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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 121
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 121
審判 全部無効 商3条1項1号 普通名称 無効とする(請求一部成立)取り消す(申し立て一部成立) 121
管理番号 1079945 
審判番号 審判1998-35669 
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2003-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-12-25 
確定日 2003-06-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第2701718号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成13年4月20日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第249号 平成14年1月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 登録第2701718号の指定商品中「かばん類,袋物」についての登録を無効とする。 その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2701718号商標(以下、「本件商標」という。)は、昭和57年12月23日に登録出願され、「SAC」の欧文字を横書きしてなり、第21類「装身具、かばん類、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成6年12月22日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標については、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第69号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標が指定商品中かばん類及び袋物に使用される場合には、その商品の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標及びその商品の品質、用途、形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標となるため、商標法第3条第1項第1号及び同項第3号の規定に該当し、本件商標が指定商品中、かばん類以外の商品に使用される場合には、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標であるから商標法第4条第1項第16号の規定に該当するものである。
2 請求の利益について
(1)当事者
請求人は、アメリカ合衆国カリフォルニア州において設立された外国法人であり、かばんの製造販売を目的とする会社である。請求人は、1994年より、全世界の主要な地域において、『The Sak』という標章(以下、「請求人商標」という。)を使用して、請求人が製造、販売するかばん、アクセサリー類の宣伝広告及び営業活動を始め、多大な費用をかけて宣伝、広告に努めた結果、1994年以降、商品の売上げは毎年ほぼ2倍のペースで伸び、全世界にその名を知らしめるものとなった。なお、日本における請求人商標の使用は、1995年が最初であり、1997年には、有名デパートなどで請求人商標を使用したかばん、アクセサリー類が陳列され、販売されるに至っている。
(2)利害関係
請求人は、1996年8月7日に請求人が使用する標章『SAK』について商標権の登録申請(平成8年商標登録願第88845号)をおこなったところ右登録申請は本件商標に類似するとして拒絶理由通知を受けたものであるから、請求人は本件商標に関する無効審判請求において利害関係人となる。
3 無効原因
(1)記述的商標
ア 本件商標は、「SAC」とのローマ字三文字よりなり、指定商品を装身具、かばん類、袋物等とするものであるところ、証拠として提出した甲2号証の1の1ないし同号証の1の5により明らかなように、「SAC」は袋類の総称であって、かばん、ハンドバッグ等を意味するものとして一般的及び普通に使用されている生活基本用語のフランス語である。また本件商標は「サック」と称呼されるが、「サック」標章は、袋、入れ物の意味を有し、これを本件商標の指定商品中のかばん類に用いるときは、商品の性質、形状及び品質そのものを表す標章である。
イ 甲第3号証の1の日本国語大辞典(昭和56年9月1日発行)において「サック」は、袋、入れ物を意味する日本語とされており、また甲第3号証の2の1及び同号証の2の2の大言海は昭和49年より「サック」を西洋製の袋を意味する日本語として一貫して記載しており、甲第3号証の3の1ないし同号証の3の3の広辞苑は昭和44年から「サック」が袋を意味する日本語として一貫として記載している。証拠として提出したこれらの国語辞典はいずれも日本国内で広く使用されている定評ある辞典であり、いずれも本件商標の登録査定時以前に発行されたものである。加えて、甲第3号証の5ないし同号証の7の2は外来語として日本語化された用語を説明する外来語辞典であるが、これらの外来語辞典においてもまた、昭和42年以降、「サック」を袋、袋状の入れ物を意味する外来語として記載されている。このように、本件商標は、本件商標の称呼「サック」がかばん類又は袋の総称を意味することは、請求人提出の証拠から明らかである。これは本件商標をかばん類及び袋に使用するとき、商品の品質、用途、形状をそのまま表現しており、商標法第3条1項3号における商品の「品質、用途、形状」に該当し「記述的商標」になる。
(2)普通名称
本件商標のように、フランス語の普通名称の場合であっても、わが国のかばん業界の取引関係者らは、一般的にフランスのかばん類を輸入し,一般消費者を含めフランス製のかばん類を購入又は輸入している。甲第4号証の1の1ないし同4号証の2の28は、フランス製バックの輸入売上高が本件商標の出願日(昭和57年12月23日)以前の昭和50年度から現在までを示している。例えば1990年の国内のかばんの販売高を見ると、かばん、袋物、小売市場の40%以上を外国製輸入製品が占めている(1992年3月発行の「Footwear Press」3月号(甲第4号証の4「特集BAGインポートブランドの進攻」記事の24頁図参照)。甲第4号証の1の2(1992年5月発行の「ヤノニュース」の15頁)では、1987年(昭和62年)の日本国内かばん・袋物市場の売り上げ高8000億円に対し、欧米の輸入品のシェアは、1935億円で24.1%であり、1988年は26.7%、1989年は32.4%となり、1990年には、39.7%も占めている。この欧米鞄・袋物の内訳は、1990年度で1千119億3700万円のうち、フランスからのが4百1億円を占めている。フランス製のかばん類が日本の取引界でも群をぬいて多く流通されていることは明らかであろう(甲第4号証の1の2)。このようなフランス製バックの年間売上げ高が年々増加し、又海外旅行で購入するかばん類の多くがフランスの製品であることは、甲第4号証の2の1以下に示すとおりである。これらの証拠からハンドバック等のかばん類製造はフランスが世界の中心地であり、日本のバックメーカー、デパートならびに商社等がこれらの名称たる「SAC」に関心を抱き、取引上同一の名称を用いて取引することは十分予測し得るだけでなく、現実に日本の取引業者間及び需要者間では、「SAC」がかばん類・袋の意味を有することを認識しているだけでなく、同一の名称を用いて取引している。したがって本件商標が指定商品中かばん類及び袋物に使用されている場合には、商標法第3条第1項第1号に該当し無効となる。
(3)取引者間及び需要者間の認識及び使用の事実
ア 「SACというフランス語は、かばん・袋を表示するものとして本件商標の審判における審決時である平成6年7月22日には既に、我が国の取引業界及び需要者間において広く認識され、使用されている。甲第4号証の各号は、いずれも我が国におけるフランス製バッグの輸入動向に関する証拠であるが、これらの証拠から、わが国においてフランス製のバッグ類は人気が高く、フランス製バッグの輸入の割合が高いことを表している。また、かばん業界を含むファッション業界においてはフランスは全世界の関心の的であり、わが国のファッション界及び消費者はフランスに対して強い志向性をもち、フランスにおけるファッション界の情報を逐一取り入れてきたことは争う余地のない事実である。このことからも、かばん取引業界において需要者を含む取引業者は「SAC」という名称を認識、使用する機会が多いこと及び当該名称を使用する必要性が高いことが容易に想像できる。現実に、ファッション業界において広く利用されている甲第5号証ないし甲第6号証の6、甲第15号証及び甲第16号証として提出された業界雑誌及び業界辞典等によると、これらかばんに関する業界関係雑誌及び事典は、「SAC」がフランス語で袋、バッグを意味するものであると記載され、紹介されている。このうち、甲第6号証の2は昭和36年に発行された日本語の服飾事典であり、右服飾事典において既に「SAC」は袋、ハンドバッグを意味するものとして記載されているのである。また、田中千代服飾事典においては、昭和44年に、「サック」(SAC)が袋ものの総称、ハンドバッグ等を意味するものと記載して以降、一貫して「サック」(SAC)を同服飾事典に記載し続けているのであり、このことからも「SAC」は昭和36年以降、袋、バッグを意味する言葉としてファッション業界において定着したことが明らかである。また、甲第6号証の4は、ファッションビジネスの基礎用語を収集した辞典であり、甲第6号証の5はかばん業界で著名な有限会社ぜんしんが発行する書籍であり、また甲第6号証の6はかばんの専門紙である商報社が発行する雑誌である。これらの事典、書籍、雑誌にいずれもSACの記載があることはSACという用語がかばん業界において認識されていることを証明している。
イ 本件商標の登録査定前の平成4年11月発行の「クラッシイ」たる甲第7号証の1は、フランス企業のエルメスの広告において、「SAC」なる用語が使用されている事実、昭和53年発行甲第7号証の2については、エルメスを紹介した記事の中でハンドバッグの意味で「SAC」を使用している事実並びにエルメスの個々の商品の名称の一部に「SAC」を使用している事実を証明している。また、甲第7号証の3は、フランスの企業であり、日本で売上高1位を誇るルイ・ヴイトンのカタログであるが、このカタログにおいても、「SAC」との名称は使用されており、また個々の商品の名称の一部に「SAC」を使用している商品が記載されている(なお、証拠として提出した甲第7号証の3の1ないし同号証の4のカタログは1977年、1978年、1987年及び1991年発行のものであり、いずれも7万部以上、日本国内において発行されており、査定以前のものであるが、甲第7号証の3の5のカタログは平成6年以後に販売されたものである。この点は別途追加提出する甲第24号証のルイ・ヴィトンジャパン株式会社取締役 前原一雅氏作成の証明書による。)。甲第8号証においては、前述したエルメス(甲第7号証の1)の他アメリカ企業であるコーチが商品名の一部に「SAC」を使用している事実(甲第8号証の2)、甲第9号証は1992年10月発行のLes sacs Adams(甲第9号証の1)並びに日本企業であるY’saccs(甲第9号証の2)が「SAC」を会社名あるいは商標の一部に使用している事実を証明している。また、甲第10号証の各号は、本件商標の登録査定時前に、特許庁に「SAC」を使用した商標を申請登録した取引業者が多い事実を証明しているが、このことは、本件商標の登録査定時以前に既に、かばん業界においてSACが袋、あるいはフランス語でいうバッグを意味するものであることを多くの取引関係者が認識しているだけでなく、後述するようにだれでもこの名称の使用を欲していることの証左であり、公益上独占をゆるすべきでないことを示している。
ウ 1994年4月発行の甲第11号証の1は、若い女性向けのファッション雑誌の記事のレイアウトの一部に「SAC」が使用されている事実及び1991年4月発行の甲第11号証の2は、ファッション雑誌に掲載されたソニア・リキエルの広告の一部に「SAC」が使用されている事実を証する。また、1994年5月1日発行の甲第13号証、1992年7月発行の甲14号証ならびに昭和55年12月1日発行の甲第15号証の各号証は、ファッション雑誌あるいは業界誌において「SAC」が使用、記載されている事実を証する。これらの証拠は甲第7号証の3の5を除き、いずれも本件商標の登録査定時前に作成された証拠であり、このことから、本件商標の登録査定時において、既に、日本におけるかばん業界において「SAC」がかばん、袋を表示する名称としてひろく認識され、かつ使用されていた。
(d)以上述べた我が国における「SAC」使用の事実に加えて、甲第12号証各号によって証明されるように、我が国民のフランスへの海外旅行者の増加及び種々の情報媒介手段の発達、さらに雑誌などメデイアによるフランス語の紹介(甲第13号証、同第14号証等)により、我が国の需要者もまた、「SAC」をフランス語でかばん・袋を意味するものとして認識していることは明らかである。なお、甲第14号証は、ファッション雑誌に掲載されたフランスの鞄職人に関する記事において手鞄イコールサックとして記載されている事実を証明している。ところで、本件商標の登録出願前の1956年に日本のかばん取扱業者や消費者に対して「SAC」が「バッグ」を意味することを広く知らしめたエピソードがある。日本でも人気の高かったアメリカの女優でモナコ王妃となったグレース・ケリーが1956年、妊娠中のお腹を隠すために持っていたバッグは、クロコダイルでできたエルメスの一番大きなモデル(錠のついた台形のハンドバッグ)であった。これは、「サックケリー」「Sackelly」と呼ばれ、現在までハンドバッグの基本型として変らぬ人気を保っている。ところで、「サックケリー」「Sackelly」は同時に「ケリーバッグ」「Kelly Bag」とも呼ばれており(甲第5号証の1)、「サック」「SAC」が「バッグ」「BAG」を意味するものであることは当時より日本の鞄取扱い業者や消費者が広く認識していたところである。また、本件商標は、昭和59年2月17日フランス語の普通名称であることを理由に拒絶が通知され(甲第17号証)、昭和59年5月9日に出願人が意見書を提出したにもかかわらず(甲第19号証)、昭和59年6月15 日拒絶され(甲第18号証)、昭和59年8月17日に出願人より拒絶査定不服の審判の請求が行われ(甲第20号証)、その結果ようやく平成6年12月22日に本件商標が登録されたという経緯がある(甲第21号証)。
(4)公益的必要性による本件商標の無効
本件商標は、前述したように、フランス語としてかばんを意味する基本的な普通名称であり、またその名称の称呼「サック」が袋ものを意味する日本語である。これは指定商品中かばん又は袋物の品質、用途、形状を表す用語であり、一私人による使用の独占は認められるべきではない商標である。
4 答弁に対する弁駁
(1)商標法第3条第1項第1号及び同項第3号への該当性
本件商標「SAC」が、フランス語でかばん、ハンドバッグの意味であること及びその称呼である「サック」が、袋物、入れ物という日本語であることは、既に証拠として提出済みの辞典などからも、明らかであり、何人も争えない事実である。この点について、請求人は、フランス語である「SAC」及び日本語である「サック」が、商標法にいう普通名称の要件を充足すると主張しているのである。他方、本件商標は「サック」と称呼されるが、「サック」は、袋、入れ物の意味を有し、これを本件商標の指定商品のかばん類に用いるときは、商品の性質、形状及び品質そのものを表す標章となり、この点において請求人は記述的商標になると主張しているのである。
(2)普通名称及び記述的商標としての認識の主体及び日本国内での使用の要否
本件商標が普通名称あるいは記述的商標であると判断するには、当該標章が普通名称として我が国で現に使用されていることも必要ではないし、一般消費者の認識を問題にする必要もないことになる。すなわち、本件では、本件商標登録査定時である1994年7月22日以前において、かばん取引業者間において、「SAC」あるいは「サック」が、かばん、あるいは袋物を意味するものとして認識されていたか否かを基準に判断すれば足りるのである。また、日本のかばん市場において、1990年には既に、輸入品が市場の45%を占めている(甲第4号証の4)ことを鑑みると、取引業者の中でも輸入業者らの認識を中心に検討すれば足りると解すべきである。
(3)取引業者の認識
ア「SAC」についての取引業界における認識
フランス語である「SAC」がかばん取引業界において認識されているか否か判断するにあたって、ファッション業界におけるフランス語の役割というものを考慮しなければならない。すなわち、かばん類に関するものも含め、ファッション用語とされる語句中に、フランス語の占める割合が大きいことは顕著な事実であり、取引業者の語学知識として、フランス語も当然考慮すべきである。また、1985年以降のインポートブランド・ブームにより欧州製品を中心にかばんの輸入が増加し、1985年には15%程度であった革製ハンドバッグの輸入シェアが30%にまでに高まり(甲第4号証の2の26)、その後も輸入バッグは順調に売上を伸ばして、インポート製品の販売高が1990年には45%にいたる規模にまで拡大していること及びそのうちフランス製品は多くのパーセンテージを占めているとの事実と照らし合わせると(甲第4号証の2の27、同号証の2の28、甲第4号証の3及び甲第4号証の4)、少なくとも、本件商標の登録査定時前である1990年には、ファッション業界、殊にかばん業界において、「SAC」はかばんを指す普通名称として認識(使用)されていたといえる。
イ 「サック」について取引業者の認識
本件商標の「サック」は、既に証拠として提出済みの辞書などからも明らかのように、定評ある辞典などにおいて、「袋、袋状の入れ物」という形状、用途、品質を一般的に記述する用語としてわが国において用いられていた。また、「鉛筆のサック」「眼鏡のサック」「指サック」「衛生サック」「ルーデ・サック」「リュック・サック」などの「サック」を含む言葉、用例は日本人にとって非常になじみのあるものであるが、それぞれ「サック」はいずれも袋、袋状のものという意味で用いられている。
このように、かばん類や袋物の輸入業者などの取引業者、小売業者、一般消費者のいずれにおいても「サック」を形状、用途、品質を記述するものと認識していることは明らかである。
普通名称・記述的商標のアルファベット表示
本件商標は「サック」ではなく、「SAC」である。しからば、本件商標は「サック」ではなく、「サック」をアルファベットで表示した「SAC」であることをもって、商標登録は可能であるといえるであろうか。確かに、「サック」の表記が普通に用いられる方法で表示されていなければ登録が可能な場合もあり得よう。すなわち、文字を図案化し外観上の特殊性により識別力が出てくる場合である。それでは日本語のカタ力ナ表示を単にアルファベット表示にしたことで、普通に用いられる方法での表示といえなくなるであろうか。断じて「否」である。普通名称や記述的商標を単にアルファベット表記にしたことにより普通に用いられる表示でなくなるわけではないことは、従来より繰り返されている審判決例(例えば「アーモンド又はこれを使用した商品について」の「almond」など)により明らかである。本件商標に用いられているアルファベット「S」「A」「C」は特段図案化がなされているわけではなく、単に「サック」と言うカタ力ナ表示をアルファベット表示にしたにすぎない。なお、日本語の「サック」も英語の「SACK」もフランス語の「SAC」も語源は同じ言葉であり(甲第69号証)、日本語の「サック」をアルファベット表示のうちフランス語の表示にしたことによって普通に用いられる方法の表示でなくなることはあり得ない。
したがって、本件商標が「SAC」とのアルファベット表示となっていたとしても「かばん類、袋物」については本来普通名称又は記述的商標として登録が許されないものである。
(4)被請求人に対する反論
ア 被請求人は、「SAC」「サック」なる言葉が特許庁編類似商品審査基準において、普通名称として使用されていないため、普通名称ではないと主張するが、右審査基準にあがっている品目は例示であり、かつ、右審査基準で例示されている語句は、旧法時代から普通名称とされていたものであって、必ずしも現代に通用しているものを網羅的に取り上げているわけではないことは顕著な事実である。単なる「Bag」あるいは「バッグ」はここに例示されていないが登録はできないという点については被請求人も争わないであろう。同様に、その他の公的書類にサックが使用されていないからといってそのことが「SAC」の普通名称性を否定するものではないことは明らかであり、被請求人の主張はなんら根拠のないものである。
イ 辞典類に「SAC」「サック」が記載されているのは、フランスやその他の国のファッション動向に関心のある一部の取引業者関係者が言語の意味を調べるための辞典類であるため、これらの辞典への記載が普通名称、記述的商標の証拠とはならないと被請求人は主張するが、本件商標が、ファッション業界で広く使用されている辞書などに記載されている事実は、ファッション業界あるいはかばん業界において、SACが使用されていることを証明するものであり、多くの判例、審査例において、業界における辞書への記載は普通名称等を認定する際の重要な証拠として取り扱われていることは明白な事実である。
ウ また、被請求人は、かばん・袋物を取り扱う業界において「サック」及び「SAC」が、被請求人サックのブランドネームを表すものとして広く認識使用されている証拠として被請求人の取引先から徴求した証明書(乙第4号証)を提出している。しかし、これらは右を証明する証拠としては不適切といわざるを得ない。
(5)公益的必要性
本件において特に考慮されなければならない点は、「SAC」という用語がもつ公益性である。本件商標は、前述したように、フランス語としてかばんを意味する基本的な普通名称である。このような外国語の使用について公益的必要性が極めて高いことは、ファッション関係者、フランスからかばんを輸入している関係者等も異口同音に述べているところである。
「SAC」という語は、フランス語を語源とする言葉の面からみても、また日本語としての「サック」という言葉の面から見ても、独占適応性のない表示であって、被告に独占を許すべきものではない。
5 結論
以上の通り、本件商標は、本件商標が指定商品中かばん、袋物に使用される場合には、その商品の普通名称普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標及びその商品の品質、用途、形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、商標法第3条第1項第1号及び同項第3号の規定に該当し、本件商標が指定商品中、かばん、袋物以外の商品に使用される場合には、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標であるから商標法第4条第1項第16号の規定に該当するものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、乙第1号証ないし乙第4号証を提出した。
1 本件商標は昭和57年12月23日に登録出願されたものである。その後この登録出願に対し「『SAC』は、ハンドバッグに使用しても商品の普通名称を表示したにすぎず、自他商品の識別標識として機能しえない」との理由で拒絶理由が通知された。この拒絶理由に対し本件商標権者は意見書を提出したが拒絶査定となったため、拒絶査定不服の審判を請求した。この審判中で本件商標権者は商標「SAC」の顕著性を証明する資料等を提出し、それらに基づいて審理された上で商標公報に公告され、その後登録されたものである。本件商標「SAC」は、このように、審査官による審査だけでなく、3名の審判官による、より慎重かつ公権的な判断である審判における審理をへて登録されたものである。したがって、本件商標の登録適格性は完全に担保されており、その判断に誤りがあったとは考えられない。
2 審判請求人は本件商標「SAC」は普通名称及び記述的商標であると主張しているが、「普通名称」は商品の名称そのものを表すのに対し、「記述的商標」は商品の特性を記述する言葉である。したがって両者は原則として両立するものではなく、審判請求人の主張は理解に苦しむが、以下本件商標が普通名称及び記述的商標に該当しないことを説明する。
(1)「SAC」、「サック」なる言葉が、特許庁編「類似商品審査基準」(乙第1号証)では、商品「かばん類・袋物」で普通名称として使用されている事実は全く見当たらない。また、審判請求人の提出した甲第4号証の2の1ないし甲第4号証の2の28は、準公的機関である日本貿易振興会が作成した日本貿易月報であるが、この中には「SAC」、「サック」という言葉は全く使われていない。そして、「バッグ」や「ハンドバッグ」という語は頻繁に使用されている。このことは「SAC」、「サック」が、我が国で普通名称となっていないことを示している。また、乙第2号証として提出した公的な機関の発行した「工業統計表」においても同様である。
(2)審判請求人は「サック」が「商品の品質、用途、形状」をあらわすため「記述的商標」になると主張している。網野誠「商標」〔第4版〕(第231頁から)によれば、商品の特性を表示する商標として判審決例から取り上げた例として、次のようなものが示されている。「品質表示のもの」・・ソフト、エレガント、ワンダフル、BEST、など「用途表示のもの」・・家庭セメント、タバコのみ、お茶の友、など「形状表示のもの」・・ポケットコンパス、GREAT、テトラポット、など上記主張では、「サック」が商品のどのような特性を表示しているのかを具体的に明らかにしていないが、上記のような例と比較しても、「サック」が商品の特性を表している言葉とは考えられない。
(3)また、審判請求人は、辞典類の記載を根拠として、「SAC」、「サック」が普通名称・記述的商標であると主張しているが、ある外来語が単に、辞典類に記載された時点においては、商標法にいう「普通名称」やいわゆる「記述的商標」となるものではないことはいうまでもない。これらはすべて現実の商品の取引界において商品との関係において決定されるものである。審判請求人の提出した、これらの辞典類が取引業界において、どの程度使用されているかは不明であるが、仮に、ある程度の部数が使用されているとしても、その用途はフランスやその他の国のファッション動向に関心のある一部の取引業界関係者が言語等の意味を調べるための辞典類であるから、これらの辞典類への記載と「SAC」、「サック」が普通名称・記述的商標であるということについて直接的な関係を有しない事はいうまでもない。
(4)甲第7号証ないし甲第9号証では「SAC」を含む言葉がかばん類の広告等に使用される例が示されている。一般的に言って、我が国の消費者は、アルファベット表記(いわゆる横文字)の広告等に対して、高級・おしゃれ等の良いイメージを抱く傾向がある。特にその言葉がフランス語である場合にはその傾向は顕著である。そのようなイメージを利用するために、海外ブランドは広告等にフランス語等を使用するものであり、その使用の際には、我が国の消費者がその単語の意味を理解しているか否かについては何ら考慮していないものである。この甲第7号証ないし甲第9号証を検討すると、「SAC」の言葉は商品の普通名称としては使用されておらず、むしろ商標的に使用されている。これは「SAC」が商品に対して顕著性を有する言葉であることを示すものである。また、これらの広告等は、「SAC」の言葉と共に並記されている日本語訳に英語の「バッグ」が使用されているものが殆どである。このことは、フランス語の「SAC」と商品「かばん」との間には、取引者等の認識において大きな隔たりがあるため、英語の「バッグ」と記載して説明を加えざるを得ないものであり、「SAC」の言葉が未だ我が国において広く知られていない状況を、これらの宮伝等の制作者が認識している事実を示しているといえる。
(5)フランスからのハンドバッグの輸入の割合が高いことを、「SAC」の普通名称性を導く根拠とするのは論理の飛躍であるといわざるを得ない。我が国では、中学1年生から正式に学習を開始し、卒業後も学習を継続する人口が極めて多い英語と、フランス語の間にはその語学人口に大きな差がある。そのため英語の「バッグ」あるいは「ハンドバッグ」と、フランス語の「SAC」とを同列に扱いうる環境は我が国において全く存在しない。また、フランスへの旅行者数と「SAC」の普通名称性について直接の関連性はない。もともとフランス語を理解する日本人は著しく少ない上、日本人の海外旅行客の大半は、日本語ガイド付きのツアー客であり、フランスを訪れる日本人中、「SAC」というフランス語を認識・意識する者の比率が極めて少ないことは明らかであろう。
3 審判請求人は、甲第10号証で「SAC」を含む商標登録の例を提出しているが、これらの証拠はかえって「SAC」に顕著性があることを証明するものである。被請求人はさらに乙第3号証として「SAC」を含む登録例を提出する。これらの登録商標はいずれも、指定商品が「かばん類、袋物」に限定されておらず、その他のたくさんの商品を含むものである。このことは、いうまでもなく、「SAC」なる言葉が「かばん類、袋物」の商品の普通名称・記述的商標になっていないことを示すものであり、「かばん類、袋物」以外の商品に使用されても品質の誤認は生じないと判断されたものである。
また、被請求人は本件商標「SAC」が、現実の取引界において顕著性を有した商標として機能していることを示すものとして本件商標の周知証明書を提出する。(乙第4号証)

第4 当審の判断
1 本件審判事件の経緯
(1)前審決の要旨
本件審判請求事件についてした平成13年4月20日付けの審決は、その結論を「登録第2701718号の指定商品中『かばん類,袋物』についての登録を無効とする。その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。」とし、その理由の要旨を請求人の提出した甲号各証の事実によれば、本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において、「sac」の語は、バッグを取り扱う業界においては、「ふくろ類の総称」を指すものとして広く認識され、使用されているものというべきである。してみれば、「SAC」の文字からなる本件商標を、その指定商品中「かばん類及び袋物」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品の品質を表示したものと理解し、自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識し得ないものといわざるを得ない。しかしながら、請求人は、本件商標が普通名称に該当する事実を証する証拠を何ら提出していないものであり、また、本件商標をその指定商品中「かばん類、袋物」以外の商品について使用しても、商品の品質について、誤認を生ぜしめる事情は有しないものと判断するのが相当である。なお、被請求人は、本件商標が現実の取引界において、自他商品の識別標識としての機能を有するものを示すものとして、周知証明書を提出しているが、該証明書類からは、商品が取引されていることは窺い知れるとしても、該証明書類のみでは自他商品の識別標識としての機能を有することを立証しているとは認められない。したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものであるから、同法第46条の規定により、その指定商品中「かばん類及び袋物」について、その登録を無効とすべきものとし、その余の指定商品については、無効とすることはできない。とするものであった。
(2)前審決に対する判決の要旨
本件につき東京高等裁判所が、平成14年1月30日に言い渡した本件判決は、その主文を「特許庁が平成10年審判第35669号事件について平成13年4月20日にした審決のうち、登録第2701718号の指定商品中「かばん類、袋物」についての登録を無効とするとの部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。」とし、その理由の要旨を原告(被請求人)及び被告(請求人)の提出した証拠により概略次のとおり認定し、本件においては、「sac」及び「サック」は、いずれも袋類の総称、すなわち、袋類を意味する普通名称として広く認識され、使用されているのであるから、これによれば、商標法3条第1項第1号には該当しても、本件商標が指定商品の性状を記述する用語として認識、使用されているということはできないから、同項第3号該当性が認められるということはできない。これに反する審決の上記判断は誤りである。として、本件の審決を取り消した。
ア 我が国では、標準的な仏和辞典において、「sac」の語は、長年、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の意味を有するフランス語の普通名詞として記載されてきたこと、その発音を片仮名表記した「サック」の語は、標準的な外来語辞典において、長年、「袋」を意味する外来語であるとして記載されてきたこと、また、服飾関係の事典、雑誌類においては、長年、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来する名詞であり、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称であるとか、英語のハンドバッグと同義であると記載されてきた事実が認められる。
イ 本件商標は、「sac」からなり、そのローマ字表記は単純なものである上、上記のとおり、「サック」と発音される「sack」の英語がフランス語の「sac」と類似の意味を有することもあり、我が国において「サック」と発音されるのが通常と認められる。これに上記証拠とアの事実を併せ考えると、「サック」は、指定商品中「かばん類,袋物」の属する業界の取引者、需要者がこれに接した場合、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称を意味する外来語であると理解すると認められ、また、本件商標である「sac」は、上記取引者、需要者がこれに接した場合、「sac」のフランス語自体の意味により、又はその発音を片仮名表記した外来語の「サック」を想起することにより、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称であると理解すると認めるのが相当である。
ウ そうすると、審決の「本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において、『sac』の語は、バッグを取り扱う業界においては、『ふくろ類の総称』を指すものとして広く認識され、使用されているものというべきである」(審決謄本9頁4行目〜7行目)との認定それ自体には誤りはないが、審決は、上記認定に続け、「『SAC』の文字からなる本件商標を、その指定商品中『かばん類及び袋物』に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品の品質を表示したものと理解し」(同8行目〜10行目)と説示している。しかしながら、商標法3条1項1号に規定する「普通名称」は、商品についていえば、指定商品の属する特定の業界において当該商品の一般的名称であると認識されるに至っているもの、すなわち、指定商品を表す普通名詞を意味するのに対し、同項3号に規定するいわゆる記述的商標は、指定商品の産地、販売地、品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、指定商品の性状等を「記述」する標章であって、指定商品そのものの総称である普通名称とは異なるものである。

2 上記判決は、平成14年4月25日確定したことを確認し得た。そして、本件審判において、請求人、被請求人の主張の論点は、本件商標「SAC」がその指定商品中の「かばん類、袋物」に関し、普通名称(商標法第3条第1項第1号)又は品質、用途、形状表示(同法第3条第1項第3号)ないし前記「かばん類、袋物」以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標(同法第4条第1項第16号)に該当するか否かの点にある。
(1)商標法第3条第1項第1号について
請求人の提出した甲号各証によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 鈴木信太郎他著「スタンダード佛和辭典」第7版(1959年3月25日株式会社大修館書店発行、甲第2号証の1の1)、同増補改訂版第2版(1976年3月1日同社発行、同号証の1の2)及び同増補改訂版第9版(1984年4月1日同社発行、同号証1の3)には、フランス語の「sac」が名詞であり、その意味が「袋」等であることが記載され、同「新スタンダード仏和辞典」(1987年5月1日同社発行、同号証の1の4)及び同第3版(1989年4月1日同社発行、同号証の1の5)には、上記の記載に加え、その意味として「バッグ」及び「かばん」が加えられている。
イ 日本大辞典刊行会編「日本國語大辞典第九巻」(昭和49年5月1日株式会社小学館発行、甲第3号証の1)には、「サック」の語が英語の「sack」に由来する名詞であり、その意味が「袋」等であることが記載され、大槻文彦著「新訂大言海」(昭和31年3月1日合資会社冨山房発行、甲第3号証の2の1)及び同「新編大言海」(昭和57年2月28日同社発行、同号証の2の2)には、「サック」の語が英語の「sack」に由来する名詞であり、その意味が「西洋製ノ袋」等であると記載されている。新村出編「広辞苑」第二版(昭和44年5月16日株式会社岩波書店発行、甲第3号証の3の1)、同第三版(昭和58年12月6日同社発行、同号証の3の2)及び同第四版(1994年9月20日同社発行、同号証の3の3)には、「サック」が外国語である「sack」に由来する語であり、その意味が「袋」等であると記載されている。吉沢典男他著「外来語の語源」(昭和54年6月30日株式会社角川書店発行、甲第3号証の5)及び同「図解外来語辞典」(昭和54年10月30日同社発行、甲第3号証の6)には、「サック」が外国語である「sack」に由来する語であり、その意味が「袋物の総称」であると記載されている。荒川惣兵衛著「角川外来語辞典」(昭和42年9月30日株式会社角川書店発行、甲第3号証の7の1)及び同「角川第二版外来語辞典」(1977年1月30日株式会社角川書店発行、同号証の7の2)には、「サック」がフランス語の「sac」、英語の「sack」等に由来し、その意味が「袋」、「袋状の入れ物」等であると記載されている。
ウ 「1983服装AUTUMN」(昭和58年9月15日学校法人田中千代学園発行、甲第5号証の1)には、「サック (sac)(仏) 〈袋〉〈バッグ〉の総称で・・・英語のハンドバッグを指す。」(24頁)と記載され、「1988服装SummER」(昭和63年6月15日同学園発行、同号証の2)には、「サック(sac) ・・・身の廻りの必要なものを入れる〈バッグ〉〈袋〉を総称している。・・・英語では、バッグである〉(46頁)と記載されている。
エ 田中千代著「田中千代服飾事典」(1969年9月20日同文書院発行、甲第6号証の1の1)には、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し、その意味が「ふくろ類の総称」であると記載され、同「田中千代服飾事典(特製版)」(1973年6月15日同社発行、同号証の1の2)、同「田中千代服飾事典増補第1刷」(1981年4月25日同社発行、同号証の1の3)及び同「新・田中千代服飾事典」(1991年10月22日同社発行、同号証の1の4)にも、同一の記載がある。田中千代編「服飾事典」12版(1961年12月1日株式会社婦人画報社発行、同号証の2)には、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し、その意味が「袋」及び「ハンドバッグ」であると記載されている。
オ 「新ファッションビジネス基礎用語辞典」全面改訂版(1990年5月25日光琳社出版株式会社発行、甲第6号証の4)には、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し、その意味が「袋」「バッグ」等であると記載されている。「かばん・ハンドバッグの商品知識」改訂版(昭和51年9月10日有限会社ぜんしん発行、同号証の5)には、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来し、その意味が「ハンドバッグ」であると記載されている。
カ 「BAG WARE」36巻12号(株式会社商報社昭和61年12月5日発行、甲第6号証の6)には、「バッグウェア/ファッション業界関連用語解説 サック〔sack〕・おおい、さやなどで、種類によっては斯業界で作られるものもある。その形状(袋=サック)から、サックシルエット・・・などに転用されることもある。」(44頁)と記載されている。
キ 「エルメス大図鑑」(昭和54年株式会社講談社発行、甲第7号証の2)には、エルメス社製のハンドバッグ及びショルダーバッグの写真を掲載した頁において、「ハンドバッグ」及び「ハンドバッグ/ショルダーバッグ」との記載と近接して「SAC」の記載がされている。
ク 「marie claire」(1994年中央公論社発行、甲第11号証の1)には、ハンドバッグ及びショルダーバッグの写真を掲載した頁において、「上質のカーフを使った、ベーシックで機能的なデザインのバック」等の文言と近接して「Sac」の記載がされている。
ケ 「鞄とバックの研究(別冊暮らしの設計5号)」(昭和55年12月1日中央公論社発行、甲第15号証)には、「バッグbagは言うまでもなく英語。フランス語だとサックsacだ。」(92頁)と記載されている。
コ 「The レザー革の本」(昭和58年10月25日読売新聞社発行、甲第16号証)には、「・・・ハンドバックは、フランス語では「サック(sac)で、「袋」という意味です。」の記載がされている。
以上によれば、我が国では、標準的な仏和辞典において、「sac」の語は、長年、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の意味を有するフランス語の普通名詞として記載されてきたこと、その発音を片仮名表記した「サック」の語は、標準的な外来語辞典において、長年、「袋」を意味する外来語であるとして記載されてきたこと、また、服飾関係の事典、雑誌類においては、長年、「サック」の語がフランス語の「sac」に由来する名詞であり、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称であり、英語のハンドバッグと同義であると記載されてきた事実が認められる。
「sac」がフランス語であることは、前記したとおりであり、我が国においてなじまれている英語と比べれば、フランス語は一般的に発音又は意味を理解することのできる言語とはいい難いが、本件商標の指定商品がファッション関連のものであること、また、ファッション関連業界においては、需要者の多くがフランス製品の有する高級感等によりこれを嗜好し、フランス製品が多く流通することから、ファッションに関係するフランス語が頻繁に用いられることは公知の事実といえることからすると、我が国においても、ファッション関連業界において、ファッション関係の基本的フランス語は、フランス語自体の意味により、その発音がされ、かつ、その意味が理解されるものというべきである。
本件商標は、「sac」からなり、そのローマ字表記は単純なものである上、上記のとおり、「サック」と発音される「sack」の英語がフランス語の「sac」と類似の意味を有することもあり、我が国において「サック」と発音されるのが通常と認められる。これに上記の事実を併せ考えると、「サック」は、指定商品中「かばん類,袋物」の属する業界の取引者、需要者がこれに接した場合、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称を意味する外来語であると理解すると認められ、また、本件商標である「sac」は、上記取引者、需要者がこれに接した場合、「sac」のフランス語自体の意味により、又はその発音を片仮名表記した外来語の「サック」を想起することにより、「袋」、「バッグ」、「かばん」等の総称であると理解すると認めるのが相当である
そうとすれば、本件商標の登録審決時(平成6年7月22日)前において、「sac」の語は、バッグを取り扱う業界においては、「ふくろ類の総称」を指すものとして広く認識され、使用されているものと認められる。
してみれば、「SAC」の文字からなる本件商標を、その指定商品中「かばん類、袋物」に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「袋」「バッグ」「かばん」等を表す語として、すなわち、商品の普通名称を表示したものと理解し、自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認識し得ないものといわざるを得ない。
(2)商標法第3条第1項第3号について
本件においては、「sac」及び「サック」は、前記(1)のとおり、いずれも袋類の総称、すなわち、袋類を意味する普通名称として広く認識され、使用されているものであり、証拠上も、「sac」及び「サック」の語は、すべて「袋」等の普通名詞として説明、使用されており、「袋状の」というような形容詞又は記述的な表現としては使用されていないものであるから、本件商標は商品の形状ないし品質を表示するものということはできない。
(3)商標法第4条第1項第16号について
本件商標を構成する「SAC」の文字は、「かばん類、袋物」については、商品の普通名称を表す語であるとしても、その指定商品中「かばん類、袋物」以外の商品について使用しても、商品の品質について誤認を生ずるおそれがないものであるから、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものということはできない。
(4)被請求人の主張
被請求人は、本件商標が現実の取引界において、自他商品の識別標識としての機能を有するものを示すものとして、周知証明書を提出しているが、該証明書類からは、商品が取引されていることは窺い知れるとしても、本件商標は前記認定のとおり、普通名称に該当するものであり、自他商品の識別標識として機能するものではないから、被請求人の主張は採用することができない。
(5)結論
したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第1号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その指定商品中「かばん類、袋物」について、その登録を無効とすべきものとし、その余の指定商品については、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2001-03-16 
結審通知日 2001-03-30 
審決日 2001-04-20 
出願番号 商願昭57-112579 
審決分類 T 1 11・ 272- ZC (121)
T 1 11・ 11- ZC (121)
T 1 11・ 13- ZC (121)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 板垣 健輔 
特許庁審判長 三浦 芳夫
特許庁審判官 野本 登美男
小林 和男
登録日 1994-12-22 
登録番号 商標登録第2701718号(T2701718) 
商標の称呼 サック、エスエーシー 
代理人 田中 克郎 
代理人 伊藤 亮介 
代理人 田中 二郎 
代理人 三木 茂 
代理人 稲葉 良幸 

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