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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z25 |
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管理番号 | 1095028 |
審判番号 | 無効2003-35219 |
総通号数 | 53 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2004-05-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-05-29 |
確定日 | 2004-03-25 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4319036号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第4319036号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.本件商標 本件登録第4319036号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成よりなり、平成10年6月29日に登録出願され、第25類「靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く.),げた,草履類」を指定商品として、平成11年9月24日に設定登録されたものである。 第2.請求人の引用する商標 請求人が本件商標の登録の無効理由に引用する登録第1542353号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成よりなり、昭和52年6月21日に登録出願され、第22類「はき物、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和57年9月30日に設定登録されたものであり、同じく登録第4196919号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(3)に示すとおりの構成よりなり、平成9年7月23日に登録出願され、第18類「かばん類」及び第25類「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、平成10年10月9日に設定登録されたものである(以下、併せて「引用各商標」という。)。 第3.請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第16号証(枝番を含む。)を提出した。 本件商標は、商標法第4条第1項第7号及び同第11号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号もしくは同第5号により、その登録を無効とすべきものである。 1.公序良俗を害する商標について (1)請求人ニュー・バランス・ライセンシング・インコーポレイテッド(以下「ニューバランス社」という。)は、1906年、米国において矯正靴のメーカーとして創業し、60年代から70年代にかけてその技術と独自の設計理念を活かしたランニングシューズが世界中のランナーに支持されるようになり、今日ではスポーツシューズ等のトップブランドの地位を築いている。ニューバランス社の商標「NewBalance(ニューバランス)」及びその頭文字である「NB」を図案化した商標は日本を含む全世界においてニューバランス社のブランドを示す著名商標となっている(甲第3号証ないし第7号証)。 (2)被請求人は、ニューバランス社のシューズの著名性に便乗して、本件商標をニューバランス社が製造販売するシューズの人気モデルの模造品に専ら使用している(甲第8号証ないし甲第11号証)。 本件商標のこのような使用状況からするならば、被請求人の本件商標出願はニューバランス社の評判・名声を借用して不正な利益を得るために使用する目的をもって為されたことは明白である。従って、被請求人が本件商標の設定登録を受ける行為は、商取引の秩序を乱し、国際信義に反するものであり、「公序良俗」を害する行為であるといわざるを得ない(商標法第46条第1項第1号)。 また、本件商標の登録後の被請求人による上記の使用行為は、信義則に反しており、いわば権利濫用的な商標権の権利行使である。従って、本件商標の登録後の事情においても、被請求人による本件商標の使用行為が国際信義又は公正な商品流通秩序を損なう商標権の濫用行為である以上、公序良俗を害する行為であることは明白である(商標法第46条第1項第5号)。 以下、本件商標が、公序良俗を害する商標に該当する理由について詳述する。 (ア)商標法第4条第1項第7号に規定する公序良俗を害するおそれがある商標には、その構成自体がきょう激、卑わいな文字、図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合が含まれる(東京高裁昭和27年10月10日判決・行政事件裁判例集3巻10号2023頁参照。商標法4条1項7号に関する現行の商標審査基準も同旨)。さらに、その設定登録が不正な意図をもってされ、国際信義又は公正な取引秩序に反する場合もこれに当たると解されている(東京高裁平成11年3月24日判決・判例時報1683号138頁、同平成11年12月22日判決・判例時報1710号147頁参照)。 (イ)被請求人は、本件商標の登録後、請求人の人気シューズの商品形態を模造したあるいはこれに酷似したシューズを多数販売している事実が判明している(甲第8号証及び第9号証)。甲第8号証及び甲第9号証は、ニューバランスのいわゆるクラッシックタイプの人気シューズの模造品である(甲第10号証及び第11号証)。 近時、ニューバランス社のシューズの著名性に便乗し、ニューバランス社のシューズの両サイドに付されている「N」マークの向きを若干変え、これを「N」でなく「Z」であるとか「ニューバランスタイプ」と称して商標権侵害物品が販売されている事例が多発している(これらの行為は、ニューバランス社の「N」マークの登録商標(登録番号第4554995号及び第4554996号)の商標権侵害であることは明らかで、ニューバランス社としては断固たる処置を講じている最中である。)(甲第12号証)。 被請求人が販売している上記の甲第8号証及び第9号証のシューズも同様に「N」のマークが靴の両サイドに付されており、被請求人は、自らのシューズをニューバランス社の人気モデルの模倣品であるにもかかわらず、「Z-balance」シューズあるいは(NBシューズではなく)ZBシューズであると称して販売しているものと推測できる。しかし、被請求人のシューズが載っているチラシ広告(甲第13号証)を見れば、被請求人はニューバランス社のシューズをあえて誤認しやすい角度から撮影した写真を使用しており、その不正の意図は明らかである。 (ウ)被請求人によるこれらのシューズの販売行為は、ニューバランス社がそのシューズの開発や販売、あるいは宣伝広告によって長年企業努力の結果築き上げてきた商品イメージや名声(評判)を著しく損ない、汚損(ポリューション)するものであることは疑いの余地がない。 被請求人がこのような不正行為を実際に行っている事実に加えて、本件商標中のアルファベットの「Z」と「B」の2つの斜体文字を組み合わせた「ZB」の部分の形状が、アルファベットの「N」と「B」の2つの斜体文字を組み合わせた独特の図形であるニューバランス社の著名なコーポレートロゴ(社章)を模倣したものであることを合わせ考えるならば、被請求人が、本件商標の登録をこれらの不正行為に使用することを目的として行ったものであることは明白である。 以上のとおり、被請求人の商標出願がニューバランスの評判・名声を借用して不正な利益を得るために使用する目的をもって為されたものと認められる以上、本件商標の登録は商取引の秩序を乱し、国際信義に反するものとして、公序良俗を害する行為に該当する(同法第46条1項1号)。 (エ)商標法第46条第1項第5号は、「商標登録がされた後において、その商標登録が同法第4条第1項第7号に掲げる商標に該当するものとなっているとき」を商標登録の無効事由とする旨規定している。 被請求人が行っている上記のニューバランス社の模倣シューズの販売行為は、ニューバランス社がそのシューズの開発や販売、あるいは宣伝広告等長年企業努力を尽くしてきた結果築き上げてきた商品イメージや名声(評判)を著しく損ない、汚損(ポリューション)するものであることは疑いの余地がない。すなわち、被請求人による登録後の本件商標の使用は、ニューバランス社の著名な商標の有する強力な信用力にただ乗り(フリーライド)し、汚染する(ポリューション)する不正な目的で行われているものであって、これによってニューバランス社の評価や名誉が害されるのは明らかである。 このように被請求人の登録後の本件商標の使用が不正な意図をもって行われている権利濫用行為であることが明白である以上、本件商標は、国際信義又は公正な商品流通秩序を損なうものとして、公序良俗を害する商標に該当するというべきである。 以上のとおり、被請求人は、本件商標登録後に信義則に反しあるいは権利濫用的な商標権行使を行っており、登録後の事情においても本件商標の使用は公序良俗に反する。 (オ)従って、本件商標は、商標法第46条第1項第1号もしくは同法同条同項第5号(いずれも同法第4条第1項第7号「公序良俗違反」)に該当するものとして、その商標登録を無効にすべきである。 2.先願先登録類似商標の存在について 本件商標に対しては、ニューバランス社の所有に係る別掲に示す2件(引用商標1及び引用商標2)の先願先登録商標が存在する。 (1)本件商標と引用各商標との比較 (ア)本件商標の商標公報(甲第1号証)から明らかなように、本件商標の標章部分は、(a)太字且つ右斜体で表現された英文字「B」と、その左に付着しているほぼ同じ大きさの(b)太く、右傾斜し、十数本の水平方向に延びる黒と白の交互横縞模様であって、右方が太く、左方に行くほど細くなるように表現した英文字「Z」から構成される図形標章であり、この図案標章の下段に英文字「Z-Balance」が近接して配置されている。 本件商標において、需要者の注意を引くのは、この図形標章部分と「Z-Balance」の双方であり、双方とも本件商標の主要部を構成する(以下、本件商標の図形標章部分を「本件図形商標」という)。 (イ)これに対して、引用各商標は、いずれも、(a)太字且つ右斜体で表現された英文字「B」と、その左に付着しているほぼ同じ大きさの(b)太く、右傾斜し、十数本の水平方向に延びる黒と白の交互横縞模様であって、右方が太く、左方に行くほど細くなるように表現した英文字「N」から構成される図形標章である。文字「N」の右縦字画と文字Bの左縦字画は他の縦字画よりも細く互いに他方の字画の一部を兼ねる形になっている。そして、「N」の右字画と「B」の左字画の部分から左方に向けて水平黒線の幅が減少し水平白線の幅が増大している表現が採用されているため、全体的に「風の中を右方へ疾走している」ような感覚を表現しているようなイメージを与えている。 上記で述べたように、ニューバランス社の社名の頭文字である「NB」を図案化した商標である引用各商標は、日本を含む全世界においてニューバランス社のブランドを示す著名商標となっている(甲第3号証ないし第7号証)。 (ウ)ニューバランス社の著名な引用各商標と本件商標を対比すると、本件商標においては、まず字画が同程度に太くかつ右斜体字で表現された英文字「B」の左側に「字画の幅が同程度に太く、同程度の角度で右傾斜し、同数[本件商標では27本、引用商標1(甲第14号証)でも27本]の水平方向に延びる黒と白の交互横縞模様」で表現された英文字が付着された構成が取られており、表現方法がほぼ同一であり、共通のイメージが看取されることは明らかであって、本件商標は全体的に引用商標と類似の範囲を脱していないものと思われる。 (エ)ニューバランス社の上記主張にもかかわらず、本件商標に対する商標登録異議申立てに対する特許庁の異議決定においては、「両者は、その構成要素、描出方法を著しく異にし、図形部分全体から受ける視覚的印象も全く異にするものというべきであるから、これを時と処を異にして離隔的に観察するも、外観において相紛れるおそれはないものであり、称呼及び観念においても類似しないものである。」と判断された。 (オ)しかしながら、我々の日常経験によれば、一般に取引者、需要者は必ずしも商標の構成を細部にまでわたり正確に記憶し、想起するものとは限らず、商標全体の主たる印象によって商品の出所を識別する場合も少なくないことが認められている。 特に、引用各商標は、消費者をして請求人のシューズを即想起させるほど浸透している著名商標であり、被請求人はこの著名性に便乗する目的で、意図的に同一の表現形式をとった左側の英文字と同一の表現形式の右側のBとを結合させて、本件商標の出願に及んだものである。 このように被請求人によってあえて同様なイメージを持たされた本件商標がその指定商品である「靴類」に使用された場合には、これを時と処を異にして離隔的に観察すれば、外観において相紛れるおそれがあるというべきである。 (カ)前述のように、被請求人は本件商標を(濫用的に)使用してシューズを製造販売しているが、実際に消費者が、本件商標を使用した被請求人のシューズをニューバランス社のシューズと誤認して購入したり、購入しかけた被害が発生していることが判明している(甲第16号証)。これらの実例からすると、ニューバランス社が危倶していた本件商標と引用各商標との外観類似による出所の混同のおそれが現実のものとなってしまったといわざるを得ない。このような現状を考慮すれば、本件商標と引用各商標を時と所を異として離隔的に観察すれば、外観上互いに紛れやすく消費者に出所の混同を生じさせるおそれがあるというべきであり、本件商標は引用各商標と類似商標と見なすべきである。 3.結 論 本件商標は、前記及び各証拠から明らかなように、商標法第4条第1項第7号及び同第11号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号もしくは同第5号により無効にすべきものである。 第4.被請求人の主張 被請求人は、何ら答弁していない。 第5.当審の判断 本件商標は、別掲(1)に示すとおり、モノグラム風の図形とその下に「Z-Balance」の文字を配してなるものであるが、その構成に照らし、図形部分と文字部分とは常に一体として把握しなければならない格別の理由は見出し難く、それぞれ独立して自他商品識別標識としての機能を果たし得るものである。 そこで、本件商標の図形部分と引用各商標とを比較するに、本件商標の図形部分は、欧文字「B」をやや右に傾かせて肉太に表し、その左にほぼ同じ大きさの、やはり右に傾かせた「Z」の如き欧文字を、十数本の水平方向に延びる黒と白の交互横縞模様を右方が太く、左方に行くほど細くなるように表現した図形からなるものである。 これに対して、引用各商標は、別掲(2)及び(3)に示すとおり、いずれも、欧文字「B」をやや右に傾かせて肉太に表し、その左に結合するようにほぼ同じ大きさの、やはり右に傾かせた「N」と認められる欧文字を、十数本又は数本の水平方向に延びる黒と白の交互横縞模様を左方に行くほど細くなるように表現した図形からなるものである。 そうすると、両商標は、細部にわたって比較した場合には、左側の文字が「Z」の如きものか、「N」の文字か、黒と白の交互横縞模様の描き方等に差異が認められるものの、これらの差異は看者にとってさほど印象に残るものでなく、むしろ、両商標は、共に、一見して右側に顕著に肉太で表された、やや右に傾いた「B」の欧文字及びその左側に描かれた黒と白の交互横縞模様風の図形が強く印象付けられるといえるものであり、その図形全体で特定の文字を表してなるというより右側の「B」の文字があたかも風を切って走っているかのように看取されるものとして認識されるとみるのが相当であって、結局ところ、両商標は、このような極めて特徴のある創作的な描出方法(基本的構成)において構成の軌を一にするものといわざるを得ない。 さらに、請求人の提出に係る甲各号証によれば、請求人会社が、1950年よりスポーツシューズに引用各商標を使用した結果、アメリカはもとより世界的に著名となり、日本においても、本願商標登録出願前には、株式会社ニューバランスジャパン等を通じ販売した結果、著名になっていたことが認められる。 してみれば、本件商標と引用各商標とは、それぞれを時と所を異にして離隔的に観察した場合には、引用各商標の著名性とも相俟って、彼此相紛れるおそれのある外観において類似する商標というべきものであり、また、本件商標の指定商品と引用商標1及び2の指定商品とは同一又は類似のものと認められるものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項(第1号)の規定により、その登録を無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲 (1)本件商標 (2)引用商標1 (3)引用商標2 |
審理終結日 | 2003-12-24 |
結審通知日 | 2004-01-05 |
審決日 | 2004-02-12 |
出願番号 | 商願平10-55433 |
審決分類 |
T
1
11・
26-
Z
(Z25)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
宮下 正之 |
特許庁審判官 |
小川 有三 富田 領一郎 |
登録日 | 1999-09-24 |
登録番号 | 商標登録第4319036号(T4319036) |
商標の称呼 | ゼットバランス、バランス |
代理人 | 阿部 佳基 |
代理人 | 渡辺 広己 |
代理人 | 室田 力雄 |