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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない Z41
審判 全部無効 称呼類似 無効としない Z41
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない Z41
管理番号 1088623 
審判番号 無効2002-35502 
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2004-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-11-25 
確定日 2003-12-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第4381125号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4381125号商標(以下、「本件商標」という。)は、平成11年1月21日に登録出願、「糸東流修交会」の漢字と「空手道連合」の漢字とを二段に横書きしてなり、第41類「空手の教授」を指定役務として、同12年5月12日に設定登録されたものである。

2 請求人の引用する商標
請求人が本件商標の登録の無効の理由として引用する登録第4303890号商標(以下、「引用商標」という。)は、「修交会」の漢字を横書きしてなり、平成10年5月7日に登録出願され、第41類「空手の教授」を指定役務として、同11年8月13日に設定登録されたものである。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第15号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)「修交会」について
「谷派糸東流拳法空手道修交会」は、先代宗家「谷長治郎」が昭和23年に神戸において「修交会総本部道場」を開設したことにはじまり(甲第4号証)、50年以上にもわたって「修交会」の名称を用いて「空手の教授」の活動を行ない(甲第5号証ないし甲第7号証)、現在では国内各地ばかりでなく、外国にも支部が開設され、弟子も相当数にのぼっている(甲第8号証ないし甲第10号証)。
その結果、「修交会」の名称は、空手の指導者や空手を習得中の者に限らず、空手に興味を覚えてこれから習得しようとする者にとって、「谷派糸東流拳法空手道修交会」を指す略称として日本国内ばかりでなく、世界的にも著名となっている。
(2)商標法第4条第1項第8号違背について
被請求人は、当初は先代宗家の弟子の一人であり、「修交会」に所属していたが(甲第8号証)、先代宗家の死去後、許可なく当会を離脱して別会派を設立し(甲第11号証、甲第12号証)、指定役務「空手の教授」について本件商標「糸東流修交会空手道連合」の商標登録を受けたものである。
「修交会」の名称は、上記のとおり、「谷派糸東流拳法空手道修交会」を指す略称として著名なものであり、しかも、被請求人は、請求人の承諾なしに本件商標の登録出願をなし、登録を受けたものである。
また、空手界においては、習得した流派の名称、その名称の一部あるいはその略称を使用して独自の流派を開設する場合、その流派の宗家の許可を得るというのが空手家の常識であり、その意味からすると、本件商標は不正競争の目的でもって商標登録を受けたものであると言わざるを得ない。
したがって、本件商標は、他人の著名な略称を含む商標であり、商標法第4条第1項第8号の規定に違背して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第11号違背について
本件商標は、「糸東流修交会」の文字と「空手道連合会」の文字を二段に書してなり、全体としては12文字から構成される商標であり、その全体を称呼するには冗長すぎると考えられる。
そして、「空手道連合会」の文字は、「多数の空手家の連合した会」という意味合いを有し、指定役務との関係からすると、いわゆる役務の形容詞的文字であるから、本件商標の要部は「糸東流修交会」にあると認められる。
しかし、「シトウリュウ」と称呼される「糸東流」の文字は、沖縄空手の主たる流派の名称である。しかも、「修交会」の名称は請求人が主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として空手界においては著名となっている。
かかる実情を考慮すると、役務の提供を受ける主たる需要者層が本件商標に接した場合には、空手界において著名な「修交会」の文字に注目して、本件商標を「シュウコウカイ」と省略して称呼すると考えるのが自然である。
してみれば、引用商標は、その態様から「シュウコウカイ」の称呼が自然に発生すると考えられるから、本件商標の略称は、引用商標の称呼と同一である。
また、本件商標の要部「糸東流修交会」及び本件商標の略称「シュウコウカイ」に相当する文字「修交会」は、請求人の主催する流派を意味するから、本件商標は、観念においても引用商標と同一である。
したがって、本件商標は、引用商標と外観は異なるものの、称呼及び観念が全くの同一であって類似し、商標法第4条第1項第11号の規定に違背して登録されたものである。
(4)商標法第4条第1項第15号違背について
前述したところから、役務の提供を受ける主たる需要者層が本件商標に接した場合、被請求人が提供する役務を、請求人の主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」が提供する役務と混同するか、あるいは、請求人の主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」と何らかの関係のある者が提供する役務と誤って信じるおそれのあることは明らかである。
したがって、本件商標は、他人の業務に係る役務と混同を生ずるおそれのある商標であり、商標法第4条第1項第15号の規定に違背して登録されたものである。
(5)答弁に対する弁駁
(a)商標法第4条第1項第8号違背について
被請求人が挙げている東京高裁判決は、原告の業務に係る商品と被告の業務に係る商品とが種類を異にする場合における商標法第4条第1項第8号の規定を適用する際の判断であり、同一の役務(空手の教授)を対象とする本件の無効審判事件に同様に適用すべきではない。
したがって、同一の役務(空手の教授)を対象とする本件の無効審判事件において、商標法第4条第1項第8号の規定の適用を判断するにあたっては、「本号でいう『著名』の程度の判断については、商品又は役務との関係を考慮するものとする」という役務に係る審査基準をそのまま適用されるべきであり、請求人の略称「修交会」の著名性は「空手家は勿論のこと、空手に興味を覚えこれから空手を習得しようとする者」の認識に基づいて判断されると考えるのが相当である。
被請求人は、甲第4号証ないし甲第10号証によっては「谷派糸東流拳法空手道修交会」の名称を使用していたか否か不明であると主張している。
しかし、請求人が主宰する団体「谷派糸東流拳法空手道修交会」は、先代宗家から継承した団体である(甲第3号証)。先代宗家は、正式な名称が長いためか、あるいは免状等を与える相手に応じて使い分けていたのか不明であるが、著書や免状には「修交会会長」「日本空手道連盟修交会会長」「修交会全世界空手道連合範士」「修交会審議委員会議長」「修交会空手道宗家」「国際空手連盟総裁修交会会長」と「修交会」を使用するとともに、その時々に応じて「谷派空手道宗家」「谷派糸東流宗家」「谷派糸東流拳法空手道宗家」等の略称を使用していたが(甲第14号証1ないし41)、団体としての実体は、請求人の主宰する団体と同一である(甲第3号証)。
したがって、請求人の主宰する団体が先代宗家の時代から「修交会」の略称で認識されていたことは、甲3号証ないし甲第10号証から明らかである。
また、被請求人が請求人の主宰する団体を離脱して会派を設立する際に、被請求人が各所に送付した案内状に、「さて先般、旧修交会は、谷長治郎先生の忌明け後」(甲第11号証第4行)及び「これまで、谷先生と旧修交会会員が築き上げてきた五十年の歴史と伝統を継承し」(甲第11号証第7行ないし第8行)と被請求人自らが「修交会」の略称を使用していることからも、請求人の主催する団体が先代宗家の時代から「修交会」の略称で認識されていたことを証拠づけるものである。
また、被請求人は、乙第4号証ないし乙第17号証を挙げ、免状、書籍、大会パンフレットに「修交会」の略称を使用していないと主張している。
請求人は、先代宗家が発行した多数の免状、あるいは先代宗家が主催する多数の空手大会のパンフレットに「修交会」の略称が普通に使用されていたことを立証する証拠を提出する(甲第14号証の1ないし41及び甲第15号証の1ないし13)。
してみれば、本件商標は、他人の著名な略称を含む商標であり、商標法第4条第1項第8号の規定に違背して登録されたものであり、登録無効とされるべきである。
(b)商標法第4条第1項第11号違背について
「シトウリュウ」と称呼される「糸東流」の文字は、沖縄空手の主たる流派の名称である。しかも、「修交会」の名称は、請求人が主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として空手界においては著名となっていることは上述の通りである。
してみると、役務の提供を受ける主たる需要者層、つまり少なくとも空手に興味を有する者は、本件商標に接した場合には、空手界において著名な「修交会」の文字に注目し、本件商標の「糸東流修交会」の部分うち、「修交会」を商標の要部ととらえる可能性があり、この「修交会」の部分からは「シュウコウカイ」の称呼が自然に発生すると考えるのが自然であり、引用商標と称呼において相紛れるおそれがあると言わざるを得ない。
また、請求人は、「糸東流」と「糸東流OO派」が重複して登録されていることから、本件商標の「糸東流修交会」も識別力があり、「修交会」のみを抽出すべきでないと主張するが、「糸東流」の場合がそうであるからといって、「修交会」の略称が請求人の主催する団体を表示するものとして空手界において広く知られているという状況において、請求人の主宰する団体「谷派糸東流拳法空手道修交会」の著名な略称「修交会」を含む本件商標の場合にも同様であるとの被請求人の主張には妥当性がない。
したがって、役務の提供を受ける主たる需要者層が本件商標に接した場合には、本件商標の「糸東流修交会」の部分から、あるいはこれに含まれる「修交会」の文字から、請求人の主宰する流派を直感し、引用商標の「修交会」と観念において相紛れるおそれがあると言わざるを得ない。
被請求人は、被請求人の主宰する「糸東流修交会空手道連合会」が免状や認定書に「糸東流修交会空手道連合会」の名称を使用し、各種の大会に「糸東流修交会空手道連合会」の名称で宣伝広告を行ない、さらには財団法人全日本連盟に「糸東流修交会空手道連合会」の名称で認定されていると主張しているが、本件商標が引用商標と類似するか否かとは別の問題である。
請求人は、日本空手道連合会会長に請求人が「谷派糸東流拳法空手道修交会」を継承する旨の書面を送付するとともに(甲第12証)、「糸東流修交会」を含む名称による日本空手道連合会への被請求人の団体登録を受付ないことを要請しているところである。
(c)商標法第4条第1項第15号違背について
「修交会」の名称は、請求人が主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として空手界において著名となっていることは前述の通りである。また、本件商標のうち「糸東流」の文字は、沖縄空手の主たる流派の1つであって、請求人が主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」もその「糸東流」の流れをくむ1つの流派である。
したがって、役務の提供を受ける主たる需要者が被請求人が提供する役務を請求人の主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」が提供する役務と混同するか、あるいは請求人の主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」と何らかの関係のある者の提供する役務と誤って信じるおそれのあることは明らかである。

4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第28号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第8号について
商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」の「著名」は、近時の判例によると(平成13年(行ケ)第387号事件 乙第1号証)、特定の役務(商品)の取引者、需要者に広く知られているかどうかではなく、その略称が特定人を表示するものとして世間一般に広く知られているかどうかによるべきと判断している。
そうであるなら、請求人が「空手家は勿論のこと、空手に興味を覚えこれから空手を習得しようとする者」を対象とし、世間一般の認識を全く考慮することなく、「修交会」が「谷派糸東流拳法空手道修交会」の著名な略称と判断したことは、同号の「著名な略称」の「著名」の判断を誤った失当なものと言わざるを得ない。
また、請求人提出の甲各号証からは、この種空手の業界において「修交会」なる名称が「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として著名であるとは到底言えるものではない。
すなわち、請求人は、「修交会」の略称としての著名性を甲第4号証ないし第10号証により立証しようとしているが、これら甲号証には「修交会」なる名称が表示されているものの、「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称は一切表示されておらず、この名称を使用していたか否かは全く不明である。
そうすると、請求人の主張は、「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称の使用事実とは関係なく、この名称と「修交会」とを結び付け、「修交会」なる名称が「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として著名であると結論付けたもので、これは客観的な根拠のない失当なものである。
しかも、甲第9号証及び第10号証は、谷派空手道修交会50周年記念世界大会、第51回谷派空手道修交会全国大会のパンフレットであるが、それぞれ大会の日時が平成11年8月29日、平成12年8月27日の記載があり、そうするとこれらパンフレットは、少なくとも本件商標の出願日以後に作成、配布されたものであると言える。
よって、これらの書証により、本件商標が、その登録出願時に商標法第4条第1項第8号の要件を具備していたとする証拠になり得ないことは、商標法第4条第3項の規定より明らかである。
更に、被請求人の調査によると、請求人の先代宗家「谷長治郎」氏は、空手の普及に力を注いだ功労者の一人であり、自身の教えを「谷派糸東流空手道」又は「谷派空手道」の名称として広く普及しようとしたが、先代宗家は、昭和23年に神戸で修交会総本部道場を開設以降、一貫して「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称を使用し続けたとは言えないのである。すなわち、先代宗家の著書「ヤング空手」(乙第2号証)や「考える空手」(乙第3号証)によれば、「谷派糸東流拳法空手道」なる名称をその表紙に表示しているが、「修交会」なる表示は一切使用していない。又、空手の段位を授与する免状においても、「修交会」なる名称を使用することなく、「谷派糸東流拳法空手道宗家」(乙第4号証、第5号証)や乙第6号証ないし第11号証のように「谷派空手道宗家」と表示し、さらに自身が主催する空手大会にけるパンフレットの表紙に「谷派空手道」なる名称を使用している事実があり(乙第12号証ないし第17号証)、これら書証より、先代宗家が、本来、自己の流派を広く知らしめるべき著書、免状や大会名にも「修交会」なる名称を使用していないことを看取できる。
してみれば、請求人の主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」は、その略称として「修交会」を先代宗家の時代から一貫して使用しているとは言えず、少なくとも先代宗家の時代に「修交会」なる名称よりも「谷派糸東流拳法空手道」又は「谷派空手道」の名称で活動していたことは明らかであり、そうすると、例え、空手家や空手に興味をもつ者であっても、使用事実のない「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称を「修交会」と結び付け、さらに後者が前者の略称として認識できるはずもないと思料する。
よって、上記の通り「修交会」が「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として認識できない以上、「修交会」なる名称が空手界において著名な略称でないことは明白であり、それ故、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当するものでない。
(2)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、同書・同大の漢字をもって「糸東流修交会」と「空手道連合」を二段併記したものであり、請求人も認めているように、「空手道連合」なる語がその指定役務「空手の教授」との関係で自他役務の識別力が弱いと言えるため、本件商標の要部は「糸東流修交会」にあると考えるのが自然である。
そして、「糸東流修交会」は、同書・同大で外観上まとまりよく一体的に表現され、しかも、全体の称呼も「シトウリュシュウコウカイ」とよどみなく一連に称呼できるものであるから、外観上も称呼上もこれから「修交会」のみを抽出して認識しなければならない理由は全くない。
この点について、請求人は、「糸東流」なる語が沖縄空手の主たる流派の名称であり、しかも「修交会」なる名称が請求人が主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」の著名な略称であることを理由に本件商標の要部から、さらに「修交会」の文字に着目して「シュウコウカイ」とも称呼されると主張する。
しかしながら、「糸東流」なる語は、「空手の教授」を指定役務とする商標「糸東流」(登録第3231571号-乙第19号証)の他、「世界糸東流空手道連盟」(登録第4494455号-乙第20号証)や「全日本糸東流空手道連盟」(登録第4494456号-乙第21号証)が登録されており、これら登録例からすれば、この語が沖縄空手の流派としてその識別力が否定されるべきものでないことは明らかである。むしろ、空手界において、例えば、「林派糸東流会」、「玄制流武徳会」、「国際沖縄剛柔流空手道連盟」等、「OO流」なる語を含んだ空手の流派が数多くあり、そうすると「OO流」だけでは特定の流派を認識できず、「OO流」と結合した他の語と一つとなって、はじめてその流派を認識するのが常であるから、本件商標の「糸東流修交会」なる語も全体としてのみ特定の流派を意味し、これから敢えて「修交会」のみを抽出して、その流派を認識すると考えるのは不自然である。
また、「修交会」なる名称が、上記の通り空手界において「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として著名でないことは明白である。
しかも、被請求人である山田治義が主宰する「糸東流修交会空手道連合会」は、段位を認定する免状(乙第22号証、第23号証)や「指導員の認定書」(乙第24号証)に至るまで上記「糸東流修交会空手道連合会」を一体的にのみ使用し、また、他流派が参加する国や地方公共団体が主催する空手の大会にも参加し、且つこれら大会パンフレットにおいて「糸東流修交会空手道連合」なる名称で宣伝広告活動を行っており(乙第25号証ないし第28号証)、更に、我が国において唯一の空手の財団法人である全日本空手道連盟においても、都道府県連盟を通じて「糸東流修交会空手道連合」の名称で認定されているのである(乙第28号証)。
そうすると、本件商標は、空手界における被請求人の主宰する団体の使用態様を考慮しても、「糸東流修交会」から「修交会」のみを抽出すべき特別の事情があるとは考えられず、そうであるなら、本件商標は、「糸東流修交会」なる特定の流派を意味する造語として認識され、又、かかる文字より「シトウリュシュウコウカイ」なる称呼は生じるが「シュウコウカイ」なる称呼が生じることはあり得ない。
これに対し、引用商標は、その構成文字に相応して「シュウコウカイ」の称呼が生じるものである。
してみれば、両商標は、外観上異なることは勿論、本件商標は上記の通り「糸東流修交会」なる流派を意味する造語であるのに対し、引用商標は「修交会」なる流派を意味する造語である以上、観念上も明らかに異なるものである。
更に、両商標は、称呼上、本件商標が「シトウリュシュウコウカイ」又は「シトウリュシュウコウカイカラテドウレンゴウ」とのみ称呼されるのに対し、引用商標は「シュウコウカイ」と称呼されるに過ぎず、その音数、語調語感が全く異なるものである。
よって、両商標は、外観、観念及び称呼の何れも異なる非類似の商標であり、それ故、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しないと考えるのが相当である。
(3)商標法第4条第1項第15号について
「修交会」なる名称が「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として空手界において著名でないことは、上記した通りであり、また、「修交会」なる名称が、請求人の主宰する「谷派糸東流拳法空手道修交会」の略称として広く知られて周知であると結論付けるには、請求人提出の甲各号証によっては無理があり、そうであるなら、本件商標が他人の業務に係る役務と混同を生じるおそれがあるはずもなく、してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しないと考えるのが相当である。

5 当審の判断
(1)請求人主宰の団体の名称について
請求人は、「修交会」の名称は請求人が主宰する団体である「谷派糸東流拳法空手道修交会」を指す略称として著名なものである旨主張している。
そこでまず、前提として、請求人の主宰している団体が流派を越えた空手界全般における社会的認識として、「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称の団体として認識され、通用していたものであるか否かについて検討する。
請求人の提出に係る甲各号証をみるに、甲第3号証は、平成11年2月7日に請求人である谷寛が「谷派糸東流拳法空手道修交会の宗家会長第二代谷長治郎襲名披露」をした際の案内状であり、該書面には「谷派糸東流拳法空手道修交会」の名称が表示されている。
甲第4号証ないし同第8号証は、全て、請求人が第二代目の襲名披露をする以前の、初代谷長治郎が会長を努めていた頃の書証であるところ、甲第4号証は、「谷長治郎著 空手の奥義教えます」と題する冊子であり、巻末の著者紹介の欄には「昭和23年、神戸で修交会総本部道場を開設し、谷派空手道宗家として、・・・」とあり、奥付には、1991年3月I日 谷派空手道修交会発行と記載されている。
甲第5号証は、’72年4月20日発行の谷長治郎著「修交会空手道」と題する冊子であり、冊子の記事中には、会則が掲載されており、第1章総則の第1条(名称)には「本会の組織の名称を修交会と呼称する。」と規定されており、それ以降の記事においても、「修交会空手道試合規定」、「修交会空手道審判規定」、「修交会会員名簿」のように表示されている。
甲第6号証は、昭和47年2月11日 修交会総本部発行の谷長治郎著「修交会空手道」と題する冊子であり、「修交会空手道の基礎」、「修交会写真集」の如く表示されている。
甲第7号証は、1974年8月1日 修交会谷長治郎発行の「修交会空手道教本」と題する冊子であり、序の末尾には「修交会空手道宗家 谷長治郎」と記されており、甲第5号証と同じ会則が掲載されている。
甲第8号証は、平成元年度の指導者・支部登録名簿であり、その表題は「谷派空手道修交会」となっている。
甲第9号証及び同第10号証は、請求人が第二代目の襲名披露をした以降の発行に係る大会パンフレットであるところ、甲第9号証は、平成11年8月29日に行われた「谷派空手道修交会/50周年記念世界大会」のパンフレットであり、主催として「谷派空手道修交会」とあり、ごあいさつの末尾には「谷派空手道修交会/宗家 会長 谷長治郎」と記載されている。
甲第10号証は、平成12年8月27日に行われた「第51回谷派空手道修交会全国大会」のパンフレットであり、ここにおいても、甲第9号証と同様の表示がなされている。そして、甲第10号証のパンフレットの後半部分には、「谷派空手道修交会/総本部道場」をはじめとして、所属する各道場が紹介されており、「姫路修交会」「谷派糸東流拳法空手道修交会/玄武館」「谷派空手道修誠館」「谷派糸東流空手道修交会/浜甲子園空手道教室」「谷派糸東流空手道/修交会志染支部」「谷派空手道修交会/岡山船穂支部」「谷派糸東流拳法空手道修交会/三田誠士館」「谷派糸東流心武館」「修交会四国地区本部」「谷派空手道岡山県連合」「日本虎風館」「修交会広島県空手道連合」「谷派糸東流拳法空手道修交会備後支部」「谷派空手道修交会 拳心館」「谷派糸東流空手道錬成館」「忠信館」等の如く、各道場の名称が表示されている。
甲第12号証は、平成10年9月16日付で請求人が日本空手道連合会に宛てた文書であり、谷派糸東流拳法空手道修交会/宗家会長第二代谷長治郎と表示されている。
また、甲第14号証の1ないし41は、初代宗家谷長治郎発行の各種免状等であり、これらには「修交会会長」「谷派糸東流宗家/修交会会長」「谷派空手道宗家/修交会会長」「日本空手道連盟修交会会長/谷派糸東流拳法空手道宗家」「修交会全世界空手道連合範士」等の如く表示されている。
甲第15号証の1ないし13は、初代宗家谷長治郎主催の空手大会パンフレットであり、「第22回少年少女/谷派空手道選手権大会」「谷派空手道修交会/創立40周年記念全国大会」「谷派空手道修交会/全国選手権大会」の如く表示されている。
これらの甲各号証よれば、「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称が使用されているのは、甲第3号証の請求人が谷派糸東流拳法空手道修交会の宗家会長第二代谷長治郎襲名披露をした際の案内状、甲第10号証に紹介されている3つの道場名及び甲第12号証の請求人が日本空手道連合会に宛てた文書においてのみである。
そして、請求人が初代谷長治郎から会の名称を含めて会を引き継いだものとしても、初代谷長治郎が会長を努めていた頃の甲第5号証及び甲第7号証に掲載されている会則には、「本会の組織の名称を修交会と呼称する。」と記載されているのみで、他に、組織の名称が「谷派糸東流拳法空手道修交会」であることを規定した会則は提出されていない。また、初代及び二代目を通じて、開催された大会の名称あるいは主催者の表示にも「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称を見出すことはできない。更に、初代宗家谷長治郎が発行した各種免状(甲第14号証の1ないし41)においても、「修交会会長」、「谷派糸東流宗家/修交会会長」、「谷派空手道宗家/修交会会長」、「日本空手道連盟修交会会長/谷派糸東流拳法空手道宗家」、「修交会全世界空手道連合範士」等々のごとく表示されており、「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称を見出すことはできない。
以上を総合してみれば、請求人は、第二代谷長治郎襲名披露において、「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称を表示しているのであるから、請求人である谷寛が「谷派糸東流拳法空手道修交会」の宗家会長であるとはいえても、個々の構成員とは別個独立した存在としての社会活動を営む社団としての見地からみた場合、団体の名称が「谷派糸東流拳法空手道修交会」であることを規定した会則もなく、また、実際に使用されている名称も、その時々の使用場面によって、「谷派糸東流空手道修交会」であったり、「谷派空手道修交会」であったり、あるいは単に「修交会」と称したりしており、一定の定まった名称を使用しているものではないことからすれば、流派を越えた空手界全般における社会的認識として、請求人の主宰する団体が「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称の団体として認識され、通用していたものといえるか、いささか疑問の残るところである。
(2)「修交会」の名称の著名性について
次に、「修交会」の名称が請求人の主宰する団体の名称の略称として、また、請求人の業務に係る役務の商標として著名なものであったか否かについて判断する。
前記において認定したように、甲第5号証及び同第7号証において掲載されている会則には「本会の組織の名称を修交会と呼称する。」と規定されており、その外「修交会空手道試合規定」、「修交会空手道審判規定」、「修交会会員名簿」のように表示されている。また、初代谷長治郎の著になる冊子には「修交会空手道」(甲第6号証)、「修交会空手道教本」(甲第7号証)とあり、初代谷長治郎発行の各種免状等(甲第14号証の1ないし41)の中には「修交会会長」と表示されたものもあり、拳の図形と「修交会」の文字の入った丸判が押されているものも見受けられる。
これらの事実からすれば、請求人を含め初代谷長治郎が主宰していた団体は、「修交会」とも表示されていたことを認めることができる。
しかしながら、これらの表示がなされているのは、いずれも、会則や試合規定、審判規定等の内部文書あるいは、教本や専ら会員に対して交付される免許状等の類であって、空手に関わる関係者が広く認知し得る、例えば、大会パンフレット等において使用されているものではない。提出に係る大会パンフレットにおいては、初代及び二代目谷長治郎の期間を通して、主に、「谷派空手道修交会」の表示が使用されており、わずかに、甲第15号証の9の大会パンフレットにおいて、長方形輪郭内に「SHUKOKAI」と書された表示が1件あるのみであり、「修交会」の文字のみが独立して使用されている事実はない。
しかも、提出に係る大会のパンフレットは、いずれも、請求人が主催する請求人の流派内の大会におけるものであり、流派を越えた団体が参加する大会におけるパンフレットではない。
してみれば、請求人の提出に係る甲各号証をもってしては、本件商標の登録出願時に、流派を越えた空手界全般において、「修交会」の文字からなる標章が請求人の主宰する団体の名称の略称として著名なものであったとは認め難く、また、請求人の業務に係る役務の商標として、「修交会」の文字を含む他の団体名称との間で出所の混同を生じさせるほど著名なものであったとも認められない。
(3)商標法第4条第1項第8号について
請求人は、本件商標は他人の名称の著名な略称を含むものである旨主張している。
しかながら、上記(1)及び(2)において認定したとおり、請求人が主宰している団体が法人格のない社団として、個々の構成員とは別個独立して存在し、社団として独自の社会活動を営んできたものであるとしても、流派を越えた空手界全般において、「谷派糸東流拳法空手道修交会」なる名称の団体として認識され、通用していたものとは直ちには認め難いばかりでなく、「修交会」の文字からなる標章についても、請求人の主宰する団体の名称の略称として、空手界全般において著名なものであったと認めることはできない。
また、請求人は、被請求人は請求人の承諾なしに本件商標の登録出願をなし、登録を受けたものであり、空手界においては習得した流派の名称、その名称の一部あるいはその略称を使用して独自の流派を開設する場合、その流派の宗家の許可を得るというのが空手家の常識であり、その意味からすると本件商標は不正競争の目的でもって商標登録を受けたものであるといわざるを得ない旨主張している。
しかしながら、請求人の提出に係る甲第11号証は、被請求人である山田治義が会長である糸東流修交会空手道連合の結成式(平成10年9月27日)の案内状と認められるものであるところ、ここには「・・・さて先般、旧修交会は、谷長治郎先生の忌明け後の平成10年6月27日に修交会会則に基づき臨時総会を開催し『糸東流修交会空手道連合』の名称で再出発することと相成りました。・・・」と記載されている。この修交会会則は、甲第5号証及び同第7号証に掲載されている会則と推認し得るものであるところ、同会則によれば、第6章機関、第1節総会の第15条(総会の権限と開催)に「総会は本会の最高決議機関であって、・・・次の事項を審議する。・・・(6)本会の解散もしくは組織の合同に関する事項 (7)その他重大な事項」と規定されている。また、該案内状に会長山田治義とともに名を連ねている「範士高原元弘、範士田中豊、範士中島照平、範士伊藤和徳、常任相談役横地英雄」は、甲第8号証(平成元年度の谷派空手道修交会/指導者・支部登録名簿)の谷派空手道修交会総本部役員の最高幹部会を構成していた9名中の6名であることを認めることができる。
そうとすれば、初代谷長治郎が主宰していた空手道の団体は、少なくとも、その会則に則り、平成10年6月27日の臨時総会の議決を経て、「糸東流修交会空手道連合」の名称に変更されたか、あるいは「糸東流修交会空手道連合」として新たに発足したものと推認されるところである。
してみれば、甲第11号証及びその他の甲各号証をみる限りにおいては、被請求人は、請求人の承諾なしに本件商標の登録出願をなし、登録を受けたものであるということはできないから、この点についての請求人の主張も採用することはできない。
したがって、本件商標は、他人の名称の著名な略称を含む商標ということはできない。
(4)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、前記したとおり、「糸東流修交会」の文字と「空手道連合」の文字とを二段に横書きしてなるところ、構成各文字は、同書、同大の漢字をもって、外観上まとまりよく一体的に表現されているものである。そして、実際の使用態様をみても、請求人の提出に係る甲第11号証(糸東流修交会空手道連合結成式の案内状)、被請求人の提出に係る乙第22号証ないし同第24号証(段位を認定する免状等)及び同第25号証ないし同第27号証(大会パンフレットにおける広告)によれば、「糸東流修交会空手道連合」と一連に表示して使用されており、さらに、財団法人全日本空手道連盟(Japan Karatedo Federation)の「全流派・会派組織図」(乙第28号証)においても、都道府県を通じてJKFに参加している団体として、被請求人は「糸東流修交会空手道連合」の一連の表示をもって掲載されていることを認めることができる。
そうとすれば、本件商標は、その構成全体をもって一体不可分の名称を表したものと認識し、把握されるとみるのが自然であり、構成中の「修交会」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見いだせないから、本件商標からは「シトウリュウシュウコウカイカラテドウレンゴウ」の称呼のみを生じ、「糸東流修交会空手道連合」という名称の団体の観念のみを生ずるものとみるのが相当である。
他方、引用商標は、前記したとおり、「修交会」の漢字を横書きしてなるものであるから、その構成文字に相応して「ショウコウカイ」の称呼を生じ、「修交会」という名称のひとの集まりの観念を生ずるものである。
してみれば、本件商標と引用商標から生ずる称呼とは、その音構成及び構成音数において顕著な差異が認められるから、称呼上十分区別し得るものであり、また、両商標は、観念及び外観においても明らかな差異を有するものである。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない、非類似の商標である。
(5)商標法第4条第1項第15号について
請求人は、本件商標は請求人が提供する役務と出所の混同を生ずるおそれがある旨主張している。
しかしながら、上記したとおり、本件商標と引用商標とは、十分に区別し得る別異の商標であるばかりでなく、前記(2)において認定したとおり、請求人の提出に係る甲各号証をもってしては、「修交会」の商標が請求人の業務に係る役務を表す商標として著名なものであったと認めることもできないものである。
したがって、商標権者が、本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者をして、引用商標あるいは請求人の使用に係る「修交会」の商標を連想又は想起させるものとは認められず、その役務が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、役務の出所について混同を生じさせるおそれはないものといわなければならない。
(6)結論
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号、同第11号及び同第15号に違反してされたものでないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2003-10-06 
結審通知日 2003-10-09 
審決日 2003-10-21 
出願番号 商願平11-5047 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (Z41)
T 1 11・ 23- Y (Z41)
T 1 11・ 271- Y (Z41)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田辺 秀三
特許庁審判官 柳原 雪身
井岡 賢一
登録日 2000-05-12 
登録番号 商標登録第4381125号(T4381125) 
商標の称呼 シトーリューシューコーカイカラテドーレンゴー、シトーリューシューコーカイ、カラテドーレンゴー、シトーリュー、シューコーカイ 
代理人 手島 孝美 
代理人 藤本 昇 

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