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審決分類 審判 全部無効  無効としない Z42
審判 全部無効 商8条先願 無効としない Z42
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない Z42
管理番号 1094877 
審判番号 無効2002-35151 
総通号数 53 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-05-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-04-17 
確定日 2004-03-31 
事件の表示 上記当事者間の登録第4496409号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4496409号商標(以下「本件商標」という。)は、「帝国興信所」の文字(「標準文字」による)を書してなり、平成11年9月29日に登録出願、第42類「施設の警備、身辺の警備、個人の身元又は行動に関する調査」を指定役務として、同13年7月12日に登録査定、同13年8月3日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第24号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第8条第1項について
件外鳥羽和博(以下「鳥羽氏」という。)の商標登録出願(商願平10-75429)の取り下げは、錯誤もしくは公序良俗に反し、無効であり、鳥羽氏の商標登録申請が時間的に優先することから、被請求人の商標登録は商標法第8条1項が定める先願主義に反し、無効である。
鳥羽氏は、被請求人及び被請求人の代表取締役である谷口卓爾氏(以下「卓爾氏」という。)から、「商標登録の申請を取り下げなければ各種法的手続き等を取る」旨記載された平成12年10月13日付け「通告書」と題した内容証明郵便を送りつけられ、さらに、再度、商標登録を取り下げるよう同月28日付け「通告書」と題する内容証明郵便を送りつけられた。さらに、卓爾氏は、同年11月頃、業界のタブーを破って、鳥羽氏のテリトリーである九州地方に鳥羽氏が経営する「帝国興信所」と全く同じ名称である被請求人のNTTの広告を載せてきた上で、さらに、鳥羽氏をホテルの個室に呼びつけた。
そして、鳥羽氏は、ホテルの個室という密室で、2、3時間もの長時間にわたり、「商標登録を取り下げろ。さもなくば、九州地方に自分が進出する。」などと言われ、もし、鳥羽氏が商標登録の申立を取り下げなければ、鳥羽氏の九州地方における営業行為が妨害され財産上の利益を得られないかのごとく脅され、それを恐れた鳥羽氏は本来取り下げる必要のない商標登録を取り下げざるを得ないように追い込まれ、その結果、鳥羽氏は商標登録を取り下げたのである。かかる一連の行為は、「財産に対して害を加えるべきことをもって脅迫し」「人をして義務のないことを行わせ」る行為といえ、刑法第223条第2項の強要罪に該当する疑いが強い。鳥羽氏は、かかる犯罪に該当しかねない行為に基づいて商標登録を取り下げたのであって、鳥羽氏の商標登録の取り下げ行為は、公序良俗に反する無効な意思表示であるといえる。
また、公序良俗に反しないとしても、卓爾氏は鳥羽氏に対して、自己の申請した商標登録が認められたとしても、その権利を実兄である申立人(「請求人」の誤記と思われる。)に譲渡する意思がないにもかかわらず、「もし、自分が商標を登録できれば、その権利を兄貴(請求人)に譲渡する。」などとあたかも商標登録を請求人に譲渡する意思があるかのごとく鳥羽氏を錯誤に陥らせて欺き、その結果、鳥羽氏は特許庁に対する商標登録申請を取り下げたのである(甲第9号証参照)。
平成12年10月31日付け卓爾氏が代表取締役を務める(株)帝国興信所の作成した意見書(甲第6号証)には、「本出願人は引用商標の出願人と現在交渉中であり、引用商標出願はいずれ取り下げられる模様である。」などと鳥羽氏が商標登録を取り下げる平成13年3月26日から半年もさかのぼった時期に、既に鳥羽氏の商標登録取り下げが予告されている。ところが、鳥羽氏が卓爾氏に送った平成12年10月16日付け「回答書」によれば、当時、鳥羽氏は自己の商標登録を取り下げるなどということは卓爾氏に対して一言も言っていない。かかる一連の経緯からしても、鳥羽氏の商標取り下げが卓爾氏に強要された、あるいは、欺かれて取り下げたことは十分裏付けられる。
以上から、鳥羽氏の商標登録取下げは無効であり、被請求人よりも先に商標登録を申請している鳥羽氏の商標登録が登録されるべきである。
2 商標法第3条第1項第6号について
被請求人は、拒絶理由通知書に対する意見書(甲第7号証)において、「『帝国興信所』なる名称は本出願人が日本国内の各地において長年使用しているものである。」と述べる。しかし、被請求人が「帝国興信所」なる商号を使用し始めたのは、平成4年4月頃以降の約10年間であるにすぎない。 被請求人の全部事項証明書には「会社の成立」は「昭和55年10月25日」と記載されているが、これは卓爾氏を補佐していた二通孝司氏(以下「二通氏」という。)が古い登記簿謄本を買い取ったほうが、歴史があるようにみえ、信用が増すことから、岡本食品の登記簿謄本を買い取ったにすぎず、昭和55年10月25日に会社を成立させたわけではない。二通氏によれば、卓爾氏が興信所業務にたずさわるようになったのは、請求人が病に倒れた昭和55年から約5年くらい経った昭和60年頃以降であり、卓爾氏が昭和55年10月25日に被請求人たる会社を成立させるなどということはあり得ない。これに対し、卓爾氏の実兄である請求人は昭和25年頃以降から大阪を中心にして個人で興信所業務を経営するようになり、昭和52年頃以降現在に至るまでの約25年間、株式会社「帝国興信所」なる商号で興信所を営み続けている。また、請求人は、昭和52年頃から、「帝国興信所」という名称でNTTの電話帳に電話広告を掲載し、その後も現在に至るまでの間、「帝国興信所」という名称で興信所を経営している。さらに、請求人は、昭和54年12月14日には、株式会社帝国興信所を設立し(甲第12号証)、京都市、岡山市、広島市及び福岡市の4カ所に支店を設けていた。
現在、請求人が実質的経営者を務める「帝国興信所」は、大阪本社のほか、岡山支店、広島支店、高松事業所その他に各事業所を設け、NTT広告もその間、営業広告を載せ続けてきた(甲第13号証ないし甲第15号証)。
請求人が実質的経営者を務める「帝国興信所」と各支店・事業所との関係は、フランチャイズ契約であり、本社と各支店・事業所とは独立した経営及び宣伝広告を行っている。この実態に着目して考えるならば、請求人が実質的経営者を務める「帝国興信所」には、大阪本社「帝国興信所」の傘下に独立した3社の株式会社「帝国興信所」が存在することになる。
その他、平山宏氏(以下「平山氏」という。)も、昭和62年4月1日、帝国興信所株式会社を設立し、北九州市、大阪市、東京都港区、広島市、松山市、下関市及び大分市の7カ所に支店を設けた。
このように、被請求人の登録時点である平成13年8月3日には、既に被請求人が出願したと同じ指定役務で、かつ、全く同じ「帝国興信所」なる名称にて少なくとも3社から6社全国的に業務を展開していた。
なお、被請求人は、電話帳による電話広告を行っているとしても、支店登記は全く行っていない(甲第19号証)。
このように、請求人以外に請求人よりも長期間にわたり「帝国興信所」という名称を用いた興信所が全国各地に多数存在し続けていた事実よりみれば、「帝国興信所」はもはや特別な名称ではなく、一般的に用いられる普通名称にすぎない。
してみれば、本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する需要者はこれが何人かの業務にかかる役務であるかを認識することができず、本件登録は、商標法第3条第1項6号に該当し、無効である。
3 請求人の利害関係について
被請求人が、エヌ・ティ・ティ番号情報株式会社に対し、平成13年10月17日付け「商標登録完了にともなう商標権侵害防止の為の要請書」を提出したため、請求人が実質的経営者を務める株式会社「帝国興信所」が電話広告を載せることができなくなっている。
よって、請求人は本件無効の審判を求めるにつき利害関係を有する。
4 答弁に対する弁駁
(1)商標法第8条第1項について
(ア)被請求人は、「被請求人は鳥羽氏に取り下げを強要した事実は全くない。」と主張する。しかし、鳥羽氏は、平成13年3月22日、被請求人の代表取締役である卓爾氏と谷口孝一氏(以下「孝一氏」という。)から、大阪エアポートホテルの-室に呼び出され、事前に用意された示談書に署名・捺印させられたものである。
鳥羽氏は、既に、卓爾氏に対して上記「示談書」及び「約定書」の錯誤無効の意思表示を行っている(甲第20号証の1、2)。
よって、鳥羽氏の商標登録申請取下行為は、公序良俗に反し無効である。
また、鳥羽氏自身も特許庁に対し、鳥羽氏の商標登録申請の取り下げが錯誤若しくは公序良俗違反による無効を理由に被請求人の登録無効審判を請求している(審判番号 無効2002-35158)。
(イ)被請求人は、「かかる取り下げ行為は、公証人の面前で請求人、被請求人、並びに他の者が出頭して取り交わした約定書に則ってなされた鳥羽和博の意思によるものである。(乙第1号証)」と主張するが、これは明らかに虚偽の事実である。
乙第1号証の「約定書」の最後の署名・捺印を見れば一目瞭然であるが、小河巌公証役場に行ったのは、卓爾氏及び孝一氏のみであり、請求人も鳥羽氏も公証人の面前などには行っていない(甲第21号証の1、2参照)。平成13年2月23日、卓爾氏及び孝一氏が「示談書」の写しを持参して、小河巌公証役場へ行き、確定日付の認証が行われただけであり、同「約定書」は公証人の面前で請求人や鳥羽氏が同席したうえで作成されたわけでは全くない。請求人も鳥羽氏も、小河巌公証人には会ったこともないのである。
以上、「約定書」は、請求人、鳥羽氏及び被請求人が出頭して取り交わしたものではない。
(ウ)被請求人は、「実際の出願取り下げ書の提出は、鳥羽和博の代理人であった弁理士今村貞昭(「貞昭」は「定昭の誤りと思われる。以下、「今村弁理士」という。)によってなされており……当該弁理士に相談するなどの自由な時間が当然あったはずであり、この点からしても……請求人の主張は到底認められない。」と主張する。
しかしながら、前項記載のとおり、今村弁理士が鳥羽氏を代理して行った商標登録申請の取り下げ行為は、鳥羽氏が平成13年3月22日に卓爾氏から受けた強迫的な言辞及び詐欺的な言辞により受けた畏怖の精神状態及び錯誤の精神状態が継続している中で行われた行為であり、畏怖及び錯誤の状態を脱した後に行われた行為ではない。
よって、被請求人の上記主張には理由がない。
(エ)そもそも公序良俗に反する行為が無効であることは、ローマ法以来、全ての法制の認めるところであって、公序良俗は、法律の全体系を支配する理念である。
よって、公序良俗に反する行為は、絶対的無効と解すべきである。
以上、鳥羽氏の取下行為が公序良俗に反し、絶対的無効である以上、鳥羽氏はそれを何人に対しても請求し得ることになり、その結果、先願主義により、鳥羽氏に商標登録が認められるべきである。
また、鳥羽氏の商標取下行為が錯誤無効、詐欺取消ないし公序良俗に反する行為に基づき行われた行為であることが判明することにより、被請求人の商標登録自体が「公序良俗を害するおそれのある商標」(法第46条第1項第5号)にも該当することになる。
(オ)被請求人は、鳥羽氏の「商標登録願は、その審査時において被請求人の商標『帝国興信所』が当時は未登録であったにもかかわらず特許庁によって周知であると判断され、その結果被請求人の商標『帝国興信所』が引用されて、拒絶査定となっている」と主張する。しかしながら、我が国は、アメリカ・イギリス法系のように使用主義を採用しているわけではない。我が国においては、使用主義を採用すると先使用の立証や審査が困難であることから、権利関係を明確にし、かつ、これを簡易迅速に決定するため先願主義が採用されて、「同一の商標」について商標登録出願があったときは、「最先の商標登録出願人のみ」がその商標について商標の登録を受けることができるのである。その際、先使用の有無は問題とはならないのである。このことは、被請求人自身も「この商標登録出願に係る商標は、本願指定役務を取り扱う業界においては多数使用されている名称である『帝国興信所』の文字を普通に書してなるものである。」ことを理由に、被請求人の登録出願が拒絶されるべきとの拒絶理由通知書が作成されていることからも明らかである。
(2)商標法第3条第1項第6号について
登録査定の判断時である平成13年7月12日当時、既に、被請求人以外に、大阪に本社を持つ株式会社帝国興信所(以下「大阪本社」という。)が存在し、被請求人と同じ役務にて、被請求人と同じ「帝国興信所」営業広告を載せるなど広く営業活動を行っていた。また、大阪本社のフランチャイズ契約を受け岡山支店、広島支店、高松事業所が被請求人と同じ指定役務にて、同じ「帝国興信所」という商号でNTTに営業広告を載せるなどして独立して「帝国興信所」という商号にて、長くかつ広く電話広告を掲載し、独立して営業活動を行っていた。なお、被請求人は「本件登録査定時の平成13年7月12日に」「京都市、岡山市、広島市、福岡市の4カ所に支店を設けていたかどうかは全く窺い知れない」と主張するが、甲第13号証には、登録査定時の2001年1月から2002年11月の期間のタウンページも含まれている。
このような状況下において、需要者が「何人の業務に係る役務であることを認識することは」不可能である。
なお、興信所といった役務においては、需要者はプライバシーの観点から敢えて地元から離れた業者に依頼することにより安心感や信頼感を覚えることがある。そのため、興信所を営もうとする者は、敢えて地元から離れた架空の「東京本社」等の電話番号を掲載し、電話転送機能を利用することにより、需要者に対する安心感を与えつつ、低コストで役務を提供するサービスを行っている。
よって、上記商標法の趣旨からして、被請求人の商標登録は無効であるとすべきである。
(3)また、「『大阪本社』として登場する大阪市北区西天満3丁目7番12号に存する『株式会社帝国興信所』と被請求人との間で」は、何らの合意も存在しない。乙第1号証上には、請求人も「大阪本社」も全く関係していないことが明白であり、上記主張自体失当である。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第8号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第8条第1項について
(1)請求人は、鳥羽氏の陳述書(甲第9号証)を提出して、あたかも刑法上の強要罪に該当するかの行為を行って被請求人が鳥羽氏に取り下げを強要したと主張しているが、そのような取り下げ強要の事実は全くない。
そればかりか、かかる取り下げ行為は、公証人の面前で請求人、被請求人、並びに他の者が出頭して取り交わした約定書に則ってなされた鳥羽氏の意思によるものである(乙第1号証)。また実際の出願取り下げ書の提出は、鳥羽氏の代理人であった今村弁理士によってなされているが(甲第8号証)、今村弁理士に取り下げを依頼する場合には、当該弁理士に相談するなどの自由な時間が当然あったはずであり、この点からしても鳥羽氏の取り下げ行為が、「犯罪に該当しかねない行為に基づいて」なされたものとする請求人の主張は到底認められない。
(2)請求人は、特許庁に対して行った鳥羽氏の商標登録願の取り下げが無効であるから、その結果被請求人よりも先に商標登録を申請している鳥羽氏名義の出願商標が登録されるべきであると主張しているが、請求人はこの点について誤解している。
適式な鳥羽氏からの要式行為である出願取下書を受理した特許庁の行為には何ら暇庇がなく、また、そもそも取り下げに至った経緯について特許庁がその事実を逐次審理し、その結果に基づいて取り下げ行為自体を無効と判断する責務、権限、機能も行政庁である特許庁にはない。さらにいえば、取り下げ行為が公序良俗に反する無効な意思表示であると仮に裁判所で判断されても、それによって要式行為として特許庁に提出された出願取り下げ書が直ちに無効となり、鳥羽氏名義の商標登録願が復活することにはならない。もちろんその旨の規定も商標法上には見当たらない。
いずれにしろ、鳥羽氏名義の商標登録願が既に取り下げられた以上、本件商標登録は商標法第8条第1項の無効事由を有するものではない。
2 商標法第3条第1項第6号について
(1)請求人によれば、本件商標の登録時点である平成13年8月3日には、既に被請求人が出願したと同じ指定役務で、かつ全く同じ「帝国興信所」なる名称にて、少なくとも3社から6社、全国的に網羅的に業務を展開していたとし、その内訳について適宜証拠を提出して説明している。
(2)しかしながら、まず無効事由に該当するか否かは、登録時ではなく、登録査定の判断時である。具体的に本件に即していえば、平成13年7月12日である(乙第2号証)。
(3)そして請求人は、昭和52年以降現在に至るまでの約25年間、株式会社「帝国興信所」なる商号で興信所を営み続けている、昭和52年頃から「帝国興信所」という名称でNTTの電話帳に電話広告を掲載し、その後も現在に至るまでの間、「帝国興信所」という名称で興信所を経営していると、主張している。
しかしながら、それを証明するための証拠として提出された甲第12号証は、一片の登記簿謄本の写しであり、それのみによってはかかる主張は裏付けられないのは、「被請求人が『帝国興信所』を使用し始めたのは平成4年4月以降の約10年間にすぎない」、「卓爾氏が昭和55年10月25日に被請求人たる会社を成立させるなどということはありえない」という、甲第11号証甲を挙げて主張する請求人の主張からして同様である。また請求人は昭和54年12月14日には、京都市、岡山市、広島市、福岡市の4カ所に支店を設けていたと主張しているが、甲第12号証は、平成14年1月31日時点での登記簿に記載されている事項を京都地方法務局が証明しているものにすぎず、昭和54年12月14日の時点、また本件登録査定時の平成13年7月12日にそのように支店が4カ所に設置されていたかどうかは全くうかがい知れない。ちなみに請求人が提出した甲第11号証によれば、京都支店は閉鎖されたとある。
(4)請求人は、「現在請求人が実質的経営者を務める『帝国興信所』は、大阪本社のほか、岡山支店、広島支店、高松事業所その他に各事業所を設け、NTT広告もその間、営業広告を載せ続けてきた」として甲第13号証ないし甲第15号証を提出している。そしてこれら支店、事業所との関係はフランチャイズ契約であり、独立した経営及び宣伝広告を行っているとし、結局、請求人が実質的経営者を務める「帝国興信所」の傘下には、独立した3社の株式会社「帝国興信所」が存在すると主張している。
しかしながら、まずそれらの支店、事業所との間のフランチャイズ契約を示す書証の類は提出されておらず、具体的にどのような営業活動を行っているかを示す証拠は見当たらない。また請求人は独立した3社の株式会社「帝国興信所」が大阪本社の傘下に存在すると主張しているが、そもそもかかる3つの独立した3社の株式会社「帝国興信所」が存在すること自体を立証する証拠も見当たらない。
請求人が提出した甲第11号証によれば、岡山、広島は大阪本社の「支店」となっている。
(5)さらにまた甲第13号証は、NTTタウンページへの掲載広告の写しであるが、これらの中には、「東京本社」と記載して広告を掲載しているものが多数存在する。甲第13号証で示された広告における殆ど2/3以上において、「東京本社」の電話番号が掲載されている。
しかしながら、請求人の提出した証拠においては「東京本社」が存在することはどこにも記載されていない。だとすればこれらの広告中において、「東京本社」と記載すれば、当然のことながら世人は被請求人のことを想起するのではないだろうか。また「東京本社」の名称を掲載した際に、「他全国主要都市81カ所ネットワーク」と掲載されることもあったが、その他の広告において「東京本社」なる名称を掲載しない場合には、それらの広告中には依然として「他全国主要都市81カ所ネットワーク」の文字がほとんど掲載されている。このことはとりもなおさず、被請求人の営む事業、規模、信用を取り込んで対外的に利用していることになるのではなかろうか。
一般に広告、宣伝中に「東京本社」の文字に接した者であれば、商標「帝国興信所」の行う役務についての監督、サービス内容、さらには当然のことながら、「帝国興信所」というサービスマークについての管理、所有主体も、「東京本社」であると認識するのはごく自然のことである。
だとすれば、請求人が提出した甲第13号証によっては、西日本、九州地区においてなされた宣伝・広告における商標「帝国興信所」は、有名無実の「東京本社」よりは、既に当時関東地方を中心として広く事業を営んでいた被請求人の商標として認識されていたとさえ想像できる。
そして、甲第13号証によって示された当時の広告中において掲載されていた「大阪本社」である大阪市北区西天満3丁目7番12号に存する「株式会社帝国興信所」と被請求人との間には、商標「帝国興信所」の所有主体について約定書が交わされており(乙第1号証)、これによって、商標「帝国興信所」の所有主体が被請求人に帰属することが、甲第13号証に登場する当事者によって了解され、当事者間において決着をみているのである。
(6)また請求人は、甲第18号証を挙げて(注、無効審判請求書には甲第16号証とあるが、誤りである)、その他に平山氏が設立した帝国興信所株式会社が全国7カ所に支店を設けたと主張しているが、平山氏が設立した帝国興信所株式会社は、違法行為が発覚したため、本件商標の登録査定の時点では、既に営業活動を停止していた。この辺りの事情は、請求人自身も承知しているはずである。ちなみに、請求人が提出した甲第18号証の履歴事項全部証明書の日付は、平成11年9月27日であり、本件商標の登録査定の時点でそのような「全国7カ所の支店」がどのように活動し、かつ、いかなる宣伝広告を実施していたかは全く不明である。
さらに請求人は、鳥羽氏が福岡県を本社とする「帝国興信所」という屋号で興信所業務を営み始めたとして、甲第17号証を挙げているが、甲第17号証は「株式会社ディーディーエー」の履歴事項全部証明書であり、請求人がいうような「『帝国興信所』という屋号で興信所業務を営み始めた」ことを示す証拠は全く見当たらない。甲第16号証も名刺のコピーであるが、これによっても本件商標の登録査定の時点での活動範囲、規模、商標「帝国興信所」の使用状況等は窺い知ることはできない。
(7)以上のことから、「本件商標の登録時点である平成13年8月3日(正しくは平成13年7月12日)には、既に被請求人が出願したと同じ指定役務で、かつ全く同じ『帝国興信所』なる名称にて、少なくとも3社から6社、全国的に業務を展開していた」とする、請求人の主張は証拠上裏付けのないものであって、到底これを認めることはできない。
そればかりか本件商標の登録査定の時点では、商標「帝国興信所」に接した者は、被請求人が本件商標の出願の審査において提出した証拠(甲第7号証)等からしても、最終的には被請求人の行う事業に辿り着き、結局商標「帝国興信所」は、被請求人の商標として認識することは明らかである。
したがって、「興信所業務を営む会社からすれば、『帝国興信所』は普通名称である」とする、請求人の主張は到底認められない。そもそも特定人の使用事実を証明するために甲第13号証を提出しておきながら、「『帝国興信所』は普通名称である」と主張する請求人の論理は自家撞着している。
(8)なお請求人は、自己を「大阪本社」の実質的経営者と主張としているが、請求人自身が提出した甲第12号証の履歴事項全部証明書によると、法律上は「大阪本社」代表取締役は、兵庫県宝塚市在住の「谷□孝一」、並びに同川西市在住の「谷口恵美子」である。
3 請求の利益について
請求人は、被請求人がエヌ・ティ・ティ番号情報株式会社に対し、「商標登録完了にともなう商標権侵害防止のための要請書」を提出したため、請求人が実質的経営を務める株式会社帝国興信所が電話広告を載せることができなくなっているとして、本件審判の請求適格を主張しているが、まず上記したように、請求人は法律上は該法人の代表者ではない。また既述したように該法人の代表者に対しては、商標の使用の許諾をしていることから(乙第1号証)、既にかかる措置から除外することを通告している(乙第3号証)。
よって法律上前記法人を代表しえない請求人が、「前記法人が広告を掲載できないから利害関係を有する」との論理は既に成り立たず、この限りにおいて請求人は本件審判の請求適格を有さず、かかる点に着目すれば、本件審判は請求適格が無いとして棄却されるべきものである。
4 ところで先に述べたように、本件商標については、適法な審査に基づいて既に被請求人の登録商標として商標登録されており、またそれに類似する他人の出願商標に対しては、本件商標が未登録の時点でさえも商標法第4条第1項第10号に該当するとして、被請求人の使用する「帝国興信所」が周知であると既に判断されて、当該他人の出願商標が拒絶されるまでに至っている。すなわち既に特許庁においては、商標「帝国興信所」は、被請求人の商標として周知なものとして認識されている。
さらにまた、本件商標の帰属については、いわゆる「大阪本社」として登場する大阪市北区西天満3丁目7番12号に存する「株式会社帝国興信所」と被請求人との間で、既に合意がなされたこと、既に述べたとおりである。
すなわち被請求人の商標として既に周知性を具備するに至っていた「帝国興信所」が、さらに確固たる適切な流通秩序を形成すべく、甲第13号証の広告掲載主、つまり商標「帝国興信所」を使用していた者との間で合意がなされているものである。
このような事実をかんがみれば、本件商標を第3条第1項第6号によって無効として、これを遡及的に消滅させることは、被請求人の商標として化体していた信用を保護しないばかりか、既に形成されている一定の流通秩序を破壊することに繋がる。そして第三者が新たに商標「帝国興信所」の下で、本件商標の指定役務に新規に参入することに対して、被請求人も、さらには大阪市北区西天満3丁日7番12号に存する「株式会社帝国興信所」も、迅速かつ効果的な対処ができないことを意味する。だとすれば、需要者が混乱することは必至である。
商標法は、一定の信用が化体する商標に対して商標権という独占権を付与してこれを保護することを目的とし、さらにはそのような化体した信用の下で形成されている流通秩序を維持することで、もって一般需要者、取引者の利益を保護することもその目的としている。
そうだとすれば、本件商標のように、使用事実に基づき審査において既に信用が化体していると判断されているにもかかわらず、該商標の下で形成されている秩序をも破壊して、いわば野放し状態とすることは、もとより商標法の意図しないことであることは明らかである。
かかる点からしても、本件商標が商標法第3条第1項第6号に該当して無効とすることは、法の趣旨にも反し、極めて妥当性を欠くものである。
5 追加理由
(1)被請求人は先に答弁書を提出したが、今回新たな証拠を提出するとともに、先の答弁書中の記載に一部誤りがあったため、ここに追加の答弁を行う。
(2)商標法第8条第1項について
先に被請求人は、「(鳥羽和博の)取り下げ行為は、公証人の面前で請求人、被請求人、並びに他の者が出頭して取り交わした約定書に則ってなされた」と先の答弁書において主張したが、これは誤りであって、実際は鳥羽氏と被請求人、並びに大阪市北区西天満3丁目7番12号の株式会社帝国興信所の代表者であった孝一氏と交わした示談書を、公証人の面前で公証を受けたものである。
しかしながら、当該公証を受けた約定書にある示談書にもあるように、鳥羽氏と被請求人らが交わした、鳥羽氏名義の商標登録願(商願平11-87647)取り下げについての合意は全く鳥羽氏の意思に基づくものであって、被請求人が取り下げを強要した事実は全くないことには、何ら変わりはない。
したがって、先の答弁書において主張したように、鳥羽氏名義の前記商標登録願は適式に取り下げられたものであり、それゆえ本件商標は、商標法第8第1項の無効理由を有するものではない。
(3)商標法第3条第1項第6号について
本件商標においては、請求人が提出した甲第7号証からも明らかなように、登録に至る過程において電話帳に多数の広告を掲載しており、その結果審査段階で通知された商標法第3条第1項第6号に該当するという拒絶理由が解消されて登録に至ったものである。
今回さらに本件商標の査定以前に他の広告媒体においても本件商標を使用していた事実を示す証拠が収集できたので、ここに提出する。
すなわち「帝国興信所」なる商標は、被請求人によって、登録査定が送達される以前に、全国紙である産経新聞をはじめとして、他に例えば河北新報、静岡新聞、福井新聞、日刊県民福井、北国新聞、北日本新聞、京都新聞、タウン情報に継続して広告を掲載していた事実があり(乙第4号証及び乙第5号証)、京都新聞については、平成5年から現在に至るまで毎日継続して地域情報頁「マイコーナー」に「帝国興信所」を表示して相談を受け付ける旨を広告している(乙第6号証)。
これら各新聞に掲載した広告には、被請求人の住所こそ記載されていないが、各々電話番号は必ず掲載されている。そして該電話番号は、本件登録の審査過程で被請求人が提出した電話帳広告(すなわち請求人も今回提出している甲第7号証に掲載されている電話帳広告)に記載されている電話番号と一致しているものである。したがって、これら新聞に掲載された広告中の商標もまた被請求人の業務にかかる役務の出所表示として機能している。
このような長年にわたる被請求人による「帝国興信所」の使用によって、「帝国興信所」なる商標は、被請求人の業務にかかる役務を示すものとして広く認識され、該商標の下で一定の信用、秩序が形成されていたものである。 かかる商標が、商標法第3条第1項第6号に該当するとは全く妥当を欠くものといわざるを得ない。
(4)以上の次第であるから、本件商標は商標法第8条第1項、商標法第3条第1項第6号のいずれの無効理由も有さないものである。

第4 当審の判断
1 本件審判請求に関し、当事者の間に利害関係の有無について争いがあり、被請求人は、本件審判請求は棄却されるべきものと主張するので、まず、これについて判断する。
商標法第46条(商標登録の無効の審判)の立法趣旨は、過誤による商標登録を存続させておくことは、本来権利として存在することができないものに排他独占的な権利を認める結果となり、妥当ではないからという点にある。
そして、本件審判請求において商標法第3条第1項第6号該当を無効理由の一つとして挙げているところ、商標法第3条第1項は、自他役務の識別力という商標の本質的機能を問題にした、いわば商標登録にあたっての商標としての一般的、普遍的な適格性を問題とする条項であり、この条項の各号に該当し本来登録がなされるべきものでないものが登録商標として存在し、これをもって商標権の行使をするときには、直接かつ具体的な不利益を受ける者が存在するといわなければならないから、このような場合、請求人を本件審判の請求をなすについて法律上の利益を有する者と認め、本件商標が前記の登録無効理由に該当するか否かの実体判断をするのが、商標法の定める商標登録の無効の審判制度の趣旨に合致するものというべきである。
したがって、本件審判請求は、棄却されるべきでない。
2 商標法第8条第1項に関する無効理由について
請求人は、「鳥羽氏の商標登録出願(商願平10-75429)の取り下げは錯誤もしくは公序良俗に反し、無効であり、鳥羽氏の商標登録申請が時間的に優先することから、被請求人の商標登録は商標法第8条1項が定める先願主義に反し無効である。」旨主張している。
しかしながら、特許庁は、鳥羽氏が今村弁理士を代理人として提出した商標登録出願(商願平10-75429)についての平成13年3月26日付け出願取下書(甲第8号証)を適式のものとして同月28日に受理したものであり、本件審判請求により、この出願取下書を受理した手続きを無効とすることはできない。
そうすると、商標登録出願(商願平10-75429)は、取り下げられたものというほかないものであり、本件商標の登録査定日である平成13年7月12日に、当該商標登録出願は、特許庁に係属していなかったものである。
したがって、本件商標の商標登録は商標法第8条1項の規定に違反して無効とする請求人の主張は理由がなく、採用できない。
3 商標法第3条第1項第6号に関する無効理由について
請求人は、「『帝国興信所』は一般的に用いられる普通名称にすぎないものであるから、本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する需要者は何人かの業務に係る役務であるかを認識することができず、本件商標は、商標法第3条第1項6号に該当し無効である。」旨主張している。
しかし、全証拠によっても、本件商標の指定役務である「施設の警備、身辺の警備、個人の身元又は行動に関する調査」を業とする者が、「帝国興信所」という名称(「株式会社」など会社の種類を付加した場合を含む。)を普通に使用している事実は認めらない。
甲第12号証ないし甲第15号証に記載のある「大阪市北区西天満3丁目7番12号」在の「株式会社帝国興信所」の本社と4つの支店及び事業所、及び甲第18号証に記載のある「福岡市中央区大名二丁目11番24号」在の「帝国興信所株式会社」の本社と7つの支店は、それぞれ同一事業体とみられるものである(なお、甲第17号証によれば、鳥羽氏の経営する興信所は「株式会社ティーディーエー」であって、「帝国興信所」ではない。)。
そして、本件商標について登録査定がされた時点を含め、「帝国興信所」という名称を使用している事業体が、全国的にみて数が多いと認めるに足りる証拠はない。
そうすると、「帝国興信所」の文字よりなる本件商標をその指定役務に使用した場合、これに接する需要者が何人かの業務に係る役務であるかを認識することができないとする相当の理由はないものであり、本件商標は自他役務識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。
4 したがって、本件商標は、商標法第8条第1項及び同法第3条第1項第6号に違反して登録されたものでないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2003-03-03 
結審通知日 2003-03-06 
審決日 2003-03-20 
出願番号 商願平11-87647 
審決分類 T 1 11・ 16- Y (Z42)
T 1 11・ 02- Y (Z42)
T 1 11・ 4- Y (Z42)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 青木 博文 
特許庁審判長 上村 勉
特許庁審判官 鈴木 新五
小池 隆
登録日 2001-08-03 
登録番号 商標登録第4496409号(T4496409) 
商標の称呼 テイコクコーシンジョ、テイコク、テーコク 
代理人 武本 夕香子 
代理人 萩原 康司 
代理人 井上 誠一 
代理人 金田 周二 
代理人 金本 哲男 
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