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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) Z33
管理番号 1080440 
判定請求番号 判定2002-60065 
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標判定公報 
発行日 2003-08-29 
種別 判定 
2002-07-01 
確定日 2003-06-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第4381750号商標の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 商品「焼酎」に使用するイ号標章は、登録第4381750号商標の商標権の効力の範囲に属する。
理由 第1 本件商標
本件登録第4381750号商標(以下「本件商標」という。)は、「九代目」の文字を横書きしてなり、平成11年5月17日登録出願、第33類「日本酒、洋酒、果実酒」を指定商品として、同12年5月12日に設定登録されたものである。

第2 イ号標章
被請求人が商品「焼酎」について使用しているイ号標章は、別掲に示すとおりの構成よりなるものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の判定を求め、その理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第9号証(枝番を含む。)を提出している。
1 判定請求の必要性
請求人は、本件商標の商標権者であるが、被請求人が商品「焼酎」にイ号標章の使用をしていること(甲第1号証)について、平成14年2月6日付けで、被請求人に対し、本件商標登録の商標権を侵害するものである旨の通告を発した(甲第2号証)。
その後、被請求人から回答があり交渉を行ったものの、請求人が納得できる回答が得られなかったことから、平成14年4月23日付けで警告(甲第6号証)を発し、商標権侵害訴訟、損害賠償請求訴訟等の法的措置を取ることも止む終えないとの判断に至り、その根拠並びに証拠として、判定を求めるものである。
なお、被請求人は、イ号標章を使用する以前において、イ号標章と略同一の書体からなる「九代目」の標章(甲第3号証)を使用しており、これに対し、請求人は口頭で被請求人に対して、該「九代目」の標章の使用の中止を申し入れたところ、イ号標章を使用するに至ったものであるが、被請求人は、請求人が本件商標を有することを認識していたにも拘わらず、「九代目」を誇張して使用することを意図していることは容易に認識し得るところであり、本件商標に対して故意に不正競争の目的をもって使用したものにほかならないと思料する。
2 イ号標章の説明
被請求人は、遅くとも平成12年8月頃より、イ号標章を付した商品「焼酎」を製造し、鹿児島県内の酒店を始め、各地の酒卸・小売店、主にディスカウント店で販売を行っている。
請求人は、平成6年頃より、商品「焼酎」について本件商標の使用を開始し、その後も継続して使用し、現在に至っている(甲第4号証)。本件商標は、遅くとも平成14年2月6日頃までには、東京、大阪、九州を初めとして、また、インターネット上に掲載された電子情報を通じて焼酎の愛好家の間では請求人の業務に係る商品を表示するものとして認識されるに至ったものである。
3 イ号標章が商標権の効力の範囲に属するとの説明
本件商標は、「九代目」の文字を横一連に書してなるものであるから、これより「キュウダイメ」の称呼及び「家または位を継いで、その地位にある九世代目にあたる人」の観念を生ずるものである。
他方、イ号標章は、胴張りの中央に「九代目」の漢字3文字を縦書きに大書し、該「九代目」の文字の上部に朱書きの「相良」「さがら」の文字を「九代目」の文字に比して明らかに小さく横書きしてなるものである。
したがって、本件商標とイ号標章とは、外観上において相違する文字を含んでなる部分はあるとしても、胴張りの中央に「九代目」が大書されており、「キュウダイメ」の称呼、「家または位を継いで、その地位にある9世代目にあたる人」の観念を共通にし、商品の出所について混同を生じさせる虞れがあるから、同一又は類似の標章というべきである。
なお、イ号標章の「相良/さがら」の部分は、ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法第3条第1項第4号)であるから、本来、該「相良/さがら」の部分は登録要件を具備するものではないと思料する。
そして、本件商標に係る指定商品中の第33類の「日本酒」とイ号標章の使用商品「焼酎」とは、同一又は類似の商品であり、請求人の使用商品も「焼酎」であるから、同一の商品に使用されているものである。
以上のとおり、イ号標章は本件商標と類似する標章であり、その使用商品と指定商品も同一又は類似の商品であるから、被請求人が商品「焼酎」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するものである。
4 被請求人の答弁に対する弁駁
(1)イ号標章の使用の経緯について
a 本件商標の登録出願した経緯について、
請求人は、平成6年頃から本件商標の「九代目」の標章を商品「焼酎」に使用していたところ、被請求人も「九代目」の標章を商品「焼酎」に使用し、販売されていることを知り、被請求人に対して口頭で使用の中止を申し入れを行うも聞き入れられなかったことから、本件商標を平成11年5月17日付けで登録出願したものである。
b 請求人からの平成14年5月24日付申入書(乙第4号証)を受けたこと及び本件判定請求がされた経緯について、
請求人は、平成14年4月23日付けで警告(甲第6号証)し、これに対して、被請求人から平成14年5月1日付けの回答(甲第7号証1)、また取引先の問屋へも「緊急のお願い」(甲第7号証2)として、『・・・。本日は緊急のお願いで誠に恐縮に存じますが、先に納品させて戴きました別紙1の旧ラベルが貼付されている商品「焼酎」につきましては、「商標権侵害のおそれがある」ことが判明しておりますので、現在 尚、在庫商品のある社(店)は、直ちに、その販売を中止すると共に誠に申し訳ありませんが、旧ラベルが貼付されている在庫商品を返品し、別紙2の新ラベルが貼付けられている商品と交換するか、又は、別便にて送付致しました別紙2のラベルに貼り替えの上販売して頂きたくよろしくお願い申し上げます。』との内容の書面を平成14年4月28日付けで配布したとの回答があった。そして、被請求人は、「・・・。平成14年3月11日付新商品ラベルが納入されたので、同日以降の新しい商品は勿論のこと、全在庫商品についても新商品ラベルに貼り替えて出荷するようにしたものであります。・・・」と回答しておきながら、平成14年4月9日ないし14日に東京日本橋三越本店で開催された鹿児島展の広告にイ号標章を使用した商品の写真を掲載しており(甲第8号証1)、また、平成14年6月26日に大阪府箕面市外院所在の酒販売店に被請求人の商品を購入に行ったところ、依然としてイ号標章を使用した商品が販売(甲第8号証2)されていたものである。
c 「九代目」商標の識別性について
確かに、被請求人は九代続いた歴史のある蔵であることは否定するものではないが、請求人の蔵も現在の当主で十代目であり、熊本の地に十代続く歴史もあり由緒もある蔵であって、この点においては、被請求人の蔵と何等遜色のないものである。そして、請求人は、先代の九代目の業績に報いるために商品に「九代目」の商標を使用することを採択したものである。
そこで、被請求人は、真に「九代目」当主でない者がこれを採択使用した場合には、虚偽の表示をしたこととなり、取引者、需要者を欺く結果となることから、公序良俗に反し、商標法第4条第1項第7号に該当し、無効理由が存在することになる旨主張するが、被請求人が主張するように真に「九代目」「○代目」の当主あるいは家人でない者がこれを採択使用した場合には、虚偽の表示をしたこととなり、公序良俗に反するとした場合には、当主あるいは家人は、当然に自然人でなければならないことから、会社等の法人は権利を取得できないことになると思料されるが、甲第9号証1ないし3の商標公報に示すように、掲載されている商標は法人名義で登録されており、審査の段階においてもそれらを立証するための証明を要求されておらず、故意に生存する「九代目〜」「○代目〜」にあたる著名な芸名、雅号等を承諾なく使用し、あるいは不正競争の目的で使用したような場合には、公序良俗に反するおそれはあるとしても、単に「九代目」の標章を使用採択する場合には、社会通念上も公序良俗に反するものではなく、出願人が自由に採択使用し得る商標であると考える。
d 商標の類否と商品の類否について
被請求人は、「九代目」の部分には自他商品の識別力を有しないことを前提として主張しているが、判定事件においては、無効理由についての主張は無意味であり、無効審判請求で行われるべきである。
また、そのような主張が成り立つのであれば、ありふれた氏である「相良」と自他商品の識別力を有さない「九代目」を結合してなる被請求人の商標「相良九代目」は、如何なる点において自他商品の識別標識としての機能を有することになるのか、被請求人の主張は、本件商標とイ号標章の類否判断に当たっても、極めて都合の良い解釈がなされているといわざるを得ない。
そして、被請求人は、「○代目」の文字は、証拠を挙げて焼酎等日本酒類を取り扱う業界においては、広く一般的に使用されていると主張するが、いずれも、何代目を特定し得るような短い文章の形式をとっており、このような使用は、経験則に照らしその意味合いは理解し得るとしても、「九代目」の文字のみでは、「家又は位を継いで、その地位にある九世代目又は九世代目にあたる人」を指称するもので、九代目に当たる当主を誇示することはあっても、商品の品質を誇示した広告、宣伝文句と解することは、社会通念上も相当ではないと思料する。
そして、この点に関する判決例として、被請求人は、最高裁昭和39年(行ツ)第110号の判決要旨の一部を引用しているが、その判決例は両商標の外観及び観念が著しく異なり、商取引の現場において、商慣習上、商標の称呼のみによって商標を識別し、商品の出所を知り品質を認識するようなことがほとんど行われないことが実情であることを前提としたものであり、本件判定請求における本件商標とイ号標章の類否判断とは、事案を異にするものと考える。
e 結び
以上のとおり、被請求人の主張は、認めることができない。

第4 被請求人の主張
被請求人は、商品「焼酎」について使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しない。との判定を求めると答弁し、その理由を要旨以下のとおり述べ、その証拠方法として乙第1号証ないし同第10号証(枝番を含む。)を提出している。
1 イ号標章の使用の経緯について
被請求人相良酒造合名会社は、享保15年(1730年)初代相良仲右衛門によって酒屋を開業し、現当主で九代目である(乙第1号証ないし乙第1号証3参照)ことから、九世代の永きにわたる歴史の古い伝統をもつ由緒ある蔵であることを記念するとともに、その蔵で製造される商品は品質の優れた焼酎であることを強調するため、平成11年3月頃から現当主の「九代目」を焼酎の標章として採択使用していたところ、請求人から、「九代目」の標章は請求人が登録出願しているものであるから、その使用を中止されたい旨の電話での申し入れがあった。
被請求人は、争いを避けるべく「九代目」の標章の使用を断念し、「相良九代目」に変更すべく、平成11年9月17日「相良九代目」(乙第3号証)を登録出願し、その上で、本件商標が登録される以前に「九代目」の標章の使用は中止した。
被請求人は、平成12年10月17日に登録出願した「相良九代目」が登録第4417540号として登録された(乙第3号証。以下「被請求人商標」という。)ことから、「九代目」の標章に代えて、被請求人商標と同一範囲内の使用であるとみられるイ号標章(甲第1号証)の使用を本格的に開始した。
ところが、平成14年2月6日付、請求人から、イ号標章の使用は本件商標の商標権を侵害するものである。旨の通告(甲第2号証)を受けた。
被請求人は、同業者同士の争いを避けるために、請求人に対し現在使用中のイ号標章は、全廃し、今後は同じ大きさの文字から構成された縦書きの商標「相良九代目」を使用しますとの回答書を送付し、平成14年2月20日付、今後使用する前記の刷新ラベルの見本を送付するとともに、印刷会社に商品ラベルを発注していたところ、平成14年3月11日付新商品ラベルが納入されたので、同日以降の新しい商品は勿論のこと、全在庫商品についても新商品ラベルに貼り替えて出荷するようにしたものである。
しかしながら、請求人は平成14年5月24日付申入書(乙第4号証)で、「相良九代目」の標章の使用の中止及び損害金の支払い要求があり、これらの対応について検討を重ねていたところ、平成14年7月1日付本件判定請求書が提出されたものである。
なお、先の申入書に対しては、平成14年8月23日付回答書(乙第5号証)を送付した。
2 「九代目」商標の識別性について
「九代目」の語が「家又は位を継いでその地位にある九世代目又は九世代目にあたる人」を意味し、焼酎等日本酒類を取り扱う業界においては、「九代目」の如く「○代目」の語は、その蔵が幾世代にも引き継がれてきた歴史の古い伝統をもつ、由緒ある蔵を意味する語として、広く一般的に使用されており、その蔵で製造された焼酎は、その蔵独特の風味を有し、品質のすぐれた焼酎であるものと理解され、看取されている。
このことは、例えば「いも焼酎 黒糖焼酎名鑑」(乙第6号証)、「薩摩焼酎 奄美黒糖焼酎」(乙第7号証)、「泡盛大全」(乙第8号証)、「焼酎楽園vol.1ないしvol.7」(乙第9号証1ないし7)等の資料の蔵元の代表的銘柄の紹介等の記載からみても明らかなところである。
そうとすれば、本件商標「九代目」に接する取引者、需要者は、その蔵は九世代にもわたって引き継がれてきた歴史の古い伝統をもつ由緒ある蔵であって、それ故に、その蔵で製造された焼酎は、その蔵独特の風味を有する品質の優れた焼酎が提供されているものと理解、認識し、看取されるとみるのが相当であるところ、本件商標「九代目」(乙第2号証)をその商品焼酎に使用するときには、取引者、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものといえるものであるから、自他商品の識別標識としての役割を果たし得ない商標であるとみるのが相当である。
してみれば、イ号標章には無効理由が存在することとなり、これを商品「焼酎」に使用したとしても、前述の事情からすれば、商標法第26条第1項第2号に規定する「商標権の効力の及ばない範囲」に属するものといえるから、イ号標章を商品「焼酎」に使用しても、本件商標の商標権を侵害するものということはできないものである。
請求人は、本件商標を平成6年頃より商品「焼酎」について使用をし、焼酎の愛好家の間では請求人の業務に係る商品を表示するものとして認識されるに至ったものである旨、主張して、甲第4号証を提出しているが、その証拠のみでは前記の主張を立証することはできず、他にこれを立証するに足る資料は何等提出されていないものであるから、これらの主張は到底認めることはできない。
また、「九代目」の語が前述の如き意味合いで、取引者、需要者の間に理解・認識されていることからすれば、「九代目」商標は真に「九代目」の当主又はこれに相当する者のみが採択使用すべきであるとみるのが相当であって、もし、真に「九代目」当主でない者がこれを採択使用した場合には、虚偽の表示をしたこととなり、取引者、需要者を欺く結果となることから、公序良俗に反し、商標法第4条第1項第7号に該当し、無効理由が存在することになる。
したがって、請求人が「九代目」商標を商品「焼酎」に採択使用している以上、真の 「九代目」であることを立証すべき資料を提出すべきである。
3 商標の類否と商品の類否について
本件商標とイ号標章の構成は前記のとおりであるところ、外観については互いに区別し得る差異を有するものである。
次に、称呼、観念について検討すると、本件商標は「家又は位を継いで、その地位にある九世代目又は九世代目にあたる人」の観念、「キュウダイメ」の称呼が生ずる。
他方、被請求人の相良酒造合名会社は、前述した如く、享保15年(1730年)初代、相良仲右衛門によって酒屋が開業され、現当主九代目まで引き継がれた歴史の古い伝統をもつ由緒ある蔵(乙第1号証1ないし3)であることからすれば、イ号標章の構成中「相良」の文字は、被請求人相良酒造合名会社の名称の略称である「相良」を表示し、構成中の「九代目」の文字は被請求人当主の「九代目」を表示したものであると容易に理解し得るものといえるものである。また、イ号標章の構成中の「相良/さがら」の文字と「九代目」の文字間に構成態様上の差異があるとして、前述の如き事情及び以下に述べる焼酎等日本酒類を取り扱う業界の取引の実情等を勘案すれば、「相良/さがら」の文字と「九代目」の文字は一体不可分の関係にあると理解され、「相良九代目」を表示したものと同様に看取され、把握されるとみるのが相当であって、「相良酒造合名会社の当主九代目」の意味合いを観念させるものというべきである。
そして、「サガラキュウダイメ」の称呼のみを生じ、「九代目」「キュウダイメ」の観念、称呼は生じないとみるのが相当である。
また、以上の事情から判断すれば、イ号標章の使用は、被請求人の商標「相良九代目」と同一範囲内の標章の使用であるとみるのが相当である。
更に、本件商標及びイ号標章の構成中の「九代目」の文字は前項2で述べたとおり、識別性に問題があることも相俟って、イ号標章の構成中の「九代目」の文字部分のみが独立して自他商品の識別標識としての役割を果たし得るものとみることはできないと判断するのが相当である。
このように「九代目」の文字は、被請求人相良酒造合名会社が九世代の永きにわたる歴史の古い伝統をもつ由緒ある蔵であることを意味するものであって、その蔵で製造された商品は、その蔵独特の風味を有する品質の優れた商品「焼酎」であることを強調する商品の品質を誇示した広告、宣伝文句として、例えば「現当主○○○○は○○代目」、「○○○○は○○代目当主」、「○○○○は○○代目」、「○○代目当主○○○○」、「○○代目○○○○」、「創業○○代目の○○○○」のように、焼酎等日本酒類を取り扱う業界においては、広く一般的に使用されていることは、その業界専門誌である「いも焼酎 黒糖焼酎名鑑」(乙第6号証)、「薩摩焼酎 奄美黒糖焼酎」(乙第7号証)、「泡盛大全」(乙第8号証)、「焼酎楽園vol.1ないしvol.7」(乙第9号証1ないし乙第9号証7)等の記載からみても明らかである。
また、このことは『商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうる限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。(中略)商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきものではない。』とした商標の類似に関する最高裁判例(氷山印事件 最高裁昭和39年(行ツ)第110号)からみても妥当なものである。
してみれば、被請求人が使用していたイ号標章と本件商標とは、前記の構成からみて外観上は明らかに区別し得るものである。
また、称呼及び観念の点についても、前記のとおり、互いに相紛れるおそれのない非類似のものであって、被請求人が使用していたイ号標章と本件商標とは互いに相紛れるおそれのないものである。
以上のとおり、被請求人が使用していたイ号標章は、本件商標とは非類似の標章の使用であることからすれば、その使用商品「焼酎」と指定商品との類否について判断するまでもなく、被請求人が商品「焼酎」に使用していたイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲には属しないものであり、本件判定請求は理由がないものであるといえるものである。

第4 当審の判断
本件商標は、第1の項で述べたとおり「九代目」の文字を横書きしたものであることから、その文字に相応して「キュウダイメ」と称呼されるものである。
また、本件商標中「代」の文字が「時代、世代」を意味し「○代目」と書き表した場合には世代の順序を意味し、本件商標においては「九世代目」を意味するものと認められる。
これに対し、イ号標章は、別掲のとおりの構成よりなるところ、胴張りラベルの横中央四分の三程の縦幅の青色の帯状の地に、上四分の三程の位置から縦に「九代目」の文字を白色で筆書体風に縦書きされ、その上側(上四分の一程の位置)に黄土色のやや厚みを持った横長の木片風の図形(左右の端がちぎられた木片の如く描かれている図形)を地としてその上に赤色で氏と認められる「相良」の文字が右横書きされ、その下に小さく「さがら」と振り仮名風に書かれているものである。そして、その青色の縦帯状の地の左側に「本格焼酎」「相良酒造合名会社」等が、右側に「黒こうじ仕込み」の文字等がそれぞれ配されているものである。また、その胴張りラベルの上部分(瓶の肩部分)に「下田七窪の銘水」と縦に記載されたラベルが右上側から左下側にかけて貼られていることが認められる。
一般的に、ラベルなどに他の文字よりも大きく顕著に表されている部分があるとすれば、需要者は、その部分が商品の品質など商標として自他商品識別標識として機能し得ない表示である場合を除き、その顕著に表示されている部分とそれ以外の表示部分との外観上の関連性や意味合い等を考慮して、それ以外の表示部分と一体的に把握されないときは、その顕著に表されている部分に注目し、その部分を独立させて把握し称呼、観念するのが自然といえる。
イ号標章においては、胴張りラベルにおいて最も大きく顕著に書き表されている「九代目」の文字部分は、その上側に表されている木片風の図形上に表されている「相良」と外観上分離した構成となっており、その分離した構成を考慮すると、観念的にも常に「相良家における九代目」と一連に把握し理解されるものとは認め難いことから、顕著に表されている「九代目」の文字部分が独立して把握される場合が多いとみるのが相当である。
そうとすれば、イ標章からは、氏を表したものとみられる「相良」をも一緒に捉え「相良」「九代目」の両文字に相応して「サガラキュウダイメ」と称呼され、「相良家における九世代目」と観念される場合もあり得るとしても、顕著に表された「九代目」の文字に相応して「キュウダイメ」の称呼及び「九世代目」の観念をも生じるものとみるのが相当である。
してみれば、「九代目」の文字からなる本件商標は、イ号標章において顕著に表されている「九代目」の文字を共通にするものであり、その称呼「キュウダイメ」、観念「九世代目」も共通することから、本件商標は、イ号標章と類似するものと認められる。
なお、被請求人は、「九代目」の語は、九世代の永きにわたる歴史の古い伝統をもつ由緒ある蔵であることを意味するものであって、その蔵で製造された商品は、その蔵独特の風味を有する品質の優れた商品「焼酎」であることを強調する商品の品質を誇示した広告、宣伝文句であり、「九代目」の文字のみでは自他商品の識別標識として機能し得ないものであり、また真に「九代目」当主でない者がこの表示を採択使用する場合には、虚偽の表示をしたこととなり、取引者、需要者を欺く結果となることから、公序良俗に反する旨主張するが、「九代目」の語は、上記認定のとおり、「九世代目」を意味するのみであって、商品「焼酎」の具体的な品質を表し、また具体的に生産者を表示しているものとはいえず、上記認定のとおり、自他商品の識別標識として機能しうるものであり、その表示を使用することが、直ちに取引者、需要者を欺き公序良俗に反するものとなるとは認められないから、その被請求人の主張は採用できない。
また、本件商標の指定商品には、イ号標章に係る使用商品「焼酎」が含まれるものと認められる。
したがって、商品「焼酎」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するものである。
よって、結論のとおり判定する。
別掲

別掲
イ号標章

(色彩についての詳細は原本を参照されたい。)
判定日 2003-05-30 
出願番号 商願平11-43447 
審決分類 T 1 2・ 1- YA (Z33)
最終処分 成立  
特許庁審判長 宮下 正之
特許庁審判官 宮川 久成
平山 啓子
登録日 2000-05-12 
登録番号 商標登録第4381750号(T4381750) 
商標の称呼 キューダイメ、クダイメ 
代理人 栫 生長 
代理人 鈴木 ハルミ 

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