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審決分類 |
審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 005 審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 005 |
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管理番号 | 1086914 |
審判番号 | 無効2001-35315 |
総通号数 | 48 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2003-12-26 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2001-07-13 |
確定日 | 2003-11-20 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第4191320号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第4191320号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第4191320号商標(以下「本件商標」という。)は、「NONI」の欧文字を書してなり、平成8年10月15日に登録出願、第5類「食餌療法用飲料,食餌療法用食品」を指定商品として、平成10年9月25日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第35号証を提出した。 1.利害関係について (1)請求人であるロイヤルファームズジャパン株式会社は、アメリカ合衆国ユタ州84770 セントジョージイースト100 サウスストリート50に存在するロイヤルファームズ社(最高経営責任者Mitch Tate,社長Mike Lee)の日本国における子会社(ロイヤルファームズ日本支社)である(甲第4号証)。 上記ロイヤルファームズ社は、植物「NONI」(学名;モリンダ・シトリフォア)を栽培する農場を有し、「NONI」の果実や葉や茎や根を原料にした製品(ジュース、タブレット、お茶などの栄養補助食品)を製造し販売している(ロイヤルファームズ社のホームページ及びその日本語サイト;甲第5、6号証)。 請求人は、平成13年(2001年)5月8日に設立された会社であるが、ロイヤルファームズ社の製造する「NONI」を用いた製品(ジュース、タブレット、お茶など)を日本に輸入、販売するとともに、日本における複数のディストリビュータを支援する会社である。このことは、会社案内(甲第7号証)、雑誌「NETWORK JOURNAL」(Vol.2 14頁「ロイヤルファームジャパンオープニング祝賀会開催」記事;甲第8号証)、雑誌「Naotta!」に掲載された広告(甲第9号証)などから明白である。 (2)商標権者であるアメリカ合衆国ユタ州に存在するモリンダ・インコーポレーテッドは、本社のホームページ(甲第10号証)及び日本における公式ディストリビュータのホームページ(甲第11号証)をみても明白であるように、ノニの果汁を原料とした「タヒチアン ノニジュース」を製造、販売している。 (3)したがって、請求人は、被請求人と同様に果実「NONI(ノニ)」を用いた製品を輸入、販売する競合企業であり、本件審判を請求するにつき利害関係を有する。 2.商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について (1)「NONI」は、熱帯性植物の一般名称である。 「NONI」は、ハワイ諸島、サモア、トンガ、タヒチ、ニュージーランドなどのポリネシア諸島、グアム、インドネシア、ベトナム、マレーシア、インド、インドネシア、フィリピン、フィジーなどの東南アジア、オーストラリア、アフリカ、沖縄などに育っている熱帯性植物の名称(一般名称)であり、学術名「モリンダ シトリフォリア」と呼ばれ、アカネ科モリンダ属に属する常緑性低木である。 「NONI」なる言葉は、ハワイアンやポリネシア諸島など多数の国で使用されている語であり、英語の「INDIAN MULBERRY」と同じ意味であるとされている。日本やインドでは「ヤエヤマアオキ」と呼ばれている。このことは、本件商標が登録される以前から辞書「Webster's Third New International Dictionary」(甲第12号証)や「Shogakukan Random House English‐Japanese Dictionary」(甲第13号証)、世界有用植物事典(甲第14号証)に記載されていることからも明らかである。 「NONI」の小さく白い芳香性の花は、クリーム色が入った白色の実がなるふさ状のさやに咲いている。その実は、果肉が多く熟するとゼリー状になり、小さいパンノキやジャガイモにも似ている。果肉は苦いことが特徴で、熟すると非常に強い匂いを発する。しかし、「NONI(ノニ)」の最大の特徴は、植物の実だけでなく、その樹皮、葉、花、根および種子に医学的な適応性と抗生剤としての効能を持つことが知られていることである。特に、その産地であるポリネシア諸島や東南アジアでは、当該植物は、古来、土着の治療者により痛み止め、解熱、端息、リューマチ、やけど、胃潰瘍、肝炎、高血圧症、糖尿病などの治療に利く神聖な薬用植物として盛んに利用されてきた(甲第15、16号証)。 (2)「NONI」は、薬用植物として広く認識されている。 今日では、「NONI」についての科学的な分析や研究や調査が行われ、植物NONIには、抗酸化物やビオフラポノイドを含む健康促進作用を持つ養分や植物性化学物質が豊富に含まれており、痛み止めから癌治療、精力増強にいたる多様な健康上の利点を持つ「NONI(ノニ)」の効能が解明されている(甲第17号証)。 この「NONI」の効能については、下記ア.ないしコ.のように、「NONI」に関する書籍が多数出版され、広く一般にも知られている。 ア.「Noni自然流ダイエット」、イ.「不思議発見」、ウ.「noniの栞」、 エ.「ノニの彩り」(ア.ないしエ.はいずれもアデン出版発行;甲第18号証) オ.「奇跡の鎮痛即効フルーツ」(コスモトゥーワン発行;甲第19号証) カ.「ノニ」(ディレクトソース発行;甲第20号証) キ.「ノニジュース53の使い方」(ディレクトソース発行;甲第21号証) ク.「神様からのフルーツ驚異の体験集」(コスモトゥーワン発行;甲第22号証) ケ.「驚異の自然薬ノニ」(ディレクトソース発行;甲第23号証) コ.「ノニジュース」(ディレクトソース発行;甲第24号証) (3)植物「NONI」の実や葉や根などに有する医学的な適応性と薬用性の効能を利用した各種の製品が開発され、販売されている。 「NONI」を原材料とした製品が多方面で開発され、多数の国々において、あるいは日本において販売されている。例えば、ジュース、カプセル、石鹸などがある(甲第25号証ないし甲第33号証)。 このように「NONI」がフランス領ポリネシア諸島に生育する学名モリンダ・シトリフォリアなる植物やその果実の呼び名であることは、商標権者の公式サイトのホームページでも認めている(甲第10号証)。 (4)本件商標は、指定商品の品質表示である。 上記のように、本件商標を構成する文字「NONI」は、熱帯性植物の一般名称であり、その実や葉や根に医学的な適応性と薬用性といった効能があることは需要者の間に広く知られている。そのため、健康を維持したり、増進させるために、これを原材料として飲料水、食品、調味料、スプレー、化粧品などとして商品化し、既に販売されている。 このような薬用植物「NONI(ノニ)」の存在と特徴は、近年特許庁でも認識されるようになり、「NONI」を商標の要部とする商標登録出願の審査において、単に商品の品質、原材料を表示するにすぎないものと認定して、拒絶理由の通知がなされており(甲第34号証)、これに対する意見においても、出願人は、商標中「NONI/ノニ」の部分には、自他商品識別力がないことを認めている(甲第35号証)。 上記審査例は、本件商標の審査結果(甲第1号証)とは逆で、矛盾している。本件商標の審査経過を検討すると、審査時には、「NONI」についてこれが薬用植物を表示する名称であるとの認識がなく、指定商品の内容も充分には理解していなかったようである。このため担当審査官は、物件提出命令を通知し、その商品説明を求めた。これに対し出願人は、平成9年5月21日付の物件提出書にて商品説明書を提出した。しかるに、その商品説明書には「ポリネシア、特にタヒチ島で栽培されたシトリフォリアと呼ばれる果実から抽出した果汁に天然香料を加えるなどして加工したもので、ダイエット用の補助食品として飲用する。」とだけしか説明していない(甲第2号証)。この商品説明書の記載は、学術名の一部を省略した不正確な名称を記載しているだけでなく、自己の商品説明や自己の広告として一般に公開している記載(甲第10、11号証)とは明らかに相違し、当該製品の原料となる果実が現地では昔から「ノニ」と呼ばれていることや、「ノニ」の実の果汁であることについての説明部分を除いた不十分な説明をしている。その結果、薬用植物「ノニ」についての認識が乏しく、商品内容を充分理解していなかった審査官を誤認させ、その判断を誤らせて登録させたものと思われる(甲第1号証)。 3.答弁に対する弁駁 (1)被請求人は、わが国において、学名「モリンダ シトリフォリア」、日本名「ヤエヤマアオキ」という植物が「NONI」という名称で認識されているという事実はなく、将来においても、そのような可能性はないと考えるのが相当であるから、本件商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものではない旨主張する。 しかしながら、被請求人の上記主張は、甲第3号証ないし甲第34号証までに示した「NONI」の使用事実を全面否定するだけでなく、その証拠の存在すら認めないものである。このような主張は、以下のような矛盾を露呈している。 ア.甲第8号証(「甲第10号証」の誤記と認められる。)は、被請求人目身のホームページである。このホームページでさえ、「植物学名はモリンダシトリフォリア、通称ノニと呼ばれる果実」であると記載している。 イ.甲第9号証(「甲第11号証」の誤記と認められる。)は、被請求人目身が認めた公式販売代理店のホームページサイトである。その中では、「ノニ」は、モリンダシトリフォリアと呼ばれる果実の一般名称であることを認め、盛んに使用している。 ウ.甲第33号証(「甲第35号証」の誤記と認められる。)は、被請求人の意見書であるが、その中で「学名『モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)』は地域によっては『NONI/ノニ』と呼ばれているので、引用第1商標中『Noni』の部分は、自他商品識別力がなく、」と自ら一般名称であることを認めると記載している。 エ.被請求人は、本件商標の使用は、商標法26条によって調整されるべきものである旨主張している(効力の制限の問題と登録要件の問題を混同している。)。 したがって、答弁書の主張は、到底認められないこと明らかである。 (2)被請求人は、甲第13号証ないし甲第22号証(「甲第15号証ないし甲第24号証」の誤記と認められる。)は、公表日が本件登録の登録日以後であり、甲第23号証ないし甲第31号証(「甲第25号証ないし甲第33号証」の誤記と認められる。)は、本年7月にプリントアウトされたものであるから、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当していたことを立証する証拠にはなり得ない旨主張する。 この主張は、本件商標の自他商品識別力の有無や公益的不登録事由に該当するか否かの問題を、証拠物件の公表日やプリントアウト時が登録日(平成12年4月21日;「平成10年9月25日」の誤記と認められる。)より前か後かの問題と誤っている。その主張する論点を錯誤しており、意味がない。しかも、被請求人の答弁は、その結論として「本件審判請求には理由がない。」としながら「請求の趣旨通りの審決を希求する次第である。」としている。これでは、論旨矛盾、意味不明である。 本来、本件商標の自他商品識別力の有無や公益的不登録事由に該当するか否かは、査定時を基準として判断されるが、証拠物件が何時プリントアウトされたか、公表されたかによって判断されるべきものではない。それら証拠物件の記載内容が重要である。これら証拠物件中には、昔から植物学名はモリンダ シトリフォリアのことをノニと呼んでいたことや(甲第3、4号証及び甲第8、9号証;「甲第5、6号証及び甲第10、11号証」の誤記と認められる。)、登録時や査定時より以前に、多方面で通称ノニについての効能や特性についての研究がなされ、学会などで発表されていることについて記載されている(甲第14、15号証;「甲第16、17号証」の誤記と認められる。)。 (3)甲第16号証ないし甲第22号証(「甲第18号証ないし甲第24号証」の誤記と認められる。)の、本や小冊子は、その殆どが登録時や査定時より前に刊行されている。例えば、甲第19号証(「甲第21号証」の誤記と認められる。)の本の裏表紙には、1998年に著作された旨の記載が確認できる。そのうえ当該本の記載内容は、甲第34号証で明らかなように、ノニは植物学名はモリンダ シトリフォリアのことであり、その果実のジュ-スを「ノニジュ-ス」と称し、その使い方について明記されている。 被請求人は、これら証拠物件の記載内容や発行時を確認しておらず、その記載内容を否定するような主張も証拠も示していない。 4.結論 本件商標の指定商品は、「食餌療法用飲料・食餌療法用食品」であり、本件商標を構成する「NONI」は、叙上のように、熱帯性植物の一般名称であり、その実や葉は薬用植物として需要者の間で広く認識されている。したがって、本件商標「NONI」を前記指定商品に使用すると、食餌療法用飲料や食餌療法用食品の原料になり得る薬用植物「NONI(ノニ)」の果実や葉や根を認識させる文字を普通に用いられる方法で書してなるものとなる。 すなわち、本件商標を指定商品に使用した場合、その商品の品質、原材料を表示するにすぎないから、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当するものである。 したがって、本件商標の登録は、商標法第46条第1項の規定により、無効とされるべきものである。 第3 被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。 1.請求人は、本件商標「NONI」が、学術名「モリンダ シトリフォリア」、日本名「ヤエヤマアオキ」という植物の一般名称であって、ハワイやポリネシア諸島など多数の国で使用されている語であると主張する。 しかし、この主張の根拠とする甲第12号証(英英辞典)には、「NONI」の語が掲載されているが、「central Polynesia & Hawaii」と地域が限定されており、多数の国で使用されている証拠とはなり得ず、また、甲第13、14号証に至っては、「NONI」という語は一切紹介されていないのであるから、請求人の上記主張に理由のないこと明らかである。 また、植物「モリンダ シトリフォリア」の効能などについて説明する資料と考えられる甲第15号証ないし甲第24号証は、その公表日が本件登録の登録日以後であるので、本件商標がその査定時に、商標法第3条第1項第3号もしくは同法第4条第1項第16号に該当していたことを立証する証拠にはなり得ない。 同様に、甲第25号証ないし甲第33号証(ホームページ写し)は、いずれも本年(2001年)7月にプリントアウトされたものであるから、本件商標が査定時に商標法第3条第1項第3号もしくは同法第4条第1項第16号に該当していたことを立証する証拠にはなり得ない。 2.わが国における植物図鑑などを見ると、学名「Morinda citrifolia Linn(モリンダ シトリフォリア リン)」という植物が、いずれの文献においても日本名「ヤエヤマアオキ」として紹介され、一部の文献では英名「Indian mulberry」も紹介されているが、「NONI」という語を掲載する文献はない(乙第1号証ないし乙第5号証)。 このような事実に照らして考えれば、わが国において、学術名「モリンダ シトリフォリア」、日本名「ヤエヤマアオキ」という植物が「NONI」という名称で認識されているという事実はなく、また、将来においても、そのような可能性はないと考えるのが相当である。 また、被請求人の調査によれば、上記植物について、世界各地の国や地域で様々な呼名があり、以下にその例を紹介する。呼名の後ろの( )内に記載するのが、その呼名を使用する国又は地域である。 Ach(India)、Awl tree(Australia、India、Java、Malaya and Polynesia)、Baga(Dominican Republic)、Bankoro(Philippines)、Bankudo(French West lndies)、Bilimbi(Haiti)、Boi doleur(Africa)、Bumbo(Africa)、Bungbo(Africa)、Bunuela(Dominican Republic)、Canary wood(Australia)、Cheesefruit(Australia)、Coca(Dominican Republic)、Doleur(Haiti)、Feuille doleur(Haiti)、Forbiddenfruit(Barbados)、Fromagier(Haiti)、Gardenia hedionda(Puerto Rico)、Grand morinda(Vietnam)、Great morinda(Australia、Malaya)、Headache tree(St.Croix)、Hog apple(Cayman Islands、Jamaica)、Huevo de reuma(Dominican Republic)、Indian mulberry(Australia、Florida、Guam、Hawaii、India、Java、Puerto Rice)、Kura(Fiji)、Lada(Guam)、Ladda(Guam)、Leichhardt's tree(Australia)、Limberger tree(Florida)、Mengkoedoc(Surinam)、Mengkudu(Malaya)、Menkudibesar(Malaya)、Menkudu besar(Malaya)、Mirier du Java(Seychelles)、Mona(Tahiti)、Monii(Tahiti)、Morade la India(Cuba)、Morinda(Australia、Puerto Rico、Surinam)、Mulberry(Cayman Islands、India),Nhau(Vietnam)、Nhau lon(Vietnam)、Nhau nui(Vietnam)、Nho(Laos)、Nhor prey(Cambodia)、Nhor thom(Cambodia)、Nigua(Dominican Republic)、Nino(Philippines)、Nona(Malaysia)、Noni(Hawaii、Polynesia、Puerto Rico)、Nono(Tahiti、Raratonga)、Nonu(Samoa)、Pain bush(Trinidad&Tobago)、Pain killer(dominica、Puerto Rico、St.Croix、St.Thomas and other Virgin Islands)、Pina de puerco(Dominican Republic)、Pinuela(Dominican Republic)、Pomme macaque(French West Indies)、Rubarbe caraibe(EI Salvador、Guadaloupe)、Togari wood(India)、Urati(Solomon Islands)、Wild pine(Barbados)、Yor ban(Thai land) この調査によれば、世界各地で約60もの呼名がある中で、本件植物を「NONI」の名称が使用されているのは、甲第12号証の記述とほぼ同様に、ハワイ、ポリネシア及びプエルトリコ地域だけであり、しかも、これらの地域における本件植物の生産量及びこれらの地域を産地とする本件植物を原料とするジュース及びその他の製品の流通量は極めて少ないものと考えられる。 以上のような状況から考えると、わが国の需要者若しくは取引者が、「NONI」という語から、上記植物を認識することはないと考えるのが相当である。 商標法第3条第1項第3号に該当するか否かの判断においては、その標章がわが国において現に使用されていることまでは必要とされないが、その標章がわが国で品質を表示する標章として認識されていることが必要とされるが(東京高裁昭和52(行ケ)82、昭和56年5月28日判決)、本件においては、わが国の需要者若しくは取引者が「NONI」という語を植物を表示する標章とは認識していないのであるから、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に該当しないと考えられる。 3.被請求人が、「モリシダ シトリフォリア」という植物を原料とするジュース、健康補助食品などの商標として本件商標を採択した経緯を以下に説明する。 健康補助食品及びその他の食品の開発会社を経営しており、後に被請求人の設立者となる2名の科学者が、1994年と1995年に、「モリンダシトリフォリア)」のサンプル及び情報を収集するため、仏領ポリネシアに渡った。この果物は現地では「NONO」などと呼ばれており、長年にわたって、この果物を病気の治療のためや痛み止めとして利用されていた。 この2人の科学者は、研究を重ねた結果、この果物が全世界の人々に届くようにすべきと考えたが、それを実行するためには多くの障害があり、特に、この果物の味とにおいはとても口にしたくないと思うほどにひどいものであることが最大の障害となった。そこで、両科学者は、試行錯誤の末、この果実から抽出したジュースと他のフルーツジュースをブレンドすることによって飲むに堪え得る味のジュースを開発した。 その後、両科学者は、他の仲間と共に、被請求人会社を設立するに至った。そして、開発した「モリンダ シトリフォリア」を原料とするジュースに付すべき商標を選択するにあたって、商品の原料を一義的に想起させる名称である「NONO」を避け、世界で一般的に使用されている名称ではなく、識別力を有すると考えられる名称「NONI」を採択することとし、この商標について各国に商標登録出願を行ったものである。 以上のような経緯で被請求人は、本件商標を採択し使用し続けているところ、「モリンダ シトリフォリア」という植物が一般的には知られていなかったという状況の下で、被請求人の製造販売にかかる「モリンダ シトリフォリア」を原料とするジュースの人気が急激に高まったため、その名声にフリーライドするため、競合他社は、本件商標若しくはこれを一部に含む名称を「モリンダ シトリフォリア」の一般名称であると認識させるような態様で使用し始めたのである。このことは、請求人及びその親会社の設立が最近であり、請求人の提出する証拠のほとんどすべてもつい最近の資料に限られていることからも明らかである。 つまり、被請求人は、善意で本件商標を採択、使用し、また、これについて登録を取得し、本件商標を使用する自己の商品に関して営業努力及び品質向上努力を続けた結果、本件商標にいわゆるグッドウィルが化体したところ、競合他社によって本件商標に対するフリーライド若しくはダイリューション行為を受けているのである。 そのような事情にもかかわらず、フリーライド若しくはダイリューション行為を行っている競合他社の一社からの請求にかかる本件無効審判が認められるのは不当であるといわざるを得ない。 万が一、現時点においては本件商標が自他商品識別力を失うに至っていたとしても、第三者の本件商標若しくはこれに類似する商標の使用と本件商標権の関係は商標法第26条によって調整されるべき問題であって、本件商標が査定時に自他商品識別力を有しており商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当していなかったことは明らかであるのだから、本件商標に無効理由がないことは明らかである。 4.以上を総合して勘案すれば、わが国において、学名「モリンダ シトリフォリア」、日本名「ヤエヤマアオキ」という植物が「NONI」という名称で認識されているという事実はなく、将来においても、そのような可能性はないと考えるのが相当であるから、本件商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものではないこと明らかであり、本件審判請求には理由がない。 第4 当審の判断 1.甲第6号証ないし甲第11号証及び甲第15号証ないし甲第33号証によれば、以下の事実が認められる。 (1)学術名を「モリンダ シトリフォリア」とする常緑性低木は、フランス領ポリネシア諸島では、通称「NONI(ノニ)」と呼ばれ、ポリネシア諸島では、2000年以上にわたって、該ノニの木の実を始め、葉、根、樹皮、花の抽出液を、病気の治療、健康の維持・増進に使用してきたこと。(ただし、甲第6号証には、「ポリネシアの島々ではノニ、ノヌ、またノノ等の別称で知られています。」旨の、また、甲第16号証には、「サモアおよびトンガ諸島群ではノヌになり、タヒチの人々はノノと呼びます。ノニというよく知られた名前はマルケサス諸島及びハワイで使用されます。」旨の記載が認められる。) (2)ノニの木の実、葉、根、樹皮、花等の薬効については、1990年代の初めより研究されており、例えば、「フランスの研究者たちは、ノニの木の根に含まれる成分は天然の鎮痛剤や鎮静剤として作用することを発見し、プランタメディカ誌の1990年の記事の中で詳細を発表した。」、「ノニに含まれるダナカンサルは、1993年に『RAS細胞に対する新型の抑制剤』として医学的に定義されました。」、「癌とノニジュース;1994年に実施された研究では、ノニの実の成分が持つ肺癌に対する抗癌作用が指摘されました。」、「1992年植物科学の・・アボット博士は、ノニの一般的用途には糖尿病、高血圧、がんの抑制が含まれると述べている。」、「1950年に出版された『パシフィック・サイエンス・ジャーナル』に掲載された科学報告書には、ノニには消化器系や心臓を守る抗菌作用があることが立証されている。」(甲第16、17号証)などの記述が認められること。 (3)ノニの木の実、葉、根、樹皮、花等の抽出液が商品化されたことに関し、「ノニの近代的な商品化が開始されたのは、ミッチ・テイトという名の人物がポリネシア諸島で偶然ノニに遭遇した1994年のこと」であること、「テイト氏と何人かのパートナーたちによって、ノニの健康上の利点を大規模に市場に紹介する最初の会社としてモリンダ社が設立された」こと、「それ以前にノニの効用を紹介していた会社はありましたが、大規模に紹介したのはモリンダ社が初めてで」あったこと、「薬効をもつノニ ジュースは急速に普及し、アメリカや世界のその他の地域で広く販売されてい」ること(いずれも甲第16号証)、ミッチ・テイトがそのパートナーと設立したモリンダ社は、1996年にアメリカ市場にノニ製品をもたらしたこと(甲第7号証)などの記述が認められる(ただし、甲第10号証には、「1993年、2人の著名な食品科学者・・・が、友人の紹介でフレンチポリネシア産のあるシンプルな植物と出会いました。」なる記述がある。また、甲第11号証には、ノニの果汁に関し、「1996年に世界で始めて飲みやすいジュースになりました。」なる記載が認められる。)。 さらに、アメリカ合衆国のハワイで産出されたノニから製造されたと認められるパウダー化したカプセルに関し、「『ハワイアン・ノニ』は、『タヒチアン・ノニ』が製品化する何と4年前の1992年から製造している」旨のが記述が認められること(甲第25号証)。 また、わが国においては、遅くとも2001年(平成13年)7月には、ノニを原材料としたジュース、カプセル、石鹸がインターネットを通じて販売されていたこと(甲第25号証ないし甲第33号証)。 (4)1998年には、わが国において「ノニジュース」に関する「ノニジュース53の使い方」なる書籍が出版されたこと(甲第21号証)。 2.前記1.で認定した事実よりすれば、「NONI(ノニ)」は、ポリネシア諸島で産する学術名を「モリンダ シトリフォリア」とする常緑性低木の通称であり、その実、葉、樹皮、根、花、種子の抽出液は、抗菌性、鎮痛性、抗癌性などの特性を有し、薬用植物として、また、ビタミンC、ビタミンE、カルシウム、マグネシウム、亜鉛を含むビタミンやミネラルを豊富に含んでいるため、健康な体を維持するものとして、ポリネシアの人々は、古くからノニの実などから抽出した液を治療等に使用してきたこと、ノニの木の各部から抽出される液の薬効作用については、様々な国で1990年代の初めころより研究され続けてきたこと、ノニを原材料とした商品は、1996年ころにはアメリカ市場に出回っていたこと、また、タヒチで産出されるノニを原材料とした製品に先駆け、ハワイで産出されるノニを原材料とした製品が市場に出回っていたこと、さらには、1998年(平成10年)には、わが国においてノニに関する書籍が出版されていることなどが認められ、いわゆる健康食品といわれる商品への関心が極めて強い今日のわが国の風潮や、インターネット等情報通信分野の発展に伴って情報の伝達が高速化されたわが国における今日の社会的状況下にあって、本件商標の登録査定時(平成10年8月3日)には、わが国の食物研究者、食品を専門に取り扱う業者、輸入販売業者等、あるいは一部の消費者の間においては、「NONI(ノニ)」の語及び該「NONI(ノニ)」の身体の健康にもたらす好影響について、ある程度知り得ていたとみるのが相当である。 3.本件商標は、前記したとおり、「NONI」の文字を普通に用いられる方法で書してなるものであるところ、上記2.で認定した事情よりすると、本件商標は、これをその指定商品中「NONI(ノニ)を原材料とした食餌療法用飲料・食餌療法用食品」について使用した場合は、単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまり、それ以外の指定商品について使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきである。 4.(1)被請求人は、学術名「モリンダ シトリフォリア」の植物を「NONI」の名称が使用されているのは、ハワイ、ポリネシア及びプエルトリコ地域だけであり、しかも、これらの地域における本件植物の生産量及びこれらの地域を産地とする本件植物を原料とするジュース及びその他の製品の流通量は極めて少ないものと考えられ、わが国の需要者、取引者が、「NONI」という語から、上記植物を認識することはない旨主張する。 しかしながら、「NONI(ノニ)」がハワイ、ポリネシア及びプエルトリコ地域だけで使用される学術名「モリンダ シトリフォリア」の通称であるとしても、本件商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するか否かの判断は、取引者、需要者が「NONI」若しくは「ノニ」の語から正式な学術名称としての「モリンダ シトリフォリア」を認識するか否かではなく、「NONI」若しくは「ノニ」の語が食品、飲料、あるいは薬剤等の商品に使用され、これに接した取引者、需要者が商品の原材料を表したと認識するか否かの問題であり、前記2.で認定した事情からすれば、「NONI(ノニ)」の語は、タヒチ島などのポリネシア諸島やハワイで産出される植物と理解し、身体の健康に好影響をもたらすものとして、商品の原材料を表したと認識するするにとどまるものであることは、前記したとおりである。 したがって、被請求人の上記主張は採用できない。 (2)被請求人は、甲第15号証ないし甲第33号証は、その公表日若しくはプリントアウトされた日付けが本件商標の登録日以降であるから、本件商標がその査定時に商標法第3条第1項第3号もしくは同法第4条第1項第16号に該当していたことを立証する証拠にはなり得ない旨主張する。 確かに、甲第15号証ないし甲第33号証の多くは、その公表日若しくはプリントアウトされた日付けが本件商標の登録査定日以降であることは、認め得るところであるが、前記2.で認定したように、これらの記載内容、わが国の一般国民が、いわゆる健康食品なるものに抱く関心の強さ等の事情を総合勘案すれば、取引業者及び一部の消費者は、「NONI(ノニ)」の語をある程度知っていたものというのが相当である。 そして、「NONI」若しくは「ノニ」の語は、ジュース等の原材料として1996年にはアメリカ合衆国で使用され、「ノニジュース」として市販されていた実情、1992年に「ハワイアン・ノニ」として原材料を表示するものとして使用されていた実情、1998年にわが国で「ノニジュース」に関する書籍が出版されていた実情、遅くとも平成13年には、わが国において少なからぬ販売業者によりジュースの原材料を表示するものとして使用され、販売されていた実情等を考慮すると、本件商標の登録査定時に、取引者、需要者に、いわゆる健康食品の原材料を表示するものとして広く認識されていないものであったとしても、「NONI」の文字よりなる本件商標を特定人に独占させて使用させることは適切ではなく、この点からしても、本件商標は、独占適応性に欠けるものといわざるを得ない。 したがって、この点に関する被請求人の主張も採用できない。 (3)被請求人は、本件商標を採択した経緯等を述べ、本件商標を使用するにつきその取扱いに係る商品に関して営業努力及び品質向上努力を続けた結果、本件商標にいわゆるグッドウィルが化体したところ、競合他社によって本件商標に対するフリーライド若しくはダイリューション行為を受けているのであり、フリーライド若しくはダイリューション行為を行っている競合他社の一社からの請求により本件商標の登録が無効とされるのは不当である旨主張する。 しかしながら、前述したとおり、「NONI」若しくは「ノニ」の語は、いわゆる健康食品の原材料を表示するものとして、商品の取引の過程において、その取引業者等が使用を必要とするものであり、かつ、欲するものであるから、独占適応性に欠けるものである。 したがって、「NONI」の文字よりなる本件商標が、被請求人の取扱いに係る商品「ジュース」等を表示するためのものとして、著名性を獲得したといった特別の事情がない限り、何人もこれを使用することが可能であり、そこには、フリーライド若しくはダイリューション行為が発生する余地はなく、また、本件商標が被請求人の取扱いに係る商品「ジュース」等を表示するためのものとして、著名性を獲得したと認めるに足りる証拠は見出せない。 (4)被請求人は、現時点において、本件商標が自他商品識別力を失うに至っていたとしても、第三者の本件商標若しくはこれに類似する商標の使用と本件商標権の関係は商標法第26条によって調整されるべき問題である旨主張する。 しかしながら、本件商標は、その登録査定日において商標法第3条第1項第3号に該当するにもかかわらず、該条項に違反して登録されたものであって、これを理由としてその登録を無効にすべき旨の審判が請求されたものであり、無効とすべき理由が存在する以上、同法26条により他人に本件商標の権利の効力を及ぼすべきでないとするような調整をする必要性は見出せない。 4.以上のとおり、本件商標は、これをその指定商品中「NONI(ノニ)を原材料とした食餌療法用飲料・食餌療法用食品」について使用しても、単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまり、それ以外の指定商品について使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきであるから、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものといわざるを得ない。 したがって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2002-05-08 |
結審通知日 | 2002-05-13 |
審決日 | 2002-05-27 |
出願番号 | 商願平8-116471 |
審決分類 |
T
1
11・
13-
Z
(005)
T 1 11・ 272- Z (005) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 八木橋 正雄 |
特許庁審判長 |
三浦 芳夫 |
特許庁審判官 |
茂木 静代 野本 登美男 |
登録日 | 1998-09-25 |
登録番号 | 商標登録第4191320号(T4191320) |
商標の称呼 | ノニ |
代理人 | 大津 洋夫 |
代理人 | 真田 雄造 |
代理人 | 中村 仁 |
代理人 | 尾原 静夫 |
代理人 | 中島 宣彦 |