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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 111
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない 111
管理番号 1091734 
審判番号 無効2000-35413 
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-07-28 
確定日 2004-01-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第4054820号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成14年2月26日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第159号、平成15年1月16日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4054820号商標(以下「本件商標」という。)は、昭和62年9月24日に登録出願、「TOKYO PIGEON」の文字を横書きしてなり、第11類「電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)電気材料」を指定商品として、平成9年9月12日に設定登録されたものである。

2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第2088832号商標(以下「引用商標」という。)は、昭和58年1月5日に登録出願、「ピジョン」の文字を横書きしてなり、第11類「電気こんろ、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和63年10月26日に設定登録、平成10年11月24日に商標権存続期間の更新登録がされているものである。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第42号証を提出した。
(1)請求の利益について
請求人は、自己の出願について、本件商標を引用した拒絶理由通知を受けているので(甲第5号証及び甲第6号証)、本件審判請求について利害関係を有する。
(2)無効理由について
本件商標は、請求人の引用商標と類似するから、商標法第4条第1項第11号に該当するものであり、あるいは、引用商標と商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(ア)商標法第4条第1項第11号該当について
(a)本件商標は、「TOKYO PIGEON」の文字を横書きしてなるところ、その構成中の「TOKYO」の文字は、企業の本社、工場又は営業所等が極めて多数存する著名な日本の首都「東京」のローマ字表記であり、近年、かかる表記は、商品のパッケージ等において、一般化しているので、前記「TOKYO」の文字は、企業所在地や商品の産地・販売地・取引地等を表示したものとみるのが相当であって、自他商品識別標識としての機能を有しないものといえる。
(b)本件商標は、拒絶査定不服審判を経て登録されたが、当該審判において、被請求人は、引用商標の指定商品につき同人が請求中の一部取消審判が成立すれば、本件商標と引用商標の抵触は解消するので、該審判が終了するまで、審理留保を願う旨述べているから、被請求人は、本件商標が引用商標と類似することを認めているものと考えざるを得ない。
(イ)商標法第4条第1項第15号該当について
請求人は、昭和34年8月に設立、平成9年7月に一部上場した会社で(甲第12号証及び甲第13号証)、乳幼児用及び介護用の商品を製造販売するトップメーカーとして現在に至り、請求人がいわゆるハウスマークとして使用する引用商標「ピジョン」は、需要者等に周知・著名である。
請求人は、乳幼児及び被介護者用の商品を幅広く製造販売し、商品「調乳ポット」、「電気おかゆ鍋」、「クッカー(電動タイプ)」、「ママきてコール」など育児等に必要な電気製品についても販売してきている(甲第14号証ないし甲第23号証)。
このように、請求人が引用商標「ピジョン」を電気製品について、長年に亘り、幅広く製造販売している状況で、請求人以外の者が、本件商標「TOKYO PIGEON」を電気通信機械器具、電子応用機械器具等の商品に使用するとき、それに接する需要者は、請求人と何らかの関係を有する者の販売等に係るものと認識する可能性が大である。
そして、請求人は、本件商標の登録出願時においても、電気製品を販売していたことは明らかである。
したがって、本件商標は、引用商標と商品の出所について具体的な混同を生ずるおそれがあったといわざるを得ない。
特に、本件商標の構成中の「TOKYO」の文字は、一般に子会社や関連会社の商号等に多数用いられている取引界の実情に鑑み、恰も請求人の子会社等であるかの如き誤解を需要者に与えるおそれが大である。
ゆえに、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当すること明らかである。
(3)被請求人の答弁に対する弁駁
(ア)被請求人は、本件商標と引用商標が類似しない理由として、件外他人の先願先登録商標「THREE/三羽の鳩の図/PIGEON」(登録第474709号)が存在したにもかかわらず、請求人の所有に係る引用商標「ピジョン」が登録されたから、本件商標「TOKYO PIGEON」も引用商標と非類似であり、商標法第4条第1項第11号に該当しない旨主張している。
しかし、本件商標は、「TOKYO」と「PIGEON」とからなる結合商標であるところ、「形容詞的文字を有する結合商標(例、「銀座小判」)は、原則として、それが付加結合されていない商標(例、「小判」)と類似する。」としている社団法人発明協会発行の「商標審査基準の解説」(甲第24号証)の記載に照らせば、本件商標のうちの「TOKYO」は、著名な地理的名称であり、かつ、日本国の経済の中心地であるため、産地を表す自他商品識別力のない文言であることは明らかであるから、形容詞的文字を有する結合商標である本件商標「TOKYO PIGEON」と引用商標「ピジョン」とは類似する。
ただし、この原則にも例外はあり、前述の件外他人の登録商標「THREE/三羽の鳩の図/PIGEON」は、この例外に該当する。すなわち、「THREE」と「PIGEON」に挟まれた「3羽の鳩の図」からみてとれるように、当該商標は、「3羽の鳩」なる一定の観念を生ずることは明らかであるため、当該商標は、引用商標「ピジョン」と類似しないと判断されたものである。
これに対し、本件商標の構成中「TOKYO」と「PIGEON」との間には、とりわけ「3羽の鳩」のように、特に、意味観念的に関連するものはない。すなわち、本件商標を直訳すると「東京鳩」になるが、特に「鳩」と「東京」とは関係なく、「東京」と「鳩」との結合度は、鳩の数を表す「3羽」と「鳩」の結合度に比べて弱いことは、その意味から明らかである。
したがって、本件商標「TOKYO PIGEON」と引用商標「ピジョン」は、審査基準に記載される上記原則と例外のいずれを考え合わせても、類似する商標であると確信する。
(イ)次に、被請求人は、「すべての審決や審査は、その指定商品によって、また、『東京』や『TOKYO』以外の部分がどのような文字かによってその判断が異なるものであり」とし、「“東京リバブル”と“リバブル”が並存登録されていること、及び“東京テレシアター”と“テレシアター”が連合商標になっていないこと」を例に挙げ、本件商標「TOKYO PIGEON」も引用商標「ピジョン」と類似しない旨主張している。
しかしながら、指定商品及び「TOKYO」以外の文字との関係を個別に判断するとき、被請求人の主張では、何故、本件商標「TOKYO PIGEON」と引用商標「ピジョン」とが類似しないことになるのか不明であり、その根拠も全く挙げられていない。ただ単に“東京リバブル”等の登録例を挙げているのみである。
また、被請求人のいうように、指定商品「電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)電気材料」との関係で、本件商標「TOKYO PIGEON」を考えてみても、本件商標のうちの「PIGEON」(和訳するならば「鳩」)は、指定商品と意味的に何ら関連するところはなく、需要者又は取引者をして、他の商品群と彼此区別させ、高い識別力を有し、最も注意を引くところは「PIGEON」であると考えられる。
これに対して、本件商標の一部「TOKYO」は、特に、日本国の首都であって、経済の中心地であることを考えると、商品「電気通信機械器具」等との関係において、需要者又は取引者をして産地を表すものと容易に看取させる文字である。
以上のことから、「結合商標の類否は、その結合の強弱の程度を考慮し、判断する」との審査基準に本件商標をあてはめ、かつ、本件商標の指定商品との関係で本件商標をみるとき、当該基準を適用するに際して例外があるか否かを個別に検討しても、本件商標は、引用商標「ピジョン」と類似することは明らかである。
なお、請求人は、被請求人自身も答弁書に添付の会社プロフィールの最終ページ(甲第25号証)において、「東京」を地名として表示していることを特記する。
すなわち、もしも、本件商標「TOKYO PIGEON」からは一体的な意味観念が生じ、「TOKYO」と「PIGEON」とを分離分断する特別の事情がないとするならば、香港にある東京ピジョンは、「香港東京ピジョン」となり、シンガポールにある東京ピジョンは、「シンガポール東京ピジョン」となるはずである。
しかしながら、被請求人が会社プロフィールに記載している関連会社は、「地名」に「ピジョン」を付して、「香港ピジョン」「シンガポールピジョン」等と称呼されている。
したがって、被請求人自身も、「ピジョン」は、「東京ピジョン」の略称であると認識しているといわざるを得ない。
(ウ)本件審判請求書(以下「請求書」という。)において、請求人が「本件商標の登録は拒絶査定不服審判(平成2年審判第2424号)を経て登録されたものであるが、この拒絶査定不服審判に係る審判請求理由補充書には拒絶査定を覆す何らの理由も見つけることができない。したがって、本件商標に関する拒絶査定不服審判における審決は不当である。」と主張したところ、被請求人は、「審判が職権探知主義であること、及び審判が審査に対して続審であることを無視しているものである」から、請求人の主張は誤りであると主張している。
(a)この点、商標法における審判事件においては、職権主義を認めていることはいうまでもないことであり、請求人は、この職権主義が採用されていることを前提に審決の違法性を主張したのである。すなわち、職権主義の下、審理を進行・探知することは別段問題はないが、職権主義は、商標権が一般第三者に対しても及ぶという対世的効力に鑑みて規定されるものである。それゆえに、審決書には、認容審決か棄却審決か否かを問わず、商標法第56条第1項により準用する特許法第157条第2項に基づき、審決の理由を具体的に記載しなければならない。
また、判例(最高判・昭和54年(行ツ)134号)においても、「審決書に理由を記載すべき旨定めている趣旨は、審判官の判断の慎重・合理性を担保し、その恣意を抑制して審決の公正を保障すること、当事者が審決に対する取消訴訟を提起するかどうかを考慮するのに便宜を与えること、及び審決の適否に関する裁判所の審査の対象を明確にするということにあるというべきであり、したがって、審決書に記載すべき理由としては・・・顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由がない限り、・・・その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要するものと解するのが相当である」と判示されている(甲第26号証)。
そうすると、前記拒絶査定不服審判における審決書(甲第27号証)には、「本願商標は、・・・補正しているものである。」とする記載と、「原査定の拒絶の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。その他、本願について拒絶をすべき理由を発見できない。」と記載されているのみであり、本件商標と引用商標が類似しないとする理由が具体的に明示されていないこととなる。したがって、前記拒絶査定不服審判の審決は、準用特許法第157条の審決の理由が実質的に明示されておらず、違法となる可能性が極めて高いといわざるを得ない。
そして、請求人であるピジョン株式会社は、添付の拒絶理由通知書(甲第28号証ないし甲第30号証)に示されているように、自己の何件もの商標登録出願に対して、かかる違法な審決に基づいて登録された本件商標の登録の存在を理由に拒絶理由を通知され、多大な被害を被っている。すなわち、ピジョン株式会社は、自己の商標を付して、電気製品を販売するという自由を違法な審決によって認められた本件商標の登録によって、不当に制約されているものである。
(b)一方、本件商標の出願経過をみると、本件商標と引用商標が類似するとの拒絶理由通知に対する意見書(甲第31号証)のほか、前記拒絶査定不服審判では、次の点しか主張・認定されていない。
i)平成2年9月19日付け審判請求理由補充書(甲第32号証)の「指定商品の一部取消審判請求(いわゆる不使用取消審判)が成立し、本件出願の引用例が回避するまで、審理及び審理の決定を留保すること」という審理留保の嘆願と、
ii)願書に記載の指定商品を「電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)電気材料」とする補正があったこと。
そこで検討するに、上記意見書では、本件商標と引用商標が類似しないとする理由は全く記載されていない。
次に、拒絶査定不服審判における審理留保の嘆願は、本件商標と引用商標が類似しないとの証拠になるわけではなく、逆に、被請求人自身も本件商標と引用商標の類似関係を認めているものである。
そうすると、前記拒絶査定不服審判の審決を読む限りでは、被請求人が指定商品を削除する補正をしたがために、抵触する指定商品がなくなり、商標法第4条第1項第11号の拒絶理由が解消したとの審理判断がされたものと思わざるを得ない。
しかしながら、実際には、前記補正によっても、本件商標は、先願先登録に係る引用商標「ピジョン」と未だに抵触する指定商品「電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)電気材料」を含んでいる。
したがって、本件商標は、審決において法の適用の誤りがあり、その誤りで登録されたもの、すなわち、過誤登録であり、本件商標の登録処分は違法性を有する。
(エ)被請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しない理由として、請求書に添付した資料をもって、「本件商標の出願時(昭和62年9月24日)において、本件商標の指定商品の分野で“ピジョン”が周知または著名であったことを示すものではなく、また“TOKYO PIGEON”を付した指定商品が請求人の商品と混同を生じたことを示すものではない」と主張している。
しかしながら、ピジョン株式会社は、乳幼児用及び介護用の商品を製造販売しており、乳幼児用の商品の幅は極めて広く、添付の同商品カタログ(甲第33号証及び甲第34号証)を見ても、“ほ乳瓶・母乳用搾乳機等のほ乳用具をはじめ、体温計などの医療用機械器具、幼児用食器・鋏などの台所用品・日用品、体重計・湯温計などの測定機械器具、玩具”など、乳幼児及び介護用の商品であれば、いかなる分野にも展開される多角経営の可能性の高い企業である。事実、本件商標の登録出願・審決時の取扱商品と比べると、ピジョン株式会社の現在の取扱商品は、電気通信機械器具や電子応用機械器具の分野の商品にも展開されている。
また、引用商標「ピジョン」は、ピジョン株式会社の所謂ハウスマークであり、商標として数多くの商品に使用されているため、需要者とより密着している商標であって、引用商標「ピジョン」は、出所表示機能をより強力に発揮するものである。したがって、本件商標「TOKYO PIGEON」を電気製品に付した場合、特に、引用商標「ピジョン」が広く知られている乳幼児をもったことのある親等が、本件商標「TOKYO PIGEON」に接したならば、「PIGEON」の文字に注意を惹かれ、これを恰もピジョン株式会社と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると認識して、出所の混同を生ずる蓋然性は極めて高いと確信せざるを得ない。

4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
(1)本件商標の商標法第4条第1項第11号非該当性について
(ア)本案件よりも前に、「THREE」と「PIGEON」の英文字の間に3羽のハトの図を配してなり、第69類「電気機械器具及びその各部並に電機絶縁材料」を指定商品とする登録第474709号商標(昭和30年2月4日登録出願、同年12月22日設定登録、以下「先行商標」という。)が存在している。
(イ)本件商標は、「TOKYO PIGEON」の文字全体をもって自他商品識別力を有する。
これにつき、請求人は、本件商標中、「PIGEON」の文字部分のみが自他商品識別力を有すると主張している。
しかしながら、これを正論とすれば、前記先行商標の自他商品識別機能を有する部分は、同様に「PIGEON」の文字部分にあるといわなければならない。
なぜならば、「THREE」は、単に数を表すにすぎないからである。先行商標の自他商品識別機能を有する部分が「PIGEON」とすると、引用商標は、先行商標と抵触しているにもかかわらず、登録されたことになる。
そのことは、両商標が非類似であって、それぞれの使用により商品の出所について混同を生じないことを意味する。この点を考慮すれば、引用商標は、その指定商品との関係からみると、それ程広い類似範囲を有するものではなく、本件商標とは非類似であり、両者を使用しても混同を生じないものである。
(ウ)請求人は、「TOKYO」の文字部分が自他商品識別力を有しない根拠として4例を挙げている。
しかし、それらは、その指定商品との関係、また、「東京」や「TOKYO」以外の部分がどのような文字かによって、その判断が異なるものであり、「東京」「TOKYO」の扱いは、個別(事件毎)に判断されるべきである(乙第2号証ないし乙第5号証)。このように、各事件は、その指定商品又は商標によって個別具体的に判断すべきところ、一体として認識される本件商標のような場合についてまでも、それが「PIGEON」の文字を有するとの理由をもって、引用商標と類似であるとすることは不当である。
(エ)請求人は、査定不服の審判につき縷々述べているが、その議論は審判が職権探知主義をとっており、審査の続審である点を無視したものである。
(オ)本件商標は、「PIGEON」と「TOKYO」との文字間に強弱の差がなく互いに同程度の強さよりなるものである。しかも、「THREE」の文字を含んでなる先行商標「THREE PIGEON」における「THREE」の文字よりも、はるかに「TOKYO」の文字部分は印象が強いものである。
(カ)してみると、本件商標の「TOKYO PIGEON」からは、「トーキョーピジョン」の称呼のみを生じ、引用商標からは、「ピジョン」の称呼を生ずるので、両商標は、称呼において非類似であり、かつ、両者は外観においても非類似であるうえ、観念上も、本件商標中の「TOKYO」から「東京」を、「PIGEON」から鳩(ハト)を想起し得ることより、本件商標は、全体として「東京鳩」の観念を想起させるものである。
なお、先行商標は、「三羽の鳩」を想起させる。そうとすると、これらの3つの商標は、いずれも「鳩」を想起させる点において一致するものの、いずれも他の商標とは異なる独自の観念を想起させるものである。
よって、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点においても非類似の商標である。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第15号非該当性について
(ア)請求人は、本件商標をその指定商品に使用した場合には、引用商標と商品の出所について混同を生ずるとして証拠を提出しているが、電気関連商品に関する当該資料は、本件商標の出願時に、その指定商品の分野において、引用商標が周知又は著名であった事実を示すものではなく、また、本件商標を付した商品が請求人の商品と混同を生じさせていたことを示すものでもない。
(イ)当該資料は、請求人が単に平成元年以降、電気を利用したベビー関連商品を販売していたこと及び請求人会社の設立以降の経緯を示しているにすぎない。
(ウ)被請求人会社は、昭和26年4月に設立、昭和42年8月に「東京ピジョン株式会社」と名称変更、昭和46年には、テープレコーダーのメカ機構の専門製造販売メーカーとしての業態を確立した会社であり(乙第6号証及び乙第7号証)、昭和55年前後には、韓国、中国、台湾、シンガポール、インドネシアと生産拠点や代理店の地域を拡大してきている(甲第9号証)。具体的な売り上げ規模で示せば、本件商標の出願がなされた昭和62年における被請求人会社のテープレコーダーの売り上げは、144億4千万円(台数は1465万台)の規模に到達していた。また、本件商標が登録された平成9年には、テープレコーダーが82億4千万円で、CDプレーヤーのメカが28億1千万円の売り上げ規模となっていた。
換言すれば、被請求人会社の設立は、請求人より古く、しかも昭和40年代から現在に至るまで、テープレコーダのメカ機構やCDプレーヤーのメカ機構の大量の製造、販売によって、「東京ピジョン」は、この業界では、テープレコーダのメカ機能の専門の製造販売メーカーとして、周知となっている会社である。
以上のように、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号の規定に該当するものではなく、本件無効審判請求は成り立たない。

5 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、同書、同大の欧文字をもって、「TOKYO PIGEON」と書してなり、これより生ずると認められる「トーキョーピジョン」の称呼も格別冗長でなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
しかして、「PIGEON」の文字は、平和の象徴である「鳩」を意味する英語であり、これに由来するカタカナ語の「ピジョン」とともに、英語を母国語としない日本人にとってもなじみの深い言葉であって、これらの文字を含む商標は、現に様々な指定商品において多数商標登録されており、また、該文字を含む社名の会社も多数存在している。
そうすると、前記構成よりなる本件商標に接する取引者、需要者は、これを「TOKYO」と「PIGEON」の2語よりなるものと理解するとしても、前者(「TOKYO」)に比べ、後者(「PIGEON」)が格別強く印象付けられるものとは認識し得ず、むしろ、一体的に捉え、(被請求人)会社の商号の略として理解するか、又は、特段親しまれた成語的意味合いを看取し得ない一種の造語と理解するとみるのが相当である。
そうとすれば、本件商標は、その構成中の「PIGEON」の文字部分のみを捉えて、単に「ピジョン」と称呼されることはなく、その構成文字全体をもって、「トーキョーピジョン」と一連にのみ称呼されるものといわなければならない。
これに対し、引用商標は、「ピジョン」の文字を書してなり、「ピジョン」の称呼及び「鳩」の観念を生ずるものである。
そこで、本件商標と引用商標の類否について検討するに、前者より生ずる称呼「トーキョーピジョン」と、後者より生ずる称呼「ピジョン」とは、構成音数において著しい差異を有し、充分に区別し得るものである。
また、本件商標と引用商標とは、外観において判然と区別し得るものであり、観念においても、前者が(被請求人)会社の商号の略として理解されるか、又は、特段親しまれた成語的意味合いを看取し得ない一種の造語として理解されるのに対し、後者は「鳩」の観念を生ずるので、この点においても相紛れるおそれのないものである。
してみると、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。
(2)商標法第4条第1項第15号について
(ア)請求人は、本件商標の登録出願時、引用商標「ピジョン」を哺乳器等の授乳関連用品、離乳食用調理セット等の離乳関連用品、ベビーパウダー等のスキンケア用品、おむつライナー等のおむつ関連用品、大人用紙おむつ等の介護用品について使用して、哺乳器等の授乳関連用品等を中心とした育児用品に関して、その取引者及び需要者間において周知であった。
しかしながら、請求人は、もともと、哺乳器等の授乳関連用品の製造・販売業者として発展してきており、哺乳器等の授乳関連用品を中心とする上記育児用品の取引者及び需要者から、その信用を獲得していたのであって、本件商標の指定商品である「電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)電気材料」(以下「本件商標の指定商品」という。)について周知著名性を獲得していたものではない。
(イ)他方、被請求人は、昭和26年4月に、オルゴールの製造販売を目的として、社名を「東京オルゴール株式会社」として設立され、昭和28年に当該社名を「東京ピジョンオルゴール株式会社」に変更し、さらに、昭和42年には、業務の中心をカセット式テープレコーダーの製造販売に移行させ、それとともに、社名を「東京ピジョン株式会社」に変更したものであり、現在、被請求人は、海外の工場等で本件商標の指定商品に含まれるテープデッキメカニズム等を製造販売しており、その主たる取引先は、ソニー、東芝、三洋電機等の電機製品メーカーである。
(ウ)本件商標と引用商標とは、先に述べたとおり、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、相紛れるおそれのないものである。
また、引用商標を構成する「ピジョン」の文字は、平和の象徴である「鳩」を意味する英語の「PIGEON」に由来するカタカナ語であり、「ピジョン」及び「PIGEON」の両語は、先に述べたとおり、日常普通に使用され、親しまれているものであるから、引用商標「ピジョン」の独創性は決して高いものとはいえない。
(エ)請求人の販売に係る育児用品と、被請求人の本件商標の指定商品に含まれる商品の例示として挙げられている「電話機」、「インターホン」、「模写電送機、「ラジオ送受信機」、「テレビジョン送受信機」、「固定局単一通信機械器具」、「レーダー機械器具」、「録音機械器具」、「レコードプレーヤー」、「抵抗器」、「アンテナ」、「スピーカー」、「ビデオテープ」、「産業用X線機械器具」、「超音波応用測深器」、「サイクロトロン」、「真空管」、「ブラウン管」、「ダイオード」、「絶縁がい子」、「絶縁テープ」、「電極」とは、一般的にみれば、商品の性質、用途及び目的における関連性が認められないものである。
(オ)もっとも、育児用品には、様々な商品が含まれており、これらは、商標法施行規則別表に規定されている様々な指定商品に分類され、その中には、本件商標の指定商品に属するもの、あるいは、これと関連の深いものもある。
しかし、請求人が本件商標の出願時に、本件商標の指定商品に属する商品、あるいは、これと関連の深い商品を製造、販売していたと認めるに足りる証拠はなく、さらに、請求人以外の同業の数社が本件商標の出願時に、本件商標の指定商品に含まれる商品、例えば、乳幼児の泣き声に反応して信号音を発する商品、乳幼児の泣き声を送信する商品、オムツのぬれを感知する商品、乳幼児が離れた際に警告音を発する商品、乳幼児の言語能力の発達を促す内容の教材を録音したテープやそれを再生するテープレコーダーといった商品を販売していたと認め得るとしても、それらは、一般的な本件商標の指定商品とは異なり、時の流れによって容易に消長を来す、いわゆるアイデア商品等の例外的商品に止まるものである。
(カ)以上のことを総合すると、被請求人が本件出願時において、本件商標の指定商品である「電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)電気材料」について本件商標を使用したとしても、その取引者、需要者がこれを育児用品のメーカーである請求人あるいは請求人と組織的・経済的関係のあるグループ企業の商品であると混同するおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものと認めることはできない。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも該当しないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2002-02-07 
結審通知日 2002-02-13 
審決日 2002-02-26 
出願番号 商願昭62-106498 
審決分類 T 1 11・ 26- Y (111)
T 1 11・ 271- Y (111)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田辺 秀三 
特許庁審判長 小池 隆
特許庁審判官 柴田 昭夫
鈴木 新五
登録日 1997-09-12 
登録番号 商標登録第4054820号(T4054820) 
商標の称呼 トウキョウピジョン、ピジョン 
代理人 岡▲崎▼ 信太郎 
代理人 渡辺 秀治 
代理人 新井 全 
代理人 長谷川 洋 

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