示した販売額3千〜6千万円や11社の取引先では周知性の有無が分からず、広告宣伝費が平成7年から平成13年の出願時まで毎年40万円程度であれば周知性は維持されようもないのであり、よって出願時の周知性は立証されていない。
(カ)査定時に周知性に至っては、[8]で述べた様に何ら論証されていないのみならず、そもそも査定時に周知性があったとの主張は一言も言及されていないのである。
よって、本件審判請求は成り立たない。

第4 当審の判断
(1)請求人の引用する別掲(2)のとおりの構成よりなる商標(以下「引用商標」という。)の周知性について
請求人は、引用商標が本件商標の登録出願時には、需要者の間に広く認識されていた商標であった旨主張し、証拠を提出しているので、この点について検討する。
請求人の提出に係る甲第18号証及び甲第19号証の株式会社サムソン発行の小冊子及び甲第27号証ないし甲第29号証の理美容ニュースによれば、それぞれの広告欄に請求人の使用に係る理美容鋏(以下「使用商品」という。)が掲載されていた事実が認められる。
しかしながら、甲第2号証の1ないし163の証明書は、あらかじめ不動文字により印刷された証明願について証明を受けているものであって、それぞれの証明者がその内容について、どの程度まで認識し把握していたのか不明であり、また、その証明書には、証明者の捺印のないもの又は証明時の日付のないもの等が含まれているものであり、全体として証明力の乏しいものといわざるを得ない。
さらに、甲第3号証ないし甲第10号証、甲第30号証及び甲第31号証の納品書(控)、甲第11号証及び甲第30号証の修理伝票には、平成6年12月13日ないし平成15年1月27日の使用商品の販売額、販売数及び修理代金が示され、また、甲第21号証ないし甲第23号には、請求人によって作成された第12期、第13期及び第18期の決算報告書が示されているが、その販売額、販売数及び修理代金は決して大きなものとはいえない。
そして、甲第12号証及び甲第13号証は、使用商品のケースの写真、甲第14号証は、被請求人が手続補足書において提出したカタログ、甲第15号証は、使用商品の写真、甲第16号証は、被請求人が請求人に出した請求書、甲第17号証は、被請求人が過去に使用していた鋏のケースの写真、甲第24号証は、使用商品の価格表及び甲第25号証及び甲第26号証は、被請求人による意見書及び手続補足書をそれぞれ示すにすぎない。
そうすると、請求人の提出に係るこの程度の証拠によっては、引用商標が本件商標の登録出願時に請求人の業務に係る使用商品の商標として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めるに十分なものということはできない。
(2)商標法第4条第1項第7号について
請求人は、偶然に一致したものとは認められられない本件商標を、その使用者である請求人と何らの関係ない被請求人が、自己の商標として採択・使用することは商取引の秩序を乱すものであり妥当でない旨主張している。
しかしながら、上記で述べたように、引用商標は本件商標の登録出願時には取引者、需要者の間に広く認識されていたものとは認められないこと。また、被請求人の提出に係る乙第1号証によれば、請求人と被請求人との間には取引関係が存在していたこと。さらに、乙第3号証によれば、請求人が被請求人の商標登録を容認していたこと等より、本件商標を被請求人が使用することが商取引の秩序を乱すものであるとはいい難いものである。
そして、本件商標は、その構成別掲(1)のとおりであって、その構成自体が矯激、卑猥、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるようなものではなく、その指定商品に使用することが、社会公共の利益又は一般的な道徳観念に反するようなものともいえない。また、法律によって使用が禁止されているものでもない。
してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであるとすることはできない。
(3)商標法第4条第1項第10号について
請求人は、引用商標が広く認識されていたことを前提としているが、上記で述べたように、引用商標は本件商標の登録出願時には取引者、需要者の間に広く認識されていたものではないから、商標の類否について検討するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものであるとすることはできない。
以上のとおり、本件商標は、その指定商品中請求に係る商品について、商標法第4条第1項第7号及び同第10号のいずれにも違反して登録されたものではなく、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
なお、請求人は、「被請求人は、請求人から商標を譲渡されたと主張している。しかし、被請求人は譲渡契約も交わさないまま一方的に請求人の使用している商標を出願した。」旨述べているが、被請求人の提出に係る乙第3号証によれば、請求人が原告であった訴外平成14年(ワ)第251号寄託物返還等請求事件の第1準備書面の中で、請求人は「…原告はこれを信用して被告の商標登録を容認してしまった。」と記載されているように、請求人が被請求人の商標登録を容認していたと認めざるを得ないから、この点に関する請求人の主張は採用の限りでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (1)本件商標



(2)引用商標


審理終結日 2004-02-13 
結審通知日 2004-02-18 
審決日 2004-03-02 
出願番号 商願2001-71207(T2001-71207) 
審決分類 T 1 12・ 22- Y (Z08)
T 1 12・ 25- Y (Z08)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 大島 勉 
特許庁審判長 滝沢 智夫
特許庁審判官 岩崎 良子
小林 薫
登録日 2003-01-10 
登録番号 商標登録第4633759号(T4633759) 
商標の称呼 ハイゼット 
代理人 伊藤 浩平 
代理人 廣江 武典 
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