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審決分類 審判 全部無効 商8条先願 無効としない Z42
管理番号 1081720 
審判番号 無効2002-35158 
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-04-25 
確定日 2003-07-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第4496409号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 1 本件商標
本件登録第4496409号商標(以下「本件商標」という。)は、平成11年9月29日に登録出願され、「帝国興信所」の文字を標準文字とし、第42類「施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査」を指定役務として、平成13年8月3日に設定登録されたものである。

2 請求人の引用商標
請求人が引用する商標(以下「引用商標」という。)は、別掲に示すとおり、「帝国興信所」の文字を横書きしてなり、第42類「施設の警備,身辺の警備,個人の身元又は行動に関する調査」を指定役務として、平成10年9月2日に登録出願(商願平10-75429号商標)、その後、当該出願は、平成11年12月3日に拒絶査定(発送)、同年12月27日に当該拒絶査定に対する審判(平成11年審判第21019号)が請求され、その審判係属中の平成13年3月28日に出願取下書が受理され、同日付で出願取下げが確定したものである。

3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。甲第10号証ないし甲第18号証は欠番。)を提出した。
(1)商標法第8条第1項について
請求人が行った商標登録出願(商願平10-75429)についての取下げは、錯誤もしくは公序良俗に反し無効であり、請求人の当該商標登録出願が時間的に優先することから、被請求人による本件商標の登録は、商標法第8条第1項が定める先願主義に反し、無効である。
請求人は、被請求人及び被請求人の代表取締役である谷ロ卓爾(以下「卓爾氏」という。)から、「(請求人の)商標登録出願(すなわち、商願平10-75429)を取り下げなければ、各種法的手続き等を取る」旨記載された平成12年10月13日付け「通告書」と題する内容証明郵便の送付を受け、さらに、再度、当該商標登録出願を取り下げるようにと、同月28日付けで「通告書」と題する内容証明郵便の送付を再び受けた(甲第9号証)。
さらに、卓爾氏は、同年11月頃、業界のタブーを破って、請求人のテリトリーである九州地方に請求人が経営する「帝国興信所」と全く同じ名称で、被請求人のNTTの広告を載せてきたうえで、さらに、請求人をホテルの個室に呼びつけ、密室で2、3時間もの長時間に亘り、「商標登録出願を取り下げろ、さもなくば、九州地方に自分が進出する。」などと言い、もし、請求人が商標登録出願を取り下げなければ、請求人の九州地方における営業行為が妨害され、財産上の利益が得られないかのごとく脅し、それを恐れた請求人は、本来取り下げる必要のない商標登録出願を取り下げざるを得ないように追い込まれ、その結果、請求人は、商標登録出願を取り下げたものである。
かかる一連の行為は、「財産に対して害を加えるべきことをもって脅迫し」「人をして義務のないことを行わせ」(刑法第223条第2項)る行為ということができ、刑法第223条第2項の強要罪に該当しかねない。
請求人は、かかる犯罪に該当しかねない行為に基づいて商標登録出願を取り下げたのであって、請求人の商標登録出願の取下げ行為は、公序良俗に反する無効な意思表示であると言える(甲第9号証参照)。
また、公序良俗に反しないとしても、卓爾氏は請求人に対して、自己の出願した商標登録の権利を実兄である申立外谷口照男(以下「照男氏」という。)に譲渡する意思がないにもかかわらず、「もし、自分が商標登録出願の登録をすることができれば、その権利を兄貴(照男氏)に譲渡する。」などとあたかも商標登録出願を照男氏に譲渡する意思があるかのごとく、請求人を錯誤に陥らせて欺き、その結果、請求人は、特許庁に対して行った商標登録出願を取り下げたのである(甲第9号証)。
卓爾氏が代表取締役を務める株式会社帝国興信所が平成12年10月31日付けで提出した意見書には、「本出願人は、引用商標の出願人と現在交渉中であり、引用商標登録出願は、いずれ取り下げられる模様である。」などと、請求人が、その商標登録出願を取り下げる平成13年3月26日から半年もさかのぼった時期に、既に請求人の商標登録出願の取下げが予告されている。
ところが、請求人が卓爾氏に送った平成12年10月16日付けの「回答書」(甲第9号証添付の別紙4参照)によれば、当時、請求人は、自己の商標登録出願を取り下げるなどということは卓爾氏に対して一言も言っていないのである。
かかる一連の経緯からしても、請求人の商標登録出願の取下げが卓爾氏に強要された、あるいは、欺かれて取り下げられたことが裏付けられる。
よって、請求人の商標登録出願の取下げは無効であり、被請求人よりも先に出願している請求人の商標登録出願こそが登録されるべきである。
(2)答弁に対する弁駁
(ア)被請求人の平成14年7月22日付けの答弁書(第6項)について
(a)被請求人は、「被請求人が照男会長に取下げを強要した」「事実は全くない。」と主張する。
しかし、請求人は、平成13年3月22日に、被請求人の代表者である卓爾氏と谷口孝一(以下「孝一氏」という。)から、大阪エアポートホテルの一室に呼び出され、卓爾氏から「『帝国興信所』は、兄貴(谷口照男会長。以下「照男会長」という。)のものだ。」「お前が自分の名前で出願しているのはおかしい。」「会長も怒っているんだぞ。」「お前は『帝国興信所』を乗っ取ろうとしている。」「商標登録出願を取り下げろ。さもなくば、九州地方に自分(卓爾氏)が進出する。」等々と言われて、事前に用意された示談書(甲第19号証)に署名・捺印させられたものである。
また、卓爾氏は、被請求人の商標登録出願が仮に登録されたとしても、商標権を照男会長に譲渡する意思はなく、沖縄県を含めた九州地区を請求人のテリトリーとする意思も全くないにもかかわらず、同日、請求人に対して、「『帝国興信所』は兄貴(会長)のものだ。」「お前が商標登録出願を取り下げて、自分達の出願した商標が登録されれば、その権利を兄貴(会長)に譲渡する。」「沖縄県を含めた九州地区をお前のテリトリーとする。」「だから、商標登録出願を取り下げろ。」と欺罔して、請求人をして、その旨誤信させ、約定書に署名させ、商標登録出願を取り下げさせたのである(甲第20号証の1)。
請求人は、既に、卓爾氏に対して、上記「示談書」及び「約定書」の錯誤無効の意思表示を行っている(甲第20号証の1及び2)。
請求人の商標登録出願の取下げは、請求人が平成13年3月22日に、卓爾氏から受けた強迫的かつ詐欺的な言辞により受けた畏怖かつ錯誤の精神状態が継続している中で行われた行為であり、錯誤による無効な行為である。
以上、請求人の商標登録出願の取下げは、明らかに、本来、刑法上の強要罪に該当すべき公序良俗に反する行為に基づき行われた行為である。
(b)また、被請求人は、「実際の出願取下書の提出は、請求人の代理人であった弁理士今村定昭(以下「今村弁理士」という。)によってなされて」おり、「当該弁理士に相談するなどの自由な時間が当然あったはずであり、この点からしても」「請求人の主張は到底認められない。」と主張する。
しかしながら、前記のとおり、今村弁理士が請求人を代理して行った商標登録出願の取下行為は、畏怖かつ錯誤の精神状態が継続している中で行われた行為であり、畏怖及び錯誤の状態を脱した後に行われた行為ではない。
被請求人は、(請求人が)被請求人の代表者に対して、縷々その名誉を害する発言を行っているが、これらの発言は事実に基づかないものであって、被請求人の代表者に対する著しい名誉の毀損行為である旨主張する。
しかし、これらは、いずれも事実に基づくもので、平成13年3月22日に、孝一氏がエアポートホテル206号室を予約し、同日、午前10時55分から午後2時20分までの約3時間半の長時間に亘り請求人が同室内で、卓爾氏から詐欺的かつ脅迫的言辞を用いて強迫されていたことは、大阪エアポートホテルからの回答書によっても客観的に明らかである(甲第22号証)。
被請求人は、請求人の「商標登録出願は、その審査時において被請求人の商標『帝国興信所』が当時未登録であったにもかかわらず、特許庁によって周知であると判断され(甲第2号証)、その結果、被請求人の商標『帝国興信所』が引用されて」「拒絶査定となっている(甲第5号証)」と主張する。
しかしながら、請求人の受けた拒絶理由通知書は、「被請求人の商標『帝国興信所』が当時未登録であったにもかかわらず、特許庁によって周知であると判断され」たことを理由としているわけではなく、被請求人の使用例を例示として挙げて、『帝国興信所』という商標が普通名称と判断されたにすぎない。このことは、甲第2号証が平成11年8月31日に起案され(甲第2号証)、その後、平成12年9月12日に、被請求人自身も「この商標登録出願に係る商標は、本願指定役務を取り扱う業界においては、多数使用されている名称である『帝国興信所』の文字を普通に書してなるものである」ことを理由に、被請求人の登録出願が拒絶されるべきとの拒絶理由通知書(甲第6号証)が作成されていることからも明らかである。
また、請求人は「出願取下書を受理した特許庁の行為」について「瑕疵」があるなどとは主張していない。
さらに、特許庁に「取下げに至った経緯について、特許庁がその事実を逐次審理し、その結果に基づいて取下行為自体を無効と判断する責務、権限、権能」があるなどとも主張していない。
請求人は、請求人の取下行為自体の絶対的無効を主張しているのであって、特許庁の(取下書受理)行為に瑕疵があったなどとは主張していない。
以上、請求人の出願取下行為が公序良俗に反し、絶対的無効である以上、請求人は、それを何人に対しても請求し得ることになり、その結果、先願主義により、請求人に商標登録が認められるべきものである。
また、請求人の商標出願取下行為が錯誤無効、詐欺取消ないし公序良俗に反する行為に基づき行われた行為であることが判明することにより、被請求人の商標登録自体が「公序良俗を害するおそれのある商標」(商標法第46条第1項第5号)にも該当することになる。
(イ)被請求人の平成14年11月10日付けの答弁書(第5項)について
被請求人は、請求人が卓爾氏に宛てた請求人のファックス(乙第2号証)及びあけぼの特許事務所から、卓爾氏に宛てた報告書(乙第3号証)の存在をもって、「商願平10-75429号の取下げを強要した事実がないのは明らかであり」「請求人の主張は全く認められない。」と主張する。
しかしながら、乙第2号証及び乙第3号証は、いずれも請求人が未だ平成13年3月22日に卓爾氏から強迫的かつ詐欺的な言辞により受けた畏怖かつ錯誤の精神状態が継続している中で行われた行為であり、錯誤による無効な行為であり、強迫による取り消し得る意思表示である。
請求人からすれば、卓爾氏の申し出を断れば、次に、いかなる営業妨害を行われるかわからないという恐怖の念に駆られ、特許庁に対する商標登録出願を取下げ、卓爾氏に対し、上記ファックスを送ったのである。
なお、卓爾氏は、請求人が無効審判請求を申し立てた後も、請求人に対して架電してきて「無効審判の申立を取り下げろ、さもなければ、前と同じことをするぞ」と脅してきた(甲第20号証の1)。
上記ファックス(乙第2号証)及びあけぼの特許事務所記載の連絡書(乙第3号証)は、請求人が平成13年3月22日に、卓爾氏から受けた強迫及び詐欺的言辞のわずか一週間以内に作成された文書にすぎない。この段階では、請求人は、平成13年3月22日に卓爾氏から受けた畏怖かつ錯誤の精神状態が未だに継続しており、上記ファックスも畏怖及び錯誤の状態を脱した後に行われた行為ではない。
上記ファックスの文章をみれば、請求人がいかに3月22日に卓爾氏の言動により畏怖していたかは明らかである。すなわち、請求人が記載した上記ファックスの文章は、卓爾氏を極めて畏怖していた請求人が少しでも卓爾氏の支配下にあるかをアピールし、卓爾氏に気に入られようとのご機嫌を伺うために最善の努力を払った文章であることは一目瞭然である。
また、上記ファックス及び連絡書が記載された日時においては、請求人は、卓爾氏が「お前が商標登録出願を取り下げて、自分達の出願した商標が登録されれば、その権利を兄貴(会長)に譲渡する。」「沖縄県を含めた九州地区をお前のテリトリーとする。」と言った言葉が現実に履行されるものと誤信していた。上記ファックス及び連絡書は、請求人が未だ上記誤信した状態であった時期に作成された文書である。
以上、上記ファックス及び連絡書は、請求人が平成13年3月22日に卓爾氏から受けた強迫的かつ詐欺的な言辞により畏怖かつ錯誤の精神状態が継続している時期に作成された文書であり、畏怖及び錯誤の状態を脱した後に作成された文書ではない。
よって、被請求人の上記主張にはいずれも理由がない。

4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び弁駁に対する答弁を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証を提出した。
(1)商標法第8条第1項について
(ア)請求人は、その理由として、甲第9号証によって自己の陳述書を提出し、あたかも刑法上の強要罪に該当するかの行為を行って、被請求人が請求人に対して取下げを強要したと主張しているが、そのような取下げ強要の事実は全くなく、乙第1号証にも示したように、請求人の取下行為は話し合いによる合意に基づくものであり、請求人の意思によるものである。
さらにまた、実際の出願取下書の提出は、請求人の代理人であった今村弁理士によってなされているが(甲第8号証)、今村弁理士に取下げを依頼する場合には、当該弁理士に相談するなどの自由な時間が請求人には当然あったはずであり、この点からしても、請求人による自己の商標登録出願の取下行為が、「(被請求人による)犯罪に該当しかねない行為に基づいて」なされたものとする、請求人の主張は到底認められない。
また、甲第9号証における陳述書は、請求人自身の陳述書であり、客観的な裏付け、証拠に欠けるものであり、認めることはできない。
なお、請求人は、この陳述書の中で、被請求人の代表者に対して縷々その名誉を害する発言を行っているが、これらの発言は、事実に基づかないものであって、被請求人の代表者に対する著しい名誉の毀損行為であり問題である。
請求人が商標登録出願(商願平10ー75429)を行った当時(平成10年9月2日)、「帝国興信所」は、被請求人の業務に係るものとして既に周知であったことは、請求人自身が提出した甲第2号証からも明らかである。請求人も被請求人の使用している商標が周知であったことは、知っていたはずである。それにもかかわらず、請求人は、これを自己の名義により無断で出願している。請求人は、自己の当該商標登録出願を今村弁理士他1名に委任していることからしても(甲第1号証)、その商標が登録されることによる独占的排他権の発生及びその効果を当然に知悉していたはずである。
つまり、客観的にみれば、請求人は、被請求人の信用をあたかも剽窃するが如く、「帝国興信所」を自己の商標として独占するために出願したとしかいうほかはない。
請求人は、特許庁に対して請求人が行った商標登録出願の取下げが無効であるから、被請求人よりも先に商標登録出願をしている請求人名義の出願に係る商標が登録されるべきであると主張しているが、請求人は、この点について誤解している。
適式な請求人自身からの要式行為である出願取下書を受理した特許庁の行為には何ら瑕疵がなく、また、そもそも取下げに至った経緯について、特許庁がその事実を逐次審理し、その結果に基づいて、取下行為自体を無効と判断する責務、権限、機能も行政庁である特許庁にはない。
さらにいえば、取下行為が公序良俗に反する無効な意思表示であると仮に裁判所で判断されても、それによって、要式行為として特許庁に提出された出願取下書が直ちに無効となり、請求人名義の商標登録出願が復活することにはならない。勿論、その旨の規定も商標法上には見当たらない。
いずれにしろ、請求人名義の商標登録出願が請求人の意思に基づいて適式に取り下げられた以上、本件商標は、商標法第8条第1項の無効事由を有するものではない。
なお、付言すれば、商標法第8条第1項が無効理由として規定されているのは、請求人のいうような事態に対処するためではなく、商標の類似という困難な審査と商標法第4条第1項第11号に基づく処理による後願過誤登録を排除するために設けられたものである。
さらにいえば、請求人のなした商標登録出願は、その審査時において被請求人の商標「帝国興信所」が当時未登録であったにもかかわらず、特許庁によって既述の如く周知であると判断され(甲第2号証)、その結果、被請求人の商標「帝国興信所」を引用されて請求人の出願に係る商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものとして拒絶査定となっている(甲第5号証)。
そして、この被請求人の周知商標「帝国興信所」に類似するという請求人名義の商標登録出願は、依然として、その拒絶理由が解消していないものである。
したがって、被請求人よりも先に商標登録出願をしている請求人の出願に係る商標が「登録されるべきである」とする請求人の主張は、かかる点からしても全く妥当性に欠けるものである。
(イ)請求の利益について
商標登録の無効審判を請求するにあたっては、相応の利害関係を必要とするところ、請求人は、これを何ら明らかにしていない。
よって、本件審判は、請求適格が無いものとして棄却されるべきものである。
以上述べたように、請求人の商標登録出願(商願平10-75429)が請求人の意思によって適式に取り下げられた以上、本件商標は、商標法第8条第1項の無効事由を有するものではない。
よって、答弁の趣旨のとおりの審決を求めるものである。
(2)弁駁に対する答弁
(ア)被請求人は、先に答弁書を提出したが、今回重要な証拠が入手できたので、これを提出するとともに、該証拠に基づいて先の答弁書中の答弁に対して追加の答弁を行う。
既に、被請求人は、請求人と被請求人の代表者の卓爾氏らが交わした請求人名義の商標登録出願(商願平10-75429)の取下げについての合意が請求人の意思に基づくものであって、被請求人が取下げを強要した事実は全くないと主張したが、今回提出する乙第2号証によっても、そのことが裏付けられる。
すなわち、乙第2号証は、請求人と卓爾氏らとの間で行われた取下げについての会談の翌日に、請求人自身が卓爾氏にファクシミリで宛てた「転送先電話番号のご連絡」の写しであるが、この中で、請求人は、「昨日は、ご多忙中にもかかわらず貴重なお時間を頂き誠に有り難うございました。〜宜しくお願い申しあげます。」などと、会談が行われたこと自体に対して謝礼まで述べている。
そして、取下げを依頼した弁理士から卓爾氏に宛てた取下報告書もわざわざ同時に添付している(乙第3号証)。強要、脅迫等を受けた者が相手方に対して、このような文書を送付するとは常識的に考えられない。
したがって、かかる証拠からも、被請求人が請求人に対して、商願平10-75429号の取下げを強要した事実がないのは明らかであり、それゆえ、あたかも刑法上の強要罪に該当するかの行為を行って被請求人が請求人に取下げを強要したとの請求人の主張は、全く認められないものである。
(イ)平成14年8月19日付の弁駁書に対する答弁
請求人は、依然として弁駁書においても、平成13年3月26日の請求人による商標登録出願の取下行為が公序良俗ないし錯誤もしくは詐欺による取り消しを理由として無効であるから、先願主義に反して本件商標が無効になるべきであると主張している。
しかしながら、請求人による商標登録出願の取下行為が公序良俗ないし錯誤もしくは詐欺による取消しを理由として無効となる旨の民事上の主張は、民事係争上の主張としても、全く理由のないことが明白であることは、被請求人の平成14年7月22日付けの答弁書及び同年11月19日付けの答弁書(第2回、乙第2号証及び乙第3号証を添付)で詳述したところである。
答弁書(第2回)にも記載したとおり、平成13年3月22日に商標登録出願の取下げを約定した請求人は、その翌日「昨日は貴重なお時間を頂き、誠にありがとうございました。〜さて早速ですが、本日午前中より商標登録出願の取下げにつき、当方弁理士と連絡を取り交わし、別紙のとおり、谷口社長宛文書を頂いておりますので、ご査収の程、よろしくお願い申し上げます。」という文書(乙第2号証参照)に、同記載の特許事務所の被請求人宛文書(請求人の委任により商標登録出願の取下の手続きを行うことになった旨の報告が記載されている。乙第3号証参照)を添付して被請求人宛送付している。
かような状況にある場合に、請求人による上記商標登録出願の取下行為が「公序良俗ないし錯誤もしくは詐欺による取消しを理由として無効」などということは、証拠法則はもとより、経験則上も、およそあり得ないことであり、請求人のこのような民事上の主張は、「主張自体失当」(民事訴訟であれば、ただちに棄却されるべきもの)である。
そもそも、商標法第8条第1項が無効理由として挙げられているのは、答弁書(第1回)で述べたように、相抵触する商標を先願主義によって処理することとした本来的な拒絶理由である商標法第4条第1項第11号で処理できず、誤って後願が登録された場合、後日、先願に係る商標が登録になった際に生ずるいわゆる二重登録を排除するためである。
一方、商標登録出願が取り下げられた場合は、同法第8条第1項の規定の適用について、出願(先願)は初めからなかったものとみなされる(商標法第8条第3項)。
したがって、本件において、請求人が商標登録出願を取り下げたことにより、先願主義違反という商標登録の無効理由は、元々、本件商標には存在しない。
勿論、請求人の出願は取り下げられ、当然のことながら、登録にはなっていないから、上に述べた「二重登録」の状態も存在しない。
そして、本件商標についての商標法第8条第1項の無効理由の存否を判断するにあたっての判断対象は、本件商標の査定時に、該当する先願の商標登録出願が特許庁に係属しているかどうかを調査すれば足りるのであり、当該査定時において先願に係る商標登録出願が既に取り下げられている以上、その取下げが民事上有効かどうかを判断することは無効審判の対象事項ではないと解すべきである。
以上により、請求人の主張は、請求人により商標登録出願が取り下げられている以上、理由がない。
同取下げが民事上有効かどうかは民事上の裁判で争われるべきものであり、審判の対象ではない。
なお、民事上の争いとしても請求人の主張が主張自体失当であることは、先に述べたとおりである。
よって、請求人の弁駁書の記載は、理由がないか、もしくは、主張自体失当(仮に民事上の無効の主張としても、理由が全くない)である。

5 当審の判断
(1)利害関係について
本件審判請求に関し、被請求人は、請求人には本件審判の請求適格が無いから、本件審判請求は棄却されるべきものと主張するので、まず、この点について判断する。
商標法第46条(商標登録の無効の審判)の立法趣旨は、過誤による商標登録を存続させておくことは、本来権利として存在することができないものに排他独占的な権利を認める結果となり、妥当ではないからという点にあり、いいかえれば、同法第15条で本来的に拒絶されるべきものが、誤って商標登録を受けた場合について規定したものである。
そして、本件審判請求においては、商標法第8条第1項該当を無効理由として挙げているところ、商標法第8条第1項は、「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について、異なった日に2以上の商標登録出願があったときは、最先の商標登録出願人のみが、その商標について商標登録を受けることができる。」と規定しており、これは、商標登録出願が競合した場合についての規定であり、時間的に先後して商標登録出願があった場合、これを無効理由にしておかないと、誤って後願が先に登録された場合に、その後願に係る登録を無効にできないとの理由からである。 これは、わが国の商標制度の重要な柱(先願登録主義)をなすものであって、この条項に該当し、本来登録がなされるべきものでないものが、登録商標として存在する場合、これをもって、商標権の行使をするときには、直接かつ具体的な不利益を受ける者が存在することとなるといわなければならない。
そうとすれば、請求人は、本件商標と同一と認め得る商標を同一の役務について、本件商標より先に商標登録出願をした経緯があり、現在も、この商標の取得を欲していると認められるから、このような場合、請求人を本件審判の請求をなすことについて、法律上の利益を有する者と認め、本件商標が前記の登録無効理由に該当するか否かについて判断をするのが、商標法の定める商標登録の無効の審判制度の趣旨に合致するものというべきである。
してみれば、請求人は、本件審判請求をするにつき利害関係を有するものといわなければならない。
(2)商標法第8条第1項に関する無効理由について
請求人は、「自己の商標登録出願(商願平10-75429号)の取下げは、錯誤もしくは公序良俗に反し、無効であり、請求人の商標登録出願が時間的に優先することから、被請求人の商標登録は、商標法第8条第1項が定める先願主義に反し無効である。」旨主張している。
しかしながら、特許庁は、請求人が今村弁理士を代理人として提出した商標登録出願(商願平10-75429号)についての平成13年3月26日付け出願取下書(甲第8号証)を適式のものとして、平成13年3月28日に受理したものであり、本件審判請求により、この出願取下書を受理した手続きを無効とすることはできない。
そして、商標法第8条第3項には、「商標登録出願が放棄され、取り下げられ若しくは却下されたときは、その商標登録出願は、前2項の規定の適用については、初めからなかったものとみなす。」旨規定されている。
そうすると、本件審判の引用に係る商標登録出願(商願平10-75429号)は、取り下げられたといわざるを得ないものであり、本件商標の登録査定日である平成13年7月12日に、当該商標登録出願は、特許庁に係属していなかったものである。
(3)むすび
したがって、本件商標は、商標法第8条第1項の規定に違反してなされたものであり、その登録が無効であるとする請求人の主張は理由がなく、採用することができない。
他に、これを覆すべき証左は見当たらない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
引用商標

審理終結日 2003-05-28 
結審通知日 2003-06-02 
審決日 2003-06-16 
出願番号 商願平11-87647 
審決分類 T 1 11・ 4- Y (Z42)
最終処分 不成立 
前審関与審査官 青木 博文 
特許庁審判長 小池 隆
特許庁審判官 鈴木 新五
柴田 昭夫
登録日 2001-08-03 
登録番号 商標登録第4496409号(T4496409) 
商標の称呼 テイコクコーシンジョ、テイコク、テーコク 
代理人 井上 誠一 
代理人 金田 周二 
代理人 萩原 康司 
代理人 金本 哲男 
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